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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】過熱蒸気生成利用システム
(51)【国際特許分類】
   F22G 1/16 20060101AFI20230217BHJP
   F22G 5/12 20060101ALI20230217BHJP
   F22B 1/28 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
F22G1/16
F22G5/12 Z
F22B1/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021115269
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2023011427
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】391061646
【氏名又は名称】株式会社流機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-014203(JP,A)
【文献】特開2005-037081(JP,A)
【文献】特開2017-223407(JP,A)
【文献】特開2011-239754(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0124279(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0106901(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0273760(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22G 1/16
F22G 5/12
F22B 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を圧送する供給手段と、
供給された前記液体を加熱して加熱液を生成する第一加熱器と、
生成した前記加熱液を内部に噴霧し、発生したミストが内部を移動する過程で前記ミストを再加熱して過熱蒸気を生成する第二加熱器と、
生成した前記過熱蒸気を吐出して対象物を加熱処理する過熱蒸気利用装置と、
前記第一加熱器に供給する液体の量を調節する供給量調節手段と、
前記第二加熱器の内部に噴霧されたミストの加熱温度を調節する第二加熱器制御手段と、
前記過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力を調節する吐出圧力調節手段と、
を有し、
前記第二加熱器は、
下部にミストを噴霧するノズルと、上部に過熱蒸気を排出する排気口と、内部に加熱手段を備えた加熱筒を有し、
前記加熱筒の内部に噴霧されたミストが筒内を上昇する過程で、前記加熱手段によって加熱されて過熱蒸気となる構成とされたことを特徴とする過熱蒸気生成利用システム。
【請求項2】
前記供給手段は、前記液体の蒸気圧以上の圧力で前記第一加熱器に前記液体を供給するポンプである請求項1記載の過熱蒸気生成利用システム。
【請求項3】
前記第一加熱器の後部、または前記第一加熱器から前記第二加熱器に至る経路に設けられ、前記加熱液の温度を計測する加熱液計測器と、
前記加熱液計測器で計測した温度に基づき、前記第一加熱器の加熱手段の温度を制御する第一加熱器制御手段と、を有する請求項1または2記載の過熱蒸気生成利用システム。
【請求項4】
前記第二加熱器の後部、または前記第二加熱器から後段の機器に至る経路に設けられ、前記過熱蒸気の温度を計測する過熱蒸気計測器を有し、
前記第二加熱器制御手段は、前記過熱蒸気計測器で計測した温度に基づき、前記第二加熱器の加熱手段の温度を制御する請求項1~3のいずれか1項に記載の過熱蒸気生成利用システム。
【請求項5】
前記第一加熱器は、
蛇行させて段状に配置した加熱管と、
各段の前記加熱管の内部にそれぞれ配置され、前記加熱管の一端側から他端側へ向かって延在するカートリッジヒータと、
を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の過熱蒸気生成利用システム。
【請求項6】
前記第二加熱器は、予熱用加熱エアを供給する供給口と、前記予熱用加熱エアを排出する排出口を有し、
前記過熱蒸気生成利用システムは、
前記第二加熱器の後部、または前記第二加熱器から後段の機器に至る経路に設けられ、前記予熱用加熱エアの温度を計測する予熱用加熱エア計測器と、
前記予熱用加熱エア計測器で計測された前記予熱用加熱エアの温度が、予め定められた前記第二加熱器の内部に噴霧されるミストの温度よりも高くなった時点で、前記予熱用加熱エアの供給を停止する制御手段と、を有する請求項1~のいずれか1項に記載の過熱蒸気生成利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過熱蒸気を生成し、生成した過熱蒸気を利用するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
過熱蒸気は飽和蒸気(乾き飽和蒸気)をさらに加熱した高温の蒸気であり、空気よりも約8倍高い熱量を有し、熱伝導特性に優れており、加熱・乾燥・殺菌・加水分解などの処理に用いられている。
【0003】
本発明はこのような過熱蒸気を生成する装置(以下、「過熱蒸気生成装置」という)と、生成した過熱蒸気を利用する装置(以下、「過熱蒸気利用装置」という)を含む過熱蒸気生成利用システムに係るものであり、関連する先行技術としては下記特許文献1~3に開示された発明がある。
【0004】
特許文献1に係る装置は、市水線に接続し供給水量を制御できる流量制御ユニットと、電気ヒータを内蔵した飽和蒸気発生装置と、電気ヒータを内蔵した過熱蒸気発生装置と、過熱蒸気温度計測手段とを有している。そして、過熱蒸気発生装置の前段に設置する飽和蒸気発生装置に供給される水量と過熱蒸気発生装置出口温度を計測し、飽和蒸気発生装置に供給する水量と飽和蒸気発生装置と過熱蒸気発生装置に供給する電力量を制御信号で制御する。このような制御を行うことにより、正確に制御された流量と温度の過熱蒸気を安定して供給することができるという効果が示されている。
【0005】
特許文献2に係る装置は、水蒸気が接触する加熱金属体を誘導コイルによって誘導加熱して、前記加熱金属体に接触する水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置であって、前記誘導コイルに接続される交流電源の周波数が50Hz又は60Hzであり、 前記加熱金属体における前記誘導コイル側を向く誘導コイル側面と前記水蒸気と接触する水蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下である。そして、前記加熱金属体により加熱される過熱水蒸気の温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるようにフィードバック制御する温度制御部が備えられており、前記温度制御部は、目標温度及び目標蒸気発生量に応じてPID定数を設定する。このような装置は、誘導コイル側面と蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下の加熱金属体に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加するので、PID制御のPID定数の設定だけに頼ることなく、過熱水蒸気の温度を高速応答で高精度に制御することができるという効果が示されている。
【0006】
特許文献3に係る過熱蒸気発生装置では、一次加熱室の加熱管に供給された水が、ボイラ部においてガスバーナで加熱されて水蒸気となり、次いで過熱蒸気発生部においてヒータで加熱されて過熱蒸気となる。この過熱蒸気のうち、微細な蒸気粒子のみが気水分離室を通過し、二次加熱室で所望の温度に再加熱されて処理室に送られ、 処理対象に必要な処理を施す。処理室には、必要に応じて空気供給装置又はガス供給装置から圧縮空気,窒素,炭酸ガスのいずれかが供給される。このとき、加熱管の出力側と処理室内部に設けられた温度センサの検知結果に基づいて、温度制御部がヒータを制御することによって、高精度な温度制御が可能となる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-065870号公報
【文献】特開2016-176613号公報
【文献】再公表特許WO2004/005798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで従来の過熱蒸気生成利用システム100の一例を図4に示す。
このシステム100は、液体Fを加熱して蒸気STを生成するボイラ110と、前記ボイラ110で生成した蒸気STを加熱して過熱蒸気SSを生成する加熱器120と、前記加熱器120で生成した過熱蒸気SSをノズル131から吐出して処理対象物BJを加熱する過熱蒸気利用装置130を有する。この過熱蒸気生成利用システム100において、ボイラ110と加熱器120を含む部分(過熱蒸気利用装置130を除く部分)を過熱蒸気生成装置150という。ボイラ110と加熱器120は、内部を蒸気STが流れる管140によって接続されており、加熱器120と過熱蒸気生成装置130は、内部を過熱蒸気SSが流れる管141によって接続されている。
【0009】
またボイラ100内には液体Fが貯留されており、この液体Fを液体F内に設置した加熱手段111によって加熱する構造になっている。また蒸気STの生成によって液体Fが少なくなると、空焚きを防ぐために液体注入口(図示しない)から新たな液体Fが注入される。
【0010】
以上に例示したような従来の過熱蒸気生成利用システム100においては、過熱蒸気生成装置150で生成する過熱蒸気量、過熱蒸気利用装置130の内部に過熱蒸気SSを吐出する圧力、過熱蒸気利用装置130の内部に吐出する過熱蒸気SSの温度は互いに影響し合う関係にある。
【0011】
例えば、ボイラ110内の液体F(例えば水。以下の説明では水を例示して説明する。)の蒸発量が最終的に生成される過熱蒸気量と同じになる。そしてこのボイラ110内の水Fの蒸発量は、過熱蒸気利用装置130内に過熱蒸気SSを吐出する圧力(以下、「吐出圧力」ともいう)によって左右される。詳しくは、吐出圧力が高くなるとボイラ110の水Fの蒸発量が(すなわち過熱蒸気量も)少なくなり、吐出圧力が低くなるとボイラ110の水Fの蒸発量が(すなわち過熱蒸気量も)多くなる。また過熱蒸気SSの温度を上げると嵩が増えるため吐出圧力が高くなり、反対に過熱蒸気SSの温度を下げると嵩が減るため吐出圧力が低くなる。
【0012】
このように従来の過熱蒸気生成利用システム100において、生成される過熱蒸気SSの量、過熱蒸気利用装置130内に過熱蒸気SSを吐出する圧力、および過熱蒸気利用装置130内に吐出する過熱蒸気SSの温度は互いに影響し合う関係にあり、いずれかのパラメータを変えると他のパラメータも変わるため、すべてのパラメータを所望の値に設定することが難しく、調整が難しいという問題がある。
【0013】
また、前述のようにボイラ110内の水Fの蒸発が進むとボイラ110内の水Fが少なくなって空焚きする可能性があるため、新たな水Fをボイラ100内に注ぎ入れる必要がある。この新たな水Fの温度は一般的に20度前後で冷たく、注入した水Fを再度沸騰させるまでに時間がかかるため、一時的に、ボイラ100内の水Fの蒸発量が(すなわち過熱蒸気量も)少なくなり、過熱蒸気SSの温度が低下し、吐出圧力が低くなるという問題がある。
【0014】
この問題を早く解決するために、ボイラ110内に設置した加熱手段111の温度を高くして蒸発量を増やす方法が考えられるが、ボイラ110の水Fの蒸発量が所望の値に戻った後にボイラ110内の加熱手段111の温度の昇温を止めようとしても、加熱手段111の温度やボイラ110内の水Fの温度の昇温はすぐに止まらないため、今度はボイラ110内の水Fが加熱されすぎて、過熱蒸気SSの温度が高くなりすぎるおそれがある。過熱蒸気SSの温度が高くなると、自動的に吐出圧力が高くなる。そして、吐出圧力が高くなると、ボイラの蒸発量が少なくなる。このようにボイラ110を用いる過熱蒸気生成利用システム100は、過熱蒸気の温度、過熱蒸気量、および吐出圧力が密接に関連しており、それぞれを独自に制御することが難しいという問題がある。
【0015】
ボイラ110を主体する装置は、上記の問題のほかに、立ち上がり時間が長くなりやすいという問題もある。システム100の構成が複雑なものになりやすいため、イニシャルコストが高くなる傾向にあり、取り扱いが難しいという問題もある。さらにシステム100の全体が大型化しやすいという問題もある。
【0016】
過熱蒸気生成装置150として、高周波方式、誘導加熱方式、電気ヒータ方式等が知られているが、いずれの方式においてもボイラ110を主体とする装置が多いのが現状である。
【0017】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、過熱蒸気生成装置で生成する過熱蒸気量、過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力、過熱蒸気利用装置内に吐出する過熱蒸気の温度をそれぞれ独立して調節することができ、任意の条件に精度よく設定することができる過熱蒸気生成利用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
(第1の態様)
液体を圧送する供給手段と、
供給された前記液体を加熱して加熱液を生成する第一加熱器と、
生成した前記加熱液を内部に噴霧し、発生したミストが内部を移動する過程で前記ミストを再加熱して過熱蒸気を生成する第二加熱器と、
生成した前記過熱蒸気を吐出して対象物を加熱処理する過熱蒸気利用装置と、
前記第一加熱器に供給する液体の量を調節する供給量調節手段と、
前記第二加熱器の内部に噴霧されたミストの加熱温度を調節する第二加熱器制御手段と、
前記過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力を調節する吐出圧力調節手段と、
を有することを特徴とする過熱蒸気生成利用システム。
【0019】
(作用効果)
本態様の過熱蒸気生成利用システムによれば、過熱蒸気生成装置で生成する過熱蒸気量、過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力、過熱蒸気利用装置内に吐出する過熱蒸気の温度をそれぞれ独立して調節することができ、任意の条件に精度よく設定することができる。
【0020】
(過熱蒸気量の制御について)
例えば、過熱蒸気生成装置で生成する過熱蒸気量を多くしたい場合は、供給量調節手段によって第一加熱器に供給される液体の量を増やすことにより、第二加熱器内に噴霧されるミスト量が多くなり、最終的に生成する過熱蒸気量を増やすことができる。過熱蒸気の生成量を減らしたい場合は、反対に第一加熱器に供給する液体の量を少なくすればよい。
【0021】
前述したように、図4に示すような従来のボイラ式の過熱蒸気生成装置では、ボイラ内に設けた加熱手段の制御によって過熱蒸気量を増減させていたが、過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力の影響を受けて、ボイラ内の水の蒸発量が増減し、結果として過熱蒸気の生成量も増減していた。
【0022】
しかし、本態様の第一加熱器では、ボイラのように液体を蒸発させて蒸気を生成するのではなく、加熱液を生成し、その第一加熱器で生成した加熱液を第二加熱器内に噴霧する形態にしたため、過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力(吐出圧力)が増減したとしても、最終的な過熱蒸気の生成量にはほとんど影響がない。
【0023】
詳しくは、吐出圧力調節手段によって過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力が増減すると、少なからずその影響を受けて、第二加熱器の内部の圧力も増減する(吐出圧力と第二加熱器内の圧力はほぼ同じ圧力になる)。しかし、本態様は第一加熱器で沸騰を抑えつつ液体を加熱して加熱液を生成するものであるため、第二加熱器内の圧力よりも、第一加熱器から第二加熱器内に加熱液を供給する圧力の方が圧倒的に高くなっている。例えば、第一加熱器から第二加熱器内に加熱液を供給する圧力を3~4MPa程度とすることができ、第二加熱器内の圧力を0.12~0.13MPa程度とすることができる。その結果、吐出圧力を増減させたとしても、その吐出圧力の変動は過熱蒸気の生成量にほとんど影響を及ぼさなくなる(微差の範囲内になる)。そのため本態様では、供給量調節手段で液体の供給量を調節するだけで、容易に精度高く過熱蒸気の生成量のみを増減させることができる。
【0024】
(過熱蒸気の吐出圧力の制御について)
吐出圧力調節手段によって、過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力を増減させることができる。この吐出圧力調節手段は、例えば、過熱蒸気利用装置の前段部分または過熱蒸気利用装置自体に設けることができる。吐出量調整手段としては、例えば過熱蒸気の流量を調節するバルブ(例えば電磁バルブや手動バルブ)、オリフィス、排気絞りなどを用いることができる。
【0025】
前述したように、図4に示すような従来のボイラ式の過熱蒸気生成利用システム100では、管140、141による圧力損失が若干生じるものの、過熱蒸気利用装置130の内部に過熱蒸気SSを吐出する圧力と、加熱器120内の圧力と、ボイラ110内の圧力はほぼ同じであった。そのため、例えばボイラ110に注水された水を再度沸騰させるときにボイラ110内の圧力が変わると、それに伴って過熱蒸気SSを吐出する圧力が変化してしまうという問題があった。
【0026】
また、この従来のボイラ式の過熱蒸気生成利用システム100に対して、仮に本態様のような吐出圧力調節手段を設けて吐出圧力を増減させたとしても、別の問題がある。すなわち、前述したように、従来のボイラ式の過熱蒸気生成利用システム100では、吐出圧力、過熱蒸気温度および過熱蒸気量が密接に関連しているため、過熱蒸気温度や過熱蒸気量に影響を与えずに、吐出圧力だけを任意の値に調節することが困難であるという問題がある。
【0027】
本態様では、吐出圧力調節手段を設けることによって、吐出圧力を容易に増減させることができるようにした。それとともに、吐出圧力を変化させたとしても、過熱蒸気量や過熱蒸気温度に影響を与えないようにした。
【0028】
すなわち、本態様の第一加熱器では、ボイラのように液体を蒸発させて蒸気を生成するのではなく、加熱液を生成し、その第一加熱器で生成した加熱液を第二加熱器内に噴霧する形態にしたため、吐出圧力調節手段によって過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力を増減させたとしても、最終的な過熱蒸気の生成量にはほとんど影響がない。
【0029】
詳しくは、吐出圧力調節手段によって過熱蒸気利用装置内に過熱蒸気を吐出する圧力が増減すると、少なからずその影響を受けて、第二加熱器の内部の圧力も増減する(吐出圧力と第二加熱器内の圧力はほぼ同じ圧力になる)。しかし、本態様は第一加熱器で沸騰を抑えつつ液体を加熱して加熱液を生成するものであるため、第二加熱器内の圧力よりも、第一加熱器から第二加熱器内に加熱液を供給する圧力の方が圧倒的に高くなっている。そのため、吐出圧力を増減させたとしても、その吐出圧力の変動は過熱蒸気の生成量にほとんど影響を及ぼさない。すなわち、吐出圧力の増減にほとんど影響を受けず、過熱蒸気生成量は供給量調節手段によって調節することができる。
【0030】
(過熱蒸気温度の制御について)
第二加熱器制御手段によって、第二加熱器の内部に噴霧されたミストの加熱温度を調節することによって、過熱蒸気の温度を制御することができる。この第二加熱器制御手段は、例えば第二加熱器内に設けたヒータの温度を調節する制御装置などを挙げることができる。
【0031】
前述したように、図4に示すような従来のボイラ式の過熱蒸気生成利用システム100では、ボイラ110に設けた加熱手段111の温度を増減させることによって過熱蒸気SSの温度を増減させていた。しかし、過熱蒸気SSの温度を上げるためにボイラ110の加熱温度を上げると、それに伴ってボイラ110内の圧力が自動的に上がり、ボイラ110の圧力が上がると今度は加熱器120内の圧力や吐出圧力も上がってしまう。そして、ボイラ110内の圧力が上がるとボイラ110の水Fの蒸発量が抑え込まれて少なくなり、結果として過熱蒸気量SSが少なくなる。このように、従来のシステム100においては、吐出圧力や過熱蒸気量に影響を与えずに、過熱蒸気の温度のみを単独で増減させることが困難であった。
【0032】
本態様では、第二加熱器制御手段によって第二加熱器の内部に噴霧されたミストの加熱温度を調節することによって、第二加熱器で生成される過熱蒸気の温度を容易に制御することができる。従来のシステムのようにボイラの加熱温度を制御することによって過熱蒸気の温度を制御する方式よりも、迅速にかつ正確に過熱蒸気の温度を制御することができる。
【0033】
また、過熱蒸気温度を調節するために第二加熱器の内部に噴霧されたミストの加熱温度を変えたとしても、吐出圧力や過熱蒸気量にはほとんど影響を与えない。すなわち、本態様に係る過熱蒸気生成利用システムでは、吐出圧力を決定づけるのは吐出圧力調節手段であり、過熱蒸気量を決定づけるのは供給量調節手段であり、これら吐出圧力調節手段や供給量調節手段の影響力が非常に大きいため、過熱蒸気温度の高低にはほとんど影響されない。
【0034】
(第1加熱器について)
なお、本態様の第一加熱器では、液体を加熱する際に沸騰を抑え、できる限り蒸気の状態にせず、液体の状態に留めるようにすることが好ましい。例えば、第一加熱器に蒸留水(前記液体に相当する)を供給する場合、第一加熱器でその蒸留水を加熱するときに蒸気の生成を抑えつつ、高温水(例えば高圧の高温水)(前記加熱液に相当する)を生成することが好ましい。図4に示すような従来の過熱蒸気生成装置と比べて、本態様の過熱蒸気生成装置は電熱効率が高いという利点がある。すなわち、沸騰を抑えつつ加熱液を生成する第一加熱器を用いると、第一加熱器の加熱部(例えばヒータ)の表面のワット密度(単位:W/cm2)が一定に保たれ、第一加熱器内が液体で満たされて加熱部が常に液体に接触した状態になるため、電熱効率を高くすることができる。そして、このように第一加熱器の電熱効率を高くすることで、従来の製品よりも小型にすることができる。
【0035】
(第2の態様)
前記供給手段は、前記液体の蒸気圧以上の圧力で前記第一加熱器に前記液体を供給するポンプである前記第1の態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0036】
(作用効果)
第2の態様の液体の供給手段は、液体の蒸気圧以上の圧力で第一加熱器に液体を供給するものである。液体の蒸気圧以上の圧力で第一加熱器に液体を供給すると、第一加熱器によって液体が加熱されたときに沸騰を抑えることができる。そのため、沸騰によって伝熱ムラが発生したり、一部分を加熱しすぎて過度に高温の部分が生じたりすることを回避できる。
【0037】
(第3の態様)
前記第一加熱器の後部、または前記第一加熱器から前記第二加熱器に至る経路に設けられ、前記加熱液の温度を計測する加熱液計測器と、
前記加熱液計測器で計測した温度に基づき、前記第一加熱器の加熱手段の温度を制御する第一加熱器制御手段と、を有する前記第1または第2の態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0038】
(作用効果)
本態様に係る過熱蒸気生成利用システムは、第一加熱器の後部(第一加熱器の後側部分。例えば出口辺り)、または第一加熱器から第二加熱器に至る経路(例えば第一加熱器と第二加熱器の間を繋ぐ管。当該管の内部を加熱液が流れる。)に加熱液の計測器(加熱液計測計)が設けられている。それとともに、その加熱液計測器で計測した加熱液の温度に基づいて、第一加熱器の加熱手段(例えばヒータ)の加熱温度を制御する第一加熱器制御手段(例えば制御装置)も設けられている。
【0039】
第一加熱器制御手段が第一加熱器の加熱温度を制御することによって、第一加熱器から排出される加熱液の温度を一定に保つことができる。その結果、第二加熱器の加熱温度の制御が容易になる。
【0040】
なお前記特許文献1には、飽和水蒸気発生装置に供給する水量と過熱蒸気発生装置出口温度を計測し演算処理し制御信号を発生させ、飽和蒸気発生装置に供給する水量と飽和蒸気発生装置と過熱蒸気発生装置に内蔵された電気ヒータに供給する電力量を制御することにより、正確に制御された流量と温度の過熱蒸気を安定して供給することができる旨が開示されている。
【0041】
しかし、この特許文献1に記載された制御では過熱蒸気の温度に基づいて飽和蒸気発生装置と過熱蒸気発生装置の両方の電気ヒータの電力量を制御するため、飽和蒸気発生装置の電気ヒータと過熱蒸気発生装置の電気ヒータのどちらのヒータをどの程度制御すれば所望の温度の過熱蒸気を得ることができるのかの予測がつきにくく、制御内容が複雑になる傾向がある。本態様のように、第一加熱器から排出される加熱液の温度に基づいて第一加熱器の加熱温度を制御することによって、例えば第一加熱器から排出される加熱液の温度を一定に保つことができ、最終的に得られる過熱蒸気の温度を所望の値にすることが容易になる。
【0042】
(第4の態様)
前記第二加熱器の後部、または前記第二加熱器から後段の機器に至る経路に設けられ、前記過熱蒸気の温度を計測する過熱蒸気計測器を有し、
前記第二加熱器制御手段は、前記過熱蒸気計測器で計測した温度に基づき、前記第二加熱器の加熱手段の温度を制御する前記第1~第3の態様のいずれか1つの態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0043】
(作用効果)
本態様に係る過熱蒸気生成利用システムは、第二加熱器の後部(第二加熱器の後側部分。例えば出口辺り)、または第二加熱器から後段の機器に至る経路(例えば第二加熱器と後段の機器の間を繋ぐ管。当該管の内部を過熱蒸気が流れる。)に加熱蒸気の温度の計測器が設けられている。そして、第二加熱器制御手段(例えば制御装置)が、その過熱蒸気温度計測器で計測した過熱蒸気の温度に基づいて、第二加熱器の加熱手段(例えばヒータ)の加熱温度を制御する構造になっている。
【0044】
第二加熱器制御手段が第二加熱器の加熱温度を制御することによって、第二加熱器から排気される過熱蒸気の温度を一定に保つことができる。その結果、第一加熱器の加熱温度の制御をしなくても所望の温度の過熱蒸気を得ることができる。なお、第一加熱器の加熱温度を制御することによって、過熱蒸気の温度をさらに所望の値に近づけてもよい。
【0045】
なお前記特許文献1と比較したときの利点については、第3の態様の作用効果の欄に記載した内容と同様のため、ここでは記載を省略する。
【0046】
(第5の態様)
前記第一加熱器は、
蛇行させて段状に配置した加熱管と、
各段の前記加熱管の内部にそれぞれ配置され、前記加熱管の一端側から他端側へ向かって延在するカートリッジヒータと、
を有する前記第1~第4の態様のいずれか1つの態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0047】
(作用効果)
第一加熱器にカートリッジヒータを用いると、耐圧性を高くすることができる。特に、第一加熱器の内部は高圧になる(例えば3~4MPa)ことが想定されるため、耐圧性の高いヒータを用いることは利点が大きい。
【0048】
また、市販されているカートリッジヒータの長さは一般的に500mm程度である。そのため、第一加熱器の加熱管の長さを長くする(例えば2m程度)と、加熱管の一部分しか加熱できない不具合が生じる。本態様では加熱管を蛇行して段状に配置し、各段の加熱管の内部にそれぞれカートリッジヒータを配置することで、前述の不具合の発生を防止することができる。また、カートリッジヒータの加熱管を蛇行して配置することで、密閉性を高めることができるとともに、電力密度や表面温度を高めることができる。
【0049】
なお、第一種圧力容器は、製造、設置等の際に都道府県労働局などの検査が義務付けられ、使用開始後にも年に1回の性能検査が義務付けられている。本態様のように、加熱管を蛇行させて段状に配置することで、第一加熱器全体を小型化することができ、その結果、前記第一種圧力容器に該当しなくなる利点がある。
【0050】
(第6の態様)
前記第二加熱器は、
下部にミストを噴霧するノズルと、上部に過熱蒸気を排出する排気口と、内部に加熱手段を備えた加熱筒を有し、
前記加熱筒の内部に噴霧されたミストが筒内を上昇する過程で、前記加熱手段によって加熱されて過熱蒸気となる構成とされた前記第1~第5の態様のいずれか1つの態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0051】
(作用効果)
本態様の第二加熱器によれば、高圧で噴霧されたミストが圧力開放によって高速(例えば約100m/s)の噴流となり、第二加熱器の内部に高速の気流となって拡散する。そのため、加熱手段(例えばヒータ)との接触効率が高くなり、加熱されやすくなる。
【0052】
(第7の態様)
前記第二加熱器は、予熱用加熱エアを供給する供給口と、前記予熱用加熱エアを排出する排出口を有し、
前記過熱蒸気生成利用システムは、
前記第二加熱器の後部、または前記第二加熱器から後段の機器に至る経路に設けられ、前記予熱用加熱エアの温度を計測する予熱用加熱エア計測器と、
前記予熱用加熱エア計測器で計測された前記予熱用加熱エアの温度が、予め定められた前記第二加熱器の内部に噴霧されるミストの温度よりも高くなった時点で、前記予熱用加熱エアの供給を停止する制御手段と、を有する前記第1~第6の態様のいずれか1つの態様の過熱蒸気生成利用システム。
【0053】
(作用効果)
本態様によれば、第二加熱器を運転する前に適切に予熱をすることができる。そのため、第二加熱器を運転した際に、第二加熱器の内部に結露が生じてドレンが大量に発生することを防止することができる。
【発明の効果】
【0054】
前記過熱蒸気生成利用システムによれば、過熱蒸気の蒸気量、過熱蒸気の温度および吐出圧力をそれぞれ独立して調節することができ、任意の条件に精度よく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明に係る過熱蒸気生成利用システムの第1実施形態の全体構成図である。
図2】前記第1実施形態の第一加熱器の概略図である。
図3】前記第1実施形態の第二加熱器の概略図である。
図4】従来の過熱蒸気生成利用システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明の一実施形態を示したものにすぎず、本発明の内容をこの実施形態に限定して解釈すべきでない。
【0057】
(液体F)
過熱蒸気生成装置10に供給される液体Fは特に限定されないが、例えば、蒸留水(純水や精製水)、市水、工業用水、雨水などを用いることができる。ただし、市水にはミネラル/イオン化物が含まれている。市水に含まれるそれらの成分の析出物が第一加熱器4の加熱管43の内表面、第二加熱器5のノズル54や第二加熱器5の筒部53の内表面に付着し、不具合が生じるおそれがある。そのため、液体Fとして蒸留水を用いることが好ましい。また工業用水や雨水などを用いる場合はRO膜処理をして不純物を除去した後に、第一加熱器4に供給することが好ましい。
【0058】
(供給手段3)
図1に示すように、前記液体Fは供給手段3によって第一加熱器4に供給される。この供給手段3は特に限定されないが、例えば、ポンプ(好ましくは定量ポンプ)などを用いることができる。ポンプの種類は容積式ポンプと非容積式ポンプのいずれも用いることができるが、特に容積式ポンプを用いることが好ましい。容積式ポンプとしては、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプ、ネジポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプ等を用いることができるが、特にダイヤフラムポンプやプランジャーポンプ(定量高圧ポンプ)を用いることが好ましい。
【0059】
なお、プランジャーポンプを用いた場合、精密容積式計量が可能である(プランジャーポンプの回転数と第一加熱器4に対する液体Fの供給量がほぼ比例する)ため、このプランジャーポンプに流量計2の役割を兼ねさせることが可能になる。そのため、プランジャーポンプを用いる場合は流量計2の設置が不要になり、イニシャルコストを抑えることができる。
【0060】
また本実施形態における過熱蒸気生成利用システムにおいては、前記特許文献1のように、第一加熱器4に供給する液体Fの供給量をフィートバック制御することが不要になるという利点もある。すなわち、第二加熱器5から排気される過熱蒸気SSの量は、第一加熱器4から第二加熱器5に供給される加熱液HFの量とほぼ同一になる。また第一加熱器4から排出される加熱液HFの量は、第一加熱器4に供給する液体Fの量とほぼ同一になる。そのため、第一加熱器4に注入する液体Fの流量を供給手段3で制御することによって、過熱蒸気SSの量を容易に制御することが可能となり、生成される過熱蒸気量を自動制御しやすくなる。
【0061】
なお、実際に過熱蒸気生成装置10を運転する際は、供給手段3によって液体Fを高圧で加圧し、第二加熱器5から排気される過熱蒸気SSの量だけ、液体Fを第一加熱器4に供給することが好ましい。また、第一加熱器4に対する液体Fの供給量は、インバータ制御(インバータ回転数制御)することが好ましい。
【0062】
第一加熱器4に供給する液体Fの供給量は、例えば0.1~10L/minにすることが好ましく、1~8L/minにすることがより好ましく、5L/minにすることがさらに好ましい。第一加熱器4に供給する液体Fの供給量が少ないと(例えば0.1L/minよりも少ないと)、過熱蒸気生成装置10が本来より多くの過熱蒸気を生成できるにも関わらず、過熱蒸気を十分に生成しないため効率が悪い。また、第一加熱器4に供給する液体Fの供給量が多いと(例えば10L/minよりも多いと)、第二加熱器5から排気される過熱蒸気SSの量も多くなるが、第二加熱器5の加熱手段(例えばヒータ)の加熱能力に限界があるため、その限界を超えると、過熱蒸気SSが十分に加熱されない状態で(過熱蒸気SSの温度が所望の温度よりも低い温度のままで)第二加熱器5から排気されてしまうおそれがある。
【0063】
以上のように、供給手段3によって第一加熱器4に供給する液体Fの量を増減させることにより、第二加熱器5で生成する過熱蒸気SSの量を増減させることができる。供給手段3による液体Fの供給量は、供給量調節手段3Aによって調節することができる。この供給量調節手段3Aは第一加熱器4に供給する液体Fの供給量を調節することができるものであれば特に限定されるものでないが、例えばポンプ3に設けた手動式の流量調節ノブ、ポンプ3に設けた電磁式の流量調節ノブと当該ノブを動かす制御装置、インバータによるポンプ3の回転数の制御などを挙げることができる。
【0064】
また、供給手段3で液体Fを第一加熱器4に供給する際は、高圧で供給することが好ましい。液体Fを高圧で供給することによって、第一加熱器4内で液体Fを沸騰させずに液体のままに保たせることができる。具体的には、液体Fの蒸気圧以上の圧力で第一加熱器4に液体Fを供給することが好ましい。液体Fごとに蒸気圧曲線が定まっているため、この蒸気圧曲線に基づいて液体Fを供給する際の圧力を決定するとよい。例えば、第一加熱器4に液体Fとして水を供給する場合、3~7MPa以上の圧力で供給することが好ましく、3~4MPa以上の圧力で供給することがより好ましい。このように液体Fの供給圧力を制御する手段(供給圧力制御手段)は特に限定されるものではないが、例えばポンプ3に設けた手動式の圧力調節ノブ、ポンプ3に設けた電磁式の圧力調節ノブと当該ノブを動かす制御装置、インバータによるポンプ3の回転数の制御などを挙げることができる。
【0065】
(流量計2)
第一加熱器4の前段に流量計2を設け、第一加熱器4に供給する液体Fの量を計測することが好ましい。この流量計2を設ける位置は特に限定されないが、例えば図1に示すようにフィルタ1と供給手段3の間に設けたり、図示しないが供給手段3と第一加熱器4の間に設けたりすることができる。特に好ましくは、流量計2をポンプ吸い込み側(図1のように供給手段3よりも前段側)に設けることが好ましい。この流量計2の種類は特に限定されないが、例えば超音波式(クランプオン式)流量計、羽根車式流量計、電磁式流量計、ギヤ式流量計などを用いることができる。
【0066】
(フィルタ1)
液体Fを第一加熱器4に供給する前に、フィルタ1によって液体Fに含まれる異物を除去することが好ましい。液体Fに異物が含まれていると、それらの異物が第一加熱器4や第二加熱器5の内部に堆積して故障の原因となるからである。
【0067】
図1では供給手段3の前段にフィルタ1を設け、液体Fを供給手段3に供給する前に異物を除去する構成としたが、このような構成に限られるものではない。図示しないが、例えば供給手段3と第一加熱器4の間のいずれかの箇所にフィルタ1を設けてもよい。
【0068】
なお、フィルタ1としては公知のフィルタを任意に用いることができる。例えば、一般濾過フィルタ、精密濾過フィルタ、限外濾過フィルタ、RO膜、イオン交換樹脂などを用いることができる。特に、平坦な濾材を蛇腹状に折り曲げて複数の襞を形成しつつ、筒状に形成したプリーツフィルタを用いることが好ましい。液体Fの単位時間当たりの処理量が多いとともに、襞の外面に形成されたケーキの剥離も用意だからである。プリーツフィルタやその外面に形成されたケーキの剥離装置については特に限定されないが、例えば特開2020-93231号や特開2021-16826号に開示されたものを用いることができる。
【0069】
(第一加熱器4)
図1に示すように第一加熱器4によって、第一加熱器4に供給された液体Fを加熱して加熱液HFを生成する。第一加熱器4は液体Fを加熱することができれば特に限定されるものではないが、液体Fの沸騰を抑えて、高圧で高温の加熱液HFを生成するものが好ましい。例えば、生成された加熱液HFの圧力は2~8MPaのものが好ましく、2~5MPaのものがより好ましく、4MPaのものがさらに好ましい。生成された加熱液HFの圧力が2MPaよりも小さいと、第二加熱器5の内部に設けられた噴霧ノズル54から噴霧されるミストの粒子径が大きくなり、そのミストを瞬間蒸発できなくなるおそれがある。生成された加熱液HFの圧力が8MPaよりも大きいと、第一加熱器4に耐圧強度の限界値があるため、その限界値を超える可能性があり、その結果配管の接手から加熱液HF(または液体F)が漏出するおそれがある。また生成された加熱液HFの温度は170~300℃のものが好ましく、220~250℃のものがより好ましく、240℃のものがさらに好ましい。生成された加熱液HFの温度が170℃よりも低いと、第二加熱器5の内部に噴霧されたミストが瞬間蒸発しにくくなる。生成された加熱液HFの温度が250℃よりも高いと、第一加熱器4の内部で加熱液HFが沸騰して、第一加熱器4のヒータの温度が局所的に上昇する結果、ヒータが劣化するおそれがある。
【0070】
前述のように第一加熱器4で加熱液HFを生成する際には、液体Fの沸騰を抑えつつ、高圧で高温の加熱液HFを生成することが好ましい。このような加熱液HFを生成するために、例えば図2に例示した第一加熱器4を用いることが好ましい。この第一加熱器4は、液体Fの供給口41と、液体Fを加熱する加熱管43と、生成された加熱液HFの排出口42を備えている。加熱管43は、加熱管43の内部を流れる液体Fが蛇行して流れるように配置されている。詳しくは、第1加熱管43A、第3加熱管43Cおよび第5加熱管43Eがほぼ平行に配置されている。そして、図2の左側を一端側ONS、右側を他端側OTSとすると、第1加熱管43Aの一端側ONS端部に供給口41を備えた供給管41Tが接続され、第1加熱管43Aの他端側OTS端部と第3加熱管43Cの他端側OTS端部が第2加熱管43Bによって接続されている。また、第3加熱管43Cの一端側ONS端部と第5加熱管43Eの一端側ONS端部が第4加熱管43Dによって接続されており、第5加熱管45Eの他端側OTS端部に排出口42を備えた排出管42Tが接続されている。
【0071】
図2に第一加熱器4内を流れる液体Fの移動経路HLを点線矢印で示した。供給口41から第一加熱器4に供給された液体Fは供給管41の内部を通過して第1加熱管43Aの一端側ONS端部に到達した後、第1加熱管45Aの内部を一端側ONSから他端側OTSへ通過する。そして、第2加熱管43Bの内部を通過した後、第3加熱管45Cの内部を他端側OTSから一端側ONSへ通過する。そして、第4加熱管43Dの内部を通過した後、第5加熱管45Eの内部を一端側ONSから他端側OTSへ通過し、最後に排出管42Tの内部を通って排出口42から排出される。
【0072】
以上のように、第1加熱管43Aから一端側ONS端部から第5の加熱管43Eの他端側OTS端部に至るまでの間に、沸騰を抑えられながら液体Fが加熱されて、高圧・高温の加熱液HFとなる。なお、第1加熱管43A、第3加熱管43Cおよび第5加熱管43Eの一端側ONS端部にはそれぞれヒータの入力ケーブル44aが接続されており、当該入力ケーブル44aから熱が供給される構造になっている。また、各加熱管43A、43C、43Eの内部には、それぞれ一端側ONSから多端側OTSへ向かって延出する加熱手段(図2の例ではヒータ44b)が設けられている。各加熱管43A~43Eの内部を流れる液体Fは、発熱した加熱手段の外面に接触することで加熱されながら、供給口41から排出口42へ移動する。図2の実施例では、供給管41Tを流れる液体Fの温度が約20℃であり、排出管42Tを流れる液体Fの温度が約250℃とすると、例えば加熱管43Bを流れる液体Fの温度が約95℃、加熱管43Dを流れる液体の温度が約170℃となるように、加熱していくとよい。
【0073】
なお、液体Fは各加熱管43A~43Eの内部をゆっくりと流れるようにすることが好ましい。加熱管43A~43E内に滞留する時間を長くするほど、加熱された液体Fの温度を精密に制御することができるからである。
【0074】
図2では第1加熱管43A~第5加熱管43Eで構成される加熱管43を例示したが、加熱管43の長さの長短は任意に変更してもよい。例えば、図2の第4加熱管43Dと第5加熱管43Eを省いて第1加熱管43A~第3加熱管43Cで構成される加熱管43(図2よりも加熱管43の長さが短い形態)にしても良い。また、図2の第5加熱管43Eの後段に第6加熱管や第7加熱管を繋げた加熱管43(図2よりも加熱管43の長さが長い形態)にしても良い。なお、この加熱管43の長さを長くする場合は、第6加熱管の位置・方向・長さを第2加熱管43Bと同様とし、第7加熱管の位置・方向・長さを第3加熱管43Cと同様として、加熱管43が全体でジグザグに蛇行するようにすることが好ましい。なお、各加熱管43の幅方向WDの長さは、加熱手段(図2の例ではヒータ44b)の幅方向WDの長さとほぼ同じにすることが好ましい。加熱管43の幅方向WDの長さが加熱手段44bの幅方向WDの長さよりも長いと、幅方向WDにおいて液体Fを加熱しない箇所が生じるからである。
【0075】
前述のように、加熱管43は図2のようにジグザグに蛇行させて、階段状に設けることが好ましい。加熱管43を蛇行させることで、過熱蒸気生成装置全体をコンパクトにすることができる。
【0076】
(第一温度計6A、第一加熱器制御手段7A)
第一加熱器4の後側部分(図2の実施例では、第5加熱管43Eの他端側端部や排出管42Tなど)や、第一加熱器4から第二加熱器5に至る経路に、加熱液HFの温度を計測する温度計6を設けることが好ましい。図1の実施例では、第一加熱器4と第二加熱器5の間を繋ぐ連結管8に、その連結管8の内部を流れる加熱液HFの温度を計測する温度計6(第一温度計6A)を取り付けている。そして、その温度計6(6A)で計測した加熱液HFの温度に基づいて、制御手段7(第一加熱器制御手段7A)が第一加熱器4の加熱手段(図1図2の実施例ではヒータ)による加熱温度をPID制御で自動調節するようにすることが好ましい。具体的には、加熱液HFの温度が所望の温度よりも低い場合は、制御手段7(7A)が加熱手段44bの温度を高くし、加熱液HFの温度が所望の温度よりも高い場合は、制御手段7(7A)が加熱手段44bの温度を低くするとよい。なお、図1の実施例のように、2つ以上の温度計6や制御手段7を設けた場合、第一加熱器4で生成された加熱液HFの温度を計測する温度計6を第一温度計6Aといい、第一温度計6Aで計測した温度に基づいて、第一加熱器4の加熱手段44bの出力を調整する制御手段7を第一加熱器制御手段7Aという。なお、第一温度計6Aとしては水銀温度計やアルコール温度計などの公知の温度計を用いることができる。
【0077】
(第二加熱器5)
図1および図3に示すように、第一加熱器4で生成された加熱液HFは連結管8の内部を通って第二加熱器5へ移動し、第二加熱器5の内部に噴霧される。この噴霧によって発生したミストが第二加熱器5の内部を移動する過程で再加熱されて過熱蒸気SSとなる。そして、第二加熱器5で生成された過熱蒸気SSは、系外排出管9の内部を通って後段の過熱蒸気利用装置13(例えば乾燥炉、熱処理炉、炭化炉、有機物分解炉などを挙げることができる。)へ送られる。
【0078】
ここで図3を参照しながら第二加熱器5の詳細な構造について説明する。図3は第二加熱器5の実施形態の一例を示したものであるため第二加熱器5として他の構造を用いても良いが、図示したものは加熱液HFから過熱蒸気SSを生成する装置として優れた性能を有する実施形態である。
【0079】
図3に示す第二加熱器5は上下方向UDDに延在する筒部53を有し、筒部53の下端部に供給管51Tが取り付けられ、筒部53の上端部に排出管52Tが取り付けられている。供給管51Tの先端部(筒部53と接している部分を基端部という)には供給口51が設けられ、排出管51Tの先端部(筒部53と接している部分を基端部という)には排出口52が設けられている。
【0080】
なお、連結管8の一端側は第一加熱器4に繋がっており、連結管8の他端側は第二加熱器5に繋がっている。より詳しくは、連結管8の他端側は第二加熱器5の供給口51から第二加熱器5内に入り、供給管51Tの内部を通過して筒部53の下端部の軸心辺りまで延在している。このように延在した連結管8の他端部には噴霧ノズル54が設けられている。
【0081】
噴霧ノズル54の種類は加熱液HFを噴霧することができれば特に限定されず、一流体ノズルと二流体ノズルのどちらを用いても良い。ただし、二流体ノズルは圧縮空気を用いるため、その圧縮空気を生成するために電力使用量が多くなるため、ランニングコスト削減の観点からは一流体ノズルを用いるほうが好ましい。
【0082】
噴霧ノズル54は高圧でミストを噴霧するものであり、図3では噴霧ノズル54として一流体ノズルを用いている。この一流体ノズル54は、2.5~8MPaの圧力を用いて2~9L/minのミストを噴霧する。このような一流体ノズル54から噴霧されるミストの粒径は均質であり、平均粒子径が約20~30μm、最大粒子径も約40μm以下と極めて小さいものである。そのため、噴霧したミストは瞬時に蒸発して気体蒸気になる。この気体蒸気は約170℃以上のしめり蒸気であり、その粒子径は約5μm以下で均一なものである。この噴霧ノズル54には、例えばオリフィス径が直径0.5~1mm程度のものを用いることができる。例えば、ZIDE社製の製品(型番:KR―80)を用いることができる。
【0083】
なお、前記平均粒子径は、レーザー回折法で干渉縞を通る粒子を測定して、その測定結果からザウター平均粒径(Sauter Mean Diameter、SMD)を求めたものをいう。このザウター平均粒径とは、全粒子の全表面積に対する全粒子の全体積と同じ表面積対体積率を有する粒子径をいい、全体積を全表面積で除することにより求めることができる。
【0084】
図3に示す第二加熱器5において、噴霧ノズル54から噴霧されたミストは気体蒸気となって筒部53内を上昇し、その上昇する道程で再加熱されて過熱蒸気SSになる。図3において、第二加熱器5内における気体蒸気および過熱蒸気SSの移動経路MLを太い点線矢印で示した。生成された過熱蒸気SSは筒部53の上部に接続された排出管52Tの内部を通過し、排出口52から第二加熱器5の外に排出される。
【0085】
なお、筒部53の内部には加熱手段56が配置されており、この加熱手段56によってミストが加熱されて過熱蒸気SSが生成される。加熱手段56の種類は特に限定されるものではないが、例えばヒータ、熱媒油熱交換器などを挙げることができる。そして前記ヒータの例としては、U字管、プレートヒータ、フィンチューブヒータなどを挙げることができる。図3に示した加熱手段56はU字管であり、10本以上のU字管が筒部53の天面から垂れ下がった形態となっている。U字管の上下方向UDDの位置は任意に定めることができるが、ミストを十分に加熱するという観点から考えると、少なくとも供給管51Tの高さから排出管52Tの高さまで加熱手段56を配置することが好ましい。
【0086】
筒部53の下部にはドレンDRを排出するためのドレン管57が設けられており、噴霧ノズル54からミストを噴霧することよって生じたドレンDRはこのドレン管57を通って外部へ排出される。ドレン管57にはバルブ58aが設けられており、ミストを噴霧している間は開状態となっており、ミストの噴霧が終了してドレンDRが排出されると閉状態に切り替えられる。
【0087】
また、第二加熱器5の運転を開始する前は、筒部53内に結露が生じることを防ぐために、予熱作業を行うことが好ましい。具体的には、バルブ58aを閉じるとともにバルブ58bを開け、管59内に予熱用加熱エアARを送る。供給する予熱用加熱エアARの温度は170~250℃にすることが好ましく、220~240℃にすることがより好ましい。管59内に供給された予熱用加熱エアARは、ドレン管57を通って、予熱用加圧エアARの供給口59aから筒部53に入り、筒部53の下部DSから上部USへ上昇移動した後、排出管52T(図3では予熱用加圧エアARの排出口59bを兼ねている)を通って外部へ排出される。なお、排出管52Tに予熱用加熱エアARの温度を計測する温度計6Cを設けることもできる。この温度計6Cによって排出口59bを通る予熱用加熱エアARの温度を計測し、計測した予熱用加熱エアARの温度が、噴霧する予定のミストの温度(予め定めておくとよい)以上になった段階で、筒部53が十分に予熱された(ミストを噴霧しても結露がほとんど生じない状態になった)と判断し、制御装置(図示しない)が、予熱用加圧エアARの供給を止め、予熱作業を終了させる。例えば、噴霧予定のミストの温度を予め230℃に設定した場合、排出管52Tから排出される予熱用加熱エアARの温度が230℃よりも高くなった段階で、予熱作業を終了させる。予熱作業終了後は、加熱エアARの供給を止め、バルブ58bを閉じ、バルブ58aを開けた後、噴霧ノズル54からミストを噴霧して過熱蒸気SSを生成する。なお、上記の予熱作業を終了するか否かの判断は、排出管52Tの内部を通る予熱用加熱エアARの温度を計測することによって、筒部53が十分に温まったか否かを判断したが、筒部53に直接温度計6(6D)を取り付け、筒部53の内壁面の温度が噴霧する予定のミストの温度(予め定めておくとよい)以上になった段階で、予熱を終了させてもよい。
【0088】
以上の説明では、連結管8の他端側を筒部53の内部まで延在させた図3の実施例を示したが、このような実施形態に限られるものではない。例えば連結管8の他端部を第二加熱器5の供給口51近傍に位置させ、その連結管8の他端部と連続するように噴霧管55を設ける形態にしても良い。この場合、噴霧管55の一端側端部を連結管8の他端部と接続させるとよく、その接続位置は特に限定されず、例えば第二加熱器5の供給口51近傍であっても良いし、供給口51よりも筒部53側に設けたり第一加熱器4側に設けたりしても良い。そして、噴霧管55を供給管51Tの内部を通して筒部53の軸心近傍まで延在させ、その噴霧管55の他端部に噴霧ノズル54を設けるようにしても良い。
【0089】
また、図3に示す第二加熱器5は上下方向UDDに延在する筒部53を備えているが、筒部53の形状はこのようなものに限られない。例えば、略水平方向に延在する筒部53にしても良いし、その他の斜め方向に延在する筒部53にしても良い。ただし、過熱蒸気生成装置10の立ち上げ時や休止中に筒部53の内部にドレンが溜まりやすいため、図3に示すような上下方向UDDに延在する縦長形状の筒部53とし、ドレンを排出しやすくすることが好ましい。
【0090】
図3に示す第二加熱器5の筒部53は横断面が正円形の円筒形状を為しているが、横断面が楕円形の円筒形状にしたり、横断面が多角形(例えば四角形、六角形など)の角筒形状にしたりしても良い。
【0091】
第二加熱器5によって生成される過熱蒸気SSの温度は、過熱蒸気利用装置13で必要となる過熱蒸気SSの温度に調節することになるが、例えば過熱蒸気利用装置13が加熱炉である場合は、200~500℃にすることが好ましく、350~450℃にすることがより好ましい。過熱蒸気SSの温度が200℃よりも低いと対象物BJを十分に加熱することができず、過熱蒸気SSの温度が500℃よりも高いと対象物BJを加熱しすぎるおそれがある。
【0092】
また、第二加熱器5によって生成される過熱蒸気SSの生成量は、過熱蒸気利用装置13で必要となる過熱蒸気SSの量に調節する。
【0093】
(第二温度計6B、第2制御手段7B)
そして、第二加熱器5の後側部分(図3の実施例では、筒部53の上端部や排出管52Tなど)や、第二加熱器5から後段の装置(図示しない)に至る系外排出管9に、過熱蒸気SSの温度を計測する温度計6を設けることが好ましい。図1の実施例では、第二加熱器5と後段の装置を繋ぐ系外排出管9に、その系外排出管9の内部を流れる過熱蒸気SSの温度を計測する温度計6(6B)を取り付けている。そして、その温度計6(6B)で計測した過熱蒸気SSの温度に基づいて、制御手段7(7B)が第二加熱器5の加熱手段(図1図3の実施例ではヒータ)による加熱温度をPID制御で自動調節するようにすることが好ましい。具体的には、過熱蒸気SSの温度が所望の温度よりも低い場合は、制御手段7(7B)が加熱手段の温度を高くし、過熱蒸気SSの温度が所望の温度よりも高い場合は、制御手段7(7B)が加熱手段の温度を低くするとよい。なお、図1の実施例のように、2つ以上の温度計6や制御手段7を設けた場合、第二加熱器5で生成された過熱蒸気SSの温度を計測する温度計6を第二温度計6Bといい、第二温度計6Bで計測した温度に基づいて、第二加熱器5の加熱手段の出力を調整する制御手段7を第2制御手段7Bという。なお、過熱蒸気SSの温度を計測する温度計6Bとしては熱電対や放射温度計などの公知の温度計を用いることができる。
【0094】
図3に示すように、噴霧ノズル54から噴霧された高温のミストが瞬間的に蒸発して生成された飽和水蒸気をヒータによって加熱する構造となっている。図1図3に示すように第二加熱器5の出口部分(排出管52T、排出口52またはそれらの近傍部分)または系外排出管9の内部を通過する過熱蒸気SSの温度をモニタリングして第二加熱器5のヒータを制御することが可能である。そのため、第一加熱器4から排出される加熱液HFの温度が変化しても、第二加熱器5のヒータの温度を制御することにより、第二加熱器5の排出口52を通過する過熱蒸気SSの温度を一定にすることができる。
【0095】
なお、図4に示すような従来のボイラ方式の過熱蒸気生成利用装置100では、ボイラ110内の圧力が変化すると、ボイラ110内の水Fが沸騰して蒸発する量(以下、「沸騰蒸発量」という)が変化する。この沸騰蒸発量が変化すると、前記ボイラ110(図1の第一加熱器に相当する)の後段に配置した加熱器120(図1の第二加熱器に相当する)で蒸気STを加熱するための熱量が大きく変化し、加熱器120の出口から排気される過熱蒸気SSの温度が安定せず、過熱蒸気SSの温度を制御しにくいという問題がある。本実施形態では、前述のように、第二加熱器5の加熱手段56の加熱温度を調節するだけで、第二加熱器5の排出口52を通過する過熱蒸気SSの温度を容易に調節することができ、従来のボイラ方式の過熱蒸気生成利用装置100が有していた問題を解決することができる。
【0096】
また、本実施形態の過熱蒸気生成装置10では、第一加熱器4内が高圧の高温水で満たされており、内部の高温水の沸騰が抑えられている。そして、第二加熱器5の噴霧ノズル54からミストを噴霧するが、このミストを噴霧する圧力に対抗する圧力として、(A)第二加熱器5内における通気抵抗、(B)第二加熱器5から過熱蒸気利用装置13(例えば加熱炉。以下同様)までの配管抵抗、(C)過熱蒸気SSを利用する過熱蒸気利用装置13の噴出ノズル12の抵抗、(D)過熱蒸気利用装置13からの排気抵抗、という(A)~(D)の排圧が加わる。しかし、第一加熱器4の加圧圧力(供給手段3による液体Fの供給圧力に比例する)に比べて、これら(A)~(D)の排圧は相対的に小さいため、第一加熱器4内における液体Fの加熱や、第二加熱器5の噴霧ノズル54から噴霧するミスト量の変化は小さい。本実施形態の過熱蒸気生成装置10では、プランジャーポンプ等の供給手段3を用いて液体Fを第一加熱器4に供給し、この供給手段3の液体Fの供給圧力の増減によって、第二加熱器5から噴霧されるミスト量が増減することになるが、供給手段3からの液体Fの供給圧力が相対的に大きいため、前記(A)~(D)の排圧の値が変化したとしても、第二加熱器5から噴霧されるミスト量は、排圧の変化の影響をほとんど受けない。
【0097】
(過熱蒸気SSの利用)
図1に示すように、第二加熱器5から排気された過熱蒸気SSは、後段に設けられた過熱蒸気利用装置13(この過熱蒸気利用装置13は過熱蒸気生成装置10に含まれない。)に送られ、この過熱蒸気利用装置13で過熱蒸気SSが利用される。過熱蒸気SSの利用形態としては、活性炭脱気、シリカゲル粉体脱水乾燥、脱脂、塗膜剥離、食品加工、殺菌洗浄、炭化、有機物分解などがある。過熱蒸気SSを利用する際は、単に過熱蒸気利用装置13内に過熱蒸気SSを供給し、過熱蒸気利用装置13内の雰囲気全体を加熱することで処理対象物BJを加熱等することもできるが、過熱蒸気SSを処理対象物BJに吹き付ける形態が好ましい。過熱蒸気SSを処理対象物BJに高速で吹き付けることにより、過熱蒸気SSの熱がその処理対象物BJの内部にまで伝わりやすくなり、伝熱効果を高めることができるからである。そのため、図1に示したように、処理対象物BJに向けた複数のノズル12を設け、それらのノズル12から一気に高速で過熱蒸気SSを処理対象物BJに吹き付けることが好ましい。なお図1の符号14は、過熱蒸気SSを各ノズル12に分配する管である。以上のように過熱蒸気SSを吹付ける装置としては、例えば加熱炉、熱処理炉、脱気炉、乾燥炉および開放吹付法を挙げることができる。なお、その場合の圧力は過熱蒸気吹き出しノズル抵抗及び炉排気抵抗に依存する。また、図1に示すように、ノズル12の前段に、ノズル12から吐出する過熱蒸気SSの圧力を調節する吐出圧力調節手段11を設けることが好ましい。図1では吐出圧力調節手段11として電磁バルブを例示したが、手動バルブ、オリフィス、排気絞りなど、他の手段によって調節してもよい。この吐出圧力調節手段11によって、吐出圧力を容易に調節することができる。そして吐出圧力を調節したとしても、前述したように、過熱蒸気SSの生成量や過熱蒸気SSの温度にはほとんど影響が及ばない。また過熱蒸気SSの生成量や過熱蒸気SSの温度から吐出圧力にもほとんど影響が及ばない。
【0098】
なお、吐出圧力は、過熱蒸気利用装置13で必要な吐出圧力となるように調節することになるが、例えば過熱蒸気利用装置13が加熱炉である場合は、0.02~0.2MPaにすることが好ましく、0.05~0.1MPaにすることがより好ましい。過熱蒸気SSの吐出圧力が0.02MPaよりも低いと対象物BJを十分に加熱することができず、過熱蒸気SSの吐出圧力が0.2MPaよりも高いと対象物BJを加熱しすぎるおそれがある。
【0099】
(実施形態の効果)
前記実施形態に係る過熱蒸気生成装置10によれば、(A)第二加熱器5で生成される過熱蒸気SSの温度、(B)第二加熱器5の後段に設けた過熱蒸気利用装置13の内部に過熱蒸気SSを吐出する際の圧力(過熱蒸気SSの吐出圧力)(C)第二加熱器5の内部に設けられた噴霧ノズル54から噴霧されるミストの蒸発量(すなわち、第二加熱器5で生成される過熱蒸気の量)、をそれぞれ独立して調節することができ、前記(A)過熱蒸気の温度、(B)吐出圧力、(C)過熱蒸気生成量を任意の値に精度良く設定することができる。
【0100】
例えば、過熱蒸気生成装置10の立ち上げ時は、第二加熱器5内の噴霧ノズル54から噴霧されるミストの量が多いとドレン水DRが増えて問題になる。そのため、立ち上げ時は噴霧ノズル54から噴霧されるミストの量を少なくすることが好ましい。他方、過熱蒸気生成装置10の立ち上げ時に噴霧ノズル54から噴霧されるミストの量を少なくすると、第二加熱器5から排出される過熱蒸気SSの量が少なくなり、第2加熱器5の後段に設けた過熱蒸気利用装置13(例えば加熱炉)における効率(例えば加熱効率)が悪くなるという別の問題が生じるおそれがある。その問題を解決するため、過熱蒸気生成装置10の立ち上げ時は、第二加熱器5から排気される過熱蒸気SSの温度を高くすることが好ましい。
【0101】
また、第二加熱器5の後段に設けた過熱蒸気利用装置13(例えば加熱炉)では、過熱蒸気SSの圧力を利用して、その過熱蒸気利用装置13の内部に設けた複数のノズル12から過熱蒸気SSを加熱対象物BJに高速噴流で吹き付ける場合が多い。そのため、過熱蒸気利用装置13の種類によっては、第二加熱器5の出口部分における過熱蒸気SSの好ましい圧力が0.1~0.2MPaに及ぶ場合もある。
【0102】
前記実施形態に係る過熱蒸気生成装置10によれば、前記(A)過熱蒸気の温度、(B)吐出圧力、(C)過熱蒸気生成量を、それぞれ独立して、任意の値に精度良く調整することができるため、以上のような制御を容易に行うことができる。
【0103】
ここで、過熱蒸気生成装置10で生成した過熱蒸気SSが、第二加熱器5の後段に設置された種々の過熱蒸気利用装置13へ送られて利用される態様について詳述する。
【0104】
例えば、過熱蒸気SSは過熱蒸気利用装置13としての加熱炉に送られて、加熱炉で加熱対象物を加熱するために用いられる。この場合、第二加熱器5から加熱炉に供給する加熱蒸気SSの量を増やすよりも、加熱炉に供給する加熱蒸気SSの温度を高くする方が、加熱炉による加熱対象物への熱入力が大きくなる。そのため第二加熱器5から排気される加熱蒸気SSの温度を高くすることが求められる。前記実施形態の過熱蒸気生成装置10であれば、第二加熱器5の加熱効率がよいため、第二加熱器5から排気される加熱蒸気SSの温度を容易に高くすることができる。
【0105】
また、例えば第二加熱器5で生成した過熱蒸気SSを過熱蒸気利用装置13としての粉体乾燥装置や粉体脱気装置へ送り、粉体の乾燥や脱気に用いる場合も想定される。この場合、粉体乾燥装置や粉体脱気装置の内部では、加熱蒸気SSの噴流で飛散しないようにするために、フィルタを設けてこの粉体の飛散を防止する必要がある。この粉体乾燥装置や粉体脱気装置の内部に設けられたフィルタの存在によって、粉体乾燥装置や粉体脱気装置の内部に過熱蒸気SSを吐出するときの通気抵抗が大きくなる。そのため、粉体乾燥装置や粉体脱気装置の内部に過熱蒸気SSを吐出する際の吐出圧力を大きくすることが望まれる。前記実施形態の過熱蒸気生成装置10であれば、吐出圧力調節手段(図1では、例としてバルブを示す)によってノズル12からの吐出圧力を容易に高くすることができる。
【0106】
また、例えば第二加熱器5で生成した過熱蒸気SSを過熱蒸気利用装置13としての表面加熱装置や食品加工装置へ送り、対象物BJの表面を加熱したり、食品BJの加熱に用いたりする場合も想定される。この場合は、前記対象物BJや前記食品BJの全体を均一に加熱することが要求されるため、過熱蒸気SSの量を多く必要とする。前記実施形態の過熱蒸気生成装置10であれば、供給手段3が、第一加熱器4に供給される液体Fの供給量を増やすことによって、結果として第二加熱器5から排気される過熱蒸気SSの量が増える。このように、供給手段3が液体Fの供給量を増やすことにより、表面加熱装置や食品加工装置に供給される過熱蒸気SSの量を容易に増やすことができる。
【0107】
以上のように、前記実施形態の過熱蒸気生成装置10であれば、過熱蒸気利用装置13に供給する過熱蒸気SSの供給量(第二加熱器5の内部に設けられた噴霧ノズルから噴霧されるミストの蒸発量と比例する)、過熱蒸気SSの温度、過熱蒸気SSの吐出圧力を変更することが容易であり、それぞれを単独で制御できる(他の要素に影響を与えずに制御できる)という利点がある。
【0108】
また、図3に示す第二加熱器5では、噴霧ノズル54から噴霧されたミストが、ほぼ均一な大きさの微粒子(高温の微粒子)であるため、第二加熱器5のヒータ表面の熱伝導を均一に作用させることができる。なお、ヒータの加熱密度がアンバランスである(ヒータを局所的に加熱させる)とヒータ内部の絶縁物質が劣化するおそれがある。しかし、前述のように噴霧ノズル54から噴霧するミストをほぼ均一な大きさの微粒子にすることで、第二加熱器5のヒータ表面の熱伝導を均一に作用させることができるため、ヒータを局所的に加熱させる必要がなくなり、絶縁物質の劣化等の不具合の発生を防止することができる。その結果、第二加熱器5の寿命低下を防止することができる。
【0109】
図1図3に示す過熱蒸気生成装置10はシンプルな構造であるため、運転がしやすくメンテナンス性に優れている。また、従来のボイラを用いた過熱蒸気生成装置150の容積と比べて、図1図3に示したような過熱蒸気生成装置10の容積を小さくする(例えば5分の1程度にする)ことができるため、断熱施工がしやすくなり、放熱ロスも少なくなるという利点がある。さらに、現在市場で販売されている同様の装置よりも装置全体がコンパクト(従来製品の約50%の大きさ)であるため、敷地面積が小さい場所(工場など)においても利用することができる。
【0110】
さらに、第一加熱器4および第二加熱器5に安価なヒータ(例えばカートリッジヒータ、シーズ線ヒータなど)を用いることができ、それによって過熱蒸気生成装置10自体のイニシャルコストを安くすることができる。本発明者に試算によると、従来製品の約半額程度にすることもできる。
【0111】
また、図2に示す第一加熱器4の内部に保有される水量が少ないため、過熱蒸気生成装置10を起動して立ち上げる時間や、過熱蒸気生成装置10を停止してクールダウンさせる時間が従来製品よりも短いという特徴を有する。なお過熱蒸気生成装置10を高温の状態で保持すると、加圧された加熱液HFや過熱水蒸気SSが噴出する危険があるため、過熱蒸気生成装置10は定期的に停止してクールダウンさせることが好ましい。
【0112】
また、第二加熱器5のヒータとしてカンタルヒータを用いると、噴霧ノズル54から噴霧されたミストを1100℃以上の高温に加熱することができるため、過熱蒸気SSを加水分解反応に利用することができるようになる。
【0113】
従来用いられていた誘導加熱や高周波加熱の場合、耐圧・耐熱の金属管を用いるため、金属管の管内にスケールが生成される不具合が生じるが、第一加熱器4や第二加熱器5のヒータに電気ヒータを用いることで、このようなリスクを低減させることができる。
【符号の説明】
【0114】
1:フィルタ、2:流量計、3:供給手段(例:ポンプ)、3A:供給量調節手段、4:第一加熱器、5:第二加熱器、6:温度計、6A:第一温度計、6B:第二温度計、7:制御手段、7A:第一加熱器制御手段、7B:第二加熱器制御手段、8:連結管、9:系外排出管、10:過熱蒸気生成装置、11:吐出圧力調節手段、12:(吐出)ノズル、13:過熱蒸気利用装置、14:管、20:過熱蒸気生成利用システム、41:(液体Fの)供給口、41T:(液体Fの)供給管、42:(加熱液HFの)排出口、42T:(加熱液HFの)排出管、43:加熱管、43A:第1加熱管、43B:第2加熱管、43C:第3加熱管、43D:第4加熱管、43E:第5加熱管、44a:入力ケーブル、44b:加熱手段(例:ヒータ)、51:(加熱液HFの)供給口、51T:(加熱液HFの)供給管、52:(過熱蒸気SSの)排出口、52T:(過熱蒸気SSの)排出管、53:筒部、54:噴霧ノズル、55:噴霧管、56:加熱手段(例:ヒータ)、57:ドレン管、58:バルブ、59:管、100:(従来の)過熱蒸気生成利用システム、110:ボイラ、111:(ボイラの)加熱手段、120:加熱器、130:過熱蒸気利用装置、131:ノズル、140:管、141:管、150:過熱蒸気生成装置、BJ:対象物、DS:下側、F:液体、HF:加熱液、HL:液体の移動経路、ML:蒸気の移動経路、ONS:一端側、OTS:他端側、SS:過熱蒸気、ST:蒸気、UDD:上下方向、US:上側、WD:幅方向
図1
図2
図3
図4