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特許7229097金属製還元反応容器の蓋体及び、金属の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】金属製還元反応容器の蓋体及び、金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20230217BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019100541
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193376
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「チタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-363661(JP,A)
【文献】中国実用新案第208649435(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/12
C22B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩化物と還元材との接触による金属の製造に用いる金属製還元反応容器の、容器本体に取り付けられる蓋体であって、
当該蓋体が、筒状の側壁と、前記側壁の前記容器本体側の端部に設けた底壁と、該蓋体の内部に形成されて熱媒体を流すことが可能な内部流路と、該蓋体の内部を、容器内外方向に隔てた複数の空間に区分けする一個以上の隔壁とを備え、前記複数の空間が、容器内外方向の内側に位置して前記底壁に近接する内側空間と、容器内外方向で前記内側空間の外側に隣接する外側空間とを含み、
前記内部流路が、前記底壁側に向く複数個の孔部を含んで構成される分散路を有し、
前記内側空間と前記外側空間との間の前記隔壁に、前記分散路が設けられてなる蓋体。
【請求項2】
前記複数個の孔部の少なくとも一部が、筒状の前記側壁の横断面の重心を中心とする同心円上に配置されてなる請求項1に記載の蓋体。
【請求項3】
当該蓋体が、前記外側空間を中央領域と周縁領域とに分ける仕切り板をさらに備え、
前記隔壁の前記中央領域側の壁部に、前記分散路を有するとともに、前記隔壁の前記周縁領域側の壁部に、前記内側空間から前記外側空間の前記周縁領域へ熱媒体を送る貫通孔が設けられてなる請求項1又は2に記載の蓋体。
【請求項4】
前記中央領域の周方向の一部を容器内外方向に直交する方向に拡げて設けた拡張スペースに、熱媒体を当該蓋体の内部に流入させる流入口が設けられるとともに、前記周縁領域の周方向の、前記拡張スペースを隔てた両端部のそれぞれに、熱媒体を当該蓋体の内部から流出させる流出口が設けられてなる請求項に記載の蓋体。
【請求項5】
当該蓋体が、前記複数の空間の容器内外方向の外側に配置された断熱材をさらに備える請求項のいずれか一項に記載の蓋体。
【請求項6】
前記孔部が、平面視で直径が5mm~30mmの円形状を有する請求項1~のいずれか一項に記載の蓋体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の蓋体と容器本体とを有する金属製還元反応容器を使用する、金属の製造方法。
【請求項8】
金属塩化物を前記金属製還元反応容器内に供給し、前記金属塩化物を、該金属製還元反応容器内の還元材との接触により還元する還元工程を含み、
前記還元工程で、前記蓋体の前記内部流路に熱媒体を流す、請求項に記載の金属の製造方法。
【請求項9】
前記還元工程で、前記蓋体の前記内部流路を熱媒体が流れる際に、前記金属製還元反応容器の内圧を、前記蓋体の前記内部流路の圧力よりも高く維持する、請求項に記載の金属の製造方法。
【請求項10】
前記金属塩化物を四塩化チタンとするとともに、前記還元材を金属マグネシウムとし、
前記金属として金属チタンであるスポンジチタン塊を製造する請求項のいずれ
か一項に記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属塩化物と還元材との接触による金属の製造に用いられる金属製還元反応容器の蓋体及び、金属の製造方法に関する技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、工業的に広く利用されているクロール法によりスポンジチタンを製造するには、金属製還元反応容器内に予め液体状の溶融金属マグネシウムを貯留させ、その溶融金属マグネシウム上に四塩化チタンを滴下する還元工程を行う。還元工程では、金属マグネシウムが還元材として働いて四塩化チタンが金属チタンに還元され、金属製還元反応容器内で該金属チタンがスポンジチタン塊として成長する。
【0003】
還元工程の後は一般に、金属製還元反応容器内で生成したスポンジチタン塊から、残留した金属マグネシウムや、副生成物の塩化マグネシウムを分離させる分離工程が行われる。その後、スポンジチタン塊を仕分け・破砕して、粒状のスポンジチタンとする。
【0004】
還元工程では、四塩化チタンと金属マグネシウムとの還元反応に伴って発生する熱により、金属製還元反応容器が極めて高温になる。このことは特に、スポンジチタン塊の生産性を向上させるべく四塩化チタンの供給速度を速くする高速製造時に大きな問題となる。
これに関連して、特許文献1には、「加熱された反応容器内に装入された溶融金属マグネシウム浴の上方から四塩化チタンを滴下してスポンジ状の金属チタンを製造する際に、空気と霧状の水滴の混合物を反応容器外壁上部に吹き付けて冷却することを特徴とするスポンジチタン還元炉の冷却方法」等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-41880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、金属製還元反応容器は、金属マグネシウム等の還元材を貯留させる容器本体と、容器本体の開口部を覆蓋する蓋体とを含んで構成されることがある。還元工程では、容器本体のみならず蓋体も還元反応による発熱の影響を受ける。還元工程の特に中盤等では、図6に示すように、容器本体122の底部側のスポンジチタン塊TSだけでなく、容器本体122の内壁面上に壁面生成スポンジチタンWSが成長することにより、容器内部の冷却効率が低下し、溶融金属マグネシウムの浴面温度が上昇することから蓋体底壁も高温に晒されることになる。それ故に、蓋体の溶損や変形を防ぐため、蓋体の放熱を効果的に行うことが必要になる。
【0007】
しかしながら、これまでは、容器本体の冷却に関する技術の開発は行われているものの、蓋体の有効な冷却技術が確立されているとは言い難い。なお特許文献1にも、蓋体の冷却についての記載はない。
【0008】
この発明の目的は、蓋体の冷却を良好に行うことができる金属製還元反応容器の蓋体及び、金属の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、還元反応による発熱の影響を大きく受ける部分が蓋体の容器本体側に位置する底壁である点に着目し、蓋体のこの底壁に向けて熱媒体を分散させて送ることにより、蓋体を良好に冷却できることを見出した。
【0010】
このような知見の下、この発明の蓋体は、金属塩化物と還元材との接触による金属の製造に用いる金属製還元反応容器の、容器本体に取り付けられるものであって、当該蓋体が、筒状の側壁と、前記側壁の前記容器本体側の端部に設けた底壁と、該蓋体の内部に形成されて熱媒体を流すことが可能な内部流路とを備え、前記内部流路が、前記底壁側に向く複数個の孔部を含んで構成される分散路を有するものである。
【0011】
この発明の蓋体では、前記複数個の孔部の少なくとも一部が、筒状の前記側壁の横断面の重心を中心とする同心円上に配置されることが好ましい。
【0012】
また、この発明の蓋体は、当該蓋体が、該蓋体の内部を、容器内外方向に隔てた複数の空間に区分けする一個以上の隔壁をさらに備え、前記複数の空間が、容器内外方向の内側に位置して前記底壁に近接する内側空間と、容器内外方向で前記内側空間の外側に隣接する外側空間とを含み、前記内側空間と前記外側空間との間の前記隔壁に、前記分散路が設けられることが好適である。
【0013】
この場合、当該蓋体が、前記外側空間を中央領域と周縁領域とに分ける仕切り板をさらに備え、前記隔壁の前記中央領域側の壁部に、前記分散路を有するとともに、前記隔壁の前記周縁領域側の壁部に、前記内側空間から前記外側空間の前記周縁領域へ熱媒体を送る貫通孔が設けられることが好ましい。
【0014】
さらにこの場合、前記中央領域の周方向の一部を容器内外方向に直交する方向に拡げて設けた拡張スペースに、熱媒体を当該蓋体の内部に流入させる流入口が設けられるとともに、前記周縁領域の周方向の、前記拡張スペースを隔てた両端部のそれぞれに、熱媒体を当該蓋体の内部から流出させる流出口が設けられることが好ましい。
【0015】
当該蓋体は、前記複数の空間の容器内外方向の外側に配置された断熱材をさらに備えることができる。
【0016】
なお、上記の孔部は、平面視で直径が5mm~30mmの円形状を有することが好ましい。
【0017】
この発明の金属の製造方法は、上述したいずれかの蓋体と容器本体とを有する金属製還元反応容器を使用するというものである。
【0018】
この発明の金属の製造方法は、金属塩化物を前記金属製還元反応容器内に供給し、前記金属塩化物を、該金属製還元反応容器内の還元材との接触により還元する還元工程を含み、前記還元工程で、前記蓋体の前記内部流路に熱媒体を流すことができる。
前記還元工程では、前記蓋体の前記内部流路を熱媒体が流れる際に、前記金属製還元反応容器の内圧を、前記蓋体の前記内部流路の圧力よりも高く維持することが好ましい。
【0019】
この発明の金属の製造方法は、前記金属塩化物を四塩化チタンとするとともに、前記還元材を金属マグネシウムとし、前記金属として金属チタンであるスポンジチタン塊を製造するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、蓋体の冷却を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】スポンジチタン塊の製造時の還元工程を模式的に示す、金属製還元反応容器及びその周囲の還元炉の縦断面図である。
図2図2(a)は、この発明の一の実施形態の蓋体を示す、蓋体の側壁の中心軸線を含む縦断面図であり、図2(b)は、図2(a)のB-B線に沿う横断面図である。
図3図2に示す蓋体の内部流路での熱媒体の流れを示す、図2(a)の部分拡大断面図である。
図4】比較例の解析モデルを示す図である。
図5】比較例の蓋体を示す、蓋体の側壁の中心軸線を含む縦断面図である。
図6】還元工程にて金属製還元反応容器の容器本体内で成長するスポンジチタン塊を示す金属製還元反応容器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の蓋体1は、図1に例示するような金属製還元反応容器21の容器本体22の上方側の開口部23に取り付けられて使用され得るものである。この金属製還元反応容器21は、還元炉31内に配置されて、還元工程で用いられる。
【0023】
(還元工程)
還元工程では、金属製還元反応容器21の容器本体22内に、還元材としての溶融金属マグネシウムを貯留させる。そして、蓋体1に中央付近に設けた原料供給管Trを介して上方側から、図1に矢印で示すように、原料である金属塩化物としての四塩化チタンを、溶融金属マグネシウムの浴面Sb上に滴下して供給し、容器本体22内で四塩化チタンと金属マグネシウムとを接触させる。これにより、式:TiCl4+Mg→Ti+MgCl2の反応に基いて四塩化チタンが金属マグネシウムにより還元され、容器本体22内で、製造対象の金属である金属チタンとしてのスポンジチタン塊TSが得られる。
【0024】
ここで、副生成物としての塩化マグネシウムは、金属マグネシウムに比して比重が大きいことに起因して、浴面Sbから下方側に沈降する。一方、浴中の金属マグネシウムは、相対的に小さな比重の故に、浴面Sbに向かって浮上する。このような塩化マグネシウムと金属マグネシウムとの間の比重差により、浴流れが生じて浴面Sbには金属マグネシウムが位置し、この金属マグネシウムと、滴下される四塩化チタンとの間で反応が継続して起こり、主として浴中でスポンジチタン塊TSが成長する。
【0025】
還元工程の中盤及び終盤では、図1に示すように、容器内壁面の壁面生成スポンジチタンWSがある程度大きく成長し、それに起因して、容器内部の冷却効率が低下し、浴面Sbの温度が上昇する。それにより、特に還元工程の中盤には、蓋体1が、四塩化チタンの上記の還元反応により発生する熱の影響を受けやすくなる。このことは、単位時間当たりのスポンジチタン塊TSの製造量を増大させること等を目的として四塩化チタンの供給速度を速くした場合に、浴面Sbの温度が過度に上昇することから大きな問題になることがある。
これに対処するため、この実施形態では、後述するように、蓋体1の内部に所定の内部流路を設け、これにより蓋体1の良好な冷却を実現する。
【0026】
なお、還元工程で用いる四塩化チタン(TiCl4)は、たとえば、精留塔にて精製された後の液体状の四塩化チタン(「精製四塩化チタン」ともいう。)とすることができる。この精製四塩化チタンは、たとえば、チタン鉱石等の原料鉱石をコークス等の炭素源および塩素ガスと反応させて生成される粗四塩化チタンを、精留塔で精製して得られるものである。粗四塩化チタンは、揮発性の他の塩化物等を不純物として含むものであるので、精留塔内で連続蒸留により精製する。それにより、かかる不純物のほとんどが低減された高純度の精製四塩化チタンが得られる。
但し、還元工程で使用可能なものであれば、四塩化チタンは上記の精製四塩化チタンには限らない。
【0027】
また、還元工程で生成される塩化マグネシウムは、電解槽内での溶融塩電解に供することで、金属マグネシウムと塩素ガスとに分解することができる。これにより得られる金属マグネシウムは再度、還元工程で用いることができる。
【0028】
(蓋体)
蓋体1は、図2(a)及び(b)に示すように、円筒その他の筒状の側壁2と、側壁2の容器本体22側(図2(a)では下方側)の一方の端部を密閉するべく設けられた底壁3と、側壁2の反対側(図2(a)では上方側)の他方の端部を覆う天板4とを備えるものである。なおここでは、天板4は、側壁2の外径よりも若干大きな直径を有する円板状のものとしている。側壁2は、横断面が四角形その他の多角形の筒状のもの考えられるが、横断面が円形の円筒状をなすものが多い。
【0029】
この蓋体1の内部には、空気その他の気体又は液体からなる冷却媒体等の熱媒体を流すための内部流路5が形成されている。内部流路5に空気を流す空冷が好ましいが、場合によっては、内部流路5に水等の液体を流すことも可能である。なお、この例では、熱媒体は内部流路5内を、図3に矢印で示すように流動する。
【0030】
蓋体を冷却する内部流路としては種々の形状のものが考えられるが、この実施形態では、内部流路5はその途中に、複数個の孔部6からなり底壁3に向けて熱媒体を分散させて送る分散路Pdを有する。
分散路Pdの面積は、側壁2によって規定される蓋体1の断面積(図2(b)では隔壁7の面積)の10%以上とすることで、冷却能力がより向上する。分散路Pdの面積は、たとえば、蓋体1の断面積の30%以下である場合がある。なお、分散路Pdの面積は、分散路Pdを形成する最も周縁側の隣接する孔部6の中心どうしを直線で結んで規定される閉空間の面積を意味する。
また、平面で視た複数個の孔部6の面積の合計は、上記の蓋体1の断面積の0.1%~1.0%とすることが好ましい。
【0031】
分散路Pdの面積や孔部6の面積を上述したようにある程度大きくすることにより、内部流路5に供給された比較的低温の熱媒体を、そのような分散路Pdで蓋体1の底壁3の広い面積範囲にわたって送ることができる。それにより、還元工程の際に、容器本体22側に位置して高温になりやすい底壁3を良好に冷却することができる。また、還元工程で、スポンジチタン塊TSがある程度大きく成長して浴面Sbが蓋体1に接近した場合や、四塩化チタンの供給速度が速くなった場合は、蓋体1の温度がさらに高くなり得るが、この場合でも、上記の内部流路5により蓋体1の温度をある程度低く維持することが可能になる。蓋体1は、単位時間当たりのスポンジチタン塊TSの製造量(成長量)を増大させるスポンジチタン塊TSの高速製造にも有効に用いることができる。
【0032】
特に還元工程の中盤は、浴面Sbが上昇するとともに、四塩化チタンの供給速度も速いことが多いため、蓋体1が高温になることがある。このような状況下でも、この実施形態の蓋体1は良好な冷却が可能である。なお、還元工程の終盤は、溶融金属マグネシウムの量が減少し、四塩化チタンの供給速度も遅くなる場合がある。但し、溶融金属マグネシウム(場合により溶融塩化マグネシウム)の浴面と蓋体1との距離が短いため、四塩化チタンの供給速度が遅くなっても蓋体1は高温となり得る。このような状況下でも、この実施形態の蓋体1は良好な冷却が可能である。
【0033】
また蓋体1は、内部流路5に熱媒体を流して冷却される際に、内部流路5を流れる気体の熱媒体の風速や、熱媒体の流動による内部流路5の圧力がそれぞれ所定の値以下であることが求められる場合がある。風速をある程度に抑えることにより、蓋体1を構成する板状部材などの大きな振動の発生が抑制されて、蓋体1の破損を防止することができる。また、蓋体1の内部流路5の圧力が高くなりすぎないことにより、金属製還元反応容器21の内圧のコントロールが容易になる他、蓋体の破損を防止することができる。金属製還元反応容器21の内圧を内部流路5の圧力より大きくしておけば、蓋体1が破損した場合であっても熱媒体が容器本体22内に流入することを抑制できる。この実施形態では、蓋体1に、上述したような分散路Pdを有する内部流路5を形成したことにより、熱媒体の風速の増大や蓋体1の内部流路5の圧力の上昇を抑えることができる。
このような分散路Pdを有する内部流路5により蓋体1の冷却が良好に行われることは、後述するシミュレーション結果から得られた知見にも基づくものである。
【0034】
分散路Pdを構成する複数個の孔部6は、図2(b)に示すように、側壁2の横断面の重心(図示の円筒状の側壁2では中心軸線CL上の点)を中心とする複数の同心円(図2(b)に破線で示す。)上に配置することが好ましい。また、原料供給管Trは複数の孔部6に囲まれるように配置することが好ましい。底壁3は原料供給管Trの近傍が最も高温となり、該部分にて溶損や変形が発生しやすい。よって、原料供給管Trの周囲に複数の孔部6を配置しシャワーのように熱媒体を分散供給して、効率よく蓋体1を冷却する。なお、図示の実施形態では、中心軸線CL上、及び、隣接するものどうしの相互で等距離にて離れた四つの同心円上に、所定の間隔をおいて複数個の孔部6を設けている。なお、同心円上における原料供給管Trの配設位置には、孔部6を設けていない。
【0035】
図2に示すところでは、蓋体1の内部には、その内部流路5を容器内外方向Daに隔てる複数の空間S1、S2に区分けする隔壁7が設けられている。二個以上の隔壁7を設けて三つ以上の空間にすることも可能であるが、この実施形態では、一個の隔壁7により、内部流路5が、上方側と下方側の二つの空間、すなわち内側空間S1及び外側空間S2に区分けされている。
【0036】
このように、容器内外方向Daの内側に位置して底壁3に近接する内側空間S1と、容器内外方向Daで内側空間S1の外側に隣接する外側空間S2とを含む複数の空間が存在する場合、上述した複数個の孔部6は、底壁3に近接する内側空間S1と外側空間S2との間の隔壁7に設けることができる。そうすることにより、内部流路5に供給された熱媒体が外側空間S2から内側空間S1に流れる際に、該熱媒体が、複数個の孔部6で、内側空間S1に近接する底壁3に向けて分散して送られることになって、底壁3を有効に冷却する。但し、底壁3に向けて熱媒体を分散させて送る分散路があれば、底壁の良好な冷却が可能になるので、このような複数の空間S1、S2に区分けする隔壁7を有しない蓋体も、この発明に含まれる。例えば、底壁3の中央付近に熱媒体が導入され、その後側壁2から蓋体1の外側に熱媒体が排出される内部流路5は隔壁7が不要である。
【0037】
図2に示す実施形態では、蓋体1の外側空間S2には、図2(b)に示すように、該外側空間S2を中央領域Rcと周縁領域Reとに分ける仕切り板8を設けることができる。そして、複数個の孔部6を含む分散路Pdは、外側空間S2の仕切り板8を隔てて中央領域Rc側に位置する隔壁7の壁部(隔壁7の中央領域Rc側にある壁部)に設けることが好ましい。隔壁7の中央領域Rc側の壁部に設けた複数個の孔部6による分散路Pdにより、還元工程で最も高温になりやすい底壁3の当該中央部に、低温の熱媒体を分散させて送り、この中央部を特に効率的に冷却するためである。
【0038】
一方、外側空間S2の仕切り板8を隔てて周縁領域Re側に位置する隔壁7の壁部(隔壁7の周縁領域Re側の壁部)には、分散路Pdを経て内側空間S1に流入した熱媒体を、外側空間S2の周縁領域Reへ送る貫通孔9を設けることができる。これにより、内側空間S1に流入した熱媒体を外側空間S2に送ることができる。貫通孔9は、たとえば、図2(b)に示すように、周縁領域Reで側壁2の内面に近接する位置に、中心軸線CLを中心とする円(図2(b)に破線で示す。)上に、等しい間隔をおいて複数個設けることができる。
【0039】
その上で、中央領域Rcの周方向の一部を、図2(b)に示すように、容器内外方向Daに直交する方向(図2(b)では左右方向)に拡げて、そこに拡張スペースSeを設ける。なおここでは、拡張スペースSeを設けることにより、仕切り板8は、円筒の周方向の一部に、拡張スペースSeを区画する平行な二枚の平板を設けた形状になる。
そして、中央領域Rcのこの拡張スペースSeに、熱媒体を蓋体1の内部に流入させる流入口10を設けるとともに、周縁領域Reの周方向の、拡張スペースSeを隔てた両端部のそれぞれに、熱媒体を蓋体1の内部から流出させる流出口11を設けることが好ましい。それにより、流入口10及び流出口11の配置を近傍箇所にまとめることができて、後述する断熱材12等の他の部材による配置スペース上の制約を受けずに、流入口10及び流出口11を配置しやすくなる。
【0040】
分散路Pdを構成する各孔部6は、平面視で直径が5mm~30mmの円形状とすることが好ましい。平面形状が円形状の孔部6は、ドリル等で穴あけ加工することが比較的容易であるため好ましい。このような孔部6の直径が上記の範囲の上限値よりも大きい場合、熱媒体の流入口10の近傍に位置する孔部6の流量が、流入口10の遠方に位置する孔部6の流量よりも大きくなり、底壁3の冷却が不均一となるため好ましくない。また、孔部6の直径が上記の範囲の下限値未満である場合、孔部6一つ一つの通過風量が減少するため、効率的な冷却のためには、孔部6をより多く配置する必要が生じ、孔あけ加工の加工負荷が増大するため好ましくない。先述した分散路Pdの面積は、冷却能力の向上のため、例えば0.3m2~1.0m2とすることができる。分散路Pdの面積が上記の範囲の上限値よりも大きい場合、熱媒体の流入口10の近傍に位置する孔部6の流量が、流入口10の遠方に位置する孔部6の流量よりも大きくなり、底壁3の冷却が不均一となる可能性がある。分散路Pdの面積が上記の範囲の下限値未満である場合、熱媒体が分散路Pdの存在する箇所に集中し、底壁3の分散路Pdが存在しない部分の冷却が不足することが懸念される。
また、分散路Pdを形成する最も周縁側の隣接する孔部6の中心どうし間の距離は、孔部6の直径の3倍以上とすることが好ましい。孔部6が円形状ではない場合は、当該孔部6の平面視の面積と等しい面積の円についての直径とする。下限値未満とした場合、熱媒体の流入口10の近傍に位置する孔部6の流量が、流入口10の遠方に位置する孔部6の流量よりも大きくなり、底壁3の冷却が不均一となるため好ましくない。分散路Pdを形成する最も周縁側の隣接する孔部6の中心どうしの距離は、たとえば、孔部6の直径の20倍以下とすることがある。なお、分散路Pdにおいて孔部6は規則的に配置されていてもよく、不規則に配置されても構わない。
【0041】
ところで、還元工程の後は一般に、分離工程が行われる。分離工程では、たとえば、金属製還元反応容器21を、図示しない他の容器と連通管でつなぎ、金属製還元反応容器21内を減圧することにより、還元工程で残留した金属マグネシウムや副生成物の塩化マグネシウムを、スポンジチタン塊TSから分離させるべく当該他の容器に移す。このとき、塩化マグネシウム等が蓋体1を通過する際に、そこで固化させないこと等を目的として、蓋体1には、断熱材12を設けることができる。断熱材12は、たとえば、アルミナシリカ系のセラミックスファイバーからなる断熱ブランケット等とすることができる。なお、蓋体1の側壁2、底壁3及び天板4等の他の部材の材質としては、たとえば、ステンレス鋼又は炭素鋼(炭素量が2質量%以下の鋼)とすることができる。なかでも、NiやCrの汚染を抑制する観点から炭素鋼が好ましい。
【0042】
このような断熱材12は、図2(a)に示すように、複数の空間S1、S2の容器内外方向Daの外側に配置することが好ましい。この場合、還元工程では効率的に底壁3を冷却でき、分離工程では外気に基づく蓋体1の冷却を良好に抑制できる利点がある。図示の実施形態では、外側空間S2の容器内外方向Daの外側で、流入口10及び流出口11になる管路を除く略全域に、断熱材12が配置されている。
その他、蓋体1には、図示は省略するが、還元工程で高温かつ高圧になる浴面Sbの上方側の空間から圧抜きをするための圧抜き管や、還元工程開始時に容器本体内にMgを供給すること等に使用されて連結管との接続部を備えたMg供給管が設けられることがある。これらの構成は中央領域Rc内に設けられてよく、さらには分散路Pdの一部を占めてもよい。圧抜き管やMg供給管が蓋体1の冷却能に及ぼす影響は流体シミュレーションにより検討可能である。よって、蓋体1の冷却能を良好に維持しつつ圧抜き管やMg供給管を配置可能である。また、蓋体1には、該蓋体1の冷却が良好に行われているかについて確認するため、蓋体底面の温度を測定する熱電対等の温度計13を設けることができる。
【0043】
(金属の製造方法)
一の実施形態に係る金属の製造方法では、金属塩化物と還元材とを接触させて金属塩化物を還元し、金属を製造するため、上述したような蓋体1と容器本体22とを有する金属製還元反応容器21を使用する。
【0044】
より具体的には、金属の製造方法は、金属塩化物を金属製還元反応容器21内に供給し、金属塩化物を金属製還元反応容器21内の還元材との接触により還元する還元工程を含むことができる。
ここで、金属塩化物を四塩化チタンとするとともに、還元材を金属マグネシウムとしたときは、金属として金属チタンであるスポンジチタン塊TSを製造することができる。この場合における還元工程は、先述したとおりである。
【0045】
ここにおいて、上記の還元工程では、蓋体1の内部流路5に熱媒体を流すことが好ましい。先に述べたように、分散路Pdを有する蓋体1の内部流路5に、所定の熱媒体を流すことにより、還元工程で高温になることがある蓋体1を良好に冷却することができて、蓋体1がスポンジチタン塊TSの高速製造にも耐え得るようになる場合がある。
【0046】
蓋体1の内部流路5に熱媒体を供給し、該内部流路5を熱媒体が流れる際には、金属製還元反応容器21の内圧を、蓋体1の内部流路5の圧力よりも高く維持することが好適である。これにより、蓋体1が破損した場合であっても容器本体22内への熱媒体の流入及びそれによるスポンジチタン塊TSの汚染を抑制できる。
【0047】
還元工程の後は、還元工程で残留した金属マグネシウムや副生成物の塩化マグネシウムを、スポンジチタン塊TSから分離させる分離工程を行うことがある。ここでは、金属製還元反応容器21を、図示しない連通管で、これも図示しない他の容器と連結し、金属製還元反応容器21内を減圧することにより、塩化マグネシウム等が揮発分離される。
【実施例
【0048】
次に、この発明の蓋体の効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0049】
(シミュレーション)
熱流体解析用ソフトANSYS社製Fluentを用いて、蓋体の複数の解析モデルについて、数値解析によるシミュレーションを行った。解析条件として、入熱は蓋体の底壁が1000℃の放射熱を受けるものとし、抜熱は蓋体の内部流路での空冷とした。解析の結果について、底壁の特に中央部の温度が800℃以下であること、内部流路での風速が20m/s以下であること、蓋体の内部流路の圧力が2000Pa以下であることを合格の条件とした。
【0050】
実施例の解析モデルは、図2に示すものとした。分散路Pdの面積は、側壁2によって規定される蓋体1の断面積の14%とした。また、分散路Pdに含まれる孔部6の面積の合計は側壁2によって規定される蓋体1の断面積の0.5%とした。各孔部6の直径は20mmとした。
比較例の解析モデルは、図4に示すように、隔壁を備えず、内部流路105が一つの空間内で単純迷路方式になるように仕切り板108を設けたものを蓋体101とした。この解析モデルでは、図4の右側に流入口110が、左側に流出口111がそれぞれ存在し、右側から左側に向かって空気が流れる。なお、図2では連通管や圧抜き管を省略しているが、比較例の解析モデル(図4)でも同様とした。
【0051】
解析の結果、比較例の解析モデルでは、底壁103の最高温度が950℃、内部流路105の最大風速が60m/s、内部流路105の最大圧力が15000Paであった。
一方、実施例の解析モデルでは、底壁3の最高温度が800℃、内側空間S1での最大風速が20m/s、内側空間S1での最大圧力が1000Paであった。
比較例の解析モデルのような迷路方式では、当該迷路の下流側で空気の温度が高くなって、そこでの冷却が不十分になると考えられる。
【0052】
(試験例)
上記のシミュレーションの結果より、図2に示すような蓋体1の有効性が確認されたので、上記シミュレーションで規定した構成を備える蓋体1(実施例の蓋体)を実際に試作し、それを用いて還元工程を行う試験を実施した。これと比較した蓋体201(比較例の蓋体)は、図5に示すように、内部流路を有しない(内部流路部分が炭素鋼である)ことを除いて、実施例の蓋体1と略同様の構成を有するものとした。なおここでは、連通管や圧抜き管を省略しているが、実施例及び比較例のいずれの蓋体でも、先述したような連通管や圧抜き管が存在するものとした。特に実施例においては、連通管や圧抜き管が存在しても同等程度の冷却能力が保持されるというシミュレーション結果を得た。
【0053】
還元工程の試験は、実施例の蓋体1及び比較例の蓋体201のそれぞれについて、所定の還元炉内に配置した金属製還元反応容器の容器本体の開口部に取り付けて行った。ここでは、四塩化チタンを、原料供給管から滴下することで、容器本体内の溶融金属マグネシウムと接触させ、還元反応を生じさせた。
【0054】
上記の還元工程の間に、蓋体1、201の底壁3、203の温度を測定した。その結果から、還元工程中の最大温度、最低温度、平均温度を求めた。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すところから、実施例の蓋体1を用いた場合は比較例の蓋体201を用いた場合に比して、四塩化チタンの滴下速度を速くしたにも関わらず、最小温度及び最大温度がともに十分に低下したことが解かる。したがって、実施例の蓋体1は、内部流路5を用いた空冷により蓋体1の冷却を良好に行い得ることが解かった。
【符号の説明】
【0057】
1、101、201 蓋体
2、202 側壁
3、103、203 底壁
4、204 天板
5、105 内部流路
6 孔部
7 隔壁
8、108 仕切り板
9 貫通孔
10、110 流入口
11、111 流出口
12、212 断熱材
21 金属製還元反応容器
22、122 容器本体
23 開口部
31 還元炉
Sb 浴面
Tr 原料供給管
TS スポンジチタン塊
WS 壁面生成スポンジチタン
S1 内側空間
S2 外側空間
CL 中心軸線
Pd 分散路
Rc 中央領域
Re 周縁領域
Se 拡張スペース
Da 容器内外方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6