(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】全方向移動装置及びその姿勢制御方法
(51)【国際特許分類】
B62K 17/00 20060101AFI20230220BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B62K17/00
B60B19/00 H
B60B19/00 G
(21)【出願番号】P 2019519579
(86)(22)【出願日】2018-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2018018611
(87)【国際公開番号】W WO2018216530
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017104669
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 祐
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198503(JP,A)
【文献】特開2010-116018(JP,A)
【文献】特開2016-198494(JP,A)
【文献】特開2015-47961(JP,A)
【文献】特開2017-52417(JP,A)
【文献】特開2010-76630(JP,A)
【文献】特開2010-167807(JP,A)
【文献】特開2009-101908(JP,A)
【文献】特開2008-230548(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19820059(DE,A1)
【文献】新福宜侑,球体駆動式全方向移動機構の安全性向上に関する研究,九州工業大学博士学位論文,日本,九州工業大学,2015年03月,http://hdl.handle.net/10228/5466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 17/00
B60B 19/00
G05D 1/08
A01D 67/00
B62D 55/116
B62D 55/104
B60F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全方向へ移動可能なホイールが複数配設された車台と、
当該車台上に配設された車体と、
前記車台と前記車体とを連結し、前記車台に対して前記車体の姿勢が変化可能とされ、かつ、前記車台が駆動している際に、前記車台に対して前記車体の姿勢を静力学的に不安定に支持する自在継手と、
前記車台が駆動している際の前記車体の姿勢の変化を逐次取得し、前記車体の姿勢の変化を打ち消すようなフィードバック制御に基づき前記車台を逐次移動させることにより、前記車台に対して前記車体の姿勢を動力学的に安定に維持する姿勢安定システムと、
を備え
、
前記自在継手は、可動方向が2方向であり、前記2方向において、前記車台に対する前記車体の姿勢を変化させることが可能であり、
前記自在継手は、前記車台上部に支持され、前記車台の移動方向の1つを第1軸方向とする第1回転軸と、前記車体下部に支持され、前記車台の移動方向の他の1つであって前記第1軸方向に交差する方向を第2軸方向とする第2回転軸と、前記第1回転軸を中心として回転可能とされ、かつ、前記第2回転軸を中心として回転可能とされるスパイダと、を含んで構成されている、
全方向移動装置。
【請求項2】
前記姿勢安定システムは、
前記車台に設けられたモータと、
前記車台に設けられ、前記モータの回転駆動力を減速して前記ホイールに伝達する減速機と、
前記車体に設けられ、前記モータに連結されて前記モータを駆動するサーボアンプと、
を有する駆動ユニットを備えている請求項
1に記載の全方向移動装置。
【請求項3】
前記ホイールは、オムニホイール及びメカナムホイールの少なくとも一方である請求項1
又は請求項2に記載の全方向移動装置。
【請求項4】
前記姿勢安定システムは、
前記モータの回転角を取得する角度検出部と、
前記自在継手の水平方向の位置座標を定義するための基準座標系における前記車体の姿勢を表す姿勢角並びに前記姿勢角の変化に伴う角速度を取得する姿勢角度検出部と、
前記角度検出部により取得された前記回転角と、前記姿勢角度検出部により取得された前記姿勢角及び前記角速度とに基づいて、姿勢を安定に維持する前記車体の運動状態を演算し、この演算結果に基づいて前記サーボアンプを制御する演算処理部と、
を有する制御ユニットを備えている請求項
2に記載の全方向移動装置。
【請求項5】
前記ホイールと前記車台との間に、前記ホイールから前記車台に伝達される振動を減少させる緩衝装置を更に備えている請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の全方向移動装置。
【請求項6】
前記車台の移動の際に前記車体の姿勢を変化可能とし、前記車台の移動を停止する際に前記車体の姿勢をロックするロック装置が、前記第1回転軸及び前記第2回転軸に装着されている請求項
1に記載の全方向移動装置。
【請求項7】
請求項
4に記載された前記全方向移動装置の前記姿勢安定システムを備え、当該姿勢安定システムに、
前記モータの回転角を取得するステップと、
前記車体の姿勢角及び前記車体の角速度を取得するステップと、
前記回転角、前記姿勢角及び前記角速度に基づいて、姿勢を安定に維持する前記車体の運動状態を演算するステップと、
この演算結果に基づいて前記サーボアンプを制御して姿勢を安定に維持させた状態において前記車台を移動させるステップと、
を実行させる全方向移動装置の姿勢制御方法。
【請求項8】
前記演算処理部は、
前記モータの回転角に基づいて、前記モータの角速度を演算し、
前記モータの角速度と、前記車台と複数の前記ホイールとの間の位置関係から予め設定された速度伝達行列
Tの一般化逆行列とに基づいて、前記自在継手の位
置により表される前記車台の一般化座標
q
c
における、前記車台の一般化速度
q
c
・
を演算し、
前記車体の姿勢角
q
b
及び前記車体の角速度
q
b
・
と、前記車台の一般化座標q
c
及び前記車台の一般化速度
q
c
・
とに基づいて、状態量
(q
b
,q
b
・
,q
c
,q
c
・
)を設定し、
前記車台に対して前記車体の姿勢を動力学的に安定に維持するように、前記状態量
(q
b
,q
b
・
,q
c
,q
c
・
)のうちの前記車体の姿勢角q
b
及び前記車体の角速度q
b
・
を要素として含むサブシステムを表すベクトルx
d
と、前記車台の一般化目標加速度
uとを含む関数の時間積分により表される評価規範が小さくなるように、前記車台の一般目標加速度
uを演算し、
前記車台の前記一般目標加速度
uが実現されるように、前記サーボアンプを制御する、
請求項
4に記載の全方向移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動装置及びその姿勢制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国特許第3070015号公報には、全方向移動装置(全方向移動車両)が開示されている。この全方向移動装置では、フレームに単一の球体(回転体)が回転自在に装着されているので、フレームは静力学的に不安定である。そして、全方向移動装置では、球体を回転させて走行し、走行中のフレームの姿勢が安定に維持されるので、フレームは動力学的に安定化される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記全方向移動装置では、球体と走行路(地面)との接触が点接触である。つまり、球体と走行路との接触面積が小さく、走行時に球体は十分なグリップ力を得られない。
加えて、上記全方向移動装置では、走行時に球体が走行路を転動する。走行路の粉塵や液体は球体表面に付着し、粉塵や液体により球体が走行路に対して滑りを生じると、走行時に球体は十分なグリップ力を得られない。このため、前記全方向移動装置の推進力を向上させるには、改善の余地があった。
また、上記全方向移動装置では、球体が走行路に一点で接触するので、複数の車輪が走行路に接触する場合に比べると、段差や不整地の走行時に振動がフレームに直接的に伝わる。このため、上記全方向移動装置の乗り心地を含めて走行時の静粛性について、改善の余地があった。
【0004】
本発明は、上記課題を考慮し、静力学的に不安定な車体を動力学的に安定化し、しかも推進力を向上させ、かつ、静粛性を改善することができる全方向移動装置及びその姿勢制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の第1実施態様に係る全方向移動装置は、全方向へ移動可能なホイールが複数配設された車台と、車台上に配設された車体と、車台と車体とを連結し、車台に対して車体の姿勢が変化可能とされる自在継手と、車体の姿勢が変化した方向へ車台を移動させ、かつ、車体の姿勢を安定に維持する姿勢安定システムと、を備えている。
【0006】
第1実施態様に係る全方向移動装置は、車台と、車台上に配設された車体とを備えている。車台にはホイールが配設され、ホイールは全方向へ移動可能とされる。
【0007】
ここで、上記全方向移動装置は自在継手及び姿勢安定システムを備え、更に車台には複数のホイールが配設される。自在継手は、車台と車体とを連結し、車台に対して車体の姿勢を変化可能とする。
ホイールが複数配設されると、これらのホイールのすべてが走行路に接地される。このため、車台の姿勢は走行路の路面の傾斜に合わせて変化する。これに対して、車体は自在継手を介して車台に連結されるので、車体の姿勢は車台の姿勢に連動しない。つまり、車体は、単に自在継手を介して車台に連結されているので、車台に対して静力学的に不安定である。
姿勢安定システムは、車体の姿勢が変化した方向へ車台を移動させ、かつ、車体の姿勢を安定に維持する。つまり、姿勢安定システムを備えるので、車台が移動すると車体の姿勢が安定に維持され、車体は動力学的に安定化される。
そして、複数配設されたホイールと走行路との接地箇所が複数箇所とされるので、ホイールと走行路との接地面積が増加され、移動時にホイールは十分なグリップ力を得られる。十分なグリップ力が得られるので、走行路の粉塵や液体がたとえホイール表面に付着したとしても、走行路に対するホイールの滑りが小さくなる。
さらに、複数のホイールが走行路に接地するので、単一の球体が走行路に接地する場合に比べると、段差や不整地の移動時に車台及び車体に伝わる振動が小さくなる。
【0008】
本発明の第2実施態様に係る全方向移動装置では、第1実施態様に係る全方向移動装置において、自在継手の対偶が2である。
【0009】
第2実施態様に係る全方向移動装置によれば、自在継手の対偶が2とされるので、車体は車台に対して2つの方向に自由度があり、この2つの方向において車体の姿勢を変化させることができる。例えば、仮に三次元座標のY 軸方向を第1回転軸として第1回転軸周りに回動する自由度と、X 軸方向を第2回転軸として第2回転軸周りに回動する自由度との2つの自由度が設定されると、2つの自由度の範囲で車体の姿勢を変化させることができる。ここで、Z 軸方向を第3回転軸とする軸周りに回動する自由度は設定されない。このため、車台を旋回させたときに、車台の旋回に追従させて車体を旋回させることができる。
【0010】
本発明の第3実施態様に係る全方向移動装置では、第2実施態様に係る全方向移動装置において、自在継手は、車台上部に支持され、車台の移動方向の1つを第1軸方向とする第1回転軸と、車体下部に支持され、車台の移動方向の他の1つであって第1軸方向に交差する方向を第2軸方向とする第2回転軸と、第1回転軸を中心として回転可能とされ、かつ、第2回転軸を中心として回転可能とされるスパイダと、を含んで構成されている。
【0011】
第3実施態様に係る全方向移動装置によれば、自在継手は第1回転軸、第2回転軸及びスパイダを備える。第1回転軸は、車台上部に支持され、車台の移動方向の1つを第1軸方向とする。例えば、第2実施態様において例示されたY 軸方向が第1軸方向とされる。第2回転軸は、車体下部に支持され、車台の移動方向の他の1つであって第1軸方向に交差する方向を第2軸方向とする。例えば、第2実施態様において例示されたY 軸方向に直交するX 軸方向が第2軸方向とされる。スパイダは、第1回転軸を中心として回転可能とされ、かつ、第2回転軸を中心として回転可能とされる。
このため、第1回転軸及び第2回転軸の2つの回転軸を中心としてスパイダが回転可能とされるので、対偶が2の自在継手を簡単に実現することができる。
【0012】
本発明の第4実施態様に係る全方向移動装置では、第1実施態様~第3実施態様のいずれか1つに係る全方向移動装置において、姿勢安定システムは、車台に設けられたモータと、車台に設けられ、モータの回転駆動力を減速してホイールに伝達する減速機と、車体に設けられ、モータに連結されてモータを駆動するサーボアンプと、を有する駆動ユニットを備えている。
【0013】
第4実施態様に係る全方向移動装置によれば、姿勢安定システムは駆動ユニットを備える。駆動ユニットは、モータと、減速機と、サーボアンプとを含んで構成される。モータは車台に設けられる。減速機は、車台に設けられ、モータの回転駆動力を減速してホイールに伝達する。サーボアンプは、車体に設けられ、モータに連結されてモータを駆動する。これらを含んで構成される駆動ユニットを備えるので、姿勢安定システムでは、車台が移動すると車体の姿勢が安定に維持され、車体を動力学的に安定化させることができる。
【0014】
本発明の第5実施態様に係る全方向移動装置では、第1実施態様~第4実施態様に係る全方向移動装置において、ホイールは、オムニホイール及びメカナムホイールの少なくとも一方である。
【0015】
第5実施態様に係る全方向移動装置によれば、ホイールはオムニホイール及びメカナムホイールの少なくとも一方とされる。オムニホイールは、駆動車輪の円周上に、円周方向を軸方向としてフリーに回転するローラを複数配設して構成される。一方、メカナムホイールは、駆動車輪の円周上に、駆動車輪の回転軸に対して傾斜する方向を軸方向としてフリーに回転するローラを複数配設して構成される。
このため、いずれのホイールを用いても、駆動車輪の回転による移動方向に加えて、ローラの回転による移動方向へ車台を移動させることができるので、平面上のすべての方向へ移動可能な全方向移動装置を実現することができる。
【0016】
本発明の第6実施態様に係る全方向移動装置では、第4実施態様に係る全方向移動装置において、姿勢安定システムは、モータの回転角を取得する角度検出部と、車体の姿勢角及び車体の角速度を取得する姿勢角度検出部と、角度検出部により取得された回転角と、姿勢角度検出部により取得された姿勢角及び角速度とに基づいて、姿勢を安定に維持する車体の運動状態を演算し、この演算結果に基づいてサーボアンプを制御する演算処理部と、を有する制御ユニットを備えている。
【0017】
第6実施態様に係る全方向移動装置によれば、姿勢安定システムは、角度検出部と、姿勢角度検出部と、演算処理部とを有する制御ユニットを備える。制御ユニットの角度検出部はモータの回転角を取得する。姿勢角度検出部は、車体の姿勢角及び車体の角速度を取得する。演算処理部は、取得された回転角、姿勢角及び角速度に基づいて、姿勢を安定に維持する車体の運動状態を演算する。さらに、演算処理部では、演算結果に基づいてサーボアンプが制御される。このため、姿勢安定システムでは、車台が移動すると車体の姿勢が安定に維持され、車体を動力学的に安定化させることができる。
【0018】
本発明の第7実施態様に係る全方向移動装置では、第1実施態様~第6実施態様のいずれか1つに係る全方向移動装置において、ホイールと車台との間に、ホイールから車台に伝達される振動を減少させる緩衝装置を更に備えている。
【0019】
第7実施態様に係る全方向移動装置によれば、緩衝装置がホイールと車台との間に設けられる。このため、走行路を移動中に走行路の路面状態に応じてホイールに発生する振動は緩衝装置により減少され、ホイールから車台及び車体に伝わる振動を小さくすることができる。
【0020】
本発明の第8実施態様に係る全方向移動装置では、第3実施態様に係る全方向移動装置において、車台の移動の際に車体の姿勢を変化可能とし、車台の移動を停止する際に車体の姿勢をロックするロック装置が、第1回転軸及び第2回転軸に装着されている。
【0021】
第8実施態様に係る全方向移動装置によれば、ロック装置が第1回転軸及び第2回転軸に装着される。このロック装置は、車台の移動の際に車体の姿勢を変化可能とし、車台の移動を停止する際に車体の姿勢をロックする。また、ロック装置は車台の停止状態においても車体の姿勢をロック可能とする。
このため、車台の移動を停止したときでも、車体の姿勢が安定に保持されるので、全方向移動装置の乗降時や緊急時における搭乗者の安全性を向上させることができる。
【0022】
本発明の第9実施態様に係る全方向移動装置の姿勢制御方法は、第6実施態様に係る全方向移動装置の姿勢安定システムを備え、姿勢安定システムに、モータの回転角を取得するステップと、車体の姿勢角及び車体の角速度を取得するステップと、回転角、姿勢角及び角速度に基づいて、姿勢を安定に維持する車体の運動状態を演算するステップと、この演算結果に基づいてサーボアンプを制御して姿勢を安定に維持させた状態において車台を移動させるステップと、を実行させる。
【0023】
第9実施態様に係る全方向移動装置の姿勢制御方法では、まず、モータの回転角が取得され、車体の姿勢角及び車体の角速度が取得される。次に、これらの取得された回転角、姿勢角及び角速度に基づいて、姿勢を安定に維持する車体の運動状態が演算される。演算結果に基づいて、車体の姿勢を安定に維持させた状態において、車台が移動する。このため、姿勢制御方法では、全方向移動装置の車体を動力学的に安定化させて、車台を移動させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、静力学的に不安定な車体を動力学的に安定化し、しかも推進力を向上させ、かつ、静粛性を改善することができる全方向移動装置及びその姿勢制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係る全方向移動装置を前方右斜め上方から見た外観斜視図である。
【
図2】(A)は
図1に示される全方向移動装置を上方から見た平面図、(B)は同全方向移動装置を前方から見た正面図、(C)は同全方向移動装置を側面から見た側面図である。
【
図3】(A)は
図1に示される全方向移動装置の車台を前方右斜め上方から見た外観斜視図、(B)は車台を上方から見た平面図、(C)は車台を前方から見た正面図、(D)は車台を側面から見た側面図である。
【
図4】(A)は
図3に示される車台の1つのホイール及びこのホイールを有する駆動ユニットを前方斜め上方から見た外観斜視図、(B)は駆動ユニットを上方から見た平面図、(C)はホイール及び駆動ユニットを前方側から見た正面図、(D)はホイール及び駆動ユニットを側面側から見た側面図である。
【
図5】(A)
図1に示される全方向移動装置の自在継手及びロック装置を上方から見た一部断面を含む要部拡大平面図、(B)は自在継手及びロック装置を側面から見た要部拡大側面図である。
【
図6】
図1に示される全方向移動装置に組み込まれる姿勢安定システムを説明するブロック図である。
【
図7】(A)は三次元座標系において第1実施の形態に係る全方向移動装置をモデル化して示す概略斜視図、(B)は第1実施の形態に係る全方向移動装置の車台及びホイールをモデル化して示す概略平面図である。
【
図8】
図6に示される姿勢安定システムのアルゴリズムを説明するブロック図である。
【
図9】
図6に示される姿勢安定システムの姿勢制御方法を説明するフローチャートである。
【
図10】本発明の第2実施の形態に係る全方向移動装置を前方右斜め上方から見た外観斜視図である。
【
図11】(A)は
図10に示される全方向移動装置を上方から見た平面図、(B)は同全方向移動装置を後方から見た背面図、(C)は同全方向移動装置を側面から見た側面図である。
【
図12】(A)は
図10に示される全方向移動装置の車台を後方左斜め上方から見た外観斜視図、(B)は車台を上方から見た平面図、(C)は車台を前方から見た正面図、(D)は車台を側面から見た側面図である。
【
図13】(A)は
図12に示される車台の1つのホイール及びこのホイールを有する駆動ユニットを前方右斜め上方から見た外観斜視図、(B)はホイール及び駆動ユニットを上方向から見た平面図、(C)はホイール及び駆動ユニットを前方から見た正面図、(D)はホイール及び駆動ユニットを側面から見た側面図である。
【
図14】(A)は三次元座標系において第2実施の形態に係る全方向移動装置をモデル化して示す概略斜視図、(B)は第2実施の形態に係る全方向移動装置の車台及びホイールをモデル化して示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施の形態)
以下、
図1~
図9を用いて、本発明の第1実施の形態に係る全方向移動装置及びその姿勢制御方法を説明する。
なお、図中、適宜示される矢印X 方向は全方向移動装置(車両)の車両前方向を示し、矢印Y 方向は矢印X 方向と直交する全方向移動装置の車両幅方向を示している。すなわち、矢印X 方向、矢印Y 方向は、三次元座標の水平面を示すX 軸方向、Y 軸方向に一致する。また、矢印Z 方向は矢印X 方向及び矢印Y 方向に対して直交する方向において車両上方向を示している。矢印Z 方向は三次元座標の垂直方向を示すZ 軸方向に一致する。
ここで、全方向移動装置の適用方向が本実施の形態に限定されるものではない。
【0027】
[全方向移動装置の構成]
図1及び
図2(A)~
図2(C)に示されるように、本実施の形態に係る全方向移動装置1は、全方向へ移動可能な車台2と、車台2上に配設された車体3と、車台2を移動させ、かつ、車体3の姿勢を安定に維持する姿勢安定システム4とを備えている。さらに、全方向移動装置1は車台2と車体3とを連結する自在継手5を含んで構成されている。ここで、全方向とは、旋回を含めて、平面上の前後左右、斜め方向の全ての方向という意味において使用されている。
【0028】
(1)車台2の構成
図1及び
図2(A)~
図2(C)、特に
図3(A)~
図3(D)に示されるように、車台2は車台本体21を備えている。この車台本体21は、底板部211と、天板部212と、側板部213とを含んで構成されている。
底板部211は、車両上下方向を厚さ方向とする板材を用いて形成され、平面視において車両前後方向及び車両左右幅方向に突出する十字形状に形成されている。
天板部212は底板部211の上方に底板部211から離間して配置されている。天板部212は、底板部211と同様に、車両上下方向を板厚方向とする板材を用いて形成され、平面視において十字形状の板材により形成されている。
側板部213は底板部211と天板部212との間に設けられている。この側板部213は、平面方向を板厚方向とする板材を用い、板厚方向を直交させた2枚の板材を繋いで形成され、平面視において周辺側に開口されたV字形状に形成されている。この2枚の板材を繋いだV字形状の側板部213は、平面視において底板部211及び天板部212の十字形状に突出する部位に、ここでは4箇所に配置されている。なお、V字形状の側板部213は1枚の板材を折り曲げて形成してもよい。
【0029】
底板部211、天板部212、側板部213はここでは十分な機械的強度を有する金属材料又は樹脂材料により形成されている。例えば、金属材料として、鉄、ステンレス鋼を含む鉄合金及びアルミニウム合金から選択された少なくとも1つが使用されている。樹脂材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastic)及びガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass Fiber Reinforced Plastic)から選択された少なくとも1つが使用されている。
【0030】
隣合うV字形状の側板部213間において、車台本体21には姿勢安定システム4を構築する駆動ユニット22が配設されている。詳しく説明すると、底板部211及び天板部212の十字形状の車両前方側に突出した部位と、全方向移動装置1に搭乗した搭乗者から見て車両幅方向右側に突出した部位との間に駆動ユニット22Aが配設されている。同様に、底板部211及び天板部212の十字形状の車両後方側に突出した部位と車両幅方向右側に突出した部位との間に駆動ユニット22Bが配設されている。底板部211及び天板部212の十字形状の車両後方側に突出した部位と車両幅方向左側に突出した部位との間に駆動ユニット22Cが配設されている。そして、底板部211及び天板部212の十字形状の車両前方側に突出した部位と車両幅方向左側に突出した部位との間に駆動ユニット22Dが配設されている。
すなわち、駆動ユニット22は合計4個の駆動ユニット22A~駆動ユニット22Dを備えている。駆動ユニット22は、2個以上を備えることを基本構成としているが、本実施の形態では3個以上を備え、走行路に対する車台2の静力学的な安定性が確保されている。
【0031】
特に
図4(A)~
図4(D)に示されるように、駆動ユニット22の駆動ユニット22Aは、駆動ユニット筐体221を備え、モータ26と、減速機24と、
図1及び
図2に示されるサーボアンプ28と、を含んで構成されている。
駆動ユニット筐体221は、前壁221Aと、後壁221Bと、左右一対に配置された側壁221C及び側壁221Dと、天壁221Eとを有し、底面の一部(後述するホイール23の配設部分)が開放された箱状に形成されている。前壁221Aは車台外側に配置され、後壁221Bは前壁221Aよりも車台内側に配置されている。側壁221C及び側壁221Dは前壁221Aと後壁221Bとの間に互いに離間して配置されている。天壁221Eは前壁221A、後壁221B、側壁221C、側壁221Dのそれぞれの上部に配置されている。
【0032】
モータ26は、電動モータであり、駆動ユニット筐体221の後壁221Bに装着されている。このモータ26の図示を省略した駆動回転軸は、駆動ユニット筐体221内部に配設された図示を省略した減速機24の減速回転軸241の一端(図示省略)に連結されている。減速回転軸241の他端は、駆動ユニット筐体221の前壁221Aに、回転軸a(
図4(A)、
図4(B)及び
図4(D)参照)を中心として回転自在に支持されている。
【0033】
減速回転軸241には全方向へ車台2を移動可能なホイール23が配設されている。
図4(D)に示されるように、ホイール23は、減速回転軸241の車台外側に取り付けられた第1オムニホイール231と、減速回転軸241の車台内側に取り付けられた第2オムニホイール232とを備えている。すなわち、第1オムニホイール231、第2オムニホイール232は、減速回転軸241の回転軸a方向に沿ってこの減速回転軸241に2連構成により取付けられている。
【0034】
図4(C)に示されるように、第1オムニホイール231は、減速回転軸241に固定された円板状の駆動車輪231Aの円周上に、円周方向を回転軸b方向としてフリーに回転する樽状のローラ231Bを複数配設して構成されている。回転軸bは回転軸aに対してねじれの位置において直交している。ローラ231Bは、駆動車輪231Aの円周上に、等間隔の配列ピッチにおいて、ここでは5個配列されている。
一方、
図4(D)に示されるように、第2オムニホイール232は、第1オムニホイール231と同様に、減速回転軸241に固定された円板状の駆動車輪232Aの円周上に、円周方向を回転軸方向としてフリーに回転する樽状のローラ232Bを複数配設して構成されている。ローラ232Bは、駆動車輪232Aの円周上に等間隔の配列ピッチにおいてローラ231Bと同数配列され、ローラ231Bの配列ピッチに対して半ピッチ分ずらして配列されている。
【0035】
図3(A)、
図3(C)、
図3(D)及び
図4(A)~
図4(D)示されるように、駆動ユニット22Aは緩衝装置27を介して車台本体21に配設されている。緩衝装置27は、走行路からホイール23を介して車台2に伝達される振動を減衰させて小さくする。詳しく説明すると、この個数に限定されるものではないが、
図4(A)~
図4(D)に示されるように、緩衝装置27は、駆動ユニット筐体221の側壁221Cに配設された第1緩衝セル271及び第2緩衝セル272と、側壁221Dに配設された第3緩衝セル273及び第4緩衝セル274との合計4個を含んで構成されている。
【0036】
第1緩衝セル271は、側壁221Cの下部に配設され、第1支持部27Aと、第2支持部27Bと、連結部27Cと、図示を省略した緩衝材とを備えている。
第1支持部27Aは、側壁221Cに支持され、この側壁221Cから外側へ立設されている。第2支持部27Bは、
図3(A)~
図3(D)に示される車台本体21の側板部213の下部に支持され、この側板部213から外側へ立設されて第1支持部27Aと平行に配置されている。連結部27Cは、第1支持部27A及び第2支持部27Bを取り囲むリング状に形成され、第1支持部27Aと第2支持部27Bとを連結すると共に、第1支持部27A、第2支持部27Bのそれぞれを中心として回動する構成とされている。緩衝材には例えばラバースプリングが使用されている。
この緩衝材は、第1支持部27Aと連結部27Cとの間と、第2支持部27Bと連結部27Cとの間に挿入され、第1支持部27A、第2支持部27Bのそれぞれに対して連結部27Cを回動可能に支持している。そして、緩衝材では、第1支持部27Aから連結部27Cへ伝達される振動を減衰し、連結部27Cから第2支持部27Bへ伝達される振動を減衰させることができる。
【0037】
第2緩衝セル272は、側壁221Cの上部において、第1緩衝セル271の上方に第1緩衝セル271と平行に配設されている。第2緩衝セル272は、第1緩衝セル271と同一の構成とされ、第1支持部27A、第2支持部27B、連結部27C及び緩衝材を備えている。
第3緩衝セル273及び第4緩衝セル274は、駆動ユニット筐体221の側壁221Dと車台本体21の側板部213との間に配設され、第1緩衝セル271及び第2緩衝セル272と同一の構成とされている。
【0038】
そして、
図3(A)~
図3(D)に示される駆動ユニット22の駆動ユニット22B~駆動ユニット22Dは、駆動ユニット22Aと同一の構成とされている。
図3(A)及び
図3(B)に示されるように、車台本体21の底板部211及び天板部212の車両前後方向へ突出する方向(矢印X 方向)に対して、駆動ユニット22A及び駆動ユニット22Cの配列方向は平面視において時計回りに45度傾けて設定されている。駆動ユニット22D及び駆動ユニット22Bの配列方向は、同一方向に対して、反時計回りに45度傾けて設定されている。
なお、駆動ユニット22A~駆動ユニット22Dの配列方向は本実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記同一方向に対して、駆動ユニット22A及び駆動ユニット22Cの配列方向は時計回りに30度又は60度傾けて設定し、駆動ユニット22D及び駆動ユニット22Bの配列方向は反時計回りに30度又は60度傾けて設定してもよい。
【0039】
(2)車体3の構成
図1及び
図2(A)~
図2(C)に戻って、車体3は、車体本体31と、ハンドル32と、足置き部33とを含んで構成されている。車体本体31は車台2上に配設されている。車体本体31は、平面視において、車台2を覆う、大凡、矩形状に形成されている。車体本体31の車両上下方向の外径寸法は、車台2の同一方向の外径寸法と同等か、それよりも大きい設定とされている。
【0040】
車体本体31の車両前端部中央には上方に立設されたハンドルサポート321が配設され、ハンドルサポート321の上端部にハンドル32が装着されている。ハンドル32は車両幅方向外側へ向かって左右にそれぞれ突出された棒状に形成され、搭乗者はハンドル32に捕まって立ち状態において全方向移動装置1を走行させる。ハンドル32は、ここでは、垂直軸(Z 軸)周りに旋回しない固定式とされている。
図示を省略しているが、全方向移動装置1の走行の開始や停止を行う始動スイッチ、全方向移動装置1の走行中の速度を制動するブレーキ等はハンドル32周りに装着されている。また、保安部品として、ライト、フロントウインカ等が、ハンドル32又はハンドルサポート321に装着可能である。さらに、保安部品としてのリアウインカ、ブレーキランプ等が、車体本体31の車両後端部の適正箇所に装着可能である。
なお、車体本体31は、車台本体21の底板部211等と同様に、金属材料又は樹脂材料により形成されている。
【0041】
足置き部33は、車体本体31の車両前後方向中間部において、車両幅方向外側に左右一対に配設されている。足置き部33は、車両前後方向及び車両幅方向に広がる平坦部位を備え、搭乗者の右足及び左足を載せる部位として使用されている。
【0042】
車体本体31の前端部において、ハンドルサポート321よりも車両幅方向外側には左右一対に車体カバー34が取り付けられている。この車体カバー34の内部には、前述の駆動ユニット22を構築するサーボアンプ28が収納されている。
また、車体本体31の車両前後方向中間部から後端部にわたって、一対の足置き部33に挟まれた部位には車体カバー35が取り付けられている。この車体カバー35の内部には、姿勢安定システム4の制御ユニット40(
図6参照)の一部が収納されている。
なお、足置き部33を含み、車体カバー34及び車体カバー35は、車台本体21の底板部211等に使用される樹脂材料と同一樹脂材料により形成されている。樹脂材料が使用されることにより、複雑な形状が簡単に成形可能である。
【0043】
(3)自在継手5の構成
図2(B)、
図2(C)、
図3(A)~
図3(D)、
図5(A)及び
図5(B)、特に
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、自在継手5は、第1回転軸51と、第2回転軸52と、スパイダ55とを含んで構成されている。
【0044】
スパイダ55は、車両上下方向を軸方向とする中空角筒状に形成され、車両前後方向に対向する外周面55A及び外周面55Bと、車両幅方向左右に対向する外周面55C及び外周面55Dとを有し、平面視において矩形状の端面形状に形成されている。実際には、隣接する外周面55Aと外周面55Cとの間等、外周面間に面取りが施されているので、スパイダ55の端面形状は八角形状に形成されている。
【0045】
第1回転軸51は、車台2の移動方向の1つ、ここでは車両幅方向を第1軸方向y として構成され、車体本体31の車両前後方向の中間下部に第1軸方向y に沿って互いに離間されて一対に設けられている。一対のうちの一方の第1回転軸51は、スパイダ55の外周面55Cにこの外周面55Cから車両幅方向右側へ突出して形成されている。他方の第1回転軸51は、外周面55Dにこの外周面55Dから車両幅方向左側へ突出して形成されている。一方の第1回転軸51よりも他方の第1回転軸51の第1軸方向y の長さは長く設定されている。第1回転軸51は、スパイダ55に固定され、スパイダ55に一体に、又は接合されて形成されている。
【0046】
この一対の第1回転軸51は、第1軸方向y において互いに離間された一対の第1支持部53を介して車体本体31の車両前後方向中間部に支持されている。
詳しく説明すると、一方の第1回転軸51は、スパイダ55の車両幅方向右側に配置され、かつ、外周面55Cに対向して配置された一対のうちの一方の第1支持部53に固定されたベアリング53Aに嵌込まれている。他方の第1回転軸51は、スパイダ55の車両幅方向左側に配置され、かつ、外周面55Dに対向して配置された他方の第1支持部53に固定されたベアリング53Bに嵌込まれている。
【0047】
第2回転軸52は、車台2の移動方向の他の1つであって第1軸方向y と交差する、ここでは直交する車両前後方向を第2軸方向x として構成され、車台2の天板部212の中央上部に第2軸方向x に沿って互いに離間されて一対に設けられている。本実施の形態では、第2軸方向x は第1軸方向y と同一平面上に設定されている。一対のうちの一方の第2回転軸52は、スパイダ55の外周面55Aにこの外周面55Aから車両前方側へ突出して形成されている。他方の第2回転軸52は、外周面55Bにこの外周面55Bから車両後方側へ突出して形成されている。一方の第2回転軸52よりも他方の第2回転軸52の第2軸方向x の長さは長く設定されている。第2回転軸52は、第1回転軸51と同様にスパイダ55に固定されている。
【0048】
この一対の第2回転軸52は、第2回転軸x において互いに離間された一対の第2支持部54を介して天板部212の中央部位に支持されている。
詳しく説明すると、一方の第2回転軸52は、スパイダ55の車両前方側に配置され、かつ、外周面55Aに対向して配置された一対のうちの一方の第1支持部54に固定されたベアリング54Aに嵌込まれている。他方の第2回転軸52は、スパイダ55の車両後方側に配置され、かつ、外周面55Bに対向して配置された他方の第2支持部54に固定されたベアリング54Bに嵌込まれている。
【0049】
このように構成される自在継手5は第1回転軸51を中心として車台2に対して車体3を回転可能(回動可能)とし、かつ、第2回転軸52を中心として車台2に対して車体3を回転可能(回動可能)としている。従って、自在継手5の対偶は2に設定されている。
自在継手5の第1回転軸51、第2回転軸52、スパイダ55は、いずれも、機械的強度が高い、例えば金属材料により形成されている。
また、本実施の形態では、自在継手5の第1回転軸51及び第2回転軸52は同一平面上に設定されているが、第1回転軸51が第2回転軸52よりも車両下方側に配置されて第1回転軸51と第2回転軸52とがねじれの位置とされてもよい。
【0050】
(4)ロック装置7の構成
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、ロック装置7は、自在継手5の第1回転軸51に装着された第1ロック装置71と、第2回転軸52に装着された第2ロック装置72とを含んで構成されている。さらに、ロック装置7は、第1ロック装置71及び第2ロック装置72を作動させるロック作動部73を備えている。
【0051】
第1ロック装置71は、フランジ継手711と、ブレーキプレート(ディスク)712と、ブレーキキャリパ713とを含んで構成されている。
フランジ継手711は、他方の第1回転軸51の第1支持部53よりも車両幅方向左側へ突出された端部に固定され、ブレーキプレート712を連結する構成とされている。連結には、ボルトナット等の締結部材が使用されている。
ブレーキプレート712は、フランジ継手711との連結部位から車両後方側へ向かって延設され、車両幅方向を板厚方向とし、車両側面視において扇形状(
図5(B)に示されるブレーキプレート722を参照)の金属製板材により形成されている。第1回転軸51の回転範囲は例えば最大30度以内の角度範囲に限られている。このため、ブレーキプレート712は、円形状ではなく、第1回転軸51を中心として第1回転軸51の回転範囲と同等の角度から二倍の角度までの範囲において広がりを有する扇形状を持って足りる。
【0052】
ブレーキキャリパ713は、ブレーキプレート712の延設された部位をブレーキパッド714を介して両面から挟込む構成とされている。つまり、ブレーキキャリパ713は、ブレーキプレート712を挟込み、ブレーキプレート712とブレーキパッド714との間に摩擦を発生させて第1回転軸51周りのブレーキプレート712の回転をロックする。ブレーキキャリパ713はブラケット715を介して車体本体31に取付けられている。取付けには、ボルトナット等の締結部材が使用されている。
【0053】
第2ロック装置72は、第1ロック装置71と同様の構成とされ、フランジ継手721と、ブレーキプレート722と、ブレーキキャリパ723とを含んで構成されている。
フランジ継手721は、他方の第2回転軸52の第2支持部54よりも車両後方側へ突出された端部に固定され、ブレーキプレート722を連結する構成とされている。
ブレーキプレート722は、フランジ継手721との連結部位から車両幅方向右側へ向かって延設され、車両前後方向を板厚方向とし、車両後方視においてブレーキプレート712と同様に扇形状の金属製板材により形成されている。
【0054】
ブレーキキャリパ723は、ブレーキプレート722の延設された部位をブレーキパッド724を介して両面から挟込む構成とされている。つまり、ブレーキキャリパ723は、ブレーキプレート722を挟込み、ブレーキプレート722とブレーキパッド724との間に摩擦を発生させて第2回転軸52周りのブレーキプレート722の回転をロックする。ブレーキキャリパ723はブラケット725を介して天板部212に取付けられている。
【0055】
ロック作動部73は、
図5(A)に簡略化してブロックとして示されているが、本実施の形態では、油圧式ロック作動部又は機械式ロック作動部として構成されている。
図示は省略するが、油圧式ロック作動部は、ブレーキレバーと、マスタシリンダと、マスタシリンダとブレーキキャリパ713及びブレーキキャリパ723との間を連結するブレーキホースとを含んで構成されている。ブレーキレバー及びマスタシリンダは
図1等に示されるハンドル32に装着されている。搭乗者がブレーキレバーを握ると、マスタシリンダ内のブレーキフルードが加圧され、ブレーキフルードはブレーキホースを通してブレーキキャリパ713、ブレーキキャリパ723のそれぞれの内部のピストンを加圧する。これにより、ブレーキパッド714はブレーキプレート712に押付けられ、双方の間に摩擦が発生する。同様に、ブレーキパッド724はブレーキプレート722に押付けられ、双方の間に摩擦が発生する。
機械式ロック作動部では、油圧式ロック作動部のブレーキレバーからブレーキパッドへの力の伝達にワイヤと梃の原理とが使用されている。
【0056】
また、ロック作動部73は、
図5(A)及び
図6に示されるように、後述する姿勢安定システム4を構築する演算処理部43に接続されている。ロック作動部73では、車台2の移動を停止する際に、演算処理部43へロック作動を表す信号が出力される構成とされている。すなわち、ロック装置7は、車台2の移動の際に車体3の姿勢を変化可能とし、車台2の移動を停止する際において車体3の姿勢をロックし、かつ、演算処理部43を介して車台2の移動を停止させる構成とされている。
さらに、車台2が停止状態の際には、演算処理部43からロック作動を表す信号がロック作動部73へ出力される構成とされている。これにより、ロック装置7では、車台2の停止状態の際に車体3の姿勢をロックすることができる。
【0057】
なお、ロック作動部73は、ブレーキレバー方式に代えて、
図1等に示される足置き部33に装着されるフットブレーキ方式としてもよい。また、ロック作動部73は、電磁石を用いてブレーキパッド714及びブレーキパッド724を移動させる電磁式ロック作動部としてもよい。
さらに、ロック装置7の第1ロック装置71は一対として第1回転軸51の両端部に各々装着し、同様に第2ロック装置は一対として第2回転軸52の両端部に各々装着してもよい。この場合、車体3の姿勢をロックする制動力を向上させることができる。
【0058】
(5)姿勢安定システムの構成
姿勢安定システム4は、
図1~
図4に示される駆動ユニット22と、
図6に示される制御ユニット40とを含んで構成されている。制御ユニット40は、角度検出部と、姿勢角度検出部42と、演算処理部43とを含んで構築されている。制御ユニット40は、更にデジタルアナログ変換器(D/A変換器)44を備えている。制御ユニット40の大半の構成要素は、
図1及び
図2(A)~
図2(C)に示される車体本体31に搭載され、車体カバー35の内部に収納されている。
【0059】
また、姿勢安定システム4は、操作表示部41、電源46のそれぞれを備えている。
姿勢安定システム4では、車体3の姿勢を安定に維持した状態において、車台2を走行させることができる。
【0060】
詳しく説明すると、角度検出部は、符号を付していないが、
図6に示されるように、モータ26に装着されたセンサと、サーボモータ28と、パルスカウンタ45とを含んで構成されている。センサには、モータ26の回転軸の回転速度と位置とを検出するエンコーダ(Encoder)、又は回転軸の回転角度を検出するレゾルバ(Resolver)が使用されている。サーボモータ28は、センサから出力される信号を増幅し、パルスカウンタ45に出力する。パルスカウンタ45は、回転軸の単位時間当たりの回転数をカウントして回転角情報を生成し、この回転角情報を演算処理部43へ出力する。
【0061】
図6に示される姿勢角度検出部42は車体本体31に装着されている。姿勢角度検出部42には、例えば慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)が使用されている。姿勢角度検出部42は、車体3の姿勢角を検知して姿勢角情報を取得し、更に車体3の各軸周りの姿勢角の変化に伴う角速度を検知して角加速度情報を取得する。
ここで、姿勢角度検出部42では、自在継手5の第1回転軸51を中心として回転する車体3の姿勢角及び角速度、第2回転軸52を中心として回転する車体3の姿勢角及び角速度のそれぞれに基づく姿勢角情報及び角速度情報が取得される。
【0062】
演算処理部43は、車台2に対する車体3の姿勢を安定に維持する車体3の運動状態を演算し、この演算結果に基づいてサーボアンプ28を介してホイール23の回転を制御して、車体3の姿勢を安定に維持させて車台2を走行させるトルク指令情報を生成する。このトルク指令情報はデジタルアナログ変換器44へ出力される。演算処理部43には例えばmini-ITX規格準拠の組込み用パーソナルコンピュータが使用されている。詳細な制御方法は後述する。
【0063】
デジタルアナログ変換器44はトルク指令情報を取得する。デジタルアナログ変換器44では、トルク指令情報がデジタル情報からアナログ情報に変換される。このアナログ情報に変換されたトルク指令情報はサーボアンプ28へ出力され、トルク指令情報に基づいてサーボアンプ28はモータ26の回転を制御する。また、演算処理部43はサーボアンプ28へシーケンス指令情報を出力する。
【0064】
操作表示部41は、姿勢安定システム4の起動及び終了の操作、姿勢安定システム4の動作状態の表示等を行う。
そして、姿勢安定システム4には着脱自在とされる電源46が搭載されている。電源46には二次電池、具体的にはバッテリが使用されている。また、電源46は、制御系に電源を供給する二次電池と、動力系に電源を供給する二次電池とを含んで構成されている。詳しく説明すると、制御系には、姿勢角度検出部42、操作表示部41、演算処理部43、デジタルアナログ変換器44及びパルスカウンタ45が含まれている。一方、動力系には、サーボアンプ28及びモータ26が含まれている。電源46は、車体カバー35の内部に収納されている。
【0065】
[全方向移動装置の姿勢制御方法]
前述の全方向移動装置1の姿勢制御方法は以下の通りである。ここで、
図7(A)は三次元座標系において第1実施の形態に係る全方向移動装置1をモデル化して示す概略斜視図、
図7(B)は全方向移動装置1の車台2及びホイール(オムニホイール)23をモデル化して示す概略平面図である。
図8は姿勢制御方法を実現するアルゴリズムを説明するブロック図である。
図9は姿勢制御方法を説明するフローチャートである。また、姿勢制御方法の説明では、適宜、
図1~
図6が参酌される。
【0066】
(1)全方向移動装置1の車台2の運動学
まず最初に、
図1~
図6に示される全方向移動装置1の車台2及び車体3の運動学を、
図7(A)を用いて説明する。ここで、三次元座標はX 軸X
0 、Y 軸Y
0 、Z 軸Z
0 により表されている。
【0067】
全方向移動装置1において、車台2の車両前後方向の軸はXc 軸、車台2の車両幅方向の軸はYc 軸、自在継手5の中心を通る車台2の上下方向の軸はZc 軸と定義される。
【0068】
車台2に取り付けられた自在継手5の位置の速度ベクトルv
c は下記式(1)により表される。
【数1】
車台2の角速度ベクトルω
c は下記式(2)により表される。
【数2】
車台2の中心2Cを始点とするk 番目のホイール23の中心の位置ベクトルp
k は下記式(3)により表される。ここで、本実施の形態では4つの駆動ユニット22A~22Dを備え、4つのホイール23を備えているので、k は1、…、4である。ホイール23は、
図4(D)に示される第1オムニホイール231及び第2オムニホイール232を1つのオムニホイールと見なしている。
【数3】
k 番目のホイール23の角速度ベクトルをω
k とし、角速度ベクトルω
k は角速度ベクトルω
k の大きさ(|ω
k|)とされる。
ホイール23の中心を始点とするホイール23の接地点の位置ベクトルは下記式(4)により表される。r
w はホイール23の半径である。
【数4】
k 番目のホイール23の接地点を始点とするローラ231B又はローラ232B(以下、単に「ローラ23B」と省略する)の回転軸bと平行な単位ベクトル(オムニホイールの接線ベクトル)t
k は下記式(5)により表される。
【数5】
【0069】
上記定義により、k 番目のホイール23の接地点の速度v
k は下記式(6)により表される。ここで、下記式(6)において、記号「×」はベクトル積を表す。
【数6】
【0070】
k 番目のホイール23のローラ23Bが接地点において接地し、ローラ23Bが軸方向に滑らないと仮定すると、速度v
k と単位ベクトルt
k との間に下記式(7)の関係が成立する。ここで、下記式(7)において、記号「・」はスカラー積を表す。
【数7】
【0071】
上記式(6)を式(7)に代入し、角速度ベクトルω
c 、位置ベクトルp
k 、角速度ベクトルω
k 及び単位ベクトルt
k がZ 軸Z
0 と直交し、角速度ベクトルω
c 及び半径r
wがZ 軸Z
0 に平行であり、更に角速度ベクトルω
k と単位ベクトルt
k とが直交していることを考慮すると、下記式(8)が得られる。
【数8】
【0072】
k を1、…、4として上記式(8)を纏めて表記すると、下記式(9)が得られる。
【数9】
【0073】
特に、位置ベクトルp
k と単位ベクトルt
k とが直交する場合(位置ベクトルp
k と角速度ベクトルω
k とが平行な場合)、上記式(9)は下記式(10)により表される。
【数10】
【0074】
車台2の一般化速度ベクトル、ホイール23の角速度を纏めたベクトルω
w 、速度伝達行列T は、各々、下記式(11)~下記式(13)により定義される。
【数11】
【数12】
【数13】
上記定義により、ホイール23の角速度ω
w と車台2の一般化速度ベクトルとの関係は下記式(14)により表される。ここで、一般化速度ベクトルは台車2の一般化座標q
c の時間微分である。
【数14】
【0075】
上記式(14)は一般化速度ベクトルの優決定系であり、一般化速度ベクトルの最小二乗解は速度伝達行列T の一般化逆行列を用いて、下記式(15)により与えられる。
【数15】
T
T は速度伝達行列T の転置行列を表す。ホイール23の配置が適切であれば、T
TT の逆行列が存在する。
【0076】
仮想仕事の原理に基づいて、ホイール23のトルクを纏めたベクトルτ
w と車台2の下記式(16)により表される一般化力ベクトルとは下記式(17)の関係を満たす。
【数16】
【数17】
ここで、単位ベクトルf
x は車台2のX
c軸方向の推進力、f
y は車台2のY
c 軸方向の推進力、τ
z は車台2のZ
c 軸周りの旋回トルクである。
【0077】
上記式(17)はベクトルτ
w の劣決定系であり、ベクトルτ
w の最小ノルム解はT
T の一般化逆行列を用いて、下記式(18)により与えられる。
【数18】
【0078】
例えば、
図7(B)に示されるように、車台2の中心2Cから各ホイール23までの距離p がすべて等しい場合、かつ、各ホイール23が互いに90度に等間隔に配列された場合、上記式(13)に記述された速度伝達行列T のそれぞれの行列成分は下記式(19)に示される値となる。
【数19】
この値を上記式(13)に代入すると、下記式(20)に示される通り、速度伝達行列T を算出することができる。
【数20】
【0079】
(2)全方向移動装置1の車体3の運動学
全方向移動装置1において、車体3の車両前後方向の軸はXb 軸、車体3の車両幅方向の軸はYb 軸、車体3の上下方向の軸はZb 軸と定義される。
車体3は、X0 軸-Y0 軸水平面内を移動(走行)する全方向移動装置1の車台2に自在継手5を介して連結されている。自在継手5により、車体3は、車台2に対して、Y 軸(第1軸方向y )周り及びX軸(第2軸方向x )周りに自由に回転して傾く構成とされている。また、車体3は、車台2の旋回に追従して、Z 軸周りに旋回する構成とされている。
【0080】
車体3の姿勢行列R
b は、これらの3軸に関する姿勢角を使って、下記式(21)により表される。
【数21】
Rot(A, θ )はA 軸周りに角度θ だけ回転させるときの回転変換行列を表している。ここで、α 、β 、γ はそれぞれヨー角、ピッチ角、ロール角である。
【0081】
図7(A)に示される車体3の重心3Gは、車体3に固定された座標系では下記式(22)に示される定数ベクトルである。この定数ベクトルは基準座標系では下記式(23)により表される。
【数22】
【数23】
【0082】
車体3の角速度ω
b はX軸周り、Y 軸周り及びZ軸周りの回転に起因するので、下記式(24)に示す通り、角速度ω
b を計算することができる。
【数24】
車体3の旋回は、車台2の旋回と等しく、下記式(25)により表される。
【数25】
【0083】
車体3の速度v
b は下記式(26)により与えられる。
【数26】
【0084】
(3)全方向移動装置1の動力学
1.運動方程式の導出
全方向移動装置1において、車台2の質量はm
c、車台2のZ 軸周りの慣性モーメントはJ
czと定義される。車台2の運動エネルギは、車台2の並進運動の運動エネルギと回転運動の運動エネルギとの和であり、下記式(27)により表される。
【数27】
【0085】
一方、車体3の質量はm
b と定義される。車体3に固定された座標系において、車体3の重心3G周りの慣性テンソルは、定数行列となり、下記式(28)により表される。
【数28】
【0086】
車体3の運動エネルギは、車体3の並進運動の運動エネルギと回転運動の運動エネルギとの和であり、下記式(29)により表される。
【数29】
【0087】
車体3のポテンシャルエネルギは下記式(30)により与えられる。ここで、g は重力加速度ベクトルである。
【数30】
【0088】
下記式(31)に示される全方向移動装置1全体のラグランジュアン(Lagrangian)を用いて、全方向移動装置1の運動方程式は下記式(32)により与えられる。
【数31】
【数32】
ここで、f
x は車台2の車両前後方向の推進力、f
y は車台2の車両前後方向の推進力、τ
z は車台2の旋回トルクである。
【0089】
基準座標系において、車台2の自在継手5の水平方向の位置座標を(x,y) と定義する。
下記式(33)に示される全方向移動装置1の一般化座標を選ぶと、上記式(32)に示される運動方程式は下記式(34)により表される。
【数33】
【数34】
【0090】
2.線形近似モデル
下記式(35)に示される車体3の平衡状態の近傍において、上記式(34)に示される運動方程式の線形近似モデルは下記式(36)により表される。
【数35】
【数36】
【0091】
上記式(36)に示される運動方程式に含まれる部分行列は、下記式(37)~式(40)に示される通りである。
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【0092】
上記式(36)に示される線形近似モデルの入力は車台2の一般化力Q
c である。車台2の一般化加速度を新たな入力(一般化目標加速度)u として上記式(36)を書き換えると、線形近似モデルは下記式(41)により表される。
【数41】
一般化力Q
c と新たな入力u とは下記式(42)に示す関係を満たしている。
【数42】
【0093】
上記式(41)に示される新たな線形近似モデルを用いて全方向移動装置1の移動を制御するには、下記式(43)に示される全方向移動装置1の状態量に基づいて、線形近似モデルを安定化させる新たな入力u が求められる。
【数43】
この新たな入力u に基づいて、上記式(42)により車台2が発生する一般化力Q
c が演算される。この演算結果に基づき、ホイール23が発生するトルクが上記式(18)により演算されて求められる。
【0094】
(4)全方向移動装置1の制御方法
1.車体の安定化
全方向移動装置1では、車体3が車台2に自在継手5を用いて連結されているので、走行時に車体3の姿勢を安定に維持する車台2の適切な運動が必要とされる。このため、本実施の形態では、全方向移動装置1に姿勢安定システム4が組み込まれている。
車台2の適切な運動を求めるため、下記式(44)に示される車体3の状態量の部分空間を状態量として、上記式(41)に示される線形近似モデルのサブシステムが作成される。
【数44】
このサブシステムは下記式(45)により表される。
【数45】
上記式(45)に示されるサブシステムを安定化する入力u、すなわち車台2の一般加速度が算出される。
【0095】
サブシステム中の行列は下記式(46)により表される。ここで、O
n はn 次正方零行列を意味する。
【数46】
【0096】
上記式(45)に示されるサブシステムに対して、一例として半正定の重み行列Q
d により決まる二次形式評価規範を最小化する静的な安定化フィードバック制御を用いると、走行時の車体3の姿勢を安定に保つことができる。
ここで、二次形式評価規範は下記式(47)により示される。また、静的な安定化フィードバック制御は下記式(48)により表される。
【数47】
【数48】
【0097】
2.摩擦や外乱が駆動系に及ぼす影響の低減
全方向へ移動可能なホイール23を駆動する際には、駆動ユニット22の減速機24に内在する摩擦や慣性モーメントを補償する必要がある。さらに、外乱による影響を低減する必要がある。
【0098】
このため、上記式(48)により決定される入力uを車台2の一般化目標加速度とし、この一般化目標加速度に車台2の一般化座標のフィードバック制御、ここではPID 制御(Proportional Integral Differential Controller)を加えた新たな操作量が使用される。
この新たな操作量(一般化操作加速度)は下記式(49)により表される。
【数49】
ここで、K
I、K
P、K
DはPID 制御のゲインである。
【0099】
上記式(49)のu
1 、u
2、u
3 のそれぞれは入力uの第1成分、第2成分、第3成分である。v
xd、x
d、v
yd 、y
d、x、yのそれぞれの目標値は下記式(50)により求められる。
【数50】
【0100】
上記式(49)に示される操作量から、車台2が発生すべき一般化力は上記式(42)と同様に下記式(51)により演算される。
【数51】
【0101】
各ホイール23が発生すべきトルクは、上記式(18)に基づいて、下記式(52)により演算される。
【数52】
【0102】
図4(A)、
図4(B)及び
図4(D)に示される駆動ユニット22のモータ26の回転軸(図示省略の回転子)と、減速機24の歯車(図示省略)及び減速回転軸241と、ホイール23とを含めた慣性モーメントの減速機24の出力側における値はJ
w と定義する。また、粘性摩擦係数はF
v、慣性摩擦トルクはF
c、減速機24の減速比はi
r と定義する。k 番目のホイール23を駆動するモータ26が出力すべきトルクは下記式(53)により算出される。
【数53】
ここで、τ
wk はτ
w のk 番目の成分である。また、sgn(・)は符号関数である。
上記式(53)において、k 番目の成分であるk 番目のホイール23の角加速度は下記式(54)により算出される。
【数54】
【0103】
3.全方向移動装置1の制御手順
全方向移動装置1の制御手順は
図9に示される通りである。
図6及び
図8を適宜参酌して、以下に制御手順について詳しく説明する。
【0104】
まず、
図6及び
図8に示される全方向移動装置1の姿勢安定システム4において、姿勢角度検出部42を用いて、車体3の姿勢角及び車体3の角速度が検出される。ここで、各記号、記号名並びに記号の定義は下記表(1)に示される通りである。
【表1】
姿勢安定システム4の演算処理部43において、車体3の姿勢角及び角速度が取得される(
図9に示されるステップS1。以下、単に「S1」と記載する。)。
【0105】
図4(A)、
図4(B)、
図4(D)及び
図6に示される駆動ユニット22のモータ26に設けられたパルスカウンタ45を用いて、すべてのホイール23の回転角(モータ26の回転角)が検出される。この検出された回転角は角速度情報として演算処理部43へ送られ、演算処理部43は角速度情報を取得する。演算処理部43では、角速度情報に基づいてホイール23の角速度が演算される(S2)。
演算処理部43において、速度伝達行列T の一般化逆行列とホイール23の角速度の情報に基づいて、上記式(15)により車台2の一般化速度が演算される(S3)。
【0106】
演算処理部43において、取得された車体3の姿勢角及び車体3の角速度の情報と、演算により取得された一般化速度の情報とに基づき、上記式(44)により車体3の状態量の部分空間を構成する。演算処理部43では、この部分空間を用いて、静的な安定化フィードバック制御の上記式(48)により、一般化目標加速度が演算される(S4)。
【0107】
演算された一般化目標加速度の情報と、一般化速度の情報とに基づき、演算処理部43では、上記式(50)によりvxd 、xd、vyd 、yd、x、yの各目標値が演算される。この各目標値の情報と、一般化目標加速度の情報とに基づき、演算処理部43では上記式(49)により車台2の一般化操作加速度が演算される(S5)。
【0108】
演算された一般化目標加速度の情報と、取得された車体3の姿勢角の情報とに基づいて、演算処理部43では、上記式(51)により車台2が発生すべき一般化力が演算される(S6)。引き続き、演算された一般化力の情報を用いて、演算処理部43では、上記式(52)によりホイール23が発生すべき出力トルクが演算される(S7)。
【0109】
演算された一般化操作加速度の情報に基づき、演算処理部43では、上記式(54)によりホイール23の角加速度が演算される。このホイール23の角加速度の情報と、ホイール23が発生すべき出力トルクの情報と、ホイール23の角速度の情報とに基づき、演算処理部43では、上記式(53)によりモータ26の出力トルクが演算される(S8)。
【0110】
演算処理部43は、演算により得られた出力トルクをトルク指令情報として、
図6に示されるデジタルアナログ変換器44へ送る。デジタルアナログ変換器44では、トルク指令情報がデジタル情報からアナログ情報へ変換され、この変換されたトルク指令情報がサーボアンプ28へ送られる。
サーボアンプ28は、モータ26を駆動制御し、ホイール23を回転駆動させて出力トルクを発生させる。
【0111】
なお、
図5(A)に示されるロック装置7のロック作動部73が作動されると、ロック装置7により車体3の姿勢がロックされ、かつ、演算処理部43はサーボアンプ28へホイール23の回転を停止させる制御を行う。
【0112】
(本実施の形態の作用及び効果)
本実施の形態に係る全方向移動装置1は、
図1及び
図2に示されるように、車台2と、車台2上に配設された車体3とを備えている。車台2にはホイール23が配設され、ホイール23は全方向へ移動可能とされる。
【0113】
ここで、全方向移動装置1は、
図2(B)、
図2(C)及び
図3に示される自在継手5及び特に
図6に示される姿勢安定システム4を備え、更に特に
図1~
図4に示される車台2には複数のホイール23が配設される。自在継手5は、車台2と車体3とを連結し、車台2に対して車体3の姿勢が変化可能とされる。
ホイール23が複数配設されると、これらのホイール23のすべてが走行路に接地される。このため、車台2の姿勢は走行路の路面の傾斜に合わせて変化する。これに対して、車体3は自在継手5を介して車台2に連結されるので、車体3の姿勢は車台2の姿勢に連動しない。つまり、車体3は、単に自在継手5を介して車台2に連結されているので、車台2に対して静力学的に不安定である。
姿勢安定システム4は、車体3の姿勢が変化した方向へ車台2を移動させ、かつ、車体3の姿勢を安定に維持する。つまり、姿勢安定システム4を備えるので、車台2が移動すると車体3の姿勢が安定に維持され、車体3は動力学的に安定化される。
そして、複数配設されたホイール23と走行路との接地箇所が複数箇所とされるので、ホイール23と走行路との接地面積が増加され、移動時にホイール23は十分なグリップ力を得られる。十分なグリップ力が得られるので、走行路の粉塵や液体がたとえホイール23表面に付着したとしても、走行路に対するホイール23の滑りが小さくなる。
さらに、複数のホイール23が走行路に接地するので、単一の球体が走行路に接地する場合に比べると、段差や不整地の移動時に車台2及び車体3に伝わる振動が小さくなる。
【0114】
従って、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、静力学的に不安定な車体3を動力学的に安定化し、しかも推進力を向上させ、かつ、静粛性を改善することができる。
【0115】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、
図2及び
図3に示されるように、自在継手5の対偶が2とされるので、車体3は車台2に対して2つの方向に自由度があり、この2つの方向において車体3の姿勢を変化させることができる。
例えば、仮に三次元座標のY 軸方向(第1軸方向y )を第1回転軸51として第1回転軸51周りに回動する自由度と、X 軸方向(第2軸方向x )を第2回転軸52として第2回転軸52周りに回動する自由度との2つの自由度が設定される。この2つの自由度の範囲において車体3の姿勢を変化させることができる。ここで、Z 軸方向を第3回転軸とする軸周りに回動する自由度は設定されない。このため、車台2を旋回させたときに、車台2の旋回に追従させて車体3を旋回させることができる。つまり、車体3の空回りを無くすことができる。
【0116】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図3に示されるように、自在継手5は第1回転軸51、第2回転軸52及び継手部55を備える。第1回転軸51は、車台2上部に支持され、車台2の移動方向の1つを第1軸方向y とする。第2回転軸52は、車体3下部に支持され、車台2の移動方向の他の1つであって第1軸方向y に直交する方向を第2軸方向x とする。継手部55は、第1軸方向y を中心として回転可能とされ、かつ、第2軸方向x を中心として回転可能とされる。
このため、第1軸方向y 及び第2軸方向x の2つの回転軸を中心として継手部55が回転可能とされるので、対偶が2の自在継手5を簡単に実現することができる。
【0117】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図6に示されるように、姿勢安定システム4は駆動ユニット22を備える。駆動ユニット22は、モータ26と、減速機24(例えば
図4参照)と、サーボアンプ28とを含んで構成される。
図4に示されるように、モータ26は車台2に設けられる。減速機24は、
図4に示されるように車台2に設けられ、モータ26の回転駆動力を減速してホイール23に伝達する。サーボアンプ28は、
図1及び
図2に示されるように車体3に設けられ、
図6に示されるようにモータ26に連結されてモータ26を駆動する。
これらを含んで構成される駆動ユニット22を備えるので、姿勢安定システム4では、車台2が移動すると車体3の姿勢が安定に維持され、車体3を動力学的に安定化させることができる。
【0118】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図4(D)に示されるように、ホイール23は第1オムニホイール231及び第2オムニホイール232とされる。第1オムニホイール231は、
図4(C)及び
図4(D)に示されるように、駆動車輪231Aの円周上に、円周方向を回転軸b方向としてフリーに回転するローラ231Bを複数配設して構成される。同様に、第2オムニホイール232は、駆動車輪232Aの円周上に、円周方向を回転軸b方向としてフリーに回転するローラ232Bを複数配設して構成される。
このため、ホイール23を用いて、駆動車輪231A及び駆動車輪232Aの回転による移動方向に加えて、ローラ231B及びローラ232Bの回転による移動方向へ車台2を移動させることができるので、平面上のすべての方向へ移動可能な全方向移動装置1を実現することができる。
【0119】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、
図6に示されるように、姿勢安定システム4は、パルスカウンタ45と、姿勢角度検出部42と、演算処理部43とを有する制御ユニット40を備える。制御ユニット40のパルスカウンタ45はモータ26の回転角を取得する。姿勢角度検出部42は、車体3の姿勢角及び車体3の角速度を取得する。演算処理部43は、取得された回転角、姿勢角及び角速度に基づいて、姿勢を安定に維持する車体3の運動状態を演算する。さらに、演算処理部43では、演算結果に基づいてサーボアンプ28が制御される。
このため、姿勢安定システム4では、車台2が移動すると車体3の姿勢が安定に維持され、車体3を動力学的に安定化させることができる。
【0120】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図3及び
図4に示されるように、緩衝装置27が設けられる。緩衝装置27はホイール23と車台2との間に設けられる。このため、走行路を移動中に走行路の路面状態に応じてホイール23に発生する振動は緩衝装置27により減少され、ホイール23から車台2及び車体3に伝わる振動を小さくすることができる。
【0121】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、ロック装置7が第1回転軸51及び第2回転軸52に装着される。このロック装置7は、車台2の移動の際に車体3の姿勢を変化可能とし、車台2の移動を停止する際に車体3の姿勢をロックする。また、ロック装置7は車台2の停止状態においても車体3の姿勢をロックする。
このため、車台2の移動を停止したときでも、車体3の姿勢が安定に保持されるので、全方向移動装置1の乗降時や緊急時における搭乗者の安全性を向上させることができる。
【0122】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置1の姿勢制御方法は、まず全方向移動装置1の姿勢安定システム4を使用し、姿勢安定システムに
図9に示される以下のステップを実行させる。モータ26の回転角が取得され(S2)、車体3の姿勢角及び車体3の角速度が取得される(S1)。次に、これらの取得された回転角、姿勢角及び角速度に基づいて、姿勢安定システム4(
図6参照)では姿勢を安定に維持する車体3の運動状態が演算される。演算結果に基づいて、姿勢安定システム4は、サーボアンプ28を制御して車体3の姿勢を安定に維持させた状態において、車台2を移動させる。このため、姿勢制御方法では、全方向移動装置1の車体3を動力学的に安定化させて、車台2を移動させることができる。
【0123】
(第2実施の形態)
以下、
図10~
図14を用いて、本発明の第2実施の形態に係る全方向移動装置及びその姿勢制御方法を説明する。
なお、本実施の形態において、第1実施の形態に係る全方向移動装置及びその制御方法の構成と同一又は実質的に同一の構成は同一符号を付し、重複するので、構成の説明は省略する。
【0124】
[全方向移動装置の構成]
図10及び
図11(A)~
図11(C)に示されるように、本実施の形態に係る全方向移動装置1は、全方向へ移動可能な車台6と、車台6上に配設された車体3と、車台6を移動させ、かつ、車体3の姿勢を安定に維持する姿勢安定システム4とを備えている。さらに、全方向移動装置1は車台6と車体3とを連結する自在継手5を含んで構成されている。
【0125】
(1)車台6の構成
図10及び
図11(A)~
図11(C)、特に
図12(A)~
図12(D)に示されるように、車台6は車台本体61を備えている。この車台本体61は、天板部611と、左右一対の側板部612及び側板部613とを含んで構成されている。
天板部611は、車両上下方向を厚さ方向とする板材を用いて形成され、平面視において車両幅方向を長手方向とする矩形状に形成されている。ここで、図示を省略しているが、天板部611に対向して天板部611から車体下方側に離間された位置には底板部が配設されている。この底板部は天板部611と同一の形状に形成されている。
側板部612は車両前方側から見て天板部611の車両幅方向右端部に配置され、この右端部に側板部612の上端部が接続されている。側板部612は、車両幅方向を厚さ方向とする板状に形成され、側面視において車両前後方向を長手方向とする矩形状に形成されている。
一方、側板部613は車両前方側から見て天板部611の車両幅方向左端部に配置され、この左端部に側板部613の上端部が接続されている。側板部613は、側板部612と同様に、板状、かつ、矩形状に形成されている。
側板部612の下端部は図示を省略した底板部の右端部に接続され、側板部613の下端部は底板部の左端部に接続されている。従って、車台本体61は、車両前方側から見て中空の矩形枠体として構成されている。また、車台本体61は、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の車台本体21と同様に、金属材料又は樹脂材料により形成されている。
【0126】
車台本体61には姿勢安定システム4を構築する駆動ユニット62が配設されている。詳しく説明すると、車両前方側から見て、車台本体61の車両幅方向右側、かつ、車両前方側に駆動ユニット62の1つの駆動ユニット62Aが配設されている。また、車台本体61の車両幅方向右側、かつ、車両後方側に駆動ユニット62Bが配設されている。同様に、車台本体62の車両幅方向左側、かつ、車両前方側に駆動ユニット62Cが配設され、車台本体62の車両幅方向左側、かつ、車両後方側に駆動ユニット62Dが配設されている。
すなわち、駆動ユニット62は合計4個の駆動ユニット62A~駆動ユニット62Dを備えている。第1実施の形態に係る全方向移動装置1の駆動ユニット22と同様に、駆動ユニット62は、2個以上を備えることを基本構成としているが、本実施の形態では3個以上を備え、走行路に対する車台6の静力学的な安定性が確保されている。
【0127】
特に
図13(A)~
図13(D)に示されるように、駆動ユニット62の駆動ユニット62Aは、駆動ユニット筐体621を備え、モータ26と、減速機64と、
図10及び
図11に示されるサーボアンプ28と、を含んで構成されている。
駆動ユニット筐体621は、底壁621Aと、天壁621Bと、左右一対に配置された側壁621C及び側壁621Dとを有し、前面が開放された無前箱状に形成されている。底壁621Aは、車台本体62から車両前方側へ突出され、車両上下方向を板厚方向とする矩形板状に形成されている。天壁621Bは、底壁621Aの車体上方にこの底壁621Aと対向して配置されている。天壁621Bの車両前端部は、底壁621Aよりも車両前方側へ突出されると共に、円弧を描いて車体下方側へ折り曲げられている。
側壁621Cは、底壁621Aの車両幅方向外側端部と天壁621Bの車両幅方向外側端部とにわたって配設され、車両幅方向を厚さ方向とする板状に形成されている。側壁621Cは、水平方向から車両前端部を車体下方側へ向けて屈曲させて、側面視において逆V字形状或いは逆L字形状に形成されている。側壁621Dは、底壁621Aの車両幅方向内側端部と天壁621Bの車両幅方向内側端部とにわたって、側壁621Cに対向して配設され、側壁621Cと同様に板状に形成されている。側壁621C及び側壁621Dの車両前端部はホイール63を回転自在に支持する構成とされている。
【0128】
モータ26は、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の電動モータと同様の電動モータであり、駆動ユニット筐体621の側壁621Dに装着されている。このモータ26の図示を省略した駆動回転軸は、駆動ユニット筐体621内部に配設された図示を省略した減速機64の減速回転軸641の一端(図示省略)に連結されている。減速回転軸641の他端は、駆動ユニット筐体621の側壁621Cの車両前方側端部に、回転軸c(
図13(A)、
図13(B)及び
図13(D)参照)を中心として回転自在に支持されている。
【0129】
減速回転軸641には全方向へ車台6を移動可能なホイール63が配設されている。本実施の形態では、第1実施の形態に係る全方向移動装置1のホイール23、すなわち第1オムニホイール231及び第2オムニホイール232に代えて、特に
図13に示されるように、ホイール63にメカナムホイールが使用されている。
【0130】
特に
図13(A)~
図13(D)に示されるように、メカナムホイールは、減速回転軸641に固定された歯車状の駆動車輪63Aの円周上に、駆動車輪63Aの回転軸cに対して傾斜する方向を軸方向dとしてフリーに回転する樽状のローラ63Bを複数配設して構成されている。回転軸dは回転軸cに対してねじれの位置において例えば絶対値で135度の傾きαに設定されている(
図14(B)参照)。ローラ63Bは、駆動車輪63Aの円周上に、等間隔の配列ピッチにおいて、ここでは12個配列されている。
【0131】
図12(A)、
図12(D)及び
図13(A)~
図13(D)示されるように、駆動ユニット62Aは緩衝装置67を介して車台本体61に配設されている。具体的には、緩衝装置67は、駆動ユニット筐体621の車両後方側内部に配設され、車台本体61の側板部612の車両前端部に装着されている。第1実施の形態に係る全方向移動装置1の緩衝装置27と同様に、緩衝装置67は、走行路からホイール63を介して車台6に伝達される振動を減衰させて小さくする。
【0132】
そして、
図12(A)~
図12(D)に示される駆動ユニット62の駆動ユニット62Bは、Y 軸を中心として、駆動ユニット62Aに対して左右対称の形状とされ、駆動ユニット62Aと基本構造を同一構造としている。駆動ユニット62Cは、X 軸を中心として、駆動ユニット62Aに対して左右対称の形状とされ、駆動ユニット62Aと基本構造を同一構造としている。そして、駆動ユニット62Dは、Y 軸を中心として、駆動ユニット62Cに対して左右対称の形状とされ、又はX 軸を中心として、駆動ユニット62Bに対して左右対称の形状とされ、駆動ユニット62Aと基本構造を同一構造としている。
【0133】
(2)車体3の構成
図10及び
図11(A)~
図11(C)に戻って、車体3は、車体本体31と、ハンドル32と、足置き部33と、サドル37と、を含んで構成されている。車体本体31は車台2上に配設されている。本実施の形態では、車体本体31は、車両前後方向を軸方向として延設された中空管状部材を主体に構成されている。
【0134】
車体本体31の車両前端部には一体に形成されて上方に立設されたハンドルサポート321が配設され、ハンドルサポート321の上端部にハンドル32が装着されている。ハンドル32は車両幅方向外側へ向かって左右にそれぞれ突出された棒状に形成され、搭乗者はハンドル32に捕まって全方向移動装置1を走行させる。本実施の形態でも、ハンドル32は、垂直軸(Z 軸)周りに旋回しない固定式とされている。
始動スイッチ、ブレーキ、保安部品等は、第1実施の形態に係る全方向移動装置1と同様にハンドル32に装着可能とされている。
【0135】
足置き部33は、車体本体31の車両前端部において、車体本体31から垂下された前後一対のサポート331に支持されている。足置き部33は、車両幅方向外側に左右一対に配設され、車両前後方向及び車両幅方向に広がる平坦部位を備え、搭乗者の右足及び左足を載せる部位として使用されている。
また、車体本体31の車両前後方向中間部には車体上方側へ立設されたサドルサポート371を介してサドル37が装着されている。サドル37には搭乗者が着座可能とされ、搭乗者がサドル37に着座状態において、全方向移動装置1を走行させることができる。
【0136】
車体本体31の車両後方端部には、箱状の車体カバー36が取付けられている。車体カバー36の内部には、前述の
図6に示される姿勢安定システム4が収納されている。また、車体カバー36の内部には、駆動ユニット62を構築するサーボアンプ28、電源46等が収納されている。
【0137】
(3)自在継手5の構成
第1実施の形態に係る全方向移動装置1の自在継手5と同様に、
図10、
図11(B)、
図11(C)及び
図12(A)~
図12(D)に示されるように、車台6と車体3とを連結する自在継手5が配設されている。
図5(A)及び
図5(B)に詳細に示されるように、自在継手5は、第1回転軸51と、第2回転軸52と、スパイダ55とを含んで構成されている。
【0138】
第1回転軸51は、車両幅方向を第1軸方向y として構成され、車体本体31の車両前後方向の中間下部に第1軸方向y に沿って互いに離間されて一対に設けられている。この一対の第1回転軸51は、第1軸方向y において互いに離間された一対の第1支持部53を介して車体本体31の車両前後方向中間部に支持されている。
第2回転軸52は、車両前後方向を第2軸方向x として構成され、ここでは車台6の天板部611の車台前後方向中間部及び車台幅方向中間部に第2軸方向x に沿って互いに離間されて一対に設けられている。本実施の形態では、第2軸方向x は第1軸方向y と同一平面上に設定されている。この一対の第2回転軸52は、第2回転軸x において互いに離間された一対の第2支持部54を介して天板部611の車台前後方向中間部に支持されている。
【0139】
スパイダ55の構成、第1回転軸51の構成、第1支持部53の構成、第2回転軸52の構成、第2支持部54の構成は、いずれも、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の自在継手5の各部位の構成と同一とされている。
これにより、自在継手5は、第1回転軸51を中心として車台6に対して車体3を回転可能とし、かつ、第2回転軸52を中心として車台6に対して車体3を回転可能としている。つまり、自在継手5の対偶は2に設定されている。
【0140】
(4)ロック装置7の構成
図10~
図12における図示を省略するが、ロック装置7は、前述の
図5(A)及び
図5(B)に示される第1実施の形態に係る全方向移動装置1のロック装置7の構成と同一の構成とされている。つまり、ロック装置7は、自在継手5の第1回転軸51に装着された第1ロック装置71と、第2回転軸52に装着された第2ロック装置72と、第1ロック装置71及び第2ロック装置72を作動させるロック作動部73とを含んで構成されている。詳細な説明は、重複するので、省略する。
【0141】
(5)姿勢安定システムの構成
姿勢安定システム4は、
図10~
図13に示される駆動ユニット62と、前述の
図6に示される制御ユニット40とを含んで構成されている。制御ユニット40は、パルスカウンタ45、姿勢角度検出部42、演算処理部43、アナログ変換器44等を備え、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の制御ユニット40と同一の構成とされている。このため、姿勢安定システム4の詳細な説明は省略する。
【0142】
[全方向移動装置の姿勢制御方法]
全方向移動装置1の姿勢制御方法は、基本的には第1実施の形態に係る全方向移動装置1の姿勢制御方法と同様である。ここで、
図14(A)は三次元座標系において第2実施の形態に係る全方向移動装置1をモデル化して示す概略斜視図、
図14(B)は全方向移動装置1の車台6及びホイール(メカナムホイール)63をモデル化して示す概略平面図である。前述の
図6、
図8及び
図9を用いつつ、適宜、
図10~
図13を参酌し、姿勢制御方法を説明する。
【0143】
(1)全方向移動装置1の車台6の運動学
まず最初に、
図10~
図13に示される全方向移動装置1の車台6及び車体3の運動学を、
図14(A)を用いて説明する。ここで、三次元座標はX 軸X
0 、Y 軸Y
0 、Z 軸Z
0 により表されている。
【0144】
全方向移動装置1において、車台6の車両前後方向の軸はXc 軸、車台6の車両幅方向の軸はYc 軸、自在継手5の中心を通る車台6の上下方向の軸はZc 軸と定義される。
【0145】
車台6に取り付けられた自在継手5の位置の速度ベクトルvc は、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の姿勢制御方法において説明した上記式(1)により表される。
車台6の角速度ベクトルωc は上記式(2)により表される。
車台6の中心6Cを始点とするk 番目のホイール63の中心の位置ベクトルpk は上記式(3)により表される。ここで、本実施の形態では4つの駆動ユニット62A~62Dを備え、4つのホイール63を備えているので、k は1、…、4である。
【0146】
k 番目のホイール63の角速度ベクトルをω
k とし、角速度ベクトルω
k は角速度ベクトルω
k の大きさ(|ω
k|)とされる。
角速度ベクトルω
k を下記式(55)に記述される同じ向きの単位ベクトルとすると、角速度ベクトルω
k は下記(56)により表される。
【数55】
【数56】
ホイール63の中心を始点とするホイール63の接地点の位置ベクトルは上記式(4)により表される。r
w はホイール63の半径である。
【0147】
k 番目のホイール63の接地点を始点とするローラ63Bの回転軸と平行な単位ベクトル(メカナムホイールの接線ベクトル)tk は上記式(5)により表される。
上記定義により、k 番目のホイール63の接地点の速度vk は上記式(6)により表される。
【0148】
k 番目のホイール63のローラ63Bが接地点において接地し、ローラ63Bが軸方向に滑らないと仮定すると、速度v
k と単位ベクトルt
k との間に上記式(7)の関係が成立する。
上記式(6)を上記式(7)に代入し、速度v
k、位置ベクトルp
k 、角速度ベクトルω
k及び単位ベクトルt
k がZ 軸Z
0 と直交し、角速度ベクトルω
c 及び半径r
wがZ 軸Z
0 に平行であることを考慮すると、下記式(57)が得られる。
【数57】
【0149】
上記式(57)を纏めて表記すると、下記式(58)が得られる。
【数58】
【0150】
車台6の一般化速度ベクトルは上記式(11)、ホイール63の角速度を纏めたベクトルω
w は上記式(12)のそれぞれにより定義され、速度伝達行列T は下記式(59)により定義される。
【数59】
上記定義により、ホイール63の角速度ω
w と車台6の一般化速度ベクトルとの関係は上記式(14)により表すことができる。ここで、上記式(59)において、記号[ ]
-1は逆行列を表す。
【0151】
上記式(14)は一般化速度ベクトルの優決定系であり、一般化速度ベクトルの最小二乗解は速度伝達行列T の一般化逆行列を用いて、上記式(15)により与えられる。
ホイール63の配置が適切あれば、TTT の逆行列が存在する。
【0152】
仮想仕事の原理に基づいて、ホイール63のトルクを纏めたベクトルτw と車台6の上記式(16)により表される一般化力ベクトルとは上記式(17)の関係を満たす。
ここで、上記式(16)において、単位ベクトルfx は車台6のXc 軸方向の推進力、fy は車台6のYc 軸方向の推進力、τz は車台6のZc 軸周りの旋回トルクである。
【0153】
上記式(17)はベクトルτ
w の劣決定系であり、ベクトルτ
w の最小ノルム解はT
T の一般化逆行列を用いて、上記式(18)により与えられる。
例えば、
図14(B)に示されるように、全方向移動装置1の車台6のホイールベース(wheelbase)をl
w 、トレッド(axle track)をl
t とすると、上記式(59)の行列成分のそれぞれの値が下記式(60)~下記式(62)に示す通りとなる。
【数60】
【数61】
【数62】
【0154】
この値を上記式(59)に代入すると、下記式(63)に示される通り、速度伝達行列T を算出することができる。
【数63】
【0155】
(2)全方向移動装置1の車体3の運動学
本実施の形態に係る全方向移動装置1の車体3の運動学の説明は、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の車体3の運動学の説明と同一である。但し、第1実施の形態において「車台2」は、本実施の形態において「車台6」と読み替える。
【0156】
(3)全方向移動装置1の動力学
本実施の形態に係る全方向移動装置1の動力学の説明は、「1.運動方程式の導出」、「2.線形近似モデル」のそれぞれの説明を含み、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の動力学の説明と同一である。但し、第1実施の形態において「車台2」は、本実施の形態において「車台6」と読み替える。
【0157】
(4)全方向移動装置1の制御方法
本実施の形態に係る全方向移動装置1の制御方法の説明は、「1.車体の安定化」、「2.摩擦や外乱が駆動系に及ぼす影響の低減」、「3.全方向移動装置1の制御手順」のそれぞれの説明を含み、第1実施の形態に係る全方向移動装置1の制御方法の説明と同一である。同様に、第1実施の形態において「車台2」は、本実施の形態において「車台6」と読み替える。
【0158】
(本実施の形態の作用及び効果)
本実施の形態に係る全方向移動装置1及びその姿勢制御方法では、第1実施の形態に係る全方向移動装置1及びその姿勢制御方法により得られる作用効果と同様に、静力学的に不安定な車体3を動力学的に安定化し、しかも推進力を向上させ、かつ、静粛性を改善することができるという作用効果が得られる。
【0159】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置1では、特に
図13(A)~
図13(D)に示されるように、ホイール63はメカナムホイールとされる。メカナムホイールは、
図13(A)~
図13(C)に示されるように、駆動車輪63Aの円周上に、駆動車輪63Aの回転軸cに対して傾斜する方向を軸方向dとしてフリーに回転する樽状のローラ63Bを複数配設して構成されている。
このため、ホイール63を用いて、駆動車輪63A及び駆動車輪63Aの回転による移動方向に加えて、ローラ63Bの回転による移動方向へ車台6を移動させることができるので、平面上のすべての方向へ移動可能な全方向移動装置1を実現することができる。
【0160】
(その他の実施の形態)
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変形可能である。
例えば、本発明では、オムニホイールの走行路への接地点の速度を与える上記式(6)がメカナムホイールの走行路への接地点の速度を与える式と同一であることから、オムニホイールとメカナムホイールとを混在させた全方向移動装置を構築することができる。すなわち、本発明は、第1実施の形態に係る全方向移動装置と第2実施の形態に係る全方向移動装置とを組み合わせた全方向移動装置を構築可能である。
【0161】
また、本発明は、第1実施の形態に係る全方向移動装置において、車体にサドル等の座席を装着し、搭乗者が着座状態において走行可能とするようにしてもよい。逆に、本発明は、第2実施の形態に係る全方向移動装置において、車体からサドルを取外し、搭乗者が立ち状態において走行するようにしてもよい。
【0162】
2017年5月26日に出願された日本国特許出願2017-104669号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。