IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図1
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図2
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図3A
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図3B
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図4
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図5
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図6
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図7
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図8
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図9
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図10
  • 特許-ロータリ圧縮機及び空気調和機 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機及び空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20230216BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
F04C18/356 E
F04C29/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022094529
(22)【出願日】2022-06-10
【審査請求日】2022-06-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敬悟
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008558(JP,A)
【文献】特開2003-129977(JP,A)
【文献】特開2002-213357(JP,A)
【文献】実開昭60-052396(JP,U)
【文献】特開2008-298037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内で公転する環状のローラと、を備えるとともに、
主軸部と、前記主軸部に対して偏心し、前記ローラの内周面に摺接する偏心部と、を有するシャフトと、
前記シリンダの上側に設けられ、前記シャフトを軸支する上軸受と、
前記シリンダの下側に設けられ、前記シャフトを軸支する下軸受と、
前記シリンダと前記ローラとの間の空間を仕切る板状のベーンと、を備え、
前記シャフトは、
前記ローラの径方向内側において前記偏心部の上側に設けられ、前記シャフトの軸方向の移動を規制する上側移動規制部と、
前記ローラの径方向内側において前記偏心部の下側に設けられ、前記シャフトの軸方向の移動を規制する下側移動規制部と、を有し、
前記シャフトには、潤滑油を軸方向に導く給油流路が設けられるとともに、前記給油流路からの潤滑油が通流する給油孔が設けられ、
前記給油孔は、前記上側移動規制部及び前記下側移動規制部の少なくとも一方に設けられ、
前記給油孔は、前記給油流路からの潤滑油を、前記上軸受及び前記下軸受の少なくとも一方と前記偏心部との間の隙間に導き、
前記シャフトの軸方向における前記給油孔の位置は、前記シリンダが設けられている軸方向の範囲内であり、
前記シャフトの軸方向に垂直であって、当該シャフトにおける前記給油孔を含む面の断面二次モーメントが、前記シャフトの軸方向に垂直であって、前記主軸部における前記給油流路を含む面の断面二次モーメントよりも大きい、ロータリ圧縮機。
【請求項2】
シリンダと、
前記シリンダ内で公転する環状のローラと、を備えるとともに、
主軸部と、前記主軸部に対して偏心し、前記ローラの内周面に摺接する偏心部と、を有するシャフトと、
前記シリンダの上側に設けられ、前記シャフトを軸支する上軸受と、
前記シリンダの下側に設けられ、前記シャフトを軸支する下軸受と、
前記シリンダと前記ローラとの間の空間を仕切る板状のベーンと、を備え、
前記シャフトには、潤滑油を軸方向に導く給油流路が設けられるとともに、前記給油流路からの潤滑油が通流する給油孔が設けられ、
前記給油孔は、前記偏心部の上部及び下部の少なくとも一方に設けられ、
前記給油孔は、前記給油流路からの潤滑油を、前記上軸受及び前記下軸受の少なくとも一方と前記偏心部との間の隙間に導き、
前記給油孔が前記偏心部の上部に設けられる場合には、当該給油孔が前記上軸受と前記偏心部との間の隙間に連通し、
前記給油孔が前記偏心部の下部に設けられる場合には、当該給油孔が前記下軸受と前記偏心部との間の隙間に連通し、
前記シャフトの軸方向における前記給油孔の位置は、前記シリンダが設けられている軸方向の範囲内であり、
前記シャフトの軸方向に垂直であって、当該シャフトにおける前記給油孔を含む面の断面二次モーメントが、前記シャフトの軸方向に垂直であって、前記主軸部における前記給油流路を含む面の断面二次モーメントよりも大きい、ロータリ圧縮機。
【請求項3】
シリンダと、
前記シリンダ内で公転する環状のローラと、を備えるとともに、
主軸部と、前記主軸部に対して偏心し、前記ローラの内周面に摺接する偏心部と、を有するシャフトと、
前記シリンダの上側に設けられ、前記シャフトを軸支する上軸受と、
前記シリンダの下側に設けられ、前記シャフトを軸支する下軸受と、
前記シリンダと前記ローラとの間の空間を仕切る板状のベーンと、を備え、
前記シャフトには、潤滑油を軸方向に導く給油流路が設けられるとともに、前記給油流路からの潤滑油が通流する給油孔が設けられ、
前記給油孔は、前記給油流路からの潤滑油を、前記上軸受及び前記下軸受の少なくとも一方と前記偏心部との間の隙間に導き、
前記シャフトの軸方向における前記給油孔の位置は、前記シリンダが設けられている軸方向の範囲内であり、
前記シャフトの軸方向に垂直であって、当該シャフトにおける前記給油孔を含む面の断面二次モーメントが、前記シャフトの軸方向に垂直であって、前記主軸部における前記給油流路を含む面の断面二次モーメントよりも大きく、
前記シャフトの中心軸線を通り、前記偏心部が偏心している向きに延びる直線で、前記給油孔を含む前記シャフトの横断面を2つの領域に分けた場合において、2つの前記領域のうち、前記シャフトの回転に伴って前記ローラが移動する向きとは反対側の領域の内部に前記給油孔が設けられる、ロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記給油流路からの潤滑油が、少なくとも前記上軸受と前記偏心部との間の隙間に導かれる構成において、
前記上軸受は、その内周面の下端付近が面取りされてなる第1面取り部を有し、
前記第1面取り部が前記隙間に面している部分の面積は、前記給油孔の流路面積よりも大きいこと
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記給油流路の潤滑油が、少なくとも前記下軸受と前記偏心部との間の隙間に導かれる構成において、
前記下軸受は、その内周面の上端付近が面取りされてなる第2面取り部を有し、
前記第2面取り部が前記隙間に面している部分の面積は、前記給油孔の流路面積よりも大きいこと
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記給油孔は、前記主軸部に対して前記偏心部が偏心している向きに対する反対側の向きを基準として、前記シャフトの周方向で±90°の範囲内に設けられること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機を備えるとともに、室外熱交換器と、膨張弁と、室内熱交換器と、を備える空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ圧縮機等に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリ圧縮機に関して、例えば、特許文献1,2に記載の技術が知られている。すなわち、特許文献1には、ロータリ圧縮機のクランク軸の偏心軸近傍スラスト摺動面に部分的に傾斜形状を設けることが記載されている。また、特許文献2には、ロータリ圧縮機のクランク軸に給油孔やガス抜き孔を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-077728号公報
【文献】特開2015-040472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、クランク軸において下軸受の上端付近に対応する箇所が径方向内側に凹んだ溝を設けることで、下軸受等に潤滑油が供給されやすくなるようにしている(特許文献1の図1)。しかしながら、このような溝をクランク軸の表面に設けると、クランク軸の剛性が低下するため、冷媒の圧縮荷重等でクランク軸が変形しやすくなる。その結果、上軸受や下軸受に対するクランク軸の片当たりが生じる可能性がある。
【0005】
また、特許文献2に記載の技術では、クランク軸と副軸受(下軸受)との摺動面に給油するための下側給油孔が、クランク軸において副軸受に対応する箇所に設けられている(特許文献2の図1)。しかしながら、このような下側給油孔をクランク軸に設けると、クランク軸の剛性が低下するため、副軸受等に対するクランク軸の片当たりが生じる可能性がある。したがって、ロータリ圧縮機の信頼性をさらに高める余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、信頼性の高いロータリ圧縮機等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係るロータリ圧縮機は、シリンダと、前記シリンダ内で公転する環状のローラと、を備えるとともに、主軸部と、前記主軸部に対して偏心し、前記ローラの内周面に摺接する偏心部と、を有するシャフトと、前記シリンダの上側に設けられ、前記シャフトを軸支する上軸受と、前記シリンダの下側に設けられ、前記シャフトを軸支する下軸受と、前記シリンダと前記ローラとの間の空間を仕切る板状のベーンと、を備え、前記シャフトは、前記ローラの径方向内側において前記偏心部の上側に設けられ、前記シャフトの軸方向の移動を規制する上側移動規制部と、前記ローラの径方向内側において前記偏心部の下側に設けられ、前記シャフトの軸方向の移動を規制する下側移動規制部と、を有し、前記シャフトには、潤滑油を軸方向に導く給油流路が設けられるとともに、前記給油流路からの潤滑油が通流する給油孔が設けられ、前記給油孔は、前記上側移動規制部及び前記下側移動規制部の少なくとも一方に設けられ、前記給油孔は、前記給油流路からの潤滑油を、前記上軸受及び前記下軸受の少なくとも一方と前記偏心部との間の隙間に導き、前記シャフトの軸方向における前記給油孔の位置は、前記シリンダが設けられている軸方向の範囲内であり、前記シャフトの軸方向に垂直であって、当該シャフトにおける前記給油孔を含む面の断面二次モーメントが、前記シャフトの軸方向に垂直であって、前記主軸部における前記給油流路を含む面の断面二次モーメントよりも大きいこととした。なお、その他については、実施形態の中で説明する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性の高いロータリ圧縮機等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2】第1実施形態に係るロータリ圧縮機における、図1のII-II線矢視断面図である。
図3A】第1実施形態に係るロータリ圧縮機の圧縮機構部の縦断面を含む図である。
図3B】第1実施形態に係るロータリ圧縮機における、図3Aに示す領域K1の部分拡大図である。
図4】第1実施形態に係るロータリ圧縮機のクランク軸及び圧縮機構部を含む斜視図である。
図5】第1実施形態に係るロータリ圧縮機の給油孔の位置に関する説明図である。
図6】第1実施形態に係るロータリ圧縮機のシリンダ内をローラが移動する過程の説明図である。
図7】第2実施形態に係るロータリ圧縮機の圧縮機構部の縦断面を含む図である。
図8】第2実施形態に係るロータリ圧縮機のクランク軸及び圧縮機構部を含む斜視図である。
図9】第3実施形態に係るロータリ圧縮機の上側の給油孔を含む圧縮機構部の横断面図である。
図10】第3実施形態に係るロータリ圧縮機のシリンダ内をローラが移動する過程の説明図である。
図11】第4実施形態に係る空気調和機の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪第1実施形態≫
<ロータリ圧縮機の構成>
図1は、第1実施形態に係るロータリ圧縮機100の縦断面図である。
ロータリ圧縮機100は、ガス状の冷媒を圧縮する機器である。図1に示すように、ロータリ圧縮機100は、密閉容器1と、電動機2と、バランスウェイト31,32と、クランク軸4(シャフト)と、圧縮機構部5と、消音カバー6と、を備えている。
【0011】
密閉容器1は、電動機2やクランク軸4、圧縮機構部5等を収容する容器であり、略密閉されている。密閉容器1は、円筒状の筒チャンバ1aと、この筒チャンバ1aの上側を塞ぐ蓋チャンバ1bと、筒チャンバ1aの下側を塞ぐ底チャンバ1cと、を備えている。
【0012】
密閉容器1の筒チャンバ1aには、吸込パイプP1が差し込まれて固定されている。吸込パイプP1は、圧縮機構部5の吸込室C2(図2参照)に冷媒を導く管である。なお、吸込パイプP1の上流側には、冷媒の気液分離を行うためのアキュムレータ200が接続されている。また、密閉容器1の蓋チャンバ1bには、吐出パイプP2が差し込まれて固定されている。吐出パイプP2は、圧縮機構部5で圧縮された冷媒をロータリ圧縮機100の外部に導く管である。密閉容器1には、ロータリ圧縮機100の潤滑性やシール性を高めるための潤滑油が封入され、密閉容器1の底部に油溜りM1として貯留されている。
【0013】
電動機2は、クランク軸4を回転させる駆動源であり、密閉容器1の内部に設置されている。図1に示すように、電動機2は、固定子2aと、回転子2bと、を備えている。固定子2aは、電磁鋼板が積層されてなる円筒状の部材であり、筒チャンバ1aの内周面に固定されている。固定子2aには、巻線21aが所定に巻回されている。回転子2bは、電磁鋼板で形成された鉄心と、鉄心に埋設された永久磁石(図示せず)と、を有する円筒状の部材であり、固定子2aの径方向内側に回転自在に配置されている。回転子2bには、クランク軸4が同軸で固定されている。
【0014】
クランク軸4は、電動機2の駆動に伴って回転子2bと一体で回転する軸である。クランク軸4は、上下方向に延びており、上軸受5c及び下軸受5dによって回転自在に軸支されている。図1に示すように、クランク軸4は、主軸部4aと、偏心部4bと、上側移動規制部4cと、下側移動規制部4dと、を備えている。
【0015】
主軸部4aは、電動機2の回転子2bに同軸で固定されている。なお、主軸部4aは、次に説明する偏心部4bの上側に設けられるとともに、偏心部4bの下側にも設けられている。偏心部4bは、主軸部4aに対して偏心しながら回転する部分である。偏心部4bは、その外形が円筒状を呈し、主軸部4aと一体形成されている。偏心部4bは、クランク軸4の下部において、ローラ5bの径方向内側に配置されている。
【0016】
図1に示すように、クランク軸4には、潤滑油を軸方向に導く給油流路4eが設けられるとともに、給油流路4eからの潤滑油が通流する給油孔41c,41dが設けられている。給油流路4eは、密閉容器1に油溜りM1として貯留されている潤滑油を圧縮機構部5に導く流路である。給油流路4eは、クランク軸4の軸方向に設けられ、クランク軸4の下端で開口している。
【0017】
なお、給油流路4eの上端は、例えば、上側移動規制部4cの上端付近に位置している。また、給油流路4eの下端付近には、所定に捻じ曲げられた薄板状の金属片4fがオイルポンプとして設けられている。そして、金属片4fがクランク軸4と一体で回転することで、給油流路4eを介して潤滑油が汲み上げられるようになっている。なお、図1では図示を省略しているが、給油流路4eからローラ5bの径方向内側に潤滑油を導く横孔等が適宜に設けられてもよい。
【0018】
上側移動規制部4c及び下側移動規制部4dは、クランク軸4の軸方向の移動を規制する部位である。上側移動規制部4cは、ローラ5bの径方向内側において偏心部4bの上側に設けられている。また、下側移動規制部4dは、ローラ5bの径方向内側において偏心部4bの下側に設けられている。図1に示すように、上側移動規制部4cには、給油流路4eの潤滑油をクランク軸4の外側に導く給油孔41cが径方向に設けられている。また、下側移動規制部4dにも同様に、別の給油孔41dが径方向に設けられている。なお、給油孔41c,41dの詳細については後記する。
【0019】
圧縮機構部5は、クランク軸4の回転に伴ってガス状の冷媒を圧縮する機構であり、電動機2の下側に設けられている。圧縮機構部5は、シリンダ5aと、ローラ5bと、上軸受5cと、下軸受5dと、ベーン5eと、ベーンばね5fと、吐出弁5gと、を備えている。
【0020】
図2は、図1のII-II線矢視断面図である。
なお、図2は、上側の給油孔41cを含む水平方向の平面(図1のII-II線)でロータリ圧縮機100を切断して、下から見上げた場合の断面図になっている。
図2に示すシリンダ5aは、ローラ5bや上軸受5c(図3A参照)、下軸受5d(図3A参照)とともにシリンダ室C1を形成する部材であり、概ね環状(円筒状)を呈している。なお、シリンダ室C1とは、シリンダ5aとローラ5bとの間の空間である。シリンダ室C1には、吸込パイプP1(図1参照)を介して冷媒が導かれる吸込室C2と、冷媒を圧縮する圧縮室C3と、が含まれている。
【0021】
ローラ5bは、電動機2(図1参照)の駆動に伴ってシリンダ5a内で公転する部材であり、環状(円筒状)を呈している。そして、ローラ5bがシリンダ5aの内周面に摺接しつつ、シリンダ5aの内側を公転するようになっている。なお、前記したクランク軸4の偏心部4b(図1参照)は、円筒状を呈し、その外径がローラ5bの内径よりも若干短くなっている。そして、偏心部4b(図1参照)がローラ5bの内周面に摺接しながら移動することで、ローラ5bがシリンダ5aの内側を公転するようになっている。
【0022】
ベーン5eは、シリンダ5aとローラ5bとの間の空間(つまり、シリンダ室C1)を仕切る板状部材である。すなわち、ベーン5eの先端がローラ5bの外周面に押し当てられることで、シリンダ室C1が吸込室C2と圧縮室C3とに仕切られる。
【0023】
図2に示すように、シリンダ5aから径方向外側に突出してなる円弧状の基端部5hが、シリンダ5aと一体で設けられている。この基端部5h及びシリンダ5aを径方向に貫通している吸込通路(図示せず)に、吸込パイプP1(図1参照)が差し込まれて固定されている。そして、吸込パイプP1(図1参照)及び吸込通路(図示せず)を順次に介して、吸込室C2にガス状の冷媒が導かれるようになっている。
【0024】
また、図2では図示を省略しているが、基端部5hの所定箇所には、ベーンばね5f(図1参照)を装着するためのベーンばね装着穴(図示せず)が径方向に設けられている。また、ベーンばね装着穴(図示せず)と、シリンダ5aの径方向内側の空間と、を連通させるように、径方向のスリット(図示せず)がシリンダ5aに設けられている。このスリットは、ベーン5eを径方向で進退させるためのスペースであり、ベーン5eの板厚よりも若干幅広に設けられている。
【0025】
図1に示すベーンばね5fは、ベーン5eを径方向内向きに付勢するばねであり、前記したベーンばね装着穴(図示せず)に設置されている。そして、圧縮機構部5の内・外の圧力差やベーンばね5fの付勢力によって、ベーン5eの先端がローラ5bの外周面に押し当てられるようになっている。これによって、シリンダ5aとローラ5bとの間のシリンダ室C1が、吸込室C2と圧縮室C3とに仕切られる。
【0026】
シリンダ5aの上面の内周縁部の所定箇所には、吐出切欠きN1が設けられている。この吐出切欠きN1は、圧縮された冷媒を吐出弁5g(図1参照)に導く切欠きであり、図2に示すように、その縁が円弧状を呈している。なお、冷媒を吸込室C2に導く吸込通路(図示せず)の開口部と、吐出切欠きN1とは、いずれも周方向においてベーン5eに近接している。すなわち、吸込通路(図示せず)は、周方向においてベーン5eの一方側に開口している。また、吐出切欠きN1は、周方向においてベーン5eの他方側に設けられている。
【0027】
図3Aは、ロータリ圧縮機の圧縮機構部5の縦断面を含む図である。
図3Aに示す上軸受5cは、クランク軸4を回転自在に軸支する滑り軸受であり、シリンダ5aの上側(軸方向の一方側)に設けられている。この上軸受5cは、シリンダ5a及び下軸受5dとともに複数のボルト(図示せず)で締結され、さらに、筒チャンバ1a(図1参照)の内周面に固定されている。下軸受5dは、クランク軸4を回転自在に軸支する滑り軸受であり、シリンダ5aの下側(軸方向の他方側)に設けられている。
【0028】
また、上軸受5cにおいて、シリンダ5aの吐出切欠きN1(図2参照)に対応する箇所には、圧縮室C3(図2参照)で圧縮された冷媒を吐出弁5g(図1参照)に導く孔(図示せず)が設けられている。吐出弁5g(図1参照)は、圧縮された冷媒を密閉容器1(図1参照)内の空間に吐出するための弁(板ばね)であり、前記した孔を塞ぐように上軸受5cに設置されている。そして、圧縮された冷媒の圧力が吐出弁5gの弾性力に打ち勝ったときに、吐出弁5g(図1参照)が開くようになっている。
【0029】
図1に示す消音カバー6は、冷媒の圧縮に伴う騒音を抑制するためのカバーであり、上軸受5cの上面を部分的に覆った状態で、上軸受5cに固定されている。消音カバー6には、圧縮された冷媒を密閉容器1内の空間に放出するための複数の孔(図示せず)が設けられている。
【0030】
図3Bは、図3Aに示す領域K1の部分拡大図である。
図3Bに示す給油孔41cは、給油流路4e(図1参照)からの潤滑油を上軸受5cと偏心部4bとの間の隙間G1に導く孔であり、クランク軸4(図1参照)の上側移動規制部4cに設けられている。他方の給油孔41cは、給油流路4e(図1参照)からの潤滑油を下軸受5dと偏心部4bとの間の隙間G2に導く孔であり、クランク軸4(図1参照)かの下側移動規制部4dに設けられている。なお、クランク軸4の軸方向における給油孔41c,41dの位置は、シリンダ5a(図3A参照)が設けられている軸方向の範囲内になっている。
【0031】
図3Aに示す上側移動規制部4c及び下側移動規制部4dは、前記したように、クランク軸4の軸方向の移動を規制する部位であり、ローラ5bの径方向内側に設けられている。上側移動規制部4cと、偏心部4bと、下側移動規制部4dと、は主軸部4aとともに一体的に形成され、この順で上下方向に隣り合っている。
【0032】
図3Aに示すように、上側移動規制部4cの上面は、上軸受5cの下面に接触又は近接している。そして、ロータリ圧縮機100(図1参照)の駆動中にクランク軸4を上向きに押し上げる力が作用した場合には、上側移動規制部4cの上面が上軸受5cの下面に接触することで、クランク軸4の上向きの移動が規制されるようになっている。また、下側移動規制部4dの下面は、下軸受5dの上面に接触又は近接している。そして、クランク軸4を下向きに押し下げる力が作用した場合には、下側移動規制部4dによって、クランク軸4の下向きの移動が規制されるようになっている。
【0033】
このように上側移動規制部4c及び下側移動規制部4dを設けることで、クランク軸4の軸方向の移動が規制される。また、シリンダ室C1(図2参照)の容積を確保しつつ、偏心部4bの軸方向の長さを短くすることができる。したがって、偏心部4bがローラ5bに摺接する際の摺動損失を低減し、ひいては、冷媒を圧縮する際のエネルギ効率を高めることができる。
【0034】
図3Bに示す上軸受5cは、その内周面の下端付近が全周に亘って面取りされてなる第1面取り部51cを有している。第1面取り部51cは、上軸受5cと偏心部4bとの間に隙間G1を介して潤滑油を導くための面取りである。また、上軸受5cの内周面には、螺旋状の給油溝52c(図3A参照)が設けられている。そして、給油孔41cから流出した潤滑油が、第1面取り部51cと偏心部4bとの間の隙間G1を介して、螺旋状の給油溝52c(図3A参照)に導かれるようになっている。
【0035】
下軸受5dは、その内周面の上端付近が全周に亘って面取りされてなる第2面取り部51dを有している。第2面取り部51dは、下軸受5dと偏心部4bとの間の隙間G2を介して潤滑油を導くための面取りである。また、下軸受5dの内周面には、給油溝52d(図3A参照)がクランク軸4の軸方向に設けられている。そして、給油孔41dから流出した潤滑油が、第2面取り部51dと偏心部4bとの間の隙間G2を介して、給油溝52c(図3A参照)に導かれるようになっている。
【0036】
図4は、ロータリ圧縮機のクランク軸4及び圧縮機構部5を含む斜視図である。
なお、図4の圧縮機構部5については、クランク軸4の中心軸線を含む所定平面で切断した場合の斜視図を示している。図4に示すように、上側移動規制部4c及び下側移動規制部4dは、それぞれ、偏心部4bよりも上下方向の長さが短い所定の柱状を呈している。上側移動規制部4cや下側移動規制部4dの横断面の形状は、例えば、円形や楕円形であってもよいし、また、図2に示すような他の形状であってもよい。
【0037】
上側移動規制部4cが主軸部4aから径方向に突出している長さは、例えば、偏心部4bが偏心している向きで最も長く、また、偏心部4bが偏心している向とは反対側で最も短くなるようにしてもよい。なお、偏心部4bが偏心している向きとは、主軸部4aの中心軸線(図示せず)を基準として、偏心部4bの中心軸線(図示せず)に径方向に向かう場合の向きを意味している。
【0038】
上側移動規制部4cの周方向において、偏心部4bが偏心している向き(図4では概ね紙面奥側)に一致している箇所の上面は、上軸受5cの下面に接触又は近接している。一方、上側移動規制部4cの周方向において、偏心部4bが偏心している向きとは反対側(図4では概ね紙面手前側)の箇所の上面と上軸受5cとの間では、第1面取り部51cが所定の隙間G1(図3B参照)に面した状態になっている。また、上側移動規制部4cにおいて、偏心部4bが偏心している向きとは反対側に給油孔41cが設けられている。
【0039】
これによって、上側の給油孔41cを介して流出した潤滑油が第1面取り部51cに向かう際の移動距離が短くなるため、上軸受5c(図3B参照)の内周面に潤滑油が供給されやすくなる。また、下側移動規制部4d(図3B参照)についても同様に、偏心部4bが偏心している向きとは反対側に給油孔41d(図3B参照)が設けられている。
なお、給油孔41c,41dが設けられる位置は、偏心部4bが偏心している向きとは反対側の位置に限定されるものではなく、例えば、次の図5に示す領域S1(ドット表示の部分)の内部に給油孔41c等が設けられるようにしてもよい。
【0040】
図5は、給油孔41cの位置に関する説明図である。
なお、図5に示す構成は図2に示すものと同一であるが、説明のために断面のハッチングを省略している。また、第1面取り部51c(図3B参照)が上側の隙間G1(図3B参照)に面している部分F1については、目立つようにハッチングを入れている。
例えば、主軸部4aに対して偏心部4bが偏心している向き(図5の矢印A1)に対する反対側の向き(図5の矢印A2)を基準として、クランク軸4の周方向で±90°の範囲内(図5のドット表示の領域S1の内部)に給油孔41cが設けられるようにしてもよい。なお、他方の給油孔41d(図3B参照)についても同様である。これによって、例えば、給油孔41cを介して流出した潤滑油が第1面取り部51c(図3B参照)に向かう際の移動距離が短くなるため、上軸受5cへの給油が促進される。
【0041】
ちなみに、偏心部4bが偏心している向きに対応する箇所に給油孔41cが設けられた場合でも、上軸受5cの内周側に潤滑油が供給される。ただし、この場合には、環状の隙間G1(図3B参照)を介して潤滑油が迂回するように通流するため、給油孔41cから流出した潤滑油が上軸受5cに供給されるまでの移動距離が長くなる。なお、下側の給油孔41dについても同様のことがいえる。
【0042】
また、クランク軸4の軸方向に垂直であって、上側移動規制部4c(つまり、クランク軸4)における給油孔41cを含む面の断面二次モーメントが、クランク軸4の軸方向に垂直であって、主軸部4aにおける給油流路4e(図1参照)を含む面の断面二次モーメントよりも大きいことが好ましい。同様に、クランク軸4の軸方向に垂直であって、下側移動規制部4d(つまり、クランク軸4)における給油孔41dを含む面の断面二次モーメントが、クランク軸4の軸方向に垂直であって、主軸部4aにおける給油流路4e(図1参照)を含む面の断面二次モーメントよりも大きいことが好ましい。
【0043】
このような構成によれば、主軸部4aに給油孔が設けられる場合に比べて、断面二次モーメントが大きい上側移動規制部4cや下側移動規制部4dに給油孔41c,41dが設けられるため、クランク軸4の剛性の低下を抑制できる。また、上側の給油孔41cを介して上軸受5cへの給油を十分に行うことができる他、下側の給油孔41dを介して下軸受5dへの給油も十分に行うことができる。
【0044】
また、第1面取り部51c(図3B参照)が上側の隙間G1(図3B参照)に面している部分F1(図5のハッチングの部分)の面積は、給油孔41cの流路面積よりも大きいことが好ましい。ここで、給油孔41cの「流路面積」とは、給油孔41cの流路方向に対して垂直な所定平面で切断した場合の給油孔41cの面積である。また、前記した部分F1の面積とは、要するに、図5に示す隙間G1の領域を、円環状の第1面取り部51c(図3B参照)に投影した場合の共通部分の面積である。このような構成によれば、給油孔41cを介して流出した潤滑油が、第1面取り部51cの下側の隙間G1(図3B参照)を介して、上軸受5cの内周側に導かれやすくなる。したがって、上軸受5cの潤滑が促進される。
【0045】
また、第2面取り部51d(図3B参照)が下側の隙間G2(図3B参照)に面している部分(図示せず)の面積は、給油孔41dの流路面積よりも大きいことが好ましい。このような構成によれば、給油孔41dを介して流出した潤滑油が第2面取り部51dの上側の隙間G2(図3B参照)を介して、下軸受5dの内周側に導かれやすくなる。したがって、下軸受5dの潤滑が促進される。
【0046】
図6は、シリンダ5a内をローラ5bが移動する過程の説明図である。
なお、図6では、図1のII-II線の位置で圧縮機構部5を切断して、上から見下ろした場合の断面を示しているため、下から見上げた場合の断面である図2とは左右が逆になっている。
また、図6に示す回転角θは、クランク軸4(図1参照)の回転角である。図6の例では、シリンダ5aの内部でローラ5bが「上死点」に位置しているときの回転角θを0°としている。前記した「上死点」、ローラ5bの中心がベーン5eの先端に最も近づいたときのローラ5bの位置である。
【0047】
回転角θが0°のときには、ローラ5bによってベーン5eの先端がシリンダ5aの内周面の位置まで退いた状態になっており、シリンダ室C1の全体が圧縮室C3になっている。ローラ5bの回転角が大きくなるにつれて、圧縮室C3の容積が縮小し、冷媒が圧縮される。そして、冷媒の圧力が、板ばねである吐出弁5g(図1参照)の弾性力に打ち勝ったときに吐出弁5gが開き、吐出切欠きN1を介して密閉容器1(図1参照)の内部に高圧の冷媒が吐出される。
【0048】
また、クランク軸4(図4参照)の回転に伴って上側移動規制部4c(図4参照)も回転し、給油孔41cを介して、上軸受5cに潤滑油が供給される。同様に、クランク軸4の回転に伴って下側移動規制部4d(図4参照)も回転し、給油孔41dを介して、下軸受5dに潤滑油が供給される。これによって、上軸受5cや下軸受5dの潤滑が十分に行われる。
【0049】
<効果>
第1実施形態によれば、ロータリ圧縮機100は、クランク軸4における給油孔41cや給油孔41dを含む面の断面二次モーメントが、主軸部4aの断面二次モーメントよりも大きくなるように構成されている。したがって、主軸部4aの表面に溝を設けたり、主軸部4aに給油孔を設けたりする場合に比べて、クランク軸4の剛性の低下を抑制できる。特に、圧縮荷重を最も受けやすい上軸受5cの下端付近や、下軸受5dの上端付近におけるクランク軸4の剛性の低下を抑制できる。また、ロータリ圧縮機100が高速で駆動された場合でも、クランク軸4の剛性が確保されているため、圧縮荷重・遠心力・磁気吸引力によるクランク軸4の変形を抑制できる。その結果、上軸受5cや下軸受5dへのクランク軸4の片当たりを抑制し、ひいては、上軸受5cや下軸受5dの損傷を抑制できる。
【0050】
また、上側移動規制部4cに給油孔41cが設けられている他、下側移動規制部4dに別の給油孔41dが設けられている。これによって、上軸受5cや下軸受5dに潤滑油が十分に供給されるため、ロータリ圧縮機100の性能や信頼性を高めることができる。
【0051】
≪第2実施形態≫
第2実施形態では、第1実施形態で説明した上側移動規制部4c(図3A参照)や下側移動規制部4d(図3A参照)が特に設けられず、その分だけ偏心部4Ab(図7参照)の軸方向の長さが第1実施形態よりも長くなっている。また、第2実施形態は、偏心部4Ab(図7参照)に2つの給油孔H1,H2(図7参照)が設けられる点が第1実施形態とは異なっている。なお、それ他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0052】
図7は、第2実施形態に係るロータリ圧縮機の圧縮機構部5の縦断面を含む図である。
図7に示すように、クランク軸4Aは、主軸部4aと、偏心部4Abと、を備えている。偏心部4Abは、ローラ5bの径方向内側に設けられ、ローラ5bの内周面に摺接している。偏心部4Abの上下方向の長さは、シリンダ5aやローラ5bの上下方向の長さよりも若干短くなっている。
【0053】
また、偏心部4Abの上部には、クランク軸4Aの給油流路4e(図1参照)の潤滑油を、偏心部4Abと上軸受5cとの間の隙間に導く給油孔H1が設けられている。同様に、偏心部4Abの下部には、クランク軸4Aの給油流路4e(図1参照)の潤滑油を、偏心部4Abと下軸受5dとの間の隙間に導く給油孔H2が設けられている。なお、クランク軸4Aの軸方向における給油孔H1,H2の位置は、シリンダ5aが設けられている軸方向の範囲内になっている。
【0054】
また、上軸受5cの内周面の下端付近には、第1実施形態と同様に、第1面取り部51cが全周に亘って設けられている。そして、給油孔H1を介して上側に流出する潤滑油が、上軸受5cと偏心部4Abとの間の隙間を介して、螺旋状の給油溝52cに導かれるようになっている。同様に、給油孔H2を介して下側に流出する潤滑油が、下軸受5dと偏心部4Abとの間の隙間を介して、給油溝52dに導かれるようになっている。
【0055】
なお、第1面取り部51cが、上軸受5cと偏心部4Abとの間の隙間に面している部分の面積は、給油孔H1の流路面積よりも大きいことが好ましい。また、第2面取り部51dが、下軸受5dと偏心部4Abとの間の隙間に面している部分の面積は、給油孔H2の流路面積よりも大きいことが好ましい。これによって、上軸受5cや下軸受5dに潤滑油が供給されやすくなる。
【0056】
また、クランク軸4Aの軸方向に垂直であって、偏心部4Ab(つまり、クランク軸4A)における給油孔H1を含む面の断面二次モーメントが、クランク軸4Aの軸方向に垂直であって、主軸部4aにおける給油流路4e(図1参照)を含む面の断面二次モーメントよりも大きくなっている。同様に、クランク軸4Aの軸方向に垂直であって、偏心部4Ab(つまり、クランク軸4A)における給油孔H2を含む面の断面二次モーメントが、クランク軸4Aの軸方向に垂直であって、主軸部4aにおける給油流路4e(図1参照)を含む面の断面二次モーメントよりも大きくなっている。このような構成によれば、主軸部4aに給油孔が設けられる場合に比べて、クランク軸4Aの剛性の低下を抑制できる。また、給油孔H1,H2を介して、上軸受5cや下軸受5dへの給油を十分に行うことができる。
【0057】
なお、給油孔H1,H2の周方向の位置については、第1実施形態(図5参照)と同様のことがいえる。すなわち、主軸部4aに対して偏心部4Abが偏心している向きに対する反対側の向きを基準として、クランク軸4Aの周方向で±90°の範囲内に給油孔H1,H2が設けられることが好ましい。これによって、偏心部4Abの上側・下側の各隙間が第1面取り部51cや第2面取り部51dに面している部分が、給油孔H1,H2の付近に常時存在することになる。したがって、上軸受5cや下軸受5dに潤滑油が供給されやすくなる。
【0058】
図8は、ロータリ圧縮機のクランク軸4A及び圧縮機構部5を含む斜視図である。
図8に示すように、偏心部4Abの上側の給油孔H1は、偏心部4Abの周面の上端付近に設けられる孔部H11と、この孔部H11の周囲が面取りのように切り欠かれてなる切欠部H12と、を有している。切欠部H12について説明すると、孔部H11の縁が、偏心部4Abの上面の周縁の所定箇所から下側にU字状に切り欠かれている他、孔部H11の上端が径方向内側に切り欠かれている。そして、給油孔H1を介して、偏心部4Abの上側に潤滑油が導かれるようになっている。
【0059】
偏心部4Abの下側の給油孔H2は、偏心部4Abの周面の下端付近に設けられる孔部H21と、この孔部H21の周囲が面取りのように切り欠かれてなる切欠部H22と、を有している。切欠部H22について説明すると、孔部H21の縁が、偏心部4Abの下面の周縁の所定箇所から上側に逆U字状に切り欠かれている他、偏心部4Abの下端が径方向内側に切り欠かれている。そして、給油孔H2を介して、偏心部4Abの上側に潤滑油が導かれるようになっている。
【0060】
<効果>
第2実施形態によれば、偏心部4Abと上軸受5cとの間の距離や、偏心部4Abと下軸受5dとの間の距離が比較的短い構成でも、偏心部4Abに給油孔H1,H2を設けることができる。これによって、クランク軸4Aの剛性の低下を抑制しつつ、上軸受5cや下軸受5dに潤滑油を十分に供給できる。
【0061】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、給油孔42c等(図9参照)が設けられる周方向の位置が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0062】
図9は、第3実施形態に係るロータリ圧縮機の上側の給油孔42cを含む圧縮機構部5の横断面図である。
なお、図9では、説明のために断面のハッチングを省略している。また、図9に示す矢印A3は、シリンダ5a内をローラ5bが公転する向きを示している。
図9に示すように、上側移動規制部4cには、給油孔42cが設けられている。また、図9には示していないが、下側移動規制部4d(図1参照)には、別の給油孔(図示せず)が設けられている。
【0063】
そして、クランク軸4Bの中心軸線Z1を通り、偏心部4bが偏心している向き(図9の矢印A4)に延びる直線L1で、給油孔42cを含むクランク軸4Bの横断面を2つの領域R1,R2に分けたとする。このような場合において、2つの領域R1,R2のうち、クランク軸4Bの回転に伴ってローラ5bが移動する向き(矢印A3)とは反対側の領域R2の内部に給油孔42cが設けられている。別の観点から説明すると、ローラ5bが公転する際の速度ベクトル(図示せず)の向きとは反対側の位置で開口するように、給油孔42cが設けられている。また、他方の下側の給油孔(図示せず)についても同様である。つまり、上側の給油孔42cと、下側の給油孔(図示せず)と、は周方向の位置が略一致している。なお、給油孔42c等の位置はこれに限定されず、領域R2における他の位置であってもよい。
【0064】
図10は、シリンダ5a内をローラ5bが移動する過程の説明図である。
なお、図10において、上死点を0°とした場合のクランク軸4B(図9参照)の回転角が270°の状態は、図9と同一になっている。例えば、圧縮室C3からの圧縮荷重が比較的大きい回転角270°の状態では、ベーン5eとは反対側(図10では紙面下側)にクランク軸4B(図9参照)が押圧され、さらに、クランク軸4Bによって上軸受5c(図1参照)や下軸受5d(図1参照)が押圧される。
【0065】
ここで、前記した領域R2(図9参照)に給油孔42cが設けられているため、上軸受5c(図1参照)において圧縮荷重が作用する部位に給油孔42cが近くなる。なお、下側の給油孔(図示せず)についても同様のことがいえる。これによって、上軸受5c(図1参照)や下軸受5d(図1参照)において圧縮荷重が作用する部位に潤滑油が供給されやすくなる。
【0066】
<効果>
第3実施形態によれば、ローラ5bが移動する向きとは反対側の領域R2の内部に給油孔42cが設けられている(他方の給油孔も同様)。これによって、上軸受5cや下軸受5dにおいて、クランク軸4Bから径方向に押圧される部位(圧縮荷重が作用する部位)に潤滑油が供給される。その結果、上軸受5cや下軸受5dへの潤滑を適切に行うことができる。
【0067】
≪第4実施形態≫
第4実施形態では、第1実施形態で説明したロータリ圧縮機100(図1参照)を備える空気調和機W1(図11参照)について説明する。なお、ロータリ圧縮機100の構成については、第1実施形態(図1参照)で説明したものと同様であるから、説明を省略する。
【0068】
図11は、第4実施形態に係る空気調和機W1の構成図である。
なお、図11の実線矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを示している。
一方、図11の破線矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを示している。
空気調和機W1は、冷房や暖房等の空調を行う機器である。図11に示すように、空気調和機W1は、ロータリ圧縮機100と、室外熱交換器71と、室外ファン72と、膨張弁73と、四方弁74と、室内熱交換器75と、室内ファン76と、を備えている。
【0069】
図11の例では、ロータリ圧縮機100、室外熱交換器71、室外ファン72、膨張弁73、及び四方弁74が、室外機U1に設けられている。一方、室内熱交換器75及び室内ファン76は、室内機U2に設けられている。
【0070】
ロータリ圧縮機100は、第1実施形態(図1参照)と同様の構成を備えている。なお、図11では図示を省略しているが、ロータリ圧縮機100における冷媒の吸込側には、冷媒の気液分離を行うためのアキュムレータが接続されている。
室外熱交換器71は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室外ファン72から送り込まれる外気と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。室外ファン72は、室外熱交換器71に外気を送り込むファンである。室外ファン72は、駆動源である室外ファンモータ72aを備え、室外熱交換器71の付近に設置されている。
【0071】
室内熱交換器75は、その伝熱管(図示せず)を通流する冷媒と、室内ファン76から送り込まれる室内空気(空調室の空気)と、の間で熱交換が行われる熱交換器である。室内ファン76は、室内熱交換器75に室内空気を送り込むファンである。室内ファン76は、駆動源である室内ファンモータ76aを備え、室内熱交換器75の付近に設置されている。
【0072】
膨張弁73は、「凝縮器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の一方)で凝縮した冷媒を減圧する弁である。なお、膨張弁73によって減圧された冷媒は、「蒸発器」(室外熱交換器71及び室内熱交換器75の他方)に導かれる。
【0073】
四方弁74は、空気調和機W1の運転モードに応じて、冷媒の流路を切り替える弁である。例えば、冷房運転時(図11の破線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、ロータリ圧縮機100、室外熱交換器71(凝縮器)、膨張弁73、及び室内熱交換器75(蒸発器)を順次に介して、冷媒が循環する。一方、暖房運転時(図11の実線矢印を参照)には、冷媒回路Q1において、ロータリ圧縮機100、室内熱交換器75(凝縮器)、膨張弁73、及び室外熱交換器71(蒸発器)を順次に介して、冷媒が循環する。
【0074】
<効果>
第4実施形態によれば、空気調和機W1が、性能や信頼性の高いロータリ圧縮機100を備えている。これによって、空気調和機W1の性能や信頼性を高めることができる。
【0075】
≪変形例≫
以上、本発明に係るロータリ圧縮機100等について各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態や第2実施形態では、給油流路4e(図1参照)の潤滑油が上軸受5cと偏心部4bとの間の隙間G1(図3B参照)に導かれるとともに、下軸受5dと偏心部4bとの間の隙間G2(図3B参照)にも導かれる構成について説明したが、これに限らない。すなわち、クランク軸4(シャフト)に設けられる給油孔が、給油流路4e(図1参照)からの潤滑油を、上軸受5c及び下軸受5dの少なくとも一方と偏心部4bとの間の隙間に導くようにしてもよい。具体的には、第1実施形態で説明した上側移動規制部4c(図3A参照)及び下側移動規制部4d(図3A参照)の少なくとも一方に給油孔が設けられるようにしてもよい。
また、第2実施形態で説明した偏心部4Ab(図7参照)の上部及び下部の少なくとも一方に給油孔が設けられるようにしてもよい。なお、第2実施形態において、給油孔H1(図7参照)が偏心部4Abの上部に設けられる場合には、この給油孔H1が上軸受5cと偏心部4Abとの間の隙間に連通しているものとする。また、第2実施形態において、給油孔H2(図7参照)が偏心部4Abの下部に設けられる場合には、この給油孔H2が下軸受5dと偏心部4Abとの間の隙間に連通しているものとする。
【0076】
また、給油孔41c,41dの一方が省略される場合において、ロータリ圧縮機100は、次のような構成であることが好ましい。すなわち、給油流路4e(図1参照)の潤滑油が、少なくとも上軸受5cと偏心部4bとの間の隙間G1(図3B参照)に導かれる構成において、上軸受5cの第1面取り部51cが隙間G1に面している部分F1(図5参照)の面積は、給油孔41cの流路面積よりも大きいことが好ましい。これによって、給油孔41cを介して流出した潤滑油が上軸受5cの内周側に導かれやすくなる。
また、給油流路4e(図1参照)の潤滑油が、少なくとも下軸受5dと偏心部4bとの間の隙間G2(図3B参照)に導かれる構成において、下軸受5dの第2面取り部51dが隙間G2に面している部分の面積は、給油孔41dの流路面積よりも大きいことが好ましい。これによって、給油孔41dを介して流出した潤滑油が下軸受5dの内周側に導かれやすくなる。なお、第2実施形態において、給油孔H1,H2の一方が省略される場合についても同様のことがいえる。
【0077】
また、各実施形態では、ロータリ圧縮機100が1つの圧縮機構部5(図1参照)を備える場合について説明したが、これに限らない。例えば、図示はしないが、ロータリ圧縮機のクランク軸が、互いに反対側に偏心している2つの偏心部を備え、一方の偏心部が第1の圧縮機構部のローラの内周面に摺接し、他方の偏心部が第2の圧縮機構部のローラの内周面に摺接するようにしてもよい。なお、2つの圧縮機構部が備える各シリンダの上下方向の間には、仕切板が介在しているものとする。このような構成によれば、一方の偏心部の移動に伴う回転のアンバランスが、他方の偏心部で打ち消されるため、ロータリ圧縮機の振動が抑制される。このような構成において、2つの偏心部のうち一方に給油孔が設けられるようにしてもよいし、また、2つの偏心部の両方に給油孔が設けられるようにしてもよい。なお、給油孔の構成は、第1実施形態(図4参照)又は第2実施形態(図8参照)と同様である。また、圧縮機構部の数が3つ以上であってもよい。
【0078】
また、各実施形態では、上軸受5cに螺旋状の給油溝52c(図3A参照)が設けられ、下軸受5dには軸方向の52d(図3A参照)が設けられる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、給油溝52c,52dの形状や範囲は、適宜に変更可能である。
【0079】
また、第4実施形態では、空気調和機W1(図11参照)が四方弁74(図11参照)を備える場合について説明したが、これに限らない。例えば、冷房専用や暖房専用の空気調和機の場合には、四方弁が適宜に省略されてもよい。
また、各実施形態は、適宜に組み合わせることが可能である。例えば、第2実施形態(図8参照)と第4実施形態(図11参照)とを組み合わせてもよいし、また、第3実施形態(図9参照)と第4実施形態(図11参照)とを組み合わせてもよい。
【0080】
また、各実施形態では、ロータリ圧縮機100(図1参照)が縦置きに配置される場合について説明したが、これに限らない。すなわち、ロータリ圧縮機100が横置きや斜め置きで配置される場合にも各実施形態を適用できる。
また、第4実施形態で説明した空気調和機W1(図11参照)は、ルームエアコンやパッケージエアコンの他、ビル用マルチエアコンといったさまざまな種類の空気調和機に適用できる。
【0081】
また、第4実施形態では、ロータリ圧縮機100を備える空気調和機W1(図11参照)について説明したが、これに限らない。すなわち、ロータリ圧縮機100は、冷凍機や給湯機、空調給湯システムの他、冷蔵庫といったさまざまな機器に適用できる。
【0082】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0083】
1 密閉容器
2 電動機
4,4A,4B クランク軸(シャフト)
4a 主軸部
4b,4Ab 偏心部
4c 上側移動規制部
4d 下側移動規制部
41c,42c 給油孔(上側の給油孔)
41d 給油孔(下側の給油孔)
4e 給油流路
5,5A 圧縮機構部
5a シリンダ
5b ローラ
5c 上軸受
5d 下軸受
51c 第1面取り部
51d 第2面取り部
5e ベーン
71 室外熱交換器
72 室外ファン
73 膨張弁
74 四方弁
75 室内熱交換器
76 室内ファン
100 ロータリ圧縮機
C1 シリンダ室(空間)
F1 部分
G1 隙間(上軸受と偏心部との間の隙間)
G2 隙間(下軸受と偏心部との間の隙間)
H1 給油孔(上側の給油孔)
H2 給油孔(下側の給油孔)
L1 直線
R1 領域
R2 領域(反対側の領域)
W1 空気調和機
Z1 中心軸線(シャフトの中心軸線)
【要約】
【課題】信頼性の高いロータリ圧縮機等を提供する。
【解決手段】ロータリ圧縮機は、シリンダ5aと、ローラ5bと、クランク軸4と、上軸受5cと、下軸受5dと、ベーンと、を備え、クランク軸4には、給油流路が設けられるとともに、給油孔41c,41dが設けられ、給油孔41c,41dは、給油流路からの潤滑油を、上軸受5c及び下軸受5dの少なくとも一方と偏心部4bとの間の隙間に導き、クランク軸4の軸方向における給油孔41c,41dの位置は、シリンダ5aが設けられている軸方向の範囲内であり、クランク軸4の軸方向に垂直であって、クランク軸4における給油孔41c,41dを含む面の断面二次モーメントが、クランク軸4の軸方向に垂直であって、主軸部4aにおける給油流路を含む面の断面二次モーメントよりも大きい。
【選択図】図4
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11