IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テネオバイオ, インコーポレイテッドの特許一覧

特許7229153改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物
<>
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図1
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図2
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図3
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図4
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図5-1
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図5-2
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図6
  • 特許-改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】改変された重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230217BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230217BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230217BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A01K67/027
C12P21/08
C07K16/00
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2019510837
(86)(22)【出願日】2017-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 US2017047928
(87)【国際公開番号】W WO2018039180
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2019-06-19
(31)【優先権主張番号】62/379,075
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンショーテン, ウィム
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン, ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】フォース-アルドレッド, シェリー
(72)【発明者】
【氏名】ブリュッゲマン, マリアン
(72)【発明者】
【氏名】オズボーン, マイケル
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-024087(JP,A)
【文献】特開2005-289809(JP,A)
【文献】特表2005-520494(JP,A)
【文献】Pierre A. Barthelemy et al.,Comprehensive analysis of the factors contributing to the stability and solubility of autonomous human VH domains.,J. Biol. Chem.,2008年02月08日,Vol.283, No.6,p.3639-3654,doi: 10.1074/jbc.M708536200
【文献】A. Desmyter et al.,Antigen specificity and high affinity binding provided by one single loop of a camel single-domain antibody.,J. Biol. Chem.,2001年07月13日,Vol.276, No.28,p.26285-26290,doi: 10.1074/jbc.M102107200
【文献】Rick Janssens et al.,Generation of heavy-chain-only antibodies in mice.,Proc. Nat. Acad. Sci. USA,2006年10月10日,Vol.103, No.41,p.15130-15135,doi: 10.1073/pnas.0601108103
【文献】"OMT Therapeutics Announces UniRatTM Alliance with Caltech",2015年05月15日,URL: https://www.businesswire.com/news/home/20150514006523/en/OMT-Therapeutics-Announces-UniRat%E2%84%A2-Alliance-Caltech,retirieved on 2020.7.7
【文献】Michael J. Osborn et al.,High-affinity IgG antibodies develop naturally in Ig-knockout rats carrying germline human IgH/Igκ/Igλ loci bearing the rat CH region.,J. Immunol.,2013年02月15日,Vol.190, No.4,p.1481-1490,doi: 10.4049/jimmunol.1203041
【文献】Biao Ma et al.,Human antibody expression in transgenic rats: Comparison of chimeric IgH loci with human VH, D and JH bur bearing different rat C-gene regions.,J. Immunol. Methods,2013年12月31日,Vol.400-401,p.78-86,doi: 10.1016/j.jim.2013.10.007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
A01K 67/027
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え重鎖のみの免疫グロブリン(Ig)をコードする核酸であって、前記組換え重鎖のみの免疫グロブリン(Ig)は、以下:
(i)1つ以上のヒトV遺伝子セグメント、1つ以上のヒトD遺伝子セグメント、及び1つ以上のヒトJ遺伝子セグメントであって、非ヒト動物のゲノム中で互いに組み換えられるとき、前記核酸は、前記非ヒト動物の中で再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子フラグメントを生成することが可能であり、ここで、前記再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子フラグメントは、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)領域を含む重鎖のみの抗体(HCAb)をコードし、ここで、前記ヒトJセグメントの少なくとも1つが、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位に、その位置における天然のアミノ酸残基を含む表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基をコードするコドンを含む、前記1つ以上のヒトV遺伝子セグメント、1つ以上のヒトD遺伝子セグメント、及び1つ以上のヒトJ遺伝子セグメント;ならびに、
(ii)Cμコード領域を欠き、各々がCH1エクソンを欠く複数のCγコード領域を含み、そして、CH1エクソンを含むCεコード領域またはCαコード領域をさらに含む、C領域遺伝子セグメント
を含む、核酸。
【請求項2】
2~40のD遺伝子セグメント、及び2~20のJ遺伝子セグメントを含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
1より多い前記ヒトJ遺伝子セグメントが、前記第4のフレームワーク領域(FR4)の前記第1位において、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含む表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基をコードするコドンを含む、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
全ての前記ヒトJ遺伝子セグメントが、前記第4のフレームワーク領域(FR4)の前記第1位において、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含む表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基をコードするコドンを含む、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
前記コードされたVH領域において、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
前記コードされたVH領域において、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている、請求項4に記載の核酸。
【請求項7】
前記コードされたVH領域において、前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
前記コードされたVH領域において、前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
前記コードされたVH領域が、前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
WのコドンがRによって置き換えられているJ4遺伝子セグメントを含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
前記コードされたVH領域が、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項12】
前記VH領域を含むヒトまたはヒト化重鎖のみの抗体をコードする、請求項1~11のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の核酸を含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項14】
非ヒト哺乳動物である、請求項13に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項15】
げっ歯動物である、請求項14に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項16】
ラットまたはマウスである、請求項15に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項17】
ラットである、請求項16に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項18】
前記ラットはヒトの重鎖のみの抗体またはキメラの重鎖のみの抗体を生成することが可能である、請求項17に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項19】
いかなる機能性免疫グロブリン軽鎖遺伝子も発現せず、そして、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメント、及び1つ以上のJ遺伝子セグメント、ならびに1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む、異種の重鎖のみのIgをコードする核酸を含むトランスジェニック非ヒト動物であって、
前記1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメント、及び1つ以上のJ遺伝子セグメントは、互いに組み換えられるとき、前記核酸は、前記非ヒト動物の中で再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子フラグメントを生成することが可能であり、ここで、前記再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子フラグメントは、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含むVHドメインを含む重鎖のみの抗体(HCAb)をコードし、前記VHドメインの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置における天然のアミノ酸残基を含む表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換され、
前記1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントの各々は、Cμコード領域を欠き、各々がCH1エクソンを欠く複数のCγコード領域を含み、そして、CH1エクソンを含むCεコード領域またはCαコード領域をさらに含む、抗体の定常エフェクター領域をコードし、
前記遺伝子セグメントが、V、D、及びJ遺伝子セグメントと定常領域遺伝子セグメントが組み換えられて前記重鎖のみの抗体(HCAb)をコードする前記再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子フラグメントを生じるように配置される、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項20】
前記VHドメインにおいて、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、請求項19に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項21】
前記VHドメインにおいて、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている、請求項19に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項22】
前記VHドメインにおいて、前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、請求項21に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項23】
前記VHドメインにおいて、前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、請求項22に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項24】
前記VHドメインが、前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、請求項23に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項25】
前記異種の重鎖のみのIgをコードする前記核酸が、WのコドンがRのコドンと置き換えられているJ4セグメントを含む、請求項24に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項26】
前記コードされた重鎖のみの抗体が、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、請求項19~25のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項27】
哺乳動物である、請求項19~26のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項28】
げっ歯動物である、請求項27に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項29】
ラットまたはマウスである、請求項28に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項30】
ラットである、請求項29に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項31】
前記ラットはヒトの重鎖のみの抗体またはキメラの重鎖のみの抗体を生成することが可能である、請求項30に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願には、ASCII形式にて電子的に提出され、かつ全体が援用により本明細書に組み込まれる配列表が含まれている。2017年8月11日に作成された上記のASCIIコピーは、TNO-0001-WO_SL.txtという名前であり、26,401バイトのサイズである。
【0002】
発明の分野
本発明は、改変された重鎖のみの抗体(HCAb)を産生するトランスジェニック非ヒト動物に関する。特に、本発明は、凝集する傾向が少ない改変されたヒトまたはキメラHCAbを産生するトランスジェニック非ヒト動物、例えば、トランスジェニックラットまたはマウス、そのように調製された抗体、及びそれを作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
重鎖のみの抗体
基本的な4本鎖抗体単位は、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなるヘテロ四量体の糖タンパク質である。IgGの場合、4本鎖単位は、一般的に約150,000ダルトンである。各々のL鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に連結され、一方で2つのH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。各々のH鎖及びL鎖はまた、規則正しい間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。各々のH鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し、α及びγ鎖の各々について3つの定常ドメイン(C)が、ならびにμ及びεアイソタイプについて4つのCドメインが後に続く。各々のL鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し、その他端の定常ドメイン(C)が後に続く。Vは、Vと並列し、Cは、重鎖の第1定常ドメイン(C1)と並列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。VとVの対形成は、共に単一の抗原結合部位を形成する。IgM抗体は、J鎖と呼ばれるさらなるポリペプチドを伴って5つの基本的なヘテロ四量体単位からなり、したがって、10の抗原結合部位を含むが、一方で分泌されたIgA抗体は、重合してJ鎖と共に2~5個の基本的な4本鎖単位からなる多価集合体を形成することができる。異なるクラスの抗体の構造及び特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow(eds.), Appleton & Lange, Norwalk, CT,1994の71頁及び6章を参照できる。そのような抗体において、VとVのドメインの相互作用は、抗原結合領域を形成するが、結合は、CH1ドメイン及びCドメインの一部によって促進される。
【0004】
いずれかの脊椎動物由来のL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの異なるタイプのうちの一方に割り当てることができる。それらの重鎖の定常ドメイン(C)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。5つのクラスの免疫グロブリンが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる重鎖を有する。γ及びαのクラスは、Cの配列及び機能における比較的軽微な相違に基づいて、サブクラスにさらに分類され、例えばヒトでは以下のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2。
【0005】
標準的なIgG抗体において、重鎖と軽鎖の結合は、部分的には、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインの間の疎水性相互作用による。重鎖フレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)領域において、同様にこの重鎖と軽鎖の間の疎水性相互作用に寄与するさらなる残基が存在する。
【0006】
しかしながら、ラクダ科の動物(ラクダ、ヒトコブラクダ、及びラマを含むラクダ亜目)の血清は、対になったH鎖のみから構成される主要タイプの抗体(重鎖のみの抗体またはHCAb)を含むことが知られている。ラクダ科(Camelus dromedarius、Camelus bactrianus、Lama glama、Lama guanaco、Lama alpaca、及びLama vicugna)のHCAbは、単一の可変ドメイン(VHH)、ヒンジ領域、ならびに、古典的抗体のCH2及びCH3ドメインに高い相同性を有する2つの定常ドメイン(CH2及びCH3)からなる固有の構造を有する。これらのHCAbは、定常領域(CH1)の第1のドメインを欠き、これはゲノム中に存在するが、mRNAプロセシングの間にスプライスにより除去される。CH1ドメインの不在は、このドメインが軽鎖の定常ドメインを係留する場であるので、HCAb中の軽鎖の不在を説明する。このようなHCAbは、従来の抗体またはそのフラグメントからの3つのCDRによって抗原結合特異性及び高い親和性を付与するように自然に進化した(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。
【0007】
軟骨魚類はまた、軽ポリペプチド鎖を欠き、そして完全に重鎖によって構成されている、IgNARと呼ばれる独特のタイプの免疫グロブリンを進化させてきた。
【0008】
軽鎖を欠いている重鎖のみの抗体の抗原に結合する能力は1960年代に確立されていた(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体に対して80%の抗原結合活性を保持していた。
【0009】
Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790は、再構成されたマウスμ遺伝子からCH1ドメインを除去すると、哺乳動物細胞培養において、軽鎖を欠く重鎖のみの抗体が産生されることを実証した。産生された抗体は、VH結合特異性及びエフェクター機能を保持していた。
【0010】
ラクダ重鎖抗体の発見は、ファージディスプレイなどの人工システムにおけるヒト単一ドメイン抗体の開発への興味を刺激した。このようにして同定された初期のヒトドメイン抗体は、凝集する傾向があり、通常は軽鎖定常領域との界面に埋もれているフレームワーク領域内の露出した疎水性パッチのために溶解性の問題を有していた。ヒトVHドメイン抗体の結晶構造を確立した続く研究は、ヒトドメイン抗体の表面露出した残基を同定した。Barthelemy et al.(2008)J. Biol. Chem.,283,3639-3654は、自律ヒトVHドメインの安定性及び溶解性に寄与する因子の包括的な分析を報告する。
【0011】
クローニングされ、単離されたVHHドメインは、元のHCAbの完全な抗原結合能を有する安定なポリペプチドである。ナノボディは、最小の利用可能な無傷の抗原結合フラグメント(約12~15kDa)であり、軽鎖の不在下で完全に機能性である進化した重鎖抗体の元の重鎖の完全な抗原結合能を有する。これらのVHHドメインは、静脈内、経口または局所の投与に適した、ナノボディと呼ばれる新世代の治療用抗体の基礎となり、高い効力及び1つ以上の標的に対する結合親和性を示す一価または多価の形態で容易に製造できる。
【0012】
その調製方法を含む単一ドメインVHH抗体は、例えばWO2004062551に記載される。
λ(ラムダ)軽(L)鎖座位及び/またはλ及びカッパ(カッパ)L鎖座位が機能的に沈黙していたマウス及びそのようなマウスから産生される抗体は、米国特許第7,541,513号及び米国特許第8,367,888号に記載される。マウス及びラットにおける重鎖のみの抗体の組換え産生は、例えば、WO2006008548;米国特許出願公開第20100122358号;Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101;Brueggemann et al., Crit. Rev. Immunol.;2006,26(5):377-90;及びZou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283において報告されてきている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションを介したノックアウトラットの産生は、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。免疫グロブリン重鎖ノックアウトラットの分析は、Menoret et al.,2010,European Journal of Immunology,40:2932-2941に報告されている。可溶性の重鎖のみの抗体、及びそのような抗体を産生する異種の重鎖座位を含むトランスジェニックげっ歯動物は、米国特許第8,883,150号に記載されている。結合(標的化)ドメインとして単一ドメイン抗体を含むCAR-T構造は、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641、及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386に記載されている。
近年の進歩にもかかわらず、凝集の傾向が少なく、それらの意図された標的に対して高い親和性を保持する重鎖のみの抗体の産生のための改善された方法への必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2004/062551号
【文献】米国特許第7,541,513号明細書
【文献】米国特許第8,367,888号明細書
【文献】国際公開第2006/008548号
【文献】米国特許出願公開第2010/0122358号明細書
【文献】米国特許第8,883,150号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow(eds.), Appleton & Lange, Norwalk, CT,1994の71頁及び6章
【文献】Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124
【文献】Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195
【文献】Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790
【文献】Barthelemy et al.(2008)J. Biol. Chem.,283,3639-3654
【文献】Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101
【文献】Brueggemann et al., Crit. Rev. Immunol.;2006,26(5):377-90
【文献】Zou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283
【文献】Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433
【文献】Menoret et al.,2010,European Journal of Immunology,40:2932-2941
【文献】Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641
【文献】Jamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386
【発明の概要】
【0015】
本発明は、凝集への傾向が少ない重鎖のみの抗体(HCAb)が、HCAbの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位における天然のアミノ酸残基を、その位置の天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる別のアミノ酸残基に置き換えることによって調製できるという発見に少なくとも部分的に基づく。そのような疎水性パッチは、通常は、抗体の軽鎖定常領域との界面に埋もれているが、HCAbにおいては表面露出するようになり、少なくとも部分的には、望まれない凝集及びHCAbの軽鎖結合に向かう。
【0016】
一態様において、本発明は、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)ドメインを含み、抗体の軽鎖の不在下で標的抗原への結合親和性を有する、単離されたヒトまたはキメラの重鎖のみの抗体(HCAb)に関し、上記VHドメインにおいて、上記HCAbの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置の天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0017】
一実施形態において、HCAbはヒト抗体である。
【0018】
別の実施形態において、HCAb中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている。
【0019】
さらに別の実施形態において、HCAb中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、例えば、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)、好ましくはアルギニン(R)のような正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている。
【0020】
特定の実施形態において、HCAbは、第4のフレームワーク(FR4)領域中の第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0021】
全ての実施形態において、HCAbは、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含み得る。
【0022】
全ての実施形態において、HCAbは、FR4の第1位のアミノ酸残基において天然のアミノ酸残基を含む対応する抗体と比較して、凝集の傾向が低下していてもよい。
【0023】
全ての実施形態において、HCAbは、約1pM~約1μMの標的抗原に対する結合親和性を有し得る。
【0024】
別の態様において、本発明は、抗体の軽鎖の不在下で標的抗原に対する結合親和性を有し、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)ドメインを含む単離されたヒトまたはキメラの重鎖のみの抗体(HCAb)に関し、ここで上記HCAbは、天然のヒトVHアミノ酸配列の第4のFR領域(FR4)における第1位のアミノ酸においてトリプトファン(T)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0025】
一実施形態において、HCAbは、重鎖定常(CH)ドメインを含み、CH1領域を欠き、IgG1抗体のようなIgG抗体であり得る。
【0026】
別の実施形態において、HCAbは、1つ以上のFR領域において、1つ以上のさらなる変異を含む。
【0027】
さらに別の実施形態において、HCAbは、FR4の第1位のアミノ酸残基において天然のアミノ酸残基を含む対応する抗体と比較して、凝集の傾向が低下している。
【0028】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるような重鎖のみの抗体を含む、キメラ抗原受容体(CAR)に関する。一実施形態において、CARは、単一のヒトVHドメインを含む。
【0029】
さらなる態様において、本発明は、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含み、標的抗原に対する結合親和性を有し、第4のフレームワーク(FR4)領域における第1のアミノ酸残基の天然のアミノ酸残基の、その位置における天然アミノ酸を含むかまたはそれに関連した表面露出疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基の置換を含む、単離された自律ヒト抗体重鎖可変(VH)ドメインに関する。
【0030】
一実施形態において、単離された自律ヒトVHドメイン中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている。
【0031】
別の実施形態において、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)残基、好ましくはアルギニン(R)残基のような正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている。
【0032】
さらなる実施形態において、単離された自律ヒトVHドメインは、第4のフレームワーク(FR4)領域中の第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0033】
なおもさらなる実施形態において、単離された自律ヒトVHドメインは、1つ以上のフレームワーク領域において1つ以上のさらなる変異を含む。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む少なくとも1つの重鎖可変(VH)ドメインを含む、複数の抗原結合ドメインを含み、標的抗原への結合親和性を有する、多価結合タンパク質に関し、上記VHドメインにおいて、上記多価結合タンパク質の第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置の天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0035】
一実施形態において、多価結合タンパク質中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている。
【0036】
別の実施形態において、多価結合タンパク質中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)残基、好ましくはアルギニン(R)残基のような正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている。
【0037】
さらなる実施形態において、多価結合タンパク質は、第4のフレームワーク(FR4)領域中の第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0038】
全ての実施形態において、多価結合タンパク質は、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含み得る。
【0039】
さらなる実施形態において、本発明は、非ヒト動物のゲノム中で互いに組み換えられるとき、親和性成熟に続いて、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)領域をコードする、1つ以上のヒトV遺伝子セグメント、1つ以上のヒトD遺伝子セグメント、及び1つ以上のヒトJ遺伝子セグメントを含む組換え重鎖のみの免疫グロブリン(Ig)座位に関し、上記ヒトJセグメントの少なくとも1つは、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位に、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む。
【0040】
一実施形態において、組換え重鎖のみのIg座位は、CH1機能性を欠く免疫グロブリン定常エフェクター領域をコードする定常(C)領域遺伝子セグメントをさらに含む。
【0041】
様々な実施形態において、組換え重鎖のみのIG座位は、2~40のD遺伝子セグメント、及び/または2~20のJ遺伝子セグメントを含む。
【0042】
別の実施形態において、1より多いヒトJセグメントは、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位において、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む。
【0043】
さらに別の実施形態において、組換え重鎖のみのIg座位で、全てのヒトJセグメントは、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位において、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む。
【0044】
さらなる実施形態において、コードされた重鎖VH領域中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)、好ましくはアルギニン(R)残基のような極性アミノ酸残基によって置換されている。
【0045】
なおもさらなる実施形態において、コードされたVH領域は、第4のフレームワーク(FR4)領域中の第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0046】
さらに別の実施形態において、組換え重鎖のみのIG座位は、WのコドンがRによって置き換えられているJ4遺伝子セグメントを含む。
【0047】
全ての実施形態において、組換え重鎖のみのIg座位は、1つ以上のフレームワーク領域において1つ以上のさらなる変異を含むVH領域をコードする。
【0048】
さらなる実施形態において、組換え重鎖のみのIg座位は、本明細書において上述されるようなVH領域を含む、ヒトまたはヒト化の重鎖のみの抗体をコードする。
【0049】
別の態様において、本発明は、本明細書において上述されるような組換え重鎖のみのIg座位を含むトランスジェニック非ヒト動物に関する。
【0050】
様々な実施形態において、トランスジェニック非ヒト動物は、非ヒト脊椎動物、げっ歯動物、マウス、またはラットのような、例えばUniRat(商標)のような、非ヒト哺乳類である。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、いかなる機能性免疫グロブリン軽鎖遺伝子も発現せず、互いに組み換えられるとき、親和性成熟に続いて、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含むVHドメインをコードする、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメント、及び1つ以上のJ遺伝子セグメント、ならびにその各々がCH1機能性を含む抗体の定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む、異種の重鎖のみのIg座位を含むトランスジェニック非ヒト動物に関し、ここで、上記VHドメインの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基は、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性を破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換され、遺伝子セグメントが、V、D、及びJ遺伝子セグメントと定常領域遺伝子セグメントが組み換えられて重鎖のみの抗体(HCAb)をコードする再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子座位を生じるように配置される。
【0052】
一実施形態において、上記トランスジェニック非ヒト動物のVHドメイン中で、FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)残基、好ましくはアルギニン(R)残基のような極性アミノ酸残基または正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている。
【0053】
別の実施形態において、トランスジェニック非ヒト動物中で、VHドメインは、第4のフレームワーク(FR4)領域中の第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む。
【0054】
さらに別の実施形態においてトランスジェニック非ヒト動物中で、異種の重鎖のみの座位は、WのコドンがRのコドンと置き換えられているJ4セグメントを含む。
【0055】
全ての実施形態において、コードされた重鎖のみの抗体は、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む。
【0056】
さらなる実施形態において、トランスジェニック非ヒト動物は、哺乳動物、脊椎動物、げっ歯動物、マウス、またはラットのような、例えばUniRat(商標)である。
【0057】
全ての態様において、ある特定の実施形態では、本明細書中の重鎖のみの抗体は、FR1、FR2、及びFR3領域を含む他のフレームワーク領域中に変異を含まない。
【0058】
全ての態様において、ある特定の実施形態では、本明細書中の重鎖のみの抗体は、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカ、またはグアナコのようなラクダ科の動物中に典型的に存在する、さらなるフレームワーク変異を含まない。
【0059】
全ての態様において、ある特定の実施形態では、本明細書中の重鎖のみの抗体は、FR1、FR2、FR3、及び/またはFR4領域を含む、1つ以上のフレームワーク領域において、例えば、FR2領域において、またはFR2及びFR4領域において、1つ以上のさらなる変異を含み得る。
【0060】
全ての態様及び実施形態において、本発明のHCAbが結合親和性を有する標的抗原は、例えば、EGFR、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)、ErbB4(HER4)、CTLA-4/CD152、RANKL、TNF-α、CD20、IL-12/IL-23、IL1-β、IL-17A、IL-17F、CD38、NGF、IGF-1、IL-12、CD20、CD30、CD39、CD73、CD40、PD-1、PDL-1、PD-L2、BCMA、BTLA、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSP)、卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、CD137、OX-40、及びIL-33のような、細胞表面受容体及び腫瘍抗原を非限定的に含む。
【0061】
全ての態様及び実施形態において、HCAb結合ドメインは、同一の標的抗原の複数の異なるエピトープまたは1つを超える標的抗原の複数の異なるエピトープに結合する、多重特異性結合タンパク質の一部であり得る。例えば、下記の結合親和性を有する二重特異性HCAb構造を含む多重特異性、例えば二重特異性HCAbが特に含まれる:上皮細胞接着分子(EpCam)×CD3;CD19×CD3;EpCam×CD3;TNF-α×IL-17;IL-1α×IL-1β;CD30×CD16A;ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)×HER3;IL-4×IL-13;アンジオポエチン2(Ang-2)×血管内皮増殖因子A(VEGF-A);第IXa因子×第X因子;上皮増殖因子受容体(EGFR)×HER3;IL-17A×IL-17F;HER2×HER3;がん胎児抗原×CD3;CD20×CD3;CD123×CD3;BCMA×CD3、PSMA×PSCA×CD3、PSMA×CD3、PSCA×CD3、CD19×CD22×CD3、CD22×CD3、CD38×PD1、CD38×PD-L1、CD38×CD73、CD38×CD39、PD1×CD39×CD73、及びPD1×CD73。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)ドメインを含み、抗体の軽鎖の不在下で標的抗原への結合親和性を有する、単離されたヒトまたはキメラの重鎖のみの抗体(HCAb)であって、前記VHドメインにおいて、前記HCAbの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置の前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換されている、前記重鎖のみの抗体。
(項目2)
ヒト抗体である、項目1に記載の重鎖のみの抗体。
(項目3)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、項目1に記載の重鎖のみの抗体。
(項目4)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている、項目1に記載の重鎖のみの抗体。
(項目5)
前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、項目4に記載の重鎖のみの抗体。
(項目6)
前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、項目5に記載の重鎖のみの抗体。
(項目7)
前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、項目6に記載の重鎖のみの抗体。
(項目8)
1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目1~7のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体。
(項目9)
前記FR4の第1のアミノ酸残基において前記天然のアミノ酸残基を含む対応する抗体と比較して、凝集への傾向が低下している、項目1~8のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体。
(項目10)
その標的抗原に対して約1pM~約1μMの結合親和性を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体。
(項目11)
抗体の軽鎖の不在下で標的抗原に対する結合親和性を有し、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)ドメインを含む単離されたヒトまたはキメラの重鎖のみの抗体(HCAb)であって、前記HCAbが、天然のヒトVHアミノ酸配列の第4のFR領域(FR4)における第1位のアミノ酸においてトリプトファン(T)からアルギニン(R)への置換を含む、前記重鎖のみの抗体。
(項目12)
重鎖定常(CH)ドメインをさらに含み、CH1領域を欠く、項目11に記載の重鎖のみの抗体。
(項目13)
IgG1抗体である、項目12に記載の重鎖のみの抗体。
(項目14)
1つ以上のFR領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目11~13のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体。
(項目15)
前記FR4の第1のアミノ酸残基において前記天然のアミノ酸残基を含む対応する抗体と比較して、凝集への傾向が低下している、項目11~14のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体。
(項目16)
項目1~15のいずれか1項に記載の重鎖のみの抗体を含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
(項目17)
単一のヒトVHドメインを含む、項目16に記載のキメラ抗原受容体。
(項目18)
相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含み、標的抗原に対する結合親和性を有し、第4のフレームワーク(FR4)領域における第1のアミノ酸残基の天然のアミノ酸残基の、その位置における天然アミノ酸を含むかまたはそれに関連した表面露出疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基の置換を含む、前記単離された自律ヒト抗体重鎖可変(VH)ドメイン。
(項目19)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、項目18に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目20)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている、項目18に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目21)
前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、項目20に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目22)
前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、項目21に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目23)
前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、項目22に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目24)
1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目18~23のいずれか1項に記載の単離された自律ヒトVHドメイン。
(項目25)
相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む少なくとも1つの重鎖可変(VH)ドメインを含む、複数の抗原結合ドメインを含み、標的抗原への結合親和性を有する、多価結合タンパク質であって、前記VHドメインにおいて、前記多価結合タンパク質の第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置の前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換されている、前記多価結合タンパク質。
(項目26)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、項目25に記載の多価結合タンパク質。
(項目27)
前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基によって置換されている、項目26に記載の多価結合タンパク質。
(項目28)
前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、項目27に記載の多価結合タンパク質。
(項目29)
前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、項目28に記載の多価結合タンパク質。
(項目30)
前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、項目29に記載の多価結合タンパク質。
(項目31)
1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目25~30のいずれか1項に記載の多価結合タンパク質。
(項目32)
非ヒト動物のゲノム中で互いに組み換えられるとき、親和性成熟に続いて、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含む重鎖可変(VH)領域をコードする、1つ以上のヒトV遺伝子セグメント、1つ以上のヒトD遺伝子セグメント、及び1つ以上のヒトJ遺伝子セグメントを含む組換え重鎖のみの免疫グロブリン(Ig)座位であって、前記ヒトJセグメントの少なくとも1つが、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位に、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む、前記組換え重鎖のみの免疫グロブリン(Ig)座位。
(項目33)
CH1機能性を欠く免疫グロブリン定常エフェクター領域をコードする定常(C)領域遺伝子セグメントをさらに含む、項目32に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目34)
2~40のD遺伝子セグメント、及び2~20のJ遺伝子セグメントを含む、項目32または33に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目35)
1より多い前記ヒトJセグメントが、前記第4のフレームワーク領域(FR4)の前記第1位において、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む、項目34に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目36)
全ての前記ヒトJセグメントが、前記第4のフレームワーク領域(FR4)の前記第1位において、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる非天然のアミノ酸残基をコードするコドンを含む、項目35に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目37)
前記コードされた重鎖VH領域において、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、項目36に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目38)
前記コードされた重鎖VH領域において、前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、項目37に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目39)
前記コードされた重鎖VH領域において、前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、項目38に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目40)
前記コードされた重鎖VH領域が、前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、項目39に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目41)
WのコドンがRによって置き換えられているJ4遺伝子セグメントを含む、項目40に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目42)
前記コードされた重鎖VH領域が、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目32~41のいずれか1項に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目43)
前記VH領域を含むヒトまたはヒト化重鎖のみの抗体をコードする、項目32~42のいずれか1項に記載の組換え重鎖のみのIg座位。
(項目44)
項目32~42のいずれか1項に記載の組換え重鎖のみのIg座位を含む、トランスジェニック非ヒト動物。
(項目45)
非ヒト哺乳動物である、項目44に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目46)
げっ歯動物である、項目45に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目47)
ラットまたはマウスである、項目46に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目48)
ラットである、項目47に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目49)
UniRat(商標)である、項目48に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目50)
いかなる機能性免疫グロブリン軽鎖遺伝子も発現せず、互いに組み換えられるとき、親和性成熟に続いて、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を含むVHドメインをコードする、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメント、及び1つ以上のJ遺伝子セグメント、ならびにその各々がCH1機能性を含む抗体の定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む、異種の重鎖のみのIg座位を含むトランスジェニック非ヒト動物であって、前記VHドメインの第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基が、その位置における前記天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性を破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置換され、前記遺伝子セグメントが、V、D、及びJ遺伝子セグメントと定常領域遺伝子セグメントが組み換えられて重鎖のみの抗体(HCAb)をコードする再構成された親和性成熟した重鎖のみの遺伝子座位を生じるように配置される、前記トランスジェニック非ヒト動物。
(項目51)
前記VHドメインにおいて、前記FR4の第1位の天然のアミノ酸残基が、極性アミノ酸残基によって置換されている、項目50に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目52)
前記VHドメインにおいて、前記正に荷電したアミノ酸残基が、リジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)からなる群から選択される、項目51に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目53)
前記VHドメインにおいて、前記正に荷電したアミノ酸残基がアルギニン(R)である、項目52に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目54)
前記VHドメインが、前記第4のフレームワーク(FR4)領域中の前記第1のアミノ酸残基において、トリプトファン(W)からアルギニン(R)への置換を含む、項目53に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目55)
前記異種の重鎖のみの座位が、WのコドンがRのコドンと置き換えられているJ4セグメントを含む、項目54に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目56)
前記コードされた重鎖のみの抗体が、1つ以上のフレームワーク領域において、1つ以上のさらなる変異を含む、項目50~55のいずれか1項に記載の異種の重鎖のみの座位。
(項目57)
哺乳動物である、項目50~56のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目58)
げっ歯動物である、項目57に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目59)
ラットまたはマウスである、項目58に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目60)
ラットである、項目59に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(項目61)
UniRat(商標)である、項目60に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】実施例に記載されるように、重鎖のみの抗体を発現するUniRat(商標)(配列番号41)において、第101位におけるRを表すJ4遺伝子セグメント(配列番号40)を有するヒト導入遺伝子の図である。
図2】実施例に記載されるように、重鎖のみの抗体を発現するUniRat(商標)において、第101位におけるRを表す全てのJセグメント(出現する順番でそれぞれ配列番号42~47)を有するヒト導入遺伝子の図である。
図3】UniRat(商標)及びOmniFlic(商標)におけるJ遺伝子の使用を示し、ここで後者は、UniRat(商標)と同一のヒトV遺伝子クラスターを有するが、固定されたカッパ軽鎖を発現するトランスジェニックラットである。
図4】重鎖のみのヒト抗体における第4のフレームワーク領域(FR4)の第1のアミノ酸残基のW→Rの変異が、ラムダ軽鎖による結合を阻害することを示す。
図5-1】同一のCDR3ファミリーにおける、重鎖抗体との遊離ラムダタンパク質の結合。図は、同一のCDR3ファミリーにおける重鎖抗体由来の11のVH配列多重配列アラインメントを示す(出現する順番でそれぞれ配列番号48~58)。これらの配列の全ては第101位にWを含む。
図5-2】同一のCDR3ファミリーにおける、重鎖抗体との遊離ラムダタンパク質の結合。図は、同一のCDR3ファミリーにおける重鎖抗体由来の11のVH配列多重配列アラインメントを示す(出現する順番でそれぞれ配列番号48~58)。これらの配列の全ては第101位にWを含む。
図6】本発明のヒト重鎖のみの抗体を用いるscFV CAR-T構造(パネルA)及びCAR-T構造(パネルB)を含む、ヒトVH細胞外結合ドメインを用いるキメラ抗原受容体の2つの構造を示す。
図7】ヒトVH結合ドメインを含む様々な多重特異性HCAbコンストラクトを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の実施は、別途示されない限り、分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を利用するであろうが、これらは当技術分野の範囲内である。そのような技術は、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”, second edition(Sambrook et al.,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M. J. Gait, ed.,1984);“Animal Cell Culture”(R. I. Freshney, ed.,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press, Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F. M. Ausubel et al., eds.,1987,and periodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001)のような文献に完全に説明される。
【0064】
特許出願及び刊行物を含む本明細書において引用される全ての参照文献は、参照によりその全てが組み込まれる。
【0065】
I. 定義
本明細書において使用されるとき、本明細書において定義されるような「トランスジェニック非ヒト動物」は、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位のアミノ酸残基が、そのような残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる別の残基と置き換えられているヒトまたはヒト化の重鎖のみの抗体を産生することのできる非ヒト動物である。一実施形態において、天然のアミノ酸残基は、正に荷電したアミノ酸残基のような荷電したアミノ酸残基によって置き換えられている。トランスジェニック非ヒト動物は、好ましくは哺乳動物であり、非限定的に、ラット、マウス、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどを含む。好ましくは、トランスジェニック非ヒト動物は、げっ歯動物、好ましくはラットまたはマウス、最も好ましくは、UniRat(商標)である。トランスジェニック動物の選択は、本明細書において記載されるFR4変異を有するヒトまたはキメラの重鎖のみのヒトまたはキメラの抗体を産生する能力によってのみ制限される。
【0066】
本明細書において使用されるとき、「遺伝子改変」は、非ヒト動物の遺伝子配列における1つ以上の改変である。非限定的な例は、トランスジェニック動物のゲノムへの導入遺伝子の挿入である。
【0067】
本明細書において使用されるとき、「導入遺伝子」は、プロモーター、レポーター遺伝子、ポリアデニル化シグナル、及び発現を増強する他の因子(インシュレーター、イントロン)を含む外来性DNAを指す。この外来性DNAは、トランスジェニック動物が発生する1細胞胚のゲノムに組み込まれ、導入遺伝子は成熟動物のゲノムに維持される。組み込まれた導入遺伝子DNAは、卵またはマウスのゲノム中の単一または複数の場所で生じ得、導入遺伝子の単一から複数(数百)のタンデムコピーが各々のゲノムの位置に組み込まれ得る。
【0068】
「標準的な抗体」は、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体の糖タンパク質であり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖から構成される。各々の軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結するが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変動する。各々の重鎖及び軽鎖はまた、規則正しい間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。各々の重鎖は、一端に可変ドメイン(V)を有し、いくつかの定常ドメインが後に続く。各々の軽鎖は、一端における可変ドメイン(V)とその他端における定常ドメインとを有し;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1定常ドメインと並列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。
【0069】
本明細書の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991))に従ってナンバリングされる。このナンバリングに従うと、FR4領域の第1のアミノ酸残基は、アミノ酸位置101である。
【0070】
用語「可変」は、可変ドメインの特定の部分が抗体間で配列において大幅に異なり、その特定の部分が、その特定の抗原に対する各々の特定の抗体の結合及び特異性において使用されるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって、均等に分布していない。それは、軽鎖と重鎖の可変ドメインの両方における相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主としてβ-シート構造を採用し、β-シート構造を連結するループを形成し、場合によりβ-シート構造の一部を形成する3つのCDRによって連結される4つのFR領域を含む。各々の鎖のCDRは、他の鎖由来のCDRと共にFR領域によってごく接近し、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., NIH Publ. No.91-3242,Vol.1,pages 647-669(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体の抗体依存性細胞傷害性への参加のような様々なエフェクター機能を示す。
【0071】
本明細書において使用されるとき、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集合より取得される抗体、すなわち集合を構成する個別の抗体が、少量で存在し得る可能性のある自然発生の変異を除いて同一であるものを指す。モノクローナル抗体は、高い特異性であり、単一の抗原部位を標的とする。さらに、典型的に異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含む標準的な(ポリクローナル)抗体調製物と比較して、各々のモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を標的とする。
【0072】
用語「重鎖のみの抗体」、「重鎖抗体」、及び「HCAb」は交換可能に使用され、最も広い意味で、標準的な抗体の軽鎖を欠く抗体を指す。ホモ二量体のHCAbが軽鎖を欠き、したがってVLドメインを欠くので、抗原は単一のドメイン、すなわち、重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン(ラクダの重鎖可変ドメインを指すとき、VHまたはVHH)によって認識される。この用語は特に、VHH抗原結合ドメインならびにCH2及びCH3定常ドメインを含むホモ二量体抗体またはCH1ドメインの不在下のラクダ抗体;そのような抗体の機能的(抗原結合)バリアント、可溶性VHバリアント、1つの可変ドメイン(V-NAR)及び5つのC様定常ドメイン(C-NAR)のホモ二量を含むIg-NARならびにそれらの機能的フラグメント;ならびに可溶性単一ドメイン抗体(sdAb)またはナノボディを非限定的に含む。本発明の重鎖のみの抗体は、FR4の第1位のアミノ酸残基(Kabatナンバリングに従ってアミノ酸残基101)が、その残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる別の残基によって置き換えられている少なくとも1つの重鎖可変(VH)ドメインを含む。一実施形態において、天然のアミノ酸残基は、正に荷電したアミノ酸残基のような荷電したアミノ酸残基によって置き換えられている。本発明の重鎖のみの抗体は、好ましくは、ヒトまたはキメラの抗体であり、好ましくはアミノ酸位置101においてTrp(W)からArg(R)への変異(W101R変異)を含む。一実施形態において、本明細書の重鎖のみの抗体は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(標的化)ドメインとして使用される。
【0073】
用語「可溶性単一ドメイン抗体(sdAb)」は、最も広い意味で、定常ドメインの不在下における、重鎖抗体の、または標準的なIgGの、重鎖可変ドメインを含むポリペプチドを指すのに使用される。基本的なsdAbの構造は、通常、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)で中断されている4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)からなる。したがって、sdAbは、以下の構造によって表すことができる:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。さらなる概説については、例えば、Holt et al,"Domain antibodies:proteins for therapy"Trends in Biotechnology(2003):Vol.21,No.11:484-490を参照されたい。
【0074】
本発明の抗体は多重特異性抗体を含む。多重特異性抗体は、1つを超える結合特異性を有する。用語「多重特異性」は、特に、「二重特異性」及び「三重特異性」ならびにより高次の独立した特異的結合親和性、例えば、より高次のポリエピトープ特異性、ならびに四価の抗体及び抗体断片を含む。用語「多重特異性抗体」、「多重特異性単一鎖のみの抗体」及び「多重特異性HCAb」は、本明細書において、最も広い意味で、1つを超える結合特異性を有する全ての抗体を包含する。
【0075】
本明細書において使用されるとき、用語「価」は、抗体分子における指定された数の結合部位を指す。
【0076】
「多価」抗体は、2つ以上の結合部位を有する。したがって、用語「二価」、「三価」、及び「四価」は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位、及び4つの結合部位の存在を指す。本発明による二重特異性抗体は、少なくとも二価であり、三価、四価、またはそうでなくて、多価であってもよい。本発明の多重特異性単一鎖のみの抗体、例えば二重特異性抗体は、多価の単一鎖のみの抗体を含む。
【0077】
用語「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、最も広い意味で、膜貫通及び細胞内シグナル伝達ドメインへと所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体の抗原結合領域または他のリガンド)を移植して改変された受容体を指すのに本明細書において使用される。典型的には受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞上に移植して作り出すために使用される。J Natl Cancer Inst,2015;108(7):dvj439;及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383。ヒトVH細胞外結合ドメインを含む代表的なCAR-Tコンストラクトを図6に示す。
【0078】
「組換え免疫グロブリン(Ig)座位」によって、外来性Ig座位の部分を欠き、及び/または対象の哺乳動物におけるIg座位に対して内在性ではない少なくとも1つのフラグメントを含むIg座位を意味する。そのようなフラグメントは、ヒトまたは非ヒトのものであり得、任意のIg遺伝子セグメントまたはその部分を含み得、またはIg座位全体を構成し得る。組換えIg座位は、好ましくは、遺伝子再構成を実施し、トランスジェニック動物において免疫グロブリンのレパートリーを産生することのいできる機能性座位である組換えIg座位は、組換えIg軽鎖座位及び組換えIg重鎖座位を含む。宿主ゲノムに一旦組み込まれると、人工Ig座位は、組換えIg座位と呼ぶことができる。
【0079】
「トランスジェニック抗体」によって、組換えIg座位によってコードされ、本発明による組換えIg座位を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物によって産生されるか、またはそうでなくてもそれに由来する抗体を意味する。対象のトランスジェニック動物に由来するトランスジェニック抗体は、対象のトランスジェニック動物から取得された単離された細胞もしくは核酸を用いて、または、対象のトランスジェニック動物から取得された単離された細胞もしくは核酸に由来する細胞もしくは核酸を用いて産生されたトランスジェニック抗体を含む。好ましい実施形態において、トランスジェニック抗体は、組み込まれたドナーのポリヌクレオチドまたはその一部によってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0080】
本明細書において使用されるとき、用語「Ig遺伝子セグメント」は、非ヒト動物及びヒトの生殖細胞系列に存在し、B細胞中で集まって再構成されたIg遺伝子を形成する、Ig分子の様々な部分をコードするDNAのセグメントを指す。したがって、本明細書において使用されるとき、「Ig遺伝子セグメント」は、V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント、J遺伝子セグメント、及びC領域遺伝子、ならびにその部分を指し得る。
【0081】
本明細書において使用されるとき、用語「ヒトIg遺伝子セグメント」は、ヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列、ヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列の縮重形態の両方、ならびにヒトIg遺伝子セグメントの天然に存在する配列によってコードされるポリペプチドに実質的に同一なポリペプチド配列をコードする合成配列を含む。「実質的に」によって、アミノ酸配列の同一性の度合いが少なくとも約85~95%であることを意味する。好ましくは、アミノ酸配列の同一性の度合いは、90%より大きく、より好ましくは95%より大きい。
【0082】
本明細書において定義されるとき、用語「重鎖のみの抗体の座位」は、抗体のFR4領域の第1のアミノ酸残基が性に荷電し、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメント、及び1つ以上のJ遺伝子セグメントを含み、任意選択で、各々がCH1ドメイン機能性を欠く抗体の定常エフェクター領域をコードする1つ以上の重鎖エフェクター領域遺伝子セグメントを含む、VHドメインをコードする座位を指す。好ましくは、重鎖のみの座位は、約5~約20のV遺伝子フラグメント、約2~約40のD遺伝子フラグメント、及び約2~約20のJ遺伝子フラグメントを含み、V/D/Jフラグメントは好ましくはヒト起源である。用語「D遺伝子セグメント」及び「J遺伝子セグメント」はまた、それらの範囲内に、誘導体、相同体、及びそのフラグメントを含み、そして生じるセグメントは、本明細書において記載されるような重鎖抗体座位の残余の構成要素と再構成して重鎖のみの抗体を生成することができる。D及びJの遺伝子セグメントは、天然に存在する源に由来してもよく、または、それらは、当業者に周知であり、本明細書において記載される方法を用いて合成してもよい。一実施形態において、J4遺伝子セグメントにおいて、Wのコドン(TGG)は、Rのコドン(CGG)によって置き換えられてFR4の第1のアミノ酸位置(Kabatナンバリングに従う重鎖のみの抗体の第101位)におけるWの代わりにRをコードするようにされる。D及びJの遺伝子セグメントは、CDR3の多様性を高めるために、所定の追加のアミノ酸残基、または所定のアミノ酸置換もしくは欠失のためのコドンを組み込んでもよい。用語「V遺伝子セグメント」は、FR4領域の第1の残基に正に荷電したアミノ酸残基を導入するよう改変された、例えばげっ歯動物などの非ヒト哺乳動物のような非ヒト動物由来の天然に存在するV遺伝子セグメントを包含する。「V遺伝子セグメント」は、D遺伝子セグメント、J遺伝子セグメント、及びCH1エクソンを排除する重鎖定常領域と再構成して、核酸が発現するときに重鎖のみの抗体を生成することができるようにするべきである。
【0083】
「ヒトイディオタイプ」によって、ヒト抗体上の免疫グロブリン重鎖及び/または軽鎖可変領域に存在するポリペプチド配列エピトープを意味する。本明細書において使用されるとき、用語「ヒトイディオタイプ」は、ヒト抗体の天然に存在する配列と天然に存在するヒト抗体に見られるポリペプチドと実質的に同一の合成配列との両方を含む。「実質的に」によって、アミノ酸配列の同一性の度合いが少なくとも約85~95%であることを意味する。好ましくは、アミノ酸配列の同一性の度合いは、90%より大きく、より好ましくは95%より大きい。
【0084】
「キメラ抗体」または「キメラ免疫グロブリン」によって、少なくとも2つの異なるIg座位に由来するアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えば、ヒトIg座位によってコードされる部分及びラットIg座位によってコードされる部分を含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体は、非ヒトFc領域または人工のFc領域を有する抗体、及びヒトイディオタイプを含む。そのような免疫グロブリンは、そのようなキメラ抗体を産生するよう改変された本発明の動物から単離することができる。
【0085】
「結合親和性」」は、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合相手(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。別途示されない限り、本明細書において使用されるとき、「結合親和性」は、結合対の構成員(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xのその相手Yに対する親和性は、一般的に解離定数(Kd)によって表すことができる。本発明のHCAbのKdは、典型的には、約1pm~約1μMであり、例えば、Kdは、約200nM、150nM、100nM、60nM、50nM、40nM、30nM、20nM、10nM、8nM、6nM、4nM、2nM、1nM、またはそれ以上強くあり得る。親和性は、当該技術分野において公知の一般的な方法によって測定できる。低親和性抗体は、一般的にゆっくりと抗原に結合し、容易に解離する傾向にあるが、高親和性抗体は、一般的に迅速に抗原に結合し、結合を維持する傾向にある。
【0086】
本明細書において使用されるとき、「Kd」または「Kd値」は、表面プラズモン共鳴アッセイ、例えば、25℃で、工程化された抗原CM5チップと共に約10の反応単位(RU)でBIAcore(商標)-2000またはBIAcore(商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, N.J.)を用いて測定された解離定数を指す。さらなる詳細は、例えば、Chen et al., J. Mol. Biol.293:865-881(1999)を参照されたい。
【0087】
「エピトープ」は、単一の抗体分子が結合する抗原分子表面の部位である。一般的に、抗原はいくつかのまたは多数の異なるエピトープを有し、多くの異なる抗体と反応する。この用語は特に、直線状のエピトープ及び立体配座のエピトープを含む。
【0088】
「ポリエピトープ特異性」は、同一または異なる標的(複数可)上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。
【0089】
2つの抗体が同一のまたは立体的に重なるエピトープを認識するとき、抗体は参照抗体と「実質的に同一のエピトープ」に結合する。2つのエピトープが同一のまたは立体的に重なるエピトープに結合するかを決定するための最も広く使用される迅速な方法は、標識された抗体または標識された抗体のいずれかを用いて、全ての数の異なるフォーマットで構成することのできる競合アッセイである。通常、抗原が96ウェルプレート上に固定され、非標識の抗体による標識された抗体の結合を阻止する能力が、放射性標識または酵素標識を用いて測定される。
【0090】
「エピトープマッピング」は、抗体によるそれらの標的抗原上の結合部位またはエピトープを同定するプロセスである。抗体のエピトープは、直線状エピトープまたは立体配座のエピトープであり得る。直線状エピトープは、タンパク質中のアミノ酸の連続した配列によって形成される。立体配座エピトープは、タンパク質配列中の不連続であるアミノ酸によって形成されるが、それはタンパク質のその三次元構造へのフォールディングの際に集まる。
【0091】
本明細書において使用されるとき、「腫瘍」は、悪性または良性にかかわらず、全ての新生物細胞の増殖及び増殖、ならびにすべての前がん性及びがん性の細胞及び組織を指す。用語「腫瘍」は、固形腫瘍と血液がんの両方を含む。
【0092】
用語「がん」及び「がん性」は、典型的には、無秩序な細胞増殖を特徴とする哺乳動物における生理的状態を指すかまたはそれを記載する。がんの例としては、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。がんのより詳細な例としては、乳がん、胃がん、扁平上皮がん、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、唾液腺がん、腎臓がん、腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝がん、頭頸部がん、直腸がん、結腸直腸がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん及び肺扁平上皮がんを含む肺がん、扁平上皮がん(例えば、上皮扁平上皮がん)、前立腺がん、腹膜がん、肝細胞がん、胃がんまたは胃腸がんを含む胃がん、膵臓がん、膠芽腫、網膜芽細胞腫、星状細胞腫、卵胞膜細胞腫、男性胚細胞腫、肝細胞腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)を含む血液悪性腫瘍、多発性骨髄腫及び急性血液悪性腫瘍、子宮内膜がんまたは子宮がん、子宮内膜症、線維肉腫、絨毛がん、唾液腺がん、外陰がん、甲状腺がん、食道がん、肝がん、肛門がん、陰茎がん、上咽頭がん、喉頭がん、カポジ肉腫、黒色腫、皮膚がん、シュワン細胞腫、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、尿路がん、甲状腺がん、ウィルムス腫瘍、ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;高悪性度免疫芽細胞性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;抗悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;及びヴァルデンストレームマクログロブリン血症);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);有毛細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、ならびに母斑症に関連した異常な血管増殖、及びMeigs症候群が含まれる。
【0093】
II. 詳細な説明
本発明のHCAbは、FR4領域の第1位(Kabatナンバリングシステムに従ったアミノ酸位置101)の天然のアミノ酸残基を、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる別のアミノ酸残基によって置換したヒトまたはキメラである。そのような疎水性パッチは、通常は、抗体の軽鎖定常領域との界面に埋もれているが、HCAbにおいては表面露出するようになり、少なくとも部分的には、望まれない凝集及びHCAbの軽鎖結合に向かう。置換されたアミノ酸残基は、好ましくは荷電し、より好ましくは正に荷電している。生じるHCAbは、好ましくは高い抗原結合親和性、及び凝集が不在の生理的条件下の高い溶解度を有する。
【0094】
ラクダのVHHフレームワーク及び変異を欠いた重鎖のみの抗体、ならびにその機能的なVH領域が特に含まれる。そのような重鎖のみの抗体は、例えば、WO2006/008548に記載されるような完全なヒト重鎖のみの遺伝子座位を含む、例えばトランスジェニックラットまたはマウスにおいて産生することができるが、ウサギ、モルモット、ラットのような他のトランスジェニック哺乳動物もまた使用することができ、ラット及びマウスが好ましい。VHHまたはVHの機能的フラグメントを含む重鎖のみの抗体はまた、組換えDNA技術によって、E. coliまたは酵母を含む好適な真核生物または原核生物の宿主においてコードする核酸の発現によって、産生することができる。
【0095】
重鎖のみの抗体のドメインは、抗体と小分子薬剤の利点を組み合わせ、一価または多価であり得、低い毒性を有し、製造するための費用対効果の高い。それらの小さいサイズのために、これらのドメインは経口または局所投与を含む投与が容易であり、胃腸安定性を含む高い安定性を特徴とし、そしてそれらの半減期は所望の用途または適応症に合わせて調整することができる。さらに、HCAbのVH及びVHHドメインは、費用対効果の高い方法で製造することができる。
【0096】
一実施形態において、HCAbのドメインは、本明細書の上述するように定義されるようなナノボディである。
【0097】
一実施形態において、HCAb結合ドメインは、同一の標的抗原の複数の異なるエピトープまたは1つを超える標的抗原の複数の異なるエピトープに結合する、多重特異性結合タンパク質の一部である。一実施形態において、抗体は二重特異性抗体である。ヒトVH結合ドメインを含む様々な多重特異性構造は図7に示される。多重特異性または二重特異性の、本発明のHCAbは、例えば、同一の可溶性標的上の2つ以上の部位、同一の細胞表面(受容体)上の2つ以上の部位、例えば腫瘍抗原、または、1つ以上の可溶性標的及び1つ以上の細胞表面受容体標的に結合し得る。ある特定の実施形態において、本明細書の二重特異性HCAb構造は、下記の結合親和性を有する:上皮細胞接着分子(EpCam)×CD3;CD19×CD3;EpCam×CD3;TNF-α×IL-17;IL-1α×IL-1β;CD30×CD16A;ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)×HER3;IL-4×IL-13;アンジオポエチン2(Ang-2)×血管内皮増殖因子A(VEGF-A);第IXa因子×第X因子;上皮増殖因子受容体(EGFR)×HER3;IL-17A×IL-17F;HER2×HER3;癌胎児抗原×CD3;CD20×CD3;CD123×CD3;BCMA×CD3、PSMA×PSCA×CD3、PSMA×CD3、PSCA×CD3、CD19×CD22×CD3、CD22×CD3、CD38×PD1、CD38×PD-L1、CD38×CD73、CD38×CD39、PD1×CD39×CD73、及びPD1×CD73。
【0098】
好ましい実施形態において、本明細書のHCAbは、内在性の免疫グロブリン遺伝子がノックアウトされるかまたは不能にされているトランスジェニックマウス及びラット、好ましくはラットを含むトランスジェニック動物によって産生される。好ましい実施形態において、本明細書のHCAbsは、UniRat(商標)において産生される。UniRat(商標)は、それらの内在性免疫グロブリン遺伝子を沈黙させており、ヒトの免疫グロブリン重鎖トランス座位を使用して多様な自然に最適化された完全なヒトHCAbのレパートリーを発現する。ラット内の内在性の免疫グロブリン座位は、様々な技術を用いてノックアウトまたは沈黙させることができるが、UniRat(商標)においては、ジンクフィンガー(エンド)ヌクレアーゼ(ZNF)技術を使用して、内在性のラットの重鎖J座位、軽鎖Cκ座位、及び軽鎖Cλ座位を不活化した。卵母細胞へのマイクロインジェクションのためのZNFコンストラクトは、IgH及びIgLノックアウト(KO)系統を産生することができる。より詳細には、例えば、Geurts et al.,2009,Science 325:433を参照でき、Ig重鎖ノックアウトラットの分析は、Menoret et al.,2010,Eur. J. Immunol.40:2932-2941によって報告されている。ZNF技術の利点は、数kbまでの欠失を介した遺伝子または座位を沈黙させるための非相同末端結合がまた、相同組込みのための標的部位を提供することである(Cui et al.,2011,Nat Biotechnol 29:64-67。UniRat(商標)のHCAbは、標準的な抗体によって攻撃することのできないエピトープに結合する。それらの高い特異性、親和性、及び小さいサイズは、それらを単一特異性及び多特異性の用途について理想的にする。
【0099】
本発明の重鎖のみの抗体において、第4のフレームワーク領域(FR4)の第1位の天然のアミノ酸残基は、その位置における天然のアミノ酸残基を含むかまたはそれに関連した表面露出した疎水性パッチを破壊することのできる異なるアミノ酸残基によって置き換えられている。一実施形態において、置換されたアミノ酸残基は荷電している。別の実施形態において、置換されたアミノ酸残基は、リジン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)、またはヒスチジン(His、H)残基、好ましくはアルギニン(R)残基のように正に荷電している。図5のアラインメントに見られるように、同一のCDR3ファミリー内の重鎖抗体由来のVH配列は、全て第101位にTrp(W)を含み、したがって、好ましい実施形態において、本発明のトランスジェニック動物に由来する重鎖のみの抗体は、位置101においてTrpからArgへの変異を含む。
【0100】
本発明のヒトまたはキメラの重鎖のみの抗体は、任意の所望の標的抗原に対して生成することができ、様々な臨床用途のための大きな可能性を有する。治療用途のための標的抗原は、EGFR、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)、ErbB4(HER4)、CTLA-4/CD152、RANKL、TNF-α、CD20、IL-12/IL-23、IL1-β、IL-17A、IL-17F、CD38、NGF、IGF-1、IL-12、CD20、CD30、CD39、CD73、CD40、PD-1、PDL-1、PD-L2、BCMA、BTLA、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSP)卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、CD137、OX-40、及びIL-33を非限定的に含む。治療適応症としては、固形腫瘍、血液腫瘍、慢性関節リウマチ、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、代謝性疾患、循環器疾患、呼吸器系、皮膚科、中枢神経系、血液、眼/耳、肝臓の疾患の治療が含まれるがこれらに限定されない。
【0101】
標的腫瘍には、例えば、乳がん、胃がん、扁平上皮がん、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、唾液腺がん、腎臓がん、腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝がん、頭頸部がん、直腸がん、結腸直腸がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん及び肺扁平上皮がんを含む肺がん、扁平上皮がん(例えば、上皮扁平上皮がん)、前立腺がん、腹膜がん、肝細胞がん、胃がんまたは胃腸がんを含む胃がん、膵臓がん、膠芽腫、網膜芽細胞腫、星状細胞腫、卵胞膜細胞腫、男性胚細胞腫、肝細胞腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)を含む血液悪性腫瘍、多発性骨髄腫(MM)及び急性血液悪性腫瘍、子宮内膜がんまたは子宮がん、子宮内膜症、線維肉腫、絨毛がん、唾液腺がん、外陰がん、甲状腺がん、食道がん、肝がん、肛門がん、陰茎がん、上咽頭がん、喉頭がん、カポジ肉腫、黒色腫、皮膚がん、シュワン細胞腫、乏突起膠腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、尿路がん、甲状腺がん、ウィルムス腫瘍、ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;高悪性度免疫芽細胞性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;抗悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;及びヴァルデンストレームマクログロブリン血症);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);有毛細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、ならびに母斑症に関連した異常な血管増殖、及びMeigs症候群が含まれる。
【0102】
本発明のさらなる詳細は、次の非限定的な例によって説明され、それは以下の略語を用いる。
BAC バクテリア人工染色体
YAC 酵母人工染色体
ZFN ジンクフィンガーヌクレアーゼ
H 重鎖
C 定常領域
V 可変領域
D 多様性セグメント
J 結合セグメント
【実施例
【0103】
実施例1:重鎖のみの抗体(HCAb)を発現する遺伝子改変されたラットの生成
予め同定され、分析され、部分的に改変されたBAC及びYACは、ヒト重鎖可変領域遺伝子及びラット定常領域遺伝子を提供する(Osborn et al.,2013,J. Immunol.190:1481-1490;Ma et al.,2013,J. Immunol. Methods 400-401:78-86)。重鎖抗体の発現を可能にするために、ラットの定常領域BACは、Cμの除去、及び全てのCγにおけるC1エクソンの欠失によって改変された。重鎖のみの発現は、内在性の重鎖及び軽鎖(カッパ及びラムダ)座位の沈黙によって強化した。
【0104】
YAC及びBAC上での改変されたヒトIgH座位の構築
「ヒト-ラット」IgH座位が構築され、いくつかの部分で組み立てられた。これは、ヒトJ下流でのラットC領域遺伝子の改変及び結合、そしてその後の、ヒトV6-Dセグメント領域の上流での付加を含んだ。次いで、ヒトV遺伝子の別個のクラスターを有する2つのBAC[BAC6及びBAC3]は、ヒトV6-全てのD-全てのJ-ラットCγ2a/1/2b(ΔC1)を含む、組み立てられ、改変された領域をコードするGeorgと呼ばれるBACと共に共注入された。
【0105】
DNA配列の正確な場所での改変の導入のため、及び複数の大きなDNA領域の同時の結合のために、環状YAC(cYAC)としてS. cerevisiae中で重なる末端を有する配列を組み立て、その後に、そのようなcYACをBACに変換するための技術を開発した。YACの利点は、それらの大きなDNAインサートを保持する能力、酵母宿主中での相同改変の容易さ、及び特に高度反復領域(例えばスイッチ領域、エンハンサー)における配列安定性の維持を含む。一方でBACは、E. coli中で増殖し、容易な調製と大きな収量の利点を提供する。さらに、詳細な制限マッピング及び配列解析は、YACよりもBACにおいてより良好に達成できる。2つの自己複製S. cerevisiae/E. Coliシャトルベクター、pBelo-CEN-URA及びpCAUを構築した。手短にS. cerevisiaeのCEN4は、pYAC-RC(Marchuk and Collins,1988;Nucleic Acids Res.16(15):7743)からAvrIIフラグメントとして切り出され、SpeIで直線状とされたpAP599(Ma et al. Mol Microbiol.2007;66(1):14-25)に連結された。得られたプラスミドは、URA3下流にクローニングされたCEN4を含む。これから、ApaLI-BamHIのURA3-CEN4フラグメントが切り出され、ApaLI及びBamHIで消化されたpBACBelo11(New England Biolabs)へと連結し、pBelo-CEN-URAを得た。S. cerevisiaeの自律複製配列ARS209が合成され、pBelo-CEN-URAの固有のSexAI部位へとクローニングされ、pCAUを得た。
【0106】
ヒトJ4、ラットCμ及びCγ1領域の改変を促進するために、ヒトJの約2.2kb上流からラットCγ1コード領域の約5.5kb下流にわたる約37kbのSacIIフラグメントをBACコンストラクトAnnabel(Osborn et al.,2013;J. Immunol.190:1481-1490)から切り出し、pBelo-CEN-URAの固有のSacII部位にクローニングした[pBelo+SacII、37kb]。さらに、ラットCγ2b領域を改変するために、Annabelからのγ2bスイッチ領域の約6.9kb上流からCγ2bコード領域の約2.0kb下流にわたる約19kbのSacII-SwaIフラグメントを、SacII及びHpaIで二重消化したpBelo-CEN-URAにクローニングした[pBelo+SacII-SwaI、19kb]。両方のプラスミドを、さまざまなヒト及びラットのゲノム領域を増幅するため、ならびに必要な制限フラグメントを確立するためにテンプレートとして使用した。
【0107】
ヒトJの約3.1kb上流から、いくらかの3’領域を有するラットCμを含むまでにわたるDNA領域が改変され、16.7kbのSnaBI-FspIフラグメントとしてpCAUへと組み立てられた。改変された領域は、T→Cへの点変異(W→Rのアミノ酸変化を生じる)がJ4に導入されたことを除いて全ての真正のヒトJを含み、残りのCμコード領域と共に削除されて、C1を欠くラットCγ2a配列(ヒンジの直ぐ上流のイントロンから開始して、膜のエクソンの3’末端まで)と正確に置き換えられたJからμCH1までのラットの遺伝子間領域が後に続いた。このコンストラクトは、cYACとしての酵母内の以下に示す5つの重なり合うフラグメントの組み立てに由来し、次いでBACに転換された:プライマーHC27-1及び-2を用いて増幅された、ヒトJの上流の領域から変異したJ4(
【化1】

で示された後者のプライマーを介して導入された点変異)までを覆う約4.3kbのフラグメント、プライマーHC27-3及び-4を用いて増幅された、変異したJ4(
【化2】

で示される)からμスイッチ領域の上流までを覆う約3.4kbのフラグメント、pBelo+SacII37kbから切り出された、μスイッチ領域と隣接配列を包含する約5.2kbのAflIIフラグメント、長いプライマーHC27-5及び-6を用いて増幅された、ラットCμに隣接する配列に融合されたC1を欠くラットCγ2a、ならびに、プライマーHC27-7及び-8を用いたpCAUベクターの増幅。これは、pCAU+HuJ-ラットCγ2a(-CH1)を生じた。全ての改変領域は、正確さを確認するために、シーケンシングによって調べた。
【0108】
ラットの、C1を欠くCγ1、及びC1を欠くCγ2bはPCRによって独立して生成した。C1とヒンジの間のイントロンの5’末端に一致する3’末端を有するCγ1コード領域のすぐ上流に位置する約1.7kbのフラグメントは、プライマーHC27-9及び-10を用いて増幅された。Cγ1は、プライマーHC27-11及び12を用いて、C1とヒンジの間のイントロンから、コード領域の3’末端までの約3.9kbのフラグメントとして増幅された。続いて、約1.7kbと約3.9kbのフラグメントの両方がゲル精製され、プライマーHC27-9及び-12を用いたオーバーラップPCRによって結合し、約5.6kbのフラグメントを得た。同様に、C1を有さないCγ2bについて、Cγ2bコード領域上流の約0.3kbのフラグメントは、プライマーHC27-13及び-14を用いて増幅され、C1とヒンジの間のイントロンからコード領域の3’末端までの領域にわたる約5.4kbのフラグメントは、プライマーHC27-15及び-16を用いて増幅され、続いてこれら2つのフラグメントは、プライマーHC27-13及び-16を用いるオーバーラップPCRによって結合され、約5.7kbのフラグメントを得た。pCAU+ラットCγ1、2b(-CH1)は、以下を含んで構築された:ラットCμの3’末端に一致する100bpの相同領域、両方のC1を除去したことを除いてゲノム構成中のCγ1及びCγ2bが後に続いた。6つの重なり合うフラグメントを使用してコンストラクトpCAU+ラットCγ1、2b(-CH1)を構築した:pBelo+SacII、37kbから切り出された、3’Cμ相同領域と後に続くγ1スイッチ領域にわたる約10.2kbのSpeI-NarIフラグメント、上述されるようなC1を有さないCγ1を含む約5.6kbのPCRフラグメント、プライマーHC27-17及び-18を用いて増幅された、Cγ1とCγ2bの間の遺伝子間領域を覆う約7.4kbのフラグメント、pBelo+SacII-SwaI、19kbから切り出された、ラットCγ2bスイッチ領域を包含する約11.3kbのXhoIフラグメント、C1を有さないCγ2bを含む約5.7kbのPCRフラグメント、プライマーHC27-19及び-20を用いて増幅されたpCAUベクター。pCAU+ラットCγ1、2b(-CH1)中のラットゲノム領域は、単一の約40kbのFspIフラグメントとして切り出すことができる。
【0109】
最終的に、全ての改変を有するヒトV6-D-J-ラットC領域をコードするBAC(Georg)が、以下の4つの重なり合うフラグメントを用いて組み立てられた:BAC10(CTD-3216M13, Invitrogen)から切り出された、ヒトV6-D領域を包含する精製された約78.2kbのFspAI-MluIフラグメント、上述されるようなpCAU+HuJ-ラットCγ2a(-CH1)から切り出された16.7kbのSnaBI-FspIフラグメント、pCAU+ラットCγ1、2b(-CH1)から切り出された約40kbのFspIフラグメント、Cγ2bとCεの間の遺伝子間領域、後に続くCε、Cα、3’エンハンサー領域、pBelo-CEN-URAベクター、及びヒトV6の上流の5’領域を含むコンストラクトAnnabelから切り出された約77.2kbのSwaI-SacIIフラグメント。この最終的なコンストラクトは、制限マッピング及び部分シーケンシングにより徹底的に調べた。(ヒトV6-D-J-ラットC)領域は、約201kbのNotIフラグメントとして切り出して精製することができる。
【0110】
BAC6は、VH4-39からVH3-23までのヒトゲノム領域を含み、一方でBAC3は、VH3-11からVH6-1(最もDに近接したVH遺伝子)までの下流領域を含む。BAC6とBAC3の間の重なりを提供するために、以前に記載されたように(Osborn et al.2013、上述)、BAC3中のヒトV座位の5’末端に位置する10.6kbのフラグメントが、BAC6中のVH3-23の下流に組み込まれた。BAC6中のヒトV遺伝子は、約182-kbのAsiSI-AscIフラグメントとして切り出された。BAC3は改変されず、BAC中のヒトV遺伝子は約173kbのNotIフラグメントとして切り出された。
【0111】
オリゴヌクレオチド:
HC27-1:GTATTACACACAAAATGGGAAAAGCTG(配列番号1)
HC27-2:
【化3】

(配列番号2)
HC27-3:
【化4】

(配列番号3)
HC27-4:GAATCCTAGGATTGCCTTCTTAGCCTG(配列番号4)
HC27-5:CCATAGACCAAACTTACCTACTATCTAGTCCTGCCAACCTTAAGAGCAGCAACATGGAGACAGCAGAGTGTAGAGAGATCTCCTGACTGGCAGGAGGCAAGAAGATGGATTCTTACTCGTCCATTTCTCTTTTATCCCTCTCTGGTCCTAGAGAACAACCAGGGGATGAGGGGCTC(配列番号5)
HC27-6:GCACAAGTGGACAAAGTCTTTGGCCAGTCTAGAAAGAAGCCCGTCTCAGAGATCAAAGCTGGAGGGCAACACAGGAAAGATGTGGGAATAAGTTTACTAGTCATACAGGCAGGAACCCCAGGCCCAGAGGTAGTGTCCCTGTGGGAGGGTCTCTTGCTCTCTGATGTCCTTCCATGCTGAGAGTTAGGGCCCTTGTCCAATCATGTTC(配列番号6)
HC27-7:GAATTTTGCCCAAGTTTTTTCAGCTTTTCCCATTTTGTGTGTAATACGTACACACCGCAGGGTAATAACTG(配列番号7)
HC27-8:GACGGGCTTCTTTCTAGACTGGCCAAAGACTTTGTCCACTTGTGCGCAGTTATCTATGCTGTCTCACCATAGAG(配列番号8)
HC27-9:GGAGGTCTAGGCTGGAGCTGATCCAG(配列番号9)
HC27-10:CCTCGTCCCCTGGTTGTTCTCTCAAGAAAAAGTATGCGTGATCATTTTGTC(配列番号10)
HC27-11:AGAGAACAACCAGGGGACGAGG(配列番号11)
HC27-12:GTCCACATAGTCCTCCAGAGAGAGAAG(配列番号12)
HC27-13:GACCCAAGTCCAGTTCCCAACAACCAC(配列番号13)
HC27-14:CCTCGTCCCCTGGTTGTCCTCTCAAGAGAGGAGGGAGTGTGAGCTTTTCC(配列番号14)
HC27-15:AGAGGACAACCAGGGGACGAGGGGCTC(配列番号16)
HC27-16:GCATGGGGAAGGGGCATTGTATGTAGG(配列番号17)
HC27-17:CAGATCACACTGTCTGCTCACTTCAC(配列番号18)
HC27-18:AAGGCAGCAGGATGGAAGCTGATGTCG(配列番号19)
HC27-19:GCTGGAGGGCAACACAGGAAAGATGTGGGAATAAGTTTACTAGTCATACAGGCAGGAACCCCAGGCCCAGAGGTAGTGTCCCTGTGGGAGGGTCTCTTGCGCACACACCGCAGGGTAATAACTG(配列番号20)
HC27-20:GATTTAAATGTCAATTGGTGAGTCTTCTGGGGCTTCCTACATACAATGCCCCTTCCCCATGCGCAGTTATCTATGCTGTCTCACCATAGAG(配列番号21)
【0112】
Georg IIの構築
「ヒト-ラット」IgH座位が構築され、いくつかの部分で組み立てられた。これは、各々がW→Rをコードする点変異を含む変異したヒトJH1-JH6の下流でのラットC領域遺伝子の改変及び結合、そしてその後の、ヒトV6-1-Dセグメント領域の上流での付加を含んだ。このBACはGeorg IIと名付けられた。
【0113】
最終的に、変異したヒトJH1-JH6は、2.3kbのScaIフラグメントで合成した(Thermo Fisher Scientific、以下を参照)。
【0114】
2番目に、変異したヒトJH1-JH6を、ヒトJ上流の約3.1kbのDNA領域、及びコード領域がラットCγ2aコード領域と置き換えられているが、C1を欠く、Jの直ぐ下流のラット配列からラットCμまでにわたる約11.4kbの領域と結合して、pCAU+HuJ(W-R)-ラットCγ2a(-CH1)と呼ばれるBACとした。このBAC中の改変領域全体は、16.7kbのSnaBI-FspIフラグメントとして切り出すことができる。このBACは、cYACとしての酵母内の以下に示す4つの重なり合うフラグメントの組み立てに由来し、次いでBACに転換された:プライマーHC32-1及び-2を用いて増幅された、ヒトJの上流の領域を覆う約2.7kbのフラグメント、2.3kbの変異したヒトJH1-JH6-ScaIフラグメント、プライマーHC32-3及び-4を用いて増幅された、ラットのJの直ぐ下流の領域を覆う、約2.1kbのフラグメント、pCAU+HuJ-ラットCγ2a(-CH1)から切り出された約18.4kbのMluI-HpaIフラグメント(C1を欠くラットCγ2aコード領域によって置き換えられたコード領域を有するラットCμ座位及び「HC27構築方法」に記載されるpCAUベクターを含む)。全ての改変領域は、正確さを確認するために、シーケンシングによって調べた。
【0115】
最終的に、ヒトV6-1-D-変異したJ-改変したラットC領域をコードするGeorg IIが、以下の4つの重なり合うフラグメントを用いて組み立てられた:BAC10(CTD-3216M13, Invitrogen)から切り出された、ヒトV6-1-D領域を包含する精製された約78.2kbのFspAI-MluIフラグメント、上述されるようなpCAU+HuJ(W-R)-ラットCγ2a(-CH1)から切り出された16.7kbのSnaBI-FspIフラグメント、pCAU+ラットCγ1、2b(-CH1)(「HC27構築方法」に記載される)から切り出された約40kbのFspIフラグメント、Cγ2bとCεの間の遺伝子環領域、後に続くCε、Cα、3’エンハンサー領域、pBelo-CEN-URAベクター、及びヒトV6-1の上流の5’領域を含むコンストラクトAnnabelから切り出された約77.2kbのSwaI-SacIIフラグメント。この最終的なコンストラクトは、制限マッピング及び部分シーケンシングにより徹底的に調べた。(ヒトV6-1-D-変異したJ-改変したラットC)領域は、約201kbのNotIフラグメントとして切り出して精製することができる。
【0116】
HC32及びHC33トランスジェニックラットを生成するためのマイクロインジェクション
BAC6は、VH4-39からVH3-23までのヒトゲノム領域を含み、一方でBAC3は、VH3-11からVH6-1(最もDに近接したVH遺伝子)までの下流領域を含む。BAC6とBAC3の間の重なりを提供するために、以前に記載されたように(Osborn et al.2013,J. Immunol.190:1481-1490)、BAC3中のヒトV座位の5’末端に位置する10.6kbのフラグメントが、BAC6中のVH3-23の下流に組み込まれた。BAC6中のヒトV遺伝子は、約182-kbのAsiSI-AscIフラグメントとして切り出された。BAC3は改変されず、BAC中のヒトV遺伝子は約173kbのNotIフラグメントとして切り出された。両方のフラグメントは精製され、Georg IIからの約201kbのNotIフラグメントと共にラット胚へと共注入され、HC32を構築した。
【0117】
BAC9は、VH3-74からVH3-53由来のヒトゲノム領域を含む。BAC(14+5)は、VH3-53からVH3-13由来の下流領域を含み、VH6-1の直ぐ上流の6.1kbの領域がその3’に付加され、Georg IIに対するオーバーラップを提供した。BAC9中のヒトV領域は約185kbのNotIフラグメントとして切り出され、BAC(14+5)からのものは、約209kbのBsiwIフラグメントとして切り出された。両方のフラグメントは精製され、Georg IIからの約201kbのNotIフラグメントと共にラット胚へと共注入され、HC33を構築した。
【0118】
DNA精製
直線状のYAC、環状のYAC及び消化後のBACフラグメントは、標準的に泳動した0.8%アガロースゲルまたはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)から切り出されたストリップから、Elutrap(商標)(Schleicher and Schuell)を用いる電気抽出によって精製された(Gu et al.,J. Biochem. Biophys Methods.,1992,24:45-50)。DNA濃度は通常、約100μlの容量中で数ng/μlであった。約200kbまでのフラグメントについて、DNAは沈殿され、マイクロインジェクション緩衝液(10mMのTris-HCl、pH7.5、100mMのEDTA、pH8及び100mMのNaClであるが、スペルミン/スペルミジンを含まない)中に所望の濃度で再溶解された。
【0119】
酵母からの環状YACの精製は、Nucleobond AXシリカ系アニオン交換樹脂(Macherey-Nagel, Germany)を用いて実施された。手短に、スフェロプラストを、ザイモリアーゼまたはリチカーゼを用いて作製し、ペレット化した(Davies et al.,1996,Human antibody repertoires in transgenic mice:manipulation of transfer of YACs.In Antibody Engineering:A Practical Approach. J. McCafferty, H.R. Hoogenboom, and D. J. Chiswell eds. IRL, Oxford, U.K., p.59-76)。次いで、細胞をアルカリ溶解し、AX100カラムに結合させ、低コピープラスミドについてNucleobond法に記載の通りに溶出した。混入する酵母染色体DNAを、Plasmid-Safe(商標)ATP依存性DNase(Epicenter Biotechnologies)を用いて加水分解し、続いてSureClean(Bioline)を用いる最終精製ステップを実施した。次いで、DH10エレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)のアリコートを環状YACで形質転換してBACコロニーを得た。マイクロインジェクションのためのインサートDNA、約10kbのBACベクターDNAからの150~200kbの分離のために、Sepharose4B-CLによるろ過ステップを使用した(Yang et al.,1997,Nat. Biotechnol.1997,15;859-865)。
【0120】
ゲル解析
精製したYAC及びBACのDNAは、制限消化、及び標準的な0.7%アガロースゲル上での分離によって解析された(Sambrook and Russell,2001)。より大きなフラグメント、50~200kbは、PFGE(Biorad Chef Mapper(商標))によって、8℃で、0.5%のTBE中0.8%のPFCアガロースを用いて、2~20秒のスイッチ時間で16時間、6V/cm、10mAで分離された。精製は、配列解析より得られる予測されたサイズを有する生じるフラグメントの直接的な比較を可能にした。改変はPCR及びシーケンシングによって解析した。
【0121】
マイクロインジェクション
非近交系SD/Hsd系統動物は、実験動物ケア評価認証協会(AAALAC)によって認可された動物施設において承認された動物ケアプロトコールの下で標準的なマイクロアイソレーターケージに収容された。ラットは14~10時間の明/暗周期で飼料及び水を自由に摂取させながら維持した。4~5週齢のSD/Hsdメスラットに20~25IUのPMSG(Sigma-Aldrich)を注射し、続いて48時間後に20~25IUのhCG(Sigma-Aldrich)を注射し、近交系SD/Hsdオスと交配させた。その後のマイクロインジェクションのために受精した1細胞期胚を採取した。操作された胚を偽妊娠SD/Hsdメスラットに移し、分娩に至らせた。
【0122】
組換え免疫グロブリン座位をコードする精製したDNAを、10mMスペルミン及び10mMスペミジンを含むマイクロインジェクション緩衝液に再懸濁した。DNAを0.5~3ng/μlの様々な濃度で受精卵母細胞に注入した。
【0123】
ラット免疫グロブリン遺伝子に特異的なZFNをコードするプラスミドDNAまたはmRNAを、0.5~10ng/μlの様々な濃度で受精卵母細胞に注入した。
【0124】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)
ラット免疫グロブリン遺伝子に対して特異的なZFNが生成された。
ラットCカッパに特異的なZFNは以下の結合部位を有した:ATGAGCAGCACCCTCtcgttgACCAAGGCTGACTATGAA(配列番号22)
ラットJ-座位配列に特異的なZFNは以下の結合部位を有した:
CAGGTGTGCCCATCCagctgaGTTAAGGTGGAG(配列番号23)
及び
CAGGACCAGGACACCTGCAgcagcTGGCAGGAAGCAGGT(配列番号24)
ラットCγ-座位配列に特異的なZFNは以下の結合部位を有した:
AACAGCCATTTGcagaccAAAGGGAAGGAAAGA(配列番号25)
及び
TTCTACCCTGGTGTTATGacagtgGTCTGGAAGGCAGATGGT(配列番号26)
【0125】
トランス座位を有するラット。
未再構成の構成にある人工重鎖免疫グロブリン座位を担持するトランスジェニックラットを作製した。トランスジェニックラットのRT-PCR及び血清解析(ELISA)は、トランスジェニック免疫グロブリン座位の生産的な再構成及び血清中の様々なアイソタイプの重鎖のみの抗体の発現を明らかにした。トランスジェニックラットの免疫は、高親和性抗原特異的重鎖のみの抗体の産生をもたらした。
【0126】
新規のジンクフィンガーヌクレアーゼノックアウト技術。
トランスジェニックラットにおける重鎖のみの抗体産生のさらなる最適化のために、不活性化した内在性ラット免疫グロブリン座位を有するノックアウトラットを作製した。
【0127】
ラット重免疫グロブリン重鎖発現及びラットλ軽鎖発現の不活化のために、ZFNを1細胞ラット胚にマイクロインジェクションした。続いて、胚を偽妊娠メスラットに移し、分娩に至らせた。変異した重鎖及び軽鎖の座位を有する動物をPCRによって同定した。そのような動物の分析は、変異動物におけるラット免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の発現の不活性化を実証した。
【0128】
実施例2:ラットにおける抗原特異的重鎖のみの抗体の生成
ラットにおける抗原特異的重鎖のみの抗体の生成のために、実施例1に記載されたもののような重鎖のみの抗体を発現する遺伝子改変ラットが様々な方法で免疫される。
【0129】
不活化ウイルスによる免疫
様々な異なる赤血球凝集素及びノイラミニダーゼ遺伝子を有するインフルエンザウイルスは、Immunology and Pathogenesis Branch, Influenza Division, CDC, Atlanta, GAにより提供される。ウイルスストックを10日齢の孵化鶏卵の尿膜腔内で増殖させ、超遠心分離により10%~50%スクロース勾配により精製する。ウイルスをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁し、4℃で2週間、0.05%ホルマリンで処理することにより不活性化する。不活性化ウイルスとアラム溶液(Pierce)を3:1の比率で混合し、免疫の前に室温で1時間インキュベートする。重鎖のみの抗体を発現する遺伝子改変ラットは全ての不活性物で免疫される。
【0130】
タンパク質またはペプチドによる免疫
典型的には免疫原(ヒト免疫グロブリンカッパ軽鎖、ヒトIgMまたはIgG重鎖、ヒト血清アルブミン、タンパク質-ペプチドコンジュゲートのようなタンパク質またはペプチド)を滅菌生理食塩水で0.05~0.15mlに希釈し、アジュバントと組み合わせて0.1~0.3mlの最終容量とする。多くの適切なアジュバントが利用可能である(すなわち、熱不活性化Bordetella pertussis、水酸化アルミニウムゲル、Quil Aまたはサポニン、細菌リポ多糖または抗CD40)が、いずれも完全フロインドアジュバント(CFA)及び不完全フロインドアジュバント(IFA)の活性を有さない。タンパク質及びペプチドなどの可溶性免疫原の濃度は、最終調製物中で5μg~5mgの間で変動し得る。CFA中の免疫原による初回免疫(プライミング)は、腹腔内及び/または皮下及び/または筋肉内に投与される。無傷の細胞が免疫原として使用される場合、それらは最良では、腹腔内及び/または静脈内に注射される。細胞を生理食塩水で希釈し、1回の注入につき100万~2000万個の細胞を投与する。ラット中で生き延びる細胞は、最良の免疫結果をもたらす。CFA中の免疫原による初回免疫の後、IFA(追加免疫)中の2回目の免疫が通常4週間後に送達される。この一連のものは、高親和性抗体を産生するB細胞の発生をもたらす。免疫原が弱い場合、強い体液性応答が達成されるまで追加免疫を2週間ごとに投与する。免疫原濃度は、追加免疫においてより低くなり得、そして静脈内経路が使用され得る。体液性応答を測定するために、2週間毎にラットから血清を採取する。
【0131】
脂質IIペンタペプチド、ペニシリン結合タンパク質、βラクタマーゼ、ソルターゼ、及び他の原核生物の膜タンパク質による免疫は、上に概説したように行われる。
【0132】
脂質、糖脂質、炭水化物ポリマーによる免疫
ポリ-N-アセチル-β-(1-6)-グルコサミン(PNAG)及び他の炭水化物ポリマーによる免疫
精製されたdPNAG、PNAG、または他の炭水化物ポリマーは、還元的アミノ化によってジフテリア毒素、アルブミンまたは他の担体タンパク質にコンジュゲートされる。アルデヒド基は最初にグルタルアルデヒドで処理することにより担体タンパク質の表面に導入される。続いて、活性化担体タンパク質を、還元剤ナトリウムNaCNBH3の存在下でその遊離アミノ基を介してdPNAG(または他の炭水化物ポリマー)と反応させる。動物を0日目に皮下または足蹠でPNAG及びdPNAG-DTコンジュゲートで免疫し、その後の週に完全フロインドアジュバントまたは他のアジュバント中の0.15~100μgの用量のコンジュゲートされたPNAGまたはdPNAGで追加免疫する。ブースト免疫は、好ましくは不完全フロインド中である。血液を毎週採取し、特異的抗体価をELISAにより決定する。B細胞は排出リンパ節または脾臓から回収され、そして標準的な方法を用いてハイブリドーマを生成する。代替的に、酵母細胞を用いて抗原結合抗体またはフラグメントを選択する。
【0133】
脂質IIによる免疫
C55以下の脂質尾部を有する精製脂質IIをTitermax、リポソーム、Ribiアジュバントまたは他のアジュバントと混合する。さらに、KLHまたはオボアルブミンなどのタンパク質、及び脂質Aまたは完全フロインドアジュバントなどの免疫刺激化合物を混合物に添加する。初回免疫は、0日目に足蹠または皮下で0.1~1mgの脂質IIで実施し、その後の週に完全フロインドアジュバントまたは他のアジュバント中の0.15~100μgの用量のコンジュゲートされたPNAGまたはdPNAGで追加免疫する。追加免疫は、好ましくは不完全フロインド中である。血液を毎週採取し、特異的抗体価をELISAにより決定する。B細胞は排出リンパ節または脾臓から回収され、そして標準的な方法を用いてハイブリドーマを生成する。代替的に、酵母細胞を用いて抗原結合抗体またはフラグメントを選択する。
【0134】
脂質Aによる免疫
コア-脂質Aは、Bogard et al.,1987,Infection and Immunity,55:4,899-908の方法に従って調製する。Acinetobacter baumannii ATCC19606または他のグラム陰性細菌がLuriaブロス中で培養され、遠心分離により回収され、凍結乾燥培地に109CFU/mLの細胞密度になるように懸濁し、予め秤量したアンプルまたはガラスバイアルに入れて1/3を超えない容量で充填する。滅菌の綿またはグラスウールをアンプルの首に挿入するか、栓をバイアルに挿入する。試料を超低温冷凍庫でゆっくり凍結させ、次いで一次乾燥のために一晩真空を適用した。二次乾燥は、数時間温度を20℃まで上げることによって実施した。凍結乾燥サンプルを4℃で保存する。10mgの凍結乾燥細胞を400μLのイソ酪酸及び1Mの水酸化アンモニウム(5:3、v/v)に懸濁し、スターラーバーを含むスクリューキャップ試験管において100℃で2時間インキュベートする。試料を氷水中で冷却し、そして2000×gで15分間遠心分離する。上清を新しいチューブに移し、等量の水で希釈し、凍結乾燥した。試料を400μLのメタノールで2回洗浄し、2000×gで15分間遠心分離し、底部有機層とそれらの界面を保存し、窒素流下で乾燥させる。次いで、5ミリグラムの脂質Aを5mlの0.5%(wt/vol)トリエチルアミド(Sigma, St. Louis, Mo.)中に懸濁し、その後、5mgの酸処理細菌を添加する。混合物を室温でゆっくり30分間撹拌し、Speed Vac遠心分離機を用いて真空乾燥した。
【0135】
脂質Aコート細胞は、腹腔内または足蹠で動物を免疫するために使用される。1回の注入あたり50μlの用量のコアLPSコート細胞の懸濁液を、フロインド不完全アジュバント(Difco)と1:1の混合物で使用した(De Kievit & Lam, Journal of Bacteriology,Dec.1994,p.7129-7139)。動物は、0日目、4日目、9日目、14日目、及び28日目に免疫する。ハイブリドーマ細胞株は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及び異なる供給源から精製されたLPS(Avanti Polar Lipids, Alabaster, Ala)によって抗LPS抗体の産生についてスクリーニングされる。上清はまた、Klebsiella.、E. coli、Pseudomonas aeruginosa、Acitenobacter Baumanii、及びSalmonellaのような、加熱殺傷したかまたは生きているグラム陰性細菌で試験された。広い反応性の抗体が選択され、そしてポリミキシンBとの競合アッセイを実施する。
【0136】
HCAbの最低阻止濃度(MIC)
抗菌剤に対する細菌のインビトロ感受性を測定するために様々な実験室的方法を使用することができる。所与の細菌分離株に対する抗菌剤のインビトロ活性を定量的に測定するために、ブロス希釈法または寒天希釈法のいずれを使用してもよい。試験を実施するために、一連のチューブまたはプレートを、様々な濃度の抗菌剤を添加したブロスまたは寒天培地を用いて調製する。次いで、試験生物の標準化された懸濁液をチューブまたはプレートに接種する。35±2℃での一晩のインキュベーションの後、試験を実施して最低阻止濃度(MIC)を決定する。最終的な結果は方法論に大幅に影響され、再現性のある結果(実験室内及び実験室間)を達成するべき場合には、それを慎重に管理する必要がある。希釈試験を用いて得られたMICは、感染生物を阻害するのに必要とされる抗菌剤の濃度を示す。しかしながら、MICは絶対値を表さない。「真の」MICは、生物の増殖を阻害する最低試験濃度(すなわち、MIC測定値)と次に低い試験濃度との間のいずこかにある。例えば、2倍希釈が使用され、MICが16μg/mLである場合、「真の」MICは、16~8μg/mLの間であろう。管理された最善の条件下であっても、希釈試験を実行する各々の時に同一の終点が得られない場合がある。一般に、試験の許容可能な再現性は、実際の終点の2倍希釈以内である。
【0137】
抗体またはそのフラグメント及び比較用抗生物質(バンコマイシン、ポリミキシン、セファロスポリン、または他のベータラクタム)のインビトロ活性は、標準CLSI方法論(Clinical and Laboratory Standards Institute.2003. Methods for dilution antimicrobial susceptibility tests for bacteria that grow aerobically. Approved standard M7-A7)に従ってブロス微量希釈MICアッセイによって試験されるであろう。
【0138】
抗体またはそのフラグメントの活性は、Staphylococcus aureus ATCC29213、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に対して試験される。MICは以下のように決定される:
1. 細菌接種材料の調製。新鮮なプレート(1週未満)から各系統のシングルコロニーを選び、5mlの陽イオンを調整したMuller-Hinton Broth(CAMHB)に移す。37℃の撹拌機で一晩インキュベートする。
2. 次の日の朝、一晩培養の1:100希釈を実施する(50ulを5mlに入れる)。37℃の撹拌機で2~4時間インキュベートする。
3. 2~4時間後(600nmでの吸光度約0.3~0.5)、細菌を遠心分離(5000rpm、5分)し、PBSに再懸濁し、培養物をMacFarland0.5に調整し、50ulの調整培養物を9950ulのCAMHBに移し、ボルテックスすることにより混合する。
4. 2~4時間後(600nmでの吸光度約0.3~0.5)、細菌を遠心分離(5000rpm、5分)し、PBSに再懸濁し、培養物をMacFarland0.5に調整し、50ulの調整培養物を9950ulの1.1×CAMHB(陽イオンを調整したMuller-Hinton Broth)に移し、ボルテックスすることにより混合する。
5. マザープレートの調製[1枚のマザープレートを10枚のドータープレートとし、1系統あたり1枚のドータープレート]:(細菌が増殖している間に準備する、ステップ5):ディープウェルプレートの最初のウェルに200ulの化合物ストックを添加し、他のすべてのウェルに100ulのDMSOを添加する。ウェル2~11で化合物の2倍連続希釈を行う(1から2に100ulを移し、ピペッティングにより4回混合し、2から3に100ulを移し、混合するなどをし、ウェル11から100ulを廃棄する)。ウェル12はDMSOのみの対照である。
900ulの滅菌蒸留水を各ウェルに添加し、ピペッティングにより混合する。
6. MICプレート調製:マザープレートの各ウェルから10ulを、ドータープレートの対応するウェルに移す。90ulの細菌接種材料を各ウェルに加え、ピペッティングにより混合する。
7. 37℃で24時間インキュベートし、そして増殖について採点する。増殖は、濁ったウェル、明らかなペレット、またはウェル内に存在する細菌の>3のピンポイントのいずれかと見なされる。増殖を示さない化合物の最低濃度をMICとして採点する。
【0139】
Staphylococcus aureusに対するバンコマイシンのMICは、標準ブロス微量希釈MICアッセイを用いて0.1ug/ml~10ug/mlの間で変動する。Staph. aureusに対する無傷のHCAbsのMICは、0.025ug/ml~25ug/mlで変動する。可変領域フラグメントまたはナノボディが使用される場合、Staph. aureusに対するMICは0.008ug/ml~8ug/mlで変動する。
(Staph. AureusのバンコマイシンのMIC:0.25~4ug/ml、MRSAのバンコマイシンのMIC:1~138ug/ml、バンコマイシン分子量は1450ダルトン、HCAbの分子量は80,000ダルトン、HCAbはバンコマイシンより約50倍重い、脂質IIに対するバンコマイシンの親和性は50nM、HCAbの親和性は、0.5~10nMであろう。HCAbは、0.025~25ug/mlのMICを有するであろう)。
(J. Clin. Microbiol.2006,44(11):3883. DOI:A. Bruckner Guiqing Wang, Janet F. Hindler, Kevin W. Ward and David. Increased Vancomycin MICs for Staphylococcus aureus Clinical Isolates from a University Hospital during a 5-Year Period)
【0140】
免疫グロブリン、補体、及び食細胞の存在下でのHCAbのMIC
オプソニン化食作用アッセイ(OPA)は、米国特許第8,410,249号に記載されるように実施された。OPAは、抗体、補体、及び食細胞の存在下での細菌の殺傷を測定する。ヒトの補体及び細胞が一般的に使用される。HCAbまたはフラグメントは、0.01ug/ml~10μg/mlの濃度で試験された。細菌の殺傷は、全ての成分とのインキュベーションの前後にコロニー形成単位を決定することによって測定される。オプソニン化も顕微鏡下で可視化される。ヒト多形核白血球(PMN)または分化したHL60前骨髄球性白血病(HL60)細胞のいずれかがエフェクター細胞として使用される。ヒト血清または子ウサギ血清中の補体が補体の供給源として使用される。簡潔に、HCAbまたは他の標本をハンクス平衡塩類溶液で、96ウェルマイクロタイタープレート中で2倍の段階で連続希釈し、次いで細菌(ウェル当たり約2,000CFU)及び補体と共に、軌道式振盪機上において37℃で30分間インキュベートする。非特異的な殺傷または過剰増殖を最小限に抑えるために、最適な振盪速度が各細菌系統に対して決定される。新たに単離したヒトPMNまたは分化したHL60細胞(エフェクター細胞)を細菌(標的)-補体-血清混合物に400:1の比率で添加し、混合物を37℃で45分間インキュベートする。OPA力価は、HCAbまたはそのフラグメントを除くすべての試薬を含む対照ウェルからのCFUと比較して、CFUの50%減少(殺傷)を引き起こす血清希釈度である。HCAbは10ng/ml~10μg/mlでバクテリアを殺傷する。
【0141】
細胞による免疫
細胞で免疫する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、抗CD3e抗体の発現のために、ヒトJurkat細胞を組織培養中で増殖させる。所望のヒト抗体の発現は、Jurkat細胞とモノクローナル抗体OKT3とのインキュベーションによって分析される。続いて、細胞の洗浄により未結合のOKT3を除去し、そして結合したOKT3をフルオレセインとコンジュゲートした抗マウスIgG及びフローサイトメトリー分析により検出する。
【0142】
ラットT細胞ハイブリドーマ細胞に、記載(Transy et al.,1989,Eur J Immunol19(5):947-50)のようにヒトCD3をコードする真核生物発現プラスミドを、エレクトロポレーションによりトランスフェクトする。ヒトCD3を発現するトランスフェクタントはFACSによって濃縮され、そして組織培養において増殖される。
【0143】
重鎖のみ(HCO)の抗体を発現する遺伝子改変ラットを、腹腔内に30×10(6)個のJurkat細胞を注射することによって免疫する。一次免疫の4及び8週間後、ラットを、ヒトCD3を発現するラットT細胞で免疫する。抗ヒトCD3e重鎖のみの抗体を発現する動物はモノクローナル重鎖のみの抗CD3e抗体の単離のために使用する。
【0144】
DNAに基づく免疫のプロトコール
遺伝子ワクチン、または免疫するための抗原をコードするDNAの使用は、ラットにおける強い抗体応答の発生に対する代替的アプローチを表す。
【0145】
DNA接種の経路は一般に皮膚、筋肉及び抗原のトランスフェクション及び発現を支持する他の経路である。インフルエンザウイルス血球凝集素糖タンパク質または他のヒトもしくはウイルス抗原などの抗原を発現するように設計されている精製プラスミドDNAが使用される。DNA接種の経路は以下のものを含む:静脈内(尾静脈)、腹腔内;筋肉内(大腿四頭筋両方)、鼻腔内、皮内(足蹠など)、及び皮下(首筋など)。一般に、接種部位あたり100μlの生理食塩水中の10~100μgのDNAを投与するか、またはDNAを金粒子または細胞の取り込み及びトランスフェクションを促進する特定の製剤(http://www.incellart.com/index.php?page=genetic-immunization&menu=3.3)などの適切なビヒクルと共に投与する。免疫スキームは、上述のプロトコールと類似し;一次免疫後に追加免疫が続く。
【0146】
重鎖のみの抗体の精製
抗体を精製するために、免疫したラットから血液を採取し、遠心分離によって血清または血漿を得て、それによって凝固した細胞ペレットを、血清抗体を含む液体上相から分離する。血漿の血清からの抗体は標準的な手順により精製される。そのような手順には、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、及び/またはアフィニティークロマトグラフィーが含まれる。IgGの精製のためにプロテインAまたはプロテインBを使用できる(Brueggemann et al.,JI,142,3145,1989)。
【0147】
実施例3:ラットからの抗体発現B細胞の単離
脾臓、リンパ節、または末梢血からのB細胞の単離
単一細胞懸濁液は、免疫ラットの脾臓またはリンパ節から調製される。赤血球を除去した後、またはB細胞、メモリーB細胞、抗原特異的B細胞、または形質細胞を単離した後、細胞をさらに濃縮することなく使用することができる。濃縮するとより良い結果が得られる可能性があり、最小限の赤血球除去が推奨される。メモリーB細胞は、不要な細胞の枯渇とそれに続くポジティブセレクションによって単離される。不要な細胞、例えばT細胞、NK細胞、単球、樹状細胞、顆粒球、血小板、及び赤血球細胞は、CD2、CD14、CD16、CD23、CD36、CD43、及びCD235a(グリコホリンA)に対する抗体のカクテルを使用して除去される。IgGまたはCD19に特異的な抗体を用いたポジティブセレクションにより、高度に濃縮されたB細胞をもたらす(50%~95%)。抗原特異的B細胞は、蛍光マーカー及び/または磁気ビーズで標識された抗原(複数可)に対して細胞を曝露することによって取得される。続いて、蛍光色素及び/または磁気ビーズでタグ付けされた細胞を、(フローサイトメトリーまたは蛍光標示式細胞分取器[FACS])FACS分取器及び/または磁石を用いて分離する。形質細胞はほとんど表面Igを発現し得ないので、細胞内染色が適用され得る。
【0148】
蛍光標識細胞分取によるB細胞の単離
FACSに基づく方法はそれらの個々の特性によって細胞を分離するために使用される。細胞が単一細胞懸濁液中にあることが重要である。免疫化ラットの末梢血、脾臓、または他の免疫器官から調製された単一細胞懸濁液を、CD19、CD138、CD27、またはIgGなどのB細胞マーカーに特異的な蛍光色素標識抗体と混合する。代替的に、細胞を蛍光色素タグ付き抗原と共にインキュベートする。細胞濃度は、PBSなどの適切な緩衝液中で100万~2000万細胞/mlである。例えば、メモリーB細胞は、CD27陽性及びCD45R陰性の細胞を選択することによって単離することができる。形質細胞は、CD138陽性及びCD45R陰性の細胞を選択することによって単離することができる。細胞をFACS装置に載せ、ゲートされた細胞を、培地を含む96ウェルプレートまたはチューブに入れる。必要に応じて、各蛍光色素に対する陽性対照を実験に使用し、これによりバックグラウンドを差し引いて補正を計算することが可能になる。
【0149】
骨髄からのB細胞の単離
骨髄形質細胞(BMPC)は、記載(Reddy et al.,2010,Nature Biotechnology 28,965-969)のように免疫動物から単離される。筋肉と脂肪組織は採取した脛骨と大腿骨から除去される。脛骨と大腿骨の両方の端を外科用ハサミで切り、骨髄を26ゲージのインスリン注射器(Becton Dickinson, BD)で洗い流す。骨髄を滅菌ろ過した緩衝液第1番(PBS、0.1%のBSA、2mMのEDTA)中に回収する。骨髄細胞を、細胞こし器(BD)を通して機械的に破砕しながらろ過することによって回収し、20mlのPBSで洗浄し、50mlのチューブ(Falcon, BD)に回収する。骨髄細胞を、4℃において、335gで10分間遠心分離する。上清をデカントし、細胞ペレットを3mlの赤血球溶解緩衝液(eBioscience)に再懸濁し、25℃で5分間穏やかに振とうする。細胞懸濁液を20mlのPBSで希釈し、そして4℃において335gで10分間遠心分離する。上清をデカントし、細胞ペレットを1mlの緩衝液第1番で再懸濁する。
【0150】
骨髄細胞懸濁液は、ビオチン化の抗CD45R及び抗CD49b抗体と共にインキュベートする。次いで、細胞懸濁液を4℃で20分間回転させる。これに続いて4℃において930gで6分間遠心分離し、上清を除去し、細胞ペレットを1.5mlの緩衝液第1番中に再懸濁する。ストレプトアビジンコンジュゲートM28磁気ビーズ(Invitrogen)を洗浄し、製造元のプロトコールに従って再懸濁する。磁気ビーズ(50ul)を各細胞懸濁液に添加し、混合物を4℃で20分間回転させる。次いで、細胞懸濁液をDynabeadマグネット(Invitrogen)上に置き、上清(陰性画分、ビーズに結合していない細胞)を回収し、ビーズに結合した細胞を廃棄する。
【0151】
予め洗浄したストレプトアビジンM280磁気ビーズを、25ulの磁気ビーズ混合物当たり0.75ugの抗体を含むビオチン化抗CD138と共に4℃で30分間インキュベートする。次にビーズを製造元のプロトコールに従って洗浄し、緩衝液第1番に再懸濁する。上述のように回収した陰性細胞画分(CD45R+及びCD49b+細胞を枯渇させた)を50ulのCD138コンジュゲート磁気ビーズと共にインキュベートし、懸濁液を4℃で30分間回転させる。CD138+結合細胞を有するビーズを磁石で単離し、緩衝液第1番で3回洗浄し、そしてビーズに結合していない陰性(CD138-)細胞を廃棄する。陽性CD138+ビーズ結合細胞を回収し、さらに処理するまで4℃で保存する。
【0152】
代替的に、Ouisse et al., BMC Biotechnology,2017,17:3,1-17に記載の方法を使用することができる。
【0153】
実施例4:ハイブリドーマの生成
記載(Koehler and Milstein, Nature,256,495,1975)されているように、単離されたB細胞をX63またはYB2/0細胞のような骨髄腫細胞との融合により不死化する。ハイブリドーマ細胞を選択培地中で培養し、抗体産生ハイブリドーマ細胞を限界希釈法または単一細胞選別法により作製する。
【0154】
実施例5: 重鎖のみの抗体をコードするcDNAの単離
単離した細胞からのcDNA配列の生成
単離された細胞を4℃において930gで5分間遠心分離する。細胞をTRI試薬で溶解し、Ribopure RNA分離キット(Ambion)の製造元のプロトコールに従って全RNAを単離する。製造元のプロトコールに従って、オリゴdT樹脂とPoly(A)puristキット(Ambion)を用いてmRNAを全RNAから単離する。mRNA濃度はND-1000分光光度計(Nanodrop)で測定される。
【0155】
単離されたmRNAは、マロニー(Maloney)マウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV-RT、Ambion)を用いた逆転写による第一鎖cDNA合成に使用される。cDNA合成は、Retroscript(Ambion)の製造元のプロトコールに従って、50ngのmRNAテンプレートとオリゴdTプライマーを用いたRT-PCRプライミングによって実施される。cDNA構築の後、PCR増幅を実施して、重鎖のみの抗体を増幅する。プライマーの表は表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
50μlのPCR反応は、0.2mMのフォワード及びリバースプライマー混合物、5ulのThermopolバッファー(NEB)、2ulの未精製cDNA、1ulのTaq DNAポリメラーゼ(NEB)、及び39ulの二重蒸留HOからなる。PCRサーモサイクルプログラムは、92℃で3分間;4サイクル(92℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間);4サイクル(92℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間)、20サイクル(92℃で1分間、63℃で1分間、72℃で1分間);72℃で7分間、4℃保存である。PCR遺伝子産物をゲル精製し、DNAをシーケンシングする。
【0158】
実施例6:組換え重鎖のみの抗体のクローニング及び発現
PCR産物をプラスミドベクターにサブクローニングする。真核細胞における発現のために、重鎖のみの抗体をコードするcDNAを記載(Tiller et al.,2008;329(1-2):112-124)のように発現ベクターにクローニングする。
【0159】
代替的に、重鎖のみの抗体をコードする遺伝子を、記載(Kay et al.,2010;Nature Biotechnology 28.12(2010):1287-1289)のようにミニサークル産生プラスミドにクローニングする。
【0160】
代替的に、重鎖のみの抗体をコードする遺伝子は、修正熱力学的平衡インサイドアウト核形成PCRを用いてオーバーラップオリゴヌクレオチドから合成され(Gao at al.,2003;Nucleic Acids Research.;31(22):e143)、真核生物発現ベクターにクローニングされる。
【0161】
代替的に、重鎖のみの抗体をコードする遺伝子を合成してプラスミドにクローニングする。
【0162】
人工染色体中の様々な重鎖のみの抗体をコードする多重発現カセットを組み立てるために、多重発現カセットを互いに連結し、続いて細菌中で増殖するBACベクターにクローニングする。トランスフェクションのために、InvitrogenのElectroMAX(商標)DH10B(商標)細胞を使用する(http://tools.invitrogen.com/content/sfs/manuals/18290015.pdf)。代替的に、連結された発現カセットは、酵母細胞で増殖する酵母人工染色体アームとさらに連結される(Davies et al.,1996,上述)。
【0163】
プラスミド精製
約5ml(またはより多くの)一晩の細菌培養からのプラスミド単離のために、Sigma-AldrichのGenElute(商標)プラスミドミニプレップキットが使用される(http://www.sigmaaldrich.com/life-science/molecular-biology/dna-and-rna-purification/plasmid-miniprep-kit.html)。これは遠心分離とそれに続くアルカリ溶解によるバクテリア細胞の収穫を含む。次いで、DNAをカラムに結合させ、洗浄して溶出し、消化またはシークエンシングをする準備を整える。
【0164】
BAC精製
ClontechのNucleoBond(登録商標)BAC100は、BAC精製のために設計されたキットである(http://www.clontech.com/products/detail.asp?tabno=2&product_id=186802)。このために、細菌は200mlの培養から回収され、改良アルカリ/SDS手順を使用することによって溶解する。細菌溶解物を濾過により清澄化し、そして平衡化カラムにロードし、そこでプラスミドDNAは陰イオン交換樹脂に結合する。続く洗浄ステップの後、精製されたプラスミドDNAを高塩濃度緩衝液中に溶離し、そしてイソプロパノールで沈殿させる。プラスミドDNAをさらなる使用のためにTE緩衝液中で再構成する。
【0165】
YAC精製
直線状のYAC、環状のYAC及び消化後のBACフラグメントは、標準的に泳動した0.8%アガロースゲルまたはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)から切り出されたストリップから、Elutrap(商標)(Schleicher and Schuell)を用いる電気抽出によって精製される(Gu et al.,1992、上述)。精製したDNAを沈殿させ、そして緩衝液に所望の濃度に再溶解する。
【0166】
酵母からの環状YACの精製は、Nucleobond AXシリカ系アニオン交換樹脂(Macherey-Nagel, Germany)を用いて実施する。手短に、スフェロプラストを、ザイモリアーゼまたはリチカーゼを用いて作製し、そしてペレット化する(Davies et al.,1996、上述)。次いで、細胞をアルカリ溶解し、AX100カラムに結合させ、低コピープラスミドについてNucleobond法に記載の通りに溶出する。混入する酵母染色体DNAを、Plasmid-Safe(商標)ATP依存性DNase(Epicenter Biotechnologies)を用いて加水分解し、続いてSureClean(Bioline)を用いる最終精製ステップを実施する。次いで、DH10エレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)のアリコートを環状YACで形質転換してBACコロニーを得る(上述を参照)。インサートDNA、約10kbのBACベクターDNAからの150~200kbの分離のために、Sepharose4B-CLによるろ過ステップを使用する(Yang et al.、上述)。
【0167】
プラスミドまたはBAC DNAによる細胞のトランスフェクション
組換え重鎖のみの抗体の発現のために、真核生物細胞を記載(Andreason and Evans,1989,Anal. Biochem.180(2):269-75;Baker and Cotten,1997,Nucleic Acid Res.,25(10):1950-6;http://www.millipore.com/cellbiology/cb3/mammaliancell)されるようにトランスフェクトする。重鎖のみの抗体を発現する細胞は、様々な選択方法を用いて単離される。単一細胞の単離には限界希釈法または細胞選別法が使用される。クローンを重鎖のみの抗体発現について分析する。
【0168】
実施例7:UniRat(商標)及びOmniFlic(商標)におけるJ遺伝子使用
図1は、重鎖のみの抗体を発現するためにUniRat(商標)において使用されるヒト導入遺伝子を示す。OmniFlic(商標)は、UniRatと同一のヒトV遺伝子クラスターを使用するが、固定されたκ軽鎖を発現しない。
【0169】
図2は、上述の実施例に記載されるような、全てのJ遺伝子が第101位においてアルギニンを発現する重鎖のみの抗体を発現するためにUniRat(商標)において使用されるヒト導入遺伝子を示す。
【0170】
UniRat(商標)及びOmniFlic(商標)の発現する抗体レパートリーは、免疫動物からのリンパ節由来のB細胞から単離されるmRNAの全てのVH領域の次世代シークエンシングによって決定される。発現する抗体からの全てのVH配列は、ヒトIGHVとIGHJの生殖細胞系列の配列とアラインメントされた。J遺伝子使用の頻度は、少なくとも6の独立したUniRat(商標)及びOmniFlic(商標)動物から計算された。図3は、UniRat(商標)が、野生型IGHJ4配列を有するOmniFlic(商標)よりも高い頻度でW101R変異を含むIGHJ4を使用することを示す。OmniFlic(商標)はまた、UniRat(商標)よりもはるかに高い頻度でIGHJ6を使用する。
【0171】
実施例8:W101変異はλ結合を阻害する
1058の重鎖抗体の大きなコレクションに対するラムダ結合を標準的なELISAによって測定した。1058の全重鎖抗体のうち、859が第101位にRを含み、199が第101位にWを含んだ。図4は、R101重鎖抗体の2.7%のみが、バックグラウンドシグナルの10倍以上のELISAシグナルとして決定される、遊離ラムダタンパク質との顕著な結合を示したことを示す。対照的に、W101重鎖抗体の31.2%が、同様の基準を用いて遊離ラムダタンパク質との顕著な結合を示した。これらの結果は、W101R変異がラムダ結合に対して高度に防御的であり、W101重鎖抗体は、R101よりもはるかに高いラムダとの結合する可能性を有することを示す。
【0172】
実施例9:同一のCDR3ファミリーにおける、重鎖のみの抗体との遊離λタンパク質の結合。
図5は、同一のCDR3ファミリーにおける重鎖抗体由来の11のVH配列多重配列アラインメントを示す。これらの配列の全ては第101位にWを含む。アラインメントにおける上部の7の配列は全て、ELISAによって測定されるラムダ結合について陽性であった。アラインメントにおける下部の4の配列は全て、同様にELISAによって測定されるラムダ結合について陰性であった。このVH配列のファミリーは、ラムダポジティブ配列とラムダネガティブ配列とを区別する位置a及びbにさらなる変異を示す。位置aまたはbのいずれかにあるSerまたはGluは、ラムダ結合を排除する。しかしながら、他のCDR3ファミリー中のこれらの位置におけるSerまたはGluは、ラムダ結合による同一の結合を有さない。このファミリーからの結果は、ラムダ結合を妨げるW101のVH配列に代償性変異があることを示唆しているが、これらの代償性変異はCDR3ファミリーに特異的であることを示唆している。
【0173】
実施例10:D-J接合部の多様性は、IGHJ6が使用されるとき、UniRat(商標)とOmniFlic(商標)で異なる
実施例6で示されるように、UniRat(商標)と比べてOmniFlic(商標)において、IGHJ6が3倍以上高い頻度で使用される。さらに、図3に示されるように、IGHJ6がUniRat(商標)で使用されるとき、生殖細胞系列のIGHJ6において見られる5つのTyr残基のストレッチは、最も高頻度で、1つのTyrに短くなっている。対照的にIGHJ6が使用されるとき、4つのTyr残基のストレッチが、OmniFlic(商標)中で最も一般的な長さである。これは、IGHJ6が使用されるとき、W101を含む重鎖抗体において生殖細胞系列のIGHJ6配列中に存在する5つのTyr残基のストレッチを短くするための選択的圧力が存在することを示唆する。
【0174】
実施例11:ヒトVH細胞外結合ドメインを用いるキメラ抗原受容体
初代培養T細胞でのキメラ抗原受容体の発現は、細胞外抗原結合ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む単一のキメラタンパク質の発現を必要とする。単一鎖Fvフラグメントは、典型的に抗原結合ドメインとして使用される。scFvキメラ抗原受容体の例は、図6のパネルAに示される。代替的に、単一のヒトVH結合ドメインが、細胞外結合ドメインとして使用される(パネルBまたは図6)。単一のヒトVHを使用することは、発現するためのより小さくより複雑でないタンパク質であるという利点を有し、そして免疫原性がより低い。
【0175】
本明細書においては本発明の好ましい実施形態を示し説明してきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されていることは当業者には明らかであろう。当業者であれば、本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、及び置換に想到するであろう。本明細書に記載された本発明の実施形態に対する様々な代替物が本発明を実施する際に使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を規定し、そしてこれらの特許請求の範囲の範囲内の方法及び構造ならびにそれらの均等物がそれによって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
【配列表】
0007229153000001.app