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  • 特許-透過菊池回折パターンの改良方法 図1
  • 特許-透過菊池回折パターンの改良方法 図2
  • 特許-透過菊池回折パターンの改良方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】透過菊池回折パターンの改良方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20230216BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230216BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230216BHJP
   G01N 23/205 20180101ALI20230216BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20230216BHJP
【FI】
H01J37/22 501Z
H01J37/22 502H
H01J37/244
H01J37/28 C
G01N23/205
G01N23/2055 310
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020199270
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2021097039
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】19216196
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515222687
【氏名又は名称】ブルーカー ナノ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO GMBH
【住所又は居所原語表記】Am Studio 2 D, 12489 Berlin (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュワッガー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ラドゥ ゴラン
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6555817(US,B1)
【文献】特開2006-292764(JP,A)
【文献】特許第7187685(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/217297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/244
H01J 37/28
G01N 23/205
G01N 23/2055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過菊池回折、TKDパターンを改良する方法であって、
電子顕微鏡(60)内のサンプル(12)のTKDパターン(20b)を検出する工程であって、前記電子顕微鏡(60)は、前記サンプル(12)上に電子ビーム(80)をz方向に関して収束させる少なくとも1つのアクティブ電子レンズ(61)を含み、前記サンプル(12)は、電子レンズ(61)の下方に距離Dをもって配置され、検出されたTKDパターン(20b)は複数の像点xD、yDを含んでいる工程、
前記像点xD、yDのそれぞれを、座標x0、y0を有する改良されたTKDパターン(20a)に、次式
【数60】

および次式
【数61】

の形式を有している一般化項を用いてマッピングする工程、
(ここで、次式
【数62】
が成立し、式中Zは前記電子レンズ(61)の円筒対称磁場BZのz軸方向におけるサンプルの下方への延伸量であり、前記B Z は任意のz>Zにおいてゼロの磁場を有し、A、B、C、Dは座標x0、y0に依存する三角関係式であり、式中BおよびDは前記磁場BZの対称軸の周囲の回転を定義し、AおよびCは前記磁場BZの対称軸に対する回転と収縮の複合操作を定義している)
を含み、
前記三角関係式Aは次式
【数63】
であり、前記三角関係式Bは次式
【数64】
であり、前記三角関係式Cは次式
【数65】
であり、前記三角関係式Dは次式
【数66】
であり、
前記三角関係式A、B、C、およびDの各々の中の因子φが、次式
【数67】
(式中、rは対称軸からの改良された像点x o ,y o の水平距離を表す)
であり、
前記三角関係式A、B、CおよびDの各々は、さらに次式
【数68】

(式中、ωは磁場B Z の角周波数を表し、vは、前記電子ビーム(80)の電子の速度を表す)
に依存する、方法。
【請求項2】
請求項に記載の方法であって、
アクティブ電子レンズ(61)のない電子顕微鏡(60)の前記較正サンプル(12)の較正TKDパターンを検出する工程であって、当該較正TKDパターンが複数の像点s xC、yCを含んでいる工程、
前記検出されたTKDパターン(20b)に対して、前記一般化項を使用して複数のマッピング操作を実行する工程であって、各マッピング操作が、異なるパラメータのセットγおよびβを使用して実行される工程、
前記各マッピング操作について、出力TKDパターンと前記較正TKDパターンを比較し、当該比較に基づいて1つのパラメータセットγおよびβを決定する工程、および
決定された前記パラメータセットを用いて、改良された前記TKDパターン(20a)を決定する工程、
をさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項に記載の方法であって、前記比較が、
前記出力TKDパターンと前記較正TKDパターンのそれぞれの画像相関を実行する工程、および
最高度の画像相関を提供する1つのパラメータセットを決定する工程
によって実行される、方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法であって、
前記検出された回折パターン(20b)から複数の回折バンド(21b)を決定する工程であって、当該回折バンド(21b)は、複数の像点xD KB、yD KBを含む工程、
前記改良された回折パターンから、複数の像点x0 KB、y0 KBを含む、複数の対応する回折バンドを決定する工程、
前記回折バンドと前記対応する回折バンドを比較する工程、
前記比較に基づいて、1つのパラメータセットγおよびβを決定する工程、および
決定された前記パラメータセットを使用して、前記改良されたTKDパターン(20a)を決定する工程、
をさらに含む、方法。
【請求項5】
請求項またはに記載の方法であって、前記比較が、
各出力TKDパターンについて、回折バンドの真直度を決定し、最も真直な回折バンドを提供する1つのパラメータセットを決定する工程、または
各出力TKDパターンおよび前記較正TKDパターンについて、結晶位相情報を決定し、前記較正TKDパターンの結晶位相情報にマッチする1つのパラメータセットを決定する工程、
により実行される、方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法であって、前記磁場がB=(0,0,BZ)であると推定される、方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法であって、前記磁場がB=B(z)であり、任意のz>ZにおいてB=0を満たす、方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法であって、Z<Dである、方法。
【請求項9】
測定システムであって、
少なくとも1つの電子レンズ(61)を有する走査型電子顕微鏡、EM(60)、
前記電子レンズ(61)の下方に距離Dをもって配置されたサンプル(12)のTKDパターンを検出するように構成されたTKD検出器(64)、および
請求項1~のいずれか1項に記載の透過菊池回折(TKD)パターンを改良するための方法を実行するように構成された制御ユニット、
を含む、測定システム。
【請求項10】
請求項に記載の測定システムであって、前記電子レンズ(61)が電子ビーム(80)を前記サンプル(12)上にz方向に関して集束するように構成されている、測定システム。
【請求項11】
コンピュータプログラムであって、当該プログラムが、少なくとも1つの電子レンズ(61)を有する走査型電子顕微鏡EM(60)、および前記電子レンズ(61)と制御ユニットの下方に距離Dをもって配置されたサンプル(12)のTKDパターンを検出するように構成されたTKD検出器(64)を含む測定システムの制御ユニットによって実行された場合に前記測定システムに請求項1~のいずれか1項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項12】
コンピュータ可読媒体であって、少なくとも1つの電子レンズ(61)を有する走査型電子顕微鏡EM(60)、および前記電子レンズ(61)と制御ユニットの下方に距離Dをもって配置されたサンプル(12)のTKDパターンを検出するように構成されたTKD検出器(64)を含む測定システムの制御ユニットによって実行された場合に前記測定システムに請求項1~のいずれか1項に記載の方法を実施させる、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過菊池回折、TKD、技術を用いて得られる菊池パターンの品質を改良させる方法に関する。特に、TKDパターンを得るために使用される電子顕微鏡における電子光学の影響を低減する。本発明は、さらに、本発明に係る方法を実施するための測定システム、および当該方法を実施するためのコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
(技術的背景および先行技術)
エネルギー分散型X線分析(EDS、EDXとも称される)は、一般に使用されるX線分析技術であり、サンプルが入射電子ビームにより励起された後にサンプルにより放射される特徴的なX線に基づいてサンプルの元素構成を特徴づけるためのものである。EDS測定は、一般に電子顕微鏡(EM)内、例えば電子顕微鏡の測定チャンバ内に好適に構成されたEDS検出器を含む走査型電子顕微鏡(SEM)において実施される。EMにおいては、EDS検出器はしばしば電子ビームの伝播方向に関してサンプルの上流側に配置される。
【0003】
結晶配向を測定するための別の分析技術であって、電子顕微鏡に組み込むことが可能なものは、菊池回折である。この技術は、後方散乱菊池回折(BKD)としても知られる電子線後方散乱回折法(EBSD)、または電子線後方散乱回折法(t-EBSD)としても知られる透過菊池回折(TKD)として実施することができる。EBSDにおいては、後方散乱電子は入射電子ビームに垂直な方向から検出されるが、これに対し、TKDにおいては、透過されおよび回折された電子は、入射ビームの方向に向けられた検出器によって検出される。いずれの検出タイプも理論的には任意の結晶材料に適用可能であり、絶対的な結晶配向および位相情報をサブミクロンの空間解像度で与える。
【0004】
一般的に、菊池回折は、結晶材料のサンプル領域の位相の情報、特には結晶構造の情報、例えば体心立方であるか、面心立法であるか、斜方晶であるか等の情報、および結晶構造の空間的配向を得るために利用することができる。菊池回折は、材料中の歪みに関する情報を明らかにすることも可能である。菊池回折においては、後方散乱され、または透過された電子は、サンプル中の周期的な原子格子により、サンプルから出る前にブラッグの条件に従って回折される。
【0005】
TKD/EBSDにおいては、散乱された電子の少なくとも一部が角度依存性の強度分布を有してサンプルから出る。この強度分布が二次元の検出器を用いて検出される場合、図1に示されるような菊池パターン20が検出器の表面にノーモン投影として記録される。ここで、検出器表面に対するサンプル上の入射電子ビームの位置が、いわゆるパターン中心(PC)と称される。そのような菊池パターンの典型的な特徴は、対応する回折結晶面のブラッグ角の2倍の角度幅を有する狭い回折バンド21である。これらのバンドは、検出器を横切る、対応する結晶面のコッセルコーンにより形成されると考えることができる。適切な装置構成があれば、回折バンドは検出器上に直線的に延伸していると近似することができる。
【0006】
そのように検出され、直線的に延伸している回折バンドは、ソース領域内の材料の下層の結晶相および配向に関連付けることができる。理論的には、与えられた菊池パターンで表される結晶配向および相を決定するためには最少で3つのバンドが必要である。菊池パターン中に存在する各バンドを個別にインデックス化することにより、ソース位置における結晶相および配向を明確に決定することができる。サンプルを電子ビームでスキャンし、そのようなスキャンされたサンプル格子の各点における菊池パターンを得ることで、各個別のパターンを分析してTKDマップを得ることができる。
【0007】
しかしながら、菊池パターン中で回折バンドが直線的に延伸していない場合、TKDマップのデータポイントについて、結晶配向および/または相に関して誤った解答が得られたり、解答がまったく得られない可能性がある。菊池バンドの直線的な延伸は、電子顕微鏡内の少なくとも一つの電子光学、特に磁性レンズによって損なわれ得る。電子ビームの走査分解能を改良させる目的で、特定の走査型電子顕微鏡には磁性レンズが意図的に設けられることがある。しかしながら、そのような磁性レンズのために、SEMチャンバ内に残留磁場が存在し、電子の動きを歪めてしまうことがある。結果として、TKDパターンとして測定される電子回折パターンが歪められ、図2に示されるような非線形回折バンドを構成し得る。図2Aに見ることができるように、磁場が無い場合には、歪められていない菊池パターン20aが得られ、これは複数の直線的回折バンド21aから構成される。しかしながら、磁場が存在する場合には、同じ装置構成とサンプルであっても、図2Bに示されるように、複数の曲がった回折バンド20aを有する湾曲した菊池パターン20bを与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服または低減し、電子光学、特に磁場によるTKDパターンの湾曲に関してTKDパターンの品質を改良させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の説明)
請求項1の方法、請求項12の測定システム、請求項14のコンピュータプログラム、および請求項15のコンピュータ可読媒体によって、少なくとも部分的に本発明の目的は解決され、先行技術の欠点は克服される。従属請求項は、それぞれの独立請求項の好ましい実施形態に向けられている。
【0010】
本発明の第一の側面は、透過菊池回折、TKDパターンを改良する方法に関する。ここで、当該改良は特に菊池パターンの高精度のインデックス化を可能にするために菊池パターンを湾曲させないようにすることである。本発明の第一の工程では、サンプルのTKDパターンが検出され、またはTKDパターンに対応する検出シグナルに基づいてTKDパターンが決定される。ここで、TKDパターンは、サンプルの一点に電子ビームの焦点を合わせるように構成された少なくとも一つのアクティブ電子レンズを含む電子顕微鏡において検出される。言い換えれば、電子顕微鏡は、アクティブ走査プロセスを有する走査型電子顕微鏡である。本発明の方法において、サンプルは電子レンズの下に距離Dをもって配され、特に垂直距離Dをもって配される。本開示によれば、検出されたTKDパターンは、二次元のマップであって、複数の像点xD、yDを含んでおり、インデックスDは、本明細書全体を通して検出されたTKDパターンを参照する。さらに好ましくは、検出されたTKDパターンは、複数の像点のそれぞれに割り当てられた少なくとも1つの他の値、例えばグレースケール値などからなる。本発明の方法で検出されたTKDパターンの例を図2Bに示す。
【0011】
本開示の方法の別の工程では、検出されたTKDパターンの各像点xD、yDが改良されたTKDパターンの対応する像点にマッピングされる。言い換えると、検出されたTKDパターンは改良されたTKDにマッピングされる。ここで、改良されたTKDパターンは、座標x、yを有する複数の像点を含んでいる。ここで、改良されたTKDパターンの像点の量は、好ましくは検出されたTKDパターンの像点の量と同一である。検出されたTKDパターンの各像点を改良されたTKDパターンにマッピングすることは、好ましくは例えば次式
【数1】
および次式
【数2】
の形式の一般化項を使用することにより実施される。

ここで、項A、B、C、Dは、座標x、yに依存し、したがって、検出されたTKDパターンの複数の像点のそれぞれについての像点座標xD、yDとx、yとの間の関係を提供する三角関係式を表す。より詳細には、一般化項の逆数が用いられる。さらに、因子は次式
【数3】
であり、前記式中、Zは電子レンズの円筒対称磁場Bのz方向の延伸、すなわち空間的な延長を表す。一般化項は主として、改良された(乱れていない)TKDパターンの各像点を検出された(乱れている)TKDパターンの対応する像点にマッピングするので、本発明の方法では、実際には上記の一般化項の逆数を使用することになる。
【0012】
特に、三角関係式BおよびDは、磁場BZの対称軸を中心とした回転を定義し、三角関係式AおよびCは、磁場BZの対称軸に対する回転と収縮の複合操作を定義する。言い換えると、検出されたTKDパターンの改良には、検出されたTKDパターン、特に検出されたTKDパターンの各像点を回転および/または回転し収縮する工程が含まれる。言い換えれば、改良されたTKDパターンの各像点x0、y0は、回転されおよび/または回転と収縮をされて改良されたTKDパターンの像点にマピングされる、検出されたTKDパターンの対応する像点xD、yDの座標に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明の方法は、電子顕微鏡内の実際の磁場を考慮することなく、回転および/または回転と収縮の幾何学的操作を記述する一般化項を使用して、TKDパターンから電子レンズの磁場の影響を除去することによって、TKDパターンを改良させること、特にTKDパターンを湾曲させないことを可能にする。したがって、本発明の方法は、電子顕微鏡内の磁場を詳細に知ることなく、TKDパターンを改良させるのに十分な結果を提供する。ここで、一般化項は、顕微鏡内の直線的なのTKD装置の幾何学に基づいて導出される。言い換えれば、TKD測定のために直線的な装置を使用することで、一般化項を使用することが可能になる。
【0014】
本発明の方法においてさらに好ましいのは、改良されたTKDパターンが、アクティブ電子レンズのない電子顕微鏡のTKDパターンであることである。言い換えると、検出されたTKDパターンは、少なくとも1つの電子レンズのアクティビティのために電子顕微鏡内に存在する磁場によって乱されているTKDパターンであり、改良されたTKDパターンは、少なくとも1つの電子レンズのアクティビティのために電子顕微鏡内に存在する磁場によって乱されていないTKDパターンである。要約すると、本発明の方法では、実際に検出されたTKDパターンは、一般化項またはその逆数を介して改良されたTKDパターンにマッピングされる。言い換えれば、一般化項の逆数は、検出されたTKDパターンを改良されたTKDパターン上にマッピングするために使用することができる。
【0015】
本開示の方法の好ましい実施形態では、三角関係式A、B、CおよびDの各々は、さらに次式の因子
【数4】
に依存し、ここで、ωは磁場BZの角周波数を示し、vzは電子ビームのz方向における電子の速度を示す。これらの値は、当業者であれば、所与の電子顕微鏡について容易に決定され、したがって、三角関係式は容易に計算される。特に好ましくは、三角関係式A、B、CおよびDは、像点の座標と因子φにのみ依存する。したがって、三角関係式A、B、C、Dは、変数x0、y0およびφ以外の未知数は存在しない。
因子φは、より正確には次式
【数5】
により表され、これはvを電子の全速度とした時に次式
【数6】
が成立することによるものである。次式の前因子
【数7】
は、所定の測定に対しては一定のパラメータであり、磁場と電子速度の影響の両方を含んでいる。因子φの最終的な式は、次式
【数8】
となる。これは、式A、B、C、D内の三角関数の引数である。したがって、TKDパターンの改良は、磁場BZの対称軸に対する像点の距離に依存しており、ここで、回転および/または回転と収縮の程度は、磁場BZの対称軸に対する像点の距離に応じて増加する。
【0016】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法は、アクティブ電子レンズが無い電子顕微鏡内の較正サンプルの較正TKDパターンを検出する工程をさらに含む。好ましくは、この実施形態では、サンプルは、本発明の方法を較正するための較正サンプルとしても使用される。較正後、さらなるサンプルおよび/またはサンプルのさらなる測定点のTKDパターンを、同じ電子顕微鏡で測定し、その後較正工程の結果を使用して改良することができる。この実施形態によれば、較正TKDパターンは、複数の像点xC、yCを含み、複数のマッピング操作が、検出されたTKDパターンに対して、すなわち、像点xD、yDのそれぞれに対して、一般化項を使用して実行される。ここで、各マッピング操作は、γおよびφの異なる値のセットを使用して、つまり、異なるパラメータのセットγおよびβを使用して実行される。さらに、マッピング操作ごとに、マッピング操作から得られた出力TKDパターンが較正TKDパターンと比較され、そのような比較に基づいて、γおよびφの値の1つのセット、つまり1つのパラメータセットγおよびβが決定される。そのように決定されたγおよびφの値の1つのセット、つまり1つのパラメータセットγおよびβは、その後、同じ電子顕微鏡により検出されたTKDパターンを改良させるために使用される。
【0017】
特に好ましくは、各マッピング操作の較正TKDパターンと出力TKDパターンとの間の比較の工程は、出力TKDパターンと較正TKDパターンのそれぞれの画像相関によって実施される。言い換えれば、パターン自体がピクセルベースのアプローチによって互いに比較される。画像相関のための、特に画像相関の手段としての定量的スコアを提供するための方法およびアルゴリズムは、当業者に知られている。この実施形態によれば、1つのパラメータセットは、最高度の画像相関を提供するものとして、例えば、画像相関の最高の定量的スコアを提供するパラメータセットとして決定される。
【0018】
本開示のさらなる好ましい実施形態では、本発明の方法は、検出された菊池パターンおよび較正菊池パターンから複数の回折バンドを決定する工程をさらに含む。回折バンドは、好ましくは、最先端の画像処理アルゴリズムを用いて決定される。回折バンドはまた、好ましくは、像点のグレースケール値と、隣接する像点のグレースケール値に関する空間的な相互相関に基づいて決定される。
【0019】
さらに好ましくは、そのような回折バンドは、有利には、各マッピング動作の較正TKDパターンと出力TKDパターンとの間の比較のために、上述のように、パラメータセットの最良の値のセットγおよびφ、すなわち、パラメータセットの最良のセットγおよびβを決定するために使用することができる。特に、本実施形態によれば、検出された回折パターンから複数の回折バンドが決定され、回折バンドは複数の像点xD DB、yD DBを含む。さらに、改良された回折パターンから、複数の像点x0 DB、y0 DBを含む複数の対応する回折バンドが決定される。次いで、回折バンドと対応する回折バンドが比較され、その比較結果に基づいて、最良の一致を提供するパラメータセットγおよびβが決定される。次いで、このパラメータセットは、好ましくは、改良されたTKDパターンを決定するために使用される。
【0020】
さらなる特に好ましい実施形態によれば、回折バンドは、各出力TKDパターンについて、すなわち、特定の定義されたパラメータセットを用いて検出されたTKD画像からマッピングされた各TKDパターンについて決定される。さらに、これらの回折バンドのそれぞれについて真直度が決定される。乱されていないTKDパターンでは、回折バンドは常に真っ直ぐになる。したがって、直線的ではない回折バンドと対応するパラメータセットを有する任意の出力TKDパターンは無視することができる。したがって、この実施形態によれば、各出力TKDパターンについて、回折バンドの真直度、すなわち、そのような真直度の定量的な尺度が決定され、さらに、最も真直な回折バンドを有する出力TKDパターンを提供する1つのパラメータセット、すなわち、回折バンドの最良の真直度を示す定量的な尺度が提供される。
【0021】
あるいは、または、追加で、結晶位相情報が、各出力TKDパターンに決定された回折バンドに基づいて、出力TKDパターンごとに決定される。ここで、結晶位相情報とは、結晶格子のタイプおよび配向を指し、ある特定の回折バンドのセットに基づいて決定することができる。この実施形態によれば、1つのパラメータセットは、出力TKDパターンを提供するように決定され、その結晶位相情報は、較正TKDパターンの回折バンドに基づいて決定された結晶位相情報とベストマッチする。ここで、出力TKDパターンの回折バンドと較正TKDパターンの回折バンドの結晶位相情報とを比較するために、好ましくは、定量的な尺度が使用される。
【0022】
本開示のさらに好ましい実施形態において、磁場、すなわち、上述の円筒対称磁場は、B=(0,0,BZ)、すなわち、x方向およびy方向に全く成分を含まないものと推定される。したがって、電子顕微鏡とTKD検出器の理想的な直線配置が推定される。ここで使用される座標系の原点はサンプルを中心にしており、z=0はサンプルの下面を直接指す。さらに好ましくは、磁場、すなわち上述した円筒対称磁場は、任意のz>ZについてはB=0、すなわちサンプルの任意の距離Zを超える距離については0であるとして、B=B(z)と推定される。言い換えると、磁場は、B(r)=B(r)eZと推定され、次式
【数9】

と推定される。言い換えると、本発明の方法は、非現実的な特性を有する人工的な磁場の仮定をベースとしており、特に一般化項はこの仮定に基づいて導出される。
【0023】
推定される磁場は一様であり、z軸に平行であり、サンプルから特定の距離で急激にゼロに変化すると仮定されている。このような磁場は存在しないが、一般化項の形の動機付けとして機能するのみである。したがって、一般化項のパラメータのいずれも、例えばSEMにおいて、現実の磁場の記述または表現を可能にするような物理的な意味を持たない。さらに好ましくは、本発明の方法では、Z<Dと推定され、すなわち、菊池パターン(下記参照)のための検出装置がSEMチャンバの無磁場空間内に配置されていることが推定される。
【0024】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、三角関係式Aは、次式
【数10】

の形式であり、三角関係式Bは、次式
【数11】

の形式であり、三角関係式Cは、次式
【数12】

の形式であり、三角関係式Dは、次式
【数13】

の形式である。これらの三角関係式は、電子顕微鏡および直線的に配置されたTKD検出器の幾何学に対する特定の仮定に基づいて、また、そのような配置に関して特定の境界条件を選択することによって導出することができる。しかしながら、本開示およびその実施形態の範囲から必ずしも逸脱することなく、仮定およびまたは境界条件を変更することができることは、当業者には明らかであろう。しかしながら、そのような修正は、異なる三角関係式をもたらす可能性があり、本開示がそれに限定されるべきではない理由である。
【0025】
前述のように、因子φは、次式
【数14】

としても表すことができ、ここで、rは対称軸からの改良された像点xo,yoの水平距離を表し、次式
【数15】

は電子の速度を表す。したがって、改良されたTKDパターンの乱されていない像点が磁場の対称軸(通常は電子ビームの位置)から遠ざかるほど、電子の速度のz成分は小さくなり(したがって、x方向およびy方向の速度は大きくなる)、よって、この像点に関する実際の歪みは大きくなる。言い換えると、第1の改良されたTKDパターンの対称軸からの第1の距離を有する第1の改良された像点と、第1の検出されたTKDパターンの対応する第1の検出された像点との間のシフトは、第2の改良されたTKDパターンの第1の距離よりも小さい対称軸からの第2の距離を有する第2の改良された像点と、第2の検出されたTKDパターンの対応する第2の像点との間のシフトよりも大きくなり、したがって、この像点に関する実際の歪みは大きくなる。
【0026】
先行技術から知られているサンプル構造を決定するための方法の工程に関しては、EBSDまたはTKD分析におけるEBSD/TKDマップの生成に関して最新の技術を概観する以下の文献を参照されたい。特に、Schwartz A.J.らによるテキストブック "Electron Backscatter Diffraction in Material Science"、Springer Science, 2000, New Yorkを参照されたい。さらに、Schwarzer R.A.らによるレビュー出版物 "Present State of Elec-tron Backscatter Diffraction and Prospective Developments"、2008年10月24日、Lawrence Livermore Na-tional Laboratoryを参照されたい。認められる限りにおいて、これらの出版物の内容は、これらの工程が先行技術から知られている場合には、上記の方法の工程に関して本明細書に組み込まれる。先行技術から既に知られている本発明の方法の工程に関する開示の充足性のために、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本発明の別の側面は、少なくとも1つの電子レンズを有する電子顕微鏡、EM、好ましくは走走査型電子顕微鏡、SEMと、電子レンズの下方に距離Dをもって配置されたサンプルのTKDパターンを検出するように構成されたTKD検出器と、上述したように本発明に従った透過菊池回折(TKD)パターンを改良するための方法を実行するように構成された制御ユニット、を含む測定システムに関するものである。電子顕微鏡は、好ましくは、EDS検出器をさらに含み、(走査)電子顕微鏡/イメージング用にさらに構成されている。さらに好ましくは、TKD検出器は、制御ユニットの制御下でTKD測定を実行するように構成されている。特に好ましくは、制御ユニットは、電子源、TKD検出器、および最終的にはEDS検出器を制御するようにさらに構成されている。さらに好ましくは、電子レンズは、電子ビームをサンプルにz方向について集束させるように構成されている。
【0028】
さらに好ましくは、(S)EMは、EDS測定で使用される場合と同じ構成でTKD測定を行うように構成され、および/またはイメージング検出器で画像を得るために使用される場合と同じ構成でTKD測定を行うように構成される。さらに好ましくは、イメージング検出器は、電子レンズのポールピースの内部および/またはカラムの電子レンズの間に配置される可能性のあるインカラムイメージング検出器である。インカラムイメージング検出器は、二次電子(SE)を使用し、よって、インカラムSE検出器と名付けられてもよい。好ましくは、TKD検出器は、少なくとも活性な表面、例えば、入射電子を光子に変換するための蛍光体スクリーンと、これらの光子から画像信号を得るためのCCDまたはCMOSカメラとを含む。さらに好ましくは、TKD検出器は冷却システムを含み、CCD/CMOSカメラの暗電流を低減して室温で動作するように構成されている。さらに好ましくは、TKD検出器は、Bruker e-Flash EBSD検出器であり、最適な測定幾何学のために後付けされたBruker Optimus TKD測定ヘッドをEM内のサンプルホルダーとして使用する。
【0029】
本発明の別の側面は、命令を含むコンピュータプログラムに関するもので、当該プログラムがコンピュータ、例えば本発明の測定システムの制御ユニットによって実行されると、コンピュータに、そして最終的には測定システムに本発明の方法を実行させる。当該コンピュータプログラムは、次の工程を含む:
電子レンズの下方に距離Dをもって配置されているサンプル上に、電子ビームをz方向に収束させる少なくとも1つのアクティブ電子レンズを含む電子顕微鏡内のサンプルのTKDパターンを検出する工程であって、検出されたTKDパターンは複数の像点xD、yDを含んでいる工程、
検出された各像点xD、yDを、座標x0、y0を有する改良されたTKDパターンに、次式
【数16】

および次式
【数17】

の形式を有している一般化項を用いてマッピングする工程、
ここで、次式
【数18】

が成立し、式中Zは電子レンズの円筒対称磁場Bのz軸方向への延伸であり、A、B、C、Dは座標x0、y0に依存する三角関係式であり、式中BおよびDは磁場Bの対称軸の周囲の回転を定義し、AおよびCは磁場Bの対称軸に対する回転と収縮の複合操作を定義している。
【0030】
本発明の別の側面は、コンピュータ、例えば、本発明の測定システムの制御ユニット、によって実行されると、コンピュータ、ひいては測定システムに本発明の方法を実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体に関するものである。当該方法は、次の工程を含む:
電子レンズの下方に距離Dをもって配置されているサンプル上に、電子ビームをz方向に収束させる少なくとも1つのアクティブ電子レンズを含む電子顕微鏡内のサンプルのTKDパターンを検出する工程であって、検出されたTKDパターンは複数の像点xD、yDを含んでいる工程、
検出された各像点xD、yDを、座標x0、y0を有する改良されたTKDパターンに、次式
【数19】

および次式
【数20】

の形式を有している一般化項を用いてマッピングする工程、
ここで、次式
【数21】

が成立し、式中Zは電子レンズの円筒対称磁場Bのz軸方向への延伸であり、A、B、C、Dは座標x0、y0に依存する三角関係式であり、式中BおよびDは磁場Bの対称軸の周囲の回転を定義し、AおよびCは磁場Bの対称軸に対する回転と収縮の複合操作を定義している。
【0031】
本発明のさらなる側面および好ましい実施形態は、従属請求項、図面および以下の図面の説明から得られる。開示された異なる実施形態は、別段の記載がない場合には、互いに有利に組み合わされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明の特徴は、添付の図面を参照して例示的な実施形態を詳細に説明することにより、当業者に明らかになる。
図1】電子光学の磁場により湾曲されたTKDパターンを表す。
図2】実施例に係るTKDおよびEDS測定システムである。
図3】本発明の方法において実施される工程を模式的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
添付の図面に例示されている実施形態を詳細に参照しつつ、説明する。例示的な実施形態の効果及び特徴、ならびにその実施方法を、添付の図面を参照して説明する。図面において、類似の参照数字は類似の要素を示し、冗長な説明は省略される。本発明は、しかしながら、様々な異なる形態で具現化され得るが、例示された実施形態のみに限定されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完全なものとなり、本発明の特徴を当業者に十分に伝えることができるように、例示として提供される。
【0034】
したがって、本発明の側面および特徴を完全に理解するために、当技術分野において通常の技術を有する者にとって必要と考えられない工程、要素、および技術は、記載されない場合がある。本明細書で使用されるように、「および/または」という用語は、関連して記載された1つ以上の項目の任意のおよび全ての組み合わせを含む。さらに、以下の実施形態の説明において、本発明の実施形態を記述する際の「し得る」の使用は、「本発明の1つ以上の実施形態」を指し、単数形の用語は、文脈が明確に別のことを示さない限り、複数形を含むことができる。
【0035】
用語「第1」および「第2」は、様々な要素を説明するために使用されるが、これらの要素は、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、ある要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。例えば、第1の要素を第2の要素と命名してもよく、同様に、第2の要素を第1の要素と命名してもよく、本発明の範囲から逸脱することはない。要素のリストに先行する場合、「少なくとも1つの」などの表現は、要素のリスト全体を修飾するものであり、リストの個々の要素を修飾するものではない。「実質的に」、「約」、および類似の用語は、近似の用語として使用され、程度の用語としてではなく、当技術に熟練した者によって認識される測定値または計算値に固有の逸脱を説明することを意図している。
【0036】
図1は、電子レンズの磁場によるTKDパターンの湾曲を説明する図である。特に、図1Aは、磁場のない状態で得られたTKDパターン20aを模式的に示しており、したがって、複数の直線的な菊池線21aを含む。菊池線21aは、そのバンド21を生成するための電子を反射する結晶格子に対応する結晶面のブラッグ角の2倍に相当する角度幅を有する。図1Bは、磁場の存在下でサンプルについて同じ測定位置と同じ装置構成で得られたTKDパターン20bを示す。そうして得られた湾曲したTKDパターン20bは、複数の曲がった(湾曲した)回折バンド21bを含む。透過菊池回折(TKD)を用いた同様の実験的菊池パターン20の検出を図2を参照して説明する。
【0037】
図2は、本発明の一実施例に従った電子顕微鏡60に取り付けられたTKDおよびEDSの複合測定システムを示す。図2によると、電子顕微鏡、EM、60、すなわち走査型電子顕微鏡(SEM)は、透過菊池回折(TKD)測定を実行するように構成されている。EM60の電子レンズ61の一部であるポールピース62は、EM60のカラムに配置されている。さらに、EM60は、サンプルホルダ10と、蛍光体スクリーン65を含むTKD検出器64を有する。さらに、EM60は、EDS(エネルギー分散型X線分光器)検出器67を有する。EM60は、EDS検出器67を用いてEDS測定を実行し、TKD検出器64を用いてTKD測定を実行するように構成されている。サンプル12、TKD検出器64、EDS検出器67、およびポールピース62を有する電子レンズ61を有するカラムは、サンプルホルダ10の位置を変えることなく、TKD測定およびEDS測定を行うことができるように配置されている。特に、サンプルホルダ10は、サンプルホルダ10に装填されたサンプル12がEDS検出器67の活性領域68とTKD検出器64の蛍光体スクリーン65との間に位置するように、EDS検出器67とTKD検出器64との間に配置されている。特に、サンプル12は、電子顕微鏡60から、特に電子顕微鏡60のポールピース62から放射され、磁性レンズ61によって集束された電子ビーム80の伝播方向に関して、EDS検出器67とTKD検出器64との間に配置される。
【0038】
サンプル12は、入射電子ビーム80の少なくとも一部がサンプル12を透過するように電子透過性を有するように用意され、一次電子ビーム80がサンプル12に入射するように配置される。サンプルの厚さ、材料構成および入射電子エネルギーに大部分依存して、入射した一次電子はサンプル12を横切り、したがって回折電子82は、TKD検出器64の蛍光体スクリーン65に面したサンプルの出口面を介してサンプル12から出ていく。これらの透過電子および回折電子82は、TKD検出器64を介してサンプル12の菊池パターンを検出することを可能にする。入射された一次電子ビーム80はまた、サンプル12の特徴的なX線の発生にも影響を与える。上面を介してサンプル12を出た特徴的なX線は、EDS検出器67の活性領域68に向かって伝搬し、それにより、サンプル12からEDSスペクトルを得て、サンプル12の元素組成分析を実行することを可能にする。
【0039】
しかしながら、サンプル12上で入射電子ビーム80を走査するためにポールピース62の電子レンズ61による磁場を採用しているため、TKD検出器64で得られるどのようなTKDパターンも、図1Bに示すような湾曲が生じやすく、サンプル12の高精度な結晶位相情報を提供するのに適していない可能性がある。したがって、TKD検出器64で得られた菊地パターンに基づくサンプル12の高精度な構造および材料分析のために、透過菊地パターンを改良する方法が必要とされる。
【0040】
図3は、本発明に従った透過菊池、TKD、パターンを改良する方法において実行される工程を模式的に示す。
【0041】
本発明の方法の第1のステップS100において、図2を参照して既に上述したように、サンプル12のTKDパターンが電子顕微鏡60で検出される。特に、EM60の電子レンズ61は、サンプルホルダ10を介して電子レンズ61の下方に距離Dをもって配置されているサンプル12に電子ビーム80をz方向に関して集束させる。そして、TKD検出器64に対向するサンプルの背面を介してサンプル12を出た回折電子82は、TKD検出器64の蛍光体スクリーン65を介して検出される。上記のように、検出されたTKDパターン20bは、電子レンズ61の磁場によって乱され、それ故に、図1Bに示すように、複数の湾曲した回折バンド21bを有する。その上、検出された菊池パターンは、座標xDおよびyDを有する複数の像点を有する。
【0042】
ステップS200において、ステップS100で検出されたTKDパターンに基づいて、改良されたTKDパターンが算出される。これらの改良された(乱れていない)TKDパターンへの乱れたTKDパターンのマッピングは、乱れていない(改良された)TKDパターンの像点x0、y0のそれぞれを、対応する検出された(乱れた)TKDパターンの像点xD、yDにマッピングする一般化項を用いて行われる。以下においては、これらの一般化項の導出は、図2参照して説明した測定、すなわち、電子レンズ61とTKD検出器64の蛍光体スクリーン65との間のz軸上に配置されたサンプル12上に電子ビーム80を放射する電子レンズ61を有するEM60の直線的な装置について説明する。
【0043】
すでに図2に示したように、一般化項を導出するために、電子レンズの磁場は、電子ビームとサンプルとの交点を原点とする座標系によって参照系に近似されている。正のz方向は下向き、すなわち電子ビームの伝播方向を向き、x方向とy方向が参照系の水平面内に位置するようにする。座標系の原点は、サンプル下面を中心とする。このような系では、電子顕微鏡の磁場は次式
【数22】

の形態を有すると考えられる。
【0044】
このように磁場はz方向に平行であり、少なくとも部分的には一定であると考えられる。特に、磁場はz=Zまでは一定であり、z>Zではゼロであると仮定している。
【数23】
【0045】
透過方向の回折電子を捕らえるための検出器は、サンプルの下側の位置Dに配置されているため、電子はz座標s0とDの間を移動する。
磁場中を移動する間、電子にはいわゆるローレンツ力が作用している。
【数24】
(式中、qは電荷である)したがって、電子の運動方程式は次のように表すことができる。
【数25】
【0046】
上記された磁場B(r)では、運動方程式は次のように単純化される。
【数26】
又は、
【数27】
【0047】
運動方程式は、本発明の方法において、TKDパターンを改良するために実際に使用される一般化項を導出するための中間的な工程として本明細書に提示されているに過ぎず、特には較正パターンに基づくパラメータセットを使用していることに留意すべきである。しかしながら、本発明の方法においては、運動方程式は用いられない。
【0048】
下記式(7)で与えられるような角周波数ωを導入することで、下記式(8)~(10)で定義されるようなアプローチを用いて式(6)を解くことができる。
【数28】
【0049】
式(8)~(10)で与えられた式を用いて、式(6)の微分方程式を次式のような代数的な方程式に還元する。
【数29】
あるいは、再配置によって、次式のような方程式に還元する。
【数30】
【0050】
式(13)と(14)を満たすためには、正弦項の前の括弧内の項と余弦項の前の括弧内の項はそれぞれゼロに等しくなければならない。したがって、次式のようになる。
【数31】
【0051】
したがって、式(8)および(9)は次式のようになる。
【数32】
【0052】
初期時間点t=0については、次式が得られる。
【数33】
これにより、式(17)および(18)の定数を次式のように決定することができる。
【数34】
【0053】
したがって、磁場中の電子の速度は次式で与えられる。
【数35】
そして、電子の軌道は次式のようになることが見いだされる。
【数36】
【0054】
ここでも、これらの軌道は、本発明の方法において、TKDパターンを改良するために実際に使用される一般化項を導出するための中間的な工程として本明細書に提示されているに過ぎず、特には較正パターンに基づくパラメータセットを使用していることに留意すべきである。しかしながら、本発明の方法においては、電子の軌道は用いられない。
【0055】
境界条件:x(0)=0、y(0)=0およびz(0)=0を用いることで、次式を導出することができる。
【数37】
したがって、次式が得られる。
【数38】
z座標においてz=Zのとき、つまり時刻が次式
【数39】

であるとき、電子は磁場から離れる。
【0056】
したがって、対応する座標と速度は次式のように書くことができる。
【数40】
したがって、磁場の無い空間では、電子の軌道は、次式のようになる。
【数41】
Tzでの座標と速度の項を入力すると、次式が得られる。
【数42】
ここで、最終的な式は次式のように簡略化される。
【数43】
【0057】
z=Dの位置、すなわち時刻が次式
【数44】

である時、電子は検出器表面に衝突する。検出器表面上の衝突位置は次式のように表すことができる。
【数45】
ここで、磁場が存在しないB=0またはω=0の場合、衝突位置は次式のように表すことができる。
【数46】
そして、式(49)および(50)から次式が得られる。
【数47】
これは、次式
【数48】

を導入することで、次式に書き変えることができる。
【数49】
【0058】
これら3つの速度成分は、互いに独立していない。特に、総速度は次式の値vをとる。
【数50】
次式
【数51】
で簡略化すると、次式が得られる。
【数52】
【0059】
したがって、乱されていない像点が中心から離れているほど、速度のz成分が小さくなり、歪みが大きくなる。
【数53】
混合パラメータγを次式
【数54】
により導入すると、式(62)および(63)を次式のように書き変えることができる。
【数55】
これは、角関数の繰り返し引数を次式のようにφと表記することで可能である。
【数56】
これは、次式のパラメータを導入する。
【数57】

この結果は、さらに次式のように簡略化される。
【数58】
【0060】
この結果は、因子(1-γ)の後の項、すなわち上で定義したA項とC項で定義される純粋な回転と、因子γの後の項、すなわち上で定義したB項とD項で定義される回転と収縮のより複雑な混合物として解釈することができる。回転の角度は、磁場の強さ(パラメータω)と電子の傾き(因子は次式
【数59】

で表される)に比例する。回転と収縮の混在を表す項をφで割ると、rの値が大きくなるほど画像はより収縮する。
【0061】
検出された乱れたTKDパターン(式(69)、(70)ではそれぞれx(TD)およびy(TD)と表記される)の各像点xD、yDを、上述のように式(69),(70)の逆数に入力することにより、対応する像点x0、y0が決定される。このマッピングをステップS100で検出された乱れたTKDパターンの各像点についてステップS200で行うことにより、改良されたTKDパターンが算出される。
【符号の説明】
【0062】
10 サンプルホルダ
12 サンプル
20 菊池パターン
21 菊池バンド
60 EM/SEM
61 電子レンズ
62 ポールピース
64 TKD検出器
65 蛍光体スクリーン
67 EDS検出器
68 EDS検出器の活性領域
80 電子ビーム
82 透過および回折された電子(菊池パターンにおける)
図1
図2
図3