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▶ ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】HPVワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20230217BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20230217BHJP
   C07K 14/025 20060101ALI20230217BHJP
   C12N 15/37 20060101ALI20230217BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230217BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 39/12 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C07K14/075
C07K14/025
C12N15/37
C12N15/861 Z
A61P31/20
A61P43/00 121
A61P37/04
A61K35/761
A61K48/00
A61K39/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019501730
(86)(22)【出願日】2017-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2017067383
(87)【国際公開番号】W WO2018011196
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】16179394.8
(32)【優先日】2016-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヴジャディノヴィック,マリジャ
(72)【発明者】
【氏名】ウィル,タコ,ギルス
(72)【発明者】
【氏名】オーステルハイス,コーエン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェリンガ,ジョート
(72)【発明者】
【氏名】カスタース,ジェローム,エィチ,エィチ,ヴィー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/140474(WO,A1)
【文献】Jagu S et al,Concatenated Multitype L2 Fusion Proteins as Candidate Prophylactic Pan-Human Papillomavirus Vaccines,J Natl Cancer Inst,2009年,101・11,782-792
【文献】Karanam B et al,Developing vaccines against minor capsid antigen L2 to prevent papillomavirus infection,Immunol Cell Biol,2009年,87,287-299
【文献】Gambhira R et al,A Protective and Broadly Cross-Neutralizing Epitope of Human Papillomavirus L2,J Virol,2007年,81・24,13927-13931
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/01
C07K 14/075
C07K 14/025
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原に融合されたカプシドタンパク質IXを含む組換えアデノウイルスベクターであって、前記抗原が連続する3~5個のアミノ酸モチーフを含み、各モチーフが20~40アミノ酸長であり、各モチーフが、異なるHPVタイプ由来のHPV L2タンパク質の抗原断片からなり、前記抗原は183アミノ酸長以下であり、前記抗原はカプシドタンパク質IXのC末端に融合しており、前記抗原断片はHPV L2タンパク質の中和抗体エピトープを含む、組換えアデノウイルスベクター。
【請求項2】
少なくとも1つのモチーフが、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む抗原断片を含む、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項3】
前記HPV L2タンパク質のタイプが、HPVタイプ6、11、16、18、31、33、35、39、45、52、56、58、68、73及び82からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項4】
前記抗原が連続する3個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項5】
前記抗原が配列番号1を含む、請求項4に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項6】
前記抗原が連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ31、45、18及び16;それぞれ33、45、18及び16;それぞれ6、31、33及び16、又はそれぞれ11、52/58、45及び18のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項7】
前記抗原が、配列番号2、配列番号3、配列番号6又は配列番号7を含む、請求項6に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項8】
前記抗原が連続する5個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ33、31、45、18及び16又はそれぞれ52、31、45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項9】
前記抗原が、配列番号4又は配列番号5を含む、請求項8に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項10】
前記アミノ酸モチーフが30アミノ酸長である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項11】
前記抗原が連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、第1のモチーフが前記HPVタイプ31のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含み、第2のモチーフがHPV L2タイプ45タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、第3のモチーフがHPV L2タイプ18タンパク質のアミノ酸残基108~121を含み、第4のモチーフがHPV L2タイプ16タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項12】
前記抗原が配列番号8を含む、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項13】
pIXタンパク質及び前記抗原が、リンカー又はスペーサーによって互いに連結されている、請求項1~1のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項14】
前記リンカーが、グリシンの連続する3個のフレキシブルな残基を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項15】
前記ベクターが、HAdV4、HAdV11、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49、HAdV50、非ヒト霊長類ベクター及びキメラベクターからなる群から選択される、請求項1~1のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項16】
前記アデノウイルスベクターがHAdV26又はHAdV35である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項17】
前記ベクターが更に、導入遺伝子としての1つ以上の異種タンパク質をコードする核酸を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項18】
少なくとも2つの、請求項1~1のいずれか一項に記載の異なる組換えアデノウイルスベクターの組み合わせを含む組成物。
【請求項19】
2つの、請求項1~7のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクターを含む組成物であって、前記第1のベクターの前記抗原断片が配列番号6を含み、前記第2のベクターの前記抗原断片が配列番号7を含む、組成物。
【請求項20】
更に薬学的に許容され得る賦形剤を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター又は請求項1若しくは19に記載の組成物を含むワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチンの分野に関する。より詳細には、本発明は、そのマイナーカプシドタンパク質IX上でHPV L2タンパク質の複数の抗原断片を表示する、組換えにより生成されたカプシド-ディスプレイアデノウイルスベクターの使用に関し、前記ベクターは、HPV感染に対するワクチンの開発のためのHPV抗原決定基の担体として使用される。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、女性の子宮頸癌の原因として知られるが、陰茎、肛門、外陰、膣及び中咽頭癌の原因でもあり得る(Forman et al.2012,Vaccine)。2つの予防的HPV L1タンパク質ウイルス様粒子(VLPs)ベースのワクチンは、発癌の危険性が高いHPV 16及び18タイプによる感染を予防することが示されている(Schiller et al.2012,Vaccine)。これらの1つは、HPV 6及び11タイプに対する防御も提供する(Schiller et al.2012,Vaccine)。
【0003】
これらのワクチンは、世界中で子宮頸癌のケースのおよそ70%の原因となるHPV 16及び18感染の予防に非常に有効であるが、13の他のHPVタイプも同様に発癌性として知られている。重要度が高い順に、遺伝子型HPV 45、HPV 31、HPV 33、HPV 52、HPV 58、HPV 35、HPV 56、HPV 51、HPV 39、HPV 68、HPV 73及びHPV 82は、世界中で報告されている子宮頸癌のケースの残りの30%の原因となる(Hanna Seitz,2014))。比較的低頻度のHPVタイプに対する防御を確実にするために、9価L1 VLPベースワクチンが開発されており、該ワクチンは、HPV 6、11、16及び18に加えてHPVタイプ31、33、45、52及び58に対する防御の提供も目的としている(Munoz et al.,2004;Smith et al.,2007)。言及した遺伝子型による感染を効果的に予防するにも関わらず、L1 VLPベースのワクチンは、限られた交差防御を提供し、またその製造は非常に高価である。このことが、該ワクチンの地球規模の実施、特にHPVの80%のケースが発生する発展途上世界での実施を妨げている(Parkin&Bray,2006;Schiller&Lowy,2012)。従って、多数のHPVタイプに対して防御的な免疫原性ワクチンが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、抗原に融合されたカプシドタンパク質IXを含む組換えアデノウイルスベクターに関し、前記抗原は、連続する3~5個のアミノ酸モチーフを含み、各モチーフは、約20~約40アミノ酸長であり、各モチーフは、異なるHPVタイプ由来のHPV L2タンパク質の抗原断片を含む。好ましくは、前記モチーフの少なくとも1つは、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む抗原断片を含む。HPV L2タンパク質は、任意のHPVタイプに由来し得る。より好ましくは、前記HPV L2タンパク質タイプは、HPVタイプ6、11、16、18、31、33、35、39、45、52、56、58、68、73及び82からなる群から選択される。
【0005】
本発明の好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する3個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む。好ましくは、前記抗原は、配列番号1を含む。
【0006】
より好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ31、45、18及び16;それぞれ33、45、18及び16;それぞれ6、31、33及び16、又はそれぞれ11、52/58、45及び18のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む(HPVタイプ52及び58のL2タンパク質は、選択された10~40アミノ酸において同一である)。好ましくは、前記抗原は、それぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号6又は配列番号7を含む。本発明の別の好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する5個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ33、31、45、18及び16、又はそれぞれ52、31、45、18及び16のHPV L2タンパク質の17~36アミノ酸残基を含む。好ましくは、前記抗原は、それぞれ配列番号4又は配列番号5を含む。
【0007】
好ましくは、前記アミノ酸モチーフは、約30アミノ酸残基を含む。本発明の好ましい実施形態では、各モチーフは、前記HPV L2タンパク質の約10~約40アミノ酸残基を含む。本発明の別の実施形態では、3~5アミノ酸モチーフの1つは、アミノ酸残基17~36の代わりに、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基69~81、又はHPV L2タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。本発明の別の実施形態では、3~5アミノ酸モチーフの1つは、アミノ酸残基17~36の代わりに、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、3~5アミノ酸モチーフの1つは、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。
【0008】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフのそれぞれは約20~約40アミノ酸長を有し、前記第1のモチーフはHPV L2タイプ31タンパク質のアミノ酸残基17~36を含み、前記第2のモチーフはHPV L2タイプ45タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、前記第3のモチーフはHPV L2タイプ18タンパク質のアミノ酸残基108~121を含み、前記第4のモチーフはHPV L2タイプ16タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。好ましくは、前記アミノ酸モチーフは、約30アミノ酸残基を含む。より好ましくは、前記抗原は、配列番号8を含む。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、pIXタンパク質及び抗原は、リンカー又はスペーサーによって互いに連結されている。別の好ましい実施形態では、リンカーは、グリシン及び/又はセリンの連続する2~15個のフレキシブルな残基を有するアミノ酸配列を含む。より好ましい実施形態では、リンカーは、グリシンの連続する3個のフレキシブルな残基(GGG)を有するアミノ酸配列を含む。更なる別の好ましい実施形態では、スペーサーは、配列番号9、配列番号10又は配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明のより好ましい実施形態では、前記アデノウイルスベクターは:HAdV4、HAdV11、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49、HAdV50、非ヒト霊長類ベクター及びキメラベクターからなる群から選択される。好ましくは、組換えアデノウイルスベクターは、HAdV26又はHAdV35である。
【0011】
別の好ましい実施形態では、本発明による組換えアデノウイルスベクターは更に、導入遺伝子としての1つ以上の異種タンパク質をコードする核酸を含む。好ましくは、前記核酸は、アデノウイルスのE1領域内に位置する。
【0012】
本発明の別の態様は、少なくとも2つの異なる本発明による組換えアデノウイルスベクターの組み合わせを含む組成物に関する。好ましい実施形態では、前記組成物は、抗原が配列番号6を含む第1の組換えアデノウイルスベクターと、抗原が配列番号7を含む第2の組換えアデノウイルスベクターとを含む。
【0013】
本発明の別の態様は、更に薬学的に許容され得る賦形剤を含む、本発明による組換えアデノウイルスベクター又は組成物を含むワクチンに関する。
【0014】
更に、本発明は、HPVの治療的、予防的又は診断的処置における、本発明によるワクチンの使用に関する。本発明はまた、本明細書で上述したアデノウイルスベクター又はワクチンを投与することを含む、対象における免疫応答の誘導方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】L2抗原及びベクター設計。(A)HPV L2タンパク質(N及びC末端)及びその高く保存された線状QLY+TCKQAGTCPPD(+は、ヒトHPVタイプ間で可変のアミノ酸である)17~36アミノ酸(a.a.)(配列番号14)、RTGYIPLGTRPPT 69~81a.a.(配列番号15)及びLVEETSFIDAGAP 108~120a.a.(配列番号16)中和抗体(nAb)エピトープの概略図。2つの異なるHPV L2抗原断片、10~40a.a.(17~36a.a.nAbエピトープを含む)のみならず、60~90a.a.及び100~130a.a.(69~81a.a.又は108~120a.a.nAbエピトープを含む)も含む(S)-設計、又は10~89a.a.(17~36a.a.及び69~81a.a.nAbエピトープを含む)を含む(L)-設計を、タンパク質IXに遺伝的に融合して、pIX-L2カプシドディスプレイアデノウイルスベクターを生成した。(B)‘空’E1カセット(CMVプロモーター及びSV40ポリAシグナル)及び天然タンパク質IXプロモーター(P)を有するヒトアデノウイルス35(HAdV35)pIX-L2カプシドディスプレイベクター。3a.a.グリシンリンカー(gly)を介してpIXに融合した、HPVタイプ16、18及び45(Sx3)、(Sx3)x3の(S)設計10~40a.a.コンカテマー(即ち、反復)、(L)設計10~89a.a.コンカテマー(Lx3)、又は(S)及び(L)設計(Sx2+L)の組み合わせを遺伝子コードするHAdV35ベクターの概略図。(C)‘空’E1カセット(CMVプロモーター及びSV40ポリAシグナル)及び天然タンパク質IXプロモーター(P)を有するヒトアデノウイルス26(HAdV26)pIX-L2カプシドディスプレイベクター。3a.a.グリシンリンカー(gly)を介してタンパク質IXに融合した異なるHPVタイプの(S)設計10~40a.a.HPV L2タンパク質コンカテマーを遺伝子コードするHAdV26ベクターの概略図。HAdV26 Sx3ベクターは、HPVタイプ16、18及び45の10~40a.a.を含み、Sx4ベクターは、HPVタイプ16、18、33及び45又は16、18、31及び45のいずれかを含み、Sx5ベクターは、HPVタイプ16、18、31、33及び45又は16、18、31、45及び(52)58のいずれかを含み、Sx6ベクターは、HPVタイプ16、18、31、33、45及び52(58)を含む。HPVタイプ52及び58の配列は、10~40a.a.HPV L2領域内で同一である。(D)(S)3a.a.グリシンリンカー(gly)を介してタンパク質IXに融合した4つの異なるHPVタイプ6、16、31、33又は11、18、45及び(52)58の設計10~40a.a.HPV L2コンカテマーを遺伝子コードするHAdV35 pIX-L2ディスプレイベクターの概略図。2つの異なるSx4ベクターは、両方とも‘空’E1カセット(CMVプロモーター及びSV40ポリAシグナル)及び天然タンパク質IXプロモーター(P)を含む。
図1B】(上記の通り。)
図1C】(上記の通り。)
図1D】(上記の通り。)
図2A】HPV L2(Sx3)設計のカプシド取り込み。(A)pIX-Sx3カプシド取り込みをウェスタンブロットによって決定した。HAdV35.空.pIX-L2(Sx3)精製ベクター製剤(3つの異なる濃度:1.5x1010、1x1010及び0.17x1010 VP/ウェルの)の3つの異なるバッチを、ゲル上で分離し、ブロットし、抗pIX(6740)モノクローナル抗体(pIX-Sx3、25kDa)及びローディングコントロール(35kDa)としての抗ファイバー抗体(HAdVファイバーノブ、4D2)で染色した。(B)RP-UPLC分析によって決定したpIX-Sx3カプシド取り込み。精製HAdV35.空(非改変タンパク質IX)及びHAdV35.空.pIX-Sx3(2.5x1011 VP)をC4カラム(ACN+0.17% TFA勾配)に負荷し、OD280吸収単位(AU)にて測定した。精製HAdV35.空非改変pIX対照(上部パネル)ベクター及びHAdV35 Sx3 pIX-L2 45.18.16(下部パネル)のRP-UPLCプロテオーム分析。検出したウイルスタンパク質を、それらの溶出時間(x軸)(分における)及びOD280吸収単位(AU)(y軸)に従って、ローマ数字(II~X)により示す。2つの矢印(数字1及び2)は、対照HAdV35.空ベクターで検出されなかったピークを示す。
図2B】(上記の通り。)
図3A】HPV L2(Sx4)設計のカプシド取り込み。(A)pIX-Sx4カプシド取り込みをウェスタンブロットによって決定した。HAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18及びHAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16の精製ベクター製剤におけるpIX-Sx4のレベルを、HAdV35.空.pIX-L2(S)45.18.16の精製製剤におけるpIX-Sx3のレベルと比較した。3つの異なる濃度:1.5x1010、1x1010及び0.17x1010 VP/ウェルのSx4及びSx3 pIX改変ベクターをゲル上で分離し、ブロットし、抗L2血清(pIX-Sx3:25kDa、pIX-Sx4:28kDa)(HPV 16陽性マウス血清)及びローディングコントロール抗ファイバーモノクローナル抗体(HAdV5ファイバーノブ、4D2、35kDa)で染色した。HAdV35.空を非改変pIX L2陰性対照として使用した。(B)pIX-Sx4(ミックス)HPVエピトープカプシド取り込みをウェスタンブロットによって決定した。HAdV26.空.pIX-L2(Sx4.ミックス)31,45.18.16の精製ベクター製剤におけるpIX-Sx4-ミックスのレベルを、HAdV26.空.pIX-L2(S)45.18.16の精製製剤におけるHAdV26.空.pIX-L2(S)33.45.18.16及びpIX-Sx3と比較した。3つの異なる濃度:1.5x1010、1x1010及び0.17x1010 VP/ウェルのSx4及びSx3 pIX改変ベクターをゲル上で分離し、ブロットし、抗L2血清(pIX-Sx3:25kDa、pIX-Sx4:28kDa)(HPV 16陽性マウス血清)及びローディングコントロール抗ファイバーモノクローナル抗体(HAdV5ファイバーノブ、4D2、35kDa)で染色した。HAdV26.空を非改変pIX L2陰性対照として使用した。
図3B】(上記の通り。)
図4A】マウスにおけるHAdV35 pIX-L2(S)45.18.16(Sx3)pIX-L2(S)6.31.33.16及びpIX-L2(S)11.52/58.45.18(Sx4)ベクターに対する液性応答。(A)免疫化スケジュールの概略図。8匹のCB6F1マウス(n=8)の4つのグループを、1x1010 VPのHAdV35.空.pIX-L2(S)45.18.16、HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16、HAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18又はHAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16&HAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18のミックスのそれぞれで刺激した。負の対照として、HAdV35.空ベクター(n=3、1x1010 VP)を第5のグループに投与した。8週後、同じベクター(同じ濃度の)でマウスを追加免疫し、これは刺激免疫化の間に投与された。4週後、追加免疫マウスを犠牲にした(12週目)。マウスの血清を、HPV MSD ELISAにおけるHPVタイプ特異的抗体応答分析のために2週間隔で収集した()。(B)MSD ELISAによって測定した9つの異なるHPVタイプ(6、11、16、18、31、33、45、52/58及び59)に対する8週目及び12週目における血清中の抗体応答。それぞれのベクター又はベクターミックスで誘導したHPVタイプ特異的応答を、グラフにプロットする(log10)。点線は、最小及び最大log10 ELISA力価を示す。ボンフェローニ補正及び試験を、5%有意レベル(<0.05)にて行った。(C)発光Log10表現にて表示したHPV 16、18、31及び59のインビトロでのシュードビリオンウイルス(PsV)中和アッセイ(VNA)。1x1010 VP/マウス HAdV35 pIX-L2(Sx3)、pIX-L2(Sx4)16、pIX-L2(Sx4)18及びpIX-L2(Sx4)16 & pIX-L2(Sx4)18のミックスで免疫化したマウスの血清を、インビトロPsVウイルス中和アッセイにて分析した。HPV 16及び18に関する正の中和対照として、4価ガーダシル(HPV 6、11、16、18)免疫化マウスの血清を共に使用する。発光の正の対照として、それぞれのHPVシュードビリオンを共に使用する。横線は、グループの平均を示す。各グラフ内の点線は、フューリンなしでのPsVsの平均を示す。3倍ボンフェローニ補正を用いてP値を調整し、試験は5%有意レベル(<0.05)で行った。
図4B】(上記の通り。)
図4C】(上記の通り。)
図5A】PER.C6(登録商標)細胞におけるpIX-L2ディスプレイベクターの遺伝的安定性。(A)PER.C6(登録商標)細胞における延長された継代後のウイルスDNAのPCR分析による小規模遺伝的安定性試験の概略図。ウイルス継代数(VPN)14は、想定される商業規模プロセスを4継代超えた継代を表す。バッチ又はプラークを接着PER.C6(登録商標)細胞(adPER.C6(登録商標)細胞)内でおよそ7VPNまでアップスケール/継代する。次いで、1x10生細胞/ml(vc/ml)を35(HAdV35)又は900(HAdV26)VP/細胞のいずれかで感染させることにより、制御条件下で継代を縣濁液PER.C6(登録商標)細胞(sPER.C6(登録商標)細胞)内で更に7VPN継続する。各VPNにおいて粗材料に関して感染前にVP力価をウイルス粒子定量PCR(VP-QPCR)によって決定した。ウイルスDNAを単離し、HAdVゲノム内のpIX-改変領域に隣接するプライマーを用いてpIX-PCRを行い、配列決定により確認する。(B)VPN14におけるHAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18及びHAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16ベクターのそれぞれの5つのプラーク(1~5)のpIX-PCRのアガロースゲル分析。+は、正のプラスミド対照(942bp)を指し、(-)は、非改変pIXプラスミド対照(570bp)を指し、H0は、PCR水対照を指す。Mは、分子量マーカーを表す。星印は、pIX-PCRで検出された非特異的バンドを示す。
図5B】(上記の通り。)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、抗原に融合されたカプシドタンパク質IX(pIX)を含む組換えアデノウイルスベクターに関し、前記抗原は連続する3~5個のアミノ酸モチーフを含み、各モチーフは、約20~約40アミノ酸長であり、各モチーフは、異なるHPVタイプ由来のHPV L2タンパク質の抗原断片を含む。好ましくは、前記モチーフの少なくとも1つは、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む抗原断片を含む。
【0017】
特定の実施形態において、抗原は、連続する3、4、又は5個のアミノ酸モチーフを含む。アミノ酸モチーフは、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40又は41アミノ酸の長さを有することができる。本明細書で使用される用語「モチーフ」は、構造的及び通常は機能的な類似性を共有する、アミノ酸の短いクラスターを意味する。本発明に関して定義されるアミノ酸モチーフは、例えば、非限定的に、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36、アミノ酸残基69~81及びアミノ酸残基108~121等の、HPV L2タンパク質の抗原(アミノ酸)断片を含む、HPV L2タンパク質由来のアミノ酸部分である。
【0018】
本明細書で使用される用語「組換え」は、人為的に改変されていることを意味し、例えば、その中にクローン化された改変末端を有し、及び/又は、異種遺伝子を含み、即ち、天然に存在する野生型アデノウイルスではない。異種遺伝子は、該遺伝子がアデノウイルス上に天然に存在せず、即ち、該遺伝子がアデノウイルス遺伝子ではないことを意味する。
【0019】
本発明による組換えアデノウイルスベクターは、以前に定義した抗原(又はポリペプチド)に融合したアデノウイルスカプシドタンパク質IXを含むアデノウイルスベクターである。抗原は、アデノウイルスカプシドタンパク質IXを用いて、アデノウイルスベクターの表面において、マイナーカプシドタンパク質IX上に表示される。抗原は、マイナーカプシドタンパク質IXのC末端に融合される。pIXの抗原との融合は、確立した分子技術を用いてアデノウイルスゲノム内の2つの遺伝子を遺伝子融合することにより行われる。
【0020】
タンパク質IX(pIX)という用語は、正二十面体アデノウイルスカプシドを安定化する主な機能を有するマイナーカプシドタンパク質を指す(Rosa-Calatrava,Grave,Puvion-Dutilleul,Chatton,&Kedinger,2001)。
【0021】
pIXは、アデノウイルスタイプ特異的であり、各アデノウイルスタイプは、異なるカプシドpIXを有し、即ち、アデノウイルス35(HAdV35)のpIXは、アミノ酸配列 配列番号12を含み;一方、アデノウイルス26(HAdV26)のpIXは、アミノ酸配列 配列番号13を含む。
【0022】
「アデノウイルスカプシドタンパク質」は、特定のアデノウイルスの血清型及び/又は指向性の決定に関与する、アデノウイルスのカプシド上のタンパク質を指す。アデノウイルスカプシドタンパク質は、典型的にはファイバー、ペントン及び/又はヘキソンタンパク質を含む。本発明による特定の血清型の(又は「血清型に基づく」アデノウイルスは、典型的には、特定の血清型のファイバー、ペントン及び/又はヘキソンタンパク質を含み、好ましくは特定の血清型のファイバー、ペントン及びヘキソンタンパク質を含む。これらのタンパク質は、典型的には、組換えアデノウイルスのゲノムによりコードされている。特定の血清型の組換えアデノウイルスは、場合により他のアデノウイルス血清型由来の他のタンパク質を含み及び/又はコードし得る。従って、非限定的な例として、HAdV35のヘキソン、ペントン及びファイバーを含む組換えアデノウイルスは、HAdV35に基づく組換えアデノウイルスと見なされる。
【0023】
HPVマイナーL2タンパク質は、カプシド形成に関与する後期タンパク質である。L2タンパク質は、HPV感染に必要である。L2タンパク質は、その高く保存されたN末端領域を用いてウイルス受容体に結合する(Roden et al.,2001)。L2 N末端ペプチドを用いた免疫化は、異なる動物モデルにおいて(交差)防御中和抗体を誘導することが示されている(Karanam,Jagu,Huh,&Roden,2009)。L2 N末端(ポリ)ペプチドを用いた免疫化後の観察された防御は、主として、この領域内に特定された高く保存された中和及びおそらく結合エピトープに起因する。N末端領域内の特定されたL2中和抗体(nAbs)エピトープは、高く保存されたa.a.残基17~36、a.a.残基69~81及びa.a.残基108~120を含む(Karanam et al.,2009)。
【0024】
本発明によれば、HPVマイナーL2タンパク質は、任意のHPVタイプに由来してもよい。L2タンパク質は、好ましくはHPVタイプ6、11、16、18、45、31、33、35、52、58、35、56、51、39、68、73又は82遺伝子型からなる群から選択される。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、pIXに融合された抗原は、連続する3個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む。好ましくは、前記抗原断片は、配列番号1を含む。
【0026】
より好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ31、45、18及び16;それぞれ33、45、18及び16;それぞれ6、31、33及び16、又はそれぞれ11、52/58、45及び18のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む。好ましくは、前記抗原は、それぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号6又は配列番号7を含む。
【0027】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記抗原は、連続する5個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフは、約20~約40アミノ酸の長さを有し、それぞれHPVタイプ33、31、45、18及び16又はそれぞれ52、31、45、18及び16のHPV L2タンパク質の17~36アミノ酸残基を含む。好ましくは、前記抗原は、それぞれ配列番号4又は配列番号5を含む。
【0028】
好ましくは、前記アミノ酸モチーフは、約30アミノ酸残基を含む。本発明の好ましい実施形態では、各モチーフは、前記HPV L2タンパク質の約10~約40アミノ酸残基を含む。本発明の別の実施形態では、3~5アミノ酸モチーフの1つは、アミノ酸残基17~36の代わりに、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基69~81、又はHPV L2タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。本発明の別の実施形態では、3~5アミノ酸モチーフの1つは、アミノ酸残基17~36の代わりに、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、3~5アミノ酸モチーフの1つは、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記抗原は連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、該モチーフのそれぞれは約20~約40アミノ酸の長さを有し、前記第1のモチーフはHPV L2タイプ31タンパク質のアミノ酸残基17~36を含み、前記第2のモチーフは、HPV L2タイプ45タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、前記第3のモチーフは、HPV L2タイプ18タンパク質のアミノ酸残基108~121を含み、前記第4のモチーフは、HPV L2タイプ16タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む。好ましくは、前記アミノ酸モチーフは、約30アミノ酸残基を含む。より好ましくは、前記抗原は、配列番号8を含む。
【0030】
用語「リンカー」及び「スペーサー」は、タンパク質ドメイン間、例えば抗原とpIXとの間に配置され得る短いペプチド配列を指す。リンカーは、異なるサイズ範囲のグリシン(gly)及び/又はセリン等のフレキシブルな残基から構成され、異なるドメインの互いに対する自由な移動を確実にする。リンカーの例としては、3-Gly(Gly-Gly-Gly)及び中間リンカー(Gly-Gly-Ser-Gly)x2が挙げられるが、これらに限定されない。本発明による好ましい一実施形態では、グリシンリンカーは、連続する2~15個のグリシン及び/又はセリン残基を有するアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態では、リンカーは、グリシンの連続する3個のフレキシブルな残基を有するアミノ酸配列を含む。
【0031】
本発明では数個のスペーサー、即ち、ヒトApoE4タンパク質起源のApoE4タンパク質α-ヘリカル45Åスペーサー(Vellinga et al.,2004);スペーサー1(SP1)、RSV融合タンパク質;スペーサー2(SP2)、インフルエンザA HA;スペーサー3(SP3)、流行性耳下腺炎融合タンパク質も使用することができる。SP1~SP3スペーサーは、ウイルス起源であり、それぞれアミノ配列配列番号9、配列番号10、配列番号11を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、組換えアデノウイルスは、少なくとも配列において野生型から誘導することにより、アデノウイルスに「基づいている」。該誘導は、出発物質として野生型ゲノム又はその一部を使用した分子クローニングにより達成することができる。野生型アデノウイルスゲノムの既知の配列を使用して、デノボDNA合成によりゲノム(その一部)を生成することも可能であり、該合成は、DNA合成及び/又は分子クローニングの分野を手掛けているサービス会社(例えばGeneArt、Invitrogen、GenScripts、Eurofins)により、日常的な手順を用いて行うことができる。
【0033】
本発明の組換えアデノウイルスは、好ましくは:HAdV4、HAdV5、HAdV11、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49及びAd50からなる群から選択される血清型由来のアデノウイルスに基づく。好ましくは、前記血清型は、HAdV4、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49及びHAdV50の群から選択される。本発明に適した他の可能なタイプのアデノウイルスには、非限定的に:イヌアデノウイルス、チンパンジーアデノウイルス、ゴリラアデノウイルス及びキメラアデノウイルスが含まれる。より好ましくは、本発明による組換えアデノウイルスベクターは、HAdV26又はHAdV35である。
【0034】
本発明の別の態様は、少なくとも2つの異なる本発明による組換えアデノウイルスベクターの組み合わせを含む組成物に関する。好ましい実施形態では、前記組成物は、抗原が配列番号6を含む第1の組換えアデノウイルスベクターと、抗原が配列番号7を含む第2の組換えアデノウイルスベクターとを含む。両方のアデノウイルスベクターは、同じ血清型に由来し又は異なる血清型に由来し得る。好ましくは、組換えアデノウイルスベクターは、両方とも、血清型HAdV26又はHAdV35に由来するアデノウイルスに基づいている。
【0035】
より好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも2つの異なる組換えHAdV35アデノウイルスベクターの組み合わせを含み、第1の組換えアデノウイルスベクターは、配列番号6を含む抗原断片を含み、第2の組換えアデノウイルスベクターは、配列番号7を含む抗原断片を含む。
【0036】
別の好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも2つの異なる組換えHAdV26アデノウイルスベクターの組み合わせを含み、第1の組換えアデノウイルスベクターは、配列番号6を含む抗原を含み、第2の組換えアデノウイルスベクターは、配列番号7を含む抗原を含む。本明細書の配列は、当技術分野で慣習的なように、5’から3’の方向に提供されている。
【0037】
本発明による複製欠損組換えアデノウイルスベクターは、異種抗原(又はポリペプチド)をコードする異種核酸を更に含むことができる。
【0038】
遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチド及び核酸が同じポリペプチドをコードし得ることが当業者により理解される。当業者は日常的な技術を用いて、記述されるポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行って、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映し得ることも理解される。従って、特に特定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重版であり、同じアミノ酸配列をコードする全ヌクレオチド配列を含む。タンパク質をコードするヌクレオチド配列及びRNAは、イントロンを含み得る。
【0039】
本発明の特定の一態様では、本発明による組換えウイルスベクターは、抗原決定基、又はその免疫原性部分をコードする核酸を含む。好ましくは、前記異種核酸は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける発現の向上のためにコドン最適化されている。コドン最適化は、必要なアミノ酸含有量、関心対象の哺乳動物における一般的かつ最適なコドン使用、及び適切な発現を確実にするために避けるべき多数の局面の提供に基づくものである。そのような局面は、スプライス供与部位又はスプライス受容部位、終止コドン、Chi部位、ポリ(A)ストレッチ、GC-及びAT-リッチ配列、内部TATAボックス等であり得る。
【0040】
好ましい実施形態において、本発明は、前記異種核酸中のアデニン+チミン含有量が、シトシン+グアニン含有量と比較して87%未満であり、好ましくは80%未満であり、より好ましくは59%未満であり、最も好ましくはおよそ45%に等しい、本発明による複製欠損組換えウイルスベクターに関する。
【0041】
当業者は、例えば日常的な分子生物学的手順を用いて、例えばアミノ酸置換、欠失、付加等によりタンパク質を変化させることができることも認識するであろう。一般に、ポリペプチドの機能又は免疫原性を喪失させることなく、保存的アミノ酸置換を適用することができる。これは当業者に周知の日常的な手順に従って調べることができる。
【0042】
本発明のベクターは、組換えアデノウイルスであり、組換えアデノウイルスベクターとも称される。組換えアデノウイルスベクターの調製は、当技術分野で周知である。
【0043】
特定の実施形態において、本発明によるアデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1領域、例えばE1a領域及び/又はE1b領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能が欠損している。特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、非必須E3領域の少なくとも一部において欠損している。特定の実施形態では、ベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能と、非必須E3領域の少なくとも一部とにおいて欠損している。アデノウイルスベクターは、「乗算欠損」であり得、これはアデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムの2つ以上の領域のそれぞれにおいて、1つ以上の必須遺伝子機能が欠損していることを意味する。例えば、前述のE1-欠損又はE1-、E3-欠損アデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須遺伝子、及び/又はE2領域の少なくとも1つの必須遺伝子(例えば、E2A領域及び/又はE2B領域)において更に欠損し得る。
【0044】
アデノウイルスベクター、その構築方法、及びその増殖方法は、当技術分野で周知であり、例えば、米国特許第5,559,099号明細書、同第5,837,511号明細書、同第5,846,782号明細書、同第5,851,806号明細書、同第5,994,106号明細書、同第5,994,128号明細書、同第5,965,541号明細書、同第5,981,225号明細書、同第6,040,174号明細書、同第6,020,191号明細書、同第6,113,913号明細書、及び同第8,932,607号明細書、並びにThomas Shenk,「Adenoviridae and their Replication」,M.S.Horwitz,「Adenoviruses」,それぞれChapters 67及び68、Virology,B.N.Fields et al.,eds.,3d ed.,Raven Press,Ltd.,New York(1996)に、並びに本明細書に言及した他の参考文献に記載されている。典型的には、アデノウイルスベクターの構築は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989),Watson et al.,Recombinant DNA,2d ed.,Scientific American Books(1992),及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,NY(1995)、及び本明細書に言及した他の参考文献に記載されているもの等の標準的な分子生物学技術の使用を含む。
【0045】
本発明によれば、アデノウイルスベクターは、好ましくはHAdV4、HAdV11、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49、HAdV50、非ヒト霊長類ベクター及びキメラベクターの群から選択される。本発明によるアデノウイルスベクターは、一般に、ヒト集団において低い血清有病率、及び/又は低い既存の中和抗体力価を有する。異なる導入遺伝子を有する組換えアデノウイルスベクターは、臨床試験において評価されており、これまでの所、卓越した安全性プロファイルを有することが示されている。HAdV26ベクターの調製は、例えば国際公開第2007/104792号パンフレット及びAbbink et al.,(2007)Virol 81(9):4654-63に記載されている。HAdV26の例示的なゲノム配列は、ジェンバンク受入EF 153474及び国際公開第2007/104792号パンフレットの配列番号1に見出される。HAdV35ベクターの調製は、例えば米国特許第7,270,811号明細書、国際公開第00/70071号パンフレット、及びVogels et al.,(2003)J Virol 77(15):8263-71に記載されている。HAdV35の例示的なゲノム配列は、ジェンバンク受入AC_000019及び国際公開第00/70071号パンフレットの図6に見出される。本発明による組換えアデノウイルスは、複製コンピテント又は複製欠損であり得る。
【0046】
特定の実施形態において、アデノウイルスは複製欠損であり、例えばこれは該アデノウイルスがゲノムのE1領域に欠失を含むためである。当業者に既知であるように、アデノウイルスゲノムからの必須領域の欠失の場合、これらの領域でコードされた機能は、好ましくはプロデューサー細胞によってトランスに提供される必要があり、即ちE1、E2及び/又はE4領域の一部又は全部がアデノウイルスから欠失した場合、これらはプロデューサー細胞内に存在する必要があり、例えばそのゲノムに統合され、又はいわゆるヘルパーアデノウイルス若しくはヘルパープラスミドの形態で、統合される必要がある。アデノウイルスは、E3領域内に欠失も有し、これは複製に不要であるため、そのような欠失は補完される必要はない。
【0047】
使用し得るプロデューサー細胞(時々、当技術分野及び本明細書で「パッケージング細胞」又は「補完細胞」又は「宿主細胞」とも称される)は、所望のアデノウイルスが増殖できる任意のプロデューサー細胞であってよい。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルス内の欠損を補完するプロデューサー細胞内で行われる。そのようなプロデューサー細胞は、好ましくはそれらのゲノム内に少なくとも1つのアデノウイルスE1配列を有し、それによりE1領域内の欠失を有する組換えアデノウイルスを補完することができる。E1により不死化されたヒト網膜細胞、例えば911又はPER.C6(登録商標)細胞(米国特許第5,994,128号明細書参照)、E1-形質転換羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書参照)、E1-形質転換A549細胞(例えば国際公開第98/39411号パンフレット、米国特許第5,891,690号明細書参照)、GH329:HeLa(Gao et al,2000、Human Gene Therapy 11:213-219)、293等の任意のE1-補完プロデューサー細胞を使用することができる。特定の実施形態では、プロデューサー細胞は、例えばHEK293細胞、又はPER.C6(登録商標)細胞、又は911細胞、又はIT293SF細胞等である。
【0048】
HAdV35(サブグループB)又はHAdV26(サブグループD)等の非サブグループC E1-欠損アデノウイルスの場合、これらの非サブグループCアデノウイルスのE4-orf6コード配列を、HAdV5等のサブグループCのアデノウイルスのE4-orf6と交換することが好ましい。これにより、例えば293細胞又はPER.C6(登録商標)細胞等の、Ad5のE1遺伝子を発現する周知の補完細胞株におけるそのようなアデノウイルスの増殖が可能となる(例えばHavenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第03/104467号パンフレット参照)。特定の実施形態において、ワクチン組成物中のアデノウイルスは、E1領域内に欠失を有し、HAdV5のE4-orf6領域を有する、血清型35のヒトアデノウイルスである。特定の実施形態においては、使用し得るアデノウイルスは、E1領域内に欠失を有し、HAdV5のE4-orf6領域を有する、血清型26のヒトアデノウイルスである。
【0049】
代替的な実施形態では、異種E4-orf6領域(例えばHAdV5の)をアデノウイルスベクター内に配置する必要はなく、代わりにE1欠失非サブグループCベクターを、E1及び適合性のE4-orf6の両方を発現する細胞株、例えばE1及びAd5からのE4-orf6の両方を発現する293-ORF6細胞株内で増殖させる(例えば、293-ORF6細胞の生成を記載するBrough et al,1996,J Virol 70:6497-501;Abrahamsen et al,1997,J Virol 71:8946-51及びNan et al,2003,Gene Therapy 10:326-36参照。これらはそれぞれ、そのような細胞株を使用したE1欠失非サブグループCアデノウイルスベクターの生成を記載する)。
【0050】
代替的に、増殖させるべき血清型由来のE1を発現する補完細胞を使用することができる(例えば国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレット参照)。
【0051】
E1領域内に欠失を有するHAdV35等のサブグループBアデノウイルスの場合、アデノウイルス内のE1B 55Kオープンリーディングフレームの3’末端、例えばpIXオープンリーディングフレームの166bp直接上流、又はこれを含む断片、例えばpIX開始コドンの直接上流の243bp断片等(HAdV35ゲノム内のBsu36I制限部位により5’末端に標識(mark)される)を保持することが好ましく、これは、この領域内にpIX遺伝子のプロモーターが部分的に存在するため、このことがアデノウイルスの安定性を増大させるためである(例えば、参照により本明細書に組み込まれるHavenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;国際公開第2004/001032号パンフレット参照)。
【0052】
特定の実施形態において、本発明の組換えHAdV26又はHAdV35ベクターは、5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む。これらの実施形態は、そのようなベクターが、元の5’末端配列(一般にCATCATCA)を有するベクターと比較して、生成プロセスにおける複製の改善を示し、均質性が改善されたアデノウイルスのバッチをもたらすため有利である(Crucell Holland B.V.の名義で2012年3月12日に出願された「Batches of recombinant adenovirus with altered terminal ends」と題された特許出願PCT/EP2013/054846号明細書及び米国特許第13/794,318号明細書も参照されたい)、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。従って、本発明は、HPV L2タンパク質の抗原断片又はその一部をコードする組換えアデノウイルスのバッチも提供し、ここでアデノウイルスはヒトアデノウイルス血清型4、11、26、35、48、49、50であり、本質的にバッチ中の全て(例えば少なくとも90%)のアデノウイルスは、末端ヌクレオチド配列CTATCTATを有するゲノムを含む。
【0053】
本開示に使用される数値に関する用語「約」は、値±10%を意味する。
【0054】
特定の実施形態において、本発明は、HPVに対するワクチンの作製方法を提供し、該方法は、HPVのL2タンパク質の抗原断片を含む抗原に融合したカプシドタンパク質IXを含む組換えアデノウイルスベクターを提供することと、前記組換えアデノウイルスを宿主細胞の培養液中で増殖させることと、組換えアデノウイルスを単離及び精製することと、組換えアデノウイルスを薬学的に許容され得る組成物とすることとを含む。
【0055】
組換えアデノウイルスは、アデノウイルスで感染させた宿主細胞の細胞培養を含む、周知の方法に従って宿主細胞内で調製及び増殖され得る。細胞培養は、接着細胞培養、例えば培養器の表面又はマイクロキャリアに付着した細胞、及び懸濁培養を含む任意のタイプの細胞培養であってよい。
【0056】
殆どの大規模懸濁培養は、バッチ又は供給バッチプロセスとして操作され、これは、それらの操作及び規模拡大が最も容易であるためである。最近、灌流原理に基づいた連続プロセスがより一般的となり始め、好適でもある(例えば、大量の組換えアデノウイルスの獲得及び精製に好適な方法を記載する、両方とも参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2010/060719号パンフレット及び国際公開第2011/098592号パンフレット参照)。
【0057】
プロデューサー細胞は培養されて、細胞及びウイルスの数、並びに/又はウイルス力価を増大させる。細胞の培養は、本発明による関心対象のウイルスの代謝、及び/又は成長、及び/又は分裂、及び/又は生成を可能にするように行われる。このことは、当業者に周知の方法等により達成することができ、非限定的に、例えば適切な培地中に細胞用の栄養素を提供することを含む。好適な培地は当業者に周知であり、一般に、商業的供給源から大量に得られ、又は標準的なプロトコルに従って誂えることができる。培養は、例えば、バッチ、供給バッチ、連続システム等を用いて、シャーレ、ローラーボトル又はバイオリアクター内で行うことができる。細胞の培養に好適な条件は、既知である(例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Paterson,editors(1973)、及びR.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley-Liss Inc.,2000,ISBN 0-471-34889-9参照)。
【0058】
典型的には、アデノウイルスは、培養液中の適切なプロデューサー細胞に暴露され、ウイルスが組み込まれる。通常、最適な撹拌は約50~300rpm、典型的には約100~200、例えば約150であり、典型的なDOは20~60%、例えば40%であり、最適pHは6.7~7.7であり、最適温度は30~39℃、例えば34~-37℃であり、最適MOIは5~1000、例えば約50~300である。典型的には、アデノウイルスはプロデューサー細胞に自発的に感染し、プロデューサー細胞を組換えアデノウイルス粒子に接触させることは、細胞を感染させるのに十分である。一般に、アデノウイルスのシードストック(seed stock)が培養液に添加されて感染を開始させ、続いてアデノウイルスはプロデューサー細胞内で増殖する。これらは全て当業者には日常的である。
【0059】
アデノウイルスによる感染後、ウイルスは細胞内で複製することより増幅され、このプロセスは、本明細書ではアデノウイルスの増殖と称される。アデノウイルス感染は最終的には、細胞の溶解をもたらす。従ってアデノウイルスの溶解特性はウイルス産生の2つの異なるモードを可能にする。第1のモードは、細胞を溶解するのに外部因子を使用する細胞溶解に先立ってウイルスを回収することである。第2のモードは、生成されたウイルスによる(殆ど)完全な細胞溶解後にウイルス上清を回収することである(例えば、外部因子による、宿主細胞を溶解しないアデノウイルスの回収を記載している米国特許第6,485,958号明細書参照)。外部因子を使用して、細胞を能動的に溶解してアデノウイルスを回収することが好ましい。
【0060】
能動的な細胞溶解に使用し得る方法は、当業者に既知であり、例えば国際公開第98/22588号パンフレット、p.28~35に論じられている。これに関して有用な方法は、例えば、凍結融解、固体せん断、高張及び/又は低張溶解、液体せん断、超音波処理、高圧押出、洗浄剤溶解、上記の組み合わせ等である。本発明の一実施形態では、細胞は、少なくとも1種の洗浄剤を使用して溶解される。溶解のための洗浄剤の使用は、方法が容易であること、及び容易に拡大可能であることの利点を有する。
【0061】
使用できる洗浄剤、及びその使用方法は、一般に当業者に既知である。数個の例が、例えば国際公開第98/22588号パンフレット、p.29~33に論じられている。洗浄剤は、陰イオン性、陽イオン性、双性イオン性及び非イオン性洗浄剤を含むことができる。洗浄剤の濃度は、例えば約0.1%~5%(w/w)の範囲内で変動してもよい。一実施形態において、使用される洗浄剤は、Triton X-100である。
【0062】
ヌクレアーゼを使用して、混入、即ち、殆どプロデューサー細胞由来の、核酸を除去することができる。本発明での使用に好適な例示的なヌクレアーゼには、ベンゾナーゼ(登録商標)、プルモザイム(登録商標)、又は当技術分野において通常使用される任意の他のデオキシリボヌクレアーゼ及び/又はリボヌクレアーゼが挙げられる。好ましい実施形態では、ヌクレアーゼはベンゾナーゼ(登録商標)であり、これは特定のヌクレオチド間の内部リン酸ジエステル結合を加水分解することにより核酸を急速に加水分解して、細胞溶解物の粘度を低下させる。ベンゾナーゼ(登録商標)は、Merck KGaA(コードW214950)から商業的に得ることができる。ヌクレアーゼが使用される濃度は、好ましくは1~100単位/mlの範囲内である。ヌクレアーゼ処理の代わりに又はこれに加えて、アデノウイルス精製中に、ドミフェン臭化物等の選択的沈殿剤を使用して、アデノウイルス製剤から宿主細胞DNAを選択的に沈殿させることも可能である(例えば、米国特許第7,326,555号明細書;Goerke et al.,2005,Biotechnology and bioengineering,Vol.91:12-21;国際公開第2011/045378号パンフレット;国際公開第2011/045381号パンフレット参照)。
【0063】
プロデューサー細胞の培養液からのアデノウイルスの回収方法は、国際公開第2005/080556号パンフレットに広範に記載されている。
【0064】
特定の実施形態では、回収されたアデノウイルスは、更に精製される。アデノウイルスの精製は、数個の工程で行うことができ、該工程は、例えば参照により本明細書に組み込まれる国際公開第05/080556号パンフレットに記載されている清澄化、限外ろ過、ダイアフィルトレーション又はクロマトグラフィーを用いた分離を含む。清澄化は、ろ過工程により行われ、細胞溶解物から細胞デブリ及び他の不純物を除去することができる。限外ろ過は、ウイルス溶液の濃縮に使用される。限外ろ過装置を使用したダイアフィルトレーション、又は緩衝液交換は、塩、糖等の除去及び交換のための一方法である。当業者は、各精製工程の最適な条件を規定する方法を知っている。その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第98/22588号パンフレットも、アデノウイルスベクターの生成及び精製方法を記載している。該方法は、宿主細胞を成長させ、該宿主細胞をアデノウイルスで感染させ、該宿主細胞を回収及び溶解し、粗溶解物を濃縮し、粗溶解物の緩衝液を交換し、該溶解物をヌクレアーゼで処理し、クロマトグラフィーを用いてウイルスを更に精製することを含む。
【0065】
精製は、例えば国際公開第98/22588号パンフレット、p.61~70に論じられているように、少なくとも1つのクロマトグラフィー工程を用いることが好ましい。アデノウイルスの更なる精製に関して多数のプロセスが記載されており、該プロセスにはクロマトグラフィー工程が含まれている。当業者は、これらのプロセスに気づき、正しいクロマトグラフ工程に使用方法を変更して、プロセスを最適化することができる。例えば陰イオン交換クロマトグラフィー工程によりアデノウイルスを精製することが可能であり、例えば国際公開第2005/080556号パンフレット及びKonz et al,2005,Hum Gene Ther 16:1346-1353を参照されたい。多数の他のアデノウイルス精製方法が記載されており、これらは当業者の手の届く範囲にある。アデノウイルスの更なる生成及び精製方法は、例えば(国際公開第00/32754号パンフレット;国際公開第04/020971号パンフレット;米国特許第5,837,520号明細書;同第6,261,823号明細書;国際公開第2006/108707号パンフレット;Konz et al,2008,Methods Mol Biol 434:13-23;Altaras et al,2005,Adv Biochem Eng Biotechnol 99:193-260)に開示されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
本発明の別の態様は、更に薬学的に許容され得る賦形剤を含む、本発明による組換えアデノウイルスベクター又は組成物を含むワクチンに関する。
【0067】
用語「ワクチン」は、特定の病原体又は疾病に対する治療程度の免疫を対象において誘導するのに有効な活性成分を含む薬剤又は組成物を指す。本発明では、ワクチンは、有効量の組換えアデノウイルスを含み、該組換えアデノウイルスは、ヒトパピローマウイルス(HPV)L2タンパク質の抗原断片を含む抗原に融合したカプシドタンパク質IXを含み、その結果、HPV L2タンパク質に対する免疫応答がもたらされる。本発明による用語「ワクチン」は、それが医薬組成物であることを暗示し、従って典型的には薬学的に許容され得る希釈剤、担体又は賦形剤を含む。ワクチンは、更なる活性成分を含んでも又は含まなくてもよい。特定の実施形態では、ワクチンは、例えば他のタンパク質及び/又は他の感染病原体に対する免疫応答を誘導する他の成分を更に含む組み合わせワクチンであってもよい。
【0068】
ヒトへの投与のために、本発明は、アデノウイルス及び薬学的に許容され得る担体又は賦形剤を含む医薬組成物を使用することができる。本明細書の文脈において、用語「薬学的に許容され得る」は、担体又は賦形剤が、使用される投与量及び濃度において、それらが投与される対象に任意の望ましくない又は有害な効果を生じないことを意味する。それらの薬学的に許容され得る担体及び賦形剤は、当技術分野で周知である(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.R.Gennaro,Ed.,Mack Publishing Company[1990];Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins,S.Frokjaer and L.Hovgaard,Eds.,Taylor&Francis[2000];及びHandbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,A.Kibbe,Ed.,Pharmaceutical Press[2000]参照)。精製Adは、好ましくは滅菌溶液として調製及び投与されるが、凍結乾燥製剤を使用することも可能である。滅菌溶液は、滅菌ろ過、又はそれ自体が当技術分野で既知の他の方法により調製される。次いで、溶液は凍結乾燥され又は医薬品投与容器(pharmaceutical dosage container)内に満たされる。溶液のpHは、一般にpH 3.0~9.5、例えばpH 5.0~7.5の範囲内である。Adは、典型的には、薬学的に許容され得る好適な緩衝液を有する溶液中にあり、Adの溶液は、塩も含み得る。場合によりアルブミン等の安定化剤が存在してもよい。特定の実施形態では、洗浄剤が添加される。特定の実施形態では、Adは注射用製剤に調製され得る。これらの製剤は、有効な量のAdを含み、滅菌液体溶液、液体懸濁液又は凍結乾燥型のいずれかであり、場合により安定剤又は賦形剤を含む。アデノウイルスワクチンはまた、鼻腔内投与用にエアロゾル化されてもよい(例えば、国際公開第2009/117134号パンフレット参照)。
【0069】
例えば、アデノウイルスは、Adnovirus World Standard用にも使用される緩衝液中で保存されてもよい(Hoganson et al,Development of a stable adenoviral vector formulation,Bioprocessing March 2002,p.43-48):20mM Tris pH 8、25mM NaCl、2.5%グリセロール。ヒトへの投与に好適な、有用な別の製剤緩衝液は、20mM Tris、2mM MgCl、25mM NaCl、ショ糖10% w/v、ポリソルベート-80 0.02% w/vである。多数の他の緩衝液を使用できることは明らかであり、精製(アデノ)ウイルス製剤の保存及び医薬品投与に好適な製剤の数個の例は、例えば欧州特許第0853660号明細書、米国特許第6,225,289号明細書及び国際特許出願国際公開第99/41416号パンフレット、国際公開第99/12568号パンフレット、国際公開第00/29024号パンフレット、国際公開第01/66137号パンフレット、国際公開第03/049763号パンフレット、国際公開第03/078592号パンフレット、国際公開第03/061708号パンフレットに見出すことができる。
【0070】
特定の実施形態において、アデノウイルスを含む組成物は、更に1つ以上のアジュバントを含む。アジュバントは、適用される抗原決定基に対する免疫応答を更に増大することで当技術分野で既知であり、アデノウイルス及び好適なアジュバントを含む医薬組成物は、例えば参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/110409号パンフレットに開示されている。用語「アジュバント」及び「免疫刺激剤」は、本明細書で交換可能に使用され、免疫系の刺激を引き起こす1つ以上の物質として定義される。この状況において、アジュバントは、本発明のアデノウイルスベクターの免疫応答を向上させるために使用される。好適なアジュバントの例には、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸アルミニウム等のアルミニウム塩;MF59(例えば国際公開第90/14837号パンフレット参照)等のスクアレン-水エマルションを含む油エマルション組成物(又は水中油組成物);例えばQS21等のサポニン製剤及び免疫賦活性複合体(ISCOMS)(例えば米国特許第S5,057,540号明細書;国際公開第90/03184号パンフレット、国際公開第96/11711号パンフレット、国際公開第2004/004762号パンフレット、国際公開第2005/002620号パンフレット参照);細菌又は微生物誘導体、その例は、モノホスホリル脂質A(MPL)、3-O-脱アシル化MPL(3dMPL)、CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチド、ADP-リボシル化細菌毒素又はその変異体(mutant)、例えば大腸菌(E.coli)熱不安定性エンテロトキシンLT、コレラ毒素CT等が挙げられる。例えば、関心対象の抗原に対するC4-結合タンパク質(C4bp)のオリゴマー化ドメインの融合物をコードする異種核酸を使用することによって、ベクター-コードアジュバントを使用することも可能である(例えば、Solabomi et al,2008,Infect Immun 76:3817-23)。特定の実施形態では、本発明の組成物は、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムカリウム、又はそれらの組み合わせの形態のアルミニウムをアジュバントとして、用量当たりのアルミニウム含有量が0.05~5mg、例えば0.075~1.0mgの濃度で含む。
【0071】
別の実施形態では、組成物はアジュバントを含まない。本発明によれば、更なる活性成分を、本発明によるワクチンと組み合わせて投与することも可能である。そのような更なる活性成分は、例えば他のHPV抗原又はこれらをコードする核酸を含むベクターを含むことができる。そのようなベクターは、非アデノウイルス性又はアデノウイルス性であってもよく、この後者は任意の血清型であってもよい。他のHPV抗原の例には、HPVタンパク質又はその免疫学的に活性な部分が挙げられる。更なる活性成分は、例えばウイルス、細菌、寄生虫等の他の病原体に由来する非HPV抗原も含み得る。更なる活性成分の投与は、例えば、別々の投与により又は本発明のワクチンの製品と更なる活性成分との組み合わせの投与により行うことができる。特定の実施形態では、更なる非アデノウイルス抗原が、本発明のベクター内にコードされ得る。従って、特定の実施形態では、単一のアデノウイルスから1種を超えるタンパク質の発現が望ましい可能性があり、そのような場合、例えばより多くのコード配列が結合されて、単一の発現カセットから単一の転写産物が形成され得るか、又は、アデノウイルスゲノムの異なる部分内にクローン化された2つの別個の発現カセット内に存在し得る。
【0072】
本発明の更なる態様は、HPVの治療的、予防的又は診断的処置における本発明によるワクチンの使用に関する。本発明は、対象における免疫応答の誘導方法にも関し、該方法は、本明細書に記載したアデノウイルスベクター又はワクチンを投与することを含む。アデノウイルス組成物は、対象、例えばヒト対象に投与され得る。1回の投与で対象に提供されるアデノウイルスの総用量は、熟練者に既知のように様々であり得、一般に1x10ウイルス粒子(VP)~1x1012 VP、好ましくは1x10 VP~1x1011 VP、例えば3x10~5x1010 VP、例えば10~3x1010 VPである。
【0073】
アデノウイルス組成物の投与は、標準的な投与経路を用いて行うことができる。非限定的な実施形態は、例えば注射による非経口投与、例えば皮内、筋内等、又は皮下、経皮、又は粘膜投与、例えば鼻腔内、経口等を含む。本発明によれば、ワクチンを筋内投与することが好ましい。筋内投与の利点は、単純かつ安定しており、6カ月未満の乳児における鼻腔内適用に安全性の懸念を有さないことである。一実施形態において、組成物は、筋内注射により、例えば腕の三角筋、又は大腿の外側広筋内に投与される。当業者は、ワクチン中の抗原(複数可)に対する免疫応答を誘導するための組成物、例えばワクチンの投与の様々な可能性を知っている。
【0074】
本明細書で用いられる対象は、好ましくは哺乳動物、例えば齧歯類、例えばマウス、コットンラット、又は非ヒト-霊長類、又はヒトである。好ましくは、対象はヒト対象である。対象は、任意の年齢、例えば約1カ月~100歳、例えば約2カ月~約80歳、例えば約1カ月~約3歳、約3歳~約50歳、約50歳~約75歳等であり得る。
【0075】
本発明の1つ以上のアデノウイルスワクチンの1つ以上の追加免疫投与を提供することも可能である。追加免疫ワクチン接種を行う場合、典型的には、そのような追加免疫ワクチン接種は、組成物を対象に最初に投与した後(これは、この場合、「刺激ワクチン接種」と称される)、1週間~1か月、好ましくは2週間~4カ月の時点で、同じ対象に投与されるであろう。代替的な追加免疫レジメンでは、異なるベクター、例えば異なる血清型の1つ以上のアデノウイルス、又はMVA等の他のベクター、又はDNA、又はタンパク質を、刺激ワクチン接種の後に、対象に投与することも可能である。例えば本発明による組換えアデノウイルスベクターを刺激として対象に投与し、HPVタンパク質を含む組成物で追加免疫することが可能である。
【0076】
特定の実施形態において、投与は、刺激投与及び少なくとも1回の追加免疫投与を含む。その特定の実施形態では、刺激投与は、本発明によるHPVタンパク質をコードする核酸を含むHAdV35を用い、追加免疫投与は、前記HPVタンパク質をコードする核酸を含むHAdV26を用いる。その別の実施形態では、刺激投与はHAdV26を用い、追加免疫投与はHAdV35を用いる。別の実施形態では、刺激投与及び追加免疫投与の両方がHAdV35を用いる。特定の実施形態では、刺激投与はHAdV35を用い、追加免疫投与はHPVタンパク質を用いる。これらの全実施形態において、同じ又は他のベクター又はタンパク質を用いて更なる追加免疫投与を提供することが可能である。
【0077】
特定の実施形態において、投与は、更なる(追加免疫)投与なしでの、本発明による組換えアデノウイルスの単独投与を含む。そのような実施形態は、刺激-追加免疫レジメンと比較して、単独投与レジメンで複雑性及び費用が低減されている点で有利である。本明細書の実施例のコットンラットモデルでは、追加免疫投与なしでの本発明の組換えアデノウイルスベクターの単独投与後の完全な防御が既に観察されている。
【0078】
本発明を以下の実施例で更に説明する。実施例は本発明を如何様にも限定するものではない。これらは本発明を明確にする役割を果たす。
【実施例
【0079】
実施例1:カプシド取り込みによりpIXに融合したHPV L2抗原コンカテマー
pIX-Sx3及びpIX-Sx4 HPV L2コンカテマーの効率的なカプシド取り込み。
異なるHPV L2コンカテマーがpIXに融合し、カプシドに効率的に取り込まれるか否かを評価するために、カプシド取り込みのための数個の異なるpIX改変HPV L2ディスプレイベクターを設計、生成及び評価した(図1)。
【0080】
抗原設計
ヒトパピローマウイルスL2タンパク質コンカテマー(即ち、モチーフ)をゲノム内にコードし、アデノウイルスカプシド上のタンパク質IX(pIX)を介して表示する。異なるHPVタイプのL2タンパク質断片、(S)10~40アミノ酸モチーフ(又は60~90/100~130a.a.)、(L)10~89アミノ酸モチーフ又はそれらの組み合わせ(SSL)のいずれかを使用して、L2コンカテマーを生成する。次いでこれらのコンカテマーを、連続する3個のグリシンアミノ酸(3-Gly)からなる小さいヒンジリンカーを介してpIXに融合する。L2タンパク質からの選択領域は、HPV感染に対するL2ベース防御の生成に必要であると以前に示された、1つ又は2つの保存された線状中和抗体エピトープ(又は抗原断片)、即ちアミノ酸残基17~36(S及びL設計)又はアミノ酸残基69~81(L設計)(図1A)のいずれかを含む(review:Karanam et al.Imm.Cell Bio.2009)。
【0081】
組換えヒトアデノウイルスベクター(HAdV)生成
pIX-L2コンカテマーをコード及び表示する複製欠損組換えヒトアデノウイルス35(HAdV-35)及びヒトアデノウイルス26(HAdV-26)ベクターを、Havenga et al.2006により以前に記載されたように生成する。HAdV-ゲノムの左部分(pAdapt35.Bsu/pShuttle26プラスミド)にpIX-L2改変を遺伝的に挿入する。続いて、リポフェクタミン(Invitrogen)を用いて線状化pAdapt又はpShuttle及びコスミド(ゲノムの右部分)をトランスフェクトすることにより、ベクターの救出をE1補完PER.C6(登録商標)細胞株内で行った。続いて、ベクターをプラーク精製し、10%のウシ胎児血清(Life Technologies Inc.)及び10 mM MgClで補充したPER.C6(登録商標)細胞上で増殖させた。異なるHPV L2コンカテマーをコード及び表示するHAdV-35又はHAdV-26ベクターのいずれかの大パネルを生成し、セシウム精製し、特徴付けた。ウイルス力価、ウイルス粒子(VP)/ml、感染単位(IU)/ml、並びに対応するVP/IU比及びVP/cmを、各精製バッチに関して決定した。これらの特徴は、対応する対照ベクター(即ち、非改変pIX)と同等であった。従ってpIX-改変ベクターの産生能は、L2コンカテマーの付加により影響を受けないことが示される(データは示さず)。
【0082】
pIX-L2カプシド取り込み効率
pIX-L2 HPVカプシド取り込み効率を評価して、非改変pIXベクターと同等の取り込み効率を有するベクターを生成する見地から、どのpIX-融合タンパク質設計が最適であるかを決定した。それを理由として、pIX-L2ベクターを非改変pIX対照ベクター(HAdV.空)と比較した。ウイルスカプシド内のpIX-L2含有量とカプシド取り込みの効率とを決定するために、精製ウイルスバッチに関してウェスタンブロット、ELISA及びUPLC/MS分析を含む数個の分析を行った。
【0083】
最初に、最適なHPV L2コンカテマー設計を決定した。これを目的として、pIX-Gly-L2(Sx3)45.18.16(93アミノ酸)、pIX-Gly-L2(Sx3)x3)45.18.16(273アミノ酸)pIX-Gly-L2(Lx3)45.18.16(238アミノ酸)及びpIX-Gly-L2(Sx2+L)45.18.16(418アミノ酸)をコードするHAdV-35ベクターを生成し(図1B)、精製した。続いて、精製ウイルス粒子をウェスタンブロットにより分析し、超高速液体クロマトグラフィー/質量分析UPLC/MSにより確認して、カプシド内のpIX-L2タンパク質の正確な含有量を決定した。
【0084】
カプシド取り込みpIX-L2融合タンパク質のウェスタンブロット分析
精製ウイルス粒子を還元及び変性し、ウェル当たり1.5x1010、0.5x1010及び0.17x1010ウイルス粒子(VP/ウェル)の濃度でゲル上に負荷することによって、カプシド取り込みpIX-L2変異体のウェスタンブロット(WB)分析を行った。次いで、MOPS緩衝液(Invitrogen)中のプレキャスト12% Bis/Tris Nu-PAGEゲル(Invitrogen)上にて175 V、500mAでウイルス粒子を分離した。続いて、サイズ分離タンパク質を、iBlot(登録商標)転写スタック(iBlot system;Invitrogen)を使用して、製造業者の推奨に従ってニトロセルロース膜に転写した。抗L2特異的血清(HPV 16マウス血清)又は抗pIXモノクローナル抗体(6740)及びローディングコントロールとしての抗ファイバーモノクローナル抗体(Ad5 4D2、Abcam)を5%脱脂粉乳(BioRad)/トリス緩衝生理食塩水Tween 20(Invitrogen)中で用いて膜を1時間染色することにより、pIX-L2タンパク質含有量を決定した。蛍光標識された2次抗体IRDye800CW(登録商標)1:10000ヤギ抗マウスを用いて染色することにより関心対象のタンパク質を可視化し、Odyssey(登録商標)(Li-Cor)上に記録した。
【0085】
Glyリンカーを介してpIXに融合したHPV L2 45.18.16コンカテマーSx3、(Sx3)x3、Lx3、(Sx2)+Lの間でカプシド取り込みにおける大きな相違がウェスタンブロット(表1)で観察された。ベクター間の直接比較により、Sx3変異体の良好なカプシド取り込みが示される。(Sx3)x3及びLx3変異体を精製バッチ中で検出したが、遥かに低い程度であった。対照的に、(Sx2)+LはL2-特異的マウス血清を使用したウェスタンブロット分析では全く検出されなかった(表1)。これらの観察事項により、pIXに融合したHPV L2コンカテマーのタイプは、カプシド取り込み効率に影響を与えることが示される。サイズ及びおそらく電荷がカプシド取り込み効率に重要な役割を果たすと思われる。(Sx3)93アミノ酸配置が最も効率よく取り込まれ、一方(Sx2)+L 418アミノ酸配置は全く取り込まれなかった。効率的なカプシド取り込みに基づいて、Glyリンカーを介してpIXに融合したHPV 45、18及び16 L2タンパク質の10~40アミノ酸を含むL2コンカテマー(Sx3)は、最適であるとして選択された(SEQ ID NO 1)。
【0086】
【表1】
【0087】
選択されたpIX-L2(S)45.18.16 HAdV-35ベクターをウェスタンブロットにより更に分析して、カプシド取り込み効率の見地からバッチ間の変動を決定した。これを目的として、2つの追加のバッチを生成し、精製し、個別にHAdV35.空ベクターと(データは示さず)及び互いに比較した。抗pIXモノクローナル抗体(6740)及び抗ファイバーモノクローナル抗体(4D2)(約35kDa)で染色した後、3つの全バッチの間でpIX-L2(Sx3)45.18.16(約25kDa)の同等のバンド強度が観察された(図2A)。従って、HAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16の3つの全バッチ間で、pIX-L2(Sx3)カプシド取り込み効率の点で明白なバッチ間の変動は観察されなかった。
【0088】
カプシド取り込み効率を確認するためのHAdV-35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16の逆相UPLC分析
ウェスタンブロット分析で観察されたHAdV35.空(非改変pIX)及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16における天然pIXの同等のレベルを確認するために、ベクターを逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP-UPLC)により並行して試験した。ここでは合計2.5x1011 VP/ml精製バッチを、アセトニトリル(ACN)+0.17%及びトリフルオロ酢酸(TFA)勾配を有するRP-UPLC C4カラムに負荷した。吸収を280nmで測定した。得られたHAdV35プロテオーム(各ピークがウイルスタンパク質に対応する)及びその対応する溶出時間を図2Bに示す。非改変pIX HAdV35.空対照(上部パネル)の分析により、約14分の溶出時間のpIXピークがはっきり示される。予想通り、このpIXピークはHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16分析(下部パネル)では検出されない。代わりに、約13分で溶出した2つの追加のピークが観察された(下部グラフに矢印で示す)。これらはpIX-L2(Sx3)45.18.16タンパク質を表すと予想される(図2B)。全ウイルスタンパク質の量(ピーク領域の合計)を決定し、pIX量(ピーク領域)の百分率を計算することによってpIX及びpIX-L2(ピーク領域)の相対的な量(百分率で)を計算した。負荷はペントン塩基(タンパク質III)ピーク領域(約12分で溶出)を用いた補正により調節された。HAdV35.空では、pIXは総ウイルスタンパク質の2.7%を構成した。HAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16では、pIX-L2(Sx3)メジャーピークは総ウイルスタンパク質の2.1%を占め、マイナーピークは0.4%を占めた(合計2.5%)。手短に言えば、この分析によりHAdV35.空及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16の両方における同等のレベルのpIX(2.7対2.5%)の存在が確認される。従って、L2(S)45.18.16 HPVコンカテマーの付加は、効率的なpIX-L2カプシド取り込みを可能にする。
【0089】
LC-MS分析によるHAdV-35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16マイナーバンド確認
pIX-L2(S)45.18.16のウェスタンブロット及びRP-UPLC分析の両方が第2のマイナーバンド/ピークを示したため、このバンドの正確な配列を、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)分析により決定した。精製HAdV35.空及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16を還元条件下でSDS-PAGEゲル上に負荷した後、MS互換性SilverQuest(商標)染色(Thermo Fisher Scientific)を製造業者の推奨に従って行った。プールしたpIXバンドのトリプシンによるゲル内消化を、製造業者による推奨の通りに行った(Thermo Fisher Scientific)。次いで、消化されたバンドを2~50% ACN+0.1% FA勾配を有する逆相C18 BEH300カラム上で分離し、MSE分析をSynapt G2 ESI-Q-TOF質量分析計上で行った。結果は、メジャーバンド/ピーク(ウェスタンブロットでの25kDa及びRP-UPLCでの約13分の溶出時間)が実際に完全pIX-L2(Sx3)45.18.16であることを示す。マイナーバンド/ピーク(ウェスタンブロットでの約24kDa及びRP-UPLCでの約13.5分の溶出時間)は、pIX-L2(Sx3)45.18であると決定された。これらの結果は、少量のカプシド取り込みpIX-L2(Sx3)において、先端に配向したHPV 16 10~40アミノ酸配列が欠けており又はおそらく切断されていることを示す。
【0090】
強い線状17~36アミノ酸B細胞エピトープに加えて、HPV 16 L2タンパク質の10~40アミノ酸は‘.TKR/ASA’配列も含み、該配列は完全フューリン認識部位RTKR/ASAからP4において1つのアルギニン(R)が足りない(Richards et al.2006)。この部分的フューリン認識部位(即ち、.TKR/ASA)の存在は、pIX-L2(S)45.18.16コンカテマーのpIX-L2(S)45.18及びHPV 16 10~40アミノ酸(フューリンにより接近可能な先端HPV 16断片)への不完全な消化に寄与し、またより低い程度で、フューリンによるHPV 18及び45 10~40アミノ酸の切断に寄与する(フューリン切断に関して比較的接近可能ではないカプシドに対する近接さに起因して)という可能性が最も高い。
【0091】
L2(S)45.18.16コンカテマーに対する追加のHPVタイプの付加による、HAdV26ベクターにおけるpIX-L2(S)設計の拡張
Glyリンカーを介してpIXに融合したHPV 45、18及び16を含むL2タンパク質10~40アミノ酸(Sx3)コンカテマー設計が、最適及び自然なpIXカプシド負荷を確実にすることを決定したため、本発明者らは:(1)異なるHPVタイプ由来のいくつの追加のL2 10~40アミノ酸配列がpIXに融合でき、依然として効率的なカプシド負荷を確実にするかを評価し;及び(2)同じ改変が他のアデノウイルスタイプ(例えばHAdV-26)に首尾よく導入できるか否かを評価することを目標とした。これを目的として、HAdV-26ベクターを上記に示したように生成し、ウェスタンブロットによりカプシド取り込み効率に関して評価した。pIX-L2((Sx3)x3)45.18.16がカプシド取り込みの低下を示すことをHAdV35において観察したため(表1)、HAdV26にて試験した最大(S)-変異体をSx6に低減した。pIX-L2(Sx3)45.18.16、pIX-L2(Sx4)31.45.18.16、pIX-L2(Sx4)33.45.18.16、pIX-L2(Sx5)33.31.45.18.16、pIX-L2(Sx5)52.31.45.18.16(HPVタイプ52及び58は、L2タンパク質10~40アミノ酸領域において同一である)、及びpIX-L2(Sx5)52.33.31.45.18.16:を含むHAdV26ベクターを生成した(図1C)。臨床的に関連した癌の原因となるHPVタイプのみを使用して、pIX-L2ベクターを生成した。抗L2 HPV 16マウス血清及びローディングコントロールとしての抗ファイバーモノクローナル抗体(4D2)を使用したカプシド取り込み評価は、取り込み効率におけるベクター間の幾分かの相違を示した(表1)。ベクターをHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16ベクターと比較し、また互いの間で比較して、pIX-L2含有量のレベルを決定した。pIX-L2含有量の点で、HAdV26.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16の両方は、ウェスタンブロットにて同等である(表1)。この観察により、アデノウイルスタイプに関わらず、pIX-L2(Sx3)45.18.16はアデノウイルスベクターに効率的に取り込まれるという結論が導かれる。
【0092】
加えて、ウェスタンブロット分析により、2つのSx4ベクター(HAdV-26.空.pIX-L2(Sx4)31.45.18.16(配列番号2)及びHAdV-26.空.pIX-L2(Sx4)33.45.18.16(配列番号3)が互いに及び最も重要なことにはSx3変異体と同等のpIX含有量を有することが示される(表1)。Sx5変異体(HAdV-26.空.pIX-L2(Sx5)33.31.45.18.16(配列番号4)及びHAdV26.空.pIX-L2(Sx5)52.31.45.18.16)(配列番号5)は、Sx4及びSx3ベクターを比較して僅かに低下したカプシド取り込みを示すが、これらは依然として効率的に取り込まれる。最少のpIX-L2含有量がHAdV26.空.pIX-L2(Sx6)52.33.31.45.18.16ベクターにおいてSx6ベクターに関して観察された。Sx6ベクターは((Sx3)x3)、Lx3又は((Sx2)+L))ベクターと共に、乏しい取り込みを示した(表1)。異なる(S)-変異体ベクターのカプシド取り込みは、pIX-L2含有量の点で、Sx4変異体、すぐに続いてSx5変異体が、Sx3改変ベクターと最も同等であることを示す。この観察により、Sx3設計と非常に近いSx4及びSx5変異体がアデノウイルスカプシドに効率的に取り込まれることが示唆される。
【0093】
予防的HPV HAdV-35 pIX-L2(Sx4)ベースワクチンのカプシド取り込み
pIXに融合した4つの異なる10~40アミノ酸HPV L2断片を含むコンカテマーが、HAdVカプシドに効率的に取り込まれることを確認したため、pIX-L2(S)6.31.33.16及びpIX-L2(Sx4)11.52/58.45.18をコード及び表示する2つのHAdV35ベクターを生成して、臨床的に関連した9つのHPVタイプ6、11、16、18、31、33、45及び52/58に対する防御を確認した。これは、パンHPV L2ベース予防的ワクチンのために両方のベクターを1つの最終的なワクチン製剤中に混合することを目標としている。
【0094】
これらのベクターを、上記に示したように、E1補完PER.C6(登録商標)細胞内で生成し、前記に論じた全pIX-改変ベクターと同じように、コードされたpIX-L2(Sx4)改変に加えて‘空’E1-カセット(CMVプロモーター及びSV40ポリAシグナル)も含む。精製HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16及びHAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18ベクターを特徴付け、ウイルス力価(VP及びIU/ml)、VP/IU及びVP/cmの点で非改変対照ベクターと同等であることと見出した(データは示さず)。ウェスタンブロット及び抗L2マウス血清(HPV 16特異的)を用いた染色によるカプシド取り込みの評価は、pIX-L2(S)6.31.33.16&pIX-L2(S)11.52/58.45.18がpIX-L2(Sx3)45.18.16対照ベクターと同様に効率的に取り込まれることを示す。加えて、ウェスタンブロット分析は、pIX-L2(S)6.31.33.16とpIX-L2(S)11.52/58.45.18との間の同等のカプシド取り込みを示す(図3A)。各HAdV35 pIX-L2(Sx4)変異体の追加のバッチを生成し、カプシド取り込みを含む全特徴に関して同等であることを示した(データは示さず)。まとめると、このデータは、pIX-L2(S)6.31.33.16(SEQ ID NO 6)及びpIX-L2(S)11.52/58.45.18(配列番号7)が、バッチ間の明白で確かな任意の変動を有することなく、HAdV35カプシド内に効率的に取り込まれることを示す。
【0095】
異なるL2エピトープ断片を含むpIX-L2(Sx4)ミックスのカプシド取り込み
pIX設計に融合したHPV L2 10~40アミノ酸断片を含むコンカテマーを用いて、効率的なカプシド取り込みが確認されたため、1つのコンカテマー内に異なるL2エピトープ断片、HPV31(17~36アミノ酸)、HPV45(69~81アミノ酸)、HPV18(108~120アミノ酸)、及びHPV16(108~120アミノ酸)(配列番号8)を表示するHAdV26ベクターに拡張した。これを目的として、HAdV26.空.pIX-L2(Sx4)ミックス.31.45.18.16ベクターをE1補完PER.C6(登録商標)細胞内で上記に示したように生成した。ウェスタンブロットと、抗L2マウス血清(HPV16特異的)及び抗pIXモノクローナルを用いた染色によるカプシド取り込みの評価は、pIX-L2(Sx4)ミックス.31.45.18.16がカプシド内に取り込まれたことを示す(図3B)。ウェスタンブロット分析では、28kDa pIX-L2(Sx4)ミックス.31.45.18.16タンパク質に加えて複数のバンドが検出され、以前に認められたL2-コンカテマーのタンパク質切断が示唆される。とはいえ、このデータは、pIX-L2(Sx4)ミックス.31.45.18.16(配列番号8)がHAdV26カプシドに取り込まれ得ることを示す。
【0096】
実施例2:免疫原性pIX-L2改変ベクター
単一のHAdV35.空.pIX-L2(Sx4)11.52/58.45.18、HAdV35.空.pIX-L2(Sx4)6.31.33.16及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)ベクターと同じ実験において、2つのpIX-L2(Sx4)ディスプレイベクターのミックスを含む9価L2ベース予防的HPVワクチンを、HPVタイプ特異的抗体(ワクチンに含まれる抗原に対する)及び交差反応性抗体(ワクチンに含まれない抗原に対する)の誘導に関して評価した。(1x1010 VP/ベクター)HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16及びHAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18、HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16単独、HAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18単独、HAdV35.空.pIX-L2(S)45.18.16単独(正の対照)及びHAdV35.空(負の対照)のミックスを用いて、マウス(CB6F1)を筋肉内IM免疫化した(刺激)。刺激から8週後、同じベクターを用いて同じ濃度(1x1010 VP/ベクター)でマウスを追加免疫した。それぞれ2週間隔で、マウスを出血させ、刺激から12週後に最終的に犠牲にした(図4A)。9価MSD ELISAアッセイ(ELISA力価EC50 Log10)を用いて液性応答を測定した。各HPVタイプ6、11、16、18、31、33、45及び52/58及びHPVタイプ59に対して刺激から8週後及び12週後(追加免疫から4週後)に誘導された抗体応答を測定した。データは、8週目の1x1010 VP/ベクターの1回の投与後(刺激のみ):全ての単一のベクター及び2つのベクターのミックスが、HPVタイプ(HPV 59)がワクチンに含まれていない場合でも、HPVタイプ6、11、16、18、31、33、45、52/58及び59に対する抗体応答を誘導することを示す(図4B)。それぞれの単一のベクター及び2つのベクターのミックスに関して、HPVタイプ特異的抗L2応答を12週目に追加免疫した(図4B)。たとえ単一のベクターがpIX-L2コンカテマーに含まれていないタイプに対する免疫応答を誘導できても、例えばHAdV35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16ベクターで免疫化されたマウスにおいてHPVタイプ6、11及び33に対する応答を誘導しても、応答は12週目に、Sx4ベクター単独(HAdV35.空.pIX-L2(Sx4)11.52/58.45.18又はHAdV35.空.pIX-L2(Sx4)6.31.33.16)又は2つのSx4ベクターのミックスのいずれと比較してもかなり低いように思われる(図4B)。概して、2つのSx4ベクターHAdV35.空.pIX-L2(Sx4)11.52/58.45.18及びHAdV35.空.pIX-L2(Sx4)6.31.33.16のミックスは、HAd35.空.pIX-L2(Sx3)45.18.16ベクター対照と比較した場合、試験した全HPVタイプに対する、より高い免疫応答を誘導し、またいくつかのHPVタイプに関しても、単一のSx4ベクター(HAdV35.空.pIX-L2(Sx4)11.52/58.45.18又はHAdV35.空.pIX-L2(Sx4)6.31.33.16)よりも高い免疫応答を誘導する。交差反応性結合抗体は全pIX-L2ディスプレイベクターにより生成されるけれども、9価ベクターミックスを用いて達成される、より高い抗体免疫応答は、複数のHPVタイプからの数種のL2抗原断片を含めることの重要性を示している。
【0097】
血清中のHPV中和抗体(nAb)応答が、HPV防御に相関すると見なされるため(Pastrana et al.,2004)、nAb応答を誘導するpIX-L2の能力を決定した。これを目的として、上述した免疫化からの血清(図4A)を、HPVシュードビリオンウイルス中和アッセイ(VNA)においてHPV16、HPV18、HPV31及びHPV59特異的nAb応答に関して試験し、アッセイにおいて4価ガーダシルワクチン接種マウスと比較した。
【0098】
HPVシュードビリオン生成及びVNA
HPVシュードビリオン生成及びVNAは、基本的に前述されたように行ったが(Day et al.,2012)、フューリン産生細胞からの上清の代わりに組換えフューリンを使用した。手短に言えば、HPVシュードビリオン産生HEK293FT細胞を使用した(DMEM(Thermo Fisher)+10%ウシ胎児血清(FBS))。これを目的として、HPV L1-L2カプシド-コードpcDNA2004Neo(-).HPVx.L1S.IRES.L2.WPREプラスミドとホタルルシフェラーゼ及びeGFPタンパク質をコードするプラスミドとを用いてトランスフェクションを行った。細胞形質導入の前に、ルシフェラーゼ遺伝子をコードするHPVシュードビリオンを、免疫化マウスからの血清と共にインキュベートした。中和能力の読み取りとして、Synergy Neo2 Multi-Mode Reader(BioTek)を使用して相対発光量(RLU)を測定した。
【0099】
単一のベクター及びミックスによってHPV16及びHPV18に対するnAb免疫応答を誘導し、該応答は、4価-ガーダシル(HPV 6、11、16及び18)によって誘導された応答と同等であった(図4C)。また、全L2ディスプレイベクターによってHPV31及び59のnAb中和力価を誘導した(図4C)。結論として、全pIX-L2ディスプレイベクターはHPVタイプ特異的nAb免疫応答を誘導し、そのうちHPV16及びHPV18免疫応答は、4価ガーダシルと同等であった。
【0100】
実施例3:PER.C6(登録商標)プロデューサー細胞株における遺伝的に安定なpIX-L2(Sx4)改変ベクターの生成
アデノウイルスベクターは遺伝的に安定と見なされていても(Bett,Prevec,&Graham,1993;King,Teertstra,Blanco,Salas,&van der Vliet,1997)、通常、欠失変異体が選択的成長優位を示す場合、突然変異及び/又は欠失が認められている(Harro et al.,2009)。異なるHPVタイプ間の、HAdVゲノム内にコードされたL2タンパク質10~40アミノ酸コンカテマーにおける比較的高い相同性(約65~70%)に起因して、ベクター生成中の遺伝的不安定性が生じる場合がある(Bzymek&Lovett,2001)。
【0101】
プロデューサーPER.C6(登録商標)細胞内での産生後、高度反復L2コンカテマーをコードするpIX-改変ベクターの遺伝的安定性プロファイルを決定するために、予測される商業的プロセスを超える4回のウイルス継代(VPN)まで、5つのクローン(即ち、プラーク)をPER.C6(登録商標)内で増殖させた。遺伝的安定性を評価するための延長された継代アッセイとその後のpIX-改変領域のPCR増幅を、Vogels et alにより以前記載されたように行った(Vogels et al.,2007))。接着PER.C6(登録商標)(ad PER.C6(登録商標))細胞内のみでの継代の実施の代わりに、ウイルス継代数7(VPN7)において縣濁液中でのER.C6(登録商標)(sPER.C6(登録商標))細胞内の延長された継代を継続した(図5A)。sPER.C6(登録商標)細胞内での継代を固定35VP/細胞(HAdV35)にて制御条件下で行い、各継代に関して感染(DPI)から3日後に回収した。ウイルスDNAをVPN7及びVPN14で単離して、pIX-領域の完全性を決定した。pIX-L2(Sx4)コンカテマーを含むHAdV35ベクターを、上記に示したように、3つのプラスミドのトランスフェクションにより生成したが、にも関わらず高度反復L2コンカテマーの効果は、ベクター生成中のpIX-L2の遺伝的安定性に悪影響を有し得る。遺伝子レベルでのSx4コンカテマー内のL2相同性の効果を軽減するために、哺乳動物タンパク質発現に関するコドン最適化を用いて、DNAレベルでの相同性を低減させることによりL2コンカテマーを合成した(GeneArt)。この誂えのコドン最適化は、約2~3%の総相同性の低下をもたらした一方、哺乳動物細胞内での発現のための最適なコドン使用を依然として保持した。HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16及びHAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18ベクターの5つのプラーク(n=5)をVPN14まで継代した(図5B)。非低減pIX-L2(Sx4)HAdV35(即ち、コドン最適化されたが、HPVタイプ10~40アミノ酸断片間の相同性が低減されていない)も、延長された継代後、遺伝的に安定であることが見出された(表2)。Sx4コンカテマー内のL2相同性に関わらず(低減対非低減)、HAdV35 pIX-L2(Sx4)ベクターの全クローンは、PER.C6(登録商標)細胞内での延長された継代中、遺伝的に安定な状態を維持した。加えて、(低減されたL2コンカテマー相同性)HAdV35.空.pIX-L2(S)6.31.33.16及びHAdV35.空.pIX-L2(S)11.52/58.45.18ベクターの上述した少量の精製ベクター製剤をPCRによって遺伝的安定性に関して試験し、遺伝的に安定であることが示され、ベクター生成中の「スケール」アップは遺伝的に安定なpIX-L2ベクターを提供することが示された。まとめると、遺伝的にコードされたL2コンカテマーに融合したタンパク質IXの高度反復性にも関わらず、ベクターはPER.C6(登録商標)細胞内で遺伝的に安定な状態を維持する。
【0102】
【表2】

また、本発明は以下を提供する。
[1]
抗原に融合されたカプシドタンパク質IXを含む組換えアデノウイルスベクターであって、前記抗原が連続する3~5個のアミノ酸モチーフを含み、各モチーフが約20~約40アミノ酸長であり、各モチーフが、異なるHPVタイプ由来のHPV L2タンパク質の抗原断片を含む、組換えアデノウイルスベクター。
[2]
少なくとも1つのモチーフが、HPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む抗原断片を含む、[1]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[3]
前記HPV L2タンパク質のタイプが、HPVタイプ6、11、16、18、31、33、35、39、45、52、56、58、68、73及び82からなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[4]
前記抗原が連続する3個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[5]
前記抗原が配列番号1を含む、[4]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[6]
前記抗原が連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ31、45、18及び16;それぞれ33、45、18及び16;それぞれ6、31、33及び16、又はそれぞれ11、52/58、45及び18のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[7]
前記抗原が、配列番号2、配列番号3、配列番号6又は配列番号7を含む、[6]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[8]
前記抗原が連続する5個のアミノ酸モチーフを含み、前記モチーフが、それぞれ前記HPVタイプ33、31、45、18及び16又はそれぞれ52、31、45、18及び16のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[9]
前記抗原が、配列番号4又は配列番号5を含む、[8]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[10]
前記アミノ酸モチーフが約30アミノ酸残基を含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[11]
各モチーフが、前記HPV L2タンパク質の約10~約40アミノ酸残基を含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[12]
前記抗原が連続する4個のアミノ酸モチーフを含み、第1のモチーフが前記HPVタイプ31のHPV L2タンパク質のアミノ酸残基17~36を含み、第2のモチーフがHPV L2タイプ45タンパク質のアミノ酸残基69~81を含み、第3のモチーフがHPV L2タイプ18タンパク質のアミノ酸残基108~121を含み、第4のモチーフがHPV L2タイプ16タンパク質のアミノ酸残基108~121を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[13]
前記抗原が配列番号8を含む、[12]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[14]
pIXタンパク質及び前記抗原が、リンカー又はスペーサーによって互いに連結されている、[1]~[13]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[15]
前記リンカーが、グリシンの連続する3個のフレキシブルな残基を有するアミノ酸配列を含む、[14]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[16]
前記ベクターが、HAdV4、HAdV11、HAdV26、HAdV35、HAdV48、HAdV49、HAdV50、非ヒト霊長類ベクター及びキメラベクターからなる群から選択される、[1]~[15]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[17]
前記アデノウイルスベクターがHAdV26又はHAdV35である、[14]に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[18]
前記ベクターが更に、導入遺伝子としての1つ以上の異種タンパク質をコードする核酸を含む、[1]~[17]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター。
[19]
少なくとも2つの、[1]~[18]のいずれか一項に記載の異なる組換えアデノウイルスベクターの組み合わせを含む組成物。
[20]
2つの、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクターを含む組成物であって、前記第1のベクターの前記抗原断片が配列番号6を含み、前記第2のベクターの前記抗原断片が配列番号7を含む、組成物。
[21]
更に薬学的に許容され得る賦形剤を含む、[1]~[19]のいずれか一項に記載の組換えアデノウイルスベクター又は[19]若しくは[20]に記載の組成物を含むワクチン。
[22]
対象における免疫応答の誘導方法であって、[21]に記載のワクチンを前記対象に投与することを含む、方法。
【0103】
参考文献
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【0104】
配列表
配列番号1 Sx3 HPV 45.18.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化1】

配列番号2 Sx4 HPV 31.45.18.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化2】

配列番号3 Sx4 HPV 33.45.18.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化3】

配列番号4 Sx5 HPV 31.33.45.18.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化4】

配列番号5 Sx5 HPV 52/58.31.45.18.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化5】

配列番号6 Sx4 HPV 6.31.33.16(L2タンパク質の10~40残基)
【化6】

配列番号7 Sx4 HPV 11.52/58.45.18(L2タンパク質の10~40残基)
【化7】

配列番号8 Sx4 HPV 31(11~40).45(60~89).18(100~129).16(101~130)
【化8】

配列番号9(スペーサー1)
CNGTDAKIKLIKQELDKYKNAVTELQLLMQST
配列番号10(スペーサー2)
TNEKFHQIEKEFSEVEGRIQDLEKYVEDTKIDL
配列番号11(スペーサー3)
QTNARAIAAMKNSIQATNRAIFEVKEGTQQ
配列番号12(HAdV-35pIX)
【化9】

配列番号13(HAdV-26pIX)
【化10】

配列番号14(エピトープ1)
QLY+TCKQAGTCPPD
配列番号15(エピトープ2)
RTGYIPLGTRPPT
配列番号16(エピトープ3)
LVEETSFIDAGAP
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
【配列表】
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