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  • 特許-核酸薬物複合体およびその用途 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】核酸薬物複合体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20230217BHJP
   C12N 15/117 20100101ALI20230217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12N15/117 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7088
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020214352
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2021118682
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】62/955,690
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】鄭 平福
(72)【発明者】
【氏名】邱 雅玲
(72)【発明者】
【氏名】王 康力
(72)【発明者】
【氏名】林 柏諺
(72)【発明者】
【氏名】陳 仕達
(72)【発明者】
【氏名】劉 振凰
(72)【発明者】
【氏名】江 佩馨
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/095697(WO,A1)
【文献】特表2018-502120(JP,A)
【文献】特表2007-525177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸薬物複合体であって、
PD-L1に結合する抗PD-L1アプタマーの核酸配列と、
TLR9レセプターに結合してTLR9を活性化するCpGオリゴヌクレオチド配列と、を含み、
前記CpGオリゴヌクレオチド配列が第1のフラグメントおよび第2のフラグメントからなり、前記抗PD-L1アプタマーの核酸配列が前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第1のフラグメントと前記第2のフラグメントとの間に挿入されており、
前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第1のフラグメントの長さと前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第2のフラグメントの長さとの比が1:10から10:1の範囲にあり、かつ
前記第1のフラグメントと前記第2のフラグメントの長さの合計が、15個のヌクレオチドから40個のヌクレオチドである、核酸薬物複合体。
【請求項2】
前記CpGオリゴヌクレオチド配列と配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列とが少なくとも96%の同一性を有する、請求項1に記載の核酸薬物複合体。
【請求項3】
前記CpGオリゴヌクレオチド配列が配列番号:10から23のうちの任意の1つからなる、請求項2に記載の核酸薬物複合体。
【請求項4】
前記CpGオリゴヌクレオチド配列がホスホロチオエート結合(phosphorothioate bond)を含む、請求項1に記載の核酸薬物複合体。
【請求項5】
前記ホスホロチオエート結合の数が前記CpGオリゴヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の70%から100%を占める、請求項4に記載の核酸薬物複合体。
【請求項6】
前記ホスホロチオエート結合の数が前記CpGオリゴヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の80%から100%を占める、請求項5に記載の核酸薬物複合体。
【請求項7】
配列番号:29から34のうちの任意の1つで示される核酸配列からなる、請求項1に記載の核酸薬物複合体。
【請求項8】
請求項1から7のうちいずれか1項に記載の核酸薬物複合体を含む、がんを治療するための医薬組成物
【請求項9】
前記がんには、結腸がん、乳がん、肺がん、すい臓がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、頭頸部扁平上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、リンパ腫、胆嚢がん、腎臓がん、血液がん、大腸がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がんまたは神経膠腫が含まれる、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
請求項1から7のうちいずれか1項に記載の核酸薬物複合体および医薬上許容されるキャリアを含む医薬組成物。
【請求項11】
がんを治療するのに用いられ、かつ静脈内(intravenous)注射、腫瘍内注射(intratumoral)または皮下注射(subcutaneous)により投薬される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の医薬組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月31日に出願された米国仮特許出願第62/955,690号の利益を主張し、その全体が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は核酸薬物複合体に関し、特に抗PD-L1アプタマーの核酸薬物複合体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
プログラム死-1(programmed death-1,PD-1)はT細胞発現を活性化する共刺激分子であり、免疫システムにおいて負の調節(negative regulation)を行って、T細胞の活性化および増殖を阻害することができる。PD-L1はPD-1のリガンド(ligand)であり、免疫抑制性を備え、いくつかの非リンパ組織の血管内皮系の抗原発現細胞、例えば樹状細胞(dendritic cell,DC)、マクロファージ(macrophage)およびB細胞に発現し得る。さらに、PD-L1は多くの腫瘍細胞、間質細胞および免疫細胞にも発現するため、PD-1とPD-L1との結合をブロックすると免疫反応が有効に強化され、かつ抗腫瘍効果が生じる。抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体により調節される免疫チェックポイント阻害療法(checkpoint blockade immunotherapy)はすでに臨床治療において応用されている。
【0004】
また、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG oligodeoxynucleotide,CpG ODN)は、強力な免疫活性化効果を有する一連のデオキシヌクレオチドであり、多種の免疫細胞を有効に活性化すると共に、免疫反応を誘発することができ、顕著な抗がん作用を有する。しかし、現在、腫瘍内注射(intratumoral injection,IT)が安全かつ有効にCpGオリゴデオキシヌクレオチドを投与する投薬方式であるが、このことによりCpGオリゴデオキシヌクレオチドが適用できる適応症が制限されてしまう。
【0005】
現在の免疫療法は、例えば、抗PD-L1抗体とCpGオリゴデオキシヌクレオチドとの併用など多種の薬剤を併用する方式を用いて行われることが多いが、薬剤の併用は多くの潜在的なリスクを生じる可能性があり、また患者の負担ともなり得る。よって、有効な抗がん作用を有し、かつ単独投与できる免疫療法の開発は、医薬分野が取り組んでいる研究課題の1つである。
【発明の概要】
【0006】
本開示のいくつかの実施形態により、核酸薬物複合体を提供し、それは抗PD-L1アプタマーの核酸配列、およびTLR-9を活性化できるCpGオリゴヌクレオチド配列を含み、抗PD-L1アプタマーはPD-L1に結合し、CpGオリゴヌクレオチド配列はTLR9レセプターに結合する。CpGオリゴヌクレオチド配列は第1のフラグメントおよび第2のフラグメントからなり、かつ抗PD-L1アプタマーの核酸配列は第1のフラグメントと第2のフラグメントとの間に挿入される。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態により、前記核酸薬物複合体の用途を提供し、それはがんを治療する薬剤を作製するのに用いられる。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態により、前記核酸薬物複合体および医薬上許容されるキャリアを含む医薬組成物を提供する。
【0009】
[本発明1001]
核酸薬物複合体であって、
PD-L1に結合する抗PD-L1アプタマーの核酸配列と、
TLR9レセプターに結合してTLR9を活性化するCpGオリゴヌクレオチド配列と、を含み、
前記CpGオリゴヌクレオチド配列が第1のフラグメントおよび第2のフラグメントからなり、前記抗PD-L1アプタマーの核酸配列が前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第1のフラグメントと前記第2のフラグメントとの間に挿入されている、核酸薬物複合体。
[本発明1002]
前記CpGオリゴヌクレオチド配列と配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列とが少なくとも85%の類似性を有する、本発明1001の核酸薬物複合体。
[本発明1003]
前記CpGオリゴヌクレオチド配列が配列番号:10から23のうちの任意の1つからなる、本発明1002の核酸薬物複合体。
[本発明1004]
前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第1のフラグメントの長さと前記CpGオリゴヌクレオチド配列の前記第2のフラグメントの長さとの比の範囲が1:15から15:1である、本発明1001の核酸薬物複合体。
[本発明1005]
前記第1のフラグメントの長さと前記第2のフラグメントの長さとの比の範囲が1:10から10:1である、本発明1004の核酸薬物複合体。
[本発明1006]
前記CpGオリゴヌクレオチド配列の長さが、15個のヌクレオチドから40個のヌクレオチドである、本発明1001の核酸薬物複合体。
[本発明1007]
前記CpGオリゴヌクレオチド配列がホスホロチオエート結合(phosphorothioate bond)を含む、本発明1001の核酸薬物複合体。
[本発明1008]
前記ホスホロチオエート結合の数が前記CpGオリゴヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の70%から100%を占める、本発明1007の核酸薬物複合体。
[本発明1009]
前記ホスホロチオエート結合の数が前記CpGオリゴヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の80%から100%を占める、本発明1008の核酸薬物複合体。
[本発明1010]
配列番号:29から34のうちの任意の1つで示される核酸配列からなる、本発明1001の核酸薬物複合体。
[本発明1011]
本発明1001から1010のうちいずれかの核酸薬物複合体の用途であって、がんを治療する薬剤を作製するのに用いる用途。
[本発明1012]
前記がんには、結腸がん、乳がん、肺がん、すい臓がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、頭頸部扁平上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、リンパ腫、胆嚢がん、腎臓がん、血液がん、大腸がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がんまたは神経膠腫が含まれる、本発明1011の用途。
[本発明1013]
本発明1001から1010のうちいずれかの核酸薬物複合体および医薬上許容されるキャリアを含む医薬組成物。
[本発明1014]
がんを治療するのに用いられ、かつ静脈内(intravenous)注射、腫瘍内注射(intratumoral)または皮下注射(subcutaneous)により投薬される、本発明1013の医薬組成物。
[本発明1015]
本発明1013または1014の医薬組成物を含むキット。
本開示の特徴、または利点がより明瞭かつ分かり易くなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げると共に、添付の図面を対応させて、詳細に説明していく。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本開示のいくつかの実施例により、フローサイトメトリーを用いサンプルunstained(陰性対照群)、AptPDL1-n05、AptPDL1-n07、AptPDL1-1A、AptPDL1-2AおよびAptPDL1-3Aに対し、PD-L1結合親和性の分析を行った結果を示している。
図1B】本開示のいくつかの実施例により、フローサイトメトリーを用いてサンプルAptPDL1-A4、AptPDL1-45mer(PBS)、AptPDL1-45mer(SELEX)(陽性対照群)、AptPDL1-45mer (SELEX,600nM)(陽性対照群)およびCpG-L0-PSに対し、PD-L1結合親和性の分析を行った結果を示している。
図2】本開示のいくつかの実施例により、図1Aおよび図1Bでフローサイトメトリーを用いて検出した実験結果の定量的データを示している。
図3】本開示のいくつかの実施例により、ELISA技術を用いてサンプルcell only(陰性対照群)、45mer、n05、n07、1A、2A、3AおよびA4に対しPD-L1結合親和性の分析を行った結果を示している。
図4】本開示のいくつかの実施例により、HEK293マウスTLR9レポーティングシステムを用いてサンプルCpG-L0-PS、ApDC5-PS、ApDC5-7PS、PDL1-CpG30-PS、PDL1-CpG29-9PSおよびApDC-A21Bに対しTLR9活性化能の分析を行った結果を示している。
図5】本開示のいくつかの実施例により、HEK293マウスTLR9レポーティングシステムを用いてサンプルCpG-L0-PS、ApDC5-PS、ApDC-A21B、ApDC-A21A、ApDC-B21B及びApDC-A33Bに対しTLR9活性化能の分析を行った結果を示している。
図6図6Aから図6Dは、本開示のいくつかの実施例による核酸薬物複合体の二次構造の概略図を示している。
図7】本開示のいくつかの実施例により、4T1マウス乳腺がん同系腫瘍モデルを用い、サンプルVehicle(陰性対照群)、PDL1 mAb、AptPDL1+CpGおよびApDC5-PS投与によるマウス腫瘍体積および生存率に対する影響を分析した結果を示している。
図8】本開示のいくつかの実施例により、4T1マウス乳腺がん同系腫瘍モデルを用い、サンプルCpG-L0-PSおよびApDC-A21B投与によるマウス腫瘍体積に対する影響を分析した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施形態による核酸薬物複合体について詳細に説明する。以下の記載は、本開示のいくつかの実施形態の異なる態様を実施するために、多数の異なる実施形態または例を提示するものであるという点を理解しなければならない。以下に述べる特定の構成要素および配置の方式は、本開示のいくつかの実施形態を簡単かつ明瞭に表したものに過ぎない。当然に、これらは単に例示に用いられるだけであり、本開示の限定ではない。
【0012】
別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術および科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の技術者が通常理解するのと同じ意味を有する。また、これらの用語は例えば通常使用する辞書に定義されている用語であり、関連技術および本開示の背景または上下の文脈と一致する意味に解釈されなければならず、理想化された、または過度に厳密な方式で解釈されてはならないということが、理解され得る。本開示の内容がより容易に理解されるよう、以下に用語の定義を提供する。
【0013】
用語「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」は、本明細書中で交換可能に用いることができ、意味するところは任意の長さを有するヌクレオチドポリマーであり、一本鎖DNA(ssDNA)、二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)および二本鎖RNA(dsRNA)を含み得る。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオシドは、プリン(アデニン(A)もしくはグアニン(G)もしくはその誘導体)またはピリミジン(チミン(T)、シトシン(C)もしくはウラシル(U)もしくはその誘導体)塩基と糖の結合からなる。DNA中の4種のヌクレオシド単位(または塩基)はデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシシチジン、およびチミジンオキシアデノシンと称される。RNA中の4種のヌクレオシド単位(または塩基)は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、およびシチジンと称される。ヌクレオチドはヌクレオシドのリン酸エステルである。
【0014】
用語「CpG」および「CG」は、本明細書中で交換可能に用いることができ、意味するところは、ホスホジエステル結合で隔てられたシトシンおよびグアニンである。本開示の実施形態によれば、オリゴヌクレオチドは1つまたは複数の非メチル化CpGジヌクレオチドを含み得る。本開示のいくつかの実施形態によれば、オリゴヌクレオチドはオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynucleotide,ODN)である。
【0015】
用語「プログラム死リガンド-1」は、「PD-L1」、「分化抗原群274(cluster of differentiation 274,CD274)」または「B7相同体-1(B7 homolog-1,B7-H1)」とも称され、意味するところは、ヒトにおいてCD274遺伝子によりコードされるタンパク質である。ヒトPD-L1は40kDa 1型膜貫通タンパク質であり、その主な作用は免疫システムの抑制にある。PD-L1は、活性化されたT細胞、B細胞および骨髄細胞上のレセプターPD-1に結合して、活性化または抑制を調節する。PD-L1はまた、共刺激細胞CD80(B7-1)に対し顕著な親和性を有する。PD-L1とT細胞上のレセプターPD-1との結合によりシグナルが伝達され得るが、このシグナルはT細胞レセプターにより調節されるIL-2産生およびT細胞増殖の活性化を抑制することのできるものである。PD-L1はチェックポイント(checkpoint)とみなすことができ、かつその腫瘍中における増加は、T細胞により調節される抗腫瘍反応を抑制するのを助ける。本開示の実施形態によれば、PD-L1は哺乳動物由来のPD-L1、例えばヒト由来のPD-L1であってよい。
【0016】
用語「がん」とは、哺乳動物における細胞集団の調節されない細胞成長により特徴付けられる生理学的状態のことを指す。用語「腫瘍」とは、過度な細胞成長または増殖により生じたあらゆる組織腫瘤のことを指し、前がん病変を含む良性(非がん性)または悪性(がん性)腫瘍を包含する。
【0017】
用語「免疫反応」は、先天性免疫系および後天性免疫系に由来する反応を含み、それは細胞により調節される免疫反応または体液性免疫反応を含む。免疫反応は、T細胞およびB細胞反応、ならびに免疫系由来のその他の細胞、例えばナチュラルキラー(natural killer,NK)細胞、単球細胞、マクロファージ等の反応を含む。
【0018】
また、用語「治療」とは、診断された病理学的な症状または疾患を治癒、緩和、症状の軽減および/もしくは進行停止させる治療手段、ならびに目的の病理学的な症状または疾患の発症を予防および/または緩和する予防手段を指す。よって、治療が必要な個体には、すでに疾患に罹っている者、疾患に罹り易い者、および疾患の予防がなされる者が含まれ得る。本開示の実施形態によれば、がんまたは腫瘍を有する患者が以下の状況のうち1つまたは複数を示せば、個体の治療が成功したことになる:免疫反応の向上、抗腫瘍反応の向上、免疫細胞の細胞溶解活性の向上、免疫細胞による腫瘍細胞殺傷の増加、がん細胞の数の減少もしくは完全な非存在;腫瘍サイズの減小;周囲器官へのがん細胞の浸潤の抑制もしくは非存在;腫瘍もしくはがん細胞の転移の抑制もしくは非存在;がん増殖の抑制もしくは非存在;1つもしくは複数の具体的ながんに関連する症状の緩解;致死率および死亡率の低減;生活の質の改善;腫瘍形成性の低減;またはがん幹細胞の数または出現頻度の低減等。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態により核酸薬物複合体を提供し、それはPD-L1に結合する抗PD-L1アプタマー(aptamer)の核酸配列と、TLR9(Toll-like receptor 9)レセプターに結合するCpGオリゴヌクレオチド配列とを含み、かつ抗PD-L1アプタマーの核酸配列はCpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントと第2のフラグメントとの間に挿入される。本開示の実施形態により提供される新規な核酸薬物複合体は、TLR-9を活性化できるCpGオリゴヌクレオチド配列と抗PD-L1アプタマーとを結合し、腫瘍標的性および多重免疫調節性を有し、静脈内注射により全身投与することができ、かつ単独での投与が可能であり、複数の薬剤を併用する免疫療法に取って代わり得るものである。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーの核酸配列と配列番号:1から9のうちの任意の1つで示される配列とは、少なくとも85%の類似性、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の類似性を有していてよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーは、配列番号:1から9のうちの任意の1つで示される核酸配列からなる。いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーの核酸配列中のヌクレオチドが対になって特定の二次構造が生じ、抗PD-L1アプタマーは、かかる二次構造とPD-L1とが結合することで、PD-1とPD-L1との結合部位をブロックすることができ、これにより抗腫瘍の免疫反応を維持または強化することができる。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、核酸薬物複合体は、前記の抗PD-L1アプタマーの核酸配列およびCpGオリゴヌクレオチド配列を含み、CpGオリゴヌクレオチド配列はTLR9レセプターに結合することができ、CpGオリゴヌクレオチド配列はTLR9を強力に活性化して、インターフェロン(interferon)の産生を促し、抗腫瘍または抗ウィルス等の免疫反応を誘発することができる。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチドはオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynucleotide, ODN)である。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列と配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列とは、少なくとも85%の類似性を有していてよく、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の類似性を有していてよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列は、第1のフラグメントおよび第2のフラグメントからなるものであってよい。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントおよび第2のフラグメントは、配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列から選ばれたものである。
【0022】
換言すると、いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントおよび第2のフラグメントが共に構成する配列と、配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列とは、少なくとも85%の類似性、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の類似性を有していてよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントおよび第2のフラグメントは、配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列を共に構成する、つまり、CpGオリゴヌクレオチド配列は配列番号:10から23のうちの任意の1つで示される核酸配列である。
【0023】
なお、本開示の実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーの核酸配列は、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントと第2のフラグメントとの間に挿入されて、核酸薬物複合体に腫瘍標的性および多重免疫調節性を同時に備えさせることができるという点に留意されたい。いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーの核酸配列およびCpGオリゴヌクレオチド配列は、リンカー(linker)を介して連結することができる。いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1アプタマーの核酸配列およびCpGオリゴヌクレオチド配列は、さらなるリンカーを設計することなく連結することができる。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントの長さとCpGオリゴヌクレオチド配列の第2のフラグメントの長さとの比は約1:15から15:1、または約1:10から10:1であり、例えば、CpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントの長さとCpGオリゴヌクレオチド配列の第2のフラグメントの長さとの比は約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1または2:1であってよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列の長さ(つまり、第1のフラグメントの長さおよび第2のフラグメントの長さを合わせた長さの合計)の範囲は約15個のヌクレオチドから40個のヌクレオチド、または約20個のヌクレオチドから35個のヌクレオチド、または約20個のヌクレオチドから30個のヌクレオチドであり、例えば、約21、22、23、24、25、26、27、28または29個のヌクレオチドであってよいが、これに限定はされない。
【0025】
また、いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列は、1つまたは複数の非メチル化CpGモチーフ(motif)を含み得る。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列中のCpGモチーフは85%から100%が非メチル化のものであってよく、例えば、約88%、90%、92%、95%、98%等が非メチル化のものであってよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列中のCpGモチーフの全てが非メチル化のものであってよい。また、いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列は、修飾されたホスホジエステル結合(phosphodiester bond)、例えばホスホロチオエート結合(phosphorothioate bond)を含み、これにより核酸薬物複合体が生体内の酵素に分解されるリスクを低減し、核酸薬物複合体の安定性を高めることができる。いくつかの実施形態によれば、ホスホロチオエート結合の数が、CpGオリゴヌクレオチド配列のホスホジエステル結合の数の約70%から100%、または約80%から100%を占めていてよく、例えば85%、90%または95%であり得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、CpGオリゴヌクレオチド配列中の全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっていてよい
【0026】
いくつかの実施形態によれば、核酸薬物複合体の核酸配列と配列番号:29から34のうちの任意の1つで示される配列とは少なくとも85%の類似性を有し、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の類似性を有していてよいが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、核酸薬物複合体は、配列番号:29から34のうちの任意の1つで示される核酸配列からなる。
【0027】
詳細には、配列番号:29の核酸配列は、配列番号:1の抗PD-L1アプタマーおよび配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列が組み合わさってなり、配列番号:1の核酸配列が配列番号:10の核酸配列の間に挿入されてよく、配列番号:10は15個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつ配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっていてよい。
【0028】
配列番号:30の核酸配列は、配列番号:2の抗PD-L1アプタマー、および配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列と96%の類似性を有する配列(5末端に2個のTを加え、3末端の2個目のAをTに変えたもの)が組み合わさってなり、配列番号:2の核酸配列は配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列と96%の類似性を有する配列の間に挿入されてよく、この配列が17個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつこの配列において5末端および3末端に位置する2つのホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合となっていてよい。
【0029】
配列番号:31の核酸配列は、配列番号:3の抗PD-L1アプタマーおよび配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列が組み合わさってなり、配列番号:3の核酸配列は配列番号:10の核酸配列の間に挿入されてよく、配列番号:10が15個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつ配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっていてよい。
【0030】
配列番号:32の核酸配列は、配列番号:3の抗PD-L1アプタマーおよび配列番号:22のCpGオリゴヌクレオチド配列が組み合わさってなり、配列番号:3の核酸配列は配列番号:22の核酸配列の間に挿入されてよく、配列番号:22が15個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつ配列番号:22のCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっていてよい。
【0031】
配列番号:33の核酸配列は、配列番号:3の抗PD-L1アプタマーおよび配列番号:23のCpGオリゴヌクレオチド配列が組み合わさってなり、配列番号:3の核酸配列は配列番号:23の核酸配列の間に挿入されてよく、配列番号:23が15個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつ配列番号:23のCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合が修飾されてホスホロチオエート結合となっていてよい。
【0032】
配列番号:34の核酸配列は、配列番号:7の抗PD-L1アプタマーおよび配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列が組み合わさってなり、配列番号:7の核酸配列は配列番号:10の核酸配列の間に挿入されてよく、配列番号:10が15個のヌクレオチドを有する第1のフラグメントと15個のヌクレオチドを有する第2のフラグメントとに分けられ、かつ配列番号:10のCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっていてよい。
【0033】
さらに、いくつかの実施形態によれば、前述の核酸薬物複合体は、がんを治療する薬剤を作製するのに用いることができる。また、いくつかの実施形態によれば、医薬組成物を提供し、それは前述した核酸薬物複合体および医薬上許容されるキャリアを含み、この医薬組成物はがんの治療に用いることができる。例えば、いくつかの実施形態によれば、有効量の前述した核酸薬物複合体を含む医薬組成物を、必要とする個体に投与することができる。いくつかの実施形態によれば、個体には哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、オラウータンまたはヒト等が含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、前記個体はヒトであり得る。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、静脈内(intravenous)注射、腫瘍内注射(intratumoral)および皮下注射(subcutaneous)により投薬することができるが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、前記医薬組成物は、静脈内(intravenous)注射により投薬を行うことができる。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、前述のがんには、結腸がん、乳がん、肺がん、すい臓がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、頭頸部扁平上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、リンパ腫、胆嚢がん、腎臓がん、血液がん、大腸がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がんまたは神経膠腫が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は溶液または懸濁液の形式を呈していてよい。あるいは、医薬組成物は脱水固形物(例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥された固形物)であり得る。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は無菌、かつ個体に対して無毒性であり得る。さらに、いくつかの実施形態によれば、前述の医薬上許容されるキャリアには、賦形剤、可溶化剤、緩衝剤、安定剤または防腐剤が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0036】
例えば、賦形剤は溶媒を含んでいてよく、いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は水性媒体を溶媒として含んでいてよい。水性媒体には、例えば、滅菌水、食塩溶液、リン酸緩衝食塩水またはリンゲル溶液(Ringer's solution)が含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、可溶化剤は、凍結または噴霧乾燥時および/または保存時に核酸薬物複合体を安定させ、かつその分解を防止するのを助ける保護剤である。可溶化剤には例えば、糖(単糖、二糖および多糖)、例として蔗糖、乳糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトールまたはグルコースが含まれ得るが、これに限定はされない。さらに、いくつかの実施形態によれば、緩衝剤は、pH値を調整して、核酸薬物複合体の加工、保存等の時に分解が生じるのを防止することができる。緩衝液には例えば塩、例として酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩または硫酸塩が含まれ得るが、これに限定はされない。緩衝液にはまた、例えばアミノ酸、例として、アルギニン、グリシン、ヒスチジンまたはリジンが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、安定剤には例えば、右旋糖、グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロールまたはマンニトールが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、防腐剤には例えば、抗酸化剤または抗菌剤が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0037】
また、本開示のいくつかの実施形態によりキットを提供し、それは、前述した医薬組成物および使用方法が記載された説明書を含む。医薬組成物を含むキットは適した包装がなされている。いくつかの実施形態によれば、キットは、医薬組成物を投与するのに用いる装置(例えば、注射器および注射針、噴霧器、または乾燥粉末吸入装置等)をさらに含んでいてよい。
【0038】
本開示の上述およびその他の目的、特徴、ならびに長所がより明瞭かつ分かり易くなるよう、以下にいくつかの実施例および比較例を挙げて詳細に説明するが、これらは本開示の内容を限定するものではない。
【実施例
【0039】
実施例1:生体外(in vitro)PD-L1結合親和性試験-フローサイトメトリー分析
【0040】
トリプシン(trypsin)を用い、マウスPD-L1(mPD-L1)を発現するCT-26細胞、およびヒトPD-L1(hPD-L1)を発現するCHO-K1細胞を収集し、沈殿させて、洗浄し、約2×10個の細胞を100μLの細胞染色緩衝液(BSA緩衝液、BD)中に再懸濁させた。次いで、100nmolのAlexa647で標識された抗PD-L1アプタマーサンプル(Alexa647で標識されたアプタマーを含む本開示における全ての核酸配列はいずれもIntegrated DNA Technologiesに委託してカスタム合成した)を加え、抗PD-L1アプタマーサンプルと細胞の懸濁液を遮光して氷上で60分培養し、細胞染色緩衝液中で単回洗浄した後、細胞を再懸濁させ、FACScanフローサイトメトリー(Becton Dickinson,Oxford,UK)を用いて分析を行った。
【0041】
フローサイトメトリーの分析結果は図1Aおよび図1Bに示すとおりであり、図中のサンプルunstainedは染色されていない細胞を表し、陰性対照群(negative control)とすることができ;図中のサンプルAptPDL1-n05、AptPDL1-n07、AptPDL1-1A、AptPDL1-2A、AptPDL1-3AおよびAptPDL1-A4は、配列番号:4、5、6、7、8および9で示される抗PD-L1アプタマーをそれぞれ表し、これらの濃度はいずれも100nMであり;サンプルAptPDL1-45mer(PBS)は配列番号:24で示される抗PD-L1アプタマーを表し、それは細胞染色緩衝液中で調製されたのではなく、調節されたPBS緩衝液(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有するDPBS(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline)、1.33mMのKCl添加)中で調製されたもので、濃度は100nMであり、かつ、AptPDL1-45merは既知の対照配列とすることができ;サンプルAptPDL1-45mer(SELEX)は、SELEX技術によりスクリーニングして得られた配列番号:24で示される抗PD-L1アプタマーを表し、濃度は100nMであり、陽性対照群(positive control)とすることができ;サンプルAptPDL1-45mer(SELEX,600nM)は、SELEX技術によりスクリーニングして得られた配列番号:24で示される抗PD-L1アプタマーを表し、陽性対照群(positive control)とすることができ;サンプルCpG-L0-PSは、PD-L1と親和しない核酸配列を表し、陰性対照群とすることができる。
【0042】
図1Aおよび図1Bに示されるように、サンプルAptPDL1-n05、AptPDL1-n07、AptPDL1-1A、AptPDL1-2A、AptPDL1-3A、AptPDL1-A4およびAptPDL1-45mer(PBS、SELEX、600nM)はいずれも右にシフトするピークを示し、これらがいずれもPD-L1に対して結合親和性を有することを表す。
【0043】
図2を参照されたい。図2は、図1Aおよび図1Bのフローサイトメトリーの実験結果の定量的データを示しており、図2に示されるように、CpG-L0-PS(配列番号:10)に比べ、サンプルAptPDL1-n05(配列番号:4)、AptPDL1-n07(配列番号:5)、AptPDL1-1A(配列番号:6)、AptPDL1-2A(配列番号:7)、AptPDL1-3A(配列番号:8)、AptPDL1-A4(配列番号:9)およびAptPDL1-45mer(PBS、SELEX、600nM)(配列番号:24)のほぼ全てがPD-L1結合親和性の向上を示した。
【0044】
実施例2:生体外PD-L1結合親和性試験-細胞結合分析
【0045】
PD-L1を発現するMDA-MB-231細胞を1×10細胞/100μl/ウェルの密度で96ウェルプレート(Corning)中に播種し、48時間培養した。培地を除去した後、室温下、50μl/ウェルの4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde,PFA)の入ったリン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline,PBS)で細胞を10分固定した。PFAを除去した後、100μlのPBSに入った0.1Mグリシンを各ウェルに加え、残留したPFAをクエンチ(quench)した。その後、96ウェルプレートを室温で10分培養した。次いで、PBSを用いて細胞を1回洗浄し、室温下でSuper Block(ScyTek Laboratories Inc)を用い60分ブロックした。異なる濃度のAlexa647標識抗PD-L1アプタマーサンプル(PBS中に混合されている)を用い、デュプリケート(duplicate)のウェル中で染色を行い、37℃で45分培養した。その後、PBSを用いて細胞を4回洗浄し、酵素免疫アッセイリーダー(ELISA plate reader,Tecan,Mannedorf,Switzerland)を用い、励起波長670nm、発光波長720nmで蛍光強度を測定した。
【0046】
ELISAの分析結果は図3に示すとおりであり、図中のサンプルcell onlyはPD-L1を発現しない細胞を表し、陰性対照群とすることができ;図中のサンプル45mer、n05、n07、1A、2A、3AおよびA4はそれぞれ配列番号:24、4、5、6、7、8および9で示される抗PD-L1アプタマーを表し、サンプルの濃度はいずれも700nmであって、調節されたPBS緩衝液(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有するDPBS、1.33mMのKCl添加)中で調製されたものである。
【0047】
図3に示されるように、サンプル45mer(AptPDL1-45mer,配列番号:24)、n07(AptPDL1-n07,配列番号:5)、1A(AptPDL1-1A,配列番号:6)、2A(AptPDL1-2A,配列番号:7)、3A(AptPDL1-3A,配列番号:8)およびA4(AptPDL1-A4,配列番号:9)はいずれも蛍光強度が高く、PD-L1に結合親和性を有していた。
【0048】
実施例3:核酸薬物複合体のTLR9活性化能分析-HEK293マウスTLR9レポーティングシステム
【0049】
マウスTLR9を発現するHEK-Blue細胞(InvivoGen)を完全DMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)培地で培養した。DMEM中には100μg/mlのNormocin、30μg/mlのBlasticidinおよび100μg/mlのZeocin(いずれもInvivoGen)が補充してあった。HEK-Blue細胞は分泌性胎盤アルカリホスファターゼ(secreted alkaline phosphatase,SEAP)レポーティングシステムを含み、このシステムとTLR9とが作用した後、測色の変化(colorimetric change)が生じる。
【0050】
HEK-Blue検出混合物(SEAP検出に用いる細胞培地,InvivoGen)をSEAPの存在を検出するのに用いた。SEAPは、NF-κBが活性化することによるTLR9シグナル伝達に関連する。検出混合物は、細胞成長に用いる栄養物および呈色基質を含み、SEAPによって加水分解されると、色の変化を生じるものである。マウスTLR9を発現するHEK293細胞(InvivoGen)が60~80%の培養密度(confluency)に達したら、それを収集して遠心分離し、検出混合物中に再懸濁させた。細胞(72 000)を96ウェルプレート(180μl)の各ウェル中に播種した。次いで、細胞と、20μlのPBS(未刺激;陰性対照群とした)、CpG-L0-PS(陽性対照群とした)またはPBS中の異なる濃度の核酸薬物複合体サンプルとを、デュプリケート(duplicate)のウェル内で組み合わせて処理し、37℃下、5%CO中で24時間培養した。マルチモードプレートリーダー(multimode plate reader)(Tecan,Infinite(商標)M200 PRO,Mannedorf,Switzerland)を用い、分光光度計で620nmから655nmの波長においてプレートを読み取った。
【0051】
TLR9活性化能に対する分析結果は図4に示すとおりであり、図中のサンプルCpG-L0-PSは配列番号:10(抗PD-L1アプタマーに連結していない)に対応しており、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合はいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており;サンプルApDC5-PSは配列番号:25に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており、それは例えば、図6Bに示される構造(このうち、抗PD-L1アプタマーとCpGオリゴヌクレオチド配列の位置関係が理解し易くなるよう、AおよびBはCpGオリゴヌクレオチド配列の第1のフラグメントおよび第2のフラグメントの位置を概略的に表している)を有し;サンプルApDC5-7PSは配列番号:26に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、図6Dに示される構造を有し;サンプルPDL1-CpG30-PSは配列番号:27に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における3末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合となっており、それは例えば、図6Cに示される構造を有し;サンプルPDL1-CpG29-9PSは配列番号:28に対応しており、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における3末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、図6Dに示される構造を有し;サンプルApDC-A21Bは配列番号:31に対応しており、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、図6Aに示される構造を有する。
【0052】
図4の結果により、得られたサンプルCpG-L0-PS(配列番号:10)のEC50値は2.09nM、サンプルApDC5-PS(配列番号:25)のEC50値は2.48nM、サンプルApDC5-7PS(配列番号:26)のEC50値は72.23nM、サンプルPDL1-CpG30-PS(配列番号:27)のEC50値は2.36nM、サンプルPDL1-CpG29-9PS(配列番号:28)のEC50値は148.82nM、サンプルApDC-A21B(配列番号:31)のEC50値は0.77nMであった。その他のサンプルに比べ、サンプルApDC-A21B(配列番号:31)のEC50値は最も低く、TLR9活性化能が向上されている。
【0053】
このことからわかるように、CpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における5末端または3末端に連結している態様に比べ、抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された核酸薬物複合体は、より優れたTLR9活性化能を備える。また、CpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合となっている態様は相補的な二本鎖構造を形成し易く、かかる態様の核酸薬物複合体のTLR9活性化能は低くなる。
【0054】
次いで、図5を参照されたい。図5は、別の実施形態における核酸薬物複合体のTLR9活性化能に対する分析結果を示しており、その実験内容は図4とほぼ同じである。図5中のサンプルCpG-L0-PSは配列番号:10(抗PD-L1アプタマーに連結していない)に対応しており、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており;サンプルApDC5-PSは配列番号:25に対応し、それはCpGオリゴヌクレオチド配列が抗PD-L1アプタマー配列における5末端に連結している態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、図6Bに示される構造を有し;サンプルApDC-A21Bは配列番号:31に対応し、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは例えば、図6Aに示される構造を有し;サンプルApDC-A21Aは配列番号:32に対応し、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは図6Aに示されるのと類似する構造を有するが、フラグメントAおよびフラグメントBの配列は同じであり;サンプルApDC-B21Bは配列番号:33に対応し、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されている態様を表し、かつCpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっており、それは図6Aに示されるのと類似する構造を有するが、フラグメントAおよびフラグメントBの配列は同じであり;サンプルApDC-A33Bは配列番号:30に対応し、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された態様を表し、かつオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっている。
【0055】
図5の結果により、得られたサンプルCpG-L0-PS(配列番号:10)のEC50値は2.1nM、サンプルApDC5-PS(配列番号:25)のEC50値は5.5nM、サンプルApDC-A21B(配列番号:31)のEC50値は1.3nM、サンプルApDC-A21A(配列番号:32)のEC50値は0.6nM、サンプルApDC-B21B(配列番号:33)のEC50値は0.6nM、サンプルApDC-A33B(配列番号:30)のEC50値は16380nMであった。
【0056】
サンプルApDC5-PS(配列番号:25)に比べ、抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入されているサンプルApDC-A21B(配列番号:31)、ApDC-A21A(配列番号:32)およびApDC-B21B(配列番号:33)のEC50値は比較的低く、つまり、TLR9活性化能が改善されていた。また、CpGオリゴヌクレオチド配列中の一部のホスホジエステル結合のみが修飾されてホスホロチオエート結合になっている態様に比べ、CpGオリゴヌクレオチド配列における全てのホスホジエステル結合がいずれも修飾されてホスホロチオエート結合になっている態様も、TLR9活性化能により優れていた。
【0057】
実施例4:核酸薬物複合体の動物モデル生体内(in vivo)抗腫瘍効果分析
【0058】
4T1マウス乳腺がん同系腫瘍モデル(syngeneic tumor model)を用い、生体内抗腫瘍治療効果の研究を行った。4T1(5×10細胞)をBALB/cマウスに皮下移植した。キャリパー(caliper)で腫瘍の大きさを測り、次の式によりそれを腫瘍体積に変換した;V=LS2/2(ただし、Lは最長直径、Sは最短直径)。マウスをランダムにグループ分けし(n=4~5)、腫瘍体積が100~200mm時に達した時に投薬を行った。抗マウスPD-L1抗体(PDL1 mAb,InVivoPlus anti-mouse PD-L1,BioXCell)を週に2回腹膜内(intraperitoneally)注射した。CpGオリゴヌクレオチド(配列番号:10)および抗PD-L1アプタマー(配列番号:1)(併用形式、AptPDL1+CpGと標識)、ならびに抗PD-L1アプタマーとCpGオリゴヌクレオチド配列とがコンジュゲートした核酸薬物複合体(配列番号:25)(ApDC5-PS)を週に2回静脈注射した。腫瘍増殖阻害(tumor growth inhibition,TGI)のパーセンテージから抗腫瘍効果を判断した。TGIの計算方法は、[1-(治療群の最終腫瘍体積-初期腫瘍体積)/(Vehicle群の最終腫瘍体積-初期腫瘍体積)]×100%とした。
【0059】
図7に示される結果によれば、サンプルApDC5-PS(配列番号:25)で処理した腫瘍体積は明らかに小さく、その抗腫瘍効果はCpGオリゴヌクレオチドおよび抗PD-L1アプタマーを併用した(AptPDL1+CpG)態様よりも優れており、また抗マウスPD-L1抗体(PDL1 mAb)を単独で注射した態様よりも優れていた。さらに、サンプルApDC5-PSを注射したマウスの生存率も明らかに高まっており、腫瘍細胞接種から25日後にも100%の生存率であった。
【0060】
さらに、図8は、別の実施形態における核酸薬物複合体の抗腫瘍効果分析結果を示しており、その実験内容は図7とほぼ同じである。図8中のサンプルCpG-L0-PSは配列番号:10(抗PD-L1アプタマーに連結していない)に対応しており;サンプルApDC-A21Bは配列番号:31に対応しており、それは抗PD-L1アプタマー配列がCpGオリゴヌクレオチド配列中に挿入された態様である。図8に示されるように、サンプルCpG-L0-PSに比べ、サンプルApDC-A21Bは抗腫瘍効果により優れており、薬効が改善されていた。
【0061】
上述したように、本開示の実施形態により提供される新規な核酸薬物複合体は、CpGオリゴヌクレオチド配列と抗PD-L1アプタマーとを結合させたものであり、腫瘍標的性および免疫チェックポイント阻害活性を備えることで、核酸薬物複合体の腫瘍における蓄積および腫瘍微小環境の免疫細胞毒性効果が高まり得ると共に、多種類の免疫細胞の活性化を刺激する能力を備えることで、腫瘍微小環境の免疫細胞活性化および凝集が高まり得る。また、本開示の実施形態により提供される核酸薬物複合体は、単にCpGオリゴヌクレオチドおよび抗PD-L1アプタマーを合わせて使用するよりも、抗腫瘍薬効に優れる。
【0062】
本開示の実施形態およびその長所を上のように開示したが、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、本開示の精神および範囲を逸脱せずに、変更、置換および修飾を加えることができるという点が理解されなければならない。さらに、各クレームは個別の実施形態を構成し、かつ本開示の保護範囲は各クレームおよび実施形態の組み合わせも含む。本開示の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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