(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】光照射と押圧をするための装置、及びこれを用いる方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230217BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
E04G23/02 B
B29C65/48
(21)【出願番号】P 2019086850
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397027787
【氏名又は名称】カジマ・リノベイト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 遼太
(72)【発明者】
【氏名】柳 慎一
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕章
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 靖
(72)【発明者】
【氏名】福島 万貴
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-176135(JP,A)
【文献】特開2009-52396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0103437(US,A1)
【文献】特開2000-136696(JP,A)
【文献】特開2011-117129(JP,A)
【文献】特開2013-221253(JP,A)
【文献】特開2009-83251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B29C 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者により駆動されることで、対象物に対する押圧と光照射を共に行うための装置であって、
前記装置を、少なくとも第一の方向および前記第一の方向とは異なる第二の方向へと移動させるための移動手段と、
前記移動手段を駆動させるための力を、前記作業者が前記装置に掛けるための把持手段と、
前記対象物に対して光を照射するための光照射手段と、
前記第一の方向に関して前記光照射手段の通った後を進むように配置され、かつ前記移動手段により移動する際に前記対象物を押圧するための、第一の押圧手段と、
前記第二の方向に関して前記光照射手段の通った後を進むように配置され、かつ前記移動手段により移動する際に前記対象物を押圧するための、第二の押圧手段と、
前記光照射手段から照射される光から、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段のうちの少なくとも一種以上を遮蔽するための光遮蔽手段と
を含むことを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記光遮蔽手段がさらに、
前記光照射手段から、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段に至るまでの最短距離をL
1とおき、かつ前記光照射手段から前記対象物への最短距離をdとおいたときに、
L
1 ≧ 2d × tan70°
を満たすように、前記光照射手段から前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段を離隔するための手段、または、
前記光照射手段と、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段のうちの一種以上との間に立つように設けられ、かつ前記装置から前記対象物に至る方向に沿った高さがd以下である手段、あるいは
その両方
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光遮蔽手段がさらに、
前記装置と前記対象物との間の空間の外部への、前記光照射手段から照射される光の漏出を防止するための漏光防止手段
を含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記漏光防止手段がさらに、
前記光照射手段から、前記装置の外縁に至るまでの最短距離をL
2とおき、かつ前記光照射手段から前記対象物への最短距離をdとおいたときに、
L
2 ≧ 2d × tan70°
を満たすように、前記光照射手段から前記装置の外縁を離隔するための手段、または、
前記光照射手段と、前記装置の外縁との間に立つように設けられ、かつ前記装置から前記対象物に至る方向に沿った高さがd以下である手段、あるいは
その両方
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記装置がさらに、
前記作業者が前記把持手段により、前記装置を前記対象物に向けて押しつける方向に沿って掛ける力を検出するための圧力検出手段
を含み、
前記圧力検出手段が、所定の閾値を超える力を検出しない場合には、前記光照射手段による光照射を禁止する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第一の押圧手段もしくは前記第二の押圧手段またはその両方が、前記移動手段を兼ねる、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記移動手段を兼ねる前記第一の押圧手段もしくは前記第二の押圧手段またはその両方がローラーを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記光照射手段の発する光波長が、300~830nmの範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記光照射手段による積算光量を計算し、前記作業者へ通知する手段をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
作業対象となる躯体に対して、光硬化型接着剤層と透光性層とを有する材料を貼り付ける工程と、
貼り付けられた前記材料に、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置を適用し、前記材料の前記透光性層を介して押圧しながら前記光硬化型接着剤層を硬化させる工程と
を含む、方法。
【請求項11】
前記透光性層が剥離可能であって、
剥離可能な前記透光性層を剥離する工程
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に対して光照射と押圧をするための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート躯体等の躯体(構造体)を補修するにあたっては、従来よりさまざまな手法が提案されてきている。光により硬化する物質をひび割れに注入し、光を照射して硬化させてひび割れを補修する手法も開発されている(特許文献1)。
【0003】
また特許文献2には、トンネル内壁の形成方法として、粘着面を備える紫外線硬化型プラスティックシートを、トンネルの軸方向に平行に配置するようにしてトンネルの一次覆工壁内面に接着し、当該シート上に押圧ローラを押し当てて移動すると共に紫外線を照射して硬化する方法が開示されている。
【0004】
さらに特許文献3には、紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、コンクリート構造物の補修必要箇所の表面へ当てがい、同光硬化型繊維強化樹脂シートに圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ、紫外線を照射して接着させ補修する方法において、コンクリート構造物の補修必要箇所の表面へ当てがった光硬化型繊維強化樹脂シートに圧力及び振動を加えて前記シートをコンクリート表面へ強く密着させ、前記シートに紫外線を照射して硬化させコンクリート表面へ接着させて補修、補強する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-102341号公報
【文献】特開2005-163538号公報
【文献】特開2009-052396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人口減少が加速度的に進む社会状況下においては、補修工事を行う熟練工の確保が望めなくなりつつある。したがって操作が複雑な工法を実施するのが次第に難しくなってきているのが現状である。例えば特許文献2に記載の発明のように、トンネル工事用の大型機械を必要とする工法では、操作に習熟していない者では行うのは困難である。
【0007】
また特許文献3に記載の発明のように、振動する機械を使って作業する必要がある工法では、高所作業や天井・壁に対する重力に逆らっての作業が、特に非熟練工にとっては困難かつ危険なものとなってしまう。また、補修対象に振動を掛けると却って破損を拡大させてしまい、本末転倒になる場合もあった。
【0008】
したがって非熟練工、特に働く現場の母国語に習熟しておらず操作マニュアルの通読が難しいような者であると、容易に補修等の作業ができないことが喫緊の課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明では以下の態様を提供できる。
【0010】
(1)
作業者により駆動されることで、対象物に対する押圧と光照射を共に行うための装置であって、
前記装置を、少なくとも第一の方向および前記第一の方向とは異なる第二の方向へと移動させるための移動手段と、
前記移動手段を駆動させるための力を、前記作業者が前記装置に掛けるための把持手段と、
前記対象物に対して光を照射するための光照射手段と、
前記第一の方向に関して前記光照射手段の通った後を進むように配置され、かつ前記移動手段により移動する際に前記対象物を押圧するための、第一の押圧手段と、
前記第二の方向に関して前記光照射手段の通った後を進むように配置され、かつ前記移動手段により移動する際に前記対象物を押圧するための、第二の押圧手段と、
前記光照射手段から照射される光から、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段のうちの少なくとも一種以上を遮蔽するための光遮蔽手段と
を含むことを特徴とする、装置。
【0011】
(2)
前記光遮蔽手段がさらに、
前記光照射手段から、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段に至るまでの最短距離をL1とおき、かつ前記光照射手段から前記対象物への最短距離をdとおいたときに、
L1 ≧ 2d × tan70°
を満たすように、前記光照射手段から前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段を離隔するための手段、または、
前記光照射手段と、前記第一の押圧手段、前記第二の押圧手段、および前記移動手段のうちの一種以上との間に立つように設けられ、かつ前記装置から前記対象物に至る方向に沿った高さがd以下である手段、あるいは
その両方
を含むことを特徴とする、(1)に記載の装置。
【0012】
(3)
前記光遮蔽手段がさらに、
前記装置と前記対象物との間の空間の外部への、前記光照射手段から照射される光の漏出を防止するための漏光防止手段
を含む、(1)または(2)に記載の装置。
【0013】
(4)
前記漏光防止手段がさらに、
前記光照射手段から、前記装置の外縁に至るまでの最短距離をL2とおき、かつ前記光照射手段から前記対象物への最短距離をdとおいたときに、
L2 ≧ 2d × tan70°
を満たすように、前記光照射手段から前記装置の外縁を離隔するための手段、または、
前記光照射手段と、前記装置の外縁との間に立つように設けられ、かつ前記装置から前記対象物に至る方向に沿った高さがd以下である手段、あるいは
その両方
を含むことを特徴とする、(3)に記載の装置。
【0014】
(5)
前記装置がさらに、
前記作業者が前記把持手段により、前記装置を前記対象物に向けて押しつける方向に沿って掛ける力を検出するための圧力検出手段
を含み、
前記圧力検出手段が、所定の閾値を超える力を検出しない場合には、前記光照射手段による光照射を禁止する
ことを特徴とする、(1)~(4)のいずれか一項に記載の装置。
【0015】
(6)
前記第一の押圧手段もしくは前記第二の押圧手段またはその両方が、前記移動手段を兼ねる、(1)~(5)のいずれか一項に記載の装置。
【0016】
(7)
前記移動手段を兼ねる前記第一の押圧手段もしくは前記第二の押圧手段またはその両方がローラーを含む、(6)に記載の装置。
【0017】
(8)
前記光照射手段の発する光波長が、300~830nmの範囲である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の装置。
【0018】
(9)
前記光照射手段による積算光量を計算し、前記作業者へ通知する手段をさらに含む、(1)~(8)のいずれか一項に記載の装置。
【0019】
(10)
作業対象となる躯体に対して、光硬化型接着剤層と透光性層とを有する材料を貼り付ける工程と、
貼り付けられた前記材料に、(1)~(9)のいずれか一項に記載の装置を適用し、前記材料の前記透光性層を介して押圧しながら前記光硬化型接着剤層を硬化させる工程と
を含む、方法。
【0020】
(11)
前記透光性層が剥離可能であって、
剥離可能な前記透光性層を剥離する工程
をさらに含む、(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施形態によれば、装置の操作マニュアルを簡単に読めないような非熟練工であっても、容易に補修等の作業ができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】或る実施形態に係る光遮蔽手段の機能を説明するための概要図である。
【
図2】別の実施形態に係る光遮蔽手段の機能を説明するための概要図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係る装置 100 を描いた斜視図である。
【
図4】本発明の第一の実施形態に係る装置 100 の有する作業面 110 を描いた模式図である。
【
図5】本発明の第一の実施形態に係る装置 100 の側面図である。
【
図6】本発明の第一の実施形態に係る装置 100 の別の側面図である。
【
図7】本発明の第二の実施形態に係る装置 200 の有する作業面 210 を描いた模式図である。
【
図8】本発明の第三の実施形態に係る装置 300 の有する作業面 310 を描いた模式図である。
【
図9】本発明の第四の実施形態に係る装置 400 の有する作業面 410 を描いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、複数の図面に跨がる同じ参照番号は、同じ部品もしくは類似の部品を指す。また本明細書においては、数値範囲は、別段の定めがない限りはその下限値および上限値を含むものとする。
【0024】
本発明の実施形態に係る装置は、作業者により駆動されることで、対象物に対する押圧と光照射を共に行うことができる。その駆動は、当該装置が含む把持手段に対し、作業者が力を掛けることで実現できる。把持手段は、作業者が力を掛けることができるものであればその形状および位置は問わない。
【0025】
作業者が手を使って作業しやすいことを考慮した把持手段の例としては、当該装置が対象物に向かう面(以下、「作業面」とも称する)に対向する側の面に突出した部位(持ち手やハンドル等)を有するものが挙げられる。別の把持手段の例としては、作業面に対向する側の面、またはその面と作業面の間の側面に設けられた、握り部位や指挿入孔を含むものも挙げられ、この場合には作業者が装置の「脇」を掴んで作業することが想定される。さらに別の把持手段の例としては、作業者が足を入れて力を掛けられるような部位(足が引っかかるアーチ部や足型等)を含むものも挙げられる。これらの把持手段が複数種類併設されていてもよい。
【0026】
すなわち当該把持手段は、作業者が装置を「実際に握る」ものであってもよいし、あるいは、少なくとも「実質的に掴んで(例えば足を引っかける等の行為によって)力を掛けられる」ものであっても足りる。なお作業者の好ましい例としては人間が挙げられるが、家畜等の動物であってもかまわない。把持手段が複数の部位に分かれ、作業者がそれぞれの手を別の部位に掛けるようになっていてもかまわない。
【0027】
本装置は、上記把持手段による駆動に従い、移動するための移動手段を含む。当該移動手段による移動は少なくとも、第一の方向への移動と、その第一の方向とは異なる第二の方向への移動とを含む。或る実施形態では、移動手段によって本装置が往復運動できる(すなわち、第一の方向に対して第二の方向が対称方向となる)。別の実施形態では、本装置が作業面を対象物上で自在に(例えば三方向、四方向等)動かすこともできる。当該移動手段は、本装置を対象物上で移動できるものであれば限定されないが、例えばローラー、タイヤ、対象物上を滑る平滑面等であってよい。また或る実施形態では、後述するように移動手段が押圧手段を兼ねるもの(例えばローラー)であってもよい。移動手段の個数は特に限定されず、そのうちの一部だけが押圧手段を兼ね、残りは移動のみを担うものであってもかまわない。
【0028】
本装置は、光照射手段を含むことにより、対象物に対して光を照射できる。照射される光は、光硬化性物質を含んだ対象物を硬化させる目的に使用できるのであればその波長は問わないが、例えば紫外光や可視光の波長を有する光であってよく、波長にして300~830nmの範囲の光であることが好ましい。さらに作業者の健康への安全性(特に眼への損傷回避)を鑑みると、紫外領域のうちでも長波長のUV-A領域の波長(315nm~380nm)か、または可視光波長(約400nm~約700nm)であることが好ましい。なお別の実施形態では、本発明の目的を達成できる限りにおいて、上記した以外の波長を有する光であってもかまわない。好ましい光照射手段としては、UV LED、UVランプ、蛍光灯、または太陽光ランプが挙げられるが、これらに限定はされず、例えばレーザー光源を使用してもよい。別の実施形態では、屋外での作業を想定し、光照射手段が太陽光を集光して照射する光学的機構を含んでいてもかまわない。
【0029】
好ましくは、光照射手段を対象物にできるだけ近くなるように配置することで、対象物の硬化を早め、かつその光が装置と対象物との間から洩れないという効果が奏される。或る実施形態では、対象物と光照射手段との間の距離(凹凸がある場合は最短距離)が、50cm以下、20cm以下、10cm以下、もしくは5cm以下であってよい。当該(最短)距離は、上述した移動手段のサイズや後述する押圧手段のサイズの設定により規定可能である。
【0030】
光照射手段が発する光の照度は、作業目的や求める硬化時間の長さに応じて任意に選択でき、例えば10~100,000ルクスの範囲であってよい。光照射手段からの発光強度の設定と、光照射手段から対象物への距離の設定とによって、照度を調節可能である。一般には照度が高い程に硬化時間を短くできる。
【0031】
光照射手段は点光源であってもよく、あるいは複数の光源からなる光照射面を含むものであってもよい。例えば光照射面は、複数個のLEDを配列した上に透光カバー(ガラス等)を配置した構造であってもよい。
【0032】
本装置は、少なくとも二つの押圧手段を有することで、対象物に対して均一に力を掛ける効果を奏し、かつ装置の姿勢が安定し作業性が向上し、しかも光照射手段から対象物への距離を一定に保ち硬化の程度を安定化できる効果をも奏する。本装置の移動に伴い、光照射手段は或る軌跡を対象物上で描くことになる。当該押圧手段もその光の軌跡を追うように移動しつつ対象物を押圧できるため、光による硬化が開始したもしくは進んでいる対象物が完全に硬化する前に、迅速な押圧または圧着を行って補修作業の精度を高め、しかも作業時間を劇的に短縮できる。例えばシートやフィルムが対象物に含まれる場合に、そのシートやフィルム内に気泡が発生していたとしても、対象物が完全に硬化する前に押圧がされるので、複雑な工程を要することなく適切に気泡を追い出すことが可能となる。
【0033】
押圧手段の数は二個以上であればよく、例えば三個、四個、もしくはそれ以上であってもよい。押圧手段の例としては、ローラー、または対象物上を滑る平滑面もしくは凸部等であってよい。押圧手段の素材は特に限定されないが、例えばローラーの場合にはゴム材料を使用でき、EPDMゴムやブチルゴム等を使用できる。
【0034】
或る実施形態では、押圧手段のうちの少なくとも一個が、上述した移動手段を兼ねていてもよい。例えば、第一の押圧手段が対象物を押圧する平滑面もしくは凸部であって、第二の押圧手段が移動手段を兼ねるローラーであってもかまわない。別の実施形態では、移動手段兼押圧手段として二個のローラーのみを装置が有するようにしてもよい。移動手段が押圧手段を兼ねる場合、装置の構成部品数を減らし、小型化、軽量化できるので作業性が高まるという効果が得られる。一方、移動手段と押圧手段を別々に設ける場合、部品に対する負荷を分散できるため、消耗・摩耗を遅らせられるという効果を奏する。
【0035】
さらに本装置は光遮蔽手段を有することで、第一の押圧手段、第二の押圧手段、および移動手段のうちの少なくとも一種以上から、光を遮蔽して光による劣化を避ける効果を奏する。押圧手段や移動手段は光に弱い材料(ゴムやプラスチック等)を用いるのが適切である場合も多いため、光(特に紫外光)への露出はできるだけ避けるのが望ましい。
【0036】
光遮蔽手段は、光照射手段から照射される光、およびそれが対象物に当たって反射した光を遮る機能を有する部材を含む。
【0037】
或る実施形態に係る光遮蔽手段は、光照射手段と、第一の押圧手段、第二の押圧手段、および移動手段のうちの少なくとも一種以上との間に立つように設けられた遮蔽板もしくは遮蔽凸部を含み、これらが光を遮る機能を有する。光照射手段から対象物への最短距離をdとおくと、その遮蔽板もしくは遮蔽凸部の高さはd以下であることが好ましい。なおここで言う高さとは、本装置(の作業面)から対象物に至る方向に沿った高さのことを指す。また後述するバネ機構やインターロック機構を本装置が含む態様においては、作業中には、力を掛けられた当該装置は対象物の方向へとある程度「沈み込む」ことになるため、上記高さはその沈み込み分を考慮して定めることが好ましい。
【0038】
別の実施形態に係る光遮蔽手段は、本装置の作業面の一部(すなわち、本装置が有する筐体の一部)であってもよい。この場合、光照射手段から、第一の押圧手段、第二の押圧手段、および移動手段のいずれかに至るまでの最短距離(すなわち、光照射手段から離隔する距離)をL1とおき、かつ光照射手段から対象物への最短距離をdとおいたときに、
L1 ≧ 2d × tanθ
を満たすように作業面を構成することで、その作業面(の一部)が光遮蔽手段としての機能を有するようになる。なおθは、光照射手段の有する光源の特性によって定まる入射角(反射角)である。
【0039】
図1には、L
1とθの関係を説明するための概要図を示した。この図では作業面に向かう側と、作業面と対象物との間を横から見た側とを合わせて示してある。作業面 10 上に光照射手段 40 と光から遮蔽したい部材 30 がある場合を考える。部材 30 は上述した移動手段または押圧手段に相当する。部材 30 と光照射手段 40 との間の幅L
1を有する部位が、ここでの光遮蔽手段 50 となる。すなわち光遮蔽手段 50 は作業面 10 の一部をなしている。作業面 10 から対象物 12 までの距離(高さ)がdとなる。このとき、光照射手段 40 からの入射角θを以って照射される光は、対象物 12 の表面で反射して作業面 10 に戻ってくる。このとき、
L
1 ≧ 2d × tanθ
であれば反射光は部材 30 に届かず、光が遮蔽される効果を奏する。
【0040】
一般に配光特性が拡散性である光源であればθは大きくなり、指向性が強い光源であればθは小さくなる。一般的に使用される光源では0°≦θ≦70°である。例えばLED(UV LED等)であればθ=60°~70°の範囲が典型的である。またレーザー光源であればθは0°近傍となる。
【0041】
任意の光源に対して光遮蔽機能が発揮されるためには、
L1 ≧ 2d × tan70°
を満たせば足りる。また、指向性が強い光源を光照射手段が含む態様においては、
L1 ≧ 2d × tan60°
L1 ≧ 2d × tan45°
L1 ≧ 2d × tan30°
L1 ≧ 2d × tan15°
のいずれかを満たすようにしてもよいし、あるいは光源の配光特性に応じてこれら以外のθを採用してもよい。いずれにしても、光照射手段から照射される光およびそれが対象物に当たって反射した光を遮るように機能すべく、光遮蔽手段は構成される。
【0042】
図2には、別の実施形態に係る光遮蔽手段 70 を説明する概要図を示した。
図2は
図1と同様であるが、光遮蔽手段 50 に代えて、高さd以下である光遮蔽手段 70 を設けている。光遮蔽手段 70 の高さはできるだけ高い(dに近い)ことが光を効率的に遮蔽する上で好ましいが、装置の移動を妨げない程度の隙間を対象物との間に空けていることも望まれる。なお
図2では光遮蔽手段 70 の形状が方形であるが、例えば三角形等の別の形状であってもよい。また光遮蔽手段 70 と光遮蔽手段 50 が併存していてもかまわない。
【0043】
或る実施形態に係る装置はさらに、当該装置と対象物との間の空間の外部へ光を洩らさないように、漏光防止手段を有してもよい。こうした漏光防止手段は特に、光照射手段が生物に有害な紫外線を発する場合に、作業者の健康を守る効果を奏する。また光照射手段が可視光を発する場合でも、作業者またはその周辺に居る者の目を眩ませないようにする効果も奏される。
【0044】
或る態様に係る漏光防止手段は、光照射手段と、当該装置の外縁(すなわち、装置の有する筐体の外縁)との間に立つように設けられた遮蔽板もしくは遮蔽凸部を含んでよく、これらが光を遮る機能を有するようにしてよい。光照射手段から対象物への最短距離をdとおくと、その遮蔽板もしくは遮蔽凸部の高さはd以下であることが好ましい。
【0045】
別の態様に係る漏光防止手段は、本装置の作業面の一部(すなわち、本装置が有する筐体の一部)であってもよい。この場合、光照射手段から、当該装置の(筐体の)外縁までの最短距離をL
2とおき、かつ光照射手段から対象物への最短距離をdとおいたときに、
L
2 ≧ 2d × tanθ
を満たすように作業面を構成することで、その作業面(の一部)が漏光防止手段としての機能を有するようになる。なおθとdの関係は、光遮蔽手段に関して
図1を用いて上述したところと同様に考えられる。
【0046】
或る実施形態に係る装置をさらに、作業中でないときには光照射を行わないように構成し、作業者またはその周辺に居る者の健康を害さないようにすることも好ましい。例えば、作業者が把持手段により、本装置を対象物に向けて押しつける方向に沿って力を掛けていることを検出するための圧力検出手段を設けることで、当該圧力検出手段が或る閾値を超える力を検出していない間は、光照射手段が光を発しないようにする回路(いわゆる光照射禁止用のインターロック機構)を、本装置が含んでいてもよい。そうした圧力検出手段としては、圧力センサーや、バネ機構を含むものが挙げられる。そうしたバネ機構は、後述する作業補助手段を兼ねるものであってもよいし、そうでなくてもよい。本装置をこのような構成とすることで、作業者が対象物に当該装置を押しつけるようにして作業しているとき以外の光照射が禁止されるため、作業者等の安全を確保できるだけでなく、無駄な電力消費も抑制できる効果を奏する。
【0047】
或る実施形態に係る装置はさらに、作業性を高めるために作業補助手段を有していてもよい。作業補助手段は、作業者が装置を対象物に押しつけやすくするため、特には重力に逆らう方向(天井方向や側壁の方向等)へ押しつけやすくするための機構を含んでよい。作業補助手段としては、バネ機構(コイルバネ、板バネ等)や油圧もしくは水圧式の補助機構が挙げられる。このような作業補助手段により、作業者は比較的小さな力を以って装置を対象物へ押しつけることができるようになる。例えば或る態様では、把持手段内に作業補助手段を設けることで、作業者が伸び上がるような姿勢を取らざるをえない場合であっても、容易に力を掛けられるようにできる。また別の態様では、上述したインターロック機構内に作業補助手段を設け、力を掛けやすくすると共にインターロック機能の発揮もできるようにしてもよい。
【0048】
或る実施形態では、光照射手段による積算光量を計算して作業者へ通知する手段を、装置がさらに含んでいてもよい。そうした手段としては例えば、マイクロプロセッサ等の演算装置と、ディスプレイやスピーカー等の視覚や聴覚に訴える通知装置との組み合わせが考えられる。この例では、光照射手段の仕様(光束、照射角等)と、光照射手段から対象物への最短距離dとを何からの入力手段により演算装置に与えることで、(光量計が無くても)照度を計算させるようにできる。そしてCPUクロックや時計等の計時手段を介して、照度と照射時間の積を演算装置に計算させることで、積算光量を算出できる。作業者には通知装置を介して積算光量が知らされるので、作業者が熟練者でなかったとしても、必要な施工品質を以って作業できるという効果が得られる。
【0049】
別の実施形態では、光照射手段による積算光量を計算して作業者へ通知する手段が、光量計を含み、対象物への照度を測定できるようになっていてもよい。
【0050】
また別の実施形態では、移動手段がその移動距離を測定する手段(例えばローラーの回転数を計測するカウンター等)をさらに含み、その移動距離から照射面積を算出できるようにしてもよい。その照射面積と積算光量から、対象物が受けるエネルギー量を演算装置が算出し、作業者へ通知するようにしてもよい。このような構成であっても、作業者が熟練者でなかったとしても必要な施工品質を以って作業しやすくなる効果が奏される。
【0051】
[第一の実施形態]
図3は、本発明の第一の実施形態に係る装置 100 を描いた斜視図であって、作業面 110 を下に向けて置かれた状態を示している。装置 100 は移動手段兼押圧手段として、第一のローラー 130 と第二のローラー 132 を有する。本実施形態では、把持手段 120 は「取っ手」的な形状である。作業者は、把持手段 120 を掴んで力を掛けることで、ローラー 130, 132 を介して装置 100 を対象物上で駆動させられる。また光照射手段による光照射をオンオフするための電源スイッチ 180 が把持手段 120 上に設けられており、簡便にオンオフ切替ができるようになっている。
【0052】
図4は、装置 100 の作業面 110 を描いた模式図である。作業面 110 には上述したローラー 130, 132 の他、光照射手段としての光照射面 140 と、光遮蔽手段 150, 152 (網掛けした部位)と、漏光防止手段 160, 162 (網掛けした部位)とが含まれる。本実施形態では、作業面 110 はローラー 130, 132 を除くと実質的に平坦な構造となっている。つまりローラー 130, 132 の高さが、作業面 110 から対象物への高さdに相当する。なお本実施形態では、作業面は(ローラーを除き)実質的に平滑な面を有する長方形または正方形の形状であるが、作業面の形状はそれ以外であってもよい。本発明の目的を阻害しない限りにおいて、例えば作業面が菱形や円形や楕円形であってもよいし、作業面に段差が設けてあってもかまわない。
【0053】
また
図5および
図6はそれぞれ異なる方向から見た装置 100 の側面図である。
【0054】
本実施形態では、光遮蔽手段 150, 152 の長さL1が、
L1 ≧ 2d × tanθ
を満たすようになっている。θは、LEDを想定した場合は70°に設定できるし、光源の特性に応じて別の値にも設定可能である。図示している例ではθ=70°となっている。
【0055】
また本実施形態では、漏光防止手段 160, 162 の長さL2が、
L2 ≧ 2d × tanθ
を満たすようにもなっている。このような構造により、装置 100 は簡便な構造でありながら、対象物への光照射と均一な押圧を並行して実施可能となっている。
【0056】
[第二の実施形態]
図7は、第二の実施形態に係る装置 200 の有する作業面 210 を示す模式図である。装置 200 は装置 100 と同様であるが、作業面 210 に四個のローラー 230, 232, 234, 236 を有し、光照射手段 240 がそれらローラーの中心に置かれていることが異なっている。この構成によれば、作業者は装置 200 を四方向に容易に駆動でき、複雑な形状の対象物に対しても作業がしやすいという効果を奏する。
【0057】
[第三の実施形態]
図8は、第三の実施形態に係る装置 300 の有する作業面 310 を示す模式図である。装置 300 は装置 200 と同様であるが、作業面 310 に押圧手段としての二個の滑る表面を有する凸部 330, 332 を有し、それとは別に移動手段としてのタイヤ 370, 372 を有することが異なっている。光照射手段 340 は凸部 330, 332 の間に設けられている。この構成によれば、作業者は装置 300 の移動をしながら凸部 330, 332 を対象物に擦りつけることができ、ローラーを用いる場合もよりも強く力を掛けられるという効果を奏する。
【0058】
[第四の実施形態]
図9は、第四の実施形態に係る装置 400 の有する、四角形ではなく三角形の作業面 410 を示す模式図である。装置 400 は押圧手段兼移動手段としての三個のローラー 430, 432, 434 を有し、光照射手段 440 がそれらローラーの中心に置かれていることが装置 100 と異なっている。この構成によれば、作業者は幅が狭い部分がある対象物(特にカドの部分)に対しても作業がしやすいという効果を奏する。
【0059】
[適用方法]
本発明の実施形態に係る装置を使用して、コンクリート躯体等の躯体に材料を適用し、補修や装飾や補強をすることができる。すなわち躯体に対して、光硬化型接着剤層と透光性層とを有する材料を貼り付けてから、その材料に対して本装置を適用することで、材料の透光性層を介して押圧しながら、光硬化型接着剤層を硬化できる。当該材料は任意の厚さを有する面状であることが好ましく、より具体的にはフィルムまたはシート(以下その総称として「フィルムシート」とも称する)であってよい。また材料は任意の用途を持つものであってよく、例えば補修材、装飾材、補強材などであってよい。
【0060】
当該材料が有する透光性層は剥離してもよいし、そのまま貼り付けてもよい。当該材料の素材としては透光性であれば任意のものを使用でき、当該技術分野で知られるポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエチレン、フッ素樹脂等が例えば使用できる。特に当該材料がフィルムシートであり、そのフィルムシートを貼り付けたままとする方法の場合には、フィルムシートが耐候性を有することが好ましい。耐候性を有するフィルムシートの素材としては、フッ素樹脂(PTFE、PVDF、PVF等)を含むことが好ましい。
【0061】
当該光硬化型接着剤は、当該技術分野で用いられる任意のものが使用できる。接着剤のうちでも、仮固定がしやすく光の照射前から接着状態になるので作業がしやすいという観点からは、粘着性を有する粘接着剤を好ましく使用できる。本明細書における粘接着剤とは、特定の操作(光照射等)をする前はタック性があって躯体に粘着し、かつ特定の操作後には硬化して躯体に接着する物質のことを指す。粘接着剤の例としては、特開2002-121527号公報に記載のものが挙げられる。
【符号の説明】
【0062】
10 作業面
12 対象物
30 部材
40 光照射手段
50 光遮蔽手段
70 光遮蔽手段
100 装置
110 作業面
120 把持手段
130 第一のローラー
132 第二のローラー
140 光照射面
150 光遮蔽手段
152 光遮蔽手段
160 漏光防止手段
162 漏光防止手段
180 電源スイッチ
200 装置
210 作業面
230 ローラー
232 ローラー
234 ローラー
236 ローラー
240 光照射手段
300 装置
310 作業面
330 凸部
332 凸部
340 光照射手段
370 タイヤ
372 タイヤ
400 装置
410 作業面
430 ローラー
432 ローラー
434 ローラー
440 光照射手段