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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】可変電界を使用した電気泳動方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20230217BHJP
【FI】
G01N27/447 301A
G01N27/447 301B
G01N27/447 325A
G01N27/447 325C
G01N27/447 301C
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2019569287
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 GB2018051609
(87)【国際公開番号】W WO2018229480
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】1709387.3
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519440342
【氏名又は名称】ジェネティック マイクロデバイシズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シデリス、ディミトリオス
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-181299(JP,A)
【文献】特開2014-112099(JP,A)
【文献】特表2008-527320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 33/561
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の検体を検出するための電気泳動方法であって、
前記試料、および前記検体に結合する薬品を流動媒体中で組み合わせて分離チャネルに提供するステップと、
前記分離チャネルに沿って電界を印加するステップであって、前記電界が電界プロファイルを有し、それにより結合及び非結合検体並びに/又は薬品を前記流動媒体に対して移動させる、ステップと、
前記印加された電界を変化させるステップであって、それにより前記分離チャネルに対する前記電界プロファイルを調整し、それにより前記電界による電気的力と前記流動媒体による流体力学的力との組み合わされた影響の下で、前記流動媒体中の互いに離れた位置で前記結合検体及び前記非結合検体を濃縮させる、ステップと
を含む電気泳動方法。
【請求項2】
前記流動媒体が前記試料である、請求項1に記載の電気泳動方法。
【請求項3】
前記薬品と同じ位置で前記検体を検出するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の電気泳動方法。
【請求項4】
前記試料及び前記薬品が、前記流動媒体との接触に先立って組み合わされる、請求項1又は3に記載の電気泳動方法。
【請求項5】
前記流動媒体及び前記薬品が予め充填された前記分離チャネルに前記試料が加えられる、請求項1、3又は4に記載の電気泳動方法。
【請求項6】
ある位置における前記検体の濃度の変化が常に監視される、請求項1から5までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項7】
前記検体が、生物学的分子を含む、請求項1から6までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項8】
前記薬品が抗体又はその抗原結合断片を含む、請求項1から7までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項9】
前記薬品に検出可能部分のラベルが振られる、請求項1から8までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項10】
前記検出可能部分が、蛍光分子、酵素、放射性ラベル、DNAプローブ又は電気化学発光タグである、請求項9に記載の電気泳動方法。
【請求項11】
前記試料が生物学的流体の試料である、請求項1から10までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項12】
前記電界が、前記電界プロファイルの少なくとも一部に沿って、前記分離チャネルに対して変化し、及び/又は前記電界プロファイルの少なくとも一部が非ゼロである勾配を有する、請求項1から11までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項13】
前記電界が、前記電界プロファイルが前記分離チャネルに対して移動するように変更される、請求項1から12までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項14】
前記電界が、前記電界プロファイルが前記分離チャネルに沿って平行移動するように変更される、請求項1から13までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項15】
前記流動媒体及び前記分離チャネルが互いに実質的に静止している、請求項1から14までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項16】
前記電界の少なくとも一部が前記分離チャネルに沿った距離に対して単調に増加又は減少する、請求項1から15までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項17】
(i)前記非結合検体と結合検体の間の間隔を調整する、
(i)前記非結合検体と結合検体の相対位置を調整する、
(iii)前記非結合検体及び結合検体の信号の分解能を調整する、
(iv)前記非結合検体及び結合検体からの信号の強度を調整する、且つ/又は
(v)前記流動媒体内の特定の位置における前記非結合検体及び結合検体の濃度を調整するために前記電界を修正するステップをさらに含む、請求項1から16までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項18】
前記電界がその時間依存性及び/又はその強度を変更することによって修正される、請求項17に記載の電気泳動方法。
【請求項19】
前記電界を発振させるステップをさらに含み、それにより前記検体及び/又は薬品の運動の方向が反転し、それにより前記検体及び/又は薬品が前記分離チャネルに沿って前後に移動する、請求項1から18までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項20】
前記分離チャネルが閉ループであり、また、前記印加される電界が前記ループの周りに周期的である、請求項1から19までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項21】
前記電界が電界印加アセンブリによって印加され、また、電気界面領域が前記分離チャネルと前記電界印加アセンブリの間に提供され、前記電気界面領域が、前記電界が前記分離チャネルから間隔を隔てた位置における前記電界印加アセンブリによって前記電気界面領域に印加されるように配置され、
前記電気界面領域が、前記分離チャネルに隣接し、且つ、前記分離チャネルと接触して配置された少なくともイオン導電材料を含み、
それにより前記電界印加アセンブリによって印加される前記電界が前記電気界面領域によって平滑化され、前記分離チャネル内に確立される前記電界プロファイルが実質的に連続するようになっている、請求項1から20までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項22】
前記電界印加アセンブリが前記電気界面領域と電気接触する複数の電極を備える、請求項21に記載の電気泳動方法。
【請求項23】
前記電気界面領域が前記イオン導電材料からなり、又は前記イオン導電材料が非イオン導電材料と前記分離チャネルの間に配置され、且つ、前記電界が前記電界印加アセンブリによって前記非イオン導電材料に印加されるように、前記電気界面領域が前記イオン導電材料及び前記非イオン導電材料を含む、請求項21及び22のいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項24】
前記イオン導電材料が電気絶縁性である、請求項21から23までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項25】
前記イオン導電材料が重合体である、請求項21から24までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項26】
流体が前記材料を通過することができるよう、前記イオン導電材料が多孔性材料である、請求項21から25までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項27】
前記電界が前記分離チャネルに沿って配置された複数の電極によって印加される、請求項1から20までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項28】
前記複数の電極のうちの少なくともいくつかが電気抵抗材料の層によって前記分離チャネルの内部から間隔が隔てられている、請求項27に記載の電気泳動方法。
【請求項29】
前記電極と前記流動媒体の間に電流が流れないよう、前記複数の電極が前記分離チャネルの内部から間隔が隔てられる、請求項27又は28に記載の電気泳動方法。
【請求項30】
前記方法が複数の分離チャネルを備えたデバイス上で実施され、個々の分離チャネルが電界を印加するための手段及びコントローラを備える、請求項1から29までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項31】
個々の分離チャネルに印加される前記電界が同じである、請求項30に記載の電気泳動方法。
【請求項32】
方法が前記分離チャネルを備えたデバイス上で実施され、前記分離チャネルが前記分離チャネルから材料を抜き取るための少なくとも1つの出口ポートを備える、請求項1から31までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項33】
前記抜き取られる材料が試料収集井戸へ抜き取られる、請求項32に記載の電気泳動方法。
【請求項34】
前記抜き取られる材料が廃棄井戸へ抜き取られる、請求項32に記載の電気泳動方法。
【請求項35】
前記分離チャネルがpH勾配をさらに含み、前記結合検体及び前記非結合検体が、前記pH勾配によるそれらの等電位特性のさらなる影響の下で、前記流動媒体中の互いに離れた位置に集中する、請求項1から34までのいずれかに記載の電気泳動方法。
【請求項36】
請求項1から35までのいずれかに記載の電気泳動方法を含む診断試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の検体を検出するための電気泳動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動技法はよく知られており、また、対象の電気的特性及び流体力学的特性に従って対象を分離するために使用されている。他の分離技法は、欧州特許第1455949号に記載されている遠心分光計の使用を含む。
【0003】
従来の電気泳動では、流体又はふるい分析マトリックスを介して対象を移動させるために、一定で、且つ、一様な電界が印加される。対象がこの物質を介して移動すると、対象は、それらの形状及び大きさに依存する力(例えば流体力学的力)、及び/又は材料に対するそれらの親和力に依存する力(例えば化学的引力/反発力)、並びに印加される電界による、対象の見掛けの電荷に依存する電気的力に遭遇する。個々の対象タイプが遭遇する異なる力の結果として、対象は、それらの個々の特性に依存する異なる終端速度で移動し、したがって対象は「バンド」に分離する。
【0004】
ウエスタン・ブロッティング(タンパク質免疫ブロットと呼ばれることもある)などの、試料中の検体を検出するための現在の電気泳動方法は、遅く、時間が掛かり、多くの異なる化学薬品及び緩衝剤を使用した高価な試料準備が必要であり、また、検体が存在することの指示、及びその大きさ及び/又は電荷特性に関する基本情報しか提供しない傾向がある。ウエスタン・ブロッティングでは、ゲル電気泳動(一般にポリアクリルアミド・ゲルを使用する)を実施して、変性タンパク質がそれらの大きさによって分離される(又は3-D構造によって天然タンパク質が分離される)。ゲル及び試料緩衝剤は、通常、電気泳動を促進する一様な負の電荷を試料中のすべてのタンパク質に与えるドデシル硫酸ナトリウム(SDS:sodium dodecyl sulphate)を含有する。これは、SDS-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(SDS-PAGE:SDS-polyacrylamide gel electrophoresis)として知られている。ゲル上での分離に先立って、通常、タンパク質試料が煮沸され、存在するタンパク質を変性させる。電気泳動ゲル上での分離の後、タンパク質が膜の上にブロットされる(通常、硝酸セルロース又はポリ・フッ化ビニリデンが使用される)。次に、次のステージにおける非特定抗体結合を防止するために、膜上の非占有結合部位がタンパク質溶液(例えば牛乳)で阻止される。膜が洗浄され、次に、重要なタンパク質にとりわけ結合する抗体を使用して培養される。次に、信号を強化するために、さらなる洗浄ステップ、及び第1の抗体を認識する、また、検出可能タグに取り付けられる抗体を使用した抗体培養ステップがしばしば実施される。また、これは、一次抗体にタグを振る必要がないため、試薬を単純にし、且つ、そのコストを低減する。次に、近似サイズ(ゲルの上に平行に準備されたサイズ・マーカ・タンパク質試料を使用して計算される)における貧弱な分解能バンドであることがしばしばである最終結果を提供するために、検出可能部分(しばしば、色を変化させる基板のその消化によって検出され得る32P又は酵素である)が検出される。電気泳動ステップがない場合、大量の抗体交差反応性が存在する可能性があり、評価分析をどちらかと言うと無駄なものにすることになり得る。
【0005】
上で説明したように、ウエスタン・ブロットのための試料を準備する場合、タンパク質がしばしば変性され、したがってタンパク質の天然構成が失われる。これには、線形抗原決定基(抗体によって認識される結合部位)に対して個々別々である結合薬品(抗体)の使用を必要とする欠点がある。線形抗原決定基に対するこのような抗体は、範囲及び研究-診断値がさらに限定され得る。したがって例えば免疫法を介して天然タンパク質に育てられた抗体は、多くのタンパク質に対するウエスタン・ブロットに対しては場合によっては役に立たない。また、複数のステップ及び試薬には、ウエスタン・ブロットを完了するのに数時間を要し得る手段が必要であり、また、結果は極めて変動的であり得る。また、タンパク質試料がさらされる粗悪なプロセスも、翻訳後修飾(例えばグリコシル化部位)などの研究又は診断値の面であり得るそれらの構造の他の面を同じく損傷し得る。
【0006】
関連する他の免疫評価分析(抗体を利用した評価分析)技法は、ドット・ブロット分析、定量ドット・ブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学(抗体を使用して、免疫染色法によって組織及び細胞中のタンパク質が検出される)、及び酵素-リンク免疫吸着物評価分析(ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay)を含む。
【0007】
ELISAでは、電気泳動ステップは含まれていない。ELISAで使用される試料は、より明瞭な結果を可能にするために、典型的には他の非タンパク質物質(例えばDNA、脂質、等々)による汚染が少ない。ELISAでは、タンパク質試料は、通常は多重井戸培養プレート上のプラスチック井戸の中に置かれる。タンパク質は、短い培養ステップの後、自然にプラスチックに粘着する。次に、ウエスタン・ブロットに対して上で説明したステップと同じ阻止ステップ、洗浄ステップ並びに抗体培養及び洗浄ステップが実施される。ELISAでは、二次抗体上の検出可能部分は、存在していると基板の色を変える酵素である。したがって個々の井戸は、重要なタンパク質を含有した個々の井戸で信号を出現させるために(存在している一次抗体及び二次抗体の二次信号によって)、洗浄及び培養のすべてのステップが完了した後の基板を使用して培養される。これは、試料中の検体の存在を検出するための有用な評価分析であるが、検索可能な情報の点で限られている。他の免疫評価分析に優るELISAの利点は、自然に生成された抗体を結合させるための本質であり得る、非可動化されたタンパク質がそれらの固有の三次形態を多少なりとも維持することである。
【0008】
免疫評価分析の自動化及びより良好な標準化を可能にする、Chen et al (2015) J Transl Med 13:182で精査されている毛管ナノ免疫評価分析デバイスなどの様々なデバイスが製造されている。これは、臨床試料の大きさ、貧弱な再現性、信頼性のない定量化及び評価分析頑丈性の欠乏における限界などの、典型的な免疫評価分析を使用したタンパク質試料のプロファイリングに関わる固有の問題に対する対処を探求している。
【0009】
毛管ナノ免疫評価分析システムは、古典的免疫評価分析技法から著しく進歩しているが、依然としてウエスタン・ブロットの場合と同じ複数の培養ステップ及び洗浄ステップを基本プロセスとして実施しなければならない欠点の問題を抱えている。さらに、様々な溶液を分離及びブロッティングが生じる細い毛管を介して通過させなければならないため、毛管作用を可能にして機能させるためには、高価で、且つ、複雑な機構が要求される。これらの評価分析は古典的免疫評価分析より速いが、依然として多くの時間を要する。
【0010】
すべての形態の免疫評価分析が抱えている別の問題は、信号の視覚化、したがって検体の識別が間接手段によるものであることである。上で説明したように、これには、当該検体をとりわけ認識する一次抗体、及び一次抗体を認識する、また、蛍光タグ又は酵素などの検出可能部分に取り付けられる二次抗体の2つの抗体が必要である。したがって検出可能部分からの信号は、実際には二次抗体が存在していることのみを示し、検体を直接検出しない。この信号は、恐らく結合及び非結合二次抗体からのものと思われる。当然、プロセスにおける阻止及び洗浄手順は、非特定結合を最小化するが、これを完全に除去することは全く不可能である。また、検体が検出される間接手段は、本質的に、数時間にわたる多重ステップ・プロセスをもたらす。
【0011】
本明細書における見掛け上の先行発行済み文書の列挙及び考察は、その文書が最新技術の一部であり、又は共通の一般的な知識であることの承認として必ずしも解釈してはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第1455949号明細書
【文献】国際公開第2006/070176号
【文献】国際公開第2012/153108号
【文献】米国特許第6277258号明細書
【文献】米国特許出願第2002/0070113号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Chen et al (2015) J Transl Med 13:182
【文献】Altschul et al.、 J. Mol. Biol.、1990、215、403-410; Zhang and Madden、Genome Res.、1997、7、649-656
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、試料中の検体を検出するための電気泳動方法を提供し、方法は、試料と、分離チャネル内の流動媒体中で組み合わされた検体をとりわけ結合する薬品とを提供するステップと、分離チャネルに沿って電界を印加するステップであって、電界は電界プロファイルを有し、それにより結合及び非結合検体及び/又は薬品を流体に対して移動させる、ステップと、印加される電界を変更するステップであって、それにより分離チャネルに対する電界プロファイルを調整し、延いては電界による電気的力と流体による流体力学的力との組み合わされた影響の下で、流体中の互いに離れた位置で結合検体及び非結合検体を濃縮する、ステップとを含む。実施例では、流動媒体は試料であってもよい。
【0015】
電気泳動によって対象を分離するための電界シフト分析の概念は、本発明者のうちの一人によって提案されており、それによれば印加される電界は、一定ではなく、時間依存電界勾配を有している。この概念を使用している電気泳動デバイスの実例は、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれている国際公開第2006/070176号及び国際公開第2012/153108号に記載されている。従来の技法と比較すると、電界シフト分析は、分析能力及び処理能力の点で著しい可能性を提供し、数桁速い分離速度及び数桁敏感な分離を提供している。しかしながら電界シフト技法は、これまでのところ、ここで特許請求される、結合薬品に結合する検体の検出には適用されていない。このような評価分析を実施するための従来の手段には、電気泳動の複数のステップ、即ちブロッティング/隔離、洗浄及び複数の結合薬品培養、及び信号増幅段が必要であるため、当業者は、これを実施することは考えなかったであろう。驚くべきことには、本発明者らは、結合薬品及び結合検体は、電気泳動媒体上で連携した状態を維持し、正確な識別及び定量化を提供するために必要であるのは、単純な単一のステップのみであることを見出した。これは、タグが振られた結合薬品を使用することによってさらに強化され得る。また、結合分析は、実際には、解離することなく電気泳動媒体中で実施され得ることも同じく驚くべきことである。実際、上で示したように、この方法は、何らかの特殊な追加媒体又は処理を必要とすることなく、検体含有試料(生物学的流体、例えば血液、唾液、環境試料、等々など)上で直接実施され得るため、特定の実施例では特定の電気泳動媒体は不要である。
【0016】
電界シフト・デバイスは、通常、電極の回路網を使用して、ミクロ流体環境中の検体及び他の材料を分離し、且つ、操作するための適切な時間依存電界勾配を印加する。例えばミクロ流体環境は、断面寸法が0.1μmから数百μm程度で、長さが少なくとも500μmのガラス・デバイスの中又は上に平面分離チャネルを含むことができる。異なる電気泳動デバイスの他の実例は、米国特許第6277258号及び米国特許出願第2002/0070113号に見出すことができる。
【0017】
本発明は、抗体/検体結合の直接視覚化を可能にし、したがって検体の実際の存在を検証し、且つ、適切に定量化することができる。これは、試料中にごく少量の検体しか存在していない場合にとりわけ有用である。本発明は、所望の検体を高水準の感度でほぼ即座に識別することができる免疫評価分析を提供することができる。また、デバイスの性質により、この方法を自動化し、且つ、診断及び法廷方法を実施するための強力な新しい技法を提供する高いスループット方式で実施することも同じく可能である。
【0018】
また、本発明は、ウエスタン・ブロッティング及び毛管免疫評価分析などの他の形態の電気泳動に固有の、時間が掛かり、労力を要し、且つ、高価な阻止ステップ、洗浄ステップ及び培養ステップを経る必要なく、試料中の検体を検出するための高速で、且つ、単純なプロセスを同じく提供する。実際、試料を本明細書において説明されているデバイスに直接適用することにより、試料の処理を全く必要とすることなく、著しく速く結果を得ることができる。特定のとりわけ粘着性の試料は、本発明の方法の実施を可能にするためには追加流体の追加が必要であり得ることが想定されているが、これは、当業者には理解されるように、使用の時点で決定されることになる。
【0019】
本発明によれば、試料の処理を全く必要とすることなく実施され得る直接単一ステップ解析が可能である。したがって本発明によれば数分で検体を視覚化することができ、これは、本発明を例えば研究、診断及び法廷目的のための著しく有用なツールにしている。
【0020】
方法は、結合薬品と同じ位置で検体を検出する他のステップを含み得ることが想定されている。本発明の電気泳動方法は、例えば検体の大きさ及び他の特性(例えば電荷)に応じて、特定の位置で検体を同時に分離し、且つ、濃縮する。これを流動媒体中でほぼ即座に視覚化することが可能である。
【0021】
したがって検体は、検体と結合薬品の組合せの大きいサイズによって、結合薬品とその同じ位置で識別され得る。
【0022】
試料及び薬品は、流動媒体との接触に先立って組み合わされ得ることが想定されている。試料と結合薬品の事前混合により、電気泳動に先立って結合薬品を検体に結合することができる。これは、分離チャネル内の結合検体の検出を促進する利点を提供することができる。さらに、これは、電気泳動に先立つ検体への結合薬品の結合を強化することができ、これは、非結合検体と結合薬品を個別に駆動するように作用し得る。
【0023】
別法としては、流動媒体及び結合薬品が予め充填された分離チャネルに試料を加えることも可能である。したがって検体への結合薬品の結合は、分離チャネル内で、電気泳動の前か、又は電気泳動中のいずれかで生じ得る。例えば試料、結合薬品、流動媒体及び任意の他の適切な緩衝剤が混合される順序は、一部には試料及び結合薬品の性質で決まる。実際、使用される流体のタイプは、同じく役割を果たすことができる。当業者には理解されるように、抗体が結合薬品として使用される場合、抗体の結合作用が速すぎるため、試料及び結合薬品が分離チャネル内で組み合わされると、結合の何らかの低減が観察されることはありそうにない。試料、結合薬品及び流動媒体は、分離チャネルに加える前に、又は分離チャネルに加えた後に、任意の順序で混合され得る。
【0024】
さらに他の代替では、試料に結合薬品を加えることができ、この試料は、次に、何らかの他の流動媒体がない分離チャネルに直接加えられる。したがってこの実施例では流動媒体は試料である。別法としては、分離チャネルに試料を直接加えることも可能であり、次に、この場合も何らかの他の流動媒体がない分離チャネル内の試料に結合薬品が加えられる。この実施例でも流動媒体は試料である。特定の状況では、例えば試料がとりわけ粘着性であるか、又は体積が小さい場合、分離チャネル上への充填に先立って、又は分離チャネル上に充填する際に、追加流動媒体が試料に加えられ得ることは理解されよう。
【0025】
特定の試料は、追加流動媒体がない分離チャネルに直接加えるのにうってつけであり得ることが想定されている。例えば水性試料及び/又は検体が高い濃度で存在しない試料は、電気泳動のための、何らかの追加流動媒体がない分離チャネルに優先的に加えられ得る。これは、例えば血漿、唾液、尿、環境源からの水、等々に適用することができる。検体が低濃度で存在している試料、又は電界中での極めて高速の分析が要求される試料の直接電気泳動を利用することはとりわけ有利であり得る。これにより、最小の試料準備で、速やかに結果を得ることができる。従来の知恵は、電気泳動のためには特定の緩衝剤が要求されることを指示しているため、これが可能であることは驚くべきことである。本発明は、驚くべきことには、特定の緩衝剤に対する要求事項を適用しないよう、より適合性があり、より柔軟性があり、且つ、より強力な電気泳動方法を提供する。
【0026】
本発明の方法を実施している間、ある位置における検体の濃度の変化が常に監視され得ることが想定されている。その位置における検体の濃度は、連続的に、又は定義済みの時間間隔で監視され得る。したがって特定の位置における信号の増加を較正ステップとして決定し、且つ、時間に対してプロットすることができ、又は実際に、元の試料中の検体の濃度に関する情報を提供することができる。したがって検体への結合薬品の結合を実時間で見ることができ、また、有用な診断情報又は分析情報を試料から引き出すことができる。この実時間信号は、試料中の検体を検出するための他の方法に優る大きな利点を提供する。
【0027】
「検体」という用語は、その検出が望ましく、また、そのために特定の結合薬品を利用することができる任意の実体を意味している。検体は、生物学的細胞(例えば原核生物細胞又は真核生物細胞)、又はタンパク質、核酸若しくは他の生物学的重合体などの生物学的分子を含むことが好ましい。例えば生物学的分子は、ペプチド、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、脂質、多糖類又はそれらの変異を含むことができる。例示的変異はグリコシル化ペプチドを含むことができる。検体は、バクテリア細胞又はウイルス又は癌細胞であってもよい。
【0028】
「薬品」という用語は、分子又はその一部などの特定のターゲットを認識し、且つ、特定のターゲットに結合する能力を有する任意の実体を意図している。「結合」は、非還元条件の下で半永久的である分子間の任意の強力な、典型的には非共有結合相互作用を意味している。このような相互作用は、当業者によく理解されるように、典型的には水素結合、イオン結合及び/又はVan der Waals力を介した作用である。
【0029】
試料中の「検体」及び「薬品」並びに任意の他の分子は、本明細書においては集合的に、分離されるべき「対象」と呼ばれ得る。
【0030】
薬品は、抗体若しくは抗原結合断片又はそれらの誘導体を含むことが好ましい。「免疫グロブリン」という用語は、本明細書においては「抗体」という用語と交換可能に使用されている。「抗体、抗原結合断片又はそれらの誘導体」は、抗体は、Fab様分子、Fv分子、VH及びVLパートナー領域がフレキシブル・オリゴペプチド、及び隔離されたV領域を含む単一領域抗体(dAbs)を介してリンクされる単鎖Fv(ScFv)分子などの抗体又はその抗原結合断片を含むことを意味することを含むが、本明細書において言及されている優先的結合特性を示す任意の他の配位子であってもよい。抗体はキメラ抗体であってもよい。抗体は単クローン性であることが期待されるが、それらはポリクローン性であってもよい。「抗原」は、免疫グロブリンによってとりわけ認識される抗原決定基を含有する任意の化合物の意味を含む。したがって検体は、薬品が抗体である場合は抗原として記述され得る。抗体を結合する抗原決定基は、検体上で見出されることが想定されている。
【0031】
代替実施例では、薬品は核酸分子であってもよい。これは、検体がオリゴマー核酸分子(即ち短核酸分子)である場合にとりわけ適切である。したがってこのような状況における薬品及び検体は、相互の特定のハイブリッド形成(即ち結合)を許容する相補核酸配列を有することが期待される。「相補」は、薬品オリゴマー化合物又は検体核酸中のどこに2つの単量体サブユニットが位置しているかに無関係に、その2つの単量体サブユニットを正確にペアリングする能力を意味することを意図している。例えばオリゴマー化合物の特定の位置における単量体サブユニットが、ターゲット核酸の特定の位置で水素を単量体サブユニットと結合させることができる場合、オリゴマー化合物と検体核酸の間の水素結合の位置が相補位置と見なされる。オリゴマー化合物及びターゲット核酸は、個々の分子中の十分な数の相補位置が互いに水素結合することができる単量体サブユニットによって占有される場合、互いに「実質的に相補」である。したがって「実質的に相補」という用語は、安定した特定の結合が薬品オリゴマー化合物と検体核酸の間に生じるよう、十分な数の単量体サブユニットにわたる十分な程度に正確なペアリングを示すために使用される。一般に、オリゴマー化合物薬品は、5’から3’方向で書かれると、検体(ターゲット)核酸に対して「アンチセンス」であり、それは、ターゲット核酸の対応する領域の逆補数を含む。当技術分野では、オリゴマー化合物の配列は、とりわけハイブリッド形成可能にされるべきそのターゲット核酸の相補に対して100%相補である必要はないことは理解されよう。さらに、オリゴマー化合物は、介在する、或いは隣接するセグメントがハイブリッド形成に含まれないよう、1つ又は複数のセグメントにわたってハイブリッド形成することができる(例えばバルジ、ループ構造又はヘアピン構造)。本発明のいくつかの実施例では、オリゴマー化合物は、ターゲット核酸内のターゲット領域に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%又は少なくとも85%の配列相補性を含む。本発明の他の実施例では、オリゴマー化合物は、ターゲット核酸内のターゲット領域に対する少なくとも90%の配列相補性を含む。本発明の他の実施例では、オリゴマー化合物は、ターゲット核酸内のターゲット領域に対する少なくとも95%又は少なくとも99%の配列相補性を含む。例えばオリゴマー化合物の20個の核酸塩基のうちの18個がターゲット配列に対して相補であるオリゴマー化合物は、90パーセントの相補性を表すことになる。この実例では、残りの非相補核酸塩基は、クラスタ化することができるか、又は相補核酸塩基を散在させることができ、また、互いに対して、又は相補核酸塩基に対して連続している必要はない。したがって長さが18個の核酸塩基で、ターゲット核酸を有する完全な相補性の2つの領域が側面に位置する4つの非相補核酸塩基を有するオリゴマー化合物は、ターゲット核酸を有する77.8%の総合相補性を有することになり、したがって本発明の範囲の範疇であることになる。ターゲット核酸の領域を有するオリゴマー化合物の百分率相補性は、当技術分野で知られているBLAST(基本局所整列探索ツール:basic local alignment search tools)プログラム及びPowerBLASTプログラム(Altschul et al.、 J. Mol. Biol.、1990、215、403-410; Zhang and Madden、Genome Res.、1997、7、649-656)を使用してルーチン的に決定され得る。
【0032】
薬品には検出可能部分のラベルが振られ得ることが好ましい。結合薬品への検出可能部分のラベル付けは、一般に、当業者には理解されるように、薬品とその部分との間の、恐らくはリンキング分子を介した永久共有結合相互作用である。「検出可能部分」は、何らかの方法で直接的又は間接的に視覚化され、若しくは検出されることを許容し、それによりその存在が決定され得る特性を有する任意のレポータ分子又は原子を意味している。本発明の方法に使用するための適切な検出可能部分の実例は、蛍光分子(例えばAlexa-488)、光可逆変色化合物(例えばジアリールエテン)、酵素、フルオロゲン(例えばY-FAST)、放射性ラベル(例えば32P又はH)、DNAプローブ、重原子(例えばAu)又は電気化学発光タグを含む。蛍光タグは、自然に、又は可視光若しくは紫外光などの放射に露出されると蛍光光を放出する任意の分子であってもよい。適切な蛍光タグの実例は、当業者には十分に理解されるように、臭化エチジウム、フルオレセイン、ローダミン、緑、黄、赤若しくはシアン蛍光タンパク質、Alexa Fluor染料(例えばAlexa-488、-350、-405、-430、-500、-514、-532、-546、-555、-568、-594、-610、-633、-635、-647、-660、-680、-700、-750又は-790)、又は任意の他の商用的に入手可能な蛍光タグを含む。
【0033】
別法又は追加として、ラベル・フリー方法を使用して検体及び/又は結合薬品が検出され得る。任意の適切なラベル・フリー検出方法が使用され得る。例えばUV吸収を使用して検体及び結合薬品が検出され得る。この方法は、流体中の位置における試料の濃度のため、UV吸収にとりわけ適している。信号は、1000倍にしてUV吸収に寄与させることによって集中され得る。一般に、UV吸収の使用は、蛍光検出と比較すると、検出される信号が極めて小さく、場合によっては1000倍未満であり得るため、ペプチド検出に限られている。この方法で達成される試料の局所濃度は、UV吸収の限界を克服し、敏感なUV吸収を可能にすることができる。タンパク質を検出する場合、150nmと350nmの間、例えば180nmと300nmの間、200nmと280nmの間、又は210nmと220nmの間の波長が使用され得ることが想定されている。タンパク質のバックボーンを検出するためには約215nmの波長が十分であり、したがってすべてのタンパク質の検出に適していることが想定されている。トリプトファンなどの特定のアミノ酸がUVを吸収する波長であるため、280nm近辺の波長も場合によっては同じく適している。さらに、当業者には理解されるように、DNAを検出し、又はRNAなどの他の核酸を検出する場合、約255nmの波長も場合によっては適している。実際、当業者には理解されるように、検体及び/又は結合薬品がUVを吸収する任意の波長が適している。しかしながらこれらの短い波長では、本発明の方法を実施するために使用されるデバイスの分離チャネル及び他の構成要素を構築するために使用される材料によるUV放射の吸収が結果を妨害することがあり得る。例えば標準ガラス及びPMMA(Perspex)などの材料は放射を吸収することになる。したがってこの問題に対処するために、当業者には理解されるように、水晶、融解シリカ又はシクロ・オレフィン・コポリマー(COC:Cyclic Olefin Copolymer)プラスチックなどの材料を使用して、必要なデバイスの分離チャネル及び他の部品が製造され得ることが想定されている。この方法に使用され得る検体及び結合薬品を検出する代替ラベル・フリー方法は、レーザ誘導蛍光(LIF:Laser Induced Fluorescence)である。LIFは、励起光源がレーザである蛍光ラベルを使用した単純な蛍光検出を単に意味しているのではなく、当業者には理解されるように、強力な励起源、即ちレーザの使用による固有蛍光の誘導を同じく含む。他の適切なラベル・フリー検出方法も同じく想定されている。
【0034】
試料は、生物学的流体の試料であってもよいことが想定されている。例えば試料は、血液、血漿、血清、精液、唾液、汗、リンパ液、脳脊髄液、糞、腹膜液、喀痰若しくは粘液試料又は任意の他の試料、或いは試験のために人体又は動物体から取られた綿棒であってもよい。試料は、検出されるべき検体を含有した環境試料又は任意の他の試料、例えば犯罪現場からの試料であってもよい。試料は未処理のまま使用されても、又は精製、濃縮のために処理されてもよく、若しくは試料を消毒して安全性を高め、又は本発明の方法を使用した検体の検出を改善することも可能である。例えば試料は、次に、当業者には妥当であると見なされるように、加熱処理又は濾過又は乾燥され得る。また、試料は、何らかの他の流体の追加を必要とすることなく、本明細書において定義されている「流動媒体」として作用することも可能である。
【0035】
「分離チャネル」は、本発明による電気泳動を施す際に、流動媒体、検体及び薬品が存在し得る任意の密閉空間を意味している。分離チャネルは、電気泳動のために使用される典型的なチャネルであっても、又は複数のチャネルであってもよい。分離チャネルの性質は、本発明のアプリケーションのタイプに応じて様々であることは理解されよう。一般に、分離チャネルは、チャネル又は他の物理的実体によって物理的に拘束されている、又はいないに関わらず、分析中、流体又は重要な対象が収容され得る(且つ/又は通過し得る)任意の体積を表すことができる。例えば分離チャネルが1つ又は複数のチャネルを備えている場合、個々のチャネルは、物理的に境界が定められても、又は定められなくてもよく、分離チャネルは、例えば、「自由流」電気泳動デバイス又は「スラブ-ゲル」技法における検体によって取られる1つ又は複数の通路(「想像」又は「仮想」チャネルと見なされ得る)を包含することができる。以下で説明される実施例は、主として、対象を分離するための物理的に画定されたチャネルの形態の分離チャネルを参照しているが、それに限定されることは意図されていないことは理解されよう。したがって分離チャネルは、当業者には理解されるように、井戸、盆、毛管、又は電気泳動が生じ得る任意の他の適切な容器であってもよい。チャネルは開閉されてもよく、また、任意のあらゆる角度から、又は当技術分野で知られている典型的な方法による手段から充填され得る。分離チャネルは、参照によりその教示が本明細書に組み込まれている国際公開第2006/070176号又は国際公開第2012/153108号に記載されているデバイスなどチップ上に含有されることが好ましい。
【0036】
「位置で濃縮する」は、検体及び薬品が、流体によって加えられる流体力学的力及び電界によって加えられる電気的力に従ってそれらが平衡に到達する電界中の位置又は相へ移動することを意図している。この位置は、媒体及び分離チャネル内の特定の位置に対応し得るが、これは、電界及び流体力学的力に従って、媒体及び分離チャネルに対して同じく移動し得る。したがって流体/電界中の異なる位置における結合検体及び薬品の実例は、同じ位置又は実質的に同じ位置へ移動することになり、したがってそれらがどこかから移動すると、その特定の位置におけるそれらの濃度が高くなるよう、濃縮効果をもたらす。これは信号を強くし、検体の存在の有無を決定するための速やかな方法を提供する。結合検体が最終的に存在することになる位置に最初に非結合検体が存在している場合、その非結合検体が最初にその位置から、結合薬品に出会うまで遠ざかる方向へ移動し、次に、結合すると、その元の位置へ移動して戻ることになる。
【0037】
「流体」という用語は、ここでは、任意の適切な電気泳動媒体を記述するために使用されていることは認識されよう。例えば流体は、液体、ゲル、ふるい分析マトリックス、又は移動する対象に対して摩擦力若しくは流体力学的力を生成することができる任意の他の材料であってもよい。例えば流体は、当業者には理解されるように、ポリアクリルアミド若しくはアガロース、又は任意の他の適切な流体であってもよい。流体は、単純に、何らかの処理又は他の流体の追加がない試料(例えば自然に見出される試料)であってもよい。これは、検体を含有した水性流体を含む試料に対してとりわけ想定されている。
【0038】
本発明の方法の実施例では、電界は、電界プロファイルの少なくとも一部に沿って、分離チャネルに対して変化させることができる。追加又は別法として、電界プロファイルの少なくとも一部は、非ゼロである勾配を有することができる。
【0039】
印加される電界を電気泳動プロセスの実質的に最初から(検体が濃縮された後ではなく)分離チャネルに対して変化させることにより、分離チャネルを通って流れる流体を必要とすることなく対象が分離され得る。印加される電界は時間変化電界プロファイルを確立し、この時間変化電界プロファイルは、粒子を強制して流体を通過させることによって電気泳動分離を達成し、したがってこの電気泳動分離は、それ自体、静止的であり得る。電界は、電界プロファイルの少なくとも一部に沿って一定ではない(チャネルに対して)ことに留意されたい。言い換えると、(非ゼロ)時間変化電界勾配が印加される。したがって対象は、時間によって広くならない可動バンドに分離する。
【0040】
これは、複雑で高価なポンプ供給設備の必要性を不要にし、また、従来の電気泳動システムが遭遇する放物線速度に関連する問題を除去する。さらに、この技法によれば、流体を流す必要がないため、ゲル又はふるい分析マトリックスを分離流体として良好に使用することができる。特定の電界及びその変化は、分離されるべき対象のタイプ及び分離媒体として使用される流体に依存することになる。しかしながら電界は、電界プロファイルが分離チャネルに対して移動するような方法で変更されることが好ましい。
【0041】
電界プロファイルは、移動すると形状及び/又は強度が変化し得るが、電界プロファイルは、分離チャネルに対して移動しても不変を維持する(即ちその形状及び強度を維持する)ことがさらに好ましい。典型的には、対象をチャネルに沿って分離させることが好都合であり、したがって電界は、電界プロファイルが分離チャネルに沿って平行移動するような方法で変更されることが好ましい。
【0042】
分離されるべき対象に応じて、ある程度の流体がチャネルを流れている状態を維持することが有利であり得る。しかしながら既に説明したように、通常、流体の流れが除去され得ることが有利であり、したがって流体及び分離チャネルは、互いに実質的に静止していることが好ましい。
【0043】
印加される電界の特定の形状は、デバイスからの所望の出力に従って選択されることになる。しかしながら電界プロファイルは、典型的には、個々の対象が遭遇する、電界によって加えられる電気的力と流体によって加えられる流体力学的力との組合せから生じる正味の力によって対象が特定の位置に集中し、且つ、このような位置を常に維持するように形状化される。電界プロファイルは、清澄性が増して対象が集中し、且つ、最終的に有限点を分離チャネル内に獲得し、また、実験条件が同じ条件を維持している限り、対象が同じ場所を維持し、時間が経過しても拡散しないよう、個々の点の周りの対象の拡散が拘束又は閉じ込められるような電界プロファイルであることが好ましい。以下、これは「拘束拡散」として参照される。
【0044】
対象が分離され、且つ、特異点に濃縮されると、電界は除去され得る。しかしながら引き続いて電界を印加し、且つ、対象が分離すると、個々の対象が分離チャネルに対して非ゼロ終端速度で移動するよう、電界を変化させることが有利である。連続的に移動する対象は時間が経過しても拡散しないため、これは高い分解能を維持する。
【0045】
従来の電気泳動分離では、異なるバンドは異なる終端速度で移動する。言い換えると、それらは、緩衝剤又はゲルを通過する際に、互いにますます遠ざかる。相対距離の増加が拡散のために広がるバンドより速いと仮定すると、電気泳動の分解能は、分離長さの増加に応じて(即ち分離チャネルが長くなるほど)高くなる。しかしながら、拡散及び極めて大きい分離チャネルのために時間の経過と共に弱くなる信号は実際的ではない。したがって実際には、バンドがチャネルの端に到達すると「バンド損失」が生じ得る。それとは対照的に、本発明では、対象は実質的に等しい終端速度で移動することが好ましい。したがって分離効率は分離チャネルの長さに依存せず、その代わりに印加される時間変化電界の特性及び分離緩衝剤の特性に依存する。個々の対象の終端速度は本質的に同じであり、したがって各々の間の間隔が維持されることが好ましい。終端速度は常に一定であることがさらに好ましい。
【0046】
電界は、線形であっても、又は非線形であってもよい。電界の少なくとも一部は、チャネルに沿った距離に対して単調であることが有利である。これは、試料分子の分離及びバンド拡散の拘束を容易にする。電界は、電界プロファイルの一部に沿って連続しているべきであることが好ましい。電界プロファイルは、分離チャネルに沿ってどちらの方向にも移動し得ることにさらに留意されたい。
【0047】
適切な電界波形、及び適切な電界を得るためのデバイス、並びに本発明の方法に使用され得る適切な電界の詳細は、参照によりその教示が本明細書に組み込まれている国際公開第2006/070176号及び国際公開第2012/153108号に見出され得る。
【0048】
本発明の任意の実施例では、例えば単一の分離チャネル内で複数の検体が単一の評価分析で同時に検出され得ることが意図されている。したがっていくつかの異なる免疫評価分析(例えば抗体又はその断片若しくは誘導体が結合薬品である場合)は単一のチャネル内で実施され得る。同じ試料中の異なる検体を評価分析する場合、個々の特定の結合薬品のための異なる検出可能部分が使用され得ることが想定されている。別法又は追加として、異なる物理化学的特性(電荷又は質量など)を有する検体が検出される場合、それらには、それらを電界内の異なる位置に位置付け、したがってその位置に応じて区別されることが期待されることになる。本明細書において説明されている電界シフト特性は、分析の一環としてオペレータによる異なる検体位置へのフォーカス・イン及びアウトを許容することになる。電界は、選択された特定のアセンブリに選択的に集中し、且つ、フォーカス・インするために使用され得るため、このフォーカス・イン及びアウトは選択的アセンブリ集中と呼ばれ得る。当然、とりわけプロセスが自動化され、且つ、コンピュータによって制御されると、電界が許容するように、異なる検体のアセンブリに同時に選択的に集中することが可能になる。実際、異なる検体が同様の位置に存在していても、それらは、選択的アセンブリ集中及び/又はそれらの位置を識別するために使用される検出可能部分の高い精度に従って区別され得る。例えば特定の色が使用される場合、異なる色の同じ位置には、ターゲット検体が同様の物理化学的特性を有していることを立証する異なる色リードアウトを提供することが期待されることになる。例えば同じ位置の青色及び黄色の信号は緑色の信号を提供することになる。単一のデバイス上の複数のチャネル内で、多様な試料の極めて複雑な分析を許容する複数の評価分析が実施され得る。複数の検体の同時分析は、例えば試料の広範なプロテオーム分析又はトランスクリプトーム分析を実施する場合に有用であり得る。また、組み合わされたタンパク質は、電界中の単一のタンパク質とは別の位置に存在することになるため、このタイプの評価分析は、試料中におけるタンパク質間相互作用の研究に同じく有用であり得る。したがって検出される検体は、単一のタンパク質又は他のマクロ分子(例えば核酸、多糖類、リン脂質、等々)だけでなく、タンパク質又は他の分子の複合体でもあり得る。当業者には理解されるように、このような複雑な高スループット評価分析が有用であり得る評価分析の多くの実例が存在している。環境分野では、複数の毒性化合物又は病原体に対して試料を同時に遮蔽することができ、また、ほぼ即座に結果が得られる。特定の刺激にさらされた細胞中の発現タンパク質の実時間分析を実施して、迅速で、且つ、正確な生化学分析が提供され得る。実際、このような分析は、流動媒体中で試験済みの刺激にさらされている細胞を使用して実時間で実施され得る。本発明によれば、検体の複雑なパターンを同時に検出して、速やかなリードアウトを提供することができ、これは、診断、毒科学及び法廷分野でとりわけ役に立つことになる。本明細書において説明されている複数の検体に対して遮蔽することが有利であり得る多くのアプリケーションが想定され得る。例えば本発明を使用して、薬物ターゲットが化合物ライブラリに対して遮蔽され、それにより適切な薬物候補が識別され、又は適切なアプタマーが識別され得る。
【0049】
有利には、本発明の方法は、(i)非結合検体と結合検体の間の間隔を調整する、(i)非結合検体と結合検体の相対位置を調整する、(iii)非結合検体及び結合検体の信号の分解能を調整する、(iv)非結合検体及び結合検体からの信号の強度を調整する、且つ/又は(v)流体内の特定の位置における非結合検体及び結合検体の濃度を調整するために電界を修正するステップをさらに含むことができる。これは、例えば分離チャネルに沿った電界プロファイルの形状、その強度又はその位置を変更することによって達成され得る。これは、例えば対象の様々な範囲を観察し、対象を分離チャネルに沿った特定の点へ移動させ、又は分解可能な対象の数を調整するために使用され得る。詳細には、電界は、その時間依存性及び/又はその強度を変更することによって修正され得る。対象は、一般に、蛍光チャート上のピークとして視覚化されることになり、また、この異なるピークは、検体及び薬品毎に、単独で、又は組み合わされて識別され得ることは当業者には理解されよう。ピークは、対象が特定の位置に集中するとその高さが高くなり、また、対象が特定の位置から離れて移動するとその高さが低くなることになる。
【0050】
実施例では、本発明の方法は、検体及び薬品が位置についた後、分離チャネルから重要な試料を抽出するステップをさらに含むことができる。抽出は、当業者には理解されるように、試料が出口ポートへ向かって移動するように電界を調整することによるものであっても、又は分離チャネル内の適切な位置からの直接物理持上げによるものであってもよい。
【0051】
有利には、本発明の方法は、電界を発振させるステップをさらに含むことができ、それにより検体及び/又は薬品の運動の方向が反転し、したがって検体及び/又は薬品は、分離チャネルに沿って前後に移動する。これにより、個々の対象が繰り返し画像化され得るか、さもなければ検出され、したがって低密度成分に対するデバイスの感度を高くすることができる。これは、閉ループ分離チャネルの周りの回路内で対象を移動させることによって同じく達成され得る。実際、これは、特定の検体及び薬品にフォーカス・イン・オンし、それにより特定の検体を直接分析するために使用され得る。したがって初期電気泳動の間、又は初期電気泳動の後に電界プロファイルを変更して、識別される信号を修正し、且つ、重要な異なる検体を調べることができる。この柔軟で、且つ、強力な手法は、試料中の検体を検出するための他のどのような形態の電気泳動評価分析を使用しても不可能である。この選択的アセンブリ集中効果については、特定の実例を参照して実例で説明される。本発明の方法を実施するデバイスは、すべてのピークが識別される「監視」モードから、必要に応じて特定のピークがフォーカス・イン・オンされる「発見」モードへ移動され得る。
【0052】
したがってこの方法の実施例では、分離チャネルは閉ループであってもよく、また、この事例では、印加される電界はループの周りに周期的であることが好ましい。
【0053】
この電気泳動方法の他の実施例では、電界は電界印加アセンブリによって印加され、また、電気界面領域は、分離チャネルと電界印加アセンブリの間に提供されてもよく、電気界面領域は、電界が分離チャネルから間隔を隔てた位置における電界印加アセンブリによって電気界面領域に印加されるように配置され、電気界面領域は、電界印加アセンブリによって印加される電界が電気界面領域によって平滑化され、したがって分離チャネル内に確立される電界プロファイルが実質的に連続するよう、分離チャネルに隣接し、且つ、分離チャネルと接触して配置された少なくともイオン導電材料を含む。
【0054】
したがってこの実施例によれば、印加される電界は、電界印加アセンブリ(例えば電極アレイ)から得られる離散電界を分離チャネル内で実質的に連続する電界に変換することによって平滑化することができる。「離散」電界は、非連続である、例えば「ステップ-プロファイル」形状の電界に観察され得るような、大きさにおけるギャップ又は突然の飛越し又は降下を含む電界プロファイルを有する電界である。例えば離散電界は、分離チャネルの周囲に沿って互いに間隔を隔てた多点電圧源から生じ得る(例えばその通路に沿ったチャネルの事例の場合)。「実質的に連続する」電界は、離散電界より滑らかな電界を意味している。例えば上記の実例では、平滑化された電界の値は、ある点の電圧源の位置と次の点の電圧源の位置の間の間隔で、第1の点の電圧源によって確立される電界に対応する値から、第2の点の電圧源によって確立される電界に対応する値まで徐々に変化することが好ましい。より一般的には、実質的に連続する電界は、印加される離散値の間で円滑に補間され得る。しかしながら適用される平滑化の程度に応じて、連続する電界は、完全な線形勾配又は曲線からある程度逸脱してもよく、また、依然としてある程度の不連続を含み得る(大きさは離散電界の大きさより小さいが)。
【0055】
電界整形は、分離チャネルと、適切な電気特性及び幾何構造特性を有する電界印加アセンブリとの間に電気界面領域を提供することによって達成され、それにより電界印加アセンブリは、電気界面領域によって分離チャネルから間隔が隔てられる。詳細には、電界平滑化は、少なくとも部分的に、電気界面領域の一部(又はすべて)を形成している、分離チャネルに隣接して、且つ、分離チャネルと接触して配置されたイオン導電材料内のイオン電流輸送によって実施される。この構造は、電気界面領域内又は電極(又は他の電圧源)のいずれかで何らかの電気分解が生じ、分離チャネル内では生じないという実質的な利点を有している。この方法によれば、分離チャネル自体内の環境に対する破壊は存在しない。
【0056】
電気界面領域は、分離チャネルの周囲全体に沿って提供される必要はないが、分離チャネルの一部に沿ってのみ延在し得ることに留意されたい。例えば電気界面領域は、チャネルの長さ全体に沿って提供される必要はないが、チャネルの一部に沿ってのみ延在し得る。
【0057】
分離チャネル「に隣接し、且つ、接触する」は、何らかの他の材料タイプを間に介在することなく、イオン導電材料が分離チャネルと直接電気接触して提供されることを意味している。電気界面領域は、単一の構成要素(イオン導電材料)、又は電界印加アセンブリと分離チャネルの間に直列に配置され(且つ、互いに電気接触している)2つ以上の構成要素で構築され得る。一実例では、以下でより詳細に説明されるように、電気界面領域は、分離チャネルに隣接しているイオン導電材料、及び非イオン導電材料、例えば電気抵抗材料を含むことができ、非イオン導電材料は、電界印加アセンブリとイオン導電材料の間に提供される。しかしながら他の有利な実施例では、電気界面領域はイオン導電材料からなる。言い換えると、電気界面領域は、その全体がイオン導電材料で形成される。例えば上で言及した、分離チャネルに直接接触する(単一の)イオン導電材料は、分離チャネルと電界印加アセンブリの間を連続的に延在し得る。別法としては、電気界面領域を形成するべく、2つ以上のイオン導電構成要素、又はイオン導電構成要素と非イオン導電構成要素の混合物が、分離チャネルと電界印加アセンブリの間に直列に展開され得る。
【0058】
「イオン導電」という用語は、材料がイオンの移動によって電気を導くことを意味している。また、材料を通過する電子又は正孔の移動が存在しても、又は存在しなくてもよい。分離チャネルと接触する電気界面領域の部分に加えて、分離チャネルも同じくイオン導電であり、主として電気導電でなないことが好ましい。例えば分離チャネルは、以下でより詳細に説明されるように、水性緩衝剤などのイオン導体が充填されたチャネルであってもよい。
【0059】
電気界面領域を構築している1つ又は複数の構成要素の導電率/抵抗率(及びとりわけイオン導電材料の導電率/抵抗率)は、分離チャネルの導電率/抵抗率と「整合」するように構成されるべきであることが望ましい。「整合した」によれば、電気界面領域の個々の構成要素は、分離チャネルのイオン導電率と等しいイオン導電率、又は少なくとも同様のイオン導電率を有するべきであることは要求されないが、そうであることが好ましい。必要なことは、相対導電率/抵抗率の平衡が取られて、電気界面領域又は分離チャネルのいずれかによって優先的に導かれる電流が回避されることである。電気界面領域の導電率が大きすぎるか、又は小さすぎる場合、電界形状は、希望通りには分離チャネル内に形成することができない。これは、流体及びイオン導電材料の相対導電率が著しく異なっている場合、オームの法則に従って、印加される電圧から生じるすべての電流が電気界面領域のみを通って、又は分離チャネルのみを通って流れ得ることによるものである。これは、電界平滑化効果を著しく変えて、電界の過剰平滑化又は過少平滑化をもたらすことになる。詳細には、電気界面領域の相対導電率が小さすぎる場合、分離チャネル内に得られる電界が減衰される、即ち電力が電気界面領域で本質的に失われるため、電極に印加される意図された電界よりはるかに低い電界が出現し得る。
【0060】
電気界面領域を形成している構成要素及び分離チャネルの抵抗率/導電率が全く同じであることは、整合を達成するための本質ではなく、実際、それを達成することは極端に困難である。しかしながら好ましい構成では、導電率/抵抗率は、同じ程度の大きさである。とりわけ好ましい実施例では、分離チャネルを構築している構成要素の抵抗率/導電率に対する電気界面領域を構築している構成要素の抵抗率/導電率の比率(又はその逆)は、1:100と1:1の間であり、好ましくは1:50と1:1の間であり、より好ましくは1:10と1:1の間である。
【0061】
有利には、分離チャネルと接触しているイオン導電材料は、ガス(例えば電極の電気分解によって生成される)に対して不浸透であり、それによりガスが分離チャネルに到達するのを防止する。別法としては、あらゆるガス気泡を分離チャネルから誘導するような幾何構造にすることも可能である。イオン導電材料は、分離チャネルの内側で分離されるあらゆる検体が電極に到達するのを防止することが好ましい。例えば材料中のあらゆる細孔は、対象の通過を許容するために極めて小さいことが好ましい。これは、分離チャネル内における対象の保持を促進し、試料の損失を回避する。
【0062】
特定の好ましい実例では、電気界面領域は、薄い「膜」様幾何構造又は「フィルム」様幾何構造を有し、それによりその幅(即ち電界印加アセンブリと分離チャネルの間の距離)は、前記距離及び分離チャネル(例えばチャネルの長軸)の両方に対して直角の方向におけるその厚さより少なくとも広い。分離チャネルと電界印加アセンブリの間の距離は、電気界面領域の厚さの少なくとも2倍であることがより好ましく、電気界面領域の厚さの少なくとも5倍であることがより好ましく、少なくとも5倍であることがさらに好ましく、少なくとも10倍であることがより一層好ましく、少なくとも100倍であることが最も好ましい。
【0063】
好ましい膜様幾何構造は、電極間に得られる電圧を有効に平均化する。これは、分離チャネルの周囲に沿った個々の点の電圧を「広げ」(他のどの方向にも比較的小さい電圧分散で)、それにより電界印加アセンブリから、主として分離チャネルの周囲に沿って印加される離散電界の平滑化を可能にする。材料を薄く維持することにより、電圧は、材料の厚さ方向において実質的に一定にされ、それにより分離チャネル内の横方向の電界の確立が回避され得る。しかしながらこれは、別法として、電気界面領域の厚さ方向に変化しない離散電界を印加するように電界印加アセンブリを構成することによって達成され得る(例えばその厚さ全体にわたって材料と接触する電極を使用することによって)。
【0064】
電界の平滑化と並行して、それと同時に電気界面領域は、電極とは別に分離チャネルの内部をマイクロ流体環境に維持し、それにより分離プロセス又は操作プロセスを妨害することはない。
【0065】
分離チャネルは、基板の中又は上に提供され、また、電気界面領域は、基板の中又は上の空洞を実質的に充填することが好ましい。基板自体は、選択された微細加工技法を使用して便利に製造され得る。
【0066】
分離チャネルの深さは、同じ方向における界面領域の厚さにほぼ等しいか、又はそれ以上であることが好ましい。詳細には、分離チャネルの深さは、材料の厚さの1倍と5倍の間より深いことが好ましく、1.5倍と3倍の間より深いことが好ましく、約2倍より深いことがさらに好ましい。本発明者らは、この比率は、以下で説明されるように、流体形態中の電気界面領域材料に作用する毛管力によってチャネルの形態の分離チャネルの形成を可能にすることを見出した。
【0067】
好ましい実施例では、離散電界が印加される位置と分離チャネルの間の距離は0.1mmと8mmの間であり、0.5mmと2.5mmの間であることが好ましい。電気界面領域の厚さは0.1μmと100μmの間であることが好ましく、20μmと40μmの間であることが好ましい。分離チャネルの深さ(高さ)は0.1μmと500μmの間であることが好ましく、10μmと100μmの間であることが好ましい。
【0068】
特定の状況では、基板中の空洞は、サポートを提供して、基板の頂部片のへこみを防止するための少なくとも1つの柱を備えることが望ましい。また、柱は、下で言及されるように、界面の電気特性を変えるために展開され得る。さらに、柱は、電気界面領域における材料の保持を促進するための追加表面積を提供する。
【0069】
好ましい実施例では、分離チャネルは任意の望ましい通路に従うことができる。例えばチャネルは直線状であっても、又は閉ループの形態であってもよい。閉ループ構成は、直線状チャネルなどの開ループ設計に優るいくつかの利点を提供する。第1に、閉ループ・チャネルは縁効果を回避し、それによりチャネルの内部のいずれかの端部に得られる電界が所望のレベルから変位する。例えば線形チャネルでは、チャネルの中央のセクションは、典型的には、チャネルに沿ったセクションの両側に印加電圧源が提供されることになり、セクション内に得られる電圧はその2つの電圧の平均である。しかしながらチャネルの端部の近くのセクションは、両側に提供される電圧源を「見る」ことはなく、チャネルのもう一方の端部に向かう側の電圧源を見るだけである。これは、非対称平均化が存在し、チャネルの端部の近くのセクション内の電界にひずみが生じることになることを意味している。第2に、時間シフト電界を開ループ・チャネルに印加すると、電界がほとんど変化せず、また、電流の方向が本質的に不変を維持する領域が生じ得る。これは、電気界面領域に含まれているイオン導電材料中に重大な局部イオン低下をもたらすことになり得る。その結果、イオン低下の影響には、印加される電界との対抗作用の傾向があるため、チャネル内の所望の電界形状が失われる。それとは対照的に、円形構造などの閉ループ・チャネルでは、伝搬する電気「波」(即ち整形された非一様な電界プロファイル)がこのループの周りを移動するように構成され得る。これは、イオン導電材料中のイオンをループの周りに「スイープ」させて、イオンが剥ぎ取られたすべての領域を連続的に補給し、且つ、対応する過剰集中領域からイオンを運び出し、したがってチャネル内の電界は、滑らかな安定した状態を維持する。第3に、開ループ・チャネルが利用される場合、デバイスの有効動作長は、チャネルの物理的な長さによって表される。閉ループ・システムでは、主チャネルに対する開始又は終わりは存在せず、したがってデバイスは、本質的に無限動作長を有する。
【0070】
電界印加アセンブリは、電気界面領域と電気接触する複数の電極を備え、また、電界印加アセンブリは、所望の電界プロファイルを得るために個々の電極に電圧を印加するように適合されたコントローラをさらに備えることが好ましい。
【0071】
電極は、分離チャネルの周囲と合致する方向に沿って互いに間隔を隔てることが好ましい。例えば電極は、チャネルの通路と合致する方向に沿って間隔を隔てることが好ましい。
【0072】
好ましい実施例では、複数の電極は、分離チャネルの一方の側に沿って配置される。有利には、電界印加アセンブリは、分離チャネルの第1の複数の電極とは反対側に沿って配置された第2の複数の電極をさらに備えることができ、それにより分離チャネルの互いに反対側に電極の対を形成することができ、また、対の個々の電極に電圧が印加され得る。いくつかの好ましい実施例では、実質的に同じ電圧が個々の対の両方の電極に印加される。しかしながら他の事例では、例えば分離チャネルの曲率による差動速度効果(WO2006/070176に記載されている)に対して対抗作用するために、又は体積内の電界を横方向に操作するために、異なる電圧が対の個々の電極に印加され得る。
【0073】
デバイスは、分離チャネル内の(及び/又は電気界面材料に沿った)電界を測定するように適合された電界測定アセンブリをさらに備えることができ、コントローラは、有利には、印加される離散電界を測定された電界に基づいて変更するように適合される。したがって離散電界を印加する「書込み」電極とは別に、印加される電界を測定し、且つ、制御するための「読出し」電極が使用され得る。「読出し」電極は、分離チャネルと直接接触することができ、又は確立された電界を電気界面領域の一部(分離チャネルと電界印加アセンブリの間に位置している電気界面領域であっても、又はそうでなくてもよい)を介して測定することができる。例えば電界測定アセンブリは、電気界面領域と電気接触する複数の電極を備えることが場合によっては好ましく、電界測定アセンブリの複数の電極は、分離チャネルの電界印加アセンブリとは反対側に配置されることが好ましい。有利な代替実施例では、デバイスは、同じ電極を書込み電極又は読出し電極として使用することができ、必要に応じて2つのモードの間で切り変わる。例えばコントローラは、一定の時間間隔で短期間の間、個々の電極への電圧の供給を停止し、その代わりに、電圧の供給を再開する前に局所電界を瞬時に読み出すように適合され得る。
【0074】
基板は、使用中、電極を収容するために、空洞(及び空洞を充填している界面領域)及び基板の表面と関連して、孔(井戸又は井戸ノードとも呼ばれる)を備えることができる。孔には、水性緩衝剤、シキソトロピー・ゲル又は粘性ゲルなどのイオン導電流体が充填されてもよく、また、電極がイオン導電流体に浸されるように配置され得る。有利には、この構成は、電気分解のガス生成物のためのエスケープ・ポイントを提供する。さらに、イオン導体が充填された孔を基板に提供することにより、電気界面領域に含まれているイオン導電材料中のイオン低下を軽減するための十分なイオン・リザーバ・サイズが可能になる。上で説明したような液浸電極に対する代替として、電界制御システムと統合するためにデバイス上に1つ又は複数のコネクタをもたらす導電電極(例えば金属フィルムで形成される)が基板の上に堆積され得る。これらの電極は界面材料と接触することになり、また、電気分解ガスを逃がすための換気が提供され得る。
【0075】
有利には、本発明の方法に使用される電界印加アセンブリは、個々の電極を電気界面領域に電気接続するように配置された流体アームなどの接続アームをさらに備える。例えば上で言及した井戸は、このような接続アームを介して、電気界面領域が充填された空洞に接続され得る。電界印加アセンブリ内に流体アームを使用することにより、設計の柔軟性が増す。例えば孔は、基板の頂部片の中に穿たれてもよく、また、アプリケーションに好都合であると見なされる任意の構成を有することができ、一方、流体アームは、電気界面領域に電圧を印加するための導体として作用する。個々のアームの寸法(したがって個々のアームが提供する電気抵抗)を慎重に設計することにより、材料に提供される電圧レベルが制御され得る。個々の接続アームは、電極のうちの単一の1つを電気界面領域に接続することが好ましい。
【0076】
基板中の孔は、分離チャネルの周囲を追従する単一のラインに沿って周期的に間隔が隔てられ得る。しかしながらこれは本質ではなく、個々の孔は、分離チャネルから異なる距離で配置されてもよい。一実例では、孔は、分離チャネルの周囲に沿って提供され得る孔の数を最大にするために、分離チャネルの周囲に対して互い違いにされ得る。孔(したがって使用中にそれらが含有する電極)の異なる位置は、孔と材料の間の電界印加アセンブリの流体アームの設計によって無効にされ得る。しかしながら他の実例では、可変距離は、分離チャネルの周囲に沿った電界を生成するために要求される電圧変化の確立に利用され得る。
【0077】
分離チャネルが開ループ(例えば物理的に画定されている、又はいないにかかわらず、少なくとも2つの全く異なる「端部」を有するチャネル)の形態である場合、電界印加アセンブリは、電界縁効果に対抗するように構成され得る。例えば線形チャネルの事例では、チャネルの個々の端部に超高電圧を提供するために2つの追加電極が配置され得る。これらの電極はチャネル上の井戸ノードに挿入されることが好ましく、井戸ノードは、チャネルのための入口及び/又は出口として同じく作用し得る。
【0078】
上で言及したように、電気界面領域は、2つ以上の構成要素を含むことができ、好ましい一実施例は、イオン導電材料が非イオン導電材料と分離チャネルの間に位置し、また、離散電界が電界印加アセンブリによって非イオン導電材料に印加されるよう、イオン導電材料に加えて非イオン導電材料を含む。例えば非イオン導電材料は、イオン導電材料と電極の間に置かれる。非イオン導電材料は、主として電子(及び/又は正孔)の移動によって導き、また、例えば抵抗性重合体、又はシリコンなどの半導体であってもよい。
【0079】
このような実施例では、非イオン導電材料の導電率/抵抗率及びイオン導電材料の導電率/抵抗率が整合されることが好ましい。分離チャネル及び電気界面領域の相対導電率/抵抗率に関連して上で説明したように、この文脈においては、「整合した」という用語は、導電率/抵抗率を等しくしなければならないことを意味していないが、それらは少なくとも同様であることが好ましい。電気界面領域の2つ(又はそれ以上)の構成要素の導電率/抵抗率を「整合させる」ことにより、非イオン導電材料及びイオン導電材料の両方が離散電界の平滑化に寄与するよう、両方の導電率/抵抗率が印加される電界パラメータと共に考慮される。一方、2つの材料の相対導電率が著しく異なっている場合、オームの法則に従って、印加される電圧から生じるすべての電流がイオン導電又は非イオン導電材料のみを通って流れ得る。これは、電界平滑化効果を著しく変えて、電界の過剰平滑化又は過少平滑化をもたらすことになり、また、場合によっては電界シフト効果をもたらすことになる。したがって好ましい構成では、構成要素の導電率/抵抗率は同じ程度の大きさの導電率/抵抗率である。とりわけ好ましい実施例では、2つの材料の抵抗率/導電率の比率は、1:100と1:1の間であり、好ましくは1:50と1:1の間であり、より好ましくは1:10と1:1の間である。
【0080】
同じ考察は、2つ以上のイオン導電構成要素を直列に含むか、又はイオン導電構成要素と非イオン導電構成要素の混合物を含む電気界面領域にも適用され、その事例では、個々の構成要素の導電率/抵抗率は「整合」されることが好ましい。
【0081】
非イオン導電材料を電気界面領域の一部として含む構成は、いくつかの利点を提供する。詳細には、それらは、電界印加アセンブリとの接続性の柔軟性を提供する。例えば電極は、上で説明したように流体が充填された井戸に浸される代わりに、「乾燥」固体材料(例えばシリコン)に接続され得る。これは、より密着した、密閉されたデバイスをもたらし得る。一方、このような構成の欠点は、イオン導電材料(典型的には流体を含有している)と「乾燥」非イオン導電材料の組合せには、電気分解及びガス気泡の発出をもたらす傾向がある流体/個体界面が必要であることである。したがってこのような構成は、この界面に配置された、ガス気泡のための排気として作用させるための細孔又は井戸が必要であり得る。
【0082】
イオン導電材料は、例えば重合体を含むことができる。有利には、重合体は、本発明によるデバイスに液体の形態で容易に導入され、次に、例えば化学開始剤を使用するか、又は熱若しくは光による開始のいずれかによってその場で重合され得る。
【0083】
イオン導電材料は多孔性材料であることが好ましい。「多孔性」材料は、流体が通過して流れることができる材料であり、例えばその材料の細孔、チャネル又は空洞を通って流れることができる。軽石、スポンジ又は任意の他のタイプのマトリックス様若しくは発泡性材料は多孔性材料の実例である。例えばイオン導電多孔性材料は、多孔性ガラス又は多孔性セラミック材料を含むことができる。
【0084】
別法としては、イオン導電材料はヒドロゲルであってもよい。ヒドロゲルは、水溶液を吸収することができるが、水中で溶解しない重合材料の等級である。ヒドロゲルは、ここで開示されている電界整形界面における使用にそれらを大いに適切にしている多くの属性を有している。詳細には、それらは、典型的には数nmの範囲の細孔サイズを有する多孔性であり、それは、それらが水分子及び微小イオンに対して浸透性であるが、タンパク質又はDNAなどの生体分子を含む大きい検体に対しては不浸透性であることを意味している。さらに、ヒドロゲルは、典型的にはガス気泡に対して不浸透であり、それにより電極における電気分解によって形成されるガスの分離チャネルへの到達を防止する。
【0085】
好ましい実施例では、電気界面領域の抵抗率は、その体積全体にわたって一定である。電気界面領域の電気的均質性は、等方性電界平滑化効果を達成するためには一般的に望ましい。別法としては、他の実施例では、抵抗率は、少なくとも1つの方向、例えば分離チャネルの円周に対して直角の方向、又はチャネルの延長方向に変化し得る。これは、例えば、単一の電界印加アセンブリを使用した、電界界面領域の一部によって個々に間隔を隔てた複数の同心円形チャネルへの異なる大きさの電界の印加を可能にし得る。
【0086】
電気界面領域の抵抗率の変更は、例えば異なる電気特性の複数の電気界面構成要素を使用して、1つ又は複数の方向における領域材料の組成を変えることによって達成され得る。しかしながらこのような変更は実践が困難であり得る。別法としては、抵抗率は、空洞の中に柱を導入し、且つ、1つ又は複数の方向におけるそれらの大きさ又はそれらの密度のいずれかを変更することによってもっと容易に変更され得る。これには、導電材料を除去し、したがって電気界面領域の抵抗率を大きくする(又は柱の密度が低下すると抵抗率を小さくする)効果がある。電気界面領域の抵抗率を変更するための別の実例方法は、空洞の深さを変更することである。
【0087】
電気界面領域の導電率及び相対厚さは、ジュール加熱、及び電極が適用される領域における過剰な電気分解を回避するために、過剰な電流が流れないような導電率及び相対厚さであることが好ましい。
【0088】
好ましい実施例では、基板は電気抵抗性又は電気絶縁性である。基板は、基板を介した電気界面領域材料の光パターン化及び光重合化を許容するために、又はデバイスを光検出技法との使用に適したものにするために、可視放射、赤外(IR)放射又は紫外(UV)放射のうちの任意の1つ又は複数に対して透明であることが場合によっては望ましい。しかしながら他の事例では、基板は光学的に透明である必要はない。
【0089】
有利には、本発明と共に使用するためのデバイスは、分離チャネル内の同時分析を許容し得る。例えば体積は、電気界面領域によって互いに横方向に間隔を隔てた複数のチャネルを含むことができ、電界印加アセンブリは、電気界面材料の1つの部分に離散電界を印加するように構成され、それにより、実質的に連続する電界が複数のチャネルの各々に確立されるよう、電気界面領域によって離散電界が平滑化される。好ましい構成では、個々のチャネル内に確立される実質的に連続する電界は実質的に同じであるが、上で指摘したようにこれは本質ではない。代替として、複数のチャネルは、分離チャネル内で互いに積み重ねられてもよく、個々の層は、絶縁体の層によって分離されたチャネルを含有し、電気界面材料は、チャネル層の各々の一方の側又は両側と接触する。別の実例では、界面材料層及び分離チャネル(チャネル)層は、互いに積み重ねられ、絶縁層によって分離されてもよい。分離チャネル内の分離チャネルに試料を導入するための入口チャネルは、絶縁層の中に埋め込まれてもよい。
【0090】
すべての実施例では、電界を印加するための手段は、任意の知られている電界整形装置、例えば可変抵抗をチャネルに沿って備えることができる。しかしながら電界を印加するための手段は、分離チャネルに沿って間隔を隔てた複数の電極を備えることが好ましい。この技法は、電界の正確で、且つ、複雑な整形を許容し、また、個々の電極に個別に印加される電圧を変更することによって便利に制御される。電極は、電極と流体の間に電流が流れないよう、分離チャネルの内部から間隔が隔てられることが好ましい。これは、流体を通って流れる電流を回避し、したがってシステム内におけるでたらめな挙動をもたらし得る過剰なジュール加熱を防止する。電極は、分離チャネル上、又は分離チャネルに隣接して印刷された導電インクを備えることが好都合である。
【0091】
有利には、複数の電極のうちの少なくともいくつかは、電気抵抗材料の層によって分離チャネルの内部から間隔が隔てられる。この方法によれば、チャネルの内部に確立される電界が平滑化され、電極の局所効果によるひずみが小さくなる。抵抗材料は、半導体又はドープされた半導体であることが好ましく、ドープされたシリコンであることが最も好ましい。
【0092】
分離チャネルは毛管であることが好ましい。このような寸法により、チャネル断面全体にわたって電界を正確に制御することができ、また、たとえ低濃度試料であっても、明瞭な点又はピークをもたらすことができる。好ましい一実施例では、分離チャネルは直線状である。別法としては、分離チャネルは閉ループの形態であってもよい。これは実質的に円形であってもよく、又は直線セクションを有することが好ましい。
【0093】
分離チャネルは、ガラス・プレートなどの基板中に刻み込まれることが好都合である。これは、本発明を実施するために使用されるデバイスを極めて小さいスケールで実現する便利な方法を提供する。デバイスはミクロ流体デバイスであることが好ましい。
【0094】
有利には、本発明の方法に使用されるデバイスは複数の分離チャネルを備え、個々の分離チャネルは、電界を印加するための手段及びコントローラと共に提供される。個々の分離チャネルに印加される電界は、個々のチャネル内で分離されるべき対象に応じて個別に選択され得る。しかしながら個々の分離チャネルに印加される電界は同じであることが好ましい。個々の分離チャネルに印加される電界は、同じコントローラによって制御されることが好都合である。
【0095】
本発明の方法は、特定の知られている重要な検体がそれらの知られているパラメータに従って速やかに識別されるように実施され得ることが想定されている。これは、方法が実施されるデバイスを、必要に応じて、重要な1つ又は複数の検体の予測されたサイズ及び他の特性に従ってそれらを優先的に分離するように構成することによって達成され得る。複数の検体を遮蔽する場合、デバイスは、当業者には理解されるように、必要に応じて構成されることになる。したがってこの方法では、電界は、プリセット移動度窓全体にわたって印加され得る。このプリセット移動度窓は、重要な検体/結合薬品が分離され、且つ、試料中の他の構成成分から離れて濃縮されるよう、その重要な検体/結合薬品にねらいを定めることになる特定の電界を含む。特定の検体/結合薬品上での/特定の検体/結合薬品における、ねらいの定め/的の絞り/選択的アセンブリ集中は、上で説明したように、電気泳動が開始されると即座に実施され、又は分離が生じた後に実施され得る。したがって検体からの信号は、異なる実体にねらいを定めるために操作され得る。
【0096】
方法は、分離チャネルを備えたデバイス上で実施されてもよく、分離チャネルは、分離チャネルから材料を抜き取るための少なくとも1つの出口ポートを備えている。したがって抜き取られる材料は、試料収集井戸へ抜き取られ得ることが想定されている。別法又は追加として、抜き取られる材料は、必要に応じて廃棄井戸へ抜き取られてもよい。
【0097】
本発明の任意の方法のさらに他の実施例では、分離チャネルはpH勾配をさらに含むことができる。この実施例では、結合検体及び非結合検体は、pH勾配によるそれらの等電位特性のさらなる影響の下で、流体中の互いに離れた位置に集中することになる。これは、異なる分子をそれらの等電位点(pI:isoelectric point)の差によって分離するための技法である等電集束法として知られている技法の展開である。これは、あるタイプのゾーン電気泳動であり、通常、重要な分子上の総電荷はその周囲のpHの関数であることを利用するゲル中のタンパク質に対して実施される。この実施例では、典型的には、両性電解質溶液が非可動化pH勾配(IPG:immobilized pH gradient)ゲル中に加えられる。IPGは、pH勾配を使用して共重合されたアクリルアミド・ゲル・マトリックスであり、ほとんどがアルカリ性(>12)pH値であることを除き、完全に安定した勾配をもたらす。非可動化pH勾配は、インモービラインの比率の連続変化によって得られる。インモービラインは、そのpK値によって定義される弱酸又は塩基である。その等電位点(pI)未満のpH領域に存在するタンパク質は正の電荷を帯びることになり、したがって陰極(負に帯電した電極)に向かって移動することになる。しかしながらタンパク質がpHが増した勾配を介して移動すると、タンパク質の総電荷は、タンパク質がそのpIに対応するpH領域に到達するまで減少することになる。この点ではタンパク質は正味電荷を有しておらず、したがって移動が停止する(電極に向かう電気引力がどちらの電極に対しても存在しないため)。したがってタンパク質は鋭い静止バンド中に集束するようになり、個々のタンパク質は、そのpIに対応するpH勾配中の点に位置する。この技法によれば、極端に高い分解能が可能であり、電荷が1つだけ異なるタンパク質は別のバンドに分別される。したがってこの技法は、本発明の方法と組み合わされることが可能であり、重要なタンパク質の集束がさらに改善される。
【0098】
本発明は、本明細書において説明されている方法を含む診断試験又は法廷試験を提供する。したがって本発明を使用して試料中の検体/バイオマーカを識別することができ、その検体/バイオマーカは特定の疾病状態と関連付けられる。方法及び高スループット潜在性の小型化により、極めて多数の検体/バイオマーカのレベルを監視するための高度に複雑な診断試験を準備することができる。さらに、法廷研究においては、本発明を使用して、個人を識別し、又は材料の起源、等々に関する情報を識別するために使用され得る検体を識別することができる。
【0099】
本発明をより明確に理解することができるよう、以下、本発明の実施例について、添付の図を参照して実例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】式2で記述されている電界の影響下における4つの分子の時空軌道を示すグラフである。分子a及びbは全く同じであり、また、分子c及びdも全く同じである。しかしながらaはcと異なっている(質量、電荷及び摩擦係数に関して)。
図2】CycloELISAは、「チップ上」抗体(Alexa-488タグ付き)+抗原複合体化成を介してStat5転写因子を検出している。曲線1は抗STAT5(Alexa-488タグ付き)+STAT5である。曲線4はStat5抗原単独である(Agのみ)。曲線2は抗STAT5抗体単独である(Alexa-488タグ付きAbのみ)。曲線3は抗cJUN(Alexa-488タグ付き)+STAT5である。実行条件は、中性pH、10ng/μLにおけるStat5、300pg/μLにおけるAbであった。すべての線は、同じスケーリングを使用してプロットされている。
図3】背景に対する本発明の方法における信号の集中を示すグラフである。
図4】時間に対する信号の同時集中及び分離を示すグラフである。
図5】異なる光特性を有する異なるラベルを、異なる検体に対する異なる抗体に使用した分離を示すグラフである。
図6】結合前及び結合後の時間に対する点Xにおける抗体の過渡分析を示すグラフである。
図7】抗体/抗原複合体の選択的アセンブリ集中を示す図である。図の左側では、Emax=400V/cm及びEmin=0V/cmである。電界は100μm/sの速度で伝搬している。選択的アセンブリ集中は図の右側に示されており、Eminを320V/cmに変化させるためにソフトウェアが使用されている。電界の速度は一定を維持し、また、電界は320V/cmと400V/cmの間で変化している。チャート上のピークは、抗原結合抗体アセンブリ(Ab+抗原)及び次に同じ抗体の二量体(Ab2)及び単量体(Ab1)をそれぞれ表している。
図8】異なる実行パラメータである、4%線形ポリアクリルアミド(LPA)ふるい分析マトリックス及び電界速度0.04cm/s(他の条件は同じである)を使用した本発明の他の立証実行を示すグラフである。点線の曲線はAbのみであり、一方、連続曲線はAb+STAT5である。この場合も、STAT5ピークは、Abのみの実行とは明確に区別されることが分かる。この構成では、STAT5ピークは約120秒以内に観察された。
【発明を実施するための形態】
【0101】
「実例1」本発明の電気泳動方法を使用したStat5転写因子の検出
本発明は、本明細書においては、本出願人によって開発された、CycloChip(登録商標)という名称のデバイスを使用して説明される。CycloChip(登録商標)は、本明細書において説明されている分離チャネル及び複数の電極を備えた使い捨てプラスチック・チップである。例示的免疫評価分析が実施され、また、CycloELISAという用語を使用して、最初に設計された目的とは異なる目的のためにチップが使用されていたことが示された。したがって事実上、検体を検出するために抗体を使用する免疫評価分析であるが(ELISAのように)、方法は完全に異なっている。
【0102】
CycloChip(登録商標)(上で説明した)の場合、検体がチャネル内に導入されると、空間的及び時間的に非均質な電界がチャネル内に印加される。電界は、本質的に、分離チャネルを通って速度kで移動するシフト波面である。電気泳動の場合と同様、検体分子は、それらの移動度に従って、可変電界の影響下でチャネル内における移動を開始する。しかしながらこの場合、それらは可変電界に遭遇する。
【0103】
説明されている電界は、多項式形態
E(x,t)=P(x-kt) (1)
の電界であり、xはチャネル内部の縦方向の空間変位であり、tは時間であり、また、kは「電界パラメータ」と呼ばれる実定数である。簡潔にするために、ここで、n=1の場合の(1)の最も単純な形態を仮定する。
E(x,t)=α(x-kt+c) (2)
上式でa及びcは実定数である。電荷qの分子に作用する力は単純にqEになる。摩擦係数がfである同じ検体分子に作用する摩擦力は、
(x,t)=fv(x,t)、f>0 (3)
になり、実際にはxは時間x=x(t)の関数であり、したがってv(x,t)=v(t)である。(2)及び(3)から以下の差動式を形成することができる。
mv”(t)+fv’(t)-qav(t)+qak=0 (4)
これは以下の解を有する。
【数1】

上式でA及びBは、f、q、a、mの関数である。これは、大きいt(検体分子が終端速度に達している場合)に対する式(5)では、指数が消失し、また、個々の検体分子の位置は単純に定数+ktであることになる。定数は、検体分子の特性及び電界パラメータに依存し、したがってすべての全く同じ検体分子は速度kで共に移動することになる。しかしながら異なる検体分子は異なる位置で移動することになるが(定数が異なるため)、速度は依然として同じである。これは、上記システムは分子を分離することになることを意味している。さらに、ある時点でそれらのグループから遠ざかるように生じる「逃げる」分子は、それらをそのグループに向かって移動させる傾向がある正味の力に遭遇することになる。したがってバンドはコヒーレントである。図1は、2つの対の検体分子に対する解(5)を立証したものである。個々の対では検体分子は全く同じであるが、対と対の間では検体分子は異なっている。図から分かるように、全く同じ検体分子は異なる位置から開始し、同じ時空経路に収束する。しかしながら検体分子の2つの対に対する経路は異なっており、互いに平行である。これは、分離が生じていること、また、異なる位置で開始する全く同じ検体分子には、最終的には共に移動する方法で移動する傾向があることを意味している。
【0104】
この実例では、Stat5転写因子を含有した試料がCycloELISAに充填された。とりわけStat5を認識する抗体が試料に加えられ、抗体にはAlexa-488(商用的に入手することができる蛍光タグ)でタグが付けられた。流動媒体中でStat5及びAlexa-488タグ付き抗体の複合体が形成され、且つ、本明細書において説明されている電界が印加された。
【0105】
この試験の結果は、チップからの蛍光リードアウトを表示している図2に示されている。曲線1は抗STAT5(Alexa-488タグ付き)+STAT5であり、これは、期待されたように、安定した抗原/抗体(Ab+Ag)複合体に対応するフレーム4000(=400秒即ち6.5分)における最大サイズにおける最も強い信号である。これは、抗原/抗体複合体が電気泳動全体を通して不変の状態を維持したことを示している。図2の曲線4は、蛍光を発しないStat5抗原単独(Agのみ)を示したものである。曲線2は、抗STAT5抗体単独(Alexa-488タグ付きAbのみ)であり、より軽い分子量(MW:molecular weight)におけるIgG単量体及び二量体に対応する2つの信号を示している。図2の曲線3は抗cJUN(Alexa-488タグ付き)+STAT5であり、Ab+Ag相互作用の特異性、及び黒い曲線中に見られる明らかな質量シフトを示している。ここで使用された抗STAT5及び抗cJUN IgGは同じ同基準標本であった。図2における分析評価の実行条件は、中性pH、10ng/μLにおけるStat5、300pg/μLにおけるAbであった。すべての線は、同じスケーリングを使用してプロットされている。
【0106】
したがって図2で立証されているように、本発明は、結合薬品とのその相互作用を直接視覚化することにより、典型的にはELISAなどの現在の方法に関連する、時間が掛かる、労力を要する手順を実施する必要なく、試料中の検体を速やかに識別する強力な方法を提供する。
【0107】
本発明によれば、ELISAでは不可能な、背景からの速やかな信号の分離、及び媒体中における信号の集中が可能である。
【0108】
「実例2」本発明の方法を使用した検体の例証視覚化
図3(シナリオ1)は、本発明の方法を使用して、背景に対して常に信号を集中させる場合に期待され得る種類の蛍光信号を示したものである。この状況では、特定の検体にフォーカス・イン・オンするために、狭い電界窓がEmaxとEminの間に使用されている。左から右へ移動すると、図3は、特定の点におけるピークを提供する、抗体/抗原複合体(検体2)からの信号を示しており、一方、抗体単独(検体1)はその窓の中に集中していない。下側のチャートは信号の和である。したがって蛍光によってラベルが付けられた抗体との結合が生じると、背景に対して強力な信号が得られる。これは、図6に立証されているように、蛍光の大きさの過渡変化を常に測定することによって他の定性的及び定量的情報を同じく提供するために使用され得る。
【0109】
図4(シナリオ2)は、本発明の方法を使用して、結合抗体及び非結合抗体の両方からの正の信号を背景に対して常に同時に集中させ、且つ、分離する場合に期待され得る種類の蛍光信号を示したものである。この状況では、結合抗体及び非結合抗体の両方の検出を可能にするために(それらは異なる大きさを有することになるため)、拡張された電界窓がEmaxとEminの間に使用されている。左から右へ移動すると、図4は、特定の点におけるピークを提供する、抗体/抗原複合体(検体2)からの信号を示しており、一方、抗体単独(検体1)は、より広い電界窓のため、異なる位置におけるピークを提供している。下側のチャートは信号の和である。したがって蛍光によってラベルが付けられた抗体との結合が生じると、背景に対して強力な弁別信号が得られ、この信号は、抗体単独からの信号から分離することができる。
【0110】
図5(シナリオ)は、本発明の方法を使用して、異なる蛍光ラベルでラベルが付けられた2つの異なる抗体からの正の信号を背景に対して常に同時に集中させ、且つ、分離する場合に期待され得る種類の蛍光信号を示したものである。この状況は、同じく、両方の抗体の検出を可能にするために(それらは異なる大きさを有することになるため)、拡張された電界窓をEmaxとEminの間に使用している。左から右へ移動すると、図5は、特定の点におけるピークを提供する、第1の検体(検体1)に結合された第1の抗体からの信号を示しており、一方、第2の検体(検体2)に結合された第2の抗体は、より広い電界窓のため、異なる位置におけるピークを提供している。下側のチャートは信号の和である。この同時分析は、複数の検体を速やかに、且つ、平行して評価分析する極めて強力な技法を提供するために、多くの複数の異なる抗体に拡張され得る。抗体は、異なる検出フィルタを使用することによって同じチャネル内を走らせることができ、且つ、弁別することができる。これは、極めて多数のタグを測定することによって完全に自動化され得る。
【0111】
図6は、単一の点における特定の検体の時間に対する過渡分析を示したものである。最初に、期待される抗体/抗原複合体に対するプリセット移動度窓から離れる方向に移動する非結合抗体が検出される。したがってその点における信号が低下する。次に、抗体が検体に結合すると、抗体は、検体を運んで、プリセット窓へ移動して戻り、すべての利用可能な複合体が同じ点へ移動するため、したがって最大値に到達するまで濃度が高くなる。使用される検体及び抗体に応じて様々なタイプの過渡分析が可能である。異なる形のプロットを使用して、様々な検体の局所濃度及び/又は検体間の相互作用に関する情報が提供され得る。
【0112】
「実例3」選択的アセンブリ集中
従来の電気泳動では、ユーザの関心が試料の一部を走らせることのみであっても、ユーザは、依然として全体の分離を実施しなければならない。2D電気泳動の事例では、これは1週間の実施を意味する。それとは対照的に、本発明の場合、プリセット移動度窓の分離を達成するような値に電界特性及び電界パラメータkを設定することが可能である。これにより、移動度窓外の何らかの分子を分離させることなく、例えば特定のバイオマーカ分離を直接実施することができる。これは、的を絞るための有効なアクション、即ち選択的アセンブリ集中である。ねらいが定められた移動度窓を走らせる能力は、アプリケーション特化製品を可能にする。
【0113】
図7は、結合評価分析の文脈における選択的アセンブリ集中の立証を提供している。図7の左側の部分は、典型的な電界構成(単純な線形電界)を表示しており、Emax=400V/cm及びEmin=100V/cmである。この電界は100μm/sの速度Vで伝搬している。ピーク毎の中間E値は、チャート上の380V/cm、300V/cm及び200V/cmに表示されている。チャート上のピークは、抗原結合抗体アセンブリ(Ab+抗原)及び次に同じ抗体の二量体(Ab2)及び単量体(Ab1)をそれぞれ表している。これらの3つのグループの分子は、それぞれ380V/cm、300V/cm及び200V/cmに平衡電界位置を有している(電界のその速度で)。これは、これらの分子にこれらの電界点に集束/集中させることになり、したがってそれに応じて同じく媒体中で分離することになる。
【0114】
図7の右側の部分は、抗体/抗原複合体の選択的アセンブリ集中の結果を示している。CycloChipを制御するソフトウェアを使用して、電界のEminが320V/cmに変更されている。これは極めて速やかである。新しい電界は、この時点ではその前よりもはるかに平らであるが、電界の速度は同じ速度を維持している(右側のプロットを参照されたい)。電界は、ここでは320V/cmと400V/cmの間で変化しているため、抗体/抗原複合体に対する平衡位置は、依然として電界の範囲内に存在している。したがって電界は、依然として、ここでは右側に向かって空間的に移動した同じ電界点の周りに集束する(点E=380V/cmは実際にv=100ミクロン/sで移動しているため、これは、電界の縁に対する相対比率を意味している)。しかしながら他の2つのピーク(単量体及び二量体)の平衡点はここでは範囲外であり、したがってそれらの平衡位置は視野から消えている。他のピークは、このような位置を見出すべく試行しているところであろうが、平衡条件は決して満たされることはなく、したがってこれらの分子は適切に集束しないことになる。これは、事実上、いくつかのかたまりを形成することになり、単に小さい背景信号に寄与することになる。これが残すのは、(抗体/抗原複合体)を集束させ、且つ、集中させるための新しい電界構成と両立する運動性を有するピークのみである。この実例では、これは単に1つのピーク、抗体/抗原複合体にすぎないが、必要に応じて任意の数のピークにフォーカス・イン・アウトすることができる。
【0115】
選択的アセンブリ集中窓は、すべてのAb及び抗原を「発見」モードで含有し、又はこれらのピークの任意のサブグループを「監視」モードで含有するべく拡張され得る。また、電界パラメータを実時間で変化させて、選択的アセンブリ集中位置及び窓幅を変更することも同じく可能である。これは、単純に1つのピークの周り、即ち特定の抗体/抗原複合体、又は複数のピークの周りに的を絞るために実施され得る。図2では、示されている結果は、すべてのピークを含む極めて広い窓に対するものである。
【0116】
選択的アセンブリ集中アクションは、他の検体に対して特定の検体を特別扱いするための選択又は精製アクションとして使用され得る。これは、特定の実施例に従って試料から検体を抽出するためにとりわけ有用である。
【0117】
他の戦略では、選択的アセンブリ集中は、単純に、所望の検体をより良好に分離し、且つ、互いに離れる方向に移動させるために使用され得る。これは、例えば互いの変種である分子のアイソフォーム又は他のグループを分離して、例えばグリコシル化を研究するためにとりわけ有用であり得る。
【0118】
したがって選択的アセンブリ集中を適用することにより、電気泳動による初期分離は、後続する抽出ステップ及び処理ステップを必要とすることなく、電気泳動媒体中の試料の内容を調べるための極めて強力なツールになる。
【0119】
「実例4」アクションにおける本発明の他の立証
他の実験的実施は、本発明の能力をさらに立証するために実施された。図8は、図2の場合と同様、抗体を使用してSTAT5を検出するために、異なる実行パラメータである、ふるい分析マトリックス(電気泳動媒体)として4%線形ポリアクリルアミド(LPA)、及び0.04cm/sの電界速度(他の条件は同じである)を使用して、異なる日に実施されたいくつかの構成の結果を示したものである。点線の曲線はAbのみであり、一方、連続曲線はAb+STAT5である。図8から、この場合もSTAT5ピークは、Abのみの実行とは明確に区別されることが分かる。この構成では、STAT5ピークは約120秒以内に観察された。これは、本発明は2分未満で抗原を検出することができることを示している。この驚くべき速度は、上で説明した本発明の有用性を例証している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8