IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ YKK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スライドファスナー 図1
  • 特許-スライドファスナー 図2
  • 特許-スライドファスナー 図3
  • 特許-スライドファスナー 図4
  • 特許-スライドファスナー 図5
  • 特許-スライドファスナー 図6
  • 特許-スライドファスナー 図7
  • 特許-スライドファスナー 図8
  • 特許-スライドファスナー 図9
  • 特許-スライドファスナー 図10
  • 特許-スライドファスナー 図11
  • 特許-スライドファスナー 図12
  • 特許-スライドファスナー 図13
  • 特許-スライドファスナー 図14
  • 特許-スライドファスナー 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】スライドファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/38 20060101AFI20230217BHJP
【FI】
A44B19/38
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021555674
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044412
(87)【国際公開番号】W WO2021095139
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】名嘉 泰史
(72)【発明者】
【氏名】小林 理人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 玲央奈
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/175944(WO,A1)
【文献】特開平4-231003(JP,A)
【文献】国際公開第2015/063927(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/004500(WO,A1)
【文献】実公昭45-7845(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/00-19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ファスナーテープ(11)の側縁部に第1ファスナーエレメント(21)が設けられた第1ファスナーストリンガー(31)と、
第2ファスナーテープ(12)の側縁部に第2ファスナーエレメント(22)が設けられた第2ファスナーストリンガー(32)と、
スライダー胴体(40)と前記スライダー胴体(40)に取り付けられた引手(90)を備えるスライダー(4)にして、前記引手(90)の操作に応じて、前記第1及び第2ファスナーエレメント(21,22)を結合するべく前記スライダー胴体(40)が前進し、前記第1及び第2ファスナーエレメント(21,22)の結合を解除するべく前記スライダー胴体(40)が後進するスライダー(4)と、
前記第1ファスナーストリンガー(31)において前記第1ファスナーエレメント(21)に隣接する位置に設けられた第1止め具部材(51)にして、前記スライダー(4)の後口を介して前記スライダー胴体(40)内に挿入される第1挿入部(71)と、前記第1挿入部(71)の後方に設けられた第1基部(61)を有する第1止め具部材(51)と、
前記第2ファスナーストリンガー(32)において前記第2ファスナーエレメント(22)に隣接する位置に設けられた第2止め具部材(52)にして、前記スライダー(4)の前口と後口の間を連通するスリットを介して前記スライダー胴体(40)内に挿入される第2挿入部(72)と、前記第2挿入部(72)の後方に設けられた第2基部(62)を有する第2止め具部材(52)を備えるスライドファスナー(1)であって、
前記引手(90)は、前記スライダー胴体(40)を前進又は後進させるべく操作される引手主部(92)を有し、
前記第2基部(62)と前記引手主部(92)の間で前記第1基部(61)が挟まれる時、前記第2基部(62)、前記第1基部(61)、及び前記引手主部(92)がこの順で積層された積層体(105)が構成され、
前記引手主部(92)及び前記第1基部(61)は、前記第1挿入部(71)が前記スライダー胴体(40)内に不完全に挿入された状態で、前記積層体(105)がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記スライダー胴体(40)の後進が生じるように前記引手主部(92)が後方に動くように構成される、スライドファスナー。
【請求項2】
前記引手主部(92)は、前記第1基部(61)上を摺動する第1摺動部(96)を備えることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー。
【請求項3】
前記第1基部(61)は、前記積層体(105)がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記第1摺動部(96)が後方に向けて下る第1傾斜面(61f)を備えることを特徴とする請求項2に記載のスライドファスナー。
【請求項4】
前記第1摺動部(96)は、前記第1傾斜面(61f)を下り終えると前記第1基部(61)の外周側面(61g)の後方に隣接して配置されることを特徴とする請求項3に記載のスライドファスナー。
【請求項5】
前記引手主部(92)は、前記第1摺動部(96)が前記第1基部(61)の外周側面(61g)の後方に隣接配置される時、前記第1基部(61)上での前記引手(90)の姿勢を安定化するように前記第1基部(61)に接触する少なくとも一つの接触部(97)を備えることを特徴とする請求項4に記載のスライドファスナー。
【請求項6】
前記第1摺動部(96)が前記第1基部(61)の外周側面(61g)の後方に隣接配置される時、前記第1基部(61)上での前記引手(90)の姿勢が最も安定になることを特徴とする請求項4又は5に記載のスライドファスナー。
【請求項7】
前記第1摺動部(96)が前記第1基部(61)の外周側面(61g)の後方に隣接配置される時、前記引手(90)は、前記スライダー(4)のスライダー胴体(40)に対して最も後方に位置することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項8】
前記スライダー(4)は、前記スライダー胴体(40)に取り付けられたロック爪を更に備え、
前記第1摺動部(96)が前記第1基部(61)の外周側面(61g)の後方に隣接配置される時、前記ロック爪は、前記引手(90)から受ける力によってリフト姿勢を取ることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項9】
前記第1基部(61)は、前記引手主部(92)が配置される円盤部(63)を有し、
前記引手主部(92)は、前記第1基部(61)の円盤部(63)上に配置される状態において前記円盤部(63)の輪郭に沿って延びる枠部を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項10】
前記第1止め具部材(51)は、前記第1止め具部材(51)上における前記スライダー胴体(40)の正しい待機位置を定めるように設けられた停止壁(76)を更に備え、
前記第1挿入部(71)が前記スライダー胴体(40)内に完全に挿入された状態において、前記スライダー胴体(40)が前記停止壁(76)に接触することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項11】
前記引手主部(92)及び前記第1基部(61)の一方に凸部(101,96)が設けられ、前記引手主部(92)及び前記第1基部(61)の他方に凹部(102,92a)が設けられ、
前記第1挿入部(71)が前記スライダー胴体(40)内に不完全に挿入された状態において前記凸部(101,96)が前記凹部(102,92a)に少なくとも部分的に受容されるべく前記積層体(105)がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記引手(90)が後方に動いて前記スライダー(4)が後進することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項12】
前記凸部は、前記引手主部(92)に設けられ、
前記凹部は、前記第1基部(61)に設けられることを特徴とする請求項11に記載のスライドファスナー。
【請求項13】
前記積層体(105)がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記第2挿入部(72)が前記スライダー(4)のスリットに向けて枢動するように前記第1及び第2基部(61,62)が構成されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のスライドファスナー。
【請求項14】
前記第1及び第2基部(61,62)の一方が、前記第2挿入部(72)の枢動に関する軸線回りに弧状に傾斜する第2傾斜面(83)を有し、前記第1及び第2基部(61,62)の他方が、前記第2傾斜面(83)上を摺動する第2摺動部(84)を有することを特徴とする請求項13に記載のスライドファスナー。
【請求項15】
前記第1基部(61)は、前記引手主部(92)上を摺動する摺動部を備えることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スライドファスナー用の分離可能な止め具を開示する。この止め具においては、弧状傾斜面上を摺動部が摺動して本体部同士の相対的な回転が生じ(同文献の図14図15参照)、また本体部間の軸方向間隔が変化する(同文献の図16図17参照)。特許文献2は、磁石を用いて第1及び第2基部の相対的な回転を促進することを教示する。特許文献3は、特許文献1,2とは異なり、スライダー内に差込部材を手操作で差し込むことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/061208号
【文献】国際公開第2019/175944号
【文献】特許第4152216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スライダーが正しい待機位置に置かれていない場合、第1及び第2止め具部材を円滑に結合できず、スライドファスナーの閉鎖に無視できない手間や時間が必要になってしまうおそれがある。本願発明者は、このような点に鑑みて、第1及び第2止め具部材を円滑に結合することに貢献するスライドファスナーを提供する意義を新たに見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るスライドファスナーは、第1ファスナーテープの側縁部に第1ファスナーエレメントが設けられた第1ファスナーストリンガーと、
第2ファスナーテープの側縁部に第2ファスナーエレメントが設けられた第2ファスナーストリンガーと、
スライダー胴体と前記スライダー胴体に取り付けられた引手を備えるスライダーにして、前記引手の操作に応じて、前記第1及び第2ファスナーエレメントを結合するべく前記スライダー胴体が前進し、前記第1及び第2ファスナーエレメントの結合を解除するべく前記スライダー胴体が後進するスライダーと、
前記第1ファスナーストリンガーにおいて前記第1ファスナーエレメントに隣接する位置に設けられた第1止め具部材にして、前記スライダーの後口を介して前記スライダー胴体内に挿入される第1挿入部と、前記第1挿入部の後方に設けられた第1基部を有する第1止め具部材と、
前記第2ファスナーストリンガーにおいて前記第2ファスナーエレメントに隣接する位置に設けられた第2止め具部材にして、前記スライダーの前口と後口の間を連通するスリットを介して前記スライダー胴体内に挿入される第2挿入部と、前記第2挿入部の後方に設けられた第2基部を有する第2止め具部材を備えるスライドファスナーであって、
前記引手は、前記スライダー胴体を前進又は後進させるべく操作される引手主部を有し、
前記第2基部と前記引手主部の間で前記第1基部が挟まれる時、前記第2基部、前記第1基部、及び前記引手主部がこの順で積層された積層体が構成され、
前記引手主部及び前記第1基部は、前記第1挿入部が前記スライダー胴体内に不完全に挿入された状態で、前記積層体がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記スライダー胴体の後進が生じるように前記引手主部が後方に動くように構成される。
【0006】
幾つかの実施形態では、前記引手主部は、前記第1基部上を摺動する第1摺動部を備える。代替的に、幾つかの実施形態では、前記第1基部は、前記引手主部上を摺動する摺動部を備える。
【0007】
幾つかの実施形態では、前記第1基部は、前記積層体がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記第1摺動部が後方に向けて下る第1傾斜面を備える。前記第1摺動部は、前記第1傾斜面を下り終えると前記第1基部の外周側面の後方に隣接して配置され得る。前記引手主部は、前記第1摺動部が前記第1基部の外周側面の後方に隣接配置される時、前記第1基部上での前記引手の姿勢を安定化するように前記第1基部に接触する少なくとも一つの接触部を備え得る。
【0008】
幾つかの実施形態では、前記第1摺動部が前記第1基部の外周側面の後方に隣接配置される時、前記第1基部上での前記引手の姿勢が最も安定になる。前記第1摺動部が前記第1基部の外周側面の後方に隣接配置される時、前記引手は、前記スライダーのスライダー胴体に対して最も後方に位置し得る。
【0009】
幾つかの実施形態では、前記スライダーは、前記スライダー胴体に取り付けられたロック爪を更に備え、前記第1摺動部が前記第1基部の外周側面の後方に隣接配置される時、前記ロック爪は、前記引手から受ける力によってリフト姿勢を取る。
【0010】
幾つかの実施形態では、前記第1基部は、前記引手主部が配置される円盤部を有し、前記引手主部は、前記第1基部の円盤部上に配置される状態において前記円盤部の輪郭に沿って延びる枠部を含む。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記第1止め具部材は、前記第1止め具部材上における前記スライダー胴体の正しい待機位置を定めるように設けられた停止壁を更に備え、前記第1挿入部が前記スライダー胴体内に完全に挿入された状態において、前記スライダー胴体が前記停止壁に接触する。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記引手主部及び前記第1基部の一方に凸部が設けられ、前記引手主部及び前記第1基部の他方に凹部が設けられ、前記第1挿入部が前記スライダー胴体内に不完全に挿入された状態において前記凸部が前記凹部に少なくとも部分的に受容されるべく前記積層体がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記引手が後方に動いて前記スライダーが後進する。前記凸部は、前記引手主部に設けられ、前記凹部は、前記第1基部に設けられ得る。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記積層体がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、前記第2挿入部が前記スライダーのスリットに向けて枢動するように前記第1及び第2基部が構成される。
【0014】
幾つかの実施形態では、前記第1及び第2基部の一方が、前記第2挿入部の枢動に関する軸線回りに弧状に傾斜する第2傾斜面を有し、前記第1及び第2基部の他方が、前記第2傾斜面上を摺動する第2摺動部を有する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、第1及び第2止め具部材を円滑に結合することに貢献するスライドファスナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一態様に係る閉じたスライドファスナーの後端部の正面模式図である。
図2】本開示の一態様に係るスライドファスナーを開閉するためのスライダーの側面図である。
図3】本開示の一態様に係る引手の正面模式図であり、引手の自由端に設けられた摺動部を示す。
図4】第1止め具部材の概略的な斜視図であり、第1止め具部材の下側の構造を示す。
図5】第2止め具部材の概略的な斜視図であり、第2止め具部材の上側の構造を示す。
図6】本開示の一態様に係るスライドファスナーの閉動作を説明するための模式図であり、スライダー胴体が停止壁に接触して正しい待機位置にある。
図7】本開示の一態様に係るスライドファスナーの閉動作を説明するための模式図であり、第2止め部材の第2挿入部が、正しい待機位置にあるスライダー胴体内に挿入されている。
図8】本開示の一態様に係るスライドファスナーにおいて引手の引手主部が第1止め具部材の第1基部上に配置された状態を示す概略的な模式図であり、スライダー胴体が正しい待機位置に置かれておらず、スライダー胴体と停止壁の間に隙間がある。
図9】本開示の一態様に係るスライドファスナーにおいて引手の引手主部が第1止め具部材の第1基部上に配置された状態を示す概略的な模式図であり、スライダー胴体が正しい待機位置に置かれ、スライダー胴体が停止壁に接触している。
図10】第1基部に対する引手主部及びスライダーの相対的な位置関係を示す概略的な模式図であり、図8に対応する。
図11】第1基部に対する引手主部及びスライダーの相対的な位置関係を示す概略的な模式図であり、図9に対応する。
図12】引手の引手主部に凸部を設け、第1基部に凹部を設ける形態を示す概略図である。
図13】引手の引手主部の凸部が第1基部の凹部に受容された状態を示す概略図である。
図14】引手の引手主部に凸部を設け、第1基部に凹部を設ける形態を示す概略図である。
図15】第1及び第2止め具部材の第1及び第2基部が磁着する形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1乃至図15を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示されたスライドファスナーにのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々なスライドファスナーにも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0018】
図1に示すように、スライドファスナー1は、左右一対のファスナーストリンガー(第1及び第2ファスナーストリンガー)31,32と、左右一対のファスナーストリンガー31,32を開閉するためのスライダー4(図2参照)を有する。ファスナーストリンガー31は、ファスナーテープ(第1ファスナーテープ)11と、ファスナーテープ11の側縁部に設けられたファスナーエレメント(第1ファスナーエレメント)21を有する。ファスナーストリンガー32は、ファスナーテープ(第2ファスナーテープ)12と、ファスナーテープ12の側縁部に設けられたファスナーエレメント(第2ファスナーエレメント)22を有する。
【0019】
ファスナーテープ11,12は、可撓性を有する織物、編物又はこれらの混在物であり、一対のテープ面によって厚みが規定される。ファスナーエレメント21,22は、樹脂又は金属製のエレメントが配列されて構成され、又は、モノフィラメントがコイル状に巻かれて構成される。ファスナーエレメント21,22は、ファスナーテープ11,12の対向側縁部に対して固定される。ファスナーエレメント21,22の強固な取付のため、ファスナーテープ11,12の対向側縁部に芯紐が設けられ得る。
【0020】
ファスナーストリンガー31,32においてファスナーエレメント21,22に隣接する位置に左右一対の止め具部材51,52が設けられる。左側止め具部材(第1止め具部材)51は、スライダー胴体40の後口を介してスライダー胴体40内に挿入される第1挿入部71と、第1挿入部71の後方に設けられた第1基部61を有する。右側止め具部材(第2止め具部材)52は、スライダー胴体40の前口44と後口45の間を連通するスリット46を介してスライダー胴体40内に挿入される第2挿入部72と、第2挿入部72の後方に設けられた第2基部62を有する。
【0021】
例えば、第1基部61と第2基部62が同一又は相似(例えば、円盤状)に形成付けられ、上下に重ね合わされる。第1基部61と第2基部62の重ね合わせに応じて、スライダー胴体40にスリット46に向けて第2挿入部72が自動的に枢動し得る。別の場合、第1基部61と第2基部62の重ね合わせに続いてスライダー胴体40のスリット46に向けて第2挿入部72がヒトによる操作により動かされる。言うまでも無く、止め具部材51,52が左右反対に設けられる形態も想定される。
【0022】
図2に示すように、スライダー4は、スライダー胴体40とスライダー胴体40に取り付けられた引手90を有する。引手90の操作に応じてスライダー胴体40が前進又は後進する。スライダー胴体40に対して引手90を前方斜めに傾けて前方に引くことによってスライダー胴体40を前進させることができる。スライダー胴体40に対して引手90を後方斜めに傾けて後方に引くことによってスライダー胴体40を後進させることができる。スライダー胴体40の前進によってファスナーエレメント21,22が結合してファスナーストリンガー31,32が閉じられる。スライダー胴体40の後進によってファスナーエレメント21,22の結合が解除されてファスナーストリンガー31,32が開けられる。本明細書において、前後方向は、このようなスライダー4の動きに基づいて理解される。上下方向は、前後方向に直交し、かつファスナーテープ11,12のテープ面に直交する。左右方向は、前後方向及び上下方向に直交する。前後方向は、鉛直方向に一致し得るが、必ずしもこの限りではない。
【0023】
スライダー胴体40は、上翼板41、上翼板41に対向して配置された下翼板42、上翼板41と下翼板42をそれらの前端部で連結する連結柱43を有する。スライダー胴体40は、連結柱43を挟む左右一対の前口44と、前後方向において前口44の反対側に設けられた一つの後口45を有する。スライダー胴体40の前進時、左右一対の前口44を介して左右のファスナーエレメント21,22がスライダー胴体40内に進入し、スライダー胴体40内で結合する。結合した左右のファスナーエレメント21,22は、スライダー胴体40の更なる前進に応じて後口45を介してスライダー胴体40の外に出る。スライダー胴体40の後進時、結合した左右のファスナーエレメント21,22がスライダー胴体40の後口45を介してスライダー胴体40内に進入し、スライダー胴体40の連結柱43によって分離される。分離した左右のファスナーエレメント21,22は、スライダー胴体40の更なる後進に応じて左右の前口44を介してスライダー胴体40の外に出る。
【0024】
上翼板41には左右一対のフランジ部41fが設けられ、下翼板42にも左右一対のフランジ部42fが設けられる。上翼板41のフランジ部41fと下翼板42のフランジ部42fの間には前口44と後口45を連通するスリット46が設けられる。スリット46にはファスナーテープが挿通される。上翼板41と下翼板42の一方にのみフランジ部が設けられる形態も想定される。
【0025】
スライダー胴体40に対する引手90の取付態様は様々であり、図2等に示すものに限定されるべきではない。図2の場合を含む幾つかの場合、スライダー胴体40上に引手90を配置し、ロック爪48をスライダー胴体40に取り付け、スライダー胴体40に対してキャップ47を取り付けることによってスライダー胴体40に対して引手90が取り付けられる。なお、一般的には、キャップ47は、引手取付柱と呼ばれるが、ここではロック爪48を収容する観点からキャップと命名されている。
【0026】
ロック爪48は、少なくとも一カ所で屈曲した板バネであり、スライダー胴体40に対して固定される固定部(不図示)と、固定部の反対側のロック端48pを有する。引手90の操作に応じて、ロック爪48は、初期姿勢からリフト姿勢に変化することができる。ロック爪48が初期姿勢を取る時、ロック端48pは、スライダー胴体40内のファスナーエレメント用の通路に突出する。スライダー胴体40がファスナーエレメント上に配置されているならば、ロック爪48のロック端48pがファスナーエレメントに接触し、前後方向におけるスライダー胴体40の変位(例えば、後進)が阻止される。ロック爪48がリフト姿勢にある時、ロック爪48のロック端48pがファスナーエレメントに接触せず、前後方向においてスライダー胴体40が自由に動くことができる。なお、ロック爪48は、引手90を介して外力を受けていない時、ロック爪48自体のバネ特性に基づいて初期姿勢を取る。
【0027】
引手90は、基端90Aと自由端90Bを有し、基端90A側を中心として前後に回動するようにスライダー胴体40に対して取り付けられる。引手90は、取付基部91と引手主部92を有する。引手90の取付基部91がスライダー胴体40に対して、例えば、その引手取付柱に対して取り付けられる。引手主部92は、取付基部91を介してスライダー胴体40に対して取り付けられる。取付基部91は、スライダー胴体40に対する引手90の取付のための部分である。引手主部92は、スライダー胴体40を前進又は後進させるべく、例えば、グリッパーといった装置又はヒトによって操作される部分である。引手主部92は、典型的には、ヒトの指、例えば、親指と人差し指で把持される。引手主部92は、ヒトの指による把持に適するべく、取付基部91と比較して大きく形状づけられ得る。
【0028】
取付基部91は、左右一対の棒部91a,91bと、棒部91a,91bを連結する連結杆91cを有する。棒部91a,91bは、必ずしもこの限りではないが、略平行に延び、連結杆91cから引手主部92を離間して配置することに役立つ。棒部91a,91bの厚みTH8(図2参照)は、引手90の自由端90Bに向けて漸増する。引手主部92がより大きい厚みを有することが促進され、そこに様々な機能部分(後述の摺動部96、接触部97)を設けることが容易になる。
【0029】
引手主部92は、左右のファスナーストリンガー31,32を閉じるべく第1基部61と第2基部62が重ね合わされる時、第2基部62の反対側で第1基部61上に配置される部分である。第2基部62と引手主部92の間で第1基部61が挟まれる時、第2基部62、第1基部61、及び引手主部92がこの順で積層された積層体105が構成される。積層体105は、第2基部62、第1基部61、及び引手主部92の3層構造を有するが、これに限られるべきではない。スライダー胴体40の下翼板42に別の引手が取り付けられる場合、積層体105は、別の引手の引手主部を含む4層構造を有することになる。
【0030】
幾つかの場合、引手主部92は、環状の枠部92aを有する。枠部92aは、後述の第1基部61の円盤部63上に引手主部92が配置された状態で円盤部63の輪郭に沿って、例えば、その径方向外側の位置を延びる。枠部92aの厚みTH9(図2参照)は、引手90の自由端90Bに向けて漸増し得る。これによって枠部92aが引手90の自由端90Bにおいて十分な厚みを有することができ、後述の摺動部96を枠部92aに無理なく設けることができる。引手主部92には枠部92aにより周囲される略楕円形状の開口92sが形成される。引手主部92の開口92sが、取付基部91の略矩形状の開口91sに連通する形態も想定される。
【0031】
引手90が後方に倒伏した状態にて、引手主部92は、引手90の自由端90B側で取付基部91に対して下方にオフセットされた部分を含む。第1止め具部材51の第1基部61に対して引手主部92がより確実に接触することを促進する。オフセット量は、取付基部91の連結杆91cの直径TH7程度であり得る。例えば、引手主部92は、引手90の自由端90B側の平坦部92iと、平坦部92iと取付基部91の間に設けられた傾斜部92jを有する。取付基部91が存在する平面PL91と引手主部92の平坦部92iが存在する平面PL92は互いに非平行に離間して配置される。図2に示す時、平面PL92が平面PL91よりも下方にオフセットしている。
【0032】
第1止め具部材51の第1挿入部71は、第1基部61とファスナーエレメント21の間で前後方向に沿って延びる。第2止め具部材52の第2挿入部72は、第2基部62とファスナーエレメント22の間で前後方向に沿って延びる。第1挿入部71は、第2挿入部72が挿入される溝73を有する(図4参照)。溝73は、前後方向に延び、前方、後方、及び右側方で開口する。スライダー胴体40に第1挿入部71が完全に挿入された状態において、溝73は、スライダー胴体40の右側のスリット46を介してスライダー胴体40内に進入した第2挿入部72を受け入れる。第1挿入部71の溝73内に第2挿入部72が挿入され、第2挿入部72の上下変位が規制される。
【0033】
第1止め具部材51には停止壁76が設けられ、例えば、第1挿入部71と第1基部61の間に設けられる。停止壁76は、第1止め具部材51上でスライダー胴体40が正しい待機位置を取るべく設けられる。スライダー胴体40が後進して停止壁76に接触するとき、第1挿入部71が完全にスライダー胴体40内に挿入され、かつスライダー胴体40が正しい待機位置に置かれる。スライダー胴体40が正しい待機位置にある時、図6及び図7を参照して後述するようにスライダー胴体40内への第2挿入部72の円滑な挿入が可能である。停止壁76は、スライダー胴体40の上翼板41が接触可能な上側部分と、スライダー胴体40の下翼板42が接触可能な下側部分の少なくとも一つを有することができる。これら各部分は、左右方向に沿って延びる。停止壁76がスライダー胴体40の後端部以外の部分に接触してスライダー胴体40の後進を阻止する形態も想定される。なお、スライダー胴体40が正しい待機位置にない時、第1挿入部71が不完全(例えば、部分的)にスライダー胴体40内に挿入される。
【0034】
第1止め具部材51にはガイド75が設けられ得る。ガイド75は、ファスナーテープから上下に突出し、また前後方向に沿って延びる。第1挿入部71とガイド75の間に溝77が形成され、スライダー胴体40のフランジ部41f,42fが挿入される。ガイド75は、スライダー胴体40の待機位置を視覚的に示すものであり、省略可能である。ガイド75と第1挿入部71の間にファスナーテープ表面を覆う樹脂層が形成され又は形成されない。
【0035】
第1基部61は、円盤部63、軸部81、及び傾斜面(第2傾斜面)83を有する。円盤部63の下面に軸部81が下方に突出して設けられる。軸部81は、その先端部86に向かって縮径する部分を有する。軸部81は、その先端部86に設けられた先端面81aと、先端面81aの外周に設けられた外周面81bを有する。先端面81aを平坦にすることにより軸部81が人肌に与える刺激が低減される。傾斜面83は、第2挿入部72の枢動に関する回転軸線AX(図6,7参照)回りに弧状に延びる。傾斜面83は、回転軸線AX回りに弧状に延びるが、回転軸線AXの全周に亘って延びても良い。傾斜面83は、軸部81の外周面81bと円盤部63の下面の間に傾斜して設けられる。傾斜面83は、回転軸線AXの軸方向における第2基部62の変位を回転軸線AX回りの第2基部62の回転に変換することに貢献する。
【0036】
第2止め具部材52の第2挿入部72は、スライダー胴体40のスリット46を介してスライダー胴体40内に進入可能な部分を含む。第2挿入部72は、例えば、スライダー胴体40のスリット46を通過することができる程度の厚みを有する平板部を含む。上述のように第2挿入部72は、第1挿入部71の溝73に挿入される。第2止め具部材52にはレバー85が設けられ得る。レバー85は、第2挿入部72から上下に突出し、また前後方向に延びる。スライダー胴体40のスリット46に向かう第2挿入部72の枢動は、スライダー胴体40のフランジ部41f,42fにレバー85が衝突することで止まる。スライドファスナー1を開ける時、スライダー胴体40が後進してレバー85に衝突し、スライダー胴体40によりレバー85が押されてスライダー胴体40から離間する方向にレバー85が枢動する。
【0037】
第2止め具部材52には第3ファスナーエレメント23が設けられる。第3ファスナーエレメント23は、第2挿入部72の前端部に結合され、第2挿入部72とファスナーエレメント22の間に位置する。第2挿入部72がスライダー胴体40のスリット46を介してスライダー胴体40内に挿入される時、第3ファスナーエレメント23は、スライダー胴体40の前口44の前方近傍に位置付けられる。スライダー胴体40を前進することにより第3ファスナーエレメント23がスライダー胴体40内に進入し、続いて、スライダー胴体40内でファスナーエレメント21と結合する。第3ファスナーエレメント23に溝24を設け、第1挿入部71に挿入片25を設けることができる。第3ファスナーエレメント23の溝24内に第1挿入部71の挿入片25が挿入され、第1止め具部材51の前端と第2止め具部材52の前端が上下方向で解離することが抑制される。
【0038】
第2基部62は、第1基部61の軸部81を受け入れる受容部82、及び第1基部61に設けられた傾斜面83上を摺動する摺動部(第2摺動部)84を有する。受容部82は、軸部81の先端面81aに対向する開口部82aと、軸部81の外周面81bに対向する外周面82bを有する。開口部82aを樹脂部で埋めて底部としても良い。摺動部84は、受容部82の内部空間に突出して設けられ、例えば、受容部82の外周面82bから径方向内側に突出する。第1基部61と第2基部62が重ね合わされる時、摺動部84は、第2挿入部72の枢動に関する回転軸線AXに向けて径方向内側に突出する。
【0039】
なお、第2基部62に軸部81を設け、第1基部61に受容部82を設けても良い。第2基部62に傾斜面83を設け、第1基部61に摺動部84を設けても良い。軸部81と受容部82は、第1基部61と第2基部62の重ね合わせ時の位置決めのため、及び/又は、第1基部61と第2基部62の回転の安定性を高めるために設けられる。第1及び第2基部61,62に軸部81と受容部82を設けない形態も想定される。
【0040】
図6及び図7を参照してスライダー胴体40内に第2挿入部72が挿入されることについて説明する。第1基部61と第2基部62を重ね合わせてヒトの指(例えば、親指と人差し指)で挟むと、摺動部84が傾斜面83に接触し、摺動部84が傾斜面83を下る。摺動部84が傾斜面83を下るに応じて、第1基部61と第2基部62の軸方向間隔が小さくなり、また第1基部61に対して第2基部62が回動する。第2基部62の回動と一緒に、第2基部62に結合した第2挿入部72が回転軸線AXを中心としてスライダー胴体40のスリット46に向けて枢動し、続いてスリット46を介してスライダー胴体40内に進入する。図7に示すようにスライダー胴体40内に第2挿入部72が挿入された状態でスライダー胴体40を前進させると、第2挿入部72が第1挿入部71の溝73に挿入され、第3ファスナーエレメント23の溝24に挿入片25が挿入され、また第3ファスナーエレメント23とファスナーエレメント21が結合する。
【0041】
図6に示す時、スライダー胴体40が停止壁76に衝突しており、スライダー胴体40が正しい待機位置にあり、従って、図7に示すように、第2挿入部72は、スライダー胴体40のスリット46を介してスライダー胴体40内に円滑に進入することができる。しかしながら、図8に示すように、第1挿入部71がスライダー胴体40に不完全に挿入され、スライダー胴体40が停止壁76から前方に僅かに離れて位置する時、スライダー胴体40のスリット46を介してスライダー胴体40内に円滑に第2挿入部72が進入することができない。第2止め具部材52に第3ファスナーエレメント23が設けられる場合、第2挿入部72が枢動すると、第3ファスナーエレメント23がスライダー胴体40のフランジ部41f,42fに衝突し、スライダー胴体40が前進してしまうおそれがある。この場合、スライダー胴体40への第1挿入部71の挿入量が更に低下し、スライダー胴体40が停止壁76からより離れた位置まで動いてしまう。
【0042】
本実施形態においては、上述の点に鑑みて、引手90の引手主部92及び第1基部61は、第1挿入部71がスライダー胴体40内に不完全に挿入された状態で引手主部92、第1基部61及び第2基部62の積層体105がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、スライダー胴体40の後進が生じるように引手主部92が後方に動くように構成される。これによって、図9に示すように、スライダー胴体40を停止壁76に衝突するまで後進させて正しい待機位置に位置付けることができ、スライダー胴体40内へ第2挿入部72がより確実に又はより正しく進入することが促進される。摺動部84が傾斜面83を下るに応じて第2挿入部72がスライダー胴体40のスリット46に向けて枢動する形態では、積層体105をヒトの指で挟むことによって、正しい待機位置へのスライダー胴体40の後進とスライダー胴体40のスリット46に向かう第2挿入部72の枢動を同時に生じさせることができる。
【0043】
より具体的に述べれば、積層体105がその積層方向(上下方向に等しい)においてヒトの右手又は左手の親指と人差し指で挟まれる時、第2基部62が人差し指の腹(人差し指の末節)で支持され、引手主部92が親指によって第1基部61側に押され、第1基部61が第2基部62側に押される。引手主部92は、積層体105の積層方向に沿う力を親指から受けると、積層体105の積層方向に対して直交する後方に動く。この引手主部92の後方変位と同時に引手90が後方に動き、スライダー胴体40が引手90によって後方に連行される。ヒトは、その片手で第1及び第2止め具部材51,52を結合状態とすることもでき、スライドファスナー1の操作性能が顕著に高められる。
【0044】
手順としては、まず引手90の引手主部92を第1基部61上に配置し、次に、第1基部61と第2基部62を重ね合わせても良い。これとは反対に、第2基部62上に第1基部61を重ね合わせ、続いて第1基部61上に引手90の引手主部92を配置しても良い。スライドファスナー1の通常の使用状態では前後方向が鉛直方向に一致する。従って、特殊な引手90を用いる場合を除き、引手90は、図8に示すように、重力に従って第1基部61上に自動的に配置される。この場合、第1基部61上に引手90の引手主部92が予め配置されているため、第1基部61上に引手90の引手主部92を配置する操作は不要である。
【0045】
積層体105の積層方向(上下方向)に沿う力を親指から受けて引手主部92が後方に動くことを促進又は確保するべく、引手主部92と第1基部61が、各々、適切に形状付けられる。幾つかの場合、引手主部92に摺動部(第1摺動部)96を設け、摺動部96が第1基部61上を摺動する。典型的には、図10に示すように、摺動部96が凸状部分であり、ヒトの指に与え得る刺激を低減するように傾斜する1つ又は複数の傾斜面96f、及び/又は、ヒトの指に与え得る刺激を低減するように非鋭利(例えば、弧状)に形状づけられた頂面96tを有する。言うまでもなく、積層体105の積層方向(例えば、上下方向)に沿う力を親指から受けて引手主部92が後方に動くように、第1基部61に摺動部を設け、引手主部92に傾斜面を設けても良い。
【0046】
摺動部96の位置、大きさ、及び個数は様々に決定できる。図10に示す場合、摺動部96は、引手主部92の環状の枠部92aの自由端90Bに設けられる。引手主部92が第1基部61上に配置される時、摺動部96が第1基部61上に配置される確率が高められる。第1基部61の円盤部63には摺動部96が摺動する傾斜面(第1傾斜面)61fを設けることができる。積層体105がヒトの親指と人差し指で挟まれる時、引手主部92の摺動部96は、積層体105の積層方向に沿う力を受け、第1基部61の傾斜面61fを下って後方に変位する。摺動部96と共に引手90全体が後方に動き、スライダー胴体40が引手90によって後方に連行される。この結果、図11に示すように、スライダー胴体40が停止壁76に衝突して正しい待機位置に置かれる。なお、積層体105の積層方向と後方の合成方向に沿って親指から引手主部92に力が付与されることも想定され、同一の効果が得られる。
【0047】
摺動部96は、傾斜面61fを下り終えると第1基部61の外周側面61g(円盤部の外周側面)の後方に隣接して配置される。この時、環状の枠部92a(凹部)内に円盤部63(凸部)が嵌合した状態にある。従って、ヒトの指による積層体105の挟み込み時に引手主部92が後方に動くことは、環状の枠部92a(凹部)と円盤部63(凸部)の係合/嵌合のために行われる、とも説明できる。
【0048】
摺動部96が第1基部61の外周側面61gの後方に隣接配置される時、引手主部92の接触部97が第1基部61に接触して第1基部61上での引手90の姿勢が安定化され、場合によっては最も安定になる。引手主部92における接触部97の位置、大きさ、及び個数は様々に決定できる。幾つか場合、図11に示すように、接触部97は、環状の枠部92aにおいて自由端90Bよりも取付基部91寄りに設けられる。図10に示すようにスライダー胴体40が正しい待機位置よりも僅か前方に位置する時、接触部97が第1基部61(円盤部63)の上面に接触しない。これは、第1基部61上において引手主部92の姿勢が不安定であることを意味する。表面的には負の特徴に見えるが、引手90が、第1基部61上にてより安定した姿勢を取るように第1基部61上で動くことを促す点で有益である。
【0049】
摺動部96が第1基部61の外周側面61gの後方に隣接配置される時、引手90は、スライダー胴体40に対して最も後方に位置し得る。摺動部96が第1基部61の外周側面61gから離れるように更に後方に動き、第1基部61上での引手90の姿勢が不安定になることが回避又は抑制される。
【0050】
スライダー胴体40は、引手90に連行されて後進する限りにおいて様々な形状を取ることができることに留意されたい。図10に示すように、スライダー胴体40にロック爪48が取り付けられ、スライダー胴体40の上翼板41の上面に突起41iが設けられる。引手90の取付基部91の連結杆91cは、引手90の後方移動時、突起41iの傾斜面を上る。ロック爪48が連結杆91cにより後方に押され、ロック爪48が初期姿勢からリフト姿勢に変化する。ロック爪48とキャップ47を介して連結杆91cから伝達される力に応じてスライダー胴体40が後進する。ヒトの指から積層体105が開放されると、ロック爪48のバネ特性によって連結杆91cが前方に押され、引手90が前方に動き、引手90の自由端90Bが下方に沈んだ状態(図11)から上方に変位する(図11の矢印参照)。これによってヒトの指で積層体105を挟む操作に続いて、引手90の引手主部92をヒトの指で摘んで前方に引く操作を円滑に行うことができる。これは、スライダー胴体40にロック爪48を設ける利点の一つである。なお、必ずしもこの限りではないが、ロック爪48の左右に一対の突起41iを設けることが想定される。
【0051】
上述のように、本実施形態においては、引手90の引手主部92及び第1基部61は、第1挿入部71がスライダー胴体40内に不完全に挿入された状態で引手主部92、第1基部61及び第2基部62の積層体105がその積層方向においてヒトの指で挟まれる時、スライダー胴体40の後進が生じるように引手主部92が後方に動くように構成される。これによって、図9に示すように、スライダー胴体40を停止壁76に衝突するまで後進させて正しい待機位置に位置付けることができ、スライダー胴体40内へ第2挿入部72がより確実に又はより正しく進入することが促進される。
【0052】
第1基部61に停止壁76が設けられる場合、第1挿入部71がスライダー胴体40内に不完全に挿入された状態において、スライダー胴体40が停止壁76に接触しておらず、両者の間に隙間がある。
【0053】
以下、他の幾つかの形態について説明する。図12に示すように引手90の引手主部92の環状の枠部92aの開口92sを凸部101により埋めても良い。凸部101に対応して第1基部61の円盤部63には凹部102が設けられる。凹部102は、凸部101を少なくとも部分的に受容するように構成される。ヒトの指で積層体105を挟み込むと、凸部101の摺動部96が凹部102の傾斜面61fを下り、引手90が後方に動き、スライダー胴体40も後方に動く。図13に示すように摺動部96が傾斜面61fを下り終える時、スライダー胴体40が停止壁76に衝突する。この場合、摺動部96は、引手90の取付基部91寄りに設けられる。
【0054】
図14に示すように凸部101と凹部102の嵌合によって引手90を後方に動かしてスライダー胴体40を正しい待機位置まで後進させることもできる。ヒトの指で積層体105を挟み込むと、凸部101の摺動部96が凹部102の傾斜面61fを下り、引手90が後方に動き、スライダー胴体40も後方に動く場合がある。
【0055】
図15に示すように第1基部61に第1磁石201を封入し、第2基部62に第2磁石202を封入しても良い。例えば、第1基部61の軸部81の収容部87に第1磁石201が収容され、第1蓋121により閉じられる。第2基部62の受容部82の底部直下の収容部88に第2磁石202が収容され、第2蓋122により閉じられる。第1基部61と第2基部62を重ね合わせると、第1磁石201と第2磁石202の間に働く磁気吸引力によって摺動部84が傾斜面83を下り、第1基部61と第2基部62の軸方向間隔が減少し、また第2挿入部72がスライダー胴体40のスリット46に向けて枢動する。
【0056】
スライダー胴体40が図8に示す正しくない待機位置にある時、第1基部61と第2基部62の磁着に応じて第2挿入部72が枢動し、第2挿入部72の前側に位置する第3ファスナーエレメント23がスライダー胴体40のフランジ部41f,42fに衝突してしまい得る。積層体105をヒトの指で挟む操作によってスライダー胴体40が正しい待機位置まで後進する。従って、第3ファスナーエレメント23とフランジ部41f,42fの干渉が解消され、スライダー胴体40のスリット46を介してスライダー胴体40内に第2挿入部72が進入できる。
【0057】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態及び各特徴に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0058】
11 第1ファスナーテープ,12 第2ファスナーテープ,21 第1ファスナーエレメント,22 第2ファスナーエレメント,31 第1ファスナーストリンガー
32 第2ファスナーストリンガー,4 スライダー,40 スライダー胴体,90 引手9,91 取付基部,92 引手主部,96 第1摺動部,61f 第1傾斜面,105 積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15