(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20230216BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230216BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B60C11/13 B
B60C11/03 100C
B60C11/12 D
(21)【出願番号】P 2021035942
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2022-09-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 剛史
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-129707(JP,A)
【文献】特開昭61-291203(JP,A)
【文献】特開昭61-181704(JP,A)
【文献】特開昭55-094802(JP,A)
【文献】特開昭62-061807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びるジグザグ状の主溝を備え、
前記ジグザグ状の主溝の主溝壁面は、トレッド面からタイヤ径方向内側に向かって幅狭に形成される第1主溝壁面と、前記第1主溝壁面から主溝底面に向かって幅狭又は幅一定に形成される第2主溝壁面と、を備え、
前記第2主溝壁面と前記トレッド面との角度は、前記第1主溝壁面と前記トレッド面との角度よりも小さく、
前記ジグザグ状の主溝は、前記第2主溝壁面と接合し前記主溝底面から隆起する複数の段差部を備え、
前記段差部は、前記主溝壁面によって形成される複数の凹部に配置され、前記段差部の段差壁面と前記第2主溝壁面との成す角が直角又は鈍角に形成され、
前記段差部は、前記第2主溝壁面の一方と接合する第1段差部と、前記第2主溝壁面の他方と接合する第2段差部と、を備え、
前記第1段差部及び前記第2段差部は、タイヤ周方向視において、交わらない
、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1段差部と前記第2段差部との最小隙間は、前記第2主溝壁面と直交する断面における前記第1段差部の幅の0.67倍~1.5倍である、請求項
1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に延びるジグザグ状の主溝と、前記ジグザグ状の主溝の主溝壁面によって形成される凹部からタイヤ軸方向に沿って延びるスリット
と、を備え、
前記主溝壁面は、トレッド面からタイヤ径方向内側に向かって幅狭に形成される第1主溝壁面と、前記第1主溝壁面から主溝底面に向かって幅狭又は幅一定に形成される第2主溝壁面と、を備え、
前記第2主溝壁面と前記トレッド面との角度は、前記第1主溝壁面と前記トレッド面との角度よりも小さく、
前記ジグザグ状の主溝は、前記第2主溝壁面と接合し前記主溝底面から隆起する複数の段差部を備え、
前記段差部は、複数の前記凹部に配置され、前記段差部の段差壁面と前記第2主溝壁面との成す角が直角又は鈍角に形成され、
前記ジグザグ状の主溝と前記スリットとの成す角が直角又は鈍角である
、空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド面に形成された主溝のうち、タイヤ軸方向最外側に位置する一対のショルダー主溝と、前記一対のショルダー主溝の間に位置する複数のセンター主溝と、前記複数のセンター主溝の間に形成されるセンター陸と、前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間に形成されるクオーター陸と、を備え、
前記センター主溝は、前記ジグザグ状の主溝であり、
前記スリットは、前記センター陸に配置されるセンタースリットと、前記クオーター陸に配置されるクオータースリットと、を備え、
前記センタースリットは、前記センター主溝と交わらず且つタイヤ軸方向に対し傾斜するセンター傾斜部を備え、
前記クオータースリットは、前記センター主溝及び前記ショルダー主溝と交わらず且つタイヤ軸方向に対し傾斜するクオーター傾斜部を備え、
前記センター傾斜部及び前記クオーター傾斜部は、タイヤ軸方向に対する傾斜方向が逆向きである、請求項
3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記クオーター傾斜部のスリット底面にクオーターサイプが配置されている、請求項
4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記センター陸にセンターサイプが配置されている、請求項
4又は
5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記センター陸にセンターサイプが配置され、
前記センターサイプ及び前記クオーターサイプは、タイヤ軸方向視において、前記段差部と重なる、請求項
5に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タイヤ周方向に延びるジグザグ状の主溝を備え、ジグザグ状の主溝は、主溝壁面と接合し主溝底面から隆起する複数の段差部を備え、段差部は、主溝壁面によって形成される複数の凹部に配置されている、空気入りタイヤが記載されている。斯かる空気入りタイヤは、斯かる段差部を設けることによって石噛みを抑えることができる。
【0003】
しかしながら、斯かる段差部は、タイヤ径方向視において、段差壁面と主溝壁面との成す角が鋭角に形成されているので、段差壁面と主溝壁面との間で水が滞留し、濡れた路面での走行性能であるWET性能が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、WET性能を悪化させずに石噛みを抑えることができる段差部を有する空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びるジグザグ状の主溝を備え、前記ジグザグ状の主溝の主溝壁面は、トレッド面からタイヤ径方向内側に向かって幅狭に形成される第1主溝壁面と、前記第1主溝壁面から主溝底面に向かって幅狭又は幅一定に形成される第2主溝壁面と、を備え、前記第2主溝壁面と前記トレッド面との角度は、前記第1主溝壁面と前記トレッド面との角度よりも小さく、前記ジグザグ状の主溝は、前記第2主溝壁面と接合し前記主溝底面から隆起する複数の段差部を備え、前記段差部は、前記主溝壁面によって形成される複数の凹部に配置され、前記段差部の段差壁面と前記第2主溝壁面との成す角が直角又は鈍角に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ子午面における断面図
【
図2】同実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド面における要部展開図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、空気入りタイヤにおける一実施形態について、
図1~
図3を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0009】
各図において、第1の方向D1は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)1のタイヤ回転軸と平行であるタイヤ軸方向D1であり、第2の方向D2は、タイヤ1の直径方向であるタイヤ径方向D2であり、第3の方向D3は、タイヤ回転軸周りのタイヤ周方向D3である。
【0010】
なお、タイヤ軸方向D1において、内側は、タイヤ赤道面S1に近い側となり、外側は、タイヤ赤道面S1から遠い側となる。また、タイヤ径方向D2において、内側は、タイヤ回転軸に近い側となり、外側は、タイヤ回転軸から遠い側となる。
【0011】
タイヤ赤道面S1とは、タイヤ回転軸に直交する面で且つタイヤ1のタイヤ軸方向D1の中心に位置する面のことであり、タイヤ子午面とは、タイヤ回転軸を含む面で且つタイヤ赤道面S1と直交する面のことである。また、タイヤ赤道線L1とは、タイヤ1のタイヤ径方向D2の外表面(後述するトレッド面2a)とタイヤ赤道面S1とが交差する線のことである。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るタイヤ1は、一対のビード11,11と、各ビード11からタイヤ径方向D2の外側に延びるサイドウォール12,12と、一対のサイドウォール12,12のタイヤ径方向D2の外側端に連なるトレッド13と、一対のビード11,11の間を架け渡されるように延びるカーカスプライ14と、を備える。
【0013】
トレッド13は、トレッド13の外表面を構成するトレッド面2aを有するトレッドゴム2と、トレッドゴム2とカーカスプライ14との間に配置されるベルトプライ15と、を備える。トレッド面2aは、実際に路面に接地するタイヤ接地面を有しており、タイヤ接地面のうち、タイヤ軸方向D1の外側端は、トレッド接地端2b,2bという。
【0014】
本実施形態に係るタイヤ1は、トラックなどに用いられる重荷重用空気入りタイヤであり、街中などの短距離走行に適したリージョナルユース向けタイヤとして構成されているが、これに限られるものではない。本実施形態において、トレッド13は、トレッド幅Wtがタイヤ最大幅Wmの80%以上であるワイドトレッドタイプであるが、斯かるタイプに限られない。トレッド幅Wtは、タイヤ接地面のタイヤ軸方向D1の最大幅、即ち、トレッド接地端2b,2b間の距離である。そして、タイヤ最大幅Wmは、サイドウォール12,12の表面の模様や文字などの突起を含むタイヤ軸方向D1の最大幅である。
【0015】
タイヤ接地面は、タイヤ1を不図示の正規リムに装着し、正規内圧を充填した状態でタイヤ1を平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する部分である。
【0016】
正規リムは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ1ごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば「Design Rim」、ETRTOであれば「Measuring Rim」となる。
【0017】
正規内圧は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ1ごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATIONPRESSURE」である。
【0018】
正規荷重は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ1ごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、トレッドゴム2は、トレッド面2aに形成され且つタイヤ周方向D3に延びる主溝21を備える。主溝21は、タイヤ軸方向D1最外側に位置する一対のショルダー主溝4,4と、一対のショルダー主溝4の間に位置する複数のセンター主溝3と、を備え、タイヤ軸方向D1に間隔を置いて配置されている。本実施形態においては、タイヤ赤道面S1を挟んで一対のセンター主溝3,3が配置されている。
【0020】
センター主溝3は、屈曲を繰り返し形成してジグザグ状に延びている。センター主溝3の主溝壁面3aによって複数の凸部31と複数の凹部32とが形成され、それらがタイヤ周方向D3に沿って交互に繰り返されている。凸部31は、センター主溝3の内方に向かって突出している。凹部32は、凸部31が突出する方向とは反対の方向に向かって窪んでいる。センター主溝3,3は、タイヤ周方向D3に位相を互いにずらして配置されている。即ち、タイヤ軸方向D1視において、センター主溝3,3のそれぞれの凸部31及び凹部32の位置がずれている。
【0021】
本実施形態において、センター主溝3,3は、タイヤ周方向D3に凹部32の繰り返しピッチの半分以下のずれで配置されているが、これに限られない。なお、凹部32の中心からタイヤ周方向D3に隣接する凹部32の中心までの間隔を、凹部32の繰り返しピッチにおける1ピッチとする。後述する「ピッチ」についても、これと同様である。
【0022】
ショルダー主溝4は、タイヤ周方向D3に直線状に延びている。ショルダー主溝4の主溝壁面には、ショルダー主溝4からタイヤ軸方向D1に延びる複数のサイプ4aが形成されている。サイプ4aは、一端がショルダー主溝4に開口し、他端が陸内で閉塞した片側クローズドサイプ4aとして設けられている。
【0023】
図3に示すように、センター主溝3の主溝壁面3a,3aは、トレッド面2aからタイヤ径方向D2内側に向かって幅狭に形成される第1主溝壁面31a,31aと、第1主溝壁面31aから主溝底面3bに向かって幅狭又は幅一定に形成される第2主溝壁面32a,32aと、を備える。本実施形態では、第2主溝壁面32a,32aが主溝底面3bに向かって幅一定に延びている。
【0024】
第2主溝壁面32aとトレッド面2aとの第2主溝壁角度θ2は、第1主溝壁面31aとトレッド面2aとの第1主溝壁角度θ1よりも小さい。第2主溝壁角度θ2を第1主溝壁角度θ1よりも小さくすることにより、小石などが第2主溝壁面32a側に入り込み難くなり、センター主溝3での石噛みを抑えることできる。これにより、小石などが主溝底面3bに到達し難くなり、センター主溝3の損傷を抑えることができる。本実施形態において、第1主溝壁角度θ1は、103.5度であり、第2主溝壁角度θ2は、90度であるが、斯かる角度に限られない。
【0025】
本実施形態では、第2主溝壁角度θ2を90度、即ち、対向する第2主溝壁面32a,32aを平行にすることにより、主溝底面3bのタイヤ軸方向D1の幅を確保することができる。これにより、後述する段差部33のタイヤ軸方向D1の幅を確保することができ、石噛み抑制効果を向上させることができる。
【0026】
図2及び
図3に示すように、センター主溝3は、第2主溝壁面32aと接合し主溝底面3bから隆起する複数の段差部33を備える。センター主溝3に段差部33を設けることにより、小石などがセンター主溝3に入り込み難くなり、センター主溝3での石噛みを抑えることできる。段差部33は、複数の凹部32の各々に配置されている。段差部33を凹部32に配置することにより、タイヤ周方向D3において剛性の弱い凹部32を補強することができ、凹部32における偏摩耗を抑えることができる。
【0027】
段差部33は、第2主溝壁面32aの一方(本実施形態ではタイヤ軸方向D1の外側の第2主溝壁面32a)と接合する第1段差部331と、第2主溝壁面32aの他方(本実施形態ではタイヤ軸方向D1の内側の第2主溝壁面32a)と接合する第2段差部332と、を備える。第1段差部331及び第2段差部332は、タイヤ周方向D3に沿って千鳥状に配置されている。なお、第1段差部331は、タイヤ軸方向D1の内側に配置され、第2段差部332は、タイヤ軸方向D1の外側に配置される、としてもよい。
【0028】
図2に示すように、段差部33の段差壁面は、第2主溝壁面32aと交わる面(タイヤ軸方向D1に沿う面)となる第1段差壁面33aと、第2主溝壁面32aと交わらない面(タイヤ周方向D3に沿う面)となる第2段差壁面33bと、を備える。第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの成す角は、直角又は鈍角に形成されている。即ち、第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの段差壁面角度θ3は、90度以上である。
【0029】
第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの成す角を直角又は鈍角とすることにより、第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの間で水が滞留することを抑えて、円滑な排水を促すことができる。これにより、段差部33によって、WET性能を悪化させずに石噛みを抑えることができる。また、第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの交わる部分に歪みが集中してクラックの起点となることを抑えることができる。WET性能とは、濡れた路面での走行性能を指す。
【0030】
本実施形態では、第1段差壁面33aと第2主溝壁面32aとの成す角が直角である。第1段差壁面33aは、主溝底面3bから垂直に延びているが、これに限られない。第2段差壁面33bは、第2主溝壁面32aと平行に形成されている。即ち、第2段差壁面33bは、凸部31が突出する方向とは反対の方向に向かって窪んでいる。第2段差壁面33bは、主溝底面3bから垂直に延びているが、これに限られない。
【0031】
本実施形態において、第1段差部331及び第2段差部332は、タイヤ周方向D3視において、交わらない。第1段差部331と第2段差部332との間には、シースルー領域3Sが形成されている。ここで、シースルー領域3Sとは、タイヤ周方向D3視において、第1段差部331及び第2段差部332に視界を遮られずに見通すことができるセンター主溝3内の領域をいう。
【0032】
第1段差部331と第2段差部332との最小隙間W1は、第2主溝壁面32aと直交する断面における第1段差部331(又は第2段差部332でもよい)の幅W2の0.67倍~1.5倍である。本実施形態においては、第1段差部331(又は第2段差部332)と対向する第2主溝壁面32aとの隙間W3は、第1段差部331(又は第2段差部332)の幅W2の0.67倍~1.5倍である。
【0033】
図3に示すように、第2主溝壁面32aのタイヤ径方向D2の第2主溝壁高さH2は、第1主溝壁面31aのタイヤ径方向D2の第1主溝壁高さH1よりも小さい。即ち、センター主溝3の全体の高さ(第1主溝壁高さH1+第2主溝壁高さH2)における第1主溝壁高さH1及び第2主溝壁高さH2の比率は、第2主溝壁高さH2の方が小さい。第1主溝壁高さH1の比率は、センター主溝3の全体の高さに対して60~80%が好ましい。第2主溝壁高さH2の比率は、センター主溝3の全体の高さに対して20~40%が好ましい。第2主溝壁高さH2の比率が20%に満たない場合、第2主溝壁面32aに設けられた段差部33によって石噛みを抑える効果が小さくなる傾向にある。第2主溝壁高さH2の比率が40%を超える場合、センター主溝3の容積が小さくなり、WET性が悪化する恐れがある。本実施形態において、第1主溝壁高さH1と第2主溝壁高さH2との比率は、75%対25%であるが、これに限られない。
【0034】
段差部33のタイヤ径方向D2の段差高さH3は、第2主溝壁高さH2以下である。本実施形態において、段差高さH3は、第2主溝壁高さH2と同じである。ここで、第2主溝壁高さH2は、主溝底面3bから、第1主溝壁面31aと第2主溝壁面32aとの交点までのタイヤ径方向D2の距離として求められる。第1主溝壁高さH1は、第1主溝壁面31aと第2主溝壁面32aとの交点からトレッド面2aまでのタイヤ径方向D2の距離として求められる。段差高さH3は、主溝底面3bから段差部33の頂面までのタイヤ径方向D2の距離として求められる。
【0035】
図2に示すように、タイヤ1は、センター主溝3の間に形成されるセンター陸5と、センター主溝3とショルダー主溝4との間に形成される一対のクオーター陸6,6と、ショルダー主溝4のタイヤ軸方向D1の外側に形成されるショルダー陸7,7と、を備える。センター陸5は、トレッド面2aにおけるタイヤ軸方向D1の内側の領域で且つタイヤ赤道線L1上に配置されている。クオーター陸6は、センター陸5とショルダー陸7との間に配置されている。そして、ショルダー陸7は、トレッド面2aにおいてタイヤ軸方向D1の外側端に配置されている。
【0036】
本実施形態のタイヤ1はワイドセンター構造を採用したものであり、センター陸5のタイヤ軸方向D1におけるセンター陸幅Wcは、総陸幅の15%以上、より好ましくは18%以上である。このようにセンター陸幅Wcを大きくすることにより、センター陸5にかかる圧力を分散させることができ、センター陸5における偏摩耗を抑えて耐偏摩耗性能を高めることができる。
【0037】
総陸幅とは、タイヤ軸方向D1における、主溝21を除いた幅、即ち、センター陸幅Wcとクオーター陸6のクオーター陸幅Wqとショルダー陸7のショルダー陸幅Wsとを足した幅である。なお、各陸幅Wc、Wq、Wsは、各陸5、6、7のタイヤ軸方向D1における最大幅である。
【0038】
タイヤ1は、凹部32からタイヤ軸方向D1に沿って延びるスリット8を備える。スリット8は、センター陸5及びクオーター陸6に配置されている。段差部33が設けられている凹部32からスリット8を延ばすことにより、スリット8を設けることによる陸5、6の剛性低下を段差部33で抑えることができる。
【0039】
センター主溝3とスリット8との成す角は、直角又は鈍角である。即ち、センター陸5及びクオーター陸6におけるセンター主溝3とスリット8とによって形成されるコーナー部C1のコーナー角度θ4は、90度を越えている。
【0040】
スリット8は、センター陸5に配置されるセンタースリット81と、クオーター陸6に配置されるクオータースリット82と、を備える。センター陸5は、センター主溝3及びセンタースリット81によって区画される複数のセンターブロック51を備える。クオーター陸6は、センター主溝3、ショルダー主溝4及びクオータースリット82によって区画される複数のクオーターブロック61を備える。本実施形態において、センタースリット81及びクオータースリット82の深さは小さく(例えば、2mm以下)、センター陸5及びクオーター陸6はリブに近い形態である。
【0041】
センタースリット81は、センター主溝3と交わり且つタイヤ軸方向D1に沿って延びる一対のセンター交差部81a,81aと、センター主溝3と交わらず且つタイヤ軸方向D1に対し傾斜するセンター傾斜部81bと、を備える。クオータースリット82は、センター主溝3又はショルダー主溝4と交わり且つタイヤ軸方向D1に沿って延びる一対のクオーター交差部82aと、センター主溝3及びショルダー主溝4と交わらず且つタイヤ軸方向D1に対し傾斜するクオーター傾斜部82bと、を備える。
【0042】
一対のセンター交差部81a,81aは、タイヤ周方向D3にずれて配置されている。斯かる構成によれば、一対のセンター交差部81a,81a同士の間にセンター傾斜部81bを設けることができ、センターブロック51のタイヤ周方向D3の端部(センタースリット81によって形成される部分)をタイヤ軸方向D1に対して傾けることができる。これにより、センターブロック51のタイヤ周方向D3の剛性を高めることができ、センターブロック51の偏摩耗を抑えることができる。本実施形態において、一対のセンター交差部81a,81aは、タイヤ周方向D3に凹部32の繰り返しピッチの半分以下のずれで配置されているが、これに限られない。
【0043】
本実施形態において、センター交差部81aは、タイヤ周方向D3で隣接するセンター交差部81aまで2ピッチ離れて並んでいるが、これに限られない。センター交差部81aを2ピッチ離して並べることにより、各センターブロック51のタイヤ軸方向D1の片側2箇所に凸部31を含めることができ、各センターブロック51によるトラクション性能を向上させることができる。
【0044】
一対のクオーター交差部82a,82aは、それぞれタイヤ周方向D3にずれて配置されている。斯かる構成によれば、一対のクオーター交差部82a,82a同士の間にクオーター傾斜部82bを設けることができ、クオーターブロック61のタイヤ周方向D3の端部(クオータースリット82によって形成される部分)をタイヤ軸方向D1に対して傾けることができる。これにより、クオーターブロック61のタイヤ周方向D3の剛性を高めることができ、クオーターブロック61の偏摩耗を抑えることができる。本実施形態において、一対のクオーター交差部82a,82aは、タイヤ周方向D3に凹部32の繰り返しピッチの半分以上のずれで配置されているが、これに限られない。
【0045】
一対のクオーター交差部82a,82aのずれは、一対のセンター交差部81a,81aのずれよりも大きい。そして、一対のクオーター交差部82a,82aのうちショルダー主溝4と交わるクオーター交差部82aは、タイヤ軸方向D1視において、センター傾斜部81bと重なる。そして、センター傾斜部81b及びクオーター傾斜部82bは、タイヤ軸方向D1に対する傾斜方向が逆向きである。
【0046】
クオータースリット82は、クオーターサイプ82cを備える。そして、クオーターサイプ82cは、その両端が主溝に接続されることなく閉塞したクローズドサイプである。クオーターサイプ82cは、クオーター傾斜部82bのスリット底面に配置されている。クオーターサイプ82cは、タイヤ軸方向D1視において、第1段差部331又は第2段差部332と重なる位置に配置されている。
【0047】
センターブロック51は、センターサイプ51aを備える。センターサイプ51aは、その両端が主溝に接続されることなく閉塞したクローズドサイプである。センターサイプ51aは、センターブロック51上で且つセンター主溝3及びセンタースリット81と交わらない位置に配置されている。タイヤ赤道線L1では、センターサイプ51aとセンター傾斜部81bとが交互に並んでいる。本実施形態において、センターサイプ51aは、センター傾斜部81bと同じ方向に傾斜しており、各センターブロック51に配置されている。センター傾斜部81bを傾斜して配置することにより、タイヤ軸方向D1におけるトラクション性能を確保し、旋回時などにおけるタイヤ軸方向D1での横滑りを抑えることができる。
【0048】
センターサイプ51a及びクオーターサイプ82cは、タイヤ軸方向D1視において、第1段差部331又は/及び第2段差部332と重なる位置に配置されている。
【0049】
サイプ4a、5a、82cは、1.5mm以下の溝幅を有する切り込みである。そして、センターサイプ51aの深さは、クオーターサイプ82cのトレッド面2aからの深さよりも小さい。本実施形態において、センターサイプ51aの深さは、センター主溝3の深さの35%であるが、これに限られない。また、クオーターサイプ82cのトレッド面2aからの深さは、センター主溝3の深さの70%であるが、これに限られない。
【0050】
片側クローズドサイプ4aは、ショルダー主溝4のタイヤ軸方向D1の両側に配置され、タイヤ周方向D3に並んで配置されている。片側クローズドサイプ4aは、ショルダー主溝4からタイヤ軸方向D1に沿って幅広に延びている。これにより、片側クローズドサイプ4aの先端部に圧力が集中することを抑えることができ、片側クローズドサイプ4aの先端部にクラックが生じることを抑えることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態のように、タイヤ1は、タイヤ周方向D3に延びるジグザグ状の主溝(センター主溝3)を備え、ジグザグ状の主溝(センター主溝3)の主溝壁面3aは、トレッド面2aからタイヤ径方向D2内側に向かって幅狭に形成される第1主溝壁面31aと、第1主溝壁面31aから主溝底面3bに向かって幅狭又は幅一定に形成される第2主溝壁面32aと、を備え、第2主溝壁面32aとトレッド面2aとの角度は、第1主溝壁面31aとトレッド面2aとの角度よりも小さく、ジグザグ状の主溝(センター主溝3)は、第2主溝壁面32aの一方と接合し主溝底面3bから隆起する複数の段差部33を備え、段差部33は、主溝壁面3aによって形成される複数の凹部32に配置され、段差部33の段差壁面(第1段差壁面33a)と第2主溝壁面32aとの成す角が直角又は鈍角に形成されている、という構成が好ましい。
【0052】
斯かる構成によれば、段差部33の段差壁面(第1段差壁面33a)と第2主溝壁面32aとの成す角を直角又は鈍角とすることにより、段差壁面(第1段差壁面33a)と第2主溝壁面32aとの間で水が滞留することを抑えることができる。これにより、段差部33によって、WET性能を悪化させずに石噛みを抑えることができる。
【0053】
また、本実施形態のように、タイヤ1において、段差部33は、第2主溝壁面32aの一方と接合する第1段差部331と、第2主溝壁面32aの他方と接合する第2段差部332と、を備え、第1段差部331及び第2段差部332は、タイヤ周方向D3視において、交わらない、という構成が好ましい。
【0054】
斯かる構成によれば、第1段差部331と第2段差部332との間にシースルー領域3Sを確保することができ、ジグザグ状の主溝(センター主溝3)のWET性能を確保することができる。
【0055】
また、本実施形態のように、タイヤ1において、第1段差部331と第2段差部332との最小隙間W1は、第2主溝壁面32aと直交する断面における第1段差部331の幅W2の0.67倍~1.5倍である、という構成が好ましい。
【0056】
斯かる構成によれば、ジグザグ状の主溝(センター主溝3)の溝容量を確保することができ、延いてはWET性能を確保することができる。また、第1段差部331の幅W2も確保することができ、石噛みを適切に抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態のように、タイヤ1は、凹部32からタイヤ軸方向D1に沿って延びるスリット8を備え、ジグザグ状の主溝(センター主溝3)とスリット8との成す角が直角又は鈍角である、という構成が好ましい。
【0058】
斯かる構成によれば、センター主溝3とスリット8とによって形成されるセンターブロック51及びクオーターブロック61のコーナー部C1に圧力が集中することを抑えることができ、コーナー部C1での偏摩耗を抑えることができる。
【0059】
また、本実施形態のように、タイヤ1において、トレッド面2aに形成された主溝21のうち、タイヤ軸方向D1最外側に位置する一対のショルダー主溝4と、一対のショルダー主溝4の間に位置する複数のセンター主溝3と、複数のセンター主溝3の間に形成されるセンター陸5と、センター主溝3とショルダー主溝4との間に形成されるクオーター陸6と、を備え、センター主溝3は、ジグザグ状の主溝であり、スリット8は、センター陸5に配置されるセンタースリット81と、クオーター陸6に配置されるクオータースリット82と、を備え、センタースリット81は、センター主溝3と交わらず且つタイヤ軸方向D1に対し傾斜するセンター傾斜部81bを備え、クオータースリット82は、センター主溝3及びショルダー主溝4と交わらず且つタイヤ軸方向D1に対し傾斜するクオーター傾斜部82bを備え、センター傾斜部81b及びクオーター傾斜部82bは、タイヤ軸方向D1に対する傾斜方向が逆向きである、という構成が好ましい。
【0060】
斯かる構成によれば、センター傾斜部81b及びクオーター傾斜部82bの傾斜方向をタイヤ軸方向D1に対して逆向きとすることにより、センター陸5及びクオーター陸6の剛性が弱い方向(傾斜部81b、82bに対し垂直な方向)を異ならせることができる。これにより、センター陸5及びクオーター陸6の剛性が弱い方向をそれぞれが補強することができ、センター陸5及びクオーター陸6の偏摩耗を抑えることができる。
【0061】
また、本実施形態のように、タイヤ1は、クオーター傾斜部82bのスリット底面にクオーターサイプ82cが配置されている、という構成が好ましい。斯かる構成によれば、トレッド面2aがクオータースリット82の底面まで摩耗した場合でも、クオーターサイプ82cによって、トラクション性能を確保することができる。
【0062】
また、本実施形態のように、タイヤ1は、センター陸5にセンターサイプ51aが配置されている、という構成が好ましい。斯かる構成によれば、センター陸5にセンターサイプ51aを配置することにより、タイヤ1の転動時におけるトラクション性能を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態のように、タイヤ1は、センター陸5にセンターサイプ51aが配置され、センターサイプ51a及びクオーターサイプ82cは、タイヤ軸方向D1視において、段差部33と重なる、という構成が好ましい。
【0064】
斯かる構成によれば、段差部33と重なる位置にセンターサイプ51a及びクオーターサイプ82cを配置することにより、センターサイプ51a及びクオーターサイプ82cを設けることによる陸5、6の局所的な剛性低下を抑えることができ、トレッドゴム2の偏摩耗を抑えることができる。
【0065】
なお、タイヤ1は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものではない。また、タイヤ1は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0066】
(1)本実施形態においては、主溝21として、タイヤ赤道面S1を挟んで一対のセンター主溝3が配置されている、という構成である。しかしながら、主溝21は、斯かる構成に限られない。例えば、主溝21として、さらにタイヤ赤道線L1に沿ってセンター主溝3が配置されている、という構成であってもよい。
【0067】
(2)本実施形態において、ショルダー主溝4は、タイヤ周方向D3に直線状に延びている、という構成である。しかしながら、ショルダー主溝4は、斯かる構成に限られない。例えば、ショルダー主溝4は、屈曲を繰り返し形成してジグザグ状に延びている、という構成であってもよい。また、ショルダー主溝4は、例えば、湾曲を繰り返して波状に延びている、という構成であってもよい。
【0068】
(3)本実施形態において、段差部33は、第2主溝壁面32aの一方と接合する第1段差部331と、第2主溝壁面32aの他方と接合する第2段差部332と、を備える、という構成である。しかしながら、段差部33は、斯かる構成に限られない。例えば、段差部33は、第2主溝壁面32aの一方と接合する第1段差部331のみを備える、という構成であってもよい。即ち、段差部33は、第2主溝壁面32aの他方と接合する第2段差部332を備えない、という構成であってもよい。
【0069】
(4)本実施形態では、段差部33において、第1段差部331及び第2段差部332は、タイヤ周方向D3視において交わらず、第1段差部331と第2段差部332との間にシースルー領域3Sが形成されている、という構成である。しかしながら、段差部33は、斯かる構成に限られない。例えば、段差部33において、第1段差部331及び第2段差部332は、タイヤ周方向D3視において交わり、第1段差部331と第2段差部332との間にシースルー領域3Sが形成されない、という構成でもよい。
【0070】
(5)本実施形態において、トレッドゴム2は、凹部32からタイヤ軸方向D1に沿って延びるスリット8を備える、という構成である。しかしながら、トレッドゴム2は、斯かる構成に限られない。例えば、トレッドゴム2は、凸部31からタイヤ軸方向D1に沿って延びるスリット8を備える、という構成であってもよい。
【0071】
(6)本実施形態では、センタースリット81及びクオータースリット82において、センター交差部81a及びクオーター交差部82aは、タイヤ軸方向D1と平行に延びている、という構成である。しかしながら、センタースリット81及びクオータースリット82は、斯かる構成に限られない。例えば、センタースリット81及びクオータースリット82において、センター交差部81a又は/及びクオーター交差部82aは、タイヤ軸方向D1に対し傾斜して延びている、という構成であってもよい。
【0072】
(7)本実施形態では、センタースリット81及びクオータースリット82において、センター傾斜部81b及びクオーター傾斜部82bは、タイヤ軸方向D1に対する傾斜方向が逆向きである、という構成である、しかしながら、センタースリット81及びクオータースリット82は、斯かる構成に限られない。例えば、センタースリット81及びクオータースリット82において、センター傾斜部81b及びクオーター傾斜部82bは、タイヤ軸方向D1に対する傾斜方向が同じ向きである、という構成であってもよい。
【0073】
(8)本実施形態において、センターサイプ51aは、センター傾斜部81bと同じ方向に傾斜している、という構成である。しかしながら、センターサイプ51aは、斯かる構成に限られない。例えば、センターサイプ51aは、クオーター傾斜部82bと同じ方向に傾斜している、という構成であってもよい。
【0074】
(9)本実施形態では、タイヤ1がタイヤ赤道線L1上の点を中心とする左右点対称なトレッドパターンを有する例を示したが、これに限られない。例えば、タイヤ1がタイヤ赤道線L1を中心とする左右線対称なトレッドパターンもしくは左右非対称なトレッドパターン、又は、タイヤ回転方向が指定された方向性トレッドパターンを有していても構わない。
【符号の説明】
【0075】
1…タイヤ、2…トレッドゴム、21…主溝、2a…トレッド面、2b…トレッド接地端、3…センター主溝、3a…主溝壁面、31a…第1主溝壁面、32a…第2主溝壁面、3b…主溝底面、31…凸部、32…凹部、33…段差部、33a…第1段差壁面、33b…第2段差壁面、331…第1段差部、332…第2段差部、3S…シースルー領域、4…ショルダー主溝、4a…片側クローズドサイプ、5…センター陸、51…センターブロック、51a…センターサイプ、6…クオーター陸、61…クオーターブロック、7…ショルダー陸、8…スリット、81…センタースリット、81a…センター交差部、81b…センター傾斜部、82…クオータースリット、82a…クオーター交差部、82b…クオーター傾斜部、82c…クオーターサイプ、11…ビード、12…サイドウォール、13…トレッド、14…カーカスプライ、15…ベルトプライ、C1…コーナー部