(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】重合性ビニル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/05 20060101AFI20230217BHJP
C08F 2/40 20060101ALI20230217BHJP
C07C 15/46 20060101ALI20230217BHJP
C07C 67/54 20060101ALI20230217BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20230217BHJP
C07C 11/21 20060101ALI20230217BHJP
C07C 7/20 20060101ALI20230217BHJP
C07C 67/62 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C07C7/05
C08F2/40
C07C15/46
C07C67/54
C07C69/24
C07C11/21
C07C7/20
C07C67/62
(21)【出願番号】P 2018228237
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000195616
【氏名又は名称】精工化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】田辺 剛
(72)【発明者】
【氏名】森坂 雄介
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-510297(JP,A)
【文献】特表2004-513078(JP,A)
【文献】特開2003-119205(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047655(WO,A1)
【文献】特公平04-026639(JP,B2)
【文献】特開平01-165534(JP,A)
【文献】特開平06-166636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/05
C08F 2/40
C07C 15/46
C07C 67/54
C07C 69/24
C07C 11/21
C07C 7/20
C07C 67/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)を含む原料液に、下記の(A-1)~(A-4)からなるA群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物、及び、前記A群から選択されたN-オキシル化合物よりも沸点の高い化合物であって下記の(B-1)~(B-6)からなるB群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物を添加して蒸留用原液を得た後、前記蒸留用原料を
150℃以上の高沸点で4時間以上蒸留して前記蒸留用原液中に含まれる重合性ビニル化合物を得る、重合性ビニル化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、共役ジエン化合物である、請求項1に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、ビニルエステル化合物である、請求項1に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、芳香族ビニル化合物である、請求項1に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量が、前記蒸留用原液の質量に対して、1ppm以上であり、
前記B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量が、前記蒸留用原液の質量に対して、10ppm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【請求項6】
式:前記A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量/前記B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量の値が、0.001~1である、請求項1~5のいずれか一項に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性ビニル化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、蒸留により特定の重合性ビニル化合物を精製する際にこの重合性ビニル化合物の重合を抑制することができ、生産性良く重合性ビニル化合物を製造することができる重合性ビニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビニル単量体(重合性ビニル化合物)は、その用途を広げており、これに伴い、さまざまな機能を付与する目的で多様なビニル単量体が提案されている。そのような技術開発の中で、開発される新しいビニル単量体は、分子量が大きくなったり、置換基が付与されたりして、沸点が高くなっていたりする傾向にある。
【0003】
ここで、多くの場合、ビニル単量体は、製造後に経済的な理由等から蒸留により精製される。この蒸留時の熱によってビニル単量体は重合してしまうことがあり、重合すると、蒸留が困難になる。このような不具合を防ぐため、ビニル単量体の蒸留時には重合禁止剤が添加される。
【0004】
一方で、上述したようなビニル単量体の高沸点化に伴い、蒸留温度が上がったり、蒸留時の減圧度が下がったりすることにより、添加した重合禁止剤が蒸留時にビニル単量体とともに留出してしまうという問題(重合禁止剤が蒸留時にビニル単量体と同伴してしまうという問題)が起きている。
【0005】
このような問題に対して、蒸留時にビニル単量体と同伴し難い重合禁止剤が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
ここで、N-オキシル化合物は、ビニル単量体の製造に用いられる有効な重合禁止剤であることが知られている。そして、このN-オキシル化合物についても、ビニル単量体の高沸点化に伴い、ビニル単量体と同伴し難いもの(重合禁止剤)が提案されているが、これらを用いた場合、蒸留時において、蒸留装置の気相部での重合を効率よく防止できないという問題があった。
【0007】
このような問題に対して、特開昭56-38301号公報(特許文献3)には、α,β-不飽和カルボン酸エステルの蒸留の際に、気化する温度の異なる2種類のN-オキシル化合物(重合禁止剤)を併用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-199632号公報
【文献】特開2017-110160号公報
【文献】特開昭56-38301号公報
【文献】特許第6282353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、引用文献3には、α,β-不飽和カルボン酸エステルについて記載され、引用文献4には、(メタ)アクリレート化合物について記載されているものの、これら以外の重合性ビニル化合物に関して、高沸点化したものの蒸留に際して、ビニル単量体と重合禁止剤との同伴を防止すること、及び、蒸留装置の気相部におけるビニル単量体の重合を防止することについて同時に解決する技術は未だ開発されていない。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の重合性ビニル化合物の製造方法は、蒸留により特定の重合性ビニル化合物(即ち、(メタ)アクリレート化合物を除く重合性ビニル化合物)を精製する際にこの重合性ビニル化合物の重合(特に蒸留装置の気相部での重合)を抑制することができ、生産性良く重合性ビニル化合物を製造することができる重合性ビニル化合物の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す重合性ビニル化合物の製造方法が提供される。
【0012】
[1] 重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)を含む原料液に、下記の(A-1)~(A-4)からなるA群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物、及び、前記A群から選択されたN-オキシル化合物よりも沸点の高い化合物であって下記の(B-1)~(B-6)からなるB群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物を添加して蒸留用原液を得た後、前記蒸留用原料を150℃以上の高沸点で4時間以上蒸留して前記蒸留用原液中に含まれる重合性ビニル化合物を得る、重合性ビニル化合物の製造方法。
【0013】
【0014】
【0015】
[2] 前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、共役ジエン化合物である、前記[1]に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【0016】
[3] 前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、ビニルエステル化合物である、前記[1]に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【0017】
[4] 前記原料液中の前記重合性ビニル化合物が、芳香族ビニル化合物である、前記[1]に記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【0018】
[5] 前記A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量が、前記蒸留用原液の質量に対して、1ppm以上であり、
前記B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量が、前記蒸留用原液の質量に対して、10ppm以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【0019】
[6] 式:前記A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量/前記B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量の値が、0.001~1である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の重合性ビニル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重合性ビニル化合物の製造方法は、蒸留により特定の重合性ビニル化合物(即ち、(メタ)アクリレート化合物を除く重合性ビニル化合物)を精製する際にこの重合性ビニル化合物の重合を抑制することができ、生産性良く重合性ビニル化合物を製造することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0022】
(1)重合性ビニル化合物の製造方法:
本発明の重合性ビニル化合物の製造方法は、重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)を含む原料液(精製前の重合性ビニル化合物含有液)に、下記の(A-1)~(A-4)からなるA群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物、及び、前記A群から選択されたN-オキシル化合物よりも沸点の高い化合物であって下記の(B-1)~(B-6)からなるB群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物を添加して蒸留用原液を得た(蒸留用原液調製工程)後、この蒸留用原料を150℃以上の高沸点で4時間以上蒸留して蒸留用原液中に含まれる重合性ビニル化合物を得る(精製された重合性ビニル化合物含有液を得る)もの(蒸留精製工程)である。なお、A群から複数のN-オキシル化合物が選択された場合には、選択されたものの中で最も沸点が高いものを基準とし、B群の中から、基準とした化合物の沸点よりも沸点が高いものを選択するものとする。
【0023】
【0024】
【0025】
このような重合性ビニル化合物の製造方法によれば、蒸留により特定の重合性ビニル化合物(即ち、(メタ)アクリレート化合物を除く重合性ビニル化合物)を精製する際にこの重合性ビニル化合物の重合を抑制することができ、生産性良く重合性ビニル化合物を製造することができる。
【0026】
(1-1)蒸留用原液調製工程:
重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)としては、具体的には、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、芳香族ビニル化合物などを挙げることができる。重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)としては、より具体的には、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、または、芳香族ビニル化合物であることが好ましい。
【0027】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン、クロロプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、α-ファルネセン、β―ファルネセン、ミルセン及びクロロプレン等などを挙げることができる。
【0028】
ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等などを挙げることができる。
【0029】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、スチレンスルホン酸、及びジビニルベンゼン等などを挙げることができる。
【0030】
共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、芳香族ビニル化合物以外の重合性ビニル化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸-2-メトキシエチル、アクリル酸-3-メトキシブチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2-アミノエチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ビシクロヘキシル等、アクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0031】
更に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸-2-メトキシエチル、メタクリル酸-3-メトキシブチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-アミノエチル、メタクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ビシクロヘキシル等メタクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0032】
更に、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン類などを挙げることができる。
【0033】
更に、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどを挙げることができる。
【0034】
更に、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体などを挙げることができる。
【0035】
更に、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体などを挙げることができる。
【0036】
更に、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等を挙げることができる。
【0037】
蒸留用原料には、上記(A-1)~(A-4)からなるA群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物、及び、前記A群から選択されたN-オキシル化合物よりも沸点の高い化合物であって上記(B-1)~(B-6)からなるB群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の2種類の重合禁止剤が含まれる。これらの2種類の重合禁止剤の組み合わせは特に制限はなく、各群から複数の化合物を採用してもよい。これらの組み合わせの中でも、例えば、(A-1)のN-オキシル化合物と(B-6)のN-オキシル化合物とを組み合わせることによって、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、または、芳香族ビニル化合物の重合に対して、更に優れた重合禁止効果が得られる。
【0038】
なお、原料液には、重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)以外に、重合性ビニル化合物の溶媒、重合性ビニル化合物の合成の際に生成した副産物(夾雑物)などが含まれている。
【0039】
本発明においては、A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量は、蒸留用原液の質量に対して、1ppm以上であることが好ましく、10~10000ppmであることが更に好ましい。そして、B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量は、蒸留用原液の質量に対して、10ppm以上であることが好ましく、100~10000ppmであることが更に好ましい。このように、A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量と、B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量とが、上記範囲であるとことによって、重合性ビニル化合物の蒸留時におけるその重合に対して、更に優れた重合禁止効果が発揮される。
【0040】
本発明においては、式:A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量(ppm)/B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量(ppm)の値が、0.001~1であることが好ましく、0.01~1であることが更に好ましい。上記の値が上記の範囲であることによって、重合性ビニル化合物(特に、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、芳香族ビニル化合物)の蒸留時におけるその重合に対して、更に優れた重合禁止効果が発揮される。
【0041】
なお、「A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量」は、A群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物が複数ある場合には、これらの合計の添加量をいう。また、「上記B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物の添加量」は、B群より選択される少なくとも一つのN-オキシル化合物が複数ある場合には、これらの合計の添加量をいう。
【0042】
(1-2)蒸留精製工程:
蒸留条件としては、従来公知の条件を適宜選択することができる。例えば、温度190℃で10時間の条件で蒸留することが行われている。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にスチレンと、4H-TEMPO 5000ppm、4-ベンゾイルオキシTEMPO 5000ppmを加え、スチレンの蒸留を行った。なお、スチレンは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0045】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度150℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は、透明であり、スチレンの重合物の生成は無かった(スチレンの重合が抑制された)と判断した。
【0046】
(比較例1)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にスチレンと、4-ベンゾイルオキシTEMPO 10000ppmを加え、スチレンの蒸留を行った。なお、スチレンは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0047】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度150℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部にスチレンの重合物が生成しているもの(スチレンの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0048】
(実施例4)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にスチレンと、4H-TEMPO 1000ppm、4-ベンゾイルオキシTEMPO 1000ppmを加え、スチレンの蒸留を行った。なお、スチレンは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0049】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度150℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は、透明であり、スチレンの重合物の生成は無かった(スチレンの重合が抑制された)と判断した。
【0050】
(比較例4)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にスチレンと、4-ベンゾイルオキシTEMPO 2000ppmを加え、スチレンの蒸留を行った。なお、スチレンは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0051】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度150℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部にスチレンの重合物が生成しているもの(スチレンの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0052】
(実施例2)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置に2-エチルヘキサン酸ビニル(ビニルエステル化合物)と、4H-TEMPO 5000ppm、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)5000ppmを加え、2-エチルヘキサン酸ビニルの蒸留を行った。なお、(2-エチルヘキサン酸ビニルは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0053】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は透明であり、2-エチルヘキサン酸ビニルの重合物の生成は無かった(2-エチルヘキサン酸ビニルの重合が抑制された)と判断した。
【0054】
(比較例2)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置に2-エチルヘキサン酸ビニルと、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)10000ppmを加え、2-エチルヘキサン酸ビニルの蒸留を行った。なお、2-エチルヘキサン酸ビニルは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0055】
(実施例5)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置に2-エチルヘキサン酸ビニル(ビニルエステル化合物)と、4H-TEMPO 1000ppm、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)1000ppmを加え、2-エチルヘキサン酸ビニルの蒸留を行った。なお、(2-エチルヘキサン酸ビニルは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0056】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は透明であり、2-エチルヘキサン酸ビニルの重合物の生成は無かった(2-エチルヘキサン酸ビニルの重合が抑制された)と判断した。
【0057】
(比較例5)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置に2-エチルヘキサン酸ビニルと、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)2000ppmを加え、2-エチルヘキサン酸ビニルの蒸留を行った。なお、2-エチルヘキサン酸ビニルは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0058】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部に2-エチルヘキサン酸ビニルの重合物が生成しているもの(2-エチルヘキサン酸ビニルの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0059】
(実施例3)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、4H-TEMPO 5000ppm、4-ベンゾイルオキシTEMPO 5000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度180℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は透明であり、ミルセンの重合物の生成は無かった(ミルセンの重合が抑制された)と判断した。
【0060】
(比較例3)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、4-ベンゾイルオキシTEMPO 10000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部にミルセンの重合物が生成しているもの(ミルセンの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0061】
(実施例6)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、4H-TEMPO 1000ppm、4-ベンゾイルオキシTEMPO 1000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度180℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は透明であり、ミルセンの重合物の生成は無かった(ミルセンの重合が抑制された)と判断した。
【0062】
(比較例6)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、4-ベンゾイルオキシTEMPO 2000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で4時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部にミルセンの重合物が生成しているもの(ミルセンの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0063】
(比較例7)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にメタクリル酸2-エトキシエチルと、4H-TEMPO 5000ppm、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)5000ppmを加え、蒸留を行った。なお、メタクリル酸2-エトキシエチルルは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したものを使用した。
【0064】
窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で蒸留を行ったところ、蒸留用原液の増粘が起こり、蒸留不能となった。
【0065】
(実施例7)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、4H-TEMPO 5000ppm、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)5000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度180℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液は透明であり、ミルセンの重合物の生成は無かった(ミルセンの重合が抑制された)と判断した。
【0066】
(比較例8)
ガラス製の単蒸留装置を用い、この単蒸留装置にミルセンと、セバシン酸BisTEMPO(ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペラジニルオキシ-4-イル)セバケート)10000ppmを加え、ミルセンの蒸留を行った。窒素気流下、常圧、オイルバスの温度190℃で10時間かけて蒸留を行った後、単蒸留装置の気層部をメタノールで洗浄した。その際、洗液の状態を確認した。洗液には白濁が見られた。この結果から、気層部にミルセンの重合物が生成しているもの(ミルセンの重合が十分に抑制されなかった)と判断した。
【0067】
実施例1~7、比較例1~8の結果を表1に示す。なお、比較例7の「洗液の状態」の欄における斜線は、洗液の状態が確認できなかったことを意味する。具体的には、単蒸留装置の試験液中でメタクリル酸2-エトキシエチルの重合が生じてしまい(即ち、メタクリル酸2-エトキシエチルの重合が抑制されず)、評価試験が行えなかったことを示す。
【0068】
【0069】
以上のように、実施例1~7の重合性ビニル化合物の製造方法によれば、重合性ビニル化合物の蒸留に際してその重合を十分に抑制することができ、一方、比較例1~8の重合性ビニル化合物の製造方法では、重合性ビニル化合物の蒸留に際してその重合を十分に抑制することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の重合性ビニル化合物の製造方法は、スチレンなど重合性ビニル化合物(但し、(メタ)アクリレート化合物を除く)の蒸留に際してこの重合性ビニル化合物の重合を禁止しつつ重合性ビニル化合物を製造できる方法として採用することができる。