(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】防潮堤
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20230217BHJP
【FI】
E02B3/06 301
(21)【出願番号】P 2018237629
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】若林 正憲
(72)【発明者】
【氏名】武藤 香穂
(72)【発明者】
【氏名】金子 研一
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224538(JP,A)
【文献】特開2016-065429(JP,A)
【文献】特開2013-007221(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0091247(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波や洪水等を抑制する防潮堤において、
適宜に設定された傾斜角度をもって水面側に形成された傾斜面と、
前記傾斜面に沿って設けられたガイド部材と、
前記ガイド部材に沿って前記傾斜面上を上昇可能なスライド壁と、
を備え
、
前記スライド壁には、津波や洪水等の波を受け易いように適宜の角度に設定され、前記波を受けて前記スライド壁を上昇させる力に変化させる受け部が形成されており、
前記傾斜面の上部には有底凹溝状の穴部が設けられ、前記スライド壁の下面側には前記穴部より所定距離離れた降下位置に前記穴部の深さよりも大きな高さを有するダボが挿入された凹部が設けられており、
前記波が前記傾斜面に押し寄せた際に、前記スライド壁を前記傾斜面より高い位置に上昇させ
、前記スライド壁が所定高さまで上昇した際に、前記凹部に挿入された前記ダボが前記穴部に落下することで前記スライド壁を停止させる、
ことを特徴とする防潮堤。
【請求項2】
前記穴部は、第一穴部と、
前記第一穴部から水平方向にずれた位置であって、所定間隔だけ下方の位置に設けられた第二穴部と、が設けられており、
前記スライド壁の下面側には、前記第一穴部より所定距離離れた降下位置に形成され、前記第一穴部の深さよりも大きな高さを有する第1ダボが挿入された第1凹部と、
前記第二穴部より所定距離離れた降下位置に形成され、前記第二穴部の深さよりも大きな高さを有する第二ダボが挿入された第二凹部と、が設けられている、
請求項1に記載された防潮堤。
【請求項3】
前記凹部は、前記スライド壁の上面に貫通していない、または、前記スライド壁の上面を貫通していて前記スライド壁の上面に設けられた蓋部で覆われている、請求項1または2に記載された防潮堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば津波や洪水等の際に、スライド壁の高さを大きくして波の侵入を抑制する防潮堤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震や津波や洪水等の自然災害が多発している。海岸や堤防等に設置された既設の防潮堤の高さを超える津波や洪水等が発生して甚大な被害を及ぼすことが各地で報告されている。
一般に、防潮堤の高さは過去に起きた地震等による津波や洪水の高さからそれぞれの地域毎にシミュレーションを実施して算定している。一方で、近年では想定を超える高さの津波が発生していることから、より巨大な津波を想定して防潮堤の高さの計算をやり直すことが必要になってきている。新たな計算による想定された津波の高さに対して、既設の防潮堤の高さでは不十分であるため防潮堤の高さを嵩上げする補修工事が施工されている。このような補修工事には多額の工事費用がかかる上に、防潮堤の高さを嵩上げすると海が見えなくなったり景色が劣化する等、現場の景観を阻害するという問題が発生する。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1に記載された防潮装置では、海岸等に沿って防波構造体を設置すると共に、防波構造体内に波の力で昇降可能な鋼製の浮上管部材を配列して収納した防潮堤が提案されている。これにより、普段は防波構造体の高さしかないため海が見える等、景観の阻害を低減すると共に、地震等で津波が発生した場合には、押し寄せる海水の水圧と浮力によって防波構造体から浮上管部材を上昇させて陸地への津波の侵入を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された防潮装置は既設の防潮堤に浮上管部材を設置してより高い津波に対応できるように嵩上げ可能に設置することは、技術的にもコスト的にも困難であった。そのため、実際には防潮装置を新設しなければならないという問題があった。しかも、防潮装置に設けた防潮用の壁体は鋼製の浮上管部材であるため海水や潮風等の影響で錆び易く耐久性に問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、低コストで簡単に施工や補修ができる防潮堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による防潮堤は、津波や洪水等を抑制する防潮堤において、水面側に形成された傾斜面と、傾斜面に沿って設けられたガイド部材と、ガイド部材に沿って傾斜面上を上昇可能なスライド壁と、を備え、津波や洪水等の波が傾斜面に押し寄せた際に、スライド壁を傾斜面より高い位置に上昇させることを特徴とする。
本発明によれば、通常の状態においてスライド壁は防潮堤の高さ以下の降下位置にあり、地震等で津波が発生したり洪水等が発生したりした場合、津波や洪水等の波が傾斜面に押し寄せてスライド壁をガイド部材に沿って上昇させて、防潮堤の傾斜面より高い位置に嵩上げできるため、津波や洪水等の波が防潮堤を乗り越えることを抑制できる。
【0008】
また、スライド壁には、津波や洪水等の波を受けてスライド壁を上昇させる力に変化させる受け部が形成されていることが好ましい。
津波や洪水等の波が防潮堤の受け部に押し寄せた際、受け部が受ける荷重をスライド壁が上昇する力に変換できるため、電力や動力を使わずにスライド壁を上昇させることができる。
【0009】
また、スライド壁には係合突出部が設けられ、傾斜面には係合受け部が設けられ、スライド壁が所定高さまで上昇された際に、係合突出部が係合受け部と係合してスライド壁を停止させることが好ましい。
津波や洪水等の波を受けてスライド壁を上昇させる際、スライド壁が傾斜面を超える所定高さまで嵩上げされた時点で係合突出部が係合受け部と係合してスライド壁を停止させるため、スライド壁を防潮堤の傾斜面より高い位置にロックでき、波の力でスライド部材から上方に外れたり降下したりすることを阻止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による防潮堤は、通常時は海岸等の景観を損なわず、洪水や津波等の発生時には波を受けてスライド壁が傾斜面に沿って上昇し、傾斜面より高い位置に嵩上げされるため、津波や洪水等の侵入をより高い位置まで抑制できる。
しかも、本発明による防潮堤は、新設の防潮堤だけでなく既存の防潮堤にも補修や追加施工で設置でき、低コストで簡単に施工できる。また、防潮堤のスライド壁としてコンクリート板を用いれば潮風や波等による錆びを防止できるため耐久性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態による防潮堤の要部縦断面図である。
【
図2】
図1に示す防潮堤のスライド壁及びガイド部材の平面図である。
【
図3】ガイド部材とスライド壁の嵌合構造を示す、
図2のA-A線断面図である。
【
図4】津波でスライド壁が押し上げられた嵩上げ状態を示す防潮堤の要部断面図である。
【
図5】傾斜面に設けた穴部とスライド壁に設けたダボの係合関係を示す要部断面図であり、(a)はスライド壁が降下位置にある図、(b)はスライド壁が上昇位置にある図である。
【
図6】実施形態の第一変形例によるスライド壁の第一凹部及び第一ダボを示す図である。
【
図7】実施形態の第二変形例によるスライド壁を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による防潮堤1について
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示す防潮堤1は例えば海岸等、陸地と海の境目または陸地と河川との境目等に設置されている。本明細書において、防潮堤1は防波堤を含んでおり、台風等による大波や高潮、津波、河川の洪水等の被害を軽減するために海岸や河川等より高い高さに設置された堤防である。防潮堤1は例えば内部が岩ずりで転圧して形成され、その表面が所定厚みの鉄筋コンクリートで構築された断面略山形形状とされている。
【0013】
本実施形態による防潮堤1は、断面視で海側と陸地側とにそれぞれ傾斜面を有しており、海側の傾斜面を外法傾斜面2といい、陸地側の傾斜面を内法傾斜面3という。外法傾斜面2と内法傾斜面3の頂部に例えば平坦な天端4が形成されている。外法傾斜面2と内法傾斜面3の傾斜角度はそれぞれ適宜に設定される。防潮堤1の天端4は海面より高く、通常、台風等による大波や高潮等は防潮堤1によって乗り越えを阻止できる。外法傾斜面2と内法傾斜面3と天端4は所定厚みの鉄筋コンクリートで構築されている。
【0014】
図2に示すように、防潮堤1の外法傾斜面2には、その上下方向に例えばH形鋼等からなるガイド部材6が設置され、ガイド部材6はボルト等でコンクリートの外法傾斜面2に固定されている。複数のガイド部材6が天端4の延在方向に沿って所定間隔で平行に配列されている。なお、H形鋼等のガイド部材6は錆び防止のために、亜鉛メッキ等で防錆び処理しておくとよい。
図2では、2本のガイド部材6の間に例えば2枚のスライド壁7が摺動可能に嵌合されている。スライド壁7は例えば略長方形板状をなす本体部7aと、その後端部で本体部7aに対して外側に屈曲して略水平方向に延びる受け部7bと、で側面視略くの字状や略L字状に形成されている。
【0015】
受け部7bは津波等の際に防潮堤1に押し寄せる波浪の荷重を受けてスライド壁7をガイド部材6に沿って前進及び上昇させる推進力に変えることができる。なお、スライド壁7の受け部7bは必ずしも水平方向に折れ曲がっていなくてもよく、例えば本体部7aに略直交する角度に設定して略L字状に形成する等、高波を受け易いように適宜の角度に設定することができる。
本体部7aは左右両側が長辺の側縁部7cとされ、受け部7bの短辺をなす下方側端部が下端部7dとされている。スライド壁7は、鉄筋コンクリートで製造されている。なお、スライド壁7を鋼材で形成してもよく、この場合、錆び防止のために亜鉛等でメッキしておくとよい。
【0016】
ガイド部材6は
図3に示すように断面視でH形であり、上面6aと下面6bと上面6a及び下面6bの中央部を連結する連結部6cとで形成されている。ガイド部材6における連結部6cの両側にスライド壁7の本体部7aの側縁部7cを摺動可能に嵌合する凹溝部8a、8bが形成されている。そのため、スライド壁7は一方の側縁部7cがガイド部材6の凹溝部8aまたは8bに嵌合され、他方の側縁部7cは隣接するスライド壁7の側縁部7cに面接触している。
各スライド壁7は常態の降下位置において上方側短辺をなす上端部7eが、防潮堤1の天端4と略同一高さに設置されている。この位置で、スライド壁7の下端部7dは外法傾斜面2に固定されたストッパー部10に当接し、これ以上、スライド壁7が降下することを阻止している。ストッパー部10は例えば鉄筋コンクリートや鋼材等で形成され、亜鉛等でメッキされている。
【0017】
図1及び
図4に示す防潮堤1において、
図1はスライド壁7の降下位置を示し、
図4はスライド壁7の上昇位置を示している。上昇位置で、スライド壁7は防潮堤1の天端4より所定高さ(例えば2~3m)上方に突出した嵩上げ位置に設けられている。
図5は、
図2に示すスライド壁7のC-C線の縦断面である。
図1及び
図5(a)において、外法傾斜面2には、比較的上部に有底凹溝状の第一穴部12が形成され、第一穴部12から水平方向にずれた位置であって、その下側に所定間隔を開けた比較的下部に有底凹溝状の第二穴部13が形成されている。
【0018】
この外法傾斜面2に対向して配設されたスライド壁7には、第一穴部12より所定距離離れた降下位置に第一凹部14が形成され、この第一凹部14に例えば略円柱状の第一ダボ15が挿入されている。また、第二穴部13より所定距離離れた降下位置にも第二凹部17が形成され、この第二凹部17内には略円柱状の第二ダボ18が挿入されている。しかも、第一凹部14及び第二凹部17は、スライド壁7の下面側に開口が形成され且つ上面には貫通していない。そのため、第一凹部14及び第二凹部17がスライド壁7の上面に露出せず、砂やごみ等が第一凹部14及び第二凹部17や第一穴部12及び第二穴部13に溜まって第一ダボ15及び第二ダボ18が詰まって落下しないことを防止できる。
【0019】
そして、
図5(a)に示すスライド壁7の降下位置では、スライド壁7の第一凹部14に挿入された第一ダボ15は外法傾斜面2の第一穴部12に対して下方位置に設置され、この第一ダボ15は第一凹部14内で外法傾斜面2に当接している。また、スライド壁7の第二凹部17に挿入された第二ダボ18も外法傾斜面2の第二穴部13に対して下方位置に設置され、第二ダボ18は第二凹部17内で外法傾斜面2に当接している。
【0020】
そして、津波等でスライド壁7がガイド部材6に沿って上昇して嵩上げされた上昇位置に至ると、
図5(b)に示すように、第一ダボ15が第一凹部14に落下し、第二ダボ18が第二凹部17内に落下する。これら第一ダボ15及び第二ダボ18はそれぞれ第一穴部12及び第二穴部13の深さより大きな高さ、例えば2倍程度の高さに設定したため、第一穴部12及び第二穴部13より突出して第一凹部14及び第二凹部17内に一部が挿入されて係止する。そのため、第一ダボ15及び第二ダボ18によってスライド壁7の上昇と下降を阻止してロックする。
【0021】
本実施形態による防潮堤1は上述した構成を有しており、次に使用方法について説明する。
新設の防潮堤1の施工や既設の防潮堤1の補修施工に際し、ガイド部材6やスライド壁7は予め工場で製造してトラック等で現場に運搬し、組み立て施工できる。特に既設の防潮堤1に本実施形態によるガイド部材6及びスライド壁7を設置する場合、外法傾斜面2の上にガイド部材6を配設させてスライド壁7を設置し、外法傾斜面2に第一穴部12及び第二穴部13を施工すればよい。
【0022】
本実施形態による防潮堤1では、通常の状態において、
図1及び
図5(a)に示すように、防潮堤1のスライド壁7は外法傾斜面2の降下位置にあり、その下端部7dがストッパー部10に支持されている。この状態で、スライド壁7の上端部は天端4より突出していないため海側に隠れており、周辺の景観を損ねることがない。
そして、地震等で津波が発生した場合、高波が海岸に押し寄せるため降下位置にあるスライド壁7の受け部7bが高波で押されて、スライド壁7の本体部7aが外法傾斜面2に沿って上方に押し上げられる。その際、隣り合う2本のガイド部材6で挟まれた2枚のスライド壁7は本体部7aの各一方の側縁部7cがガイド部材6の凹溝部8a、8bでガイドされ、他方の側縁部7cは互いに側縁部7c同士が当接しつつ斜め上方に押し上げられる。
【0023】
図4及び
図5(b)に示すように、スライド壁7が防潮堤1の天端4を超えて所定の高さまで上昇すると、スライド壁7の下面の第一凹部14内に設けた第一ダボ15が外法傾斜面2に形成された第一穴部12に到達して落下する。第一穴部12に落下した第一ダボ15はその上部が第一凹部14内に残るため、スライド壁7を係止させ、上昇や下降を阻止する。これと同時に、スライド壁7の下面の第二凹部17内に設けた第二ダボ18が外法傾斜面2に形成された第二穴部13に到達して落下する。第二穴部13に落下した第二ダボ18はその上部が第二凹部17内に残るため、第一ダボ15と同様にスライド壁7を係止させる。スライド壁7が津波や洪水等によって、ガイド部材6から上方に外れることを阻止する。
【0024】
しかも、第一ダボ15と第二ダボ18は、スライド壁7において上下方向だけでなく水平方向にもずれて設置されているため、誤って第一ダボ15が第二穴部13に落下したり、第二ダボ18が第一穴部12に落下したりすることがない。
この状態で、防潮堤1はスライド壁7が天端4より高い位置に嵩上げされているため、津波等が乗り越えて陸地側に侵入することを抑制できる。しかも、各2枚のスライド壁7はコンクリート製で高強度であり、各一方の側縁部7cがガイド部材6の凹溝部8a、8bに嵌合されているため、ガイド部材6から脱落したり破損したりすることを防止できる。
【0025】
上述したように本実施形態による防潮堤1は、津波や洪水等の高波を受けて外法傾斜面2に昇降可能なスライド壁7を設けたため、平常時にはスライド壁7が天端4から突出せず外法傾斜面2に隠れているので海岸等の景観を損ねることがない。
また、津波や洪水等の際にはスライド壁7の受け部7bに打ち寄せる高波の荷重をスライド壁7の上昇する力に変換して天端4より高く突出させて嵩上げすることができ、津波が陸地側に侵入することを抑制できる。しかも、動力や電力等の動力を利用することなくスライド壁7を上昇させて嵩上げすることができる。
本実施形態による防潮堤1は新たに構築できると共に、既設の防潮堤1に追加補修工事することでも構築できる。しかも、追加補修工事に際して、既設の防潮堤1を削ったり盛ったりすることなく、外法傾斜面2にガイド部材6とスライド壁7を設置することで構築できるため追加補修の施工が容易で施工コストを低廉にできる。
【0026】
また、スライド壁7を上昇位置で停止させる第一ダボ15及び第二ダボ18と第一穴部12及び第二穴部13を設けたため、スライド壁7は上昇位置で確実に停止させることができ、上方や下方にずれない。しかも、第一ダボ15及び第二ダボ18はスライド壁7の下面側に開口する第一凹部14及び第二凹部17内に設置されているため、砂やごみ等が侵入することを防止できる。
更に、ガイド部材6はスライド壁7の上昇時のガイドとして働くだけでなく、スライド壁7が突風や強風等で海側に倒れることを防止できる。
【0027】
以上、本発明の実施形態による防潮堤1について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の変形例等について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0028】
図6は実施形態による防潮堤1の第一変形例を示す図である。本変形例では、スライド壁7に形成した第一ダボ15及び第二ダボ18を収納する第一凹部14及び第二凹部17がスライド壁7の上面を貫通して形成されている。そのため、第一ダボ15及び第二ダボ18の高さをより大きく形成して、第一穴部12及び第二穴部13に落下した際に第一凹部14及び第二凹部17との係合をより確実にできる。そして、第一凹部14及び第二凹部17の上部に砂やごみ等が侵入することを防ぐ蓋部20が設置されてボルト等で固定されていてもよい。
【0029】
また、スライド壁7に設けた第一凹部14及び第二凹部17と第一ダボ15及び第二ダボ18、外法傾斜面2に形成した第一穴部12及び第二穴部13は略円柱状に限定されるものではなく、角柱形状等、適宜の形状を作用できる。例えば、第一ダボ15及び第二ダボ18を水平方向に延びる所定厚みの板状に形成し、第一凹部14及び第二凹部17と第一穴部12及び第二穴部13を略板状の凹溝に形成してもよい。この構成により、スライド壁7をより確実に上昇位置で係止できる。
なお、スライド壁7を上昇位置で外法傾斜面2に係止させるダボと凹部、そして外法傾斜面2に形成した穴部は1つのスライド壁7に少なくとも1つあればよい。或いはダボと凹部と穴部を3個以上設けてもよい。
【0030】
また、外法傾斜面2には穴部を設けなくてもよい。この場合、スライド壁7の上昇位置で、凹部の開口から下方に突出するダボが天端4の上に突出する構造にすれば、穴部がなくても天端4によってスライド壁7を上昇位置で係止することができる。
なお、スライド壁7において、津波や洪水等の波を受ける受け部7bは必ずしも本体部7aの下端部に設けなくてもよい。例えば、
図7に示す第二変形例に示すように、本体部7aの下端部より上方の位置に1または複数の受け部22、23を設置してもよい。これらの場合でも津波や洪水等の波を受けてスライド壁7を上昇させる推進力に変換することができる。
【0031】
また、上述した実施形態では、防潮堤1を断面略山状に形成したが、スライド壁7を昇降させる外法傾斜面2にのみ傾斜面を形成すればよい。防潮堤1の内陸側は内法傾斜面3に代えて略垂直面でもよいし、階段状や天端4に続く平面状等、適宜の地形や形状を採用できる。
なお、上述した実施形態では、2本のガイド部材6の間に2枚のスライド壁7を設置して凹溝部8a、8bに沿って上昇可能とした。しかし、本発明では、2本のガイド部材6の間に1枚のスライド壁7を設置して、凹溝部8a、8bに沿って上昇可能としてもよい。また、2本のガイド部材6の間で3枚以上のスライド壁7を設置してもよい。
なお、本発明において、第一ダボ15、第二ダボ18は係合突出部に含まれ、第一穴部12、第二穴部13、そして天端4は係合受け部に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 防潮堤
2 外法傾斜面
3 内法傾斜面
4 天端
6 ガイド部材
7 スライド壁
7a 本体部
7b、22、23 受け部
8a、8b 凹溝部
12 第一穴部
13 第二穴部
14 第一凹部
15 第一ダボ
17 第二凹部
18 第二ダボ