(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】グルカゴン類似ペプチド-1受容体亢進剤を含む筋減少症治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/22 20060101AFI20230217BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230217BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230217BHJP
A61P 21/06 20060101ALI20230217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230217BHJP
C07K 14/575 20060101ALN20230217BHJP
C07K 14/46 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
A61K38/22 ZNA
A61K38/17
A61P21/00
A61P21/06
A61P43/00 111
C07K14/575
C07K14/46
(21)【出願番号】P 2021016912
(22)【出願日】2021-02-04
(62)【分割の表示】P 2018514760の分割
【原出願日】2016-05-27
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】10-2015-0074985
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517415920
【氏名又は名称】イムノフォージ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ヒ スク
(72)【発明者】
【氏名】パク、ウン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ヨン ヒ
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-522063(JP,A)
【文献】特表2013-507341(JP,A)
【文献】宮川 潤一郎,難波 光義,GLP-1受容体作動薬,Progress in Medicine,2012年,第32巻,第9号,p.1893-1898
【文献】Sun, H. et al.,Therapeutic potential of N-acetyl-glucagon-like peptide-1 in primary motor neuron cultures derived from non-transgenic and SOD 1-G93A ALS mice,Cellular and Molecular Neurobiology,2013年,Vol.33, No.3,p.347-357
【文献】Knippenberg, S. et al.,Intracerebroventricular injection of encapsulated human mesenchymal cells producing glucagon-like peptide 1 prolongs survival in a mouse model of ALS,PLoS ONE,2012年06月20日,Vol.7, No.6,e36857,doi: 10.1371/journal.pone.0036857
【文献】Li, Y. et al.,Exendin-4 ameliorates motor neuron degeneration in cellular and animal models of amyotrophic lateral sclerosis,PLoS ONE,2012年02月23日,Vol.7, No.2,e32008,doi: 10.1371/journal.pone.0032008
【文献】Elahi, D. et al.,GLP-1(32-36)amide, a novel pentapeptide cleavage product of GLP-1, modulates whole body glucose metabolism in dogs,Peptides,2014年06月14日,Vol.59,p.20-24
【文献】桑田 仁司,清野 裕,DPP-4阻害薬,肝胆膵,2012年11月,第65巻,第5号,p.809-816
【文献】宮川 潤一郎,難波 光義,DPP-4阻害薬(インクレチンエンハンサー),日本臨床,2012年,第70巻,増刊号3(最新臨床糖尿病学(上)),p.682-688
【文献】Fanzani, A. et al.,Molecular and cellular mechanisms of skeletal muscle atrophy: an update,Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle,2012年06月07日,Vol.3, No.3,p.163-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
PubMed
医中誌WEB
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP-1(グルカゴン様ペプチド‐1)受容体(GLP-1R、Glucagon-like peptide-1 receptor)亢進剤(agonist)又はGLP-1断片を含む、筋萎縮症または筋減少症(但し、脳又は脊髄の運動神経細胞の変性又は死滅によるものを除く)の予防または治療用薬学組成物であって、
体重増加、骨格筋重量の増加、筋肉タンパク質を生成する遺伝子の発現増加、及び筋肉タンパク質を破壊する遺伝子の発現抑制からなる群より選択される1以上の効果を示すものであり、
該GLP-1受容体亢進剤はリラグルチド
又はリキシセナチ
ドであり、かつ
前記GLP-1断片が、ネイティブGLP-1のアミノ酸配列中の7番目~36番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列を含
み、GLP-1活性を有し、GLP-1受容体亢進剤として作用する、組成物。
【請求項2】
前記筋肉タンパク質を破壊する遺伝子が、ミオスタチン(Myostatin)、アトロジン(Atrogin‐1)またはMuRF1(Muscle RING-finger protein-1)をコードする遺伝子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記筋肉タンパク質を生成する遺伝子が、ミオディ(MyoD)またはミオゲニン(Myogenin)をコードする遺伝子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
筋減少症または筋萎縮症(但し、脳又は脊髄の運動神経細胞の変性又は死滅によるものを除く)の予防又は治療剤の調製における請求項1~4のいずれか一項に記載の薬学組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグルカゴン類似ペプチド‐1受容体亢進剤を含む筋減少症治療用薬学組成物に関するもので、より具体的に本発明はグルカゴン類似ペプチド-1(GLP-1、Glucagon-like peptide-1)、GLP-1断片、GLP-1分泌増加促進剤、GLP-1分解抑制剤、
GLP-1受容体(GLP-1R、Glucagon-like peptide-1 receptor)亢進剤(agonist
)、またはエクセンディン-4を含む筋萎縮症または筋減少症の予防または治療用薬学組
成物及び前記薬学組成物を用いて筋萎縮症または筋減少症を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎神経、運動神経または骨格筋繊維の退行により誘発される筋減少症はまだ発病原因が究明されない代表的な難治性疾患の一つである。今までの研究によると、骨格筋の収縮を誘導する運動神経が退行され骨格筋の収縮が進行されないか、または骨格筋内で筋肉の収縮に関与するタンパク質の発現が減少されるか(筋減少症)、前記タンパク質が変更され、正常的な骨格筋の収縮が進行されず、長期的には前記運動神経または骨格筋が繊維性組織に変形されるものと知られている。このように筋減少症の根本的な発病原因が究明されず、運動神経や骨格筋の退行を防止するか、または回復させる方法が開発されないため、現在としては前記筋減少症の進行を鈍化させる方法を開発するための研究が活発に進行されている。
【0003】
このような筋減少症の進行を鈍化させる方法としては、主に筋減少症の一種である筋肉細胞の退行または進行性変異により誘発される筋萎縮症を抑制する方法が使用されている。例えば、特許文献1にはニトロキシド誘導体を有効成分として含む筋萎縮症治療剤が開示されていて、特許文献2にはアトラリン酸またはその誘導体を有効成分として含む筋萎縮症治療剤が開示されている。しかし、化合物を有効成分として含むこれら治療剤は筋萎縮症が発病された骨格筋だけでなく、筋萎縮症と関連されない内臓筋または心筋にも作用するため、さまざまな副作用が誘発されることがあり、実質的な治療に用いられない。このようなホルモン製剤は副作用がまったくないわけではないが、化合物製剤よりは副作用が著しく減少され、ホルモン製剤の特性上生体親和的であるため、同様のホルモン製剤の開発が加速化されている実情である。
【0004】
一方、筋萎縮症は四肢の筋肉が萎縮する疾患であって、筋萎縮性側索硬化症と脊髄性進行性筋萎縮症が代表的であり、これは脊髄の運動神経線維と細胞の進行性変性による疾患として知られている。
【0005】
具体的には、前記脊髄性筋萎縮症は脊髄の運動神経細胞の変性による遺伝的障害であり、神経筋肉疾患の一つとして知られている。また、筋萎縮性側索硬化症は、大脳と脊髄の上位運動神経細胞と下位運動神経細胞の死滅による難治性、非可逆神経退行性変化が特徴であり、神経成長因子の欠乏及び神経炎症が主な原因であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2007/088123号
【文献】WO2006/081997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは筋萎縮症または筋減少症を効果的に治療することができるか、またはその進行を効果的に鈍化させることができる製剤を開発するために鋭意研究努力した結果、グルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤の一種であるエクセンディン-4が筋減少症の症状を緩和しうることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの目的は、筋萎縮症または筋減少症の予防または治療用薬学組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記薬学組成物を用いて筋萎縮症または筋減少症を治療する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明で提供する筋萎縮症または筋減少症の予防または治療用薬学組成物を筋減少または筋萎縮症が発症した個体に投与すると、筋減少症または筋萎縮症により減少した体重、骨格筋の重量、握力及び筋肉の生成に関与する遺伝子の発現レベルを正常な状態に回復させることができるため、効果的な筋減少症または筋萎縮症の治療剤の開発に広く活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスを20日間飼育しならが測定した体重の変化を示すグラフである。
【
図2】対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスで得られた各骨格筋の重量を比較した結果を示すグラフである。
【
図3】対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスで測定された握力を比較した結果を示すグラフである。
【
図4】対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスの筋肉における筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)及び筋肉タンパク質を生成する遺伝子(MyoD及びMyogenin)の発現レベルを比較した結果を示すグラフである。
【
図5】対照群の筋肉細胞、筋萎縮症の症状が誘導された筋肉細胞、比較群の筋肉細胞及び筋萎縮症の症状が治療された筋肉細胞における筋萎縮症に関連する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)の発現レベルを比較した結果を示すグラフである。
【
図6】シタグリプチン及びGLP-1(32‐36)アミドによるマウスの体重変化を示した図である。
【
図7】シタグリプチン及びGLP-1(32‐36)アミドによるマウスの筋肉重量の変化を示した図である。
【
図8】シタグリプチン及びGLP-1(32‐36)アミドによるマウスの握力の変化を示した図である。
【
図9】シタグリプチン及びGLP-1(32‐36)アミドによるミオスタチン(Myostatin)及びMyoD発現の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは筋減少症を効果的に治療することができるか、またはその進行を効果的に鈍化させることができるホルモン製剤を開発するために、様々な研究を行う中、従来に開発されたホルモン製剤に注目するようになった。前記ホルモン製剤は 副作用が最小化さ
れた薬学組成物であるため、一定レベルの前臨床及び臨床試験を通じてこれらのホルモン製剤の中で筋減少症の治療または鈍化させることができる製剤を選抜することができれば、副作用の発病による問題を解決できると予想した。そこで、従来に開示されたホルモン
製剤を対象に筋減少症の治療または鈍化効果を示す製剤をスクリーニングした結果、エクセンディン-4に大別されるグルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤を発掘した。
【0013】
前記グルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤の一種であるエクセンディン-4はグルカゴン類似体であるGLP-1と同様の役割を果たすタンパク質性ホルモン製剤として糖尿病
を治療するために開発された。人為的に筋減少症を誘発させた動物に前記エクセンディン-4を投与して、筋減少症への影響を分析した結果、筋減少症により減少した体重、骨格
筋重量、握力などの筋肉特性が回復され、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子の発現が減少し、筋肉タンパク質を生成する遺伝子の発現が増加することを確認した。また、グルカゴン様ペプチド-1受容体であるGLP-1Rの他の亢進剤、その類似体またはグルカゴン様ペプチド-1の分解を抑制する抑制剤も同等の効果を示すと予想された。
【0014】
このように、エクセンディン-4に大別されるグルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤は、糖尿病の治療効果とは別に、筋減少症の治療または鈍化させる新しい効果を示すことを究明し、これらの新しい効果は今まで全く公知されず、本発明者によって初めて究明された。
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明は一つの様態として、グルカゴン様ペプチド-
1(GLP-1、Glucagon-like peptide-1)、GLP-1断片、GLP-1受容体(GLP-1R、Glucagon-like peptide-1 receptor)亢進剤(agonist)、GLP-1分泌増加促進剤、GLP-1の分解抑制剤及びエクセンディン-4で構成される群から選択されたいずれか一つを含む筋萎縮症または筋減少症の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0016】
本発明の用語、「グルカゴン様ペプチド(GLP-1、Glucagon-like peptide-1)」とは、前駆ホルモンである前駆グルカゴン(proglucagon)遺伝子の転写産物から由来したイン
クレチン(incretin)であって、腸のL細胞から腸管内の栄養分または血糖濃度に刺激を受けて分泌されるホルモンである。主な機能は、インスリン分泌を刺激することが知られている。そこで、現在の糖尿病の治療において効果的に血糖値を下げることができる薬剤として研究、開発されている。
GLP-1は、30個のアミノ酸で構成されており、GLP-1のアミノ酸配列はすべての哺乳類で100%同一であることが知られている。前駆グルカゴンから転写した後のプロセスにより、膵島α細胞ではグルカゴンが生成され、回腸と大腸のL細胞ではGLP-
1が生成されることが知られている。
【0017】
本発明の用語、「GLP-1断片」とは、GLP-1アミノ酸配列から由来されてGLP-1の一部アミノ酸の置換、追加、削除、及び修飾の中いずれかの方法またはこれら方法
の組み合わせにより製造されたアミノ酸配列をいう。前記GLP-1断片は、当業者に知
られている方法で製造することができる。本発明の目的上、GLP-1から由来して筋萎
縮症または筋減少症の効果を有する以上、本発明の「GLP-1断片」に含まれてもよい
。前記GLP-1断片は、GLP-1配列の少なくとも5個以上、少なくとも10個以上、少なくとも15個以上、または少なくとも20個以上のアミノ酸を含んでもよい。具体的には、前記GLP-1断片は、GLP-1(28‐36)アミド、GLP-1(32‐36
)アミドであってもよく、より具体的には、前記GLP-1断片はGLP-1の5個のアミノ酸で製造されたGLP-1(32‐36)アミド(LVKGR amide)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の一具体的な態様によると、前記GLP-1(32‐36)アミドは配列番号2
の配列で構成されてもよい。
【0019】
本発明者らはGLP-1断片であるGLP-1(32‐36)アミドがデキサメタゾンが
処理されたマウスにおける体重、筋肉重量、及び握力の増加、ミオスタチン の発現減少
及びMyoDの発現増大を介して筋萎縮症または筋減少症に治療効果を有することが確認されたところ、GLP-1断片によって筋萎縮症または筋減少症の治療効果を得ることが
できることを確認した(
図6~
図9)。
【0020】
本発明の用語、「GLP-1受容体(GLP-1R、Glucagon-like peptide-1 receptor)」
とは、グルカゴン遺伝子の転写体から誘導された胃腸由来ホルモンの一種であるGLP-
1(Glucagon-like peptide-1)と結合することができる受容体タンパク質を意味するが
、血糖値を低下させる役割を行うことができる。具体的には、前記受容体はGLP-1と
結合することにより、転写因子である 膵臓十二指腸ホメオボックス-1(pancreatic duodenal homeobox-1、PDX-1)の上方調節(upregulation)を介してインスリン遺伝子の転
写と発現を増大させる。
【0021】
本発明の用語、「GLP-1受容体亢進剤(GLP-1R agonist)」とは、前記GLP-1受容体に結合してGLP-1と同様の作用をする物質または薬剤、あるいは受容部位の活性
を高める分子をいい、作動者ともいう。GLP-1受容体結合によるインスリン分泌の増
加効果が明らかになるにつれ、前記亢進剤は、現在、2型糖尿病の治療剤として使用されている。
【0022】
前記受容体亢進剤の例としては、自然な亢進剤としてGLP-1及びグルカゴンが知ら
れており、その他にリラグルチド(liraglutide)、エクセンディン-4(exendin-4)、
リキシセナチド(lixisenatide)などがある。
【0023】
前記亢進剤は、本発明の目的上、前記GLP-1受容体亢進剤はGLP-1と同様にGLP-1受容体に結合してGLP-1と同様のシグナル伝達経路を介して同様の活性を有する物質を含み、筋肉量の増加及び筋力強化を通じた筋萎縮症または筋減少症の治療効果を有することができる。
【0024】
本発明の用語、「エクセンディン-4(Exendin-4)」とは、GLP-1受容体亢進剤の
役割を果たす39個のアミノ酸配列で構成され、約4kDaの分子量を有するペプチドを意味する。前記エクセンディン-4は、血糖値を急速に調節して、インスリン抵抗性及び
グルカゴンのレベルを減少させ、インスリン産生を刺激する膵臓のベータ細胞の成長を促進させる効果を示すため、インスリン抵抗性を示す糖尿病の主要な治療剤として使用されている。前記エクセンディン-4のアミノ酸配列は、特にこれに限定されないが、配列番
号1のアミノ酸配列で構成されてもよい。
【0025】
本発明において、前記エクセンディン-4は筋減少症の治療用薬学組成物の有効成分と
して用いられるが、前記エクセンディン-4は筋減少症が発病した動物に対して、体重の
増加、骨格筋重量の増加、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子の発現抑制、筋肉タンパク質を生成する遺伝子の発現増加などの効果を示すことができる。このとき、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子は、特にこれに限定されないが一例としては、ミオスタチン(Myostatin)、アトロジン‐1(Atrogin-1)、MuRF1(Muscle RING-finger protein-1)などのタンパク質をコードする遺伝子であってもよく、筋肉タンパク質を生成する遺伝子も、特にこれに限定されないが一例としては、ミオディ(MyoD)、ミオゲニン(Myogenin)などのタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0026】
前述したようなエクセンディン-4の筋減少症の治療効果は、これまで全く知られてお
らず、本発明者によって初めて究明された。
【0027】
本発明者らは、前記エクセンディン-4は体重の増加、骨格筋重量の増加、筋肉タンパ
ク質を破壊する遺伝子の発現抑制、筋肉タンパク質を生成する遺伝子の発現増加などの効果を示すことを確認し、筋萎縮症または筋減少症の予防及び治療に用いられることを確認した。
【0028】
一方、前記エクセンディン-4は、GLP-1受容体亢進剤の一つの例として、GLP-
1受容体結合を介してGLP-1と同様の活性を有する。
したがって、本発明において、前記GLP-1R亢進剤またはその類似体は、前記エク
センディン-4と同等の効果を示すため、筋減少症または筋萎縮症の予防または治療用薬
学組成物の有効成分として用いることができる。
【0029】
本発明の用語、「GLP-1分泌増加促進剤」とは、GLP-1の分泌を増加させることができる製剤を意味する。前記「GLP-1分泌増加促進剤」の具体的な例としては、G
タンパク質結合受容体119アゴニスト(G-protein coupled receptor 119 agonist)があるが、これに限定されない。
【0030】
本発明において、前記GLP-1分泌増加促進剤は、GLP-1の分泌増加を介してGLP-1または前記エクセンディン-4と同等の効果(骨格筋重量の増加、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子の発現抑制、筋肉タンパク質を生成する遺伝子の発現増加など)を示すため、筋減少症または筋萎縮症の予防または治療用薬学組成物の有効成分として用いられる。
【0031】
本発明の用語、「GLP-1分解抑制剤」とは、GLP-1の分解を抑制してGLP-1
の作用を維持することができる製剤を意味する。特にこれに限定されないが、DPP-4
抑制剤などが知られている。
【0032】
本発明の一具体的な態様によると、前記GLP-1分解抑制剤は、DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)抑制剤であってもよい。
【0033】
本発明の用語、「DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)抑制剤」は、GLP-1を分解するものとして知られているDPP-4酵素を抑制する酵素であり、DPP-4の抑制を介してGLP-1の濃度を高く維持することができる。具体的には、前記抑制剤は、ビダグ
リプチン(Vidagliptin)、シタグリプチン(Sitagliptin)、サクサグリプチン(Saxagliptin)であってもよく、より具体的には、シタグリプチンであってもよいが、これらに
限定されない。
【0034】
本発明において、前記GLP-1分解抑制剤はGLP-1の分解を抑制することにより、GLP-1の濃度を維持し、結果的にGLP-1またはエクセンディン-4と同様の筋萎縮
症または筋減少症の治療効果を有することができる。
【0035】
本発明者らはシタグリプチンによりデキサメタゾンが処理されたマウスでの体重、筋肉重量、及び握力の増加、ミオスタチンの発現減少及びMyoD発現増大効果が示すことを確認して、前記シタグリプチンが筋萎縮症または筋減少症に治療効果を示すことを確認した(
図6~
図9)。
【0036】
本発明の用語、「筋萎縮症(muscle atrophy)」とは、四肢の筋肉がほとんど左右対称的にますます萎縮していく疾患の通称を意味するが、がん、老化、腎臓疾患、遺伝性疾患、様々な慢性疾患の誘発時に伴うことがあり、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、脊髄性進行性筋萎縮症などに代表される。
【0037】
本発明の用語、「筋減少症(sarcopenia)」とは、筋肉の密度と機能が徐々に弱化され
ることを意味し、その原因としては、脊髄神経や間脳の運動神経細胞または筋肉細胞の進行性変性及び破壊が知られており、特に老化による筋肉減少を老化性筋減少症(age-related sarcopenia)という。
【0038】
筋減少症の進行を鈍化させる方法としては、主に筋減少症の一種である筋萎縮症を抑制する方法が使用されている。本発明者らもデキサメタゾンによる筋萎縮症マウスモデルにおけるエクセンディン-4、GLP-1(32‐36)アミド及びシタグリプチンの体重、筋肉量、及び握力の増加、ミオスタチンの発現減少及びMyoDの発現増大などを確認して筋萎縮症の治療効果だけでなく、筋減少症の治療効果を確認した。
【0039】
本発明において、前記筋萎縮症または筋減少症はグルカゴン様ペプチド-1、GLP-1断片、GLP-1分泌増加促進剤、GLP-1分解抑制剤、GLP-1受容体亢進剤、また
はエクセンディン-4を用いて治療することができるが、それらの治療効果は、がん、老
化、腎臓疾患などの様々な原因によって発病される筋減少症だけでなく、筋萎縮症にも同様に適用することができる。
【0040】
本発明の一実施例によると、動物モデルとしてデキサメタゾンによって筋減少症または筋萎縮症が誘発されたマウスと、前記疾患が誘発されたマウスにビークル(PBS)またはエクセンディン-4をそれぞれ処理し、これを用いてエクセンディン-4が前記マウスモデルに及ぼす効果を検証した結果、エクセンディン-4を前記マウスに処理した場合、減
少した体重が回復し(
図1)、減少した骨格筋の重量が回復され(
図2)、減少した握力が回復して(
図3)、デキサメタゾンによって増加した筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)は発現レベルが減少する一
方で、筋肉タンパク質を生成する遺伝子(MyoD及びMyogenin)の発現レベルは増加する(
図4)ことを確認した。
したがって、前記エクセンディン-4に大別されるグルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤は、筋萎縮症または筋減少症の治療用薬学組成物の有効成分として用いられることが分かった。
【0041】
前記本発明の組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含む炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物の形態で製造してもよい。具体的には、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用してもよい。本発明で前記薬学的組成物に含んでもよい担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油を挙げることができる。製剤化する場合は、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれており、これらの固形製剤は前記抽出物とその分画物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な
賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィンの他にさまざまな賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤
、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用されて
もよい。
【0042】
本発明の薬学組成物に含まれた前記グルカゴン様ペプチド-1受容体亢進剤の含量は、
特に限定されないが、一例として、最終組成物の総重量を基準とし0.0001~10重量%、他の例として、0.01~3重量%の含量で含まれてもよい。
【0043】
前記本発明の薬学組成物は薬剤学的に有効な量で投与されてもよいが、本発明の用語、「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療または予防に適用可能な合理的な恩恵/リスク
比で疾患を治療または予防するのに十分な量を意味し、有効容量の水準は疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路、及び排出割合、治療期間、使用された本発明の組成物と配合または同時使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られている要素に応じて決定してもよい。本発明の薬学組成物は、単独で投してもよく、公知の筋減少症の治療用製剤と併用して投与してもよい。前記要素をすべて考慮して副作用なく最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要である。
【0044】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の重症度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、または有効成分として使用される物質の種類などを考慮して、当業者が決定することができる。例えば、本発明の薬学組成物は、成人1人当たり約0.1ng~約100mg/kg、好ましくは1ng~約10mg/kgで投与してもよく、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに制限されないが、1日1回投与するか、または容量を分割して数回投与してもよい。前記投与量は、どのような面であれ、本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
本発明は、他の一つの様態として、前記薬学組成物を薬剤学的に有効な量で筋減少症または筋萎縮症が発症した人間を除いた個体に投与する段階を含む筋減少症または筋萎縮症の治療方法を提供する。
本発明の用語、「個体」とは、筋減少症または筋萎縮症が発症する可能性があるか、または発症したマウス、家畜、人間などを含む哺乳動物、養殖魚類などを制限なく含むことができる。
【0046】
本発明の筋萎縮症または筋減少症の治療用薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達することができる限り、いかなる一般的な経路を介して投与してもよい。本発明の薬学組成物は、特にこれに限定されないが、目的に応じて腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などの経路を通じて投与してもよい。ただし、経口投与時には、胃酸によって前記グルカゴン様ペプチド-1受
容体亢進剤が変性することができるため、経口用組成物は活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化されるべきである。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動することがある任意の装置によって投与してもよい。
【0047】
本発明は、他の一つの様態として筋萎縮症または筋減少症の予防または治療用医薬の製造において、前記薬学的組成物の用途を提供する。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるもので
はない。
【0049】
実施例1:筋萎縮症が誘発された動物の体重に及ぼすエクセンディン-4(Exendin-4)の効果
筋萎縮症は慢性疾患(慢性腎不全症、慢性心不全症、慢性閉塞性疾患など)により誘発され、デキサメタゾン(Dexamethasone)のような薬物を高投与量で投与する場合に誘発
されると知られていて、デキサメタゾンを動物モデル(C57BL/6J雄性マウス)に
処理して筋減少症モデルを作成し、筋減少症が起きたときエクセンディン-4の影響につ
いて検証しようとした。
【0050】
具体的には、デキサメタゾンまたはエクセンディン-4を投与しない対照群マウス、デ
キサメタゾン(200mg/kg)を8日間腹腔内に注射して筋萎縮症が誘発されたマウ
ス、エクセンディン-4(100ng/マウス)を12日間腹腔内に注射した比較群マウス及びデキサメタゾン(200mg/kg)を8日間腹腔内に注射した後、再びエクセンデ
ィン-4(100ng/マウス)を12日間腹腔内に注射して筋萎縮症が治療されたマウスを、それぞれ設定し、これらの各マウスを20日間飼育して体重の変化を測定した(
図1)。
【0051】
図1は、対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症治療されたマウスを20日間飼育しながら測定した体重の変化を示すグラフである。
図1で示したように、11日が経過した時点からデキサメタゾンを単独で処理したマウスに比べて、デキサメタゾンとエクセンディン-4を併用処理したマウスの体重が増加することを確
認した。
【0052】
したがって、エクセンディン-4は筋萎縮症が誘発されたマウスの症状を改善させる効
果を示すことが分かった。
【0053】
実施例2:筋萎縮症が誘発された動物の筋肉重量に及ぼすエクセンディン-4の効果
前記実施例1で設定した対照群マウス(control)、デキサメタゾンを処理して筋萎縮
症が誘発されたマウス、エクセンディン-4を処理した比較群マウス及びデキサメタゾン
処理後にエクセンディン-4を処理して筋萎縮症が治療されたマウスを犠牲にして、これ
らの各マウス骨格筋の総重量を測定し、前記骨格筋を構成する方形筋(Quadratus muscle)、腓腹筋(Gastrocnemus muscle)、前脛骨筋(Tibialis anterior muscle)、足底筋
(Soleus muscle)及び長指伸筋(Extensor digitorum longus muscle)を部位別に分離
し、これらそれぞれの重量を比較した(
図2)。
【0054】
図2は、対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスで得られた各骨格筋の重量を比較した結果を示すグラフである。
図2で示したように、すべての種類の骨格筋から筋萎縮症が誘発されたマウスは対照群及び比較群よりも筋肉の重量が減少したが、筋萎縮症が治療されたマウスは対照群または比較群と同様の水準で、筋肉の重量が増加することを確認した。
【0055】
実施例3:筋萎縮症が誘発された動物の握力に及ぼすエクセンディン-4の効果
前記実施例1で設定した対照群マウス(control)、デキサメタゾンを処理して筋萎縮
症が誘発されたマウス、エクセンディン-4を処理した比較群マウス及びデキサメタゾン
処理後にエクセンディン-4を処理して筋萎縮症が治療されたマウスを対象に、握力を測
定して、筋肉の機能が回復されたかどうかを確認しようとした(
図3)。このとき、握力計(Grip strength machine)を使用して、マウスのすべての足を載せて、同じ力で引い
たときに測定される力を握力とみなした。
【0056】
図3は、対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症が治療されたマウスで測定された握力を比較した結果を示すグラフである。
図3で示したように、筋萎縮症が誘発されたマウスは最も低いレベルの握力を示したのに対し、筋萎縮症が治療されたマウスは対照群及び比較群マウスの握力よりやや低いレベルであるが、筋萎縮症が誘発されたマウスより著しく高いレベルの握力を示すことを確認した。
【0057】
実施例4:筋萎縮症が誘発された動物における筋肉タンパク質の生成及び破壊関連遺伝子の発現レベルに及ぼすエクセンディン-4の効果
筋萎縮症が発病すると、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)の発現が増加し、筋肉タンパク質を生成する遺伝子(M
yoD及びMyogenin)の発現が減少されると知られているため、これを確認しようとした。すなわち、前記実施例1で設定した対照群マウス(control)、デキサメタゾ
ンを処理して筋萎縮症が誘発されたマウス、エクセンディン-4を処理した比較群マウス
及びデキサメタゾン処理後にエクセンディン-4を処理して筋萎縮症が治療されたマウス
から摘出された筋肉組織で総RNAを収得し、それからcDNAを合成し、PCR法を用いて前記合成されたcDNAから前記各遺伝子を増幅させてそれらの発現レベルの変化を比較した(
図4 )。
【0058】
図4は、対照群マウス、比較群マウス、筋萎縮症が誘発されたマウス及び筋萎縮症g治療されたマウスの筋肉で筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)及び筋肉タンパク質を生成する遺伝子(MyoD及びMy
ogenin)の発現レベルを比較した結果を示すグラフである。
図4で示したように、筋萎縮症が誘発されたマウスの筋肉組織では、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)が相対的に最も高いレベルで発現さ
れ、筋肉のタンパク質を生成する遺伝子(MyoD及びMyogenin)が相対的に最も低いレベルで発現されることを確認した。一方、筋萎縮症が治療されたマウスでは、筋肉タンパク質を破壊する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF
1)が比較的低いレベルで発現され、筋肉タンパク質を生成する遺伝子(MyoD及びMyogenin)が相対的に高いレベルで発現されることを確認した。
【0059】
実施例5:細胞レベルにおける筋萎縮症関連遺伝子の発現レベルに及ぼすエクセンディン-4の効果
筋肉芽細胞であるC2Cl2細胞を2%(v/v)ウマ血清が含まれた培地で5日間培
養し、筋細胞に分化させた。前記分化した筋肉細胞に何も処理しない対照群筋肉細胞(control)、1μMのデキサメタゾンを12時間処理して筋萎縮症の症状が誘導された筋肉
細胞、20nMのエクセンディン-4を、6時間処理した比較群の筋肉細胞及び1μMの
デキサメタゾンを12時間処理した後、再び20nMのエクセンディン-4を、6時間処
理して筋萎縮症の症状が治療された実験群の筋肉細胞をそれぞれ作製し、前記作製された各筋肉細胞を対象に、筋萎縮症と関連する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)の発現レベルを比較した(
図5)。
【0060】
図5は、対照群の筋肉細胞、筋萎縮症の症状が誘導された筋肉細胞、比較群の筋肉細胞及び筋萎縮症の症状が治療された筋肉細胞で筋萎縮症と関連する遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)の発現レベルを比較した結果を示すグラフで
ある。
図5で示したように、筋萎縮症の症状が誘導された筋細胞では、前記遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)が相対的に最も高いレベルで発現
されたのに対し、筋萎縮症の症状が治療された筋肉細胞では前記遺伝子(Myostatin、Atrogin-1及びMuRF1)の発現レベルが著しく減少して対照群の筋肉
細胞と同様のレベルを示すことを確認した。
【0061】
前記実施例1~5の結果を総合すると、エクセンディン-4はデキサメタゾンによって
誘発された筋萎縮症または筋減少症を治療、改善または回復させる効果を示すことが分かった。
【0062】
さらに、本発明者らは、前記エクセンディン-4の他にもGLP-1分解抑制剤及びGLP-1断片の筋萎縮症または筋減少症の治療効果を確認しようとした。そこで、動物モデ
ルにおけるGLP-1分解抑制剤の一つと知られているシタグリプチン(sitagliptin)とGLP-1(32‐36)アミドによる体重、筋肉、握力、及び遺伝的変化を確認した。
【0063】
実施例6:筋萎縮症動物モデルの体重及び筋肉に及ぼすシタグリプチン(sitagliptin)
及びGLP-1(32‐36)アミドの効果
本発明者らはデキサメタゾン(Dexamethasone、20mg/kg/i.p.)をC57BL/6J雄マウス(n=10/グループ)に処理して、マウスの筋肉を減少させ、マウスの体重及び筋肉に対するシタグリプチン(300mg/kg/経口胃管栄養法)及びGLP-1(32‐36)アミド(5μg/kg/i.p.)の影響を確認した。
【0064】
その結果、デキサメタゾンによって減少された体重(
図6)と筋肉量(
図7)がシタグリプチンまたはGLP-1(32‐36)アミドによって増加されたことを確認した。
【0065】
実施例7:筋萎縮症の動物モデルの体重及び筋肉に及ぼすシタグリプチン(sitagliptin
)及びGLP-1(32‐36)アミドの効果
本発明者らは、前記の実施例6を通じてシタグリプチンにより体重及び筋肉量が増加したことを確認しており、これに、前記増加された体重及び筋肉量のために実際の筋肉の機能が強化されたかどうかを確認しようと、マウスの握力増加の有無を一緒に調査した。
【0066】
具体的には、握力測定機器(Grip strength machine)を使用して前記実施例6のマウ
スのすべての足を載せて、同じ力で引いたときのマウスの握力を確認した。
【0067】
その結果、デキサメタゾンによって減少された握力がシタグリプチン及びGLP-1(
32‐36)アミドによって再び増加されたことを確認した(
図8)。
【0068】
実施例8:筋萎縮症の動物モデルの体重及び筋肉に及ぼすシタグリプチン(sitagliptin
)及びGLP-1(32‐36)アミドの効果
前述したように、筋萎縮症は筋肉を構成するタンパク質を破壊する遺伝子の発現増加や、前記タンパク質を生成する遺伝子の発現抑制により発病する。
【0069】
したがって、本発明者らはシタグリプチン及びGLP-1(32‐36)アミドによる
筋萎縮症の要因因子であるミオスタチン(Myostatin)の発現変化と筋肉発生因子であるMyoDの発現の変化を確認した。
【0070】
その結果、ミオスタチンの発現は、デキサメタゾンによって増加してからシタグリプチンとGLP-1(32‐36)アミドによって減少するのに対し、MyoDの発現は、デ
キサメタゾンによって減少してからシタグリプチンとGLP-1 (32-36)アミドに
よって再び増加することを確認した(
図9)。
【0071】
前記実施例6~8の結果から、本発明者らはGLP-1だけでなく、GLP-1の分解抑制剤であるシタグリプチンやGLP-1断片であるGLP-1(32‐36)アミドも筋減少症または筋萎縮症に対する治療効果を有することを確認した。
【0072】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は本発明がその技術的思想や必須の
特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連して、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものとして理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明より後述する特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【配列表】