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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】可視光通信装置及び可視光通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/116 20130101AFI20230217BHJP
【FI】
H04B10/116
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019075266
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020174287
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 伸太郎
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011133(JP,A)
【文献】特開2015-233276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0272717(US,A1)
【文献】国際公開第2015/097923(WO,A1)
【文献】特開2017-123696(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0142646(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光状態を切り替えることによって信号を送信する送信用発光部と、
送信用発光部を撮影することによって信号を受信する受信用カメラと
を備えた可視光通信装置であって、
受信用カメラが撮影する1フレーム分のイメージデータ内に、ある時刻における送信用発光部とそれよりも後の時刻における送信用発光部とが重ならない状態で収まる速度で、送信用発光部と受信用カメラとを相対的に移動させる送受信相対移動手段と、
受信用カメラが撮影した1フレーム分のイメージデータから、異なる複数の時刻における送信用発光部の発光状態を読み取る発光状態読取手段と
をさらに備えたことを特徴とする可視光通信装置。
【請求項2】
発光状態読取手段が、
受信用カメラが撮影した1フレーム分のイメージデータから、それぞれの時刻における送信用発光部の発光状態が反映された発光状態反映箇所を特定し、それぞれの発光状態反映箇所にラベリングを行うラベリング手段と、
ラベリング手段によりラベリングされた発光状態反映箇所の発光状態を判別する発光状態判別手段と、
発光状態判別手段による判別結果とラベリング手段によるラベリング結果とに基づいて信号を復号化する復号化手段と
で構成された請求項1記載の可視光通信装置。
【請求項3】
送信用発光部又は受信用カメラの移動量を検知するための移動量検知手段をさらに備え、
移動量検知手段によって検知される移動量が所定値変化するごとに送信用発光部の発光状態を切り替えるようにした
請求項1又は2記載の可視光通信装置。
【請求項4】
送受信相対移動手段が、送信用発光部又は受信用カメラのうち少なくとも一方を、送信用発光部と受信用カメラとを結ぶ直線に略垂直な軸を中心として回転させるものとされた請求項1~3いずれか記載の可視光通信装置。
【請求項5】
送信用発光部と受信用カメラとが正対するときの送信用発光部又は受信用カメラの回転角度を0°とした場合において、
回転角度が-90°~+90°の範囲内にある送信用発光部の発光状態のみを発光状態読取手段が読み取るようにした
請求項4記載の可視光通信装置。
【請求項6】
送信用発光部と受信用カメラとが正対するときの送信用発光部又は受信用カメラの回転角度を0°とした場合において、
回転角度が-90°~+90°の範囲内にあるときにのみ、送信用発光部が信号を送信するようにした
請求項4又は5記載の可視光通信装置。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載の可視光通信装置を用いて通信を行う可視光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を用いて無線通信を行う可視光通信装置と可視光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信媒体に可視光を用いる可視光通信装置は、[1]生体や電子機器に悪影響を及ぼしにくく安全である、[2]通信範囲を把握しやすい、[3]高い指向性で伝搬制御でき高い空間分解能を得ることができる、[4]水中でも通信媒体(可視光)が散乱又は吸収されにくい、[5]通信媒体(可視光)を照明や表示装置等に流用できる等の利点を有しており、近年、近傍端末間通信や水中通信での実用化が進められている。
【0003】
可視光通信装置は、通常、通信媒体である可視光を出射するための発光部(送信用発光部)と、送信用発光部から出射された可視光を入射させるための受光部(受信用受光部)とで構成されている。この種の可視光通信装置では、送信する信号に応じて送信用発光部を点滅させる一方、受信用受光部によって検知された送信用発光部の点滅パターンを復号化することで信号の内容を読み取るようになっている。
【0004】
ところで、可視光通信装置としては、受信用受光部にフォトダイオードを用いたもの(例えば特許文献1を参照。)と、カメラ(イメージセンサ)を用いたもの(例えば特許文献2を参照。)が知られている。受信用受光部にフォトダイオードを用いる可視光通信装置は、フォトダイオードの高速応答性から、高速通信が可能であるという利点を有する反面、ノイズに弱いという欠点を有している。
【0005】
これに対し、受信用受光部にカメラを用いる可視光通信装置は、ノイズに強いという利点を有する反面、通信速度がカメラの撮影速度(単位時間当たりの撮影可能フレーム数)に依存するという欠点を有している。この点、撮影速度が速い高速度カメラを受信用受光部に用いることや、送信用発光部を多数の光源で構成することで、受信用受光部にカメラを用いる可視光通信装置でも、通信速度を速くすることはできる。しかし、高速度カメラは、非常に高価である。また、送信用発光部を多数の光源で構成すると、比較的発熱の少ない発光ダイオードを光源に用いても、送信用発光部が発熱しやすくなるという問題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-260953号公報
【文献】特開2011-055288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、受信用受光部にカメラ(イメージセンサ)を用いる可視光通信装置において、通信速度がカメラの撮影速度に縛られないようにすることで、通信速度の高速化を図ることを目的とするものである。また、その通信速度の高速化を、送信用発光部を構成する光源の数を抑えながら実現することも本発明の目的である。さらに、本発明の可視光通信装置を用いて通信を行う可視光通信方法を提供することも、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
発光状態を切り替えることによって信号を送信する送信用発光部と、
送信用発光部を撮影することによって信号を受信する受信用カメラと
を備えた可視光通信装置であって、
受信用カメラが撮影する1フレーム分のイメージデータ内に、ある時刻における送信用発光部とそれよりも後の時刻における送信用発光部とが重ならない状態で収まる速度で、送信用発光部と受信用カメラとを相対的に移動させる送受信相対移動手段と、
受信用カメラが撮影した1フレーム分のイメージデータから、異なる複数の時刻における送信用発光部の発光状態を読み取る発光状態読取手段と
をさらに備えたことを特徴とする可視光通信装置
を提供することによって解決される。
【0009】
その理由は、以下の通りである。すなわち、受信用カメラが撮影する1フレーム分のイメージデータは、静止画像として取得されるものの、受信用カメラで移動体を撮影した場合には、その1フレーム分のイメージデータには、1フレーム分の撮影時間(受信用カメラの撮影速度をF[fps]としたときに、T=1/Fで表わされる時間T[s]のこと。)が経過する間の移動体の移動軌跡が表われる。
【0010】
例えば、図1(a)に示すように、受信用カメラ21の前方で発光状態を切り替えながら移動する送信用発光部15を、受信用カメラ21で撮影する場合について考える。図1(a)では、時刻tに消灯状態にあった送信用発光部15が、時刻tで点灯状態になり、時刻tで消灯状態になり、時刻tで点灯状態になり、時刻tで消灯状態になり、時刻tで点灯状態になっており、受信用カメラ21による撮影(1フレーム分の撮影)は、時刻tと時刻tとの間の時刻tに開始し、時刻tと時刻tとの間の時刻tに終了している。ここで、時刻tから時刻tまでの1フレーム分の撮影時間Tにおいて受信用カメラ21の撮像素子(イメージセンサ)が取得した情報(画像)は、同じフレームのイメージデータに反映されるようになる。このため、その1フレーム分の撮影時間Tで受信用カメラが撮影したイメージデータは、図1(b)に示すようになる。
【0011】
時刻tから時刻tまでの送信用発光部15が点灯状態にあったこと、及び、時刻tから時刻tまでの送信用発光部15が点灯状態にあったことは、図1(b)に示すように、1フレーム分のイメージデータにおいては、2本の帯状の明部(点灯状態にある送信用発光部の移動軌跡)として表れるようになる。一方、他の時間帯において、送信用発光部15が消灯状態にあったことは、暗部(点灯状態にある送信用発光部15と区別できるのであれば、暗部である必要はないが、本明細書においては説明の便宜上、「暗部」という語句を用いている。)として表れるようになる。
【0012】
このように、送信用発光部と受信用カメラとを相対的に移動させることによって、受信用カメラが撮影した1フレーム分のイメージデータには、送信用発光部の時間Tにわたる移動軌跡が表われるようになる。換言すると、送信用発光部の発光状態を、時間軸(異なる時刻に撮影された複数のイメージデータの変遷)で捉えるだけでなく、空間軸(各イメージデータにおける特定領域の変遷)でも捉えることができるようになる。
【0013】
先ほど例に挙げた図1(b)のイメージデータについて言えば、同イメージデータにおける点Pと点Pが明部であることから、時刻tと時刻tとの間、及び、時刻tと時刻tとの間においては、送信用発光部15が点灯状態にあったと判断することができ、同イメージデータにおける点Pや点Pや点Pが暗部であることから、それらの点P,P,Pに対応する時間帯においては、送信用発光部15が消灯状態にあったと判断することができる。
【0014】
以上のように、1フレーム分のイメージデータから、異なる複数の時刻における送信用発光部の発光状態を取得できるようになり、送信用発光部の発光状態を、1フレーム分の撮影時間Tよりも短い周期で切り替えても、その発光状態の変化を捉えることができるようになる。したがって、通信速度がカメラの撮影速度に縛られないようにすることで、通信速度の高速化を図ることが可能になる。また、送信用発光部を構成する光源の数を抑えることも可能になる。
【0015】
本発明の可視光通信装置においては、
発光状態読取手段を、
受信用カメラが撮影した1フレーム分のイメージデータから、それぞれの時刻における送信用発光部の発光状態が反映された発光状態反映箇所(上述した図1(b)における「明部」に相当する箇所。)を特定し、それぞれの発光状態反映箇所にラベリングを行うラベリング手段と、
ラベリング手段によりラベリングされた発光状態反映箇所の発光状態を判別する発光状態判別手段と、
発光状態判別手段による判別結果とラベリング手段によるラベリング結果とに基づいて信号を復号化する復号化手段と
で構成することが好ましい。
【0016】
というのも、発光状態読取手段は、1フレーム分のイメージデータから異なる複数の時刻における送信用発光部の発光状態を読み取るものであるところ、その読み取りを行う際や、読み取った情報を復号化する際には、そのイメージデータにおけるどの箇所がどの時刻に対応しているのか等について、発光状態読取手段が把握しておく必要がある。この点、発光状態読取手段を上記のように構成することによって、イメージデータにおける適切な箇所で発光状態の判別を行い、その判別結果を復号化の際に適切に利用することが可能になるからである。
【0017】
本発明の可視光通信装置は、
送信用発光部又は受信用カメラの移動量を検知するための移動量検知手段をさらに備えたものとし、
移動量検知手段によって検知される移動量が所定値変化するごとに送信用発光部の発光状態を切り替えるようにする
ことも好ましい。
【0018】
というのも、本発明の可視光通信装置では、送信用発光部と受信用カメラとを相対移動させる際の移動速度をある程度高い精度で安定化させておかないと、発光状態読取手段が、イメージデータにおける目的の時刻(読み取りを行おうとしている時刻)に対応する箇所とは大きくずれた箇所の発光状態を、目的の時刻の発光状態として読み取ってしまう可能性があり、発光状態の読み取りに誤りが生じて、信号を正しく復号化できなくなるおそれがある。
【0019】
この点、送信用発光部の発光状態の切り替えを、時間に基づいて行うのではなく、上記のように、送信用発光部又は受信用カメラの移動量が所定値変化するごとに行うことによって、送信用発光部と受信用カメラとを相対移動させる際の移動速度が不安定であっても、発光状態読取手段が、イメージデータにおける目的の時刻に対応する箇所の発光状態を正しく読み取ることが可能になるからである。
【0020】
本発明の可視光通信装置において、送受信相対移動手段による送信用発光部又は受信用カメラの移動態様は、特に限定されない。送受信相対移動手段は、送信用発光部又は受信用カメラを複雑な経路で移動させるものであってもよい。しかし、この場合には、1フレーム分のイメージデータに再現される送信用発光部の移動軌跡が複雑な形状となり、送信用発光部の発光状態の読み取りに誤りが生じやすくなるおそれがある。
【0021】
このため、送受信相対移動手段は、送信用発光部又は受信用カメラを単純な経路で移動させるものであると好ましい。送信用発光部又は受信用カメラの移動の好ましい移動態様としては、回転、直線動(往復動を含む。)、揺動又は螺旋動等が例示される。なかでも、送信用発光部又は受信用カメラを、送信用発光部と受信用カメラとを結ぶ直線に略垂直な軸を中心として回転させるようにすると、比較的簡素な機構でありながら、発光状態の読み取りに誤りが生じにくくすることが可能になる。送受信相対移動手段は、送信用発光部と受信用カメラのうち、一方のみを移動させるものであってもよいし、双方を移動させるものであってもよい。
【0022】
本発明の可視光通信装置において、上記のように、送信用発光部又は受信用カメラを、送信用発光部と受信用カメラとを結ぶ直線に略垂直な軸を中心として回転させる場合には、回転角度(送信用発光部と受信用カメラとが正対するときの送信用発光部又は受信用カメラの回転角度を0°として、順回転方向を正(+)、逆回転方向を負(-)としたときの回転角度。以下同じ。)が-90°~+90°の範囲内にある送信用発光部の発光状態のみを発光状態読取手段が読み取るようにすることが好ましい。
【0023】
というのも、回転角度が-90°よりも小さい範囲にあるときや、+90°よりも大きい範囲にあるときには、通常、送信用発光部が、それを支持する部材の背後に隠れてしまい、受信用カメラが送信用発光部を撮影できなくなる。この点、送信用発光部を受信用カメラで撮影できないタイミングでは受信用カメラによる撮影そのものを行わないようにすることで、無駄なイメージデータを取得しないようにし、画像処理を効率的に行うことが可能になるからである。
【0024】
本発明の可視光通信装置において、上記のように、送信用発光部又は受信用カメラを、送信用発光部と受信用カメラとを結ぶ直線に略垂直な軸を中心として回転させる場合には、回転角度が-90°~+90°の範囲内にあるときにのみ、送信用発光部が信号を送信するようにすることも好ましい。
【0025】
既に述べたように、回転角度が-90°よりも小さい範囲にあるときや、+90°よりも大きい範囲にあるときには、通常、送信用発光部が、それを支持する部材の背後に隠れてしまい、受信用カメラが送信用発光部を撮影できなくなる。この点、回転角度が-90°~+90°の範囲内にあるときにのみ、送信用発光部が信号を送信する(回転角度が-90°よりも小さい範囲にあるときや、+90°よりも大きい範囲にあるときには、送信用発光部が信号を送信しないようにする)ことによって、送信用発光部の消費電力や発熱を抑えることが可能になるからである。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によって、受信用受光部にカメラ(イメージセンサ)を用いる可視光通信装置において、通信速度がカメラの撮影速度に縛られないようにして、通信速度の高速化を図ることが可能になる。また、その通信速度の高速化を、送信用発光部を構成する光源の数を抑えながら実現することも可能になる。さらに、本発明の可視光通信装置を用いて通信を行う可視光通信方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の可視光通信装置における、送信用発光部の発光状態の判別原理を説明する図である。
図2】本発明の可視光通信装置の一例を示した斜視図である。
図3】本発明の可視光通信装置の構成例を示したブロック図である。
図4】本発明の可視光通信装置において、送信用発光部を発光させる手順の一例を示したフロー図である。
図5図4における第一区間点灯工程、第二区間点灯工程及びガード部点灯工程を実行しているときの送信用発光部を受信用カメラで撮影したときのイメージデータの一例をそれぞれ示した図である。
図6】送信用発光部の発光パターンを模式的に表した図であって、データ部とガード部との関係を説明する図である。
図7】イメージデータ上のそれぞれの明部にラベリングを行っている様子を示した図である。
図8】本発明の可視光通信装置を用いた実験で得られた、通信距離とビット誤り率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
0. 本発明の可視光通信装置の概要
本発明の可視光通信装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図2は、本発明の可視光通信装置の一例を示した斜視図である。本実施態様の可視光通信装置は、図2に示すように、送信用発光部15を備えた送信側装置10と、受信用カメラ21を備えた受信側装置20とで構成されている。送信用発光部15は、その発光状態を切り替えることによって信号を送信するものとなっている。一方、受信用カメラ21は、送信用発光部15を撮影することによって信号(送信用発光部15が送信した信号)を受信するものとなっている。
【0029】
また、本発明の可視光通信装置には、送受信相対移動手段30が設けられている。この送受信相対移動手段30によって、送信用発光部15と受信用カメラ21とが相対的に移動するようになっている。既に述べたように、送受信相対移動手段30は、送信用発光部15と受信用カメラ21のうち、一方のみを移動させるものであってもよいし、双方を移動させるものであってもよい。また、送受信相対移動手段30による移動態様も、特に限定されない。本実施態様の可視光通信装置において、送受信相対移動手段30は、送信用発光部15を、図2における鉛直軸線Aを中心として同図における矢印αの向き(鉛直上側から見て時計回り方向)に回転移動させるものとなっている。
【0030】
以下においては、説明の便宜上、送信用発光部15と受信用カメラ21とが正対するとき(図2に示す状態のとき)の送信用発光部15の回転角度を0°として、順回転方向(同図における矢印αの向き)を正(+)、逆回転方向(同図における矢印αとは逆の向き)を負(-)としたときの回転角度を「回転角度θ」と表記することがある。回転角度θが+90°のときには、送信用光源部15は、受信用カメラ21から見て左側を向き、回転角度θがー90°のときには、送信用光源部15は、受信用カメラ21から見て右側を向く。また、回転角度θが+180°であるときとー180°であるときには、送信用光源部15は、受信用カメラ21に正対する側とは反対側を向き、受信用カメラ21からは筐体16に隠れて完全に見えない状態となる。
【0031】
このように、受信用カメラ21に対して送信用発光部15を移動させることによって、図1(b)に示すように、受信用カメラ21が撮影した1フレーム分のイメージデータには、送信用発光部15の撮影時間Tにわたる移動軌跡が表われるようになる。換言すると、送信用発光部15の発光状態を、時間軸(異なる時刻に撮影された複数のイメージデータの変遷)で捉えるだけでなく、空間軸(各イメージデータにおける特定領域の変遷)でも捉えることができるようになる。このため、1フレーム分のイメージデータから、異なる複数の時刻における送信用発光部15の発光状態を取得できるようになり、図1(a)に示すように、送信用発光部15の発光状態を、1フレーム分の撮影時間Tよりも短い周期で切り替えても、その発光状態の変化を捉えることができる。したがって、通信速度が受信用カメラ21の撮影速度に縛られないようにして、通信速度の高速化を図ることが可能となっている。
【0032】
図3は、本発明の可視光通信装置の構成例を示したブロック図である。本実施態様の可視光通信装置においては、図3に示すように、送信用発光部15が設けられた送信側装置10には、送信用発光部15のほか、送信データ記憶部11と、送信データ変調手段12と、送信用発光部制御手段14とが設けられている。また、受信用カメラ21が設けられた受信側装置20には、受信用カメラ21のほか、発光状態読取手段22と、受信データ出力部23とが設けられている。さらに、送受信相対移動手段30には、移動量検知手段40が設けられている。
【0033】
以下、本実施態様の可視光通信装置を構成する各部について詳しく説明する。

【0034】
1. 送信側装置
まず、送信側装置10を構成する各部について説明する。
【0035】
1.1 送信用発光部
送信用発光部15は、既に述べたように、その発光状態を切り替えることによって信号を送信するものとなっている。この送信用発光部15は、送信用発光部制御手段14に接続されており、送信用発光部制御手段14からの制御信号に基づいてその発光状態が切り替えられるようになっている。
【0036】
送信用発光部15は、可視光を発することができる部分であれば、その種類を特に限定されない。送信用発光部15は、白熱ランプで構成することもできる。しかし、白熱ランプは、消費電力が大きく、高温になりやすいことに加えて、寿命が短い。特に、可視光通信装置では、送信用発光部15の発光状態を高速で切り替える必要があるところ、このような用途で白熱ランプを使用すると、白熱ランプがすぐに切れてしまう。したがって、送信用発光部15は、[1]消費電力が小さい、[2]寿命が長い、[3]高速応答性に優れている、という条件を満たすもので構成することが好ましい。このような条件を満たすものとして、発光ダイオードが挙げられる。本実施態様の可視光通信装置においても、送信用発光部15として発光ダイオードを用いている。
【0037】
送信用発光部15は、1つの発光部で構成してもよいが、複数の発光部で構成することが好ましい。というのも、本発明の可視光通信装置では、送信用発光部15の発光状態をフォトダイオードではなく、カメラ(受信用カメラ21)で取得するようにしたため、受信用カメラ21の視野に入る複数の発光部の発光状態を同時に取得することができる。このため、送信用発光部15を複数の発光部で構成し、それぞれの発光部の発光状態を独立して制御すれば、一度により大容量の情報を伝達できるようになるからである。本実施態様の可視光通信装置においては、図2に示すように、送信用発光部15を9個の発光部L1~L9で構成している。
【0038】
ところで、上記のように、送信用発光部15を複数の発光部L1~L9で構成する場合には、複数の発光部L1~L9を共通の表示装置で構成することも可能である。例えば、送信用発光部15を、液晶表示装置や有機EL表所装置等の表示装置で構成し、その表示装置の表示画面における一の領域(ピクセル領域)が一の発光部に対応し、同表示画面における他の領域(ピクセル領域)が他の発光部に対応するようにすることもできる。このように、表示装置を送信用発光部15として用いれば、その表示装置で広告や装飾を効果的に行うことも容易となり、可視光通信装置に他の機能を付加することも可能になる。
【0039】
1.2 送信データ記憶部
送信データ記憶部11(図3)は、送信用発光部15によって送信を行う元データを記憶するための部分となっている。送信データ記憶部11は、通常、揮発性メモリ等の記憶装置によって構成される。送信データ記憶部11には、送信用発光部15によって送信を行う元データが、無線や有線によって入力されて記憶される。
【0040】
1.3 送信データ変調手段
送信データ変調手段12(図3)は、送信データ記憶部11から元データを読み出し、その元データを、送信用発光部15で送信できる方式に変調するためのものとなっている。送信データ変調手段12は、通常、デジタル回路やアナログ回路等の電子回路により構成される。本実施態様の可視光通信装置では、送信データ変調手段12で、オンオフ変調(OOK)を行うようにしている。
【0041】
1.4 送信用発光部制御手段
送信用発光部制御手段14は、通常、コンピュータプログラムによって実現される。この送信用発光部制御手段14は、送信データ変調手段12で変調されたデータに基づいて送信用発光部15の制御信号を生成し、この制御信号を送信用発光部15に出力することで、送信用発光部15の発光状態を切り替えるものとなっている。具体的には、送信データ変調手段12で変調されたデータを、送信用発光部制御手段14で所定のデータ長ごとに区切っていきながら、制御信号として送信用発光部15に順次出力していくようになっている。以下においては、送信用発光部制御手段14で所定のデータ長ごとに区切られたデータを「データ部」と呼ぶことがある。
【0042】
ただし、それぞれのデータ部を送信用発光部15に順次出力していき、それに応じて送信用発光部15の発光状態を切り替えるだけでは、送信用発光部15によるデータ部の送信がどのタイミングで始まってどのタイミングで終わるのかを受信側装置20で判別することが難しい。このため、本実施態様の可視光通信装置においては、図4に示すように、データ部の送信を行う「データ部送信工程」の前後に、「ヘッダ部送信工程」と「エンド部送信工程」を実行するようにしている。図4は、送信用発光部15を発光させる手順の一例を示したフロー図である。
【0043】
ヘッダ部送信工程は、送信用発光部15による最初のデータ部の送信開始を受信側装置20に知らせるために、最初のデータ部を送信する直前に実行される。一方、エンド部送信工程は、送信用発光部15による最後のデータ部の送信終了を受信側装置20に知らせるために、最後のデータ部を送信した直後に実行される。このように、データ部送信工程の前後に、ヘッダ部送信工程とエンド部送信工程を設けることによって、受信側装置20は、どのタイミングで最初のデータ部の送信が開始され、どのタイミングで最後のデータ部の送信が終了するのかを容易に判別することが可能となっている。
【0044】
ヘッダ部送信工程における送信用発光部15の発光パターンは、データ部送信工程における送信用発光部15では生じ得ず、データ部送信工程における送信用発光部15の発光パターンと区別できるのであれば、特に限定されない。本実施態様の可視光通信装置では、図4に示すように、ヘッダ部送信工程を、「第一区間点灯工程」と、「第二区間点灯工程」と、「ガード部点灯工程」とによって構成している。
【0045】
ここで、第一区間点灯工程は、送信用発光部15がある移動区間(第一区間)にあるときにのみ送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9(図2)を点灯させる工程である。本実施態様の可視光通信装置では、図2に示すように、送信用発光部15が鉛直軸線Aを中心として矢印αの向きに回転移動するようになっているところ、送信用発光部15の回転角度θの絶対値が奇数となる位置からその直後に偶数となる位置までのそれぞれの区間を第一区間としている。換言すると、回転角度θがー180°~+180°の範囲にある1回転分の全区間のうち、nを90以下の全ての自然数(n=1,2,3,・・・,88,89,90)としたときに、回転角度θが-(2n-1)° ~ -(2n-2)°となるそれぞれの区間(具体的には、-1°~0°の区間(n=1)、-3°~-2°の区間(n=2)、-5~-4°(n=3)の区間、・・・、-175°~-174°の区間(n=88)、-177°~-176°の区間(n=89)、-179°~-178°の区間(n=90))にあるときと、回転角度θが+(2n-1)° ~ +2n°となるそれぞれの区間(具体的には+1°~+2°の区間(n=1)、+3°~+4°の区間(n=2)、+5°~+6°の区間(n=3)、・・・、+175°~+176°の区間(n=88)、+177°~+178°の区間(n=89)、+179°~+180°の区間(n=90))にあるときが、第一区間に対応するようになっている。第一区間がいずれも、回転角度θが奇数角度(絶対値が奇数の角度)から始まる区間であることから、以下においては、「第一区間」のことを「奇数角度区間」と呼ぶことがある。
【0046】
参考までに、本実施態様の可視光通信装置において、第一区間点灯工程を実行しているときの送信用発光部15を受信用カメラ21で撮影したときのイメージデータを図5(a)に示す。図5(a)のイメージデータは、第一区間点灯工程の実行時であって、送信用発光部15の回転角度θがー90°から+90°の範囲にあるときを1フレームで撮影したものである。このイメージデータでは、回転角度θが、-89°~-88°、-87°~-86°、・・・、-1°~0°、+1°~+2°、・・・、+87°~+88°、+89°~+90°の範囲にあるとき、すなわち奇数角度区間(第一区間)にあるときの発光部L1~L9の移動軌跡がそれぞれ独立した明部として表れており、それ以外の箇所は暗部として表れている。
【0047】
また、第二区間点灯工程は、送信用発光部15が上記の第一区間とは異なる移動区間(第二区間)にあるときにのみ送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9(図2)を点灯させる工程である。本実施態様の可視光通信装置では、図2に示すように、送信用発光部15が鉛直軸線Aを中心として矢印αの向きに回転移動するようになっているところ、送信用発光部15の回転角度θの絶対値が偶数となる位置からその直後に奇数となる位置までのそれぞれの区間を第二区間としている。換言すると、回転角度θがー180°~+180°の範囲にある1回転分の全区間のうち、nを90以下の全ての自然数(n=1,2,3,・・・,88,89,90)としたときに、回転角度θが-2n° ~ -(2n-1)°となるそれぞれの区間(-2°~-1°の区間(n=1)、-4°~-3°の区間(n=2)、-6~-5°の区間(n=3)、・・・、-176°~-175°の区間(n=88)、-178°~-177°の区間(n=89)、-180°~-179°の区間(n=90))にあるときと、回転角度θが+(2n-2)° ~ +(2n-1)°となるそれぞれの区間(0°~+1°の区間(n=1)、+2°~+3°の区間(n=2)、+4°~+5°の区間(n=3)、・・・、+174°~+175°の区間(n=88)、+176°~+177°の区間(n=89)、+178°~+179°の区間(n=90))にあるときが、第二区間に対応するようになっている。第二区間がいずれも、回転角度θが偶数角度(絶対値が偶数の角度)から始まる区間であることから、以下においては、「第二区間」のことを「偶数角度区間」と呼ぶことがある。
【0048】
参考までに、本実施態様の可視光通信装置において、第二区間点灯工程を実行しているときの送信用発光部15を受信用カメラ21で撮影したときのイメージデータを図5(b)に示す。図5(b)のイメージデータは、第二区間点灯工程の実行時であって、送信用発光部15の回転角度θがー90°から+90°の範囲にあるときを1フレームで撮影したものである。このイメージデータでは、回転角度θが、-90°~-89°、-88°~-87°、・・・、-2°~-1°、0°~+1°、+2°~+3°、・・・、+86°~+87°、+88°~+89°の範囲にあるとき、すなわち偶数角度区間(第二区間)にあるときの発光部L1~L9の移動軌跡がそれぞれ独立した明部として表れており、それ以外の箇所は暗部として表れている。
【0049】
さらに、ガード部点灯工程は、その後に撮影されるそれぞれのフレームのイメージデータにおけるどの範囲がデータ部に対応するのかを判別できるようにするために、ガード部のみを予め点灯させる工程である。例えば、図6に示すように、回転角度θが、-28°となる位置から+28°となる位置(厳密には+29°となる直前の位置)までの範囲をデータ部として使用する場合において、そのデータ部の前後に、送信用発光部15を特徴的な発光パターンで発光させるガード部を設けておけば、そのフレームのイメージデータにおけるどの範囲がデータ部に対応するのかを容易に判断することができる。図6は、送信用発光部15の発光パターンを模式的に表した図であって、データ部とガード部との関係を説明する図である。
【0050】
図6に示した例では、回転角度θがー31°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を消灯し、回転角度θがー30°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を点灯し、回転角度θがー29°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を消灯することで、データ部の始まりを表わすガード部として認識させるようになっている。また、回転角度θが+29°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を消灯し、回転角度θが+30°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を点灯し、回転角度θが+31°となったときに、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を消灯することで、データ部の終わりを表わすガード部として認識させるようになっている。
【0051】
このように、それぞれのフレームのイメージデータにおけるどの範囲がデータ部に対応するのかを示すガード部のみを、ガード部点灯工程で予め点灯させることによって、受信側装置20は、これから取得するそれぞれのフレームのイメージデータにおけるどの範囲がデータ部に対応するのかを判別することが可能になる。ガード部における送信用発光部15の発光パターンは、図6に示したもの(点灯列の両側を消灯列で挟んだもの)に限定されず、他の発光パターンを採用してもよい。また、ガード部を設定する領域の幅(回転角度θの範囲)も、特に限定されない。図6の例では、回転角度θが-31°となる位置から-29°となる位置(厳密には、-28°となる直前の位置)までの約3°分の領域と、回転角度θが+29°となる位置から+31°となる位置(厳密には、+32°となる直前の位置)までの約3°分の領域を、ガード部として利用しているが、それぞれのガード部の幅は、3°未満とすることもできるし、3°よりも大きく設定することもできる。
【0052】
参考までに、本実施態様の可視光通信装置において、ガード部点灯工程を実行しているときの送信用発光部15を受信用カメラ21で撮影したときのイメージデータを図5(c)に示す。図5(c)のイメージデータは、ガード部点灯工程の実行時であって、送信用発光部15の回転角度θがー90°から+90°の範囲にあるときを1フレームで撮影したものである。このイメージデータでは、回転角度θが、-30°~-29°、+30°~+31°の範囲にあるときの発光部L1~L9の移動軌跡がそれぞれ独立した明部として表れており、それ以外の箇所は暗部として表れている。
【0053】
ところで、図5(a),(b)に示すように、回転角度θが-90°付近にあるときや、+90°付近にあるときでも明部が表われ、-90°付近から+90°付近までの約180°の範囲に含まれる全ての明部を、データ部として利用しうるにもかかわらず、上述した例では、回転角度θが-28°となる位置から+28°となる位置(厳密には+29°となる直前の位置)までの約60°の範囲に含まれる発光状態しか、データ部として利用していないのには理由がある。
【0054】
というのも、送信用発光部15は回転移動を行っているため、受信用カメラ21の正面から送信用発光部15が大きく外れる-90°付近や+90°付近では、受信用カメラ21の正面に送信用発光部15が位置する0°付近よりも、回転方向(左右方向)に隣り合う明部の間隔が狭くなる(図5(a),(b)を参照。)。このため、回転角度θが-90°付近にあるときや+90°付近にあるときには、本来はその間に暗部が存在する明部が繋がって見えたりする等して、後述する発光状態読取手段22による発光状態の読み取りに誤りが生じる可能性が大きくなるからである。
【0055】
以上の理由で、回転角度θが-90°付近にあるときや、+90°付近にあるときの発光状態は、データ部に利用しないことが好ましい。より具体的には、データ部に利用するのは、回転角度θが-80°~+80°の範囲内にある発光状態のみを使用することが好ましく、回転角度θが-60°~+60°の範囲内にある発光状態のみを使用することがより好ましく、回転角度θが-45°~+45°の範囲内にある発光状態のみを使用することがさらに好ましい。以下においては、データ部として利用する回転角度θの範囲を、「データ部利用範囲」と呼ぶことがある。
【0056】
ただし、上述したデータ部利用範囲は、送信用発光部15から受信用カメラ21までの距離を離し、受信用カメラ21のレンズに歪の少ない高性能な望遠レンズを使用し、受信用カメラ21の撮像素子として解像度の高いものを使用すること等によって、上述した範囲よりも広くすることも可能である。また、受信用カメラ21を1台のみ設けるのではなく、受信用カメラ21を複数台設けることでも、データ部利用範囲を、上述した範囲よりも広くすることが可能である。特に、複数台の受信用カメラ21を、送信用発光部15を取り囲むように配置すれば、回転角度θが-180°から+180°までの全範囲をデータ部として利用することも可能である。
【0057】
受信用カメラ21を1台のみ設置する場合において、データ部利用範囲の下限は特に限定されないが、データ部利用範囲を狭く設定しすぎると、データの送信効率が低下してしまう。このため、データ部利用範囲は、通常、-5°~+5°の範囲よりも広く設定される。データ部利用範囲は、-10°~+10°の範囲よりも広く設定することが好ましく、-20°~+20°の範囲よりも広く設定することがより好ましく、-25°~+25°の範囲よりも広く設定することがさらに好ましい。
【0058】
本実施態様の可視光通信装置のように、データ部利用範囲に制限を設ける場合には、送信用発光部15の回転角度θがデータ部利用範囲にあるときとガード部として利用する範囲にあるときにのみ、送信用発光部15による送信を行い、それ以外の範囲では、送信用発光部15を消灯状態とすることも好ましい。これにより、データ部をより明確に判別することが可能になる。加えて、送信用発光部15の点灯時間を短くして消費電力を少なく抑えることも可能になる。この構成は、データ部送信工程だけでなく、上記のヘッダ部送信工程でも好適に採用することができる。
【0059】
エンド部送信工程における送信用発光部15の発光パターンは、ヘッダ部送信工程における送信用発光部15の発光パターンと同様、データ部送信工程における送信用発光部15では生じ得ず、データ部送信工程における送信用発光部15の発光パターンと区別できるのであれば、特に限定されない。本実施態様の可視光通信装置では、エンド部送信工程において、送信用発光部15を構成する全ての発光部L1~L9を消灯するようにしているが、これに限定されることとなく、他の発光パターンを採用することもできる。
【0060】
ところで、上述したヘッダ部送信工程を構成する各工程(第一区間点灯工程、第二区間点灯工程及びガード部点灯工程)やエンド部送信工程は、それぞれを1回転ずつ行ってもよいが、それぞれを複数回転ずつ行うことが好ましい。というのも、ヘッダ部送信工程を構成する各工程やエンド部送信工程では、既に述べたように、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9を、それぞれ第一区間のみで点灯(第一区間点灯工程)、第二区間のみで点灯(第二区間点灯工程)、ガード部における1列のみを点灯してその両側の2列を消灯(ガード部点灯工程)、全てを消灯(エンド部送信工程)といった具合に、それと判別しやすい規則性の高い発光パターンを採用しているところ、このような規則性の高い発光パターンが、データ部に複数回転続けて出現することは非常に考えにくい。このため、ヘッダ部送信工程を構成する各工程やエンド部送信工程のそれぞれを複数回転ずつ行うと、ヘッダ部送信工程を構成する各工程やエンド部送信工程をさらに判別しやすくなるからである。
【0061】
本実施態様の可視光通信装置においては、1回転目及び2回転目に第一区間点灯工程を実行し、3回転目及び4回転目に第二区間点灯工程を実行し、5回転目及び6回転目にガード部点灯工程を実行し、7回転目からN回転目(Nは、7以上の整数。)までをデータ部送信工程とし、N+1回転目及びN+2回転目にエンド部送信工程を実行するようにしている。この場合、データ部送信工程は、7回転目からN回転目までの計N-6回転分行われることになる。Nの値は、上述した送信用発光部制御手段14によるデータの分割数が多くなればなるほど多くなる。
【0062】
ここで、7回転目からN回転目までのそれぞれのデータ部の開始直前部と終了直後部には、図6に示すガード部が付加される。それぞれのデータ部の開始直前部と終了直後部に付されたガード部は、受信用カメラ21による撮影で取得されるフレームごとのイメージデータにおけるどの範囲にデータ部が反映されているかを指し示すだけでなく、受信用カメラ21による撮影時に生じた振動等によるブレを補正する際の基準として利用することもできる。また、後述するラベリングを行う際の基準として利用することも可能である。

【0063】
2. 受信側装置
続いて、受信側装置20を構成する各部について説明する。
【0064】
2.1 受信用カメラ
受信用カメラ21は、既に述べたように、送信用発光部15を撮影することによって信号(送信用発光部15が送信した信号)を受信するものとなっている。本実施態様の可視光通信装置において、受信用カメラ21は、図3に示すように、発光状態読取手段22に接続されている。受信用カメラ21が撮影したイメージデータ(フレームごとのイメージデータ)は、発光状態読取手段22でその内容が読み取られるようになっている。
【0065】
受信用カメラ21は、レンズに集められた可視光を撮像素子上で結像させて電気信号に変換できるものであれば、その種類を特に限定されない。受信用カメラ21の撮像素子としては、CMOSやCCD等が例示される。CMOSは、[1]安価である、[2]撮影したイメージデータの読み出しが高速で行える、[3]消費電力が少ない等の利点を有しており、CCDは、[1]解像度の高いイメージデータを取得することができる、[2]移動体の撮影に適している等の利点を有している。本実施態様の可視光通信装置においては、受信用カメラ21として、CMOSを撮像素子としたものを用いている。
【0066】
受信用カメラ21の撮影速度(1秒間当たりの撮影可能フレーム枚数のこと。以下同じ。)は、特に限定されない。受信用カメラ21の撮影速度は、速ければ速いほど、大容量の通信が可能になる。この点、世の中には、撮影速度が数百~数万fpsの高速度カメラが存在し、ハイエンドのものでは200万fpsを超える高速度カメラも存在する。しかし、この種の高速度カメラは非常に高価である。加えて、本発明の可視光通信装置は、受信用カメラ21として高速度カメラを用いなくても大容量の通信が可能になるというメリットを有している。このため、受信用カメラ21の撮影速度は、通常、100fps以下とされる。本発明の可視光通信装置では、受信用カメラ21の撮影速度を、30fps以下や10fps以下としても、大容量通信が可能である。
【0067】
ただし、受信用カメラ21の撮影速度を遅くしすぎてしまうと、本発明の可視光通信装置といえども、大容量通信が難しくなる。このため、受信用カメラ21の撮影速度は、通常、1fps以上とされる。受信用カメラ21の撮影速度は、2fps以上であることが好ましく、3fps以上であることがより好ましい。本実施態様の可視光通信装置において、受信用カメラ21の撮影速度は、5fpsとなっている。
【0068】
ところで、本実施態様の可視光通信装置では、送信用発光部15の回転角度θにおける全範囲の発光状態をデータ部に利用するのではなく、データ部利用範囲に制限を設ける構成を採用していることについては、既に述べた。このように、データ部利用範囲に制限を設ける場合には、送信用発光部15の回転角度θがデータ部利用範囲にあるときとガード部として利用する範囲にあるときにのみ、受信用カメラ21の撮影を行うようにすることが好ましい。これにより、受信用カメラ21がデータ部に利用されない画像を撮影しないようにし(イメージデータを無駄に取得しないようにし)、後述する発光状態読取手段22における画像処理を効率的に行うことが可能になる。
【0069】
2.2 発光状態読取手段
発光状態読取手段22は、受信用カメラ21が撮影した画像(フレームごとのイメージデータ)から、送信用発光部15の発光状態を判別し、送信用発光部15が送信した情報の内容を読み取るものとなっている。発光状態読取手段22は、通常、コンピュータプログラムによって実現される。本実施態様の可視光通信装置においては、図3に示すように、発光状態読取手段22を、ラベリング手段22aと、発光状態判別手段22bと、復号化手段22cとで構成している。
【0070】
ラベリング手段22aは、受信用カメラ21が撮影した1フレーム分のイメージデータから、それぞれの時刻における送信用発光部15の発光状態が反映された発光状態反映箇所(図1(b)における「明部」に相当する箇所。)を特定し、それぞれの発光状態反映箇所にラベリングを行うものとなっている。既に述べたように、本実施態様の可視光通信装置では、送信用発光部15を計9個の発光部L1~L9で構成しているところ、ラベリング手段22aは、そのラベリングをそれぞれの発光部L1~L9ごとに行うようになっている。
【0071】
ラベリング手段22aによるラベリング手法は、特に限定されない。例えば、本実施態様の可視光通信装置では、それぞれのデータ部の開始直前部と終了直後部とにガード部が付加されているところ、このガード部を利用してラベリングを行うことも可能である。すなわち、データ部の開始直前部のガード部における発光部L1に対応する箇所と、データ部の開始直後部のガード部における発光部L1に対応する箇所とを結ぶ線分を、所定の比率で内分する箇所を、特定の時刻における発光部L1の発光状態が反映された箇所と特定するといった具合に、データ部の開始直前部と終了直後部とに付加されたガード部を基準として、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9のそれぞれの時刻における発光状態反映箇所を幾何学的にラベリングしていくことも可能である。
【0072】
しかし、データ部の開始直前部と終了直後部とに付加されたガード部を基準として幾何学的にラベリングしていく手法は、それぞれのデータ部につき、ラベリングを別々に行う必要があるため、ラベリング手段22aによる処理負担が増大するおそれがある。このため、ラベリングは、データ部を送信するよりも前の段階で予め実行しておくことが好ましい。この点、データ部の開始直前部と終了直後部とに付加されたガード部ではなく、ヘッダ送信工程におけるガード部送信工程で送信されるときのガード部を利用すれば、データ部を送信するよりも前の段階でラベリングを実行することが可能になる。しかし、幾何学的手法を用いてラベリングを行う手法は、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9の寸法や配置等に高い精度が要求される。
【0073】
このため、本実施態様の可視光通信装置においては、ガード部を利用することなくラベリングを行うようにしている。すなわち、本実施態様の可視光通信装置では、最初のデータ部を送信するよりも前に、第一区間点灯工程と第二区間点灯工程とを実行するようにしているところ、この第一区間点灯工程と第二区間点灯工程を利用し、以下の手法によりラベリングを行うようにしている。
【0074】
具体的には、第一区間点灯工程では、送信用発光部15が奇数角度区間(第一区間)にあるときにのみ、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9の全てを点灯させるようにしているところ、このときに受信用カメラ21で撮影したイメージデータ(図5(a)を参照。)からは、そのイメージデータにおけるどの明部が、発光部L1~L9のうちのどの発光のどの奇数角度区間(第一区間)に対応するものなのかを判別することができる。また、第二区間点灯工程では、送信用発光部15が偶数角度区間(第二区間)にあるときにのみ、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9の全てを点灯させるようにしているところ、このときに受信用カメラ21で撮影したイメージデータ(図5(b)を参照。)からは、そのイメージデータにおけるどの明部が、発光部L1~L9のうちのどの発光のどの偶数角度区間(第二区間)に対応するものなのかを判別することができる。第一区間点灯工程で撮影したイメージデータの明部のラベリング結果と、第二区間点灯工程で撮影したイメージデータの明部のラベリング結果とを合わせれば、イメージデータにおける必要な全ての箇所にラベリングを行うことができる。
【0075】
ただし、図5(a),(b)のイメージデータには、回転角度θが-90°付近にあるときや+90°付近にあるときの発光状態も含まれており、イメージデータ上で回転方向の一番端にある明部(回転角度θが-90°に最も近い明部や、回転角度θが+90°に最も近い明部)を基準としてラベリングを行うことは容易ではない。このため、イメージデータ上で回転方向の中央部にある明部(回転角度θが0°付近にあるときの明部)を基準とした方が、容易にラベリングを行うことができる。しかし、既に述べたように、送信用発光部15の回転角度θがデータ部利用範囲にあるときとガード部として利用する範囲にあるときにのみ、送信用発光部15による送信を行い、それ以外の範囲では、送信用発光部15を消灯状態とする構成を採用したときには、一番端にある明部を基準とし方が、容易にラベリングを行うことができる。
【0076】
イメージデータ上に表れたそれぞれの明部におけるどの点をラベリングするかは、特に限定されない。しかし、それぞれの明部における端部に近い点にラベリングすると、後述する発光状態判別手段22bが、1つの隣の発光状態を誤って判別するリスクが高くなる。このため、本実施態様の可視光通信装置においては、図7に示すように、それぞれの明部の重心(同図における点Pの位置)をラベリングするようにしている。これにより、上記の誤判別のリスクを低下させることができる。図7は、イメージデータ上のそれぞれの明部にラベリングを行っている様子を示した図である。
【0077】
発光状態判別手段22b(図3)は、イメージデータにおける、ラベリング手段22aによりラベリングされた箇所の発光状態(その箇所において、送信用発光部15を構成する発光部L1~L9が点灯状態にあるのか消灯状態にあるのか)を判別するものとなっている。発光状態判別手段22bによる発光状態の判別手法は、特に限定されないが、本実施態様の可視光通信装置においては、その箇所における明度や輝度が閾値よりも高ければ点灯状態にあると判別し、閾値よりも低ければ消灯状態にあると判別するようにしている。閾値は、イメージデータ上の特定領域における最も明るい箇所の明度等と、最も暗い箇所の明度等の平均値が設定されるようにしている。このほか、大津の二値化のアルゴリズムを利用する等すれば、発光状態をより高い精度で判別することができる。
【0078】
復号化手段22c(図3)は、発光状態判別手段22bによる判別結果とラベリング手段22aによるラベリング結果とに基づいて信号を復号化するものとなっている。すなわち、イメージデータにおけるどの箇所がどの時刻に対応しているのかについては、ラベリング手段22aのラベリング結果から把握することができ、それぞれの箇所の発光状態が点灯状態と消灯状態のいずれにあるかについては、発光状態判別手段22bの判別結果から把握することができるところ、復号化手段22cは、これらの情報を利用して、送信用発光部15が送信した信号を復号化し、その内容を読み取れる状態へと変換するものとなっている。
【0079】
2.3 受信データ出力部
受信データ出力部23(図3)は、上記の復号化手段22cによって復号化された信号を出力する部分となっている。受信データ出力部23としては、モニタ等の表示装置や、スピーカ等の音声出力装置や、無線通信装置や有線通信装置等の通信装置が例示される。受信データ出力部23は、ケーブルを接続するためのケーブルソケットや、メモリを接続するためのメモリソケット等として構成される場合もある。

【0080】
3. 送受信相対移動手段
送受信相対移動手段30は、送信用発光部15と受信用カメラ21とを相対的に移動させるためのものとなっている。このように、送信用発光部15と受信用カメラ21とを相対的に移動させることによって、通信速度が受信用カメラ21の撮影速度に縛られないようにして、通信速度の高速化を図ることが可能になる。
【0081】
本実施態様の可視光通信装置においては、既に述べたように、送受信相対移動手段30は、動かない受信用カメラ21に対して送信用発光部15を移動させるものとなっているが、送受信相対移動手段30によって移動させる対象は、これに限定されない。送受信相対移動手段30は、動かない送信用発光部15に対して受信用カメラ21を移動させるものであってもよいし、送信用発光部15及び受信用カメラ21の双方を異なる速度で移動させるものであってもよい。ただし、可視光通信装置の構造をシンプルにすることを考慮すると、本実施態様の可視光通信装置のように、動かない受信用カメラ21に対して送信用発光部15を移動させた方が有利である。
【0082】
また、送受信相対移動手段30による送信用発光部15又は受信用カメラ21の移動態様も、特に限定されない。送受信相対移動手段30による送信用発光部15又は受信用カメラ21の移動態様としては、回転や、直線動や、揺動や、螺旋動等が例示される。本実施態様の可視光通信装置において、送受信相対移動手段30は、図2に示すように、送信用発光部15を軸線A回りに回転させるものとなっている。
【0083】
具体的には、送受信相対移動手段30を、回転駆動手段31と、第一摩擦車32と、無端ベルト33と、第二摩擦車34と、回転軸部35とで構成している。回転駆動手段31としては、モータ等が用いられる。第一摩擦車32は、回転駆動手段31の出力軸に同軸に固定されている。無端ベルト33は、その一側を第一摩擦車32に掛け回され、その他側を第二摩擦車34に掛け回されている。回転軸部35は、第二摩擦車34に対して同軸に固定されている。この回転軸部35の上部には、送信用発光部15が前面に設けられた筐体35が一体的に固定されている。
【0084】
したがって、回転駆動手段31が駆動されてその出力軸が回転し、第一摩擦車32が回転すると、その回転力が無端ベルト33を介して第二摩擦車34に伝達され、回転軸部35が回転することによって、送信用発光部15が筐体16とともに鉛直軸線A回りに回転するようになっている。ここで、図2に示した送受信相対移動手段30は、飽くまで一例であり、他の構成を採用し得ることは言うまでもない。
【0085】
送受信相対移動手段30による、送信用発光部15と受信用カメラ21との相対的な移動速度は、特に限定されない。しかし、送信用発光部15と受信用カメラ21との相対的な移動速度を遅くしすぎると、1フレーム分のイメージデータに収まる時刻の数が少なくなり、大容量通信が難しくなるおそれがある。その一方で、送信用発光部15と受信用カメラ21との相対的な移動速度を速くしすぎると、送信用発光部15の発光状態をかなり高速で切り替えなければ、異なる時刻の発光状態反映部が大きく重なるようになり、上述したラベリングや、送信用発光部15の発光状態の判別が難しくなるおそれがある。ところが、送信用発光部15の発光状態を高速で切り替えると、受信用カメラ21の解像度によっては、ラベリングや送信用発光部15の発光状態の判別を行うこと自体が難しくなる。
【0086】
したがって、送信用発光部15と受信用カメラ21との相対的な移動速度は、受信用カメラが撮影する1フレーム分のイメージデータ内に、ある時刻における送信用発光部15とそれよりも後の時刻における送信用発光部15とが重ならない状態で収まり、且つ、ラベリングや発光状態の判別が難しくならない範囲でできるだけ高速にすることが好ましい。本実施態様の可視光通信装置のように、送信用発光部15を鉛直軸線L回りに回転させる場合において、送信用発光部15の回転速度は、送信用発光部15の回転半径等によっても異なるが、通常、30~1000rpmの範囲に設定される。本実施態様の可視光通信装置において、送信用発光部15の回転速度は300rpmに設定している。

【0087】
4. 移動量検知手段
移動量検知手段40(図2)は、送信用発光部15又は受信用カメラ21の移動量を検知するためのものとなっている。既に述べたように、本実施態様の可視光通信装置は、送信用発光部15を鉛直軸線L回りに回転させる構造となっているところ、移動量検知手段40は、送信用発光部15の回転角度θを検知するものとなっている。送信用発光部15の回転角度θを検知可能な移動量検知手段40としては、アブソリュートエンコーダやインクリメンタルエンコーダ等のロータリーエンコーダが例示される。
【0088】
上述したように、本実施態様の可視光通信装置では、送信用発光部15の発光状態を、送信用発光部15の回転角度θに応じて切り替える制御を行っているところ、この移動量検知手段40によって回転角度θを検知することで、そのような制御が可能となっている。送信用発光部15の発光状態の切り替えを時間に基づいて行うと、送信用発光部15の回転速度を高い精度で安定化させておかないと、発光状態の読み取りに誤りが生じて、信号を正しく復号化できなくなるおそれがあるところ、本実施態様の可視光通信装置のように、送信用発光部15の発光状態の切り替えを送信用発光部15の回転角度θに基づいて行うことによって、送信用発光部15の回転速度が不安定であっても、発光状態の読み取りに誤りが生じないようにすることが可能になる。

【0089】
5. 実験
本発明の可視光通信装置で実際に大容量通信が可能となるか否かを確かめるため、実験を行った。可視光通信装置は、上で説明した実施態様のものを用いた。具体的には、送信用発光部15は、計9個の発光部L1~L9を上下方向に1列に並べて構成した。それぞれの発光部L1~L9は、発光ダイオードにより構成した。送信用発光部15の回転速度は、300rpmとし、送信用発光部15の発光状態は、送信用発光部15の回転角度θが1°変化するごとに切り替えた。データ部利用範囲は、-30°~+30°とした。また、受信用カメラ21としては、撮像素子がCMOSで、撮影速度Fが5fps、データレートが1.8kbpsのものを用いた。受信用カメラ21のレンズの焦点距離は、35mmとした。可視光通信装置は、室内に設置した。
【0090】
上記の条件のもと、通信距離(送信用発光部15から受信用カメラ21までの距離)を0.5~2mの範囲で変えていき、通信距離に応じてビット誤り率(BER)にどのような変化が生じるのかを調べた。図8は、本発明の可視光通信装置を用いた実験で得られた、通信距離とビット誤り率との関係を示したグラフである。
【0091】
図8の結果を見ると、通信距離が1.5m以下の範囲では、BERが0であり、データを誤りなく復調できることが分かる。実験で用いた本発明の可視光通信装置の通信速度は、約2700bpsであり、カメラを用いた従来の可視光通信装置の通信速度(15~60bps)と比較して、40倍以上であるにもかかわらず、このような良好な結果が得られたことは驚きである。データを誤りなく復調できる通信距離は、受信用カメラ21のレンズに焦点距離が長いものを使用したり、受信用カメラ21として解像度の高いものを用いたりすることによって、さらに長くすることができると考えられる。また、通信速度は、送信用発光部15を構成する発光部の個数を9個よりも増やしたり、送信用発光部15の回転速度を300rpmよりも速くしたり、データ部利用範囲を-30°~+30°よりも広く設定したりすることで、さらに速くすることができる。

【0092】
7. 用途
以上のように、本発明の可視光通信装置は、送信用発光部を少ない数の発光部で構成し、撮影速度が遅い受信用カメラを使用しても、通信速度を速めることができるものとなっている。また、送信用発光部を回転させる構成を採用した場合には、送信機をどの位置から撮影しても通信を行うことも可能である。このように、本発明の可視光通信装置は、非常に優れたものであるため、各種用途で用いることができる。
【0093】
具体的には、現時点で可視光通信装置の実用化が進められている近傍端末間通信や水中通信のほか、すれ違う電車間や自動車間で通信を行うすれ違い通信や、上空を移動するドローンやヘリコプターと地上との通信での使用も期待される。ドローンやヘリコプター等の場合には、その本体に送信用発光部や受信用カメラを設ける態様だけでなく、そのプロペラに送信用発光部や受信用カメラを設ける態様も考えられる。
【0094】
また、本発明の可視光通信装置で用いる移動体は、上記の電車やドローンのように、その本体自身が移動するものである必要はなく、その本体は移動しなくてもその付属物が移動するものであってもよい。本体が移動しなくてもその付属物が移動する例としては、パトランプや灯台等の回転灯や、風力発電装置の回転羽根等が例示される。本発明の可視光通信装置は、移動機構を備えた各種のもので採用することができる。また、移動機構を有していなくても、発光部分を移動させながら表示することができるものに本発明の可視光通信装置を組み込むこともできる。発光部分を移動させながら表示することができるものとしては、ディスプレイが例示される。本発明の可視光通信装置は、二次元的な表示を行うディスプレイだけでなく、立体ディスプレイや、三次元ホログラムディスプレイでの使用可能性もある。
【符号の説明】
【0095】
10 送信側装置
11 送信データ記憶部
12 送信データ変調手段
14 送信用発光部制御手段
15 送信用発光部
16 筐体
20 受信側装置
21 受信用カメラ
22 発光状態読取手段
22a ラベリング手段
22b 発光状態判別手段
22c 復号化手段
23 受信データ出力部
30 送受信相対移動手段
31 回転駆動手段
32 第一摩擦車
33 無端ベルト
34 第二摩擦車
35 回転軸部
40 移動量検知手段
L1~L9 発光部(送信用発光部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8