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特許7228752炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法、粉末組成物、窒化ホウ素焼結体及びその製造方法、並びに複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法、粉末組成物、窒化ホウ素焼結体及びその製造方法、並びに複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20230216BHJP
   C01B 21/082 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 41/82 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C01B21/06 B
C01B21/082 K
C04B35/583
C04B41/82 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022553965
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035435
(87)【国際公開番号】W WO2022071240
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2020163436
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031170(JP,A)
【文献】特開2009-119423(JP,A)
【文献】特開2013-053018(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158758(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
C04B 35/583
C04B 41/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子を含み、
比表面積が12~80gである、炭窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記塊状粒子の外縁に前記炭窒化ホウ素の一次粒子が露出している、請求項1に記載の炭窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
CNを含有する、請求項1又は2に記載の炭窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子と焼結助剤とを含み、比表面積が12m/g以上である、粉末組成物。
【請求項5】
窒化ホウ素の一次粒子を含み、
走査型電子顕微鏡で500倍に拡大して観察される、粒子を100個以上含む断面画像において、前記一次粒子が凝集して形成される粒径30μm以上の塊状粒子の個数が平均で3個以下である、窒化ホウ素焼結体。
【請求項6】
配向性指数が10以下である、請求項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項7】
熱伝導率が26W/(m・K)以上である、請求項又はに記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項8】
炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、
前記焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と、を有する、炭窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、
前記焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と、
前記炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得る焼成工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項10】
炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、
前記焼成物と焼結助剤とを配合して粉砕し、炭窒化ホウ素粉末と前記焼結助剤とを含む比表面積が12m/g以上である粉末組成物を得る粉砕工程と、
前記粉末組成物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得る焼成工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記粉砕工程は粉砕機を用いて行う、請求項又は10に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記炭窒化ホウ素粉末は、細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子を含み、前記塊状粒子の外縁に前記炭窒化ホウ素の一次粒子が露出している、請求項11のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項13】
請求項のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体と、前記窒化ホウ素焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含む、複合体。
【請求項14】
請求項12のいずれか一項に記載の製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、前記窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の前記気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法、粉末組成物、窒化ホウ素焼結体及びその製造方法、並びに複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材として、セラミックが用いられている。
【0003】
セラミックの一種である窒化ホウ素は、潤滑性、熱伝導性及び絶縁性に優れている。このため、窒化ホウ素及びこれを他の材料と複合化した材料を上述のような絶縁層及び熱インターフェース材として用いることが検討されている。例えば、特許文献1では、窒化ホウ素成形体を樹脂と複合化するとともに、窒化ホウ素の配向度及び黒鉛化指数を所定の範囲にして、熱伝導率に優れつつ熱伝導率の異方性を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-162697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の半導体装置等のデバイスにおける回路の高集積化に伴って、従来よりもさらに高い放熱特性を有する放熱部材が求められている。そこで、本開示は、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及びその製造方法を提供する。また、本開示は、十分に高い熱伝導率を有する複合体及びその製造方法を提供する。また、本開示では、そのような窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することが可能な炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに粉末組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一つの側面において、細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子を含み、比表面積が12m/g以上である、炭窒化ホウ素粉末を提供する。このような炭窒化ホウ素粉末は、塊状粒子が小さいため、焼結原料として用いると十分に緻密化した窒化ホウ素焼結体を製造することができる。このような窒化ホウ素焼結体は高い熱伝導率を有する。
【0007】
上記炭窒化ホウ素粉末に含まれる塊状粒子の外縁に炭窒化ホウ素の一次粒子が露出していてもよい。このような塊状粒子を含む炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを配合して焼成すると、焼結助剤によって一次粒子の粒成長が促進される。これによって、塊状粒子の緻密化が促進され、一層緻密化された窒化ホウ素焼結体を製造することができる。このような窒化ホウ素焼結体は一層高い熱伝導率を有する。
【0008】
本開示は、一つの側面において、細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子と焼結助剤とを含み、比表面積が12m/g以上である、粉末組成物を提供する。このような粉末組成物は、比表面積が大きいため、焼結原料として用いると十分に緻密化した窒化ホウ素焼結体を製造することができる。このような窒化ホウ素焼結体は高い熱伝導率を有する。
【0009】
本開示は、一つの側面において、窒化ホウ素の一次粒子を含み、走査型電子顕微鏡で500倍に拡大して観察される、粒子を100個以上含む断面画像において、一次粒子が凝集して形成される粒径30μm以上の塊状粒子の個数が平均で3個以下である、窒化ホウ素焼結体を提供する。このような窒化ホウ素焼結体は、大きい粒径を有する塊状粒子が十分に低減されているため、十分に高い熱伝導率を有する。
【0010】
上記窒化ホウ素焼結体の配向性指数は10以下であってよい。これによって、熱伝導率の異方性を十分に低減することができる。上記窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は、26W/(m・K)以上であってよく、35W/(m・K)以上であってよい。
【0011】
本開示は、一つの側面において、炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、上記焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と、を有する、炭窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。この製造方法では、炭化ホウ素を窒化して得られる炭窒化ホウ素を含む焼成物を粉砕して、比表面積が所定値以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程を有している。この粉砕工程では、塊状粒子の外殻が粉砕されて塊状粒子が微細化される。微細化された炭窒化ホウ素粉末は、焼成によって十分に緻密化が進行する。したがって、上記製造方法によって得られる炭窒化ホウ素粉末を窒化ホウ素焼結体の製造に用いれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。
【0012】
本開示は、一つの側面において、炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、上記焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程と、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤と、を含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得る焼成工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供する。上記粉砕工程では、焼成物に含まれる炭窒化ホウ素の塊状粒子の外殻が粉砕されて塊状粒子が微細化される。微細化されて得られる炭窒化ホウ素粉末は、焼成すると円滑に窒化ホウ素を生成するとともに十分に緻密化する。したがって、焼成工程における窒化ホウ素の緻密化が促進され、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。
【0013】
本開示は、一つの側面において、炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物と焼結助剤とを配合して粉砕し、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤を含む比表面積が12m/g以上である粉末組成物を得る粉砕工程と、粉末組成物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得る焼成工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供する。上記粉砕工程においても、焼成物に含まれる炭窒化ホウ素の塊状粒子の外殻が粉砕されて塊状粒子が微細化される。微細化されて得られる、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤を含む粉末組成物は、焼成すると円滑に窒化ホウ素を生成するとともに十分に緻密化する。したがって、焼成工程における窒化ホウ素の緻密化が促進され、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。
【0014】
上記粉砕工程は粉砕機を用いて行ってよい。これによって、十分に微細化された炭窒化ホウ素粉末を効率よく製造することができる。このような窒化ホウ素粉末を用いれば、緻密化が一層促進された窒化ホウ素焼結体を高い生産効率で製造することができる。
【0015】
上記炭窒化ホウ素粉末は、細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子を含み、塊状粒子の外縁に炭窒化ホウ素の一次粒子が露出していてよい。炭窒化ホウ素の一次粒子が塊状粒子から露出していると、焼結助剤の作用によって窒化ホウ素の生成反応と一次粒子の粒成長が促進されると考えられる。これによって、一層高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。
【0016】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含む、複合体を提供する。このような複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体を備えるため、十分に高い熱伝導率を有する。このため、例えば放熱部材として好適に用いることができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法を提供する。このような複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体を備えるため、十分に高い熱伝導率を有する。このため、例えば放熱部材として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及びその製造方法を提供することができる。また、十分に高い熱伝導率を有する複合体及びその製造方法を提供することができる。また、そのような窒化ホウ素焼結体を製造することが可能な炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに粉末組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係る炭窒化ホウ素粉末に含まれる塊状粒子の例を示すSEM写真である。
図2図2は、炭窒化ホウ素の塊状粒子の比較例を示すSEM写真である。
図3図3は、一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体の断面を模式的に示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体の断面の一例を示すSEM写真である。
図5図5は、窒化ホウ素焼結体の断面の比較例を示すSEM写真である。
図6図6は、実施例1の粉砕前の焼成物のSEM写真である。
図7図7は、実施例1の粉砕後の炭窒化ホウ素粉末のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0021】
一実施形態に係る炭窒化ホウ素粉末は、細孔を有する炭窒化ホウ素の塊状粒子を含む。炭窒化ホウ素粉末は、主成分として炭窒化ホウ素を含んでおり、炭窒化ホウ素以外の副成分を含んでいてよい。副成分としては、炭化ホウ素、炭素、三酸化二ホウ素、及びホウ酸等が挙げられる。炭窒化ホウ素粉末における炭窒化ホウ素の含有比率は60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってもよい。炭窒化ホウ素の含有比率は、例えば酸素・窒素分析装置の測定値に基づいて求めることができる。
【0022】
炭窒化ホウ素粉末の比表面積は、12m/g以上である。この比表面積は、BET1点法によって測定される。上記比表面積は、焼結原料として用いたときに窒化ホウ素の生成及び緻密化を促進する観点から、13m/g以上であってよく、14m/g以上であってよく、15m/g以上であってもよい。また、窒化ホウ素焼結体としたときに、熱伝導率を十分に高くする観点から、炭窒化ホウ素粉末の比表面積は、70m/g以下であってよく、60m/g以下であってもよい。炭窒化ホウ素粉末の比表面積の一例は、12~70m/gであってよい。
【0023】
炭窒化ホウ素粉末は、複数の塊状粒子を含んでよい。この場合、粒径の最大値は、50μm以下であってよく、40μm以下であってよく、35μm以下であってもよい。粒径は、以下の手順で測定される。走査型電子顕微鏡(SEM)によって塊状粒子の二次元の画像を撮影する。互いに異なる位置を映す20視野において画像を撮影し、各画像に含まれる各塊状粒子の粒径を測定する。粒径は、1つの塊状粒子において最も間隔が大きくなるように選択された外縁上の2点間の距離として測定される。
【0024】
図1は、本実施形態の炭窒化ホウ素粉末に含まれる炭窒化ホウ素の塊状粒子の例を示す断面のSEM写真である。図2は、炭窒化ホウ素の塊状粒子の比較例を示す断面のSEM写真である。図1に示す塊状粒子10,11,12,13は、細孔を含有するとともに、炭窒化ホウ素の一次粒子20を複数含有する。塊状粒子10,11,12,13には、その輪郭を形成する外殻部を有しておらず、塊状粒子の外縁に、一次粒子20が露出している。一方、図2に示す塊状粒子101,102,103は、複数の炭窒化ホウ素の一次粒子20と、複数の一次粒子20を取り囲む外殻部200とを有する。外殻部200は、塊状粒子101,102,103の全周に亘って塊状粒子101,102,103の輪郭を形成している。
【0025】
図1のような塊状粒子10,11,12,13を含む炭窒化ホウ素粉末は、外殻部200を有しないことから、窒化ホウ素焼結体の焼結原料として用いると、窒化ホウ素の生成及び緻密化が円滑に進行する。その理由としては、一次粒子20が塊状粒子10,11,12から露出しているため、焼結助剤を配合すると、焼結助剤と一次粒子20とが接触して窒化ホウ素の生成及び粒成長を促進するからと考えられる。このようにして得られる窒化ホウ素焼結体は十分に緻密化が進行しており、十分に高い熱伝導率を有する。また、熱伝導率の異方性が低減され、部材としての汎用性を向上することができる。このように、炭窒化ホウ素粉末は、窒化ホウ素焼結体の製造用として好適である。ただし、炭窒化ホウ素粉末の用途は、窒化ホウ素焼結体の製造用に限定されるものではない。
【0026】
一実施形態に係る粉末組成物は、上記塊状粒子と焼結助剤とを含む。この粉末組成物における炭窒化ホウ素の含有量は、不純物の少ない窒化ホウ素焼結体を得る観点から、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってもよい。粉末組成物における焼結助剤の含有量は、焼結の促進を図る観点から、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってもよい。焼結助剤は、粉末組成物を加熱したときに、炭窒化ホウ素から窒化ホウ素を生成する反応と窒化ホウ素の緻密化を促進する成分である。焼結助剤は、構成元素として酸素を有するホウ素化合物と、カルシウム化合物とを含んでよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂、三酸化二ホウ素等が挙げられる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、及び、酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ素化合物及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。
【0027】
粉末組成物の比表面積は、12m/g以上である。この比表面積は、BET1点法によって測定される。上記比表面積は、焼結原料として用いたときに窒化ホウ素の生成及び緻密化を促進する観点から、13m/g以上であってよく、14m/g以上であってよく、15m/g以上であってもよい。また、窒化ホウ素焼結体としたときに、熱伝導率を十分に高くする観点から、粉末組成物の比表面積は、80m/g以下であってよく、70m/g以下であってよく、60m/g以下であってもよい。粉末組成物の比表面積の一例は、12~80m/gであってよい。
【0028】
一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体は、走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍に拡大して観察される、粒子を100個以上含む断面画像において、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して形成される粒径30μm以上の塊状粒子の個数が平均で3個以下である。SEM画像(断面画像)に含まれる塊状粒子の粒径は、図3に示すように最も間隔が大きくなるように選択された塊状粒子301,302の外縁上の2点間の距離L1,L2等として測定される。なお、図3では、見やすさを考慮して100個の粒子は描かれていないが、実際の測定にあたっては、100個以上の粒子を含む断面画像を用いる。
【0029】
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察は、互いに異なる5箇所以上の視野で行う。そして、各視野において観察された粒径30μm以上の塊状粒子の個数の平均を求める。これによって、視野の選択によって生じるばらつきを十分に低減することができる。
【0030】
100個の粒子は、画像において判別される粒子であれば特に制限なくカウントすることができる。一次粒子が判別できないような1つの塊状粒子であれば、粒子の個数は1となる。一方、10個の一次粒子が凝集して1つの塊状粒子を形成している場合、粒子数は一次粒子の個数として10個とカウントされる。なお、100個以上含む画像を用いるのは、粒径の大きい塊状粒子のみを恣意的に撮影して粒径30μm以上の塊状粒子の個数が実態よりも多くカウントされることを除く趣旨である。
【0031】
図4は、本実施形態の窒化ホウ素焼結体の断面の一例を示すSEM写真である。図5は、窒化ホウ素焼結体の断面の比較例を示すSEM写真である。図4に示す窒化ホウ素焼結体の断面の画像は、一次粒子が凝集して形成される塊状粒子を含んでいない。当該画像の窒化ホウ素焼結体は、塊状粒子ではなく一次粒子で直接構成されている。すなわち、一次粒子同士が焼結して窒化ホウ素焼結体を構成している。一方、図5に示す窒化ホウ素焼結体の断面の画像には、粒径30μm以上の塊状粒子303,304,305が示されている。なお、図5に示す塊状粒子306のように一部のみが映し出された塊状粒子であっても、映し出された部分で粒径を測定して30μm以上であれば、粒径30μm以上の塊状粒子としてカウントする。
【0032】
本実施形態の窒化ホウ素焼結体の配向性指数は10以下であってよく、9以下であってもよい。これによって、熱伝導率の異方性を十分に低減することができる。配向性指数は窒化ホウ素結晶の配向度を定量化するための指標である。配向性指数は、X線回折装置で測定される窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比[I(002)/I(100)]で算出することができる。
【0033】
窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は、26W/(m・K)以上であってよく、30W/(m・K)以上であってよく、40W/(m・K)以上であってもよい。熱伝導率が高い窒化ホウ素焼結体を用いることによって、放熱性能に十分に優れる放熱部材を得ることができる。熱伝導率(H)は、以下の計算式(1)で求めることができる。
H=A×B×C (1)
【0034】
式(1)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m/sec)、Bはかさ密度(kg/m)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、レーザーフラッシュ法によって測定することができる。かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から測定することができる。比熱容量Cは、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0035】
窒化ホウ素焼結体の形状は特に限定されず、例えばシート状(薄板形状)であってよく、ブロック状であってもよい。窒化ホウ素焼結体は、絶縁層、及び、熱インターフェース材等に用いることができる。窒化ホウ素焼結体は、主成分として窒化ホウ素を含んでおり、窒化ホウ素以外の副成分を含んでいてよい。副成分としては、炭化ホウ素、炭窒化ホウ素、炭素、及びカルシウム化合物等が挙げられる。窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素の含有比率は90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってもよい。窒化ホウ素の含有比率は、例えばX線回折測定によって測定することができる。
【0036】
このようにして得られた窒化ホウ素焼結体は、十分に高い熱伝導率を有しており、電気絶縁性にも優れる。したがって、半導体装置等の各種デバイスの放熱部材として好適に用いることができる。窒化ホウ素焼結体は、気孔を含有していてよい。すなわち、多孔質であってよい。窒化ホウ素焼結体は、閉気孔と開気孔の両方を含んでいてよい。窒化ホウ素焼結体の気孔率は40~60体積%であってよく、45~55体積%であってもよい。気孔率は、窒化ホウ素の理論密度に基づいて求めることができる。
【0037】
一実施形態に係る複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と、窒化ホウ素焼結体の気孔に充填されている樹脂とを有する。上述の窒化ホウ素焼結体は十分に緻密化が進行しており、十分に高い熱伝導率を有する。このため、上述の窒化ホウ素焼結体を備える複合体も、高い熱伝導率を有する。このような複合体は放熱シートとして好適に用いることができる。なお、気孔の全てに樹脂が充填されている必要はなく、一部の気孔には樹脂が充填されていなくてもよい。複合体は、閉気孔と開気孔の両方を含んでいてよい。樹脂は、熱硬化性樹脂組成物及び/又は光硬化性樹脂組成物の硬化物であってよく、半硬化物であってもよい。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物としては、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、硬化剤と、を含有してよい。
【0039】
シアネート基を有する化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、及びビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TACN(三菱ガス化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0040】
ビスマレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、及び4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミドは、例えば、BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0041】
エポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。例えば、HP-4032D(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン等であってもよい。
【0042】
硬化剤は、ホスフィン系硬化剤及び/又はイミダゾール系硬化剤を含有してもよい。ホスフィン系硬化剤はシアネート基を有する化合物又はシアネート樹脂の三量化によるトリアジン生成反応を促進し得る。ホスフィン系硬化剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレートは、例えば、TPP-MK(北興化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0043】
イミダゾール系硬化剤はオキサゾリンを生成し、エポキシ基を有する化合物又はエポキシ樹脂の硬化反応を促進する。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾールは、例えば、2E4MZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0044】
ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、5質量部以下、4質量部以下又は3質量部以下であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上又は0.5質量部以上であってよい。
【0045】
イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以下、0.05質量部以下又は0.03質量部以下であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上又は0.005質量部以上であってよい。
【0046】
樹脂組成物は上述のものに限定されず、窒化ホウ素焼結体に含浸し、硬化又は半硬化するものを適宜用いることができる。
【0047】
一実施形態に係る炭窒化ホウ素粉末の製造方法は、炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る窒化工程と、焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上である炭窒化ホウ素粉末を得る粉砕工程とを有する。
【0048】
炭化ホウ素を含む粉末は、例えば、以下の手順で調製することができる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合した後、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素を含む塊状物を得る。この塊状物を、粉砕し、洗浄、不純物除去、及び乾燥を行って調製することができる。
【0049】
窒化工程では、炭化ホウ素を含む粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得る。窒化工程における焼成温度は、1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。また、当該焼成温度は、2400℃以下であってよく、2200℃以下であってもよい。当該焼成温度は、例えば、1800~2400℃であってよい。
【0050】
窒化工程における窒素分圧は、0.6MPa以上であってよく、0.7MPa以上であってもよい。窒素分圧は、1.0MPa以下であってよく、0.9MPa以下であってもよい。窒素分圧は、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。窒素分圧が低過ぎると、炭化ホウ素の窒化が進行し難くなる傾向がある。一方、当該圧力が高過ぎると、製造コストが上昇する傾向にある。なお、本開示における圧力は絶対圧である。
【0051】
窒化工程における窒素を含む雰囲気の窒素ガス濃度は95体積%以上であってよく、99.9体積%以上であってもよい。窒化工程における焼成時間は、炭化ホウ素の窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0052】
粉砕工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素を含む焼成物を粉砕して炭窒化ホウ素粉末を得る。粉砕は、粉砕機を用いて行ってよい。粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル及びボールミル等が挙げられる。
【0053】
粉砕前の炭窒化ホウ素を含む焼成物の比表面積は、例えば12m/g未満である。このような焼成物を粉砕して、比表面積が12m/g以上の炭窒化ホウ素粉末を得る。このようにして得られる炭窒化ホウ素粉末は、図1に示すような、外殻部を有しない塊状粒子10,11,12を含む。これらの比表面積は、BET法によって測定される。粉砕後の炭窒化ホウ素粉末の比表面積は、後述する焼成工程で窒化ホウ素の生成及び緻密化を促進する観点から、13m/g以上であってよく、14m/g以上であってよく、15m/g以上であってもよい。また、窒化ホウ素焼結体としたときに、熱伝導率を十分に高くする観点から、炭窒化ホウ素粉末の比表面積は、80m/g以下であってよく、70m/g以下であってよく、60m/g以下であってもよい。粉砕後における炭窒化ホウ素粉末の比表面積の一例は、12~80m/gであってよい。
【0054】
このように微細化された炭窒化ホウ素粉末は、焼成によって十分に緻密化が進行する。したがって、上記製造方法によって得られる炭窒化ホウ素粉末を窒化ホウ素焼結体の製造に用いれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。なお、炭窒化ホウ素粉末の用途は、窒化ホウ素焼結体の製造に限定されるものではない。
【0055】
一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体の製造方法は、上述の窒化工程と粉砕工程を有する製造方法によって製造された炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得る焼成工程を有する。
【0056】
焼結助剤は、炭窒化ホウ素から窒化ホウ素を生成させるとともに、窒化ホウ素の緻密化を促進する機能を有する。焼結助剤は、構成元素として酸素を有するホウ素化合物と、カルシウム化合物とを含んでよい。配合物は、焼成物100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で1~50質量部含んでよく、3~47質量部含んでよく、5~45質量部含んでもよい。配合物における焼結助剤の含有量が過剰になると、窒化ホウ素の一次粒子の粒成長が進み過ぎて、窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均孔径が大きくなる傾向にある。一方、配合物における焼結助剤の含有量が過小になると、窒化ホウ素の生成及び一次粒子の粒成長が進み難くなり、窒化ホウ素焼結体の熱伝導率が低くなる傾向にある。
【0057】
配合物は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを0.5~70原子%含んでよく1~69原子%含んでもよい。このような比率でホウ素及びカルシウムを含有することによって、一次粒子の均質な粒成長を促進して窒化ホウ素焼結体の熱伝導率を一層高くすることができる。
【0058】
構成元素として酸素を有するホウ素化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂、三酸化二ホウ素等が挙げられる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、及び、酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ素化合物及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。また、成形性向上のため、配合物にバインダを配合してもよい。バインダとしては、アクリル化合物等が挙げられる。
【0059】
焼成物と焼結助剤の配合は、例えばヘンシェルミキサー等の混合機を用いて行ってよい。配合は、粉砕機又は解砕機を用いて行ってもよい。配合物は粉末プレス又は金型成形を行ってブロック状又はシート状の成形体としてもよいし、ドクターブレード法によって、シート状の成形体としてもよい。成形圧力は、例えば5~350MPaであってよい。
【0060】
このようにして得られた成形体を、例えば電気炉中で加熱して焼成する。加熱温度は、例えば1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。当該加熱温度は、例えば2200℃以下であってよく、2100℃以下であってもよい。加熱温度が低すぎると、粒成長が十分に進行しない傾向にある。加熱時間は、0.5時間以上であってよく、1時間以上、3時間以上、5時間以上、又は10時間以上であってもよい。当該加熱時間は、40時間以下であってよく、30時間以下、又は20時間以下であってもよい。当該加熱時間は、例えば、0.5~40時間であってよく、1~30時間であってもよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると製造コストが上昇する傾向にある。加熱雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。配合物にバインダを配合する場合、上述の加熱の前に、バインダが分解する温度と雰囲気で仮焼して脱脂してもよい。
【0061】
窒化ホウ素焼結体の製造方法は、上述の実施形態に限定されない。別の実施形態では、粉砕工程において、上記窒化工程で得られた焼成物と焼結助剤とを配合して粉砕し、比表面積が12m/g以上である、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む粉末組成物を得てもよい。すなわち、上記実施形態では、窒化工程で得られた焼成物を粉砕した後に焼結助剤を配合していたが、この別の実施形態では、窒化工程で得られた焼成物と焼結助剤とを配合した後に粉砕して炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含み、比表面積が12m/g以上である粉末組成物を得る。この粉末組成物の成形及び加熱を行って窒化ホウ素焼結体を得てもよい。これによって、焼成物の粉砕と、炭窒化ホウ素粉末と焼結助剤との配合を同時に行うことができる。焼成物と焼結助剤とを含む配合物の粉砕は、上記実施形態で挙げた粉砕機を用いて行うことができる。粉末組成物の比表面積の範囲は、上記実施形態の炭窒化ホウ素粉末と同じであってよい。
【0062】
上述のいずれの実施形態に係る窒化ホウ素焼結体の製造方法であっても、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。これによって、例えば、図4に示すような断面構造を有する窒化ホウ素焼結体を得ることができる。すなわち、SEMで500倍に拡大して観察される、粒子を100個以上含む断面画像において、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して形成される粒径30μm以上の塊状粒子の個数が平均で3個以下である窒化ホウ素焼結体を得ることができる。
【0063】
一実施形態に係る複合体の製造方法は、上述の製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する。含浸工程は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を付着させて行う。例えば、窒化ホウ素焼結体を樹脂組成物に浸漬して行ってよい。浸漬した状態で加圧又は減圧条件として行ってもよい。このようにして、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を充填することができる。樹脂組成物としては、上述の熱硬化性樹脂組成物を用いてよい。
【0064】
含浸工程は、密閉容器を備える含浸装置内を用いて行ってもよい。一例として、含浸装置内で減圧条件にて含浸を行った後、含浸装置内の圧力を上げて大気圧よりも高くして加圧条件で含浸を行ってもよい。このように減圧条件と加圧条件の両方を行うことによって、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を十分に充填することができる。減圧条件と加圧条件とを複数回繰り返し行ってもよい。含浸工程は、加温しながら行ってもよい。窒化ホウ素焼結体の気孔に含浸した樹脂組成物は、硬化又は半硬化が進行したり、溶剤が揮発したりした後、樹脂(硬化物又は半硬化物)となる。このようにして、窒化ホウ素焼結体とその気孔に充填された樹脂とを有する複合体が得られる。
【0065】
含浸工程の後に、気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有していてもよい。硬化工程では、例えば、含浸装置から樹脂が充填された複合体を取り出し、樹脂組成物(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射によって、樹脂組成物を硬化又は半硬化させる。
【0066】
このようにして得られた複合体は、シート状であり、薄い厚みを有する。このため、薄型且つ軽量であり、電子部品等の部材として用いられたときに電子部品等の小型化及び軽量化を図ることができる。また、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂が十分に充填されていることから、絶縁性にも優れる。ただし、その用途は放熱部材に限定されるものではない。
【0067】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、焼成工程では、成形と加熱を同時に行うホットプレスによって窒化ホウ素焼結体を得てもよい。
【実施例
【0068】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[窒化ホウ素焼結体]
(実施例1)
<炭窒化ホウ素粉末の調製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製の坩堝中に充填し、アーク炉を用いて、アルゴンガスの雰囲気下、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(BC)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して炭化ホウ素(BC)の粗粉を得た。この粗粉を、炭化ケイ素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0070】
調製した炭化ホウ素粉末を、窒化ホウ素製の坩堝に充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得た。粉砕機としてボールミルを用いて焼成物を16時間粉砕した。
【0071】
<比表面積の測定>
粉砕して得られた炭窒化ホウ素粉末(BCN粉末)と粉砕前の焼成物の比表面積を、それぞれ株式会社マウンテック製の比表面積測定装置(商品名:Macsorb HM Model-1200)を用いてBET1点法で測定した。測定結果は表1に示すとおりであった。表1には、粉砕前の比表面積と粉砕後の比表面積として示している。
【0072】
<炭窒化ホウ素の含有量の測定>
粉砕して得られた炭窒化ホウ素粉末(BCN粉末)と粉砕前の焼成物の炭窒化ホウ素の含有量は、窒素含有量の実測値D[質量%]と、炭窒化ホウ素中の理論窒素含有量(50.4質量%)とから、以下の計算式(2)によって求めた。
炭窒化ホウ素の含有量(質量%)=D/50.4×100 (2)
窒素含有量の実測値Dは、株式会社堀場製作所製の酸素・窒素分析装置(商品名:EMGA-920)を用いて測定した。計算式(2)による炭窒化ホウ素の含有量は粉砕前後で変わらず94質量%であった。
【0073】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による観察>
粉砕前の焼成物と粉砕して得られた炭窒化ホウ素粉末を、イオンミリング装置を用いて切断して断面を得た。走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、装置名:SU6600)を用いて、粉砕前の焼成物と粉砕して得られた炭窒化ホウ素粉末の断面を、それぞれ500倍に拡大して観察した。図6は、粉砕前の焼成物の断面を示すSEM写真である。図7は、炭窒化ホウ素粉末の断面を示すSEM写真である。図6に示されるように、粉砕前の焼成物は、いずれの粒子も外殻部200を有することが確認された。一方、炭窒化ホウ素粉末では、図7に示すように外殻部200が消失していることが確認された。互いに異なる20視野において図7に示すような断面画像をそれぞれ撮影し、各SEM写真に含まれる各塊状粒子を観察した。その結果、いずれの塊状粒子においても外殻部が消失しており、一次粒子が塊状粒子の外縁に露出していることが確認された。
【0074】
<窒化ホウ素焼結体の製造>
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを1.9質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが1.2原子%であった。上述の炭窒化ホウ素粉末100質量部に対して焼結助剤を19質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。
【0075】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、四角柱状(縦×横×厚さ=50mm×50mm×50mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、四角柱状の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは53mmであった。この厚みはノギスを用いて測定した。
【0076】
<熱伝導率の測定>
窒化ホウ素焼結体の厚さ方向の熱伝導率(H)を、上述の計算式(1)で求めた。熱拡散率Aは、窒化ホウ素焼結体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×0.40mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。かさ密度Bは、窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から算出した。比熱容量Cは、示差走査熱量計を用いて測定した。熱伝導率は表1に示すとおりであった。
【0077】
<気孔率の測定>
かさ密度Bと窒化ホウ素の理論密度(2280kg/m)とから、以下の計算式(3)によって気孔率を求めた。気孔率は表1に示すとおりであった。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (3)
【0078】
<配向性指数の測定>
X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)を用いて、窒化ホウ素焼結体の配向性指数[I(002)/I(100)]を求めた。X線回折装置の試料ホルダーにセットした測定試料(窒化ホウ素焼結体)にX線を照射して、ベースライン補正を行った。その後、窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比を算出した。これを配向性指数[I(002)/I(100)]とした。結果は、表1に示すとおりであった。
【0079】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察>
窒化ホウ素焼結体を、CP研磨機を用いて厚さ方向に沿って切断して断面を得た。この断面を、500倍に拡大して走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、装置名:SU6600)で観察した。図4は、実施例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真である。互いに異なる5箇所の視野で、図4に示すような窒化ホウ素焼結体の断面を観察したところ、粒径30μm以上の塊状粒子はいずれも含まれていなかった。いずれの視野も、100個以上の粒子を含んでいた。表1中の「SEM観察」の欄には、断面画像に含まれる粒径30μm以上の塊状粒子の平均個数を示した。
【0080】
(実施例2)
「炭窒化ホウ素粉末の調製」において、炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を粉砕する粉砕機としてボールミルの代わりに振動ミルを使用したこと、及び粉砕時間を12時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして炭窒化ホウ素粉末を調製した。実施例1と同様にしてSEM観察を行ったところ、粉砕前の焼成物は、いずれの粒子も外殻部200を有することが確認された。一方、炭窒化ホウ素粉末では、実施例1と同様に外殻部が消失しており、一次粒子が塊状粒子の外縁に露出していることが確認された。この炭窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体を作製した。実施例1と同様にして、焼成物の粉砕前と粉砕後における比表面積の測定、及び窒化ホウ素焼結体の各測定及びSEM観察を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0081】
(実施例3)
実施例1と同じ手順で炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得た。この焼成物の比表面積は表1の「粉砕前」の欄に示すとおりであった。この焼成物100質量部に対して、実施例1で用いた焼結助剤19質量部を配合し、配合物を振動ミルを用いて12時間粉砕した。このようにして炭窒化ホウ素(BCN)と焼結助剤を含む粉末組成物を得た。この粉末組成物のSEM観察を行ったところ、いずれの塊状粒子においても外殻部が消失しており、一次粒子が塊状粒子の外縁に露出していることが確認された。この粉末組成物の比表面積を、実施例1の粉砕後の炭窒化ホウ素粉末と同様にして測定した。測定結果は表1の「粉砕後」の欄に示すとおりであった。
【0082】
得られた粉末組成物を用いて、実施例1と同じ手順で成形体を作製して当該成形体をバッチ式高周波炉で加熱し、四角柱状の窒化ホウ素焼結体を得た。実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体の各測定及びSEM観察を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0083】
(実施例4)
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを63.7質量部配合した。実施例1と同じ手順で調製した炭窒化ホウ素粉末100質量部に対して、この焼結助剤を34.6質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を得た。この配合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体を製造した。実施例1と同様にして炭窒化ホウ素粉末及び窒化ホウ素焼結体の各測定及びSEM観察を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0084】
(比較例1)
実施例1と同じ手順で炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を調製した。焼成物の比表面積を実施例1と同様にして測定したところ、測定結果は表1に示すとおりであった。この焼成物を粉砕せずに、焼結助剤とヘンシェルミキサーを用いて混合して配合物を調製した。この配合物を用いて実施例1と同様にして窒化ホウ素焼結体を製造した。実施例1と同様にして、窒化ホウ素焼結体の各測定及びSEM観察を行った。各測定の結果は表1に示すとおりであった。焼成物の断面のSEM写真は図2に示すとおりであった。窒化ホウ素焼結体の断面のSEM写真は図5に示すとおりであった。
【0085】
【表1】
【0086】
SEMによる窒化ホウ素焼結体の断面観察の結果、実施例1~4では、粒子を100個以上含む5つの断面画像のいずれにおいても、粒径30μm以上の塊状粒子が存在していなかった。一方、比較例1では、粒子を100個以上含む5つの断面画像の全てにおいて、粒径30μm以上の塊状粒子が存在していた。断面画像一つあたりの粒径30μm以上の塊状粒子の個数平均は、3個を超えていた。
【0087】
[複合体]
<複合体の作製>
圧力が0.03kPaに制御された含浸装置内において、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)と硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-84B)を含む樹脂組成物中に、実施例1~4及び比較例1の窒化ホウ素焼結体をそれぞれ浸漬し、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させた。含浸後、大気圧下、温度150℃で60分間加熱して樹脂組成物を硬化させ、複合体を得た。この複合体は、窒化ホウ素焼結体と同等の厚み及び熱伝導率を有していた。したがって、電子部品の放熱部材として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示によれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及びその製造方法が提供される。また、本開示によれば、そのような窒化ホウ素焼結体を製造することが可能な炭窒化ホウ素粉末及びその製造方法が提供される。本開示によれば、電子部品等の部材として好適な窒化ホウ素焼結体及び複合体、並びにこれらの製造方法が提供される。また、電子部品等の部材として好適な放熱部材が提供される。
【符号の説明】
【0089】
10,11,12,13,101,102,103…塊状粒子、20…一次粒子、200…外殻部、301,302,303,304,305,306…塊状粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7