(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20230217BHJP
【FI】
H01L35/14
(21)【出願番号】P 2019519434
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044176
(87)【国際公開番号】W WO2019215947
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2018090839
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】玉置 洋正
(72)【発明者】
【氏名】菅野 勉
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072594(JP,A)
【文献】特開2018-046090(JP,A)
【文献】特開2005-217310(JP,A)
【文献】Simon Johnsen,Crystal Structure, Band Structure, and Physical Properties of Ba8Cu6-xGe40+x (0 < x <0.7),Chemistry of Materials,2006年,Vol.18,Page.4633-4642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(I)
Ba
8+aCu
6-bGe
40+b(I)
で表される熱電変換材料であって、ここで、
aの値は0.
28以上0.47以下であり、
bの値は0
.07以上0.
3以下であり、
前記熱電変換材料は、クラスレート結晶構造を有し、かつ
前記熱電変換材料は、p型である、熱電変換材料。
【請求項2】
熱電変換素子であって、
p型熱電変換部、
n型熱電変換部、
第1電極、
第2電極、および
第3電極、
を備え、
前記p型熱電変換部の一端および前記n型熱電変換部の一端は、第1電極を介して互いに電気的に接続されており、
前記p型熱電変換部の他端および前記n型熱電変換部の他端は、それぞれ、前記第2電極および前記第3電極に接続されており、かつ
前記p型熱電変換部は、以下の化学式(I)
Ba
8+aCu
6-bGe
40+b(I)
で表される第1熱電変換材料からなり、ここで、
aの値は0.
28以上0.47以下であり、
bの値は0
.07以上0.
3以下であり、
前記第1熱電変換材料は、クラスレート型の結晶構造を有し、かつ
前記第1熱電変換材料は、p型である、熱電変換素子。
【請求項3】
前記n型熱電変換部は、化学式Ba
8Cu
6-xGe
40+x(0≦x≦0.7)で表される第2熱電変換材料からなる、請求項
2に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料の両端に温度差が生じると、その温度差に比例して起電力が発生する。熱エネルギーが電気エネルギーに変換されるこの現象は、ゼーベック効果として知られている。熱電発電技術は、ゼーベック効果を利用し、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する技術である。
【0003】
熱電変換材料の技術分野においてよく知られているように、熱電変換デバイスに用いられる熱電変換材料の性能は、熱電変換性能指数ZTで評価される。熱電変換性能指数ZTは、物質のゼーベック係数S、電気伝導率σおよび熱伝導率κを用いて、ZT=S2σT/κで表される。熱電変換性能指数ZTが高いほど熱電変換効率は高い。ホールが電気伝導担体として機能する熱電変換材料は正のゼーベック係数を示し、かつp型である。一方、電子が電気伝導担体として機能する熱電変換材料は負のゼーベック係数を示し、かつn型である。
【0004】
単独の熱電変換材料によって発生する起電力は小さいため、通常は多数の熱電変換素子が電気的に直列に接続される。特に、p型の熱電変換材料およびn型の熱電変換材料を交互に並べ、熱的には並列に接続されることが最も一般的である。従って、1種類の材料でp型とn型の両方の特性を実現できることは、実用的な観点から有益である。
【0005】
Bi2Te3熱電変換材料は、高い熱電変換性能指数ZTを有し、かつ現在実用化もされている。しかし、Teの希少性のためにBi2Te3熱電変換材料はあまり普及していない。このように、容易に入手可能な元素で構成される熱電変換材料が望まれている。
【0006】
そのような材料の一例は、Ba、Cu、およびGeから構成されるクラスレート化合物である。非特許文献1は、化学式Ba8.03Cu5.00Ge41.00により表されるクラスレート化合物が、n型であり、かつ摂氏150度で0.2、かつ摂氏400度で0.45という高い熱電変換性能指数ZTを有することを開示している。非特許文献2は、化学式Ba8Cu6-xGe40+x(0≦x≦0.7)で表されるクラスレート化合物が、n型であることを開示している。
【0007】
しかし、n型Ba-Cu-Geクラスレート化合物とは異なり、p型Ba-Cu-Geクラスレート化合物は、低い熱電変換性能指数ZTを有する。例えば、非特許文献3によると、化学式Ba8.21Cu6.49Ge39.51により表されるp型クラスレート化合物は、室温でZT=0.007という低い熱電変換性能指数ZTを有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】X. Yan et al., “Structural and thermoelectric properties of Ba8Cu5SixGe41-x clathrates”, Physical Review B, Vol. 87, No. 11, 2013, pp. 115206-1-115206-9.
【文献】S. Johnsen et al., “Crystal Structure, Band Structure, and Physical Properties of Ba8Cu6-xGe40+x (0 ≦ x ≦ 0.7)”, Chemistry of Materials, Vol. 18, No. 19, 2006, pp. 4633-4642.
【文献】H. Zhang et al., “Structure and low temperature physical properties of Ba8Cu6Ge40”, Journal of Alloys and Compounds, Vol. 476, No. 1-2, 2009, pp. 1-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高い熱電変換性能指数ZTを有するp型Ba-Cu-Geクラスレート熱電変換材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の化学式(I)で表される熱電変換材料を提供する。
Ba8+aCu6-bGe40+b(I)
ここで、
aの値は0.1以上0.47以下であり、
bの値は0以上0.43以下であり、
前記熱電変換材料は、クラスレート結晶構造を有し、かつ
前記熱電変換材料は、p型である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高い熱電変換性能指数ZTを有するBa-Cu-Geクラスレートp型熱電変換材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示による熱電変換材料のクラスレート結晶構造の模式図を示す。
【
図2A】
図2Aは、エネルギー分散型X線分光法による実施例1による熱電変換材料の分析結果を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、エネルギー分散型X線分光法による実施例2による熱電変換材料の分析結果を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、X線回折法による実施例1による熱電変換材料の分析結果を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、X線回折法による実施例2による熱電変換材料の分析結果を示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、クラスレート化合物Ba
8Cu
6Ge
40の多結晶体のX線回折スペクトルのシミュレーション結果を示すを示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、本開示による熱電変換材料Ba
8+aCu
6-bGe
40+bの過剰Ba量aおよびゼーベック係数Sの関係を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、本開示による熱電変換材料Ba
8+aCu
6-bGe
40+bのGe置換量bおよびゼーベック係数Sの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本開示による熱電変換素子の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態による熱電変換材料及び熱電変換素子が詳細に説明される。
【0014】
本実施形態による熱電変換材料は、以下の化学式(I)により表される。
Ba8+aCu6-bGe40+b(I)
ここで、
aの値は0.1以上0.47以下であり、かつ
bの値は0以上0.43以下である。
本実施形態による熱電変換材料は、クラスレート結晶構造を有し、かつp型である。
【0015】
本実施形態による熱電変換材料は、Ba、Cu、およびGeから構成され、かつクラスレート結晶構造を有する。
図1は、クラスレート結晶構造を示す模式図を示す。
【0016】
非特許文献2および非特許文献3に開示されているように、Ba、Cu、およびGeから構成されるクラスレート化合物は、基本的には、化学式Ba8Cu6Ge40により表される組成を有する。化学式(I)に示されるように、本実施形態による熱電変換材料では、Baが過剰に存在し、かつCuの一部がGeで置換されている。aの値は、基本的な組成(すなわち、Ba8Cu6Ge40)に対する過剰Ba量を表す。bの値は、Cuの一部のGe置換量を表す。本実施形態による熱電変換材料は、以下の2つの事項(I)aの値が0.1以上0.47以下であること、および(II)bの値が0以上0.43以下であることの両者によって特徴づけられる。後述される実施例において実証されているように、aおよびbの値がこれらの範囲内にある場合、熱電変換材料はp型であり、かつ高い熱電変換性能指数ZTを有する。一方、非特許文献1、非特許文献2、および非特許文献3に開示され、かつ後述される比較例において実証されているように、aおよびbの少なくとも一方の値が上記の範囲外にある場合、熱電変換材料はn型である。あるいは、その場合には、熱電変換材料はp型だが低い熱電変換性能指数ZTを有する。aの値は、0.28以上0.47以下であることが望ましい。bの値は、0.07以上0.3以下であることが望ましい。aの値が0.28以上0.47以下であり、かつbの値が0.07以上0.3以下であることがより望ましい。
【0017】
本実施形態による熱電変換材料を合成する方法は、Ba、Cu、およびGeの原料を溶融する工程を有する。溶融方法の例は、アーク溶解法または高周波加熱法である。原料の酸化を防ぐため、原料は、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)で満たされた雰囲気中、または真空中で原料は溶融されることが望ましい。なお、溶融工程において、原料の一部が蒸発したり、容器から漏れ出し得る。このため、得られた熱電変換材料の組成比は、原料の組成比とは必ずしも一致しない。
【0018】
本実施形態の熱電変換材料により形成される熱電変換部材を製造する方法は、溶融工程を経て合成された本実施形態の熱電変換材料を粒子にする粒子化工程と、当該粒子を焼結する工程を具備する。粒子化工程においては、ボールミルまたは乳鉢を用いて本実施形態の熱電変換材料が粉砕され、粒子を得る。焼結工程においては、例えば、放電プラズマ焼結法またはホットプレス焼結法を用いて粒子が焼結される。これらの粒子化工程および焼結工程も、熱電変換材料の酸化を防ぐため、不活性ガス(例えば、アルゴン)で満たされた雰囲気中、または真空中で行われることが望ましい。
【0019】
図5は、本実施形態による熱電変換素子10の模式図を示す。熱電変換素子10は、p型熱電変換部1、n型熱電変換部2、第1電極3、第2電極4、および第3電極5を具備する。p型熱電変換部1の一端およびn型熱電変換部2の一端は、第1電極3を介して互いに電気的に接続されている。p型熱電変換部1の一端およびn型熱電変換部2の一端は、それぞれ、第2電極4および第3電極5に接続されている。p型熱電変換部1は、本実施形態による熱電変換材料から形成されている。n型熱電変換部2の熱電変換材料の例は、非特許文献2に開示されている化学式Ba
8Cu
6-xGe
40+x(0≦x≦0.7)により表される化合物である。
【0020】
図5において、熱電変換により生じた電力を取り出すための第1リード線6および第2リード線7が、それぞれ、第2電極4および第3電極5に電気的に接続されている。熱電変換素子10は、公知の方法によって作製することができる。
【0021】
(実施例)
本開示による熱電変換材料が、以下の実施例を参照しながら、さらにより詳細に説明される。
(実施例1)
(製造方法)
実施例1では、化学式Ba8.28Cu5.70Ge40.30により表される熱電変換材料が、以下のように製造された。
【0022】
原料として、Ba粒子(純度99%以上、3.13グラム)、Cu粒子(純度99.99%、0.97グラム)、およびGe粒子(純度99.99%、8.17グラム)が用いられた。Ba:Cu:Geのモル比は、8.2:5.5:40.5であった。これらの原料の重量は、Baの大気中での酸化を防ぐため、アルゴンガスで満たされたグローブボックス中で測定された。これらの原料はアーク溶解炉に移された。次いで、アーク溶解炉の内部をアルゴンガスで満たした。当該原料はアーク放電法により摂氏1000度~摂氏1500度に加熱された。このようにして原料を溶融した。原料は反応し、その結果、インゴット状のクラスレート化合物が得られた。
【0023】
インゴット状のクラスレート化合物は、アルゴンガスで満たされたグローブボックス中で、乳鉢を用いて粉砕された。粉砕されたクラスレート化合物は、グラファイトから形成された焼結型(内径:10ミリメートル)の内部に充填された。焼結型は放電プラズマ焼結炉に移された。次いで、放電プラズマ焼結炉の内部はアルゴンガスで満たされた。焼結型の内部に含まれる材料に30MPaの圧力を印加しながら、当該材料にパルス電流を流した。このようにして、およそ摂氏20度/分の速度で材料が加熱された。材料の温度は摂氏800度で10分間保持され、焼結体を得た。最後に、焼結体は室温まで冷却された。このようにして、実施例1による熱電変換材料が得られた。実施例1による熱電変換材料は、クラスレート化合物の緻密な焼結体であった。
【0024】
(組成比の特定)
実施例1による熱電変換材料の化学組成が、エネルギー分散型X線分光法(以下、「EDX」という)により分析された。
図2Aは、その結果を示すグラフである。
図2Aより、実施例1による熱電変換材料は、Ba
8.28Cu
5.70Ge
40.30という組成(すなわち、化学式(I)において、a=0.28かつb=0.30)を有していたことが分かる。
【0025】
(結晶構造の観察)
実施例1による熱電変換材料の結晶構造が、X線回折法により分析された。分析には、CuKα1(波長λ:0.15406ナノメートル)およびCuKα2(波長λ:0.15443ナノメートル)が2:1の強度比で混ざったCuKα線(平均波長λ:0.15418ナノメートル)が用いられた。
図3Aは、その結果を示すグラフである。
図3Cは、Ba
8Cu
6Ge
40という組成を有するクラスレート化合物の多結晶体のX線回折スペクトルのシミュレーション結果グラフである。実施例1による熱電変換材料の回折スペクトルがクラスレート化合物の多結晶体の回折スペクトルと一致する。このことから、実施例1による熱電変換材料はクラスレート化合物のみからなり、かつ多結晶体であることがわかる。
【0026】
(熱電変換性能指数ZTの算出)
以下の表1は、実施例1による熱電変換材料のゼーベック係数Sおよび熱電変換性能指数ZTを示す。ゼーベック係数Sおよび熱電変換性能指数ZTの算出の詳細については、米国特許第9761779号明細書、米国特許出願番号14/847,362(国際出願番号:PCT/JP2014/001883)、および米国特許第9853200号明細書を参照せよ。これらの特許または特許出願は、いずれも本願に援用される。
【0027】
【0028】
表1から明らかなように、すべてのゼーベック係数Sは正の値である。これは、実施例1による熱電変換材料がp型であることを意味する。表1に示されているように、実施例1による熱電変換材料は、328ケルビンの温度で0.255という高い熱電変換性能指数ZTを有する。同様に、実施例1による熱電変換材料は、568Kの温度で、0.625という高い熱電変換性能指数ZTを有する。
【0029】
一方、非特許文献2に開示されているように、化学式Ba
8Cu
5.7Ge
40.3(すなわち、化学式(I)において、a=0かつb=0.3)により表されるクラスレート化合物は、およそ330ケルビンの温度で-100μV/ケルビンという負のゼーベック係数Sを有する。表2は、非特許文献2の開示内容および本開示による実施例1の間の補間結果を示す。
図4Aも参照せよ。
【0030】
【0031】
表2から明らかなように、p型の特性を得るためには、化学式(I)においてaの値は0.1以上である必要がある。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、原料のBa、Cu、およびGeの重量が、それぞれ、3.34グラム、1.13グラム、および8.58グラムであったこと以外は実施例1と同様の実験が行われ、熱電変換材料を得た。
実施例1と同様に、実施例2による熱電変換材料の化学組成がEDXにより分析された。
図2Bは、その結果を示すグラフである。
図2Bより、実施例2による熱電変換材料は、Ba
8.47Cu
5.93Ge
40.07という組成(化学式(I)において、a=0.47かつb=0.07)を有している事が分かった。
【0033】
実施例1と同様に、実施例2による熱電変換材料の結晶構造がX線回折法により分析された。
図3Bは、その結果を示すグラフである。実施例2による熱電変換材料の回折スペクトルが、
図3Cに示されるクラスレート化合物の多結晶の回折スペクトルと一致する。このことから、実施例2による熱電変換材料はクラスレート化合物のみからなり、かつ多結晶体であることがわかる。
【0034】
以下の表3は、実施例2による熱電変換材料のゼーベック係数Sおよび熱電変換性能指数ZTを示す。
【0035】
【0036】
表3から明らかなように、すべてのゼーベック係数Sは正の値である。これは、実施例2による熱電変換材料がp型である事を意味する。表3に示されているように、実施例2による熱電変換材料は、330Kの温度で0.168という高い熱電変換性能指数ZTを有する。同様に、実施例2による熱電変換材料は570Kの温度で、0.296という高い熱電変換性能指数ZTを有する。
【0037】
一方、非特許文献3によれば、化学式Ba8.21Cu6.49Ge39.51(化学式(I)において、bの値が負)により表されるクラスレート化合物は、p型の特性を有するものの、およそ300Kの温度で0.007という低い熱電変換性能指数ZTを示す。従って、高い熱電変換性能指数ZTのためには、化学式(I)におけるbの値は正である必要がある。
【0038】
(比較例1)
比較例1では、原料のBa、Cu、Geの重量が、それぞれ、2.09グラム、0.695グラム、および5.28グラムであったこと以外は実施例1と同様の実験が行われ、熱電変換材料を得た。
実施例1と同様に、比較例1による熱電変換材料の化学組成がEDXにより分析された。その結果、比較例1による熱電変換材料は、Ba8.36Cu5.45Ge40.55という組成(化学式(I)において、a=0.36かつb=0.55)を有していた。
実施例1と同様に、比較例1による熱電変換材料の結晶構造がX線回折法により分析された。その結果、比較例1による熱電変換材料はクラスレート化合物のみからなり、かつ多結晶体であった。
【0039】
以下の表4は、比較例1による熱電変換材料のゼーベック係数Sおよび熱電変換性能指数ZTを示す。
【0040】
【0041】
表4から明らかなように、ゼーベック係数Sは負の値である。これは、比較例1による熱電変換材料がn型である事を意味する。表4に示されるように、比較例1による熱電変換材料は、332Kの温度で、0.061という低い熱電変換性能指数ZTを有する。
以下の表5は、比較例1およびと実施例1の間の補間結果を示す。
図4Bも参照せよ。
【0042】
【0043】
表5から明らかなように、p型の特性を得るためには、化学式(I)においてbの値は0.43以下である必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による熱電変換材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換装置のために用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 p型熱電変換部
2 n型熱電変換部
3 第1電極
4 第2電極
5 第3電極
6 第1リード線
7 第2リード線
10 熱電変換素子