(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】2種の抗体構築物を発現するAAVを含む組成物およびこの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20230217BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230217BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230217BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230217BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230217BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K35/76
A61K39/395 M
A61K48/00
C12N15/13 ZNA
C07K16/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021085558
(22)【出願日】2021-05-20
(62)【分割の表示】P 2020089627の分割
【原出願日】2015-05-13
【審査請求日】2021-05-20
(32)【優先日】2014-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジエームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】トレテイアコバ,アナ
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-523971(JP,A)
【文献】特表2006-515503(JP,A)
【文献】特表2012-515540(JP,A)
【文献】国際公開第2004/065611(WO,A1)
【文献】特表2008-506389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0232133(US,A1)
【文献】特表2009-532025(JP,A)
【文献】米国特許第06780639(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと、細胞中で2種の異なる機能的単一特異性抗体及び二重特異性抗体を発現する、前記AAVカプシド中にパッケージングされた異種核酸配列とを有する、組み換えAAVであって、ここで、第1のモノクローナル抗体が第1の特異性を有
する第1の機能的単一特異性抗体であり、第2のモノクローナル抗体が前記第1のモノクローナル抗体とは異なる
第2の特異性を有
する第2の機能的単一特異性抗体であり、および前記二重特異性抗体が前記第1及び第2のモノクローナル抗体の特異性を有し、
前記組み換えAAVは、
5’AAV逆位末端反復(ITR)と、
第1の特異性を有する第1の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸配列を含む第1の発現カセットと、
前記第1の免疫グロブリン重鎖とは異なる特異性
である第2の特異性を有する第2の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸、リンカー、および免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸配列を含んでな
る、第2の発現カセットと、
3’AAV ITRとを含んでなり、
ここで、前記第1の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸配列、前記第2の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸配列、前記リンカー、および前記免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸配列のそれぞれが、前記第1の免疫グロブリン重鎖及び前記第2の免疫グロブリン重鎖及び前記免疫グロブリン軽鎖の発現を指示する調節配列に作動可能に連結されており、
ただし
前記第1の単一特異性抗体は
前記第1の免疫グロブリン重鎖と
前記免疫グロブリン軽鎖を含み、
前記第2の単一特異性抗体は
前記第2の免疫グロブリン重鎖と
前記免疫グロブリン軽鎖を含み、
前記二重特異性抗体は
前記第1の免疫グロブリン重鎖、
前記第2の免疫グロブリン重鎖および
前記免疫グロブリン軽鎖を含む、
組み換えAAV。
【請求項2】
前記第1及び第2の発現カセットの間に双方向性エンハンサーが位置し、前記双方向性エンハンサーが共有エンハンサーである、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項3】
前記リンカーが、IRESリンカーまたはF2Aリンカーから選択される、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項4】
前記第1の発現カセット及び/又は前記第2の発現カセットが2シストロン性である、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項5】
前記第1の発現カセットが、最小CMVプロモーターである最小プロモーターを含む、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項6】
前記第2の発現カセットが、最小CMVプロモーターである最小プロモーターを含む、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項7】
前記第1の発現カセットが、短縮または合成ポリAを含む、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項8】
前記第2の発現カセットが、
短縮チミジンキナー
ゼポリAである
、短縮
または合成ポリAを含む、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項9】
前記異種核酸配列が、
5'AAV逆位末端反復(ITR
)、合成ポリA、前記第1の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸配列、IL-2リーダー配列をコードする核酸配列、CMV最小プロモーター、共有双方向性CMVエンハンサー、最小CMVプロモーター、IL-2リーダー配列をコードする核酸配列、前記免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸配列、フリン切断部位をコードする核酸配列、2Aリンカー、IL-2リーダー配列をコードする核酸配列、前記第2の免疫グロブリン重鎖をコードする核酸配列
、チミジンキナーゼ短縮ポリA配列
および3'AAV ITRを含む、請求項1に記載の組み換えAAV。
【請求項10】
前記第1の免疫グロブリン重鎖が、第1の免疫グロブリン重鎖可変領域、並びに第1免疫グロブリン定常CH-1及びCH2-3領域を含み、ここで前記第2の免疫グロブリン重鎖が、前記第1の免疫グロブリン重鎖可変領域とは異なる第2の免疫グロブリン重鎖可変領域、並びに前記第1の免疫グロブリン定常CH-1及びCH2-3領域と相補的である第2の重鎖定常CH-1及びCH2-3領域を含む、請求項9に記載の組み換えAAV。
【請求項11】
第1のモノクローナル抗体が第1の特異性を有
する第1の単一特異性抗体であり、第2のモノクローナル抗体が前記第1のモノクローナル抗体とは異なる第2の特異性を有
する第2の単一特異性抗体である、2種の異なる単一特異性抗体と、二重特異性抗体とを、
それを必要とする対象の細胞中で発現する
ための医薬組成物であって、請求項1~10のいずれかに記載の組み換えAAV
を含む、
医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の組み換えAAVと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
2種の機能的単一特異性抗体及び機能的二重特異性抗体を対象に発現する方法における使用のための組成物であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の組み換えAAVを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的形態で提出された資料の参照による援用
本出願人は、本明細書と共に電子的形態で出願された配列表資料を参照により援用する。このファイルを「14-7032PCT_Seq Listing_ST25.txt」と標識する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、がんおよびその他の疾患に有効な治療法であることが証明されている。現在の抗体治療は反復投与および長期にわたる処置レジメンを含むことが多く、これらは、一貫性のない血清レベルおよび投与当たりの有効性の持続時間の制限等の多く欠点を伴い、その結果、頻繁な再投与が必要であり高コストである。近年、診断ツールおよび治療モダリティとしての抗体の使用が増大していることが分かっている。がんの処置用に最初にFDAに認可されたモノクローナル抗体Rituxan(登録商標)(リツキシマブ)は、非ホジキンリンパ腫を有する患者の処置用に1997年に認可され、その直後の1995年にHerceptin(登録商標)(転移性乳がんを有する患者の処置用のヒト化モノクローナル抗体)が認可された。臨床開発の様々な段階である多くの抗体に基づく治療が有望さを示している。様々なモノクローナル抗体治療の成功から、次世代の生物製剤が抗体のカクテル(即ち混合物)を含むであろうことが示唆されている。
【0003】
抗体技法の幅広い臨床的応用の1つの限界は、治療効果には概して大量の抗体が必要であり、生成に関連するコストが著しいことである。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、SP20骨髄腫細胞およびNSO2骨髄腫細胞は、抗体等のグリコシル化ヒトタンパク質を商業的規模で生成するために最も一般に使用されている哺乳類細胞株である。哺乳類細胞株による生成から得られる収率は概して、バッチ発酵槽中での5~7日の培養の場合に50~250mg/Lの範囲であり、流加発酵槽中での7~12日では300~1000mg/Lの範囲である。
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、このアデノ随伴ウイルス(AAV)の安全性プロファイルおよびin vivoでの長期にわたる遺伝子発現の能力に起因して、治療用遺伝子の送達に望ましいベクターである。in vivoで一本鎖抗体および完全長抗体を発現するために、組み換えAAVベクター(rAAV)が既に使用されている。AAVの制限されているトランス遺伝子パッケージング能力に起因して、完全長抗体を生成するために単一のAAVベクターを使用して抗体の重鎖および軽鎖を発現するための厳密に調節されたシステムを得るには技術的課題がある
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当分野では、治療で使用するために単一の組成物で2種の抗体を送達することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、細胞中で2種の機能的抗体を発現する異種核酸がパッケージングされているアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドを有する組み換えAAVが提供される。一実施形態では、この組み換えAAVは、免疫グロブリン軽鎖をコードするORF、第1の免疫グロブリン重鎖をコードする第2のORF、および第2の重鎖をコードする第3のORFを含み、発現される機能的抗体構築物は、特異性が異なる2種の異なる重鎖を有し、これらの重鎖は軽鎖を共有する。一実施形態では、特異性が異なる2種の抗体は、2種の単
一特異性抗体の特異性を有する第3の二重特異性抗体と共発現される。
【0007】
一実施形態では、このrAAVは、5’AAV逆位末端反復(ITR)と、第1の発現カセットの発現を指示する調節制御配列の制御下にある、第1の免疫グロブリン用の第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を少なくともコードする第1の発現カセットと、第2の発現カセットの発現を指示する調節制御配列の制御下にある、第2のORF、リンカーおよび第3のORFを含む第2の発現カセットであって、第2のORFおよび第3のORFが第2の免疫グロブリン構築物および第3の免疫グロブリン構築物をコードする、第2の発現カセットと、3’AAV ITRとを含む。
【0008】
少なくとも2種の機能的抗体構築物を発現する組み換えAAVと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。一実施形態では、少なくとも2種の機能的抗体は異なる特異性を有する。任意選択で、二重特異性抗体も共発現される。
【0009】
異なる特異性を有する少なくとも2種の機能的抗体を含む組成物が提供され、各抗体は同じ軽鎖および異なる重鎖を有する。一方のまたは両方の抗体に関して、軽鎖は重鎖とは異なる供給源に由来する。一実施形態では、2種の機能的単一特異性抗体および二重機能的抗体が発現されている。一実施形態では、抗体の比率は約25:約50:約25(ホモ二量体性:二重特異性:ホモ二量体性)である。
【0010】
2種の機能的抗体を対象に送達する方法であって、組み換えAAVを対象に投与することを含む方法が提供される。
【0011】
本発明の更にその他の態様および利点は、本発明の下記の詳細な説明から容易に明らかであるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】第1の重鎖および第2の重鎖ならびに軽鎖(第1の重鎖および第2の重鎖が由来する抗体の内の一方または両方に対して異種の抗体由来であることができる)を含む2種の単一特異性抗体構築物と、第3の二重特異性抗体とを発現するベクターの代表的な配置を漫画で示す図である。この配置では、双方向性であるならびに第1の発現カセットおよび第2の発現カセットを分離する共有エンハンサーが利用される。3種のオープンリーディングフレーム(ORF)が示されている。Lはリンカーを意味する。pA1は第1のポリAを意味しており、pA2は第2のポリAを意味している。MP1は第1の最小プロモーターを意味しており、MP2は第2の最小プロモーターを意味している。各発現カセットに関して、ポリAおよびMPは同じでもよいし異なっていてもよい。
【
図1B】第1の重鎖および第2の重鎖ならびに軽鎖(第1の重鎖および第2の重鎖が由来する抗体の内の一方または両方に対して異種の抗体由来であることができる)を含む2種の抗体構築物と、第3の二重特異性抗体とを発現するベクターの別の代表的な配置を漫画で示す図である。この配置では共有ポリAが利用される。E1は第1のエンハンサーを意味しており、E2は第2のエンハンサーを意味している。これらのエンハンサーは、各発現カセットに関して同じエンハンサーでもよいし異なるエンハンサーでもよい。同様に、MP1およびMP2は同じでもよいし異なっていてもよい。
【
図2】AAVカプシド中へのパッケージング用のプラスミドにより保持され、抗TSG 101重鎖、FI6インフルエンザ重鎖およびFI6軽鎖の共発現に使用される核酸分子を示す図である。この抗体鎖では、インターロイキン2(IL2)由来の異種リーダーが利用される。ヒトCMVエンハンサーをCMVプロモーターと共に使用した。2シストロン性発現カセットは、フリン認識部位と、FI6 VL領域およびFI6 CL領域を含むORFを、FI6重鎖を含むORFから分離する2Aリンカー配列とを含む。右側の発現カセット用のポリAは短縮チミジンキナーゼポリAである。左側の発現カセット用のポリAは合成ポリA配列である。
【
図3】本明細書に記載したように調製した組み換えAAV8からC05抗体と共発現されたFI6v3k2抗体の結合能力を示すグラフである。この結果から、FI6に特徴的な完全長HAおよびHA基部への予測された結合、ならびにC05に特徴的なHAおよびHA頭部のみ(基部なし)への予測された結合が実証される。
【
図4A-B】本明細書に記載したように調製した組み換えAAV8から1A6抗体(抗TSG 101)と共発現されたFI6v3k2抗体の結合能力を示すグラフである。
図4Aは、プロテインAへの結合により、混合物中の全モノクローナル抗体が捕捉されることを示す棒グラフである(陰性コントロールを左側の棒で表し、抗体混合物を右側の棒で表す)。
図4Bは、TSG101ペプチドへの結合により、1A6重鎖を含むMAB(上側の線)のみが捕捉されることを示すグラフである。これらのデータから、FI6v3k2と共発現された場合、1A6抗体は、重鎖が由来する抗体の結合特異性を保持したことが実証される。
【
図5】1×10
11のゲノムコピー(GC)または1×10
10のGCの用量にて、第2の抗体と共にAAVベクターから共発現されたFI6を投与したマウスにおける全身発現レベルを示すグラフである。
【
図6A-B】1×10
11のGCで筋肉内注射(IM)により送達されたAAV9.BiD.FI6v3_CR8033mAbの、インフルエンザ株PR8によるチャレンジに対する保護に関する評価を示すグラフである。
図6Aは、体重の変化率を示す線グラフである。円形は、合成されたFI6v3モノクローナル抗体およびCR8033モノクローナル抗体(同じ異種軽鎖を有する)を発現する双方向プロモーターを有するAAV9構築物を表す。四角形は陽性コントロール(即ち、同様に1×10
11のGCで送達された単一の抗体型FI6を発現するAAV9)を表し、三角形は未処理動物を表す。
図6Bはチャレンジ後の生存を示す。
【
図7A-B】1×10
11のGCで筋肉内注射(IM)により送達されたAAV9.BiD.FI6v3_CR8033mAbの、インフルエンザ株B/Lee/40によるチャレンジに対する保護に関する評価を示すグラフである。
図7Aは、体重の変化率を示す線グラフである。円形は、合成されたFI6モノクローナル抗体およびCR8033モノクローナル抗体(同じ異種軽鎖を有する)を発現する双方向プロモーターを有するAAV9構築物を表す。四角形は陽性コントロール(即ち、同様に1×10
11のGCで送達された単一の抗体型CR8033を発現するAAV9)を表し、三角形は未処理動物を表す。
図7Bはチャレンジ後の生存を示す。
【
図8A】数日にわたるマウスの体重で表される、FI6v3モノクローナル抗体およびTCNモノクローナル抗体の両方を発現するAAVの投与後のマウスモデルでの保護を示すチャートである。上方の線(ひし形)は25マイクログラム(μg/mL)の用量を表し、下方の線は0.4μg/mLを表す。
【
図8B】数日にわたるマウスの体重で表される、FI6v3モノクローナル抗体およびIA6モノクローナル抗体の両方を発現するAAVの投与後のマウスモデルでの保護を示すチャートである。上方の線(ひし形)は263.2マイクログラム(μg/mL)の用量を表し、下方の線は36.5μg/mLを表す。
【
図8C】数日にわたるマウスの体重で表される、FI6v3モノクローナル抗体およびCR8033モノクローナル抗体の両方を発現するAAVの投与後のマウスモデルでの保護を示すチャートである。上方の線(ひし形)は126.3マイクログラム(μg/mL)の用量を表し、下方の線は6.9μg/mLを表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で提供されるのは、細胞中で発現される場合に特異性が異なる(即ち、異なる抗原(またはリガンド)を認識する)2種の機能的抗体を形成する2種の異なる重鎖および単一の軽鎖を共発現することにより少なくとも2種の機能的抗体を送達するベクターである。第3の機能的抗体も発現させることができ、この第3の機能的抗体は二重特異性で
あり、2種の単一特異性抗体それぞれの重鎖を有する。典型的には、第3の抗体は、2種の単一特異性抗体と比べて低レベルで発現される。少なくとも2種の抗体を利用し得る組成物を効率的に生成するためにベクターをin vivoで使用することができる、または2種の異なる重鎖および単一種の軽鎖のための発現カセットを含むように抗体産生宿主細胞を操作することができる。そのため、本発明はまた、2種の単一特異性抗体の混合物であって、各抗体が異なる特異性を有するが同じ軽鎖を含む、混合物と、二重特異性である第3の抗体とを発現する宿主細胞を包含する。望ましい一実施形態では、このベクターは、このベクターが投与される対象中で3種の異なる抗体構築物を送達するように設計されている。
【0014】
一実施形態では、このベクターは、AAVカプシド内にパッケージングされた、2種の異なる重鎖および単一の軽鎖をコードする配列を含む核酸分子を有する組み換えAAVであり、この核酸分子は、共発現された場合に、2種の機能的単一特異性抗体(即ち第1の重鎖および軽鎖を有する第1の抗体ならびに第2の重鎖および軽鎖を有する第2抗体)と、二重特異性抗体を作るために各重鎖の内の一方および同じ軽鎖を有する第3の抗体とを形成する。
【0015】
「機能的抗体」は、所望の生理学的結果をもたらすのに十分な結合親和性で、選択された標的(例えば、がん細胞上のまたは病原体(例えばウイルス、細菌もしくは寄生虫)上の抗原)に結合する抗体または免疫グロブリンであることができ、この生理学的効果は、保護的(例えば受動免疫化)または治療的であることができる。
【0016】
本明細書で提供されるAAVベクターは、最大で10種の免疫グロブリンドメイン用の1種、2種または3種のオープンリーディングフレーム(ORF)を含むことができる。本明細書で使用する場合「免疫グロブリンドメイン」は、従来の完全長抗体に関して定義されるような抗体の重鎖または軽鎖のドメインを意味する。より具体的には、完全長抗体は、4種のドメイン:1種のN末端可変(VH)領域ならびに3種のC末端定常(CH1、CH2およびCH3)領域を含む重(H)鎖ポリペプチドと、2種のドメイン:1種のN末端可変(VL)領域および1種のC末端定常(CL)領域を含む軽(L)鎖ポリペプチドとを含む。Fc領域は2種のドメイン(CH2-CH3)を含む。Fab領域は、各重鎖および各軽鎖に関して1種の定常ドメインおよび1種の可変ドメインを含むことができる。
【0017】
本明細書に記載のAAVベクターでは、2種の完全長重鎖ポリペプチド(それぞれ4種のドメイン)および軽鎖ポリペプチド(2種のドメイン)が発現され得る。望ましい一実施形態では、2種の重鎖ポリペプチドは異なる特異性を有する(即ち、異なる標的を対象とする)。そのため、このベクターは、抗体の混合物の発現に単独でまたは組み合わせで有用である。
【0018】
本明細書で使用する場合、「異なる特異性」は、言及される免疫グロブリン構築物(例えば、完全長抗体、重鎖、または特定の標的に結合可能なその他の構築物)が異なる標的部位に結合することを示す。好適には、2重に発現された抗体構築物では、2種の特異性は重複せず、および/または干渉せず、任意選択で互いを増強することができる。本明細書に記載の2種の抗体(免疫グロブリン)構築物は、同じ病原体または標的部位(例えばウイルスタンパク質もしくは腫瘍)上の異なる標的部位に結合することにより、異なる特異性を付与する。そのような異なる標的抗原は、同じウイルス型の異なる株(例えば、2種の異なるインフルエンザ株)または2種の異なる抗原(例えば、抗ウイルスおよび抗がん、2種の異なる抗がん構築物等)であることができる。例えば、第1の重鎖ポリペプチドは、軽鎖と組み合わさって第1の特異性を有する抗体構築物を形成することができ、第2の重鎖ポリペプチドは、軽鎖と組み合わさって第2の特異性を有する第2の抗体構築物
を形成することができ、第1の重鎖および第2の重鎖は、軽鎖と組み合わさって二重特異性抗体を形成することができる。これらの抗体は、単一の標的上の異なる抗原部位(エピトープ)(例えば、選択されたウイルス病原体、細菌病原体、真菌病原体もしくは寄生虫病原体上の異なる抗原部位)または異なる標的を任意選択で対象とすることができる。例えば、2種の抗体由来の重鎖はインフルエンザウイルスを対象とすることができ、共発現されて2種の単一特異性抗体を形成することができ(例えば、インフルエンザウイルスFI6、CR8033およびCO5由来の重鎖を選択することができ)、選択された軽鎖と共に発現されて二重特異性抗体を形成することができる。適切なインフルエンザ抗体およびその他の抗空中病原体抗体構築物の例ならびにそれらを送達する方法が、例えば国際公開第2012/145572A1号パンフレットに記載されている。これらの抗体はまた、慢性ウイルス感染、がんに関連するウイルス感染、もしくは様々な抗腫瘍性細胞表面タンパク質またはその他の標的等の様々な標的を対象とすることもできる(例えば抗ウイルス抗体であることもできる)。適切なウイルス標的の例として、インフルエンザ血球凝集素(hemaglutinin)タンパク質またはその他のウイルスタンパク質、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、Epstein-Barrウイルス、ヒトヘルペスウイルス、呼吸器合抱体ウイルス等が挙げられる。そのため、本発明は、抗体の組み合わせが望ましい治療および受動的予防での使用に特に適している。
【0019】
用語「免疫グロブリン」は本明細書において、抗体およびこの機能的断片を含むように使用される。抗体は様々な形態で存在することができ、この形態として、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ラクダ化(camelized)単一ドメイン抗体、細胞内抗体(intracellular antibody)(「細胞内抗体(intrabody)」)、組み換え抗体、多重特異性抗体(二重特異性)、抗体断片、例えば、Fv、Fab、F(ab)2、F(ab)3、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、一本鎖可変断片抗体(scFv)、タンデム/ビス-scFv、Fc、pFc’、s
cFvFc(またはscFv-Fc)、ジスルフィドFv(dsFv)、二重特異性抗体(bc-scFv)、例えばBiTe抗体;ラクダ科抗体、再表面化抗体(resurfaced antibody)、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、単一ドメイン抗体(sdAb、NANOBODY(登録商標)としても既知である)、キメラ抗体、少なくとも1種のヒト定常領域を含むキメラ抗体等が挙げられる。「抗体断片」は、標的(例えば腫瘍細胞)に結合する免疫グロブリンの可変領域の少なくとも一部を意味する。一実施形態では、免疫グロブリンはIgGである。しかしながら、その他のタイプの免疫グロブリンを選択することができる。別の実施形態では、選択されるIgGサブタイプはIgG1である。しかしながら、その他のアイソタイプを選択することもできる。更に、IgG1アロタイプの内のいずれかを選択することができる。
【0020】
用語「異種」は、タンパク質または核酸に関して使用される場合、このタンパク質または核酸が、天然では互いに同様に関連付けられて発見されない2種以上の配列または部分配列を含むことを示す。例として、核酸は典型的には組み換えにより生成され、新規の機能的核酸を作るように配置された無関係の遺伝子由来の2種以上の配列を有する。例えば、一実施形態では、この核酸は、別の遺伝子由来のコード配列の発現を指示するように配置された、ある遺伝子由来のプロモーターを有する。そのため、コード配列に対して、このプロモーターは異種である。用語「異種軽鎖」とは、重鎖の標的特異性とは異なる標的特異性を有する抗体由来の可変ドメインおよび/または定常ドメインを含む軽鎖のことである。
【0021】
ベクター内にパッケージングされた核酸分子により保持された2種以上のORFは2種の発現カセットから発現され得、これらの発現カセットの内の一方または両方は2シストロン性であることができる。これらの発現カセットは2種の異なる抗体由来の重鎖を含む
ことから、2種の重鎖配列の間に配列変異を導入して相同組み換えの可能性を最小化することが望ましい。典型的には、2種の抗体の可変ドメイン(VH-Ab1およびVH-Ab2)の間には十分な変異が存在する。しかしながら、第1の抗体(Ab1)の定常領域および第2の抗体(Ab2)の定常領域の間に十分なコード配列変異が確実に存在することが望ましく、CH1領域、CH2領域およびCH3領域それぞれに確実に存在することが最も好ましい。例えば、一実施形態では、第1の抗体の重鎖定常領域は、配列番号1のnt1~705の配列(配列番号2のアミノ酸1~233をコードする)、または、いかなるアミノ酸変更を導入することなく、この配列と約95%~約99%同一である配列を有することができる。一実施形態では、これらの領域の配列の変異は同義語コドンの形態で導入される(即ち、核酸配列の変異が、アミノ酸レベルで全く変更されることなく導入される)。例えば、第2の重鎖は、CH1、CH2および/またはCH3に関して少なくとも15%、少なくとも約25%、少なくとも約35%相違する(即ち、約65%~約85%同一である)定常領域を有することができる。
【0022】
標的および免疫グロブリンを選択すると、選択された免疫グロブリン(例えば重鎖および/または軽鎖)のコード配列を得ることができる、および/または合成することができる。核酸(例えばRNAおよびDNA)の配列決定方法は当業者に既知である。核酸の配列が分かるとアミノ酸を推定することができ、続いて、アミノ酸配列を核酸コード配列に逆翻訳するウェブベースのコンピュータプログラムおよび市販のコンピュータプログラムならびにサービスを基本とする企業が存在する。例えばEMBOSSによるbacktranseq、http://www.ebi.ac.uk/Tools/st/;Gene Infinity(http://www.geneinfinity.org/sms/sms_backtranslation.html);ExPasy(http://www.expasy.org/tools/)を参照されたい。一実施形態では、RNAおよび/またはcDNAのコード配列は、ヒト細胞中で最適に発現するように設計されている。核酸を合成する方法は当業者に既知であり、本明細書に記載の核酸構築物の全てまたは一部に利用することができる。
【0023】
コドン最適化コード領域を、種々の異なる方法により設計することができる。この最適化を、オンラインで利用可能である方法(例えばGeneArt)、公開された方法、またはコドン最適化サービスを提供する企業(例えばDNA2.0(カリフォルニア州、メンローパーク(Menlo Park,CA))を使用して実施することができる。一例のコドン最適化アルゴリズムが、例えば米国特許出願第WO2015/012924号明細書に記載されており、この明細書は参照により本明細書に援用される。例えば米国特許出願公開第2014/0032186号明細書および米国特許出願公開第2006/0136184号明細書も参照されたい。好適には、生成物用のオープンリーディングフレーム(ORF)の全長が改変されている。しかしながら、一部の実施形態では、ORFの断片のみを変更することができる。これらの方法の内の1つを使用して、任意の所与のポリペプチド配列に頻度を適用することができる、およびポリペプチドをコードするコドン最適化コード領域の核酸断片を生成することができる。
【0024】
多くのオプションが、コドンに対して実際の変更を実施するために利用可能である、または本明細書に記載したように設計されたコドン最適化コード領域を合成するために利用可能である。そのような改変または合成を、当業者に公知の標準的なおよび定常的な分子生物学的操作を使用して実施することができる。一例のアプローチでは、それぞれ80~90ヌクレオチドの長さおよび所望の配列の長さに及ぶ一連の相補オリゴヌクレオチド対を、標準的な方法により合成する。これらのオリゴヌクレオチド対を、アニール時に、付着末端を含む80~90の塩基対の二本鎖断片を形成するように合成し、例えば、この対内の各オリゴヌクレオチドを、この対内のその他のオリゴヌクレオチドに対して相補的である領域を超えて3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個またはより多くの
塩基だけ伸びるように合成する。各対のオリゴヌクレオチドの一本鎖末端は、別の対のオリゴヌクレオチドの一本鎖末端とアニールするように設計されている。オリゴヌクレオチド対をアニール可能にし、次いで、約5~6個のこれらの二本鎖断片を、付着一本鎖末端を介して互いにアニール可能にし、次いで、互いにライゲートさせ、標準的な細菌クローニングベクター(例えば、Invitrogen Corporation,Carlsbad,CAから入手可能なTOPO(登録商標)ベクター)にクローニングする。次いで、この構築物を標準的な方法により配列決定する。互いにライゲートした80~90塩基対断片の5~6個の断片(即ち、約500塩基対の断片)からなるいくつかのこれらの構築物が調製され、その結果、所望の配列全体が一連のプラスミド構築物中に示される。次いで、これらのプラスミドの挿入断片を適切な制限酵素で切断し、互いにライゲートさせて最終構築物を形成する。次いで、最終構築物を標準的な細菌クローニングベクターにクローニングし、配列決定する。追加の方法は当業者にすぐに明らかであるだろう。更に、遺伝子合成を容易に商業利用可能である。
【0025】
任意選択で、2種の抗体重鎖間の配列多様性を増加させるためにおよび/または別の目的のために、アミノ酸置換を重鎖定常領域に導入することができる。そのようなアラインメントを作成するための方法およびコンピュータプログラムが利用可能であり、当業者に公知である。置換を、(単一文字コードで識別されるアミノ酸)-位置番号-(単一文字コードで識別されるアミン酸)(1番目のアミノ酸は置換されるアミノ酸であり、2番目のアミノ酸は、明示された位置で置換するアミノ酸である)として表すこともできる。用語「置換」および「アミノ酸の置換」および「アミノ酸置換」は本明細書で使用する場合、アミノ酸配列中のアミノ酸の別のアミノ酸(この別のアミノ酸は、置き換えられるアミノ酸とは異なる)による置き換えを意味する。アミノ酸を置き換える方法は当業者に公知であり、この方法として、アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の変異が挙げられるがこれに限定されない。IgG中でアミノ酸置換を行う方法は、例えば国際公開第2013/046704号パンフレットに記載されており、このパンフレットは、アミノ酸改変技法の議論に関して参照により援用される。
【0026】
用語「アミノ酸置換」および上記に記載のこの用語の同義語は、あるアミノ酸を別の置換するアミノ酸で置き換えることによるアミノ酸配列の改変を包含するように意図されている。この置換は保存的置換であることができる。用語保存的は、2種のアミノ酸への言及では、これらのアミノ酸が、当業者により認識される共通の性質の共有することを意味するように意図されている。用語非保存的は、2種のアミノ酸への言及では、これらのアミノ酸が、当業者により認識される少なくとも1つの性質で差異を有することを意味するように意図されている。例えば、そのような性質として、疎水性の非酸性側鎖を有するアミノ酸、疎水性側鎖を有するアミノ酸(酸性または非酸性に更に区別され得る)、脂肪族の疎水性側鎖を有するアミノ酸、芳香族の疎水性側鎖を有するアミノ酸、極性の中性側鎖を有するアミノ酸、帯電した側鎖を有するアミノ酸、帯電した酸性側鎖を有するアミノ酸、ならびに帯電した塩基性側鎖を有するアミノ酸を挙げることができる。天然に存在するアミノ酸および天然には存在しないアミノ酸の両方が当分野で既知であり、実施形態での置換用アミノ酸として使用され得る。そのため、保存的アミノ酸置換として、疎水性側鎖を有する最初のアミノ酸を、疎水性側鎖を有する別のアミノ酸で変更することを挙げることができ、非保存的アミノ酸置換として、酸性の疎水性側鎖を有する最初のアミノ酸を、異なる側鎖(例えば、塩基性の疎水性側鎖または親水性側鎖)を有する別のアミノ酸で変更することを挙げることができる。当業者は、更にその他の保存的変更または非保存的変更を決定することができる。更にその他の実施形態では、所与の位置での置換は、あるアミノ酸に対してであることができ、または一群のアミノ酸の内の1つに対してであることができ、このことは、本明細書で特定される目的を達成するために当業者に明らかであるだろう。
【0027】
選択された免疫グロブリンドメインを発現させるために、選択された哺乳類種(例えばヒト)中での免疫グロブリンポリペプチドの最適な発現のために選択されているコドンを含む核酸分子を設計することができる。更に、核酸分子は、選択された抗体の重鎖および軽鎖それぞれのための異種リーダー配列を含むことができ、この異種リーダー配列は、可変領域および定常領域で構成されている重ポリペプチドおよび軽ポリペプチの上流に融合した、野生型IL-2シグナルリーダーペプチドまたは変異型IL-2シグナルリーダーペプチドをコードする。しかしながら、IL-2シグナルペプチドの内の一方また両方を別の異種リーダー配列で置換することもできる。シグナル/リーダーペプチドは、重鎖免疫グロブリン構築物および軽鎖免疫グロブリン構築物それぞれに関して同じであることができる、または異なることができる。これらのペプチドは、免疫グロブリン(例えばIgG)中で天然に見出されるシグナル配列であることができる、または異種供給源由来であることができる。そのような異種供給源は、サイトカイン(例えば、IL-2、IL12、IL18等)、インスリン、アルブミン、β-グルクロニダーゼ、アルカリプロテアーゼまたはフィブロネクチン分泌シグナルペプチド等であることができる。
【0028】
本明細書で使用する場合「発現カセット」は、少なくとも第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、任意選択で第2のORFを含む核酸配列を意味する。ORFは、2種、3種または4種の抗体ドメインを含むことができる。例えば、ORFは完全長重鎖を含むことができる。あるいは、ORFは1種または2種の抗体ドメインを含むことができる。例えば、ORFは、重鎖可変ドメインおよび単一の重鎖定常ドメインを含むことができる。別の例では、ORFは、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含むことができる。そのため、発現カセットを2シストロン性であるように設計することができる(即ち、ORFの発現を指示する調節配列を、共有される調節配列から含むように設計することができる)。この場合、2種のORFは典型的にはリンカーで分離されている。適切なリンカー、例えば内部リボザイム結合部位(internal ribozyme binding site)(IRES)および/またはフリン-2a自己切断ペプチドリンカー(F2a)[例えばRadcliffe and Mitrophanous,Gene Therapy(2004),11,1673-1674を参照されたい]が当分野で既知である。好適には、ORFは、標的細胞中で発現を指示する調節制御配列に作動可能に連結されている。そのような調節制御配列は、ポリA、プロモーターおよびエンハンサーを含むことができる。AAVベクターからの共発現を促進するために、エンハンサー配列および/またはポリA配列の内の少なくとも一方を、第1の発現カセットおよび第2の発現カセットが共有することができる。
【0029】
一実施形態では、rAAVは、選択されたAAVカプシド内にパッケージングされた、5’ITRと、第1の発現カセットと、双方向エンハンサーと、第2の発現カセットであって、双方向エンハンサーが第1の発現カセットおよび第2の発現カセットを分離している、第2の発現カセットと、3’ITRとを含む核酸分子を有する。
図1Aは、この実施形態の例として本明細書で提供される。例えば、そのような実施形態では、第1の発現カセット用の第1のプロモーターが双方向エンハンサーの左側に位置しており、続いて、少なくとも第1のオープンリーディングフレームおよびポリA配列および第2のプロモーターが位置している。更に、第2の発現カセット用の第2のプロモーターが双方向エンハンサーの右側に位置しており、続いて、少なくとも第2のオープンリーディングフレームおよびポリAが位置している。第1のプロモーターおよび第2のプロモーターならびに第1のポリA配列および第2のポリA配列は同じでもよいし異なっていてもよい。スペースを節約するために、最小プロモーターおよび/または最小ポリAを選択することができる。典型的には、この実施形態では、各プロモーターはエンハンサー配列に(左側または右側(即ち5’または3’)のいずれかで)隣接して位置しており、ポリA配列はITRに隣接して位置しており、これらの間のORFが存在する。
図1Aは例証であり、ORFの順序を変更することができ、同様に、これらのORFによりコードされる免疫グロブリンド
メインを変更することができる。例えば、軽鎖の定常配列および可変配列はエンハンサーの左側に位置することができ、2種の重鎖を、エンハンサーに右側に位置するORFでコードすることができる。あるいは、重鎖の内の一方はエンハンサーの左側に位置することができ、エンハンサーの右側のORFが別の重鎖および軽鎖をコードする。あるいは、逆の配置も可能であり、エンハンサーの左側の発現カセットが2シストロン性であることができる。あるいは、コードされるドメインが何かに応じて、両方の発現カセットは1シストロン性であることができる(例えば2種のイムノアドヘシンをコードすることができる)、または両方とも2シストロン性であることができる(例えば2種の完全FABをコードすることができる)。
【0030】
別の実施形態では、rAAVは、選択されたAAVカプシド内にパッケージングされた、5’ITRと、第1の発現カセットと、双方向で機能するポリAと、第2の発現カセットであって、双方向ポリAが第1の発現カセットおよび第2の発現カセットの両方を分離しているおよびこれらに機能する、第2の発現カセットと、3’ITRとを含む核酸分子を有する。
図1Bは、この実施形態の例として本明細書で提供される。この実施形態では、第1のエンハンサーおよび第1のプロモーター(即ちエンハンサー/プロモーターの組み合わせ)が5’ITRの右側に位置しており、続いて、ORFおよび双方向ポリAが位置している。第2の発現カセットは双方向ポリAにより第1の発現カセットから分離されており、逆方向で転写される。この発現カセットでは、エンハンサーおよびプロモーター(即ちプロモーター/エンハンサーの組み合わせ)が3’ITRに隣接して位置しており、ORFが双方向ポリAに隣接している。
図1Bは例証であり、ORFの順序を変更することができ、同様に、これらのORFによりコードされる免疫グロブリンドメインを変更することができる。例えば、軽鎖の定常配列および可変配列はポリAの左側に位置することができ、2種の重鎖を、ポリAに右側に位置するORFでコードすることができる。あるいは、重鎖の内の一方はポリAの左側に位置することができ、ポリAの右側のORFが別の重鎖および軽鎖をコードする。あるいは、逆の配置も可能であり、ポリAの左側の発現カセットが2シストロン性であることができる。あるいは、コードされるドメインが何かに応じて、両方の発現カセットは1シストロン性であることができる(例えば2種のイムノアドヘシンをコードすることができる)、または両方とも2シストロン性であることができる。
【0031】
任意選択で、
図1Aおよび
図1Bに例示したならびに本明細書に記載した発現構成を使用して、その他の免疫グロブリン構築物を共発現することができる。例えば、2種のイムノアドヘシン(IA)を2種の1シストロン性発現カセットから発現させることができる。イムノアドヘシンは、Fcドメイン(CH2-CH3)に融合した一本鎖可変断片(scFv)単位(即ち、VLに連結されたVHまたはVHに連結されたVL)(例えばVH-VL-CH2-CH3またはVL-VH-CH2-CH3)を含む単一のオープンリーディングフレームとして発現されている抗体の形態を含む。あるいは、最大で4種のscFvが2種の2シストロン性発現カセットから発現される可能性がある。別の代替では、IAを完全長抗体と共発現させることができる。別の代替では、1種の完全FABSを完全長抗体と共発現させることができる、または2種の完全FABを共発現させることができる。更に別の実施形態では、完全長抗体、IAまたはFAB断片のその他の組み合わせを共発現させることができる。
【0032】
適切な調節制御配列を選択することができ、様々な供給源から得ることができる。一実施形態では、最小プロモーターおよび/または最小ポリAを利用してサイズを節約することができる。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「最小プロモーター」は、調節エレメントが発現の制御用に付加されている、TATAボックスと転写開始の部位を特定するのに役立つその他の
配列とで構成されている短DNA配列を意味する。一実施形態では、プロモーターは、コード配列または機能的RNAの発現の制御が可能である調節エレメントを有する最小プロモーターを含むヌクレオチド配列を意味する。このタイプのプロモーター配列は、近位の上流エレメントおよびより遠位の上流エレメントからなり、より遠位の上流エレメントはエンハンサーと称されることが多い。一実施形態では、最小プロモーターはサイトメガロウイルス(CMV)最小プロモーターである。別の実施形態では、最小プロモーターは、hCMV前初期プロモーター由来の最小プロモーター等のヒトCMV(hCMV)に由来する(米国特許出願第20140127749号明細書ならびにGossenおよびBujard(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:5547-5551)を参照されたい。これらは参照により本明細書に援用される)。別の実施形態では、最小プロモーターはウイルス源に由来し、例えば、SV40の初期プロモーターもしくは後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーターもしくはラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター;または真核細胞プロモーター、例えばベータアクチンプロモーター(Ng,Nuc.Acid Res.17:601-615,1989;Quitsche et al.,J.Biol.Chem.264:9539-9545,1989)、GADPHプロモーター(Alexander,M.C.et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85:5092-5096,1988,Ercolani,L.et al.,J.Biol.Chem.263:15335-15341,1988)、TK-1(チミジンキナーゼ)プロモーター、HSP(熱ショックタンパク質)プロモーター、UbBプロモーターもしくはUbCプロモーター、PGK、Ef1-アルファプロモーター、もしくはTATAボックスを含むあらゆる真核プロモーター(米国特許出願公開第2014/0094392号明細書)に由来する。別の実施形態では、最小プロモーターとして、米国特許出願公開第2014/0065666号明細書に記載のCLDN5ミニプロモーター等のミニプロモーターが挙げられる。別の実施形態では、最小プロモーターはチミジンキナーゼ(TK)プロモーターである。一実施形態では、最小プロモーターは組織特異的であり、例えば筋細胞特異的プロモーター最小TnISlowプロモーター、最小TnIFastプロモーターまたは筋クレアチンキナーゼプロモーター(米国特許出願公開第2012/0282695号明細書)の内の1つである。これらの文献はそれぞれ参照により本明細書に援用される。
【0034】
一実施形態では、ポリアデニル化(ポリ(A))シグナルは最小ポリ(A)シグナル(即ち、効率的なポリアデニル化に必要な最短配列)である。一実施形態では、最小ポリ(A)は、Levitt et al,Genes Dev.,1989 Jul,3(7):1019-25およびXia et al,Nat Biotechnol.2002 Oct;20(10):1006-10.Epub 2002 Sep 16に記載されているもの等の合成ポリ(A)である。別の実施形態では、ポリ(A)はウサギベータ-グロブリンポリ(A)に由来する。一実施形態では、ポリAは双方向で作用する(An et al,2006,PNAS,103(49):18662-18667。一実施形態では、ポリ(A)はSV40初期ポリAシグナル配列に由来する。これらの文献はそれぞれ参照により本明細書に援用される。
【0035】
本明細書に記載したように、一実施形態では、単一のエンハンサー(即ち同じエンハンサー)がプラスミド構築物中で複数の異種遺伝子の転写を調節することができる。本発明での使用に適した様々なエンハンサーが当分野では既知であり、このエンハンサーとして、例えばCMV初期エンハンサー、Hoxc8エンハンサー、nPE1およびnPE2が挙げられる。本明細書で有用な追加のエンハンサーがAndersson et al,Nature,2014 March,507(7493):455-61に記載されており、この文献は参照により本明細書に援用される。更にその他のエンハンサーエレメントとして、例えばアポリポタンパク質エンハンサー、ゼブラフィッシュエンハンサー、GFAPエンハンサーエレメント、および国際公開第2013/1555222号パンフレ
ットに記載されているような組織特異的エンハンサー、ウッドチャック肝炎後転写後調節エレメントを挙げることができる。加えて、またはあるいは、その他の(例えば)ハイブリッドヒトサイトメガロウイルス(HCMV)-前初期(IE)-PDGRプロモーターまたはその他のプロモーター-エンハンサーエレメントを選択することができる。発現を増強するために、その他のエレメントは(プロメガイントロンまたはキメラニワトリグロビン-ヒト免疫グロブリンイントロンのような)イントロンであることができる。本明細書で有用なその他のプロモーターおよびエンハンサーを、http://promoter.cdb.riken.jp/で見出されるMammalian Promoter/Enhancer Databaseで見出すことができる。
【0036】
本明細書に記載の構築物は、その他の発現制御配列または発現調節配列を更に含むことができ、これらの配列として、例えば適切な転写開始配列、終止配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えばスプライシングシグナルおよびポリアデニル化(ポリA)シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を高める配列(即ちKozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を高める配列;ならびに所望される場合には、コード産物の分泌を増強する配列が挙げられる。プロモーターを、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、細胞特異的プロモーター、生理的合図に応答するプロモーター、または調節可能なプロモーター[例えば、国際公開第2011/126868号パンフレットおよび国際公開第2013/049492号パンフレットを参照されたい]の中から選択することができる。
【0037】
これらの制御配列は、免疫グロブリン構築物遺伝子配列に「作動可能に連結されている」。本明細書で使用する場合、用語「作動可能に連結されている」は、目的の遺伝子に隣接している発現制御配列および目的の遺伝子を制御するためにin transでまたは離れて作用する発現制御配列の両方を意味する。
【0038】
抗体ドメインの発現の制御に適した構成的プロモーターの例として、ニワトリβ-アクチン(CB)またはその他の種由来のベータアクチンプロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)の初期プロモーターおよび後期プロモーター、U6プロモーター、メタロチオネインプロモーター、EFlαプロモーター、ユビキチンプロモーター、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)プロモーター(Scharfmann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA
88:4626-4630(1991)、アデノシンデアミナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、ピルビン酸キナーゼプロモーターホスホグリセロールムターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター(Lai et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:10006-10010(1989)、UbB、UbC、モロニー白血病ウイルスおよびその他のレトロウイルスの長末端反復(LTR)、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター、ならびに当業者に既知のその他の構成的プロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。本発明での使用に適した組織特異的プロモーターまたは細胞特異的プロモーターの例として、エンドセリン-I(ET-I)およびFlt-I(これらは内皮細胞に対して特異的である)、FoxJ1(繊毛細胞を標的とする)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
抗体ドメインの発現の制御に適した誘導性プロモーターとして、外因性因子(例えば薬剤)または生理的合図に応答するプロモーターが挙げられる。これらの応答エレメントとして、HIF-IαおよびHIF-Iβに結合する低酸素応答エレメント(HRE)、Mayoら(1982,Cell 29:99-108)、Brinsterら(1982,Nature 296:39-42)およびSearleら(1985,Mol.Cell.Biol.5:1480-1489)により説明されているような金属イオン応答
エレメント、または(Heat Shock Response,ed.Nouer,L.,CRC,Boca Raton,Fla.,ppI67-220,1991で)Nouerらにより説明されているような熱ショック応答エレメントが挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
一実施形態では、オープンリーディングフレームの発現は、ORF(遺伝子)の転写中に厳密な制御を提供する調節可能なプロモーターにより、例えば薬剤により、または薬剤により活性化される転写因子により、または代替実施形態では生理的合図により制御される。使用することができるリガンド依存性転写因子複合体である調節可能なプロモーターの例として、各リガンド(例えば、グルココルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、レチノイド、エクジソンおよびこれらの類似物および模倣物)により活性化される核内受容体スーパーファミリーのメンバー、ならびにテトラサイクリンにより活性化されるrTTAが挙げられるがこれらに限定されない。そのようなシステムの例として、ARGENT(商標)Transcriptional Technology(ARIAD Pharmaceuticals、Cambridge,Mass)が挙げられるがこれに限定されない。そのようなプロモーターシステムの例が例えば国際公開第2012/145572号パンフレットに記載されており、このパンフレットは参照により本明細書に援用される。
【0041】
更にその他のプロモーターとして、例えばヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー/プロモーター、SV40初期エンハンサー/プロモーター、JCポリオーマウイルス(polymovirus)プロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーターまたはグリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)潜伏関連プロモーター(LAP)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)長末端反復(LTR)プロモーター、ニューロン特異的プロモーター(NSE)、血小板由来増殖因子(PDGF)プロモーター、hSYN、メラニン凝集ホルモン(MCH)プロモーター、CBA、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、マトリックスメタロタンパク質プロモーター(MPP)、およびニワトリベータ-アクチンプロモーターを挙げることができる。各発現カセットに関して、プロモーターは同じでもよいし異なっていてもよい。
【0042】
AAVウイルスベクター(例えば組み換え(r)AAV)の生成で使用するために、発現カセットを任意の適切なベクター(例えばプラスミド)上に保持させることができ、このベクターをパッケージング宿主細胞に送達させる。本発明で有用なプラスミドを、原核細胞中での、哺乳類細胞中でのまたは両方中での複製およびパッケージングに適しているように操作することができる。適切なトランスフェクション技法およびパッケージング宿主細胞は当業者に既知である、および/または当業者により容易に設計され得る。
【0043】
ベクターとしての使用に適したAAVを生成する方法および単離する方法は当分野で既知である。一般に、例えばGrieger & Samulski,2005,“Adeno-associated virus as a gene therapy vector:Vector development,production and clinical applications,”Adv.Biochem.Engin/Biotechnol.99:119-145、Buning et al.,2008,“Recent developments in adeno-associated virus vector technology,”J.Gene Med.10:717-733および下記で引用する参考文献を参照されたい。これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。トランス遺伝子のビリオン中へのパッケージングには、ITRが、発現カセットを含む核酸分子と同じ構築物中においてin cisで必要な唯一のAAV成分である。cap遺伝子およびrep遺伝子をin trans
で供給することができる。
【0044】
上記に記載したように、用語「約」は数値を修飾するために使用する場合、別途指定されない限り±10%の変動を意味する。
【0045】
本明細書および特許請求の範囲の全体を通して使用する場合、用語「含む(comprise)」および「含む(contain)」ならびにその他の変化形の中でも「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(contains)」および「含む(containing)」等の変化形は、その他の成分、構成要素、整数、工程等を包含する。用語「からなる(consists of)」または「からなる(consisting of)」は、その他の成分、構成要素、整数、工程等を除外する。
【0046】
2種以上の核酸またはポリペプチド配列との関連における用語「同一」または割合「同一性」は、下記に記載のデフォルトパラメータを有するBLAST配列比較アルゴリズムもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを使用して測定した場合に、または手動によるアラインメントおよび目視検査(例えばNCBIウェブサイト等を参照されたい)により、同じである2種以上の配列もしくは部分配列を意味する、または同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチドが特定の割合である(即ち、比較ウィンドウもしくは指定領域の全体にわたり一致が最大になるように比較して整列させた場合に、特定の領域(例えば、本明細書に記載の改変ORFの内のいずれか1つ)全体にわたる約70%の同一性を有し、好ましくは75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはより高い同一性を有する)2種以上の配列もしくは部分配列を意味する。別の例の場合、Fasta(GCG Version 6.1のプログラム)を使用してポリヌクレオチド配列を比較することができる。Fastaは、アラインメントと、問い合わせの配列および検索配列の間の重複が最高の領域の配列同一性の割合とを提供する。例えば、GCG Version 6.1で提供される場合に、デフォルトパラメータ(ワードサイズ6およびスコアリングマトリックスに関するNOPAM係数(NOPAM factor))を有するFastaを使用して、核酸配列間の配列同一性の割合を決定することができ、参照により本明細書に援用される。一般に、当業者は必要に応じてデフォルト設定を変更することができるが、これらのプログラムはデフォルト設定で使用される。あるいは、当業者は、参照したアルゴリズムおよびプログラムにより提供される同一性またはアラインメントのレベルと少なくとも同程度の同一性またはアラインメントのレベルを提供する別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用することができる。この定義はまた、配列への賛辞も意味する、またはこの定義を配列への賛辞に適用することもできる。この定義はまた、欠失および/または付加を有する配列ならびに置換を有する配列も含む。下記に記載するように、好ましいアルゴリズムはギャップ等を考慮することができる。好ましくは、少なくとも約25個、50個、75個、100個、150個、200個のアミノ酸またはヌクレオチドの長さである領域全体にわたり同一性が存在し、225個、250個、300個、350個、400個、450個、500個のアミノ酸もしくはヌクレオチドの長さである領域全体にわたりまたは完全長のアミノ酸配列もしくは核酸配列の全体にわたり同一性が存在することが多い。
【0047】
典型的には、アミノ酸配列に基づいてアラインメントが作成される場合、このアラインメントは、参照AAV配列に対してそのように特定される挿入および欠失を含み、アミノ酸残基のナンバリングは、アラインメントに提供された参照スケールに基づく。しかしながら、任意の所与のAAV配列は、参照スケールと比べて少ないアミノ酸残基を有する場合がある。本発明では、親配列を論じる場合、用語「同じ位置」または「対応する位置」は、整列させた配列の参照スケールに対して、各配列中における同じ残基番号に位置するアミノ酸を意味する。しかしながら、アラインメントから外される場合、各タンパク質は
、異なる残基番号に位置するこれらのアミノ酸を有することができる。様々な公的にまたは商業的に利用可能な多重配列アラインメントプログラムの内のいずれかを使用してアラインメントが実施される。「Clustal X」プログラム、「MAP」プログラム、「PIMA」プログラム、「MSA」プログラム、「BLOCKMAKER」プログラム、「MEME」プログラムおよび「Match-Box」プログラム等の配列アラインメントプログラムがアミノ酸配列に利用可能である。一般に、当業者は必要に応じてデフォルト設定を変更することができるが、これらのプログラムはいずれもデフォルト設定で使用される。あるいは、当業者は、参照したアルゴリズムおよびプログラムにより提供される同一性またはアラインメントのレベルと少なくとも同程度の同一性またはアラインメントのレベルを提供する別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用することができる。例えばJ.D.Thomson et al,Nucl.Acids.Res.,“A comprehensive comparison of multiple
sequence alignments”,27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0048】
一実施形態では、本明細書に記載の発現カセットを操作して、保持している免疫グロブリン構築物配列をウイルスベクター生成用のパッケージング宿主細胞中に運ぶ遺伝子エレメント(例えばシャトルプラスミド)にする。一実施形態では、トランスフェクション、電気穿孔、リポソーム送達、膜融合技法、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染および原形質融合等の任意の適切な方法により、選択された遺伝子エレメントをAAVパッケージング細胞に送達することができる。安定したAAVパッケージング細胞も作ることができる。あるいは、発現カセットを使用して、AAV以外のウイルスベクターを生成することができる、または、in vitroで抗体の混合物を生成することができる。そのような構築物を作るために使用される方法は核酸操作の当業者に既知であり、この方法として、遺伝子操作、組み換え操作および合成技法が挙げられる。例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,ed.Green and Sambrook,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0049】
AAVベクター
組み換えAAVベクター(AAVウイルス粒子)は、AAVカプシド内にパッケージングされた、5’AAV ITR、本明細書に記載の発現カセットおよび3’AAV ITRを含む核酸分子を含むことができる。本明細書に記載したように、発現カセットは、各発現カセット内のオープンリーディングフレーム用の調節エレメントを含むことができ、核酸分子は、追加の調節エレメントを任意選択で含むことができる。
【0050】
AAVベクターは、完全長AAV5’逆位末端反復(ITR)および完全長3’ITRを含むことができる。D-配列および末端分解部位(terminal resolution site)(trs)が欠失している5’ITRの短縮バージョン(ΔITRと命名される)が説明されている。略語「sc」は自己相補的を意味する。「自己相補的AAV」は、組み換えAAV核酸配列により保持されるコード領域が分子内二本鎖DNAテンプレートを形成するように設計されている構築物を意味する。感染すると、2番目の鎖の細胞媒介性合成を待つことなく、scAAVの2つの相補的な半分が会合して、即時の複製および転写の準備ができている1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成することができる。例えばD M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,Pages 1248-1254を参照されたい。自己相補的AAVが、例えば米国
特許第6,596,535号明細書、米国特許第7,125,717号明細書および米国特許第7,456,683号明細書に記載されており、これらの明細書はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0051】
偽型AAVを生成すべき場合、ITRは、カプシドのAAV源とは異なる供給源から選択される。例えば、選択された細胞受容体、標的組織またはウイルス標的に対して特定の効率を有するAAVカプシドと共に使用するために、AAV2 ITRを選択することができる。一実施形態では、便宜上、および規制当局による承認を速めるために、AAV2由来のITR配列またはこの欠失バージョン(ΔITR)が使用される。しかしながら、その他のAAV源由来のITRを選択することができる。ITRの供給源がAAV2由来であり、AAVカプシドが別のAAV源由来である場合、得られるベクターを偽型と命名することができる。しかしながら、AAV ITRのその他の供給源を利用することができる。
【0052】
様々なAAVカプシドが説明されている。AAVベクターを生成する方法が、例えば国際公開第2003/042397号パンフレット、国際公開第2005/033321号パンフレット、国際公開第2006/110689号パンフレット、米国特許第7588772B2号明細書等の文献および特許文献に広く記載されている。AAVカプシドの供給源を、所望の組織を標的とするAAVから選択することができる。例えば、適切なAAVとして、例えばAAV9[米国特許第7,906,111号明細書、米国特許出願公開第2011-0236353-A1号明細書]、rh10[国際公開第2003/042397号パンフレット]および/またはhu37[例えば米国特許第7,906,111号明細書、米国特許出願公開第2011-0236353-A1号明細書を参照されたい]を挙げることができる。しかしながら、例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、[米国特許第7790449号明細書、米国特許第7282199号明細書]等のその他のAAV。しかしながら、その他の免疫グロブリン構築物およびその他のベクターエレメントであり得る場合には、AAVカプシドおよびその他のウイルスエレメントのその他の供給源を選択することができる。
【0053】
一本鎖AAVウイルスベクターが提供される。対象への送達に適したAAVウイルスベクターを生成する方法および単離する方法は当分野で既知である。例えば、米国特許第7790449号明細書、米国特許第7282199号明細書、国際公開第2003/042397号パンフレット、国際公開第2005/033321号パンフレット、国際公開第2006/110689号パンフレットおよび米国特許第7588772B2号明細書]を参照されたい。ある種のシステムでは、産生細胞株を、ITRで挟まれたトランス遺伝子をコードする構築物とrepおよびcapをコードする構築物とで過渡的にトランスフェクトする。別のシステムでは、repおよびcapを安定的に供給するパッケージング細胞株を、ITRで挟まれたトランス遺伝子をコードする構築物で過渡的にトランスフェクトする。これらのシステムそれぞれでは、ヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスの感染に応じてAAVウイルスが産生され、夾雑ウイルスからのrAAVの分離が必要である。より近年では、AAVの回収にヘルパーウイルスの感染を必要としないシステムが開発されており、このシステムにより、必要なヘルパー機能(即ち、アデノウイルスE1、E2a、VAおよびE4またはヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52およびUL29およびヘルペスウイルスポリメラーゼ)もin transで供給される。このより新規のシステムでは、必要なヘルパー機能をコードする構築物による細胞の過渡的なトランスフェクションにより、ヘルパー機能を供給することができる、またはこの細胞を、ヘルパー機能をコードする遺伝子(この遺伝子の発現は転写レベルまたは転写後レベルで制御され得る)を安定的に含むように操作することができる。更に別のシステムでは、ITRで挟まれたトランス遺伝子およびrep/cap遺伝子が、バキュロウイルスベースのベクターの感染により昆虫細胞中に導入される。これらの産生システムの概説に関
して、例えばZhang et al.,2009,”Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale recombinant adeno-associated virus production,”Human Gene Therapy 20:922-929を概して参照されたい。この文献の内容はその全体が参照により本明細書に援用される。これらのおよびその他のAAV産生システムを作る方法および使用する方法も下記の米国特許に記載されており、これらの特許の内容はその全体が参照により本明細書に援用される:米国特許第5,139,941号明細書、米国特許第5,741,683号明細書、米国特許第6,057,152号明細書、米国特許第6,204,059号明細書、米国特許第6,268,213号明細書、米国特許第6,491,907号明細書、米国特許第6,660,514号明細書、米国特許第6,951,753号明細書、米国特許第7,094,604号明細書、米国特許第7,172,893号明細書、米国特許第7,201,898号明細書、米国特許第7,229,823号明細書および米国特許第7,439,065号明細書。
【0054】
使用およびレジメン
rAAV(好ましくは、生理的に適合する担体中に懸濁されている)を、ヒト患者または非ヒト哺乳類患者に投与することができる。当業者は、導入用ウイルスが導かれる適応症を考慮して、適切な担体を容易に選択することができる。例えば、ある適切な担体として生理食塩水が挙げられ、この生理食塩水は、様々な緩衝溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)と共に製剤化され得る。その他の代表的な担体として、無菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、マルトースおよび水が挙げられる。担体を選択することで本発明は制限されない。任意選択で、本発明の組成物は、rAAVおよび担体に加えて、その他の従来の医薬成分、例えば防腐剤または化学安定剤を含むことができる。
【0055】
例えば受動免疫化のために、このrAAVを使用する方法が、例えば国際公開第2012/145572号パンフレットに記載されている。送達および使用のその他の方法は当業者に明らかであるだろう。例えば、本明細書に記載のレジメンは、本明細書に記載の組み合わせの内の1つまたは複数に加えて、生物学的製剤、小分子薬剤、化学療法剤、免疫エンハンサー、放射線照射、外科手術等の内の1つまたは複数との更なる組み合わせを含むことができる。本明細書に記載の生物学的製剤は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、酵素、核酸分子、ベクター(ウイルスベクターを含む)等をベースとする。
【0056】
併用療法では、本明細書に記載の、AAVにより送達される免疫グロブリン構築物を、別の薬剤による治療の施行の前に、最中にまたは後におよびこれらの任意の組み合わせで(即ち、治療の施行の前におよび最中に、前におよび後に、最中におよび後に、または前に、最中におよび後に)投与する。例えば、放射線治療の施行の1~30日前に、好ましくは3~20日前に、より好ましくは5~12日前に、AAVを投与することができる。本発明の別の実施形態では、AAV媒介性免疫グロブリン(抗体)療法と同時に、またはより好ましくはこの療法の後に、化学療法が投与される。更にその他の実施形態では、本発明の組成物を、その他の生物製剤(例えば、組み換えモノクローナル抗体剤、抗体-薬剤複合体等)と併用することができる。更に、上記で論じたような様々なAAVにより送達される免疫グロブリン構築物の組み合わせを、そのようなレジメンで使用することができる。
【0057】
あらゆる適切な方法または経路を使用して、本明細書に記載したAAV含有組成物を投与することができる、および任意選択で、その他の活性薬剤または療法を本明細書に記載のAAV媒介性抗体と共に同時投与することができる。投与経路として、例えば、全身投与、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与または筋肉内投与が挙げられる。
【0058】
本明細書に記載の免疫グロブリン構築物用の標的を、様々な病原体(例えば、細菌、ウイルス、真菌および寄生性感染病原体等)から選択することができる。適切な標的として、がんまたはがん関連抗原等を更に挙げることができる。更にその他の標的として、関節リウマチ(RA)または多発性硬化症(MS)等の自己免疫状態を挙げることができる。
【0059】
ウイルス標的の例として、オルトミクソウイルス科からのインフルエンザウイルスが挙げられ、このインフルエンザウイルスとして、インフルエンザA、インフルエンザBおよびインフルエンザCが挙げられる。A型ウイルスは、最も病原性が強いヒト病原体である。パンデミックに関連しているインフルエンザAの血清型として、H1N1(1918年にスペイン風邪を引き起こし、2009年にブタインフルエンザを引き起こした)、H2N2(1957年にアジア風邪を引き起こした)、H3N2(1968年にホンコン風邪を引き起こした)、H5N1(2004年に鳥インフルエンザを引き起こした)、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3およびH10N7が挙げられる。
【0060】
インフルエンザAに対する広域中和抗体が説明されている。本明細書で使用する場合、「広域中和抗体」は、複数種の血清型からの複数種の株を中和することができる中和抗体を意味する。例えば、CR6261[The Scripps Institute/Crucell]は、1918年の「スペイン風邪」(SC1918/H1)等の広範囲のインフルエンザウイルスと、2004年にベトナムでニワトリからヒトへと飛び移った鳥インフルエンザのH5N1クラスのウイルス(Viet04/H5)とに結合するモノクローナル抗体として説明されている。CR6261は、インフルエンザウイルスの表面上の主要なタンパク質である赤血球凝集素の膜近位ステム中において高度に保存された螺旋領域を認識する。この抗体は国際公開第2010/130636号パンフレットに記載されており、参照により本明細書に援用される。別の中和抗体F10[XOMA Ltd]が、H1N1およびH5N1に対して有用であると説明されている。[Sui et al,Nature Structural and Molecular Biology(Sui,et al.2009,16(3):265-73)]インフルエンザに対するその他の抗体、例えばFab28およびFab49を選択することができる。例えば国際公開第2010/140114号パンフレットおよび国際公開第2009/115972号パンフレットを参照されたい。これらのパンフレットは参照により援用される。国際公開第2010/010466号パンフレット、米国特許出願公開第2011/076265号明細書および国際公開第2008/156763号パンフレットに記載されているもの等の更にその他の抗体を容易に選択することができる。
【0061】
その他の標的病原性ウイルスとして、アレナウイルス(フニン(funin)、マチュポおよびラッサ等)、フィロウイルス(マールブルグおよびエボラ等)、ハンタウイルス、ピコルナウイルス(picornoviridae)(ライノウイルス、エコーウイルス等)、コロナウイルス、パラミクソウイルス、モルビリウイルス、呼吸器合抱体ウイルス(respiratory synctial virus)、トガウイルス、コクサッキーウイルス、パルボウイルスB19、パラインフルエンザ、アデノウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス科からの痘瘡(大痘瘡(天然痘))およびワクシニア(牛痘)、ならびに水痘帯状疱疹(仮性狂犬病)が挙げられる。
【0062】
ウイルス性出血熱は、アレナウイルス科のメンバー(ラッサ熱)(この科はリンパ性脈絡髄膜炎(LCM)にも関連する)、フィロウイルス(エボラウイルス)およびハンタウイルス(プレマラ(puremala))により引き起こされる。ピコルナウイルス(ライノウイルスの亜科)のメンバーはヒトでの感冒と関連する。コロナウイルス科は、伝染性気管支炎ウイルス(家禽類)、ブタ伝染性ガストロエンテリティスウイルス(ブタ)、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(ブタ)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(ネコ)、猫腸コロナウイルス(ネコ)、イヌコロナウイルス(イヌ)等の多くの非ヒトウイルスを含む。ヒ
ト呼吸器コロナウイルスは、感冒、非A型肝炎、非B型肝炎または非C型肝炎および突発性急性呼吸器症候群(SARS)と推定的に関連している。パラミクソウイルス科は、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス3型、ウシパラインフルエンザウイルス3型、ルブラウイルス(ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス4型、ニューカッスル病ウイルス(ニワトリ)、牛疫、モルビリウイルス(麻疹および犬ジステンパーを含む)、ならびにニューモウイルス(呼吸器合抱体ウイルス(RSV)を含む)を含む。パルボウイルス科は、猫パルボウイルス(猫腸炎)、猫汎血球減少症ウイルス、イヌパルボウイルスおよびブタパルボウイルスを含む。アデノウイルス科は、呼吸器疾患を引き起こすウイルス(EX、Ad7、ARD、O.B.)を含む。
【0063】
細菌性病原体に対する中和抗体構築物を本発明で使用するために選択することもできる。一実施形態では、この中和抗体構築物は細菌自体を対象とする。別の実施形態では、この中和抗体構築物は、細菌により産生された毒素を対象とする。空中細菌性病原体の例として、例えばナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)(髄膜炎)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)(肺炎)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(肺炎)、シュードモナス・シュードマレイ(Pseudomonas pseudomallei)(肺炎)、シュードモナス・マレイ(Pseudomonas mallei)(肺炎)、アシネトバクター(肺炎)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、モラクセラ・ラクナータ(Moraxella lacunata)、アルカリゲネス(Alkaligenes)、カルジオバクテリウム(Cardiobacterium)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)(インフルエンザ)、ヘモフィルス・パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)(百日咳)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)(肺炎/発熱)、レジオネラ・ニューモニエ(Legionella pneumonia)(レジオネラ病)、クラミジア・シタッシ(Chlamydia psittaci)(肺炎)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)(肺炎)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)(結核(TB))、マイコバクテリウム・カンサシ(Mycobacterium kansasii)(TB)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)(肺炎)、ノカルジア・アステロイデス(Nocardia
asteroides)(肺炎)、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)(炭疽)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(肺炎)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(猩紅熱)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)(肺炎)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacteria diphtheria)(ジフテリア)、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)(肺炎)が挙げられる。
【0064】
炭疽の原因因子は、バチルス・アントラシス(Bacillius anthracis)により産生された毒素である。防御因子(PA)(毒素を形成する3種のペプチドの内の1つ)に対する中和抗体が説明されている。その他の2種のポリペプチドは、致死因子(LF)および浮腫因子(EF)からなる。抗PA中和抗体は炭疽に対する受動免疫化で効果的であると説明されている。例えば米国特許第7,442,373号明細書、R.Sawada-Hirai et al,J Immune Based Ther Vaccines.2004;2:5.(2004年5月12日にオンライン)を参照され
たい。更にその他の抗炭疽毒素中和抗体が説明されている、および/または生成され得る。同様に、その他の細菌および/または細菌毒素の対する中和抗体を使用して、本明細書に記載のAAVにより送達される抗病原体構築物を生成することができる。
【0065】
その他の感染性疾患は空中真菌により引き起こされる可能性があり、例えばアスペルギルス(Aspergillus)種、アブシジア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)、リゾプス・ストロニファー(Rhixpus stolonifer)、ムコール・プランベウス(Mucor plumbeaus)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasm capsulatum)、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、ペニシリウム(Penicillium)種、ミクロポリスポラ・フェニ(Micropolyspora faeni)、テルモアクチノミセス・ブルガリス(Thermoactinomyces vulgaris)、アルテルナリア・アルテルネート(Alternaria alternate)、クラドスポリウム(Cladosporium)種、ヘルミントスポリウム(Helminthosporium)およびスタキボトリス(Stachybotrys)種により引き起こされる可能性がある。
【0066】
加えて、受動免疫化を使用して、真菌感染(例えば水虫)、白癬またはウイルス、細菌、寄生虫、真菌および直接的接触により伝染され得るその他の病原体を防ぐことができる。加えて、ペット、ウシおよびその他の家畜ならびにその他の動物に影響を及ぼす様々な条件。例えば、イヌでは、イヌ副鼻腔アスペルギルスによる上気道の感染により、重篤な疾患が引き起こされる。ネコでは、上気道疾患または鼻部で起こるネコ呼吸器病症候群は、処置ないまま放置すると病的状態および大量死を引き起こす。ウシは、ウシ感染性鼻気管炎(一般にIBRまたは赤い鼻と呼ばれており、ウシの急性伝染性ウイルス疾患である)に感染しやすい。加えて、ウシは、軽症から重症の呼吸器系疾患を引き起こし、その他の疾患に対する耐性を弱める可能性があるウシ呼吸器合胞体ウイルス(BRSV)が生じやすい。更にその他の病原体および疾患は当業者に明らかであるだろう。例えば米国特許第5,811,524号明細書(抗呼吸器合胞体ウイルス(RSV)中和抗体の生成が説明されている)を参照されたい。本明細書に記載の技法はその他の病原体に適用可能である。そのような抗体を、インタクトなまたは人工的なもしくは組み換えの中和抗体構築物を生成するために改変されている配列(足場)で使用することができる。そのような方法が説明されている[例えば国際公開第2010/13036号パンフレット、国際公開第2009/115972号パンフレット、国際公開第2010/140114号パンフレットを参照されたい]。
【0067】
本明細書に記載の抗腫瘍性免疫グロブリンは、ヒト上皮増殖因子受容体(HER)(例えばHER2)を標的とすることができる。例えば、トラスツズマブは、ヒト上皮増殖因子受容体タンパク質の細胞外ドメインに対して細胞ベースのアッセイ(Kd=5nM)において高親和性で選択的に結合するヒト化モノクローナル抗体である組み換えIgG1カッパである。市販の製品はCHO細胞培養で産生される。例えばhttp://www.drugbank.ca/drugs/DB00072を参照されたい。このデータベースでは、受託番号DB00072で、トラスツズマブの軽鎖1および軽鎖2ならびに重鎖1および重鎖2のアミノ酸配列、ならびにトラスツズマブのx線構造の研究から得られた配列が提供され、これらの配列は参照により本明細書に援用される。212-Pb-TCMC-トラスツズマブ[Areva Med、メリーランド州、Bethesda]も参照されたい。目的の別の抗体として、例えば、ヒト上皮増殖因子受容体2型タンパク質(HER2)の細胞外二量体化ドメイン(サブドメインII)を標的とする組み換えヒト化モノクローナル抗体であるペルツズマブが挙げられる。ペルツズマブは、それぞれ448
個の残基および214個の残基を有する2本の重鎖および2本の軽鎖からなる。FDAは2012年6月8日に認可した。ペルツズマブの重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は、例えば、www.drugbank.ca/drugs/DB06366のデータベースにて受託番号DB06366で提供される(同義語として2C4、MOAB 2C4、モノクローナル抗体2C4およびrhuMAb-2C4が挙げられる)。HER2に加えて、その他のHER標的を選択することができる。
【0068】
例えば、MM-121/SAR256212は、HER3受容体[Merrimack’s Network Biology]を標的とするならびに非小細胞肺がん(NSCLC)、乳がんおよび卵巣がんの処置で有用であることが報告されている完全ヒトモノクローナル抗体である。SAR256212は、HER3(ErbB3)受容体[Sanofi Oncology]を標的とする、治験中の完全ヒトモノクローナル抗体である。別の抗Her3/EGFR抗体はRG7597[Genentech]であり、頭頸部がんで有用であると説明されている。HER[MacroGenics]を標的とする次世代のFc最適化モノクローナル抗体(mAb)である別の抗体マーゲツキジマブ(margetuximab)(またはMGAH22)も利用することができる。
【0069】
あるいは、その他のヒト上皮細胞表面マーカーおよび/またはその他の腫瘍受容体もしくは抗原を標的とすることができる。その他の細胞表面マーカー標的の例として、例えば、5T4、CA-125、CEA(例えばラベツズマブの標的である)、CD3、CD19、CD20(例えばリツキシマブの標的である)、CD22(例えばエプラツズマブまたはベルツズマブの標的である)、CD30、CD33、CD40、CD44、CD51(またはインテグリンαvβ3)、CD133(例えば膠芽腫細胞)、CTLA-4(例えば、例えば神経芽細胞腫の処置で使用されるイピリムマブ)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)受容体2型(CXCR2)(脳中の様々な領域で発現される);例えば抗CXCR2(細胞外)抗体#ACR-012(Alomene Labs));EpCAM、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)[例えば国際公開第2012020006A2号パンフレットを参照されたい、脳がん]、葉酸受容体アルファ(例えば小児上衣脳腫瘍、頭頸部がん)、線維芽細胞増殖因子受容体1型(FGFR1)(抗FGFR1抗体によるがんの処置の議論に関して例えば国際公開第2012125124A1号パンフレットを参照されたい)、FGFR2(例えば国際公開第2013076186A号パンフレットおよび国際公開第2011143318A2号パンフレットに記載の抗体を参照されたい)、FGFR3(例えば米国特許第8187601号明細書および国際公開第2010111367A1号パンフレットに記載の抗体を参照されたい)、FGFR4(例えば国際公開第2012138975A1号パンフレットに記載の抗FGFR4抗体を参照されたい)、肝細胞増殖因子(HGF)(例えば、国際公開第2010119991A3号パンフレット中の抗体を参照されたい)、インテグリンα5β1、IGF-1受容体、ガングリオシドGD2(例えば国際公開第2011160119A2号パンフレットに記載の抗体を参照されたい)、ガングリオシドGD3、膜貫通糖タンパク質NMB(GPNMB)(グリオーマ等と関連する、および抗体グレムバツムマブ(glembatumumab)(CR011)の標的、ムチン、MUC1、ホスファチジルセリン(例えばバビツキシマブの標的である、Peregrine Pharmaceuticals,Inc]、前立腺癌細胞、PD-L1(例えば、ニボルマブ(BMS-936558、MDX-1106、ONO-4538)、完全ヒトgG4、例えば転移性黒色腫]、血小板由来増殖因子受容体、アルファ(PDGFRα)またはCD140、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG-72)、テネイシンC、腫瘍壊死因子(TNF)受容体(TRAIL-R2)、血管内皮増殖因子(VEGF)-A(例えばベバシズマブの標的である)ならびにVEGFR2(例えばラムシルマブの標的である)が挙げられる。
【0070】
その他の抗体およびこの標的として、例えば、モノクローナル抗体であるAPN301
(hu14.19-IL2)[ニワトリの悪性黒色腫および神経芽細胞腫、Apeiron Biolgics、オーストリア、Vienna]が挙げられる。例えば、転移性脳がん等の固形腫瘍の処置で有用であると説明されているモノクローナル抗体8H9も参照されたい。モノクローナル抗体8H9は、B7H3抗原に対して特異性を有するマウスIgG1抗体である[United Therapeutics Corporation]。このマウス抗体をヒト化することができる。B7-H3および/またはB7-H4抗原を標的とする更にその他の免疫グロブリン構築物を本発明で使用することができる。別の抗体はS58(抗GD2、神経芽細胞腫)である。Cotara(商標)[Perregrince Pharmaceuticals]は、再発性神経膠芽腫の処置用と説明されているモノクローナル抗体である。その他の抗体として、例えばアバスチン、フィクラツズマブ、medi-575およびオララツマブを挙げることができる。更にその他の免疫グロブリン構築物またはモノクローナル抗体を、本発明で使用するために選択することができる。例えばMedicines in Development Biologics,2013 Report,pp.1-87,a publication of
PhRMA’s Communications & Public Affairs
Department.(202)835-3460を参照されたい。この文献は参照により本明細書に援用される。
【0071】
例えば、免疫源を様々なウイルス科から選択することができる。免疫応答が望ましいであろうウイルス科の例として、ピコルナウイルス科(ライノウイルス属を含み、感冒の症例の約50%を占める);ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスおよびA型肝炎ウイルス等のヒトエンテロウイルスを含むエンテロウイルス属;ならびに主に非ヒト動物で口蹄疫の原因であるアフトウイルス属が挙げられる。ピコルナウイルス科のウイルスでは、標的抗原としてVP1、VP2、VP3、VP4およびVPGが挙げられる。別のウイルス科として、カリシウイルス科(Norwalk群のウイルスを包含し、流行性胃腸炎の重要な原因因子である)が挙げられる。ヒトおよび非ヒト動物で免疫応答を誘発するための抗原の標的化での使用に望ましい更に別のウイルス科としてトガウイルス科か挙げられ、このトガウイルス科はアルファウイルス属を含み、このアルファウイルス属は、シンドビスウイルス、ロスリバーウイルスならびにベネズエラ東部および西部のウマ脳炎、ならびに風疹ウイルス等のルビウイルスを含む。フラビウイルス科は、デング熱ウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルスおよびダニ媒介脳炎ウイルスを含む。その他の標的抗原を、C型肝炎またはコロナウイルス科から生成することができ、このコロナウイルス科は、多数の非ヒトウイルス、例えば伝染性気管支炎ウイルス(家禽)、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス(ブタ)、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(ブタ)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(ネコ)、猫腸コロナウイルス(ネコ)、イヌコロナウイルス(イヌ)、ならびにヒト呼吸器コロナウイルス(感冒および/または非A型肝炎、非B型肝炎もしくは非C型肝炎を引き起こす可能性がある)を含む。コロナウイルス科では、標的抗原として、E1(Mもしくはマトリックスタンパク質とも呼ばれる)糖タンパク質、E2(Sもしくはスパイクタンパク質とも呼ばれる)糖タンパク質、E3(HEもしくはヘマグルチン-エルテロースとも呼ばれる)糖タンパク質(全てのコロナウイルスで存在するわけではい)またはN(ヌクレオカプシド)が挙げられる。更にその他の抗原をラブドウイルス科に対する標的にすることができ、このラブドウイルス科は、ベジクロウイルス属(例えば水疱性口内炎ウイルス)およびリッサウイルス属(例えば狂犬病)を含む。
【0072】
ラブドウイルス科では、適切な抗原はGタンパク質またはNタンパク質に由来することができる。フィロウイルス科(マールブルクおよびエボラウイルス等の出血熱ウイルスを含む)は抗原の適切な供給源であることができる。パラミクソウイルス科は、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス3型、ウシパラインフルエンザウイルス3型、ルブラウイルス(ムンプスウイルス)、パラインフルエンザウイルス2型、パ
ラインフルエンザウイルス4型、ニューカッスル病ウイルス(ニワトリ)、牛疫、モルビリウイルス(麻疹および犬ジステンパーを含む)ならびにニューモウイルス(呼吸器合胞体ウイルスを含む)を含む。インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科内に分類され、抗原(例えばHAタンパク質、N1タンパク質)の適切な供給源である。ブニヤウイルス科は、ブニヤウイルス属(カリフォルニア脳炎、La Crosse)、フレボウイルス(リフトバレー熱)、ハンタウイルス(プレマラはヘマハギン熱ウイルスである)、ナイロウイルス(ナイロビヒツジ病)および様々な未割り当てのブニヤウイルス(bungaviruses)を含む。アレナウイルス科は、LCMおよびラッサ熱ウイルスに対する抗原の供給源を提供する。レオウイルス科は、レオウイルス属、ロタウイルス(子供では急性胃腸炎を引き起こす)、オルビウイルスおよびカルチウイルス(cultivirus)(コロラドダニ熱、Lebombo(ヒト)、ウマ脳炎、ブルータング)を含む。
【0073】
レトロウイルス科は、オンコリウイルス亜科(ヒトおよび獣医分野の疾患、例えばネコ白血病ウイルス、HTLVIおよびHTLVIIを包含する)、レンチウイルス(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウマ伝染性貧血ウイルスおよびスプマウイルスを含む)を含む。レンチウイルスでも多くの適切な抗原が説明されており、標的として容易に選択され得る。適切なHIV抗原およびSIV抗原の例として、gagタンパク質、polタンパク質、Vifタンパク質、Vpxタンパク質、VPRタンパク質、Envタンパク質、Tatタンパク質、Nefタンパク質およびRevタンパク質ならびにこれらの様々な断片が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、Envタンパク質の適切な断片として、このEnvタンパク質のサブユニットの内のいずれか、例えばgp120、gp160、gp41、またはこれらのより小さい断片、例えば少なくとも約8個のアミノ酸の長さの断片を挙げることができる。同様に、tatタンパク質の断片を選択することができる。[米国特許第5,891,994号明細書および米国特許第6,193,981号明細書を参照されたい。]また、D.H.Barouch et al,J.Virol.,75(5):2462-2467(March 2001)およびR.R.Amara,et al,Science,292:69-74(6 April 2001)に記載のHIVタンパク質およびSIVタンパク質も参照されたい。別の例では、HIVおよび/またはSIV免疫原性タンパク質またはペプチドを使用して、融合タンパク質またはその他の免疫原性分子を形成することができる。例えば、2001年8月2日に公開された国際公開第01/54719号パンフレットおよび1999年4月8日に公開された国際公開第99/16884号パンフレットに記載のHIV-1 Tatおよび/またはNef融合タンパク質ならびに免疫付与レジメンを参照されたい。本発明は、本明細書に記載のHIVおよび/またはSIV免疫原性タンパク質またはペプチドに限定されない。加えて、これらのタンパク質への様々な改変が説明されている、または当業者により容易に行われ得る。例えば、米国特許第5,972,596号明細書に記載されている改変gagタンパク質を参照されたい。
【0074】
パポーバウイルス科は、ポリオ-マウイルス亜科(BKUウイルスおよびJCUウイルス)ならびにパピローマウイルス亜科(がんまたは乳頭腫の悪性化と関連する)を含む。アデノウイルス科は、呼吸器疾患および/または腸炎を引き起こすウイルス(EX、AD7、ARD、O.B.)を含む。パルボウイルス科、ネコパルボウイルス(ネコ腸炎)、ネコパンロイコペニアウイルス、イヌパルボウイルスおよびブタパルボウイルス。ヘルペスウイルス科は、アルファヘルペスウイルス亜科(シンプレックスウイルス属(HSVI、HSVII)、バリセロウイルス(仮性狂犬病、水痘帯状疱疹)を包含する)、およびベータヘルペスウイルス亜科(サイトメガロウイルス属(HCMV、ムロメガロウイルス)を含む)、およびガンマヘルペスウイルス亜科(リンホクリプトウイルス属、EBV(バーキットリンパ腫)、感染性鼻気管炎、マレック病ウイルスおよびラジノウイルスを含
む)を含む。ポックスウイルス科は、コードポックスウイルス亜科(オルソポックスウイルス属(痘瘡(天然痘)およびワクシニア(牛痘))、パラポックスウイルス、アビポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、スイポックスウイルスを包含する)ならびにエントモポックスウイルス亜科を含む。ヘパドナウイルス科はB型肝炎ウイルスを含む。抗原の適切な供給源であり得るある種の未分類のウイルスはデルタ型肝炎ウイルスである。更にその他のウイルス源として、トリ感染性ファブリキウス嚢病ウイルスならびにブタ呼吸および生殖症候群ウイルスを挙げることができる。アルファウイルス科は、ウマ動脈炎ウイルスおよび様々な脳炎ウイルスを含む。
【0075】
抗体用のその他の病原体標的として、例えば、ヒトおよび非ヒト脊椎動物に感染するまたはがん細胞もしくは腫瘍細胞に由来する細菌、真菌、寄生微生物または多細胞寄生生物を挙げることができる。細菌病原体の例として、肺炎球菌を含む病原性グラム陽性球菌;ブドウ球菌;および連鎖球菌が挙げられる。病原性グラム陰性球菌は髄膜炎菌、淋菌を含む。病原性腸グラム陰性桿菌は、腸内細菌科;シュードモナス、アシネトバクテリアおよびエイケネラ;類鼻疽;サルモネラ;赤痢菌;ヘモフィルス;モラクセラ;H.デュクレイ(H.ducreyi)(軟性下疳を引き起こす);ブルセラ;フランシセラ・ツラレンシス(Franisella tularensis)(野兎病を引き起こす);エルシニア(パスツレラ);ストレプトバシラス・モニリフォルミスおよびスピリルム;リステリア・モノサイトゲネスを含むグラム陽性桿菌;エリジペロスリックス・ルジオパシエ;コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)(ジフテリア);コレラ;B.アントラシス(B.anthracis)(炭疽);ドノヴァン症(鼠径肉芽腫);ならびにバルトネラ症を含む。病原性嫌気性菌により引き起こされる疾患として、破傷風、ボツリヌス中毒、その他のクロストリジウム、結核、ハンセン病およびその他のマイコバクテリアが挙げられる。病原性スピロヘータ疾患として、梅毒;トレポネーマ症;イチゴ腫、ピンタおよび地方病性梅毒;ならびにレプトスピラ症が挙げられる。より高等な病原体細菌および病原体真菌により引き起こされるその他の感染として、放線菌症;ノカルジア症;クリプトコッカス症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症およびコクシジオイデス症;カンジダ症、アスペルギルス症およびムコール症;スポロトリクム症;パラコクシジオイドミコーシス、ペトリエリオジオーシス(petriellidiosis)、トルロプシス症、菌腫および黒色真菌症;ならびに皮膚糸状菌症が挙げられる。リケッチアの感染として、発疹チフス、ロッキー山紅斑熱、Q熱およびリケッチア痘症が挙げられる。マイコプラズマおよびクラミジアの感染の例として、肺炎マイコプラズマ、性病性リンパ肉芽腫症、オウム病および周産期のクラミジア感染が挙げられる。病原性真核生物は病原性原生生物および蠕虫を包含し、これらにより引き起こされる感染として、アメーバ症;マラリア;リーシュマニア症;トリパノソーマ症;トキソプラズマ症;ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii);トリカンス(Trichans);トキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii);バベシア症;ジアルジア症;旋毛虫症;フィラリア症;住血吸虫症;線形動物;吸虫(trematode)または吸虫(fluke);および条虫(サナダムシ)の感染が挙げられる。
【0076】
これらの生物および/またはこれらの生物により産生される毒素の多くが、生物攻撃で使用される可能性がある因子として疾病管理センター[(CDC)、米国、保健福祉省]により同定されている。例えば、これらの生物学的因子の内のいずれかとして、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)(炭疽)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)およびこの毒素(ボツリヌス中毒)、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis)(ペスト)、大痘瘡(天然痘)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)(野兎病)、ならびにウイルス性出血熱[フィロウイルス(例えばエボラ、マールブルク]およびアレナウイルス[例えばラッサ、マチュポ])(これらは全て、現在
はカテゴリーA因子として分類される);コクシエラ・ブルネッティ(Coxiella
burnetti)(Q熱);ブルセラ種(ブルセラ症)、バークホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)(鼻疽)、バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)(類鼻疽)、リシナス・コムニス(Ricinus communis)およびこの毒素(リシン毒素)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)およびこの毒素(エプシロン毒素)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種およびこの毒素(エンテロトキシンB)、クラミジア・シタッシ(Chlamydia psittaci)(オウム病)、水の安全性の脅威(例えばビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)、クリプトスポリジウム・パルバム(Crytosporidium parvum))、発疹チフス(リケッチア・プロワツェキイ(Richettsia powazekii))、ならびにウイルス性脳炎(アルファウイルス、例えばベネズエラウマ脳炎;東部ウマ脳炎;西部ウマ脳炎(これらは全て、現在はカテゴリーB因子として分類される);ならびにニパンウイルスおよびハンタウイルス(これらは現在カテゴリーC因子として分類される)が挙げられる。加えて、その他の生物(これらは同じように分類される、または分類が困難である)を将来、そのような目的で同定することができる、および/または使用することができる。本明細書に記載のウイルスベクターおよびその他の構築物は、これらの生物、ウイルス、これらの毒素またはその他の副生成物に由来する抗原を標的とするのに有用であり、これらのウイルスベクターおよびその他の構築物は、これらの生物学的因子による感染もしくはその他の有害反応を予防することができるおよび/もしくは処置することができることが容易に理解されるだろう。
【0077】
下記の実施例は一例にすぎず、本明細書に記載の本発明を限定しない。
【実施例】
【0078】
実施例1:完全長抗体の共発現カセットを含むベクターの生成
宿主標的細胞へ送達する核酸分子を含むAAVウイルス粒子の生成で使用するために、一連のcisプラスミドを調製した。この核酸分子は、各末端でAAV2 5’ITR配列およびAAV2 3’ITR配列を含み、逆方向の2種の発現カセットで挟まれた共通のCMVエンハンサーを含む(第1の発現カセットは第1の最小CMVプロモーターで制御され、第2の発現カセットは第2の最小CMVプロモーターで制御される)。AAV2
ITRの間に位置する全て配列を、商業ベンダー(GeneArt)に新たに合成させた。免疫グロブリン可変ドメインの全コード配列を、所望の可変ドメインの簡便なシャトルを可能にする特有の制限酵素で挟んだ。異種軽鎖配列(kgl)を有する構築物を作成するために、生殖系列軽鎖(IGKV4-1*01)をコードするコード領域を新たに合
成してFI6可変軽配列の置換に使用した。
【0079】
代表的な抗体共発現シャトルを
図2に示す。このシャトルは、エンハンサーの左側に第1の発現カセットを含み、この第1の発現カセットは右から左へと、CMV最小プロモーター、抗TSG101抗体(1A6)可変重(VH)ドメインに連結された異種IL2リーダー配列、CH’1ドメイン、ヒト中での発現に最適化されているCH’2-3ドメインおよび合成ポリAを含む。エンハンサーの右側には、CMV最小プロモーター、異種IL2リーダー配列、FI6k2(抗インフルエンザ抗体)軽鎖可変ドメインおよび軽鎖定常ドメイン、フリン切断部位、口蹄疫ウイルス由来の2aリンカー、IL2リーダー配列、FI6v3 VH、CH1、CH2-3、ならびにチミジンキナーゼ短ポリA配列が位置している。記号CHは、既知の抗体アロタイプG1m17,1を意味する。
【0080】
FI6定常領域の配列を配列番号1に示す。FI6アミノ酸軽鎖のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0081】
図2のcisプラスミドを、例えば米国特許出願第12/226,558号明細書に既に記載されているような三重トランスフェクション法で使用して、本明細書に記載のその後の試験で使用するAAV8ベクターおよびAAV9ベクターを生成した。得られたプラスミドpN509_ACE Fi6-1A6 MAB_p3160は7722bpの長さであり、この配列を配列番号3に示し、この配列は、この特徴と共に参照により本明細書に援用される。FI6可変軽(VL)鎖のコード化配列[配列番号4]、FI6可変重のコード化配列[配列番号5]、CH1のコード化配列(配列番号6)、CH2-3のコード化配列[配列番号7]も示す。
【0082】
可変ドメインの容易なシャッフルを可能にする、前方に位置する特有の制限部位を使用して、
図2の1A6重可変ドメインの代わりに、季節性インフルエンザ抗体(CR8033)もしくは汎流行性インフルエンザ抗体(C05)のサブクローニングより、または抗M2e抗体(TCN-032)のサブクローニングにより、同様の抗体共発現cisプラスミドを生成した。次に、このcisプラスミドを三重トランスフェクション(例えば、米国特許出願第12/226,588号明細書に記載したように実施した)で使用し、その後の試験用にAAV8ベクターおよびAAV9ベクターを生成した。pN510_ACE Fi6-C05 MABシャトルの配列を配列番号8に示し、可変軽鎖のアミノ酸配列を配列番号9に示し、定常軽を配列番号10に示し、FI6可変重鎖を配列番号11に示し、CH1を配列番号12に示し、CH2-3を配列番号13に示す。
【0083】
pN514_ACE Fi6-C05 MABシャトルの配列を配列番号19に示し、定常軽のアミノ酸配列を配列番号20に示し、FI6可変重鎖を配列番号21に示し、CH1を配列番号22に示し、CH2-3を配列番号23に示す。次に、このシャトルを使用して、その後の試験に使用するAAV8ベクターおよびAAv9ベクターを生成した。
【0084】
実施例2:F16モノクローナル抗体(MAB)およびIA6 MABを共発現するAAV8ベクターから発現された生成物のキャラクタリゼーション
一連のELISAアッセイを実施して、発現レベルをキャラクタライズした、およびHEK 293細胞中へのトランスフェクション後に実施例1に記載したように生成したcisプラスミドに由来するIA6 MABと共発現されたFI6 MABの結合を評価した。ミモトープによるf-Moc化学を使用して、TSG101ペプチドを合成した。全てのインフルエンザ抗原を商業サプライヤImmuneTechnologies,Incから調達した。プロテインAをSigma-Aldrichから購入し、全ヒトIgG1の発現のモニタリングに使用した。組織培養上清中のヒトIgG1の検出を、抗原特異的ELISAまたはプロテインA捕捉ELISAのいずれかで測定した。高結合性ELISAプレートを、PBSで希釈した2μg/ml HAタンパク質もしくはHAペプチドまたは5μg/mlプロテインAでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを5~8回洗浄し、室温で1時間にわたり、1mM EDTA、5%加熱不活性化PBS、PBS中の0.07% Tween20でブロックした。このプレートに、2反復で組織培養上清を様々な希釈度で添加し、1時間にわたり37℃でインキュベートした。プレートを洗浄し、ブロックし、Bio-SP-共役Affinipuresヤギ抗ヒトIgG(Bio-SP-conjugated Affinipures Goat Anti-Human IgG)抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories、米国、ペンシルバニア州、West Grove)を1:10,000の希釈度で添加した。1時間後、プレートを洗浄し、ストレプトアビジン(strepdavidin)共役セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)を1:30,000の希釈度で添加した。1時間後、プレートを洗浄し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を添加した。2N 硫酸を使用して室温で30分後に反応を停止させ、BioTek μQuantプレートリーダー(米国、バーモント州、Win
ooski)を使用して450nmでプレートを読み取った。
【0085】
予想したように、TSG101ペプチド、HA(B/Malaysia/2506/2/004)またはHA(インフルエンザ株A/Brisbane/59/2007の頭部領域のみ)へのFI6の結合は観測されない。完全長HAが存在する場合にはインフルエンザの同じ株に関してFI6の結合が観測され、更にインフルエンザ株HA(dTM)(A/Beijing/01/2009、H1N1)の場合も観測される。予想したように、FI6の結合はプロテインAの場合も観測される。
【0086】
公開されたレポートによれば、先行技術の方法に従って生成されたFI6は、完全長HAおよびHA基部には結合するが頭部のみの領域には結合しない。これらのデータから、共発現されたFI6モノクローナルは、その特徴的な結合プロファイルを保持することが実証される。
【0087】
実施例3:F16モノクローナル抗体(MAB)および汎流行性インフルエンザMAB C05を共発現するAAV8ベクターから発現された生成物のキャラクタリゼーション
2種の異なるモノクローナル抗体の分別検出(differential detection)の可能性を捕捉アッセイで評価した。実施例1に記載したように調製したcisプラスミドから共発現させてHEK293細胞中にトランスフェクトしたモノクローナル抗体FI6およびC05を、結合に関して評価した。FI6は完全長HAおよびHA基部には結合するが頭部のみの領域には結合しないことが予想される。
図3に示す結合試験の結果から、共発現された抗体がそれらの特徴的な結合を保持することが実証される。より具体的には、FI6に特徴的な完全長HAおよびHA基部への結合が観測され、C05に特徴的なHAおよびHA頭部のみ(基部なし)への結合も観測される。実施例2に記載したようにELISAアッセイを実施した。
【0088】
実施例4:F16モノクローナル抗体(MAB)および第2の完全長MABを共発現するAAV8ベクターから発現された生成物のキャラクタリゼーション
6~8週齢の雄のRAG KOマウス(The Jackson Laboratory Bar Harbor、米国、メイン州)を、University of Pennsylvania’s Translational Research Laboratoriesにて病原体フリーの条件下で飼育した。全ての動物の処置およびプロトコルはInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を受けた。マウスを二酸化炭素窒息で屠殺し、頸椎脱臼により死亡を確認した。ベクターを投与するために、腹腔内(IP)注射により、体重1kg当たり70mgのケタミンおよび体重1kg当たり7mgのキシラジンの混合物でマウスを麻酔した。ベクターをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、Hamiltonシリンジを使用してIM注射を実施した。眼窩後出血により血清を毎週採取した。
【0089】
組織培養上清中のヒトIgG1の検出を、プロテインA捕捉ELISAで測定した。高結合性ELISAプレートを、PBSで希釈した5μg/mlプロテインAでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを5~8回洗浄し、1mM EDTA、5%加熱不活性化PBS、PBS中の0.07% Tween20でブロックした。マウス血清サンプルを加熱不活性化し、2反復で様々な希釈度にてプレートに添加し、1時間にわたり37℃でインキュベートした。プレートを洗浄し、ブロックし、Bio-SP-共役Affinipuresヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.、米国、ペンシルバニア州、West
Grove)を1:10,000の希釈度で添加した。1時間後、プレートを洗浄し、1:30,000の希釈度でのストレプトアビジン(strepdavidin)共役セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と共にインキュベートした。1時間後、プレー
トを洗浄し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を添加した。2N
硫酸を使用して室温で30分後に反応を停止させ、BioTek μQuantプレートリーダー(米国、バーモント州、Winooski)を使用して450nmでプレートを読み取った。
【0090】
図5は、FI6をIA6抗体と共発現するAAVベクターを投与したマウスにおける全ヒトIgG1の全身発現レベルを示す。1×10
11のゲノムコピー(GC)または1×10
10のGCの用量でマウスに筋肉内注射した。7日目、15日目、21日目、28日目、34日目、42日目、49日目および56日目に発現レベルを評価し、マイクログラム/mLの濃度で測定した。発現の用量依存的増加を観測した。
【0091】
実施例5:FI6モノクローナル抗体(MAB)および3種の異なる完全長モノクローナル抗体を共発現するAAV8ベクターから発現された生成物のキャラクタリゼーション
下記の表は、完全長のCR8033モノクローナル抗体、C05モノクローナル抗体または1A6モノクローナル抗体と共にFI6を共発現するAAVベクターを投与したマウスにおける発現レベルを示す。上記の実施例に記載したように、1×1011のゲノムコピー(GC)または1×1010のGCの用量でRAGノックアウト(KO)マウスに筋肉内注射した。7日目、15日目、21日目、28日目、34日目、42日目および49日目に発現レベルを毎週評価し、マイクログラム/mLの濃度で測定した。発現された抗体に関して発現の用量依存的増加を観測した。アッセイに使用した捕捉抗原は、上記の実施例に記載したプロテインA ELISAである。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
実施例6:単一のAAV9および/またはAAV8ベクターの筋肉注射から発現された2種の完全長抗体により抗ウイルス効果が付与される
A.AAV9.BiD.FI6_CR8033mAbおよびインフルエンザAによるチャレンジ
BALB/cマウスにAAV9.BiD.FI6_CR8033mAbを筋肉内注射し、1×10
11のGCでの筋肉内注射(IM)により送達した。2週間後、マウスをマウス適合PR8(インフルエンザA)5LD50で鼻腔内チャレンジした。円形は、合成されたFI6モノクローナル抗体およびCR8033モノクローナル抗体(同じ異種軽鎖を有する)を発現する双方向プロモーターを有するAAV9構築物を表す。四角形は陽性コントロール(即ち、同様に1×10
11のGCで送達された単一の抗体型FI6を発現するAAV9)を表し、三角形は未処理動物を表す。
図6Bはチャレンジ後の生存を示す。1匹のマウス当たり1011のGCの用量でのAAV9.BiD.FI6_CR8033mAbの投与により、体重減少の有意な遅延による部分保護が可能になった。
【0096】
B.AAV9.BiD.FI6_CR8033mAbおよびインフルエンザBによるチャレンジ
AAV9ベクター注射の場合:BALB/cの雌のマウスを、PBS中の100mg/kgケタミン/10mg/kgキシラジン混合物の筋肉内注射により麻酔し、AAV9.BiD.FI6_CR8033mAbベクターを、1匹のマウス当たり1×10
11のGCで筋肉内注射(IM)した。BiDベクターを、同様に1×10
11のGCで送達された単一の抗体型CR8033を発現するAAV9および陰性コントロール(未処理動物)と比較した。
図7Bはチャンレジ後の生存を示す。インフルエンザによるチャレンジの場合、
ベクター処理の2週後に、AAV処理したBALB/cマウスおよび未処理マウスを秤量して尾を色分けし、上記に記載したように麻酔し、後肢をプラットフォーム上で支持した状態で背側の切歯で吊し、上記に記載したように総量で50μlのPBS中のB/Lee/40(インフルエンザB)5LD50を鼻腔内投与した。次いで、マウスを毎日秤量し、疾患または苦痛の徴候に関してモニタリングした。苦痛の行動的徴候を示したまたは初期体重から30%減少した動物を、CO2窒息により安楽死させた
【0097】
図7Aは、体重の変化率を示す線グラフである。このデータから、この用量での2種の発現された抗体により完全保護効果が付与されたことが分かる。
図7Bはチャレンジ後の生存を示す。
【0098】
C.IMで投与されたAAV8.FI6-TCN032ベクター、AAV8.FI6-1A6ベクターおよびAAV8.FI6-CR8033ベクターならびにマウス適合PR8インフルエンザAによるチャレンジ。
これらのベクターを実施例1に記載したように作成した。6~8週齢の雄のRAG KOマウス(The Jackson Laboratory Bar Harbor、米国、メイン州)を、University of Pennsylvania’s Translational Research Laboratoriesにて病原体フリーの条件下で飼育した。全ての動物の処置およびプロトコルはInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を受けた。ベクターを投与するために、腹腔内(IP)注射により、体重1kg当たり70mgのケタミンおよび体重1kg当たり7mgのキシラジンの混合物でマウスを麻酔した。ベクターをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、Hamiltonシリンジを使用してIM注射を実施した。眼窩後出血により血清を毎週採取した。
【0099】
組織培養上清中のヒトIgG1の検出を、プロテインA捕捉ELISAで測定した。高結合性ELISAプレートを、PBSで希釈した5μg/mlプロテインAでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを5~8回洗浄し、1mM EDTA、5%加熱不活性化PBS、PBS中の0.07% Tween20でブロックした。マウス血清サンプルを加熱不活性化し、2反復で様々な希釈度にてプレートに添加し、1時間にわたり37℃でインキュベートした。プレートを洗浄し、ブロックし、Bio-SP-共役Affinipuresヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.、米国、ペンシルバニア州、West
Grove)を1:10,000の希釈度で添加した。1時間後、プレートを洗浄し、1:30,000の希釈度でのストレプトアビジン(strepdavidin)共役セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と共にインキュベートした。1時間後、プレートを洗浄し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を添加した。2N
硫酸を使用して室温で30分後に反応を停止させ、BioTek μQuantプレートリーダー(米国、バーモント州、Winooski)を使用して450nmでプレートを読み取った。
【0100】
図8Cを参照すると、全てのパネルで、ベクター投与から56日後に発現レベルを示す。56日目の最後の眼窩出血の数日後、マウスを秤量して尾を色分けし、上記に記載したように麻酔し、後肢をプラットフォーム上で支持した状態で背側の切歯で吊し、上記に記載したように総量で50μlのPBS中のマウス適合PR8(インフルエンザA)5LD
50を鼻腔内投与した。次いで、マウスを毎日秤量し、疾患または苦痛の徴候に関してモニタリングした。苦痛の行動的徴候を示したまたは初期体重から30%減少した動物をCO
2窒息により安楽死させ、頸椎脱臼により死亡を確認した。
図8Aから、わずか25μg
/mlの抗インフルエンザ抗体の全身発現がPR8チャレンジの保護をもたらすのに十分であるが、0.4μg/mlの発現は保護に不十分であることが分かる。
【0101】
D.AAV9.FI6_IA6 mAbsおよびインフルエンザAによるチャレンジ
人工的なFI6および抗HIVイムノアドヘシンIA6を発現するAAV9ベクターを、上記に記載したようなインフルエンザAによるチャレンジに対する保護に関して評価した。
図8Bから、36.5μg/mlの抗インフルエンザ抗体の発現は、PR8によるチャレンジに対する完全な保護をもたらすのに十分であることが分かる。
図8Cから、6.9μg/mlの抗インフルエンザ抗体の発現はPR8によるチャレンジに対する保護に不十分であることが分かる。
【0102】
実施例8-2種のイムノアドヘシン共発現カセットを含むベクターの生成
図2に示すものと類似のシャトルベクターを使用して、2種のイムノアドヘシンを含むベクターを生成する。
【0103】
一実施形態では、FI6イムノアドヘシンおよびC05イムノアドヘシンを含むベクターを作成した。FI6イムノアドヘシン発現カセットおよびCO5イムノアドヘシン発現カセットを保持するプラスミドからの配列を配列番号36に示し、翻訳されたコード化配列を、配列番号37(FI6可変重鎖)、配列番号38(FI6可変軽鎖)および配列番号39(CH2-3)に示す。これらの配列およびこれらの特徴は参照により援用される。
【0104】
別の実施形態では、FI6イムノアドヘシンおよびCR8033イムノアドヘシンを含むベクターを作成した。FI6イムノアドヘシンおよびCR8033イムノアドヘシンを含むプラスミドからの配列を配列番号40に示し、翻訳されたコード化配列を、配列番号41(FI6 VH)および配列番号42(FI6可変軽)に示す。これらの配列およびこれらの特徴は参照により援用される。
【0105】
当業者に既知の技法を使用して、上記に記載のイムノアドヘシンシャトルプラスミドからAAVを生成することができる。
【0106】
追加の例証的なシャトルプラスミドは下記の通りである。
【0107】
両方の重鎖1A6およびFI6v3の供給源とは異種であるカッパ生殖系列軽鎖を含むプラスミドpN512_ACE FI6v3kgl-1A6 MAB_p3184の配列を配列番号14に示す。翻訳されたコード化配列を、配列番号15(定常軽)、配列番号16(FI6可変重)、配列番号17(CH1)および配列番号18(CH2-3)に示す。
【0108】
TCN032の重鎖免疫グロブリンおよび軽鎖免疫グロブリンを保持する中間ベクターの配列を配列番号30に示す。このプラスミドによりコードされる、翻訳されたアミノ酸配列として、配列番号31のTCN032重鎖、配列番号32のCH1配列、配列番号33のFI6 VH鎖、配列番号34のCH1配列、および配列番号35のCH2-3配列が挙げられる。
【0109】
TCN032重鎖およびFI6重鎖を保持し、特異性を有する2種の抗体を共発現するプラスミドの配列を配列番号43に示す。TCN032可変重鎖の翻訳されたアミノ酸は配列番号44であり、CH1は配列番号45であり、ヒンジ-CH2’-CH3’は配列番号46であり、Fi6 VHは配列番号47であり、CH1は配列番号48であり、CH2-3は配列番号49であり、アンピシリン耐性遺伝子は配列番号50である。これらの配列およびこれらの特徴は参照により本明細書に援用される。
【0110】
(配列表フリーテキスト)
下記の情報は、識別番号<223>でフリーテキストを含む配列のために提供される。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
本出願は配列および配列表を含み、この配列表は参照により援用される。本明細書で引用される全ての公報、特許および特許出願、ならびに2014年5月13日に出願された米国仮特許出願第61/992,649号明細書(この優先権が主張されている)は、個々の公報または特許出願が、参照により援用されると具体的におよび個別に示されたかのように、これらの全体が参照により援用される。上記の発明は、理解の明確さを目的とする説明および例示により多少詳しく記載されているが、添付した特許請求の趣旨および範
囲から逸脱することなく、本発明にある特定の変更および改変を行うことができることは、本発明の教示を考慮して当業者には容易に明らかであるだろう。
以下に本発明の主な特徴と態様を列挙する。
1. アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドと、このAAVカプシド中にパッケージングされた、細胞中で少なくとも2種の機能的単一特異性抗体を発現する異種核酸とを有する組み換えAAVであって、
5’AAV逆位末端反復(ITR)と、
第1の発現カセットの発現を指示する調節制御配列の制御下にある、第1の免疫グロブリン用の第1のオープンリーディングフレーム(ORF)を少なくともコードする第1の発現カセットと、
第2の発現カセットの発現を指示する調節制御配列の制御下にある、第2のORF、リンカーおよび第3のORFを含む第2の発現カセットであり、前記第2のORFおよび前記第3のORFが第2の免疫グロブリン構築物用および第3の免疫グロブリン構築物用である、第2の発現カセットと、
3’AAV ITRと
を含む組み換えAAV。
2. 二重特異性抗体を更に発現する1.に記載の組み換えAAV。
3. 前記第1の発現カセットと前記第2の発現カセットとの間に位置している双方向エンハンサーを含む1.に記載の組み換えAAV。
4. 前記第1のORFが免疫グロブリン軽鎖をコードし、前記第2のORFが第1の免疫グロブリン重鎖をコードし、前記第3のORFが第2の重鎖をコードし、前記発現される機能的抗体構築物が、特異性が異なる2種の異なる重鎖を有し、前記重鎖が軽鎖を共有する、1.に記載の組み換えAAV。
5. 前記第2のORFおよび前記第3のORFの少なくとも一方が、改変されたFcコード配列を含む、1.に記載の組み換えAAV。
6. 前記第2のカセット中の前記リンカーが、IRESまたはF2Aから選択されるリンカーを含む、1.に記載の組み換えAAV。
7. 前記第1の発現カセット用の前記調節制御配列および/または前記第2のカセット用の前記調節制御配列が最小プロモーターを含む、1.に記載の組み換えAAV。
8. 前記第1の発現カセット用の前記調節制御配列および/または前記第2の発現カセット用の前記調節制御配列が最小ポリAまたは合成ポリAを含む、1.に記載の組み換えAAV。
9. 前記第1の発現カセットが2シストロン性であり、更なるORFを含む、1.に記載の組み換えAAV。
10. 前記各ORFがscFvを含む、9.に記載の組み換えAAV。
11. ベクターが、前記第1の発現カセットと前記第2の発現カセットとの間に双方向ポリAを含む1.に記載の組み換えAAV。
12. 前記第1の発現カセットがエンハンサーおよび最小プロモーターを含む、10.に記載の組み換えAAV。
13. 前記第2の発現カセットがエンハンサーおよび最小プロモーターを含む、12.に記載の組み換えAAV。
14. 前記第1の発現カセットおよび前記第2の発現カセットが共に2種のFabを発現する、8.に記載の組み換えAAV。
15. 前記少なくとも2種の抗体構築物が異なる特異性を有する、1.に記載の組み換えAAV。
16. 前記少なくとも2種の抗体構築物が、モノクローナル抗体、イムノアドヘシン、Fab、二重機能的抗体およびこれらの組み合わせから独立して選択される、1.に記載の組み換えAAV。
17. 第1の特異性を有する第1のモノクローナル抗体、前記第1のモノクローナル抗
体とは異なる特異性を有する第2のモノクローナル抗体、および二重機能的抗体を発現する1.に記載の組み換えAAV。
18. 1~17.のいずれか一項に記載の組み換えAAVと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
19. 少なくとも2種の機能的抗体を対象に送達する方法であって、1~17.のいずれか一項に記載の組み換えAAVを前記対象に投与することを含む方法。
20. 特異性が異なる2種の機能的抗体を含む組成物であって、前記各抗体が同じ軽鎖および異なる重鎖を有し、前記抗体の一方または両方に関して、前記軽鎖が前記重鎖の供給源に対して異種の供給源に由来する、組成物。
【配列表】