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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】敗血症の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/42 20060101AFI20230217BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
A61K33/42
A61P31/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019523987
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2018021966
(87)【国際公開番号】W WO2018225848
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017114647
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502124248
【氏名又は名称】リジェンティス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100107799
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 希子
(72)【発明者】
【氏名】柴 肇一
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 厚史
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】川添 祐美
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第01154079(GB,A)
【文献】国際公開第01/000048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/42
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均リン酸重合度が2乃至30の短鎖ポリリン酸及びその塩、平均リン酸重合度が2乃至30のメタリン酸及びその塩、平均リン酸重合度が100乃至150の長鎖ポリリン酸及びその塩、及び平均リン酸重合度が100乃至150のメタリン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種の縮合リン酸又はその塩を有効成分として含む、敗血症の治療用組成物。
【請求項2】
治療用組成物が注射剤又は輸液の形態であり、縮合リン酸又はその塩が、リン酸モノマー単位でのモル数に換算して0.01乃至0.4mmol/kg-体重/日となる量で使用される、請求項1に記載の敗血症の治療用組成物。
【請求項3】
縮合リン酸又はその塩が、平均リン酸重合度が2乃至30の短鎖ポリリン酸及びその塩、及び平均リン酸重合度が100乃至150の長鎖ポリリン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の敗血症の治療用組成物。
【請求項4】
その塩がナトリウム塩である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の敗血症の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症の予防又は治療用組成物、敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用、及び敗血症の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染症、肝硬変、腎不全、糖尿病、異常分娩といったような疾病や、留置カテーテル又は輸液器具を用いた処置や、人工透析、気管切開といったような処置が原因となって、細菌感染巣から絶えず又は断続的に細菌が血液に侵入する重症全身性感染症である。敗血症は、広く微生物による宿主の侵襲に限定されるものではなく、感染症の臨床的症状、つまり、(1)体温が38℃超又は36℃未満;(2)1分あたりの心拍数が90拍超;(3)1分あたりの呼吸数が20呼吸数超又は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)<32mmHg;及び(4)白血球数が12,000/μl超若しくは4,000/μl未満、又は桿状核好中球が10%超のうちの2項目以上を満たす病態と定義されている。最近では、このような症状を示す病態は、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome:SIRS)と呼ばれている(非特許文献1)。さらに、敗血症は、臓器機能障害、低潅流あるいは低血圧を合併する重症敗血症、乳酸性アシドーシス、乏尿、意識障害を合併する敗血症性ショックなどをも包含する(非特許文献2)。そして、病態は、重症敗血症、敗血症ショックから、播種性血管内凝固症候群(DIC)、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、多臓器機能障害(MODS)へと進行する。
【0003】
このような敗血症の原因菌として、ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ及びエンテロバクター等が挙げられる。これらの細菌の感染により、高熱、悪寒、頻脈又は強い全身症状が表れ、しばしば、動・静脈血、髄液、骨髄液中に感染菌が確認されるようになる。近年では、各種の強力な抗生物質が開発されたため、これらの菌を原因とした敗血症は少なくなってきている。しかし、MRSAを代表とする、耐性遺伝子を獲得した新たな病原菌による敗血症が増加してきている。また、留置カテーテルや輸液器具を用いた処置、あるいは人工透析、気管切開等の侵襲的処置や手術の汎用を反映して、敗血症の発生は大病院ほど増加する傾向にある。更に、感染に対して抵抗力の弱い新生児、高齢者、造血器腫瘍患者での、及び副腎皮質ホルモンや抗癌剤が投与され、免疫力が低下している患者での、敗血症の発症頻度が増加してきている。このような背景の下、敗血症は、医療の進歩とは裏腹に増加し続けている。
【0004】
敗血症の予防又は治療方法として、現在のところ、原因菌を検出し且つその抗生物質感受性を測定してから、原因菌に対して最適な抗生物質を投与するとともに、補液、電解質補正、低タンパク血症の改善、栄養の補給、γ-グロブリンの投与といったような、宿主の防衛力を強化する方法が知られている(非特許文献3)。また、不幸にしてショックにおちいった場合は、外科手術による病巣の除去、循環障害の改善、オプソニン活性化物質の投与、副腎皮質ホルモンの投与、合成プロテアーゼ阻害剤の投与といった処置がなされている。しかしながら、基礎疾患の症状と敗血症の症状がオーバーラップしているために、明確な診断がなされにくく、敗血症の予防又は治療に困難をきたすこともしばしばある。さらに、敗血症性ショックにおちいった場合には、その治療は困難である。このように、敗血症は、現在においても高い死亡率を示す重篤な疾患である。
【0005】
敗血症の死亡率は、10乃至20%台から50%まで、報告により異なる。敗血症性ショックは、敗血症症例の40%に合併し、ショック例の予後は不良であり、77乃至90%の死亡率との報告もある(非特許文献4)。それゆえ、敗血症性ショックの予防が、疾患治療の第一目標になり、特に、ショックの初期段階に起こる変化を把握して当該ショックの発生を早期に診断することが出来れば、当該ショックの早期治療が可能となり、予後の改善が期待できる。しかし、これまで、多くの有効と考えられる抗ショック薬や治療法の臨床効果が検討されてきたが、有効と判定されるものはほとんどなかった。
【0006】
敗血症は、感染刺激(菌自体、エンドトキシンやペプチドグリカン/タイコ酸複合体の細胞壁成分及び外毒素等に起因するもの)により、単球、マクロファージ、血管内皮細胞等から過剰に産生される腫瘍壊死因子(TNF)や、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)及びインターロイキン8(IL-8)等の炎症性サイトカインが原因で発症すると考えられてきた。具体的には、次のとおりである。過剰に産生された炎症性サイトカインにより、エイコサノイドや血小板活性化因子の脂質メディエーターも放出され、それらの相互作用によってサイトカインネットワークが活性化され、炎症反応が増幅する。この過程で、補体系、凝固系、キニン系、副腎皮質刺激ホルモン/エンドルフィン系も活性化され、血管内皮障害を基礎病態とする全身性の炎症反応が惹起される。特に、循環障害や組織障害の発現には、顆粒球由来のエラスターゼや活性酸素の関与が指摘されている(非特許文献4)。
【0007】
これまで、炎症性サイトカインを阻害するような物質の投与に代表される、炎症性サイトカイン抑制療法の臨床治験が数多く行われてきた。しかし、それらは全くの失敗に終わっている(非特許文献5、非特許文献6)。その失敗の理由について、Boneは、生体においてある作用が働くときには同時に必ず反作用が働き、両者がバランスを取ることで生体内の恒常性が保たれているからではないか、と指摘した(非特許文献7)。事実、外科手術や重症急性膵炎では、炎症性サイトカインとともに抗炎症性サイトカインや炎症性サイトカイン阻害物質が誘導されることが知られており(非特許文献8)、この抗炎症性サイトカインの誘導が強すぎれば、免疫抑制からアネルジーを呈するか易感染性となる。この抗炎症性サイトカイン優位の状態は、代償性抗炎症性反応症候群(Compensatory anti-inflammatory response syndrome;CARS)と呼ばれ、SIRSと共に、敗血症における臓器不全の発症に関与している。つまり、敗血症の病態には二面性があり、治療には炎症性サイトカイン反応と抗炎症性サイトカイン反応の両者を制御することが重要である。したがって、炎症性サイトカインの阻害療法等の、反応の一方のみを抑える治療では、効果は発揮されなかったと考えられる。
【0008】
集中治療はこの20年間に進歩したが、先に述べたように、敗血症の死亡率は依然として高いままであり、効果的な治療薬もほとんど無い。その理由は、敗血症の病態が未だ完全には理解されていないことにあると思われる(非特許文献9)。また、治験薬候補物質の非臨床的な動物実験において、実験的敗血症誘発前に薬物の投与を行って治療薬の効果を検討してきたことも、効果的な治療薬を見出せていない一因となっていると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Crit. Care Med., 20:864-874, 1992
【文献】Chest, 101:1644-1655, 1992
【文献】勝 正孝、Encyclopedia of medical science, 37:263-265, 1984
【文献】敗血症の新しい展開、3-8頁、医学ジャーナル社、1998
【文献】Lancet, 351:929-933
【文献】JAMA, 271:1836-1843, 1994
【文献】Crit. Care Med., 24:1125-1128, 1996
【文献】集中治療、10:815-822, 1998
【文献】Natl. J. Med., 55:132-141, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、敗血症及び敗血症に伴われる諸症状の病態は、未だ十分に解明されておらず、そのため、予防・治療薬の開発を含む、敗血症及び敗血症に伴われる諸症状の予防や治療も十分には実現されていない。敗血症及び敗血症に伴われる諸症状に対して効果的に働く、予防又は治療薬の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ってきた。その結果、縮合リン酸又はその塩が、敗血症及び敗血症に伴われる諸症状の予防及び治療効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。なお、以下に示す好適例の任意の組合せも、本発明である。
【0012】
即ち、本発明は、縮合リン酸又はその塩を有効成分として含む敗血症の予防又は治療用組成物に関する。「敗血症の予防」という用語は、敗血症のみならず、敗血症に伴って現れる諸症状の予防を含み、「敗血症の治療」という用語は、敗血症のみならず、敗血症に伴って現れる諸症状の治療を含む。
【0013】
前記縮合リン酸又はその塩は、ポリリン酸、メタリン酸若しくはウルトラリン酸、又はそれらのいずれかの塩であることが好ましく、ポリリン酸又はその塩であることがさらに好ましい。
【0014】
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度は、PO3 を単位として、2乃至1,500であることが好ましく、20乃至1,000であることがより好ましく、40乃至500であることがさらに好ましく、50乃至200程度であることが最も好ましい。
【0015】
また、本発明は、敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための、上記の縮合リン酸又はその塩の使用に関する。
【0016】
本発明は、敗血症の発症リスクのある患者に、上記の本発明に係る敗血症の予防又は治療用組成物を投与することを含む、敗血症の予防方法に関する。また、本発明は、敗血症を発症した患者に、上記の本発明に係る敗血症の予防又は治療用組成物を投与することを含む、敗血症の治療方法に関する。
【0017】
本発明の敗血症の予防又は治療用組成物の剤形は、例えば、注射剤、輸液及び経口剤である。成人の患者の場合、1日当たり、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、注射剤や輸液の場合には、体重1kgあたり0.01乃至100mmol程度投与し、経口剤の場合には、体重1kgあたり0.1mmol乃至1mol程度投与する。より詳細には、敗血症の予防に注射剤又は輸液の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.001乃至1mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、0.005乃至0.8mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至0.2mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。敗血症の予防に経口剤の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.005乃至50mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至20mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、0.05乃至10mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。
【0018】
敗血症の治療に注射剤又は輸液の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.001乃至10mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、0.005乃至2mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至0.4mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。敗血症の治療に経口剤の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.01乃至100mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.02乃至40mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、0.05乃至20mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。敗血症の治療は、敗血症性ショックに陥っていない患者に対して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、敗血症及び敗血症に伴われる諸症状を、効果的に予防することができ且つ治療することができる。そのため、敗血症性ショックの予防を疾患治療の第一目標とする必要がなくなり、敗血症の裏に隠れている本来の疾患の治療に、力を注ぐことができるようになる。
【0020】
また、本発明により、敗血症の死亡率が低下するとともに、予後の改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、敗血症性ショックモデルにおける長鎖ポリリン酸Naの事前(発症前)投与の効果を示すグラフである。
図2図2は、敗血症性ショックモデルにおける短鎖ポリリン酸Naの事前(発症前)及び事後(発症後)投与の効果を示すグラフである。
図3図3は、敗血症性ショックモデルにおける長鎖ポリリン酸Naの事後(発症後)投与の、長鎖ポリリン酸Naの量の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0023】
本発明の敗血症の予防又は治療用組成物は、縮合リン酸又はその塩を有効成分として含む。縮合リン酸又はその塩は、溶液中において、溶媒和物、例えば水和物となっていてもよい。
【0024】
「縮合リン酸」とは、2個以上のリン酸(PO)四面体が酸素原子を共有するポリマー又はそのオキソ酸を意味する。「縮合リン酸」には、直鎖状構造を有する「ポリリン酸」、環状構造又は極めて長い直鎖状構造を有する「メタリン酸」、高度な枝分かれ状(網目状)構造を有する「ウルトラリン酸」が包含される。
【0025】
さらに、「ポリリン酸」は、その平均リン酸重合度(鎖長)により「長鎖ポリリン酸」、「中鎖ポリリン酸」、「短鎖ポリリン酸」に分けられ、それぞれの鎖長によって生物における機能が異なる。また、ポリリン酸には、分割ポリリン酸と呼称される、狭い分子量(重合度)分布を有するものもある。
【0026】
「長鎖ポリリン酸」の平均リン酸重合度は、PO3 を単位として概ね100以上であり、「中鎖ポリリン酸」の平均リン酸重合度は、PO3 を単位として30乃至100程度であり、「短鎖ポリリン酸」の平均リン酸重合度は、PO3 を単位として2乃至30程度である。
【0027】
「縮合リン酸の塩」は、縮合リン酸の医薬として許容され得る塩を意味している。塩は、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。また、塩は、無水塩のみならず含水塩をも含む。縮合リン酸の塩は、例えば、水溶液中で電離して縮合リン酸と同様に機能する。
【0028】
縮合リン酸中、ポリリン酸は、HO[-POH-]Hのように表すことができる。また、ポリリン酸は、Hn+2(PO3n+1)と表わされる場合もある。メタリン酸の塩は、Mn+2(PO3n+1)、又は(MPOのように表現されることもある。ここで、Mは、アルカリ金属塩である。
【0029】
「直鎖構造のポリリン酸又はその塩」の例としては、重合度(n)が2のピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、n=3のトリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、n=4のテトラポリリン酸、テトラポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸カリウムが挙げられる。また、高重合度の「メタリン酸又はその塩」の例としては、メタリン酸、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウムが挙げられる。
【0030】
本発明では、縮合リン酸又はその塩の中で、ポリリン酸又はその塩が好ましく、ポリリン酸の塩がさらに好ましく、中でも、平均リン酸重合度が2乃至1,500のものが好ましく、20乃至1,000のものがより好ましく、40乃至500のものがさらに好ましく、50乃至200程度のものが最も好ましい。
【0031】
本発明の敗血症の予防又は治療用組成物は、有効成分として縮合リン酸又はその塩を含むものである。当該組成物は、有効成分のほかに、医薬組成物に使用することが許されている担体や賦形剤等の添加剤であって、縮合リン酸又はその塩の薬効や保存安定性に影響を与えないものを含むことができる。また、本発明の敗血症の予防又は治療用組成物は、縮合リン酸又はその塩の薬効や保存安定性に影響を与えない限りにおいて、敗血症の予防や治療に使用される他の医薬(例えば、抗生物質、抗菌物質、抗エンドトキシン抗体、抗サイトカイン薬)や、敗血症に伴われる疾患の予防や治療に使用される他の医薬(例えば、ステロイド、蛋白分解酵素阻害剤)も含むことができる。
【0032】
本発明によれば、縮合リン酸又はその塩を使用して、公知の調剤技術により、敗血症の予防又は治療用組成物を製造することができる。本発明の敗血症の予防又は治療用組成物は、粉末、顆粒、細粒等の固体であることができ、そのような場合には、そのまま経口剤として使用してもよいし、生理食塩水や緩衝溶液等に溶解して、注射剤や輸液として使用してもよい。また、本発明の敗血症の予防又は治療用組成物は、縮合リン酸又はその塩の水性溶液の形態でも提供され得、それは、例えば、経口液剤、注射剤又は輸液として使用される。
【0033】
縮合リン酸又はその塩の患者への投与量は、患者の年齢、体重、投与方法、病態等に応じて適宜選択される。成人の患者の場合、1日当たり、有効成分、具体的には縮合リン酸又はその塩を、リン酸モノマー(1残基)単位でのモル数に換算して、例えば、注射剤や輸液の場合には、体重1kgあたり0.01乃至100mmol程度投与し、経口剤の場合には、体重1kgあたり0.1mmol乃至1mol程度投与する。より詳細には、次のような量で投与する。
(1) 敗血症の予防に注射剤又は輸液の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、0.001乃至1mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、0.005乃至0.8mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至0.2mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。
(2) 敗血症の予防に経口剤の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、0.005乃至50mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至20mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、0.05乃至10mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。
(3) 敗血症の治療に注射剤又は輸液の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、0.001乃至10mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、0.005乃至2mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.01乃至0.4mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。
(4) 敗血症の治療に経口剤の剤形の本発明の組成物を投与する場合には、0.01乃至100mmol/kg-体重/日となる量であることが好ましく、効果及び安全性の顕著性の観点から、0.02乃至40mmol/kg-体重/日となる量であることがさらに好ましく、0.05乃至20mmol/kg-体重/日となる量であることが特に好ましい。
【0034】
敗血症の治療は、敗血症性ショックに陥っていない患者に対して行うことが好ましい。
【実施例
【0035】
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明が以下の実施例のみに限定されないことは、いうまでもない。
【0036】
[実施例1] リポ多糖(LPS)投与による敗血症性ショックモデルにおける長鎖ポリリン酸Naの事前投与による生存率の改善
【0037】
大腸菌O111:B4株由来のリポ多糖(LPS、シグマアルドリッチ社製)を用いて敗血症性ショックモデルを作製し、長鎖ポリリン酸Na(平均リン酸重合度:約150、重合度の分布:80乃至200、リジェンティス株式会社製)の事前投与による影響を調べた。
【0038】
(1)実験方法
LPSを生理食塩水に溶解し、適切な濃度でLPSを含有する生理食塩水溶液を調製した。また、長鎖ポリリン酸Naを生理食塩水に溶解し、適切な濃度で長鎖ポリリン酸Naを含有する生理食塩水溶液を調製した。
【0039】
実施例1では、8週齢の雄のddY系マウスの尾静脈内に、長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を、長鎖ポリリン酸Naが表1に示す量となるような量で投与し、その1時間後に、LPSの生理食塩水溶液を、LPSが表1に示す量となるような量で投与した。比較例1では、事前投与を生理食塩水としたこと以外は、実施例1と同様の投与を行った。その後、7日目まで、通常条件にて飼育を行い、各群の生存率を比較した。
【0040】
【表1】
【0041】
(2)結果
図1から明らかなように、比較例1、即ち、生理食塩水投与1時間後にLPSの生理食塩水溶液を投与した群では、LPS投与1日後で生存率が73%(15匹中3匹死亡)となり、2日後、3日後と次第に生存率が低下し、最終的に4日後で生存率20%(15匹中12匹死亡)となった。
【0042】
一方、実施例1の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間前に、長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群では、LPS投与1日後における生存率は80%(15匹中3匹死亡)であり、2日後で生存率73%(15匹中4匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。
【0043】
この結果から、LPSが引き起こす敗血症性ショック(エンドトキシンショック)による死亡率が、長鎖ポリリン酸Naの事前投与により大幅に改善されることが分かった。
【0044】
[実施例2] リポ多糖(LPS)投与による敗血症性ショックモデルにおける短鎖ポリリン酸Naの事前投与及び事後投与による延命効果
【0045】
大腸菌O111:B4株由来のリポポリサッカリド(LPS、シグマアルドリッチ社製)を用いて敗血症性ショックモデルを作製し、短鎖ポリリン酸Na(平均リン酸重合度:約15、重合度の分布:7乃至30、リジェンティス株式会社製)の事前投与及び事後投与による影響を調べた。
【0046】
(1)実験方法
LPSを生理食塩水に溶解し、適切な濃度でLPSを含有する生理食塩水溶液を調製した。また、短鎖ポリリン酸Naを生理食塩水に溶解し、適切な濃度で短鎖ポリリン酸Naを含有する生理食塩水溶液を調製した。
【0047】
実施例2-1では、8週齢の雄のddY系マウスの尾静脈内に、短鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を、短鎖ポリリン酸Naが表2に示す量となるような量で投与し、その1時間後に、LPSの生理食塩水溶液を、LPSが表2に示す量となるような量で投与した。実施例2-2では、8週齢の雄のddY系マウスの尾静脈内に、初めにLPSの生理食塩水溶液を、LPSが表2に示す量となるような量で投与し、その1時間後に、短鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を、短鎖ポリリン酸Naが表2に示す量となるような量で投与した。比較例2では、事前投与を生理食塩水としたこと以外は、実施例2-1と同様の投与を行った。その後、7日目まで、通常条件にて飼育を行い、各群の生存率を比較した。
【0048】
【表2】
【0049】
(2)結果
図2から明らかなように、比較例2、即ち、生理食塩水投与1時間後にLPSの生理食塩水溶液を投与した群では、LPS投与1日後で生存率が71%(14匹中4匹死亡)となり、2日後で生存率50%(14匹中7匹死亡)となった。
【0050】
一方、実施例2-1の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間前に、短鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群(短鎖ポリリン酸Naの事前投与群)では、LPS投与1日後における生存率は100%であり、2日後で生存率78%(9匹中2匹死亡)、3日後で生存率44%(9匹中5匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。また、実施例2-2の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間後に、短鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群(短鎖ポリリン酸Naの事後投与群)では、LPS投与1日後における生存率は100%であり、2日後で生存率89%(9匹中1匹死亡)、3日後で生存率67%(9匹中3匹死亡)、4日後で生存率56%(9匹中4匹死亡)、5日後で生存率44%(9匹中5匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。
【0051】
この実験では、LPSが引き起こす敗血症性ショック(エンドトキシンショック)において、短鎖ポリリン酸Naを事前投与又は事後投与することによる死亡率の低下効果は特にみられなかったが、延命効果は認められ、特に事後投与においてその効果が高いことが明らかとなった。
【0052】
[実施例3] リポ多糖(LPS)投与による敗血症性ショックモデルにおける、長鎖ポリリン酸Naの事後投与時の投与量別の効果
【0053】
大腸菌O111:B4株由来のリポポリサッカリド(LPS、シグマアルドリッチ社製)を用いて敗血症性ショックモデルを作製し、長鎖ポリリン酸Na(平均リン酸重合度:約150、重合度の分布:80乃至200;リジェンティス株式会社製)の事後投与における投与量の影響を調べた。
【0054】
(1)実験方法
LPSを生理食塩水に溶解し、適切な濃度でLPSを含有する生理食塩水溶液を調製した。また、長鎖ポリリン酸Naを生理食塩水に溶解し、それぞれ適切な濃度で長鎖ポリリン酸Naを含有する生理食塩水溶液三種を調製した。
【0055】
実施例3-1乃至3-3では、8週齢の雄のddY系マウスの尾静脈内に、初めにLPSの生理食塩水溶液を、LPSが表3に示す量となるような量で投与し、その1時間後に、それぞれ濃度が異なる長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を、長鎖ポリリン酸Naがそれぞれ表3に示す量となるような量で投与した。比較例3では、8週齢の雄のddY系マウスの尾静脈内に、初めに生理食塩水を投与し、その1時間後に、LPSの生理食塩水溶液を、LPSが表3に示す量となるような量で投与した。その後、7日目まで、通常条件にて飼育を行い、各群の生存率を比較した。
【0056】
【表3】
【0057】
(2)結果
図3から明らかなように、比較例3、即ち、生理食塩水投与1時間後にLPSの生理食塩水溶液を投与した群では、LPS投与1日後で生存率が67%(9匹中3匹死亡)となり、2日後で生存率44%(9匹中5匹死亡)、3日後で生存率33%(9匹中6匹死亡)となった。
【0058】
一方、実施例3-1の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間後に、0.01mmol/kg-マウス体重となるように長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群(0.01mmol/kg-マウス体重の長鎖ポリリン酸Naの事後投与群)では、LPS投与1日後における生存率は100%であり、2日後で生存率78%(9匹中2匹死亡)、3日後で生存率67%(9匹中3匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。また、実施例3-2の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間後に、0.1mmol/kg-マウス体重となるように長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群(0.1mmol/kg-マウス体重の長鎖ポリリン酸Naの事後投与群)では、LPS投与1日後における生存率は100%であり、2日後で生存率89%(9匹中1匹死亡)、3日後で生存率78%(9匹中2匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。また、実施例3-3の、LPSの生理食塩水溶液投与の1時間後に、1mmol/kg-マウス体重となるように長鎖ポリリン酸Naの生理食塩水溶液を投与した群(1mmol/kg-マウス体重の長鎖ポリリン酸Naの事後投与群)では、LPS投与1日後で生存率が44%(9匹中5匹死亡)となり、2日後で生存率33%(9匹中6匹死亡)となったが、それ以降は生存率が低下することなく7日後まで推移した。
【0059】
この結果から、LPSが引き起こす敗血症性ショック(エンドトキシンショック)において、0.01mmol/kg-マウス体重乃至0.1mmol/kg-マウス体重となるように長鎖ポリリン酸Naを事後投与した場合に、死亡率の低下効果並びに延命効果が認められたが、1mmol/kg-マウス体重となるように長鎖ポリリン酸を投与した場合では、これらの効果がみられなかっただけでなく、比較例3と比べても、LPS投与後の死亡率が高くなった。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
縮合リン酸又はその塩を有効成分として含む敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様2)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として2乃至1,500である、態様1に記載の敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様3)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として20乃至1,000である、態様1に記載の敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様4)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として40乃至500である、態様1に記載の敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様5)
前記縮合リン酸又はその塩が、ポリリン酸、メタリン酸若しくはウルトラリン酸又はその塩である、態様1乃至4のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様6)
前記縮合リン酸又はその塩が、ポリリン酸又はその塩である、態様1乃至4のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物。
(態様7)
敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様8)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として2乃至1,500である、態様7に記載の敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様9)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として20乃至1,000である、態様7に記載の敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様10)
前記縮合リン酸又はその塩の平均リン酸重合度が、PO 3 を単位として40乃至500である、態様7に記載の敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様11)
前記縮合リン酸又はその塩が、ポリリン酸、メタリン酸若しくはウルトラリン酸又はその塩である、態様7乃至10のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様12)
前記縮合リン酸又はその塩が、ポリリン酸又はその塩である、態様7乃至10のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物の製造のための縮合リン酸又はその塩の使用。
(態様13)
敗血症の発症リスクのある患者に、態様1乃至6のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物を投与することを含む、敗血症の予防方法。
(態様14)
前記敗血症の予防又は治療用組成物が注射剤又は輸液であって、その1日投与量が、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.01乃至100mmol/kg-体重/日である、態様13に記載の敗血症の予防方法。
(態様15)
前記敗血症の予防又は治療用組成物が経口剤であって、その1日投与量が、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.1mmol乃至1mol/kg-体重/日である、態様13に記載の敗血症の予防方法。
(態様16)
敗血症を発症した患者に、態様1乃至6のいずれか一項に記載の敗血症の予防又は治療用組成物を投与することを含む、敗血症の治療方法。
(態様17)
前記敗血症の予防又は治療用組成物が注射剤又は輸液であって、その1日投与量が、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.01乃至100mmol/kg-体重/日である、態様16に記載の敗血症の治療方法。
(態様18)
前記敗血症の予防又は治療用組成物が経口剤であって、その1日投与量が、縮合リン酸又はその塩のリン酸モノマー単位でのモル数に換算して、0.1mmol乃至1mol/kg-体重/日である、態様16に記載の敗血症の治療方法。
(態様19)
敗血症を発症した患者が、敗血症性ショックに陥っていない患者である、態様16乃至18のいずれか一項に記載の敗血症の治療方法。
図1
図2
図3