(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】ポックスウイルス感染症を処置するためのコロール
(51)【国際特許分類】
A61K 31/409 20060101AFI20230217BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
A61K31/409
A61P31/20
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020547296
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2018082720
(87)【国際公開番号】W WO2019105940
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-15
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517347805
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ブルゴーニュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BOURGOGNE
(73)【特許権者】
【識別番号】520190160
【氏名又は名称】ネオヴィルテック エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】NEOVIRTECH SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】グロ,クロード
(72)【発明者】
【氏名】ガヤルド,フランク
(72)【発明者】
【氏名】デボワ,ニコラ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/095923(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/027965(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/076449(WO,A1)
【文献】Inorg. Chem.,2008年,47,pp.6726-6737
【文献】ACS Infect. Dis.,2015年,1,pp.350-356
【文献】Org. Biomol. Chem.,2003年,1,pp.350-357
【文献】J. Porphyrins Phthalocyanines,2009年,13,pp.574-577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
-Y
1及びY
2は、同一又は異なり、それぞれ独立して、-H、-SO
3H、-SO
3
-、-NO
2、-CHO、-NH
2、-NH
3
+、-COOH、-COO
-から選択され、
-Mは、3H又はCu、Mn、Fe、Co、V、Cr、Ti、Ag、Rh、Ru、Mo、Zr、Au、Pt、Ir、Re、W、Hf、Li、Al、Ga、Ge、Sn、As、Sb、Pb、Bi、La、Gd、Tb、若しくはThの群から選択された金属を表し、
-A
1及びA
2は、同一又は異なり、それぞれ、式(II)
【化2】
のフェニル基、又は
式(III)
【化3】
のピリジニウム基、又は
式(IV)
【化4】
の5員複素環を表し、
-式(II)のR
1、R
2、R
3、R
4及びR
5のそれぞれ;式(III)のR
1’、R
2’、R
4’及びR
5’のそれぞれ;式(IV)のR
1’’、R
2’’、及びR
3’’のそれぞれは、
(a).-H、-CN、-NO
2、-CHO、-SO
3H、-OH、-SH、-C≡CH、-NH
2、-COOH、-CONH
2、
(b).塩素原子、フッ素原子、臭素原子、又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、
(c).(C
1-C
8)アルキル鎖、
(d).式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
(e).-CX
3(ここで、Xは塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である)、
(f).-OR
a、-NR
aR
b、-NHR
a、-COOR
a、-CONHR
a、-CONR
aR
b、-SO
2R
a、-COR
a、-SR
a、-C≡CR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル鎖、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H、若しくは式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)のPEG鎖から独立して選択される)、
(g).式
【化5】
(式中、R
cは-COOH又は-SO
3Hである)
で示される基、
(h).式
【化6】
(式中、R
dは(C
1-C
8)アルキル鎖、又は-(CH
2)
nSO
3
-であり、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるピリジニウム基
から選択され、
-式(III)のR
3’は、
--H、-CONH
2、
-(C
1-C
8)アルキル鎖、
-式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4、又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
-基-(CH
2)
nSO
3
-(ここで、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)、
--OR
a、-NR
aR
b、-NHR
a、-COOR
a、-CONHR
a、-CONR
aR
b、-COR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル鎖、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H、又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖から独立して選択される)
から選択され、
-式(IV)のEは、-O-、-S-、-Se-、-NH-から選択される]
で示されるタイプA3又はA2Bのコロール、又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体
を含む、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスの感染症の処置に使用するための医薬。
【請求項2】
前記ポックスウイルスが、オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、アビポックスウイルス、スイポックスウイルス、モルシポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、クロコダイルポックスウイルス(crocodylidpoxvirus)、セルビドポックスウイルス(cervidpoxvirus)などのコードポックスウイルス亜科、又はエントモポックスウイルスA、B若しくはCなどのエントモポックスウイルス亜科に属する、請求項1に記載の
医薬。
【請求項3】
前記ポックスウイルスの感染症が、粘液腫症、牛痘、天然痘、羊痘、オルフ、ワクシニア、サル痘、LSDV、ヤギ痘又はポックスウイルス科に属する他の任意のウイルスによる感染症である、請求項1又は2に記載の
医薬。
【請求項4】
前記コロールが、式(Ia)
【化7】
[式中、Y
1、Y
2、A
1及びA
2は、式(I)の場合と同じ意味である]
のものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項5】
A
1及び/又はA
2が、式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)、式(IId)、式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)、式(IIId)、又は式(IVa)
【化8】
[式中、R’、R’’、R
1、R
3及びR
5は、
・-CN、-NO
2、-CHO、-SO
3H、-OH、-NH
2、-COOH、-CONH
2、-SH、-C≡CH、
・塩素原子、フッ素原子、臭素原子、又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、
・(C
1-C
8)アルキル鎖、
・式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式
中、nは1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
・-CX
3(ここで、Xは塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である)、
・-OR
a、-NR
aR
b、-COOR
a、-NHR
a、-CONR
aR
b、-CONHR
a、-SO
3R
a、-SO
2NHR
a、-COR
a、-SR
a、-C≡CR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル鎖、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H若しくは式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)のPEG鎖から独立して選択される)、
・式
【化9】
(式中、R
cは-COOH又は-SO
3Hである)
で示される基、
・式
【化10】
(式中、R
dは(C
1-C
8)アルキル鎖、又は-(CH
2)
nSO
3
-であり、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるピリジニウム基
から独立して選択され、
E及びR
3’は請求項1に記載の意味である]
により表される、請求項4に記載の
医薬。
【請求項6】
A
1及びA
2が異なり、それぞれ式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択される1つの式によって表される、請求項5に記載の
医薬。
【請求項7】
A
1及びA
2が同一であり、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択される1つの式によって表される、請求項5に記載の
医薬。
【請求項8】
前記コロールが、以下の化合物
【化11】
又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項9】
有効成分として、請求項1~8のいずれか1項に記載のコロール又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体、及び医薬的に許容され得る担体を含む、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスの感染症の処置に使用するための医薬組成物。
【請求項10】
ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスによる感染症の治療における使用のための、
-請求項1~8に記載のコロール又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体、
-抗ポックスウイルスワクチンから選択された別の抗ポックスウイルス薬の有効成分又はポックスウイルス感染症に対する任意の他の実験的医薬の有効成分
によって形成される
連結体。
【請求項11】
ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルス感染症の治療において同時に、個別に、又は連続的に使用するための、
-請求項1~8に記載のコロール又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体、
-抗ポックスウイルスワクチンから選択された別の抗ポックスウイルス薬、又はポックスウイルス感染症に対する任意の実験的医薬
を含む組合せ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポックスウイルスによる感染症の処置における使用のためのコロールファミリーに関する。
【0002】
ポックスウイルスは、動物からヒトまでの多種多様な生物に感染する大きなdsDNAウイルスで、コードポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)とエントモポックスウイルス亜科(Entomopoxvirinae)の2つのグループに分けられる。ポックスウイルスは多くの獣医学的疾患に関与する病原体である。例えば、粘液腫ウイルス(MYXV)はウサギの粘液腫症の原因物質である。これまでのところ、ウサギのこの疾患を予防する唯一の効果的な方法はワクチン接種である。しかしながら、ワクチン接種の有効性は6ヶ月~1年の間しか持続しない。MYXVの場合、ワクチン接種によって感染が防止されない場合もあるが、症状は緩和されることになる。
【0003】
一部のポックスウイルスはまた、ヒトに重篤な病的感染を誘発する可能性もある。一例は天然痘で、19世紀から20世紀のワクチン接種キャンペーンの結果、1980年に世界的に根絶された致命的なヒト疾患である。天然痘の病原体は痘瘡ウイルス(VARV)であり、ポックスウイルス科に属するウイルスである。この疾患に対する特定の処置法はない。VARVに対する交差防御を付与するワクシニアウイルス(VACV)の注射に基づくワクチン接種は、この疾患を防ぐ唯一の予防方法である。バイオテロの脅威とこのウイルスの偶発的又は意図的な再燃のリスクを考慮すると、VACVワクチンと腫瘍溶解性ポックスウイルスの使用を確保し、バイオテロの脅威が発生した場合に広く配布するための効果的な治療効果のある抗ポックスウイルス薬を開発する必要がある。VARVが再燃した場合に、抗VACV igのストックを動員することはできるが、現行の治療法はまだ臨床段階にある。今もまだ、ポックスウイルス感染を阻害する低分子化合物は発見されていない。
【0004】
すべての予想に反して、本発明の発明者らは、コロールファミリーが粘液腫ウイルス(MYXV)に対して有効な抗感染活性を有し、ポックスウイルス科の他のウイルスに対するそれらの抗感染活性も予測可能であることを観察した。
【0005】
本発明の第一の対象は、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスの感染症の処置に使用するための、式(I):
【化1】
[式中、
-Y
1及びY
2は、同一又は異なり、それぞれ独立して、-H、-SO
3H、-SO
3
-、-NO
2、-CHO、-NH
2、-NH
3
+、-COOH、-COO
-から選択され、
-Mは、3H又はCu、Mn、Fe、Co、V、Cr、Ti、Ag、Rh、Ru、Mo、Zr、Au、Pt、Ir、Re、W、Hf、Li、Al、Ga、Ge、Sn、As、Sb、Pb、Bi、La、Gd、Tb、若しくはThの群から選択された金属を表し、
-A
1及びA
2は、同一又は異なり、それぞれ、式(II)
【化2】
のフェニル基、又は
式(III)
【化3】
のピリジニウム基、又は
式(IV)
【化4】
の5員複素環を表し、
-式(II)のR
1、R
2、R
3、R
4及びR
5のそれぞれ;式(III)のR
1’、R
2’、R
4’及びR
5’のそれぞれ;式(IV)のR
1’’、R
2’’、及びR
3’’のそれぞれは、
(a).-H、-CN、-NO
2、-CHO、-SO
3H、-OH、-SH、-C≡CH、-NH
2、-COOH、-CONH
2、
(b).塩素原子、フッ素原子、臭素原子、又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、
(c).(C
1-C
8)アルキル鎖、
(d).式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
(e).-CX
3(ここで、Xは塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である)、
(f).-OR
a、-NR
aR
b、-NHR
a、-COOR
a、-CONHR
a、-CONR
aR
b、-SO
3R
a、-SO
2NHR
a、-COR
a、-SR
a、-C≡CR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル鎖、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H、若しくは式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)のPEG鎖から独立して選択される)、
(g).式
【化5】
(式中、R
cは-COOH又は-SO
3Hである)
で示される基、
(h).式
【化6】
(式中、R
dは(C
1-C
8)アルキル鎖、又は-(CH
2)
nSO
3
-であり、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるピリジニウム基
から選択され、
-式(III)のR
3’は、
--H、-CONH
2、
-(C
1-C
8)アルキル鎖、
-式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4、又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
-基-(CH
2)
nSO
3
-(ここで、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)、
--OR
a、-NR
aR
b、-NHR
a、-COOR
a、-CONHR
a、-CONR
aR
b、-COR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル鎖、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H、又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖から独立して選択される)
から選択され、
-式(IV)のEは、-O-、-S-、-Se-、-NH-から選択される]
で示されるタイプA3又はA2Bのコロール、又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体を提供することである。
【0006】
本発明のコロールは、19個の炭素原子及び4個の窒素原子を含む収縮型ポルフィリン環を有する有機分子であり、Cu、Mn、Fe、Co、V、Cr、Ti、Ag、Rh、Ru、Mo、Zr、Au、Pt、Ir、Re、W、Hf、Li、Al、Ga、Ge、Sn、As、Sb、Pb、Bi、La、Gd、Tb、又はThの群から選択される金属を結合することができる。
【0007】
本発明によれば、「タイプA3のコロール」という用語は、A1及びA2が同一であるコロールであることを意味する。言い換えると、タイプA3のコロールは、前記コロールのメソ位5、10及び15の3つの置換基が同一であるコロールである。
【0008】
本発明によれば、「タイプA2Bのコロール」という用語は、A2がA1とは異なるコロールであることを意味する。言い換えると、タイプA2Bのコロールは、メソ位5及び15の置換基が同一であり、それらが前記コロールのメソ位10の置換基とは異なるコロールである。
【0009】
「(C1-C8)アルキル鎖」という用語は、1~8の炭素を含有する飽和の直鎖又は分枝状炭化水素鎖であることを意味する。アルキルの代表的な例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチルがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0010】
「医薬的に許容され得る塩」という語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴うことなくヒト組織と接触した状態で使用するのに適した塩を指す。
【0011】
本発明の式(I)のコロールの医薬的に許容され得る塩は、式(I)のコロールの生物学的有効性を保持し、ヒトにとって生物学的に望ましくないものではない塩を指す。
【0012】
本発明によれば、本発明の化合物の医薬的に許容され得る塩は、本発明の化合物の医薬的に許容され得る有機又は無機の酸又は塩基の塩であり得る。
【0013】
式(I)のコロールの医薬的に許容され得る塩は、前記コロールを当技術分野で周知の様々な有機及び無機の正の対イオン、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなどと反応させることにより得ることができる。式(I)のコロールの医薬的に許容され得る塩は、前記コロールを医薬的に許容され得る酸と反応させることによっても得ることができる。具体例には、塩酸塩及び硫酸塩などの無機酸塩、ギ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩及びメタンスルホン酸塩などの有機酸塩が含まれる。
【0014】
「光学異性体」という語は、分子内の1つ以上の原子の周りの置換基の配置によって3次元的に異なる分子を指す。
【0015】
本発明のタイプA2Bのコロールの実施形態によれば、A1及びA2は両方とも、異なるように置換されている式IIのフェニル基である。
【0016】
本発明のタイプA2Bのコロールの別の実施形態では、A1及びA2は両方とも、異なるように置換されている式IIのピリジニウム基である。
【0017】
本発明のコロールの実施形態において、A1、A2又はR3’が、-SO3基を有しないピリジニウム基であるとき、前記コロールは、Cl-、Br-又はI-などの対イオンを含む。
【0018】
「ポックスウイルス」という用語は、ポックスウイルス科のウイルスであることを意味する。
【0019】
本発明のコロールは、コードポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)又はエントモポックスウイルス亜科(Entomopoxvirinae)に属するポックスウイルスによるヒト又は非ヒト動物における感染を処置するために使用される。
【0020】
コードポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)のウイルスの例は、オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、アビポックスウイルス、スイポックスウイルス、モルシポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、クロコダイルポックスウイルス(crocodylidpoxvirus)、又はサービドポックスウイルス(cervidpoxvirus)であり得る。
【0021】
エントモポックスウイルス亜科(Entomopoxvirinae)のウイルスの例は、エントモポックスウイルスA、B又はCである。
【0022】
本発明によれば、非ヒト動物は、特に、ウシ、ヒツジ、ヤギ、サル、ヒヒ、ウサギ、ウサギ目(lagomorph)、リス、ブタ、シカ、及び鳥から選択される。
【0023】
特定の実施形態において、本発明のコロールは、粘液腫症、牛痘、天然痘、羊痘、オルフ、ワクシニア、サル痘、LSDV、ヤギ痘から選択されるポックスウイルスの感染又はポックスウイルス科に属する他の任意のウイルスによる感染を処置するために使用される。
【0024】
式(I)のコロールの一実施形態では、Mは3Hを表す。前記コロールは、式(Ia)によって表される。
【化7】
式中、Y
1、Y
2、A
1及びA
2は、式(I)の場合と同じ意味である。
【0025】
本発明のコロールのより特定の実施形態によれば、A
1及び/又はA
2は、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、又は(IIId)から選択される1つの式によって表される。
【化8】
[式中、R’、R’’、R
1、R
3、及びR
5は、
・-CN、-NO
2、-CHO、-SO
3H、-OH、-NH
2、-COOH、-CONH
2、-SH、-C≡CH、
・塩素原子、フッ素原子、臭素原子、又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、
・(C
1-C
8)アルキル鎖、
・式-(CH
2-CH
2-O)
n-H又は式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるPEG鎖、
・-CX
3(ここで、Xは塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である)、
・-OR
a、-NR
aR
b、-COOR
a、-NHR
a、-CONR
aR
b、-CONHR
a、-SO
3R
a、-SO
2NHR
a、-COR
a、-SR
a、-C≡CR
a(ここで、R
a及びR
bは、─(CH
2─CH
2─SO
3H)、(C
1-C
8)アルキル、式-(CH
2-CH
2-O)
n-H若しくは式-(CH
2-CH
2-O)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)のPEG鎖から独立して選択される)、
・式
【化9】
(式中、R
cは-COOH又は-SO
3Hである)
で示される基、
・式
【化10】
(式中、R
dは(C
1-C
8)アルキル鎖、又は-(CH
2)
nSO
3
-であり、nは、1、2、3、4又は5から選択される整数である)で示されるピリジニウム基
から独立して選択され、
R
3’は前記の意味である。]
【0026】
したがって、この実施形態では、A1及びA2の少なくとも一方又はそれらの両方が、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択される。A1及びA2は、同一でも異なっていてもよい。
【0027】
式(IIa)によれば、R’は、R1、R2、R3、R4及びR5のいずれか1つを表し、残りの4つの他の置換基は水素である。
【0028】
したがって、例えば、R’がR1に対応する場合、R2、R3、R4、及びR5は水素である。
【0029】
式(IIb)によれば、R’及びR’’は、R1、R2、R3、R4及びR5のうちの2つを表し、R1、R2、R3、R4又はR5の中の残りの3つの置換基は水素である。
【0030】
したがって、例えば、R’がR1に対応し、R’’がR2に対応する場合、R3、R4及びR5は水素である。
【0031】
式(IIIa)によれば、R’はR1’、R2’、R4’及びR5’のいずれか1つを表し、残りの3つの他の置換基は水素である。
【0032】
したがって、例えば、R’がR1’に対応する場合、R2’、R4’及びR5’は水素である。
【0033】
式(IIIb)によれば、R’及びR’’は、R1’、R2’、R4’及びR5’のうちの2つを表し、残りの2つの他の置換基は水素である。
【0034】
したがって、例えば、R’がR1’に対応し、R’’がR2’に対応する場合、R4’及びR5’は水素である。
【0035】
式(IVa)によれば、R’は、R1’’、R2’’、及びR3’’のいずれか1つを表し、R1’’、R2’’、又はR3’’のうちの残りの2つの置換基は水素である。
【0036】
さらに特定の実施形態において、本発明のコロールは、タイプA2Bのコロールであって、A1及びA2は異なり、それぞれ、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択された1つの式により表されるものとする。
【0037】
さらに特定の実施形態によれば、本発明は、式(I)
[式中、
-Mは3Hを表し、
-A1及びA2は異なり、それぞれ前記の式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択された1つの式により表される]
で示されるコロールに関する。
【0038】
別のさらに特定の実施形態では、本発明のコロールはタイプA3のコロールであって、A1及びA2は同一であり、それぞれ前記の式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、又は(IVa)から選択された1つの式により表されるものとする。
【0039】
別のさらに特定の実施形態によれば、本発明は、式(I)[式中、
-Mは3Hを表し、
-A1及びA2は同一であり、前記の式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)又は(IVa)から選択された1つの式により表される]
で示されるコロールに関する。
【0040】
別の実施形態によれば、本発明のコロールは、下記(IIe)、(IIf)、(IIg)、(IIIe)、又は(IIIf)から選択される1つの式によって表されるフェニル基A
1及び/又はA
2を有するコロール、又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体である。
【化11】
【0041】
式(IIe)、(IIf)、(IIg)における置換基R1、R2、R3、R4、又はR5は、式IIの場合と同じ意味である。
【0042】
式(IIe)、(IIf)、(IIg)における置換基R1’、R2’、R3’、R4’、又はR5’は、式IIIの場合と同じ意味である。
【0043】
したがって、この実施形態において、A1及びA2の少なくとも一方又はそれらの両方は、(IIe)、(IIf)、(IIg)、(IIIe)、(IIIf)から選択される。A1及びA2は、同一でも異なっていてもよい。
【0044】
本発明のさらに特定の実施形態において、コロールは、以下の化合物:
【化12】
又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体から選択される。
【0045】
本発明の別の対象は、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスの感染の処置における使用のための、有効成分として、前記のコロール又はその医薬的に許容され得る塩又はその光学異性体並びに医薬的に許容され得る担体を含む医薬組成物に関する。
【0046】
「医薬的に許容され得る担体」という用語は、一般に安全で非毒性であり、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではない医薬組成物又は製剤の調製に有用な担体を意味し、ヒト又は獣医薬用途に許容され得る担体を含む。担体は、基剤、媒質として、又は有効成分の希釈用としての役割を果たすことができる。本発明の医薬組成物の製剤化は、薬の製剤化に関する周知の先行技術に従って決定及び実施することができる。担体材料は、有機又は無機の不活性担体材料、例えば、経口投与又は注射に適したものであり得る。適切な担体には、水、ゼラチン、アラビアゴム、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物油、ポリアルキレングリコール、グリセリン及びワセリンが含まれる。着香料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤などの追加の添加剤を、医薬配合の認められた慣行に従って添加することもあり得る。
【0047】
組成物は、錠剤、丸薬、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、軟及び硬ゼラチンカプセル、坐剤、無菌注射溶液、並びに無菌包装粉末の形態であり得る。
【0048】
本製剤化によると、本発明の医薬組成物は、経口経路又は注射によって投与することができる。
【0049】
本発明の別の対象は、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスによる感染の処置における使用のための、
-前記のコロール又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体、
-抗ポックスウイルスワクチンから選択された別の抗ポックスウイルス薬、又はポックスウイルス感染に対する任意の実験的医薬の有効成分、
によって形成される連結体に関する。
【0050】
本発明において、用語「薬(剤)」及び「薬物」は交換可能である。
【0051】
「有効成分」という用語は、薬の生物学的活性成分を意味するものとする。
【0052】
本発明はまた、
-前記のコロール又はその医薬的に許容され得る塩、又はその光学異性体、
-抗ポックスウイルスワクチン、又はポックスウイルス感染に対する任意の実験的医薬から選択された別の抗ポックスウイルス薬
を含む組合せ製品に関する。
【0053】
ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルス感染の処置における同時使用、個別使用、又は連続使用を目的とする。
【0054】
「同時使用」という用語は、同じ経路で同時に2つの有効成分を投与することを意味する。
【0055】
「連続使用」という用語は、同じ経路により2つの有効成分を時間に関して連続的に投与することを意味する。
【0056】
「個別使用」という用語は、異なる経路により同時に又は実質的に同時に2つの有効成分を投与することを意味する。
【0057】
本発明はまた、粘液腫症、牛痘、天然痘、羊痘、オルフ、ワクシニア、サル痘、LSDV、又はヤギ痘などの、ヒト又は非ヒト動物におけるポックスウイルスによる感染を処置する方法を提供するもので、その方法は以下の段階を含む:
粘液腫症、牛痘、天然痘、羊痘、オルフ、ワクシニア、サル痘、LSDV又はヤギ痘などのポックスウイルスによる感染を患っているヒト又は非ヒト動物に前述の医薬組成物の医薬的有効量を投与すること。「医薬的有効量」という用語は、所望の治療効果をもたらすための医薬組成物中の医薬活性物質としての前記コロール又は前記組合せ製品の量を意味する。
【0058】
本発明を、以下の図及び実施例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】
図1は、96ウェルのプレートに播種されたRK13細胞(ウサギ上皮腎臓)に対する様々な濃度(0.1、0.25、0.5、0.75、1.5、3.1、6.25、12.5、25、50μM)の化合物FNO2Cor、TpNO2Cor、TPFCorの毒性を示す。Y軸は、1ウェルあたりの生存細胞の正規化された数を示す。
【
図2】
図2は、様々な濃度(0.08、0.18、0.37、0.75、1.5、3.1、6.25μM)の化合物FNO2Cor、TpNO2Cor、又はTPFCorによる感染48時間後の感染多重度(MOI)0.5でのRK13細胞におけるMYXVの正規化された感染率を示す。
【
図3】
図3は、様々な濃度(0.08、0.18、0.37、0.75、1.5、3.1、6.25μM)の化合物FNO2Cor、TpNO2Cor、又はTPFCorによる感染後6日目の感染多重度(MOI)0.01でのRK13細胞におけるMYXVの正規化された感染率を示す。
【
図4】
図4は、顕微鏡で観察された感染後6日目のMYXV感染RK13における溶解プラークを示す。
【0060】
例:
1.材料及び方法
1.1 本発明のコロールの調製
すべての化学薬品と溶媒は分析グレードであり、さらに精製することなく使用した。シリカゲル60(70~230及び230~400メッシュ、Sigma Aldrich)をカラムクロマトグラフィーに使用した。反応を、薄層クロマトグラフィー、UV-Vis分光法、及び質量分析によってモニターした。カラムでのクロマトグラフィー精製を、シリカゲル60(70~230メッシュ、Sigma Aldrich)で実施した。1H NMRスペクトルを、Bruker AV300分光計(300MHz)で記録した。CDCl3を溶媒として使用し(指定されている場合を除く)、TMSを内部基準として使用した。化学シフト(δ)を、残留CHCl3(7.26ppm)に対するppmで表示する。すべてのデータをTopSpinで処理した。MALDI/TOF質量スペクトルを、Bruker Ultraflex Extreme MALDIタンデムTOF質量分析計で記録した。UV-visスペクトルを、溶媒としてCH2Cl2、CHCl3又はTHFを使用してCary 50分光光度計で測定した。
【0061】
修正されたPaolesseの方法による一般的手順#1(Paolesseら、J.Org.Chem.2001、66(2)、550-556.)。
【0062】
アルデヒド(40.4mmol)と蒸留したピロール(121mmol)をAcOH(500mL)に溶解し、反応物を還流温度で3時間攪拌した。反応混合物を室温で冷却し、AcOHを真空下で蒸発させた。粗生成物をクロマトグラフィーカラム(シリカ、CH2Cl2)で濾過した。コロールを含むすべての画分(緑色の画分)を合わせ、蒸発乾固させた。各化合物についての精製の詳細を以下に示す。
【0063】
・5,10,15-Tris(4-ニトロフェニル)コロール(TpNO2Corとして設計)の調製。
このコロールは、上記の化合物Hに対応する。
このコロールを、4-ニトロベンズアルデヒドとピロールから出発して、一般的手順1で説明した要領で調製した。残留物をクロマトグラフィーカラム(アルミナ、CH2Cl2/ヘプタン、1/1、v/v)で精製して、純粋なコロール(492mg、5.5%)を得た。UV-Vis(DCM):λmax(nm)(εx 10-3Lmol-1cm-1)=447(53.4)、598(18.7)。1H NMR(300MHz、300K、DMSO-d6)δ(ppm):8.41(m、2H)、8.58-8.71(m、14H)、8.87(m、2H)、9.14(m、2H)。MS(MALDI-TOF)m/z=661.92[M+H]+、C37H23N7O5の計算値は661.17。MS(ESI)m/z=660.15[M-H]-、662.14[M+H]+、C37H23N7O5の計算値661.17。
【0064】
・5,10,15-Tris(2-フルオロ-5-ニトロフェニル)コロール(FNO2Corとして設計)の調製
このコロールは、上記の化合物Bに対応する。
このコロールを、2-フルオロ-5-ニトロベンズアルデヒドとピロールから出発して、一般的手順1で説明した要領で調製した。残留物をCHCl3/ヘプタン(3/1、v/v)から結晶化し、コロールを含む溶液をポルフィリン沈殿物から分離した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をTHF/ヘプタン1:2v/vから結晶化して、純粋な暗緑色のコロール結晶を得た(76.1mg、収率3.2%)。UV-Vis(THF):λmax、(nm)(εx 10-3Lmol-1cm-1)418(103.2)、572、610、645。1H NMR(300MHz、CDCl3)、δ(ppm):9.11-9.00(m、5H)、8.73-8.61(m、5H)、8.50-8.47(m、4H)、7.71-7.62(m、3H)、-2.83(brs、3H)。MS(MALDI/TOF):m/z 715.007[M]+、C37H20F3N7O6の計算値715.14。
【0065】
修正されたGrykoの方法による一般的手順#2(Gryko、D.T.;Koszarna、B.Org.Biomol.Chem。、2003、1(2)、350-357)。
【0066】
アルデヒド(20.0mmol)を蒸留したピロール(30.0mmol)に室温で溶解し、次いでTFAのCH2Cl2溶液(2.0mL中18μL)を加え、激しく攪拌した。10分後、800mLのCH2Cl2を加え、さらに1時間攪拌した。DDQ(24.0mmol)を加え、さらに1時間攪拌し、溶媒を真空下で除去した。粗生成物をクロマトグラフィーカラム(シリカ、CH2Cl2)で濾過した。各化合物についての精製の詳細を以下に示す。
【0067】
・5,10,15-Tris(ペンタフルオロフェニル)コロール(TPFCorとして設計)の調製。
このコロールは、上記の式Aの化合物に対応する。
このコロールを、ペンタフルオロベンズアルデヒドとピロールから出発して、一般的手順2で説明した要領で調製した。残留物を第二のカラムクロマトグラフィー(シリカ、トルエン/ヘプタン、8/2、v/v)により精製して、純粋な暗緑色のコロール結晶(228mg、4.3%収率)を得た。UV-Vis(THF):λmax、(nm)(εx 10-3Lmol-1cm-1)407(150.1)、562(23.9)、604(12.4)。1H NMR(300MHz、CDCl3)、δ(ppm):9.10(d、J=4.2Hz、2H)、8.79(d、J=4.8Hz、2H)、8.60(4H)、2.88(brs、3H)。19F NMR(282MHz,CDCl3)137.2(2F),137.7(4F),152.2(2F),152.8(1F),161.5(4F),161.9(2F)。MS(MALDI/TOF):m/z 796.91[M+H]+、C37H11F15N4の計算値796.07。
【0068】
1.2 MYXV感染
RK13(ウサギ上皮腎臓)細胞をMYXV感染アッセイに使用した。
【0069】
細胞を、フェノールレッド不含有の200μLのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich)、10%SVF、Pen-strep、1Xピルビン酸ナトリウム、1X Glutamax中で成長させた。
【0070】
感染プロトコル
MYXV-GFP感染を、96ウェルプレートに播種されたRK13細胞に対して、2通りの感染多重度(MOI)と7通りの濃度のFNO2Cor、TPFCor、TpNO2Corで3度繰り返して実行した。
-D0:RK13細胞を、フェノールレッド不含有の200μLのDMEM中Corning Glass Bottom 96ウェルプレートで1ウェルあたり6kで播種した。
-D1:細胞を、毒性試験のために、FNO2Cor、TpNO2Cor、TPFCor(2倍希釈により50~0.1μM)で2度繰り返して処理した。
【0071】
並行して:細胞をFNO2Cor、TpNO2Cor、TPFCor(2倍希釈により6.25~0.08μM)で処理し、異なる感染多重度(MOI):MOI0.5又は0.01で3度繰り返してMYXVを感染させる。
【0072】
1.3毒性評価
化合物FNO2Cor、TpNO2Cor又はTPFCorのARPE-19細胞に対する毒性を、6日間の処理後に評価した。10通りの濃度(50、25、12.5、6.25、3.1、1.5、0.75、0.5、0.25、0.1μM)のFNO2Cor、TpNO2Cor及びTPFCorを試験した。
【0073】
1.4顕微鏡検査
MOI0.5での感染後(PI)48時間のRK13細胞を、室温で10分間ホルマリンで固定する。1ウェルあたり200μLのPBS及び100μLのPBS/Hoechst 33342(1/1000)で洗浄する。データ取得まで、96ウェルプレートを暗所で4℃に保つ。修正されたコンパートメント解析アルゴリズムを使用して、ハイコンテント定量化のための画像取得及び解析を、Thermo Cellomics Arrayscan VTI顕微鏡で実施する。
【0074】
毒性試験用のRK13細胞及びMOI0.01での感染後6日目のRK13細胞を固定し、前述の要領で画像の取得と解析を行う。
【0075】
感染後48時間及び6日目に、化合物濃度に応じた感染レベルを計算するために、ハイコンテント顕微鏡法によりデータ取得を行った。
【0076】
2.結果
2.1 細胞毒性
化合物FNO2Cor、TPFCor及びTpNO2Corの細胞毒性を、1.3節で説明した方法に従ってRK13細胞に対し異なる濃度で評価した。RK13細胞におけるこれら3種の化合物のCC
50値を以下の表Iに示す。
【表1】
【0077】
図1及び表Iは、3種の試験化合物が低濃度でウサギ上皮腎細胞に安全であることを示している。
【0078】
2.2 抗ウイルス活性
化合物FNO2Cor、TPFCor、及びTpNO2Corを、感染後48時間(
図2)又は感染後6日目(
図3)にRK13細胞培養物中7通りの異なる濃度で評価し、MYXV感染に対するそれらの阻害活性を評価した。表IIは、感染後48時間又は感染後6日目のRK13細胞におけるこれら3種の化合物のIC
50値を示す。これらの化合物の選択性指数を表IIIに示す。
【表2】
【表3】
【0079】
これらの結果は、試験した3種の化合物すべてがRK13細胞におけるMYXV感染率を抑制できることを示す。TPFCorとTpNO2Corは、FNO2Corよりも優れたインビトロ抗MYXV効果を有する。
【0080】
2.3 溶解プラーク分析
溶解プラーク分析を、感染後6日目のMYXV感染RK13で行った。溶解プラークの面積と溶解プラークの数を顕微鏡写真で直接評価した(
図4)。結果は表IVにも表示されている。
【表4】
【0081】
これらの結果は、試験された3種の化合物がMYXV感染の細胞間増殖を防止できることを示している。