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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】突入電流防止回路
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/10 20060101AFI20230217BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20230217BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
G05F1/10 304M
H02M7/12 Q
H02M3/155 B
H02M7/12 G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018192210
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020060986
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】仙田 悟
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 亘
(72)【発明者】
【氏名】新井 大輔
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-171297(JP,A)
【文献】特開2015-220430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0240026(US,A1)
【文献】特開2007-200817(JP,A)
【文献】特開2015-122544(JP,A)
【文献】特開2018-117114(JP,A)
【文献】特開2017-059786(JP,A)
【文献】特開2010-225765(JP,A)
【文献】特開2008-047767(JP,A)
【文献】特開2018-067730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 1/10
H02M 7/12
H02M 3/155
H01L 29/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部からの入力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記入力部と前記平滑コンデンサの間に挿入される突入電流防止回路と、
を備え、
突入電流防止回路はGaNパワーデバイスを備え、
前記GaNパワーデバイスは、横型であり、所定電圧以上の電圧を印加すると前記GaNパワーデバイスが有する2次元電子ガスのチャネル内電子が空乏化してオン抵抗が高くなる電流コラプス現象を有し、
前記GaNパワーデバイスは、電流コラプス現象を制御する手段を備えていること、
を特徴とするスイッチング電源。
【請求項2】
前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ゲート電極が前記ドレイン電極に近い位置に配置されていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項3】
前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間に、補助ゲート電極が設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項4】
前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ソース電極に電気的に接続されたソースフィールドプレートを設け、前記ソースフィールドプレートは、保護層を介して前記ゲート電極を覆い、ドレイン電極側端部は前記ゲート電極のドレイン電極側端部と平面視同一の位置にあること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項5】
前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ゲート電極とドレイン電極の間には、前記ドレイン電極と電気的に接続されたドレインフィールドプレートを備えていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項6】
前記GaNパワーデバイスは、第1ソース電極、第1ゲート電極、第2ゲート電極及び第2ソース電極が順に配置された双方向スイッチであり、前記第1ソース電極と前記第1ゲート電極に電気的に接続された第1ソースフィールドプレートと、前記第2ゲート電極と前記第2ソース電極に電気的に接続された第2ソースフィールドプレートをさらに備えていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項7】
前記GaNパワーデバイスは、デプレッション型であり、前記突入電流防止回路は、前記GaNパワーデバイスのデプレッション型に対応した回路であること、
を特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載のスイッチング電源。
【請求項8】
前記GaNパワーデバイスは、エンハンスメント型であり、前記突入電流防止回路回路は、前記GaNパワーデバイスのエンハンスメント型に対応した回路であること、
を特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載のスイッチング電源。
【請求項9】
前記GaNパワーデバイスは、第1電極と第2電極を備え、
前記第1電極と前記第2電極との間には、前記第1電極と電気的に接続された第1電極フィールドプレートと、前記第2電極と電気的に接続された第2電極フィールドプレートを備えていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項10】
前記第1電極と前記第2電極のいずれか一方の電極をショットキー接触とし、他方の電極をオーミック接触としたこと、
を特徴とする請求項9に記載のスイッチング電源。
【請求項11】
前記第1電極と前記第2電極を、オーミック接触の電極とし、双方向ダイオード機能を備えていること、
を特徴とする請求項9に記載のスイッチング電源。
【請求項12】
前記入力部は、直流電源であり、平滑コンデンサと電気的に接続されていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項13】
前記入力部は、交流電源であり、ダイオードブリッジ整流器で整流されること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項14】
前記入力部は交流電源であり、
前記突入電流防止回路はPFC回路のダイオードを構成していること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項15】
前記入力部は交流電源であり、
前記突入電流防止回路は、交流電圧を入力とするブリッジレスPFC回路のダイオードを構成していること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【請求項16】
前記平滑コンデンサと並列にDC/DCコンバータが接続されていること、
を特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源投入初期に発生する突入電流を制限して回路素子を保護する突入電流防止回路に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源の入力回路側には、ノイズの除去及び入力電圧を平滑化するため平滑コンデンサが設けられている。このため、動作開始時には、平滑コンデンサに電荷がチャージされるまで突入電流が流れる。突入電流が大きい場合、スイッチング電源の入力電圧が大きく変動し、他に接続されている回路に影響を及ぼす場合があり、突入電流防止回路が設けられている。
【0003】
突入電流防止回路は、抵抗素子とスイッチング素子としてのトランジスタを並列に接続した回路構成がある。電源を投入するときには、スイッチング素子をオフとして抵抗素子を介して平滑コンデンサを充電し、この平滑コンデンサの充電が完了した後には、スイッチング素子をオンさせることにより、突入電流を防止する。
【0004】
特許文献1で開示されている突入電流防止回路は、抵抗素子と定常時用トランジスタを並列に接続し、定常時用トランジスタの制御端子に、制御端子電圧をクランプするためのクランプ用トランジスタが接続される構成である。平滑コンデンサを抵抗との時定数でゆっくりと充電させるとともに、平滑コンデンサの充電が完了するとき、定常時用トランジスタのゲート・ソース間電圧が電源回路からの出力電圧とクランプ用トランジスタのゲートカットオフ電圧との差分でクランプさせることにより、直流入力電源からの入力電圧の変動が広い場合にも適用させることが可能である。
【0005】
特許文献2で開示されている突入電流防止回路は、直流電源に接続された負荷及びこの負荷と並列に接続された入力コンデンサと、この入力コンデンサへの突入電流を制限する電界効果トランジスタと、この電界効果トランジスタのゲート電圧を生成するためのバイアス抵抗と第一のコンデンサとを有する時定数回路と、電界効果トランジスタのドレイン・ゲート間に並列に接続された第二のコンデンサとを備えている。
【0006】
入力コンデンサへの充電電流に対し負帰還をかけ、充電電流を一定に保つことが可能である。電源の投入直後にゲート・ソース間のコンデンサに電圧が発生し、電界効果トランジスタのオン抵抗を速やかに下げ、突入電流を速やかに流すことができる。この負帰還は、入力コンデンサへの充電電流に対してかかるため、充電電流以外の電流には負帰還がかからず、負荷への電流供給を速やかに行うことができる。
【0007】
特許文献3で開示されている突入電流防止回路は、交流電圧入力での突入防止回路である。交流電圧を整流する整流回路と、整流回路の出力電流を平滑化する平滑コンデンサと、整流回路及び平滑コンデンサの間に接続される電界効果トランジスタと、平滑コンデンサの電圧が閾値より低い場合には電界効果トランジスタのゲートに第1のゲート電圧を供給し、平滑コンデンサの電圧が閾値より高い場合には電界効果トランジスタのゲートに第2のゲート電圧を供給する制御回路とを有している。第1のゲート電圧が供給された場合の電界効果トランジスタの抵抗は、第2のゲート電圧が供給された場合の電界効果トランジスタの抵抗より高い。交流電圧投入直後は、電界効果トランジスタの抵抗が高くなるので、突入電流を防止することができる。
【0008】
特許文献4では、交流電圧を入力とするブリッジレス力率改善回路を備えたスイッチング電源における突入電流防止回路が開示されている。交流電圧の入力部と、入力部に交流電圧に対して並列に接続されたラインコンデンサ(平滑コンデンサ)を少なくとも含む力率改善回路用の入力フィルタと、入力フィルタよりも交流電圧に対して離れるように入力部に接続されたブリッジレス力率改善回路と、突入電流を抑制するための突入電流防止回路とを備えている。突入電流防止回路は、抵抗、サーミスタ、サイリスタ及びリレー等で構成されている。
【0009】
特許文献5では、電圧源からの電圧投入時の整流回路の出力電流値を、定常動作時の整流回路の出力電流値よりも高い出力電流値に制限するノーマリーオン型トランジスタによる突入電流防止回路が提案されている。電圧源から供給される交流電流を整流する整流回路と、整流回路からの出力電流により充電される平滑コンデンサと、整流回路と平滑コンデンサとの間に直列に接続されるとともに、電圧源からの電圧投入時の整流回路の出力電流値を、定常動作時の整流回路の出力電流値よりも高い出力電流値に制限するノーマリーオン型トランジスタとを備えている。ノーマリーオン型のトランジスタは、窒化ガリウム(GaN)などの窒化物半導体により形成された高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)である。
【0010】
GaN-HEMTは、高電圧動作でのトランジスタのオン抵抗が著しく高くなってしまう電流コラプス現象があり、ゲート電極近傍での電界集中を抑えるフィールドプレート構造がある。フィールドプレート構造は様々な構造が提案されているが、特許文献6では、ゲート電極が、第1の領域と第2の領域からなり、ドレイン電極側の一部に、第1の領域より抵抗の高い第2の領域を備えていることにより、抵抗の高い領域に電界が分布するようにして、ゲート電極近傍での電界集中を緩和する構造も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-250643号公報
【文献】特開2005-045957号公報
【文献】特開2015-171297号公報
【文献】特開2012-175833号公報
【文献】特開2015-065082号公報
【文献】特開2010-272729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来例は突入電流を防止するために並列接続した抵抗と半導体スイッチをコンデンサと直列に接続し電源投入後、コンデンサの初期充電が完了するまでは半導体スイッチをオフさせておき、その後半導体スイッチをオンさせる必要がある。そのため、半導体スイッチのオン・オフの時間制御をするための回路が必要で複雑となる。入力コンデンサへの充電電流に対し負帰還をかけ、充電電流を一定に保つためには、負帰還回路が必要であり、さらに回路が複雑になる。
【0013】
交流電圧入力で、平滑コンデンサの電圧が閾値より低い場合には電界効果トランジスタのゲートに第1のゲート電圧を供給し、平滑コンデンサの電圧が閾値より高い場合には電界効果トランジスタのゲートに第2のゲート電圧を供給する制御回路を有する突入電流防止回路は、制御回路が必要であり、回路が複雑となる。
【0014】
交流電圧を入力とするブリッジレス力率改善回路を備えたスイッチング電源における突入電流防止回路は、抵抗、サーミスタ、サイリスタ及びリレー等で構成されているが、突入電流防止回路での損失が大きい。
【0015】
電源からの電圧投入時の整流回路の出力電流値を、定常動作時の整流回路の出力電流値よりも高い出力電流値に制限するノーマリーオン型トランジスタを備えた突入電流防止回路は、簡単な回路構成である。しかしながら、ノーマリーオン型のトランジスタを、窒化ガリウムなどの窒化物半導体により形成された高電子移動度トランジスタとすると、電流値の制御が難しく、制御回路を使用すると回路が複雑になる。
【0016】
本発明は、これらの課題を解決し、素子自体に電流制御機能を備えたGaNパワーデバイスにより、簡単な回路で突入電流を防止することが可能なスイッチング電源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明のスイッチング電源は、入力部からの入力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記入力部と前記平滑コンデンサの間に挿入される突入電流防止回路とを備え、突入電流防止回路はGaNパワーデバイスを備え、前記GaNパワーデバイスは横型であり、所定電圧以上の電圧を印加すると前記GaNパワーデバイスが有する2次元電子ガスのチャネル内電子が空乏化してオン抵抗が高くなる電流コラプス現象を有し、前記GaNパワーデバイスは、電流コラプス現象を制御する手段を備えていることを特徴とする。
【0018】
(2)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ゲート電極が前記ドレイン電極に近い位置に配置されていることが好ましい。
【0019】
(3)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間に、補助ゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0020】
(4)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、前記ソース電極に電気的に接続されたソースフィールドプレートを設け、前記ソースフィールドプレートは、保護層を介して前記ゲート電極を覆い、ドレイン電極側端部は前記ゲート電極のドレイン電極側端部と平面視同一の位置にあることが好ましい。
【0021】
(5)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ゲート電極とドレイン電極間には、前記ドレイン電極と電気的に接続されたドレインフィールドプレートを備えていることが好ましい。
【0022】
(6)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、第1ソース電極、第1ゲート電極、第2ゲート電極及び第2ソース電極が順に配置された双方向スイッチであり、前記第1ソース電極と前記第1ゲート電極に電気的に接続された第1ソースフィールドプレートと、前記第2ゲート電極と前記第2ソース電極に電気的に接続された第2ソースフィールドプレートをさらに備えていることが好ましい。
【0023】
(7)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、デプレッション型であり、前記スイッチング回路は、前記GaNパワーデバイスのデプレッション型に対応した回路であることが好ましい。
【0024】
(8)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、エンハンスメント型であり、前記スイッチング回路は、前記GaNパワーデバイスのエンハンスメント型に対応した回路であることが好ましい。
【0025】
(9)本発明のスイッチング電源においては、前記GaNパワーデバイスは、第1電極と第2電極を備え、前記第1電極と前記第2電極との間には、前記第1電極と電気的に接続された第1電極フィールドプレートと、前記第2電極と電気的に接続された第2電極フィールドプレートを備えていることが好ましい。
【0026】
(10)本発明のスイッチング電源においては、前記第1電極と前記第2電極のいずれか一方の電極をショットキー接触とし、他方の電極をオーミック接触としたことが好ましい。
【0027】
(11)本発明のスイッチング電源においては、前記第1電極と前記第2電極を、オーミック接触の電極とし、双方向ダイオード機能を備えていることが好ましい。
【0028】
(12)本発明のスイッチング電源においては、前記入力電源は、直流電源であり、平滑コンデンサと電気的に接続されていることが好ましい。
【0029】
(13)本発明のスイッチング電源においては、前記入力電源は、交流電源であり、ダイオードブリッジ整流器で整流されることが好ましい。
【0030】
(14)本発明のスイッチング電源においては、前記入力電源は交流電源であり、前記突入電流防止回路はPFC回路のダイオードを構成していることが好ましい。
【0031】
(15)本発明のスイッチング電源においては、前記入力電源は交流電源であり、前記突入電流防止回路は、交流電圧を入力とするブリッジレスPFC回路のダイオードを構成していることが好ましい。
【0032】
(16)本発明のスイッチング電源においては、前記平滑コンデンサと並列にDC/DCコンバータが接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
(1)本発明のスイッチング電源は、突入電流防止回路はGaNパワーデバイスを備え、ドレイン電極とソース電極間に所定電圧以上を印加するとGaNパワーデバイスが有する2次元電子ガスのチャネル内電子が空乏化してオン抵抗が高くなる電流コラプス現象を制御する手段を備えているため、突入電流の最大値をGaNパワーデバイスの機能で制御することができる。このため、並列接続した抵抗は不要で半導体スイッチの時間制御も不要なため、回路の簡素化が出来る。
【0034】
(2)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ゲート電極がドレイン電極に近い位置に配置されているため、空乏化現象を促進し、さらにゲート電極とドレイン電極の距離により電流コラプス現象を制御できる。
【0035】
(3)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ゲート電極とドレイン電極の間に、補助ゲート電極が設けられているため、補助ゲート電極の駆動により電流コラプス現象を促進し、突入電流を防止することができる。
【0036】
(4)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ソース電極に電気的に接続されたソースフィールドプレートを設け、ソースフィールドプレートは、保護層を介してゲート電極を覆い、ドレイン電極側端部は前記ゲート電極のドレイン電極側端部と平面視同一の位置にあるため、ゲート電極の端部での電界をさらに集中させることができ、電流コラプス現象を促進し、突入電流を防止することができる。
【0037】
(5)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ゲート電極とドレイン電極間には、ドレイン電極と電気的に接続されたドレインフィールドプレートを備えているため、ドレイン電極へ印加する電圧をドレインフィールドプレートに印加できるので、電流コラプス現象を促進し、突入電流を防止することができる。
【0038】
(6)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、第1ソース電極と第1ゲート電極に電気的に接続された第1フィールドプレートと、第2ゲート電極と第2ソース電極に電気的に接続された第2フィールドプレートをさらに備えた双方向スイッチであるため、第1ソース電極と第2ソース電極の何れの電極に正負の電圧が印加されても、双方向で電流を流すことができ、第1フィールドプレートと第2フィールドプレートにより、電流コラプス現象を促進し、突入電流を防止することができる。
ができる。
【0039】
(7)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、デプレッション型であるため、電源投入時にゲート電圧とソース電圧が同じである場合も電流を流すことができ、電流コラプス現象により、最大電流を制限し、突入電流を防止することができる。
【0040】
(8)本発明のスイッチング電源によれば、前記GaNパワーデバイスは、エンハンスメント型であってもよく、ダイオード構造のGaNパワーデバイスに好適である。
【0041】
(9)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは横型であり、第1電極と第2電極を備え、第1電極と第2電極との間には、第1電極と電気的に接続された第1電極フィールドプレートと、第2電極と電気的に接続された第2電極フィールドプレートを備えているため、双方向に流した電流に対して、電流コラプス現象により、最大電流を制限し、突入電流を防止することができる。
【0042】
(10)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、第1電極と第2電極のいずれか一方の電極をショットキー接触とし、他方の電極をオーミック接触として一方向のダイオード機能を持たせることができ、電流コラプス現象により、最大電流を制限し、突入電流を防止することができる。
【0043】
(11)本発明のスイッチング電源によれば、GaNパワーデバイスは、第1電極と第2電極をョットキー接触とすることで、両方向のダイオード機能を持たせることができる。このため、電流コラプス現象により、最大電流を制限し、正負両方向の突入電流を防止することができる。
【0044】
(12)本発明のスイッチング電源によれば、前記入力電源は直流電源であり、平滑コンデンサと電気的に接続されているため、電源投入直後の突入電流を防止した小型のDC-DCコンバータを提供することができる。
【0045】
(13)本発明のスイッチング電源によれば、前記入力電源は交流電源であり、電源投入直後の突入電流を防止し、ダイオードブリッジ整流器で整流される突入電流を防止した小型のAC-DCコンバータを提供することができる。
【0046】
(14)本発明のスイッチング電源によれば、入力電源は交流電源であり、突入電流防止回路はPFC回路のダイオードを構成しているため、簡単な回路構成で、突入電流を防止した小型のAC-DCコンバータを提供することができる。
【0047】
(15)本発明のスイッチング電源によれば、入力電源は交流電源であり、突入電流防止回路は、交流電圧を入力とするブリッジレスPFC回路のダイオードを構成しているため、突入電流を防止した小型で高効率のAC-DCコンバータを提供することができる。
【0048】
(16)本発明のスイッチング電源によれば、前記平滑コンデンサと並列にDC/DCコンバータが接続されているため、突入電流を防止し、安定で小型のDC-DCコンバータ又AC-DCコンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施形態に係る突入電流防止回路16を備えたスイッチング電源を示す図である。
図2】平滑コンデンサ12の等価回路である平滑コンデンサ等価回路22を示す図である。
図3】平滑コンデンサ等価回路22を用いて、図1に示した本発明のスイッチング電源の定常時の電流の流れを説明する図である。
図4】電源投入時における本発明のスイッチング電源の等価回路を示す図である。
図5】負荷短絡時におけるスイッチング電源の等価回路を示す図である。
図6】GaN-HEMTの基本構造の模式的断面図である。
図7】GaNとAlGaNで形成されるヘテロ接合におけるエネルギーバンド図を示す図である。
図8】電流コラプス現象を説明する図である。
図9】GaN-HEMTのドレイン印加電圧Vに対する電流とオン抵抗の関係を示す図である。
図10】ドレイン印加電圧Vを印加した場合のゲート電極44とドレイン電極46の間の電位と電界強度を説明する図である。
図11】ゲート44の端部での電界強度を強くするために、補助ゲート電極45-1,45-2を設けたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスA100を説明する図である。
図12】ゲート電極44の端部に発生する電界強度を減少させるために、ゲート電極44にゲートフィールドプレート60を設けた構造を説明する図である。
図13】ゲート電極44端部への電界集中を促進するために、ソース電極42にソースフィールドプレート62を設けたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスB102を説明する図である。
図14】他の電流コラプス現象を促進するGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスC104を示す図である。
図15】GaNパワーデバイスC104の電位と電界強度を説明する図である。
図16】ゲートフィールドプレート60とドレインフィールドプレート64を備えたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスD106を説明する図である。
図17】GaN-HEMTのドレイン電極46とゲート電極44を接続し、ソース側に延伸したドレインフィールドプレート64を設けたGaNパワーデバイスE108を説明する図である。
図18】ソースフィールドプレートを2個備えたGaN-HEMTによる双方向スイッチであるGaNパワーデバイスF110を説明する図である。
図19】GaNによるダイオード構造のGaNパワーデバイスG112を説明する図である。
図20】本発明の電流コラプス現象を制御する手段を設けたGaNパワーデバイスで突入電流防止回路16を構成したスイッチング電源を示す図である。
図21】平滑コンデンサ12に直列に突入電流防止回路16を設けたスイッチング電源を示す図である。
図22】2つのGaNパワーデバイスで構成された突入電流防止回路16を備えたスイッチング電源を示す図である。
図23】エンハンスメント型でノーマリーオフ動作となるGaNパワーデバイス20を突入電流防止回路16に使用したスイッチング電源を説明する図である。
図24】入力部10を交流電源とするコンデンサインプット型のAC-DC変換によるスイッチング電源を説明する図である。
図25図24に示したコンデンサインプット型のAC-DC変換によるスイッチング電源において、突入電流防止回路を、交流ブリッジと兼用した構成とした図である。
図26】交流電源からのAC―DC変換において、力率を改善するためのPFC(力率改善)回路80を設けたスイッチング電源を説明する図である。
図27】PFC(力率改善)回路80を設けたスイッチング電源において、PFC回路80に突入電流防止回路16を兼用させたスイッチング電源を示す図である。
図28】交流電源からのAC―DC変換において、ブリッジレスPFC84に突入電流防止回路16を設けたスイッチング電源を示す図である。
図29】交流電源からのAC―DC変換において、ブリッジレスPFC84のダイオードに突入電流防止機能を備えたスイッチング電源を示す図である。
図30図29で示したスイッチング電源において、出力部14を、DC-DCコンバータ88としたスイッチング電源を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、また、他の既存の構成要素との組合せをする様々なバリエーションが可能である。したがって、本実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0051】
図1は、本発明の実施形態に係る突入電流防止回路を備えたスイッチング電源16を示す図である。入力部10からの入力電圧により平滑コンデンサ12に電流が流れ、平滑コンデンサ12を充電する。平滑コンデンサ12で平滑化された入力電圧は、出力部14へ印加され、所望の電圧に変換される。
【0052】
平滑コンデンサ12は、容量を大きくして平滑用に使用している。このような容量の大きな平滑コンデンサ12に対して、電源の投入時に充電電流が突入電流として流れることになる。従って、この突入電流を抑えないと定格電流以上の電流が流れて回路素子を破損するといった問題が生じる。このため、突入電流防止回路16を設けている。
【0053】
本発明の突入電流防止回路16は、入力部10と平滑コンデンサ12との間に設けられ、GaNパワーデバイス20と制御回路18から構成されている。GaNパワーデバイス20は横型であり、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極が順に配置され、ドレイン電極とソース電極間に所定電圧以上を印加するとGaNパワーデバイス20が有する2次元電子ガスのチャネル内電子が空乏化してオン抵抗が高くなる電流コラプス現象を有し、さらに電流コラプス現象を制御する手段を備えている。この電流コラプス現象を利用して、突入電流を防止している。
【0054】
GaNパワーデバイス20は、窒化ガリウムによる高電子移動度を利用したGaN-HEMT(High Erectron Mobility Trangistor)を使用して、ソースSを入力部10に接続し、ドレインDを平滑コンデンサ12に接続している。ゲートGは、制御回路18により制御され、制御回路の信号でGaN-HEMTの駆動が制御される。
【0055】
次に、図2~5を参照して、電源投入時の突入電流と電流コラプス現象の関係について説明する。
【0056】
図2は、平滑コンデンサ12の等価回路である平滑コンデンサ等価回路22を示す図である。平滑コンデンサ等価回路22は、平滑コンデンサ等価容量24と平滑コンデンサ等価抵抗26の並列回路で表すことができる。
【0057】
図3は、平滑コンデンサ等価回路22を用いて、図1に示した本発明のスイッチング電源の定常時の電流の流れを説明する図である。出力部14は負荷等価抵抗28、突入電流防止回路16は、GaN-HEMTのオン抵抗30で示している。入力電圧Vinが印加されると電流Iが流れる。電流Iは、負荷等価抵抗28とオン抵抗30に流れる電流と、平滑コンデンサ12の充放電電流である。平滑コンデンサ等価抵抗26は大きな抵抗値を有し、流れる電流は微小である。定常時は、GaN-HEMTのソースSとドレインDの間に印加される電圧は極めて低く、オン抵抗30の抵抗値も小さい。
【0058】
図4は、電源投入時における本発明のスイッチング電源の等価回路を示す図である。電源投入時は、平滑コンデンサ12は充電されていないので、平滑コンデンサ等価容量24は短絡しているとみなすことができる。このため、入力電圧Vinは、GaN-HEMTに直接印加され、突入電流Iinが流れる。このとき、GaN-HEMTには、入力電圧Vinが直接印されるため、高電圧に対する電流コラプス現象が生じてオン抵抗30が大きくなり、電流制限されて突入電流が防止される。
【0059】
図5は、負荷短絡時におけるスイッチング電源の等価回路を示す図である。負荷の短絡時には負荷等価抵抗28が短絡されているので、入力電圧Vinは、GaN-HEMTに直接印加され、突入電流Iinが流れ、電源投入時と同じく、GaN-HEMTには、入力電圧Vinが直接印加されるため、高電圧に対する電流コラプス現象が発生してオン抵抗30が大きくなり、電流制限されて突入電流が防止される。このように、本発明に用いる突入電流防止回路16は、負荷の短絡時にも効果がある。
【0060】
本発明は、GaNパワーデバイスが有する2次元電子ガスのチャネル内電子が空乏化してオン抵抗が高くなる電流コラプス現象を利用しており、図6~10を参照して、GaNパワーデバイスであるGaN-HEMTと電流コラプス現象について説明する。
【0061】
図6は、GaN-HEMTの基本構造の模式的断面図である。基板32は、SiC(炭化珪素)、GaN(窒化ガリウム)、Al(サファイア)、Si(シリコン)等により形成されている。i-GaNにより形成されているバッファ層34は、電子走行層36の転位密度を低くし、結晶性を良好にするために形成する。バッファ層34には、GaNで形成される電子走行層36と、AlGa1-xN(0.01≦x≦0.4)(窒化アルミニウムガリウム、以下AlGaNと略す。)で形成される電子供給層38が積層され、電子供給層38の表面は、SiN(窒化シリコン)等の保護膜40が設けられている。GaN-HEMTは横型構造のトランシスタであり、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46は横並びに配置されている。GaN-HEMTの動作は、図6のX-Y断面におけるエネルギーバンド図により次に説明する。
【0062】
図7は、GaNとAlGaNで形成されるヘテロ接合におけるエネルギーバンド図を示す図である。GaNのエネルギーバンドはAlGaNのエネルギーバンドより狭く、価電子帯52は連続しているが、伝導帯54は、AlGaNとの界面に、フェルミ準位50より3角形状に落ち込んだポテンシャル井戸を形成する。このヘテロ界面に、面方位の(0001)面を主面とするとGaNとAlGaNとの自発分極及びピエゾ分極により電荷が生じる。ヘテロ界面におけるシートキャリア濃度は、これら分極の効果によって、特にドーピングを行わなくても1×1013cm-2以上となる。このため、ヘテロ界面における2次元電子ガス(2DimenSional Electron Gas:2DEG)が発生する。
【0063】
電子供給層38であるAlGaN層の上から、オーミック接触となる2つの電極、即ちソース電極42とドレイン電極46に電圧を印加した場合を考える。ソース電極42を接地し、ドレイン電極46にドレイン電圧Vを印加すると、オーミック接触であるソース電極42から供給されて三角ポテンシャル井戸に落ち込んだ電子は、2次元電子ガス層で形成されたチャネルをヘテロ界面に沿って、ソース電極42からドレイン電極46へ高速度で移動する。
【0064】
ゲート電極44の直下におけるポテンシャル分布は、界面分極電荷の影響が大きい。このため、閾値電圧は負の値をとる場合が多く、電子の流れを無くする、即ち、ドレイン電流を0Aとするには、ゲート電極44に負の電圧を印加する必要がある。このデプレッション型の動作モードは、ノーマリーオンと呼ばれている。
【0065】
GaN-HEMTは、構造上、ゲートに電圧を印加しなくても導通するデプレッション型のノーマリーオン動作である。エンハンスメント型のノーマリーオフ動作とするためには、ゲート電極44直下のキャリア濃度を減少させて閾値電圧をプラス側にシフトさせることにより、実現することができる。例えば、リセス構造のゲートやp-GaN積層構造等である。
【0066】
GaN-HEMTには、2次元電子ガス層の電子が高い電圧で加速されると、2次元電子ガス層チャネル内の電子が空乏化され(電気伝導を担う電子が遠ざけられ)、その結果、チャネル抵抗、即ち、オン抵抗が高くなりドレイン電流が減少する電流コラプス現象が存在する。
【0067】
図8は、電流コラプス現象を説明する図である。ソース電極42とドレイン電極46間に電圧が印加され、電子走行層36での2次元電子ガス層の電子が高い電圧で加速されると、ポテンシャル障壁を超えてAlGaNの表面欠陥準位や保護層との界面にトラップされ、AlGaN層が負に帯電する。これによりその直下の2次元電子ガスのチャネル内の電子が空乏化される。
【0068】
図9は、GaN-HEMTのドレイン印加電圧Vに対する電流とオン抵抗の関係を示す図である。図9(A)は、ソース電極42を接地して、ゲート電極44にゲート印加電圧V、ドレイン電極46にドレイン印加電圧Vを印加した状態を示している。図9(B)は、ドレイン印加電圧Vと電流の関係を説明する図であり、この時のオン抵抗を図9(C)に示している。ゲート印加電圧Vが閾値以上のある一定の電圧である時、ドレイン印加電圧Vを高くしていくと電流は飽和し、さらにドレイン印加電圧Vを高くしても電流が抑制される。この時のオン抵抗は、ドレイン印加電圧Vを高くするほどオン抵抗も高くなる。この電流コラプス現象のオン抵抗を利用したのが、本発明の突入防止回路である。
【0069】
図10は、ドレイン印加電圧Vを印加した場合のゲート電極44とドレイン電極46の間の電位と電界強度を説明する図である。図10(A)は、GaN-HEMTのドレイン電極46にドレイン印加電圧Vが印加された直後の初期状態の電界強度、図10(B)はGaN-HEMTのドレイン電極46にドレイン印加電圧Vが印加された直後の初期状態の電位である。この初期状態では、ゲート電極44とドレイン電極46間の電位が直線的に増加し、電界強度は一定値となる。初期状態から過渡状態を経て電位と電界は定常状態になる。
【0070】
図10(C)は、GaN-HEMTのドレイン電極46にドレイン印加電圧Vが印加され,過渡状態から定常状態になった時の電界強度、図10(D)は、GaN-HEMTのドレイン電極46にドレイン印加電圧Vが印加され過渡状態から定常状態になった時の電位である。ドレイン印加電圧Vが印加されると、ドレイン電圧Vの印加直後は平坦な電界強度であるが、電界強度は、ゲート電極44の端部とドレイン電極46の端部に集中し、電界強度が高くなり、電子がホットエレクトロン化してトラップされ易くなる。電界強度は、ドレイン電極46の端部にも集中した電界が発生しているが、ドレイン電極46は電子を収集しドレイン電流を流すのが役割であり、ドレイン電極46が本来有する機能である。
【0071】
本発明の突入防止回路は、電流コラプス現象により増大したオン抵抗により電流を制限することで簡単な回路で実現することを目的としており、GaNパワーデバイスに対して積極的に電流コラプス現象を促進させ、突入電流を効果的に防止する。
【0072】
図11は、ゲート44の端部での電界強度を強くするために、補助ゲート電極45-1,45-2を設けたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスA100を説明する図である。HEMT構造のGaNパワーデバイスA100は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極44とドレイン電極46の間に、補助ゲート電極45-1、45-2が設けられている。図10で説明したように、ドレイン電圧V印加直後の平坦な電界強度から、ゲート電極44の端部においては電界強度が強くなるため、ゲート電極44とドレイン電極46の間に、補助ゲート電極45-1と45-2を設けて、ドレイン電極46との距離を短くしている。
【0073】
図11(A)は、補助ゲート電極45-1と45-2を設けたGaNパワーデバイスA100の模式的断面図を示している。このHEMT構造のGaNパワーデバイスA100は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極44とドレイン電極46の間に、補助ゲート電極45-1、45-2が設けられている。
【0074】
補助ゲート電極45-1と45-2の設置により、ドレイン電極46との距離が短くなり、例えば、ゲート電極44,補助ゲート電極45-1と45-2を接続して同電位とすると、図11(B)に示した様に、初期状態では補助ゲート電極45-2とドレイン電極46の間の電圧勾配は急になり、電界強度も強くなる。これにより電流コラプス現象が促進され、ドレイン印加電圧Vに対するオン抵抗が高くなり、突入電流も効果的に防止される。定常状態は電界が安定する状態であり、電界強度の変化に伴って電位分布も図11(B)の破線で示したようになる。
【0075】
オン抵抗の調整は、補助ゲート電極45-1及び45-2のみ使用して調整してもよい。ドレイン電極46との距離を変えることでオン抵抗の値を調整することができる。また、このHEMT構造のGaNパワーデバイスA100は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極44がドレイン電極46に近い位置に配置されていてもよい。
【0076】
従来、電流コラプス現象はGaN-HEMTの欠点とされ、いかに抑制するかが課題となっており、様々な方法が提案されてきている。本発明は、電流コラプス現象を利用した突入電流防止回路であるが、電流コラプス現象の抑制方法の原理を逆利用すれば電流コラプス現象を促進させ、本発明の目的が達成可能である。このため、フィールドプレート構造に着目した。
【0077】
図12は、ゲート電極44の端部に発生する電界強度を減少させるために、ゲート電極44にゲートフィールドプレート60を設けた構造を説明する図である。図12は、ゲートフィールドプレート60を設けたGaN-HEMT構造である。ゲートフィールドプレート60は、ゲートと電気的に絶続され、ドレイン電極46側に延びている。図12(B)は、ゲートフィールドプレート60を設けた時のゲート電極44とドレイン電極46の間のドレイン電圧V印加直後の初期状態での電位である。ゲートフィールドプレート60は、ゲート電極44に電気的に接続されているから、ゲート電極44と同電位であり、ゲートフィールドプレート60の領域で、図12(B)に示した向きに電界が発生する。保護層40は絶縁体であり、電子走行層36との間に電界が発生する。定常状態は電界が安定する状態であり、電界強度の変化に伴って電位分布も図12(B)の破線で示したようになる。
【0078】
図12(C)は、ゲートフィールドプレート60を設けた場合の電界強度である。ゲートフィールドプレート60の端部にも電界を分散させて電界の集中を抑制してトラップされ難くしている。さらに、ゲートフィールドプレート60領域に渡って、保護層40と電子供給層38の向きに電界を発生させているため、電子が保護層40と電子供給層38にトラップされるのを防止している。
【0079】
図12で説明したように、従来の電流コラプス現象抑制は、ゲートフィールドプレート60の端部による電界集中の分散と、ゲートフィールドプレート60による電界で保護層40と電子供給層38への電子のトラップを防止する方法である。
【0080】
従って、本発明の目的とする電流コラプスを促進ためには、従来と逆の考え方でGaN-HEMTを構成すればよい。
【0081】
図13は、ゲート電極44端部への電界集中を促進するために、ソース電極42にソースフィールドプレート62を設けたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスB102を説明する図である。図13(A)は、ソース電極42にソースフィールドプレート62を設けたGaN-HEMTの模式的断面図であり、図13(B)は、GaNパワーデバイスB102の平面図である。このHEMT構造のGaNパワーデバイスB102は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ソース電極42には電気的に接続されたソースフィールドプレート62を設け、ソースフィールドプレート62は、保護層40を介してゲート電極44を覆い、ドレイン電極側端部はゲート電極44のドレイン電極側端部と平面視同一の位置にある。ソース電極42の電位は、ゲート電極44の電位よりも低く、ゲート電極44の端部では電界がさらに集中する。これにより電流コラプス現象を促進することができる。
【0082】
図14は、他の電流コラプス現象を促進するGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスC104を示す図である。GaNパワーデバイスC104は、ドレインフィールドプレート64を設けている。図14(A)は、GaNパワーデバイスC104の模式的断面図であり、図14(B)は、GaNパワーデバイスC104の平面図である。ドレインフィールドプレート64は、ドレイン電極46と電気的に接続されている。
【0083】
図15は、GaNパワーデバイスC104の電位と電界強度を説明する図である。図15(A)は、ドレインフィールドプレート64を設けたHEMT構造のGaNパワーデバイスC104の模式的断面図である。GaNパワーデバイスC104は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極44ドレイン電極46の間には、ドレイン電極46と電気的に接続されたドレインフィールドプレート64を備えている。ドレインフィールドプレート64は、ゲート電極44側に延びている。
【0084】
図15(B)は、ドレインフィールドプレート64を設けた時のゲート電極44とドレイン電極46の間のドレイン電圧V印加直後の初期状態での電位である。ドレインフィールドプレート64は、ドレイン電極46に電気的に接続されているから、ドレイン電極46と同電位であり、ドレインフィールドプレート64の領域で、電子走行層36との間に図15(B)に示した向きに電界が発生する。定常状態は電界が安定する状態であり、電界強度の変化に伴って電位分布も図15(B)の破線で示したようになる。
【0085】
図15(C)は、GaNパワーデバイスC104の電界強度である。ドレインフィールドプレート64は、ゲート電極44に向かって伸びており、ドレイン電極46の端部での電界を分散させている。ドレイン電極46は、電子を収集してドレイン電流を流すために設けられているので、ドレイン電極46の端部での電界は本来の機能である。ドレインフィールドプレート64を設けることによる電界の分散は、逆の機能を働かせ、電流を流れ難くしている。
【0086】
さらに、ドレインフィールドプレート64領域では、電子走行層36との間に図15(B)に示した向きに電界が発生し、ゲートフィールドプレート60領域に渡って、電子が保護層40と電子供給層38にトラップされ易くしている。さらに、ドレインフィールドプレート64の端部は、ゲート電極44に近く、ゲート電極44での電界集中を促進している。このため、ドレインフィールドプレート64を設けたGaN-HEMT構造は、電流コラプス現象を促進する。この電流コラプス現象は、ゲートフィールドプレート60の長さにより制御できる。
【0087】
図16は、ゲートフィールドプレート60とドレインフィールドプレート64を備えたGaN-HEMT構造のGaNパワーデバイスD106を説明する図である。図16(A)は、GaNパワーデバイスD106の模式的断面図である。このHEMT構造のGaNパワーデバイスD106は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極42とドレイン電極46の間には、ゲート電極44と電気的に接続されたゲートフィールドプレート60と、ドレイン電極46と電気的に接続されたドレインフィールドプレート64を備えている。
【0088】
ゲートフィールドプレート60はドレイン電極46側に延びており、ドレインフィールドプレート64はゲート電極44側に延びている。ゲートフィールドプレート60の長さをX,ドレインフィールドプレート64の長さをYとすると、X及びYの長さを調整することで、電流コラプス現象が制御可能である。ゲートフィールドプレート60の長さXを長くすると電流コラプス現象が抑制され、オン抵抗が低くなる。一方、ドレインフィールドプレート64の長さYを長くすると電流コラプス現象が促進され、オン抵抗が高くなる。
【0089】
図16(B)は、ゲートフィールドプレート60の長さXが、ドレインフィールドプレート64の長さYよりも長い場合(X>Y)と、ドレインフィールドプレート64の長さYよりも短い場合(X<Y)のドレイン印加電圧VDと電流の関係を説明する図である。ゲートフィールドプレート60の長さXが、ドレインフィールドプレート64の長さYよりも長い場合(X>Y)の飽和する電流は、ドレインフィールドプレート64の長さYよりも短い場合(X<Y)に飽和する電流よりも大きくなる。図16(C)は、この場合のオン抵抗を示しており、ゲートフィールドプレート60の長さXとドレインフィールドプレート64の長さYを調整することにより、オン抵抗が制御可能である。XとYをどのような値にするかはデバイス設計の問題である。
【0090】
図17は、GaN-HEMTのドレイン電極46とゲート44電極を接続し、ソース電極側に延伸したフィールドプレートを設けたGaNパワーデバイスE108を説明する図である。図17(A)は、ソース電極側に延伸したドレインフィールドプレート64を設けたGaNパワーデバイスE108の模式的断面図である。このHEMT構造のGaNパワーデバイスE108は、ソース電極42、ゲート電極44及びドレイン電極46が順に配置され、ゲート電極44とドレイン電極46を電気的に接続し、ソース電極42側に延伸したドレインフィールドプレート64を備えている。
【0091】
図17(B)は、GaNパワーデバイスE108の等価回路である。ドレインフィールドプレート64は、ゲート電極44とドレイン電極46に電気的に接続されている。このため、ダイオードとしての機能となる。電界は、ソース電極42端部に集中し、ドレインフィールドプレート64の領域で電子コラプス現象を促進する。ゲート電極44から延びたドレインフィールドプレート64の長さにより電流コラプス現象が制御できる。
【0092】
図18は、ソースフィールドプレートを2個備えたGaN-HEMTによる双方向スイッチであるGaNパワーデバイスF110を説明する図である。図18(A)は、GaNパワーデバイスF110の模式的断面図である。図18(B)は、GaNパワーデバイスF110の平面図である。GaNパワーデバイスF110は、第1ソース電極42-1、第1ゲート電極44-1、第2ゲート電極44-1及び第2ソース電極42-2が順に配置され、ドレイン電極46を直結した2個のGaN-HEMTが逆直列接続されて、双方向スイッチを構成している。
【0093】
この双方向スイッチであるGaNパワーデバイスF110は、第1ソース電極42-1と第1ゲート電極44-1を電気的に接続した第1ソースフィールドプレート62-1と、第2ソース電極42-2と第2ゲート電極42-2を電気的に接続した第2ソースフィールドプレート62-2を備えている。第1ソースフィールドプレート62-1は、第2ゲート電極44-2側に延び、第2ソースフィールドプレート62-2は、第1ゲート電極44-1側に延びている。第1ソース電極42-1を接地して、第2ソース電極42-2に電圧を印加すると、電流コラプス現象は第2ソースフィールドプレート62-2により促進される。第2ソース電極42-2を接地して、第1ソース電極42-1に電圧を印加すると、電流コラプス現象は第1ソースフィールドプレート62-1により促進される。
【0094】
図18(C)は、GaNパワーデバイスF110の等価回路である。第1ソース電極42-1と第1ゲート電極44-1を電気的に接続し、第2ソース電極42-2と第2ゲート電極44-2を電気的に接続しているため、等価回路は逆方向に接続されたダイオードとなる。ノーマリーオン特性を有するGaN-HEMTを使用すれば、双方向に電流が流れ、電流コラプス現象を利用して電流を抑制することができる。
【0095】
GaNパワーデバイスA100~GaNパワーデバイスF110は、使用する回路の機能に応じて、ノーマリーオンとなるデプレッション型、ノーマリーオフとなるエンハンスメント型が選ばれる。
【0096】
図19は、GaNによるダイオード構造のGaNパワーデバイスG112を説明する図である。図19(A)は、GaNパワーデバイスG112の模式的断面図である。図19(B)は、GaNパワーデバイスG112の平面図である。GaNパワーデバイスG112は、第1電極66と第2電極68が配置されたGaNダイオード構造となっている。第1電極66と電気的に接続された第1電極フィールドプレート70が設けられ、第2電極側に延びている。第2電極68電気的に接続された第2電極フィールドプレート72が設けられ、第1電極側に延びている。
【0097】
図19(C)は、GaNパワーデバイスG112の等価回路である。第1電極66と第2電極68はオーミック接触であり、双方向ダイオードとなる。この場合、電流コラプス現象を利用して、双方向の電流を抑制できる。機能的には、正負の電流制限を可能とした抵抗と捉えてもよい。また、例えば第1電極66をショットキー接触とし、第2電極68をオーミック接触とする、等価回路は図19(D)となり、第1電極66をアノード、第2電極68をカソードとするダイオードとなる。この場合、第2電極フィールドプレート72は設けなくてもよい。第1電極フィールドプレート70と第2電極フィールドプレート72により電流コラプス現象を促進させ、電流を抑制できる。
【0098】
(実施例1)
図20は、本発明の電流コラプス現象を制御する手段を設けたGaNパワーデバイスで突入電流防止回路16を構成したスイッチング電源を示す図である。入力部10は直流電源であり、直流電圧Vinが印加された直後に平滑コンデンサ12に突入電流が流れる。GaNパワーデバイスA100はデプレッション型のノーマリーオン動作を有し、突入電流防止回路のアース線に直列に接続されている。
【0099】
ドレインDを平滑コンデンサ12側に接続し、ソースSを入力部10側に接続している。ゲートGはソースSに直接接続されている。デプレッション型のGaNパワーデバイスA100は、ゲートGとソースSが同電位のときも一定のドレイン電流が流れる。これは、デプレッション型のGaNパワーデバイスは、ゲートGとソースSが同電位のとき、一定のドレイン電流に制限されることを意味する。即ち、突入電流は、ゲートGとソースSが同電位のときのドレイン電流に制限されることになる。さらに、GaNパワーデバイスを使用することで、電流コラプス現象を利用した電流制限が行える。従って、デプレッション型のGaNパワーデバイスのみの簡単な回路で、突入電流防止回路16を構成できる。
【0100】
入力部10からの電圧は、直流電圧であっても、整流ブリッジで整流された交流電圧であってもよい。出力部14は、平滑コンデンサ12と並列接続される各種DC-DCコンバータで構成される。DC-DCコンバータは、昇圧型DC-DCコンバータであっても降圧型DC-DCコンバータであってもよい。実施例1の突入電流防止回路16に使用されるGaNパワーデバイスは、GaNパワーデバイスB102、GaNパワーデバイスC104又はGaNパワーデバイスD106の何れであっても、デプレッション型とすることで使用可能である。また、突入電流防止回路16は、出力部14からの過電流も防止することができる。
【0101】
(実施例2)
図21は、平滑コンデンサ12に直列に突入電流防止回路16を設けたスイッチング電源を示す図である。突入電流防止回路16のGaNパワーデバイスA100は、デプレッション型のノーマリーオン動作を有しており、ドレインDと平滑コンデンサ12が接続され、ゲートGとソースSは直接接続されて、入力部10と出力部14に接続されている。このため、図20の突入防止回路16で説明したのと同様の動作で、平滑コンデンサ12に流れる突入電流を制限することができる。
【0102】
(実施例3)
図22は、2つのGaNパワーデバイスで構成された突入電流防止回路16を備えたスイッチング電源を示す図である。平滑コンデンサ12と直列にデプレッション型のGaNパワーデバイスA100を設けている。さらに出力部と平滑コンデンサ12の間には、ノーマリーオフ動作をするエンハンスメント型のGaNパワーデバイスE108を設けている。GaNパワーデバイスE108は、ダイオード構造であり、出力部14からの過電流を防止する役割を果す。もちろん、出力部14での短絡による突入電流も防止することができる。GaNパワーデバイスE108は、第1電極66をショットキー接触として、ノーマリーオフ動作をするエンハンスメント型のGaNパワーデバイスG112であってもよい。
【0103】
(実施例4)
図23は、エンハンスメント型でノーマリーオフ動作となるGaNパワーデバイス20を突入電流防止回路16に使用したスイッチング電源を説明する図である。図23(A)は、スイッチング電源の回路構成を示している。GaNパワーデバイスC104は、エンハンスメント型でノーマリーオフ動作とした構造である。GaNパワーデバイスC104は、ドレインDを平滑コンデンサ12に接続し、ソースSを入力部10と出力部14に接続している。ゲートGには抵抗R1と抵抗R2で抵抗分割した直流電圧が印加される。抵抗R2には並列にコンデンサC1が接続されている。
【0104】
図23(B)は、直流電圧Vinが印加された直後から、ゲートGに印加されるゲート電圧Vを示している。直流電圧Vinが印加された直後は、コンデンサC1が短絡した導通状態であるため、ゲート電圧Vは0Vである。このため、GaNパワーデバイスC104はオフとなっており、突入電流を防止する。その後、コンデンサC1に電荷が蓄積されていきゲート電圧が高くなり、ゲート電圧は(R2/(R1+R2))・Vで飽和電圧となる。このため、GaNパワーデバイスC104を遅延回路により駆動することになる。飽和電圧を
GaNパワーデバイスC104の閾値電圧以上とすることにより、その後はGaNパワーデバイスC104により電流制限される。もちろん、飽和電圧をGaNパワーデバイスC104の閾値電圧以下にして、制限電流を制御することもできる。
【0105】
(実施例5)
図24は、入力部10を交流電源とするコンデンサインプット型のAC-DC変換によるスイッチング電源を説明する図である。図24(A)は、スイッチング電源の回路構成を示している。交流電源の交流電圧Vinは、ダイオードD1~D4で構成されるダイオードプリッジによる整流器で整流され、突入電流防止回路16を介して平滑コンデンサ12を充電する。突入電流防止回路16には、片方向に電流が流れる片方向ダイオード特性を有するGaNパワーデバイスG112を使用している。図19で示したGaNパワーデバイスG112の第1電極66は、ショットキー接触とした片方向ダイオードである。エンハンスメント型のノーマリーオフ動作のダイオードとして、電流コラスプ現象を利用して、一定の電流値以上の流れを防止する。
【0106】
図24(B)は、コンデンサインプット型のAC-DC変換によるスイッチング電源の電圧波形と電流波形を示している。交流電圧Vinは整流されて、半波整流波形の整流電圧となる。整流器からの電流Iinは、|Vin|>Vの場合しか電流が流れないため、通常は電圧波形のピーク値近辺での短い時間しか電流は流れず、電流波形は不連続となる。
【0107】
平滑コンデンサ12は、整流器の出力端の高圧側のラインと低圧側のラインとの間に配置される。平滑コンデンサ12は、脈流電圧を定電圧に平滑して電荷を充電するとともに、スイッチング電源装置に接続された負荷回路などに電荷を放電する。通常AC-DCコンバータは交流から直流へ平滑した後、不安定な直流を出力部14において、DC-DCコンバータで安定させ、所望の電圧を生成する2段構成である。
【0108】
スイッチング電源装置に交流電源を投入した直後は、平滑コンデンサ12に電荷を供給するために、図24(B)の破線で示した電流波形のように、過渡的に大きな突入電流が流れる。突入電流により回路素子がダメージを受ける可能性がある。これを抑制する目的で、整流器と平滑コンデン12の間に突入電流防止回路16を設けている。突入電流防止回路16で使用したGaNパワーデバイスG112は、ダイオード特性を備え、電流コラスプ現象を利用して、一定の電流値以上の電流の流れを防止している。
【0109】
(実施例6)
図25は、図24に示したコンデンサインプット型のAC-DC変換によるスイッチング電源において、突入電流防止回路を、交流ブリッジと兼用した構成とした図である。交流ブリッジのダイオードには、例えば、エンハンスメント型のGaNパワーデバイスE108を使用する。交流ブリッジの正負の電流経路に、少なくとも1つのGaNパワーデバイスE108を使用する。図25においては、D1とD4にGaNパワーデバイスE108を使用している。勿論、全てのダイオードD1~4がGaNパワーデバイスE108であってもよい。これにより、突入防止機能を備えた交流ブリッジとなる。
【0110】
(実施例7)
図26は、交流電源からのAC―DC変換において、力率を改善するためのPFC(力率改善)回路80を設けたスイッチング電源を説明する図である。図26(A)は、PFC回路80を設けたAC-DC変換回路を用いたスイッチング電源である。突入電流防止回路は、交流ブリッジと兼用している。交流ブリッジのダイオードには、例えば、エンハンスメント型のGaNパワーデバイスG112を使用する。交流ブリッジの正負の電流経路に、少なくとも1つのGaNパワーデバイスG112を使用する。図25においては、D2とD3にGaNパワーデバイスG112を使用している。これにより、突入防止機能を備えた交流ブリッジとなる。
【0111】
図26(B)は、PFC回路を設けたスイッチング電源の電圧波形と電流波形である。PFC回路80は、インダクタLとダイオードD5とスイッチング素子Sから構成されている。スイッチング素子Sのゲートは、PFC制御回路82から出力される制御信号でスイッチングされ、PMW制御により、スイッチング素子Sをオン/オフさせている。
【0112】
このため、交流電圧Vinに対して、整流器を通ってインダクタLに流れる電流Iは、スイッチング素子Sのスイッチング周波数に同期してオン/オフされ、鋸歯状の電流波形となる。さらにダイオードD5を介して平滑コンデンサ12で鋸歯状の電流波形を平滑化して、電荷を充電するとともに、スイッチング電源装置に接続された出力部14に電荷を放電し、出力電圧Vの電圧波形は、スイッチング周波数に同期した脈流となる。PFC回路は、電流連続モード、電流不連続モード、電流臨界モードの何れであってもよい。
【0113】
(実施例8)
図27は、PFC回路80を設けたスイッチング電源において、PFC回路80に突入電流防止回路16を兼用させたスイッチング電源である。PFC回路80に使用されているダイオードD5を、ダイオード特性を備えたGaNパワーデバイスE108で置き換えている。GaNパワーデバイスE108は、ノーマリーオフ動作を行うエンハンスメント型である。GaNパワーデバイスE108は、電流コラプス現象を利用して電流をある一定の値に制限しているから、通常のスイッチングによる電流を流し、制限された電流以上の電流を防止できる。このため、PFC回路80と突入電流防止回路16を一体化することができ簡単で小型のスイッチング電源となる。
【0114】
(実施例9)
図28は、交流電源からのAC―DC変換において、ブリッジレスPFC84に突入電流防止回路16を設けたスイッチング電源である。図28に示したブリッジレスPFCコンバータは、デュアルブースト型であり、2つの昇圧コンバータを並列に接続する事で、交流電圧Vinを整流しながら力率を改善できる。交流電圧Vinの正の半周期では、インダクタL1、スイッチング素子SW1、ダイオードD1が構成する第1の昇圧コンバータがPFCとして動作する。交流電圧Vinの正負の半周期では、インダクタL2、スイッチング素子SW2、ダイオードD2が構成する第2の昇圧型コンバータがPFCとして動作する。
【0115】
スイッチ素子SW1とスイッチ素子SW2のスイッチング電流は、入力電流を正弦波状にするように、ブリッジレスPFC制御回路86でPWM制御される。GaN-HEMTは寄生ダイオードが無く、一方のスイッチング素子のスイッチング電流が他のスイッチング素子を経由して流れることが無いので、ブリッジレスPFC84のスイッチング素子として好適である。さらに、ダイオードD1及びダイオードD2をGaNダイオードとすることで、高周波数に対応したスイッチングが可能となり、力率改善に効果的である。
【0116】
突入電流防止回路16は、交流電源とプリッジレスPFC回路84の間に設けている。双方向の突入電流を防止可能とするため、双方向ダイオード特性を有するGaNパワーデバイスF110を使用している。GaNパワーデバイスF110は、ノーマリーオフ動作を行うエンハンスメント型でもノーマリーオン動作を行うデプレッション型でもよい。また、第1電極66と第2電極68をオーミック接触としたGaNパワーデバイスG112でもよい。GaNパワーデバイスG112は、ノーマリーオフ動作を行うエンハンスメント型でもノーマリーオン動作を行うデプレッション型でもよい。電流コラプス現象を利用して、正負両方向に流れる突入電流を防止する。
【0117】
(実施例10)
図29は、交流電源からのAC-DC変換において、ブリッジレスPFC回路84のダイオードに突入電流防止機能を備えたスイッチング電源を示す図である。図28で示したブリッジレスPFC回路84のダイオードD1とダイオードD2を、ダイオード特性を備えたGaNパワーデバイスE108で置き換えている。GaNパワーデバイスE108は、ノーマリーオフ動作を行うエンハンスメント型である。GaNパワーデバイスE108は、電流コラプス現象を利用して電流をある一定の値に制限しているから、通常のスイッチングによる電流を流し、制限された電流以上の電流を防止できる。このため、交流電源とブリッジレスPFC回路84の間に設けた突入電流防止回路は無くし、ブリッジレスPFC回路84と突入電流防止回路(突入電流防止回路16-1,16-2)を一体化した簡単で小型のスイッチング電源が可能となる。
【0118】
(実施例11)
図30は、図29で示したスイッチング電源において、出力部14を、DC-DCコンバータ88としたスイッチング電源を示す図である。通常AC-DCコンバータは交流から直流へ平滑したのち、所望の電圧を生成するDC-DCコンバータを設けている。DC-DCコンバータは、同期式でも非同期式でもよく、また、電圧も昇圧型でも降圧型でもよい。図30では、出力部14を同期式降圧型DC-DCコンバータ88としている。
【0119】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0120】
S ソース
G ゲート
D ドレイン
in 入力電圧(直流電圧、交流電圧)
I 電流
in 突入電流
OUT 短絡電流
G1、G2 補助ゲート
10 入力部
12 平滑コンデンサ
14 出力部
16 突入電流防止回路
18 制御回路
20 GaNパワーデバイス
22 平滑コンデンサ等価回路
24 平滑コンデンサ等価容量
26 平滑コンデンサ等価抵抗
28 負荷等価抵抗
30 オン抵抗
32 基板
34 バッファ層
36 電子走行層
38 電子供給層
40 保護膜
42 ソース電極
44 ゲート電極
45-1、45-2 補助ゲート電極
46 ドレイン電極
50 フェルミ準位
52 価電子帯
54 伝導帯
60 ゲートフィールドプレート
62 ソースフィールドプレート
64 ドレインフィールドプレート
66 第1電極
68 第2電極
70 第1電極フィールドプレート
72 第2電極フィールドプレート
80 PFC回路
82 PFC制御回路
84 ブリッジレスPFC回路
86 プリッジレスPFC制御回路
88 DC-DCコンバータ
100 GaNパワーデバイスA
102 GaNパワーデバイスB
104 GaNパワーデバイスC
106 GaNパワーデバイスD
108 GaNパワーデバイスE
110 GaNパワーデバイスF
112 GaNパワーデバイスG
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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