(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】細胞電位測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230217BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230217BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
G01N27/416 341M
G01N27/00 Z
C12M1/34 A
(21)【出願番号】P 2019116912
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅和
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510980(JP,A)
【文献】特開2002-031617(JP,A)
【文献】特開平11-187865(JP,A)
【文献】特表2003-511668(JP,A)
【文献】特開2005-233641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/00
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、
前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、
前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と
を備え、
前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、
前記疎水領域は、前記作用領域を囲む円環状の形状を有する、細胞電位測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞電位測定装置であって、
前記疎水領域上には、前記細胞懸濁液の端が位置する、細胞電位測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の細胞電位測定装置であって、
前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、
前記複数の配線を覆う絶縁膜と、
前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜と
を備える、細胞電位測定装置。
【請求項4】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、
前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、
前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、
前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、
前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、
前記複数の配線を覆う絶縁膜と、
前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜と
を備え、
前
記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、
前記疎水膜は導電膜である、細胞電位測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の細胞電位測定装置であって、
前記導電膜は、前記複数の作用電極および前記参照電極の少なくともいずれか一方と同じ材料で構成されており、前記複数の作用電極および前記参照電極と同一の層において前記複数の作用電極および前記参照電極と絶縁して設けられる、細胞電位測定装置。
【請求項6】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、
前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、
前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、
前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、
前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、
前記複数の配線を覆う絶縁膜と、
前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜と
を備え、
前
記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、
前記疎水膜は疎水化用の凹凸形状を有している、細胞電位測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞電位測定装置であって、
前記疎水膜は、前記作用領域の中心についての径方向に沿う断面において、前記凹凸形状を有する、細胞電位測定装置。
【請求項8】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、
前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、
前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、
前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、
前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、
前記複数の配線を覆う絶縁膜と
を備え、
前
記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、
前記疎水領域において、前記絶縁膜は疎水化用の凹凸形状を有している、細胞電位測定装置。
【請求項9】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、
前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、
前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と
を備え、
前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、
前記測定面のうち、前記作用領域と前記疎水領域との間に位置し、前記作用領域を囲む親水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも小さい、細胞電位測定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞電位測定装置であって、
前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、
前記複数の配線を覆い、親水性材料によって形成された絶縁膜と、
前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜と
を備え、
前記親水領域内において、前記絶縁膜は親水化用の凹凸形状を有している、細胞電位測定装置。
【請求項11】
請求項8または請求項10に記載の細胞電位測定装置であって、
前記絶縁膜は、前記複数の配線の直上を避けた領域において、前記凹凸形状を有している、細胞電位測定装置。
【請求項12】
請求項8、請求項10および請求項11の少なくともいずれか1つに記載の細胞電位測定装置であって、
前記絶縁膜は、前記作用領域の中心についての径方向に沿う断面において、前記凹凸形状を有する、細胞電位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、細胞電位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、神経細胞等の細胞あるいは組織の誘導電位を測定する細胞電位測定装置が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、細胞電位測定装置は電極アセンブリを含んでおり、当該電極アセンブリの表面(以下、測定面と呼ぶ)には、複数のマイクロ電極および基準電極が設けられている。複数のマイクロ電極は、測定面内の矩形領域において、マトリックス状に配列される。基準電極は当該矩形領域の対角線の延長線上に設けられている。
【0003】
作業員は、測定時において、細胞または組織の切片を含む培養液等の液体(細胞懸濁液とも呼ばれ得る)を測定面に滴下する。具体的には、作業員は、当該液体が矩形領域を覆い、かつ、基準電極に接触しないように、当該液体を測定面に滴下する。そして、この状態で電極アセンブリを放置することにより、液体中の細胞または組織の切片は測定面の矩形領域の上に沈下して層(以下、細胞層と呼ぶ)を形成する。よって、マイクロ電極は細胞層中の細胞または組織の電位を検出する。一方で、基準電極の上には、当該切片は存在しない。細胞電位測定装置は、各マイクロ電極によって検出される電位と、基準電極によって検出される基準電位との差を誘導電位として測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、電極アセンブリ上の測定面が親水性を有している場合には、当該液体が平面視において比較的に薄く広がる。これによれば、細胞または組織の切片が広い範囲で沈下するので、測定面の上に形成された細胞層の平面視における密度が小さくなる。より具体的には、細胞層の密度が小さい領域が平面視において偏在し得る。マイクロ電極上の細胞層の密度が小さければ、当該マイクロ電極は適切に電位を測定できない。
【0006】
そこで、本願は、測定面上に形成される細胞層の平面視の密度を向上できる細胞電位測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
細胞電位測定装置の第1の態様は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極とを備え、前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、前記疎水領域は、前記作用領域を囲む円環状の形状を有する。
【0008】
細胞電位測定装置の第2の態様は、第1の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記疎水領域上には、前記細胞懸濁液の端が位置する。
【0009】
細胞電位測定装置の第3の態様は、第1または第2の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、前記複数の配線を覆う絶縁膜と、前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜とを備える。
【0010】
細胞電位測定装置の第4の態様は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、前記複数の配線を覆う絶縁膜と、前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜とを備え、前記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、前記疎水膜は導電膜である。
【0011】
細胞電位測定装置の第5の態様は、第4の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記導電膜は、前記複数の作用電極および前記参照電極の少なくともいずれか一方と同じ材料で構成されており、前記複数の作用電極および前記参照電極と同一の層において前記複数の作用電極および前記参照電極と絶縁して設けられる。
【0012】
細胞電位測定装置の第6の態様は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、前記複数の配線を覆う絶縁膜と、前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜とを備え、前記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、前記疎水膜は疎水化用の凹凸形状を有している。
【0013】
細胞電位測定装置の第7の態様は、第6の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記疎水膜は、前記作用領域の中心についての径方向に沿う断面において、前記凹凸形状を有する。
【0014】
細胞電位測定装置の第8の態様は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極と、前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、前記複数の配線を覆う絶縁膜とを備え、前記疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、前記疎水領域において、前記絶縁膜は疎水化用の凹凸形状を有している。
【0015】
細胞電位測定装置の第9の態様は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞電位測定装置であって、前記測定面のうち作用領域内において2次元に配列される複数の作用電極と、前記測定面のうち前記作用領域よりも外側に設けられる参照電極とを備え、前記測定面のうち前記作用領域と前記参照電極との間の疎水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも大きく、前記測定面のうち、前記作用領域と前記疎水領域との間に位置し、前記作用領域を囲む親水領域における接触角は、前記作用領域における接触角よりも小さい。
【0016】
細胞電位測定装置の第10の態様は、第9の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記複数の作用電極および前記参照電極からそれぞれ引き出され、前記疎水領域よりも外側に延在する複数の配線と、前記複数の配線を覆い、親水性材料によって形成された絶縁膜と、前記疎水領域内に設けられ、前記絶縁膜における接触角よりも接触角が大きい疎水膜とを備え、前記親水領域内において、前記絶縁膜は親水化用の凹凸形状を有している。
【0017】
細胞電位測定装置の第11の態様は、第8または第10の態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記絶縁膜は、前記複数の配線の直上を避けた領域において、前記凹凸形状を有している。
【0018】
細胞電位測定装置の第12の態様は、第8、第10および第11の少なくともいずれか1つの態様にかかる細胞電位測定装置であって、前記絶縁膜は、前記作用領域の中心についての径方向に沿う断面において、前記凹凸形状を有する。
【発明の効果】
【0019】
細胞電位測定装置の第1および第2の態様によれば、細胞懸濁液が測定面上において広がりにくい。よって、測定面上に形成される細胞層の平面視の密度を向上できる。
【0020】
しかも、細胞懸濁液の測定面上の広がりを等方的に抑制することができる。
【0021】
細胞電位測定装置の第3の態様によれば、疎水膜により、疎水領域における接触角を向上することができる。よって、絶縁膜の材料を、疎水領域における接触角とは無関係に選定できる。
【0022】
細胞電位測定装置の第4の態様によれば、疎水領域における接触角を容易に大きくすることができる。
【0023】
細胞電位測定装置の第5の態様によれば、金属膜を作用電極または参照電極と同時に形成できる。よって、細胞電位測定装置を製造しやすく、製造コストを低減できる。
【0024】
細胞電位測定装置の第6および第7の態様によれば、疎水領域における接触角をさらに大きくすることができる。
【0025】
細胞電位測定装置の第8の態様によれば、絶縁膜の形状により、疎水領域における接触角を大きくすることができる。
【0026】
細胞電位測定装置の第9の態様によれば、細胞懸濁液が作用領域の中心からずれた着液位置に滴下されても、細胞懸濁液は親水領域を周方向に沿って流れやすいので、細胞懸濁液が作用領域の全体を覆いやすい。
【0027】
細胞電位測定装置の第10および第11の態様によれば、疎水膜により、疎水領域の接触角を大きくしつつ、絶縁膜の凹凸形状により、親水領域の接触角を小さくできる。
【0028】
細胞電位測定装置の第12の態様によれば、配線の直上における絶縁膜の膜厚をより均一にすることができ、配線を均一に保護することができる。
【0029】
本願明細書に開示される技術に関する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】細胞電位測定装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図2】細胞電位測定装置の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】細胞懸濁液が滴下された状態での細胞電位測定装置の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図4】細胞電位測定装置の製造途中の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図5】細胞電位測定装置の製造途中の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図6】細胞懸濁液が滴下された状態での、比較例にかかる細胞電位測定装置の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図7】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す平面図である。
【
図8】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す平面図である。
【
図9】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図10】細胞電位測定装置の製造途中の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図11】細胞電位測定装置の製造途中の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図12】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図13】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図14】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す平面図である。
【
図15】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図16】細胞懸濁液が滴下された状態での、細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図17】細胞懸濁液の時系列的な変化の様子を概略的に示す図である。
【
図18】細胞懸濁液の時系列的な変化の様子を概略的に示す図である。
【
図19】細胞懸濁液の時系列的な変化の様子を概略的に示す図である。
【
図20】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す断面図である。
【
図21】細胞電位測定装置の構成の他の一例を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略、または、構成の簡略化がなされるものである。また、図面に示される構成の大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。
【0032】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0033】
また、図では、適宜にXYZ直交座標が付されている。以下では、X軸方向の一方側を+X側とも呼び、他方側を-X側とも呼ぶ。Y軸方向およびZ軸方向についても同様である。
【0034】
第1の実施の形態.
<細胞電位測定装置>
図1は、細胞電位測定装置1の構成の一例を概略的に示す平面図であり、
図2は、細胞電位測定装置1の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1のA-A断面における構成の一例を概略的に示している。以下では、細胞電位測定装置1の構成を説明すべく、XYZ直交座標を導入する。Z軸方向は、細胞電位測定装置1が有する測定面1aの法線方向である。
【0035】
細胞電位測定装置1は、その測定面1aが鉛直上方を向くように、例えば載置台(不図示)に載置される。この測定面1aの上には、細胞懸濁液L1が滴下される。
図3は、細胞懸濁液L1が測定面1aの上に滴下された状態での、細胞電位測定装置1の構成の一例を概略的に示す断面図である。この細胞懸濁液L1の容積は例えば数μL程度(具体的な一例として4μL)である。細胞懸濁液L1は測定面1aの上で維持される。細胞懸濁液L1には、心筋または神経細胞等の細胞が含まれており、これらの細胞は時間の経過とともに沈下して、測定面1aの上にシート状の細胞層を形成する。細胞電位測定装置1は測定面1a上の各位置において細胞層の電位を測定することができる。これにより、細胞の電気的な活動をモニタすることができる。以下、細胞電位測定装置1の構成について述べる。
【0036】
細胞電位測定装置1は、その測定面1aに設けられた複数の作用電極10および参照電極20を含んでいる。複数の作用電極10は平面視において(つまり、Z軸方向に沿って見て)、領域R1内に2次元的に配列される。言い換えれば、複数の作用電極10は領域R1内にて、X軸方向およびY軸方向において分散して設けられる。以下では、領域R1を作用領域R1と呼ぶ。
図1の例では、複数の作用電極10は作用領域R1内において、X軸方向およびY軸方向をそれぞれ行および列としたマトリックス状に配列されている。また
図1の例では、4行4列の作用電極10が示されているものの、作用電極10の個数はこれに限らず、適宜に変更され得る。このような複数の作用電極10は多点電極アレイとも呼ばれ得る。
【0037】
図1の例では、各作用電極10は平面視において矩形形状を有しており、その一辺がX軸方向に沿うように配置されている。複数の作用電極10のうち4隅に位置する作用電極10を結ぶ仮想的な四角形の領域の一辺は、例えば数mmに設定される。各作用電極10の一辺は例えば数百μmに設定される。作用電極10の材料としては、例えば金(Au)、白金(Pt)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つの金属材料、もしくは、窒化チタン(TiN)またはインジウム酸化スズ(InSnO)などの導電性化合物を採用することができる。
【0038】
参照電極20は平面視において作用領域R1よりも外側に設けられる。
図1の例では、参照電極20は4つ設けられているものの、その個数はこれに限らず、適宜に変更され得る。
図1の例では、4つの参照電極20は、一辺がX軸方向に沿う仮想的な正四角形の頂点にそれぞれ設けられている。当該仮想的な正四角形の中心は作用領域R1の中心に略一致する。参照電極20の材料としても、例えば金(Au)、白金(Pt)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つの金属材料、もしくは、窒化チタン(TiN)またはインジウム酸化スズ(InSnO)などの導電性化合物を採用することができる。
【0039】
また、
図1の例では、参照電極20も平面視において矩形形状を有しており、その一辺がX軸方向に沿うように設けられている。参照電極20の平面視におけるサイズは、作用電極10よりも大きく設定されてもよい。例えば参照電極20のサイズを作用電極10の5倍以上に設定してもよい。このように参照電極20のサイズを大きくすることにより、参照電極20のインピーダンスを低減することができる。その一方で、作用電極10のサイズを小さくすることにより、作用電極10は高い空間分解能で電位を測定できる。
【0040】
図1に例示するように、細胞電位測定装置1は複数の配線11および配線21も含んでいる。複数の配線11はそれぞれ複数の作用電極10から引き出されている。各配線11は、作用電極10から疎水領域R2(後述)の外側へと延在し、不図示の処理装置(例えば演算処理装置)に電気的に接続される。これにより、作用電極10の電位が処理装置に入力される。
図1の例では、複数の作用電極10から引き出された複数の配線11はそれぞれX軸方向に沿って延在し、Y軸方向に並ぶ一対の参照電極20の間を通ってさらに外側に延在する。なお、
図2および
図3の例では、図示の煩雑を避けるため、配線11を省略している。配線11の材料としても、例えば金(Au)、白金(Pt)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つの金属材料、もしくは、窒化チタン(TiN)またはインジウム酸化スズ(InSnO)などの導電性化合物を採用することができる。
【0041】
配線21は参照電極20から引き出されており、不図示の処理装置に電気的に接続される。
図1の例では、X軸方向において隣り合う2つの参照電極20に接続される配線21は、2つの分岐線211と、共通線212とを含んでいる。2つ分岐線211の一端は、それぞれ参照電極20に接続され、その他端は共通線212の一端に共通して接続されている。共通線212の他端は処理装置に接続される。
図1の例では、分岐線211は円弧状に延在しており、共通線212は作用領域R1とは反対側に延在している。配線21は後述の疎水領域R2の外側を延在する。配線21の材料としても、例えば金(Au)、白金(Pt)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つの金属材料、もしくは、窒化チタン(TiN)またはインジウム酸化スズ(InSnO)などの導電性化合物を採用することができる。
【0042】
細胞電位測定装置1は絶縁膜30も含んでいる。絶縁膜30は複数の配線11および配線21を覆っており、配線11および配線21を保護する。絶縁膜30の+Z側の主面は細胞電位測定装置1の測定面1aの一部を形成する。絶縁膜30の材料としては、例えばシリコン酸化物、または樹脂(ポリイミド、アクリル、エポキシ等)等の絶縁材料を採用することができる。
【0043】
絶縁膜30には、複数の作用電極10の+Z側の主面の少なくとも一部とそれぞれ対向する位置において、複数の開口30bが形成されている。よって、絶縁膜30は作用電極10の当該主面の少なくとも一部を覆わない。言い換えれば、作用電極10の当該主面の少なくとも一部は開口30bを介して外部に露出しており、細胞電位測定装置1の測定面1aの一部を形成する。絶縁膜30の開口30bは、平面視において、例えば作用電極10と同様に矩形形状を有する。図示の例では、絶縁膜30は各作用電極10の当該主面の周縁部のみを覆っている。
【0044】
絶縁膜30には、各参照電極20の+Z側の主面の少なくとも一部に対向する位置において、開口30cが形成されている。よって、絶縁膜30は参照電極20の当該主面の少なくとも一部を覆わない。言い換えれば、参照電極20の当該主面の少なくとも一部は開口30cを介して外部に露出しており、細胞電位測定装置1の測定面1aの一部を形成する。絶縁膜30の開口30cは、平面視において、例えば参照電極20と同様に矩形形状を有する。図示の例では、絶縁膜30は各参照電極20の当該主面の周縁部のみを覆っている。
【0045】
図2に例示するように、細胞電位測定装置1は基板40も含んでいる。基板40は例えば透明なガラス基板である。基板40はその厚み方向がZ軸方向に沿うように設けられている。基板40の+Z側の主面の上には、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21が形成されている。またこの構造体の上には、開口30bおよび開口30cを避けて、絶縁膜30が形成されている。絶縁膜30は配線11および配線21を覆っており、これらを外部から保護する。
【0046】
作業員はこの細胞電位測定装置1の測定面1aに対して細胞懸濁液L1を滴下する。このとき、作業員は、細胞懸濁液L1が作用領域R1を覆い、かつ、参照電極20に接触しないように、細胞懸濁液L1を滴下する。これにより、
図3に例示するように、参照電極20の直上には、細胞懸濁液L1が存在しないのに対して、作用電極10の直上には細胞懸濁液L1が存在する。細胞懸濁液L1中の細胞は自重により沈下して測定面1aの上に細胞層を形成する。
【0047】
処理装置は各作用電極10の電位から、参照電極20の基準電位(例えば4つの参照電極20の電位の平均値)を減算した値を、各作用電極10の位置における測定電位として算出する。このように基準電位を用いて測定電位を求めることにより、外部ノイズを低減することができる。この測定電位の時間変化が細胞層における電気的な活動を示す。
【0048】
この細胞電位測定装置1においては、測定面1aのうち、参照電極20と作用領域R1との間の領域R2(以下、疎水領域R2とも呼ぶ)における接触角は、作用領域R1における接触角よりも大きい。言い換えれば、疎水領域R2の濡れ性は作用領域R1の濡れ性よりも低い。ここでいう接触角とは、測定面1a上の液体(例えば細胞懸濁液L1)についての接触角である。作用領域R1における接触角とは、当該液体と測定面1aとの接触面の輪郭が作用領域R1内に位置する状態での、接触角である。疎水領域R2における接触角とは、当該液体と測定面1aとの接触角の輪郭が疎水領域R2内に位置する状態での、接触角である。
【0049】
図1および
図2の例では、絶縁膜30は疎水領域R2内において、疎水化用の凹凸形状を有している。ここでいう疎水化用の凹凸形状とは、絶縁膜30が略平坦である場合に比して、接触角を大きくすることができる程度の凹凸形状を意味する。例えば、絶縁膜30の材料として、疎水性材料(例えばポリイミド、アクリル、エポキシ等)を採用する場合について述べる。ここでいう疎水性材料とは、その材料によって形成された略平坦な表面に液体(例えば純水)を滴下したときに、接触角が90度以上となる材料をいう。このような絶縁膜30に例えばミクロンオーダーの凹凸形状を形成することにより、その凹凸形状が形成された領域における接触角をより大きくすることができる。
【0050】
より具体的な一例として、絶縁膜30は、作用領域R1の中心についての径方向断面において凹凸形状を有している。絶縁膜30の疎水領域R2内における凹凸のピッチは例えば数μm程度(具体的な一例として3μm)に設定され得る。この凹凸のピッチは、例えば作用電極10のピッチよりも小さい。また、絶縁膜30の疎水領域R2内における凸部の幅および凹部の幅も数μm程度(具体的な一例として3μm)に設定される。絶縁膜30の疎水領域R2内における凹部の幅は、例えば、絶縁膜30の開口30bの幅よりも狭い。
【0051】
一方、絶縁膜30の材料として親水性材料(例えばシリコン酸化物)を採用してもよい。ここでいう親水性材料とは、その材料によって形成された略平坦な表面に液体(例えば純水)を滴下したときに、接触角が90度未満となる材料をいう。
【0052】
この場合、絶縁膜30の凹部の内部に細胞懸濁液L1が進入しないように、疎水領域R2における絶縁膜30の凹凸形状のピッチ、凹部の幅および凸部の幅が設定される。例えば当該ピッチ、凹部の幅および凸部の幅を例えば1μm未満に設定する。このような凹凸形状はカシー・バクスターモデルと呼ばれる。
図3の例では、細胞懸濁液L1は絶縁膜30の凹部の内部に進入しておらず、当該凹部の内部には気体(例えば空気)が充填されている。この場合、絶縁膜30の材料として親水性材料を採用したとしても、凹凸形状により疎水領域R2における接触角を大きくすることができる。
【0053】
図2および
図3の例では、絶縁膜30の疎水領域R2内における凹部の深さは絶縁膜30の厚みと等しい。よって、
図2および
図3の例では、絶縁膜30の当該凹部の底面において基板40の+Z側の主面が外部に露出しており、細胞電位測定装置1の測定面1aの一部を形成する。しかしながら、必ずしも基板40の+Z側の主面が外部に露出する必要はなく、当該凹部の深さは絶縁膜30の厚み未満であってもよい。
【0054】
図1の例では、絶縁膜30には疎水領域R2内において複数の溝30aを含んでいる。
図1の例では、略円弧状の溝30aが略同心状に形成されている。各溝30aの円弧の中心は作用領域R1の中心と略一致する。この溝30aは絶縁膜30の凹部を形成し、溝30aによって挟まれた部分が絶縁膜30の凸部を形成する。これにより、絶縁膜30に凹凸形状が形成される。
【0055】
図1の例では、絶縁膜30の凹凸形状は配線11の直上には形成されておらず、配線11の直上を避けた領域に形成されている。具体的な一例として、各溝30aは、配線11の存在領域を分離領域として、略円形状を周方向に分離させて得られる略円弧状の形状を有している。逆に言えば、絶縁膜30の+Z側の主面は配線11の直上において略平坦である。これによれば、配線11の直上における絶縁膜30の膜厚を略均一にすることができる。したがって、配線11を略均一に保護することができる。
【0056】
<製造方法>
次に、細胞電位測定装置1の製造方法の一例を説明する。
図4および
図5は、細胞電位測定装置1の製造方法における各工程での構成の一例を概略的に示す図である。
図4および
図5は、
図1のA-A断面に相当する断面における構成の一例を示しており、配線11の図示を省略している。
【0057】
まず、基板40の+Z側の主面の上に作用電極10、参照電極20、配線11および配線21を形成する(
図4も参照)。例えば、まず液相成膜法または気相成膜法により、基板40の+Z側の主面の上に例えば金属の導電膜を形成する。導電膜の厚みは例えば数十nm(具体的な一例として80nm)である。次に、リソグラフィー法により、当該導電膜の+Z側の主面の上にレジストをパターン形成する。当該レジストのパターンは、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21に対応した形状を有している。次に、当該レジストをマスクとして導電膜に対してエッチングを行って、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21を形成する。次に、当該レジストを除去する。これにより、
図4の構造体を得ることができる。なお、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21はリフトオフ法により形成されてもよい。
【0058】
次に、例えば液相成膜法または気相成膜法により、当該構造体の+Z側の主面の上に絶縁膜30’を形成する(
図5も参照)。絶縁膜30’の厚みは例えば数百nm(具体的な一例として340nm)である。次に、リソグラフィー法により、絶縁膜30’の+Z側の主面の上にレジスト91をパターン形成する。レジスト91のパターンは、絶縁膜30の溝30a、開口30bおよび開口30cに対応した形状を有している。次に、レジスト91をマスクとして絶縁膜30’に対してエッチングを行って、絶縁膜30を形成する。このとき、溝30aにおいて基板40をエッチングして、基板40の+Z側の主面にも凹凸形状を形成してもよい。次に、レジスト91を除去する。
【0059】
以上のようにして、
図1および
図2に例示する細胞電位測定装置1を製造することができる。
【0060】
この細胞電位測定装置1によれば、絶縁膜30には、疎水領域R2において疎水化用の凹凸形状が形成されている。よって、疎水領域R2における接触角を大きくすることができる。この細胞電位測定装置1において、疎水領域R2における接触角は作用領域R1における接触角よりも大きい。
【0061】
ところで、接触角が大きいほど、細胞懸濁液L1は盛り上がった状態で細胞電位測定装置1の測定面1aの上に維持される。言い換えれば、接触角が小さいほど、細胞懸濁液L1はより薄い状態で細胞電位測定装置1の測定面1a上に維持される。よって、細胞懸濁液L1の容積が互いに等しければ、測定面1aの接触角が小さいほど、細胞懸濁液L1は平面視において外側に広がる。
【0062】
ここで、絶縁膜30が疎水領域R2において平坦であるときの細胞電位測定装置1’についても考察する。
図6は、細胞懸濁液L1が滴下された状態での、細胞電位測定装置1’の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図3および
図6において、細胞懸濁液L1の容積は互いに等しく、ここでは、4μLである。
【0063】
図3および
図6に例示するように、細胞懸濁液L1の端(輪郭)は作用領域R1と参照電極20との間に位置している。
図6の細胞電位測定装置1’においては、細胞懸濁液L1は水平方向において広がっている。これは、絶縁膜30が作用領域R1と参照電極20との間の領域において略平坦であり、その接触角が小さいからである。当該接触角は例えば67度である。
【0064】
このように細胞懸濁液L1が外側に広がると、細胞懸濁液L1中の細胞はより広い面積で沈下する。これにより、作用領域R1の上に沈下する細胞層の平面視の密度が小さくなる。顕著には、細胞層がほとんど形成されない領域が平面視において局在し得る。つまり、細胞電位測定装置1’の測定面1aには、細胞層が密な領域と疎な領域とが混在し得る。この場合、疎な細胞層の直下に位置する作用電極10の測定精度は低くなる。
【0065】
一方で、
図3の細胞電位測定装置1においては、細胞懸濁液L1は鉛直上方に盛り上がっており、その厚みが
図6の細胞懸濁液L1に比して大きい。これは、絶縁膜30が作用領域R1と参照電極20との間の疎水領域R2内において疎水化用の凹凸形状を有しており、その接触角が大きいからである。当該接触角は例えば120度である。よって、細胞電位測定装置1においては、細胞懸濁液L1の平面視における面積は小さい。
【0066】
したがって、細胞懸濁液L1中の細胞は比較的小さい面積の領域に沈下する。これにより、測定面1aの上に形成される細胞層の平面視における密度を向上することができる。よって、各作用電極10はより適切に細胞層の各位置の電位を処理装置に出力することができる。言い換えれば、細胞電位測定装置1は高い測定精度で細胞層の各位置における電位を測定することができる。
【0067】
また、上述の例では、疎水領域R2は、作用領域R1を囲む略円環状の帯状形状を有している。凹凸形状(溝30a)の疎水領域R2に対して周方向に占める割合は、例えば50%以上、より好ましくは70%以上である。また、
図1の例では、疎水領域R2を周方向に4等分して得られる4つの領域の各々の少なくとも一部において、凹凸形状(溝30a)が形成されている。これによれば、細胞懸濁液L1の測定面1a上の広がりをより等方的に抑制することができる。
【0068】
また、細胞電位測定装置1によれば、疎水領域R2における接触角が大きいので、細胞懸濁液L1は参照電極20まで広がりにくい。もし仮に細胞懸濁液L1が参照電極20の上に到達すると、参照電極20の+Z側の主面の上にも細胞層が形成される。よって、参照電極20にも、細胞層中の細胞の活動に応じた電位が印加される。これにより、測定精度が大幅に劣化する。しかしながら、細胞電位測定装置1によれば、細胞懸濁液L1が参照電極20まで広がる可能性を低減することができるので、このような測定精度の劣化を抑制することができる。
【0069】
なお、上述の例では、絶縁膜30には、配線11の直上を避けて凹凸形状が形成されている。しかしながら、必ずしもこれに限らない。
図7は、細胞電位測定装置1Aの構成の一例を概略的に示す平面図である。細胞電位測定装置1Aは、絶縁膜30の凹凸形状を除いて、細胞電位測定装置1と同一の構成を有している。
図7の例では、略円形状の複数の溝30aが略同心状に形成されている。つまり、複数の溝30aは作用領域R1の全周に亘って形成されている。このような溝30aは配線11の直上にも形成される。これにより、疎水領域R2の全体において接触角を大きくすることができる。
【0070】
ただし、絶縁膜30は配線11を覆う必要があるので、絶縁膜30に形成される溝30aの深さは絶縁膜30の厚み未満である。つまり、絶縁膜30の溝30aは絶縁膜30の開口30bおよび開口30cよりも浅い。例えば絶縁膜30の厚みが340nmである場合、絶縁膜30の開口30bおよび開口30cの深さは340nmに設定され、絶縁膜30の溝30aの深さは、開口30bおよび開口30cの深さよりも小さい値、例えば240nmに設定される。この場合、配線11の直上の絶縁膜30の厚みの最小値は100nmとなる。
【0071】
なお、細胞電位測定装置1Aにおいて、溝30aと、開口30bおよび開口30cとを一度のエッチングによって形成することは困難である。なぜなら、開口30bおよび開口30cの深さまで絶縁膜30’をエッチングすると、溝30aも同程度の深さにエッチングされるからである。よって、溝30a用のエッチングと、開口30bおよび開口30c用のエッチングとを、互いに異なる工程で行う必要がある。
【0072】
これに対して、溝30aが配線11の直上を避けて形成される細胞電位測定装置1においては、溝30a、開口30bおよび開口30cを一度のエッチングで形成することができる(
図5参照)。よって、細胞電位測定装置1Aよりもより少ない工程で細胞電位測定装置1を製造することができる。したがって、細胞電位測定装置1の製造コストを細胞電位測定装置1Aよりも低減できる。
【0073】
なお、上述の例では、絶縁膜30には、略円弧状または略円形状の溝30aが略同心状に形成されて凹凸形状が形成されている。しかしながら、必ずしもこれに限らない。例えば、絶縁膜30には、ドット状(例えば略円柱状または略角柱状)の凸部またはドット状の凹部が疎水領域R2内において2次元的に配列されてもよい。あるいは、絶縁膜30には、作用領域R1の中心に対して放射状に延在する凸部または凹部が疎水領域R2内において形成されてもよい。言い換えれば、絶縁膜30は、作用領域R1の中心についての周方向断面において、凹凸形状を有していてもよい。
【0074】
第2の実施の形態.
図8は、細胞電位測定装置1Bの構成の一例を概略的に示す平面図であり、
図9は、細胞電位測定装置1Bの構成の一例を概略的に示す断面図である。
図9は、
図8のB-B断面の構成の一例を概略的に示している。また
図9では、配線11の図示を省略している。
【0075】
細胞電位測定装置1Bは疎水膜50の有無および絶縁膜30の形状を除いて、細胞電位測定装置1と同様の構成を有している。疎水膜50は疎水領域R2内に設けられており、その+Z側の主面の少なくとも一部は測定面1aの一部を形成する。この疎水膜50における接触角は絶縁膜30における接触角よりも大きい。つまり、疎水膜50の濡れ性は絶縁膜30の濡れ性よりも低い。具体的な一例として、疎水膜50は、例えば、金(Au)、白金(Pt)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つの金属材料、もしくは、窒化チタン(TiN)またはインジウム酸化スズ(InSnO)などの導電性化合物によって構成される(疎水膜50に、後述の製造工程、または表面処理により、接触角を大きくする処理を行っても良い)。ここでは、疎水膜50として、導電膜の一例としての金属膜51を採用する。絶縁膜30は例えばシリコン酸化膜である。
【0076】
金属膜51は作用電極10および参照電極20の両方に対して絶縁される。
図9の例では、金属膜51は作用電極10、参照電極20、配線11および配線21と同一の層に形成される。よって、金属膜51はXY平面において、これらと離れて形成される。
図8に例示するように、配線11が疎水領域R2の内側から外側へと疎水領域R2を横切っているので、金属膜51は疎水領域R2内において、配線11と周方向において離れている。具体的な一例として、金属膜51は平面視において、配線11の存在領域を分離領域として、略円環状の帯状形状を周方向に分離させて得られる形状を有している。作用電極10、参照電極20および配線21は疎水領域R2以外の領域に設けられているので、金属膜51はXY平面において、これらとも離れて形成される。
図9の例では、金属膜51の+Z側の主面は略平坦である。
【0077】
絶縁膜30には、金属膜51の+Z側の主面の少なくとも一部に対向する領域において開口30dが形成されている。つまり、絶縁膜30は、金属膜51の当該主面の少なくとも一部を覆っていない。よって、金属膜51の当該主面の少なくとも一部は開口30dを介して外部に露出しており、測定面1aの一部を形成する。
図9の例では、絶縁膜30は金属膜51の当該主面の周縁部のみを覆っている。
【0078】
金属膜51の材料としては、例えば、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21の少なくともいずれか1つと同一の材料を採用してもよい。ここでは一例として、作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51は同一材料によって構成される。
【0079】
<製造方法>
次に、細胞電位測定装置1Bの製造方法の一例を説明する。
図10および
図11は、細胞電位測定装置1Bの製造方法における各工程での構成の一例を概略的に示す図である。
図10および
図11は、
図8のB-B断面に相当する断面における構成の一例を示しており、配線11の図示を省略している。
【0080】
まず、基板40の+Z側の主面の上に作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51を形成する(
図10も参照)。例えば、まず液相成膜法または気相成膜法により、基板40の+Z側の主面の上に金属の導電膜を形成する。次に、リソグラフィー法により、当該導電膜の+Z側の主面の上にレジストをパターン形成する。当該レジストのパターンは、作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51に対応した形状を有している。次に、当該レジストをマスクとして導電膜に対してエッチングを行って、作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51を形成する。次に、当該レジストを除去する。これにより、
図10の構造体を得ることができる。
【0081】
次に、例えば液相成膜法または気相成膜法により、当該構造体の+Z側の主面の上に絶縁膜30’を形成する(
図11も参照)。次に、リソグラフィー法により、絶縁膜30’の+Z側の主面の上にレジスト92をパターン形成する。レジスト92のパターンは、絶縁膜30の開口30b、開口30cおよび開口30dに対応した形状を有している。次に、レジスト92をマスクとして絶縁膜30’に対してエッチングを行って、絶縁膜30を形成する。次に、レジスト92を除去する。
【0082】
以上のようにして、
図8および
図9に例示する細胞電位測定装置1Bを製造することができる。
【0083】
この細胞電位測定装置1Bにおいても、疎水領域R2における接触角は作用領域R1における接触角よりも大きい。よって、細胞電位測定装置1Bの測定面1aの上に滴下された細胞懸濁液L1の平面視における面積を小さくすることができる。これにより、より高い密度で細胞層を測定面1aの上に形成することができる。
【0084】
疎水膜50の疎水領域R2に対して周方向に占める割合は、例えば50%以上、より好ましくは70%以上である。また、
図8の例では、疎水領域R2を周方向に4等分して得られる4つの領域の各々の少なくとも一部において、疎水膜50が形成されている。これによれば、細胞懸濁液L1の測定面1a上の広がりをより等方的に抑制することができる。
【0085】
また、上述の例では、金属膜51は作用電極10、参照電極20、配線11および配線21と同一の層に形成されて、これらと同じ材料で構成される。よって、金属膜51をこれらと同時に形成することができる(
図10参照)。したがって、製造コストを低減することができる。
【0086】
また、疎水膜50(ここでは金属膜51)が疎水領域R2における接触角を大きくしているので、絶縁膜30の材料を、疎水領域R2における接触角とは無関係に選定することができる。例えば絶縁膜30の材料として親水性材料を用いることもできる。もちろん、第1の実施の形態においても、絶縁膜30に精細な凹凸形状(いわゆるカシー・バクスターモデル)を形成することによって、絶縁膜30として親水性材料を用いることができるものの、第2の実施の形態では、そのような精細な凹凸形状を形成する必要はない。
【0087】
他方、疎水領域R2における接触角をさらに大きくすべく、疎水膜50(例えば金属膜51)に疎水化用の凹凸形状を形成してもよい。
図12は、細胞電位測定装置1Cの構成の一例を概略的に示す断面図である。細胞電位測定装置1Cは、疎水膜50(例えば金属膜51)の形状という点を除いて、細胞電位測定装置1Bと同様の構成を有している。
【0088】
細胞電位測定装置1Cにおいては、疎水膜50は例えばミクロンオーダーの凹凸形状を有している。ここでは、疎水膜50として金属膜51を採用する場合について説明する。金属膜51は、例えば作用領域R1の中心についての径方向断面において凹凸形状を有する。
図12の例では、金属膜51には、複数の溝50aが形成されている。複数の溝50aは、例えば第1の実施の形態の溝30aと同様に、略同心状の略円弧状の形状に形成される。当該溝50aは金属膜51の周方向の端から端まで延在していてもよい。当該溝50aは凹部を形成し、当該溝50aによって挟まれた部分が凸部を形成する。これにより、金属膜51に凹凸形状が形成される。
【0089】
この凹凸のピッチは例えば作用電極10のピッチよりも小さく、例えば数μm程度に設定される。また、金属膜51の凸部の幅および凹部(溝50a)の幅は例えば絶縁膜30の作用電極10の直上の開口30bの幅よりも狭く、例えば数μm程度に設定される。
【0090】
図12の例では、基板40の+Z側の主面は溝50aの底面において外部に露出しており、測定面1aの一部を形成する。しかしながら、必ずしも基板40の当該主面が外部に露出する必要はなく、溝50aの深さは金属膜51の厚み未満であってもよい。
【0091】
このような金属膜51は、例えば、次のようにして形成される。まず、基板40の+Zの主面の上に金属の導電膜を形成する。次に当該導電膜の+Z側の主面の上に、フォトリソグラフィ法により、レジストをパターン形成する。当該レジストのパターンは、作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51に対応した形状を有している。次に、当該レジストをマスクとして導電膜に対してエッチングを行う。これにより、基板40の+Z側の主面の上には、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21とともに、凹凸形状の金属膜51が形成される。
【0092】
このような細胞電位測定装置1Cにおいては、金属膜51に疎水化用の凹凸形状が形成されている。この凹凸形状により、疎水領域R2における接触角をさらに大きくすることができる。これによれば、測定面1a上に維持される細胞懸濁液L1の平面視における面積を低減することができる。逆に言えば、細胞電位測定装置1Cの測定面1aの上に滴下される細胞懸濁液L1の容積を大きくしても、細胞懸濁液L1の平面視における面積はあまり増大しない。したがって、測定面1aの上に形成される細胞層の平面視における密度をさらに向上することができる。
【0093】
なお、上述の例では、金属膜51には、略円弧状の溝50aが略同心状に形成されて凹凸形状が形成されているものの、必ずしもこれに限らない。例えば金属膜51には、ドット状の凸部またはドット状の凹部が2次元的に配列されてもよい。あるいは、金属膜51には、作用領域R1の中心に対して放射状に延在する凸部または凹部が形成されてもよい。言い換えれば、金属膜51は、作用領域R1の中心についての周方向断面において、凹凸形状を有していてもよい。
【0094】
また、細胞電位測定装置1Cにおいては、導電膜(例えば金属膜51)の凹凸形状により、疎水領域R2における接触角を大きくできる。よって、導電膜の材料として、絶縁膜30の材料よりも接触角の小さい材料を採用してもよい。つまり、導電膜の+Z側の主面が平坦である場合の当該導電膜の接触角が、絶縁膜30の+Z側の主面が平坦である場合の絶縁膜30の接触角よりも小さい場合であっても、当該導電膜に疎水化用の凹凸形状を形成することで、当該導電膜の接触角が絶縁膜30の接触角よりも大きくなればよい。
【0095】
上述の例では、疎水膜50は作用電極10、参照電極20、配線11および配線21と同じ層に形成されている。しかしながら、必ずしもこれに限らない。疎水膜50の+Z側の主面の少なくとも一部が測定面1aの一部を形成していればよく、例えば、疎水膜50は絶縁膜30の+Z側の主面の上に形成されてもよい。
図13は、細胞電位測定装置1Dの構成の一例を概略的に示す断面図である。細胞電位測定装置1Dは疎水膜50の位置および形状ならびに絶縁膜30の形状を除いて、細胞電位測定装置1Bと同一の構成を有している。
【0096】
図13の例では、絶縁膜30は疎水領域R2の全域に存在しており、その+Z側の主面は疎水領域R2において略平坦である。なお、
図13では図示を省略しているものの、絶縁膜30は配線11を覆うので、配線11に応じた段差は絶縁膜30の+Z側の主面に形成され得る。
【0097】
図13の例では、疎水膜50は疎水領域R2内において、絶縁膜30の+Z側の主面の上に形成されている。この疎水膜50は平面視において、例えば、作用領域R1を囲む略円環状の帯状形状を有する。この略円環状の疎水膜50の中心は作用領域R1の中心に略一致する。
図13の例では、疎水膜50の+Z側の主面は略平坦である。ただし、絶縁膜30の+Z側の主面に配線11に応じた段差が形成されている場合には、疎水膜50の+Z側の主面にも、絶縁膜30の当該段差に応じた段差が形成され得る。
【0098】
このような疎水膜50は、例えば絶縁膜30の+Z側の主面の上に導電膜を形成し、リソグラフィー法により、当該導電膜の+Z側の主面の上にレジストをパターン形成し、当該レジストをマスクとして導電膜に対してエッチングを行うことで形成できる。
【0099】
このような細胞電位測定装置1Dにおいても、疎水領域R2における接触角は作用領域R1における接触角よりも大きい。よって、第1の実施の形態と同様に、測定面1aの上に維持される細胞懸濁液L1の平面視における面積を低減することができる。
【0100】
なお、上述の細胞電位測定装置1Dにおいて、疎水膜50の+Z側の主面は略平坦である。しかしながら、疎水膜50は細胞電位測定装置1Cと同様な疎水化用の凹凸形状を有していてもよい。これにより、疎水領域R2における接触角をさらに大きくことができる。
【0101】
上述の細胞電位測定装置1B~1Dにおいて、疎水膜50は、絶縁膜30の材料よりも濡れ性が低い疎水性材料で形成されていればよく、必ずしも金属によって形成される必要はない。例えば、疎水膜50の材料としてフッ素系樹脂を採用してもよい。このような疎水膜50の形成方法は特に限定されないものの、疎水膜50は例えば次のようにして形成される。例えば、フッ素系樹脂を含む塗工液を疎水領域R2内に塗布し、この塗膜を乾燥させることにより、疎水膜50を形成することができる。
【0102】
あるいは、疎水膜50の材料として、油またはワセリンを採用してもよい。このような疎水膜50の形成方法も特に限定されないものの、例えば、油またはワセリンをブラシで疎水領域R2に塗ることにより、疎水膜50を形成することができる。
【0103】
第3の実施の形態.
図14は、細胞電位測定装置1Eの構成の一例を概略的に示す平面図であり、
図15は、細胞電位測定装置1Eの構成の一例を概略的に示す断面図である。
図15は、
図14のC-C断面の構成の一例を概略的に示している。また
図15では、配線11の図示を省略している。
【0104】
細胞電位測定装置1Eは親水領域R3の有無を除いて、細胞電位測定装置1Bと同様の構成を有している。親水領域R3は、細胞電位測定装置1Eの測定面1aのうち、作用電極10が設けられる作用領域R1と、疎水領域R2との間の領域である。
図14の例では、親水領域R3は、作用領域R1を囲む略円環状の帯状形状を有している。この親水領域R3における接触角は作用領域R1における接触角よりも小さい。言い換えれば、親水領域R3の濡れ性は作用領域R1よりも高い。なお、ここでいう親水領域R3における接触角とは、液体(例えば細胞懸濁液L1)と測定面1aとの接触面の輪郭が親水領域R3内に位置する状態での、接触角である。
【0105】
ここでは、絶縁膜30の材料として、親水性材料(例えばシリコン酸化物)が採用される。
図14および
図15の例では、絶縁膜30は親水領域R3において親水化用の凹凸形状を有している。ここでいう親水化用の凹凸形状とは、絶縁膜30が略平坦である場合に比して、接触角を小さくすることができる程度の凹凸形状を意味する。例えば親水性材料によって形成された絶縁膜30にミクロンオーダーの凹凸形状を形成することにより、その凹凸形状が形成された領域における接触角をより小さくすることができる。
【0106】
図14の例では、絶縁膜30には、第1の実施の形態の溝30aと同様に、複数の溝30eが形成されている。
図14の例では、絶縁膜30には、略円弧状の複数の溝30eが略同心状に形成されている。当該溝30eは絶縁膜30の凹部を形成し、当該溝30eによって挟まれた部分が絶縁膜30の凸部を形成する。これにより、絶縁膜30に凹凸形状が形成される。
【0107】
絶縁膜30の親水領域R3における凹凸のピッチ、凸部の幅および凹部の幅は、例えば第1の実施の形態の溝30aと同様に設定される。ただし、絶縁膜30の凹部(溝30e)の内部に細胞懸濁液L1が進入できる程度に、絶縁膜30の凹凸形状のピッチおよびサイズが設定される。このような凹凸形状は、ウェンゼルモデルと呼ばれる。親水領域R3における凹凸のピッチ、凹部の幅および凸部の幅は例えば数μm程度(具体的な一例として3μm)に設定される。
【0108】
図14の例では、溝30eは、配線11の直上には形成されておらず、配線11の直上を避けた領域に形成されている。逆に言えば、絶縁膜30は配線11の直上において略平坦である。これによれば、配線11の直上における絶縁膜30の膜厚を略均一にすることができ、配線11を均一に保護することができる。
【0109】
図15の例では、基板40の+Z側の主面は溝30eの底面において外部に露出しており、測定面1aの一部を形成している。しかしながら、必ずしも基板40の+Z側の主面が外部に露出する必要はなく、溝30eの深さは絶縁膜30の厚み未満であってもよい。
【0110】
以上のように、絶縁膜30は親水領域R3内において、親水化用の凹凸形状を有している。これにより、親水領域R3における接触角をより小さくすることができる。つまり、親水領域R3の濡れ性を高めることができる。
【0111】
このような細胞電位測定装置1Eは、例えば、次のように製造される。まず液相成膜法または気相成膜法により、基板40+Z側の主面の上に導電膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ法により、導電膜の+Z側の主面の上にレジストをパターン形成する。当該レジストのパターンは作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51に対応する形状を有する。次に、当該レジストをマスクとして導電膜に対してエッチングを行って、作用電極10、参照電極20、配線11、配線21および金属膜51を形成する。次に当該レジストを除去する。
【0112】
次に、この構造体の+Z側の主面の上に、液相成膜法または気相成膜法により絶縁膜を形成する。次に、当該絶縁膜の+Z側の主面の上に、フォトリソグラフィ法によりレジストをパターン形成する。当該レジストのパターンは、絶縁膜30の開口30b、開口30c、開口30dおよび溝30eに対応する形状を有する。次に、当該レジストをマスクとして当該絶縁膜に対してエッチングを行って、絶縁膜30を形成する。
図15の例では、絶縁膜30の溝30eは絶縁膜30の開口30b、開口30cおよび開口30dよりも深いものの、作用電極10および参照電極20に対しては、ほとんどエッチングされないので、一度のエッチングにより、絶縁膜30の溝30e、開口30b、開口30cおよび開口30dを形成することができる。次に、当該レジストを除去する。
【0113】
以上のようにして、
図14および
図15に例示する細胞電位測定装置1Eを製造することができる。この細胞電位測定装置1Eによれば、以下に詳述するように、細胞懸濁液L1の着液位置が作用領域R1の中心からずれたとしても、細胞懸濁液L1は作用領域R1を覆いやすい。
【0114】
まず比較のために、細胞電位測定装置1Bについて説明する(
図8)。細胞電位測定装置1Bの作用領域R1において、作用電極10の+Z側の主面の少なくとも一部は開口30bを介して露出している。ここでは、作用電極10は金(Au)等の疎水性材料によって形成されている。よって、作用領域R1において細胞懸濁液L1は水平方向に広がりにくい場合がある。
【0115】
図16は、細胞懸濁液L1が滴下された状態での、細胞電位測定装置1Bの構成の一例を概略的に示す平面図である。
図16では、細胞懸濁液L1が砂地のハッチングで示されている。
図16の例では、細胞懸濁液L1の着液位置が作用領域R1の中心から-X側にずれたことにより、細胞懸濁液L1は作用領域R1の全体に広がらず、作用領域R1のうち+X側の領域を覆っていない。
【0116】
図17から
図19は、細胞電位測定装置1Eに細胞懸濁液L1を滴下したときの様子の一例を概略的に示す図である。
図17から
図19は、滴下時の細胞懸濁液L1の平面視における形状の時系列的な変化を示している。細胞懸濁液L1の平面視の形状は、
図17から
図19に示す順で変化する。細胞電位測定装置1Eの親水領域R3における接触角は作用領域R1における接触角よりも小さいので、細胞懸濁液L1の着液位置が-X側にずれたとしても、細胞懸濁液L1は親水領域R3の周方向に沿って+X側の領域に広がる(
図17および
図18参照)。つまり、細胞懸濁液L1は、作用領域R1の+Y側および-Y側の両方において作用領域R1を取り囲むように広がって、作用領域R1の+X側で合流するとともに、作用領域R1内の細胞懸濁液L1もそのY軸方向の両側の流れに引っ張られて+X側に広がる。これにより、細胞懸濁液L1は作用領域R1の全体を覆うことができる(
図19参照)。
【0117】
以上のように、細胞電位測定装置1Eによれば、細胞懸濁液L1の着液位置が作用領域R1の中心からずれたとしても、細胞懸濁液L1は親水領域R3に沿って周方向に広がることができるので、作用領域R1の全体を覆いやすい。
【0118】
なお、上述の例では、溝30eは配線11の直上を避けて形成されている。しかしながら、必ずしもこれに限らない。溝30eは配線11の直上にも設けられてもよい。
図20は、細胞電位測定装置1Fの構成の一例を概略的に示す平面図であり、
図21は、細胞電位測定装置1Fの構成の一例を示す断面図である。
図21は、
図20のD-D断面の構成の一例を概略的に示している。
【0119】
細胞電位測定装置1Fは溝30eの形状を除いて、細胞電位測定装置1Eと同様の構成を有している。
図20の例では、略円形状の複数の溝30eが略同心状に形成されている。つまり、溝30eは作用領域R1の全周に亘って形成されている。このような溝30eは配線11の直上にも形成される。これにより、親水領域R3の全体において接触角を小さくできる。
【0120】
ただし、絶縁膜30は配線11を覆う必要があるので、絶縁膜30に形成される溝30eの深さは絶縁膜30の厚み未満である。つまり、絶縁膜30の溝30eは開口30b、開口30cおよび開口30dよりも浅い。例えば絶縁膜30の開口30b、開口30cおよび開口30dの深さが340nmである場合、絶縁膜30の溝30eの深さは、開口30b、開口30cおよび開口30dの深さよりも小さい値、例えば240nmに設定される。この場合、配線11の直上の絶縁膜30の厚みの最小値は100nmとなる。
【0121】
この細胞電位測定装置1Fにおいて、溝30eと、開口30b、開口30cおよび開口30dとを一度のエッチングによって形成することは困難である。なぜなら、開口30b、開口30cおよび開口30dの深さまで絶縁膜をエッチングすると、溝30eも同程度の深さにエッチングされるからである。よって、溝30e用のエッチングと、開口30b、開口30cおよび開口30d用のエッチングとを、互いに異なる工程で行う必要がある。
【0122】
これに対して、溝30eが配線11の直上を避けて形成される細胞電位測定装置1Eは、溝30eと、開口30b、開口30cおよび開口30dとを一度のエッチングで形成することができる。よって、細胞電位測定装置1Fよりも少ない工程で細胞電位測定装置1Eを製造することができる。したがって、細胞電位測定装置1Eの製造コストを細胞電位測定装置1Fの製造コストよりも低減できる。
【0123】
なお、上述の例では、絶縁膜30には、略円弧状または略円形状の溝30eが略同心状に形成されて親水化用の凹凸形状が形成されているものの、必ずしもこれに限らない。例えば、絶縁膜30には、ドット状(例えば略円柱状または略角柱状)の凸部またはドット状の凹部が親水領域R3内において2次元的に配列されてもよい。あるいは、絶縁膜30の親水領域R3には、作用領域R1の中心に対して放射状に延在する凸部または凹部が形成されてもよい。言い換えれば、絶縁膜30は、作用領域R1の中心についての周方向断面において、凹凸形状を有していてもよい。
【0124】
また、上述の例では、金属膜51の+Z側の主面は略平坦であるものの、細胞電位測定装置1Cと同様に、金属膜51に凹凸形状が形成されてもよい。
【0125】
また、上述の例では、金属膜51は、作用電極10、参照電極20、配線11および配線21と同一の層に形成されているものの、細胞電位測定装置1Dと同様に、絶縁膜30の+Z側の主面の上に形成されてもよい。
【0126】
また、疎水膜50として金属膜51を採用する必要はなく、金属以外の材料によって疎水膜50を形成してもよい。
【0127】
また、上述の細胞電位測定装置1Eおよび細胞電位測定装置1Fでは、疎水領域R2には、疎水膜50が設けられているものの、必ずしも疎水膜50が設けられる必要はない。疎水膜50が設けられない場合には、親水性材料によって構成された絶縁膜30が、疎水領域R2において精細な凹凸形状(カシー・バクスターモデル)を有し、親水領域R3において、疎水領域R2よりも荒い凹凸形状(ウェンゼルモデル)を有してもよい。例えば、疎水領域R2における凹凸のピッチ、凸部の幅および凹部の幅は1μm未満に設定され、親水領域R3における凹凸のピッチ、凸部の幅および凹部の幅は、疎水領域R2よりも大きな値、例えば数μmに設定される。これにより、疎水領域R2の濡れ性を低下させつつ、親水領域R3の濡れ性を高めることができる。
【0128】
以上、実施の形態が説明されたが、この細胞電位測定装置はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。本実施の形態は、その開示の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0129】
1,1A~1F 細胞電位測定装置
10 作用電極
11,21 配線
20 参照電極
30 絶縁膜
50 疎水膜
51 金属膜
R1 作用領域
R2 疎水領域
R3 親水領域