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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】波長変換装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/355 20060101AFI20230217BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20230217BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
G02F1/355 501
G02F1/37
C30B15/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019106934
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020201340
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】領木 直矢
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】信岡 政樹
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208502(JP,A)
【文献】特表2013-544436(JP,A)
【文献】特開2000-031532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0138182(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103103612(CN,A)
【文献】特開2006-066863(JP,A)
【文献】特開2018-155935(JP,A)
【文献】特開平11-212128(JP,A)
【文献】特開平09-197455(JP,A)
【文献】特開2005-332954(JP,A)
【文献】金子他,HVPE法によるSiO2ワイドマスクパターンを施したScAlMgO4基板上の高品質自立GaN基板の作製,2020年 第81回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 ,10p-Z02-8,13-097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098- 3/102
H01S 3/105- 3/131
H01S 3/136- 3/213
H01S 3/23 - 4/00
C30B 1/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される第1層と、
前記一般式RAMOで表される単結晶体で構成され、前記第1層と分極方向が180°反転した第2層と、
を備え
前記第1層および前記第2層は、前記一般式RAMO で表される単結晶体で構成された結晶体から切り出し貼り合わされたものであり、
前記一般式におけるRはScであり、AはAlであり、MはMgであり、
前記第1層と前記第2層との界面は、AlおよびMgの酸化物である、
波長変換装置。
【請求項2】
前記第1層および前記第2層は、へき開により前記結晶体から切り出されたものである、
請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記第1層および前記第2層を順に繰り返し重ねた周期分極反転構造を有する波長変換部を備える、
請求項1または2に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記波長変換部が、第2高調波を発生する、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが3.5~4.4μmであり、
前記第2高調波の波長が245~280nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが4.4~5.5μmであり、
前記第2高調波の波長が280~315nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが5.5~9.8μmであり、
前記第2高調波の波長が315~400nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが9.8~12.4μmであり、
前記第2高調波の波長が400~435nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項9】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが12.4~17.1μmであり、
前記第2高調波の波長が435~480nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項10】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが17.1~18.1μmであり、
前記第2高調波の波長が480~490nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項11】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが18.1~19.2μmであり、
前記第2高調波の波長が490~500nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【請求項12】
前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが19.2~26.7μmであり、
前記第2高調波の波長が500~560nmである、
請求項に記載の波長変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RAMO単結晶を用いた波長変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ等の波長域を広げる方法として、非線形光学効果を用いた波長変換技術が知られている。その波長変換技術の1つに、擬似位相整合がある。擬似位相整合は、非線形光学結晶の誘電分極方向を周期的に180°反転させることにより、擬似的に位相整合を取る方法である。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、擬似位相整合を用いた波長変換装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4603020号公報
【文献】特許第4967626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1や特許文献2に記載のLiTaO結晶やLiNbO結晶等を使用して、1064nmを532nmに変換する場合、分極反転周期はマイクロメートルオーダーである。したがって、さらに変換後の波長を短くしようとする場合、切り出す結晶を薄くする必要があり、加工が難しいという課題を有していた。
【0006】
本開示は、前記従来の課題を解決するもので、変換後の波長が短い波長変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本開示は、以下の波長変換装置を提供する。
[1]一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される第1層と、前記一般式RAMOで表される単結晶体で構成され、前記第1層と分極方向が180°反転した第2層と、を備える波長変換装置。
【0008】
[2]前記第1層と前記第2層との界面は、AおよびMを含む酸化物で構成される[1]に記載の波長変換装置。
【0009】
[3]前記一般式におけるRはScであり、AはAlであり、MはMgであり、前記界面は、AlおよびMgの酸化物である、[2]に記載の波長変換装置。
【0010】
[4]前記第1層および前記第2層を順に繰り返し重ねた周期分極反転構造を有する波長変換部を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の波長変換装置。
【0011】
[5]前記波長変換部が、第2高調波を発生する、[4]に記載の波長変換装置。
【0012】
[6]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが3.5~4.4μmであり、前記第2高調波の波長が245~280nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0013】
[7]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが4.4~5.5μmであり、前記第2高調波の波長が280~315nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0014】
[8]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが5.5~9.8μmであり、前記第2高調波の波長が315~400nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0015】
[9]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが9.8~12.4μmであり、前記第2高調波の波長が400~435nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0016】
[10]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが12.4~17.1μmであり、前記第2高調波の波長が435~480nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0017】
[11]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが17.1~18.1μmであり、前記第2高調波の波長が480~490nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0018】
[12]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが18.1~19.2μmであり、前記第2高調波の波長が490~500nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【0019】
[13]前記第1層一層および前記第2層一層の合計厚さが19.2~26.7μmであり、前記第2高調波の波長が500~560nmである、[5]に記載の波長変換装置。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、変換後の波長が短い波長変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態1における波長変換装置の構成を示す模式図
図2】本実施の形態1における波長変換装置の波長変換部の分極反転構造の模式図
図3】本実施の形態1における波長変換装置の波長変換部に使用するScAlMgO単結晶のへき開面の表面粗さを示す図
図4】本実施の形態1における波長変換装置の波長変換部に使用するScAlMgO単結晶を透過電子顕微鏡で観察した図
図5】本実施の形態1における波長変換装置の波長変換部に使用するScAlMgO単結晶を製造するための高周波加熱方式炉の構成を示す模式図
図6】本実施の形態2における波長変換装置の波長変換部に使用するScAlMgO単結晶を製造するための高周波加熱方式炉の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態の波長変換装置は、一般式RAMOで表される単結晶体(一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される第1層と、一般式RAMOで表される単結晶体で構成され、かつ前記第1層と分極方向が180°反転した第2層と、を少なくとも含む。以下、RAMO単結晶として、ScAlMgO単結晶を用いた波長変換装置を例に説明する。図1は、本開示の実施の形態1における波長変換装置のより具体的な構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示す波長変換装置100は、光源110と、波長変換部120とを有している。上述の第1層および第2層(いずれも図示せず)は、波長変換部120に含まれる。
【0025】
当該波長変換装置100における光源110は、第1の波長λを有する第1の光を発する部材である。光源110は例えば、Nd:YAGレーザであり、この場合、第1の波長λは1064nmとなる。
【0026】
一方、波長変換部120は、非線形光学単結晶からなり、光源110が発した第1の波長λを有する第1の光を、第2の波長λを有する第2の光(第2高調波)に波長変換する。本開示では、非線形光学単結晶にScAlMgO単結晶を用い、周期分極反転構造により擬似位相整合で第2高調波を発生させる。図2に分極反転構造の模式図を示す。本実施形態の波長変換部120では、ScAlMgO単結晶を含む第1層121と、ScAlMgO単結晶を含み、かつ当該第1層と分極が180°反転した第2層122とが順に繰返し重ね合わせられている。本実施形態では、誘電分極方向を周期的に180°反転させることにより、擬似的に位相整合を取っている。分極反転周期Λ(第1層一層分および第2層一層分の合計厚さ)と、第1の波長λと、波長変換部120に入力される第1の光の屈折率nωと、波長変換部120から出力される第2の光の屈折率n2ωとの関係は、以下の式1で表される。
【0027】
Λ=λ/2(n2ω-nω)・・・(式1)
【0028】
表1にLiNbO、LiTaO、およびScAlMgOの波長1064nmの光(第1の光)の屈折率nω、波長532nmの光(第2の光)の屈折率n2ω、および分極反転周期Λを示す。表1に示すように、ScAlMgOは、従来の擬似位相整合によく用いられるLiNbOおよびLiTaOと比較して、波長1064nmの光と波長532nmの光との屈折率の差が小さく、分極反転周期Λが長い。よって、波長変換部120を構成する各層(第1層および第2層)をそれぞれ厚くすることができる。
【0029】
【表1】
【0030】
図3は、ScAlMgO単結晶をへき開した際の、へき開面の表面粗さを示すものである。ScAlMgO単結晶は、機械的な加工を行わなくても、得られるへき開面の表面粗さRaが0.27nmである。つまり、ScAlMgO単結晶によれば、へき開のみで表面粗さが小さい結晶を薄く切り出すことが可能であり、これらを貼り合わせることで、波長変換部を作製できる。
【0031】
以下の表2に、第1の波長λを変更した際の、ScAlMgOの屈折率および分極反転周期Λを示す。表1および表2に示す通り、従来のLiNbOおよびLiTaOでは、分極反転周期Λ=6.7~7.4μmで第2の波長λ=532nm(緑)に対応していた。これに対して、ScAlMgOでは、分極反転周期Λ=6.7~7.4μmで第2の波長λ=346~358nm(UV-A)に対応することができる。つまり、ScAlMgOによれば、従来のLiNbOおよびLiTaOと同様の厚みとした場合に、より短い波長に変換できる。
【0032】
また、表2より、ScAlMgOは、分極反転周期Λ=3.5~4.4μmとしたとき、第2の波長λが245~280nm(UV-C)となり、分極反転周期Λ=4.4~5.5μmとしたとき、第2の波長λが280~315nm(UV-B)となり、分極反転周期Λ=5.5~9.8μmとしたとき、第2の波長λが315~400nm(UV-A)となる。さらに、分極反転周期Λ=9.8~12.4μmとしたとき、第2の波長λが400~435nm(紫)となり、分極反転周期Λ=12.4~17.1μmとしたとき、第2の波長λが435~480nm(青)になり、分極反転周期Λ=17.1~18.1μmとしたとき、第2の波長λが480~490nm(緑青)となり、分極反転周期Λ=18.1~19.2μmとしたとき、第2の波長λが490~500nm(青緑)になり、分極反転周期Λ=19.2~26.7μmとしたとき、第2の波長λが500~560nm(緑)になる。
【0033】
【表2】
【0034】
図4は、ScAlMgO単結晶を透過電子顕微鏡で観察したものであり、当該単結晶は岩塩型構造面的なScO層と六方晶面的はAlMgO層とが交互に積層した構造となっている。ScAlMgO単結晶は、結合の力が弱いAlMgO層でへき開する。そのため、周期分極反転構造を構成する際、AlMgO層同士を貼り合わせることになる。つまり、第1層と第2層との界面がAlおよびMgの酸化物となる。
【0035】
また上述のように、ScAlMgO単結晶は、分極反転周期Λが長く、へき開のみでへき開面の表面粗さがRa≒2.0nmとなる。したがって、従来の結晶よりも、第2高調波の波長を短くできる。
【0036】
なお、本開示に適用可能なRAMO単結晶体は、ScAlMgO単結晶体に限定されない。また光源110の波長(第1の波長λ)は、1064nmに限定されない。また、擬似位相整合により、和周波発生、差周波発生、パラメトリック光増幅も可能である。
【0037】
図5は、本開示の実施の形態1における波長変換装置の波長変換部に使用するScAlMgO単結晶を製造するための、高周波加熱方式炉の構成を示す模式図である。以下、主に高周波加熱方式によりScAlMgO単結晶を製造する方法を説明する。ただし、高周波加熱方式の代わりに、抵抗加熱方式を用いても良い。
【0038】
図5に示す高周波加熱方式炉500は、チョクラルスキー法(CZ法)による結晶引き上げ装置であり、ScAlMgO原料510と、ルツボ520と、ルツボ支持軸521と、耐火材522と、断熱材530と、加熱コイル540と、結晶引き上げ軸550と、シードホルダ551と、種結晶552と、を有している。なお、図5には示していないが、高周波加熱方式炉500は、CZ法による結晶引き上げに必要なチャンバ、真空ポンプ、ガス導入口、ガス排気口、高周波電源、温度などの制御装置などを有している。
【0039】
ScAlMgO原料510は、酸化スカンジウム(Sc)と、酸化アルミニウム(Al)と、酸化マグネシウム(MgO)とを混合したものである。
【0040】
ルツボ520は、イリジウム製であり、ScAlMgO原料510を保持するための容器である。ルツボ支持軸521は、タングステン製であり、ルツボ520を支持するための軸である。設定した速度でルツボ520を回転させたり、昇降させたりすることが可能である。耐火材522は、ジルコニア製で、ルツボ520とルツボ支持軸521との間に配置される部材であり、ルツボ520およびルツボ支持軸521のどちらの材質にも耐反応性を有する。
【0041】
断熱材530は、ジルコニア製で、ルツボ520の周囲を囲んでおり、ルツボ520の上部と下部には、それぞれ結晶引き上げ軸550とルツボ支持軸521用に貫通孔が設けられている。
【0042】
加熱コイル540は、断熱材530の外側に配置されており、高周波電流を流すと高周波磁束が発生する。高周波磁束によりルツボ520に渦電流が発生し、ルツボ520の表面が発熱することで、ルツボ520内のScAlMgO原料510が加熱される。
【0043】
結晶引き上げ軸550は、アルミナ製であり、設定した速度で回転、昇降する機能を持つ。シードホルダ551は、イリジウム製で、結晶引き上げ軸550の先端に配置され、先端に種結晶552をセットすることが可能である。種結晶552は、ScAlMgO製であり、形状は、正四角柱である。
【0044】
当該高周波加熱方式炉500によりScAlMgO単結晶を製造する場合、まず、ScAlMgO原料110の溶融工程を実施する。溶融工程では、雰囲気を不活性ガス雰囲気にするために、真空引き後、不活性ガス雰囲気で常圧にする。電源投入後、ScAlMgO原料510が溶融する温度になるまで、ルツボ520に大きな負荷をかけない程度に時間をかけて加熱コイル540に与える電力を徐々に増やして加熱する。加熱時間は、ルツボ520の大きさに依存するが、ルツボ520の外径が80mm~150mmである場合は、15時間~60時間が好ましい。ScAlMgO原料510の溶融確認後、炉内に酸素を導入する。炉内の酸素濃度は、0.1体積%~10体積%が好ましい。
【0045】
続いて、種付け工程を実施する。溶融したScAlMgO原料510に種結晶552が接するまで、結晶引き上げ軸550を一定速度で回転させながら徐々に下降させる。種結晶552が、溶融したScAlMgO原料510に接した後、溶融したScAlMgO原料510の融液温度が、結晶の引き上げに適当な温度で安定するまで待機する。
【0046】
続いて、結晶育成工程を実施する。結晶引き上げ軸550を一定速度で回転させながら一定速度で上昇させる。ここで、結晶引き上げ軸550の回転速度は1rpmから10rpm、引き上げ速度は0.1mm/hから1.5mm/hが好ましい。引き上げ開始後は、自動直径制御(Automatic Diameter Control(ADC))により所望の結晶形状に制御する。所望の長さまで結晶を引き上げた後は、溶融したScAlMgO原料510の融液から結晶を切り離し、炉内への酸素導入を停止させる。
【0047】
続いて、冷却工程を実施する。ルツボ520および引き上げた結晶に大きな負荷をかけない程度に時間をかけて加熱コイル540に与える電力を徐々に減らして冷却する。冷却の時間は、ルツボ520の大きさに依存するが、ルツボ520の外径が80mm~150mmである場合は、20時間~70時間が好ましい。
【0048】
なお、断熱材530はジルコニア製としたが、これに限るものではない。ルツボ520、シードホルダ551はイリジウム製としたが、これに限るものではない。ルツボ支持軸521はタングステン製としたが、耐火材522と反応しないものであれば、特に問わない。また、ルツボ520が昇降、回転の必要がなければ、ルツボ支持軸521を省く構成も可能である。耐火材522はジルコニア製としたが、ルツボ520、ルツボ支持軸521と反応しないものであれば、特に問わない。結晶引き上げ軸550はアルミナ製としたが、シードホルダ551と反応しないものであれば、特に問わない。種結晶552は、正四角柱としたが、シードホルダ551にセットできれば、形状は特に問わない。
【0049】
なお、上記方法で作製されたScAlMgO単結晶を、所望の分極反転周期Λに合わせて、特定の厚さでへき開する。そして、へき開によって得られたScAlMgO単結晶からなる複数の層を、隣り合う層の分極方向が180°反転するように所望の数、貼り合わせる。これにより、第1層121および第2層122を順に繰返し重ねた周期分極反転構造を有する波長変換部120が得られる。なお、ScAlMgO単結晶をへき開する方法や、これらを貼り合わせる方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いてもよい。また、第1層および第2層は、同じ厚みであることが好ましい。
【0050】
そして、当該波長変換部を所望の光源110と組み合わせることで、波長変換装置100が得られる。なお、図2に示すように、波長変換部120の第1層121および第2層122の積層面(第1層121や第2層122の分極方向)と、光源110からの第1の光の入射方向とが直交するように、光源110および波長変換部120を配置する。また、入射方向を少しずらすことで、分極反転周期Λを変えることも可能である。例えば、入射方向が10°変わると、分極反転周期Λは1.02倍(=1/cos(10°))になる。
【0051】
(実施の形態2)
実施の形態2は、ScAlMgO単結晶をさらに誘電分極させた以外は、実施の形態1の波長変換装置と構造やその製造方法が同様である。そこで、本実施の形態において、ScAlMgO単結晶をさらに誘電分極させる方法について説明する。
【0052】
図6は、実施の形態2において、波長変換部に使用するScAlMgO単結晶を製造するための、高周波加熱方式炉の構成を示す模式図である。以下では、高周波加熱方式によりScAlMgO単結晶を製造する場合について説明するが、高周波加熱方式の代わりに、抵抗加熱方式を用いてもよい。
【0053】
高周波加熱方式炉600は、図6に示すように、電源660および電極661を有している点が、図5に示す高周波加熱方式炉500と異なっている。その他の点については、図5に示す高周波加熱方式炉500と同様とすることができる。電源660は、電極661に接続されており、電極661間に電界を発生させる。電極661は、溶融したScAlMgO原料510と反応しない絶縁体に覆われている。
【0054】
当該高周波加熱方式炉600を用いる場合、結晶育成工程を開始する前に、電源660をONにし、電極661間に電界を発生させる。一方で、冷却工程を開始する前に、電源660をOFFにする。
【0055】
電界が発生している電極661間で結晶を育成することで、ScAlMgO単結晶をさらに誘電分極させることが可能となる。
【0056】
そして、当該方法で作製されたScAlMgO単結晶を、所望の分極反転周期Λに合わせて、特定の厚さでへき開し、隣り合う層の分極方向が180°反転するように貼り合わせることで、所望の波長変換部120が得られる。また、当該波長変換部120を光源と組み合わせることで、本実施形態の波長変換装置100が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示によれば、変換後の波長が短い波長変換装置が提供される。したがって、各種レーザ等の波長域を広げることが可能であり、レーザを用いた各種装置等に有用である。
【符号の説明】
【0058】
100 波長変換装置
110 光源
120 波長変換部
121 第1層
122 第2層
500 高周波加熱方式炉
510 ScAlMgO原料
520 ルツボ
521 ルツボ支持軸
522 耐火材
530 断熱材
540 加熱コイル
550 結晶引き上げ軸
551 シードホルダ
552 種結晶
600 高周波加熱方式炉
660 電源
661 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6