(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢及び匣鉢の保護層用材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20230220BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20230220BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
H01M4/1391
C04B41/87 R
F27D3/12 S
(21)【出願番号】P 2018236807
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】201810014769.7
(32)【優先日】2018-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】718006888
【氏名又は名称】朱 性宇
【氏名又は名称原語表記】XINGYU ZHU
(73)【特許権者】
【識別番号】518450500
【氏名又は名称】李 軍秀
【氏名又は名称原語表記】LI JUNXIU
(74)【代理人】
【識別番号】100178331
【氏名又は名称】津田 宏二
(74)【代理人】
【識別番号】718006888
【氏名又は名称】朱 性宇
(72)【発明者】
【氏名】朱 性宇
(72)【発明者】
【氏名】李 軍秀
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-117663(JP,A)
【文献】特開2009-292704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/1391
C04B 41/87
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
匣鉢本体と、
少なくとも前記匣鉢本体内側表面の底部を被覆する保護層と、
を備えるリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢において、
前記の保護層は、
熱膨張係数が負のLiAlSiO
4と、熱膨張係数が正
の金属酸化物
又は金属酸塩
である、MgO、SnO
2
、Al
2
O
3
、ZrO
2
、ZrSiO
4
、MgAl
2
O
4
、LiAlO
2
、Li
2
ZrO
2
、LiAlSi
2
O
6
の中から選ぶ一つ又は二つ以上の物質とを含み、熱膨張率が調製された塗布層であって、当該保護層の熱膨張係数と前記匣鉢本体の熱膨張係数の比が1:1~2:1であることを特徴とするリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢。
【請求項2】
前記本体はコージライト、ムライト又はそれらの混合物により形成されることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢。
【請求項3】
匣鉢本体に保護層を形成するための保護層用材料であって、
熱膨張係数が負であるLiAlSiO
4
と、
熱膨張係数が正の金属酸化物又は金属酸塩である、MgO、SnO
2
、Al
2
O
3
、ZrO
2
、ZrSiO
4
、MgAl
2
O
4
、LiAlO
2
、Li
2
ZrO
2
、LiAlSi
2
O
6
の中から選ぶ一つ又は二つ以上の物質との混合物からなり、
前記混合物の熱膨張係数が、当該混合物の熱膨張係数と匣鉢本体の熱膨張係数との比が1:1~2:1となるように調整されたことを特徴とするリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢
の保護層用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢、及び匣鉢の保護層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の発展と伴い、リチウムイオン二次電池性能が向上でき、携帯電話、ノートパソコン、電気自動車、エネルギー蓄積などの分野において、幅広く応用されている。リチウムイオン二次電池は主に正極材料、負極材料、電解液及びセパレータから構成される。その中で、正極材料としては、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(三元系)、ニッケル系のような市販品がある。負極材料としては、黒鉛やチタン酸リチウム等の材料が採用されている。正極と負極材料の性能は電池の容量、エネルギー密度やサイクル特性などを決める。正極材料の生産工程を簡単に説明すると:正極材料の前駆体、即ち酸化コバルト、或いは水酸化物(例えば、水酸化コバルト、水酸化ニッケルコバルトマンガン、水酸化ニッケルコバルト、水酸化ニッケルコバルトアルミニウム、水酸化ニッケルマンガンなど)、リチウム源(例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウムなど)を一定な比例で混合した後、一定な量でセラミック匣鉢に入れ、次に高温800~1100℃で長時間の焼結を行う。コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、及び三元系正極材(ニッケルコバルトマンガンのモル比は1:1:1、5:2:3、6:2:2)を焼成する際に、通常過剰の炭酸リチウムをリチウム源として使用するが、炭酸リチウムは高温で溶融状態となり、匣鉢の表層に浸透しやすく、匣鉢の主成分である酸化アルミニウム、酸化ケイ素などと化学反応し、その生成物が匣鉢の表面に付着してしまうことが確認された;また、ハイニッケル型の新型高容量三元系正極材であるニッケルコバルトマンガン酸リチウム(例えば、ニッケルコバルトマンガンの比が8:1:1)、若しくはニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを焼成する際に、過剰の水酸化リチウムが通常リチウム源として使用される。水酸化リチウムは主に二水和物であり、無水水酸化リチウムを用いても高温で水分が失われ、強アルカリによる腐蝕性が非常に高く、匣鉢に対する不可逆的な劣化を起こし、匣鉢の寿命が大幅に短縮されてしまう。
【0003】
特許文献1には、同じ目的でコーティング材料としてジルコニア、アルミナ、マグネシアなどの1種以上の使用が提案されている。上述の材料は耐食性が高いが、ジルコニアはコストが高く、アルミナはリチウムと反応する可能性があり、マグネシアなどのマグネシウム含有の化合物はより高い熱膨張係数を有し、且つ上述の物質のいずれも熱膨張性材料なので、繰り返し使う際に、塗膜に亀裂が生じやすく、付着力が低下する。また、特許文献1に記載された寿命評価方法は、使用できない場合が基準とされた。「使用できない」の意味は亀裂が入っているか、剥がれてしまうか、又は割れているかが明確ではないので、それを判断基準とすることは曖昧である。
【0004】
また、耐腐蝕性塗層を形成する為の材料として、多くの文献には、アルミナを言及した。アルミナは高温でリチウム源の炭酸リチウムや水酸化リチウムと反応し、LiAlO2を生成する。LiAlO2の形成により、アルミナと正極材料の原料とのさらなる反応を抑えることで、リチウム由来の腐蝕性が抑制され、耐腐蝕の目的を達成できる。しかし、LiAlO2の熱膨張係数が匣鉢基材の熱膨張係数よりかなり高いため、アルミナのみが使用される被膜は、繰り返し焼成の昇温と冷却の中に匣鉢基材から剥がれやすく、耐腐蝕効果が低下してしまう。
【0005】
また、特許文献2は、二次プレス法を用い、コージライト、ムライトなどで作製された匣鉢基材の表面に耐食性塗布層をプレス加工され、該塗布層は、ジルコニア及びスポジュメンを主原料とする。これらの材料は、正極材料を焼成する原料としての炭酸リチウムと反応せず、ある程度で耐食性を向上させ、使用寿命を延長することができたが、ジルコニアとスポジュメン両方とも正の熱膨張係数を有する材料であり、配合割合が調整しても、塗膜と基材間の熱膨張定数の差が大きいため、匣鉢に正極材料を載せ、繰り返して焼結を行う際に、匣鉢本体内表面の保護層は容易に剥がれてしまう。更に、特許文献2に使用される二次プレス加工の工程が複雑で、プレスされた被膜が不均一で、匣鉢の底面や側面の円弧面での強度低下により、クラックが発生する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の上記問題点に鑑み、本発明は、耐腐蝕性が高く、且つ密着性が高く、剥がれにくい保護層 (塗膜)を有するリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢及び剥がれにくい保護層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、匣鉢本体(基材)と、少なくとも前記匣鉢本体内側表面の底部を被覆する保護層と、を備えるリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢において、前記の保護層は、熱膨張係数が負のLiAlSiO4と、熱膨張係数が正の金属酸化物及び金属酸塩である、MgO、SnO
2
、Al
2
O
3
、ZrO
2
、ZrSiO
4
、MgAl
2
O
4
、LiAlO
2
、Li
2
ZrO
2
、LiAlSi
2
O
6
の中から選ぶ一つ又は二つ以上の物質とを含み、熱膨張率が調製された塗布層であって、当該保護層の熱膨張係数と前記匣鉢本体の熱膨張係数の比が1:1~2:1であることを特徴とする。
第2の発明は、匣鉢本体がコージライト、ムライト又はそれらの混合物により形成されることを特徴とする。匣鉢本体は上記のコージライト、ムライト又はそれらの混合物を主成分とする材質を採用できるが、ほかの材質から構成してもよい。
【0010】
更に、本発明の匣鉢保護層が有効するために、少なくとも本体内側表面の底部を被覆することがよい、本体への腐蝕をより良好に防止するため、本体内側表面の全体を被覆することが好ましい。また、本発明の匣鉢本体の内側表面とは、電極材料の焼成に用いる原料を載せる表面を言う。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢は、リチウムイオン二次電池における電極材料の焼成に用いる。当該電極材料は下記の物質にあるが、それらに限定されるものではない:層状構造を有する金属酸化物リチウム塩、例えば、コバルト酸リチウム、ニケルコバルトマンガン三元材料、リチウムリッチマンガン系材料等;オリビン構造を有するもの、例えば、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガン鉄リチウムなど;スピネル構造を有するマンガン酸リチウム、ニッケルマンガン二元材料など;負極材料としてのチタン酸リチウム。
【0012】
第3の発明は、匣鉢本体に保護層を形成するための保護層用材料であって、熱膨張率が負であるLiAlSiO4と、熱膨張係数が正の金属酸化物と金属酸塩である、MgO、SnO
2
、Al
2
O
3
、ZrO
2
、ZrSiO
4
、MgAl
2
O
4
、LiAlO
2
、Li
2
ZrO
2
、LiAlSi
2
O
6
の中から選ぶ一つ又は二つ以上の物質との混合物からなり、前記混合物の熱膨張係数が、当該混合物の熱膨張係数と匣鉢本体の熱膨張係数との比が1:1~2:1となるように調整されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の匣鉢は上述成分の保護層を採用しているため、リチウム電池の電極材料の原料を匣鉢に載せ、繰り返して高温焼結を行う際に、保護層の熱膨張係数が匣鉢本体の熱膨張定数に近いので、保護層が匣鉢の表面への密着性が良好で、剥がれにくくなる。一般的に、塗膜と基材の熱膨張定数が適切ではないと、繰り返して高温焼成する際に、薄膜が基材との接着性が不安定となり、剥がれやすくなる。本発明の保護層成分として使用される金属酸化物と金属酸塩のいずれか一方若しくは両方は、正の熱膨張係数を有するので、その熱膨張係数が負の熱膨張係数を有するLiAlSiO4と一定の割合で混合し、保護層の熱膨張係数は依然として正であるが、匣鉢本体の正の熱膨張係数に近づくことで、保護層が匣鉢本体から剥がれにくくなることが実現できている。
【0014】
また、本発明の匣鉢は、焼成の際に、匣鉢に載せる材料により容易に腐蝕されることはない為、使用寿命が長くなり、電極材料の製造コストを低減できる。即ち、本発明の保護層中のLiAlSiO4は、匣鉢本体と化学反応をしないし、電極材料(正極材料又は負極材料)又は電極材料の原料とも化学反応しないことで、匣鉢本体と載せる材料との反応を抑え、載せる材料から匣鉢への腐蝕が抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明匣鉢の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の匣鉢底部の断面を示す部分拡大図である。
【
図3】は、実施例1に関する匣鉢保護層のXRDグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1に示す匣鉢1は、本体2と、本体2の内側表面21に被覆される保護層3とを備えている。匣鉢を作製する際に、本体2の内側表面21には、電極材料の原料を載せる。また、本実施形態では、保護層3は、本体2の内側表面21の底部211と壁面212からなる内側表面21の全面に覆っている。
図2のような底部211の部分拡大図から、保護層3は内側表面21の底部211と密着している。
【0017】
リチウム電池電極材料の製造工程において、匣鉢1が徐々に腐蝕される原因は、正極材料、負極材料の焼成原料である炭酸リチウム、水酸化リチウムが、匣鉢1の本体材料であるアルミナと酸化珪素と、高温条件下で化学反応を起こし、新たな物質が生成される。この生成物は、匣鉢1の組成と異なり、熱膨張係数も大きな差が生じる。匣鉢1が繰り返して使用されると、この生成物が徐々に匣鉢1の本体2から剥がれるので、匣鉢1の寿命が大きく低下するとともに、当該生成物は異物として焼結された電池材料の中で混入してしまうおそれがある。
【0018】
そこで、本発明者らは、匣鉢1の表面に特定な組成からなる保護層3を設けることにより、正極材料料またはチタン酸リチウム等のような負極材料の焼成に用いた炭酸リチウム、水酸化リチウム等が匣鉢1材料との接触を遮断することで、炭酸リチウム、水酸化リチウム等が匣鉢1への腐蝕を有効に抑制し、匣鉢1の使用寿命を延長することができる。
【0019】
具体的には、本発明のリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢1の保護層3には、使用されるLiAlSiO4は、匣鉢1本体2と化学的に反応しない、且つ電極材料又は電極材料の原料とも化学反応しない物質なので、匣鉢1が焼結時に載せられる材料に容易に腐蝕されない効果がある。 さらに、LiAlSiO4は1200℃~1300℃で溶融状態を呈しており、匣鉢1表層の気孔を通って匣鉢1の表層に十分に浸透する。また、本発明のリチウムイオン電池用電極材料焼成用匣鉢1の保護層3は、LiAlSiO4の中で耐腐蝕性を有する充填材をさらに添加することで、匣鉢1の使用寿命をさらに延長することができる。
【0020】
なお、本発明者らは、匣鉢1の保護層3に含まれる成分については、正極材料料と負極材料料に対する反応性を考慮する必要があるだけでなく、その熱膨張係数を考慮する必要もあり、両者の熱膨張係数が大きく異なり、匣鉢1の表面から該コーティング層が匣鉢1の表面から剥がれやすく、匣鉢1を保護する作用が得られないだけでなく、脱落した物質が正極材料料に混入しまい、正極材料料がコンタミされてしまう。
【0021】
そこで、本発明の匣鉢1保護層3は、母材成分として熱膨張係数が負(熱収縮率)のLiAlSiO4を用い、充填材としての熱膨張係数が正(熱膨張率)の材料、例えばMgO、SnO2、Al2O3、ZrO2、ZrSiO4、MgAl2O4、LiAlO2、Li2ZrO2、LiAlSi2O6の中からいずれか一つ、又は二つ以上のものを選び、保護層3の熱膨張係数を調整することで、保護層3の熱膨張係数と匣鉢1本体2の熱膨張係数との比が1:1-2:1となるように、保護層3が匣鉢1への密着力を向上させ、匣鉢1から剥がれにくくなる。
【0022】
本発明の保護層3の熱膨張係数は、以下のように算出される:母材成分はその熱膨張係数がAであり、保護層3における質量%がx%であり、その密度がρAである;充填材はその熱膨張係数がBであり、保護層3における質量%がy%であり、その密度がρBである。
【0023】
充填材が一種のみ場合、本発明の保護層3の熱膨張係数は、下記式(1)に基づいて算出される。
【0024】
【0025】
充填料が2種以上である場合(n≧2)、本発明の保護層の熱膨張係数は下記の式(2)に基づき、算出される。
【0026】
【0027】
本発明に用いられる材料の熱膨張係数、密度等の物性を表1に示す。
【表1】
【0028】
本発明のリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢1は、本体2と保護層3とを備え、当該匣鉢1の本体2はコージライト、ムライト、またはそれらの混合物が主成分として構成され、且つ該保護層3は該匣鉢1本体2の電極材料と接触する表面に塗布されている。匣鉢1の本体2は、市販のものを使用することができ、例えば、ムライトまたはムライトとコージライトに適量のバインダーと水分を加えて混合し、得られた湿粉を型に加え、プレス成形された後、脱水乾燥させ、高温で焼き上がる。
【0029】
本発明のリチウムイオン電池電極材料焼成用匣鉢1は、以下の方法で作製されることができ、この方法は(1)コージライト、ムライトまたはそれらの混合物から匣鉢1本体2を焼成する工程、および(2)匣鉢1本体2の電極材料と接触する表面を塗布するにより、上記保護層3を形成する工程を含まれる。
工程(1)は、公知の種々の匣鉢1本体2製造方法に基づき行うことができる。
工程(2)としては、現在知られた公知の塗布方法を用いることができ、母材成分(LiAlSiO4)と充填材(例えば、MgO、SnO2、Al2O3、ZrO2、ZrSiO4、MgAl2O4、LiAlO2、Li2ZrO2、LiAlSi2O6から選択される少なくとも一種)を含有する塗布液を匣鉢1本体2の電極材料と接触する内側表面21に塗布し、乾燥後に塗布層3が形成される。
【0030】
塗布方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、ブラシコート法等の各種公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
<実施例1>
85gのLiAlO2(和光純薬工業株式会社製)と15gのLiAlSiO4(MARUSU GLAZE Co.,Ltd社製)を秤量し、1Lのセラミックポットに入れ、ジルコニウムビーズ300ml体積分、水300mlを加えて、ポットを閉じ、常温で100rpmの回転速度で5時間粉砕した後、ジルコニウムビーズを除去し、適量の水を加えて固形分が30%の均一な懸濁液が得られる。
【0033】
上述のように得られた懸濁液をブラシでリチウム電池用正極材料料用匣鉢1と同じ材質のセラミック試験片(熱膨張係数3.8×10
-6/K、面積80cm
2、ムライトとコージェライトの混合物からなる)に約100μmの厚さの保護層3を形成し、100℃のオーブンで乾燥した後、焼成炉に入れ、1300℃で20時間焼成した。室温まで冷却した後、保護層3の一部を削り取り、XRD試験を行った。その結果を
図1に示す。
図1から、LiAlO
2およびLiAlSiO
4が保護層3中に分布し、構造の顕著な変化がない。また、保護層3の密着性を以下の基準に基づき、目視検査にて評価した。結果を表2に示す。
【0034】
保護層3の密着効果:
○:密着性良好で、保護層3の表面には亀裂がない
×:保護層3の表面には亀裂が発生した。
【0035】
実施例2-5
表2に示す条件を実施例1と同様にして行い、保護層3の密着性を評価した結果を表2に示す。
【0036】
比較例1-5
表2に示す条件で、実施例1と同様に操作し、保護層3の密着性を評価した結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
更に、コバルト酸リチウムの原料である酸化コバルト(和光純薬株式会社社製)および炭酸リチウム(SQM Co.,Ltd社製)を混合させ、実施例1~5で作製した保護層3付セラミック試験片の上に置き、1030℃で10時間焼成して正極材料料を作製した。その後、焼成したコバルト酸リチウム粉末を除去し、焼成後の保護層3の変化を観察し、セラミック試験片には顕著な変化がないことが確認されたことから、上述の形成された正極材料料は保護層3と反応しなかったことがわかった。一方、保護層3のないセラミック試験片についても同様に焼成した後、赤褐色で且つ除去しにくい付着層がセラミック試験片上に形成され、上述の正極材料料がセラミック試験片と反応したことが表明された。
【0039】
実施例6
炭酸リチウム粉末と酸化コバルト粉末とを、Li/Coモル比が1.03の比例で高速混合した。得られた混合粉末約5kgをムライトとコージェライトとの混合物から構成される匣鉢1に入れ、該匣鉢1の内側表面21には実施例1に示した保護層3が塗布された。下記の条件で材料を焼結する:1030℃まで6時間をかけて昇温し、10時間保持し、反応後、常温まで4時間冷却した。匣鉢1を取り出し、そしてコバルト酸リチウム生成物を取り出し、匣鉢1底部211の変色及び付着を観察した。 その後、同様な方法で焼結を繰り返し、匣鉢1の変化を観察した。結果を表3に示し、以下のような評価する。
〇:コバルト酸リチウム生成物を簡単に取り出すことができ、匣鉢1の表面に残渣がない
△:匣鉢1の表面に残留物がある
-:使用を停止する
×:匣鉢1には破損がある
【0040】
比較例6
実施例1のような保護層3を設けなかったこと以外には、実施例6と同様な方法で実験を行い、匣鉢1の変化を観察した。実施例6と同様な評価を行い、結果を表3に示す。
【0041】
【0042】
比較例6では、6回目の焼結時に匣鉢1の内表面底部に残留した固形分が付着し、内側表面21の底部211の一部が剥がれている。また、コバルトの青色が残留した以外、顕著な赤褐色の変色が見られた為、反応の原料と匣鉢1底面材と化学反応が起こった為、一部のコバルト酸リチウムが匣鉢1底部211に付着して除去されにくい。強制的に除去すれば、匣鉢1の底面材とリチウムとが反応することにより生成された生成物の一部がコバルト酸リチウム製品に混入してしまい、不純物が増えてしまう。これに対し、実施例6では、10回焼成しても、青色のコバルト残留物のほかに、匣鉢1の表面が顕著な剥離、割れが発生することなく、簡単にコバルト酸リチウム製品を取り出することができた。上記の結果から、本発明の保護層3を用いることで、正極材料が焼結の過程中に匣鉢1と反応することを有効に抑制することができ、寿命を延長することができる為、正極材料料の製造コストを低減する目的を達成できることが表明された。
【0043】
上述のように、本実施形態では、本体2内側表面の底部と壁面からなる内側表面の全面に覆っているが、本体内側表面の底部、若しくは底面と一部の壁面を被覆する実施形態でも、本発明の権利範囲内のものである。
【符号の説明】
【0044】
1 匣鉢
2 本体
21 内側表面
211 底部
212 壁面
3 保護層