(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20230217BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230217BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230217BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230217BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230217BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230217BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/36 D
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M10/0569
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020532148
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011055
(87)【国際公開番号】W WO2020021763
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018138937
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石川 香織
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】倉本 護
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-537347(JP,A)
【文献】特開2017-062911(JP,A)
【文献】特表2015-511389(JP,A)
【文献】特開2007-214038(JP,A)
【文献】特開2010-165471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/587
H01M 10/0569
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層とを備え、
前記負極合材層は、
第1炭素系活物質、Si系活物質、ポリアクリル酸またはその塩、および繊維状炭素を含み、前記負極集電体上に形成された第1層と、
タップ密度が第1炭素系活物質より大きな第2炭素系活物質を含み、前記第1層上に形成された第2層と、
を備えた非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記第1層の質量は、前記負極合材層の質量に対して50質量%以上90質量%未満であり、前記第2層の質量は、前記負極合材層の質量に対して10質量%超50質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記第1炭素系活物質のBET比表面積は、0.9m
2/g~6.5m
2/gであり、前記第2炭素系活物質のBET比表面積は、2.5m
2/g~8.0m
2/gである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記第1炭素系活物質のタップ密度は、0.85g/cm
3~1.00g/cm
3である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記繊維状炭素は、カーボンナノチューブである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極合材層の充填密度は、1.65g/cm
3以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極と、正極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記非水電解質は、15質量%以上のフルオロエチレンカーボネートを含む、請求項7に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
Si含有化合物は、黒鉛などの炭素系活物質と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。例えば、特許文献1には、Si含有化合物および黒鉛を負極活物質として含有する負極合材層を備えた非水電解質二次電池用負極が開示されている。また、特許文献1に開示された負極には、負極合材層の厚みの10%以下の厚みで、負極合材層の正極と対向する側の表面に炭素および結着材を含有する炭素含有層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、Si系活物質を含む負極では、充放電サイクル特性の低下が問題となり易い。これは、充放電に伴うSi系活物質の大きな体積変化により、負極活物質の粒子同士の接触の程度が弱くなる、または接触状態が失われて、負極合材層中の導電パスから孤立する負極活物質粒子が増えることが主な原因であると考えられる。このような負極活物質(Si系活物質)の孤立を抑制するために、結着材の増量、導電材の添加等の対策が考えられるが、この場合は、例えば電池の入力特性が低下する、或いは保存特性が低下するといった不具合が想定される。
【0005】
本開示の目的は、Si系活物質を含む高容量の負極であって、非水電解質二次電池の入力特性、サイクル特性、および高温保存特性を改善することが可能な非水電解質二次電池用負極を提供することである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。前記負極合材層は、第1炭素系活物質、Si系活物質、ポリアクリル酸またはその塩、および繊維状炭素を含み、前記負極集電体上に形成された第1層と、タップ密度が第1炭素系活物質より大きな第2炭素系活物質を含み、前記第1層上に形成された第2層とを有する。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用負極と、正極と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
【0008】
本開示に係る非水電解質二次電池用負極によれば、Si系活物質を用いて高容量化を図りつつ、入力特性、サイクル特性、および高温保存特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、Si系活物質を含む高容量の負極を用いた非水電解質二次電池において、良好な入力特性、サイクル特性、および高温保存特性を実現することは重要な課題である。しかし、サイクル特性を改善すべく、負極合材層の結着材を増量すると、一般的に入力特性が低下する。また、サイクル特性を改善すべく、負極合材層に導電材を添加すると、一般的に保存特性が低下する。或いは、入力特性を改善すべく、リチウムイオンの挿入速度が速い炭素系活物質を用いた場合は、例えば、導電パスから孤立する負極活物質粒子が増加してサイクル特性が低下する。このように、上記各電池性能の全てを向上させることは容易ではない。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、負極合材層を上記第1層と上記第2層を有する二層構造とすることにより、良好な入力特性、サイクル特性、および高温保存特性を実現することに成功した。以下、図面を参照しながら、本開示に係る非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池の実施形態について詳説する。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10を示す斜視図である。
図1に例示する非水電解質二次電池10は、角形電池であるが、本開示の非水電解質二次電池はこれに限定されず、円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池、金属層を含むラミネートフィルムからなる外装体を備えたラミネート形電池などであってもよい。なお、本明細書において、「数値(1)~数値(2)」との記載は、数値(1)以上、数値(2)以下を意味する。
【0013】
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体11と、非水電解質と、これらを収容する角形の電池ケース14とを備える。電極体11は、正極と、負極と、セパレータとを有する。電極体11は、複数の正極および複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層された積層型の電極体である。なお、電極体はこれに限定されず、長尺状の正極および長尺状の負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体であってもよい。
【0014】
電池ケース14は、略箱形状のケース本体15と、ケース本体15の開口部を塞ぐ封口体16と、正極と電気的に接続された正極端子12と、負極と電気的に接続された負極端子13とを有する。ケース本体15および封口体16は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属材料で構成される。正極端子12および負極端子13は、絶縁部材17を介して封口体16に固定されている。一般的に、封口体16には、ガス排出機構(図示せず)が設けられる。
【0015】
以下、非水電解質二次電池10を構成する正極、負極、セパレータ、非水電解質について、特に負極について詳述する。
【0016】
[正極]
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体には、アルミニウム、アルミニウム合金などの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、例えば正極活物質、結着材、導電材を含む。正極合材層は、正極集電体の両面に形成されることが好ましい。正極は、例えば正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、正極合材層を正極集電体の両面に形成することにより製造できる。
【0017】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W、Ca、Sb、Pb、Bi、Ge等が例示できる。好適なリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。
【0018】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0019】
[負極]
図2は、実施形態の一例である負極20の断面図である。
図2に例示するように、負極20は、負極集電体30と、負極集電体30上に形成された負極合材層31とを備える。負極集電体30には、銅、銅合金などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層31は、負極集電体30の両面に形成されることが好ましい。負極20は、例えば負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを負極集電体30上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、負極合材層31を負極集電体30の両面に形成することにより製造できる。
【0020】
負極合材層31は、負極集電体30上に形成された第1層32と、第1層32上に形成された第2層33とで構成される二層構造を有する。第1層32は、第1炭素系活物質、Si系活物質、ポリアクリル酸またはその塩、および繊維状炭素を含む層(下層)である。第2層33は、第2炭素系活物質を含む層(上層)である。第2層33は、Si系活物質の含有率が第1層32より低い層、またはSi系活物質を実質的に含まない層である。第2層33は、電池の入力特性向上等の観点から、負極活物質として炭素系活物質のみを含み、Si系活物質を実質的に含まないことが好ましい(例えば、第2層33の質量に対して0.1質量%未満)。
【0021】
第2層33に含まれる第2炭素系活物質のタップ密度は、第1層32に含まれる第1炭素系活物質のタップ密度より大きい。なお、第1層32および第2層33に含まれる各炭素系活物質の総量を比較した場合に、第2炭素系活物質のタップ密度が、第1炭素系活物質のタップ密度より大きければよい。
【0022】
第1層32の質量は、負極合材層31の質量に対して50質量%以上90質量%未満であり、好ましくは50質量%~70質量%である。また、第2層33の質量は、負極合材層31の質量に対して10質量%超50質量%以下であり、好ましくは30質量%~50質量%である。つまり、第1層32と第2層33の質量比(第2層33/第1層32)は、0.1超0.5以下であり、好ましくは0.3~0.5である。
【0023】
負極合材層31の質量に対する第1層32の質量が90質量%以上、負極合材層31の質量に対する第2層33の質量が10質量%以下であると、例えば入力特性の向上に寄与する第2層33の割合が少なくなり、電池の入力特性が低下する。また、負極合材層31の質量に対する第1層32の質量が50質量%未満、負極合材層31の質量に対する第2層33の質量が50質量%超であると、第1層32の割合が少なくなり(すなわち、Si系活物質の量が減少し)、電池の高容量化を図ることが困難となる。
【0024】
負極合材層31の充填密度は、電池容量の向上等の点で、1.65g/cm3以上が好ましい。負極合材層31の充填密度は、例えば、1.65g/cm3~1.75g/cm3である。第1層32と第2層33の充填密度は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。第2層33の充填密度は、例えば第1層32の充填密度より低い。第2層33の充填密度の一例は、1.40g/cm3~1.55g/cm3である。第1層32の充填密度の一例は、1.70g/cm3~1.95g/cm3である。
【0025】
負極合材層31の厚みは、負極集電体30の片側で、例えば30μm~100μm、または50μm~80μmである。第1層32と第2層33の厚みは、上記質量比を満たせば、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。第1層32の厚みは、第2層33の厚みより大きくてもよく、或いは小さくてもよい。なお、本開示の目的を損なわない範囲で、負極合材層31には第1層32、第2層33以外の層が含まれていてもよい。
【0026】
第1および第2炭素系活物質には、例えば黒鉛、非晶質炭素等が用いられる。中でも、黒鉛が好ましい。黒鉛としては、鱗片状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛等が挙げられる。また、黒鉛の粒子表面に、非晶質炭素等の導電性被覆層が形成されていてもよい。第1および第2炭素系活物質には、1種類の黒鉛等を単独で用いてもよく、2種類以上の黒鉛等を併用してもよい。
【0027】
第1炭素系活物質は、Si系活物質の体積変化を緩和できる活物質であることが好ましい。他方、第2炭素系活物質は、リチウムイオンの受け入れ反応性が高く、入力特性の向上に寄与する活物質であることが好ましい。第1炭素系活物質は、例えば第2炭素系活物質と比べて柔らかく、極板を圧延する際につぶれ易い。換言すると、第2炭素系活物質は、第1炭素系活物質よりも硬く、圧延時につぶれ難い。第1および第2炭素系活物質は、例えば、粒子表面に非晶質炭素等の導電性被覆層が形成された黒鉛であって、第2炭素系活物質の粒子表面おける被覆層の存在量は、第1炭素系活物質の粒子表面おける被覆層の存在量より多い。被覆層の存在量が多くなるほど、黒鉛粒子は硬くなる傾向にある。
【0028】
第2層33に含まれる第2炭素系活物質のタップ密度は、第1層32に含まれる第1炭素系活物質のタップ密度より高いことが好ましい。活物質粒子のタップ密度が高い場合、空間内でより詰まり易くなるため、活物質粒子同士の接触の程度が大きくなって良好な導電パスが形成され、電池の入力特性が向上する。負極合材層31では、第2層33にタップ密度の高い第2炭素系活物質を用いることで、特に第2層33におけるリチウムイオンの移動がスムーズになる。これにより、電池の入力特性が向上する。
【0029】
第1炭素系活物質のタップ密度の一例は、0.85g/cm3~1.00g/cm3であり、好ましくは0.89g/cm3~0.95g/cm3である。第2炭素系活物質のタップ密度は、例えば、1.00g/cm3以上あり、好ましくは1.00g/cm3~1.25g/cm3である。炭素系活物質のタップ密度は、JIS Z-2504に規定される方法に従って測定される。本明細書では、容器に採取した試料粉末を250回タッピングした後のかさ密度をタップ密度とする。
【0030】
第2層33に含まれる第2炭素系活物質のBET比表面積は、第1層32に含まれる第1炭素系活物質のBET比表面積より大きいことが好ましい。活物質粒子のBET比表面積が大きくなると、反応面積が大きくなるので、リチウムイオンの受け入れ反応性が高くなる。負極合材層31では、第2層33にBET比表面積が大きな第2炭素系活物質を用いることで、電池の入力特性が向上する。なお、活物質粒子のBET比表面積が大きくなると、導電性被覆層の存在量が多くなり粒子は硬くなる。BET比表面積が小さな第1炭素系活物質は、例えば、導電性被覆層の量が第2炭素系活物質より少なく、柔らかい。このため、第1炭素系活物質は、第2炭素系活物質よりも、Si系活物質の体積変化を緩和できる。
【0031】
第1炭素系活物質のBET比表面積の一例は、0.9m2/g~6.5m2/gであり、第2炭素系活物質のBET比表面積は、第1炭素系活物質のBET比表面積より大きく、例えば2.5m2/g~8.0m2/gである。BET比表面積は、JIS R1626記載のBET法(窒素吸着法)に従って測定される。
【0032】
第1および第2炭素系活物質は、一般的に多数の一次粒子が集合した二次粒子である。第1および第2炭素系活物質(二次粒子)の平均粒径は、特に制限されるものではないが、例えば1μm~30μmである。第1および第2炭素系活物質の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる体積平均粒径(Dv50)を意味する。
【0033】
第1層32には、上述のように、第1炭素系活物質の他に、Si系活物質、ポリアクリル酸(PAA)またはその塩、および繊維状炭素が含まれる。PAAまたはその塩は、負極活物質(Si系活物質および第1炭素系活物質)の粒子同士を強く結着させるため、充放電に伴いSi系活物質の体積が大きく変化しても、第1層32中の導電パスから孤立する負極活物質粒子の増加を抑制する。このため、第1層32にPAAまたはその塩を添加することで、サイクル特性の低下が抑制される。また、繊維状炭素は、PAAまたはその塩と同様に、第1層32中に良好な導電パスを形成する。
【0034】
Si系活物質は、SiおよびSi含有化合物の少なくとも一方であるが、好ましくは充放電時の体積変化がSiよりも小さなSi含有化合物である。Si含有化合物は、Siを含有する化合物であれば特に限定されないが、好ましくはSiOx(0.5≦x≦1.5)で表される化合物である。Si含有化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。Si含有化合物の粒子表面には、当該化合物よりも導電性の高い材料から構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。Si含有化合物の平均粒径(Dv50)は、例えば1μm~15μmである。
【0035】
SiOxは、例えば非晶質のSiO2マトリックス中にSiが分散した構造を有する。また、SiOxは、粒子内にリチウムシリケート(例えば、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケート)を含んでいてもよく、リチウムシリケート相中にSiが分散した構造を有していてもよい。
【0036】
上記導電被膜は、炭素被膜であることが好ましい。炭素被膜は、例えばSiOx粒子の質量に対して0.5質量%~10質量%の量で形成される。炭素被膜の形成方法としては、コールタール等をSi含有化合物粒子と混合して熱処理する方法、炭化水素ガス等を用いた化学蒸着法(CVD法)などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を結着材を用いて、Si含有化合物粒子の表面に固着させることで炭素被膜を形成してもよい。
【0037】
第1層32に含まれる第1炭素系活物質とSi系活物質の質量比は、例えば、95:5~70:30であり、好ましくは95:5~80:20である。質量比が当該範囲内であれば、電池の高容量化を図りつつ、第1炭素系活物質によりSi系活物質の体積変化を緩和でき、サイクル特性の低下を抑制することが容易になる。第1層32において、負極活物質に占めるSi系活物質の割合は、5質量%~20質量%が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。
【0038】
第1層32に含まれるPAAまたはその塩は、結着材として機能する。PAAの塩は、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。第1層32は、PAAおよびその塩に加えて、第2の結着材を含むことが好ましい。第2の結着材としては、CMCまたはその塩、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、PEO等が挙げられる。中でも、CMCまたはその塩、SBRが好ましい。第1層32は、結着材として、例えばPAAまたはその塩、CMCまたはその塩、およびSBRを含む。
【0039】
第2層33に含まれる結着材としては、CMCまたはその塩、SBR、PVA、PEO等が例示できる。中でも、CMCまたはその塩、SBRが好ましい。第2層33は、PAAまたはその塩の含有率が第1層32より低い層、またはPAAまたはその塩を実質的に含まない層である。第2層33は、電池の入力特性を考慮すると、PAAまたはその塩を実質的に含まないことが好ましい(例えば、第2層33に含まれる結着材の質量に対して0.1質量%未満)。すなわち、PAAまたはその塩は、第1層32のみに含まれることが好ましい。第2層33は、結着材として、例えばCMCまたはその塩、およびSBRを含む。
【0040】
第1層32に含まれる結着材の含有量は、第2層33に含まれる結着材の含有量より多いことが好ましい。この場合、電池のサイクル特性の低下を抑制しつつ、入力特性を向上させることが容易になる。第1層32に含まれる結着材の含有量は、例えば、第1層32の質量に対して0.5質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。PAAまたはその塩の含有量は、サイクル特性の低下抑制等の観点から、第1層32中の結着材の質量に対して20質量%以上であることが好ましく、例えば20質量%~50質量%である。第2層33に含まれる結着材の含有量は、例えば、第2層33の質量に対して0.5質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。
【0041】
第1層32に含まれる繊維状炭素は、導電材として機能し、第1層32中に良好な導電パスを形成する。繊維状炭素により形成される導電パスは、充放電によりSi系活物質が大きく体積変化しても切断され難い。繊維状炭素は、例えば、アスペクト比が60倍以上の炭素材料であって、第1層32に添加可能な大きさを有する。第2層33は、繊維状炭素の含有率が第1層32より低い層、または繊維状炭素を実質的に含まない層である。第2層33は、電池の保存特性を考慮すると、繊維状炭素を実質的に含まないことが好ましい(例えば、第2層33の質量に対して0.001質量%未満)。すなわち、繊維状炭素は、第1層32のみに含まれることが好ましい。
【0042】
繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー等が例示できる。CNTは、単層CNTだけでなく、2層CNT、複層CNT、およびこれらの混合物であってもよい。また、CNTは、VGCF(登録商標)と呼ばれる気相成長炭素繊維であってもよい。繊維状炭素は、例えば直径2nm~20μm、全長0.03μm~500μmである。繊維状炭素の含有量は、例えば、第1層32の質量に対して0.01質量%~5質量%が好ましく、0.5質量%~3質量%がより好ましい。
【0043】
負極20は、例えば、以下の方法で製造される。第1炭素系活物質、Si系活物質、PAAまたはその塩を含む結着材、繊維状炭素等を含む第1層32用の第1負極合材スラリーを調製する。また、第2炭素系活物質、結着材等を含む第2層33用の第2負極合材スラリーを調製する。そして、負極集電体30上に第1負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて、負極集電体30上に第1層32を形成する。次いで、第1層32上に第2負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて、第1層32上に第2層33を形成した後、第1層32および第2層33を圧縮する。このようにして、負極集電体30上に、第1層32および第2層33を含む負極合材層31が形成された負極20が得られる。
【0044】
[セパレータ]
セパレータは、イオン透過性および絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンおよびプロピレンの少なくとも一方を含む共重合体等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0045】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えば、LiBF4、LiPF6等のリチウム塩が用いられる。非水溶媒には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸メチル(MP)等のエステル類、エーテル類、二トリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒などが用いられる。非水溶媒は、上記これらの溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0046】
ハロゲン置換体としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。非水電解質二次電池10の充放電サイクル特性の低下抑制、或いは入力特性の向上等の点で、非水電解質は、当該非水電解質の質量に対して15質量%以上のFECを含むことが好ましく、15質量%~25質量%のFECを含むことがより好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
[正極]
正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2で表されるリチウム遷移金属酸化物を用いた。正極活物質を94.8質量部と、アセチレンブラックを4質量部と、PVDFを1.2質量部とを混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極合材スラリーを調整した。次に、アルミニウム箔からなる正極集電体のリードが接続される部分を残して、正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた。ローラーを用いて塗膜を圧延した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0049】
[負極]
第1層(下層)を構成する第1炭素系活物質として、タップ密度が0.92g/cm3、BET比表面積が4.2m2/gである黒鉛Aを用いた。黒鉛Aと、炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)と、PAAのリチウム塩と、CMCのナトリウム塩と、CNTと、SBRのディスパージョンとを、84.5/12/1/1/0.5/1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、第1層用の第1負極合材スラリーを調整した。また、第2層(上層)を構成する第2炭素系活物質として、タップ密度が1.06g/cm3、BET比表面積が4.8m2/gである黒鉛Bを用いた。黒鉛Bと、CMCのナトリウム塩と、SBRのディスパージョンとを、98/1/1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、第2層用の第2負極合材スラリーを調製した。
【0050】
次に、銅箔からなる負極集電体の両面にリードが接続される部分を残して、第1負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて負極集電体の両面に第1層を形成した。次いで、負極集電体の両面に形成した第1層上に第2負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて第2層を形成した。そして、ローラーを用いて塗膜を圧延した後、所定の電極サイズに切断し、負極集電体の両面に第1層および第2層を含む負極合材層が形成された負極を作製した。
【0051】
負極合材層の第1層および第2層の質量を測定した結果、第2層/第1層の質量比は1.0であった。また、負極合材層の充填密度は1.65g/cm3であった。
【0052】
[非水電解質]
エチレンカーボネート(EC)と、フッ化エチレンカーボネート(FEC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、27:3:70の体積比で混合した混合溶媒にビニレンカーボネート(VC)を1質量%添加し、LiPF6を1.2モル/Lの割合で溶解させて非水電解質を調製した。
【0053】
[試験セル]
上記負極および上記正極にリードをそれぞれ取り付け、セパレータを介して各電極を1枚ずつ交互に積層された積層型の電極体を作製した。セパレータには、単層のポリプロピレン製セパレータを用いた。作製した電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入して、105℃で2時間30分真空乾燥した後、上記非水電解質を注入し、外装体の開口部を封止して試験セル(ラミネートセル)を作製した。試験セルの設計容量は640mAhである。
【0054】
<実施例2>
第1負極合材スラリーの調製において、黒鉛Aと、炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)と、PAAのリチウム塩と、CMCのナトリウム塩と、CNTと、SBRのディスパージョンとを、87.5/9/1/1/0.5/1の固形分質量比で混合したこと、および負極の作製において、第2層/第1層の質量比が0.33となるように、第1および第2負極合材スラリーを塗工したこと以外は、実施例1と同様に試験セルを作製した。なお、負極合材層の充填密度は1.65g/cm3であった。
【0055】
<比較例1>
負極の作製において、黒鉛Aと、炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)と、PAAのリチウム塩と、CMCのナトリウム塩と、SBRのディスパージョンとを、91/6/1/1/1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて調製した負極合材スラリーを用いて、負極集電体の両面に単層構造の負極合材層を形成したこと以外は、実施例1と同様に試験セルを作製した。
【0056】
<比較例2>
負極合材スラリーの調製において、黒鉛Aと、炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)と、PAAのリチウム塩と、CMCのナトリウム塩と、CNTと、SBRのディスパージョンとを、90.5/6/1/1/0.5/1の固形分質量比で混合したこと以外は、比較例1と同様に試験セルを作製した。
【0057】
上記各試験セルについて、下記の方法により性能評価を行った。評価結果は、負極の構造と共に表1に示した。
【0058】
[初期充放電効率の評価]
試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流で充電した後、4.3Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧で充電した。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。充電容量および放電容量から初期充放電効率を求めた。表1に示す初期充放電効率は、比較例1の試験セルの充放電効率を基準(100)とする相対値である。
【0059】
[容量維持率の評価]
試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流で充電した後、4.3Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧で充電した。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。また、この充放電を200サイクル行い、下記の式に基づいて、充放電サイクルにおける容量維持率を求めた。表1に示す容量維持率は、比較例1の試験セルの容量維持率を基準(100)とする相対値である。
【0060】
容量維持率=(200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
[入力特性の評価]
試験セルを、25℃および-30℃の温度環境下において、0.5Itの定電流で初期容量の半分まで充電した後、充電を止めて15分間放置した。そして、0.1Itの電流値で10秒間充電した後の電圧を測定した。10秒間の充電容量分を放電し、次の電流値にて10秒間充電した後の電圧を測定し、10秒間の充電容量分を放電することを、0.1Itから2Itまでの電流値で繰り返した。測定したそれぞれの電圧値から10秒間の充電で電池電圧が4.3Vになる電流値を算出することで、そのときの必要電力(入力特性)を求めた。表1に示す入力特性は、比較例1の試験セルの上記必要電力を基準(100)とする相対値である。100より高い値は、比較例1の試験セルよりも入力特性に優れることを示す。
【0061】
[高温保存特性の評価]
試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流で充電した後、4.3Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧で充電した。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った(i)。次に、試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流で充電した後、4.3Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧で充電した。当該充電状態で、60℃の温度環境下、20日間の保存試験を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った(ii)。次に、試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流で充電した後、4.3Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧で充電した。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った(iii)。
【0062】
下記の式に基づいて、残存容量および回復容量を求めた。
【0063】
表1に示す残存容量および回復容量は、比較例1の試験セルの残存容量および回復容量を基準(100)とする相対値である。
【0064】
残存容量=((ii)の放電容量/(i)の放電容量)×100
回復容量=((iii)の放電容量/(i)の放電容量)×100
【0065】
【0066】
表1に示す評価結果から理解されるように、実施例の試験セルはいずれも、比較例1の試験セルと比べて、初期充放電効率、入力特性、サイクル特性、および保存特性に優れる。比較例2の試験セルは、比較例1の試験セルと比べて、入力特性に優れるものの、特に保存特性が大きく低下している。つまり、単層構造の負極合材層に繊維状炭素を添加しても、入力特性と保存特性を両立することはできない。
【符号の説明】
【0067】
10 非水電解質二次電池
11 電極体
12 正極端子
13 負極端子
14 電池ケース
15 ケース本体
16 封口体
17 絶縁部材
20 負極
30 負極集電体
31 負極合材層
32 第1層
33 第2層