(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】離隔距離計測方法、及びレーザー搭載型電線点検自走機
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20230217BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20230217BHJP
G01C 7/00 20060101ALI20230217BHJP
G01S 17/42 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
H02G1/02
G01C15/00 103E
G01C7/00
G01S17/42
(21)【出願番号】P 2022121230
(22)【出願日】2022-07-29
【審査請求日】2022-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593026959
【氏名又は名称】中日本航空株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】柏木 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 利和
(72)【発明者】
【氏名】都竹 正志
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-150317(JP,U)
【文献】特開平07-154909(JP,A)
【文献】特開平10-191517(JP,A)
【文献】特開2021-085753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
G01C 15/00
G01C 7/00
G01S 17/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空線上を走行し、搭載したレーザー計測装置により、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測するレーザー搭載型電線点検自走機であって、
前記架空線を前後の側面に挿通するようにして、前記架空線に吊設される直方体状の車体を備え、
前記車体は、架空線の下方かつ車体の底壁上に載置されるレーザー計測部と、レーザー計測部の後方に隣接して設けられる両側方と下方の3方が開放されたレーザー照射室とを有し、
前記レーザー計測装置は、前記底壁の後端側に載置される本体部と、本体部から後方へ延出するとともに、前記レーザー照射室に収容されるレーザー照射部とを備え、
前記レーザー照射部は、架空線と平行に延びる回動軸を軸心とする扁平円筒状のレーザー照射窓を有し、
レーザー計測装置が、前記架空線に平行な回動軸に直交する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に135度以上ずつの回動範囲を回動させるようにしてレーザー光を照射するよう構成されていることを特徴とするレーザー搭載型電線点検自走機。
【請求項2】
架空線を挟んで架空線の真上と真下から架空線を撮影するよう前記車体に固定された一対の架空線撮影装置を備える請求項1に記載のレーザー搭載型電線点検自走機。
【請求項3】
前記レーザー計測装置は、前記車体の上面の側辺に沿って設けられる前後一対の衛星測位システム用アンテナにより得られたデータをレーザー計測により得られた情報と紐づけるよう構成されている請求項1に記載のレーザー搭載型電線点検自走機。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザー搭載型電線点検自走機を用いて、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測する離隔距離計測方法であって、
レーザー計測装置のレーザー光を、前記架空線に平行な回動軸に交差する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に135度以上ずつの回動範囲を回動させるようにして照射するレーザー計測工程と、
前記レーザー計測工程と並行して、前記自走機に搭載した架空線撮影装置により前記自走機が懸架された架空線を動画にして撮影する架空線撮影工程と、
前記架空線撮影工程で撮影した動画と、前記レーザー計測工程で計測したデータを紐づける架空線動画紐づけ工程とを有する離隔距離計測方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザー搭載型電線点検自走機を用いて、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測する離隔距離計測方法であって、
レーザー計測装置のレーザー光を、前記架空線に平行な回動軸に交差する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に135度以上ずつの回動範囲を回動させるようにして照射するレーザー計測工程と、
前記レーザー計測工程と並行して、前記自走機に搭載した外方撮影装置により前記自走機の下方、及び/又は側方を動画にして撮影する外方撮影工程と、
前記外方撮影工程で撮影した動画と、前記レーザー計測工程で計測したデータの情報を紐づける外方動画紐づけ工程とを有する離隔距離計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架空送電線と樹木や家屋等との離隔距離を計測する方法、及び装置に関し、特にレーザー計測装置を用いて行う離隔距離計測方法、及びこれに用いる自走機に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線は、法令や技術標準により周辺の樹木や家屋等との離隔距離を一定以上とする必要があり、送電事業者は定期的にこの離隔距離を計測し、危険な樹木を伐採したりする必要がある。この離隔を効率良く計測する方法として、架空送電線路自走機に搭載したレーザー測距装置を用いる方法が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1では、架空地線に懸架されてこれに沿って走行する自走機にレーザー測距装置を搭載し、レーザービームを揺動させながら下方の樹木や電線との離隔を計測する計測装置が提案されている。特許文献1の計測装置では、自走機が横揺れしても計測範囲が狭くならないように、レーザー測距装置を揺動可能に支持し、自重により鉛直下方を向くように構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、自走機に搭載したレーザー計測装置により得られた計測データを衛星測位データと関連付け、計測対象物の3次元座標データを得るようにした送電線下離隔計測システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-154909号公開公報
【文献】特開2007-107962号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2の計測装置では、架空地線下方の狭い範囲のみを計測するため、送電線側方の傾斜地や高木を十分に計測できないという問題がある。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、送電線に隣接する傾斜地や高木も十分に計測可能な離隔距離計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は 架空線上を走行し、搭載したレーザー計測装置により、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測するレーザー搭載型電線点検自走機であって、レーザー計測装置が、前記架空線に平行な回動軸に交差する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に90度以上ずつの回動範囲を回動させるようにしてレーザー光を照射するよう構成され、直方体状の車体を備え、前記車体は、底壁を有するレーザー計測部と、レーザー計測部の後方に隣接して設けられる両側方と下方の3方が開放されたレーザー照射室とを有し、前記レーザー計測装置は、前記底壁の後端側に載置される本体部と、本体部から後方へ延出するとともに、前記レーザー照射室に収容されるレーザー照射部を備え、前記レーザー照射部は、架空線と平行に延びる回動軸を軸心とする扁平円筒状のレーザー照射窓を有することを特徴とする。
ここで、「架空線」とは、送電線と架空地線(グランドワイヤ)の両方を含むものとする。
【0008】
本発明のレーザー搭載型電線点検自走機は、このように、架空線に平行な回動軸に交差する方向に照射されるレーザー光を、当該回動軸周りの鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に90度以上ずつ回動させるようにしたので、送電線の側方に有る樹木や家屋を十分に計測することができる。
【0009】
本発明のレーザー搭載型電線点検自走機は、前記回動範囲が、前記回動軸周りの両方向に135度以上ずつであることが好ましい。こうすることで、隣接する傾斜地の傾斜が急であっても、樹冠まで、十分にレーザー光を照射することができる。
【0010】
本発明のレーザー搭載型電線点検自走機は、架空線を挟んで架空線の真上と真下から架空線を撮影するよう前記車体に固定された一対の架空線撮影装置を備えることが好ましい。また、本発明のレーザー搭載型電線点検自走機は、前記レーザー計測装置が、前記車体の上面の側辺に沿って設けられる前後一対の衛星測位システム用アンテナにより得られたデータと紐づけるよう構成されていることが好ましい。
【0011】
本発明は、上記のレーザー搭載型電線点検自走機を用いて、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測する離隔距離計測方法であって、レーザー計測装置のレーザー光を、前記架空線に平行な回動軸に交差する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に90度以上ずつの回動範囲を回動させるようにして照射するレーザー計測工程と、前記レーザー計測工程と並行して、前記自走機に搭載した架空線撮影装置により前記自走機が懸架された架空線を動画にして撮影する架空線撮影工程と、前記架空線撮影工程で撮影した動画と、前記レーザー計測工程で計測したデータを紐づける架空線動画紐づけ工程とを有する離隔距離計測方法を含む。
このように、架空線を撮影することで架空線に付いた傷を見つけることができる。架空線撮影装置で撮影した動画とレーザー計測工程で計測したデータを紐づけることで、レーザー計測工程で得られた3次元点群データから作成された点群図の架空線周囲の樹木や建物を参考にして架空線の傷の位置を容易に特定できる。
【0012】
本発明は、上記のレーザー搭載型電線点検自走機を用いて、送電線と周辺の物体との離隔距離を計測する離隔距離計測方法であって、レーザー計測装置のレーザー光を、前記架空線に平行な回動軸に交差する方向に、かつ当該回動軸の鉛直下方から当該回動軸周りの両方向に90度以上ずつの回動範囲を回動させるようにして照射するレーザー計測工程と、前記レーザー計測工程と並行して、前記自走機に搭載した外方撮影装置により前記自走機の下方、及び/又は側方を動画にして撮影する外方撮影工程と、前記外方撮影工程で撮影した動画と、前記レーザー計測工程で計測したデータの情報を紐づける外方動画紐づけ工程とを有する離隔距離計測方法を含む。
こうすることで、レーザー計測により得られた点群図と、外方撮影装置で撮影した動画や静止画像を見比べて、伐採すべき樹木等を容易に見つけることができる。また、外方撮影装置で撮影した動画等から、自走機の下方に有る送電線の傷を見つけたり、側方に有る危険な樹木を見つけたりできる。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明の離隔距離計測方法、及びレーザー搭載型電線点検自走機によれば、離隔距離計測を行う送電線に隣接して傾斜地や高木がある場合でも、これらのレーザー計測を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一の実施形態に係るレーザー搭載型電線点検自走機の使用状態を示した斜視図である。
【
図2】
図1に示したレーザー計測装置の照射範囲を示す説明図である。
【
図3】
図1に示したレーザー搭載型電線点検自走機の架空線撮影装置、下方撮影装置、及び側方撮影装置を示す模式図である。
【
図4】
図1に示した自走機により傾斜地のレーザー計測を行う様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を用いながら本発明の実施形態について詳述する。
図1は、本発明の一の実施形態に係るレーザー搭載型電線点検自走機100(以下、単に「自走機100」ともいう。)を示している。自走機100は、架空地線や送電線等からなる単線の架空線A上を自走させて用いるもので、直方体状の車体1と、自走機100を架空線Aに沿って走行させる駆動部2と、架空線Aの周辺の植生や地盤、設備等の計測や撮影を行う計測部3と、自走機100の走行、及び/又は、計測部3による計測の遠隔操作を行うリモコン(不図示)とを主に備えている。
【0016】
また、本発明の離隔距離計測方法は、レーザー計測工程と、架空線撮影工程と、架空線動画紐づけ工程と、外方撮影工程と、外方動画紐づけ工程とを備えている。尚、本発明は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0017】
車体1は、アルミニウムの押し出し成型材(アルミフレーム)を組み立てて形成した枠体の上面、下面、及び側面の一部を適宜板材で塞いで、進行方向前側から見た正面視における幅方向より、高さ方向、及び前後方向が長い直方体状に設けられ、前後方向に架空線Aが挿通可能に構成されている。
【0018】
駆動部2は、架空線A状を走行する前後一対の鼓状の車輪21,21と、車輪21,21を、プーリーを介して駆動する駆動モータ(不図示)とを備えている。駆動部2は、車体1の上部に設けられ、自走機100を架空線Aに懸架した際には、架空線Aの上側に位置することになる。駆動部2は、上方、前後(
図3の左右)の両方、左右(
図1の左右)の一方を板材で閉塞し、左右の他方をメッシュ材で通気可能に閉塞している。
【0019】
計測部3は、レーザー計測装置4と、架空線撮影装置51,52と、下方撮影装置(外方撮影装置)61と、一対の側方撮影装置(外方撮影装置)62,62と、操作盤7と、前後一対の衛星測位システム用アンテナ9,9と、これらに電圧を供給するバッテリー8と、を備えている。
【0020】
レーザー計測装置4は、レーザー計測工程で用いられ、底壁11の後端側に載置される本体部4aと、本体部4aから後方へ延出するレーザー照射部4bとを備えている。レーザー照射部4bは、計測用のレーザー光を照射し、反射して戻ったレーザー光を受信する扁平円筒状のレーザー照射窓4cを有している。レーザー照射部4bは、レーザー光を通過すべく下方と両側方の3方が開放されたレーザー照射室12に収容されている。
【0021】
レーザー照射窓4cは、架空線Aと略平行に延びる回動軸4dを軸心とする扁平円筒状をなし、回動軸4dと直交する方向を中心に回動軸4d方向に30度の角度幅を持った帯状のレーザー光を発射する。レーザー照射窓4cから照射されるレーザー光は、回動軸4dの鉛直下方から回動軸4dの周方向の両側に90度以上ずつ、計180度以上回動することが重要である。
こうすることで、自走機100を懸架した架空線より低い位置にある物体に対し全てレーザー光を照射することできる。
【0022】
レーザー光の照射方向は、
図4に示すように、回動軸4dの鉛直下方から回動軸4dの周方向の両側に135度以上ずつ、合計で270度以上(例えば、330度)回動することが好ましい。一般に高圧鉄塔Bが設置される傾斜面Eとしては、傾斜角が最大40度程度であり、このような範囲でレーザー光の照射方向を回動させることで、自走機100を懸架した架空線から仰角が45度以上となる斜め上方までレーザー光を照射できるので、
図4に示すように、傾斜面Eの樹木Cを概ね樹冠まで計測することができる。かかるレーザー計測装置としては、例えば、Riegl社製のVUX-SYSを用いることができる。
【0023】
レーザー計測装置4は、衛星測位システム用アンテナ9,9から得られた位置情報をメタデータとして、レーザー計測により得られたデータに紐づけすることで、3次元点群データを形成する。
【0024】
架空線撮影装置51,52は、架空線撮影工程で用いられ、
図3に示すように、架空線Aを上下から動画で撮影する。架空線撮影装置51,52で撮影された動画データは、架空線動画紐づけ工程において、衛星測位システム用アンテナ9,9から得られた位置情報や、時刻等のデータを介して、レーザー計測装置4に係るデータと紐づけられ、例えば、動画上で架空線Aに傷が見つかった場合に、当該傷の位置を点群図上に表示できるよう構成されている。
【0025】
下方撮影装置61、側方撮影装置62,62は、外方撮影工程で用いられ、例えば、150度広角のデジタルカメラ等からなり、
図3に示すように、それぞれ、自走機100の下方、及び側方を動画で撮影する。これにより、自走機100を懸架した架空線Aより下方にある送電線等を撮影し、側方に有る樹木や建築物を撮影する。下方撮影装置61、側方撮影装置62,62で撮影された動画データは、外方動画紐づけ工程において、衛星測位システム用アンテナ9,9から得られた位置情報や、時刻等のデータを介して、レーザー計測装置4に係るデータと紐づけられ、点群図上で離隔距離内に侵入した樹木等を発見した場合には、当該樹木の位置を下方撮影装置61、側方撮影装置62,62で撮影した画像を参照できるよう構成され、樹木の位置を容易に把握できるように構成されている。また、下方撮影装置61で撮影された動画上で架空線Aの下方の送電線等に傷が見つかった場合に、当該傷の位置を点群図上に表示させることができる。
【0026】
以上、本発明は、上述した実施形態に限られず、例えば、レーザー照射方向は、回動軸周りに270度以上回動してもよいし、360度の回転を同じ方向に連続して繰り返してもよい。架空線計測工程や、外方撮影工程は備えなくてもよい。レーザー計測部は、自走機の前側や自走機を懸架する架空線より上方に配設してもよい。自走機は、架空地線に限らず、送電を停止した送電線に懸架するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
架空線A
100 レーザー搭載型電線点検自走機
4 レーザー計測装置
4d 回動軸
51,52 架空線撮影装置
61 下方撮影装置(外方撮影装置)
62 側方撮影装置(外方撮影装置)
【要約】 (修正有)
【課題】離隔距離計測を行う送電線に隣接して傾斜地がある場合でも、十分に周囲のレーザー計測を行うことができるようにする。
【解決手段】本発明は、架空線A上を自走する自走機100に搭載したレーザー計測装置により、架空線Aに沿って張設された架空線と周辺の樹木C等との離隔距離を計測する離隔距離計測方法である。本発明に係る離隔距離計測方法では、架空線Aに平行な回動軸4cに交差する方向に、かつ回動軸4cの鉛直下方から回動軸4c周りの両方向に90度以上ずつの回動範囲を回動させるようにして、レーザー光を照射する。
【選択図】
図1