(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】機械の診断システム及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230217BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20230217BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G05B23/02 T
G05B23/02 301X
G05B19/18 W
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2016216013
(22)【出願日】2016-11-04
【審査請求日】2019-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000117618
【氏名又は名称】安田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【氏名又は名称】中野 圭二
(74)【代理人】
【識別番号】100114638
【氏名又は名称】中野 寛也
(72)【発明者】
【氏名】守分 康雅
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】安田 拓人
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】大山 健
【審判官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-149230(JP,A)
【文献】特開2015-165348(JP,A)
【文献】特開2016-71444(JP,A)
【文献】特開平6-109495(JP,A)
【文献】特開2000-259220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G05B 19/18
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作指令によって動作を開始又は停止する一又は二以上の動作ユニットを備えた機械において、
前記動作指令の出力を検知する指令検知手段と、
前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知する動作検知手段と、
前記指令検知手段が前記動作指令の出力を検知してから前記動作検知手段が前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知するまでの応答時間を算出する応答時間算出手段と、
前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間を前記動作指令の回数又は/及び日時と関連付けて記憶する記憶手段と、
前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間と前記記憶手段に記憶された応答時間とを比較する比較手段と、
前記比較手段が、前記応答時間の所定の変化を検知したときに、該当する前記動作ユニットを示して警告を発する警告手段と、を有し、
前記比較手段は、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間
の変化の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、
該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発
し、
加えて、前記比較手段は、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発し、
前記警告手段は、警告を発すると共に、前記応答時間の変化率に基づいて前記応答時間が
予め設定された設定値を超える時期を予測する手段を備える機械の診断システム。
【請求項2】
前記設定値は、初回又は所定回の前記動作指令において算出された前記応答時間を基準として、該応答時間に所定割合を加算して設定される請求項1に記載の機械の診断システム。
【請求項3】
前記比較手段は、前記機械の運転スケジュールを管理する生産管理データを取得する手段と、前記生産管理データと前記指令検知手段で検知した前記動作指令を比較する手段と、をさらに備える請求項1又は2に記載の機械の診断システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の機械の診断システムとして、コンピュータを機能させるための機械の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械など一又は二以上の動作ユニットを備えた機械において、動作ユニットの動作状態を診断する機械の診断システム及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械など物の生産に使用される機械においては、故障による機械の停止を防ぐために、機械の動作状態を診断する様々な診断方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクチュエータの動作時間を検出し、予め計測したアクチュエータの正常な動作時間を記憶手段に記憶しておき、検出された動作時間を正常な動作時間と比較して、その差が閾値以上のときに動作系に故障があると判定する故障診断装置が開示されている。この故障診断装置は、検出した動作時間と記憶された正常な動作時間とを比較して、その差がある閾値以上であるときには重故障と判断し、その差が比較的小さな閾値以上であるときには軽故障と判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の故障診断装置は、検出した動作時間と記憶された正常な動作時間とを比較して、その差が閾値以上のときに動作系に故障があると判定しているから、大小の異なる閾値によって重故障だけでなく軽故障を判定できるものの、閾値以下のときに起こる故障の予兆を事前に検出することができないという課題があった。また、特許文献1に記載の故障診断装置は、動作開始から動作終了までの動作時間全体について診断することができるが、動作の開始時や終了時の応答性について診断することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、工作機械など一又は二以上の動作ユニットを備えた機械において、動作ユニットの動作状態を診断して、動作ユニットの異常および異常の予兆を事前に検出することができる機械の診断システム及び診断プログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、動作指令によって動作を開始又は停止する一又は二以上の動作ユニットを備えた機械において、前記動作指令の出力を検知する指令検知手段と、前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知する動作検知手段と、前記指令検知手段が前記動作指令の出力を検知してから前記動作検知手段が前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知するまでの応答時間を算出する応答時間算出手段と、前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間を前記動作指令の回数又は/及び日時と関連付けて記憶する記憶手段と、前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間と前記記憶手段に記憶された応答時間とを比較する比較手段と、前記比較手段が、前記応答時間の所定の変化を検知したときに、該当する前記動作ユニットを示して警告を発する警告手段と、を有する機械の診断システムを提供するものである。
【0008】
また、本発明の機械の診断システムは、前記警告手段が、前記応答時間が予め設定された設定値を超えたときに警告を発するものである。
【0009】
また、本発明の機械の診断システムは、前記設定値が、初回又は所定回の前記動作指令において算出された前記応答時間を基準として、該応答時間に所定割合を加算して設定されるものである。
【0010】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発するものである。
【0011】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率に基づいて前記応答時間が前記設定値を超える時期を予測する手段を備えるものである。
【0012】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発するものである。
【0013】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記機械の運転スケジュールを管理する生産管理データを取得する手段と、前記生産管理データと前記指令検知手段で検知した前記動作指令を比較する手段と、をさらに備えるものである。
【0014】
また、本発明は、上記の何れか一項に記載の機械の診断システムとして、コンピュータを機能させるための機械の診断プログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の機械の診断システムは、動作指令によって動作を開始又は停止する一又は二以上の動作ユニットを備えた機械において、前記動作指令の出力を検知する指令検知手段と、前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知する動作検知手段と、前記指令検知手段が前記動作指令の出力を検知してから前記動作検知手段が前記動作ユニットの動作の開始又は停止を検知するまでの応答時間を算出する応答時間算出手段と、前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間を前記動作指令の回数又は/及び日時と関連付けて記憶する記憶手段と、前記応答時間算出手段で算出した前記応答時間と前記記憶手段に記憶された応答時間とを比較する比較手段と、前記比較手段が、前記応答時間の所定の変化を検知したときに、該当する前記動作ユニットを示して警告を発する警告手段と、を有することにより、動作の開始指令又は停止指令に対する動作ユニットの応答時間を算出することができ、該応答時間を動作指令の回数・日時と関連付けて記憶手段に記憶することができる。したがって、算出した応答時間と記憶手段に記憶された応答時間とを比較して応答時間の所定の変化を検知し、動作ユニットの異常および異常の予兆を事前に検出することができる効果がある。
【0016】
また、本発明の機械の診断システムは、動作ユニットの動作指令に対する応答時間を算出し、該応答時間の所定の変化を検知して警告を発することができるので、様々な動作を行う動作ユニットに対して、低コストで動作状態を診断することができ、動作ユニットの故障が発生する前に動作ユニットの異常および異常の予兆を事前に検出することができる効果がある。
【0017】
また、本発明の機械の診断システムは、前記警告手段が、前記応答時間が予め設定された設定値を超えたときに警告を発することにより、設定値を超えたときに動作ユニットに異常が生じているとして動作ユニットの異常を警告することができ、例えば部品の交換時期などを知らせることができる効果がある。
【0018】
また、本発明の機械の診断システムは、前記設定値が、初回又は所定回の前記動作指令において算出された前記応答時間を基準として、該応答時間に所定割合を加算して設定されることにより、機械ごとに設定値を自動的に設定することができる効果がある。
【0019】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発することにより、動作ユニットに異常が生じる前に動作ユニットの異常の予兆を事前に知らせることができる効果がある。
【0020】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率に基づいて前記応答時間が前記設定値を超える時期を予測する手段を備えることにより、動作ユニットに異常が発生する時期を予測することができ、例えば動作ユニットの部品の交換時期などを予測することができる効果がある。
【0021】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記動作指令の回数又は時間経過に対する前記応答時間の変化の変化率を求める手段を備え、前記警告手段は、該変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発することにより、応答時間の変化の予兆を検知することができ、動作ユニットの異常の予兆を早期に検知して知らせることができる効果がある。
【0022】
また、本発明の機械の診断システムは、前記比較手段が、前記機械の運転スケジュールを管理する生産管理データを取得する手段と、前記生産管理データと前記指令検知手段で検知した前記動作指令を比較する手段と、をさらに備えることにより、生産管理データに対応する動作指令を検出できない場合に、動作指令落ちを検出することができる効果がある。
【0023】
また、本発明の機械の診断プログラムは、上記の何れか一項に記載の機械の診断システムとして、コンピュータを機能させることにより、動作の開始指令又は停止指令に対する動作ユニットの応答時間を算出することができ、該応答時間を動作指令の回数・日時と関連付けて記憶手段に記憶することができる。したがって、算出した応答時間と記憶手段に記憶された応答時間とを比較して応答時間の所定の変化を検知し、動作ユニットの異常および異常の予兆を事前に検出することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る機械の診断システムの一実施例を示す構成図。
【
図2】本発明に係る機械の診断システムの一実施例を示すフローチャート。
【
図3】本発明に係る機械の診断システムの履歴解析を示すフローチャート。
【
図4】本発明に係る機械の診断システムの他の実施例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明の機械の診断システム1は、動作指令によって動作を開始又は停止する一又は二以上の動作ユニット31を備えた機械3において、前記動作指令の出力を検知する指令検知手段11と、前記動作ユニット31の動作の開始又は停止を検知する動作検知手段12と、前記指令検知手段11が前記動作指令の出力を検知してから前記動作検知手段12が前記動作ユニット31の動作の開始又は停止を検知するまでの応答時間を算出する応答時間算出手段13と、前記応答時間算出手段13で算出した前記応答時間を前記動作指令の回数又は/及び日時と関連付けて記憶する記憶手段20と、前記応答時間算出手段13で算出した前記応答時間と前記記憶手段20に記憶された応答時間とを比較する比較手段14と、前記比較手段14が、前記応答時間の所定の変化を検知したときに、該当する前記動作ユニット31を示して警告を発する警告手段15と、を有する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明に係る機械の診断システムの一実施例を示す構成図である。
図1に示す実施例において、機械3は、X軸駆動部30xとY軸駆動部30yとZ軸駆動部30zと工具を装着する主軸と該主軸を駆動する主軸駆動部30sを有するマシニングセンタなどの工作機械である。工作機械3の各駆動部30x,30y,30z,30sは、電動モータによって駆動される。X軸駆動部30xとY軸駆動部30yとZ軸駆動部30zには、それぞれの駆動部の位置を検出するリニアスケールなどの位置検出器と、それぞれの駆動部の駆動電流を検出する電流計などの駆動力検出器が設けられている。また、主軸駆動部30sには、ロータリエンコーダなどの回転に応じたパルス数を検出する位置検出器と、駆動電流を検出する電流計などの駆動力検出器が設けられている。
【0027】
工作機械3は、油圧で駆動する駆動部に動力となる作動油を送る油圧ユニット、加工部に切削液を供給するポンプ、主軸に装着される工具を交換するための周辺動作ユニット、例えばオートドアなどの動作ユニット31a,31b・・・を備えている。また、工作機械3は、X軸駆動部30x、Y軸駆動部30y、Z軸駆動部30zおよび主軸駆動部30sの駆動を数値制御する制御装置4と、加工条件、工具交換、座標設定などの指示を入力する操作パネル5と、加工情報や位置情報などを表示するモニター6と、を備えている。また、本発明は、工作機械3に限られず、搬送装置など動作ユニットを有する各種の機械に適用することが可能である。
【0028】
動作ユニット31には、動作ユニット31の動作の開始又は停止を検出するセンサ32が設けられている。例えば、油圧ユニットや切削液ポンプに設けられるセンサ32は、ポンプのON/OFFを検出する圧力スイッチである。また、オートドアに設けられるセンサ32は、オートドア開-閉の動作を行うソレノイドバルブにより駆動されるドアの位置状態を検出する確認スイッチである。
[診断システムの構成]
【0029】
図1に示す実施例において、診断システム1は、工作機械3の制御装置4に設けられている。指令検知手段11は、動作ユニット31に対して動作の開始又は停止の指令を出す動作指令の出力を検知する。動作指令としては、例えば、油圧ユニットや切削液装置のポンプをON(動作開始)またはOFF(動作停止)させる指令であり、制御装置4から各動作ユニット31に対して出力される。指令検知手段11は、動作指令の出力を検知すると、指令の対象である動作ユニット31、動作の種類ならびに動作指令の回数および日時を記憶手段20に記憶する。
【0030】
また、オートドアに対する動作指令は、ドアを開ける動作を行わせる開のソレノイドバルブをON、またはドアを閉める動作を行わせる閉のソレノイドバルブをONさせる指令である。
【0031】
動作検知手段12は、動作ユニット31に設けられたセンサ32を介して動作ユニット31の動作の開始又は停止を検知する。油圧ユニットや切削液装置に対して、動作検知手段12は、圧力スイッチのONによってポンプのON(動作開始)を検知し、圧力スイッチのOFFによってポンプのOFF(動作停止)を検知する。また、オートドアに対して、動作検知手段12は、確認スイッチのONまたはOFFによってソレノイドバルブにより駆動されるドアの位置状態を検出する。動作検知手段12は、動作の開始または停止を検知すると、動作の対象である動作ユニット31、動作の種類ならびに動作の回数および日時を記憶手段20に記憶する。
【0032】
応答時間算出手段13は、指令検知手段11が動作指令の出力を検知してから動作検知手段12が動作ユニット31の動作の開始または停止を検知するまでの応答時間を算出する。本実施例において、応答時間算出手段13は、記憶手段20に記憶されている動作指令の日時と、動作の開始または停止の日時の時間差から、応答時間を算出する。一方、記憶手段20が動作指令および動作の開始/停止の回数のみを記憶している場合には、応答時間算出手段13は、タイムカウンタなどによって、指令検知手段11が動作指令の出力を検知してから動作検知手段12が動作ユニット31の動作の開始または停止を検知するまでの間の時間計測を行う。
【0033】
本実施例において、記憶手段20は、応答時間算出手段13で算出した応答時間を動作指令の回数および日時と関連付けて記憶する。なお、記憶手段20は、応答時間を動作指令の回数のみと関連付けて記憶してもよく、応答時間を動作指令の日時のみと関連付けて記憶してもよい。また、記憶手段20は、応答時間を工作機械3の稼働時間と関連付けて記憶してもよい。
【0034】
比較手段14は、応答時間算出手段13で算出した応答時間と記憶手段20に記憶された応答時間とを比較する。比較手段14が応答時間の所定の変化を検知したときに、警告手段15は、該当する動作ユニット31を示してモニター6に警告を発する。例えば、比較手段14は、応答時間算出手段13で算出した応答時間を、記憶手段20に記憶された応答時間と比較し、所定割合以上の変化を検知したときに警告手段15が警告を発する。また、比較手段14は、応答時間算出手段13で算出した応答時間と記憶手段20に記憶された応答時間の履歴を解析し、変化率が所定の変化率を超えたときに警告を発してもよい。
【0035】
本実施例において、警告手段15は、応答時間が予め設定された設定値を超えたときに警告を発する。この設定値は、初回又は所定回の動作指令において算出された応答時間を基準として、該応答時間に所定割合を加算して設定することが好ましい。なお、設定値は、同じ動作ユニット31を有する機械に対して、他の機械で設定された設定値を用いてもよく、該設定値と機械ごとの動作指令から設定される設定値を併用してもよい。基準データに加算する所定割合は、動作ユニット31の特性に応じて動作ユニット31の種類ごとに設定することが好ましい。
【0036】
また、比較手段14は、動作指令の回数または時間経過に対する応答時間の変化率を求める手段を備えている。比較手段14は、動作ユニット31に対する直近N回(N≧2)の動作指令において、最小二乗法により回数または時間経過に対する応答時間の変化率を求める。警告手段15は、該変化率が所定の変化率を超えたときにモニター6に警告を発する。また、警告手段15は、該変化率に基づいて応答時間の値が設定値を超える時期を予測する手段を備えていてもよい。応答時間の値が設定値を超えると予測した時期が動作ユニット31の耐用年数よりも短いときに、警告手段15は異常を知らせる警告を発することが好ましい。
【0037】
比較手段14は、応答時間が動作指令の回数と関連付けて記憶手段20に記憶されている場合には、動作指令の回数に対する応答時間の変化率を求める。また、比較手段14は、応答時間が動作指令の日時と関連付けて記憶手段20に記憶されている場合には、最初の動作指令からの時間経過に対する応答時間の変化率を求め、応答時間が工作機械3の稼働時間と関連付けて記憶手段20に記憶されている場合には、工作機械3の稼働時間の経過に対する応答時間の変化率を求める。
【0038】
また、比較手段14は、動作指令の回数または時間経過に対する応答時間の変化の変化率を求める手段を備えていてもよい。このとき、比較手段14は、応答時間の時間推移を時間で二階微分して応答時間の変化の変化率を求める。警告手段15は、直近の変化率が所定の変化率を超えたときにモニター6に警告を発する。
[診断システムの作用]
【0039】
次に、本発明に係る機械の診断システムの作用について説明する。
図2は、本発明に係る機械の診断システムの一実施例を示すフローチャートであり、
図3は、本発明に係る機械の診断システムの履歴解析を示すフローチャートである。
【0040】
指令検知手段11は、工作機械3を最初に起動させたときに診断回数nに初期値「0」を与える(ステップS11)。また、指令検知手段11は、操作パネル5から診断回数nを初期値「0」にリセットする機能を備えていてもよく、動作ユニット31を交換したときなどにリセットすることができる。また、工作機械3が工場に設置されたときに診断回数nを初期値「0」にリセットすることにより、診断システム1は、工作機械3の移設による変動を排除して、動作ユニット31の診断を行うことができる。なお、指令検知手段11は、複数の動作ユニット31において、個別に診断回数nを管理することが好ましい。また、本実施例において、診断回数nは、動作指令の回数と同じであるが、診断システム1は、動作指令の度に診断を行う必要はなく、動作指令の所定回数または所定の期間に対して一回の診断を行ってもよい。
【0041】
指令検知手段11は、動作ユニット31に対して動作の開始又は停止の指令を出す動作指令の出力を検知する(ステップS12)。動作指令は、制御装置4から各動作ユニット31に対して出力され、例えば油圧ユニットや切削液装置のポンプをON(動作開始)またはOFF(動作停止)させる指令や、オートドアにおいて、ドアを開ける動作を行わせる開のソレノイドバルブをON、またはドアを閉める動作を行わせる閉のソレノイドバルブをONさせる指令などがある。指令検知手段11は、動作指令の出力を検知すると、指令の対象である動作ユニット31、動作の種類(動作開始または動作停止)ならびに動作指令の回数および日時を記憶手段20に記憶する。
【0042】
指令検知手段11は、動作ユニット31に対する動作指令の出力を検知すると、診断回数nに「1」を加える(ステップS13)。なお、動作指令の度に診断を行わない場合には、指令検出手段11は、診断を行うときだけ診断回数nに「1」を加える。
【0043】
動作検知手段12は、動作ユニット31に設けられたセンサ32を介して動作ユニット31の動作の開始又は停止を検知する。油圧ユニットや切削液装置に対して、動作検知手段12は、圧力スイッチのONによってポンプのON(動作開始)を検知し、圧力スイッチのOFFによってポンプのOFF(動作停止)を検知する。また、オートドアに対して、動作検知手段12は、確認スイッチのONまたはOFFによってソレノイドバルブにより駆動されるドアの位置状態を検出する。動作検知手段12は、動作の開始または停止を検知すると、動作の対象である動作ユニット31、動作の種類ならびに動作の回数および日時を記憶手段20に記憶する(ステップS14)。
【0044】
応答時間算出手段13は、指令検知手段11が動作指令の出力を検知してから動作検知手段12が動作ユニット31の動作の開始または停止を検知するまでの応答時間を算出する。本実施例において、応答時間算出手段13は、記憶手段20に記憶されている動作指令の日時と、動作の開始または停止の日時の時間差から、応答時間を算出する。応答時間算出手段13は、算出した応答時間を動作指令の回数および日時と関連付けて、記憶手段20に記憶する(ステップS15)。
【0045】
具体的には、応答時間算出手段13は、油圧ユニットや切削液装置に対して、指令検知手段11がポンプに対するON/OFFの動作指令を検知してから、動作検知手段12が圧力スイッチのON/OFF(動作開始/動作停止)を検知するまでの時間を算出している。また、応答時間算出手段13は、オートドアに対して、指令検知手段11が開のソレノイドバルブに対するONの動作指令を検知してから、動作検知手段12が開/閉確認スイッチがON/OFF(動作開始/動作停止)を検知するまでの時間を算出している。動作ユニット31には、オートドアのように、ある動作の開始が他方の動作の停止となる場合もある。この場合、診断システム1は、双方の動作について診断することが好ましい。
【0046】
次に、応答時間算出手段13は、診断回数nが「1」より大きいか否かを判断し、診断回数nが「1」のときには、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・における応答時間を初期値として記憶手段20に保存する(ステップS16)。
【0047】
応答時間算出手段13が、応答時間を初期値として記憶手段20に保存すると、警告手段15は、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・について、初期値に所定割合を加算して警告値(Time(alarm))として設定し、該警告値を記憶手段20に保存する(ステップS17)。警告手段15は、動作ユニット31の特性に応じて動作ユニット31の種類ごとに初期値に加算する所定割合を決定し、警告値を設定する。警告値は、例えば初期値の150%や200%という値に設定される。
【0048】
診断システム1は、警告値が設定されると、ステップS12に戻って次の動作指令が出力されるまで待機する。
【0049】
ステップS16において、診断回数nが「1」より大きいと判断した場合には、応答時間算出手段13は、動作ユニット31における応答時間(Time(n))を診断値として記憶手段20に保存する。
【0050】
比較手段14は、ステップS15で算出した応答時間(Time(n))と、記憶手段20に記憶された応答時間とを比較する(ステップS18)。具体的には、比較手段14が、ステップS15で算出した応答時間(Time(n))がステップS17で設定して記憶手段20に記憶された警告値(Time(alarm))を超えていると判断した場合には、警告手段15は、該当する動作ユニット31が異常状態にあるとして、該動作ユニット31を示してモニター6にアラームを発する(ステップS19)。
【0051】
一方、ステップS18において、比較手段14が、ステップS15で算出した応答時間(Time(n))がステップS17で設定した警告値(Time(alarm))を超えていないと判断した場合には、応答時間(Time(n))と記憶手段20に記憶された応答時間の履歴を解析する(ステップS20)。
【0052】
比較手段14は、ステップS20における反応時間の履歴解析に基づいて、動作ユニット31の異常の有無を診断し(ステップS21)、動作ユニット31に異常があると判断した場合には、該動作ユニット31を示してモニター6に警告を発する(ステップS22)。反応時間の履歴解析における動作ユニット31の異常有無の判断の詳細については、後述する。
【0053】
一方、ステップS21において、比較手段14が、動作ユニット31に異常がないと判断した場合には、診断システム1は、ステップS12に戻って次の動作指令が出力されるまで待機する。
【0054】
本発明の機械の診断システムは、動作ユニット31の動作指令に対する応答時間を算出し、該応答時間の所定の変化を検知して警告を発することができるので、工作機械3の制御装置4にプログラムを組み込むことにより、様々な動作を行う動作ユニット31に対して、低コストで複数の動作ユニット31の動作状態を診断することができる。また、本実施例の機械の診断システムは、初回の動作指令において算出される応答時間を初期値(基準データ)として警告値(設定値)が設定されるから、機械やその動作ユニットごとに警告値を自動的に設定することができ、簡便かつ低コストでそれぞれの機械に適した診断を実施することが可能になる。
【0055】
次に、
図3に基づいて、反応時間の履歴解析の流れについて説明する。
【0056】
比較手段14は、診断回数nが予め設定した所定の回数N(N≧2)より大きいか否かを判断する(ステップS101)。診断回数nが所定の回数N以下の場合には、診断システム1は、診断回数nが所定の回数Nを超えるまで、
図2に記載の診断手順を実行する。所定の回数Nは、指令検知手段11が動作指令を検知して診断を実施する時間間隔によって適宜設定することが好ましく、例えば「N=10」のように設定される。所定の回数Nは、診断を実施する時間間隔が短いときは回数を多く設定し、診断を実施する時間間隔が長いときは回数を少なく設定することが好ましい。
【0057】
診断回数nが所定の回数Nを超えている場合には、比較手段14は、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・において、動作指令の回数または時間経過に対する応答時間の変化率を求める(ステップS102)。具体的には、比較手段14は、直近N回の動作指令における応答時間(診断値)について、最小二乗法により時間経過に対する診断値の変化率を求める。
【0058】
比較手段14は、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・において、ステップS102で求めた応答時間の変化率と予め設定されている所定値とを比較する(ステップS103)。比較手段14が、応答時間の変化率が予め設定された設定値を超えていると判断した場合には、警告手段15は、該当する動作ユニット31を示してモニター6に警告を発する(ステップS104)。このとき、警告手段15は、応答時間の変化率に基づいて応答時間が設定値を超える時期を予測し、予測した時期をモニター6に表示するようにしてもよい。
【0059】
ステップS103において、比較手段14が、応答時間の変化率について予め設定された設定値以下であると判断した場合には、比較手段14は、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・において、動作指令の回数または時間経過に対する応答時間の変化の変化率を求める(ステップS105)。具体的には、比較手段14は、直近N回の動作指令における応答時間(診断値)について、診断値の時間推移を時間で二階微分して診断値の変化の変化率を求める。
【0060】
比較手段14は、それぞれの動作ユニット31a,31b・・・において、ステップS105で求めた応答時間の変化の変化率と予め設定されている所定値とを比較する(ステップS106)。比較手段14が、応答時間の変化の変化率が予め設定された設定値を超えていると判断した場合には、警告手段15は、該当する動作ユニット31を示してモニター6に警告を発する(ステップS107)。
【0061】
ステップS106において、比較手段14が、応答時間の変化の変化率について予め設定された設定値以下であると判断した場合には、診断システム1は、工作機械3の動作ユニット31の診断を継続する(ステップS108)。
【0062】
本発明の機械の診断システムは、動作ユニット31への動作指令の時間経過に対する応答時間の変化率、または、動作指令の時間経過に対する応答時間の変化の変化率が所定の変化率(設定値)を超えたときに警告を発することができるので、応答時間の診断値が警告値を超える前に、動作ユニット31の異常の予兆を事前に知らせることができる。また、本実施例の機械の診断システムは、警告手段15が診断値の変化率に基づいて診断値が警告値を超える時期を予測することができ、例えば部品の交換時期などを予測することが可能になる。
【実施例2】
【0063】
図4は、本発明に係る機械の診断システムの他の実施例を示す構成図である。
図4に示す実施例において、診断システム1は、一又は二以上の工作機械3にネットワーク2を介して接続されたホストコンピュータ10に設けられている。ホストコンピュータ10は、工作機械3を数値制御するための数値制御プログラムを管理しているコンピュータであり、演算部と、記憶部と、入力部と、表示部とを備えている。なお、図示しないが、工作機械3は、それぞれの駆動部30x,30y,30z,30sの駆動を数値制御する制御装置4と、加工条件、工具交換、座標設定などの指示を入力する操作パネル5と、加工情報や位置情報などを表示するモニター6を備えている。
【0064】
指令検知手段11は、ネットワーク2で接続された工作機械3の制御装置4(図示しない)を介して、動作ユニット31に対する動作指令の出力を検出する。また、動作検知手段12は、工作機械3の制御装置4を介して、センサ32が検出する動作ユニット31の動作の開始又は停止を検知する。
【0065】
本実施例において、比較手段14は、工作機械3の運転スケジュールを管理する生産管理データを取得する手段と、この生産管理データと指令検知手段11で検知した動作指令を比較する手段と、をさらに備え、動作指令落ちを検出することができるように構成してあることが好ましい。比較手段14が、生産管理データにおいて運転状態となっている時間帯に、指令検知手段11が何れの動作ユニット31の動作指令も検知していないと判断した場合には、警告手段15は、当該時間帯において動作指令落ちが発生しているとして工作機械3のモニター6(図示しない)およびホストコンピュータ10の表示部に警告を発する。なお、その他の構成は、実施例1に記載の機械の診断システムの構成と同様である。
【0066】
本実施例の機械の診断システムは、一又は二以上の工作機械3にネットワーク2を介して接続されたホストコンピュータ10によって、全ての工作機械3の動作状態を一元管理することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 診断システム
2 ネットワーク
3 機械
4 制御装置
5 操作パネル
6 モニター
10 ホストコンピュータ
11 指令検知手段
12 動作検知手段
13 応答時間算出手段
14 比較手段
15 警告手段
20 記憶手段
30 駆動部
31 動作ユニット
32 センサ