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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】木質材料難燃化処理用組成物
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/52 20060101AFI20230217BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20230217BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20230217BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20230217BHJP
   C01B 25/16 20060101ALI20230217BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
B27K3/52 B
C09K21/12
C09K21/02
C09K21/04
C01B25/16
E04B1/94 Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019014666
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121477
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】上川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 敦子
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 祐史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】奥村 奈未
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-055294(JP,A)
【文献】特開昭53-126062(JP,A)
【文献】特開2019-147377(JP,A)
【文献】特開昭54-123181(JP,A)
【文献】特開昭63-107502(JP,A)
【文献】特表平08-503505(JP,A)
【文献】特開2018-188552(JP,A)
【文献】特開昭53-050311(JP,A)
【文献】特開2010-242488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
C09K 21/12
C09K 21/02
C09K 21/04
C01B 25/16
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料を難燃化処理するための組成物であって、
(1)難燃成分としてリン酸又は亜リン酸のグアニジン塩及び
(2)数平均分子量が300以上であるポリエチレンイミン
を含むことを特徴とする木質材料難燃化処理用組成物。
【請求項2】
難燃成分が、リン酸又は亜リン酸と、炭酸グアニジンとの塩である、請求項1に記載の木質材料難燃化処理用組成物。
【請求項3】
さらにシランカップリング剤を含む、請求項1又は2に記載の木質材料難燃化処理用組成物。
【請求項4】
40℃未満の温度下で使用される、請求項1~3のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物。
【請求項5】
さらに水系溶媒を含み、少なくとも前記難燃成分及び前記ポリエチレンイミンが前記水系溶媒に溶解している、請求項1~4のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物。
【請求項6】
難燃化された木質材料を製造する方法であって、
(1)減圧下で木質材料内の空気を除去する工程、及び
(2)40℃未満の温度下において、請求項1~5のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物を木質材料中に注入する工程
を含むことを特徴とする難燃化木質材料の製造方法。
【請求項7】
木質材料難燃化処理用組成物が注入された木質材料をさらに40℃以上の温度下で乾燥させる工程を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物を含有する難燃化木質材料。
【請求項9】
木質材料難燃化処理用組成物の含有量が50~400kg/mである、請求項8に記載の難燃化木質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料を難燃化処理するための新規な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建築材料として用いられる木質材料(木材又はそれを含む材料)は、コンクリート等と比べて、比較的軽量であること、加工しやすいこと、高い断熱性を有すること等で有利であることから、従来から建築材料として多用されている。
【0003】
他方、木質材料は、本来的に可燃性であるという点でコンクリート等と比べた場合には欠点となる。このため、木質材料を建築材料として用いる場合は防火処理が行われる場合がある。防火処理に関しては、例えば個人の住宅の建築材料として木質材料を使用する場合は、不燃化処理等の難燃化処理を行うことは義務化されていない。これに対し、商業ビル、病院、百貨店等をはじめ、不特定多数の人間が利用する大規模な建物については、火災時の安全を確保するために、室内の壁、天井等には建築基準法に定められた防火材料の使用が義務付けられている。従って、本来可燃性である木質材料は未処理のままで上記用途に用いることは当然できないが、木質材料特有の外観の美しさ、特徴的な触感等から、上記用途でも使用できることが望まれている。
【0004】
一般に、建築基準法に規定される防火性能を得るために、液状の不燃薬剤を用いる方法が採用されている。すなわち、減圧工程において木材内の空気を除去した後、加圧工程において液状の不燃薬剤を木材中に注入して浸透させる方法が採用されている。
【0005】
このような不燃薬剤としては、例えばリン系薬剤、ホウ素系薬剤等が使用されている。より具体的には、以下のような薬剤が開発されている。
【0006】
例えば、ホウ酸とホウ砂が、40~100℃でのそれぞれの単独化合物の溶解度を超える量で含有されてなり、水100部に対して、ホウ酸(HBO)のx部とホウ砂(Na・10HO)のy部(但し、x≧35、y≧40)とをホウ素換算で8.3mol/kg以上含むことを特徴とする安定なホウ素化合物の液状組成物が提案されている(特許文献1)。
【0007】
また、水にブタンテトラカルボン酸が溶解されるとともに、グアニジンリン酸塩、グアニジンリン酸塩とグアニル尿素のリン酸塩との混合物又はグアニジンとリン酸との混合物が、その溶解度以上に溶解されていることを特徴とする木質材料用不燃化薬剤が知られている(特許文献2)。
【0008】
その他にも、例えばリン酸グアニジン及びリン酸が水に溶解された難燃化薬液を被処理木材に含浸させて不燃木材を製造する不燃木材の製造方法であって、上記リン酸の含有量が上記リン酸グアニジン100重量部に対して2重量部以上15重量部以下で、上記リン酸グアニジンと上記リン酸とを合わせた重量濃度が20%~50%である難燃化薬液を調製し、上記調製された難燃化薬液を40℃~80℃に加温し、上記被処理木材が収容された圧力容器内を所定の圧力に加圧して上記被処理木材に上記加温された難燃化薬液を含浸させる加圧処理の前に、上記圧力容器内の圧力を上記加温された難燃化薬液の液温に対応する水の飽和蒸気圧よりも高い状態を維持したまま減ずる減圧処理を行うことを特徴とする不燃木材の製造方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5079983号公報
【文献】特許第5751691号公報
【文献】特許第6251434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1又は3のように水に溶けにくい薬剤では、その水溶液を調製するために高温で溶解させる必要があり、難燃化処理のために設備が大かがりになるほか、高温に加熱するためのコストもかかり、工業的生産に適したものとは言い難い。
【0011】
そのため、特許文献2のように水に溶けやすい薬剤を使用すれば、加熱工程を省略することができるものの、薬剤を木質材料に注入した後も溶出しやすくなる(いわゆる溶脱)。すなわち、木質材料中に注入された薬剤が、経時的に空気中の水分を吸湿することにより木質材料内部から溶出するという現象が起こる。その結果、木質材料の難燃性が低下するだけでなく、木質材料から溶出した薬剤が析出(結晶化)することにより木質材料表面が白くなる現象(いわゆる白華)が生じ、外観低下も引き起こすことになる。
【0012】
これに対し、水に溶けやすい薬剤を注入した後、木質材料の表面を水不溶性の樹脂でコーティングする方法も考えられるが、そのようなコーティング工程が増えるので、やはり工業的規模での処理には不向きである。しかも、コーティングされた前記樹脂は、燃焼・発熱の原因となり、かえって難燃化の妨げになるおそれもある。
【0013】
従って、本発明の主な目的は、比較的低温下で木質材料に注入できるとともに、溶脱及び白華を効果的に抑制できる木質材料難燃化処理用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の成分の組み合わせを含む組成物を木質材料に適用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の木質材料難燃化処理用組成物に係る。
1. 木質材料を難燃化処理するための組成物であって、
(1)リン系難燃成分及びホウ素系難燃成分の少なくとも1種の難燃成分及び
(2)ポリエチレンイミン
を含むことを特徴とする木質材料難燃化処理用組成物。
2. 難燃成分が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ポリリン酸カルバメート及びこれらのアミン塩の少なくとも1種である、前記項1に記載の木質材料難燃化処理用組成物。
3. ポリエチレンイミンの平均分子量が300以上である、前記項1又は2に記載の木質材料難燃化処理用組成物。
4. 40℃未満の温度下で使用される、前記項1~3のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物。
5. さらに水系溶媒を含み、少なくとも前記難燃成分及び前記ポリエチレンイミンが前記水系溶媒に溶解している、前記項1~4のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物。
6. 難燃化された木質材料を製造する方法であって、
(1)減圧下で木質材料内の空気を除去する工程、及び
(2)40℃未満の温度下において、前記項1~5のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物を木質材料中に注入する工程
を含むことを特徴とする難燃化木質材料の製造方法。
7. 木質材料難燃化処理用組成物が注入された木質材料をさらに40℃以上の温度下で乾燥させる工程を含む、前記項6に記載の製造方法。
8. 前記項1~5のいずれかに記載の木質材料難燃化処理用組成物を含有する難燃化木質材料。
9. 木質材料難燃化処理用組成物の含有量が50~400kg/mである、前記項8に記載の難燃化木質材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的低温下で木質材料に注入できるとともに、溶脱及び白華を効果的に抑制できる木質材料難燃化処理用組成物を提供することができる。特に、本発明組成物は、特定の難燃成分とポリエチレンイミンとの組合せを含むことから、木質材料中で難燃成分を強固に固定化することができる結果、難燃成分の溶脱、難燃成分による木質材料表面の白華等を抑制ないしは防止することができる。すなわち、本発明の組成物によって、優れた難燃性を付与するとともに、白華等の抑制により外観を効果的に維持することが可能となる。
【0017】
また、本発明組成物は、常温下で木質材料に注入することができるので、加熱する場合に比して設備の簡略化、低コスト化等にも寄与することができる。すなわち、溶脱、白華等が抑制された難燃化木質材料をより簡単にかつ低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.木質材料難燃化処理用組成物
本発明の木質材料難燃化処理用組成物(本発明組成物)は、木質材料を難燃化処理するための組成物であって、
(1)リン系難燃成分及びホウ素系難燃成分の少なくとも1種の難燃成分及び
(2)ポリエチレンイミン
を含むことを特徴とする。
【0019】
木質材料としては、本発明組成物を注入できる限り、特に限定されない。加工状態による分類では、無垢材、集成材、合板等のほか、中密度繊維板(MDF)等のファイバーボード等のいずれも適用できる。木の種類としても、例えばスギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹、ナラ、ケヤキ、キリ、ラワン等の広葉樹の木材に適用可能である。また、用途としても限定されず、建築用(構造材、内装材)をはじめ、例えば家具用、工作用等の各種の用途が挙げられる。
【0020】
本発明組成物は、難燃成分としてリン系難燃成分及びホウ素系難燃成分の少なくとも1種を含有する。
【0021】
リン系難燃成分としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ポリリン酸カルバメート及びこれらのアミン塩の少なくとも1種を好適に用いることができる。アミン塩としては、例えばアンモニア、炭酸グアニジン、グアニル尿素等のNH基を含む化合物と前記リン化合物との塩類を用いることができる。
【0022】
ホウ素系難燃成分としては、例えばホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、ホウ砂等の少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
これら難燃成分の中でも、特にリン系難燃成分を好適に用いることができる。特に、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ポリリン酸カルバメート及びこれらのアミン塩の少なくとも1種が望ましい。これらのリン系難燃成分は、ポリエチレンイミンと反応し、水不溶性の化合物を形成しやすいため、より効果的に溶脱・白華を防止することができる。
【0024】
本発明組成物中における難燃成分の含有量は、通常は30~99.9重量%程度とし、特に60~98重量%とすることが好ましい。この含有量は、リン系難燃成分及びホウ素系難燃成分を併用する場合は、その合計量とする。なお、本発明組成物中における各成分の含有量は、特にことわりのない限りは固形分含有量とする。
【0025】
また、リン系難燃成分及びホウ素系難燃成分を併用する場合の両者の割合は、特に制限されないが、重量比でリン系難燃成分:ホウ素系難燃成分=1:0.1~10程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0026】
なお、本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内で他の難燃成分が含まれていても良いが、その含有量は通常は本発明組成物中0~1重量%程度とすれば良い。
【0027】
ポリエチレンイミンは、エチレンイミンを重合してなる水溶性ポリマーであり、それ自体は公知の化合物である。本発明組成物において、ポリエチレンイミンは、難燃成分の溶脱、難燃成分による白華等を抑制ないしは防止する機能を有する。
【0028】
また、ポリエチレンイミンの数平均分子量は、特に制限されないが、上記機能の見地より、通常は300以上であることが好ましく、特に10000以上であることがより好ましい。数平均分子量の上限は、限定的ではないが、例えば200000程度とすることができる。
【0029】
このようなポリエチレンイミンは、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば製品名「エポミンSP-200」,「エポミンP-1000」,「エポミンSP-003」,「エポミンSP-018」(いずれも株式会社日本触媒製)等を用いることができる。
【0030】
本発明組成物中におけるポリエチレンイミンの含有量は、用いる難燃成分の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は0.1~30重量%程度とし、特に1~15重量%とすることが好ましい。
【0031】
また、難燃成分に対するポリエチレンイミンの割合としては、限定的ではないが、一般的には難燃成分100重量部に対してポリエチレンイミン5~25重量部程度とすることが望ましい。
【0032】
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分が含まれていても良い。例えば、水系溶媒、シランカップリング剤等のほか、防腐剤、シロアリ駆除剤、防カビ剤、浸透剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
【0033】
水系溶媒としては、水のほか、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を挙げることができる。水は、例えば蒸留水、水道水、超純水等のいずれも使用することができる。水溶性有機溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類を挙げることができる。
【0034】
水系溶媒は、本発明組成物において溶媒として機能するものであり、少なくとも難燃成分及びポリエチレンイミンを溶解させることができることが望ましい。すなわち、本発明組成物は、少なくとも難燃成分及びポリエチレンイミンが水系溶媒に溶解した水溶液の形態であることが好ましい。この場合、難燃成分及びポリエチレンイミンが完全に水系溶媒に溶解していることが好ましいが、その一部が溶解していなくても良い。
【0035】
従って、水系溶媒の使用量は、難燃成分及びポリエチレンイミンが溶解するのに十分な量とすれば良い。一般的には本発明組成物の固形分の総重量100重量部に対して水系溶媒100~500重量部程度とすれば良いが、これに限定されない。
【0036】
また、本発明組成物では、シランカップリング剤を用いることにより、難燃成分をより強固に木質材料内部に固定化することができる。その結果、難燃成分の溶脱及び白華をより効果的に防止することができる。シランカップリング剤としては、限定的でなく、公知又は市販のものを使用することもできる。本発明では、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を好適に用いることができる。シランカップリング剤の添加量は、用いるシランカップリンク剤の種類等に応じて設定すれば良い。例えば、本発明組成物中1~10重量%程度としても良いが、これに限定されない。
【0037】
本発明組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば上記のような各成分を均一に混合することによって調製することができる。この場合の添加順序等も限定的でなく、いずれの順序でも採用することができる。
【0038】
特に、本発明組成物において水系溶媒を用いる場合は、少なくとも難燃成分及びポリエチレンイミンが水系溶媒に溶解させることによって水溶液の形態の本発明組成物を調製することができる。
【0039】
2.難燃化木質材料の製造方法
本発明は、難燃化木質材料の製造方法も包含する。すなわち、本発明は、難燃化された木質材料を製造する方法であって、
(1)減圧下で木質材料内の空気を除去する工程(減圧工程)、及び
(2)40℃未満の温度下において、本発明組成物を木質材料中に注入する工程(注入工程)
を含むことを特徴とする難燃化木質材料の製造方法を包含する。
【0040】
減圧工程
減圧工程では、減圧下で木質材料内の空気を除去する。減圧の程度は、特に限定されず、一般的には20kPa以下(好ましくは8~15kPa)の範囲内で適宜設定すれば良い。また、減圧時間も限定的でなく、例えば0.5~6時間程度とすれば良いが、これに限定されない。
【0041】
減圧手段は、特に限定されず、公知又は市販の装置を用いて実施することもできる。従って、例えばコンプレッサー等を用いることができる。
【0042】
減圧工程を実施する雰囲気は、木質材料内の空気のほぼ全部を除去できる限り、特に制限されない。例えば、a)密閉空間内に木質材料を配置した状態で減圧工程を実施する方法、b)密閉空間内に充填された本発明組成物中に木質材料を浸漬した状態で減圧工程を実施する方法等が挙げられる。
【0043】
注入工程
注入工程では、40℃未満(好ましくは10~38℃、より好ましくは15~35℃)の温度下において、本発明組成物を木質材料中に注入する。この場合、本発明組成物は、少なくとも難燃成分及びポリエチレンイミンが水系溶媒に溶解した水溶液の形態であることが好ましい。これにより、より確実に難燃成分及びポリエチレンイミンを木質材料内部に注入することができる。例えば、木質材料が減圧手段により減圧された状態で注入工程を実施することによってより確実に本発明組成物を注入することがもきる。
【0044】
本発明組成物を注入する方法は、限定的ではなく、例えば密閉空間中に木質材料を配置し、本発明組成物の存在下で密閉空間を加圧することにより実施することができる。この場合の圧力は、特に制限されないが、一般的には0.5~2MPa程度とすれば良い。特に、密閉空間内で本発明組成物中に木質材料全体を浸漬したうえで加圧する方法を好適に採用することができる。加圧手段は、特に限定されず、公知又は市販の装置を用いて実施することもできる。従って、例えばコンプレッサー等を用いることができる。
【0045】
本発明組成物の注入量(固形分)は、所望の難燃性能等に応じて適宜設定できるが、一般的には50~400kg/m程度とすることができるが、これに限定されない。
【0046】
<実施の形態>
上記のような減圧工程及び加圧工程は、例えば次のような方法で好適に実施することができる。これらの各工程における操作条件等は、a)薬剤として本発明組成物を用いること及びb)40℃未満の温度で実施されることを除き、公知の条件に従って実施することもできる。
【0047】
第1の方法としては、例えばコンプレッサー及び密閉型容器を備えた減圧・加圧装置を用い、密閉型容器中に木質材料を入れて密閉した後、1)密閉型容器内を減圧することにより木質材料中の空気を取り除く工程、2)本発明組成物(水溶液)を密閉型容器内に導入して木質材料全体を浸漬する工程、3)本発明組成物を加圧することによって木質材料に本発明組成物を注入する工程を含む方法が挙げられる。
【0048】
上記1)の工程では、密閉型容器中の空間(空気中)に木質材料を配置した上で、その雰囲気を減圧することによって木質材料中の空気が取り除かれる。
【0049】
上記2)の工程では、通常は木質材料は本発明組成物中では浮上することがあるので、木質材料全体が本発明組成物に完全に浸漬させるため、木質材料が浮上しないように固定することが好ましい。
【0050】
上記3)の工程では、本発明組成物を加圧する場合、本発明組成物自体に圧力を加える方法のほか、密閉型容器内に存在する気体(空気等)を加圧する方法も採用することができる。
【0051】
第2の方法としては、例えばコンプレッサー及び密閉型容器を備えた減圧・加圧装置を用い、密閉型容器中に木質材料を入れて密閉した後、1)密閉型容器に充填された本発明組成物(水溶液)に木質材料全体を浸漬する工程、2)密閉型容器内を減圧することにより木質材料中の空気を取り除く工程、3)本発明組成物を加圧することによって木質材料に本発明組成物を注入する工程を含む方法も採用することができる。
【0052】
上記1)の工程では、通常は木質材料は本発明組成物中では浮上することがあるので、木質材料全体が本発明組成物に完全に浸漬させるため、木質材料が浮上しないように固定することが好ましい。
【0053】
上記2)の工程では、密閉型容器内の減圧は、一般的には密閉型容器中の空気を減圧することによって、本発明組成物も減圧下に置かれる結果、木質材料中の空気が気泡となって出ていく。これによって、木質材料中の空気が取り除かれる。
【0054】
上記3)の工程では、本発明組成物を加圧する場合、本発明組成物自体に圧力を加える方法のほか、密閉型容器内に存在する気体(空気等)を加圧する方法も採用することができる。
【0055】
このようにして木質材料に本発明組成物が注入された後は、密閉空間(密閉型容器)から処理済みの木質材料を取り出し、必要に応じて乾燥等の公知の処理を施すこともできる。乾燥する方法は、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれであっても良いが、加熱乾燥する場合は40℃以上(好ましくは45~55℃)程度とすれば良い。乾燥時間は、乾燥温度、木質材料の形状・大きさ等に応じて適宜設定でき、例えば1時間~1ヶ月とすることができるが、これに限定されない。
【0056】
3.難燃化木質材料
本発明は、本発明組成物を含有する難燃化木質材料を包含する。すなわち、本発明によれば、少なくとも難燃成分及びポリエチレンイミンが内部に含まれる難燃化木質材料を提供することもできる。
【0057】
本発明の難燃化木質材料における本発明組成物の含有量は、特に優れた難燃性を発揮できるという点では、通常100~400kg/mであることが望ましい。
【0058】
また、本発明の難燃化木質材料は、難燃成分の溶脱、難燃成分による白華等が効果的に抑制されているので、木質材料表面の樹脂コーティングは美観等の機能を付与するための少量の塗布量で良い。これにより、より高い難燃性を得ることができる。
【実施例
【0059】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、本実施例中における「%」は「重量%」を意味する。
【0060】
実施例1
ポリリン酸カルバメートの54%水溶液(833g)に対し、平均分子量70,000のポリエチレンイミンの30%水溶液(株式会社日本触媒製「エポミンP-1000」)167gを加え、常温で充分に攪拌して濃度約50%の難燃化薬剤Aを1,000g得た。得られた溶液は微黄色透明であった。
【0061】
実施例2
ポリエチレンイミンとして平均分子量10,000のもの(株式会社日本触媒製「エポミンSP-200」を30%に希釈)を使用したほかは、実施例1と同様にして難燃化薬剤Bを得た。
【0062】
実施例3
実施例1の平均分子量70,000のポリエチレンイミン水溶液の使用量を84gとしたうえ、さらに25%アンモニア水溶液を40g加えたほかは、実施例1と同様にして難燃化薬剤Cを得た。
【0063】
実施例4
実施例1で用いたポリリン酸カルバメート水溶液(833g)に炭酸グアニジン53gを加え、炭酸ガスの発生が収まるまで攪拌した後、実施例1の平均分子量70,000のポリエチレンイミン水溶液84gを加えて実施例1と同様にして難燃化薬剤Dを得た。
【0064】
実施例5
38%のリン酸水溶液(708g)に炭酸グアニジン318gを加え、炭酸ガスの発生が収まるまで攪拌した後、実施例1の平均分子量70,000のポリエチレンイミン水溶液84gを加えて実施例1と同様にして難燃化薬剤Eを得た。
【0065】
実施例6
36%の亜リン酸水溶液(687g)に炭酸グアニジン350gを加え、炭酸ガスの発生が収まるまで攪拌した後、実施例1の平均分子量70,000のポリエチレンイミン水溶液84gを加えて実施例1と同様にして難燃化薬剤Fを得た。
【0066】
実施例7
38%のリン酸水溶液(708g)に炭酸グアニジン318gを加え、炭酸ガスの発生が収まるまで攪拌した後、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランを24g加え、実施例1の平均分子量70,000のポリエチレンイミン水溶液84gを加えて実施例1と同様にして難燃化薬剤Gを得た。
【0067】
比較例1
従来品としてポリリン酸カルバメートのアンモニウム塩水溶液(濃度50重量%)を難燃化薬剤Hとした。
【0068】
比較例2
従来品としてリン酸グアニジンとシランカップリング剤の水溶液(濃度50重量%)を難燃化薬剤Iとした。
【0069】
試験例1
(1)試料の作製(木材への注入操作)
各実施例及び比較例で得られた難燃化薬剤A~Iについて、水道水を適宜加えることにより、固形分濃度を約30%に調整した。このようにして得られた液剤中に密度0.33g/cmの木材(スギ辺材、縦100mm×横100mm×板厚18mm)を完全に沈め、温度23℃にて容器内を10kPaに減圧して2時間かけて木質材料中の空気を除去した。次いで、1.0MPaに加圧して5時間にて薬剤を注入した。木材を液剤中から取り出した後、送風式乾燥機を使用して50℃で14日間乾燥した。得られた木材は、密度より算出した結果、有効成分としての薬剤が約280kg/m注入されていた。このようにして得られた難燃化木材を試料として用いた。
【0070】
(2)発熱性試験
各試料について、コーンカロリーメータを使用して50kW/mの輻射熱で20分間の発熱性試験を行い、10分及び20分の総発熱量と最大発熱速度を測定し、「不燃」、「準不燃」、「難燃」の判定を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
(3)白華試験
各試料に対し、温度40℃及び相対湿度90%RHで24時間の吸湿操作と、60℃熱風乾燥器で24時間の乾燥操作との組み合わせからなる工程を1サイクルとし、それを5サイクル繰り返した後、試料表面を目視することで白華の有無を確認した。白華が全く認められないものを「○」、少しでも白華が確認できた場合を「×」とした。その結果を表1に示す。
【0072】
(4)溶脱性試験
溶脱性の簡易評価法として、前記の白華試験の初期と5サイクル目の乾燥後の重量を測定し、初期の薬剤注入量に対する重量減少の割合(%)を計算した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の結果からも明らかなように、本発明組成物により難燃化処理された試料A~Gは、高い難燃性とともに溶脱及び白華が効果的に抑制されていることがわかる。