(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】弁構造体及び作業機械
(51)【国際特許分類】
F16K 17/04 20060101AFI20230217BHJP
F16K 17/10 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
F16K17/04 E
F16K17/10
(21)【出願番号】P 2018141521
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100130719
【氏名又は名称】村越 卓
(72)【発明者】
【氏名】山本 良宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰輔
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-099350(JP,A)
【文献】特開平11-030351(JP,A)
【文献】特開平04-327084(JP,A)
【文献】国際公開第2007/040169(WO,A1)
【文献】特開2002-295702(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083994(WO,A1)
【文献】特開平05-306782(JP,A)
【文献】特開2004-156654(JP,A)
【文献】特開昭50-070923(JP,A)
【文献】実公昭42-2161(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 15/00-17/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並んで配置される弁体及び弁座部材と、
ばねを有し、前記ばねによって前記弁体を前記弁座部材に向けて押し、前記軸方向の弾性力及び前記軸方向と直角を成す半径方向の弾性力を前記ばねの構造に基づいて前記弁体に対して作用させる押し付け部と、を備え、
前記ばねの中心軸は、自然長の場合に0以外の曲率を持つ曲線を描く、弁構造体。
【請求項2】
軸方向に並んで配置される弁体及び弁座部材と、
前記弁体に接触するばねを有し、当該ばねによって前記弁体を前記弁座部材に向けて押す押し付け部と、
前記ばねの弾性を調整する弾性調整部材であって、前記軸方向に関する位置が前記ばねの少なくとも一部と同じであり、前記軸方向の弾性力及び前記軸方向と直角を成す半径方向の弾性力を前記押し付け部から前記弁体に対して作用させる弾性調整部材と、を備え、
前記弁体は、円錐状
の面を有し、
前記ばねは、前記弁体の前記
円錐状の面を前記弁座部材に向けて押す、弁構造体。
【請求項3】
前記ばねは、前記軸方向に関して弾性変形可能に設けられるとともに、前記半径方向に関して弾性変形可能に設けられる請求項1又は2に記載の弁構造体。
【請求項4】
前記ばねは、自然長の場合に前記軸方向に延びつつ前記半径方向に延びる曲線に沿って湾曲する請求項1~3のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項5】
前記ばねは、前記弁体に接触する一端面であって、自然長の場合に前記半径方向と非平行に延びる一端面を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項6】
前記弾性調整部材は、前記ばねの一部を拘束して、当該一部の前記軸方向への移動を制限する請求項2に記載の弁構造体。
【請求項7】
前記ばねは、前記弁体に接触する一端面とは反対側に設けられる他端面であって、自然長の場合に前記半径方向と平行に延びる他端面を有する請求項1~6のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項8】
前記ばねは、前記弁体に接触する一端面であって、自然長の場合に前記半径方向と平行に延びる一端面を有する請求項1~4、6及び7のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項9】
第1流路と第2流路との間の第1連絡路を閉鎖又は開放する親弁ユニットと、
前記第1流路に連通される第3流路と、第4流路との間の第2連絡路を閉鎖又は開放する子弁ユニットと、を備え、
前記親弁ユニット及び前記子弁ユニットのうち少なくとも一方は、前記弁体、前記弁座部材及び前記押し付け部を含む請求項1~8のいずれか一項に記載の弁構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の弁構造体を備える作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リリーフ弁等の弁構造体及び作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
リリーフ弁は、通常、圧縮コイルばねにより押された弁体が弁座に押しつけられることで閉弁状態に置かれ、圧縮コイルばねの押し付け力に対抗する作動流体からの圧力を受けた弁体が弁座から離れることで開弁状態に置かれる。弁体は、開弁状態において位置が不安定になるため、半径方向に振動する傾向がある。弁体が振動して弁座等の構成部材と繰り返し衝突することで、騒音(特に高周波数音)がもたらされ、また弁体や弁座等の構成部材の破損や寿命短縮の懸念がある。
【0003】
特許文献1~3は、そのような弁体の振動を低減するための技術を開示している。例えば特許文献1の圧力制御弁では、ばね座の支持面を傾斜させることにより、開弁時に弁体を部分的に弁座に押しつけつつ弁体の一部のみを弁座から離間させて、弁体の振動を防いでいる。また特許文献2が開示するリリーフ弁では、子弁と接触するピストンの面を傾斜させることによって、子弁の径方向への振動を防いでいる。また特許文献3が開示する弁では、圧縮コイルばねよりも弾性係数が低い材料で構成されるばね保持部材が圧縮コイルばねを接触保持することによって、圧縮コイルばねの径方向への動きを規制して、弁体の振動を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-61554号公報
【文献】特開平11-159648号公報
【文献】特開2002-295702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1~3の弁構造体によれば開弁時の弁体の振動を抑制することが可能であるが、より簡素に構成され、効率良く弁体の振動を抑制し、安価に製造可能な弁構造体の新たな提案が望まれている。
【0006】
例えば特許文献1及び特許文献2の弁構造体では、ばね座に傾斜面を形成したりピストンに傾斜面を形成したりする必要がある。そのような傾斜面を各部材に形成する作業は手間がかかり、また傾斜面の傾斜角を所望角度に一致させるために高度な加工精度が要求される。また特許文献1や特許文献3の弁構造体では、傾斜面を持つばね座やばね保持部材を設ける必要がある。このように特別な追加要素を設けることは、コストの増大を招くだけではなく、構造を複雑にして製造に手間がかかる。また特許文献1の弁構造体では、ばね座の傾斜面によってばねの姿勢を調整することで、間接的に弁体の振動を防いでいる。このような間接的な手法は、弁体の振動を効率的に抑制することが難しく、実際に使用するばねに応じて最適化された傾斜面をばね座に形成する必要がある。また特許文献1の弁構造体では、ばね座をばねに対して軸方向にずれた位置に配置する必要があるため、軸方向に関して構造が複雑化してサイズが大きくなる傾向がある。
【0007】
このように、開弁時の弁体の振動を抑制する弁構造体として、簡素な構造の弁構造体(とりわけ軸方向に関する構造の複雑化及び大型化を防ぐことができる弁構造体)、効率的に振動を抑制することができる弁構造体、及び安価に製造可能な弁構造体が望まれている。
【0008】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、弁体の振動を抑制することができる簡素な構造の弁構造体及び作業機械を提供することを目的とし、例えば軸方向に関する構造の複雑化及び大型化を防ぐことができる弁構造体及び作業機械を提供することを目的とする。また、弁体の振動を効率的に抑制することができる弁構造体及び作業機械を提供することを目的とする。また、安価に製造可能な弁体の振動を抑制することができる弁構造体及び作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、軸方向に並んで配置される弁体及び弁座部材と、ばねを有し、ばねによって弁体を弁座部材に向けて押し、軸方向の弾性力及び軸方向と直角を成す半径方向の弾性力をばねの構造に基づいて弁体に対して作用させる押し付け部と、を備える弁構造体に関する。
【0010】
本発明の他の態様は、軸方向に並んで配置される弁体及び弁座部材と、ばねを有し、当該ばねによって弁体を弁座部材に向けて押す押し付け部と、ばねの弾性を調整する弾性調整部材であって、軸方向に関する位置がばねの少なくとも一部と同じであり、軸方向の弾性力及び軸方向と直角を成す半径方向の弾性力を押し付け部から弁体に対して作用させる弾性調整部材と、を備える弁構造体に関する。
【0011】
ばねは、軸方向に関して弾性変形可能に設けられるとともに、半径方向に関して弾性変形可能に設けられてもよい。
【0012】
ばねは、軸方向に延びつつ半径方向に延びる曲線に沿って湾曲してもよい。
【0013】
ばねは、弁体に接触する一端面であって、半径方向と非平行に延びる一端面を有してもよい。
【0014】
弾性調整部材は、ばねの一部を拘束して、当該一部の軸方向への移動を制限してもよい。
【0015】
ばねは、弁体に接触する一端面とは反対側に設けられる他端面であって、半径方向と平行に延びる他端面を有してもよい。
【0016】
ばねは、弁体に接触する一端面であって、半径方向と平行に延びる一端面を有してもよい。
【0017】
弁構造体は、第1流路と第2流路との間の第1連絡路を閉鎖又は開放する親弁ユニットと、第1流路に連通される第3流路と、第4流路との間の第2連絡路を閉鎖又は開放する子弁ユニットと、を備え、親弁ユニット及び子弁ユニットのうち少なくとも一方は、弁体、弁座部材及び押し付け部を含んでもよい。
【0018】
本発明の他の態様は、上記の弁構造体を備える建設機械に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弁体の振動を抑制することができる簡素な構造の弁構造体を提供することができる。また本発明によれば、弁体の振動を効率的に抑制することができる弁構造体を提供することができる。また本発明によれば、安価に製造可能な弁体の振動を抑制することができる弁構造体を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る弁構造体の概略を例示する要部断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る弁構造体の概略を例示する要部断面図である。
【
図3】
図3は、ばねの断面構造例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、ばねの断面構造例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、ばねの断面構造例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、油圧ショベル(作業機械)の典型的な構成例の概略を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0022】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る弁構造体10の概略を例示する要部断面図である。弁構造体10は、弁体11、弁座部材12及び押し付け部14を備える。
【0023】
弁体11及び弁座部材12は、軸方向daに並んで配置され、相互間の間隙Cの大きさが可変である。軸方向daは、弁座部材12に形成された第2流路R2において弁体11が移動可能な方向であり、弁構造体10を長手方向に貫く軸A(例えば弁構造体10の中心軸)に沿った方向である。
【0024】
押し付け部14は、ばね13を有し、ばね13によって弁体11を弁座部材12に向けて押す。ばね13は、典型的にはコイルばねによって構成されるが、具体的な構成は限定されず、力が加わると弾性的に変形し、力を取り除くと元の状態に戻る性質を利用する機械要素である。
図1及び
図2に示す弁構造体10では、円錐状に形成された弁体11の底面(
図1及び
図2の上側面)が、ばね(圧縮コイルばね)13によって、弁座部材12の縁部E1、E2に向けて(
図1及び
図2の下向きに)軸方向daに押圧される。
【0025】
弁座部材12には、軸方向daに隣り合って設けられる第1流路R1及び第2流路R2が形成されており、これらの第1流路R1及び第2流路R2には圧油等の作動流体(液体及び気体を含む)が流される。図示の第1流路R1及び第2流路R2の各々は、円形の断面を有し、軸Aを中心軸とする概ね円柱状(すなわち円筒状)の形状を有する。軸方向daと直角を成す半径方向drに関し、第1流路R1の径(直径)は弁体11の最大径(最大直径)よりも小さく、第2流路R2の径は弁体11の最大径よりも大きい。そのため、第1流路R1と第2流路R2との間の境界には、縁部E1、E2を含む弁座部材12の段差部が形成される。第2流路R2内において、弁体11は軸方向daに往復移動可能である。また第1流路R1の径(特に縁部E1、E2における半径方向drの径)よりも断面径が小さい弁体11の前方部分(
図1及び
図2の弁体11の下側部分)は、第1流路R1に対して軸方向daに進入及び退避することが可能である。一方、第1流路R1の径(特に縁部E1、E2における半径方向drの径)以上の大きさを持つ弁体11の後方部分(
図1及び
図2の弁体11の上側部分)は、弁座部材12(特に縁部E1、E2)に邪魔されて第1流路R1に進入することができない。
【0026】
第1流路R1及び第2流路R2は作動流体で満たされており、第1流路R1内の作動流体の圧力と第2流路R2内の作動流体の圧力との差に応じて、軸方向daに関する弁体11の位置が定まる。第1流路R1内の作動流体の圧力と第2流路R2内の作動流体の圧力との差が所定範囲内の場合、弁体11は、押し付け部14のばね13により押され、弁座部材12の縁部E1、E2に密着する。この場合、
図1に示すように、弁体11と弁座部材12との間には間隙Cが存在せず(すなわち「軸方向daに関する間隙Cの大きさ=0(ゼロ)」)、第1流路R1と第2流路R2とは弁体11によって遮断され、第1流路R1と第2流路R2との間で作動流体は基本的に往来しない。したがって、第1流路R1内の作動流体の圧力及び第2流路R2内の作動流体の圧力は、お互いに影響されない。
【0027】
一方、第1流路R1内の作動流体の圧力が第2流路R2内の作動流体の圧力よりも大きくなり、第1流路R1内の作動流体の圧力と第2流路R2内の作動流体の圧力との差が所定範囲を超えた場合、弁体11は、押し付け部14のばね13の押し付け力に抗して移動し、弁体11と弁座部材12との間には間隙Cが形成される(すなわち「軸方向daに関する間隙Cの大きさ>0」)。間隙Cが形成されることによって、作動流体が第1流路R1から第2流路R2に流入し、第1流路R1内の作動流体の圧力が下がる。なお、ここでいう所定範囲は、弁体11に対して軸方向daに作用する力に応じて決められ、押し付け部14(ばね13)から弁体11に加えられる弾性力及び作動流体から弁体11に加えられる力に基づいて定められる。
【0028】
上述の弁構造体10において、本実施形態の押し付け部14は、ばね13の構造と、ばね13の弾性を調整する弾性調整部材(後述の
図5の符号「30」参照)とのうちの少なくともいずれか一方に基づいて、軸方向daの弾性力と、半径方向drの弾性力とを弁体11に対して作用させる。すなわち押し付け部14は、ばね13の構造に基づいて、軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を前記弁体に対して作用させることができる。また弾性調整部材によって、軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を押し付け部14から弁体11に対して作用させることができる。なお、ばね13が弁体11に対して半径方向drに弾性力を作用させる場合には、ばね13が異なる複数方向の弾性力を弁体11に加え且つそのような複数方向の弾性力が互いに打ち消し合って弁体11に対して実質的に半径方向drにばね13からの弾性力が働かない場合は含まれない。
【0029】
図示の弁構造体10では、ばね13が、軸方向daに関して弾性変形可能に設けられるとともに、半径方向drに関して弾性変形可能に設けられる。これにより、ばね13から弁体11に加えられる半径方向drの力に不均衡が生じ、ある特定の半径方向drに関してより強い力が弁体11に作用する。そのため、弁体11がばね13の押し付け力に抗して軸方向daに移動し、弁体11と弁座部材12との間に間隙Cが形成されている場合(すなわち開弁状態において)、
図2に示すように、弁体11の一部が弁座部材12の縁部(
図2では縁部E1)に密着した状態を維持しつつ、弁体11は部分的に弁座部材12の縁部(
図2では縁部E2)から離れる。このように、弁体11と弁座部材12との間に間隙Cが形成される場合であっても、弁体11が弁座部材12により支持されるので、開弁状態における弁体11の振動の発生を防ぐことができる。
【0030】
特に、ばね13の構造及び弾性調整部材(
図5の符号「30」参照)のうちの少なくともいずれか一方に基づいてそのような弁体11の振動の発生を防ぐことにより、弁体11の振動を防ぐために他の部材に傾斜面を設ける必要がない。また、ばね13の構造に基づいて弁体11の振動の発生を防ぐ場合には、特別な追加要素を設ける必要がなく、安価に弁構造体10を製造することができ、また弁体11の振動を直接的に効率良く抑制することができる。また弾性調整部材(
図5の符号「30」参照)に基づいて弁体11の振動の発生を防ぐ場合、そのような弾性調整部材の軸方向daに関する位置をばね13の少なくとも一部と同じにすることで、弁構造体10の軸方向daに関する構造が複雑化したり大型化したりすることを防ぐことができる。
【0031】
以下に、弁体11の振動の発生を防ぐためのより具体的な構造例について説明する。
【0032】
図3~
図5は、ばね13の断面構造例を示す概略図である。
図3及び
図4の各々は、ばね13の構造に基づいて弁体11の振動の発生を防ぐ場合のばね13を例示し、
図5は弾性調整部材30に基づいて弁体11の振動の発生を防ぐ場合のばね13を例示する。
【0033】
図3に示すばね13は、軸方向daに延びつつ半径方向drに延びる曲線に沿って湾曲する。上述のように圧縮コイルばねによってばね13が構成される場合、
図3に示すばね13の中心軸(以下、「ばね中心軸」とも称する)Asは、0(ゼロ)以外の曲率を持つ曲線を描く。なお、その曲線は、単一の曲率を持っていてもよいし、複数の異なる曲率を持っていてもよい。これによりばね13は、弁体11に対し、軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を作用させることができる。すなわち、ばね13を軸方向daに圧縮した際に当該ばね13によって発揮される弾性力は、軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を含むが、そのようなばね13の弾性力の全体的な方向は、軸方向daと非平行且つ半径方向drと非平行となる。
【0034】
図4に示すばね13では、弁体11に接触する一端面S1が、半径方向drと非平行に延びる。この場合にも、ばね13によって発揮される弾性力は軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を含むが、そのような弾性力の全体的な方向は、軸方向daと非平行且つ半径方向drと非平行となる。なお
図4に示すばね13のばね中心軸Asは、直線を描き、軸方向daと平行に延びている。ただし、一端面S1が半径方向drと非平行に延びつつ、ばね中心軸Asが湾曲して軸方向daと非平行であってもよい。
【0035】
図5に示すばね13では、弾性調整部材30がばね13の一部を拘束して、当該ばね13の一部の軸方向daへの移動を制限する。より具体的には、弾性調整部材30は、弁座部材12等の固定部材に固定されており、ばね13のうちの半径方向drに関する一方側(すなわち半径方向drに関する一部のみ;
図5では下側)において軸方向daに関する一部分のみを固定する。ばね13のうち弾性調整部材30により固定された部分は、基本的に軸方向daへ移動することができないため、実質的に弾性を示さず弾性力(押し付け力)を発揮しない。これにより、半径方向drに関し、ばね13が弁体11に対して及ぼす弾性力に不均衡が生じる。したがってこの場合にも、ばね13によって発揮される弾性力は軸方向daの弾性力及び半径方向drの弾性力を含むが、そのような弾性力の全体的な方向は、軸方向daと非平行且つ半径方向drと非平行となる。なお弾性調整部材30はばね13の一部を必ずしも完全には固定していなくてもよく、軸方向daに関するばね13の弾性を低減し、接触しているばね13の部分を変形しにくくすればよい。また弾性調整部材30の弾性は限定されないが、ばね13の移動を制限する観点から、軸方向daに関し、弾性調整部材30の弾性率はばね13の弾性率よりも大きいことが好ましい。
【0036】
なお、ばね13の一端面S1及び他端面S2の向き及び形状は適宜定めうる。例えば、ばね13のうち、弁体11に接触する一端面S1とは反対側に設けられる他端面S2は、半径方向drと平行に延びていてもよい。この場合、ばね13の他端面S2を支持する部材の支持面を半径方向drと平行に形成することで、ばね13を安定的に支持することが可能である。また、例えば
図3及び
図5に示すばね13において、弁体11に接触する一端面S1は、半径方向drと平行に延びていてもよいし、半径方向drと非平行に延びていてもよい。一端面S1が半径方向drと平行に延びる場合、ばね13の一端面S1の全体を弁体11(例えば
図1に示す弁体11)に対して安定的に接触させることが可能であり、ばね13から弁体11に対して安定的に押し付け力(弾性力)を与えることができる。
【0037】
次に、弁構造体10の応用例について説明する。
【0038】
上述の弁構造体10(特にばね13の構造や弾性調整部材30)は、様々なタイプの弁に応用することができ、その応用可能な弁は限定されない。例えば、リリーフ弁や減圧弁などの圧力制御弁や逆止弁などの他の弁に対し、弁構造体10を応用することが可能である。以下では、上述の弁構造体10を応用可能なリリーフ弁の一例について説明する。
【0039】
【0040】
図6に示すリリーフ弁50は、バランスピストン型リリーフ弁であり、弁本体を構成する本体部材110、112を備える。その弁本体には、アンチキャビテーション弁114、調圧用弁体115、ピストン116、パイロット用弁体118、プラグ(ばね収容部材)119、及びパイロットばね(圧縮コイルばね)120が組み込まれている。
【0041】
本体部材110は、前端側(
図6では左側)の小径部110a及び後端側(
図6では右側)の大径部110bを有し、本体部材112も前端側の小径部112a及び後端側の大径部112bを有する。本体部材110の大径部110bの内周面と本体部材112の小径部112aの外周面とがねじ構造を介して接続され、大径部110bと小径部112aとの間にはシール部材122が設けられている。本体部材110の小径部110aの外周面は、方向制御弁150のねじ孔にねじ構造を介して接続される。なお小径部110aと方向制御弁150との間にはシール部材138が配置されている。
【0042】
本体部材112の小径部112aからは当該小径部112aよりも小径のシート部(弁座部材)112sが前端側に延びており、このシート部112sの中心軸上には小径の弁孔(作動流体流通路)112cが形成されている。弁孔112cの後端(
図6では右端)開口周縁部はテーパー状に面取りされており、これにより弁座113が形成されている。また、シート部112sのうち小径部112aとの境界近傍部分には、本体部材112の内外を半径方向drに連通する連通口112dが形成されている。
【0043】
アンチキャビテーション弁114は、前端側の小径部114aと後端側の大径部114bとを有し、小径部114aと大径部114bとの間には段部114eが設けられている。小径部114aの内側には作動流体の一次側流路135が形成され、またアンチキャビテーション弁114と本体部材110との間には作動流体の二次側流路136を形成されている。
【0044】
大径部114bの後端部は、シート部112sの外側において当該シート部112sに対して嵌合し、大径部114bとシート部112sとの間にはシール部材124が設けられている。大径部114bのうちの前側部分には、大径部114bを半径方向drに貫通する作動流体の流通口114cが形成されている。小径部114aの前端面はテーパー状に形成され、方向制御弁150内のポンプポート(一次側ポート)Pとタンクポート(二次側ポート)Tとを区画するシール面114fを構成する。このシール面114fは、両ポートP、Tの交差部に形成されたテーパー状の弁座152に着座することで、両ポートP、Tを区画する。
【0045】
筒状の調圧用弁体115は、アンチキャビテーション弁114の大径部114b内においてシート部112sよりも前方の位置に軸方向daに移動可能に収容されており、この調圧用弁体115とシート部112sとの間には背圧室126が形成されている。調圧用弁体115の外周面と大径部114bの内周面との間にはシール部材123が設けられている。
【0046】
調圧用弁体115の前端外周部にはテーパー面115dが形成され、大径部114bには半径方向drの位置が変化する段差部が形成され、当該段差部によって弁座114dが構成される。弁座114dに対して調圧用弁体115のテーパー面115dが押し当てられることによって、流通口114cが調圧用弁体115により塞がれる。一方、弁座114dからテーパー面115dが離れることによって、流通口114cが開かれる。
【0047】
ピストン116は、前端側から後端側に順に配置された本体筒部116a、鍔部116b、及びポペット押圧軸部116cを有する。本体筒部116aの中心軸上には前方に開口する受圧室116dが形成され、本体筒部116aには絞り孔116eが形成され、当該絞り孔116eを介して受圧室116dの奥側と外側の背圧室126とが連通される。
【0048】
調圧用弁体115の前側部分は後側部分よりも内径が小さく、その前側部分にピストン116の本体筒部116aがほぼ隙間なく挿入される。この調圧用弁体115の前側部分の内側面と後側部分の内側面との境界に形成された段部115aとピストン116の鍔部116bとの間には、圧縮コイルばねからなる調整ばね128が設けられている。ポペット押圧軸部116cはシート部112sの弁孔112cに挿入されており、この弁孔112cの内周面とポペット押圧軸部116cの外周面との間には、作動流体が流通可能な軸方向daに延びる流通路が確保されている。
【0049】
パイロット用弁体118は、前方に向かうに従って断面径が徐々に小さくなるポペット118aと、ポペット118aの半径方向drに関する中心部から後方に延びる軸部118bとを有する。ポペット118aの外周面は、シート部112sの弁座113に接触可能な形状を有している。
【0050】
プラグ119は、本体部材112の大径部112b内に挿入されて固定されている。詳しくは、プラグ119に形成された雄ねじが大径部112bに形成された雌ねじにねじ結合されている。またプラグ119の雄ねじにねじ結合されたナット132によって、プラグ119は所望の挿入位置で大径部112bに固定されており、プラグ119の挿入位置に応じて、パイロットばね120の弾性力が調整されている。また、プラグ119の前部外周面と小径部112aの内周面との間にはシール部材130が設けられている。
【0051】
プラグ119は、前方に開口するばね収容室134を有し、本体部材112の内側空間とばね収容室134とによって弁室が形成される。ばね収容室134にはパイロットばね120が収容されている。パイロットばね120は、パイロット用弁体118の軸部118bの外側において軸部118bに嵌められた状態で、パイロット用弁体118のポペット118aの後端面とばね収容室134の奥端面(後端面)との間で圧縮されており、パイロットばね120の弾性力(圧縮力)によってパイロット用弁体118が前向きに押される。ポペット118aの円錐面が弁座113に押しつけられることにより、閉弁状態が保たれる。
【0052】
基本的に、ばね収容室134の内径は、パイロットばね120の外径よりも大きく設定されているが、ばね収容室134の奥端部134aのみ、その内径がパイロットばね120の外径と略同等に設定されている。パイロットばね120の後端は、この奥端部134aに挿入されて固定されている。
【0053】
図6に示すリリーフ弁50において、一次側流路135(第1流路)と二次側流路136(第2流路)との間の第1連絡路41を閉鎖又は開放する親弁ユニットは、調圧用弁体115、アンチキャビテーション弁114及び調整ばね128を含む。テーパー面115d及び弁座114dが互いに隙間無く密着することで第1連絡路41は閉鎖され、テーパー面115d及び弁座114dが少なくとも部分的に互いから離間することで第1連絡路41は開放される。また、受圧室116d及び孔116eを介して一次側流路135(第1流路)に対して連通される背圧室126(第3流路)と、ばね収容室134(第4流路)との間の第2連絡路42を閉鎖又は開放する子弁ユニットは、パイロット用弁体118、本体部材112及びパイロットばね120を含む。ポペット118a及び弁座113が互いに隙間無く密着することで第2連絡路42は閉鎖され、ポペット118a及び弁座113が少なくとも部分的に互いから離間することで第2連絡路42は開放される。
【0054】
このような親弁ユニット及び子弁ユニットを備えるリリーフ弁50の具体的な挙動については、例えば特開2002-295702号公報が参考になる。
【0055】
上述の構造を有するリリーフ弁50において、親弁ユニット及び子弁ユニットのうち少なくとも一方が、上述の弁体11、弁座部材12及び押し付け部14を含むことで、開弁時における弁体11の振動を有効に防ぐことができる。すなわち、親弁ユニット及び/又は子弁ユニットの押し付け部14が具備するばね(具体的には調整ばね128及び/又はパイロットばね120)が、軸方向daの弾性力と半径方向drの弾性力とを弁体11に対して作用させることで、上述のように弁体11の振動を抑制できる。
【0056】
したがって例えば、パイロットばね120を
図3及び
図4に示すばね13によって構成したり、パイロットばね120を
図5に示すばね13及び弾性調整部材30によって構成したりすることで、パイロット用弁体118の開弁時の半径方向drに関する振動を抑制することができる。また調整ばね128を
図3及び
図4に示すばね13によって構成したり、調整ばね128を
図5に示すばね13及び弾性調整部材30によって構成したりすることで、調圧用弁体115の開弁時の半径方向drに関する振動を抑制することができる。
【0057】
本発明は、上述の実施形態及び変形例には限定されない。例えば、上述の実施形態及び変形例の各要素に各種の変形が加えられてもよいし、実施形態及び変形例が部分的に組み合わせられてもよい。また、本発明によって奏される効果も上述の効果に限定されず、具体的な構成に応じた特有の効果が発揮される。
【0058】
例えば、上述の
図3に示すばね13は、ばね13が湾曲構造を有しているが、ばね13とは別個に設けられた部材(弾性調整部材(図示省略))によってばね13を湾曲させてもよい。そのような別個の部材の設置位置は特に限定されないが、軸方向daに関してばね13の少なくとも一部と同じであることが好ましく、例えば
図5に示す弾性調整部材30の位置のように、半径方向drに関してばね13とは隣り合う位置に設けられてもよい。
【0059】
またパイロット方式の弁及び直動方式の弁のいずれに対しても、上述の弁構造体10を応用することが可能である。
【0060】
[応用例]
上述の弁構造体10は、各種機械に搭載することが可能であり、特に油圧ショベル等の建設機械やその他の作業機械が上述の弁構造体10を備えることができる。
【0061】
図7は、油圧ショベル210の典型的な構成例の概略を示す外観図である。油圧ショベル210は、一般に、クローラを具備する下部フレーム244と、下部フレーム244に対して旋回可能に設けられる上部フレーム245と、上部フレーム245に取り付けられるブーム247と、ブーム247に取り付けられるアーム248と、アーム248に取り付けられるバケット249とを備える。アクチュエータとしての油圧シリンダ267、268、269は、ブーム用、アーム用、バケット用の油圧シリンダであり、それぞれブーム247、アーム248及びバケット249を駆動する。旋回モータ246によって上部フレーム245が旋回させられるように、上部フレーム245には旋回モータ246からの回転駆動力が伝達される。また走行モータ251によりクローラが駆動されて油圧ショベル210が走行するように、下部フレーム244のクローラには走行モータ251からの回転駆動力が伝達される。
【0062】
この油圧ショベル210において、例えば油圧シリンダ267、268、269、旋回モータ246及び/又は走行モータ251に含まれ或いは接続される油路のうちの適切な箇所に、上述の弁構造体10を含む弁が設置されていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 弁構造体
11 弁体
12 弁座部材
13 ばね
14 押し付け部
30 弾性調整部材
41 第1連絡路
42 第2連絡路
50 リリーフ弁
210 油圧ショベル(作業機械)
A 軸
As ばね中心軸
C 間隙
da 軸方向
dr 半径方向
E1 縁部
E2 縁部
R1 第1流路
R2 第2流路
S1 一端面
S2 他端面