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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】スチールストランドで補強されたベルト
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/06 20060101AFI20230217BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20230217BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
B66B7/06 A
D07B1/06 Z
F16G1/08 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019572717
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018066862
(87)【国際公開番号】W WO2019002163
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】17177995.2
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519460959
【氏名又は名称】ベカルト アドバンスド コーズ アールテル エンベー
【氏名又は名称原語表記】BEKAERT ADVANCED CORDS AALTER NV
【住所又は居所原語表記】Leon Bekaertlaan 5, 9880 Aalter, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】ワウター ファンレイテン
(72)【発明者】
【氏名】ゲード モレン
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507348(JP,A)
【文献】特表2006-519321(JP,A)
【文献】特表2014-507349(JP,A)
【文献】国際公開第2014/063900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06
D07B 1/06
F16G 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスチールストランドと、ポリマージャケットとを含むベルトであって、前記ベルトは長さ寸法、幅寸法及び厚さ寸法を有し、前記スチールストランドはスチールストランド直径とスチールストランド中心とを有し、前記スチールストランドは前記長さ寸法に沿って方向付けられ、及び前記ポリマージャケットによって平行な関係で保持され、前記スチールストランド中心は前記幅寸法内で整列され、隣接するスチールストランド中心はピッチによって分離される、ベルトにおいて、
前記スチールストランド直径対前記ピッチの比率が0.55より大きく、
前記スチールストランドが、コア直径を有するコアと、スチールフィラメントとを含み、
前記スチールフィラメントが、
・前記コアの周囲に円周方向に配置されたN本の第1のスチールフィラメントを含む中間層であって、前記第1のスチールフィラメントは第1の直径を有し、前記コア直径及び前記第1の直径は、前記第1のスチールフィラメント間にギャップが形成されるようなものである、中間層と、
・前記中間層の周囲に円周方向に配置された2Nスチールフィラメントを含む外層と
で構成され、
前記中間層及び前記外層の前記スチールフィラメントは、同じ最終より長さ及び方向で前記コアの周りに撚られ、前記最終より長さは、閉鎖より長さの2倍より大きく、及び6倍より小さく、前記閉鎖より長さは、前記中間層の前記第1のスチールフィラメント間の前記ギャップがそこで閉鎖されるより長さである、ベルト。
【請求項2】
前記スチールストランドの最終より長さにおいて前記外層の前記スチールフィラメント間にギャップがない、請求項に記載のベルト。
【請求項3】
前記スチールストランドの数、Nが5、6、7、8又は9に等しい、請求項に記載のベルト。
【請求項4】
前記スチールストランドに、前記スチールストランドと前記ポリマージャケットのポリマーとの間の接着を促す有機プライマーが提供される、請求項1に記載のベルト。
【請求項5】
前記有機プライマーが有機官能性シラン、有機官能性ジルコン酸塩、又は有機官能性チタン酸塩を含む群からのものである、請求項に記載のベルト。
【請求項6】
前記有機プライマーが、1μm未満の厚みを有する、請求項5に記載のベルト。
【請求項7】
前記スチールストランドが、mm単位の前記スチールストランド直径の少なくとも20倍である、N/mmの単位長さあたりの軸方向接着力で前記ポリマージャケットに接着する、請求項に記載のベルト。
【請求項8】
前記スチールストランドの前記外層が、
- 第2の直径のN本の第2のスチールフィラメントであって、第2の半径を有する第2の外接円に接しているN本の第2のスチールフィラメント、及び
- 第3の直径のN本の第3のスチールフィラメントであって、第3の半径を有する第3の外接円に接しているN本の第3のスチールフィラメントを含み、
前記第2の直径は前記第3の直径よりも大きく、前記第2のスチールフィラメント及び前記第3のフィラメントは前記外層で交互の位置を占め、前記第2の半径は前記第3の半径と異なる、
請求項に記載のベルト。
【請求項9】
前記スチールストランドの前記第2の半径が前記第3の半径よりも大きい、請求項に記載のベルト。
【請求項10】
前記スチールストランドは、175000N/mm を超える弾性率を有する、請求項8に記載のベルト。
【請求項11】
前記スチールストランドの前記コアが、真っ直ぐなセグメントを間に有する屈曲部を含む単一スチールフィラメントである、請求項に記載のベルト。
【請求項12】
前記スチールストランドの前記コアが、すべてのコアスチールフィラメントがゼロ次らせん変形を含まず前記スチールストランドの前記最終より長さと異なるコアより長さで撚り合わされる平行よりストランドである、請求項に記載のベルト。
【請求項13】
コアスチールフィラメントの数が2又は3又は4であり、前記スチールフィラメントが等しい直径を有する、請求項12に記載のベルト。
【請求項14】
コアスチールフィラメントの数が9又は12であり、前記コアスチールフィラメントが準ウォーリントン構造で配置される、請求項13に記載のベルト。
【請求項15】
前記スチールストランドの前記コアが、コア-コアと、前記補強ストランドの前記最終より長さと異なるコアより長さで前記コア-コアの周りに撚られた5、6又は7本のコアの外側スチールフィラメントとを含むストランドである、請求項に記載のベルト。
【請求項16】
前記スチールストランドの前記スチールフィラメントに金属コーティング又は金属コーティング合金が提供される、請求項に記載のベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチールストランドで補強されたベルトに関する。このベルトは特に同期ベルト又はエレベータの引張部材として使用されるようなベルトである。
【背景技術】
【0002】
ベルトは、従動プーリ又は非従動プーリと相互作用することにより、材料の搬送、動力の伝達、又は物の位置決めに使用される技術的人工物である。例えば、エレベータベルトはエレベータで人を運ぶために使用され、Vベルトは動力を伝達するために使用され、同期ベルトは機械のグリッパを正確に位置決めし、動力を伝達するのに適している。ベルトは一般に、保護のためにポリマーで覆われていてもいなくてもよい頑丈な補強材を含む。一般に、ベルトは、Vベルトの台形断面又は平ベルトの長方形断面など、非円形の断面を有する。
【0003】
ベルトの補強材は複数の要件を満たさなければならない:
- 補強材はただ頑丈であればよいというのではない、すなわち大きな縦方向の力に耐えることができなければならない、しかし、
- それはまた、ベルトに張力をかけるときに過度の伸びを防ぐために高い弾性率を有するべきである。
- さらに、補強材はプーリ上で繰り返し走行する間にクリープしてはならないし長くなってもいけない。
- 補強材はプーリの湾曲に従うために非常に柔軟でなければならない、すなわち曲げ剛性が低くなければならない。
- 補強材は、取り付けられている機械の長期的な機能を保証するために、長くて予測可能な寿命を有するべきである。
- 補強材はポリマージャケットと一体化する必要がある、すなわち、補強材はポリマージャケットに接着又は固着する必要がある。これは、すべての力がプーリからジャケットを介して補強材に伝達されるため、特に重要である。
【0004】
ジャケットの主な機能は、補強材を保護すること、プーリとベルトの間で力を伝達すること、及び補強材を一緒に保つことである。一般に、ジャケットの補強能力は、補強材自体の補強能力に比べて弱い。
【0005】
ベルトの補強材の歴史は、タイヤ又はホースなどの他の複合材料のそれと変わらない。最初は綿や麻などの天然繊維が使用され、その後レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、その他の有機繊維などの人工又は人により改変された繊維が使用された。超高分子量ポリエチレン(Dyneema(登録商標))又は芳香族ポリアミド(Kevlar(登録商標))又はポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール(PBO、Zylon(登録商標))ベースの繊維などの高靭性繊維も検討されてきたが、耐疲労性がない又はクリープが多すぎる又はポリマージャケットに接着しにくいために、いつも市場に出るわけではない。ガラス繊維及び炭素繊維で補強されたベルトが提供されているが、主にハイエンド用途向けである。したがって依然ベルトの大部分はスチールコードで補強されている。
【0006】
ベルトの補強材に使用されるスチールコードは、ほぼ独占的にマルチストランドタイプのものである。このようなコードは、「m」本のシングルスチールフィラメントがストランドへと撚られ、その後「n」本のストランドが「n×m」コードへと撚られることから構成される。一般的な構造は3×3である、すなわち、3本のフィラメントが撚り合わされてストランドになり、その後、3本のそのようなストランドが撚られてコードになる。他の例は、7×7又は7×3ストランドである。これらの構造は主に同期ベルトで使用されていたが、現在では広くエレベータの平ベルトでも使用されている(欧州特許第2284111 B1号明細書)。これらのタイプの構造は、かなり良好な伸び特性(国際公開第2005/043003号パンフレットの教示に従う場合)、非常に良好なジャケット固着、非常に低いクリープ及び優れた疲労寿命を有する一方、それらの弾性率はやや低い。
【0007】
これらのタイプのマルチストランドコードを、ベルトで使用するための他のタイプのコードに置き換える試みは多数ある:
- 英国特許第2252774号明細書では、少なくとも1つのフィラメント層に囲まれた1つ又は複数のフィラメントの中心コアを有する層状ストランドが同期ベルトで使用するために提案されている。
- 国際公開第2012/141710号パンフレットには、補強コードが、「二次」らせん構造のない複数のスチールフィラメントを含む、すなわちストランドであるエレベータベルトが記載されている。
- 欧州特許出願公開第1555233 A1号明細書は、第1の実施形態がウォーリントン型の7本のストランドを備えたエレベータベルトを記載している。
【0008】
しかしながら、これらの「解決策」を現実に突きつけると、それらは失敗する。主な障害は、引張りと圧縮の繰り返しの負荷サイクルのもとでコードから逃げ出る1つ又は複数の中心コアフィラメントに残る。ベルトを駆動するプーリは、そのプーリに向かう動きにおいてベルトに張力をかける。ベルトによって駆動されるプーリは、戻り時にベルトを圧縮する可能性がある。これらのプル-プルサイクルが繰り返されると、ストランドのコアに「蠕動」動作が誘発され、これは最終的にコアの脱出をもたらす。その動きは常に「前方」方向、すなわちベルトの動きの方向である。コアが逃げることにより、コアがポリマージャケットを貫通し、プーリの1つと絡み合い、ベルトが完全に壊れる可能性がある。これが「コア移行問題」である。
【0009】
ベルトを使用しているときに起こり得るさらなる問題は、ベルトが、例えばエレベータベルトの場合に、中程度の速度で走行しているときのノイズの発生である。このノイズはエレベータ内の乗客に不快なものとして知覚され、したがって回避することが探究されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、従来技術の問題を示さないベルトを提供することである。特に、コア移行の問題も回避する解決策が提案される。さらに、ノイズの問題に対する解決策が探究される。本発明のさらなる目的は、高い強度対幅比を有し、補強材とポリマージャケットとの間の良好な接着及び/又は固着を示すベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、特許請求項1の特徴によるベルトが特許請求される。
【0012】
本発明の主題であるベルトは、複数のスチールストランドと、ポリマージャケットとを含む。長さ寸法、幅寸法、厚さ寸法は、いかなるベルトについても容易に設定することができるが、ここで、長さ寸法が最大で、幅寸法がそれに続き、厚さ寸法が最小である。スチールストランドのそれぞれは、以下「D」(mm)で指定されるスチールストランド直径を有する。各スチールストランドは、ストランドの垂直断面を接線方向に外接する円の中心であるスチールストランドの中心も有する。スチールストランドは、長さ寸法に沿って方向付けられ、ポリマージャケットによって互いに平行な関係に保持される。すべてのスチールストランドの中心は整列され、幅寸法において一列である、すなわち、それら中心は、局所的な幅及び長さ寸法が広がる表面内にある。隣接するスチールストランドの中心は、ピッチ(以下、「p」(mm)で参照される)だけ離される。
【0013】
本出願の目的のために、ピッチ「p」は、2本の外側ストランドの中心間の幅寸法に沿った距離を、ストランドの本数から1を引いた数で割ったものである。隣接するスチールストランド中心間の距離が等しいことは、本発明の前提条件ではないが、好ましい。別の言い方をすると、ピッチは、ベルトの垂直断面におけるスチールストランド間の中心間距離の平均に一致する。好ましい実施形態では、隣接するスチールストランド中心間の距離は等しい。
【0014】
このベルトは、スチールストランドの直径対ピッチの比、すなわちD/pが0.55より大きいことにおいて特徴付けられる。この比率は、スチールストランドの中心のレベルでベルトの幅のどれくらいが実際にスチールで占められているかを示している。
【0015】
特定の好ましい実施形態では、ベルトは以下のものであり得る:
・エレベータ昇降ベルト。このようなベルトは長方形の断面を有し得る、すなわち、プーリに接触する側は平らである、すなわち、エレベータ昇降ベルトは「平ベルト」である。
・或いは、エレベータベルトは片側又は両側にベルトの長さに沿って溝を設けることができる、すなわち「溝付きベルト」であることができる。溝は、ベルトが接触するプーリの円周溝と係合する。
・或いは、ベルトは同期ベルト、すなわち、ベルトの長さに実質的に垂直な歯を備えたベルトの形態であり得る。歯は、ベルトに接触する歯付きプーリと係合する。これは、歯付きベルトとも呼ばれる。
【0016】
この記載において、「ベルト」に言及する場合は常に、言及したベルトのいずれにも、以下に記載する方法で補強材を設けることができる。その結果、「ベルト」という単語は、本テキスト内のどこでも、より具体的な「エレベータベルト」、「同期ベルト」、「平ベルト」、又は「溝付きベルト」という表現に置き換えることができる。しかしながら、記載されたベルトはエレベータベルトに最も適している。
【0017】
本出願の目的のために、ベルトの厚さは最小厚さ寸法である。エレベータベルトの長さ方向に垂直な平面内の特定の方向で測定される「キャリパーサイズ」は、ベルトに接触するノギスの2つの平行なアンビル間の距離である。任意の方向のキャリパーサイズを決定することにより、最小キャリパーサイズを決定することができる。幅は、厚さが測定される方向に直交して測定されるキャリパーサイズである。通常、厚さに対する幅の比率は、3よりも大きいが25より小さく、例えば4~20の間、好ましくは6~12の間である。
【0018】
スチールストランドの「複数」とは、2から30まで、例えば4から25まで、又は4~16の間で変化し得る数、例えば12を意味する。その数は、ベルトの必要な合計強度の関数として選択され、必要な合計強度はベルトの用途によって決定される。例えば、エレベータベルトの場合、スチールストランドの数は、エレベータの公称耐荷重、滑車比(reeving ratio)、エレベータベルトの数、及び安全係数に依存する。同期ベルトの場合、スチールストランドの数は、引き継ごうとするパワーによって決定される。
【0019】
「スチールストランド」は、一緒に撚られたスチールフィラメントを含む。「スチールストランド」は、真っ直ぐであり得る(「ゼロ次らせん変形」)コアと、コアを囲むらせん状(「1次らせん変形」)に形成されたスチールフィラメントとを含み得る。これは、そのらせん軸が同じくらせんの形状(「二次らせん変形」)を有するらせんを示すスチールフィラメントが同じく存在するマルチストランドコードとは対照的である。7×7構造の外側ストランドの外側フィラメントは、このような「二次らせん変形」を示す。したがって、「スチールストランド」は、ゼロ次及び/又は1次らせん変形を有するスチールフィラメントを有するが、より高次のらせん変形を有するフィラメントを有さないコードとして都合よく定義することができる。
【0020】
スチールストランドの直径Dは、ベルトの用途に応じて0.5mm~6mmの間で変化し得る。一般的なサイズは1.2mm~2mmの間である。好ましくは、ベルト内のすべてのスチールストランドは同じ直径を有する。ベルトの柔軟性を保つために、使用するスチールフィラメントの直径は0.02mm~0.40mmの間、より好ましくは0.04~0.25mmの間、又は0.10~0.20mmの間であるべきである。フィラメントの断面は丸いことが好ましい。これらのタイプのフィラメントは高い引張強度で作製できるからである。特定の直径「D」のスチールストランドに存在するフィラメントが多いほど、スチールストランドはより柔軟になる。当然のことながらフィラメントの直径が同時に減少するからである。典型的には、15~60本の間のフィラメント、又はより好ましくは19~57本の間のフィラメント、例えば21~39本の間のフィラメントがスチールストランド内に存在する。
【0021】
「スチール」とは、あらゆる種類のスチールを意味する。好ましくは普通の炭素鋼が使用される。そのような鋼は一般に、0.40重量%C又は少なくとも0.70重量%Cであるが最も好ましくは少なくとも0.80重量%Cの最小炭素含有量を1.1重量%Cの最大量で含み、マンガン含有量は0.10から0.90重量%Mnまでの範囲であり、硫黄及びリン含有量はそれぞれ、好ましくは0.03重量%未満に維持され、クロム(0.2~0.4重量%まで)、ホウ素、コバルト、ニッケル、バナジウム(非網羅的列挙)などの追加微量合金元素を添加することもできる。このような炭素鋼フィラメントは、2000MPaを超える強度、好ましくは2700MPaを超える強度で製造できるが、現在、3000MPaを超える強度が一般的傾向となり、3500MPaを超える強度が参入している。ステンレス鋼も好ましい。ステンレス鋼は、最低12重量%のCrとかなりの量のニッケルとを含む。より好ましいのはオーステナイト系ステンレス鋼であり、これは冷間成形により適している。最も好ましい組成物は、AISI(米国鉄鋼協会)302、AISI301、AISI304及びAISI316として当技術分野で知られている、又はEN1.4462で知られる二相ステンレス鋼である。
【0022】
ポリマージャケットは、スチールストランドを所定の位置において包み込み、取り囲み、保持している。実際に使用できるポリマーは、ゴム及び熱可塑性ポリマーのような熱硬化性ポリマーであり、熱可塑性ポリマーは加工が容易であり且つポリマーの機械的特性を容易に変更できる可能性があるため好ましい。最も好ましい熱可塑性材料は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)及び熱可塑性ポリオレフィン(TPO)である。
【0023】
ポリエーテルポリオールから誘導されたTPUは加水分解によく抵抗するが、機械的特性は低くなる。ポリエステルポリオールから誘導されたTPUは、より優れた機械的特性を有するが、加水分解に対する耐性は低くなる。ポリカーボネートから誘導されたTPUの耐加水分解性と機械的特性は、他の両方のタイプの間にある。ポリエーテルポリオールベースのTPU及びポリカーボネートポリオールベースのTPUが最も好ましい。
【0024】
次に、主請求項の特徴部分に戻る。比率D/pが0.55以下の場合、スチールストランドがポリマージャケットを通過する。実際、スチールストランドは、よく知られているマルチストランドスチールコードと比較して、直径が小さいことに加えて軸方向の剛性が高い。ベルトがプーリ上を走行している場合、ポリマーにかかるスチールストランド下の局所圧力は、マルチストランドロープの場合よりも高い。スチールストランドが相対的に伸びず、小さい直径を有するからである。そのため、スチールストランドがポリマージャケットを通過するリスクがある。
【0025】
また、スチールストランド間のピッチが大きい場合、すなわちD/p比が0.55未満の場合、本発明者らは、スチールストランド間のポリマーとプーリとの間の空気閉じ込めのリスクがあると疑っている。これは不要なノイズの原因となる可能性がある。
【0026】
したがって、比率D/pは、0.55より大きく、又は0.60より大きく、又は0.625より大きく、最大で0.70より大きいことが好ましい。
【0027】
比率D/pは、好ましくは、0.90未満、例えば0.70未満など0.80未満、例えば0.625未満である。比率D/pが0.90より大きい場合、平行なスチールストランドによって形成された平面の片側にあるポリマージャケットの部分が、反対側のポリマージャケット部分から分離する可能性がある。その理由は、ポリマージャケットの片側を反対側に接続する単位長さ及びピッチ(1-(D/p)に等しい)あたりのポリマー面積が小さくなりすぎて、ポリマーが、繰り返される曲げのせいで、これらのゾーンで切り裂かれることである。結論として:好ましくは比率D/pは0.55~0.625の間、例えば0.60である。
【0028】
ポリマージャケットの片側が反対側から分離するこのリスクを軽減するために、スチールストランドとポリマージャケットのポリマーとの間の接着を促進する有機プライマーをスチールストランドへ提供することが好ましい。ここで両側の部分が同じくスチールストランドに接着するため、片側部分と反対側部分との間に追加の橋架けが確立される。かくして、スチールストランドがポリマーに接着するベルトは、疲労寿命が長くなる。
【0029】
スチールストランド全体を有機コーティング又はプライマーでコーティングできれば十分であること、すなわち、個々のスチールフィラメントを有機コーティング又はプライマーでコーティングする必要はないことに注意されたい。言い換えれば、例えば、EP2366047号の出願で説明されているように、スチールストランドの外側表面のみに接着剤を提供すればよい。
【0030】
プライマーは、補強ストランドが使用されることが意図されているポリマーへの接着を改善するように選択される。典型的な有機プライマーは、フェノール樹脂、エポキシ、シアノアクリレート、又は例えばLoctite(登録商標)のブランド名で販売されているものなどのアクリル系である。
【0031】
しかしながら、これらのコーティングは比較的厚く(1マイクロメートル超)、塗布するのにかなりの処理時間を必要とする可能性がある。したがって、有機官能性シラン、有機官能性ジルコン酸塩、及び有機官能性チタン酸塩を含む又はからなる群から取得されたナノスコピック有機コーティングが好ましい。好ましくは、排他的ではないが、有機官能性シランプライマーは、次式の化合物から選択される:
Y-(CH-SiX
式中:
Yは、-NH、CH=CH-、CH=C(CH)COO-、2,3-エポキシプロポキシ、HS-、及びCl-から選択される有機官能基を表し、
Xは-OR、-OC(=O)R’、-Clから選択されるケイ素官能基を表し、ここでR及びR’はC1~C4アルキル、好ましくは-CH、及び-Cから独立して選択され、そして
nは0~10の間の整数であり、0~10が好ましく、0~3が最も好ましい。
【0032】
上記の有機官能性シランは市販の製品である。これらのプライマーは、ポリウレタンとの接着を得るのに特に適している。有機コーティングは、1マイクロメートル未満、好ましくは5~200nmなどの500ナノメートル未満の厚さを有する。このサイズの薄いコーティングは、形状合致式にスチールストランドの外面に従い、その薄さのために外層フィラメント間の谷へのポリマーの充填を妨げないため、好ましい。
【0033】
本発明によるスチールストランドを有するベルトにおいて有機プライマーが非常に好ましい理由は、7×7のような従来技術のスチールコード補強材と比較して、スチールストランドがより滑らかな表面を有することであり、したがってスチールストランド中のポリマーの機械的固着がかなりより低く、これは化学的接着によって補われる必要がある。
【0034】
接着力は以下のように測定される:
・スチールストランドをベルトの一端でポリマーから解放する。
・その側で、ベルトの内側で、ポリマー端部から「L」mmの距離で1本のストランドを切断する(接着試験に極部補強ストランドは使用しない)。
・この1本のストランドをベルトから軸方向に引き出すために必要なニュートン単位の最大力を決定する。
・単位長さあたりの接着力を得るために、この最大力を埋め込み長さ「L」で除算する。
・埋め込み長さ「L」は12.5mmの倍数であるため、コードはベルトから引き出されるときに破損しない。
本発明者らの経験によれば、単位長さ当たりの接着力(N/mm)は、mm単位のスチールストランドの直径の少なくとも20倍である。mm単位のスチールストランドの直径の30倍より大きい場合、より好ましい。
【0035】
特に好ましい実施形態では、ベルトのスチールストランドは、コア直径を有するコアと、以下の方法でコアの周りに構成されたスチールフィラメントとを含む。
- コアの周囲に円周方向に配置されたN本の第1のスチールフィラメントを含む、又はそれらからなる中間層。これらのN本の第1のスチールフィラメントはすべて、第1の直径を有する。コア直径及び第1のフィラメント直径は、中間層の第1のフィラメント間にギャップが形成されるようなものである。ギャップは、隣接するフィラメントの表面間で、それらの最も近いアプローチ点、すなわち、フィラメントの表面に垂直な方向で取られる。
- 中間層の周囲に同様に円周方向に配置された2倍のN、すなわち2Nスチールフィラメントを含む、又はそれらからなる外層。
中間層及び外層のすべてのスチールフィラメントは、同じ最終より長さ(以下縮めて「FL」)及び方向でコアの周りに撚られる。「最終より長さ及び方向」とは、ストランドが静止しているとき、つまり外部モーメントも力も作用していないときのよりの長さ及び方向、例えば約1メートルのストランド小片で観察されるよりの長さを意味する。
【0036】
したがって、スチールストランドは、パラレルよりストランド(「平行よりストランド」とも呼ばれる)、すなわち、少なくとも2つのフィラメント層を含むストランドであり、そのすべてが1回の操作で同じより長さで同じ方向に配列される。すべてのフィラメントは一次らせん変形を有する。コアはゼロ次らせん変形を有し得る、又はゼロ次若しくは1次らせん変形のフィラメントを含み得る。
【0037】
スチールストランドは、スチールフィラメントが一緒に配列される最終より長さが、閉鎖より長さの2倍より大きく6倍より小さい点に特徴がある。閉鎖より長さ(縮めてCL)は、中間層の隣接するフィラメント間のギャップが閉鎖される、すなわちフィラメントが互いに接触する限界より長さである。したがってスチールストランドについての特徴は、最終より長さFLが2×CL~6×CL(限界値を含む)の間であることである。閉鎖より長さCLと比較した最終より長さFLの他の範囲は次のとおりである:
3×CL≦FL≦6×CL又は
3×CL≦FL≦5×CL又は
4×CL≦FL≦6×CL又は
4×CL≦FL≦5×CL。
【0038】
実際、スチールストランドのより長さを短くすると、中間層のフィラメントは、閉鎖より長さで互いに接触するまで互いに接近する傾向がある。それには以下の点で制限がある、すなわち、さらに短いより長さを適用すると、中間層フィラメントは互いに衝突し、半径方向に拡張してコアが中間層フィラメントともはや接触しなくなるという点で制限がある。
【0039】
閉鎖より長さは、コア直径「d」、中間層フィラメントの第1の直径「d」、及び中間層内のフィラメントの数「N」によって決定される。本出願のすべての実用的な目的のために、それは以下に等しい:
【数1】
【0040】
完全を期すために、すべての第1のスチールフィラメントに接する第1の半径を有する第1の外接円を定義することができる。この第1の外接円は(d/2)+dの半径を有する。
【0041】
好ましくは、本発明によるスチールストランドの場合、最終より長さは、スチールストランドの直径Dの約8から15倍、又はより好ましくはスチールストランドの直径Dの9から12倍の間である。
【0042】
この最終より長さを選択する利点は、補強ストランドが圧縮されたときに、フィラメントが中間層内に座屈するスペースをまだ有することである。より長さが2×CLより短い場合、第1のスチールフィラメント間に十分なギャップがなく、それらは圧縮時に中間層から押し出される。その結果、それらはプル-プル動作が繰り返されるとスチールストランドから逃げ出て、最終的にベルトから逃げ出る。
【0043】
最終より長さFLが閉鎖より長さの6倍を超えると、スチールストランドは凝集性を失い、使用中にストランドが楕円化に見舞われる可能性がある。楕円化とは、プーリ上で繰り返し曲げられると、ベルトにおいてストランドが円形断面ではなく長円形になる現象である。さらに、スチールストランドは、使用中に層間でフィラメントが移動しやすくなる。その結果、中間層のフィラメントは外層のフィラメントと位置を切り替える可能性があり、これは「逆転」と呼ばれる。フィラメントの逆転は、局所的な疲労感受性スポットにつながる可能性がある。
【0044】
さらなる利点は、特定の最終より長さが選択されると、補強ストランドが静止しているときに中間層のフィラメントを張力下で設定できることである。例えば、ベルトの繰り返しの曲げによって第1のフィラメントの破損が発生した場合、第1のフィラメントの破損端は互いに離れ、コアと外層フィラメントの間に保持される。したがって、それらはスチールストランドから外に出ず、ストランド内に残る。その結果、それらはベルトから逃げ出ない。
【0045】
さらなる好ましい実施形態によれば、外層フィラメントの直径は、コードが最終より長さにあるときにこれらのフィラメント間にギャップが形成されないようなものである。「ギャップなし」とは、ギャップが補強ストランドの直径の1%以下、さらには0.5%未満であることを意味する。
【0046】
中間層と外層との間のフィラメントの逆転を防ぐため、外層にギャップがないことが望ましい。
【0047】
上に詳述したようなスチールストランドを有するベルトの別の実施形態によれば、スチールストランドの外層は以下を含む
- 第2の直径「d」のN本の第2のスチールフィラメント。第2のスチールフィラメントは、中間層の周囲に円周方向に組織され、同じより方向、同じ最終より長さを有し、中間層のフィラメントと同じ数であるため、それらは第1のフィラメントによって形成された谷の中に入れ子状になる。すべてのN本の第2のスチールフィラメントに接する第2の半径を有する第2の外接円を定めることができる。
- 第2の直径「d」より小さい第3の直径「d」のN本の第3のスチールフィラメント。これらのフィラメントは、第2のスチールフィラメントの間に入れ子状になり、第3の半径を有する第3の外接円に接している。
本実施形態の第1の変形では、第2のスチールフィラメントに接触する第2の半径は、第3のスチールフィラメントに接触する第3の半径に等しい。「等しい」とは、第2と第3の半径を第2と第3の半径の最大値で除した場合の絶対差が2%以下であることを意味する。
【0048】
この実施形態のより好ましい変形では、第2のスチールフィラメントに接触する第2の半径は、第3のスチールフィラメントに接触する第3の半径と異なる。「異なる」とは、第2及び第3の半径の最大値で除した第2及び第3の半径の絶対差が2%より大きい、好ましくは4%より大きいことを意味する。
【0049】
さらなる好ましい実施形態によれば、第2の半径は第3の半径よりも大きい。すなわち、第2の直径が非常に大きいため、第2のフィラメントが第3の外接円から突出する。第2と第3の半径の差は、少なくとも第2の半径の2%であるべきである。さらに好ましいのは、差が3%より大きいか、5%より大きい場合である。差が大きくなると、補強ストランドの表面が滑らかでなくなり、それにより、ポリマー内での補強ストランドのより良い固着が可能になる。また、中間層のフィラメントが外層のフィラメントと逆転する可能性が減少する。丸みの少ないスチールストランドは、処理中の転がりが少ないため、処理も簡単である。
【0050】
一見すると、スチールストランドはウォーリントンタイプの構造として分類することができる。しかしながら、いくつかの重要な態様でウォーリントンから逸脱している:
- 中間層が最終より長さでギャップを示す;
- 外層フィラメントの2Nフィラメントは、ウォーリントン構造の場合のように1つの円ではなく、2つの異なる円に接する。
【0051】
有利には、本発明による補強ストランドは、以下の点でウォーリントン構造のそれにより同じ利点を依然として有する:
- フィラメント間の接触は、点接触ではなく線接触である。これは、スチールストランドの疲労寿命とケーブル係数にプラスの影響を及ぼす。ケーブル係数は、フィラメントを撚り合わせる前のフィラメントの破壊荷重の合計に対するスチールストランドで得られる破壊荷重の比率である。以上全部が、好ましい耐用年数のベルトをもたらす。
- スチールストランドの断面の大部分は金属で占められる。最大の外接円の面積と比較したスチールストランドの金属部分(「充填率」とも呼ばれる)は、少なくとも70%以上である。これは、ウォーリントンストランド(充填率80%が容易に得られる)よりも若干低いが、それでも目的には十分である。充填率が高いと、限られた外接領域内で高い破壊荷重が可能になる。さらに、それは、特に補強材の最小破壊荷重の典型的には2~10%であるスチールストランドの作業領域において、スチールストランドの軸方向剛性にプラスの影響を有する。
- スチールストランドは、マルチストランドコードよりも高い弾性率を有する。典型的にマルチストランドコードの場合、これは175000N/mmを下回るが、スチールストランドの場合、これはこの数を超え、例えば175000N/mmを超え、又はさらには180000N/mmを超える。弾性率は、荷重-伸び曲線の線形領域で、すなわち最小破壊荷重の10%を超える荷重で決定される。
【0052】
ベルトのさらに好ましい実施形態によれば、スチールストランドの中間層のフィラメントの数Nは、5、6、7、8又は9に等しい。フィラメントの数Nが大きくなると、例えば8又は9になると、コアが他のフィラメントよりもはるかに大きくなるという欠点が生じ、これは疲労又は移行の点で好ましい状況ではない。コアの直径対第3の直径の比は、2.26(N=8)から2.9(N=9)になる。一方、5本などの少数のフィラメントの場合、コアは小さくなり、コアの直径対第3の直径の比は1.75になり、これはより良いと考えられる。フィラメント間の直径のより小さな偏差は、フィラメント間の強度分布を改善するため、大きな偏差よりも良い。最も好ましいのは、N=6(比率1.3)及びN=7(比率1.71)である。
【0053】
ベルトに組み込まれたスチールストランドのコアは、スチールストランドの重要な部分である。この部分はベルトの使用中に逃げ出る傾向があるからである。以下、考えられるさまざまなコア構造について記載する。
【0054】
ベルトのさらに好ましい実施形態では、スチールストランドのコアは単一のスチールフィラメントである。例えば、コアは、高張力鋼で作られた丸くて真っ直ぐなフィラメントとすることができる。これは最も好ましくない。
【0055】
代替の実施形態では、ベルト中のスチールストランドのコアは、間に真っ直ぐなセグメントを有する屈曲部を含む単一のスチールフィラメントである。これは、コアスチールフィラメントが真っ直ぐではなく、小さな曲がりがあることを意味する。ここでコアの直径「d」は、コアに外接し、屈曲部に接する円柱の直径になる。
【0056】
間に真っ直ぐなセグメントを有する屈曲部を含む単一スチールフィラメントであるコアを有することの利点は、屈曲部がコアに好ましい座屈のための場所を提供することである。ベルトの使用中にスチールストランドのコアが圧縮されると、屈曲部は最初に降伏し、コアワイヤが制御された方法でその軸方向長さを短縮することを許容する。屈曲部が存在しない場合、真っ直ぐなワイヤは、コアスチールフィラメントがスチールストランドの外側、及びベルトの外に押し出される可能性があるポイントまで、はるかに長い距離にわたって圧縮を蓄積する。
【0057】
耐圧縮性コアを得る別の方法は、ゼロ次らせん変形フィラメント、すなわち直線フィラメントの存在を完全に回避することである。
【0058】
コア内の単一直線フィラメントの存在を回避する1つの方法は、2本又は3本又は4本のコアスチールフィラメントを含むストランドとしてコアを提供することである。最も好ましいのは、2本又は3本、例えば3本のコアスチールフィラメントである。これらのコアスチールフィラメントは、スチールストランドの最終より長さFLとは異なるコアより長さで撚り合わされる。好ましくは、コアより長さは、FLよりも短く、例えばFLの半分である。コアのより方向は、補強ストランドのより方向と反対にすることができるが、同じより方向がより好ましい。2本、3本、又は4本のコアスチールフィラメントが撚り合わされているため、それらはワイヤがらせん状に変形するので圧縮に耐えることができる。
【0059】
また、ゼロ次らせん変形フィラメントを持たない、すなわちコア全体に真っ直ぐなワイヤを持たないコアの平行より構造も好ましい。非常に好ましい実施形態では、コアは、撚り合わされた3本のフィラメントで存在するコア-コアを含む12ワイヤの準ウォーリントンストランドである。「コア-コア」は「コアストランドのコア」である。それらフィラメントによって形成された凹部には、3本のより大きな外側フィラメントが入れ子になっている。3つのより大きな外側フィラメントの各対の間に、より小さなフィラメントの対が配置される。例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4829760号明細書に記載されている。別の同様に好ましい実施形態は、3本の細いワイヤのコア-コアと、中サイズと大サイズが交互になる6本のワイヤのジャケットとを含む9ワイヤ準ウォーリントン構造である。そのようなコードは米国特許第3358435号明細書に記載されている。
【0060】
或いは、さらなる好ましい実施形態において、コアは、コア-コアと、5、6又は7本のコアの外側のフィラメントとを含むストランドとすることができる。コアの外側のスチールフィラメントは、補強ストランドの最終より長さと異なるコアより長さでコア-コアの周りに撚られる。コアより長さは、補強ストランドの最終より長さFLよりも小さいことが望ましい。コアのより方向は、補強ストランドのより方向と反対にすることができるが、同じより方向が好ましい。代替の実施形態では、コア-コアは、真っ直ぐな単一のスチールワイヤであるか、又は真っ直ぐなセグメントが間にある屈曲部を有する単一のスチールワイヤであり得る。コア-コアは、直径が非常に細かいため、及び/又は屈曲部が付いているため、圧縮により良く耐えることができる。或いは、コア-コアは再び、ストランド、例えば5、6又は7本のコア外側スチールフィラメントがコア-コアの周囲に撚られることによって取り囲まれた3×1ストランドであることができる。
【0061】
代替の実施形態では、ウォーリントン構造は、当技術分野で知られているような16ウォーリントンタイプ(1+5+5|5)、19ウォーリントンタイプ(1+6+6|6)、さらには22ウォーリントンタイプ(1+7+7|7)などをコアについて考慮することができる。さらにより好ましいのは、コアの中間より長さの第2の最終より長さの2倍から6倍の第2の閉鎖より長さが存在するという点で、上記の方法でコアがウォーリントンタイプ構造から逸脱することである。
【0062】
さらに別の実施形態では、コアはそれ自体で1+6+12又は3+9+15などの層状コードであり得、ここでフィラメントの各連続層はコア又は中間的に形成されたストランドの周りに異なるより長さであるが好ましくは補強ストランドのより方向と同じより方向で撚られている。
【0063】
すべての好ましい実施形態において、スチールフィラメントには、金属コーティング又は金属コーティング合金が提供される。このような合金を使用して、スチールに腐食保護を付与すること、フィラメントをポリマーに接着すること、又は腐食保護と接着の両方を組み合わせることができる。耐食性コーティングは、例えば亜鉛又は亜鉛アルミニウム合金である。欧州特許第1280958号明細書に記載されているような低亜鉛の溶融コーティングが最も好ましい。このような亜鉛コーティングの厚さは、2マイクロメートルよりも薄く、好ましくは1マイクロメートルよりも薄く、例えば0.5μmである。亜鉛コーティングとスチールの間に合金層の亜鉛鉄が存在する。
【0064】
スチールストランドがゴムベルトの補強用である場合、好ましい金属接着を可能にするコーティングは、例えば真鍮コーティング(銅-亜鉛合金)である。銅-亜鉛-ニッケル(例えば、64重量%/35.5重量%/0.5重量%)及び銅-亜鉛-コバルト(例えば、64重量%/35.7重量%/0.3重量%)などのいわゆる「三元真鍮」、又は亜鉛-ニッケルや亜鉛-コバルトなどの銅フリー接着剤系を使用することもできる。
【0065】
記載されたベルトは、従来技術のベルトよりも単位幅当たりのより高い強度を可能にする。これは以下の理由による:
(a)ストランドの直径は、同じ破壊荷重を有する従来技術のマルチストランドコードの直径と比較して小さいため、エレベータベルトの全体の幅及び厚さを同じ強度で低減することができる。
(b)補強ストランドはより高いケーブル係数を有するため、7×7コードのようなマルチストランドコードと比較して、同じ金属面積でより高い破壊荷重を得ることができる。
(c)補強ストランドのフィラメント間に線接触があるため、マルチストランドコードと比較して、フィラメントの破壊荷重の合計のより少ない損失で、より高い引張強度のフィラメント(3500N/mm2超)を使用することができる。
(d)補強ストランドの弾性率は、従来技術のマルチストランドコードの弾性率よりも高い。
(e)D/p比が0.55を超えるので、同じ幅でより多くのスチールストランドを収容することができる。結果として、ベルトはより頑丈であるだけでなく、マルチストランドスチールコード及び/又は同じ幅のより低いD/p比を有する従来技術のベルトと比較して、その作業領域内でより高い軸方向の剛性も有する。
【0066】
結論として、マルチストランドスチールコードで補強された従来技術のベルトと比較すると、同じ合計金属断面積を有する、すなわちベルト内に同じ量のスチールを有するスチールストランドで補強された本発明的ベルトは以下を示す:
・少なくとも同じ強度に対してより狭い幅((a)による);
・同じ重量の補強材に対してより高い破壊荷重((b)及び(c)による);
・同じ重量に対してより高い軸方向剛性((d)による)。
例えば、エレベータベルトの場合、項目(e)の結果、エレベータは足を踏み入れたときに従来よりも下がらなくなる。キャビンに足を踏み入れたときのエレベータの感触は、足を踏み入れたときにより「弾力のある」従来技術のエレベータと比較して、より「しっかり」している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】スチールストランドを備えた本発明的エレベータベルトの断面を示す。
図2】本発明的ベルトを補強するのに特に好ましい最終より長さでのタイプ3+6+6|6の好ましいスチールストランドの断面を示す。
図3】本発明的ベルトを補強するのに特に好ましい最終より長さでのタイプ3+7+7|7のスチールストランドの代替実施形態の断面を示す。
図4】本発明的ベルトを補強するのに特に好ましいタイプ(1+6)+7+7|7のスチールストランドの別の代替実施形態の断面を示す。
図5】コアが平行より構造であるスチールストランドの実施形態の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図面中、様々な実施形態にわたる同様の要素は、同じ1の位の数字及び10の位の数字を持ち運ぶ。100の位の数字は図の番号を示す。
【0069】
本発明を実施に移す場合、以下の制限を考慮しなければならない:
・ベルト内のスチールストランドの配置は、ベルトの垂直断面において決定される。垂直はベルトの長さ寸法に対する垂直を意味する。
・フィラメントの配置はベルトの断面において決定される。
- スチールフィラメントを含むスチールコードの「構造」は、フィラメントの直径、より長さ、及び断面でのフィラメントの配置方法によってのみ決定される。
- スチールフィラメントの直径は、マイクロメートル(μm)まで測定可能である。丸いフィラメントの直径は、キャリパの最大直径と最小直径の平均である。キャリパの最大径と最小径の差が7μm未満のフィラメントは「丸い」とみなされる。
- スチールフィラメントの直径の公差は、公称直径から-4~+4マイクロメートル(μm)に設定される。したがって、直径の差が8μmより小さい(8μmを含まない)2つのフィラメントは、同じ直径を有するものとして扱われる。
- よりの長さの公差は、公称値の-5%~+5%である。よりの長さは、BISFA「国際人造繊維標準化局(The International Bureau for the Standardisation of Man-made Fibres)」が発行する「国際的に合意されたスチールタイヤコードの試験方法」、E4章「よりの長さと方向の決定」に従って決定される。
- 閉鎖より長さは、測定されたコアの直径と中間層フィラメントの直径及び数とに基づいて式{1}に従って計算される。
【0070】
図1は、本発明的ベルト100の垂直断面を示す一方でベルトの主な特徴を示している。厚さ「t」は、ベルトの最小寸法である。厚さ「t」及び長さ寸法に対して垂直なのは、ベルトの幅「W」である。多数のスチールストランド104(この場合は10本)がポリマージャケット102に埋め込まれている。スチールストランドは示された直径「D」を有し、スチールストランドの中心はピッチ「p」だけ離されている。レンズ106は、図2でさらに説明されるスチールストランドdW21を示す。
【0071】
このようなベルトは、平行に配置されたスチールストランドの単一押出ヘッドを介した押出し、又は2枚のシート間に平行な弛緩したスチールストランドを積層することによるなど、当技術分野で知られた技術によって作製される。前者の方法は後者の方法よりも好ましい。
【0072】
図2は、本発明的ベルトでの使用に特に適したスチールストランド200(「dW21」)を示す。それは、Z方向に3.8mmのよりで撚り合わされた直径120μmのサイズの3本のフィラメント202を含むコア203を有する。したがって、コア203は、259μmの直径「d」を有する。中間層スチールフィラメント204は、210μmの第1の直径を有する。数Nは6に設定されている。中間層は、12本のスチールフィラメント、すなわち6本の第2のスチールフィラメント206及び6本の第3のスチールフィラメント208からなる外層で囲まれている。第2の直径は223μmである。第3の直径は170μmである。第1の半径205は130μmである。第2の半径212は500μmであり、第3の半径210は510μmである。第1、第2、及び第3の半径は、測定されたフィラメントサイズ及び/又は断面から単純な三角法によって計算することができる。最終より長さでの外層のフィラメント間のギャップは11μmである。ストランドの直径は1.02mmである。
【0073】
式{1}から、閉鎖より長さCLは2.56mmであることが分かる。このより長さで、中間フィラメント間のギャップが閉じられる。最終製品でコア、中間層フィラメント、及び外層フィラメントが撚り合わされる最終より長さは10mmである。したがって、最終よりの長さは、2×CL、すなわち5.12mmと6×CL、すなわち15.36mmの間である。
【0074】
この補強ストランドは、同期ベルトを補強することが周知のマルチストランドコード7×3×0.15に対する大きな改善であることが判明した。後者は、S(又はZ)方向に8mmのよりで撚り合わされた7本のストランドで構成され、各ストランドはZ方向(又はS)に9mmのよりで撚り合わされた3本のフィラメントから構成される。dW21と7×3×0.15の両方はフィラメント数が同じであることに注意されたい。
【0075】
表1は、両方の主なパラメータの比較を示す:
【0076】
【表1】
【0077】
「MBL」とは「最小破壊荷重(Minimum Breaking Load)」を意味する。これは、6シグマの統計的変動に基づいて予想され得る最小の破壊荷重である。本出願のために、それは実際の破壊荷重よりも7%低く設定されている。
「MBLの2~10%の間の軸方向剛性」(EA)とは、MBL(単位N)の2~10%の間の荷重差ΔFをこれらのポイント間の伸び(単位%)の差Δεで割った比を意味する。これは、補強ストランドの作業領域の伸びについての重要な指標である。式中:ΔF=(EA)Δε。
「線形領域の弾性率」は、線形である荷重伸び曲線の領域、例えばMBLの10%を超える領域で取得される。
【0078】
エレベータベルト又は同期ベルトなどのベルトで使用される場合、本発明による補強ストランドは以下の有利な特徴を示す:
- 直径あたりの強度がはるかにより高く、これはベルト内の補強コードのピッチが同じでも、はるかにより高い強度が得られることを意味する!実際、dW21の強度は、7×3×0.15の強度と比較してほぼ2倍である。これは、マルチストランドコードの点接触ではなく、補強ストランドの線接触によるものである。これはまた、より高い引張強度のフィラメントを使用する可能性を開く。
- ベルトの作業領域において、補強ストランドの軸方向の剛性はマルチストランドコードのそれと比較して高くなる。これは、同じコード数に対してベルトの伸びが小さくなるという点で重要な改善点である。
【0079】
本発明者らにとって非常に驚いたことに、補強ストランドは、ベルトの伸張試験においてコアの移行を全く示さなかった。実際、ベルト内に真のウォーリントンストランドを含むベルトの以前の実験では、コアの移行は避けられなかった。
【0080】
本発明者らはこれを2つの主要な特徴に起因すると考える:
- 3×1ストランドに存在するコアの使用。これらのフィラメントのらせん形状は、単一の直線フィラメントよりも圧縮を受け入れる。
- 中間層にギャップがあるため、そこに存在するスチールフィラメントがわずかに異なる位置をとることができ、それにより、外に逃がすことなく圧縮を吸収する。
【0081】
本発明的コードを有する25mmの幅「W」及び5mmの厚さ「t」を有するベルトと従来技術のコードとの特定の比較は表2において見出すことができる:
【0082】
【表2】
【0083】
本発明的ストランドを使用することにより、ベルトの破壊荷重は84%増加する一方、単位面積当たりの鋼質量は60%しか増加しない。作業領域におけるベルトの軸方向剛性も、増加した鋼質量と組み合わせて本発明的ストランドを使用するために増加する。
【0084】
補強ストランドdW21は、異なる第2及び第3の半径のためにいくらかの表面粗さを有するが、この表面粗さは、例えば7×7タイプのコードのものよりもはるかに小さい。7×7コードの場合、接着剤の使用は必ずしも必要ではないが、本発明的補強ストランドとポリマージャケットとの間の接着を促進するために有機プライマーを使用することが有益であることが判明している。記載されているケースの場合、有機官能性シランが使用された。ベルトから12.5mmの長さのスチールストランドdW21を引き出すのに650Nを要した。したがって、単位長さあたりの接着力は52N/mmであり、これは補強ストランドの直径の30倍、すなわち埋め込まれたストランド1mmあたり39Nを超える。
【0085】
図3は、Nが7に等しいスチールストランド300の別の実施「dW24」を示す。これは以下の式で説明される(括弧は異なる撚りステップを示し、数字はフィラメントの直径をミリメートルで表し、下付き文字はより長さをmm及びより方向で示す):
[(3×0.18)5.6s+7×0.26+7×0.285|0.18]15s
コア303は、「s」方向に5.6mmのよりで撚り合わされた3本の0.18フィラメント302の3×1ストランドである。コア303の周りに、第1の直径0.260mmの7本のスチールフィラメント304の中間層が存在する。外層では、0.285mmのフィラメント306が0.18mmのフィラメント308と交互になる。鏡像も同様に可能である(すべてのより方向が逆になる)。
【0086】
重要な幾何学的特徴は以下の表3で特定される:
【0087】
【表3】
【0088】
この補強ストランドの機械的特性を、エレベータベルトを補強するのに非常に一般的な直径1.6mmの7×7構造(米国特許第6739433号明細書参照)の機械的特性と比較する:表4。
【0089】
【表4】
【0090】
7×7/1.6はより大きい直径を有するが、作業領域の軸方向の剛性(MBLの2~10%)は、本発明の補強ストランドの場合よりも低い。コードは試験中であり、コアの移行を示さない。
【0091】
図4、表5は以下の構成の本発明的ベルトで使用できるさらに別のスチールストランドdW34を示す:
[(0.24+6×0.23)7.2z+9×0.33+9×0.30|0.21]16.8z
この式は前の例と同じ方法で読み取るべきである。鏡像(すべて「s」方向)は等しい特性を有する。
【0092】
【表5】
【0093】
等しい直径1.8mmの7×7との機械的データの比較を表6に示す
【0094】
【表6】
【0095】
同じ直径1.80mmの場合、はるかにより高い破壊荷重が得られる。また、MBLの2~10%の作業領域の軸方向剛性もはるかにより高い。これにより、補強材が使用されている領域、すなわちベルトの作業領域で、軸方向のより高い剛性挙動がもたらされる。
【0096】
表7は、dW34ストランド(dW34(1)及びdW34(2))で補強された2つのエレベータベルトと、一般的に使用される7×7/1.8従来技術(「pa」)マルチストランドコードとの比較を示す。
【0097】
【表7】
【0098】
本発明的ベルトdW34(1)の第1のバージョンは、従来技術のベルト7×7×/1.8(pa)と幾何学的に同一である。dW34補強ストランドを使用すると、すぐにベルト破壊荷重が49%増加する一方、ベルト内の面積鋼質量は30%しか増加しない。鋼質量の増加は作業領域の軸方向剛性の向上に寄与する。
【0099】
ストランド間のピッチを、10本から12本のストランドにすることにより減少させると、D/p比は0.72を超えて上昇する:列dW34(2)を参照。その場合、ベルトの破壊荷重は、従来技術のそれよりも79%高く、鋼質量は57%しか増加しない。
【0100】
従来技術の7×7/1.8構造で同じ70.8kNのベルト破壊荷重に達するためには、1.08の不可能なD/p比が必要であろう、すなわち、コードは互いに交差するであろう。
【0101】
記載された有機官能性シランのような有機接着剤を使用する場合、120N/mmの接着値に達することができるだろう。これは36N/mmの20×Dをはるかに超え、また30×D、すなわち54N/mmも超える。
【0102】
本実施形態の代替において、dW34実施形態(1+6)コアは、以下のタイプの平行より構造で置き換えられる:
[(3×0.18+3×0.15|0.22|0.15)7.2z+9×0.33+9×0.30|0.21]16.8z
このようなコアを備えた補強ストランドの断面を図5に示す。外層のフィラメントは図4のフィラメントと同じである。コアのみが異なる。コア-コアは、直径0.18の3本のフィラメント501で形成される。表記3×0.15|0.22|015は、コアの外層がそれぞれ3本のフィラメント、すなわち、より小さい直径の2本の隣接するフィラメント(0.15mm、511で示されている)を有する1本のより大きいサイズの中間フィラメント(0.22mm、502で示されている)の3つのグループで形成されていることを示す。これにより、直径0.70mmのかなり丸いコア503が得られる。
【0103】
上記の例のすべてにおいて、ワイヤは、ストランド1キログラム当たり5グラムのコーティング重量で溶融亜鉛めっきされている。
【0104】
同期ベルトは、ベルトの片側に歯付きプーリと係合するための歯が設けられていることを除いて、ベルト100とほぼ同じ方法で構築される。
図1
図2
図3
図4
図5