(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】電圧調整装置、電圧調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/16 20060101AFI20230217BHJP
H02J 3/18 20060101ALI20230217BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
H02J3/16
H02J3/18 121
H02J13/00 311R
H02J13/00 301B
H02J13/00 311U
(21)【出願番号】P 2020058161
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019069571
(32)【優先日】2019-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電気学会、電気学会研究会資料、2019年9月19日、第43頁から第47頁、「遠隔電圧制御装置(RVC)を用いた太陽光発電用PCSによる連系点電圧制御」
(73)【特許権者】
【識別番号】521535711
【氏名又は名称】株式会社EEMS
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 信行
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-232736(JP,A)
【文献】特開2015-211480(JP,A)
【文献】特開平08-280136(JP,A)
【文献】特開2017-055619(JP,A)
【文献】特開2016-182021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/16
H02J 3/18
H02J 3/38
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備の出力電圧を調整する電圧調整装置であって、
前記発電設備の出力を調整するパワーコンディショナに対して、通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令部
と、
前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して出力の制御指令を出す遠隔出力指令部と、
前記パワーコンディショナに対して、系統電圧の測定値である測定電圧値が基準電圧値に対して所定の範囲内に収まっていれば前記遠隔出力指令部から指令を与えないとする不感帯の範囲を指令する不感帯指令部と、
前記測定電圧値が、前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定部とを備え、
前記遠隔力率指令部は、前記不感帯の範囲に入っている間にも前記パワーコンディショナに対して指令を与える、電圧調整装置。
【請求項2】
前記パワーコンディショナに対して、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定部をさらに備え、
前記優先制御判定部は、前記測定電圧値及び前記基準電圧値の大小関係に基づいて、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する、請求項
1記載の電圧調整装置。
【請求項3】
前記基準電圧値を商用電圧の移動平均により算出するための移動平均期間の指令を与える移動平均指令部をさらに備え、
前記移動平均指令部は、前記移動平均期間を30秒以内とする指令を出す、請求項
1又は2記載の電圧調整装置。
【請求項4】
複数の前記パワーコンディショナに対して指令を与えるものであり、
複数の前記発電設備の発電効率を算出する発電効率算出部と、
複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較部とをさらに備え、
前記遠隔力率指令部は、前記発電効率が高い前記発電設備を調整する前記パワーコンディショナに対して優先的に力率を上げる指令を出す、請求項
1から3のいずれかに記載の電圧調整装置。
【請求項5】
発電設備の出力電圧を調整する電圧調整装置を用いた電圧調整方法であって、
前記電圧調整装置は
、
前記発電設備の出力を調整するパワーコンディショナに対して、通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令部
と、
前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して出力の制御指令を出す遠隔出力指令部と、
前記パワーコンディショナに対して、系統電圧の測定値である測定電圧値が基準電圧値に対して所定の範囲内に収まっていれば前記遠隔出力指令部から指令を与えないとする不感帯の範囲を指令する不感帯指令部と、
前記測定電圧値が、前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定部とを備え、
前記不感帯指令部が、前記パワーコンディショナに対して、前記不感帯の範囲を指令する不感帯指令ステップと、
前記不感帯判定部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定ステップと、
前記遠隔力率指令部が、前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令ステップ
と、
前記遠隔出力指令部が、前記パワーコンディショナに対して出力の制御指令を出す遠隔出力指令ステップとを含み、
前記遠隔力率指令ステップにおいて、前記遠隔力率指令部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲外にある場合にも前記力率の制御指令を出し、
前記遠隔出力指令ステップにおいて、前記遠隔出力指令部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲外にある場合のみ前記出力の制御指令を出す、電圧調整方法。
【請求項6】
前記電圧調整装置は、前記パワーコンディショナに対して、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定部をさらに備え、
前記優先制御判定部が、系統電圧の測定値である測定電圧値及び基準電圧値の大小関係に基づいて、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定ステップをさらに含む、請求項
5記載の電圧調整方法。
【請求項7】
前記電圧調整装置は、前記基準電圧値を商用電圧の移動平均により算出するための移動平均期間の指令を与える移動平均指令部をさらに備え、
前記不感帯判定ステップの前に、前記移動平均指令部が、前記移動平均期間を30秒以内とする指令を出す起動平均期間指令ステップをさらに含む、請求項
6記載の電圧調整方法。
【請求項8】
前記電圧調整装置は、
複数の前記パワーコンディショナに対して指令を与えるものであり、
複数の前記発電設備の発電効率を算出する発電効率算出部と、
複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較部とをさらに備え、
前記遠隔力率指令ステップの前に、
前記発電効率算出部が、複数の前記発電設備の前記発電効率を算出する発電効率算出ステップと、
前記発電効率比較部が、前記複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較ステップとをさらに含み、
前記遠隔力率指令ステップにおいて、前記遠隔力率指令部が、前記発電効率が高い前記発電設備を調整する前記パワーコンディショナに対して優先的に力率を上げる指令を出す、請求項
5から7のいずれかに記載の電圧調整方法。
【請求項9】
コンピュータに請求項
5から8のいずれかに記載の電圧調整方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧調整装置、電圧調整方法及びプログラムに関し、特に、発電設備の出力電圧を調整する電圧調整装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力会社は、太陽光発電業者への基本的な要請として、調相設備(SVC;static var compensator;静止型無効電力補償装置)を受電点ごとに設置する方針としていた(非特許文献1参照)。これは、太陽光発電設備の出力の変動が系統側に影響を与えないための方針であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】金澤一伸氏、「無効電力補償装置(SVC)のご紹介」、電気設備学会誌、2013年5月発行、Vol.33、No.5、p.341-342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、受電点ごとに電圧調整設備を設置することは、数億円規模(1億円/MVar)の多大なコストを要することとなり、発電業者に多大な負担を強いることとなっていた。
【0005】
そこで、本発明は、発電業者のコストを大幅に削減することを可能とする電圧調整装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、発電設備の出力電圧を調整する電圧調整装置であって、前記発電設備の出力を調整するパワーコンディショナに対して、通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令部を備える、電圧調整装置である。
【0007】
本発明の第2の観点は、第1の観点の電圧調整装置であって、前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して出力の制御指令を出す遠隔出力指令部をさらに備える。
【0008】
本発明の第3の観点は、第2の観点の電圧調整装置であって、前記パワーコンディショナに対して、系統電圧の測定値である測定電圧値が基準電圧値に対して所定の範囲内に収まっていれば前記遠隔出力指令部から指令を与えないとする不感帯の範囲を指令する不感帯指令部と、前記測定電圧値が、前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定部とをさらに備え、前記遠隔力率指令部は、前記不感帯の範囲に入っている間にも前記パワーコンディショナに対して指令を与える。
【0009】
本発明の第4の観点は、第3の観点の電圧調整装置であって、前記パワーコンディショナに対して、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定部をさらに備え、前記優先制御判定部は、前記測定電圧値及び前記基準電圧値の大小関係に基づいて、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する。
【0010】
本発明の第5の観点は、第3又は第4の観点の電圧調整装置であって、前記基準電圧値を商用電圧の移動平均により算出するための移動平均期間の指令を与える移動平均指令部をさらに備え、前記移動平均指令部は、前記移動平均期間を30秒以内とする指令を出す。
【0011】
本発明の第6の観点は、第1から第5のいずれかの観点の電圧調整装置であって、複数の前記パワーコンディショナに対して指令を与えるものであり、複数の前記発電設備の発電効率を算出する発電効率算出部と、複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較部とをさらに備え、前記遠隔力率指令部は、前記発電効率が高い前記発電設備を調整する前記パワーコンディショナに対して優先的に力率を上げる指令を出す。
【0012】
本発明の第7の観点は、発電設備の出力電圧を調整する電圧調整装置を用いた電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、前記発電設備の出力を調整するパワーコンディショナに対して、通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令部を備え、前記遠隔力率指令部が、前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して力率の制御指令を出す遠隔力率指令ステップを含む、電圧調整方法である。
【0013】
本発明の第8の観点は、第7の観点の電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、前記パワーコンディショナに対して、前記通信回線を経由して出力の制御指令を出す遠隔出力指令部をさらに備え、前記遠隔出力指令部が、前記パワーコンディショナに対して出力の制御指令を出す遠隔出力指令ステップをさらに含む。
【0014】
本発明の第9の観点は、第8の観点の電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、前記パワーコンディショナに対して、系統電圧の測定値である測定電圧値が基準電圧値に対して所定の範囲内に収まっていれば前記遠隔出力指令部から指令を与えないとする不感帯の範囲を指令する不感帯指令部と、前記測定電圧値が、前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定部とをさらに備え、前記遠隔力率指令ステップの前に、前記不感帯指令部が、前記パワーコンディショナに対して、前記不感帯の範囲を指令する不感帯指令ステップと、前記不感帯判定部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲に入っているか否かを判定する不感帯判定ステップとをさらに含み、前記遠隔力率指令ステップにおいて、前記遠隔力率指令部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲外にある場合にも前記力率の制御指令を出し、前記遠隔出力指令ステップにおいて、前記遠隔出力指令部が、前記測定電圧値が前記不感帯の範囲外にある場合のみ前記出力の制御指令を出す。
【0015】
本発明の第10の観点は、第8又は第9の観点の電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、前記パワーコンディショナに対して、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定部をさらに備え、前記優先制御判定部が、系統電圧の測定値である測定電圧値及び基準電圧値の大小関係に基づいて、力率及び出力のいずれの制御を優先するかを判定する優先制御判定ステップをさらに含む。
【0016】
本発明の第11の観点は、第9の観点の電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、前記基準電圧値を商用電圧の移動平均により算出するための移動平均期間の指令を与える移動平均指令部をさらに備え、前記不感帯判定ステップの前に、前記移動平均指令部が、前記移動平均期間を30秒以内とする指令を出す起動平均期間指令ステップをさらに含む。
【0017】
本発明の第12の観点は、第7から第11のいずれかの観点の電圧調整方法であって、前記電圧調整装置は、複数の前記パワーコンディショナに対して指令を与えるものであり、複数の前記発電設備の発電効率を算出する発電効率算出部と、複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較部とをさらに備え、前記遠隔力率指令ステップの前に、前記発電効率算出部が、複数の前記発電設備の前記発電効率を算出する発電効率算出ステップと前記発電効率比較部が、前記複数の前記発電設備の前記発電効率を比較する発電効率比較ステップとをさらに含み、前記遠隔力率指令ステップにおいて、前記遠隔力率指令部が、前記発電効率が高い前記発電設備を調整する前記パワーコンディショナに対して優先的に力率を上げる指令を出す。
【0018】
本発明の第13の観点は、コンピュータに第7から第12のいずれかの観点の電圧調整方法を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の各観点によれば、電圧調整装置からパワコン等に指令を出すことにより、受電点ごとに調相設備を設置せずともよくなる。結果として、本発明に係る電圧調整装置を設置するのに要する数千万円程度の費用で済み、1/10程度にコストを大幅に削減することが可能となる。
【0020】
従来、パワコンは「定格電圧の~%の出力にせよ」との指令を与えられており、時々刻々の太陽電池の出力に応じて出力を変化させていた。電力会社からの要請を満たすためには出力電圧を基準に調整することが必要であった。本発明は、パワコンにおいて特に力率を調整させることにより有効電力を高めて売電価格を少しでも高くすることに想到したものである。
【0021】
本発明の第3又は第8の観点によれば、有効電力に極力影響を与えずに電圧を制御することが可能となる。特に、電力会社からの要請上は問題ない不感帯に入っている間にも、力率を調整させることにより有効電力を高めて売電価格を少しでも高くすることが可能となる。
【0022】
本発明の第4又は第9の観点によれば、できるだけ発電設備の出力を落とすことなく、測定電圧値を不感帯の範囲内に収めることを容易となる。したがって、発電設備の発電効率と系統への影響低減を両立させることがさらに容易となる。
【0023】
本発明の第5又は第10の観点によれば、商用電圧の移動平均に追従することにより、電力会社からの要請に応じることが容易となる。通常、30分ごとのようにゆっくりとした移動平均期間を設定することでハンチングを避けることが可能となるが、30秒以内のように短い移動平均期間とすることにより、電力会社が何らかの理由で夜間に電圧を変更した場合であっても、速やかに追随することがさらに容易となる。
【0024】
本発明の第6又は第12の観点によれば、発電設備の発電効率と系統への影響低減を両立させることがさらに容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本願発明の実施例に係る電圧調整装置11を含む太陽光発電所1の構成例の概要を示す図である。
【
図2】電圧調整装置11の動作の一例を示すフロー図である。
【
図3】基準電圧値とPQ制御との関係を示す図である。
【
図4】電圧調整装置11がパワーコンディショナ5を制御するツール画面の一例を示す図である。
【
図5】電圧調整装置11の電圧自動制御フローの一例を示すフロー図である。
【
図6】スケジュール運転モードにおける基準電圧指定の一例を示す図である。
【
図7】本発明の電圧調整装置11を用いた電圧制御実績を示す図である。
【
図8】
図7の電圧制御をさらに改善した電圧制御実績を示す図である。
【
図9】
図7の電圧制御を行った結果を示す図である。
【
図10】
図8の電圧制御を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
図1は、本願発明の実施例に係る電圧調整装置11(本願請求項における「電圧調整装置」の一例である)を含む太陽光発電所1の構成例の概要を示す図である。
【0028】
太陽光発電所1は、太陽電池モジュール3と、パワーコンディショナ(PCS)5(本願請求項における「パワーコンディショナ」の一例である)と、変圧器7と、受変電設備9と、電圧調整装置11を備える。太陽電池モジュール3は、太陽光を受けて発電する。パワーコンディショナ5は、太陽電池モジュール3から出力された直流を交流に変換するとともに出力を制御する。変圧器7は、パワーコンディショナ5からの出力電圧を、系統に合致した電圧へと変換する。受変電設備9は、高電圧を市街地で安全に送電できる電圧に変電し、また、一般家庭等で利用できるように受電する。受変電設備9が有するマルチメーター10は、各種計測を行う。
【0029】
電圧調整装置11(以下、RVC装置)は、太陽光発電所1の電力系統連系電圧の最適化制御を行う。具体的には、電圧調整装置11は、インターネット13(本願請求項における「通信回路」の一例である)を経由してパワーコンディショナ(PCS)5を制御することにより、太陽光発電所1と電力系統の連携点の近くの電圧の最適化制御を行う。電圧調整装置1は、データ収集部15と、共有メモリ17と、PCS指令部19とを備える。PCS指令部19は、演算部21と、遠隔力率指令部23(本願請求項における「遠隔力率指令部」の一例である)と、遠隔出力指令部25(本願請求項における「遠隔出力指令部」の一例である)と、不感帯指令部27(本願請求項における「不感帯指令部」の一例である)と、移動平均指令部29(本願請求項における「移動平均指令部」の一例である)と、不感帯判定部31(本願請求項における「不感帯判定部」の一例である)と、優先制御判定部33(本願請求項における「優先制御判定部」の一例である)と、発電効率算出部(本願請求項における「発電効率算出部」の一例である)と、発電効率比較部(本願請求項における「発電効率比較部」の一例である)とを有する。データ収集部は、マルチメータ10等からデータを収集する。共有メモリ17は、各種データを記憶する。PCS指令部19は、パワーコンディショナ5に指令を出す。演算部21は、演算を行う。遠隔力率指令部23は、パワーコンディショナ5に対して力率の制御指令を出す。遠隔出力指令部25は、パワーコンディショナ5に対して出力の制御指令を出す。不感帯指令部27は、パワーコンディショナ5に対して不感帯の範囲について指令を出す。移動平均指令部29は、基準電圧や計測電圧の移動平均期間について指令を出す。不感帯判定部31は、計測電圧が不感帯に入っているか否か判定する。優先制御判定部33は、力率及び出力のいずれの制御を優先するか判定する。発電効率算出部は、複数の発電設備の発電効率を算出する。発電効率比較部は、発電効率算出部が算出した複数の発電設備の発電効率を比較する。
【0030】
図2は、電圧調整装置11の動作(本願請求項における「電圧調整方法」の一例である)の一例を示すフロー図である。
図2を参照して、電圧調整装置11の動作について述べる。電圧調整装置11は、マルチメーター10が測定した現在電圧値(本願請求項における「測定電圧値」の一例である)を受信する。また、データ収集部が、周期的にマルチメーター10と通信し、リアルタイムに電力系統連系の電圧値、電流値、電力量、周波数、力率等のデータを取得する(データ取得ステップS01)。データ収集部は、取得したデータを共有メモリに保存する(データ保存ステップS02)。PCS指令部は、各パワーコンディショナ5と通信し、各パワーコンディショナ5に対して、遠隔力率指令部が力率の設定値変更の指令を出し、又は、遠隔出力指令部が出力の設定値変更の指令を出す(PCS指令ステップS03;)。
【0031】
PCS指令ステップS03において、PCS指令部は、メモリに保存されている過去一定期間内の電圧値の平均値(移動平均電圧値)を演算し、それを基準電圧値(本願請求項における「基準電圧値」の一例である)とする。
【0032】
図3は、基準電圧値とPQ制御との関係を示す図である。現在電圧(電力系統連系電圧)と基準電圧との間に許容される偏差値の範囲が存在する。電圧調整装置11は、現在電圧が偏差値の許容範囲内にあるときは出力制御しない。この許容される偏差値の範囲を「不感帯」(本願請求項における「不感帯」の一例である)と称し、
図3において基準電圧値のプラスマイナスα%の範囲であるC領域として示されている。
【0033】
図3において、PCS指令部は、基準電圧値のプラスマイナスβ%以内であれば、Q制御(力率制御)のみを行う。また、基準電圧値のプラスマイナスβ%を超えると、P制御(出力制御)及びQ制御を行う。ただし、不感帯の範囲内にあるときも、PCS指令部は、力率100%を目標値とし、最適化処理を行う。
【0034】
不感帯は、インターネットなど経由で電圧調整装置11のツール画面からあらかじめ調整できる。
図4は、電圧調整装置11がパワーコンディショナ5を制御するツール画面の一例を示す図である。
図4における「許可電圧範囲」において、不感帯を設定することが可能である。また、表1にパラメータ設定の一例を示す。
【0035】
【0036】
また、電圧調整装置11は、電圧制御方向を判断し、演算部が制御量を計算した上で、パワーコンディショナ5に対して力率又は出力の変更指令を出す。降圧の場合は、力率制御優先とし、力率が-80%となるまでは力率制御を優先する。他方、力率が-80%となると、出力制御優先に切り替える。昇圧の場合は、出力制御優先とし、出力が100%となるまでは出力制御を優先する。他方、出力が100%となると、力率制御に切り替える。
【0037】
次に、
図5を用いて電圧調整装置11の電圧自動制御処理について述べる。
図5は、電圧調整装置11の電圧自動制御フローの一例を示すフロー図である。まず、測定電圧値が不感帯の範囲内であるか否かを判定する。不感帯の範囲外であれば、電圧調整装置11は、スケジュール運転モード又は商用電圧追従モードにより電圧の制御を行う。また、いずれの運転モードであっても、不感帯に入ってからも力率の最適化処理を行う。
【0038】
図6は、スケジュール運転モードにおける基準電圧指定の一例を示す図である。この運転モードでは、電圧調整装置11は、あらかじめ与えられた基準電圧のスケジュール(運転パターン)に従い、電圧自動制御を行う。電圧調整装置11は、常にシステムの現在時刻を確認し、該当時刻での電圧指定値を基準電圧とし、電圧制御処理を行う。スケジュール運転モードでは、24時間の基準電圧を設定でき、かつ、季節により自動的に切り替えることも可能である。
【0039】
また、商用電圧追従運転モードでは、演算部が、基準電圧値を商用電圧の移動平均により算出する。ここで、移動平均期間としては1秒と設定する。通常、ハンチングを避けるためには30分程度の長めの移動平均期間を設定するが、電力会社の要請に応じるためには高速に追随することが有効であるためである。また、測定電圧値と基準電圧値の差を算出する。測定電圧値が不感帯から外れた場合、差の符号(大小関係)に基づいて電圧の制御方向を判定する。それから、電圧調整装置11は、パワーコンディショナ5の現在の力率と出力値を取得し、電圧の制御方向に基づいて、力率と出力の制御優先を判断し、パワーコンディショナ5に対して、力率又は/及び出力の制御指令を出す。測定電圧値が不感帯に入るまで、この制御処理を繰り返す。
【0040】
続いて、電圧調整装置11からパワーコンディショナ5への電圧制御指令について述べる。指令方式には少なくとも2つある。1つ目が、相対偏差電圧指示方式と呼ぶものであり、電圧調整装置11は、中心値(基準電圧値)に対する偏差値(%)をパワーコンディショナ5に与える。パワーコンディショナ5は、不感帯に近づくように電圧の昇降をPQ制御が許可されている範囲で制御する。
【0041】
2つ目の指令方式が、直接指示方式と呼ぶものであり、電圧調整装置11は、直接的にP制御(有効電力制御)及びQ制御(無効電力制御)の具体値の指令をパワーコンディショナ5に与える。パワーコンディショナ5は、可能な範囲で指令がなくなるまでP制御及びQ制御を行う。
【0042】
以下、
図7及び
図8を参照して、具体的な制御について述べる。
図7は、本発明の電圧調整装置11を用いた電圧制御実績を示す図である。
図8は、
図7の電圧制御をさらに改善した電圧制御実績を示す図である。いずれにおいても、横軸はP(出力[MW])を表し、縦軸はQ(力率[%])を表す。
【0043】
図7を参照して、太陽光発電所に対して本発明の電圧調整装置(RVC)を適用した。太陽光発電所は、定格出力が5.94MW(力率1の場合)であり、実験した日は、定格の67.3%に当たる4.0MWの出力が得られる日射量であった。
【0044】
最適化施行条件は次の通りとした。最適化施行時間間隔は、RVC施行時間間隔の3倍とした。例えば、RVCの時間間隔3秒に対して、最適化の時間間隔を9秒とした。また、不感帯を基準電圧値のプラスマイナス0.3%とした。パワコンの力率+80%はLEAD側(電圧に対して電流の位相が進む側)であり、-80%はLAG側(電圧に対して電流の位相が遅れる側)である。
【0045】
さらに、RVCで電圧を抑制した後に最適化する場合の制御手順を下記の通りとした。
手順1:有効電力100%以下、又は、力率1.0~0.8(力率下限値、LAG側)の範囲にあることを確認する。
手順2:現在の測定電圧値が移動平均電圧と不感帯下限電圧の間の値であることを確認する。
【0046】
手順3:(有効電力をカットしている場合は)まず有効電力を100%の方向に調整し、その後力率1.0の方向へ調整して最適化を図る。
上記のように、不感帯の間に入っているにもかかわらず、力率の最適化を図る点に本発明における技術的思想の特徴がある。
【0047】
以下、
図7の最適化ステップについて述べる。まず、力率制御として、力率100%から―80%まで5%×4回の制御を行った(ステップ5-1)。続いて、P制御として、出力100%から78%まで1%ごと制御を行った(ステップ5-2)。次に、P最適制御として、出力78%から100%まで1%ごと制御を行った(ステップ5-3)。最後に、力率最適制御として、-80%から100%まで1%ごと制御を行って完了する(ステップ5-4)。
【0048】
次に、
図8の最適化ステップについて述べる。まず、力率制御として、ステップ5-1と同様の制御を行った(ステップ6-1)。次に、力率-80%に到達後、P制御として、出力100%ではなく出力80%から50%まで制御を行った(ステップ6-2)。出力変化のステップは3%ごととし、時間間隔は3秒として様子をみた。次に、P最適制御として、出力100%まで戻した(ステップ6-3)。出力変化のステップは3%ごととし、時間間隔は9秒として様子をみた。最後に、力率最適制御として、力率をプラスマイナス0.8から1に戻して完了する(ステップ6-4)。力率変化のステップは5%ごととし、時間間隔は9秒として様子をみた。
【0049】
【0050】
図9を参照して、長期的にみると、測定電圧値がほぼ基準電圧値付近(不感帯の範囲内)に収まっており、よく制御されていることが読み取れる。しかし、測定電圧値が平均電圧から大きく外れた後に、不感帯に入るまでに時間がかかりすぎる点が課題といえた。
【0051】
これに対して、
図10においては、長期的にみると、同じくほぼ基準電圧値付近(不感帯の範囲内)に収まっており、よく制御されていることが読み取れる。加えて、マルチメーター10で測定された測定電圧値が平均電圧から大きく外れた後も、不感帯に入るまでの時間が短縮されている。これは、移動平均(120秒)時間より早く不感帯に落ち着くことで、最適化処理が可能となっている。
【0052】
なお、電圧調整装置がパワーコンディショナに対して指令を出す際に、インターネット以外の通信回線を経由して指令を出すものであってもよい。
【0053】
また、遠隔力率指令部が力率の指令を出す前に、発電効率算出部が、複数の前記発電設備の発電効率を算出し、発電効率比較部が、発電効率を比較してもよい。この場合、遠隔力率指令部が、発電効率が高い発電設備を調整するパワーコンディショナに対して優先的に力率を上げる指令を出すこととしてもよい。これにより、発電設備の発電効率と系統への影響低減を両立させることがさらに容易となる。
【0054】
さらに、移動平均期間は、電力会社の要請に応えることができる範囲で、1秒よりも長くしてもよいし、逆に短い時間としてもよい。
【0055】
さらに、本実施例の電圧調整装置が、二次電池と連携するものであってもよい。例えば、
図3のE領域において、太陽電池の出力制御及び力率制御により不感帯に入らずさらに昇圧したい場合に、P制御を補うものとして二次電池に蓄電された電力を出力するものであってもよい。二次電池としては、ナトリウムイオン電池(NAS電池)、レドックス・フロー電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池等を用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1;太陽光発電所、3;太陽電池モジュール、5;パワーコンディショナ、7;変圧器、9;受変電設備、11;電圧調整装置、13;インターネット、15;データ収集部、17;共有メモリ、19;PCS指令部、21;演算部、23;遠隔力率指令部、25;遠隔出力指令部、27;不感帯指令部、29;移動平均指令部、31;不感帯判定部、33;優先制御判定部