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特許7228533有益な細菌を有するバイオフィルムを含む細菌組成物の生産方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】有益な細菌を有するバイオフィルムを含む細菌組成物の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230216BHJP
   C12R 1/125 20060101ALN20230216BHJP
   C12R 1/25 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
C12R1:125
C12R1:25
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019565540
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 IL2018050588
(87)【国際公開番号】W WO2018220630
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】PCT/IL2017/050603
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】62/588,365
(32)【優先日】2017-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/644,528
(32)【優先日】2018-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509219903
【氏名又は名称】ザ ステイト オブ イスラエル ミニストリー オブ アグリカルチャー アンド ルーラル ディベロップメント アグリカルチュラル リサーチ オーガニゼイション (エー.アール.オー.) (ボルカニ センター)
【氏名又は名称原語表記】THE STATE OF ISRAEL, MINISTRY OF AGRICULTURE & RURAL DEVELOPMENT, AGRICULTURAL RESEARCH ORGANIZATION (ARO)(VOLCANI CENTER)
【住所又は居所原語表記】Volcani Center, P.O. Box 15159, Rishon-LeZion, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェメシュ モーシェ
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-195711(JP,A)
【文献】特表2019-522641(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0203581(US,A1)
【文献】International Journal of Food Microbiology,2011年,Vol.144,p.421-431
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2007年,Vol.73, No.21,p.6768-6775
【文献】Journal of Bacteriology,2013年,Vol.195, No.12,p.2747-2754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌組成物の調製方法であって、
(a)Lactobacillales目のプロバイオティック細菌とBacillus属のバイオフィルム生成細菌とを、マンガンを含む増殖培地中で、前記プロバイオティック細菌と前記バイオフィルム生成細菌とを含むバイオフィルムを生成する条件下、インビトロで共培養し、
(b)前記バイオフィルムを前記増殖培地から単離することで、前記細菌組成物を調製する
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記バイオフィルム生成細菌がB. subtilis種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロバイオティック細菌がL. plantarum種である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増殖培地がデキストロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖培地が、LB培地、LBGM培地、牛乳培地及びMRS培地からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記増殖培地がLBGM培地、牛乳培地又はMRS培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記条件がpH6.5~8を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記増殖培地が、バイオフィルムの生成を促進する量のアセトインを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その一部の実施形態においては、細菌組成物を生成する方法に関し、より詳細には、これらに限らないが、プロバイオティック組成物、環境に有益なプロバイオティック組成物及び産業に使用されるプロバイオティック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
適切な量で投与されたときに有益な生理的効果を宿主に与える生きた微生物細胞は、「プロバイオティクス」として知られている。研究によれば、プロバイオティック細菌は、宿主における健康な腸の維持と、幾つかのタイプの胃腸感染症の抑制に寄与する治療効果を提供し得ることが示された。これらについて認められた健康上の利点のために、プロバイオティック細菌は、ここ数十年の間に種々の食品及び飲料品に次第に含まれるようになった。プロバイオティクスとして使用される最も一般的なタイプの微生物の幾つかは乳酸菌(LAB)であり、これは、主にLactobacillus属及びBifidobacterium属に属するものである。これらの属はどちらもヒト腸における優勢な常在菌であり、安全な利用の長い歴史があり、一般に安全と認められる(GRAS)。体内におけるこれらの有益な効果を確実にするために、これらの生物は、食品加工、貯蔵及び上部消化管(GIT)通過中に生存しなければならず、これらの作用部位に生きて到達しなければならない。しかし、以前の研究によれば、最終食品中のプロバイオティック細菌の生存レベルは低く、胃の高酸性条件及び小腸における高胆汁濃度によってこれらの生存率はかなり低下する。さらに、プロバイオティクスは、通常、乾燥細菌粉末として提供されており、乾燥細菌粉末は、主として、細胞に致死的な損傷を起こし得る手順として確立された凍結乾燥によって調製されたものである。したがって、ヒトへのプロバイオティクスの送達を維持するためには、食品製造中に、並びに貯蔵及び摂取過程を通して、健康増進細菌の生存率を改善するための新規技術を開発する必要がある。
【0003】
ほとんどの自然生態系においては、細菌は、自由生活性の(浮遊)細胞としてではなく、バイオフィルムと呼ばれる多細胞の複合細胞集団内で増殖することを好む。バイオフィルム様式の増殖は、腸管に棲息する細菌にとっても好ましい。バイオフィルム中の細胞は、細胞自体によって産生される多糖と、タンパク質、DNA、脂質及び核酸などの他の巨大分子とから主としてなる細胞外基質によって連結される。バイオフィルム中に包埋された種とこれらの環境との相互作用は、環境ストレス及び抗菌剤暴露に耐え得る複雑な構造を形成する。したがって、バイオフィルム形成は、多様な環境における好ましくない条件下で存続するための戦略である。
【0004】
最も研究されたバイオフィルム形成菌の一つは、堅牢なバイオフィルムを生成する能力によって特徴付けられる、芽胞形成性の非病原菌であるBacillus subtilisである。Bacillus種、主にB. subtilisは、主として胃腸管のミクロフローラの好都合なバランスを維持することによって宿主の健康状態に正の効果を与えることから、プロバイオティック微生物として最近関心を集めている。B. subtilis芽胞は、極端なpH条件及び低酸素を生き延びることができるので、休止状態であるが生存している多数の微生物が下腸に到達し、活性物質の分泌によって幾つかの有益な効果を誘導し得る。さらに、B. subtilis細胞は、恐らくはカタラーゼ及びサブチリシンの産生によって、Lactobacillus種の増殖率及び生存率を高めることが見いだされた(Hosoi, Ametani, Kiuchi, & Kaminogawa, 2000)。B. subtilisによって細胞外基質の一部として産生されるγ-ポリグルタミン酸は、凍結乾燥中(A. R. Bhat et al., 2013)及び貯蔵中(A. R. Bhat et al., 2015)のプロバイオティック細菌の生存率の改善に利用可能であることも報告された。同様のことが、胃の酸性条件をまねた模擬胃液中でも見られた(A. R. Bhat et al., 2015)。
【0005】
他の背景技術としては、米国特許出願公開第20100203581号及びSalas Jara et al., Microorganisms 2016, 4, 35; doi:10.3390が挙げられる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様によれば、細菌組成物の調製方法であって、
(a)有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを増殖基質中で、有益な細菌と非病原菌とを含むバイオフィルムを生成する条件下、インビトロで共培養し、
(b)バイオフィルムを増殖基質から単離することで、前記細菌組成物を調製する
ことを含む方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、本明細書に記載の方法によって得られる細菌組成物が提供される。
【0008】
本発明の一態様によれば、本明細書に記載の細菌組成物を含む食品又は飼料が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、対象の健康を改善又は維持する方法であって、治療有効量の本明細書に記載のプロバイオティック組成物を対象に投与し、それによって対象の健康を改善又は維持することを含む方法が提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、細菌組成物の調製に有利な薬剤又は培養条件を選択する方法であって、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを増殖基質中、薬剤の存在下又は培養条件下において、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを含むバイオフィルムを生成するように共培養することを含み、バイオフィルムの性質の変化を、薬剤又は培養条件が細菌組成物の調製に有利であることの指標とする、方法が提供される。
【0011】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌は非病原菌である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はbacillus属である。
【0013】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はB. subtilis種である。
【0014】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌は127185/2株である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、増殖基質はマンガンを含む。
【0016】
本発明の実施形態によれば、増殖基質はデキストロースを含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌がbacillus属であるとき、増殖基質はマンガンを含む。
【0018】
本発明の実施形態によれば、有益な細菌はプロバイオティック細菌である。
【0019】
本発明の実施形態によれば、有益な細菌は、治療用ポリペプチドを発現するように遺伝子改変されている。
【0020】
本発明の実施形態によれば、プロバイオティック細菌はlactobacillales目である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はB. subtilis種である。
【0022】
本発明の実施形態によれば、プロバイオティック細菌はL. plantarum種である。
【0023】
本発明の実施形態によれば、有益な細菌はバイオレメディエーション用である。
【0024】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌は、KinD-Spo0A経路の遺伝子を発現する。
【0025】
本発明の実施形態によれば、増殖基質は増殖培地を含む。
【0026】
本発明の実施形態によれば、増殖培地は、LB培地、LBGM培地、牛乳培地及びMRS培地からなる群から選択される。
【0027】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はbacillus属であり、有益な細菌はlactobacillales目であり、増殖基質はLBGM培地、牛乳培地又はMRS培地である。
【0028】
本発明の実施形態によれば、増殖基質はMRS培地である。
【0029】
本発明の実施形態によれば、条件はpH約6.5~8を含む。
【0030】
本発明の実施形態によれば、条件はpH6.8~7.5を含む。
【0031】
本発明の実施形態によれば、増殖基質はアセトインを含む。
【0032】
本発明の実施形態によれば、方法は、単離の後にバイオフィルムを脱水することを更に含む。
【0033】
本発明の実施形態によれば、有益な細菌は、50以下の細菌種を含む。
【0034】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌は、バイオフィルム生成細菌の単一種である。
【0035】
本発明の実施形態によれば、組成物中の細菌の少なくとも50%が生細胞である。
【0036】
本発明の実施形態によれば、細菌組成物は、有益な細菌として50以下の細菌種を含む。
【0037】
本発明の実施形態によれば、細菌組成物は単一種の非病原菌を含む。
【0038】
本発明の実施形態によれば、細菌組成物は食用となる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、細菌組成物は、プロバイオティック細菌組成物である。
【0040】
本発明の実施形態によれば、細菌組成物は、粉体、液体又は錠剤として処方される。
【0041】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はbacillus属である。
【0042】
本発明の実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌はB. subtilis種である。
【0043】
本発明の実施形態によれば、有益な細菌はプロバイオティック細菌である。
【0044】
本発明の実施形態によれば、プロバイオティック細菌はlactobacillales目である。
【0045】
本発明の実施形態によれば、薬剤は、系内の培地のpHを変化させる。
【0046】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価な方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1のA~Bは、共培養におけるB. subtilisとL. plantarumの増殖を比較したグラフである。共培養による生成は、L. plantarum及びB. subtilisの増殖に対して、(純粋培養におけるこれらの増殖と比べて)影響はなく、これらの細菌間で拮抗的な相互作用がないことを示している。
図2図2は、改変MRS培地が、B. subtilisによるバイオフィルム形成を誘発することを示す写真である。B. subtilis NCIB3610のバイオフィルム形成に対するMRS培地のpHの改変による効果を実体顕微鏡によって分析した。
図3図3は、LB培地とMRS培地との組合せが、B. subtilisによるバイオフィルム形成を誘発することを示す写真である。異なる濃度のMRS培地(pH7)を富化したLB培地の、コロニー(上列)及びペリクル(下列)によるバイオフィルム形成に対する効果。
図4図4のA~Bは、LB培地とMRS培地の組合せが、B. subtilisによる細胞外基質産生を誘発することを示すグラフである。MRS濃度の増加は、tapA-sipW-tasA(A)オペロン及びepsA-O(B)オペロンの転写を誘導する。
図5A図5Aは、MRS培地によるバイオフィルム刺激効果が、B. subtilisにおいて既報の、基質合成及びバイオフィルム形成シグナル伝達経路によって調節されることを示す写真である。野生型(WT)及び種々の変異株によるMRS培地(pH7)上のコロニー形成及びペリクル形成を比較した。ここで使用した株は以下の通りであった:野生型(NCIB3610)、ΔkinCD(RL4577)、ΔkinAB(RL4573)、Δspo0A(RL4620)、ΔepsΔtasA(RL4566)、ΔabrB(YC668)。
図5B図5Bは、WT細胞に対するMRS培地の効果が、B. subtilisに対する基質過剰産生変異体細胞(ΔabrB)の効果に匹敵することを示す写真である。
図6図6は、MRS培地が、種々のBacillus種においてコロニー型バイオフィルム形成を誘導することを示す写真である。MRS培地(pH7)は、B. paralicheniformis MS303、B. licheniformis MS310、B. licheniformis S127、B. subtilis MS1577及びB. cereus 10987のコロニー型バイオフィルム形成を強く誘導した。
図7図7は、MRS培地が、種々のBacillus種においてペリクル形成を誘導することを示す写真である。MRS培地(pH7)は、B. paralicheniformis MS303、B. licheniformis MS310、B. licheniformis S127、B. subtilis MS1577及びB. cereus 10987のペリクル形成を強く誘導した。
図8A図8Aは、B. subtilisが細胞外基質を産生し、L. plantarumと一緒に二重種バイオフィルムを形成することを示す画像である。MRS培地 pH7、37℃及び50rpmにおけるB. subtilisとL. plantarumの共培養バイオフィルムのCLSM画像。左から右へ:蛍光画像、ノマルスキー微分干渉(DIC)を用いて作成された画像及び重ね合わせ画像。上段は、蛍光標識B. subtilis細胞の発現が、GFPを恒常的に発現することを示す。下段は、基質産生B. subtilis細胞の発現が、tapAプロモーターの制御下でCFPを発現することを示す。すべての画像において、L. plantarum細胞は染色されていない。
図8B図8Bは、B. subtilisが細胞外基質を産生し、L. plantarumと一緒に二重種バイオフィルムを形成することを示す画像である。LBGM培地におけるB. subtilisとL. plantarumの共培養バイオフィルムのCLSM画像。左から右へ:蛍光画像、ノマルスキー微分干渉(DIC)を用いて作成された画像及び重ね合わせ画像。上段は、蛍光標識B. subtilis細胞の発現がGFPを恒常的に発現することを示す。下段は、基質産生B. subtilis細胞の発現が、tapAプロモーターの制御下でCFPを発現することを示す。すべての画像において、L. plantarum細胞は染色されていない。
図9図9のA~Cは、(A)B. subtilis細胞、(B)L. plantarum細胞及び(C)B. subtilisとL. plantarumで構成される二重種バイオフィルムのSEM画像である。
図10図10のA~Bは、二重種バイオフィルムが、好ましくない条件に暴露されたL. plantarumの生存を促進することを示すグラフである。B. subtilisバイオフィルムの存在下又は非存在(対照)下のL. plantarum細胞の生存を、(A)63℃で1~3分間の熱処理中に測定し、(B)4℃で21日間の貯蔵中に測定した。示した値は、二つを1組として行った少なくとも3つの独立した実験の平均である。*p<0.05
図11A図11Aは、B. subtilisの細胞外基質が、熱処理中のL. plantarumの生存率増加を促進することを示すグラフである。WT B. subtilis及びその誘導体、細胞外基質の菌体外多糖成分及びタンパク質成分が欠乏した変異体(ΔepsΔtasA)、並びに基質遺伝子のリプレッサーが欠乏した変異体(ΔabrB;バイオフィルム基質を過剰産生する)に対して、63℃で3分間の熱処理による効果を試験した。示した結果は、二つを1組として行った少なくとも3つの独立した実験の平均である。*p<0.05
図11B図11Bは、B. subtilisの細胞外基質が、熱処理中のL. plantarumの生存率増加を促進することを示すグラフである。試料を牛乳培地中で18時間、30℃、20rpmで増殖させた。その後、これらを63℃で1~3分間の熱処理に付した。対照試料については熱処理は行わなかった。生存可能なL. plantarum細胞の数をCFU法によって測定した。*p<0.05
図12図12は、B. subtilisバイオフィルムの存在が、インビトロの胃及び腸による消化(モデル系)に際して、L. plantarumの生存率を増加させることを示すグラフである。B. subtilisバイオフィルムの存在下又は非存在下(対照)のL. plantarum細胞の生存率をインビトロの胃腸消化中に測定した。示した結果は、二つを1組として行った少なくとも3つの独立した実験の平均である。*p<0.05
図13図13は、MRS培地(pH7)及びLB培地におけるB. subtilis 3610NCIBの増殖曲線のグラフである。
図14図14は、MRS培地 pH7におけるコロニー表面構造及びペリクル形成に対するヒスチジンキナーゼ変異の効果を示す写真である。
図15図15のA~Cは、アセトインの存在下及び非存在下おける、LB培地で24時間のインキュベーション後の蛍光標識B. subtilis細胞(Pspank-gfp)のCLSM画像である。
図16図16のA~Bは、アセトインがBacillus subtilisによるコロニー型バイオフィルム形成を誘発することを示す写真である。
図17図17のA~Dは、B. subtilisの基質産生を担うtapAオペロンの転写がアセトインによって高度に上方制御されることを示す写真である。バイオフィルム形成を促進しないLB培地中での24時間のインキュベーション後の、PtapA-cfp転写融合を有するB. subtilis細胞のCLSM画像。
図18図18のA~Bは、それぞれB. subtilis株NCIB3610及び127185/2が生成するバイオフィルムを示す写真である。
図19図19は、消化器系のインビトロモデルにおける移行中に、B. subtilisと一緒に共培養バイオフィルム中で増殖するL. plantarumの生存率を示すグラフである。t=0の培養物は実験の対照であった。胃様(stomach-like)流体におけるインキュベーション後、L. plantarum+B. subtilis 127185/2の共培養は最高の生存率を示した。L. plantarum+B. subtilis NCIB3610共培養は、L. plantarum単独よりもわずかに高い生存率を示した。更なるインキュベーション後には、腸様(intestinal-like)流体において、種々の培養物における生存率の傾向が維持されたときに、有意な減少が生じた。
図20図20は、B. subtilisと一緒に共培養バイオフィルム中で増殖するL. plantarumの、高酸性度レベルへの暴露の際の生存率を示すグラフである。試験培養物における符号「+」は、50rpmで振盪しながらの増殖を示し、符号「-」は全く振盪しない増殖を示す。一般に、pH7からpH3の増殖培地への移行時には、L. plantarumの生存量は極端に減少した。L. plantarumとB. subtilisの共培養は、振盪なしと同様に、振盪ありでも酸性環境への移行時にL. plantarumの生存率の減少が(L. plantarumの単一培養に比べて)少なかった。
図21図21は、Mn2+イオンが改変MRS培地中のB. subtilisによるバイオフィルム形成に関与することを示す写真である。WT B. subtilis細胞によるコロニー形成及びペリクル形成に対する、特定のMRS培地成分(Mg2+、Mn2+、酢酸ナトリウム、リン酸二カリウム、デキストロース、クエン酸アンモニウム)の除外効果を観察した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、その一部の実施形態においては、細菌組成物の生産方法に関し、より詳細には、これらに限定されないが、プロバイオティック組成物、環境に有益なプロバイオティック組成物及び産業用のプロバイオティック組成物に関する。
【0050】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示す、ならびに/あるいは図面及び/又は実施例で例示する、構成の詳細及び要素の配置及び/又は方法に限定されるものではないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施又は実行することが可能である。
【0051】
細菌は経済的に重要である。というのは、これらの微生物が人によって多数の目的で使用されるからである。細菌の有益な用途としては、ヨーグルト、チーズ、酢などの伝統的な食品の製造、薬物、ビタミンなどの物質を製造するバイオテクノロジー及び遺伝子工学、農業、繊維柔軟化、メタン製造、バイオレメディエーション及び有害生物の生物的防除が挙げられる。
【0052】
これらの目的を果たすために、しばしば、細菌は、これらの生存能、したがってこれらの有効性を低下させる厳しい条件に暴露される。
【0053】
例えば、体内におけるプロバイオティクスの有益な効果を確実にするために、これらの生物は、食品加工、貯蔵及び上部消化管(GIT)通過中に生存しなければならず、これらの作用部位に生きて到達しなければならない。しかし、以前の研究によれば、最終食品中のプロバイオティック細菌の生存レベルは低く、胃の高酸性条件及び小腸における高胆汁濃度に対するこれらの生存能がかなり低下する。さらに、プロバイオティクスは、通常、細胞に致死的な損傷を起こし得る手順として確立された凍結乾燥によって主に調製される乾燥細菌粉末として利用可能である。
【0054】
細菌バイオフィルムについての研究を行う間に、本発明者らは、適切な条件下で、バイオフィルム生成細菌が非バイオフィルム生成細菌をそのバイオフィルム中に取り込み、それを極端な温度(冷熱、それぞれ図10のA~B及び図11のA~B)により耐えるようにし得ることに気づいた。
【0055】
具体的には、本発明者らは、B. subtilis種の細菌をプロバイオティック細菌L. plantarumと一緒に共培養した。彼らは、特定の条件下で、B. subtilis細菌がバイオフィルムを生成し、L. plantarum細胞がその細胞外基質内に取り込まれることを示した(図9A)。バイオフィルムに取り込まれたL. plantarumは、バイオフィルムに取り込まれない対照のL. plantarumよりも耐熱性且つ耐寒性であり、更に耐酸性であることが示された。
【0056】
総合すると、本発明者らは、バイオフィルム生成細菌を非バイオフィルム生成細菌を封入するのに使用することを提案する。したがって、バイオフィルム生成細菌は、有益な非バイオフィルム生成細菌の保護担体として役立つ。
【0057】
したがって、本発明の第1の態様によれば、細菌組成物を調製方法であって、
(a)有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを増殖基質中で、有益な細菌と非病原菌とを含むバイオフィルムを生成する条件下、インビトロで共培養し、
(b)バイオフィルムを増殖基質から単離することで、細菌組成物を調製することを含む方法が提供される。
【0058】
本明細書において「細菌」という用語は、古細菌を含めた原核微生物を指す。細菌は、グラム陽性の場合もグラム陰性の場合もある。細菌は、光合成細菌(例えば、シアノバクテリア)の場合もある。
【0059】
本明細書において「有益な細菌」という用語は、ヒトに対して正の効果をもたらす任意の細菌を指す。
【0060】
一実施形態においては、有益な細菌は、増殖培地中、標準培養条件下で単一培養物として増殖すると、バイオフィルムを生成しない。
【0061】
別の一実施形態においては、有益な細菌は、増殖培地中、これらの増殖に最適な培養条件下で単一培養物として増殖すると、バイオフィルムを生成しない。
【0062】
更に別の一実施形態においては、有益な細菌は、KinD-Spo0A経路を利用する(例えば、ヒスチジンキナーゼkinD、spo0F、spo0B及び/又はspo0Aの遺伝子を発現する)。例えば、Shemesh and Chai, 2013 Journal of Bacteriology, 2013, Vol 195, No.12 pages 2747-2754を参照。その内容は、参照により本明細書に援用する。
【0063】
有益な細菌は、一般にMan、Rogosa及びSharpe(MRS)培地(寒天を用いて固化したもの、又はMRSブロス)で培養されるものとすることができる。
【0064】
有益な細菌は、一般に、バイオフィルム生成細菌(例えば、B. subtilis)のバイオフィルム形成能力を阻害(すなわち、拮抗)してはならない。細菌が別の細菌に対して一緒に培養したときに拮抗活性を有するかどうかを判定する方法は、当該技術分野で既知である(例えば、図1A~B参照)。一実施形態においては、有益な細菌は土壌細菌ではない。
【0065】
任意の数の有益な細菌株を、本発明のこの態様の共培養で培養することができる。一実施形態においては、異なる500以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる250以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる100以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる90以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる80以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる70以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる60以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる50以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる40以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる30以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる20以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる10以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる9以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる8以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる7以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる6以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる5以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる4以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる3以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、異なる2以下の有益な細菌株を単一培養物として培養し、各単一の培養において、有益な細菌株1種のみを培養する。
【0066】
本発明のこの態様の単一培養物の有益な細菌株は、一つの種に属すものでもよいし、複数の種に属してもよい。好ましくは、培養した有益な細菌株は、一つの細菌種に属する。別の実施形態においては、複数種の有益な細菌を単一培養物として培養する。好ましくは、10以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、9以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、8以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、7以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、6以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、5以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、4以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、3以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、2以下の異なる種の有益な細菌を単一培養物として培養し、各単一の培養において、有益な細菌株1種のみを培養する。
【0067】
一実施形態においては、有益な細菌は、摂取すると、ヒトの健康を増進する。別の一実施形態においては、有益な細菌を、ヒトに有用である生成物(例えば、メタン、石油、殺虫剤など)を生成するために、産業界で使用する。別の一実施形態においては、有益な細菌を、食品産業で使用する。別の一実施形態においては、有益な細菌を、サイレージ接種材料に使用する。更に別の一実施形態においては、有益な細菌を、植物の成長を助けるために農業で使用する。更に別の一実施形態においては、有益な細菌を、バイオレメディエーションに使用する。
【0068】
一実施形態においては、有益な細菌は、プロバイオティック細菌である。
【0069】
本明細書において「プロバイオティック細菌」という用語は、適切な量で投与すると宿主(例えば、ヒト)に健康上の利点を与える生きた細菌を指す。
【0070】
プロバイオティック作用の主要な機序としては、乳酸、過酸化水素及びバクテリオシンの産生による腸内病原体の抑制、接着部位の封鎖、栄養素の競合及び炎症抑制を含めた免疫系の調節による腸内病原体の競争排除を見いだすことができる。これらは、乳糖不耐症の緩和、同化作用によるコレステロール減少、腸の正常微生物叢の維持及び毒素産生のディスバイオシス改善抑制、腸における毒素受容体の分解、正常腸pHの維持、腸運動の増加及び腸透過性の完全性を維持するのに役立つなどの利点も宿主にもたらす。
【0071】
一実施形態においては、有益な細菌は、(乳酸菌(LAB)として一般に知られる)Lactobacillales目に属する。これらの細菌は、グラム陽性、低GC、酸耐性、一般に非芽胞性、非呼吸性(non-respiring)の、代謝的及び生理的特性を共有する桿状又は球菌状細菌である。これらの細菌は、炭水化物発酵の主要な代謝最終産物として乳酸を産生する。
【0072】
好ましくは、Lactobacillales目の有益な細菌は、MRS寒天(MRS)中で増殖する(また、一般に培養される)ものである。
【0073】
Lactobacillales目の例示的な企図される属としては、Lactobacillus、Leuconostoc、Pediococcus、Lactococcus、Streptococcus、Aerococcus、Carnobacterium、Enterococcus、Oenococcus、SporoLactobacillus、Tetragenococcus、Vagococcus及びWeissellaが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
好ましい一実施形態によれば、本発明のこの態様の有益な細菌は、Lactobacillus属に属する。本発明によって企図されるLactobacillusの例示的な種としては、L. acetotolerans、L. acidifarinae、L. acidipiscis、L. acidophilus、L. agilis、L. algidus、L. alimentarius、L. amylolyticus、L. amylophilus、L. amylotrophicus、L. amylovorus,L. animalis、L. antri、L. apodemi、L. aviarius、L. bifermentans、L. brevis、L. buchneri、L. camelliae、L. casei、L. catenaformis、L. ceti、L. coleohominis、L. collinoides、L. composti、L. concavus、L. coryniformis、L. crispatus、L. crustorum、L. curvatus、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. delbrueckii subsp. delbrueckii、L. delbrueckii subsp. lactis、L. dextrinicus、L. diolivorans、L. equi、L. equigenerosi、L. farraginis、L. farciminis、L. fermentum、L. fornicalis、L. fructivorans、L. frumenti、L. fuchuensis、L. gallinarum、L. gasseri、L. gastricus、L. ghanensis、L. hilgardii、L. homohiochii、L. iners、L. ingluviei、L. intestinalis、L. jensenii、L. johnsonii、L. kalixensis、L. kefiranofaciens、L. kefiri、L. kimchii、L. kitasatonis、L. kunkeei、L. leichmannii、L. lindneri、L. malefermentans、L. mali、L. manihotivorans、L. mindensis、L. mucosae、L. murinus、L. nagelii、L. namurensis、L. nantensis、L. oligofermentans、L. oris、L. panis、L. pantheris、L. parabrevis、L. parabuchneri、L. paracasei、L. paracollinoides、L. parafarraginis、L. parakefiri、L. paralimentarius、L. paraplantarum、L. pentosus、L. perolens、L. plantarum、L. pontis、L. protectus、L. psittaci、L. rennini、L. reuteri、L. rhamnosus、L. rimae、L. rogosae、L. rossiae、L. ruminis、L. saerimneri、L. sakei、L. salivarius、L. sanfranciscensis、L. satsumensis、L. secaliphilus、L. sharpeae、L. siliginis、L. spicheri、L. suebicus、L. thailandensis、L. ultunensis、L. vaccinostercus、L. vaginalis、L. versmoldensis、L. vini、L. vitulinus、L. zeae及びL. zymaeが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
特定の一実施形態においては、Lactobacillusの種はL. plantarumである。
【0076】
本発明のこの態様の有益な細菌は、発酵生成物を生成し得る。発酵生成物の例としては、プレバイオティクス、生物燃料、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アルコール燃料、タンパク質、組換えタンパク質、ビタミン、アミノ酸、有機酸(例えば、乳酸、プロピオン酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸及び3-ヒドロキシプロピオン酸)、酵素、抗原、抗生物質、有機化学物質、バイオレメディエーション処理剤、防腐剤及び代謝産物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
したがって、有益なポリペプチドを発現するように有益な細菌を遺伝的に改変することができる。
【0078】
有益なポリペプチドは、細胞内ポリペプチド(例えば、細胞質タンパク質)、膜貫通ポリペプチド又は分泌ポリペプチドとすることができる。タンパク質の異種産生は、研究及び産業環境において、例えば、治療薬、ワクチン、診断薬、生物燃料、及び目的とする多数の他の適用例の製造に広範に採用される。本発明の組成物及び方法を用いて製造することができる例示的な治療用タンパク質としては、ある種の天然及び組換えヒトホルモン(例えば、インスリン、成長ホルモン、インスリン様成長因子1、卵胞刺激ホルモン及び絨毛性ゴナドトロピン)、造血性タンパク質(例えば、エリスロポイエチン、C-CSF、GM-CSF及びIL-11)、血栓性及び止血性タンパク質(例えば、組織プラスミノゲン活性化因子及び活性化プロテインC)、免疫学的タンパク質(例えば、インターロイキン)、抗体及び他の酵素(例えば、デオキシリボヌクレアーゼI)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物及び方法によって製造することができる例示的なワクチンとしては、種々のインフルエンザウイルス(例えば、A、B及びC型、並びにA型インフルエンザウイルスの場合のH5N2、H1N1、H3N2など、各タイプの種々の血清型)、HIV、肝炎ウイルス(例えば、A、B、C又はD型肝炎)、ライム病及びヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンが挙げられるが、これらに限定されない。異種産生タンパク質診断薬の例としては、セクレチン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、HIV抗原及びC型肝炎抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
異種ポリペプチドによって生成されるタンパク質又はペプチドとしては、サイトカイン、ケモカイン、リンホカイン、リガンド、受容体、ホルモン、酵素、抗体及び抗体断片、並びに増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。受容体の非限定的例としては、TNF I型受容体、IL-1受容体II型、IL-1受容体拮抗薬、IL-4受容体及び任意の化学的又は遺伝学的に改変された可溶性受容体が挙げられる。酵素の例としては、アセチルコリンエステラーゼ、ラクターゼ、活性化プロテインC、第VII因子、(例えば、Santylの名称でAdvance Biofactures Corporationによって販売される)コラゲナーゼ;(例えば、Fabrazymeの名称でGenzymeによって販売される)アガルシダーゼ-ベータ;(例えば、Pulmozymeの名称でGenentechによって販売される)ドルナーゼ-アルファ;(例えば、Activaseの名称でGenentechによって販売される)アルテプラーゼ;(例えば、Oncasparの名称でEnzonによって販売される)PEG化アスパラギナーゼ;(例えば、Elsparの名称でMerckによって販売される)アスパラギナーゼ;及び(例えば、Ceredaseの名称でGenzymeによって販売される)イミグルセラーゼが挙げられる。特定のポリペプチド又はタンパク質の例としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロンベータ(IFN-ベータ)、インターフェロンガンマ(IFNガンマ)、インターフェロンガンマ誘発因子I(IGIF)、形質転換増殖因子ベータ(IGF-ベータ)、RANTES(regulated upon activation, normal T-cell expressed and presumably secreted)、マクロファージ炎症性タンパク質(例えば、MIP-1-アルファ及びMIP-1-ベータ)、リーシュマニア伸長開始因子(LEIF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、増殖因子、例えば、上皮成長因子(EGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子、(FGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-2(NT-2)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、ニューロトロフィン-5(NT-5)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、TNFアルファII型受容体、エリスロポイエチン(EPO)、インスリン並びに可溶性糖タンパク質、例えば、gp120及びgp160糖タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。gp120糖タンパク質はヒト免疫不全ウイルス(WIV)外被タンパク質であり、gp160糖タンパク質はgp120糖タンパク質の公知の前駆体である。他の例としては、セクレチン、ネシリチド(ヒトB型ナトリウム利尿ペプチド(hBNP))及びGYP-Iが挙げられる。
【0080】
ヒトインターフェロンベータ1bの発現のための企図される細菌としては、例えば、E. coliが挙げられる。
【0081】
ヒトインターフェロンガンマの発現のための企図される細菌としては、例えば、E. coliが挙げられる。
【0082】
ヒト成長ホルモンの発現のための企図される細菌としては、例えば、E. coliが挙げられる。
【0083】
ヒトインスリンの発現のための企図される細菌としては、例えば、E. coliが挙げられる。
【0084】
インターロイキンIIの発現のための企図される細菌としては、例えば、E. coliが挙げられる。
【0085】
特定の一実施形態によれば、有益なポリペプチドは、抗体(例えば、ヒュミラ、レミケード、リッキサン、エンブレル、アバスチン、ハーセプチン)である。
【0086】
抗体の発現のために企図される細菌としては、例えば、E. coli、Bacillus brevis、Bacillus subtilis及びBacillus megateriumが挙げられる。
【0087】
本発明によって企図される他の有益な細菌としては、細菌ワクチンとして使用されるものが挙げられる。本発明によって企図される例示的なワクチンとしては、ビボチフベルーナワクチン(腸チフスワクチン、生)、Prevnar13(肺炎球菌13価ワクチン)、メナクトラ(髄膜炎菌結合型ワクチン)、ActHIB(haemophilus b結合型(prp-t)ワクチン)、Bexsero(髄膜炎菌群Bワクチン)、Biothrax(吸着炭疽ワクチン)、Hiberix(haemophilus b結合型(prp-t)ワクチン)、HibTITER(haemophilus b結合型(hboc)ワクチン)、液状PedvaxHIB(haemophilus b結合型(prp-omp)ワクチン)、MenHibrix(haemophilus b結合型(prp-t)ワクチン/髄膜炎菌結合型ワクチン)、Menomune A/C/Y/W-135(髄膜炎菌多糖ワクチン)、Menveo(髄膜炎菌結合型ワクチン)、Pneumovax23(肺炎球菌23価ワクチン)、Prevnar(肺炎球菌7価ワクチン)、Te Anatoxal Berna(破傷風トキソイド)、沈降破傷風トキソイド(破傷風トキソイド)、TheraCys(bcg)、Tice BCG(bcg)、Trumenba(髄膜炎菌群Bワクチン)、Typhim Vi(腸チフスワクチン、不活性化)、Vaxchora、コレラワクチン、生及びビボチフベルーナ(腸チフスワクチン、生)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
他の企図される有益な細菌は、バイオレメディエーションに有用なものである。こうしたレメディエーションとしては、重金属、化学物質、放射線及び炭化水素汚染が挙げられる。
【0089】
バイオレメディエーションに使用することができる細菌の例を以下に列挙する。
【0090】
Pseudomonas putida: Pseudomonas putidaは、塗料希釈剤の一成分であるトルエンのバイオレメディエーションに関与するグラム陰性土壌細菌である。汚染土壌中の石油精製製品ナフタレンを分解することもできる。
【0091】
Dechloromonas aromatica: Dechloromonas aromaticaは、安息香酸、クロロ安息香酸及びトルエンを含めた芳香族化合物を酸化し、その反応を酸素、クロラート又はニトラートの還元と連結することができる桿菌である。ベンゼンを嫌気的に酸化することができる唯一の生物でもある。特に地下水及び地表水においては、ベンゼン混入の傾向が高いため、D. aromaticはこの物質のin situバイオレメディエーションに特に有用である。
【0092】
硝化細菌及び脱窒菌: 産業用バイオレメディエーションは、廃水浄化に使用される。大部分の処理系は、不要な無機窒素化合物(すなわち、アンモニア、ニトリット、ニトラート)を除去する微生物の活性に依拠する。窒素除去は、硝化及び脱窒を含む二段階プロセスである。硝化中、アンモニウムは、Nitrosomonas europaeaのような生物によってニトリットに酸化される。次いで、ニトリットは、更に、Nitrobacter hamburgensisのような微生物によってニトラートに酸化される。嫌気性条件では、アンモニウム酸化中に生成したニトラートは、Paracoccus denitrificansのような微生物によって最終電子受容体として使用される。その結果がNガスである。このプロセスを通して、天然水の富栄養化の原因となる2種の汚染物質であるアンモニウム及びニトラートが処理される。
【0093】
Deinococcus radiodurans: Deinococcus radioduransは、溶媒及び重金属のバイオレメディエーション用に遺伝子操作された耐放射線極限環境細菌である。Deinococcus radioduransの操作された株は、放射性混合廃棄物環境中のイオン性水銀及びトルエンを分解することが示された。
【0094】
嫌気性条件では、アンモニウム酸化中に生成したニトラートは、Paracoccus denitrificansのような微生物によって最終電子受容体として使用される。その結果が二窒素ガスである。このプロセスを通して、天然水の富栄養化の原因となる2種の汚染物質であるアンモニウム及びニトラートが処理される。
【0095】
Methylibium petroleiphilum: Methylibium petroleiphilum(公式にはPM1株として知られる)は、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)のバイオレメディエーションが可能な細菌である。PM1は、汚染物質を唯一の炭素及びエネルギー供給源として使用することによってMTBEを分解する。
【0096】
Alcanivorax borkumensis: Alcanivorax borkumensisは、燃料中に存在するものなどの炭化水素を消費し、二酸化炭素を生成する、海洋桿菌である。それは、油で汚染された環境中で急速に増殖し、メキシコ湾のディープウォーター ホライズン原油流出から830,000ガロン以上の油を除去するのを助けるために使用された。油を除去するのに使用することができる他の企図される細菌としては、Colwellia及びNeptuniibacterが挙げられる。
【0097】
上述のように、本発明のこの態様の方法は、有益な細菌をバイオフィルム生成細菌と一緒に培養することを企図する。
【0098】
本明細書において「バイオフィルム」という用語は、細菌の集団が産生した細胞外重合物質の基質中に含まれる(例えば、包埋又は封入された)細菌の集団を指す。一般に、バイオフィルム中に存在するときに細菌は、自由に遊走する浮遊細菌と比較して、増殖速度及び遺伝子転写に関して異なる表現型を示す。バイオフィルム中に存在し得る細胞外重合物質の例としては、菌体外多糖(epsA-Oオペロンの産物によって合成されるものなど)及びアミロイド線維(tapA-sipW-tasAオペロンによってコードされるものなど)が挙げられる。したがって、基質は、一般に、細胞外DNA及びタンパク質並びに炭水化物を含む。
【0099】
バイオフィルム生成細菌は、有益な細菌でもあり得ることを理解されたい。
【0100】
バイオフィルム生成細菌は、一般に、バイオフィルムに取り込まれる有益な細菌とは異なる目及び/又は属である。したがって、バイオフィルム生成細菌と有益な細菌は、異なる株、種、属及び/又は目とすることができる。
【0101】
好ましくは、バイオフィルム生成細菌は、ヒトに非病原性である(すなわち、身体的な害や疾患を引き起こさない)。
【0102】
バイオフィルム生成細菌の任意の数の株を本発明のこの態様の共培養で培養することができる。一実施形態においては、500以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、250以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、100以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、80以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、70以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、60以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、50以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、40以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、30以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、20以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、10以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、9以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、8以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、7以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、6以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、5以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、4以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、3以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、2以下の異なる株のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、あるいは各単一の培養において、バイオフィルム生成細菌を1株のみ培養する。
【0103】
本発明のこの態様の単一の培養のバイオフィルム生成細菌株は、1つの種に属してもよく、又は複数の種に属してもよい。好ましくは、培養物のバイオフィルム生成細菌株は、単一の細菌種に属する。別の実施形態においては、複数の種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養する。好ましくは、10以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、9以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、8以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、7以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、6以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、5以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、4以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、3以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、2以下の異なる種のバイオフィルム生成細菌を単一培養物として培養し、あるいは各単一の培養において、バイオフィルム生成細菌を1種のみ培養する。
【0104】
一実施形態においては、バイオフィルム生成細菌は、Bacillus属に属する。
【0105】
本明細書において「Bacillus属」は、B. subtilis、B. licheniformis、B. lentus、B. brevis、B. stearothermophilus、B. alkalophilus、B. amyloliquefaciens、B. clausii、B. halodurans、B. megaterium、B. coagulans、B. circulans、B. lautus及びB. thuringiensisを含むが、ただしこれらに限定されない、当業者に既知のすべてのメンバーが含まれる。Bacillus属は、分類学的な再編成が継続されていることを認識されたい。したがって、この属は、現在「Geobacillus stearothermophilus」と称されるB. stearothermophilusなどの生物を含み、ただしこれらに限定されない、再分類された種を含むことを意図する。酸素の存在下の耐性内生胞子の生成は、Bacillus属の決定的な特徴と考えられるが、この特徴は、最近命名されたAlicyclobacillus、Amphibacillus、Aneurinibacillus、Anoxybacillus、Brevibacillus、Filobacillus、Gracilibacillus、Halobacillus、Paenibacillus、Salibacillus、Thermobacillus、Ureibacillus及びVirgibacillusにも当てはまる。
【0106】
一実施形態においては、バイオフィルム生成細菌は、B. subtilis種である。
【0107】
本発明によって企図されるB. subtilisの例示的な株としては、B. subtilis MS1577及び127185/2(MS302;乳製品分離菌)及びNCIB3610が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
本発明によって企図されるB paralicheniformisの例示的な株としては、B. paralicheniformis MS303及びB. paralicheniformis S127が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
本発明によって企図されるB. licheniformisの例示的な株としては、B. licheniformis MS310及びB. licheniformis MS307が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
特定の一実施形態によれば、バイオフィルム生成細菌は、B. cereus種を含まない。
【0111】
共培養物を生成するために、一般に、有益な培養物とバイオフィルム生成培養物の両方を別々に培養して、スターターカルチャーを生成する。スターターカルチャーの培地及び条件は、一般に、細菌の各々の増殖を最適化するように選択される。
【0112】
企図されるスターターカルチャーとしては、乾燥スターターカルチャー、脱水スターターカルチャー、凍結スターターカルチャー又は濃縮スターターカルチャーが挙げられる。
【0113】
スターターカルチャーを、十分な量の細菌が増殖するまで、少なくとも2時間、4時間、8時間、12時間にわたり増殖させる。
【0114】
特定の一実施形態によれば、この方法は、共培養の方法を含み、有益な細菌はLactobacillus属(例えば、L. plantarum種)であり、バイオフィルム生成細菌はBacillus属(例えば、B. subtilis種)である。
【0115】
有益な細菌をバイオフィルム生成細菌と共培養する方法は、両方のタイプの微生物の増殖、及びバイオフィルムへの両方の微生物の取り込みを可能にするように選択する。
【0116】
一実施形態においては、共培養は、有益な細菌の培養に一般に使用される増殖基質中(又は増殖基質上)で行う。増殖基質は、固体培地でも液体培地でもよい。好ましくは、共培養物を培養中に振盪させる。
【0117】
細菌の培養に使用することができる増殖基質の例としては、MRS培地、LB培地、TBS培地、酵母エキス、大豆ペプトン、カゼインペプトン及び肉ペプトンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
培地の更なる例を下表1に列挙する。
【0119】
【表1-1】
【0120】
【表1-2】
【0121】
【表1-3】
【0122】
【表1-4】
【0123】
【表1-5】
【0124】
【表1-6】
【0125】
したがって、例えば、有益な細菌がLactobacillus属(例えば、L. plantarum種)であり、バイオフィルム生成細菌がBacillus属(例えば、B. subtilis種)である場合、共培養をLBGM培地、牛乳培地又はMRS培地を含む増殖基質中で行うことができる。本発明の共培養物を生成するのに使用することができる別の培地としては、MSgg最少培地(Shemesh, M., et al (2010). J Bacteriol 192, 6352-6356);ラクトース濃縮LB培地:Duanis-Assaf D., et al (2016) Front. Microbiol. 6:1517;酪酸添加LB培地:Pasvolsky R., et al., Int. J. Food Microbiol.181C:19-27が挙げられる。一般に、バイオフィルムへの異なる細菌の両方の取り込みを促進する培養条件を選択する。
【0126】
本発明者らは、Bacillus属(例えば、B. subtilis種)である細菌のバイオフィルム生成に重要な増殖培地の特定の成分を明らかにした。図21参照。すなわち、本発明者らは、有益な細菌をBacillus細菌と共培養するのに使用される培地がマンガンを含むことを提案する。別の一実施形態においては、培地はデキストロースを含む。更に別の一実施形態においては、共培養に使用される培地は、マンガンとデキストロースの両方を含む。
【0127】
したがって、本発明の別の一態様によれば、細菌組成物の調製に有利な薬剤又は培養条件を選択する方法であって、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを増殖基質中、薬剤の存在下又は培養条件下において、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌とを含むバイオフィルムを生成するように共培養することを含み、バイオフィルムの性質の変化を、薬剤又は培養条件が細菌組成物の調製に有利であることの指標とする、方法を提供する。
【0128】
共培養の変更可能な条件の例示としては、培養が行われる表面の性質が挙げられる(例えば、官能基、静電荷、コーティングを含むが、ただしこれらに限定されない、固体表面の界面化学;溝、空洞、隆起部、穴、六方充填(HP)柱状部、HP柱状部によって包囲された正三角形、及びSharkletトポグラフィを含むが、ただしこれらに限定されない表面粗さ、表面トポグラフィなど)。固体表面は、バイオフィルムへの有益な細菌の封入/取り込みを促進するような明確な形状及び/又はトポグラフィとすることができる。さらに、固体表面は、特定の厚さのバイオフィルムの生成を促進するような明確な形状及び/又はトポグラフィとすることができる。本発明によって企図される他の形態学的パターンは、Graham and Cady, Coatings, 2014, 4, pages 37-59に記載されており、本参照により、その内容を本明細書に援用する。
【0129】
培養を行うことができる例示的な固体表面としては、種々のポリマー材料(シリコーン、ポリスチレン、ポリウレタン及びエポキシ樹脂)から金属及び金属酸化物(ケイ素、チタン、アルミニウム、シリカ及び金)まで広範囲の基材が挙げられる。固体表面のトポグラフィを変えるために、製作技術(ソフトリソグラフィ及びダブルキャスティング成形技術、マイクロコンタクトプリンティング、電子線リソグラフィ、ナノインプリントリソグラフィ、フォトリソグラフィ、電着法など)をこうした材料に対して行うことができる。
【0130】
変更可能な共培養の他の条件としては、pH、栄養素濃度、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌の比、温度などの環境パラメータが挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
一実施形態においては、共培養はバイオリアクターで行われる。
【0132】
本明細書において「バイオリアクター」という用語は、本発明のバイオフィルムを支持するように改造された装置を指す。
【0133】
バイオリアクターは、一般に、バイオフィルムをその上に形成するためのバイオフィルム用の支持体を1個以上含み、支持体は、バイオフィルムの形成を促進するのに有意な表面積を提供するように適合されたものである。本発明におけるバイオリアクターは、連続処理に適合させることができる。
【0134】
バイオフィルムをバイオリアクターのシステム内で生成させるときには、システムのマイクロ流体工学(例えば、剪断応力)を変えることによって、共培養条件を変更することができることを理解されたい。
【0135】
上述したように、バイオフィルムの性質に有利な変化を起こす薬剤又は条件を選択する。一実施形態においては、性質は、バイオフィルムの量である。一実施形態においては、性質は、バイオフィルムの厚さである。別の一実施形態においては、性質は、バイオフィルムの密度である。更に別の一実施形態においては、性質は、バイオフィルムが形成される速度である。更に別の一実施形態においては、性質は、バイオフィルムに取り込まれる有益な細菌の量である。更に別の一実施形態においては、性質は、温度及び/又はpHに対する耐性である。
【0136】
更に別の一実施形態においては、性質は、バイオフィルムからある期間にわたって放出される有益な細菌の量である。これは、有益な細菌の放出制御が必要なときに特に関連し得る。例えば、バイオフィルムに皮膚、頭皮又は歯への適用に有益である細菌を取り込み、最大治療効果が得られるように、バイオフィルムからの有益な細菌の放出速度を選択すること有利となり得る。
【0137】
本発明者らは、今回、増殖基質のpHを6より高くすると、KinD-Spo0A経路を利用する細菌(例えば、B. subtilis種などのBacillus属)をMRS培地中で培養したときに、バイオフィルムに取り込まれやすくなることを見いだした。
【0138】
一実施形態においては、LBGM培地、牛乳培地又はMRS培地(具体的には、MRS培地)の中又は上で実施する、Lactobacillus属(例えば、L. plantarum種)である有益な細菌とBacillus属(例えば、B. subtilis種)であるバイオフィルム生成細菌との共培養は、pH6.5~9、6.5~8、6.5~7.5、6.8~9、6.8~8、6.8~7.5で行う。
【0139】
特定の一実施形態においては、共培養が牛乳培地中で行われるとき、バイオフィルム生成細菌はB. subtilis MS1577でも3610でもない。
【0140】
本発明のこの態様の共培養は、細菌の増殖の増加及び/又はバイオフィルム形成の促進に役立つ追加の薬剤の存在下で行うことができる。こうした薬剤としては、例えばアセトインが挙げられる。
【0141】
アセトインの量及び添加のタイミングは、最適なバイオフィルム生成を促進するように変更することができる。一実施形態においては、約0.01~5%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.01~4%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.01~3%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.01~2%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.01~1%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.01~0.5%のアセトインを使用する。
【0142】
したがって、本発明者らは、アセトインを含む、培養物、Bacillus細菌を含むバイオフィルム及び培地を企図する。一実施形態においては、培地は、表1に示したもの(例えば、LB培地)である。
【0143】
一実施形態においては、約0.05~5%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.05~4%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.05~3%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.05~2%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.05~1%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.05~0.5%のアセトインを使用する。
【0144】
一実施形態においては、約0.1~5%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.1~4%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.1~3%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.1~2%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.1~1%のアセトインを使用する。別の一実施形態においては、約0.1~0.5%のアセトインを使用する。
【0145】
本発明のこの態様の共培養物を、有益な細菌とバイオフィルム生成細菌の両方を取り込むバイオフィルムを生成するのに十分な時間増殖させる。
【0146】
一実施形態によれば、共培養物を有益な細菌の最大定常増殖期まで増殖させ、最大バイオフィルム生成を得るために、その時点で回収することができる。
【0147】
別の一実施形態によれば、共培養物をバイオフィルム生成細菌の最大定常増殖期まで増殖させ、最大バイオフィルム生成を得るために、その時点で回収することができる。
【0148】
したがって、細菌は、少なくとも3時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間又はそれ以上培養することができる。一実施形態においては、細菌は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間又は6週間より長くは培養しない。
【0149】
十分な量の有益な細菌が増殖したら(且つバイオフィルムに封入されたら)、バイオフィルムを回収する(すなわち、増殖基質から取り出す)。
【0150】
増殖基質から単離後、バイオフィルム(及び/又はその中に取り込まれた細菌)を乾燥(すなわち、脱水)、凍結、噴霧乾燥又は凍結乾燥することができる。好ましくは、バイオフィルムは、細菌の生存能を維持するように処理する。
【0151】
したがって、本発明の別の一態様によれば、本明細書に記載の方法によって得ることができる細菌組成物を提供する。
【0152】
バイオフィルム生成細菌は、細菌組成物中に、細菌組成物(例えば、プロバイオティック組成物)1グラム当たり10~1015コロニー形成単位で存在する。
【0153】
組成物中の非細胞材料(例えば、菌体外多糖及び/又はアミロイド線維)の量(重量)は、細胞材料(例えば、細菌細胞)の量(重量)よりも多くすることができる。例えば、組成物中の非細胞材料(例えば、菌体外多糖及び/又はアミロイド線維)の重量を組成物中の細胞材料(例えば、細菌細胞)の重量よりも少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%多くすることができる。
【0154】
組成物中の非細胞材料(例えば、菌体外多糖及び/又はアミロイド線維)の量(重量)は、細胞材料(例えば、細菌細胞)の量(重量)よりも少なくすることができる。例えば、組成物中の細胞材料(例えば、細菌細胞)の重量を組成物中の非細胞材料(例えば、菌体外多糖及び/又はアミロイド線維)の重量よりも少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%多くすることができる。
【0155】
したがって、本明細書に記載の組成物における非細胞材料(例えば、菌体外多糖):細菌細胞の重量比は、99:1~1:99とすることができる。一部の実施形態においては、本明細書に記載の組成物における非細胞材料(例えば、菌体外多糖):細菌細胞の重量比は、99:1~50:50とすることができる。一部の実施形態においては、本明細書に記載の組成物における非細胞材料(例えば、菌体外多糖):細菌細胞の重量比は、99:1~70:30とすることができる。
【0156】
一実施形態においては、細菌組成物は、プロバイオティック組成物である。
【0157】
一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、最終生成物1グラム当たり約10~1015コロニー形成単位(「CFU」)のバイオフィルム生成微生物を含む。一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、最終生成物1グラム当たり約10~約1014CFUのバイオフィルム生成微生物を含む。一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、最終生成物1グラム当たり約10~約1015CFUのバイオフィルム生成微生物を含む。一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、最終生成物1グラム当たり約10~1011コロニー形成単位のバイオフィルム生成微生物を含む。一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、最終生成物1グラム当たり約10~約10コロニー形成単位のバイオフィルム生成微生物を含む。
【0158】
組成物中の有益な細菌の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上が、生存可能である(すなわち、増殖する)ことを理解されたい。さらに、組成物中のバイオフィルム生成細菌の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上が、生存可能である(すなわち、増殖する)。
【0159】
特定の一実施形態によれば、細菌組成物は、プロバイオティック組成物である。
【0160】
プロバイオティック組成物中に存在し得る例示的な有益な細菌は、(上述したように)Lactobacillus属に属するものである。
【0161】
プロバイオティック組成物は、Bifidobacterium属菌などの、追加の有益な細菌を含むことができる。本発明のこの態様のプロバイオティック組成物中に存在し得る、企図されるBifidobacterium種としては、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolecentis、Bifidobacterium lactis及びBifidobacterium animalisが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態においては、プロバイオティック組成物は、Lactobacillus属の種(例えば、Lactobacillus plantarum)と、以下のBifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolecentis、Bifidobacterium lactis及びBifidobacterium animalisから選択される少なくとも2種の微生物とを含む。
【0162】
一実施形態においては、本明細書で開示する細菌組成物は、組成物を哺乳動物の対象に投与するのに適した任意の形状である。一部の実施形態においては、組成物は錠剤、粉体又は液体の形状である。粉体として提供される場合、粉体を適切な液体(例えば、液体乳製品、果実又は野菜ジュース、混合果実又は野菜ジュース生成物など)と混合することが特に企図される。
【0163】
一部の実施形態においては、本明細書で開示する細菌組成物は、抗生物質投与の前、同時、又は後に、対象に投与される。共培養の条件は、有益な細菌が抗生物質の活性にさらされないように、生成するバイオフィルムが有益な細菌を体内で放出するようなものにすることができる。
【0164】
ある実施形態においては、本明細書に記載の細菌組成物を、局所投与用に、例えば、クリーム、ゲル、ローション、シャンプー、リンスとして処方する。細菌組成物は、皮膚又は頭皮に投与することができる。細菌組成物は、歯科用途に有用であり得る。こうした用途では、これらを歯肉に投与することができる。
【0165】
一部の実施形態においては、本明細書に記載の組成物は食品に添加する。本明細書において「食品」という用語は、生物が取り込み可能な栄養素を含む任意の物質であって、その取り込みによって生物がエネルギーを生成し、健康及び快適性を増進し、成長を刺激し、生命を維持するためのものを指す。本明細書において「強化食品」という用語は、本明細書に記載の組成物を含む組成物を含有するように改変された食品であって、栄養素を供給するという基本的機能を越えて、健康/快適性増進及び/又は疾患の予防/軽減/処置といった利益をもたらす食品を指す。
【0166】
プロバイオティック組成物は、任意の食品に添加することができる。例示的な食品としては、タンパク質粉末(シェイク食)、パン類(ケーキ、クッキー、クラッカー、パン、スコーン及びマフィン)、乳製品(チーズ、ヨーグルト、カスタード、ライスプディング、ムース、アイスクリーム、フローズンヨーグルト、フローズンカスタードを含むが、これらに限定されない)、デザート類(シャーベット、ソルベ、氷菓、グラニータ及び冷凍果実ピューレを含むが、これらに限定されない)、スプレッド/マーガリン、パスタ製品及び他の穀物製品、食事代替品、栄養バー、トレイルミックス、グラノーラ、飲料(スムージー、水又は乳製品飲料及び大豆系飲料を含むが、これらに限定されない)、並びにオートミールなどの朝食用穀物製品が挙げられるが、これらに限定されない。飲料の場合、本明細書に記載のプロバイオティック組成物は、溶液とすることができ、懸濁物、乳化物、又は固体として存在することができる。
【0167】
一実施形態においては、強化食品は、食事代替品である。本明細書において「食事代替品」という用語は、通常食の代わりに食べることを意図された強化食品を指す。食事の代替品とすることを意図した栄養バー及び飲料は、食事代替品の一種である。この用語は、体重減少又は体重管理計画の一部として食べられる食事代替製品、例えば、それ単独で食事全体を代替すること意図していないが、別のこうした製品と組み合わせて食事の代替とするか、あるいは計画への使用を意図した軽食類も含む。これら後者の製品は、一般に、カロリー含有量が1食あたり50~500キロカロリーである。
【0168】
別の一実施形態においては、食品は栄養補助食品である。本明細書において「栄養補助食品」という用語は、食事を補うことを意図した「食事成分」を含む、口から摂取される物質を指す。「食事成分」という用語は、本明細書に記載のプロバイオティック組成物を含む組成物、並びにビタミン、ミネラル、ハーブ又は他の植物性薬品、アミノ酸、及び酵素、器官組織、腺類(glandulars)、代謝産物などの物質を含むが、これらに限定されない。
【0169】
更に別の一実施形態においては、食品は医療食品である。本明細書において「医療食品」という用語は、完全に医師の監視下で消費又は投与されるように処方されたものであり、認められた科学的原理に基づく特有の栄養要求量が医学的評価によって確立されている疾患又は症状に対する特定の食事療法に用いることを意図した、食品を意味する。
【0170】
動物飼料へのプロバイオティック微生物の添加が、動物の効率及び健康を向上させ得ることも確立された。具体例としては、米国特許第5,529,793号及び同5,534,271号に記述されたように、体重増加/飼料摂取比(飼料効率)の増加、1日の平均体重増加の向上、乳量の向上、及び乳牛による乳組成の向上が挙げられる。米国特許第7,063,836号に報告されたように、プロバイオティック生物の投与は、ウシにおける病原体の発生率も低下させることができる。
【0171】
したがって、別の一実施形態によれば、本明細書に記載のプロバイオティック組成物を動物飼料に添加することができる。
【0172】
一実施形態においては、プロバイオティック組成物は、下痢の発生率と重症度の低下及び/又は健康全般を考慮し、給餌期間を通じて、第一胃内、盲腸内又は腸内の細菌(fermentor)へ連続的又は周期的に投与するように設計する。この実施形態においては、プロバイオティック組成物を動物の第一胃、盲腸及び/又は腸に導入することができる。
【0173】
更に別の一実施形態においては、本明細書に記載のプロバイオティック組成物を医薬品又は組成物に加える。医薬組成物は、予防又は治療に有効な量の本明細書に記載の組成物と、一般には、1種以上の(以下で考察する)薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む。
【0174】
本開示は、本明細書に記載の細菌組成物の処方を企図し、一部の実施形態においてそれは、粉末化、錠剤化、カプセル化されるか、又は経口投与用に処方されるものである。組成物は、医薬組成物、機能性食品組成物(例えば、栄養補助食品)、又は米国食品医薬品局によって定義された、食品若しくは飲料用の添加剤として提供することができる。上記組成物の剤形は、特に制限されない。例えば、溶液剤、懸濁液剤、乳濁液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、散剤、坐剤、リポソーム剤、微粒子剤、マイクロカプセル剤、無菌等張性水性緩衝液剤などがすべて適切な剤形として企図される。
【0175】
組成物は、一般に、1種以上の適切な希釈剤、充填剤、塩、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤、湿潤剤、制御放出マトリックス、着色剤、香味剤、担体、賦形剤、バッファー、安定剤、可溶化剤、市販アジュバント、及び/又は当該技術分野で既知の他の添加剤を含む。
【0176】
医薬ビヒクル、賦形剤又は媒体として機能する、任意の薬学的に許容される(すなわち、当該技術分野で知られている、無菌且つ無毒であると許容することのできる)液状、半固体状又は固体状の希釈剤を使用することができる。例示的な希釈剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、鉱油、カカオバター、及びカカオ脂、メチル及びプロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、アルギナート、炭水化物、特にマンニトール、アルファラクトース、無水ラクトース、セルロース、スクロース、デキストロース、ソルビトール、改質デキストラン、アラビアゴム、並びにデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0177】
薬学的に許容される充填剤としては、例えば、ラクトース、微結晶セルロース、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、硫酸カルシウム、デキストロース、マンニトール及び/又はスクロースが挙げられる。三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化ナトリウムを含めた塩を、医薬組成物の充填剤として使用することもできる。
【0178】
結合剤を使用して組成物をまとめて、硬質錠剤を形成することができる。例示的な結合剤としては、アラビアゴム、トラガカント、デンプン、ゼラチンなどの有機生成物由来の材料が挙げられる。他の適切な結合剤としては、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。
【0179】
一部の実施形態において強化食品は、体による1種又は複数種の吸着性天然物の吸収を増加させる作用を有する、生物学的利用能向上剤をさらに含む。生物学的利用能向上剤は、天然又は合成化合物とすることができる。一実施形態においては、本明細書に記載の組成物を含む強化食品は、1種又は複数種の生理活性天然物の生物学的利用能を高めるために、1種以上の生物学的利用能向上剤を更に含む。
【0180】
天然の生物学的利用能向上剤としては、ショウガ、キャラウェイ抽出物、コショウ抽出物及びキトサンが挙げられる。ショウガ中の活性化合物としては、6-ジンゲロール及び6-ショウガオールが挙げられる。キャラウェイ油を生物学的利用能向上剤として使用することもできる(米国特許出願公開第2003/022838号)。ピペリンは、生物学的利用能向上剤として作用するコショウ由来の化合物(Piper nigrum又はPiper longum)である(米国特許第5,744,161号参照)。ピペリンは、商品名Bioperine(登録商標)(ニュージャージー州、ピスカタウェイ、Sabinsa Corp.製)で商業的に入手可能である。一部の実施形態においては、天然の生物学的利用能向上剤は、強化食品の総重量に対して約0.02重量%~約0.6重量%の量で存在する。
【0181】
適切な合成生物学的利用能向上剤の例としては、PEGエステルで構成された界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。このような界面活性剤としては、商品名Gelucire(登録商標)、Labrafil(登録商標)、Labrasol(登録商標)、Lauroglycol(登録商標)、Pleurol Oleique(登録商標)(ニュージャージー州、パラマス、Gattefosse Corp.製)及びCapmul(登録商標)(オハイオ州、コロンバス、Abitec Corp.製)として市販されるものなどが挙げられる。
【0182】
組成物の量及び投与計画は、投与の目的に関連する種々の因子、例えば、ヒト若しくは動物の年齢、性別、体重、ホルモンレベル、又はヒト若しくは動物の栄養必要量に基づく。一部の実施形態においては、組成物を哺乳動物対象に対して、約0.001mg/kg体重~約1g/kg体重の量で投与する。
【0183】
典型的な投薬計画は、組成物の複数回投与を含むことができる。一実施形態においては、組成物を1日1回投与する。組成物は、個体にいつでも投与することができる。一部の実施形態においては、組成物を食事の摂取と同時に、又は摂取前に、又は摂取時に投与する。
【0184】
一部の実施形態においては、本発明の本態様の細菌組成物は、農産物用として処方される。細菌組成物は、土壌、植物成長培地などの農業用担体に添加することができる。使用することができる他の農業用担体としては、肥料、植物油、保水剤又はこれらの組合せが挙げられる。あるいは、農業用担体は、珪藻土、ローム、シリカ、アルギナート、クレイ、ベントナイト、バーミキュライト、さく(seed case)、他の植物及び動物生成物などの固体、又は顆粒、ペレット若しくは懸濁物を含めた組合せとすることができる。上記成分のいずれかの混合物もローム、砂又はクレイ中のペスタ(pesta)(小麦粉及びカオリンクレイ)、寒天又は小麦粉ベースのペレットなど、ただしこれらに限定されない担体として企図される。製剤は、オオムギ、米、又は種、葉、根、植物要素、サトウキビバガス、穀物加工からの外皮若しくは柄、建築現場廃棄物からの粉砕植物材料若しくは木、紙、織物若しくは木のリサイクリングからのおがくず若しくは小繊維などの他の生物学的材料などの培養生物の食物源を含むことができる。他の適切な製剤も当業者には既知であろう。
【0185】
一実施形態においては、農業用処方は肥料を含む。好ましくは、肥料は、細菌組成物の生存率を20%、30%、40%、50%以上に低下させないものである。
【0186】
場合によっては、農業用処方は、除草剤、殺線虫剤、殺虫剤、植物成長調整剤、殺鼠剤、栄養素などの薬剤を含むことが有利である。こうした薬剤は、理想的には、製剤を適用する植物に適合したものである(例えば、植物の成長又は健康に有害であってはならない)。さらに、薬剤は、理想的には、ヒト、動物又は工業用途において、安全性に関する懸念を生じないものである(例えば、安全性の問題がない、又は化合物が十分に不安定であり、植物に由来する植物製品に含まれる化合物量は無視できる量である)。
【0187】
本発明のバイオフィルムを含む農業用処方は、本発明のバイオフィルムに取り込まれた有益な細菌集団を、バイオフィルムの湿重量に対して、一般に、約0.1~95重量%、例えば、約1%~90%、約3%~75%、約5%~60%、約10%~50%含む。製剤は、処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞、処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞、処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞、処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞、処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞、又は処方1ml当たり少なくとも約10CFU若しくは芽胞を含むことが好ましい。
【0188】
本発明者らは、本開示の農業用組成物が、植物の成長を促進する薬剤を更に含む製品に含まれ得ることも企図する。
【0189】
薬剤は、バイオフィルムと一緒に単一の組成物中に処方することができる。又は、別々ではあるが単一の容器に包装することができる。
【0190】
適切な薬剤については上述した。他の適切な薬剤としては、以下に更に記述するように、肥料、殺虫剤(除草剤、抗線虫薬、殺真菌剤及び/又は殺虫剤)、植物成長調整剤、殺鼠剤及び栄養素が挙げられる。
【0191】
一実施形態においては、植物の成長を促進する薬剤は、抗菌活性がない。
【0192】
本明細書で使用する「約」は、±10%を指す。
【0193】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0194】
「からなる」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0195】
「から実質的になる」という用語は、組成物、方法又は構造が追加の成分、工程及び/又は部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程及び/又は部分が、請求項に記載の組成物、方法又は構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0196】
本明細書において、単数形を表す「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数をも対象とする。例えば、「化合物(a compound)」又は「少なくとも1種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、これらの混合物をも含み得る。
【0197】
本願全体を通して、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性及び簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、及びその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6といった範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5及び6も具体的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0198】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは常に示す範囲内の任意の引用数(分数又は整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数及び第2の指示数と、これらの間の分数及び整数の全部を含むことを意図する。
【0199】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学及び医療の各分野の従事者に既知のもの、又は既知の様式、手段、技術及び手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0200】
異常な活性、疾病又は病態と関連して本明細書で使用する「治療する」という用語は、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延又は逆転、病態の臨床的又は審美的な症状の実質的な寛解、あるいは病態の臨床的又は審美的な症状の悪化の実質的な予防を含む。
【0201】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、又は任意の好適な部分的な組み合わせ、又は適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。さまざまな実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0202】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態及び態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例
【0203】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する、以下の実施例に参照する。
【0204】
一般に、本明細書で使用する命名法及び本発明で利用する実験手順は、分子的技術、生化学的技術、微生物学的技術及び組換えDNA技術を含む。こうした技術は、文献に十分に説明されている。例えば、「Molecular Cloning: A laboratory Manual」Sambrook et al., (1989);「Current Protocols in Molecular Biology」Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994);Ausubel et al., 「Current Protocols in Molecular Biology」, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989);Perbal, 「A Practical Guide to Molecular Cloning」, John Wiley & Sons, New York (1988);Watson et al., 「Recombinant DNA」, Scientific American Books, New York;Birren et al. (eds) 「Genome Analysis: A Laboratory Manual Series」, Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998);米国特許第4,666,828号、同4,683,202号、同4,801,531号、同5,192,659号及び同5,272,057号に記載の方法;「Cell Biology: A Laboratory Handbook」, Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994);「Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique」by Freshney, Wiley-Liss, N. Y. (1994), Third Edition;「Current Protocols in Immunology」Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994);Stites et al. (eds), 「Basic and Clinical Immunology」(8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994);Mishell and Shiigi (eds), 「Selected Methods in Cellular Immunology」, W. H. Freeman and Co., New York (1980)を参照されたい。利用可能な免疫測定法は、特許及び科学文献に広範に記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号、同3,839,153号、同3,850,752号、同3,850,578号、同3,853,987号、同3,867,517号、同3,879,262号、同3,901,654号、同3,935,074号、同3,984,533号、同3,996,345号、同4,034,074号、同4,098,876号、同4,879,219号、同5,011,771号及び同5,281,521号、「Oligonucleotide Synthesis」Gait, M. J., ed. (1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985);「Transcription and Translation」Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1984);「Animal Cell Culture」Freshney, R. I., ed. (1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press, (1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal, B., (1984) and 「Methods in Enzymology」Vol. 1-317, Academic Press;「PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications」, Academic Press, San Diego, CA (1990);Marshak et al., 「Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual」CSHL Press (1996)を参照されたい。これらすべてを本明細書に完全に記載されたが如く参照により本明細書に援用する。他の一般的な参考文献がこの文書全体を通して提供される。その中の手順は、当該技術分野でよく知られていると考えられ、読者の便宜のために提供される。その中に含まれるすべての情報を参照により本明細書に援用する。
【実施例1】
【0205】
バイオフィルムの形成
材料及び方法
株及び増殖条件: この研究に使用したプロバイオティック菌株はLactobacillus plantarumであった。この株を常法に従ってMRS(Man、Rogosa&Sharpe)ブロス、又は1.5%の寒天を用いて固化したMRSブロス(Difco(商標))で増殖させる。Bacillus subtilisの野性株であるNCIB3610及びその誘導体は、一般に、LB培地(1リットル当たり10gのトリプトン、5gの酵母エキス、5gのNaCl)のブロス又は1.5%の寒天で固化したLB培地中で培養する。これらの使用の前に、L. plantarum及びB. subtilisを硬質寒天板上でそれぞれ48時間又は終夜、どちらも37℃で増殖させた。各株のスターターカルチャーを単一の細菌コロニーを用いて調製し、L. plantarumは5mL MRSブロスに接種し、8時間、撹拌なしで培養、B. subtilisはLB培地に接種し、5時間、37℃、150rpmでOD600が約1.5に達するまで培養した。共培養実験では、pH7のMRS培地を使用した。というのは、それが、B. subtilisによるバイオフィルム形成を促進するのに有効であり、B. subtilisとプロバイオティック乳酸菌(LAB)の共培養に適切であることが判明したからである。B. subtilis細胞を等量のL. plantarum細胞と混合して、各株の最終濃度を10細胞/mLとし、次いでMRS培地 pH7で1:100に希釈した。混合培養中の細胞を好気的に37℃、50rpmで7~8時間インキュベートした。
【0206】
B. subtilisの単一種バイオフィルムを、MRS(Hy-lab)培地、又はLB培地を種々の比(1:5、1:2、5:1)で添加したMRS培地を用い、30℃で生成した。Bacillus株がバイオフィルムを形成する最適条件を決定するために、MRS培地のpHを1M NaOHを用いて6から8に徐々に上昇させた。この研究に使用したすべての株を表2に示す。これらは、別段の記載がない限り、同質遺伝子型である。
【0207】
【表2】
【0208】
コロニー及びペリクルバイオフィルム形成の分析: コロニー構造の分析では、スターターカルチャー3μLをMRS寒天板又は対照LB培地上に滴下し、30℃で72時間インキュベートした。ペリクル形成の分析では、スターターカルチャーを12ウェルプレート中でMRSブロス又は対照LB培地3.5mLに1:100に希釈し、撹拌せずに30℃で48時間インキュベートした。画像をaxiocam ERc5sカメラを備えたZeiss Stemi2000-C顕微鏡(ドイツ、Zeiss社製)で撮影した。
【0209】
β-ガラクトシダーゼ分析: 細胞を、LB培地、MRS培地を種々の比(1:1、1:5及び5:1)で添加したLB培地、又はpH7に調節したMRS培地のいずれかの固形培地上で30℃で増殖させたコロニーから回収し、リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液に再懸濁した。バイオフィルムコロニー中の典型的な束ねられた長い細胞鎖を軽い超音波処理によって破壊した。細胞試料の光学濃度(OD)は、OD600でPBSを1.0として正規化した。細菌細胞懸濁液1ミリリットルを回収し、標準手順に従って分析した。
【0210】
共培養で増殖中のL. plantarumの増殖曲線分析: B. subtilis及びL. plantarumの終夜培養物をそれぞれLB培地又はMRS培地中で定常期まで増殖させ、pHの高い(最高7)改変MRSブロス25mLで1:100に希釈した。上述したように生成させた共培養試料を好気条件で37℃、150rpmで8時間増殖させた。B. subtilis及びL. plantarumの単一種培養物も調製し、対照試料として使用した。毎時、コロニー形成単位(CFU)カウント法による微生物カウントのために1mLを各培養物から回収した。CFUカウント法は、PBSバッファーを用いて適切な希釈物を作製し、これらをMRS寒天上で培養することによって実施した。プレートを好気的に37℃で48時間インキュベートした。
【0211】
バイオフィルム形成細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡法(CLSM)による可視化: GFPを抑制するB. subtilis(YC161)又はCFPを抑制するB. subtilis(YC189)と一緒に、L. plantarum細胞を改変MRSブロス中で上述したように共培養により増殖させた。単一種培養物として増殖させた各細菌の細胞懸濁液を対照試料とした。各培養物1ミリリットルを回収し、5000rpmで2分間遠心分離した。上清を除去後、細胞をPBSバッファー1mLで洗浄し、次いで遠心分離(5000rpm2分間)後、同じバッファー100μlに再懸濁させた。各試料の5μlを顕微鏡用スライドガラス上に置き、透過光顕微鏡でノマルスキー微分干渉(DIC)を用いて可視化した。
【0212】
走査型電子顕微鏡(SEM)による分析: 上述したように増殖させた共培養細胞をポリリジン被覆スライドガラス上に終夜置いた。その後、スライドガラスをDDWで2回洗浄して、未結合の細胞及び培地の残りを除去した。スライドを4%ホルムアルデヒド40μlに暴露し、15分間室温でインキュベートした。スライドガラスをDDWで再度洗浄し、SEMで分析した。
【0213】
冷熱処理後の生存率の分析: 上述したように生成した共培養試料を好気的に37℃及び50rpmで7~8時間増殖させた。単一培養物として増殖させたL. plantarum細胞を対照として使用した。試料を冷熱処理などの負荷試験に付した。試料を処理前後に採取し、超音波処理して、バイオフィルムの束を破壊し(時間:20秒、パルス:10秒、休止:5秒、Amp:30%)、MRS寒天板上でCFUカウントを行った。
【0214】
インビトロ消化系内における移行時のL. plantarum生存率の分析: 胃腸管における移行中のL. plantarumの生存能を調べるために、L. plantarumの単一培養物及びB. subtilis細胞との共培養物の試料をインビトロ消化モデルを用いて4時間モニターした(Minekus et al., 2014)。消化の胃相をシミュレートするために、各試料の懸濁液の5mL等量を模擬胃液(SGF)と最終体積10mLとなるまで1:1で混合した。ブタのペプシン(SIGMA P9700)を最終消化混合物中で2000UmL-1となるように添加し、続いてCaClを添加して最終消化混合物中で0.075mMとした。pHを1M HClで3.0に低下させ、試料を磁気撹拌機を備えた水浴に37℃で2時間静置した。各試料を2つのチューブに分けて、各5mLとした。PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド、SIGMA P7626)50μlを一方のチューブに添加して、反応を停止し、次いでL. plantarumの生存能を調べた。他方のチューブを次の消化相、すなわち腸として使用した。消化の腸相をシミュレートするために、胃糜粥2.5mLを模擬腸液(SIF)と1:1で混合して、最終体積を5mL以下とした。1M NaOHを添加して、混合物をpH7.0に中和し、最終混合物が以下の活性を示すように膵酵素を消化混合物に添加した:ブタトリプシン(SIGMA T0303)(100UmL-1)、ウシキモトリプシン(SIGMA C4129)(25UmL-1)、ブタ膵αアミラーゼ(SIGMA A3176)(200UmL-1)、ブタ膵リパーゼ(SIGAM L3126)(2000UmL-1)。さらに、胆汁酸塩(SIGMA T4009)を、最終混合物における最終濃度が10mMとなるように添加し、次いで試料を再度2.5時間インキュベートした。各試料の1ミリリットルを胃相及び腸相後に回収し、生存しているL. plantarum細胞の数を上述したようにCFUカウント法で測定した。
【0215】
結果
共培養におけるB. subtilisとL. plantarumの相互増殖用システムの開発
バイオフィルムは、細胞外基質の産生によって、種々の好ましくない環境条件に対して高い耐性を示すことが以前に示されている(Friedman, Kolter, & Branda, 2005)。したがって、本発明者らは、堅牢なバイオフィルムを形成する細菌であるB. subtilisによって産生される細胞外基質が、共培養バイオフィルム系中で、プロバイオティック細菌などの他の種に対して強化された保護を提供し得ると仮定した。このために、L. plantarumとB. subtilisとを共培養で増殖することができる専用培地を開発した。MRS培地のpHをpH7に変更することによって、これらの細菌を共培養で増殖できることを見いだした。図13に示すように、共培養は、L. plantarum及びB. subtilisの増殖に影響せず(純粋培養におけるこれらの増殖に比べて)、これらの細菌間で所与の条件において拮抗的な相互作用がないことを示している。驚くべきことに、MRS培地の改変はB. subtilisによる強力なバイオフィルム形成を促進することを見いだした(図2)。B. subtilisは酸性pHに対して感受性が高いと思われるので、Bacillus増殖に適したpH値を見つけるために、共培養に使用するMRS培地のpHを徐々に上昇させた。pHを6から8に増加させると、コロニーとペリクルバイオフィルムの両方のバイオフィルム表現型の堅牢性がそれに比例して増加した(図2)。pHを6に調節すると、固体MRS培地上で弱い増殖が見られ、液体培地中では増殖しなかった。pHを6.5に調節すると、固体と液体の両方のMRS培地における細菌増殖が観察されただけでなく、驚くべきことに、固形培地上のバイオフィルム形成の開始も観察された。pHを7及び8に増加させると、両方の増殖構成で極めて堅牢なバイオフィルム表現型が観察された。次に、B. subtilisの増殖速度をpH7のMRS培地と、LB培地とで比較した。図13に見られるように、MRS培地においては、微生物増殖の最初にLB培地よりも小さな遅延が認められた。しかし、MRS培地中でのB. subtilis細胞については、その後にLB培地よりも高い速度の増殖が認められた。
【0216】
改変MRS培地は、バイオフィルム形成及びKinD-Spo0A経路を介した基質遺伝子発現を促進する
バイオフィルム発生及び基質遺伝子発現を促進するMRS培地の可能性を評価するために、(B. subtilisの培養に通常使用する)LB培地に、種々の量のMRS培地(1:1、1:5及び5:1)を添加した。バイオフィルム表現型とMRS培地濃度の増加との正比例相関が示された(図3)。tapAオペロン及びepsオペロンを用いるB. subtilisによる基質遺伝子の発現に対する、MRS培地濃度増加の効果についても調べた。というのは、上記オペロンの生成物が細胞外基質の主成分であるからである。tapAの発現はLB培地中のMRS培地濃度に比例して増加することを見いだした(図4A~B)。epsの発現は、最高80%MRS培地までMRS培地の濃度に比例して増加し、100%で発現の減少を検出した(図5A~B)。
【0217】
次に、本発明者らは、B. subtilisについて既報のKin-Spo0A経路を介してMRS培地がバイオフィルム形成を誘発するかどうかを判定した(Shemesh and Chai, 2013 Journal of Bacteriology, 2013, Vol 195, No.12 pages 2747-2754)。彼らは、種々のB. subtilis変異体によるバイオフィルム形成(ΔkinA、ΔkinB、ΔkinC、ΔkinD、ΔkinE、ΔkinAB、ΔkinCD、Δspo0A、ΔepsΔtasA)又はバイオフィルムの過剰産生(ΔabrB)について試験した。まず、バイオフィルム形成を誘導する環境シグナルの感知を担うヒスチジンキナーゼが欠乏した変異体のバイオフィルム表現型を決定した。いずれかのキナーゼの単一変異体はバイオフィルム表現型の重要な欠損を示さないが、ΔkinC及びΔkinD変異体が対照に比べてバイオフィルム形成のわずかな減少を示すことを見いだした(図14)。しかし、ΔkinCD二重変異体は、バイオフィルム表現型が全く消滅した(図5A)。一方、ΔkinABの二重変異はバイオフィルム形成を防止しないが、バイオフィルム表現型に何らかの変化が認められた(コロニー型バイオフィルムの場合)。主要転写制御因子spo0Aの変異並びにeps及びtasAの二重変異は、バイオフィルム形成を十分に消滅させた(図5A)。転写抑制因子ΔabrBの変異は、対照WT細胞に比べて、バイオフィルム形成の更なる増加を生じることはなかった(図5B)。この結果は、改変MRS培地におけるB. subtilisWT細胞の増殖中の基質産生の劇的な増加を再度強調するものである。
【0218】
MRS培地のバイオフィルム促進効果がBacillus種間で保存されるかどうかを調べるために、別のB. subtilis株及び別のBacillus種を試験した。しわの寄ったコロニー(図6)及び堅牢な浮遊ペリクル(図7)によって判断したところ、バイオフィルム促進効果が見られた。
【0219】
B. subtilisとL. plantarumの共培養増殖は、二重種バイオフィルム発生という結果になる
改変MRS培地を使用して、GFPを恒常的に発現する蛍光標識B. subtilis細胞(YC161)をL. plantarum細胞と一緒に共培養することによって、二重種バイオフィルムを調べた。生成したバイオフィルムをCLSMを用いて可視化した。図8A(上段)に見られるように、生成したバイオフィルムは、蛍光細胞と非蛍光細胞の両方からなった。L. plantarum細胞は、互いに結合してバイオフィルム関連構造(束)を形成するB. subtilis細胞で包囲された。これは更に図8Bで説明する。図8Bは、LBGM培地中のB. subtilisとL. plantarumの共培養バイオフィルムを示す。
【0220】
B. subtilisにおけるバイオフィルム形成は細胞外基質の合成に依存するので、本発明者らは、細胞外基質の産生が二重種バイオフィルム発生中に起こるかどうか判定しようとした。形成されたバイオフィルムにおける基質遺伝子発現レベルを、既述のように(Shemesh, Kolter, & Losick, 2010, J Bacteriol 192, 6352-6356)、tapA-sipW-tasA(B. subtilisにおけるバイオフィルム基質タンパク質成分の合成を担うオペロン)のプロモーターとシアン蛍光タンパク質をコードするcfp遺伝子(YC189)の転写融合(PtapA-cfp)を利用して分析した。注目すべきCFP発現が観察され、tapA-sipW-tasAオペロンが活性化され、したがって基質産生が二重種バイオフィルムにおいて誘導されることが示された(図8A~B、下段)。L. plantarum細胞がB. subtilisバイオフィルム形成に由来する細胞外重合物質で包囲され得るかどうかを判定するために、二重種バイオフィルムをSEMで分析した(図9A~C)。得られた画像(図9C)は、バイオフィルムの3次元不均一構造の形成を示し、L. plantarum細胞がB. subtilisによって産生される細胞外基質に取り込まれるように見えた。重要なことには、単一培養形態として増殖されたB. subtilis細胞も同質構造で特徴づけられるバイオフィルムを形成し、細胞の長いフィラメントが細胞外基質によって連結される(図9A)。それに対して、L. plantarum細胞は、注目すべきバイオフィルムを単一種培養で形成できなかった。上記観察によれば、B. subtilis細胞によって産生される細胞外基質は、L. plantarum細胞と共有することができ、したがって環境ストレスに対してこれらを保護することができる。
【0221】
二重種バイオフィルムは、厳しい環境におけるL. plantarumの生存を容易にする
共培養バイオフィルムにおいてB. subtilisによって産生される基質が好ましくない環境条件に対してL. plantarumを防御し得るかどうか判定するために、熱処理中(低温殺菌などの工業処理をシミュレートした条件)及び冷却中(貯蔵条件をシミュレートした条件)のL. plantarum細胞の生存を試験した。熱処理低温殺菌では、共培養バイオフィルム中で増殖したL. plantarum細胞を63℃で1分間及び3分間の加熱にさらした。冷却処理では、共培養バイオフィルム中で増殖したL. plantarum細胞を最高21日間4℃で貯蔵した。単一種培養で増殖したL. plantarum細胞を対照として使用した。1分間及び3分間の熱処理後、共培養バイオフィルム中で増殖したL. plantarum細胞は、対照と比較して、生L. plantarum細胞数がそれぞれ約1.25LogCFU/mL及び1.06LogCFU/mL増加した(図10A~B)。さらに、冷却処理実験の結果によれば、共培養バイオフィルム中で増殖したL. plantarum細胞は、貯蔵条件を通じてはるかに良好に保護され、これらの生存率が約0.44~0.89LogCFU/mL増加した(図10A~B)。
【0222】
二重種バイオフィルムの形成中に産生される細胞外基質は、熱処理中のL. plantarumの生存を容易にする
好ましくない環境条件に対するL. plantarumの耐性の増加が細胞外基質によって促進されることを更に証明するために、L. plantarumとB. subtilis変異株(バイオフィルム形成が欠乏したもの(ΔepsΔtasA)又はバイオフィルム基質を過剰産生するもの(ΔabrB))との共培養物を作製した。共培養物を熱処理低温殺菌に供した。単一種培養及び野生型B. subtilisとの共培養で増殖させたL. plantarum細胞を対照として使用した。図11Aに示すように、ΔepsΔtasA二重変異体の細胞と一緒に増殖したL. plantarum細胞は、単一種培養で増殖したL. plantarumと比較して、生存レベルに有意差がなかった。しかし、野生型B. subtilisとの共培養で増殖させたL. plantarum細胞の生存率には有意な増加が認められた。興味深いことに、単一培養で増殖したL. plantarumの生存率に比べて、ΔabrB変異体細胞の存在下で増殖させたL. plantarum細胞の生存率には、約1.78LogCFU/mLの増加が認められた。
【0223】
別の実験では、試料を牛乳培地中で18時間30℃、20rpmで増殖させた。その後、これらを63℃で1~3分間熱処理した。対照試料については熱処理しなかった。L. plantarumの生細胞数をCFU法によって測定した。*p<0.05。図11Bに示すように、B. subtilisバイオフィルムは、牛乳培地中で加熱時のL. plantarumの生存を容易にする。
【0224】
二重種バイオフィルムの形成中に産生される細胞外基質は、ヒト消化系に似た条件下でL. plantarumの生存を容易にする
胃腸管を移行中のL. plantarumの生存能を調べるために、L. plantarum細胞の生存率をインビトロ消化モデルを用いて調べた(図12)。シミュレートした胃の条件で2時間インキュベーション後、単一培養L. plantarum細胞に比べて約0.86LogCFU/mLの生細胞濃度の増加が、B. subtilisと一緒に共培養バイオフィルム中で増殖したL. plantarum細胞で認められた。その後、シミュレートした腸の条件下で細胞を2時間インキュベーションし、遊離L. plantarum生細胞に比べて、約0.9LogCFU/mLの生細胞濃度の増加が、バイオフィルムで保護されたL. plantarum細胞で認められた。
【実施例2】
【0225】
アセトインはバイオフィルム形成を促進する
食品は、しばしば、製品の官能特性及び感覚受容性を改善し得る種々の食品添加物を多く含む。これらの添加剤には、種々の食品の風味を改善し得るアセトインなどの重要な小分子が含まれる。アセトインは、天然に広く存在する中性分子である。幾つかの微生物、高等植物、昆虫及び高等動物は、アセトインを合成する能力を有する。これらの添加剤は、ヒトの健康に関連する多数の細菌の生理に影響を及ぼし、バイオフィルムとして知られる、細菌細胞の多細胞集団の発生に影響を及ぼす可能性がある。バイオフィルム形成は、構成細胞を一緒に保持する細胞外基質の合成に依存する。プレバイオティクス細菌であるBacillus subtilisにおいては、基質は、2種の主成分、すなわち、epsA-Oオペロンの産物によって合成される菌体外多糖、及びtapA-sipW-tasAオペロンによってコードされるアミロイド線維を有する。
【0226】
結果
図15A~Cに示すように、アセトインは、Bacillus subtilisにおいてバイオフィルム束形成を誘発する。アセトインの非存在下では、LB培地中で増殖するとバイオフィルム形成が認められない(図15A)。図16A~Bは、Bacillus subtilisにおいてアセトインがコロニー型バイオフィルム形成を誘発することを示す。B. subtilisにおける基質産生を担うtapAオペロンの転写は、アセトインによって高度に上方制御されることが示された(図17A~D)。
【0227】
これらの結果によれば、B. subtilisの細胞は、アセトインの存在下で増殖中に複雑な束に発達する。細胞は、バイオフィルム形成に重要であるアセトインに反応して、高レベルの細胞外基質成分を発現する。
【実施例3】
【0228】
この実験の目的は、(土壌から単離された)NCIB3610及び(酪農環境から単離された)127185/2が、共培養系における増殖中に、厳しい環境下でL. plantarumを保護するの能力を試験することである。
【0229】
材料及び方法
B. subtilisとL. plantarumの共培養系に対して選択された増殖培地は、改変(pH調節)MRS培地であった。
【0230】
バイオフィルム形成の特性分析を、(コロニーは)実体顕微鏡又は(束型のバイオフィルムは)共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて行った。
【0231】
消化管の移行インビトロモデルにおいてB. subtilisとの共培養バイオフィルム中で増殖し、低pHにさらされたL. plantarumの生存率を調べる実験を、上述したように、CFU法を用いて行った。
【0232】
結果
図18A~Bは、それぞれB. subtilis株NCIB3610及び127185/2から生成するバイオフィルムを示す写真である。
【0233】
NCIB3610との共培養で生存するL. plantarumのカウントは、単一培養で増殖したL. plantarumより高かった。この効果は、培養物を振盪すると増強された(図19)。さらに、酸性条件下でNCIB3610又は127185/2との共培養で生存したL. plantarumの数は、同じ条件で増殖した単一培養の30倍であった(図20)。
【実施例4】
【0234】
バイオフィルム発生の誘発に重要なMRS培地の成分を解明するために、B. subtilisによるコロニー型バイオフィルム形成に関与する以下の成分の寄与について分析した:Mg2+、Mn2+、酢酸ナトリウム、リン酸二カリウム、デキストロース、クエン酸アンモニウム。興味深いことに、最も不完全なバイオフィルム表現型がMn2+の非存在下で認められた。B. subtilisは、Mn2+が添加されないMRS培地上で、成長したペリクル及びコロニー型バイオフィルムを形成することができなかった(図21)。注目すべきことに、デキストロースの非存在下で生成したバイオフィルムは幾らかの阻害を示し、しわの寄った表現型であったが、Mn2+の非存在下で生成したものは完全に平坦であった(図21)。これらの結果から、MRS培地中のMn2+の存在がB. subtilisによるバイオフィルム発生に最も重要であると結論づけた。
【0235】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正及び変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修正及び変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0236】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許及び特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別の参照により本明細書に組み込む場合と同程度に、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用又は特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21