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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】合成樹脂製ケース
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/27 20060101AFI20230220BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20230220BHJP
   A47J 47/02 20060101ALI20230220BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B29C45/27
B29C33/42
A47J47/02
B65D1/00 120
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018217409
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020082438
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八代 幸路
(72)【発明者】
【氏名】大森 巧
(72)【発明者】
【氏名】足立 優輔
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0152280(US,A1)
【文献】特開2014-189705(JP,A)
【文献】特開平06-270200(JP,A)
【文献】特開2011-001090(JP,A)
【文献】特開平08-286326(JP,A)
【文献】特開昭55-042841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/27
B29C 33/42
B29C 45/00
A47J 47/02
B65D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形状の底面と、前記底面の各辺から立ち上がるように設けられた側壁とを備え、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースであって、
射出成形時に前記ポリエチレンを流し込むためのゲートを配置するゲート配置部が、前記底面に一つのみ設けられ、
前記底面から開口部までの前記側壁の高さは、前記ゲート配置部から最も離れた位置にある前記側壁までの距離よりも、大きく形成されており、
JIS K 7210-1に準拠する試験方法によって測定した前記ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaであり、
前記側壁の高さを、前記ゲート配置部から前記側壁までの最短距離の4倍よりも小さくしたことを特徴とする合成樹脂製ケース。
【請求項2】
長方形状の底面と、前記底面の各辺から立ち上がるように設けられた側壁とを備え、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースであって、
射出成形時に前記ポリエチレンを流し込むためのゲートを配置するゲート配置部が、前記底面に少なくとも2つ設けられ、
前記側壁は、前記底面の短辺から立ち上がるように設けられた第一側壁と、前記底面の長辺から立ち上がるように設けられた第二側壁とを備え、
前記底面から開口部までの前記側壁の高さは、前記第一側壁において、前記各ゲート配置部から最も離れた位置までの距離よりも、大きく形成されており、
JIS K 7210-1に準拠する試験方法によって測定した前記ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaであり、
前記側壁の下端は、前記底面より下方へ膨出し、外側に湾曲した脚部となっており、
前記第一側壁と前記第二側壁との連結箇所の湾曲面の曲率は、前記底面と前記側壁との連結箇所の湾曲面よりも大きいことを特徴とする合成樹脂製ケース。
【請求項3】
前記各ゲート配置部から前記第一側壁までの最短距離と、前記各ゲート配置部から前記第二側壁までの最短距離とを、等しくすると共に、前記ゲート配置部同士の距離は、前記最短距離の2倍としていることを特徴とする請求項2に記載の合成樹脂製ケース。
【請求項4】
前記側壁の高さを、前記ゲート配置部から前記側壁までの最短距離の4倍よりも小さくしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の合成樹脂製ケース。
【請求項5】
前記側壁の肉厚を前記底面の肉厚よりも厚く形成すると共に、
前記開口部の縁部に、前記側壁の肉厚よりも厚い補強部を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の合成樹脂製ケース。
【請求項6】
前記ポリエチレンにタルクを配合したことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の合成樹脂製ケース。
【請求項7】
前記ポリエチレンは、低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の合成樹脂製ケース。
【請求項8】
前記側壁の上端側には、取手孔が設けられ、前記取手孔周辺の前記側壁の肉厚は、他の前記側壁の肉厚よりも厚く形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の合成樹脂製ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、物を収容する合成樹脂製ケースに関し、特に、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な種類の合成樹脂製ケースが知られているが、例えば、特許文献1に開示されている合成樹脂製ケースは、長方形状の底面と、前記底面から立ち上がるように設けられた側壁とを備え、上端の開口部から内部に収容物を入れて収納できるものである。このような合成樹脂製ケースは、例えば、落とした時の破損防止や怪我防止等の目的に合わせて、合成樹脂製ケース全体を柔らかく軟質にするために、ポリエチレンを用いて射出成形されている。
【0003】
ただ、ポリプロピレンよりもポリエチレンの方が熱収縮の差が大きく、更に、ポリエチレンの特性上、射出成形時の熱収縮が不均一になりやすいことや、合成樹脂製ケースの底面のゲート付近には残留応力が残りやすく、底面のゲートからの距離の差によって熱収縮の差が大きくなること等が原因で、合成樹脂製ケースに捻りが発生してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-301395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上記問題に鑑み、本願発明は、捻りの発生を抑えた、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に係る合成樹脂製ケースは、長方形状の底面と、前記底面の各辺から立ち上がるように設けられた側壁とを備え、ポリエチレンの出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースであって、射出成形時に前記ポリエチレンを流し込むためのゲートを配置するゲート配置部が、前記底面に一つのみ設けられ、前記底面から開口部までの前記側壁の高さは、前記ゲート配置部から最も離れた位置にある前記側壁までの距離よりも、大きく形成されており、JIS K 7210-1に準拠する試験方法によって測定した前記ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaであり、前記側壁の高さを、前記ゲート配置部から前記側壁までの最短距離の4倍よりも小さくしたことを特徴とする。
【0007】
上記特徴によれば、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaとすることで、捻りが生じにくく、合成樹脂製ケース全体を柔らかく軟質に製造できる。さらに、底面の周囲を囲む側壁の高さを、底面のゲート配置部から最も離れた側壁までの距離よりも長くすることで、底面に捻りが生じないように、側壁が底面を強力に補強するのである。
【0008】
さらに、本願発明の請求項2に係る合成樹脂製ケースは、長方形状の底面と、前記底面の各辺から立ち上がるように設けられた側壁とを備え、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースであって、射出成形時に前記ポリエチレンを流し込むためのゲートを配置するゲート配置部が、前記底面に少なくとも2つ設けられ、前記側壁は、前記底面の短辺から立ち上がるように設けられた第一側壁と、前記底面の長辺から立ち上がるように設けられた第二側壁とを備え、前記底面から開口部までの前記側壁の高さは、前記第一側壁において、前記各ゲート配置部から最も離れた位置までの距離よりも、大きく形成されており、JIS K 7210-1に準拠する試験方法によって測定した前記ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaであり、前記側壁の下端は、前記底面より下方へ膨出し、外側に湾曲した脚部となっており、前記第一側壁と前記第二側壁との連結箇所の湾曲面の曲率は、前記底面と前記側壁との連結箇所の湾曲面よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記特徴によれば、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaとすることで、捻りが生じにくく、合成樹脂製ケース全体を柔らかく軟質に製造できる。さらに、底面の周囲を囲む側壁の高さを、前記第一側壁において、前記各ゲート配置部から最も離れた位置までの距離よりも長くすることで、底面に捻りが生じないように、側壁が底面を強力に補強するのである。
【0010】
さらに、本願発明の請求項3に係る合成樹脂製ケースは、前記各ゲート配置部から前記第一側壁までの最短距離と、前記各ゲート配置部から前記第二側壁までの最短距離とを、略等しくすると共に、前記ゲート配置部同士の距離は、前記最短距離の約2倍としていることを特徴とする。
【0011】
上記特徴によれば、底面では、各ゲート配置部からの距離が等しい部分が多くなることから、ゲート配置部から流し込まれたポリエチレンが均一に広がり、熱収縮の差も少なくできる。その結果、合成樹脂製ケースに捻りが生じることを抑えられるのである。
【0012】
さらに、本願発明の請求項4に係る合成樹脂製ケースは、前記側壁の高さを、前記ゲート配置部から前記側壁までの最短距離の4倍よりも小さくしたことを特徴とする。
【0013】
上記特徴によれば、側壁の高さが、ゲート配置部から側壁までの最短距離の4倍よりも小さい場合であっても、捻りの発生を抑えた、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースを提供できる。
【0014】
さらに、本願発明の請求項5に係る合成樹脂製ケースは、前記側壁の肉厚を前記底面の肉厚よりも厚く形成すると共に、前記開口部の縁部に、前記側壁の肉厚よりも厚い補強部を形成したことを特徴とする。
【0015】
上記特徴によれば、側壁の肉厚を底面の肉厚よりも厚く形成しているので、側壁が外側又は内側に膨れることを効果的に防止できる。さらに、開口部の縁部に設けられた補強部は、側壁の肉厚よりも厚く形成されているので、蓋を嵌合させやすい。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、捻りの発生を抑えた、ポリエチレンの射出成形体からなる軟質の合成樹脂製ケースを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、本願発明の実施形態1に係る合成樹脂製ケースの全体斜視図、(b)はA―A端面図、(c)はB―B端面図である。
図2】(a)は、本願発明の実施形態1に係る合成樹脂製ケースの平面図、(b)は、前記合成樹脂製ケースの側面図である。
図3】本願発明の実施形態1に係る合成樹脂製ケースを射出成形する概略断面図である。
図4】(a)は、本願発明の実施形態1に係る合成樹脂製ケースに取り付けることのできる蓋の底面図、(b)は蓋の側面図、(c)はC―C端面図である。
図5】(a)は、本願発明の実施形態2に係る合成樹脂製ケースの平面図、(b)は前記合成樹脂製ケースの側面図である。
【符号の説明】
【0018】
100 底面
140 ゲート配置部
200 側壁
300 開口部
400 合成樹脂製ケース
530 ゲート

【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本願発明の各実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本明細書において、「上方」とは合成樹脂製ケースの開口部を上にして水平面上に載置した際に、鉛直方向における上方に向く方向のことであり、「下方」とは鉛直方向における下方に向く方向のことである。
【0020】
<実施形態1>
まず、図1及び図2に、本願発明の実施形態1に係る合成樹脂製ケース400を示す。なお、図1(a)は、合成樹脂製ケース400の全体斜視図、図1(b)はA―A端面図、図1(c)はB―B端面図である。また、図2(a)は、合成樹脂製ケース400の平面図、図2(b)は、合成樹脂製ケース400の側面図である。
【0021】
この合成樹脂製ケース400は、直方形状の底面100と、前記底面100の各辺から上方に立ち上がるように設けられた側壁200とを備える。さらに、合成樹脂製ケース400は、上端側の開口部300から内部に物を収容することができる。
【0022】
また、側壁200は、底面100の短辺110から上方に立ち上がるように設けられた第一側壁210と、底面100の長辺120から上方に立ち上がるように設けられた第二側壁220とを備える。この底面100の短辺110及び長辺120の下面は、底面100を平坦面上に載置した際に、平坦面上に当接する部分となっている。また、底面100の長辺120側の長さはL7となっている。さらに、図2(a)に示すように、第一側壁210は、隣接するコーナー部の頂点P間の範囲P1にわたり延出している。同様に、第二側壁220は、隣接するコーナー部の頂点P間の範囲P2にわたり延出している。そして、第一側壁210と第二側壁220は底面100を囲むように設けられている。この第一側壁210の肉厚T1は、底面100の肉厚T0よりも厚く形成されている。また、第一側壁210の下端は、底面100より下方へ膨出し、外側に湾曲した脚部211となっている。さらに、第一側壁210の上端は、後述する蓋を嵌合させることができる補強部212となっている。そして、補強部212の肉厚T2は、第一側壁210の肉厚T1よりも厚く形成されている。なお、第一側壁210の上端側には、人が手で持ちやすいように取手孔Vが設けられている。なお、取手孔Vを形成しているがタルクを配合していないため、ウエルドラインが発生しない。また、第一側壁210は、取手孔V以外はベタ面となっており、一方、第二側壁220も全てベタ面に形成されている。さらに、第一側壁210は取手孔Vを設けず、全てベタ面に形成してもよく、その場合も、第二側壁220は全てベタ面に形成されている。
【0023】
同様に、第二側壁220の肉厚T3は、底面100の肉厚T0よりも厚く形成されている。また、第二側壁220の下端は、底面100より下方へ膨出し、外側に湾曲した脚部221となっている。さらに、第二側壁220の上端は、後述する蓋を嵌合させることができる補強部222となっている。そして、補強部222の肉厚T4は、第二側壁220の肉厚T3よりも厚く形成されている。
【0024】
このように、側壁200の肉厚を底面100の肉厚よりも厚く形成することで、側壁200が外側又は内側に膨れることを効果的に防止できる。さらに、開口部300の縁部に設けられた補強部(212、222)は、側壁200の肉厚よりも厚く形成されているので、後述する蓋を嵌合させやすい。なお、第一側壁210と第二側壁220との連結箇所の湾曲面の曲率は、底面100と側壁200との連結箇所の湾曲面よりも大きくしてある。
【0025】
また、落とした時の破損防止や怪我防止等の目的に合わせて、合成樹脂製ケース400全体を柔らかく軟質にするために、合成樹脂製ケース400はポリエチレンを用いて射出成形されている。ここで、この射出成形について、図3を参照して簡単に説明する。なお、図3は、合成樹脂製ケース400を射出成形する概略断面図である。
【0026】
図3(a)に示すように、合成樹脂製ケース400を製造するための固定側金型(キャビティ)510と可動側金型(コア)520の間の隙間Yに、溶融させたポリエチレンXを、ゲート530を介して圧力をかけて流し込む。すると、図3(b)に示すように、ポリエチレンXの射出成形体からなる合成樹脂製ケース400が製造され、冷えて固化した後に固定側金型510及び可動側金型520から取り出される。そして、図3(b)に示すように、ポリエチレンXが流し込まれるゲート530は、合成樹脂製ケース400の底面100に配置されており、この配置される箇所をゲート配置部140と呼ぶ。
【0027】
このゲート配置部140は、図2に示すように、合成樹脂製ケース400の底面100の中心に1つ設けられている。このゲート配置部140に配置されたゲート530から流し込まれるポリエチレンXは、ゲート配置部140から周囲に放射状に広がるように流し込まれていく。ただ、直方形状の底面100では、ゲート配置部140からの距離が異なる部分(例えば、短辺110周辺と長辺120周辺とでは、ゲート配置部140からの距離が異なる)が存在するため、熱収縮の差が大きくなることから、冷えて固化した底面100に捻りが発生する虞がある。特に、ゲート配置部140からの距離が最も離れた側壁200の周辺部分(図2に示すように、側壁200のコーナー部付近)では、熱収縮の差が最も大きく、大きな捻りが生じる虞がある。
【0028】
そこで、本願発明の合成樹脂製ケース400では、図1及び図2に示すように、底面100から開口部300までの側壁200の高さH1が、ゲート配置部140から最も離れた位置にある側壁200までの距離L1よりも大きくしてある。ゲート配置部140から最も離れた位置にある側壁200周辺の底面100では、ゲート配置部140からの距離L1が最も大きく、捻りの量も大きくなる。そのため、底面100の周囲を囲む側壁200の高さH1を、少なくともゲート配置部140から最も離れた側壁までの距離L1よりも長くすることで、底面100に捻りが生じないように、側壁200が底面100を強力に補強するのである。また、側壁200は、底面100のゲート配置部140から離れており、底面100のゲート配置部140付近よりも熱収縮が小さく捻りも生じにくいので、側壁200の高い剛性により、底面100の捻りを効果的に防止することができる。
【0029】
なお、側壁200の高さH1が、ゲート配置部140から側壁200までの最短距離L0の4倍以上の場合は(つまり、合成樹脂製ケース400の背が高く大容量の場合)、側壁200の強度が比較的に強いため、底面100の捻りがそもそも生じにくい。ただ、本願発明では、側壁200の高さH1が、ゲート配置部140から側壁200までの最短距離L0の4倍よりも小さい場合であっても(つまり、合成樹脂製ケース400の背が低めで、小・中容量の場合)、上述したように、側壁200の高さH1を工夫したり、後述するように、ポリエチレンのMFRや曲げ弾性率を工夫したりして、底面100の捻りを抑えた点に特徴がある。そのため、本願発明の合成樹脂製ケース400では、側壁200の高さH1を、ゲート配置部140から側壁200までの最短距離L0の4倍よりも小さくしているのである。
【0030】
ところで、本願発明では、ポリエチレンを用いることで、合成樹脂製ケース400全体を柔らかく軟質にすることができるが、そのポリエチレンのMFRや曲げ弾性率が高すぎたり低すぎたりすると、捻りが生じやすくなる。そのため、捻りが生じにくく、合成樹脂製ケース400全体を柔らかく軟質に製造できる、最適な条件を導出する必要がある。
【0031】
そこで、本願発明の発明者らは度重なる実験によって、捻りが生じにくく、合成樹脂製ケース400全体を柔らかく軟質に製造できる最適な条件、すなわち、最適なMFRと曲げ弾性率を見出したのである。具体的には、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaであると、射出成形によって適度な軟質性を備えた合成樹脂製ケース400を製造することができる。さらに、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)、好ましくは、8~20(g/10min)、さらに好ましくは、10~15(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPa、好ましくは、120~900MPa、さらに好ましくは、650~800MPaであると、より適度な軟質性を備えた合成樹脂製ケース400を製造することができる。
【0032】
なお、ポリエチレンのMFRが1(g/10min)未満であると、ポリエチレンの流動性が低くなりすぎ、射出成形時に溶融したポリエチレンが型枠の端部まで均一に流れないため、ポリエチレンの密度が不均一の合成樹脂製ケース400が成形されてしまい、捻りが生じやすくなってしまう。逆に、ポリエチレンのMFRが60(g/10min)を超えると、MFRが低い値と比較して、捻りの影響が大きくなり、また、バリも発生しやすくなる。
【0033】
また、射出成形時に用いるポリエチレンは、低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレン、若しくは、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを混合したものを採用することができる。そして、低密度ポリエチレンの曲げ弾性率の最小値が50MPaであることから、本願発明の合成樹脂製ケース400の曲げ弾性率の下限値を50MPaとした。一方、曲げ弾性率が900MPaを超えると、合成樹脂製ケース400が固くなりすぎ、軟質性が失われるのである。なお、図2に示す合成樹脂製ケース400では、MFRが20(g/10min)の低密度ポリエチレンと、MFRが8(g/10min)の高密度ポリエチレンをそれぞれ混合し、その混合したポリエチレンのMFRを13(g/10min)としている。また、ポリエチレンにタルクを配合して、軟質性が失われない程度に、合成樹脂製ケース400の強度を高くしてもよい。
【0034】
また、図2では、底面100の中心にゲート配置部140を設けているが、これに限定されず、底面100の任意の位置にゲート配置部140を設けても良い。例えば、図2に示すように、ゲート配置部140’が底面100の中心からズレている場合は、ゲート配置部140’から最も離れた位置にある側壁200までの距離はL1’となる。
【0035】
なお、本願発明の合成樹脂製ケース400を構成するポリエチレンのMFR(メルトマスフローレイト)は、JIS K 7210-1に準拠する試験方法によって測定したものである。また、ポリエチレンの曲げ弾性率は、JIS K 6924-2に準拠する試験方法によって測定したものである。
【0036】
次に、本願発明の合成樹脂製ケース400に取り付け可能な蓋600を図4に示す。この図4(a)は蓋600の底面図、図4(b)は蓋600の側面図、図4(c)はC―C端面図である。なお、蓋600は合成樹脂製ケース400に任意に取り付けるものであり、合成樹脂製ケース400の必須の構成要件ではない。
【0037】
図4に示すように、蓋600は合成樹脂製の板状部材であり、合成樹脂製ケース400の開口部300を覆うことができる大きさになっている。また、蓋600は、直方形状の天板610と、前記天板610の各辺から下方へ延びる外側壁620とを備え、外側壁620の内側には前記外側壁620に対して平行に延びる内側壁630が設けられている。そして、外側壁620と内側壁630との間には嵌合溝640が形成されており、前記嵌合溝640には、合成樹脂製ケース400の側壁200の補強部212及び補強部222が嵌め込まれる。そのため、蓋600を合成樹脂製ケース400の開口部300に被蓋する際に、蓋600の嵌合溝640が側壁200の補強部212及び補強部222に嵌め込まれて、強固に取り付けられるのである。
【0038】
<実施形態2>
次に、本願発明の実施形態2にかかる合成樹脂製ケース400Aを図5に示す。なお、図5(a)は合成樹脂製ケース400Aの平面図、図5(b)は合成樹脂製ケース400Aの側面図である。また、本実施形態2にかかる合成樹脂製ケース400Aは、図1から図4に示す実施形態1にかかる合成樹脂製ケース400と、ゲート配置部140Aの位置、及び側壁200Aの高さが異なるだけで、他の構成は実施形態1にかかる合成樹脂製ケース400と同一なので、詳細な説明は省略する。
【0039】
図5に示すように、底面100Aには2つのゲート配置部140Aが設けられている。そして、各ゲート配置部140Aから、前記ゲート配置部140Aに最も近接する第一側壁210Aまでの最短距離L2と、ゲート配置部140Aから、前記ゲート配置部140Aに最も近接する第二側壁220Aまでの最短距離L3とが略等しくなっている。さらに、2つのゲート配置部140A同士の距離L4は、最短距離L2又は最短距離L3の約2倍となっている。
【0040】
そのため、底面100Aでは、各ゲート配置部140Aからの距離が等しい部分が多くなることから、ゲート配置部140Aから流し込まれたポリエチレンが均一に広がり、さらに、熱収縮の差も少なくできる。その結果、合成樹脂製ケース400Aに捻りが生じることを抑えられるのである。
【0041】
なお、底面100Aが直方形状をしているので、最短距離L2は、ゲート配置部140Aを通り、第一側壁210Aに直角に交わる直線において、ゲート配置部140Aと第一側壁210Aとの間の距離を意味している。同様に、最短距離L3は、ゲート配置部140Aを通り、第二側壁220Aに直角に交わる直線において、ゲート配置部140Aと第二側壁220Aとの間の距離を意味している。
【0042】
また、最短距離L2と最短距離L3とが略等しいとは、両方の最短距離が等しいことの他にも、それぞれの最短距離上に存在するポリエチレンの熱収縮の差による捻りを、人が認識できない程度に、両方の最短距離が近似していることを含んでいる。さらに、2つのゲート配置部140A同士の距離L4が、最短距離L2又は最短距離L3の約2倍になっているとは、距離L4が最短距離L2又は最短距離L3の2倍であることの他にも、距離L4が、最短距離L2の2倍の距離と、最短距離L3の2倍の距離との間の距離に設定されていることも含んでいる。なお、2つのゲート配置部140A同士の距離L4は、最短距離L2又は最短距離L3の約2倍になっているが、これに限定されず、2つのゲート配置部140Aをより内側に配置し、前記2つのゲート配置部140A同士の距離L4を、最短距離L2又は最短距離L3の約1.5倍としてもよい。ただ、2つのゲート配置部140Aを内側に配置する構成よりも、2つのゲート配置部140Aをより外側に配置する構成の方が好ましく、前記2つのゲート配置部140A同士の距離L4を、最短距離L2又は最短距離L3の約2.5~3倍としてもよい。
【0043】
さらに、図5に示すように、左側のゲート配置部140Aに最も近接する第一側壁210Aにおいて、前記ゲート配置部140Aから最も離れた位置にある部分(図5では、コーナー部)までの距離は、L5となる。同様に、右側のゲート配置部140Aに最も近接する第一側壁210Aにおいて、前記ゲート配置部140Aから最も離れた位置にある部分(図5では、コーナー部)までの距離は、L6となる。そして、合成樹脂製ケース400Aでは、底面100Aから開口部300Aまでの側壁200Aの高さH2を、距離L5及び距離L6よりも大きく形成している。つまり、合成樹脂製ケース400Aでは、側壁200Aの高さH2を、各ゲート配置部140Aに最も近接する第一側壁210Aにおいて、各ゲート配置部140Aから最も離れた位置にある側壁部分までの距離よりも、長く形成している。そのため、底面100Aの周囲を囲む側壁200Aが、底面100Aに捻りが生じないように、底面100Aを強力に補強するのである。
【0044】
なお、側壁200Aの高さH2が、各ゲート配置部140Aから側壁200Aまでの最短距離の4倍以上の場合は、側壁200Aの強度が比較的に強くなるため、底面100Aの捻りがそもそも生じにくい。ただ、本願発明では、側壁200Aの高さH2が、各ゲート配置部140Aから側壁200Aまでの最短距離の4倍よりも小さい場合であっても、底面100Aのゲート配置部140Aの位置関係や、ポリエチレンのMFRや曲げ弾性率を工夫して、底面100Aの捻りを抑えた点に特徴がある。そのため、本願発明の合成樹脂製ケース400Aでは、側壁200Aの高さH2を、各ゲート配置部140Aから側壁200Aまでの最短距離(L2及びL3)の4倍よりも小さくしているのである。
【0045】
なお、実施形態2にかかる合成樹脂製ケース400Aは、実施形態1にかかる合成樹脂製ケース400と同様に、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPaとなっており、射出成形によって適度な軟質性を備えるように構成されている。さらに、ポリエチレンのMFRが1~60(g/10min)、好ましくは、8~20(g/10min)、さらに好ましくは、10~15(g/10min)であると共に、曲げ弾性率が50~900MPa、好ましくは、120~900MPa、さらに好ましくは、650~800MPaであると、より適度な軟質性を備えることができる。
【0046】
なお、側壁200Aが高く、底面100Aに2つのゲート配置部140Aが設けられている場合は、射出成形時に溶融した樹脂(ポリエチレン)を巻き込みエアー溜まりができる可能性があるので、底面100Aの長辺側の長さL7を、側壁200Aの高さH2よりも長くしてある。
【0047】
なお、図5に示す合成樹脂製ケース400Aでは、底面100Aに2つのゲート配置部140Aが設けられているが、これに限定されず、3つ以上のゲート配置部140Aを設けても良い。ただし、少なくとも2つのゲート配置部140Aを、図5に示す位置に配置する必要がある。
【0048】
また、本願発明の合成樹脂製ケースは、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。
図1
図2
図3
図4
図5