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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】害鳥獣威嚇システム
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/16 20110101AFI20230217BHJP
   A01M 29/10 20110101ALI20230217BHJP
【FI】
A01M29/16
A01M29/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021165261
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】599094624
【氏名又は名称】株式会社システム エイ・ブイ
(73)【特許権者】
【識別番号】596001232
【氏名又は名称】有限会社青電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100213540
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵庭
(72)【発明者】
【氏名】井関 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】堀 潤也
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3177796(JP,U)
【文献】特開2013-233139(JP,A)
【文献】登録実用新案第3055702(JP,U)
【文献】特開平06-292495(JP,A)
【文献】登録実用新案第3187091(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/16
A01M 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害鳥獣が所定のエリアに侵入してきた際に模倣銃で威嚇して追い払う害鳥獣威嚇システムであって、
所定のエリアを視野内に収めることが可能な監視カメラと、
姿勢及び/又は位置の調節が可能な模倣銃を備えた威嚇装置と、
前記監視カメラで撮影された画像を解析することにより前記所定のエリア内に侵入してきた特定の害鳥獣の位置を特定する解析装置と、
前記所定のエリアにおける前記特定の害鳥獣の位置に応じて前記威嚇装置を制御することにより、前記模倣銃の銃口の向きを前記所定のエリア内の前記特定の害鳥獣の動きに追従させる制御装置とを備え
前記制御装置は、前記特定の害鳥獣以外の他種の害鳥獣に対しては前記銃口の向きを追従させる制御を行わない
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項2】
請求項1に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記監視カメラによって順次に撮影される複数の画像の各々について前記解析を行うことにより前記所定のエリア内を移動する前記特定の害鳥獣の位置を特定し、
前記制御装置は、
前記解析装置によって順次に特定される前記特定の害鳥獣の位置に応じて前記威嚇装置を制御することにより、前記模倣銃の銃口の向きを前記所定のエリア内における前記特定の害鳥獣の動きに追従させる
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記監視カメラによって撮影された画像上の位置を特定するためのフレーム内座標と、当該位置に対応する実空間上の位置を特定するための実座標との間に成立する既知の関係に基づいて、前記特定の害鳥獣の実際の位置を特定する
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記実座標によって特定された位置と、当該位置に対して前記銃口を向けるために必要な前記威嚇装置の設定値との間に成立する既知の関係に基づいて、前記威嚇装置に設定すべき設定値を特定する
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記特定の害鳥獣以外の前記他種の害鳥獣が監視の対象から除外されるように設定することが可能に構成されている
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項6】
請求項5に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記所定のエリア内に前記特定の害鳥獣と誤認されるような静止物体が存在している場合に当該物体の存在する部分エリアが監視の対象から除外されるよう設定することが可能に構成されている
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記解析装置は、
前記監視カメラで撮影された画像から物体を検出し、当該物体が前記特定の害鳥獣に固有の特徴量を有しているかの対比をすることにより、前記物体が前記特定の害鳥獣に該当するか否かを判別する
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、
前記威嚇装置は、前記所定のエリア内の前記特定の害鳥獣に向けて光及び/又は音を発する機能を更に備えている
ことを特徴とする害鳥獣威嚇システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害鳥獣威嚇システムに関し、さらに詳しくは、所定のエリア内を監視する監視カメラの映像又は画像(以下、単に「画像」という。)を解析することにより所定のエリア内に侵入してきた害鳥獣を模倣銃で威嚇して追い払う害鳥獣威嚇システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農作物等に対して害を加える鳥獣(以下、「害鳥獣」という。)を撃退するために、例えば、ロケット花火、フラッシュライト、発音機、光反射物、目玉模様(図柄)、死骸模型等で威嚇する方法などの各種の手法が提案されている(特許文献1,2,3等を参照)。ここで、本明細書における「農作物等」には害鳥獣によって害を受ける可能性のある田、畑、果樹園、牧草地等の圃場における農作物の他、ごみ集積所などの人の活動に関わる場所等が含まれるものとし、「害鳥獣」には害を与える可能性のあるイノシシ、サル、シカ、アライグマ、ハクビシン、タヌキ、アナグマ等の獣類や、カラス、ムクドリ、ハト、スズメ、ヒヨドリ、カワウ等の鳥類が含まれるものとする。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された花火銃は、先端部が開放された筒体2と、該筒体の略中央部に形成されたロケット花火挿入口6と、該ロケット花火挿入口に近接し、前記筒体と連通して設けられた導火線保持部7を有する把持部3と、前記筒体を挿通可能とし、前記把持部の導火線保持部側端部にて当接するカバー部4とから構成されており、このロケット花火挿入口からロケット花火8を装填して着火し、発射することにより数十メーター先まで到達させるものである。
【0004】
また、特許文献2に開示された撃退法は、鳥獣が2~5mの距離に接近した時点でフラッシュライトの閃光点滅と発音機にセットしてある銃音と人の怒声等の録音威嚇音を突発的に発することによって鳥獣を威嚇し、再びフラッシュライト及び発音機の電源を「切」するという手順を繰り返す方式によって鳥獣の経験学習の封じ込めを図っている。
【0005】
また、特許文献3に記載の自動時間差ロケット花火発車式害鳥獣撃退装置は、害鳥獣除け図柄板から突き出した数本の銃身がロケット花火を自動的に、かつ時間差で発射させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3124481号公報
【文献】特開2006-158372号公報
【文献】特開2006-166882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1,2,3に記載の装置又は方法は、何れも害鳥獣に対して単に同じ威嚇パターンを繰り返すに過ぎないものであるため、知能が高く警戒心の強い害鳥獣は、自分や群れの仲間が何度か侵入を試みるうちに当該威嚇パターンを覚えてしまい、その威嚇パターンが侵入後の自分や仲間の行動に無関係であることを経験学習し、そのような威嚇装置又は方法は本来の機能を発揮し得なくなり、害鳥獣が農作物等を荒らすのを阻止できないという問題があった。また、例えば、特許文献1~3の装置を用いて、夜から早朝にかけて行動する夜行性の害獣を音で威嚇しようとした場合には、周辺住民から音がうるさい、寝られない、などの苦情の対象となり、装置の可動を停止せざるを得ないという事態に陥る可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みなされたもので、視覚能力及び学習能力の高い害鳥獣の特性を逆に利用することにより、長期に亘って威嚇効果を持続させることが可能な害鳥獣威嚇システム(ひいては、昼行性の害鳥獣にも夜行性の害鳥獣にも対処可能な害鳥獣威嚇システム)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、害鳥獣が所定のエリアに侵入してきた際に模倣銃で威嚇して追い払う害鳥獣威嚇システムであって、所定のエリアを視野内に収めることが可能な監視カメラと、姿勢及び/又は位置の調節が可能な模倣銃を備えた威嚇装置と、前記監視カメラで撮影された画像を解析することにより前記所定のエリア内に侵入してきた特定の害鳥獣の位置を特定する解析装置と、前記所定のエリアにおける前記特定の害鳥獣の位置に応じて前記威嚇装置を制御することにより、前記模倣銃の銃口の向きを前記所定のエリア内の前記特定の害鳥獣の動きに追従させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記特定の害鳥獣以外の他種の害鳥獣に対しては前記銃口の向きを追従させる制御を行わないことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記監視カメラによって順次に撮影される複数の画像の各々について前記解析を行うことにより前記所定のエリア内を移動する前記特定の害鳥獣の位置を特定し、前記制御装置は、前記解析装置によって順次に特定される前記特定の害鳥獣の位置に応じて前記威嚇装置を制御することにより、前記模倣銃の銃口の向きを前記所定のエリア内における前記特定の害鳥獣の動きに追従させることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記監視カメラによって撮影された画像上の位置を特定するためのフレーム内座標と、当該位置に対応する実空間上の位置を特定するための実座標との間に成立する既知の関係に基づいて、前記特定の害鳥獣の実際の位置を特定することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記実座標によって特定された位置と、当該位置に対して前記銃口を向けるために必要な前記威嚇装置の設定値との間に成立する既知の関係に基づいて、前記威嚇装置に設定すべき設定値を特定することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記特定の害鳥獣以外の前記他種の害鳥獣が監視の対象から除外されるように設定することが可能に構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記所定のエリア内に前記特定の害鳥獣と誤認されるような静止物体が存在している場合に当該物体の存在する部分エリアが監視の対象から除外されるよう設定することが可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記解析装置は、前記監視カメラで撮影された画像から物体を検出し、当該物体が前記特定の害鳥獣に固有の特徴量を有しているかの対比をすることにより、前記物体が前記特定の害鳥獣に該当するか否かを判別することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項に記載の害鳥獣威嚇システムにおいて、前記威嚇装置は、前記所定のエリア内の前記特定の害鳥獣に向けて光及び/又は音を発する機能を更に備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る害鳥獣威嚇システムは、所定のエリアを視野内に収めることが可能な監視カメラと、姿勢及び/又は位置の調節が可能な模倣銃を備えた威嚇装置と、前記監視カメラで撮影された画像を解析することにより前記所定のエリア内に侵入してきた前記害鳥獣の位置を特定する解析装置と、前記所定のエリアにおける前記害鳥獣の位置に応じて前記威嚇装置を制御することにより、前記模倣銃の銃口を前記所定のエリア内の前記害鳥獣に向ける制御装置とを備えるので、所定のエリアに侵入した害鳥獣に対して自動的に銃口を向けることが可能である。よって、仮にその害鳥獣の視覚能力・学習能力が高ければ、害鳥獣威嚇システムの威嚇パターンが単調なものではなく、所定のエリアにおける自分(又は群れの仲間)の行動に連動していることに気付くものと考えられる。例えば、所定のエリア内に侵入すると模倣銃の向きが変化することや、所定のエリア内を移動すると模倣銃の銃口に追従されることや、所定のエリア内で停止すると模倣銃が静止することなどである。その結果、害鳥獣に対して「自分が、何者かに監視されている、あるいは狙われている」という危機意識を持たせ続けることができる。したがって、本発明に係る害鳥獣威嚇システムによれば、視覚能力及び学習能力の高い害鳥獣の特性を逆に利用することにより、長期に亘って威嚇効果を持続させることが可能となる。
そして、前記所定のエリア内の前記害鳥獣に向けて、例えば、銃口から光を発する機能を前記威嚇装置に備えた場合は、夜行性の害鳥獣に対する威嚇効果を得ることが可能となり、同様に、例えば、銃口から前記所定のエリア内の前記害鳥獣に向けて音を発する機能を前記威嚇装置に備えた場合は、昼行性の害鳥獣に対する威嚇効果を高めることが可能となる。更に、日中は音で威嚇し、夜間は光で威嚇する、というように、日中と夜間とで音と光を使い分ければ、昼行性・夜行性の何れの害鳥獣10にも対処可能であり、しかも、夜間の静粛性を損なうこともないので周辺住民に対する配慮も万全となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明に係る害鳥獣威嚇システムの一実施形態の概略構成図である。
図2図2は座標変換テーブルの構成を説明する説明図である。
図3図3は威嚇制御用テーブルの構成を説明する説明図である。
図4図4はフレーム内座標と実座標の関係を示す説明図である。
図5図5はシステム制御の全体フローを説明するフローチャートである。
図6図6は解析処理のフローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.[害鳥獣威嚇システムの構成]
以下、本発明に係る害鳥獣威嚇システムについて、好ましい一実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る害鳥獣威嚇システムの一実施形態の概略構成図である。好ましい一実施形態における害鳥獣威嚇システム1は、害鳥獣10が所定のエリアAに侵入してきた際に、模倣銃3Aで威嚇して追い払うシステムである。ここでは説明を簡単にするために、主として地面の上を移動する、すなわち、水平面内(二次元面内)を移動する害鳥獣10(例えば、日中にも夜間にも行動し得るイノシシ)を監視対象とすることを想定して説明する。なお、三次元空間内を移動可能なカラスなどの害鳥獣を監視対象とする例については別途変形例として説明する。図1に示すとおり、本実施形態の害鳥獣威嚇システム1は、監視カメラ2、威嚇装置3、解析装置4、制御装置5、記憶装置6、バッテリー7などを備えている。このうち監視カメラ2及び威嚇装置3の配置先は、農作物等の存在する所定のエリアAを視野内/射程内に捉えることのできる位置(図1では屋外)であり、解析装置4、制御装置5、記憶装置6、及びバッテリー7の配置先は、任意の位置(図1では屋内)である。
【0020】
監視カメラ2は、農作物等の存在する所定のエリアAを監視するために、当該所定のエリアAを視野内に収めることができる、フレームレート30FPS~60FPS程度のビデオカメラである。なお、本実施形態では、夜行性の害鳥獣10が監視対象に含まれているため、高SN比で夜間撮影も可能な高感度カメラや赤外線カメラを監視カメラ2として用いることが望ましい。なお、ここで言う「高SN比」とは、監視カメラ2で撮影された画像から物体検出や害鳥獣10の種類の判別が可能な程度に高いSN比のことである。
【0021】
威嚇装置3は、姿勢及び/又は位置の調節が可能な、例えば筒状の銃身を備えた模倣銃3Aを備えている。なお、姿勢とは模倣銃3Aが取り得る方向や角度、位置とは模倣銃3Aを配置されるべき場所を意味する。姿勢及び/又は位置の調節は、具体的には、模倣銃3Aの上下方向における高さ位置を調節するための高さ調節機構3Hと、模倣銃3Aの銃身の仰俯角θを調節するための仰俯角調整機構3θと、模倣銃3Aの銃身の水平面に対する回転方向における方位角φを調節するための方位角調整機構3φとを備えている。なお、模倣銃3Aの銃身は重量や操作性から樹脂製とすることが好ましいが、金属製であってもかまわない。また、図1の例では、模倣銃3Aは人体模型3Bの側方に仰俯角調整機構3θを介して取り付けられており、模倣銃3Aが取り付けられた人体模型3Bは方位角調整機構3φ及び高さ調節機構3Hを備えて台座3Eに設置されている。この場合、仰俯角調整機構3θ、方位角調整機構3φ及び高さ調節機構3Hは模倣銃3Aを直接制御できるようにして台座3Eに取り付けられる。台座3Eは、監視カメラ2の台座と共用されており、威嚇装置3と監視カメラ2との位置関係は予め決められた関係に設定されている。なお、人体模型3Bは必ずしも配置しなくてもよい。このように威嚇装置3と監視カメラ2との位置関係を固定しておけば、銃口3Cを害鳥獣10に追従させるのに必要な威嚇装置3の設定値(高さ調節機構3Hの設定値H、仰俯角調整機構3θの設定値θ、方位角調整機構3φの設定値φ)を容易に特定することが可能となる。
【0022】
ここで、威嚇装置3には、銃口3Cから所定のエリアA内の害鳥獣10に向けて光及び/又は音を発する機能が搭載されている。例えば、威嚇装置3には、レーザ照射装置とスピーカとの双方が配置されており、レーザ照射装置からのレーザ光とスピーカからの発砲音との何れか一方が必要に応じて選択され、模倣銃3Aの銃口3Cから所定のエリアA内の害鳥獣10に向けて発せられるようになっている。このうち照射装置は、レーザ光が万一ヒトの目に照射された場合であっても安全性が確保される程度の波長、パワー、指向性に設定されていることが望ましく、スピーカとしては、なるべく指向性の高いものを用いて発砲音が害鳥獣10の位置を狙ってピンポイントで届くようにすることが望ましい。このような威嚇装置3は、制御装置5の制御下で、日中の時間帯(昼行性の害鳥獣10の活動する時間帯)に特定の害鳥獣10がエリアAに侵入した場合には銃口3Cから害鳥獣10に向けて発砲音を発音し、夜間の時間帯(夜行性の害鳥獣10の活動する時間帯)に特定の害鳥獣10がエリアAに侵入した場合には、銃口3Cから害鳥獣10に向けてレーザ光を発光する。このようにして日中と夜間とで発砲音とレーザ光を使い分ければ、昼行性・夜行性の何れの害鳥獣10にも対処可能であり、しかも夜間の静粛性を損なうこともないので周辺住民に対する配慮も万全である。なお、制御装置5は、必要に応じて威嚇装置3による発音又は発光の少なくとも一方を制限(禁止)できるように構成されてもよく、発砲音やレーザ光は必ずしも銃口3Cから発音又は発光されるものでなくてもよい。また、夜行性の害鳥獣10のみを監視対象とする場合には、模倣銃3Aの外観は銃の形状をしていなくてもよいし、発砲音を発音する機能は威嚇装置2に搭載されなくてもよい。また、その反対に、昼行性の害鳥獣10のみを監視対象とする場合には、レーザ光を発光する機能は威嚇装置3に搭載されなくてもよい。
【0023】
解析装置4は、監視カメラ2で撮影された画像を解析することにより、所定のエリアA内に侵入してきた害鳥獣10の位置を特定するためのプログラムを実行するコンピュータである。この解析装置4は、監視カメラ2によって撮影される画像から物体を検出し、当該物体が特定の害鳥獣10(ここではイノシシとする。)に固有の特徴量を有しているかの対比をすることにより、当該物体が特定の害鳥獣10(イノシシ)に該当するか否かを判別する。そのために、例えば解析装置4は、(1)監視カメラ2によって撮影された画像に対する物体検出、(2)物体が人物などの害鳥獣以外であるか又は害鳥獣であるか否かの判別、(3)害鳥獣である場合における害鳥獣の種類の特定(特定の害鳥獣であるか否かの判別)、(4)特定の害鳥獣の位置が所定のエリアAの内側であるか否かの判別、などの各種の判別を実行するように構成されている。従って、本実施形態の解析装置4は、人を監視対象から除外することや、農作物等と関係ないエリア(所定のエリアAの外側)を監視の対象から除外するように設定することや、特定の害鳥獣10(例えばイノシシ)以外の害鳥獣が監視の対象から除外されるように設定することや、特定の2種類以上の害鳥獣(例えばイノシシ及びサル)以外の害鳥獣が監視の対象から除外されるように設定することや、実空間又は所定のエリアA内に特定の害鳥獣と誤認されるような静止物体(カカシ、模型など)が存在している場合に、当該物体の存在する部分エリアが監視の対象(検出エリア)から除外されるように設定することなどが可能である。なお、解析装置4の上述した判別には、害鳥獣威嚇システム1の販売者又は管理者が記憶装置6へ予め格納した学習済みモデル(プログラム)が用いられる。この学習済みモデル(プログラム)の作成には、機械学習(例えばEnd to Endのディープラーニング)が適用され、その機械学習の教師データとして十分な数の人物の画像、十分な種類数・十分な数の害鳥獣の画像が使用される。つまり、教師データの数・種類は、害鳥獣威嚇システム1が監視対象とすべき1又は複数種類の害鳥獣を、それぞれ必要な精度で検出できる程度に収集されるものとする。
【0024】
制御装置5は、所定のエリアAにおける害鳥獣10の位置に応じて威嚇装置3の高さ調節機構3H,仰俯角調整機構3θ,方位角調整機構3φを制御する(必要な設定値H,θ,φを設定する)ことにより、当該模倣銃3Aの銃口3Cを所定のエリアA内の害鳥獣10の位置に向ける制御装置である。この制御装置5は、解析装置4と協働して、監視カメラで順次に撮影される複数の画像の各々について解析及び制御を行うことにより、模倣銃3Aの銃口3Cの向きを、所定のエリアAにおける害鳥獣10の動きに追従させることができる。
【0025】
記憶装置6は、解析装置4及び制御装置5の動作に必要な各種の情報(例えば、プログラムやデータ)を格納するためのメモリである。この記憶装置6には、上述した学習済みモデル(プログラム)のほかに、後述するログデータ、後述する座標変換テーブル(図2)及び威嚇制御用テーブル(図3)などが格納されている。これらの座標変換テーブル(図2)及び威嚇制御用テーブル(図3)の詳細については後述する。なお、この記憶装置6の配置先は、図1に示すとおり、害鳥獣威嚇システム1の内部であってもよいし、害鳥獣威嚇システム1の外部(遠隔地のサーバなど)であってもよい。遠隔地に配置された場合の記憶装置6は、インターネットなどのネットワークを経由して解析装置4に接続されるものとする。
【0026】
バッテリー7は、害鳥獣威嚇システム1内の各部へ電力を供給する蓄電池である。監視カメラ2を駆動するための電力は、例えば、解析装置4を介して当該監視カメラ2へ供給され、威嚇装置3を駆動するための電力は、例えば、制御装置5を介して当該威嚇装置3へ供給される。なお、害鳥獣威嚇システム1内の各部に対する電力の供給源はバッテリー7に限定されることはなく、商用電源でも構わない。また、バッテリーの充電は商用電源の他、太陽光発電などによって行うようにしてもよい。
【0027】
2.[座標変換テーブルの構成]
図2は座標変換テーブルの構成を説明する説明図、図4はフレーム内座標と実座標の関係を示す説明図である。図2,4に示すとおり、座標変換テーブルは、監視カメラ2で撮影された画像上の位置を特定するためのフレーム内座標(x,y)と、当該位置に対応する実空間上の位置を特定するための実座標(X,Y)との間に成立する既知の関係を示している。具体的には、監視カメラ2で撮影された画像上の各位置のフレーム内座標(x1,y1)~(xn,ym)と、これら各位置に対応する実空間上の各位置の実座標(X1,Y1)~(Xn,Ym)とを互いに対応付けて格納したものである。この座標変換テーブルは、図4に示すとおり、監視カメラ2で撮影された画像上の或る位置pのフレーム内座標(xi,yj)を、その位置pに対応する実空間上の位置Pの実座標(Xi,Yj)へと変換する変換式fとしての機能を有している。このような座標変換テーブルは、害鳥獣10が実際に存在する位置を特定する際に解析装置4によって参照される。なお、解析装置4は、この座標変換テーブルを用いる代わりに、フレーム内座標(x,y)を実座標(X,Y)へと変換するための既知の変換式を用いた計算を行ってもよい。
【0028】
3.[威嚇制御用テーブルの構成]
図3は威嚇制御用テーブルの構成を説明する説明図である。図3に示すとおり、威嚇制御用テーブルは、実座標(X,Y)によって特定された位置Pと、当該位置Pに対して銃口3Cを向けるために必要な威嚇装置3の設定値(H,θ,φ)との間に成立する既知の関係を示している。具体的には、実座標上の各位置の実座標(X1,Y1)~(Xn,Ym)と、これら各位置に対応する各設定値(H11,θ11,φ11)~(Hnm,θnm,φnm)とを互いに対応付けて格納したものである。このような威嚇制御用テーブルは、威嚇装置3の動作を制御するための設定値を特定する際に解析装置4によって参照される。なお、解析装置4は、この威嚇制御用テーブルを用いる代わりに、実座標(X,Y)を設定値(H,θ,φ)へと変換するための既知の変換式を用いた計算を行ってもよい。
【0029】
4.[システム制御のフロー]
図5はシステム制御の全体フローを説明するフローチャートである。図5に示すとおり、本実施形態の害鳥獣威嚇システム1では、初めにシステムが起動されることによって、監視カメラ2による所定のエリアAの撮影が開始される(ステップS11)。
【0030】
監視カメラ2による撮影が開始(ステップS11)されると、続いて解析処理(ステップS12)が実行される。この解析処理(ステップS12)では、監視カメラ2で撮影された画像に基づく特定の害鳥獣10の検出、当該害鳥獣10の実座標(X,Y)の特定、威嚇装置3に設定すべき設定値(H,θ,φ)の特定などが行われる。なお、解析処理(ステップS12)の詳細は後述する。
【0031】
解析処理(ステップS12)の結果として、所定のエリアA内に特定の害鳥獣10が存在しないことが判明すると(ステップS13NO)、再び解析処理(ステップS12)が実行される。そして、所定のエリアA内に特定の害鳥獣10が存在することが判明すると(ステップS13YES)、威嚇装置3の設定処理(ステップS14)へ移行する。
【0032】
威嚇装置3の設定処理(ステップS14)では、直前の解析処理(ステップS12)において特定された設定値(H,θ,φ)が威嚇装置3に設定され、これによって模倣銃3Aの銃口3Cが所定のエリアA内の特定の害鳥獣10に向けられる。そして、現在時刻が日中の時間帯(昼行性の害鳥獣10の活動する時間帯)に属する場合には、銃口3Cから発砲音を発音するように威嚇装置3のスピーカが設定され、その反対に現在時刻が夜間の時間帯(夜行性の害鳥獣10の活動する時間帯)に属する場合には、銃口3Cからレーザ光を発光するよう威嚇装置3のレーザ照射装置が設定される。その結果、銃口3Cから所定のエリアA内の特定の害鳥獣10に向けて集中的に発砲音(日中)又はレーザ光(夜間)が発せられる。
【0033】
これと併せて、所定のエリアA内に特定の害鳥獣10が存在することが判明すると(ステップS13YES)、特定の害鳥獣10を検知した日時(現在日時)、検出した害鳥獣10の種類、所定のエリアAにおける特定の害鳥獣10の位置(監視カメラ2から害鳥獣10までの方向及び距離)、特定の害鳥獣10を映した画像データなどがログデータとして記憶装置6へ書き込まれる(ステップS15)。
【0034】
そして、以上のステップS12~ステップS15の一連の処理は、システムオフの指示が入力されない限り(ステップS16NO)繰り返し実行される。そして、システムオフの指示が入力されると(ステップS16YES)、監視カメラ2による撮影が終了となり(ステップS17)、図5のシステム制御フローの全体が終了となる。
【0035】
5.[解析処理のフロー]
図6は解析処理のフローを説明するフローチャートである。図6に示すとおり、解析処理が開始されると、監視カメラ2が撮影した画像がデータとして解析装置4に取り込まれる(ステップS121)。
【0036】
先ず、当該画像に対する物体検出処理(ステップS122)が実行され、その結果として、物体検出されなかった場合(ステップS123NO)には、図6の解析処理のフローが終了する。
一方、物体検出(ステップS122)の結果として何らかの物体が検出された場合(ステップS123YES)には、当該物体が特定の害鳥獣10であるか否かの判別処理(ステップS124)が実行される。
【0037】
判別処理(ステップS124)の結果として、当該物体が特定の害鳥獣10でなかった場合(ステップS125NO)には、図6の解析処理のフローが終了する。一方、その判別処理(ステップS124)の結果として、当該物体が特定の害鳥獣10であることが判明した場合(ステップS125YES)には、エリア内外判別処理(ステップS126)へ移行する。
【0038】
エリア内外判別処理(ステップS126)では、座標変換テーブル(図2)によって特定の害鳥獣10が位置するフレーム内座標(x,y)が実座標(X,Y)へと座標変換され、変換後の実座標(X,Y)が予め設定された所定のエリアAの内部に位置するか否かの判別が行われる。
【0039】
エリア内外判別処理(ステップS126)の結果として、特定の害鳥獣10が所定のエリアAの外部に位置することが判明した場合(ステップS127NO)には、図6の解析処理のフローが終了する。一方、エリア内外判別処理(ステップS126)の結果として、特定の害鳥獣10が所定のエリアAの内部に位置することが判明した場合(ステップS127YES)には、威嚇装置3の設定値算出処理(ステップS128)に移行する。
【0040】
設定値算出処理(ステップS128)では、威嚇制御用テーブル(図3)によって害鳥獣10が現に存在する位置を示す実座標(X,Y)が威嚇装置3の設定値(H,θ,φ)へと変換される(ステップS128)。このようにして特定された威嚇装置3の設定値(H,θ,φ)は、模倣銃3Aの銃口3Cを害鳥獣10に向けるための設定値である。そして当該設定値(H,θ,φ)がそれぞれ高さ調節機構3H、仰俯角調整機構3θ、及び方位角調整機構3φへ入力され、模倣銃3Aの銃口3Cが現に存在する害鳥獣10に対して向けられる(図5ステップS14参照)。これによって、図6の解析処理フローの全体が終了となる。
【0041】
6.[実施形態の効果]
以上説明したとおり、本実施形態に係る害鳥獣威嚇システム1によれば、所定のエリアAに侵入した特定の害鳥獣10に対して自動的に銃口3Cが向けられるので、その害鳥獣10の視覚能力・学習能力が高ければ、害鳥獣威嚇システム1の威嚇パターンが単調なものではなく、所定のエリアAにおける自分(又は群れの仲間)の行動に連動していることに気付くものと考えられる。例えば、所定のエリアA内に侵入すると模倣銃3Aの向きが変化することや、所定のエリアA内を移動すると模倣銃3Aの銃口3Cに追従されることや、所定のエリアA内で停止すると模倣銃3Aが静止することなどである。その結果、害鳥獣10に対して「自分が、何者かに監視されている、あるいは狙われている」という危機意識を持たせ続けることができる。したがって、本実施形態に係る害鳥獣威嚇システム1によれば、視覚能力及び学習能力の高い害鳥獣の特性を逆に利用することにより、長期に亘って威嚇効果を持続させることが可能である。
【0042】
そして、本実施形態に係る害鳥獣威嚇システム1では、所定のエリアA内の害鳥獣10に向けて光を発する機能が威嚇装置3に備えられるので、夜行性の害鳥獣10に対する威嚇効果を得ることが可能である。また、所定のエリアA内の害鳥獣10に向けて音を発する機能が威嚇装置3に備えられるので、昼行性の害鳥獣10に対する威嚇効果を高めることも可能である。更に、本実施形態に係る害鳥獣威嚇システム1では、日中は音で威嚇し、夜間は光で威嚇する、というように、日中と夜間との間で音と光を使い分けるので、昼行性・夜行性の何れの害鳥獣10にも対処可能であり、しかも、夜間の静粛性を損なうこともないので周辺住民に対する配慮も万全である。
7.[変形例]
【0043】
なお、上述した好ましい一実施形態及び変形例では、監視対象として基本的に水平方向にしか移動しない害鳥獣10(例えばイノシシなど)を想定したが、変形例2として鉛直方向にも移動可能な害鳥獣(例えばカラスなど)を監視対象とすることも可能である。その場合、農作物等の存在する三次元空間を所定のエリアAとして設定し、2台以上の監視カメラで所定のエリアAを互いに異なる方向から撮影することが望ましい。これら2台以上の監視カメラが同時に撮影した2枚以上の画像に基づけば、害鳥獣の三次元の実座標(X,Y,Z)を確実に特定できるからである。その三次元の実座標(X,Y,Z)に応じて威嚇装置3の設定値を算出すれば、例えば、三次元である所定のエリアA内を飛行するカラスに向けて銃口3Cを追従させることも可能となる。
【0044】
また、上述した好ましい一実施形態及び変形例では、模倣銃3Aの位置を変化させるために、模倣銃3Aの高さ位置Hを制御できるように構成したが、変形例3として高さ位置Hに加えて左右位置Wも制御できるように構成してもよい。高さ位置に調整や左右位置の調整の必要が無い場合には高さ位置H及び左右位置Wの制御のいずれか又はその両方を省略してもよい。また、上述した好ましい一実施形態及び変形例では、模倣銃3Aの姿勢を変化させるために、模倣銃3Aの仰俯角θ及び方位角φを制御できるように構成したが、仰俯角θ及び方位角φの少なくとも一方の制御を省略してもよい。
【0045】
また、上述した好ましい一実施形態及び変形例において、記憶装置6に格納された学習済みモデルを必要に応じて更新(追加学習)することにより、新規の害鳥獣を新たに監視対象として指定できるように構成することもできる。
【0046】
8.[その他]
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 害鳥獣威嚇システム
10 害鳥獣
2 監視カメラ
3 威嚇装置
3A 模倣銃
3B 模型
3C 銃口
3E 台座
3H 高さ調節機構
3θ 仰俯角調整機構
3φ 方位角調整機構
4 解析装置
5 制御装置
6 記憶装置
7 バッテリー
【要約】
【課題】視覚能力及び学習能力の高い害鳥獣の特性を逆に利用することにより、長期に亘って威嚇効果を持続させることが可能な害鳥獣威嚇システムを提供する。
【解決手段】害鳥獣威嚇システム1は、所定のエリアAを視野内に収めた監視カメラ2と、姿勢及び/又は位置の調節が可能な模倣銃3Aを有した威嚇装置3と、前記監視カメラ2で撮影された画像を解析することにより所定のエリアA内に侵入してきた害鳥獣10の位置を特定する解析装置4と、所定のエリアAにおける害鳥10獣の位置に応じて威嚇装置3を制御することにより、模倣銃3Aの銃口3Cを所定のエリアA内の害鳥獣10の位置に向ける制御装置5とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6