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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】酸素電極及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20230220BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
G01N27/404 341U
G01N27/404 341B
G01N27/416 323
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019034834
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139818
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博章
(72)【発明者】
【氏名】朴 善浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】薛 安汝
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-167834(JP,A)
【文献】特開平06-034596(JP,A)
【文献】特開平06-229973(JP,A)
【文献】特開2013-054042(JP,A)
【文献】米国特許第05346604(US,A)
【文献】特開2008-101948(JP,A)
【文献】特開2017-161457(JP,A)
【文献】特開昭58-219447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されているカソードと、
前記基板上に形成されているアノードと、
前記カソード及び前記アノードの少なくとも一部の上に載置されており、塩化カリウム(KCl)からなる電解質、トリス塩酸(Tris-HCl)からなる緩衝成分、保湿剤、及びポリビニルピロリドンが含浸している紙からなるシート部材と、
前記シート部材と略同じ厚さであり、前記シート部材の縁を囲むように配置されているスペーサと、
前記シート部材及び前記スペーサを覆う酸素透過膜と、
を備えることを特徴とする酸素電極。
【請求項2】
前記保湿剤は、スクロース、グルコース、又はソルビトールのうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の酸素電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸素電極と、
前記酸素透過膜上に載置されており、サンプルを注入可能なサンプル注入部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項4】
前記カソードと前記アノードとの組が複数組形成されていることを特徴とする請求項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素電極及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中の溶存酸素濃度を測定するために用いられる酸素電極が知られている(例えば、特許文献1参照)。この酸素電極では、電解質に接触しているカソードとアノードとの間に電圧を印加すると、電解質を介して溶存酸素濃度に応じた電流が流れるため、溶存酸素濃度を測定することができる。
【0003】
ところで、特許文献1の酸素電極は、製造時に電解質の水分を蒸発させるため、電解質に水分がない状態となり、溶存酸素濃度の測定を行うことができない状態となっている。そのため、この酸素電極を機能させるために、常温の水中に一晩以上浸漬する等の方法により、酸素透過膜を介して電解質に水分を供給して、電解質を活性化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-78407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の酸素電極では、電解質を活性化させた後、電解質中の水分の少なくとも一部が蒸発することにより、印加した電圧に対する応答が安定しないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、印加した電圧に対する応答が安定している酸素電極及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る酸素電極は、基板上に形成されているカソードと、前記基板上に形成されているアノードと、前記カソード及び前記アノードの少なくとも一部の上に載置されており、塩化カリウム(KCl)からなる電解質、トリス塩酸(Tris-HCl)からなる緩衝成分、保湿剤、及びポリビニルピロリドンが含浸している紙からなるシート部材と、前記シート部材と略同じ厚さであり、前記シート部材の縁を囲むように配置されているスペーサと、前記シート部材及び前記スペーサを覆う酸素透過膜と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る酸素電極は、前記保湿剤は、スクロース、グルコース、又はソルビトールのうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る測定装置は、酸素電極と、前記酸素透過膜上に載置されており、サンプルを注入可能なサンプル注入部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る測定装置は、前記カソードと前記アノードとの組が複数組形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印加した電圧に対する応答が安定している酸素電極及び測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る酸素電極の構成を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示す酸素電極のA矢視図である。
図3図3は、図2のB-B線に対応する断面図である。
図4図4は、水中に浸漬する時間を変化させた場合における電流の時間変化を表す図である。
図5図5は、電極間に印加する電位を変化させた場合における電流の時間変化を表す図である。
図6図6は、保湿剤を含む場合と含まない場合とにおける電流の時間変化を表す図である。
図7図7は、変形例に係る酸素電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(実施の形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施の形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
(実施の形態)
〔酸素電極の構成〕
図1は、本発明の実施の形態に係る酸素電極の構成を示す分解斜視図である。図2は、図1に示す酸素電極のA矢視図である。図3は、図2のB-B線に対応する断面図である。図1~3に示すように、本実施の形態に係る酸素電極1は、基板2と、カソード3と、配線4と、電極パッド5と、アノード6と、配線7と、電極パッド8と、絶縁層9と、シート部材10と、酸素透過膜11と、を備える。
【0019】
基板2は、ガラスからなる平板状の基板である。
【0020】
カソード3は、基板2上に形成されており、例えば円形をなすが、形状は特に限定されない。カソード3は、白金(Pt)からなるが、金(Au)、銀(Ag)であってもよい。
【0021】
配線4は、カソード3と電極パッド5とを電気的に接続する。
【0022】
電極パッド5は、外部と電気的に接続される。電極パッド5は、例えばカソード3とアノード6との間に電圧を印加する際に用いられる。
【0023】
アノード6は、基板2上に形成されており、カソード3を中心とする同心円状に配置されているが、形状は特に限定されない。アノード6は、銀(Ag)からなるが、鉛(Pb)であってもよい。また、アノード6が銀である場合、電流を流すと電解質中の塩素イオンがアノード6と反応して塩化銀(AgCl)が形成される。
【0024】
配線7は、アノード6と電極パッド8とを電気的に接続する。
【0025】
電極パッド8は、外部と電気的に接続される。電極パッド8は、例えばカソード3とアノード6との間に電圧を印加する際に用いられる。
【0026】
絶縁層9は、カソード3、アノード6、電極パッド5,8の部分が露出し、配線4、7を含むそれ以外の部分を覆えばよいが、カソード3、アノード6の端部をわずかに覆ってもよい。また、アノード6の大部分をこの絶縁層9で被覆し、カソード3側の端部だけを一部露出させると、速やかに塩化銀を形成して電流値を安定化させ、しかも長寿命化を両立させることができる。絶縁層9は、例えばポリイミドからなるが、絶縁性を有する材料であればよい。
【0027】
シート部材10(電解質層)は、カソード3及びアノード6の上に配置されており、電解質及び保湿剤を含む。具体的には、シート部材10は、カソード3及びアノード6の少なくとも一部の上に載置されている紙である。シート部材10がカソード3及びアノード6の双方に接していることにより、カソード3とアノード6との間に電圧を印加すると溶存酸素濃度等の条件に応じて電流が流れる。なお、電解質層として、電解質及び保湿剤を含む液体を酸素透過膜11の下層に注入してもよい。また、電解質層として、電解質及び保湿剤を含むペーストをカソード3及びアノード6上に塗布してもよい。電解質層が保湿剤を含むことにより、電解質層からの水分の蒸発が抑制され、酸素電極1の応答が安定する。
【0028】
シート部材10は、例えば直径7.0mmの円形をなし、厚さが20μmの紙である。シート部材10は、厚さが均一で電解質及び保湿剤を含む液体を含浸可能な材料であればよく、布や不織布を用いてもよい。シート部材10の厚さが均一であることにより、均質な電解質層が形成されるため、酸素電極1の応答が安定する。さらに、シート部材10を用いることにより、機械的な強度も向上するため、酸素電極1の応答が安定する。シート部材10の厚さは、材料に応じて適切な厚さを選択することができるが、例えば10μm~数100μmであり、十分な強度を有する厚さであればよい。シート部材10の形状は、カソード3及びアノード6の形状に応じて変更することができ、少なくとも一部がカソード3及びアノード6に接する形状であればよい。
【0029】
シート部材10は、電解質としての2.0MのKClと、PHを調整する緩衝成分としての2.0MのTris-HClと、保湿剤としての5.0wt%のソルビトールと、基板2への接着剤としての4.0wt%のポリビニルピロリドンと、を含む溶液に紙を浸漬することにより、これらの成分を含浸している。紙であるシート部材10をこの溶液に浸漬することにより、シート部材10に電解質が均一に染み込むため酸素電極1の応答が安定する。保湿剤は、スクロースに限られず、例えばグルコース、又はソルビトール等であってもよい。電解質、緩衝成分、接着剤も一例であり、適宜材料、分量を変更することができる。
【0030】
酸素透過膜11は、シート部材10を覆うように形成されている。酸素透過膜11は、例えばシリコーンからなる。
【0031】
〔酸素電極の製造方法〕
次に、酸素電極1の製造方法を説明する。
【0032】
1.基板の洗浄
始めに、基板2であるガラス基板を洗浄する。具体的には、基板2を25wt%のアンモニア水と、30wt%の過酸化水素水と、純水とを、1:1:4の割合で混合し、沸騰させた水溶液中に5分間浸漬させる。その後、基板2を沸騰させた純水へ5分間浸漬させて濯ぐ。さらに、基板2を別の沸騰純水中に5分間浸漬させて濯ぎ、自然乾燥させる。
【0033】
2.カソードの形成
続いて、カソード3として白金電極を形成する。まず、洗浄した基板2上にポジ型フォトレジストを500rpmで5秒間、2000rpmで10秒間のスピンコートにより形成する。その後、80℃のドライオーブン中で30分間ベークする。そして、15分以上暗所にて自然冷却させる。
【0034】
マスクを用いて、マスクアライナーのG線(波長436nm)にて露光を40秒間行う。その後、30℃のトルエンに40秒間浸し、80℃のドライオーブン中で15分間ベークし、15分以上暗所にて自然冷却させる。その後、現像液を用いて60秒間現像(撹拌あり)を行い、蒸留水で濯ぎ、窒素ガスで乾燥させる。
【0035】
スパッタ装置により、出力200W、アルゴン雰囲気約0.55Paにおいてドライエッチングを5分間行った後、出力100W、アルゴン雰囲気約0.35Paにおいて白金層の密着層となるクロムを5分間(約30nm)スパッタする。続いて、出力100W、アルゴン雰囲気約0.35Paにおいて白金を15分間で2回、計30分(約300nm)スパッタする。
【0036】
その後、白金がスパッタされた基板2をアセトンに1時間浸ける。さらに、綿棒を用いて白金層以外の不要な部分を剥離させる。そして、蒸留水で濯ぎ、窒素ガスで乾燥させることによりカソード3が形成される。
【0037】
3.アノードの形成
続いて、アノード6として銀電極を形成する。まず、洗浄した基板2上にポジ型フォトレジストを500rpmで5秒間、2000rpmで10秒間のスピンコートにより形成する。その後、80℃のドライオーブン中で30分間ベークする。そして、15分以上暗所にて自然冷却させる。
【0038】
マスクを用いて、マスクアライナーのG線(波長436nm)にて露光を40秒間行う。その後、30℃のトルエンに40秒間浸し、80℃のドライオーブン中で15分間ベークし、15分以上暗所にて自然冷却させる。その後、現像液を用いて60秒間現像(撹拌あり)を行い、蒸留水で濯ぎ、窒素ガスで乾燥させる。
【0039】
スパッタ装置により、出力200W、アルゴン雰囲気約0.55Paにおいてドライエッチングを5分間行った後、出力100W、アルゴン雰囲気約0.35Paにおいて銀を15分間で2回、計30分(約550nm)スパッタする。
【0040】
その後、白金、銀がスパッタされた基板2をアセトンに1時間浸ける、さらに、綿棒を用いて銀以外の不要な部分を剥離させる。そして、蒸留水で濯ぎ、窒素ガスで乾燥させることによりアノード6が形成される。
【0041】
4.絶縁層の形成
続いて、絶縁層9としてポリイミド層を形成する。まず、基板2上にポリイミドプレポリマーを500rpmで10秒間、2000rpmで5秒間のスピンコートにより形成する。その後、80℃のドライオーブン中で30分間ベークする。
【0042】
ポリイミド層を形成した基板2上にポジ型フォトレジストを500rpmで5秒間、2000rpmで10秒間のスピンコートにより形成する。その後、80℃のドライオーブン中で30分間ベークする。
【0043】
ベーク後、暗所で10分間程度冷却した後、マスクを用いて、マスクアライナーのG線にて露光を40秒間行う。
【0044】
露光後の基板2を現像液に120秒間浸漬(撹拌あり、3回転/秒程度、現像液の温度を25℃程度に調整)し、その直後に超音波洗浄機にて10秒間洗浄を行う。その後、蒸留水で表面を濯ぎ、顕微鏡で穴の大きさ等を確認する。
【0045】
エタノールに基板2を浸漬し、5分間撹拌してレジスト層を取り除く。その後、エタノールで濯ぎ、窒素ガスで乾燥させたる。そして、ホットプレート上にて150℃で15分間、250℃で15分間、280℃で30分間加熱することで、ポリイミドを変性させ、絶縁層9が形成される。なお、加熱中は光を遮断する。
【0046】
5.シート部材の形成
続いて、シート部材10を形成する。まず、2.0MのKCl、2.0MのTris-HCl、5.0wt%のソルビトール、4.0wt%のポリビニルピロリドンを含む溶液を作製する。そして、この溶液を、直径7.0mmの円形に切断された厚さ20μmの紙に染み込ませる。さらに、この紙をカソード3及びアノード6の上に載置し、自然乾燥させることによりシート部材10が形成される。
【0047】
6.酸素透過膜の形成
続いて、酸素透過膜11を形成する。具体的には、1500rpmで10秒間、シリコーンをスピンコートすることにより、酸素透過膜11を形成する。
【0048】
〔酸素電極の電解質の活性化〕
次に、酸素電極1の電解質を活性化させるために水中に浸漬する時間について説明する。酸素透過膜11は、気体しか通さないため、酸素電極1を水中に浸漬すると、水蒸気が酸素透過膜11を通り、シート部材10に水分が供給され、電解質が活性化する。酸素電極1を、水中に29時間、24時間、5時間浸漬した後、カソード3とアノード6との間に-0.8Vの電圧を印加し、電流の時間変化を測定した。
【0049】
図4は、水中に浸漬する時間を変化させた場合における電流の時間変化を表す図である。図4の縦軸は電流、横軸は時間を表す。そして、線L1は浸漬時間が29時間、線L2は浸漬時間が24時間、線L3は浸漬時間が5時間の場合の測定結果である。図4に示すように、水中に浸漬する時間が長いほど、印加した電圧に対して発生する電力が大きい。また、時間ゼロの時点で、酸素電極1を水中から取り出し、脱酸素剤であれる亜硫酸ナトリウム(NaSO)を作用させた。そして、時間がゼロから経過し、脱酸素剤により溶存酸素濃度が低下するとともに、電流が減少していることから、酸素電極1には、溶存酸素濃度に応じた電流が流れることが示された。
【0050】
以上から酸素電極1を水中に浸潤する時間が長いほど、印加した電圧に対する応答がよくなることが示された。ただし、酸素電極1を水中に長時間浸漬し続けると、シート部材10が破損する場合があるため、水中に浸漬する時間は24時間程度が適切である。酸素電極1を水中に24時間程度浸漬すると、シート部材10が含浸する電解質が十分活性化し、酸素電極1が機能する状態となる。
【0051】
〔酸素電極に印加する電圧〕
次に、酸素電極1のカソード3とアノード6との間に印加する電圧について説明する。カソード3とアノード6との間に-0.7V、-0.8V、-0.9Vの電圧を印加し、電流の時間変化を測定した。
【0052】
図5は、電極間に印加する電位を変化させた場合における電流の時間変化を表す図である。図5の縦軸は電流、横軸は時間を表す。そして、線L11は印加した電圧が-0.7V、線L12は印加した電圧が-0.8V、線L13は印加した電圧が-0.9Vの場合の測定結果である。図5に示すように、線L13では、脱酸素剤を作用させてから十分時間が経過しても電流がゼロに近づかない。これは、プロトンの還元にともなう残余電力の影響である。一方、線L11及び線L12では、残余電力の影響が無視できる程度に小さい。
【0053】
以上からカソード3とアノード6との間に印加する電圧は、-0.8Vが最適である。
【0054】
〔酸素電極の印加電圧に対する応答〕
次に、酸素電極1の印加電圧に対する応答について説明する。シート部材10が保湿剤を含む場合と、シート部材10が保湿剤を含まない場合とにおいて、カソード3とアノード6との間に-0.8Vの電圧を印加し、電流の時間変化を測定した。
【0055】
図6は、保湿剤を含む場合と含まない場合とにおける電流の時間変化を表す図である。図6の縦軸は電流、横軸は時間を表す。そして、線L21はシート部材10が保湿剤としてソルビトールを含む場合、線L22はシート部材10が保湿剤を含まない場合の測定結果である。図6に示すように、線L21では、印加した電圧に対して、長時間にわたって安定した応答が得られた。一方、線L22では、時間経過とともに電解質中の水分が蒸発することにより、電解質が不活性化し、印加した電圧に対する応答が安定しない。
【0056】
以上から実施の形態によれば、シート部材10が保湿剤を含浸することにより、印加した電圧に対する応答が長時間にわたって安定した酸素電極1を実現することができる。
【0057】
また、実施の形態によれば、シート部材10が電解質を含浸しているため、電解質層を均一に形成することができる。その結果、測定時に応答が安定しているだけでなく、安定して動作する酸素電極1を製造できる割合が上がり、製造時の組み立ても容易である。これに対して、カソード3及びアノード6上に液体やペースト状の電解質を配置する場合には、測定時に酸素透過膜11の下層の電解質が柔らかい状態であるため、電解質の厚さが不均一となりやすく、応答が安定しない。
【0058】
(変形例)
図7は、変形例に係る酸素電極の断面図である。図7に示すように、酸素電極1Aは、シート部材10と略同じ厚さであり、シート部材10の縁を囲むように配置されているスペーサ12Aを備える。スペーサ12Aは、例えばポリイミド等の樹脂からなるが、材料は特に限定されない。この場合、酸素透過膜11に段差ができないため、製造時に酸素透過膜11に切れ目等ができて動作が不安定になることを防止することができる。
【0059】
〔測定装置〕
酸素電極1を備える測定装置を作製してもよい。具体的には、酸素透過膜11上にサンプルを注入可能なチャンバーが形成されたサンプル注入部を載置することにより、サンプル内の溶存酸素濃度を測定できる測定装置を実現することができる。
【0060】
また、上述したカソード3とアノード6との組が複数組形成されている測定装置を作製してもよい。複数組のカソード3とアノード6とを備えることにより、複数のサンプルに対して同時に測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
1、1A 酸素電極
2 基板
3 カソード
4、7 配線
5、8 電極パッド
6 アノード
9 絶縁層
10 シート部材
11 酸素透過膜
12A スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7