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特許7229566多重特異性Fab融合タンパク質および使用法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】多重特異性Fab融合タンパク質および使用法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20230220BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230220BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230220BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 P
A61K47/68
A61P35/00
A61P43/00 123
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021000128
(22)【出願日】2021-01-04
(62)【分割の表示】P 2018098731の分割
【原出願日】2012-05-16
(65)【公開番号】P2021061850
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】61/486,690
(32)【優先日】2011-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521239808
【氏名又は名称】アイタブメッド (エイチケイ) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ホンシン ゾウ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6400470(JP,B2)
【文献】特表2010-524435(JP,A)
【文献】特表2009-511521(JP,A)
【文献】特表2011-501671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-19/00
C12N 15/13
C12P 21/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)CD3イプシロンのN末端に結合するFab断片(抗CD3 Fab断片)であって、ここで前記抗CD3 Fab断片は、免疫グロブリン軽鎖可変(VL)ドメインおよび免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)を含む第1の鎖、ならびに免疫グロブリン重鎖可変(VH)ドメインおよび免疫グロブリン重鎖定常領域1(CH1)を含む第2の鎖を含む、Fab断片;ならびに、以下のii)a)またはii)b)のいずれか一方:
ii)a)融合部分AのC末端とVLドメインのN末端との間に位置した必要に応じた第1のリンカーを介して、抗CD3 Fab断片のVLドメインのN末端に連結した融合部分A、または
ii)b)融合部分BのC末端とVHドメインのN末端との間に位置した必要に応じた第2のリンカーを介して、抗CD3 Fab断片のVHドメインのN末端に連結した融合部分B;
を含む、多重特異性Fab融合タンパク質であって、
ここで、前記融合部分Aは、抗原結合断片を含む細胞表面抗原結合ドメインを含み、前記融合部分Bは、抗原結合断片を含む細胞表面抗原結合ドメインを含み;
前記抗CD3 Fab断片のVLドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3を含み;前記抗CD3 Fab断片のVHドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR3を含む、
多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項2】
前記抗CD-3 Fab断片が、CD3イプシロンのアミノ酸1~27内のエピトープに結合する、請求項1に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項3】
前記抗CD-3 Fab断片が、非ヒト霊長動物CD3イプシロンと交差反応する、請求項1または請求項2に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項4】
i)前記抗CD3 Fab断片のVHドメインが、配列番号34、38、42、46、50、および54に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つから選択される、および/または、
ii)前記抗CD3 Fab断片のVLドメインが、配列番号56、58、62、66、および70に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つから選択される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項5】
i)前記抗CD-3 Fab断片の前記第1の鎖が、配列番号32、60、64、68、および72からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、および/または、
ii)前記抗CD-3 Fab断片の前記第2の鎖が、配列番号36、40、44、48および52からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片ドメインおよび前記融合部分Bの前記抗原結合断片が、それぞれFcγRIIb、CD28、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CEA、PSMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、CD19、CD20、CD30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138からなる群から独立して選択される細胞表面抗原結合断片に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片および前記融合部分Bの前記抗原結合断片が、それぞれEpCAMに結合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項8】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片および前記融合部分Bの前記抗原結合断片がそれぞれ独立して
i)配列番号139のアミノ酸配列を含むVH-CDR1、配列番号140のアミノ酸配列を含むVH-CDR2、配列番号141のアミノ酸配列を含むVH-CDR3、配列番号142のアミノ酸配列を含むVL-CDR1、配列番号143のアミノ酸配列を含むVL-CDR2、配列番号144のアミノ酸配列を含むVL-CDR3;または
ii)配列番号145のアミノ酸配列を含むVH-CDR1、配列番号146のアミノ酸配列を含むVH-CDR2、配列番号147のアミノ酸配列を含むVH-CDR3、配列番号148のアミノ酸配列を含むVL-CDR1、配列番号149のアミノ酸配列を含むVL-CDR2、配列番号150のアミノ酸配列を含むVL-CDR3
を含む、請求項7に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項9】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片および前記融合部分Bの前記抗原結合断片がそれぞれ独立して
i)配列番号78のVHドメインおよび配列番号78のVLドメイン;
ii)配列番号88のVHドメインおよび配列番号88のVLドメイン;または
iii)配列番号94のVHドメインおよび配列番号94のVLドメイン
を含む、請求項7または8に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項10】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片が、scFvであり、前記融合部分Bの前記抗原結合断片が、scFvである、請求項1~9のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項11】
前記融合部分Aの前記抗原結合断片および前記融合部分Bの前記抗原結合断片が、それぞれ配列番号78、88、および94からなる群から独立して選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項12】
前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーが、それぞれGly-Arg-Alaのアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項13】
i)前記多重特異性Fab融合タンパク質が、配列番号32、60、64、68、および72からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号84、90、96、および100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含むか;または
ii)前記多重特異性Fab融合タンパク質が、配列番号86、92、98および102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号36、40、44、48および52からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項14】
i)CD3イプシロンのN末端に結合するFab断片(抗CD3 Fab断片)であって、ここで前記抗CD3 Fab断片は、VLドメインおよびCLを含む第1の鎖、ならびにVHドメインおよびCH1を含む第2の鎖を含む、Fab断片;
ii)融合部分AのC末端とVLドメインのN末端との間に位置した必要に応じた第1のリンカーを介して、抗CD3 Fab断片のVLドメインのN末端に連結した融合部分A、および融合部分BのC末端とVHドメインのN末端の間に位置した必要に応じた第2のリンカーを介して、抗CD3 Fab断片のVHドメインのN末端に連結した融合部分B;
を含む、多重特異性Fab融合タンパク質であって、
ここで、前記融合部分Aは、EpCAM結合断片を含み、前記融合部分Bは、EpCAM結合断片を含み;
前記多重特異性Fab融合タンパク質は、配列番号86、92、98、および102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、ならびに配列番号84、90、96、および100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む、
多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項15】
前記融合部分Aおよび前記融合部分Bの配列が同一である、請求項14に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項16】
前記多重特異性Fab融合タンパク質が、
)配列番号86のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号84のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む;
ii)配列番号92のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号90のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む;
iii)配列番号98のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号96のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む、または
iv)配列番号102のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、および配列番号100のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖を含む、
請求項14または15に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項17】
前記融合部分Aと前記融合部分Bとが、異なる配列を含む、請求項14に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項18に記載の単離ポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項20】
請求項18または19に記載の単離ポリヌクレオチドを含む単離宿主細胞。
【請求項21】
請求項20に記載の単離宿主細胞を、前記単離ポリヌクレオチドまたは前記ベクターが、コードされた多重特異性Fab融合タンパク質を発現する条件下で培養することを含む、多重特異性Fab融合タンパク質を発現する方法。
【請求項22】
請求項1から17のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項23】
がんを有するか、またはがんを有することが疑われる被験体を処置することにおいて使用するための、請求項1~17のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質を含む組成物または請求項22に記載の医薬組成物であって、
ここで、前記がんは、前記多重特異性Fab融合タンパク質が結合しうる細胞表面抗原と関連する、組成物または医薬組成物。
【請求項24】
前記がんが、腎細胞がん、子宮頸がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、白血病、形質細胞腫、肉腫、神経膠芽腫、胸腺腫、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、子宮がん、膵臓がん、食道がん、脳腫瘍、肺がん、卵巣がん、精巣がん、胃がん、多発性骨髄腫、および肝細胞がんからなる群から選択される、請求項23に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
この出願は、2011年5月16日に出願された米国仮出願第61/486,690号
(この出願は、その全体が参考として本明細書に援用される)に対する優先権を主張する
【0002】
配列表に関する言明
本出願と関連する配列表は、紙原稿ではなく、テキストデータのフォーマットで提示さ
れ、参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含有するテキストファイルの名称は、
FABN_001_02WO_ST25.txtである。このテキストファイルは、18
8KBであり、2012年5月16日に作成され、EFS-Webを介して電子データと
して提出される。
【0003】
本開示は一般に、多重特異性Fab融合タンパク質(MSFP)に関する。特に、本開
示のMSFPは、両方のN末端を切断可能または切断不可能なリンカーにより融合部分へ
と融合させた抗体のFab断片を含む。MSFPのFab断片はとりわけ、天然の細胞表
面の標的抗原のほか、同じ抗原の特定の可溶性形態にも結合する。融合部分の一方または
両方はとりわけ、細胞表面上の標的抗原に結合する。
【背景技術】
【0004】
従来の免疫グロブリンG(IgG)は、2つの同一な免疫グロブリン重鎖および2つの
同一な免疫グロブリン軽鎖を含む四量体分子である。IgG重鎖は、N末端における可変
領域に続き、第1の定常領域(CH1)、ヒンジ、および2つのさらなる定常領域(CH
2CH3)を有する。IgG軽鎖は、2つのドメイン:N末端の可変領域とC末端の定常
領域とを含む。重鎖可変領域(VH)は、軽鎖可変領域(VL)と相互作用して、最小限
の抗原結合領域であるFvを構成する。抗原結合領域は、重鎖の第1の定常領域(CH1
)と軽鎖の定常領域(CL)との間の相互作用により安定化し、2つの定常領域の間のジ
スルフィド結合の形成によりさらに安定化する(Fab断片を形成する)。CH2CH3
ドメインのホモ二量体化(Fcを形成する)により、かつ、その結果としてのヒンジにお
けるジスルフィド結合の形成により、IgG構造は安定化する。したがってIgGは、互
いとの配向性およびFcドメインとの配向性において比較的可撓性の2つの抗原結合Fa
bアームを有する。加えて、結合領域(抗原と直接的に相互作用する)は、それを越えて
はさらなる構造を伴わないN末端に配置されている。推測する限りでは、この構造特色に
より、立体障害に由来する干渉を最小限とする、抗体の抗原との相互作用が容易となる。
この特性はとりわけ、細胞膜複合体に極めて近接して配置されることが多い細胞表面抗原
への結合にとって重要である。
【0005】
近年では、全長モノクローナル抗体が、がん、自己免疫性疾患、および炎症性疾患、な
らびに他のヒト疾患を処置するのに用いられて成功している(非特許文献1)。天然では
、免疫グロブリンの5つの異なる種類(IgA、IgD、IgG、IgM、およびIgE
)が存在するが、結合アフィニティーおよび結合特異性の高さ、バイオアベイラビリティ
ーの大きさ、循環における血清中半減期の長さ、潜在的なエフェクター機能の可能性、お
よび産業規模の製造可能性を含めた好適な特性のために、IgGが、ヒト用治療剤に最も
適するモダリティーを表す。
【0006】
現在のところ世界中の薬物規制機関により腫瘍学環境における臨床的使用について承認
されているモノクローナル抗体(非コンジュゲート抗体またはネイキッド抗体)は一般に
、以下の機構のうちの1つまたはこれらの組合せにより作用する:1)細胞成長のための
シグナル伝達の遮断、2)がん細胞への血液供給の遮断、3)細胞アポトーシスの直接的
な媒介、4)抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)
、および補体依存性細胞傷害作用(CDC)などの免疫エフェクター機能の誘発、ならび
に5)腫瘍に対する獲得免疫の促進。
【0007】
モノクローナル抗体療法は、臨床における生存の利益を裏付けている。しかし、がん患
者における全体的な奏効率は低く、生存の利益は、化学療法と比較して周縁的(数カ月間
)である。頑健な臨床的抗がん活性の欠如の根本的な理由が完全に理解されているわけで
はないが、研究は、がん細胞がしばしば、補完的なシグナル伝達経路を迅速に発生させて
細胞死を免れることを示唆している。また、強力ながん誘発細胞と考えられるがん幹細胞
(CSC)も、細胞増殖における活性はそれほど大きくなく、したがって、成長シグナル
の欠如をより良好に維持する傾向がある。
【0008】
近年、ADCCが抗がん抗体の臨床的有効性において重要な役割を果たすことが裏付け
られた。抗体のFcは、多数の形態:FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、F
cγRIIc、FcγRIIIa、およびFcγRIIIbが認められるFcガンマ受容
体に結合する。Fcドメインはとりわけ、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファー
ジ、および好中球において発現するFcγRIIIaに対するアフィニティーが高い。F
cのFcγRIIIaへの結合は、NK細胞を活性化し、次いで、これにより、近傍のが
ん細胞が破壊されうる。
【0009】
Asn297グリカン構造におけるフコシル化を低減するかまたは消失させるタンパク
質の操作(CH2領域内の多様なアミノ酸変異を伴う)または作製用宿主細胞(CHO)
系の操作を介してFcγRに対する結合特性の活性化を増強した操作抗体が、前臨床研究
において生物学的活性の改善について調べられて成功している。エフェクター機能の増強
を含有するIgG抗体は、現在のところ、有効性の改善を目標とする臨床試験にかけられ
ている。現在入手可能な臨床データは、これらの抗体が極めて有望であることを示す。
【0010】
別の抗がん治療法は、T細胞を使用することである。T細胞は、新たに生じたがん細胞
を求めて体内を巡回し、それらを効果的かつ速やかに消失させることにより、一生を通じ
てがんに対する防御をもたらす。がん処置においてT細胞免疫を利用して奏効する治療法
には、1)FDAで承認されているProleukin(組換えIL-2)の転移性黒色
腫および転移性腎臓がんに対する使用;2)FDAで承認されているPROVENGE(
登録商標)(Sipuleucel-T)の無症候性転移性ホルモン不応性前立腺がんに
対する使用が含まれる。PROVENGE(登録商標)とは、ex vivoにおいて前
立腺がん特異的細胞傷害性T細胞を活性化する樹状細胞ワクチンであり、次いで、これら
の傷害性T細胞を患者へと再注入する;3)FDAは、進行性黒色腫に対するイピリムマ
ブ(T細胞阻害性シグナル伝達経路を阻害することによりT細胞を活性化する抗CTLA
-4抗体)の使用を承認している。
【0011】
T細胞は、Fcガンマ受容体(FcγR)を発現させないため、抗腫瘍抗体の抗体では
、細胞傷害性T細胞を直接的、効果的に活性化することができない。腫瘍を殺滅する目的
でT細胞を活性化することに向けた多くの有望な方法のうちの1つは、二重特異性抗体(
bsAb)を用いて、T細胞を腫瘍細胞へと直接的に近接させる結果として、T細胞の活
性化および腫瘍細胞の殺滅をもたらすことである。CD28およびCD137(4-1B
B)は、二重特異性のターゲティング法において使用される2つの強力なT細胞共刺激性
受容体である。例には、CD28×NG2(非特許文献2)、CD28×CD20(非特
許文献3)、および4-1BB×CD20(非特許文献4)が含まれる。また、T活性化
を誘発することが可能な他のT細胞表面標的も、二重特異性抗体を用いてそれらを腫瘍細
胞へとリターゲティングするのに用いられている。過去には、多様な二重特異性抗体およ
び多重特異性抗体のフォーマットが開発されており、近年になってこれらが総説されてい
る(MullerおよびKontermann、Biodrugs、24巻:89~98
頁、2010年;ChamesおよびBaty、mAbs、1巻:539~47頁、20
09年;DeyevおよびLebedenko、BioEssays、30巻:904~
918頁、2008年)。これらのフォーマットは、以下の3つの大きな類型へと分けら
れる:1)クァドローマ法(Staerzら、PNAS、83巻:1453~7頁、19
86年)、KIH(knob and hole)法(Nat Biotechnol.
、16巻:677~81頁;J. Biol. Chem.、285巻:19637~4
6頁、2010年)、鎖交換操作ドメインによる「SEED」法(Davisら、PED
S、23巻:195~202頁、2010年)、IgGの重鎖または軽鎖のC末端への融
合(ColomaおよびMorrison、Nat. Biotechnol.、15巻
:159~63頁、1997年;Shenら、J. Immunol. Methods
、318巻:65~74頁、2007年;Orcuttら、PEDS、23巻:221~
8頁、2010年;Dongら、J. Biol. Chem.、286巻:4703~
17頁、2011年、Lazarら、特許出願第US20110054151号)、Ig
Gの重鎖または軽鎖のN末端への融合(Shenら、J. Biol. Chem.、2
81巻:10706~17頁、2006年;Wuら、Nat. Biotechnol.
、25巻:1290~7頁、2007年)を含めた、Fcのヘテロ二量体化または重鎖も
しくは軽鎖への共有結合的な融合に基づく、IgG様二重特異性分子;2)Fcの融合に
よる二重特異性抗体(Mabryら、PEDS、23巻:115~127頁、2010年
;Millerら、PEDS、23巻:549~557頁、2010年);3)ダイアボ
ディー(Db)(Holliggerら、PNAS、90巻:6444~8頁、1993
年)、ジスルフィド結合で連結されたダイアボディー(また、二重アフィニティーリター
ゲティングまたはDARTとしても公知)(Johnsonら、J. Mol. Bio
l.、399巻:436~49頁、2010年)、単鎖ダイアボディー(scDb)(A
ltら、FEBS Letters、454巻:90~4頁、1999年)、タンデムダ
イアボディー(tandAb)(Kipriyanovら、J. Mol. Biol.
、293巻:41~56頁、1999年)、タンデム単鎖Fv(taFv)(Mackら
、PNAS、92巻:7021~5頁、1995年)を含め、融合または非共有結合的会
合を介する、抗体の可変領域だけによる分子;ならびに4)バイボディーおよびトリボデ
ィー(Schoonjansら、J. Immunol.、165巻:7050~7頁、
2000年;Biotecnol SAのウェブサイト:http://www.bio
tecnol.com)、単一ドメイン抗体(特許出願第US2010/0239582
A1号)とのFab融合体、およびFab’2融合体(米国特許第US5,959,08
3号)を含めた、Fabベースの融合分子。
【0012】
二重特異性抗体の分野における最近20年間にわたる努力は、臨床的に成果をもたらし
始めた。欧州では、2009年に、カツマキソマブ(Cantomaxomab)(RE
MOVAB(登録商標);抗CD3、抗EpCAM三機能抗体)が、症候性悪性腹水症用
に承認された。しかし、二重特異性抗体は、強力な腫瘍細胞殺滅の可能性を裏付ける一方
で、全身性の免疫活性化、免疫原性(抗薬物抗体応答)を含めた重度の副作用、およびこ
れらの分子の一般的な製造可能性の低さが依然として変わらず、このクラスの薬物が広範
に適用されることを大きく妨げている。近年になって、抗CD19 scFv-抗CD3
scFv融合体(ブリナツモマブ)を使用する、二重特異性T細胞係合剤またはBiT
Eと称する二重特異性抗体法のプラットフォームが、前臨床試験および臨床試験(tes
ts)(Bargouら、Science(2008年)、321巻:974~7頁)に
おいて裏付けられたその傑出した効力のために、多大な関心を惹いた。特に、非ホジキン
リンパ腫を伴う患者は、腫瘍の退縮を示し、場合によっては、ブリナツモマブ投与の臨床
試験(trial)期間中に完全寛解を示した。しかし、ブリナツモマブは、言語能力の
喪失および見当識障害を症状とする中枢神経系の副作用を含めた重度の副作用を引き起こ
した。薬物の投与を停止すると、症状は一過性であり、可逆性であった。部分的なT活性
化および細胞におけるT再分布を引き起こす、薬物のCD3(T細胞上の)への直接的な
結合が仮定された(特許出願第US2010/0150918A1号)。再分布したT細
胞のうちの一部は、脳の微小血管へと付着し、内皮細胞を部分的に活性化し、脳内の微小
血管の透過性の増強をもたらした。臨床試験では、T細胞に対するB細胞比が大きい患者
における副作用の発生率は、この比が小さい患者の場合より低いことが観察された。また
、異なるCD3結合抗体断片を用いることにより、サルにおけるT細胞再分布を緩和また
は回避しうることも報告されている。これらの観察は、CD3上の結合エピトープに合せ
た抗体のCD3への結合、および結果としてもたらされる部分的なT細胞の活性化が、こ
の重度のCNS副作用の直接的な原因でありうることを強く示唆する。
【0013】
CD19×CD3二重特異性scFv-scFv融合体の別の欠点は、この薬物が、そ
の短い半減期および皮下投与に対する不適合性に起因して、毎日の静脈内注入(i.v.
)による薬物送達を要請することである。加えて、scFv-scFv融合タンパク質は
、凝集する傾向を有する。したがって、BiTE分子は、高度に複雑な抗体操作の熟練を
要請し、それらを安定的で製造可能とするには労力を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Nelson、Nat. review、Drug Discovery(2010年)9巻:767~74頁
【文献】Grosse-Hovestら、Eur J Immunol(2003年)33巻:1334~40頁
【文献】Otzら、Leukemia(2009年)23巻:71~7頁
【文献】Liuら、J Immunother(2010年)33巻:500~9頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
FcγRまたはCD3を発現させる免疫細胞を係合させる抗体薬物の抗がん活性は、臨
床的な概念実証をもたらした。しかし、現行の二重特異性抗体フォーマットの短所は、良
好な有効性プロファイルおよび安全性プロファイルによりがん患者を処置するためのこれ
らの薬物の広範な適用にとって、依然として難題である。したがって、生成物の有効性、
安定性、安全性、および製造可能性についてのプロファイルを改善した新たな二重特異性
分子のデザインが、依然として火急に必要とされている。
【0016】
さらなる背景の情報についての参考文献には、ColomaおよびMorrison、
Nat. Biotechnol.、15巻:159~63頁、1997年;Konte
rmann、Acta Pharmacol. Sin.、26巻、1~9頁、2005
年;MarvinおよびZhu;Acta Pharmacol. Sin.、26巻、
649~658頁、2005年;Shenら、J. Immunol. Methods
、318巻:65~74頁、2007年;Shenら、JBC、281巻:10706~
10714頁、2006年;Wuら、Nat. Biotechnol.、25巻、12
90~1297頁、2007年;Orcutt、Prot PEDS、23巻:221~
8頁、2010年;Mabry、PEDS、23巻、3号、115~127頁、2010
年;Schoonjans、The Journal of Immunology、2
000年、165巻:7050~7057頁;Michaelson、mAbs、1巻:
2号、128~141頁;2009年;Robinsonら、British Jour
nal of Cancer(2008年)、99巻、1415~1425頁が含まれる
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示の一態様は、標的抗原に結合するFab断片;Fab断片のVLのN末端におい
てカップリングさせた第1の融合部分;および/またはFab断片のVHのN末端におい
てカップリングさせた第2の融合部分を含む多重特異性Fab融合タンパク質を提供する
。多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、第1の融合部分および第2の融合
部分の非存在下におけるFab断片のFab標的抗原への結合が、同一のFab断片のF
ab標的への結合と比較して50%~90%の間だけ低減される。
【0018】
本開示の一態様は、a)標的抗原に結合するFab断片であって、i)免疫グロブリン
軽鎖可変領域(VL)および免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL);ならびにii)免疫
グロブリン重鎖可変領域(VH)および免疫グロブリン重鎖定常領域1(CH1)を含み
;CL領域およびCH1領域が、場合によって、ジスルフィド結合により接合されている
Fab断片と;b)融合部分AのC末端が、VHドメインのN末端側の終端部へと共有結
合的に連結された融合部分A;もしくはc)融合部分BのC末端が、VLドメインのN末
端側の終端部へと共有結合的に連結された融合部分B;またはbおよびcの両方と;d)
場合によって、融合部分AとVHドメインとの間に位置する第1のリンカーと;e)場合
によって、融合部分BとVLドメインとの間に位置する第2のリンカーとを含む多重特異
性Fab融合タンパク質を提供する。MSFPの一実施形態では、融合部分Aが、結合ド
メインを含み、かつ/または融合部分Bが、結合ドメインを含む。融合部分Aと融合部分
Bとは、配列が同一の場合もあり、異なる配列を含む場合もある。
【0019】
本開示の多重特異性Fab融合タンパク質のなおさらなる実施形態では、融合部分Aが
、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含み、ここで、第1
の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、同じ細胞表面抗原に結合する。一実施形態で
は、融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含
み、ここで、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、異なる細胞表面抗原に結合
する。特定の実施形態では、融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、
第2の結合ドメインを含み、ここで、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、同
じエピトープまたは異なるエピトープに結合する。
【0020】
本開示の多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、Fab断片が、細胞表面
の標的抗原に結合する。特定の一実施形態では、融合部分Aが、結合ドメインを含み、F
ab断片が、この結合ドメインと同じ細胞表面抗原に結合する。別の実施形態では、融合
部分Bが、結合ドメインを含み、Fab断片が、この結合ドメインと同じ細胞表面抗原に
結合する。
【0021】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の特定の実施形態では、Fab
断片の抗原への結合が、融合部分Aおよび融合部分Bにより引き起こされる立体障害によ
り阻害される。一部の実施形態では、この立体障害の結果として、Fab断片の抗原への
検出可能な結合がもたらされない。他の実施形態では、融合部分Aおよび融合部分Bの非
存在下におけるFab断片のその標的への結合が、同一のFab断片のその標的への結合
と比較して50%~90%の間だけ低減される。
【0022】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、第1のリン
カーおよび第2のリンカーが、切断可能である。さらなる実施形態では、第1のリンカー
が切断されたとき、Fab断片の抗原への結合が、検出可能である。別の実施形態では、
第2のリンカーが切断されたとき、Fab断片の抗原への結合が、検出可能である。なお
さらなる実施形態では、第1のリンカーおよび第2のリンカーの両方が切断されたとき、
Fab断片の抗原への結合が、検出可能である。
【0023】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、免疫グロ
ブリン重鎖定常領域の種類が、α、δ、ε、γ、およびμから選択される。一実施形態で
は、免疫グロブリン重鎖が、IgG抗体に由来し、さらなる実施形態では、IgG抗体の
アイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択される。
【0024】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、免疫グロ
ブリン軽鎖のVLおよびCLが、免疫グロブリンカッパ軽鎖および免疫グロブリンラムダ
軽鎖から選択される。
【0025】
一実施形態では、融合部分Aが、scFvの抗原結合ドメインを含む第1の結合ドメイ
ンを含む。本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、融
合タンパク質が、第1のリンカーまたは第2のリンカーを含まない。この点において、一
部の実施形態では、融合部分Aが、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失しているか
;または融合部分Bが、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失しているか;または融
合部分Aおよび融合部分Bの両方が、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失している
。本明細書で記載されるMSFPのさらなる実施形態であって、第1のリンカーまたは第
2のリンカーを存在させない実施形態では、Fab VHのN末端側の終端部が、1つ~
3つのアミノ酸残基を欠失している場合もあり;Fab VLのN末端側の終端部が、1
つ~3つのアミノ酸残基を欠失している場合もあり;VHのN末端側の終端部およびVL
のN末端側の終端部の両方が、1つ~3つのアミノ酸残基を欠失している場合もある。本
明細書で記載されるMSFPのさらなる実施形態であって、第1のリンカーまたは第2の
リンカーを存在させない実施形態では、融合部分Aおよび融合部分Bが、1つ~3つのC
末端のアミノ酸残基を欠失している場合があり;Fab VHのN末端側の終端部および
Fab VLのN末端側の終端部の両方が、1つ~3つのアミノ酸残基を欠失している場
合がある。なおさらなる実施形態では、本明細書で記載されるMSFPが、リンカーと欠
失との任意の組合せを含有する。
【0026】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質またはそのホモ二量体の一実施
形態では、第1のリンカーが、プロテアーゼによって切断できない配列を含み、かつ/ま
たは第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含む。本明細書で記載さ
れる多重特異性Fab融合タンパク質またはこれを含むホモ二量体の別の実施形態では、
第1のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含み、かつ/または第2のリ
ンカーが、切断できない配列を含む。特定の実施形態では、第1のリンカーと第2のリン
カーとが、同じプロテアーゼにより切断できるプロテアーゼによって切断可能な配列を含
む。他の実施形態では、第1のリンカーと第2のリンカーとが、異なるプロテアーゼによ
り切断できるプロテアーゼによって切断可能な配列を含む。関連する実施形態では、プロ
テアーゼによって切断可能な配列が、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、ア
スパラギン酸プロテアーゼ、またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)により切
断可能な配列を含む。特定の実施形態では、プロテアーゼによって切断可能な配列が、M
MPによって切断可能な配列である。この点において、前記マトリックスメタロプロテア
ーゼによって切断可能な配列は、マトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP-1)、マ
トリックスメタロプロテアーゼ2(MMP-2)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(
MMP-9)、またはマトリックスメタロプロテアーゼ14(MMP-14)により切断
可能な配列でありうる。
【0027】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、第1のリ
ンカーが、1~10アミノ酸の長さであるか、または1~20アミノ酸の長さである。一
部の実施形態では、第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断できない配列を含むか
、またはプロテアーゼによって切断可能な配列を含む。この点において、プロテアーゼに
よって切断可能な配列は、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン
酸プロテアーゼ、またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)により切断可能な配
列でありうる。特定の実施形態では、プロテアーゼによって切断可能な配列が、MMPに
よって切断可能な配列であり、この点において、マトリックスメタロプロテアーゼ1(M
MP-1)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP-2)、マトリックスメタロプ
ロテアーゼ9(MMP-9)、またはマトリックスメタロプロテアーゼ14(MMP-1
4)により切断可能な配列から選択されるMMPによって切断可能な配列でありうる。特
定の実施形態では、第2のリンカーが、1~10アミノ酸の長さであるか、または1~2
0アミノ酸の長さである。
【0028】
本開示の別の態様では、多重特異性Fab融合タンパク質が、a)標的抗原に結合する
Fab断片であって、i)免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)および免疫グロブリン軽
鎖定常領域(CL);ならびにii)免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)および免疫グ
ロブリン重鎖定常領域1(CH1)を含み;CL領域およびCH1領域が、場合によって
、ジスルフィド結合により接合されているFab断片と;b)融合部分AのC末端が、V
HドメインのN末端側の終端部へと共有結合的に連結された融合部分A;c)融合部分B
のC末端が、VLドメインのN末端側の終端部へと共有結合的に連結された融合部分Bと
;d)場合によって、融合部分AとVHドメインとの間に位置する第1のリンカーと;e
)場合によって、融合部分BとVLドメインとの間に位置する第2のリンカーとを含み;
ここで、融合部分Aが、結合ドメインを含み、かつ/または融合部分Bが、結合ドメイン
を含み、さらに、結合ドメインの一方または両方が、細胞表面抗原に結合する。特定の実
施形態では、細胞表面抗原が、腫瘍抗原である。特定の実施形態では、結合ドメインのう
ちの1つ(例えば、融合部分Aまたは融合部分Bのうちの1つ)が、ヒト血清アルブミン
に結合する。
【0029】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、Fabが
、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIa
、NKG2D、CD3、CD25、CD28、CTLA-4、FAS、FGFR1、FG
FR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、
TRAIL受容体2、EGFR、Her2/neu、ErbB3、CD25、およびCD
28の群より選択される標的抗原に結合する。具体的な実施形態では、Fabが、CD3
に結合する。別の実施形態では、Fabが、T細胞受容体に結合する。Fabは、ヒト化
することができる。特定の実施形態では、ヒト化Fabが、OKT3、UCHT-1、ま
たはSP34に由来する。一実施形態では、Fabが、一部の実施形態では、ファージデ
ィスプレイ、酵母ディスプレイ、またはヒト抗体遺伝子トランスジェニックマウスから生
成させた完全ヒト抗体に由来する。
【0030】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、融合部分A
が、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含み、ここで、第
1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、同じ細胞表面抗原に結合し、ここで、第1
の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28、CTLA-4
、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LTβR、T
LR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、PSMA、BCM
A、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、EpCAM、葉
酸受容体、エフリン受容体、CD19、CD20、CD30、CD33、CD40、CD
37、CD38、およびCD138の群より選択される標的に結合する。
【0031】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質のさらなる実施形態では、融合
部分Aが、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含み、ここ
で、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、異なる細胞表面抗原に結合し、ここ
で、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28、CT
LA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LT
βR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、PSMA
、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、EpC
AM、葉酸受容体、エフリン受容体、CD19、CD20、CD30、CD33、CD4
0、CD37、CD38、およびCD138の群より選択される異なる標的に結合する。
【0032】
多重特異性Fab融合タンパク質の特定の実施形態では、第1の結合ドメインおよび/
または第2の結合ドメインが、抗体の抗原結合断片である。この点において、この抗原結
合断片は、scFv、CDR、Fv、免疫グロブリンVLドメイン、免疫グロブリンVH
ドメイン、免疫グロブリンVLドメインおよびVHドメイン、Fab、ラクダ科動物VH
H、dAb(ドメイン抗体)からなる群より選択することができる。特定の実施形態では
、抗原結合断片が、ヒト化されており、他の実施形態では、抗原結合断片が、マウスモノ
クローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、またはウサギモノクローナル抗体に由来す
る。一部の実施形態では、抗原結合断片が、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、
またはヒト抗体遺伝子トランスジェニックマウスから生成させうる完全ヒト抗体に由来す
る。
【0033】
さらなる実施形態では、本明細書で記載されるMSFPの第1の結合ドメインおよび/
または第2の結合ドメインが、フィブロネクチン3ドメイン(Fn3)、アンキリン(a
nkryin)反復配列、およびアドネクチン(Adnectin)からなる群より選択
される。
【0034】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、第1のリン
カーおよび/または第2のリンカーが、配列番号133(PLGLAG)に示されるアミ
ノ酸配列を含む。
【0035】
本開示の一態様は、本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質をコードす
る単離ポリヌクレオチドと、この単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと、このよう
なベクターを含む単離宿主細胞とを提供する。
【0036】
本開示の別の態様は、本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質をコード
する単離ポリヌクレオチドを含む宿主細胞を、単離ポリヌクレオチドがこのコードされた
多重特異性Fab融合タンパク質を発現する条件下で培養することにより、多重特異性F
ab融合タンパク質を発現させる方法を提供する。
【0037】
本開示のさらなる態様は、本明細書で記載される1または複数の多重特異性Fab融合
タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0038】
本開示の別の態様は、状態を処置する方法であって、本明細書で記載される1または複
数の多重特異性Fab融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む有効量の医薬
組成物を、それを必要とする被験体に投与するステップを含み、状態が、多重特異性Fa
b融合タンパク質が結合しうる抗原と関連する方法を提供する。
【0039】
本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質のさらなる実施形態では、融合
部分Aと融合部分Bとが、二量体化しない。
【0040】
本開示の別の態様は、CD3イプシロンのN末端に結合するFab断片;Fab断片の
VLのN末端へと連結された融合部分A;もしくはFab断片のVHのN末端へと連結さ
れた融合部分B;またはFab断片のVLのN末端へと連結された融合部分AおよびFa
b断片のVHのN末端へと連結された融合部分Bの両方を含む多重特異性Fab融合タン
パク質を提供する。一実施形態では、Fab断片が、CD3イプシロンのアミノ酸1~2
7内のエピトープに結合する。さらなる実施形態では、Fab断片が、非ヒト霊長動物C
D3イプシロンと交差反応する。
【0041】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、a.Fab
断片が、i.配列番号26~28に示されるCDR1、CDR2、およびCDR3のアミ
ノ酸配列を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)および免疫グロブリン軽鎖定常領域
(CL);ならびにii.配列番号23~25に示されるCDR1、CDR2、およびC
DR3のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)および免疫グロブリン
重鎖定常領域1(CH1)を含み;ここで、CL領域およびCH1領域が、場合によって
、ジスルフィド結合により接合されており;b.融合部分AのC末端が、VHドメインの
N末端側の終端部へと共有結合的に連結されるか;もしくはc.融合部分BのC末端が、
VLドメインのN末端側の終端部へと共有結合的に連結されるか;またはd.bおよびc
の両方であり;e.場合によって、第1のリンカーが、融合部分AとVHドメインとの間
に位置し;f.場合によって、第2のリンカーが、融合部分BとVLドメインとの間に位
置する。一実施形態では、VHが、配列番号34、38、42、46、50、および54
に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つから選択される。別の実施形態では、VL
が、配列番号56、58、62、66、および70に示されるアミノ酸配列のうちのいず
れか1つから選択される。別の実施形態では、融合部分Aが、結合ドメインを含み、かつ
/または融合部分Bが、結合ドメインを含む。一実施形態では、融合部分Aの配列と、融
合部分Bの配列とが、同一である。なお別の実施形態では、融合部分Aと融合部分Bとが
、異なる配列を含む。具体的な一実施形態では、融合部分Aが、第1の結合ドメインを含
み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含み、ここで、第1の結合ドメインと第2の結
合ドメインとが、同じ細胞表面抗原に結合する。特定の実施形態では、融合部分Aが、第
1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含み、ここで、第1の結
合ドメインと第2の結合ドメインとが、異なる細胞表面抗原に結合する。他の実施形態で
は、融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の結合ドメインを含
み、ここで、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、同じエピトープに結合する
。別の実施形態では、融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、融合部分Bが、第2の
結合ドメインを含み、ここで、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、異なるエ
ピトープに結合する。
【0042】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、Fab断片
のCD3への結合が、融合部分Aおよび融合部分Bにより引き起こされる立体障害により
阻害される。この点において、この立体障害の結果として、第1の結合ドメインおよび第
2の結合ドメインの、細胞表面抗原への結合の非存在下では、Fab断片のCD3への検
出可能な結合がもたらされない。別の実施形態では、Fab断片のCD3への結合が、第
1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインの、細胞表面抗原への結合の非存在下では、
第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインの、細胞表面抗原への結合の存在下におけ
るFab断片のCD3への結合と比較して50%~90%の間だけ低減される。さらなる
実施形態では、Fab断片のCD3への結合が、融合部分Aおよび融合部分Bを有さない
同一のFab断片の結合と比較して50%~90%の間だけ低減される。
【0043】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、免疫グロ
ブリン重鎖定常領域の種類が、α、δ、ε、γ、およびμから選択される。一実施形態で
は、免疫グロブリン重鎖が、IgG抗体に由来する。さらなる実施形態では、IgG抗体
のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択される。別
の実施形態では、免疫グロブリン軽鎖のVLおよびCLが、免疫グロブリンカッパ軽鎖お
よび免疫グロブリンラムダ軽鎖から選択される。
【0044】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、融合部分A
が、scFvの抗原結合ドメインを含む第1の結合ドメインを含む。
【0045】
多重特異性Fab融合タンパク質の別の実施形態では、第1のリンカーおよび第2のリ
ンカーが、1~20アミノ酸の長さである。具体的な一実施形態では、第1のリンカーお
よび/または第2のリンカーが、GlyArgAlaを含む。
【0046】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質の一実施形態では、Fabが、
ヒト化されている。
【0047】
本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質のなお別の実施形態では、第1
の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28、CTLA-4
、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LTβR、T
LR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、PSMA、BCM
A、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、EpCAM、葉
酸受容体、エフリン受容体、TRAIL受容体2、CD19、CD20、CD30、CD
33、CD40、CD37、CD38、およびCD138の群より選択される標的に結合
する。一実施形態では、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、配列番号78
、88、および94に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つから選択される。
【0048】
別の実施形態では、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、FcγRIIb
、CD28、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4
、GITR、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、
CEA、PSMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、E
rbB3、EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、TRAIL受容体2、CD19、
CD20、CD30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138から
なる群より選択される異なる標的に結合する。
【0049】
一実施形態では、第1の結合ドメインおよび/または第2の結合ドメインが、抗体の抗
原結合断片である。別の実施形態では、抗原結合断片が、scFv、CDR、Fv、免疫
グロブリンVLドメイン、免疫グロブリンVHドメイン、免疫グロブリンVLドメインお
よびVHドメイン、Fab、ラクダ科動物VHH、dAbからなる群より選択される。な
おさらなる実施形態では、抗原結合断片が、ヒト化されている。他の実施形態では、抗原
結合断片が、マウスモノクローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、またはウサギモノ
クローナル抗体に由来し、抗原結合断片はまた、完全ヒト抗体にも由来しうる。この点で
は、完全ヒト抗体を、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはヒト抗体遺伝子
トランスジェニックマウスから生成させる。
【0050】
一実施形態では、抗原結合断片が、1)配列番号139~144のそれぞれに示される
VHCDRおよびVLCDRを含むか;2)配列番号145~150のそれぞれに示され
るVHCDRおよびVLCDRを含むか;3)配列番号78、88、および94のうちの
いずれか1つのアミノ酸配列に示されるscFv内に存在するVHを含むか;4)配列番
号78、88、および94のうちのいずれか1つのアミノ酸配列に示されるscFv内に
存在するVLを含むか;または5)配列番号78、88、および94に示されるアミノ酸
配列のうちのいずれか1つから選択されるScFvを含む。
【0051】
多重特異性Fab融合タンパク質の特定の実施形態では、CL領域が、ノブ変異または
ホール変異を含み、CH1領域が、CL領域とCH1領域とが安定的に相互作用するよう
に、対応するノブ変異またはホール変異を含む。
【0052】
別の実施形態では、本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質が、配列番
号84、90、96、および100から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つ;
ならびに配列番号32、60、64、68、および72から選択されるアミノ酸配列のう
ちのいずれか1つを含む。さらなる実施形態では、本開示の多重特異性Fab融合タンパ
ク質が、配列番号86、92、98、および102から選択されるアミノ酸配列のうちの
いずれか1つ;ならびに配列番号30、36、40、44、48、および52から選択さ
れるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む。特定の実施形態では、CL領域とCH1
領域とが、ジスルフィド結合により接合されている。
【0053】
本開示の別の態様は、本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質のうちの
いずれかをコードする単離ポリヌクレオチドと、この単離ポリヌクレオチドを含む発現ベ
クターとを提供する。本開示はまた、このようなベクターを含む単離宿主細胞も提供する
。本開示はまた、宿主細胞を、単離ポリヌクレオチドがこのコードされた多重特異性Fa
b融合タンパク質を発現する条件下で培養することにより、多重特異性Fab融合タンパ
ク質を発現させる方法も提供する。
【0054】
本開示はまた、本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパク質と、薬学的に許
容される担体とを含む医薬組成物も提供する。
【0055】
本開示の別の態様は、がんを処置する方法であって、本明細書で記載される多重特異性
Fab融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む有効量の医薬組成物を、がん
を有するか、またはがんを有することが疑われる被験体に投与するステップを含み、がん
が、多重特異性Fab融合タンパク質が結合しうる抗原と関連する方法を提供する。
本発明の好ましい実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
CD3イプシロンのN末端に結合するFab断片;前記Fab断片のVLのN末端へと
連結された融合部分A;もしくは前記Fab断片のVHのN末端へと連結された融合部分
B;または前記Fab断片のVLのN末端へと連結された融合部分Aおよび前記Fab断
片のVHのN末端へと連結された融合部分Bの両方を含む多重特異性Fab融合タンパク
質。
(項目2)
前記Fab断片が、CD3イプシロンのアミノ酸1~27内のエピトープに結合する、
項目1に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目3)
前記Fab断片が、非ヒト霊長動物CD3イプシロンと交差反応する、項目1または項
目2に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目4)
a.前記Fab断片が、
i.配列番号26~28に示されるCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸
配列を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)および免疫グロブリン軽鎖定常領域(C
L);ならびに
ii.配列番号23~25に示されるCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ
酸配列を含む免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)および免疫グロブリン重鎖定常領域1
(CH1)を含み;
前記CL領域およびCH1領域が、場合によって、ジスルフィド結合により接合され

b.前記融合部分AのC末端が、前記VHドメインのN末端側の終端部へと共有結合的
に連結されるか;もしくは
c.前記融合部分BのC末端が、前記VLドメインのN末端側の終端部へと共有結合的
に連結されるか;または
d.bおよびcの両方であり;
e.場合によって、第1のリンカーが、前記融合部分Aと前記VHドメインとの間に位
置し;かつ
f.場合によって、第2のリンカーが、前記融合部分Bと前記VLドメインとの間に位
置する、項目1に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目5)
前記VHが、配列番号34、38、42、46、50、および54に示されるアミノ酸
配列のうちのいずれか1つから選択される、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目6)
VLが、配列番号56、58、62、66、および70に示されるアミノ酸配列のうち
のいずれか1つから選択される、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目7)
前記融合部分Aが、結合ドメインを含む、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目8)
前記融合部分Bが、結合ドメインを含む、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目9)
前記融合部分Aおよび前記融合部分Bの配列が同一である、項目4に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目10)
前記融合部分Aと前記融合部分Bとが、異なる配列を含む、項目4に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目11)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、同じ細胞表面抗原に
結合する、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目12)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、異なる細胞表面抗原
に結合する、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目13)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、同じエピトープに結
合する、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目14)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、異なるエピトープに
結合する、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目15)
前記Fab断片のCD3への結合が、前記融合部分Aおよび前記融合部分Bにより引き
起こされる立体障害により阻害される、項目11に記載の多重特異性Fab融合タンパク
質。
(項目16)
前記立体障害の結果として、前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインの
、前記細胞表面抗原への結合の非存在下では、前記Fab断片のCD3への検出可能な結
合がもたらされない、項目15に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目17)
前記Fab断片のCD3への前記結合が、前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結
合ドメインの、前記細胞表面抗原への結合の非存在下では、前記第1の結合ドメインおよ
び前記第2の結合ドメインの、前記細胞表面抗原への結合の存在下における前記Fab断
片のCD3への前記結合と比較して50%~90%の間だけ低減される、項目15に記載
の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目18)
前記Fab断片のCD3への前記結合が、前記融合部分Aおよび前記融合部分Bを有さ
ない同一のFab断片の結合と比較して50%~90%の間だけ低減される、項目15に
記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目19)
前記免疫グロブリン重鎖定常領域の種類が、α、δ、ε、γ、およびμから選択される
、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目20)
前記免疫グロブリン重鎖が、IgG抗体に由来する、項目4に記載の多重特異性Fab
融合タンパク質。
(項目21)
前記IgG抗体のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4か
ら選択される、項目20に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目22)
前記免疫グロブリン軽鎖のVLおよびCLが、免疫グロブリンカッパ軽鎖および免疫グ
ロブリンラムダ軽鎖から選択される、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目23)
前記融合部分Aが、scFvの抗原結合ドメインを含む第1の結合ドメインを含む、項
目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目24)
前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーが、1~20アミノ酸の長さである、項
目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目25)
前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーが、GlyArgAlaを含む、項目2
4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目26)
前記Fabがヒト化されている、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目27)
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28
、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR
、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、P
SMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、
EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、TRAIL受容体2、CD19、CD20、
CD30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138の群より選択さ
れる標的に結合する、項目11に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目28)
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインが、配列番号78、88、およ
び94に示されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つから選択される、項目27に記載の
多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目29)
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28
、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR
、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、P
SMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、
EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、TRAIL受容体2、CD19、CD20、
CD30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138からなる群より
選択される異なる標的に結合する、項目12に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目30)
前記第1の結合ドメインおよび/または前記第2の結合ドメインが、抗体の抗原結合断
片である、項目7または項目8に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目31)
前記抗原結合断片が、scFv、CDR、Fv、免疫グロブリンVLドメイン、免疫グ
ロブリンVHドメイン、免疫グロブリンVLドメインおよびVHドメイン、Fab、ラク
ダ科動物VHH、dAbからなる群より選択される、項目30に記載の多重特異性Fab
融合タンパク質。
(項目32)
前記抗原結合断片がヒト化されている、項目30に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目33)
前記抗原結合断片が、マウスモノクローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、または
ウサギモノクローナル抗体に由来する、項目30に記載の多重特異性Fab融合タンパク
質。
(項目34)
前記抗原結合断片が、完全ヒト抗体に由来する、項目30に記載の多重特異性Fab融
合タンパク質。
(項目35)
前記完全ヒト抗体が、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはヒト抗体遺伝
子トランスジェニックマウスから生成される、項目34に記載の多重特異性Fab融合タ
ンパク質。
(項目36)
前記抗原結合断片が、1)配列番号139~144のそれぞれに示されるVHCDRお
よびVLCDRを含むか;2)配列番号145~150のそれぞれに示されるVHCDR
およびVLCDRを含むか;3)配列番号78、88、および94のうちのいずれか1つ
のアミノ酸配列に示されるscFv内に存在するVHを含むか;4)配列番号78、88
、および94のうちのいずれか1つのアミノ酸配列に示されるscFv内に存在するVL
を含むか;または5)配列番号78、88、および94に示されるアミノ酸配列のうちの
いずれか1つから選択されるscFvを含む、項目30に記載の多重特異性Fab融合タ
ンパク質。
(項目37)
前記CL領域が、ノブ変異またはホール変異を含み、前記CH1領域が、前記CL領域
と前記CH1領域とが安定的に相互作用するように、対応するノブ変異またはホール変異
を含む、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目38)
配列番号84、90、96、および100から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれ
か1つ;ならびに配列番号32、60、64、68、および72から選択されるアミノ酸
配列のうちのいずれか1つを含む、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目39)
配列番号86、92、98、および102から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれ
か1つ;ならびに配列番号30、36、40、44、48、および52から選択されるア
ミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む、項目4に記載の多重特異性Fab融合タンパク
質。
(項目40)
前記CL領域と前記CH1領域とが、ジスルフィド結合により接合されている、項目3
8または項目39に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目41)
項目1から37のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質をコードする
単離ポリヌクレオチド。
(項目42)
項目41に記載の単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(項目43)
項目42に記載のベクターを含む単離宿主細胞。
(項目44)
項目43に記載の宿主細胞を、単離ポリヌクレオチドが、コードされた多重特異性Fa
b融合タンパク質を発現する条件下で培養することにより、前記多重特異性Fab融合タ
ンパク質を発現させる方法。
(項目45)
項目1から40のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質と、薬学的に
許容される担体とを含む医薬組成物。
(項目46)
がんを処置するための方法であって、有効量の、項目45に記載の医薬組成物を、前記
がんを有するか、または前記がんを有することが疑われる被験体に投与するステップを含
み、前記がんは、前記多重特異性Fab融合タンパク質が結合しうる抗原と関連する、方
法。
(項目47)
前記第1のリンカーまたは前記第2のリンカーを含まない、項目4に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目48)
a.標的抗原に結合するFab断片であって、
i.免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)および免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL
);ならびに
ii.免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)および免疫グロブリン重鎖定常領域1(
CH1)を含み;
前記CL領域およびCH1領域が、場合によって、ジスルフィド結合により接合され
ている、Fab断片と;
b.融合部分Aであって、前記融合部分AのC末端が、前記VHドメインのN末端側の
終端部へと共有結合的に連結される、融合部分A;もしくは
c.融合部分Bであって、前記融合部分BのC末端が、前記VLドメインのN末端側の
終端部へと共有結合的に連結される、融合部分B;または
d.bおよびcの両方と;
e.場合によって、前記融合部分Aと前記VHドメインとの間に位置する第1のリンカ
ーと;
f.場合によって、前記融合部分Bと前記VLドメインとの間に位置する第2のリンカ
ーと
を含む、多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目49)
前記融合部分Aが、結合ドメインを含む、項目48に記載の多重特異性Fab融合タン
パク質。
(項目50)
前記融合部分Bが、結合ドメインを含む、項目48に記載の多重特異性Fab融合タン
パク質。
(項目51)
前記融合部分Aおよび前記融合部分Bの配列が同一である、項目48に記載の多重特異
性Fab融合タンパク質。
(項目52)
前記融合部分Aと前記融合部分Bとが、異なる配列を含む、項目48に記載の多重特異
性Fab融合タンパク質。
(項目53)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、同じ細胞表面抗原に
結合する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目54)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、異なる細胞表面抗原
に結合する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目55)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、同じエピトープに結
合する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目56)
前記融合部分Aが、第1の結合ドメインを含み、前記融合部分Bが、第2の結合ドメイ
ンを含み、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとが、異なるエピトープに
結合する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目57)
前記Fab断片が、細胞表面の標的抗原に結合する、項目48に記載の多重特異性Fa
b融合タンパク質。
(項目58)
前記融合部分Aが、結合ドメインを含み、前記Fab断片が、前記結合ドメインと同じ
細胞表面抗原に結合する、項目57に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目59)
前記融合部分Bが、結合ドメインを含み、前記Fab断片が、前記結合ドメインと同じ
細胞表面抗原に結合する、項目57に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目60)
前記Fab断片の前記抗原への結合が、前記融合部分Aおよび前記融合部分Bにより引
き起こされる立体障害により阻害される、項目53に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目61)
前記立体障害の結果として、前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインの
、前記細胞表面抗原への結合の非存在下では、前記Fab断片の前記抗原への検出可能な
結合がもたらされない、項目60に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目62)
前記Fab断片の前記Fab標的への前記結合が、前記第1の結合ドメインおよび前記
第2の結合ドメインの、前記細胞表面抗原への結合の非存在下では、前記細胞表面抗原に
対する前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインの存在下における同一のF
ab断片の前記Fab標的への結合と比較して50%~90%の間だけ低減される、項目
60に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目63)
前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーが、切断可能である、項目48に記載の
多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目64)
前記第1のリンカーが切断されたとき、前記Fab断片の前記抗原への結合が検出可能
である、項目63に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目65)
前記第2のリンカーが切断されたとき、前記Fab断片の前記抗原への結合が検出可能
である、項目63に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目66)
前記第1のリンカーおよび前記第2のリンカーの両方が切断されたとき、前記Fab断
片の前記抗原への前記結合が検出可能である、項目63に記載の多重特異性Fab融合タ
ンパク質。
(項目67)
前記免疫グロブリン重鎖定常領域の種類が、α、δ、ε、γ、およびμから選択される
、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目68)
前記免疫グロブリン重鎖が、IgG抗体に由来する、項目48に記載の多重特異性Fa
b融合タンパク質。
(項目69)
前記IgG抗体のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4か
ら選択される、項目68に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目70)
前記免疫グロブリン軽鎖のVLおよびCLが、免疫グロブリンカッパ軽鎖および免疫グ
ロブリンラムダ軽鎖から選択される、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質

(項目71)
前記融合部分Aが、scFvの抗原結合ドメインを含む第1の結合ドメインを含む、項
目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目72)
前記第1のリンカーが、プロテアーゼによって切断できない配列を含む、項目48に記
載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目73)
前記第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目72に記載
の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目74)
前記第1のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目48に記載
の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目75)
前記第2のリンカーが、切断できない配列を含む、項目74に記載の多重特異性Fab
融合タンパク質。
(項目76)
前記第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目48に記載
の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目77)
前記第1のリンカーと前記第2のリンカーとが、同じプロテアーゼにより切断できるプ
ロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目76に記載の多重特異性Fab融合タン
パク質。
(項目78)
前記第1のリンカーと前記第2のリンカーとが、異なるプロテアーゼにより切断できる
プロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目76に記載の多重特異性Fab融合タ
ンパク質。
(項目79)
前記プロテアーゼによって切断可能な配列が、セリンプロテアーゼ、システインプロテ
アーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP
)により切断可能な配列を含む、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目80)
前記プロテアーゼによって切断可能な配列が、MMPによって切断可能な配列である、
項目79に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目81)
前記マトリックスメタロプロテアーゼによって切断可能な配列が、マトリックスメタロ
プロテアーゼ1(MMP-1)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP-2)、マ
トリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、またはマトリックスメタロプロテアー
ゼ14(MMP-14)により切断可能な配列である、項目80に記載の多重特異性Fa
b融合タンパク質。
(項目82)
前記第1のリンカーが、1~10アミノ酸の長さである、項目48に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目83)
前記第1のリンカーが、1~20アミノ酸の長さである、項目48に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目84)
前記第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断できない配列を含む、項目48に記
載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目85)
前記第2のリンカーが、プロテアーゼによって切断可能な配列を含む、項目48に記載
の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目86)
前記プロテアーゼによって切断可能な配列が、セリンプロテアーゼ、システインプロテ
アーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP
)により切断可能な配列である、項目85に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目87)
前記プロテアーゼによって切断可能な配列が、MMPによって切断可能な配列である、
項目86に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目88)
前記マトリックスメタロプロテアーゼによって切断可能な配列が、マトリックスメタロ
プロテアーゼ1(MMP-1)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP-2)、マ
トリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、またはマトリックスメタロプロテアー
ゼ14(MMP-14)によって切断可能な配列である、項目87に記載の多重特異性F
ab融合タンパク質。
(項目89)
前記第2のリンカーが、1~10アミノ酸の長さである、項目48に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目90)
前記第2のリンカーが、1~20アミノ酸の長さである、項目48に記載の多重特異性
Fab融合タンパク質。
(項目91)
前記結合ドメインが、細胞表面抗原に結合する、項目49に記載の多重特異性Fab融
合タンパク質。
(項目92)
前記細胞表面抗原が、腫瘍抗原である、項目91に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目93)
前記結合ドメインが、細胞表面抗原に結合する、項目50に記載の多重特異性Fab融
合タンパク質。
(項目94)
前記細胞表面抗原が、腫瘍抗原である、項目91に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目95)
前記結合ドメインが、ヒト血清アルブミンに結合する、項目49に記載の多重特異性F
ab融合タンパク質。
(項目96)
前記結合ドメインが、ヒト血清アルブミンに結合する、項目50に記載の多重特異性F
ab融合タンパク質。
(項目97)
前記Fabが、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、F
cγRIIIa、NKG2D、CD3、CD25、CD28、CTLA-4、FAS、F
GFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LTβR、TLR、TRA
IL受容体1、TRAIL受容体2、EGFR、Her2/neu、ErbB3、CD2
5、およびCD28の群より選択される標的抗原に結合する、項目48に記載の多重特異
性Fab融合タンパク質。
(項目98)
前記Fabが、CD3に結合する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質

(項目99)
前記Fabが、ヒト化されている、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク質

(項目100)
前記ヒト化Fabが、UCHT-1またはSP34に由来する、項目99に記載の多重
特異性Fab融合タンパク質。
(項目101)
前記Fabが、完全ヒト抗体に由来する、項目48に記載の多重特異性Fab融合タン
パク質。
(項目102)
前記完全ヒト抗体が、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはヒト抗体遺伝
子トランスジェニックマウスから生成される、項目101に記載の多重特異性Fab融合
タンパク質。
(項目103)
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28
、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR
、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、P
SMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、
EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、テール受容体2、CD19、CD20、CD
30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138の群より選択される
標的に結合する、項目53に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目104)
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインが、FcγRIIb、CD28
、CTLA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR
、LTβR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、CD28、CEA、P
SMA、BCMA、CAIX、cMet、EGFR1、Her2/neu、ErbB3、
EpCAM、葉酸受容体、エフリン受容体、テール受容体2、CD19、CD20、CD
30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD138の群より選択される
異なる標的に結合する、項目54に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目105)
前記第1の結合ドメインおよび/または前記第2の結合ドメインが、抗体の抗原結合断
片である、項目49または項目50に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目106)
前記抗原結合断片が、scFv、CDR、Fv、免疫グロブリンVLドメイン、免疫グ
ロブリンVHドメイン、免疫グロブリンVLドメインおよびVHドメイン、Fab、ラク
ダ科動物VHH、dAbからなる群より選択される、項目105に記載の多重特異性Fa
b融合タンパク質。
(項目107)
前記第1の結合ドメインおよび/または前記第2の結合ドメインが、フィブロネクチン
3ドメイン(Fn3)、アンキリン反復配列、およびアドネクチンからなる群より選択さ
れる、項目49または項目50に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目108)
前記抗原結合断片が、ヒト化されている、項目105に記載の多重特異性Fab融合タ
ンパク質。
(項目109)
前記抗原結合断片が、マウスモノクローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、または
ウサギモノクローナル抗体に由来する、項目105に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目110)
前記抗原結合断片が、完全ヒト抗体に由来する、項目105に記載の多重特異性Fab
融合タンパク質。
(項目111)
前記完全ヒト抗体が、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはヒト抗体遺伝
子トランスジェニックマウスから生成される、項目110に記載の多重特異性Fab融合
タンパク質。
(項目112)
前記第1のリンカーおよび/または前記第2のリンカーが、配列番号133(PLGL
AG)に示されるアミノ酸配列を含む、項目48に記載の多重特異性Fab融合タンパク
質。
(項目113)
項目48から112のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質をコード
する単離ポリヌクレオチド。
(項目114)
項目113に記載の単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(項目115)
項目114に記載のベクターを含む単離宿主細胞。
(項目116)
項目115に記載の宿主細胞を、単離ポリヌクレオチドが、コードされた多重特異性F
ab融合タンパク質を発現する条件下で培養することにより、前記多重特異性Fab融合
タンパク質を発現させる方法。
(項目117)
項目48から112のいずれか一項に記載の多重特異性Fab融合タンパク質と、薬学
的に許容される担体とを含む医薬組成物。
(項目118)
状態を処置する方法であって、有効量の、項目117に記載の医薬組成物を、状態の処
置を必要とする被験体に投与するステップを含み、前記状態が、多重特異性Fab融合タ
ンパク質が結合しうる抗原と関連する、方法。
(項目119)
前記第1のリンカーまたは前記第2のリンカーを含まない、項目48に記載の多重特異
性Fab融合タンパク質。
(項目120)
前記融合部分Aが、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失しているか;または前記
融合部分Bが、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失しているか;または前記融合部
分Aおよび前記融合部分Bの両方が、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を欠失している
、項目119に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目121)
前記VHのN末端側の終端部が、1つ~3つのアミノ酸残基を欠失しているか;または
前記VLのN末端側の終端部が、1つ~3つのアミノ酸残基を欠失しているか;または前
記VHのN末端側の終端部および前記VLのN末端側の終端部の両方が、1つ~3つのア
ミノ酸残基を欠失している、項目119に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目122)
前記融合部分Aおよび前記融合部分Bの両方が、1つ~3つのC末端のアミノ酸残基を
欠失し;前記VHのN末端側の終端部および前記VLのN末端側の終端部の両方が、1つ
~3つのアミノ酸残基を欠失している、項目119に記載の多重特異性Fab融合タンパ
ク質。
(項目123)
標的抗原に結合するFab断片;前記Fab断片のVLのN末端においてカップリング
させた第1の融合部分;および前記Fab断片のVHのN末端においてカップリングさせ
た第2の融合部分を含む、多重特異性Fab融合タンパク質。
(項目124)
前記Fab断片の前記Fab標的抗原への結合が、前記第1の融合部分および第2の融
合部分の非存在下では、同一のFab断片の前記Fab標的への結合と比較して70%~
90%の間だけ低減される、項目123に記載の多重特異性Fab融合タンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、多重特異性Fab融合タンパク質(MSFP)を描示する概略図である。単一ドメインタンパク質またはマルチドメインタンパク質である融合部分Aおよび融合部分Bは、プロテアーゼにより切断可能または切断不可能なリンカー配列を介してFab断片のN末端側の終端部へと共有結合的に融合されている。融合部分Aおよび融合部分Bは、抗原特異的結合能を有する場合もあり、抗原特異的結合能を有さない場合もある。
図2図2は、MSFP内の融合部分の異なる立体配座、およびFabの、細胞表面標的または標的の可溶性形態に対する結合アフィニティーの相対強度を描示する概略図である。図の下パネルは、MSFP内の融合部分の立体配座的可撓性を示す。
図3図3は、異なる融合フォーマットによるFabの、可溶性標的および細胞表面標的に対する結合特性を例示する概略図である。Aは、Fabの構造、N末端のうちの一方において単一の融合部分を伴うFab融合タンパク質、およびFabのN末端の両方において融合部分を伴うFab融合タンパク質を示す図であり;Bは、その可溶性標的への結合が可能な3つのFab融合フォーマット全てによるFabを描示する概略図であり;Cは、FabのN末端において融合体を伴わないFabドメインおよび単一の融合部分を伴うFabドメインは、細胞表面上でその標的に結合しうるが、H鎖およびL鎖の両方のN末端において融合体を伴うFabドメインは、もはや立体障害に起因して細胞表面上に存在するその標的に結合することが可能でないことを描示する概略図である。
図4図4は、MSFPがT細胞へと結合するのに必要な状態を描示する概略図である。Aは、H鎖およびL鎖の両方のN末端において抗腫瘍抗体の細胞表面標的結合部分を伴うMSFPが、腫瘍会合抗原(TAA)を介して腫瘍細胞に結合しうるが、T細胞上のCD3には結合しないことを示す図であり(アフィニティーの劇的な低減のため;図3Cを参照されたい);Bは、T細胞上のCD3に対する結合アフィニティーの低いMSFP分子が、腫瘍細胞とT細胞とを、アビディティー効果により効果的に係合させうる場合を示す図である。代表的なMSFP分子は、TAA結合を介して腫瘍細胞上で集塊をなし、CD3結合アームがアビディティーを介してT細胞に結合する結果として、腫瘍細胞とT細胞との架橋形成をもたらす。
図5図5は、抗腫瘍細胞の単一の細胞表面標的結合部分を伴うFab融合体(またはH鎖およびL鎖の両方における、Fab融合体に由来する単一アームの切断産物)が、腫瘍細胞およびT細胞の両方で標的に結合する結果として、2つの細胞型の架橋形成をもたらしうることを描示する概略図である。
図6図6Aは、融合部分としての2つの単鎖Fv(scFv)ドメインを示す、Fabeの概略図である。Fabeとは、Fabの結合標的が、T細胞上のCD3イプシロン鎖もしくはT細胞受容体、NK細胞上のNKG2D、またはNK上、単球系細胞上、およびマクロファージ上のFcガンマ受容体など、免疫細胞表面のエフェクター分子であるMSFPを指す。2つのscFvドメインは、同じ特異性を有する場合もあり、異なる特異性を有する場合もある。図6Bは、一次配列内のタンパク質ドメインおよび鎖間ジスルフィド結合の概略図である。CHとCLとの間の鎖間ジスルフィド結合は、任意選択である。scFvの立体構成は、VH-VLの場合もあり、VL-VHの場合もあり、scFv1内およびscFv2内のVHの立体構成とVLの立体構成とは、同じ場合もあり、異なる場合もある。
図7図7Aは、融合部分としての2つの単鎖Fv(scFv)ドメインを示すFabe-albuの概略図である。Fabe-albuとは、Fabeの特定の種類であって、1つのscFvがヒトアルブミンに対する結合特異性を有し、第2のscFvが腫瘍細胞の表面抗原(TAA)に対する結合特異性を有する種類を指す。図7Bは、一次配列内のタンパク質ドメインおよび鎖間ジスルフィド結合の概略図である。scFvの立体構成は、VH-VLの場合もあり、VL-VHの場合もあり、scFv1およびscFv2内のVHの立体構成とVLの立体構成とは、同じ場合もあり、異なる場合もある。
図8図8は、マウス抗ヒトCD3抗体である1F3およびヒト化1F3抗体であるhu-1F3についての、4~20%のトリスグリシンによるSDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル解析)(Invitrogen)を示す図である。ゲルは、SimplyBlue試薬(Invitrogen)を用いて染色した。「NR」とは、非還元条件下であり、「R」とは、5%のメルカプトエタノールを伴う還元条件下である。タンパク質バンドは、両方の抗体が、通常サイズの無傷IgGであるIgGHC、およびIgGLCを有することを示す。
図9図9は、マウス抗CD3抗体であるmu-1F3およびヒト化抗CD3抗体であるhu-1F3による、還元して変性させた組換えCD3類縁タンパク質の検出を示す図である。表示された抗原100ngを4~20%のトリスグリシンゲル上で泳動させ、ニトロセルロース膜へと転写した。1ug/mlのビオチニル化mu-1F3 IgG(A)およびビオチニル化hu-1F3 IgGを用いて、ニトロセルロース膜と共にインキュベートした後、ストレプトアビジン/HRPを伴うインキュベーションを行った。検出は、ECL試薬により行った。Fc(K-H)とは、「KIH」法によるヘテロ二量体化Fc変異体を表す。CD3イプシロンアミノ酸1~27。Fcとは、CD3イプシロンのN末端(配列番号18を参照されたい)におけるヒトFcとのペプチド融合体である。対照ペプチドは、CD3イプシロンアミノ酸1~27と同じアミノ酸組成を有するが、最初の16アミノ酸(配列番号20を参照されたい)の配列順序が逆である。マウス抗CD3 IgGは、ヒト分子種およびカニクイザル分子種の変性CD3イプシロン鎖のほか、ヒトCD3イプシロンのN末端のアミノ酸1~27も認識することが可能であった。最初の16残基についてアミノ酸配列の順序が逆であるペプチドが、マウス1F3 IgGにより認識されなかったことから、陽性バンドが特異的であることが示唆される。ヒト化1F3抗体であるhu-1F3 IgGが、同じパネルの抗原の認識について極めて類似するパターンを示したことから、この抗体がマウス1F3親抗体と類似する特異性およびエピトープを有することが示される。
図10図10は、マウス抗ヒトCD3抗体であるmu-1F3およびそのヒト化形であるhu-1F3によるヒトPBMCへの結合についてのフローサイトメトリー解析を示す図である。FACS染色は、ビオチニル化IgGの後、ストレプトアビジン-PEコンジュゲートを用いる第2のステップを用いて行った。mu-1F3 IgGとhu-1F3 IgGとは、類似する細胞染色パターン:ヒトPBMC中の主要な細胞であるT細胞について大きなシフト(2~3log)を発生させた。マウスFc(mu-1F3内の)は、ヒトFcガンマ受容体への結合活性を欠くことが公知である。したがって、シフトの小さな細胞集団(0~1log)におけるわずかな差違は、hu-1F3 IgG(ヒトIgG2 Fc)の、PBMC調製物中のFcガンマ受容体発現細胞への、アフィニティーの低い結合に起因する可能性が高い。FACSは、FACSCalibur測定器(BD Bioscience)を用いて行った。
図11図11は、mu-1F3 IgGおよびhu-1F3 IgGの、組換えCD3イプシロン類縁タンパク質への結合についてのELISA研究を示す図である。1ug/mlの表示されたタンパク質抗原50ul(ウェル1個当たり)を、MaxiSorp ELISAプレート上にコーティングした。ビオチニル化mu-1F3 IgGおよびビオチニル化hu-1F3 IgG(4%のミルクTBS-0.05%Tween 20中に0.5ug/ml)を添加して、固定化抗原に結合させた後、ストレプトアビジン/HRPコンジュゲートを添加した。ABTSを発色のために用い、405nmで吸光度を測定した。対照ペプチド(配列番号20を参照されたい)によるFc融合体についてのELISAは、いずれの抗体についても陰性である(データは示さない)。結果により、マウス親抗体であるmu-1F3とヒト化形であるhu-1F3とによる異なる抗原形態に対する結合パターンが極めて類似すると示されたことから、特異性およびエピトープがヒト化抗体についても保持されることが示唆される。
図12図12は、Fabフォーマットのヒト化1F3抗体が、Jurkat細胞上のCD3を認識することを示す図である。2ug/mlの濃度のHisタグづけしたFabタンパク質を、Jurkat細胞、マウス抗hisタグ抗体に続き、抗マウス-PEコンジュゲートと共にインキュベートした。FACSは、FACSCalibur測定器(BD Biosciences)上で行った。
図13-1】図13は、ヒト化抗CD3抗体の、組換えヒトCD3イプシロン/デルタFc(K-H)ヘテロ二量体への結合(パネルAおよびB);ヒト化抗CD3抗体の、組換えヒトCD3イプシロンN末端アミノ酸1~27ペプチドFc融合体への結合(パネルCおよびD);ヒト化抗CD3抗体の、組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタFc(K+L)ヘテロ二量体への結合(パネルEおよびF)についてのELISAを示す図である。FdのC末端でヒト化Fabタンパク質にhis6タグづけし、96ウェルプレート固定化抗原へと結合したFabは、HRPとコンジュゲートした抗his6タグマウス抗体を用いて検出した。ABTSを基質として用い、405nmにおける吸収を測定した。
図13-2】図13は、ヒト化抗CD3抗体の、組換えヒトCD3イプシロン/デルタFc(K-H)ヘテロ二量体への結合(パネルAおよびB);ヒト化抗CD3抗体の、組換えヒトCD3イプシロンN末端アミノ酸1~27ペプチドFc融合体への結合(パネルCおよびD);ヒト化抗CD3抗体の、組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタFc(K+L)ヘテロ二量体への結合(パネルEおよびF)についてのELISAを示す図である。FdのC末端でヒト化Fabタンパク質にhis6タグづけし、96ウェルプレート固定化抗原へと結合したFabは、HRPとコンジュゲートした抗his6タグマウス抗体を用いて検出した。ABTSを基質として用い、405nmにおける吸収を測定した。
図14図14は、EpCAM×CD3 Fab融合タンパク質(MSFP)の、ヒトCD3を発現させるJurkat細胞への結合を、FACS解析を用いて示す図である。Jurkatへと結合したビオチニル化FabおよびFab融合体は、ストレプトアビジン-PEコンジュゲートにより検出した。OKT3 Fabは、Jurkat上のCD3への結合を示したが、抗EpCAM scFvの、LC単独またはHCおよびLCの両方への融合は、OKT3 Fab部分のCD3への結合能力を完全に消失させた。ヒト化抗CD3抗体のFabであるhu-1F3は、Jurkat細胞上のCD3に結合することが可能である。OKT3 Fab融合タンパク質とは異なり、抗EpCAM scFvをhu-1F3 LCのN末端へと融合させたところ、hu-1F3 Fabと同様のレベルの結合活性が保持されたのに対し、抗EpCAM scFvを、hu-1F3 FabのLCおよびHCへと同時的に融合させると、Jurkat細胞上のCD3への正の結合が示されたが、低レベルでの結合であった。
図15図15は、EpCAM×CD3 MSFPのヒトPBMCへの結合を、FACS解析を用いて示す図である。Jurkat細胞へと結合したビオチニル化FabおよびFab融合体は、ストレプトアビジン-PEコンジュゲートにより検出した。A)OKT3 Fabの、CD3を発現させるPBMC(T細胞)への結合を示す図である。抗EpCAM scFvをHCおよびLCの両方へと融合させたところ、OKT3 Fab部分の、CD3に対する結合能力は完全に消失した。B)ヒト化抗CD3抗体のFabであるhu-1F3.1は、PBMC調製物中のT細胞上のCD3に結合することが可能なことを示す図である。OKT3 Fab融合タンパク質とは異なり、抗EpCAM×hu-1F3.1 Fabを、FabのLCおよびHCへと同時的に融合させたところ、Jurkat細胞上のCD3への正の結合が示されたが、結合レベルは、低レベルである。
図16図16は、A)OKT3 FabおよびEpCAM1.1×OKT3二重特異性Fab融合タンパク質が、組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタヘテロ二量体Fcタンパク質に対する結合活性を有さず;B)OKT3 Fabおよび二重特異性融合体が、組換えヒトCD3イプシロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)に対する結合活性を有さないことを示したELISA結合アッセイを示す図である。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に固定化した抗原へと結合させたビオチニル化抗体は、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用のABTS基質を用いて検出した。
図17図17は、hu-1F3 FabおよびEpCAM1.1×hu-1F3.1二重特異性Fab融合タンパク質(MSFP;Fabe)が、A)組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタFc(K+H)ヘテロ二量体タンパク質に対する正の結合活性;およびB)組換えヒトCD3イプシロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)に対する正の結合活性を有することを示したELISA結合アッセイを示す図である。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に固定化した抗原へと結合させたビオチン抗体は、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用基質としてABTSを用いて検出した。
図18図18は、hu-1F3 FabおよびEpCAM1.2×hu-1F3.1 MSFPが、A)組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタFc(K+H)ヘテロ二量体タンパク質に対する正の結合活性;およびB)組換えヒトCD3イプシロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)に対する正の結合活性を有することを示したELISA結合アッセイを示す図である。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に固定化した抗原へと結合させた標識融合タンパク質は、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用基質としてABTSを用いて検出した。
図19図19は、hu-1F3.1 FabおよびEpCAM2.2×hu-1F3 MSFPが、A)組換えカニクイザルCD3イプシロン/デルタFc(K+H)ヘテロ二量体タンパク質に対する正の結合活性;およびB)組換えヒトCD3イプシロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)に対する正の結合活性を有することを示したELISA結合アッセイを示す図である。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に固定化した抗原へと結合させたビオチン標識融合タンパク質は、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用のABTS基質を用いて検出した。
図20-1】図20は、EpCAM×CD3 MSFPの、全長ヒトEpCAM(hu-EpCAM-FL)標的を細胞表面上で安定的に発現させるCHO細胞への結合を、FACS解析により示す図である。抗CD3 Fabは、予測される通り、同じCHO細胞への結合を示さない。EpCAM×CD3 MSFPは、CHO細胞上で発現させたEpCAMへの正の結合を示す。
図20-2】図20は、EpCAM×CD3 MSFPの、全長ヒトEpCAM(hu-EpCAM-FL)標的を細胞表面上で安定的に発現させるCHO細胞への結合を、FACS解析により示す図である。抗CD3 Fabは、予測される通り、同じCHO細胞への結合を示さない。EpCAM×CD3 MSFPは、CHO細胞上で発現させたEpCAMへの正の結合を示す。
図21-1】図21は、EpCAM×CD3 MSFPにより腫瘍標的依存的な様式で方向付けを変化させたPBMC(T細胞)を媒介する細胞殺滅活性を検出するためのFACSベースのアッセイを示す図である。このアッセイでは、標的細胞(ヒトEpCAM-FLを細胞表面上で安定的に発現させるCHO細胞;A、B、D)および対照細胞(CHOだけ;C)を、アッセイの前にPKH-26蛍光色素(Sigma、製品の指示書に従う)で標識した。細胞殺滅アッセイの終了時に、TO-PRO-三ヨウ化物(TP3、Invitrogen)を用いて死滅細胞を同定した。このアッセイでは、標的死滅細胞を右上四分図(PKH-26陽性、TP3陽性)中のカウントから同定し、標的生細胞を左上四分図(PKH-26陽性、TP3陰性)から同定した。A)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、EpCAM2.2×CD3 MSFPを伴うが、PBMCを伴わずにインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞(PKH-26標識TP3陽性細胞)が、約1.4%であったことを示す図であり;B)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、PBMCを伴うが、MSFPを伴わずにインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞が、PKH-26標識集団中約14%であった(PBMCの非特異的殺滅活性)ことを示す図であり;C)EpCAMを発現させないCHO細胞であって、PBMCおよびEpCAM2.2×CD3 MSFPと共にインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞が、約14%であった(PBMCの非特異的殺滅活性)ことを示す図であり;D)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、PBMCおよび例示的なEpCAM×CD3 MSFPと共にインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞カウントが、約64%であったことを示す図である。EpCAM2.2×CD3 MSFPの腫瘍細胞標的依存的な殺滅活性%は、約50%である(CとDとまたはBとDとを比較して)。
図21-2】図21は、EpCAM×CD3 MSFPにより腫瘍標的依存的な様式で方向付けを変化させたPBMC(T細胞)を媒介する細胞殺滅活性を検出するためのFACSベースのアッセイを示す図である。このアッセイでは、標的細胞(ヒトEpCAM-FLを細胞表面上で安定的に発現させるCHO細胞;A、B、D)および対照細胞(CHOだけ;C)を、アッセイの前にPKH-26蛍光色素(Sigma、製品の指示書に従う)で標識した。細胞殺滅アッセイの終了時に、TO-PRO-三ヨウ化物(TP3、Invitrogen)を用いて死滅細胞を同定した。このアッセイでは、標的死滅細胞を右上四分図(PKH-26陽性、TP3陽性)中のカウントから同定し、標的生細胞を左上四分図(PKH-26陽性、TP3陰性)から同定した。A)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、EpCAM2.2×CD3 MSFPを伴うが、PBMCを伴わずにインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞(PKH-26標識TP3陽性細胞)が、約1.4%であったことを示す図であり;B)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、PBMCを伴うが、MSFPを伴わずにインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞が、PKH-26標識集団中約14%であった(PBMCの非特異的殺滅活性)ことを示す図であり;C)EpCAMを発現させないCHO細胞であって、PBMCおよびEpCAM2.2×CD3 MSFPと共にインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞が、約14%であった(PBMCの非特異的殺滅活性)ことを示す図であり;D)EpCAMを発現させるCHO細胞であって、PBMCおよび例示的なEpCAM×CD3 MSFPと共にインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞カウントが、約64%であったことを示す図である。EpCAM2.2×CD3 MSFPの腫瘍細胞標的依存的な殺滅活性%は、約50%である(CとDとまたはBとDとを比較して)。
図22-1】図22は、MSFPの、方向付けを変化させたT細胞による、EpCAMを発現させるCHO細胞に対する細胞溶解活性を、図18において記載されるFACSアッセイを用いて示す図である。A)OKT3 FabおよびそのMSFPが、方向付けを変化させた著明な細胞溶解活性を欠くことを示す図である。hu-1F3.1 Fabが、標的細胞に対する活性を示さなかったのに対し、B)EpCAM1.1×hu-1F3.1 MSFPは、高レベルの活性を示し、MSFPが60pMであっても高い活性レベルを維持したことを示す図であり;C)EpCAM1.2×hu-1F3.1 MSFPによる用量依存的な活性が検出されたことを示す図であり;D)EpCAM2.2 scFvの、hu-1F3.1 Fabとの単一融合体について、用量依存的な細胞溶解活性が検出されたことを示す図である。EpCAM2.2 scFvの、hu-1F3.1 FabのHCおよびLCの両方との二重融合体については、最大で50%の細胞集団の殺滅が観察され、その濃度が60pMという低濃度のときも、高い活性レベル(約40%)を維持した。殺滅活性百分率は、対照アッセイ(EpCAM-CHO+PBMC+MSFPなし)における死滅細胞の百分率を、試料アッセイにおける死滅細胞の百分率から減じることにより計算した。
図22-2】図22は、MSFPの、方向付けを変化させたT細胞による、EpCAMを発現させるCHO細胞に対する細胞溶解活性を、図18において記載されるFACSアッセイを用いて示す図である。A)OKT3 FabおよびそのMSFPが、方向付けを変化させた著明な細胞溶解活性を欠くことを示す図である。hu-1F3.1 Fabが、標的細胞に対する活性を示さなかったのに対し、B)EpCAM1.1×hu-1F3.1 MSFPは、高レベルの活性を示し、MSFPが60pMであっても高い活性レベルを維持したことを示す図であり;C)EpCAM1.2×hu-1F3.1 MSFPによる用量依存的な活性が検出されたことを示す図であり;D)EpCAM2.2 scFvの、hu-1F3.1 Fabとの単一融合体について、用量依存的な細胞溶解活性が検出されたことを示す図である。EpCAM2.2 scFvの、hu-1F3.1 FabのHCおよびLCの両方との二重融合体については、最大で50%の細胞集団の殺滅が観察され、その濃度が60pMという低濃度のときも、高い活性レベル(約40%)を維持した。殺滅活性百分率は、対照アッセイ(EpCAM-CHO+PBMC+MSFPなし)における死滅細胞の百分率を、試料アッセイにおける死滅細胞の百分率から減じることにより計算した。
図23図23は、EpCAM2.2-(H+L)-hu-1F3.1 MSFPによるT細胞の活性化(PBMC中の)が、腫瘍標的依存的であることを示す図である。A)EpCAMを発現させないCHOの存在下において、EpCAM2.2-(H+L)-hu-1F3.1(30nM)と共にインキュベートされたPBMCが、FACS解析によるCD69の発現を介して測定される、基底レベルのT細胞の活性化を結果としてもたらしたことを示す図であり;B)EpCAMを発現させないCHOの存在下において、EpCAM2.2-(H+L)-hu-1F3.1と共にインキュベートされた(30nM、16時間)PBMCが、FACSアッセイにより検出されるCD69の発現を介して測定される、T細胞の活性化の著明な増大を結果としてもたらしたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本開示は、多重特異性Fab融合タンパク質(MSFP)に関する。特に、本開示のM
SFPは、特定の対象の標的抗原(例えば、CD3、T細胞受容体、NKG2D、または
FcγR)に結合するFab断片を含み、1つまたは2つの融合部分であって、1つのさ
らなる標的抗原、または、一部の実施形態では、2つのさらなる標的抗原(例えば、血清
アルブミンタンパク質、腫瘍抗原、または他の疾患関連抗原)に結合する融合部分も有す
る。
【0058】
有効性、安全性、医薬物質の製造に関連する経費、および薬物投与の経路を含めたがん
処置の有効性は、以下の属性のうちの大半または全てを保有する斬新な薬物を開発するこ
とにより劇的に改善されうることが想定される。
【0059】
1.二価の腫瘍会合抗原(TAA)結合分子を用いる、正常細胞を上回って腫瘍細胞を
ターゲティングするための選択性の増強。抗体と抗原との相互作用についてのエネルギー
論は通常、アフィニティーおよびアビディティーという用語により表現される。アビディ
ティーは、抗原結合ドメインと抗原との単一部位間の相互作用の強度について記載するの
に用いられる用語であるアフィニティーとは異なる。アビディティーとはそれ自体、アフ
ィニティーの組合せによる相乗作用的強度である。抗体の腫瘍細胞への結合は、内因性の
結合アフィニティー、抗体上に存在する結合部位の数(価数)、および細胞上における標
的抗原の密度に依存する(Reynolds、Biochemistry、18巻:26
4~9頁、1979年)。一価抗体を用いる場合、結合強度の測定値は、アフィニティー
と関連する。二価抗体または多価抗体を細胞の結合に用いる場合は通常、アビディティー
が測定される。通常は抗原濃度が高いほど、アビディティーも高くなる。腫瘍細胞が多け
れば、TAAは、腫瘍細胞表面上において過剰発現することが公知である。2つの抗腫瘍
抗体の標的結合ドメインを伴うMSFPは、これもまた同じ標的を発現させる正常組織細
胞への結合より、TAAを過剰発現させる腫瘍細胞への結合を選択的に強めることが可能
である。アビディティー原理に基づき、Adamsらは、二価の抗her2/neu抗体
断片を用いることにより、腫瘍塊中の蓄積が、同じ抗体断片の対応する一価形を用いる場
合の3倍改善されることを裏付けるのに成功した(Adamsら、Clin Cance
r Res、12巻:1599~1605頁、2006年)。腫瘍ターゲティングに関し
ては、抗体のアフィニティーが高くなると、腫瘍塊の縁辺部における蓄積が結果としても
たらされることが通常であるのに対し、アビディティー効果が高くなると、抗体の腫瘍内
へのより深い浸透がもたらされる。
【0060】
2.二重特異性抗体を用いる、正常細胞を上回る腫瘍細胞のターゲティングにおける選
択性の増強。二重特異性試薬を、正常細胞を上回っていっそう選択的に腫瘍細胞に結合し
、これらを死滅させ、単一特異性試薬を上回って有効性および安全性を究極的に増大させ
るそれらの目標に向けてデザインすることができる(Changら、Mol Cance
r Ther、1巻:553頁、2002年;KipriyanovおよびLe Gal
l、Curr Opin Drug Discov Devel、7巻:233頁、20
04年)。腫瘍細胞における両方の抗原の存在、および各抗原結合アームの適正なアフィ
ニティーの注意深いデザインに対する要請が、この手法の極めて重要な側面である。例え
ば、MM-111とは、her2アームを用いて薬物をがん細胞へとターゲティングし、
抗her3アームを用いてがん細胞におけるher3受容体のヘテロ二量体化およびシグ
ナル伝達を阻害するようにデザインされた抗Her2およびHer3二重特異性融合タン
パク質である(Robinsonら、British Journal of Canc
er、99巻、1415~1425頁、2008年)。MM-111をデザインするため
に重要だと考えられる側面には、1)組織における比較的限局的なHer2の発現パター
ン、およびがん細胞によるHer2の過剰発現、2)組織における広域的なHer3の発
現、ならびにがん細胞の増殖および生存におけるHer3によるシグナル伝達の大きな重
要性、3)Her2への結合アフィニティーの高さ(1.1nM)およびHer3への結
合アフィニティーの低さ(160nM)が含まれる。in vitroにおける結合アッ
セイでは、MM-111が、Her2/Her3二重陽性細胞に対して、Her2単一陽
性細胞に対する結合の最大9.7倍の結合を顕示する一方、1μMの高濃度でもHer3
単一陽性細胞への検出可能な結合は認められなかった(Robinsonら、Briti
sh Journal of Cancer、99巻、1415~1425頁、2008
年)。
【0061】
したがって、本開示は、本明細書でさらに記載されるこれらの利点および他の利点を提
供する。特に、本開示のMSFPは、以下が含まれるがこれらに限定されない異なる利点
を提供する:1)Fabを融合部分へと結合させると、MSFPは、主要なFab標的に
結合しないか、またはこれらへの結合を低減した。例えば、Fabを融合部分Aおよび融
合部分Bへと結合させると、特に、融合部分がそれらの標的と係合していない場合、抗C
D3 Fabを含むMSFPは、CD3に結合しないか、またはCD3への結合を著明に
低減した。これは、望まれない副作用(例えば、腫瘍細胞またはFab標的抗原を発現さ
せる他の細胞への結合前におけるT細胞の望まれない全体的活性化)を低下させる。2)
二価結合または二重特異性結合は、MSFPの腫瘍に対する選択性を、正常細胞と対比し
て増強する。3)MSFPは比較的大型(約75~100kD)であり、これにより、急
速な腎クリアランス(腎クリアランスの濾過の閾値サイズは70kDである)を回避する
が、通常の抗体(150kD)より小型であり、これにより、腫瘍組織への浸透の改善が
可能となる。5)一部のMSFPが血清アルブミンに結合する能力は、循環中半減期を劇
的に延長する。6)MSFPの構造は、scFvだけを有する融合タンパク質より安定的
となる傾向がある。
【0062】
特定の実施形態では、本開示のMSFPが、特異的標的抗原(例えば、腫瘍抗原)への
結合に関して二価であり、融合部分を介して標的の腫瘍抗原に結合し、Fabの結合ドメ
インを介して第2の標的抗原(例えば、CD3、T細胞受容体、NKG2D、またはFc
γR)に結合する点で二重特異性であり、例えば、特定の標的抗原を発現させる細胞に対
する免疫系の活性化を介してそれらの有効性を増強する。
【0063】
本開示の例示的なMSFPは、抗CD3 Fabを含む。しかし、本明細書では、他の
Fab標的もとりわけ想定される。今日、抗CD3 Fabに関して、TCR複合体を指
向するタンパク質分子はまた、T細胞の活性化と併せて、T細胞シグナルも誘導し、その
結果として、サイトカインストームをもたらすが、これは、重度の副作用を結果としても
たらす場合もあり、架橋形成の非存在下にある細胞に対してはほとんど効果を及ぼさない
場合もある。本MSFPは、まず第2の標的抗原、例えば、腫瘍抗原に結合し、これによ
り、T細胞を活性化しない限りは、TCR(CD3)への結合およびその活性化を阻害す
る利点をもたらす。これは、所望の標的細胞(例えば、腫瘍細胞標的)の非存在下におけ
る望まれないサイトカインストームおよび望まれないT細胞の活性化を大幅に低減する。
【0064】
以下の記載は、本開示の多様な実施形態を例示することだけを意図するものである。そ
れ自体、考察される特定の改変は、限定的であることを意図しない。当業者には、本明細
書で示される対象物の精神または範囲から逸脱しない限りにおいて、多様な同等物、変化
、および改変をもたらしうることが明らかであろうし、本明細書には、このような同等な
実施形態が包含されることが理解される。
【0065】
とりわけ別段であることが示されない限り、本発明の実施は、当技術分野の範囲内にあ
るウイルス学、免疫学、微生物学、分子生物学、および組換えDNA法の従来の方法であ
って、それらの多くが例示を目的として以下で記載される方法を使用する。このような技
法は、文献において完全に説明されている。例えば、「Current Protoco
ls in Molecular Biology」または「Current Prot
ocols in Immunology」、John Wiley & Sons、N
ew York、N.Y.(2009年);Ausubelら、「Short Prot
ocols in Molecular Biology」、3版、Wiley & S
ons、1995年;SambrookおよびRussell、「Molecular
Cloning: A Laboratory Manual」(3版、2001年);
Maniatisら、「Molecular Cloning: A Laborato
ry Manual」(1982年);「DNA Cloning: A Practi
cal Approach」、IおよびII巻(D. Glover編);「Oligo
nucleotide Synthesis」(N. Gait編、1984年);「N
ucleic Acid Hybridization」(B. HamesおよびS.
Higgins編、1985年);「Transcription and Tran
slation」(B. HamesおよびS. Higgins編、1984年);「
Animal Cell Culture」(R. Freshney編、1986年)
;Perbal、「A Practical Guide to Molecular
Cloning」(1984年)などの参考文献を参照されたい。
【0066】
内容により別段であることが明確に規定されない限り、本明細書および付属の特許請求
の範囲で用いられる単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、および「その」は、複
数の指示物を包含する。
【0067】
本明細書の全体において、文脈により別段に要請されない限り、「~を含む(comp
rise)」という語、または「~を含む(comprises)」もしくは「~を含む
(comprising)」などの変化形は、言明された要素もしくは整数または要素も
しくは整数の群の包含は含意するが、他の任意の要素もしくは整数または要素もしくは整
数の群の除外は含意しないと理解されたい。
【0068】
別段に明示的に言明されない限り、本明細書で記載される各実施形態は、変更すべき部
分を変更して、他のあらゆる実施形態にも適用されるものとする。
【0069】
組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、ならびに組織培養および形質転換(例えば、
電気穿孔、リポフェクション)のための標準的な技法を用いることができる。酵素反応お
よび精製技法は、製造元の仕様に従い実施することもでき、当技術分野において一般的に
達成される通りに実施することもでき、本明細書で記載される通りに実施することもでき
る。これらの技法および手順ならびに関連する技法および手順は一般に、当技術分野にお
いて周知の従来の方法に従い実施することができ、本明細書全体で引用されて論じられる
、多様な一般的参考文献およびより特殊な参考文献において記載される通りに実施するこ
とができる。特定の定義を提示しない限り、本明細書で記載される分子生物学、分析化学
、有機合成化学、ならびに創薬化学および製薬化学との関連で用いられる用語法ならびに
これらの実験室における手順および技法は、周知の手順および技法であり、当技術分野に
おいて一般的に用いられている。標準的な技法は、組換え法、分子生物学法、微生物学法
、化学合成法、化学的分析法、医薬としての調製、処方、および送達、ならびに患者の処
置に用いることができる。
【0070】
本明細書で用いられるポリペプチドの「C末端」とは、ポリペプチドの最後のアミノ酸
残基であって、そのアミン基を供与して、その隣接するアミノ酸残基のカルボキシル基と
ペプチド結合を形成するアミノ酸残基を指す。本明細書で用いられるポリペプチドの「N
末端」とは、ポリペプチドの最初のアミノ酸であって、そのカルボキシル基を供与して、
その隣接するアミノ酸残基のアミン基とペプチド結合を形成するアミノ酸を指す。
【0071】
本明細書で用いられる「共有結合的連結」という用語は、1もしくは複数の化学結合を
介する直接的な連結、または1もしくは複数のリンカーを介する間接的な連結を指す。
【0072】
任意の適切な化学結合を用いて、限定せずに述べると、ペプチド結合およびジスルフィ
ド結合などの共有結合的結合、水素結合、疎水性結合、イオン結合、およびファンデルワ
ールス結合などの非共有結合が含まれる、直接的な連結を作製することができる。
【0073】
本明細書では、「共有結合的結合」が、1または複数の電子を共有する2つの原子の間
の安定的な会合を指す。限定せずに述べると、共有結合的結合の例には、ペプチド結合お
よびジスルフィド結合が含まれる。本明細書で用いられる「ペプチド結合」とは、アミノ
酸のカルボキシル基と隣接するアミノ酸のアミン基との間で形成される共有結合的結合を
指す。本明細書で用いられる「ジスルフィド結合」とは、2つの硫黄原子の間で形成され
る共有結合的結合を指す。ジスルフィド結合は、2つのチオール基の酸化から形成されう
る。特定の実施形態では、共有結合的連結が、共有結合的結合を介する直接的な連結であ
る。特定の実施形態では、共有結合的連結が、ペプチド結合またはジスルフィド結合を介
する直接的な連結である。
【0074】
本明細書では、「非共有結合」が、電子の共有を伴わない2つの分子または2つの化学
基の間の誘引的相互作用を指す。限定せずに述べると、非共有結合の例には、水素結合、
疎水性結合、イオン結合、およびファンデルワールス結合が含まれる。本明細書では、「
水素結合」が、第1の分子/基の水素原子と、第2の分子/基の電気陰性原子との間の引
力を指す。本明細書では、「疎水性結合」が、疎水性または非極性の分子/基を、水性環
境内で併せて凝集または会合させる力を指す。本明細書では、「イオン結合」が、陽イオ
ンと陰イオンとの間の誘引を指す。本明細書では、「ファンデルワールス結合」が、電子
の分布が瞬間的にランダムな摂動を示す、2つの隣接する分子/基の間の非特異的引力を
指す。特定の実施形態では、共有結合的連結が、非共有結合を介する直接的な連結である
。特定の実施形態では、共有結合的連結が、水素結合、疎水性結合、イオン結合、または
ファンデルワールス結合を介する直接的な連結である。
【0075】
結合ドメイン(またはこれによる融合タンパク質)は、それが、例えば、約10
以上のアフィニティーまたはKa(すなわち、1/Mを単位とする、特定の結合相互作
用の平衡会合定数)で標的分子に結合またはこれと会合する場合に、標的分子へと「特異
的に結合する」。特定の実施形態では、結合ドメイン(またはこれによる融合タンパク質
)が、約10-1、10-1、10-1、10-1、1010-1
1011-1、1012-1、または1013-1以上のKaで標的に結合する。
「高アフィニティー」の結合ドメイン(またはこれによる単鎖融合タンパク質)とは、K
が少なくとも10-1、少なくとも10-1、少なくとも10-1、少な
くとも1010-1、少なくとも1011-1、少なくとも1012-1、少なく
とも1013-1以上の結合ドメインを指す。代替的に、アフィニティーは、単位をM
とする(例えば、10-5M~10-13M以下の)、特定の結合相互作用の平衡解離定
数(K)として定義することもできる。本開示に従う結合ドメインポリペプチドおよび
融合タンパク質のアフィニティーは、従来の技法(例えば、Scatchardら(19
49年)、Ann. N.Y. Acad. Sci.、51巻:660頁;および米国
特許第5,283,173号;同第5,468,614号、または同等の文献を参照され
たい)を用いて容易に決定することができる。
【0076】
本明細書で用いられる「誘導体」とは、化学的または生物学的に修飾された化合物(例
えば、タンパク質)の変化形であって、親化合物と構造的に類似し(実測的にまたは理論
的に)、この親化合物から誘導可能な変化形を指す。
【0077】
「立体障害」という用語は、それらのサイズまたは空間的配置から結果として生じる、
分子の間の結合相互作用の防止または遅延を指す。
【0078】
「アビディティー」という用語は、組合せによる複数の結合相互作用の強度について記
載するのに用いられる用語である。アビディティーは、単一の結合の強度について記載す
るのに用いられる用語であるアフィニティーと異なる。抗体に関して、アビディティーと
は、複数の抗原結合部位が、同時に標的と相互作用する、抗体の相互作用を指す。個別に
は、各結合相互作用を容易に破壊しうるが、多くの結合相互作用が同時に存在すると、一
過性の単一部位間の非結合では分子の拡散が不可能となり、この部位の結合が保持される
可能性が高い。全体的な効果は、抗原の抗体への相乗作用的で強力な結合である。
【0079】
多重特異性Fab融合タンパク質
本開示は、Fab断片(例えば、NH-VL-CL-S-S-CH1-VH-NH
の基本構造を有する)であって、そのVLのN末端側の終端部に第1の融合部分を接合さ
せ、かつ/またはVHのN末端側の終端部に第2の融合部分を接合させたFab断片を含
む多重特異性Fab融合タンパク質(MSFP;図中ではまた、Fabが、CD3イプシ
ロン鎖、T細胞受容体、NKG2D、またはFcγRなどの免疫エフェクター分子に結合
する、Fabeとも称する)を提供する。融合部分とVHおよびVLとの間には、場合に
よって、プロテアーゼにより切断可能なリンカーが存在しうる。この一般的なフォーマッ
トが、以下でさらに記載される通りに用いられる融合部分に応じて、より複雑なホモ二量
体多重特異性Fab融合タンパク質複合体を構築するためにその上に立脚しうる基本構造
である。
【0080】
本出願以前に、Fabの重鎖および軽鎖の両方のN末端側の終端部において融合部分を
有するFabベースの融合体について記載されたことはなかった。当業者により理解され
る通り、このような融合体であれば、Fabの結合アフィニティーを大きく損ない、した
がって、それらを実際上有用でなくするであろう。(1または複数の)結合ドメインをF
abのN末端へ融合させると結合が低減されるというこの一般的な概念は、MSFPにお
いても観察された。例えば、OKT3抗CD3 FabのN末端への融合は、Fabの標
的への結合を著明に低減し、二重特異性Fab融合タンパク質の生物学的活性のほぼ完全
な喪失を結果としてもたらした。しかし、抗原結合ドメインの、hu-1F3.1ヒト化
抗CD3 FabのN末端への融合が、場合によって、Fabの標的への結合の著明な喪
失を結果としてもたらさなかったことは驚くべきことである。一部の場合には、細胞表面
標的への結合の喪失が、可溶性タンパク質標的に対する場合よりいっそう著明であった。
他の一部の場合には、結合の喪失が、生物学的活性の喪失を結果としてもたらさなかった
。これに対し、T細胞上のCD3に対する結合アフィニティーを低下させたMSFPは、
生物学的活性を上昇させうる。これは驚くべきことであり、少なくとも以下の2つの因子
であるがこれらに限定されない因子の重要性を裏付ける:1)腫瘍細胞への結合が高度(
融合部分AおよびBの結合ドメインを用いる)であると、MSFPは、Fab部分のT細
胞への結合の低アフィニティーを克服する高アビディティーを呈示し、したがって、殺滅
を誘導すること;2)OKT3 Fab融合タンパク質の挙動が、抗CD3抗体である1
F3に由来するMSFPと完全に異なったのは、それらが高度に抗体依存的、したがって
、エピトープ依存的なためであること。1F3およびそのヒト化変異体により認識される
CD3イプシロンエピトープへと結合する抗体に由来するFab断片により作製された本
開示におけるMSFPは、多くの固有な特色を保有し、これらの特色を使用して、薬物の
安全性、有効性、および製造可能性において所望の属性を伴うヒト用治療剤を開発するこ
とができる。本明細書で記載される通り、この特性は、本開示のMSFPにおいて、MS
FPが適切な環境に置かれる(例えば、腫瘍の近傍に置かれる)まで、Fabの結合を遮
蔽するのに用いられると有利である。
【0081】
以下の節では、MSFPの特異的な構造的構成要素がより詳細に記載される。以下の「
多重特異性Fab融合タンパク質の機能」と題する節では、MSFPの機能がより詳細に
記載される。
【0082】
Fab断片
上記で言及した通り、本明細書で開示される多重特異性Fab融合タンパク質は、それ
らのコアにおいてFab断片を含む。当業者により理解される通り、Fab断片とは、抗
体の抗原結合断片である。Fabは、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の1
つの定常領域と1つの可変領域とからなる。重鎖定常領域および重鎖可変領域は、軽鎖可
変領域および軽鎖定常領域とヘテロ二量体化し、重鎖定常領域と軽鎖定常領域との間のジ
スルフィド結合により、通常共有結合的に連結される(例えば、図1の概略図を参照され
たい)。したがって、本明細書で抗体に関して用いられる「Fab」とは一般に、単一の
重鎖の可変領域および第1の定常領域へとジスルフィド結合により結合させた単一の軽鎖
(可変領域および定常領域の両方)からなる抗体の部分を指す。
【0083】
当業者により認識される通り、重鎖と軽鎖との間のジスルフィド結合は、機能にとって
好ましいが、不可欠なわけではない(Orcuttら(2010年)、PEDS、23巻
:221~228頁)。したがって、特定の実施形態では、本発明のFab断片が、ジス
ルフィド結合を含まない場合もある。この点において、重鎖および軽鎖を、ジスルフィド
結合に対する必要を伴わずに安定的に相互作用するような様式で操作することができる。
例えば、特定の実施形態では、重鎖または軽鎖を操作して、システイン残基を除去するこ
とができ、この場合、重鎖および軽鎖は、Fabとしてやはり安定的に相互作用および機
能する。一実施形態では、重鎖と軽鎖との間の安定的な相互作用を容易とするように変異
を施す。例えば、「KIH」操作戦略を用いて、Fabの重鎖と軽鎖との間の二量体化を
容易とすることができる(例えば、1996年、Protein Engineerin
g、9巻:617~621頁を参照されたい)。この戦略を用いて、相互作用ドメイン間
のインターフェースにおける小型のアミノ酸側鎖を、大型のアミノ酸側鎖で置きかえるこ
とにより「ノブ」を創出する。対応する「ホール」は、大型の側鎖を小型の側鎖で置きか
えることにより、相互作用分子間のインターフェースにおいて作製する。したがって、本
明細書における使用のためにはまた、例えば、CH1および/またはCLの定常ドメイン
におけるアミノ酸変化、ジスルフィド結合の除去、または精製のためのタグの付加など、
特定の目的のためにデザインされた変異体のFab断片も想定される。
【0084】
別の実施形態では、Fab断片内の可変領域および定常領域の立体構成が、天然のFa
bにおいて見出される立体構成と異なりうる。言い換えれば、一実施形態では、可変領域
と定常領域との配向性が、一方の鎖ではVH-CLであり、別の鎖ではVL-CH1であ
る(Shaeferら(2011年)、PNAS、108巻:111870~92頁)。
このような修飾Fab断片は、それらの特定の標的抗原に結合するようにやはり機能し、
本発明のMSFPにおける使用のために想定される。したがって、この点では、Fabを
構成する可変領域および定常領域が、モジュール的であると考えられる。
【0085】
特定の実施形態では、本開示のFab断片が、モノクローナル抗体に由来し、IgA、
IgM、IgD、IgG、IgE、ならびにIgG1、IgG2、IgG3、およびIg
G4などのこれらの亜型を含めた任意の種類の抗体に由来しうる。軽鎖ドメインは、カッ
パ鎖に由来する場合もあり、ラムダ鎖に由来する場合もある。本明細書における使用のた
めのFab断片は、組換えにより作製することができる。
【0086】
当技術分野で周知の通り、抗体とは、免疫グロブリン分子の可変領域内に配置される少
なくとも1つのエピトープ認識部位を介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリ
ペプチドなどの標的への特異的結合が可能な免疫グロブリン分子である。本明細書で用い
られる通り、この用語は、無傷のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体だけでな
く、ヒト化抗体、キメラ抗体、および要請される特異性を有する抗原結合部位または抗原
結合断片(エピトープ認識部位)を含む、他の任意の修飾された免疫グロブリン分子の立
体構成も包摂する。
【0087】
本明細書で開示されるFab断片は、免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリ
ン軽鎖可変領域(VHおよびVL)を含む抗原結合部分を含む。より具体的には、本明細
書で用いられる「抗原結合部分」という用語が、CD3分子など、対象の標的抗原に結合
する免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖の少なくとも1つのCDRを含有するポリペ
プチド断片を指す。この点において、本明細書で記載される多重特異性Fab融合タンパ
ク質の抗原結合部分は、対象の標的抗原に結合する親抗体のVH配列およびVL配列の1
つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDRを含みうる。特定の実施形態では
、MSFPのFab断片の抗原結合部分が、CD3に結合する。
【0088】
特定の実施形態では、本明細書で記載されるMSFPの特異的VHおよび/または特異
的VLを用いて、相補的な可変領域のライブラリーをスクリーニングして、対象の標的抗
原に対するアフィニティーの増大など、所望の特性を伴うVH/VLを同定することがで
きる。このような方法は、例えば、Portolanoら、J. Immunol.(1
993年)、150巻:880~887頁;Clarksonら、Nature(199
1年)、352巻:624~628頁に記載されている。
【0089】
また、他の方法を用いてCDRをミックスアンドマッチさせて、所望の結合活性(MS
FPの融合部分内に存在する他の結合ドメインについての、CD3または本明細書で記載
される他の対象の標的抗原への結合など)を有するFabを同定することもできる。例え
ば、Klimkaら、British Journal of Cancer(2000
年)、83巻:252~260頁は、マウスVLと、CDR3およびFR4をマウスVH
から保持したヒトVHライブラリーとを用いるスクリーニング工程について記載している
。抗体を得た後、VHをヒトVLライブラリーに照らしてスクリーニングして、抗原に結
合する抗体を得た。Beiboerら、J. Mol. Biol.(2000年)、2
96巻:833~849頁は、マウス重鎖の全体とヒト軽鎖ライブラリーとを用いるスク
リーニング工程について記載している。抗体を得た後、1つのVLを、マウスのCDR3
を保持したヒトVHライブラリーと組み合わせた。抗原に結合することが可能な抗体を得
た。Raderら、PNAS(1998年)、95巻:8910~8915頁は、上記の
Beiboerらの工程と同様の工程について記載している。
【0090】
当技術分野では、記載されたばかりのこれらの技法が、それら自体において、それら自
体について、それら自体として公知である。しかし、当業者は、当技術分野の日常的な方
法を用いて、本明細書で記載される本開示の複数の実施形態に従い、抗体の抗原結合断片
を得るのに、このような技法を用いることが可能である。
【0091】
本明細書ではまた、標的抗原(例えば、融合部分の結合ドメインの標的について本明細
書の別の個所で記載される、CD3または任意の標的抗原)に特異的な抗体の抗原結合ド
メインを得る方法であって、本明細書で示されるVHドメインのアミノ酸配列に1または
複数のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入することにより、このVHドメインのア
ミノ酸配列の変異体であるVHドメインをもたらし、場合によっては、このようにしても
たらされたVHドメインを、1または複数のVLドメインと組み合わせ、VHドメインま
たはVH/VLの1もしくは複数の組合せを調べて、対象の標的抗原(例えば、CD3)
に特異的であり、場合によって、1または複数の所望の特性も伴う、特異的結合メンバー
または抗体の抗原結合ドメインを同定するステップを含む方法も開示される。VLドメイ
ンは、本明細書で実質的に示されるアミノ酸配列を有しうる。類似の方法であって、本明
細書で開示されるVLドメインの1または複数の配列変異体を、1または複数のVHドメ
インと組み合わせる方法も使用することができる。
【0092】
抗体またはポリペプチドに「特異的に結合する」か、または「優先的に結合する」(本
明細書では互換的に用いられる)エピトープとは、当技術分野において十分に理解された
用語であり、当技術分野ではまた、このような特異的または優先的な結合を決定する方法
も周知である。分子は、それが、特定の細胞または物質と、代替的な細胞または物質との
場合より高頻度で、迅速に、長い持続時間にわたり、かつ/または大きなアフィニティー
で反応または会合する場合、「特異的結合」または「優先的結合」を呈示するという。抗
体、またはそのFabもしくはscFvは、それが、他の物質に結合する場合より大きな
アフィニティー、アビディティーで、容易に、かつ/または長い持続時間にわたり結合す
る場合、標的に「特異的に結合する」か、または「優先的に結合する」。例えば、CD3
エピトープに特異的または優先的に結合する抗体とは、1つのCD3エピトープに、他の
CD3エピトープまたはCD3以外のエピトープに結合する場合より大きなアフィニティ
ー、アビディティーで、容易に、かつ/または長い持続時間にわたり結合する抗体である
。また、この定義を読み解くことにより、例えば、第1の標的に特異的または優先的に結
合する抗体(または部分もしくはエピトープ)が、第2の標的に特異的または優先的に結
合する場合もあり、結合しない場合もあることも理解される。それ自体、「特異的結合」
または「優先的結合」は、必ずしも排他的結合を要請するわけではない(排他的結合を包
含しうるが)。一般に、結合に対する言及は、優先的結合を意味するが、必ずしもそうで
あるわけではない。
【0093】
免疫的結合とは一般に、免疫グロブリン分子と、この免疫グロブリンがそれに対して特
異的である抗原との間で、例えば、例示として述べるものであり、限定として述べるもの
ではないが、静電引力もしくは静電斥力、イオン性引力もしくはイオン性斥力、親水性引
力もしくは親水性斥力、および/または疎水性引力もしくは疎水性斥力、立体斥力、水素
結合、ファンデルワールス力、ならびに他の相互作用の結果として生じる種類の非共有結
合的相互作用を指す。免疫的結合による相互作用の強度またはアフィニティーは、この相
互作用の解離定数(K)であって、低値のKが大きなアフィニティーを表すKとの
関連で表すことができる。選択したポリペプチドの免疫的結合特性は、当技術分野で周知
の方法を用いて定量化することができる。このような一方法は、抗原結合部位/抗原の複
合体形成および解離の速度であって、複合体パートナーの濃度、相互作用のアフィニティ
ー、およびいずれの方向の速度にも同等に影響を及ぼす幾何学的パラメータに依存する速
度を測定するステップを伴う。こうして、「オン速度定数」(kon)および「オフ速度
定数」(koff)のいずれも、濃度ならびに会合速度および解離速度の実測値を計算す
ることにより決定することができる。したがって、koff/konの比は、解離定数K
と同等である。一般に、Daviesら(1990年)、Annual Rev. B
iochem.、59巻:439~473頁を参照されたい。
【0094】
「抗原」という用語は、Fab断片の抗原結合部分などの選択的結合剤による結合が可
能であり、加えて、動物において、この抗原のエピトープへの結合が可能な抗体を作製す
るのに用いることが可能な分子または分子の部分を指す。抗原は、1または複数のエピト
ープを有しうる。
【0095】
「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体への特異的結合が可
能な任意の決定基、特定の実施形態では、ポリペプチド決定基を包含する。エピトープと
は、抗体またはその抗原結合断片が結合する抗原の領域である。特定の実施形態では、エ
ピトープ決定基に、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルなど、化学的に活性
な表面分子集団が含まれ、特定の実施形態では、特定の三次元構造特徴および/または特
定の電荷特徴を有しうる。特定の実施形態では、MSFPが、タンパク質および/または
高分子の複合混合物中でその標的抗原を優先的に認識する場合に、抗原に特異的に結合す
るという。MSFPは、平衡解離定数が≦10-5、10-6または10-7Mである場
合に、抗原に特異的に結合するという。一部の実施形態では、平衡解離定数が≦10-8
Mまたは≦10-9Mでありうる。一部のさらなる実施形態では、平衡解離定数が≦10
-10Mまたは≦10-11Mでありうる。
【0096】
特定の実施形態では、本明細書で記載されるFab断片の抗原結合部分は、重鎖CDR
および軽鎖CDRのセットであって、CDRに対する支持体をもたらし、互いと比べたC
DRの空間関係を規定する、重鎖フレームワーク領域および軽鎖フレームワーク領域(F
R)のセットのそれぞれの間に散在するCDRセットを包含する。本明細書で用いられる
「CDRセット」という用語は、重鎖V領域または軽鎖V領域3つずつの超可変領域を指
す。重鎖または軽鎖のN末端から順に、これらの領域を、それぞれ「CDR1」、「CD
R2」、および「CDR3」と称する。したがって、抗原結合部位は、重鎖V領域および
軽鎖V領域の各々に由来するCDRセットを含む6つのCDRを包含する。本明細書では
、単一のCDR(例えば、CDR1、CDR2、またはCDR3)を含むポリペプチドを
「分子的認識単位」と称する。多数の抗原-抗体複合体の結晶構造解析により、CDRの
アミノ酸残基は、結合した抗原との広範な接触であって、抗原との最も広範な接触が重鎖
CDR3との接触である抗原との接触を形成することが裏付けられている。したがって、
分子的認識単位は、抗原結合部位の特異性の主要な一因をなす。
【0097】
本明細書で用いられる「FRセット」という用語は、重鎖V領域または軽鎖V領域のC
DRセットのCDRを枠づける、4つの挟み込むアミノ酸配列を指す。一部のFR残基は
、結合した抗原に接触しうるが、FR、特に、CDRに直接隣接するFR残基は、V領域
を抗原結合部位へとフォールドさせる主要な一因をなす。FR内では、特定のアミノ酸残
基および特定の構造特色が極めて高度に保存される。この点において、全てのV領域配列
は、約90アミノ酸残基の内部ジスルフィドループを含有する。V領域が結合部位へとフ
ォールドすると、CDRは、抗原結合表面を形成する突出ループモチーフとして提示され
る。一般に、CDRループが特定の「カノニカル」構造(CDRの正確なアミノ酸配列に
関わらず)へとフォールドする形状に影響を及ぼす、FRの保存的構造領域が存在するこ
とが認知されている。さらに、特定のFR残基は、抗体の重鎖と軽鎖との相互作用を安定
化させる非共有結合的なドメイン間接触に関与することも公知である。
【0098】
免疫グロブリン可変領域の構造および位置は、Kabat, E. A.ら、「Seq
uences of Proteins of Immunological Inte
rest」、4版、US Department of Health and Hum
an Services、1987年、および現在ではインターネット(immuno.
bme.nwu.edu)で入手可能なその改定版を参照することにより決定することが
できる。
【0099】
「モノクローナル抗体」とは、均一な抗体集団であって、エピトープの選択的結合に関
与するアミノ酸(自然発生のアミノ酸および非自然発生のアミノ酸)を含む抗体集団を指
す。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一のエピトープを指向する。「モノ
クローナル抗体」という用語は、無傷のモノクローナル抗体および全長モノクローナル抗
体だけでなく、また、それらの断片(Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、
Fv断片など)、単鎖(scFv)抗体、それらの変異体、抗原結合部分を含む融合タン
パク質、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、ならびにエピトープに
結合するのに要請される特異性および能力を有する抗原結合断片(エピトープ認識部位)
を含む免疫グロブリン分子の他の任意の修飾された立体構成も包摂する。抗体の供給源ま
たは抗体が作製される様式(例えば、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現、トラ
ンスジェニック動物などによる)に関して限定することは意図しない。この用語は、完全
免疫グロブリンのほか、「抗体」の定義下における上記の断片なども包含する。
【0100】
タンパク質分解酵素であるパパインは、IgG分子を優先的に切断して、複数の断片で
あって、これらのうちの2つ(Fab断片)の各々が、無傷の抗原結合部位を包含する共
有結合的ヘテロ二量体を含む断片をもたらす。酵素であるペプシンは、IgG分子を切断
して、複数の断片であって、両方の抗原結合部位を含むF(ab’)断片を含めた断片
をもたらすことが可能である。本発明の特定の実施形態に従って用いられるFv断片は、
IgMの優先的なタンパク質分解的切断により作製しうるが、まれな場合には、IgG免
疫グロブリン分子またはIgA免疫グロブリン分子の優先的なタンパク質分解的切断によ
り作製することもできる。しかし、Fv断片は、より一般的には、当技術分野において公
知の組換え法を用いて誘導される。Fv断片は、天然抗体分子の抗原認識能および抗原結
合能の大半を保持する抗原結合部位を含めた、非共有結合的V::Vヘテロ二量体を
包含する(Inbarら(1972年)、Proc. Nat. Acad. Sci.
USA、69巻:2659~2662頁;Hochmanら(1976年)、Bioc
hem、15巻:2706~2710頁;およびEhrlichら(1980年)、Bi
ochem、19巻:4091~4096頁)。
【0101】
本開示の具体的な一実施形態では、Fab断片が、CD3に結合する。「T細胞受容体
」(TCR)とは、T細胞の表面において見出される分子であって、CD3と共に、一般
に主要組織適合性複合体(MHC)分子へと結合した抗原を認識する一因となる分子であ
る。大半のT細胞では、TCRが、高度に可変的なα鎖とβ鎖との、ジスルフィド連結さ
れたヘテロ二量体からなる。他のT細胞では、可変的なγ鎖およびδ鎖からなる代替的な
受容体が発現する。TCRの各鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであ
り、1つのN末端免疫グロブリン可変領域、1つの免疫グロブリン定常領域、膜貫通領域
、およびC末端側の終端部における短い細胞質テールを保有する(AbbasおよびLi
chtman、「Cellular and Molecular Immunolog
y」(5版)、版元:Saunders、Philadelphia、2003年;Ja
newayら、「Immunobiology: The Immune System
in Health and Disease」、4版、Current Biolo
gy Publications、148、149、および172頁、1999年を参照
されたい)。本開示において用いられるTCRは、ヒト、マウス、ラット、または他の哺
乳動物を含めた多様な動物種に由来しうる。
【0102】
「抗TCR Fab」または「抗TCR Fabe」とは、Fab、またはとりわけ、
TCR分子もしくはその個別の鎖(例えば、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、また
はTCRδ鎖)のうちの1つに結合するFabを含むMSFPを指す。特定の実施形態で
は、抗TCR Fabは、TCRα、TCRβ、またはこれらの両方に結合する。
【0103】
当技術分野では、「CD3」が、6本鎖の多重タンパク質複合体として公知である(A
bbasおよびLichtman、2003年;Janewayら、172および178
頁、1999年を参照されたい)。哺乳動物では、複合体が、CD3γ鎖、CD3δ鎖、
2つのCD3ε鎖、およびCD3ζ鎖のホモ二量体を含む。CD3γ鎖、CD3δ鎖、お
よびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーフ
ァミリーのうちの、類縁性の高い細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、
およびCD3ε鎖の膜貫通領域は、負に帯電しており、これは、これらの鎖が、正に帯電
したT細胞受容体鎖と会合することを可能とする特徴である。CD3γ鎖、CD3δ鎖、
およびCD3ε鎖の各々の細胞内テールが、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはIT
AMとして公知の単一の保存的モチーフを含有するのに対し、各CD3ζ鎖は、3つの保
存的モチーフを含有する。理論に拘束されることを望まないが、ITAMは、TCR複合
体のシグナル伝達能にとって重要であると考えられている。本開示において用いられるC
D3は、ヒト、マウス、ラット、または他の哺乳動物を含めた多様な動物種に由来しうる
【0104】
本明細書で用いられる「抗CD3 Fab」とは、とりわけ、個別のCD3鎖(例えば
、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖)、または2つ以上の個別のCD3鎖から形成さ
れる複合体(例えば、複数のCD3ε鎖の複合体、CD3γ鎖とCD3ε鎖との複合体、
CD3δ鎖とCD3ε鎖との複合体)に結合するFabを指す。特定の実施形態では、抗
CD3 Fabが、とりわけ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、またはこれらの任意の組
合せに結合し、特定の実施形態では、CD3εに結合する。一実施形態では、抗CD3
Fabが、CD3イプシロンのN末端に結合する。具体的な一実施形態では、抗CD3
Fabが、CD3イプシロンのアミノ酸1~27に結合する。
【0105】
本明細書で用いられる「TCR複合体」とは、CD3のTCRとの会合により形成され
る複合体を指す。例えば、TCR複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖
、CD3ζ鎖のホモ二量体、TCRα鎖、およびTCRβ鎖からなりうる。代替的に、T
CR複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、CD3ζ鎖のホモ二量体、
TCRγ鎖、およびTCRδ鎖からなりうる。
【0106】
本明細書で用いられる「TCR複合体の構成要素」とは、TCR鎖(すなわち、TCR
α、TCRβ、TCRγ、またはTCRδ)、CD3鎖(すなわち、CD3γ、CD3δ
、CD3ε、またはCD3ζ)、または2つ以上のTCR鎖もしくはCD3鎖により形成
される複合体(例えば、TCRαとTCRβとの複合体、TCRγとTCRδとの複合体
、CD3εとCD3δとの複合体、CD3γとCD3εとの複合体、またはTCRα、T
CRβ、CD3γ、CD3δ、および2つのCD3ε鎖によるTCR亜複合体)を指す。
【0107】
背景として述べると、TCR複合体は一般に、MHC分子へと結合した抗原に対するT
細胞応答を誘発する一因となる。ペプチド:MHCリガンドの、TCRおよび共受容体(
すなわち、CD4またはCD8)への結合により、TCR複合体、共受容体、およびCD
45チロシンホスファターゼが結び合わされると考えられる。これは、CD45が、阻害
性リン酸基を除去し、これにより、Lckタンパク質キナーゼおよびFynタンパク質キ
ナーゼを活性化することを可能とする。これらのタンパク質キナーゼの活性化により、C
D3ζ鎖上におけるITAMのリン酸化がもたらされ、これにより、これらの鎖が細胞質
性チロシンキナーゼであるZAP-70に結合することが可能となる。結合したZAP-
70の、その後のリン酸化による活性化により、3つのシグナル伝達経路であって、その
うちの2つがPLC-γのリン酸化および活性化により誘発されるシグナル伝達経路が始
動し、次いで、これにより、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)が、ジアシル
グリセロール(DAG)およびイノシトール三リン酸(IP3)へと切断される。DAG
によるタンパク質キナーゼCの活性化により、転写因子NFKBの活性化がもたらされる
。IP3の作用の結果としての細胞内遊離Ca2+の突然の増大により、転写因子NFA
T(活性化T細胞の核因子)が細胞質から核へと移行することを可能とする細胞質ホスフ
ァターゼであるカルシニューリンが活性化される。NFATの完全な転写活性にはまた、
転写因子のAP-1ファミリーのメンバーも要請され、転写調節因子のFosファミリー
のメンバーとJunファミリーのメンバーとの二量体も要請される。
【0108】
活性化ZAP-70により誘発される第3のシグナル伝達経路は、Rasの活性化およ
びその後におけるMAPキナーゼカスケードの活性化である。これは、最終的にFosの
活性化に至り、よって、AP-1転写因子の活性化に至る。NFKB、NFAT、および
AP-1は併せて、T細胞染色体に作用し、結果として、T細胞の分化、増殖、およびエ
フェクター作用をもたらす新たな遺伝子転写を誘発する。Janewayら、178頁、
1999年を参照されたい。
【0109】
特定の実施形態では、Fabが、とりわけ、個別のヒトCD3鎖(例えば、ヒトCD3
γ鎖、ヒトCD3δ鎖、およびヒトCD3ε鎖)、または個別のヒトCD3鎖のうちの2
つ以上の組合せ(例えば、ヒトCD3γとヒトCD3εとの複合体、またはヒトCD3δ
とヒトCD3εとの複合体)に結合する。特定の好ましい実施形態では、Fabが、とり
わけ、ヒトCD3ε鎖に結合する。
【0110】
特定の他の実施形態では、本開示のFabが、とりわけ、TCRα、TCRβ、または
TCRαおよびTCRβから形成されるヘテロ二量体に結合する。特定の実施形態では、
Fabが、とりわけ、ヒトTCRα、ヒトTCRβ、またはヒトTCRαおよびヒトTC
Rβから形成されるヘテロ二量体のうちの1または複数に結合する。
【0111】
特定の実施形態では、本開示のFabが、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、TC
Rα鎖、もしくはTCRβ鎖、またはこれらの任意の組合せに由来する複合体形態など、
1または複数のTCR鎖を伴う1または複数のCD3鎖に由来する複合体形態に結合する
。他の実施形態では、本開示のFabが、1つのCD3γ鎖、1つのCD3δ鎖、2つの
CD3ε鎖、1つのTCRα鎖、および1つのTCRβ鎖に由来する複合体形態に結合す
る。さらなる実施形態では、本開示のFabが、ヒトCD3γ鎖、ヒトCD3δ鎖、ヒト
CD3ε、ヒトTCRα鎖、もしくはヒトTCRβ鎖、またはこれらの任意の組合せに由
来する複合体形態など、1または複数のヒトTCR鎖を伴う1または複数のヒトCD3鎖
に由来する複合体形態に結合する。特定の実施形態では、本開示のFabが、1つのヒト
CD3γ鎖、1つのヒトCD3δ鎖、2つのヒトCD3ε鎖、1つのヒトTCRα鎖、お
よび1つのヒトTCRβ鎖に由来する複合体形態に結合する。
【0112】
本開示のFabは、本明細書で記載される通りに発生させることもでき、当技術分野で
公知の(例えば、米国特許第6,291,161号;同第6,291,158号を参照さ
れたい)多様な方法により発生させることもできる。Fabの供給源には、ヒト、ラクダ
科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ、またはラマに由来する;Hamers-Caster
manら(1993年)、Nature、363巻:446頁;およびNguyenら(
1998年)、J. Mol. Biol.、275巻:413頁)、サメ(Rouxら
(1998年)、Proc. Nat’l. Acad. Sci.(USA)、95巻
:11804頁)、魚類(Nguyenら(2002年)、Immunogenetic
s、54巻:39頁)、齧歯動物、鳥類、またはヒツジを含めた多様な種に由来するモノ
クローナル抗体の核酸配列(ファージライブラリー内で抗体、Fv、scFv、またはF
abなどとしてフォーマットしうる)が含まれる。
【0113】
とりわけ、変性形態にあるヒトCD3(ウェスタンブロットまたはドットブロット)お
よび天然形態形態にあるヒトCD3(T細胞上の)に結合するSP34マウスモノクロー
ナル抗体など、サルCD3との交差反応性を伴う抗ヒトCD3抗体が特に所望される(P
ressano, S.、The EMBO J.、4巻:337~344頁、1985
年;Alarcon, B.、EMBO J.、10巻:903~912頁、1991年
)。SP34マウスモノクローナル抗体はまた、CD3εを単独でトランスフェクトした
COS細胞のほか、CD3ε/γ二重形質転換細胞またはCD3ε/δ二重形質転換細胞
にも結合する(Salmeron, A.ら、J. Immunol.、147巻:30
47~52頁、1991年)。SP34抗体はまた、非ヒト霊長動物にも交差反応する(
Yoshino, N.ら、Exp. Anim、49巻:97~110頁、2000年
;Conrad, ML.ら、Cytometry 71A巻:925~33頁、200
7年)。加えて、SP34は、架橋されるとT細胞も活性化する(Yangら、J. I
mmunol.、137巻:1097~1100頁、1986年)。サルCD3との交差
反応性は、毒性研究を、チンパンジーにおいてでもなく、サロゲート分子を用いてでもな
く、非ヒト霊長動物において、臨床候補物質を直接的に用いて実行することを可能とする
ので重要である。したがって、本開示のMSFP中のこのような交差反応性抗CD3 F
abを用いる毒性研究は、関与性の高い安全性評価を提供する。
【0114】
他の例示的な抗CD3抗体には、Cris-7モノクローナル抗体(Reinherz
, E. L.ら(編)、「Leukocyte typing II.」、Sprin
ger Verlag、New York、(1986年))、BC3モノクローナル抗
体(Anasettiら(1990年)、J. Exp. Med.、172巻:169
1頁)、OKT3(Ortho multicenter Transplant St
udy Group(1985年)、N. Engl. J. M編、313巻:337
頁)、およびOKT3 ala-ala(Heroldら(2003年)、J. Cli
n. Invest.、11巻:409頁)などのその誘導体、ビジリズマブ(Carp
enterら(2002年)、Blood、99巻:2712頁)、ならびに145-2
C11モノクローナル抗体(Hirschら(1988年)、J. Immunol.、
140巻:3766頁)が含まれる。本明細書において使用が想定されるさらなるCD3
結合分子には、UCHT-1(Beverley, PCおよびCallard, R.
E.(1981年)、Eur. J. Immunol. 11巻:329~334頁
)、およびWO2004/106380;WO2010/037838;WO2008/
119567;WO2007/042261;WO2010/0150918において記
載されるCD3結合分子が含まれる。
【0115】
例示的な抗TCR抗体は、H57モノクローナル抗体(Lavasaniら(2007
年)、Scandinavian Journal of Immunology、65
巻:39~47頁)である。
【0116】
特定の実施形態では、Fabは、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、Fc
γRIIIa、FcγRIIIa、NKG2D、CD25、CD28、CD137、CT
LA-4、FAS、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、GITR、LT
βR、TLR、TRAIL受容体1、TRAIL受容体2、EGFR、Her2/neu
、およびErbB3が含まれるがこれらに限定されない他の細胞表面標的に結合する。
【0117】
Fab断片の抗原結合断片配列(例えば、重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列)
は、公表されたデータベースによるか、またはTCRの構成要素であるCD3鎖を用いて
ハイブリドーマを発生させるための従来の戦略を用いても入手可能であり、他のFabの
結合標的を、簡便な系(例えば、マウス、HuMAbマウス(R)、TCマウス(TM)
、KM-マウス(R)、ラマ、ニワトリ、ラット、ハムスター、ウサギなど)における免
疫原として用いて、本明細書における使用のためのFabを発生させることもできる。当
業者により理解される通り、Fab断片は、ファージディスプレイ法、酵母ディスプレイ
法、リボソームディスプレイ法、およびmRNAディスプレイ法などの抗体ディスプレイ
法;SLAM法などのB細胞培養法;または免疫化された動物被験体または免疫化された
ヒト被験体から単離されたB細胞またはプラズマB細胞に対するハイスループットの遺伝
子配列決定法の使用を含め、当技術分野で公知の多様な技法を用いて生成させることがで
きる。
【0118】
本開示のMSFPにおける使用のための例示的なFabには、VH、Fd、HC、VL
、およびLCのアミノ酸配列、ならびに配列番号23~28に示されるCDRなど、それ
らのCDRを含め、配列番号29~76に示されるそれらをコードするポリヌクレオチド
が含まれる。
【0119】
融合部分
本明細書で記載されるMSFPの融合部分は、MSFPにさらなる結合特異性および/
または機能的属性(例えば、血清半減期の延長、ADCC、または他の免疫活性化カスケ
ードの活性化)をもたらすだけでなく、特にFabの、細胞表面における標的、とりわけ
、細胞膜に近接し、したがって、接触可能性が限局的なFab標的抗原(CD3など)へ
の結合が意図される(例えば、腫瘍細胞の存在下において)場合/ときを除いて、Fab
のその標的抗原への結合を著明に低減する立体障害も創出する。これは、Fab断片のC
末端においてさらなる結合ドメインに融合するTRIBODIES(商標)などの他のF
ab融合タンパク質と直接的な対照をなす。(例えば、Journal of Immu
nology、2000年、165巻:7050~7057頁を参照されたい)。
【0120】
さらに、単一のMSFP内では、第1の融合部分と第2の融合部分とが二量体化するこ
とを意図しない。これにより、本開示のMSFPが、WO2008/024188および
WO2009/149185において記載されている融合タンパク質など、他の公知の融
合タンパク質から識別される。WO2008/024188およびWO2009/149
185の公報において記載される構築物は、VH1-VH2-CH1-ヒンジ-CH2-
CH3およびVL1-VL2-CLの一般的なフォーマットを有することにより異なる。
この構築物では、VH1とVL1とが二量体化して、さらなる抗原結合部位を形成する。
これは、例えば、図7Bにおいて示されている、本明細書で記載されるMSFPのフォー
マットと異なる。本開示のMSFPでは、第1の融合部分と第2の融合部分とが会合して
、単一の抗原結合部位を形成するわけではない。本明細書の別の個所で記載される本MS
FPのさらなる識別特徴は、細胞表面標的などの標的上でMSFPが集塊をなさない場合
、融合部分により、Fabのその標的に対する結合アフィニティーが低減されることであ
る。これに対し、WO2008/024188およびWO2009/149185におい
て記載されるタンパク質は、抗体の結合標的に対する結合アフィニティーの低減を呈示し
ない。
【0121】
本開示のMSFPの融合部分は、結合ドメイン、1もしくは複数の機能的ドメイン、ま
たはこれらの組合せを含みうる。図1に描示される通り、一実施形態では、本開示のMS
FPが、図1で融合部分Aおよび融合部分Bとして示される2つの融合部分を含む。本明
細書ではまた、融合部分が、第1の融合部分および第2の融合部分、または一方を他方か
ら識別する類似の表現としても言及される。例示的な融合部分は、配列番号77、87、
および93に示されるポリヌクレオチドによりコードされる、配列番号78、88、およ
び94に示されるアミノ酸配列、またはそれらのCDR、VHもしくはVLを含む(例え
ば、配列番号139~150を参照されたい)。
【0122】
特定の実施形態では、第1の融合部分と第2の融合部分とが同一である。さらなる実施
形態では、融合部分の両方が、同一な結合ドメインを含むが、他の点では、機能的ドメイ
ンを有するかまたはこれを欠くことにより異なる。別の実施形態では、第1の融合部分が
、第1の標的抗原に結合する第1の結合ドメインを含み、第2の融合部分が、第2の標的
抗原に結合する第2の結合ドメインを含む。
【0123】
特定の実施形態では、第1の融合部分および第2の融合部分の各々が結合ドメインを含
み、これらをそれぞれ、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインと称することがで
きる。特定の実施形態では、第1の結合ドメインが、第2の結合ドメインと同じ標的に結
合する。この点において、特定の実施形態では、標的が少なくとも1つの類似性を共有し
、限定せずに述べると、例えば、標的は、両方のタンパク質、ポリヌクレオチド、もしく
は脂質を含む;標的は、異なるスプライス形態でありうるが、同じタンパク質である;ま
たは、特定の実施形態では、標的は、グリコシル化などの修飾は異なりうるが、同じアミ
ノ酸配列を有するという意味で、第1の結合ドメインが、第2の結合ドメインと同じ標的
に結合しうる。特定の実施形態では、第1の結合ドメインが、第2の結合ドメインと同じ
標的に結合するが、同じ標的の異なるエピトープに結合する。特定の実施形態では、第1
の結合ドメインと第2の結合ドメインとが、異なる標的に結合する。
【0124】
別の実施形態では、第1の融合部分が第1の結合ドメインを含み、第2の融合部分が第
2の結合ドメインを含み、第1の結合ドメインと、第2の結合ドメインとは、同じ標的分
子に結合するが、フォーマットが異なる(例えば、第1の結合ドメインが、細胞表面受容
体に結合するscFvであり、第2の結合ドメインが、この受容体のリガンドであるか;
または、同様に、第1の結合ドメインが、リガンドに結合するscFvであり、第2の結
合ドメインが、リガンドの受容体の細胞外ドメインである)。
【0125】
結合ドメイン
上記で言及した通り、特定の実施形態では、第1の融合部分および/または第2の融合
部分が、結合ドメインを含む。本開示に従う「結合ドメイン」または「結合領域」は、例
えば、とりわけ、生物学的分子(例えば、細胞表面受容体もしくは腫瘍タンパク質、また
はこれらの構成要素)を認識し、これに結合する能力を保有する任意のタンパク質、ポリ
ペプチド、オリゴペプチド、またはペプチドでありうる。結合ドメインには、任意の自然
発生であるか、合成であるか、半合成であるか、または組換えにより作製された対象の生
物学的分子に対する結合パートナーが含まれる。例えば、本明細書でさらに記載される通
り、結合ドメインは、抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域領域であることが可能であ
り、軽鎖可変領域および重鎖可変領域領域を併せて単鎖でいずれかの配向性(例えば、V
L-VHまたはVH-VL)で接合することができる。とりわけ、特定の標的と結合する
本開示の結合ドメインを同定するための、ウェスタンブロット、ELISA、フローサイ
トメトリー、または表面プラズモン共鳴解析(例えば、BIACORE(商標)解析を用
いて)を含めた、多様なアッセイが公知である。
【0126】
本明細書の以下では、例示的な結合ドメインがさらに記載される。特定の実施形態では
、標的分子が、受容体または腫瘍抗原などの細胞表面発現タンパク質でありうる。別の実
施形態では、本明細書で有用な結合ドメインが結合する標的分子が、サイトカイン、アル
ブミン、または他の血清タンパク質などの可溶性抗原である。例示的な結合ドメインには
、scFvなど、免疫グロブリンの抗原結合ドメイン、scTCR、受容体の細胞外ドメ
イン、細胞表面分子/受容体のリガンド、またはその受容体結合ドメイン、および腫瘍結
合タンパク質が含まれる。特定の実施形態では、抗原結合ドメインが、scFv、VH、
VL、ドメイン抗体変異体(dAb)、ラクダ科動物抗体(VHH)、フィブロネクチン
3ドメイン変異体、アンキリン反復配列変異体、および他の足場タンパク質に由来する他
の抗原特異的結合ドメインでありうる。
【0127】
したがって、特定の実施形態では、結合ドメインが、抗体に由来する結合ドメインを含
むが、抗体以外に由来する結合ドメインでもありうる。抗体に由来する結合ドメインは、
抗体の断片の場合もあり、抗体の1または複数の断片であって、抗原との結合に関与する
断片の遺伝子操作された産物の場合もある。限定せずに述べると、例には、相補性決定領
域(CDR)、可変領域(Fv)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、重鎖
、軽鎖、単鎖可変領域(scFv)、Fab、単一ドメインラクダ抗体(ラクダ科動物V
HH)、および単一ドメイン抗体(dAb)が含まれる。
【0128】
当業者により理解され、本明細書の別の個所で記載される通り、完全抗体は、2つの重
鎖および2つの軽鎖を含む。各重鎖が、可変領域、ならびに第1の定常領域、第2の定常
領域、および第3の定常領域からなるのに対し、各軽鎖は、可変領域および定常領域から
なる。哺乳動物の重鎖は、α、δ、ε、γ、およびμとして分類されており、哺乳動物の
軽鎖は、λまたはκとして分類されている。α重鎖、δ重鎖、ε重鎖、γ重鎖、およびμ
重鎖を含む免疫グロブリンは、免疫グロブリン(Ig)A、IgD、IgE、IgG、お
よびIgMとして分類されている。完全抗体は、「Y」字型を形成する。Y字型のステム
部分は、併せて結合した2つの重鎖の第2の定常領域および第3の定常領域(IgEおよ
びIgMの場合は、第4の定常領域)からなり、ヒンジ内にジスルフィド結合(鎖間)が
形成される。γ重鎖、α重鎖、およびδ重鎖は、3つのタンデムの(直列の)Igドメイ
ンと、可撓性を付加するためのヒンジ領域とからなる定常領域を有し、μ重鎖およびε重
鎖は、4つの免疫グロブリンドメインからなる定常領域を有する。第2の定常領域および
第3の定常領域は、それぞれ、「CH2ドメイン」および「CH3ドメイン」と称する。
Y字型の各アームには、単一の軽鎖の可変領域および定常領域へと結合した単一の重鎖の
可変領域および第1の定常領域が含まれる。軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原の結合の
一因となる。
【0129】
抗体に関する「相補性決定領域」または「CDR」とは、抗体の重鎖または軽鎖の可変
領域内の高度に可変的なループを指す。CDRは、抗原の立体配座と相互作用することが
可能であり、抗原への結合を大部分決定しうる(一部のフレームワーク領域は結合に関与
することが公知であるが)。重鎖可変領域および軽鎖可変領域は各々、3つずつのCDR
を含有する。CDRは、Kabatら(Wu, TTおよびKabat, E. A.、
J Exp Med.、132巻(2号):211~50頁、(1970年);Bord
en, P.およびKabat, E. A.、PNAS、84巻:2440~2443
頁(1987年);Kabat, E. A.ら、「Sequences of pro
teins of immunological interest」、DIANE P
ublishing刊、1992年)に従い、配列により、またはChothiaら(C
hoithia, C.およびLesk, A.M.、J Mol. Biol.、19
6巻(4号):901~917頁(1987年)、Choithia, C.ら、Nat
ure、342巻:877~883頁(1989年))に従い、構造によるなど、従来の
方法により規定または同定することができる。
【0130】
抗体に関する「重鎖可変領域」または「VH」とは、フレームワーク領域として公知の
挟み込む連なりであって、CDRよりいっそう高度に保存的であり、CDRを支持する足
場を形成する連なりの間に散在する、3つのCDRを含有する重鎖の断片を指す。
【0131】
抗体に関する「軽鎖可変領域」または「VL」とは、フレームワーク領域の間に散在す
る、3つのCDRを含有する軽鎖の断片を指す。
【0132】
抗体に関する「Fv」とは、完全な抗原結合部位を保有する抗体最小の断片を指す。F
v断片は、単一の重鎖の可変領域へと結合させた単一の軽鎖の可変領域からなる。
【0133】
抗体に関する「単鎖Fv抗体」または「scFv」とは、互いへと直接的に、またはペ
プチドによるリンカー配列を介して接合されている軽鎖可変領域および重鎖可変領域から
なる操作抗体を指す。
【0134】
本明細書で用いられる「単一ドメインラクダ抗体」または「ラクダ科動物VHH」とは
、重鎖抗体の公知で最小の抗原結合単位を指す(Koch-Nolteら、FASEB
J.、21巻:3490~3498頁(2007年))。「重鎖抗体」または「ラクダ科
動物抗体」とは、2つのVHドメインを含有するが軽鎖は含有しない抗体を指す(Rie
chmann L.ら、J. Immunol. Methods、231巻:25~3
8頁(1999年);WO94/04678;WO94/25591;米国特許第6,0
05,079号)。
【0135】
「単一ドメイン抗体」または「dAb」とは、抗体重鎖の可変領域(VHドメイン)ま
たは抗体軽鎖の可変領域(VLドメイン)からなる抗体断片を指す(Holt, L.ら
、Trends in Biotechnology、21巻(11号):484~49
0頁)。
【0136】
本明細書で用いられる「ジスルフィド結合」という用語は、1または複数のジスルフィ
ド結合を介する重鎖断片と軽鎖断片との結合を指す。1または複数のジスルフィド結合は
、2つの断片内のチオール基を連結することにより、2つの断片の間で形成することがで
きる。特定の実施形態では、1または複数のジスルフィド結合を、重鎖断片内および軽鎖
断片内それぞれの1または複数のシステイン残基の間で形成することができる。
【0137】
「可変領域連結配列」とは、重鎖可変領域を軽鎖可変領域へと接合し、結果として得ら
れるポリペプチドが、同じ軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む抗体と同じ標的分子に
対して特異的結合アフィニティーを保持するように、2つの結合サブドメインの相互作用
と適合可能なスペーサー機能をもたらすアミノ酸配列である。特定の実施形態では、結合
ドメインを免疫グロブリンのCH2領域ポリペプチドまたはCH3領域ポリペプチドへと
連結するのに有用なヒンジを、可変領域連結配列として用いることができる(ヒンジのさ
らなる考察については、本明細書の別の個所を参照されたい)。
【0138】
特定の実施形態では、結合ドメインが、抗体以外の構成要素を含む。抗原に結合する抗
体以外の構成要素は、例えば、タンパク質間相互作用、タンパク質-脂質間相互作用、タ
ンパク質-ポリヌクレオチド間相互作用、タンパク質-糖間相互作用、またはリガンド結
合に関与するタンパク質ドメインなど、対象の標的抗原を認識し、これに結合することが
可能な、任意の適切なタンパク質ドメインまたは構成要素でありうる。限定せずに述べる
と、適切な抗体以外の構成要素の例には、フィブロネクチン3ドメイン(Fn3)、アン
キリン反復配列、およびアドネクチンが含まれる。
【0139】
本開示の結合ドメインの代替的な供給源には、ランダムペプチドライブラリーをコード
する配列、またはフィブリノーゲンドメイン(例えば、Weiselら(1985年)、
Science、230巻:1388頁を参照されたい)、クニッツドメイン(例えば、
米国特許第6,423,498号を参照されたい)、リポカリンドメイン(例えば、WO
2006/095164を参照されたい)、V様ドメイン(例えば、米国特許出願公開第
2007/0065431号を参照されたい)、C型レクチンドメイン(Zelensk
yおよびGready(2005年)、FEBS J.、272巻:6179頁)、また
はFcab(商標)(例えば、PCT特許出願公開第WO2007/098934号;同
第WO2006/072620号を参照されたい)など、代替的な抗体以外の足場のルー
プ領域における操作されたアミノ酸の多様性をコードする配列が含まれる。
【0140】
特定の実施形態では、結合ドメインが、Fn3ドメインを含む。本明細書で用いられる
「フィブロネクチン3ドメイン」または「Fn3」とは、生物学的分子への結合に関与す
るフィブロネクチンにおける自律的なフォールディング単位を指す(Calaycay,
J.ら、J. Biol. Chem.、260巻(22号):12136~41頁(
1985年);Koide, A.ら、J. Mol. Biol.、284巻(4号)
:1141~1151頁(1998年);Bloom, L.ら、Drug Disco
very Today、14巻(19~20号):949~955頁(2009年))。
Fn3ドメインは、多様なタンパク質において見出すことができ、Fn3ドメインの異な
る反復配列が、DNAおよびタンパク質などの生物学的分子に対する結合部位を含有する
ことが見出される。
【0141】
特定の実施形態では、結合ドメインが、アドネクチンを含む。本明細書で用いられる「
アドネクチン」とは、Fn3ドメインに基づく遺伝子操作されたタンパク質を指す(Ko
ide, A.ら、Methods Mol. Biol.、352巻:95~109頁
(2007年))。アドネクチン中のFn3ドメインは、抗体の可変領域の3つのCDR
を模倣する3つのループを含有し、異なる標的分子への特異的結合に応じて遺伝子的に調
整することができる。
【0142】
特定の実施形態では、結合ドメインが、アンキリン反復配列を含む。本明細書で用いら
れる「アンキリン反復配列」とは、赤血球のアンキリン中で見出される33アミノ酸残基
の反復配列を含有するタンパク質の構成要素を指す(Davis, L. H.ら、J.
Biol. Chem.、266巻(17号):11163~11169頁(1991
年))。アンキリン反復配列は、機能が異なる大多数のタンパク質において生じる最も一
般的なタンパク質間相互作用の構造のうちの1つとして公知である。
【0143】
図中で描示される通り、scFvは、特に例示的な結合ドメインである。融合部分の結
合ドメインとして用いられるscFvは、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb
、FcγRIIIa、FcγRIIIb、CD28、CD137、CTLA-4、FAS
、線維芽細胞成長因子受容体1(FGFR1)、FGFR2、FGFR3、FGFR4、
グルココルチコイド誘導型TNFR関連(GITR)タンパク質、リンホトキシン-ベー
タ受容体(LTβR)、toll様受容体(TLR)、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘
導性リガンド受容体1(TRAIL受容体1)およびTRAIL受容体2、がん胎児性抗
原(CEA)、前立腺特異性膜抗原(PSMA)タンパク質、前立腺幹細胞抗原(PSC
A)タンパク質、B細胞成熟抗原(BCMA;また、ヒト腫瘍壊死因子受容体スーパーフ
ァミリーメンバー17(TNFRSF17)、およびCD269としても公知)、腫瘍会
合タンパク質炭酸脱水酵素IX(CAIX)、肝細胞成長因子受容体(HGFR)、上皮
成長因子受容体1(EGFR1)、ヒト上皮成長因子受容体2(Her2/neu;Er
b2)、ErbB3、上皮細胞接着分子(EpCAM)、葉酸受容体、エフリン受容体、
CD19、CD20、CD30、CD33、CD40、CD37、CD38、およびCD
138が含まれるがこれらに限定されない多様な標的分子のうちのいずれにも結合しうる
【0144】
特定の実施形態では、結合ドメインが、腫瘍抗原に結合する。限定せずに述べると、例
示的な腫瘍抗原標的分子には、p53、cMet、MAGE-A1、MAGE-A2、M
AGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12
、BAGE、DAM-6、DAM-10、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-8、
GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7B、NA88
-A、NY-ESO-1、BRCA1、BRCA2、MART-1、MC1R、Gp10
0、PSA、PSM、チロシナーゼ、ウィルムス腫瘍抗原(WT1)、TRP-1、TR
P-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、Her2/neu、hTERT
、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、PRAME、P15、RU1、RU2、SA
RT-1、SART-3、WT1、AFP、β-カテニン/m、カスパーゼ8/m、CE
A、CDK-4/m、ELF2M、GnT-V、G250、HSP70-2m、HST-
2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE
、SART-2、TRP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/
m、TPI/mbcr-abl、ETV6/AML、LDLR/FUT、Pml/RAR
α、およびTEL/AML1が含まれる。当業者には、これらの腫瘍タンパク質および他
の腫瘍タンパク質が公知である。
【0145】
本開示のMSFPの融合部分において有用な他の結合ドメインには、細胞表面受容体に
結合するリガンドが含まれる。例示的なリガンドには、CD28、CD137、CTLA
-4、FAS、線維芽細胞成長因子受容体1(FGFR1)、FGFR2、FGFR3、
FGFR4、グルココルチコイド誘導型TNFR関連(GITR)タンパク質、リンホト
キシン-ベータ受容体(LTβR)、toll様受容体(TLR)、腫瘍壊死因子関連ア
ポトーシス誘導性リガンド-受容体1(TRAIL受容体1)およびTRAIL受容体2
、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異性膜抗原(PSMA)タンパク質、前立腺幹細
胞抗原(PSMA)タンパク質、B細胞成熟抗原(BCMA;また、ヒト腫瘍壊死因子受
容体スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17)、およびCD269としても
公知)、腫瘍会合タンパク質炭酸脱水酵素IX(CAIX)、肝細胞成長因子受容体(H
GFR)、上皮成長因子受容体1(EGFR1)、ヒト上皮成長因子受容体2(Her2
/neu;Erb2)、ErbB3、上皮細胞接着分子(EpCAM)、葉酸受容体、エ
フリン受容体、CD19、CD20、CD30、CD33、CD40、CD37、CD3
8、およびCD138など、細胞表面受容体に対するリガンドが含まれるがこれらに限定
されない。
【0146】
一実施形態では、結合ドメインが、血清アルブミンに結合する。ヒト血清アルブミンへ
の結合は、タンパク質による薬物の半減期(t1/2)を数日間またはなお長い期間へ延
長する可能性をもたらす。先行技術では、血清アルブミンへの結合または血清アルブミン
への融合により、治療用分子の半減期を著明に延長しうることが公知である。特定の実施
形態では、ヒト血清アルブミンに結合する結合ドメインが、非ヒト霊長動物のオルソログ
と交差反応し、ヒトにおける処置に対していっそう関与性でありうる前臨床動物毒性研究
における薬物の半減期の推定を可能としうる。
【0147】
特定の実施形態では、結合ドメインが、とりわけ、疾患状態と関連する抗原標的に結合
する。疾患状態には、生理学的状態、病理学的状態、および美容学的状態が含まれうる。
限定せずに述べると、例示的な状態の例には、がん、炎症性障害、同種移植片移植、I型
糖尿病、II型糖尿病、および多発性硬化症が含まれる。
【0148】
特定の実施形態では、抗原標的は、状態と負に関連する。特定の実施形態では、結合ド
メインを含むMSFPが抗原標的に結合することにより、抗原標的の生物学的機能が不活
化またはアンタゴナイズされ、これにより、状態が改善されうる。特定の実施形態では、
結合ドメインを含むMSFPが抗原標的に結合することにより、抗原標的の生物学的機能
が活性化またはアンタゴナイズされ、これにより、状態が改善されることになる。本明細
書で記載されるMSFPはそれ自体、融合部分の標的抗原に関してアゴニスト分子の場合
もあり、アンタゴニスト分子の場合もある。
【0149】
配列番号78、88、94(アミノ酸)および配列番号77、87、93(ポリヌクレ
オチド)には、例示的な結合ドメインが提示されるが、これらには、そのCDR、VH、
およびVLも含まれる(例えば、配列番号139~150を参照されたい)。
【0150】
したがって、本明細書で記載される結合ドメインはとりわけ、任意の適切な抗原標的に
結合しうる。言及される通り、限定せずに述べると、適切な抗原標的の例には、TNF受
容体(Shen, H. M.ら、FASEB J.、20巻(10号):1589~9
8頁(2006年))、cMet(Bottaro, D. P.ら、Science、
251巻(4995号):802~804頁(1991年))、CD3(Chetty,
R.ら、J Pathol.、173巻(4号):303~7頁(1994年))、C
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1~3頁(2006年))、NKG2D(Obeidy, P.ら、Int J Bio
chem Cell Biol.、41巻(12号):2364~7頁(2009年))
、およびこれらの任意の誘導体が含まれる。
【0151】
特定の実施形態では、結合ドメインがとりわけ、単一の標的抗原に結合する。別の実施
形態では、結合ドメインが、複数の抗原標的と交差反応性である。本明細書で用いられる
「交差反応性」とは、結合ドメインがとりわけ、複数の抗原標的に結合しうることを指す
。特定の実施形態では、第1の結合ドメインおよび/または第2の結合ドメインが、例え
ば、C型肝炎コアタンパク質および宿主由来GORタンパク質など、完全に異なる抗原標
的に対する交差反応性を有しうる。特定の実施形態では、第1の結合ドメインおよび/ま
たは第2の結合ドメインが、例えば、ヒト、マウス、または非ヒト霊長動物に由来するタ
ンパク質に由来する抗原など、異なる種に由来する抗原標的に対する交差反応性を有しう
る。
【0152】
融合部分A、B、およびFabの間の接合部
特定の実施形態では、融合部分Aおよび/または融合部分Bが、FabのVHまたはV
LのN末端へと直接的に(すなわち、間にさらなるアミノ酸を付加することなく)連結さ
れる。他の実施形態では、融合部分Aおよび/または融合部分Bが、FabのVHまたは
VLのN末端へと、リンカーを用いて(以下で記載されるさらなるアミノ酸を伴って)連
結される。一部の実施形態では、Fab標的および細胞表面上のFab標的の周囲の空間
(細胞表面上のFab標的への接触可能性)に応じて、所与の融合部分Aおよび/または
BのC末端から複数のアミノ酸(例えば、1つ~3つのアミノ酸または1~10のアミノ
酸;例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のア
ミノ酸)を欠失させることが必要でありうる。
【0153】
他の実施形態では、Fabの重鎖および/または軽鎖のN末端から複数のアミノ酸(例
えば、1つ~3つのアミノ酸または1~10のアミノ酸;例えば、1つ、2つ、3つ、4
つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸)を欠失させることが必要で
ありうる。なおさらなる実施形態では、融合部分のC末端から複数のアミノ酸(例えば、
1つ~3つのアミノ酸または1~10のアミノ酸;例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5
つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸)を欠失させ、かつ、同時に、Fa
b鎖のN末端から複数のアミノ酸(例えば、1つ~3つのアミノ酸または1~10のアミ
ノ酸;例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10の
アミノ酸)を欠失させることが必要でありうる。融合部分Aと、融合部分Bと、Fab断
片との間の接合部の長さおよび配列は、同じ場合もあり、異なる場合もある。
【0154】
融合部分とFab断片との間の接合部は、必要に応じて、欠失とリンカーとの組合せを
用いうる。したがって、当業者により理解される通り、Fabと融合部分との間の接合部
は、当技術分野で公知であり、本明細書でも記載される方法を用いて、所望の機能性(例
えば、結合アフィニティー)について調整し、調べることができる。
【0155】
リンカー
本開示のMSFPはまた、Fab断片のVHおよびVLと、融合部分AおよびBとの間
に位置するリンカーも含む(例えば、図1を参照されたい)。そして、例示的なリンカー
は、配列GlyArgAlaを含む。
【0156】
一実施形態では、融合部分とFabのVHまたはVLとの間のリンカーが、1~10ア
ミノ酸の長さである。他の実施形態では、融合部分とFabのVHまたはVLとの間のリ
ンカーが、1~20アミノ酸または20アミノ酸の長さである。この点において、リンカ
ーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、1
6、17、18、19、または20アミノ酸の長さでありうる。さらなる実施形態では、
リンカーが、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30アミ
ノ酸の長さでありうる。
【0157】
特定の実施形態では、本明細書で記載されるMSFPにおいて用いるのに適するリンカ
ーが、可撓性リンカーである。適切なリンカーは、容易に選択することができ、4アミノ
酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、または7アミノ
酸~8アミノ酸を含めた1アミノ酸(例えば、Gly)~20アミノ酸、2アミノ酸~1
5アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸など、適切な異なる長さのうちのいずれかである
ことが可能であり、1、2、3、4、5、6、または7アミノ酸でありうる。
【0158】
例示的な可撓性リンカーには、グリシンポリマー(G)、グリシン-セリンポリマー
(例えば、(GS)、(GSGGS)(配列番号125)、および(GGGS)
配列番号126)[配列中、nは、少なくとも1つの整数である]を含めた)、グリシン
-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当技術分野で公知の他の可撓性
リンカーが含まれる。グリシンポリマーおよびグリシン-セリンポリマーは、比較的構造
化されておらず、したがって、構成要素間の中性のテザーとして用いることが可能であり
うる。グリシンは、アラニンよりもなおいっそう著明にファイ-プサイ空間に接近し、側
鎖の長い残基より制約が小さい(Scheraga、Rev. Computation
al Chem.、11173~142頁(1992年)を参照されたい)。例示的な可
撓性リンカーには、Gly-Gly-Ser-Gly(配列番号127)、Gly-Gl
y-Ser-Gly-Gly(配列番号128)、Gly-Ser-Gly-Ser-G
ly(配列番号129)、Gly-Ser-Gly-Gly-Gly(配列番号130)
、Gly-Gly-Gly-Ser-Gly(配列番号131)、Gly-Ser-Se
r-Ser-Gly(配列番号132)などが含まれるがこれらに限定されない。当業者
は、リンカーが、可撓性リンカーのほか、所望のMSFPの構造をもたらす可撓性の小さ
い構造を付与する1または複数の部分も包含しうるように、MSFPのデザインが、全面
的に可撓性のリンカーを包含する場合もあり、部分的に可撓性のリンカーを包含する場合
もあることを認識するであろう。
【0159】
特定の実施形態では、Fabと融合部分との間のリンカーが、安定的なリンカー(プロ
テアーゼ、とりわけ、MMPにより切断可能でない)である。特定の実施形態では、リン
カーが、ペプチドリンカーである。特定の実施形態では、MSFPが、安定的なペプチド
リンカーを含み、ペプチドリンカーのN末端が、融合部分のC末端へと共有結合的に連結
され、ペプチドリンカーのC末端が抗原結合ドメインのN末端へと共有結合的に連結され
る。
【0160】
一実施形態では、リンカーが、切断可能なリンカーである。特に、FabのVHまたは
VLと融合部分との間のリンカーは、プロテアーゼ基質の切断配列、例えば、MMP基質
の切断配列を含む。基質内の周知のペプチド配列であるPLGLAG(配列番号133)
は、大半のMMPにより切断されうる。MMPにより切断されうる基質配列は、広範に研
究されている。例えば、配列PLGLAG(配列番号133)は、大半のMMPにより切
断されうる。プロテアーゼ基質の切断配列とは、プロテアーゼ処理により切断されうるペ
プチド配列を指す。MMP基質配列とは、MMPとのインキュベーションにより切断され
うるペプチド配列を指す。PLGLAG(配列番号133)は、一般に用いられるMMP
基質の切断配列である(例えば、Jiang、PNAS(2004年)、101巻:17
867~72頁;Olson、PNAS(2010年)、107巻:4311~6頁を参
照されたい)。別の実施形態では、プロテアーゼ切断部位が、MMP-2、MMP-9、
またはこれらの組合せにより認識される。なお別の実施形態では、プロテアーゼ部位が、
GPLGMLSQ(配列番号134)およびGPLGLWAQ(配列番号135)からな
る群より選択される配列を含む。安定的なリンカーまたはプロテアーゼにより切断不可能
なリンカーとは、公知のプロテアーゼ基質配列に属さず、したがって、プロテアーゼとイ
ンキュベートされても著明な切断産物形成をもたらさないリンカーペプチド配列を指す。
【0161】
一部の実施形態では、リンカーの切断基質(または切断配列)に、プロテアーゼ、通常
は細胞外プロテアーゼの基質として用いられうるアミノ酸配列が含まれうる。他の実施形
態では、切断配列が、還元剤の作用により切断されうるジスルフィド結合を形成すること
が可能なシステイン-システイン対を含む。他の実施形態では、切断配列が、光分解され
ると切断される可能性がある基質を含む。
【0162】
切断基質は、切断基質が切断剤により切断される場合(例えば、リンカーの切断基質が
、プロテアーゼにより切断される場合、および/またはシステイン-システイン間のジス
ルフィド結合が、還元剤への曝露による還元を介して破壊される場合)、または標的の存
在下で光誘導性光分解により切断される場合に、結果としてもたらされる切断産物が本明
細書で記載される多様な機能的特性を有するように、リンカー内に位置する。
【0163】
リンカーの切断基質は、罹患組織内または融合部分の結合ドメインの対象の標的抗原を
発現させる細胞の表面上で共局在化したプロテアーゼに基づき選択することができる。対
象の標的がプロテアーゼと共局在化する多様な異なる状態が公知であるが、当技術分野で
は、この場合のプロテアーゼの基質も公知である。がんの例では、標的組織が、がん性の
組織、特に、充実性腫瘍のがん性の組織である。多数のがん、例えば、充実性腫瘍におけ
る、公知の基質を有するプロテアーゼのレベルの増大については、文献において報告がな
されている。例えば、La Roccaら、(2004年)、British J. o
f Cancer、90巻(7号):1414~1421頁を参照されたい。疾患の非限
定的な例には、全ての種類のがん(乳がん、肺がん、結腸直腸がん、前立腺がん、頭頸部
がん、膵臓がんなど)、関節リウマチ、クローン病、黒色腫、SLE、心血管損傷、虚血
などが含まれる。さらに、VEGFなど抗血管新生性標的も公知である。腫瘍抗原に結合
することが可能であるように、本開示のMSFPの融合部分の結合ドメインがそれ自体で
選択される場合、リンカーに適する切断基質配列は、プロテアーゼにより切断可能なペプ
チド基質を含む配列であって、がん性の処置部位に存在し、特に、非がん性の組織と比較
してがん処置部位において高レベルで存在する配列であろう。例示的な一実施形態では、
MSFPの結合ドメインが、例えば、Her2に結合することが可能であり、切断基質配
列は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)基質である可能性があり、したがって
、MMPにより切断可能である。他の実施形態では、MSFP内の融合部分の結合ドメイ
ンが、対象の標的に結合することが可能であり、リンカー内に存在する切断基質は、例え
ば、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP-9、MT1-MMP、カ
テプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、ベータ-セクレターゼ、uPA、また
はPSAでありうる。他の実施形態では、多発性硬化症または関節リウマチなど、がん以
外の疾患における切断基質は、他の疾患特異的プロテアーゼにより切断される。
【0164】
非修飾リンカーまたは非切断リンカーは、Fab断片の、融合部分へのテザリングを可
能としうる。リンカーが切断されると、本明細書の、例えば、図でさらに記載される通り
、多様な機能を伴う複数の切断産物が結果としてもたらされる。
【0165】
MSFPのリンカー(例えば、FabのVHと第1の融合部分との間のリンカー、およ
びFabのVLと第2の融合部分との間のリンカー)は、同じ切断基質を含む場合もあり
、異なる切断基質を含む場合もあり、例えば、第1のリンカーは、第1の切断基質を含む
ことが可能であり、第2のリンカーは、第2の切断基質を含むことが可能である。第1の
切断基質と第2の切断基質とは、同じ酵素に対して異なる基質である(例えば、その同じ
酵素に対して異なる結合アフィニティーを呈示する)場合もあり、異なる酵素に対する異
なる基質の場合もあり、第1の切断基質が酵素基質であり、かつ、第2の切断基質が光分
解基質である場合もあり、第1の切断基質が酵素基質であり、かつ第2の切断基質が還元
用基質であるなどの場合もある。
【0166】
酵素による特異的切断では、酵素と切断基質との間で接触がなされる。Fabを含むM
SFPを、十分な酵素活性の存在下で、切断基質を有する第1のリンカーおよび第2のリ
ンカーにより、第1の融合部分および第2の融合部分へとカップリングする場合、切断基
質を切断することができる。十分な酵素活性は、切断基質を有するリンカーと接触させ、
切断をもたらす酵素の能力を示しうる。酵素はMSFPの近傍に存在するが、他の細胞因
子または酵素のタンパク質修飾のため、切断することは不可能でありうることが容易に想
定されうる。
【0167】
例示的な基質には、以下の酵素またはプロテアーゼのうちの1または複数により切断可
能な基質が含まれうるがこれらに限定されない:ADAM10;カスパーゼ8、カテプシ
ンS、MMP8、ADAM12、カスパーゼ9、FAP、MMP9、ADAM17、カス
パーゼ10、グランザイムB、MMP-13、ADAMTS、カスパーゼ11、グアニジ
ノベンゾアターゼ(GB)、MMP14、ADAMTS5.カスパーゼ12、ヘプシン、
MT-SP1、BACE、カスパーゼ13、ヒト好中球エラスターゼ(HNE)、ネプリ
ライシン、カスパーゼ、カスパーゼ14、レグマイン、NS3/4A、カスパーゼ1、カ
テプシン、マトリプターゼ2、プラスミン、カスパーゼ2、カテプシンA、メプリン、P
SA、カスパーゼ3、カテプシンB、MMP1、PSMA、カスパーゼ4、カテプシンD
、MMP2、TACE、カスパーゼ5、カテプシンE、MMP3、TMPRSS 3/4
、カスパーゼ6、カテプシンK、MMP7、uPA、カスパーゼ7、MT1-MMP。
【0168】
別の実施形態では、切断基質が、システイン対のジスルフィド結合であって、したがっ
て、例えば、グルタチオン(GSH)、チオレドキシン、NADPH、フラビン、アスコ
ルビン酸などの細胞性還元剤であり、充実性腫瘍組織またはこの周囲に大量に存在しうる
細胞性還元剤などであるがこれらに限定されない還元剤により切断可能なジスルフィド結
合を伴いうる。
【0169】
当技術分野では、本明細書の切断可能なリンカーにおいて用いるのに適する他のプロテ
アーゼ切断部位が公知であるか、またはTurkら、2001年、Nature Bio
technology、19巻、661~667頁により記載されている方法などの方法
を用いて同定することができる。
【0170】
特定の実施形態では、リンカーが、ペプチドリンカー、システイン残基などのチオール
残基を含有するペプチドリンカー、ポリマーリンカー、または化学リンカーでありうる。
特定の実施形態では、MSFPが、リンカーの一方の末端が、融合部分のC末端へと共有
結合的に連結され、リンカーの他方の末端が、Fab断片のVHまたはVLのN末端へと
共有結合的に連結されたリンカーを含む。
【0171】
接合部のアミノ酸
特定の実施形態では、融合タンパク質の構築物デザインから結果として生じるアミノ酸
残基(例えば、単鎖ポリペプチドをコードする核酸分子の構築時における制限酵素部位の
使用から結果として生じるアミノ酸残基)など、結合ドメインとリンカーポリペプチドと
の間など、MSFPの2つのドメインの間に1または少数のアミノ酸残基が存在しうる。
本明細書で記載されるこのようなアミノ酸残基を、「接合部アミノ酸」もしくは「接合部
アミノ酸残基」、または「ペプチドスペーサー」と称することができる。
【0172】
特定の例示的な実施形態では、ペプチドスペーサーが、1~5の間のアミノ酸、5~1
0の間のアミノ酸、5~25の間のアミノ酸、5~50の間のアミノ酸、10~25の間
のアミノ酸、10~50の間のアミノ酸、10~100の間のアミノ酸、または任意の介
在する範囲のアミノ酸である。他の例示的な実施形態では、ペプチドスペーサーが、約1
、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50以上の長さのアミノ酸を
含む。
【0173】
このような接合部のアミノ酸は、MSFPのドメインのうちのいずれへも連結される。
特定の実施形態では、接合部の(1または複数の)アミノ酸が、本明細書で規定されるヒ
ンジまたはヒンジの一部である。特定の実施形態では、重鎖可変領域を軽鎖可変領域へと
接合するのに有用な可変領域連結配列を、ペプチドスペーサーとして用いることができる
【0174】
例示的な一実施形態では、ペプチドスペーサー配列が、例えば、Gly残基、Asn残
基、およびSer残基を含有する。また、ThrおよびAlaなど、他の中性に近いアミ
ノ酸も、スペーサー配列内に組み入れることができる。
【0175】
スペーサーとして有用に使用しうる他のアミノ酸配列には、Marateaら、Gen
e、40巻:39~46頁(1985年);Murphyら、Proc. Natl.
Acad. Sci. USA、83巻:8258~8262頁(1986年);米国特
許第4,935,233号および米国特許第4,751,180号において開示されたア
ミノ酸配列が含まれる。
【0176】
他の例示的なスペーサーには、例えば、Glu-Gly-Lys-Ser-Ser-G
ly-Ser-Gly-Ser-Glu-Ser-Lys-Val-Asp(配列番号1
36)(Chaudharyら、1990年、Proc. Natl. Acad. S
ci. U.S.A.、87巻:1066~1070頁)およびLys-Glu-Ser
-Gly-Ser-Val-Ser-Ser-Glu-Gln-Leu-Ala-Gln
-Phe-Arg-Ser-Leu-Asp(配列番号137)(Birdら、1988
年、Science、242巻:423~426頁)が含まれうる。
【0177】
一部の実施形態では、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが、不可欠でない
N末端のアミノ酸領域であって、機能的ドメインを分離し、立体干渉を防止するのに用い
うる領域を有する場合は、スペーサー配列が要請されない。本開示のMSFPの2つのコ
ード配列またはコードドメインは、接合部のアミノ酸を伴わずに直接的に融合させること
もでき、例えば、1~3回にわたり反復される五量体であるGly-Gly-Gly-G
ly-Ser(配列番号138)からなる可撓性のポリリンカーを用いることにより融合
させることもできる。このようなスペーサーは、VHとVLとの間に挿入することにより
単鎖抗体(scFv)を構築するのに用いられてきた(Birdら、1988年、Sci
ence、242巻:423~426頁;Hustonら、1988年、Proc. N
atl. Acad. Sci. U.S.A.、85巻:5979~5883頁)。
【0178】
特定の実施形態では、ペプチドスペーサーが、単鎖抗体の可変領域を形成する2つのベ
ータ-シート間の正しい相互作用を可能とするようにデザインされる。
【0179】
任意の適切なリンカーを用いて、限定せずに述べると、ペプチドリンカー、ポリマーリ
ンカー、および化学的リンカーなどの間接的な連結をもたらすことができる。特定の実施
形態では、共有結合的連結が、ペプチドリンカーを介する間接的な連結である。
【0180】
単一のMSFP内では、第1の融合部分と第2の融合部分とが二量体化しないことに注
目されたい。これにより、本開示のMSFPが、WO2008/024188およびWO
2009/149185において記載される融合タンパク質など、他の公知の融合タンパ
ク質から識別される。これらの構築物は、VH1-VH2-CH1-ヒンジ-CH2-C
H3およびVL1-VL2-CLの一般的なフォーマットを有することにより異なる。こ
の構築物では、VH1とVL1とが二量体化して、さらなる抗原結合部位を形成する。本
開示のMSFPでは、第1の融合部分と第2の融合部分とが会合して、単一の抗原結合部
位を形成するわけではない。本明細書の別の個所で記載される本MSFPのさらなる識別
特徴は、MSFPが集塊をなさない場合、融合部分により、Fabのその標的に対する結
合アフィニティーが低減されることである。これに対し、WO2008/024188お
よびWO2009/149185において記載されるタンパク質は、抗体の結合標的に対
する結合アフィニティーの低減を呈示しない。
【0181】
例示的な本開示のMSFPは、配列番号84、90、96、および100から選択され
るアミノ酸配列のうちのいずれか1つ;ならびに配列番号32、60、64、68、およ
び72から選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む。さらに例示的な本開示
のMSFPは、配列番号86、92、98、および102から選択されるアミノ酸配列の
うちのいずれか1つ;ならびに配列番号30、36、40、44、48、および52から
選択されるアミノ酸配列のうちのいずれか1つを含む。
【0182】
多重特異性Fab融合タンパク質の機能
本開示のMSFPは、薬物の安定性、特異性、選択性、効力、および安全性、ならびに
薬物投与の簡便性を増強するように機能する。特定の実施形態では、融合部分をそのN末
端へと融合させずに発現させた場合のFabが、可溶性の組換え形態(通常は受容体タン
パク質、例えば、CD3など、T細胞受容体の構成要素の細胞外ドメイン)中のその標的
抗原のほか、細胞表面上のその標的抗原に結合することが可能である。特定の実施形態で
は、融合部分をその重鎖および軽鎖両方のN末端へと融合させ、かつ、単量体形態で(非
凝集形態で、または多量体形態ではなく)発現させた場合のFabの抗原結合断片が、融
合部分の結合ドメインによる標的抗原への結合の非存在下における薬物の薬理学的濃度(
処置される患者におけるポリペプチド濃度)で、細胞表面上に存在するその特異的抗原に
結合しないか、またはこれに対する結合が低減されるか、またはこれに対してFab単独
と同様のレベルの結合を示す。融合部分の結合ドメインによる標的抗原への結合の非存在
下における細胞表面抗原への結合の欠如、または結合の大幅な低減は、抗原結合部位の周
囲にデザインされた立体障害から結果として生じる、アフィニティーの劇的な低下により
説明されうる。
【0183】
融合部分の結合ドメインによる標的抗原への結合の非存在下における、細胞表面抗原へ
の結合の欠如またはこれへの結合の大幅な低減は、ヒト用治療剤としてのMSFPに所望
されると考えることができる。MSFP単独の、例えば、T細胞への結合の欠如、または
これへの結合の著明な低減(腫瘍標的細胞の非存在下における)が、1)望ましくない全
身性のT細胞活性化を劇的に改善する、したがって、薬物の安全性プロファイルを劇的に
改善し;2)皮下経路による薬物投与の実行可能性を劇的に改善し;3)血液循環中の高
薬物濃度に対する薬物忍容性を劇的に増大させることに注目することは重要である。
【0184】
OKT3またはUCHT-1などの抗体による、立体配座エピトープを介するT細胞へ
の結合が、部分的なシグナル伝達を行い、望まれないT細胞の活性化(サイトカインスト
ームを引き起こす)またはT細胞アネルギー(結果として腫瘍細胞を死滅させることが不
可能なT細胞をもたらす)をもたらすことに注目することは重要である。mu-1F3、
hu-1F3、およびこれらの変異体がCD3の直鎖状エピトープへと結合することによ
り、CD3の架橋形成の非存在下でT細胞のシグナル伝達が誘導される可能性は低いと考
えられる。この特性は、OKT3様の抗体およびUCHT-1様の抗体を用いるときに生
じる全身性副作用を低減するのに有利でありうる。
【0185】
また、MSFP内の融合部分は、プロテアーゼにより切断されると、Fab抗原結合部
位の周囲の立体障害が除去されるように、次いで、MSFPが、その(Fab)標的、特
に、細胞表面において発現する標的抗原に高アフィニティーで結合しうるように機能し、
したがって、リンカー内の切断基質配列における切断(これにより融合部分が放出される
)の後、MSFPは、腫瘍細胞とT細胞との間のいっそう強力な架橋形成剤へと転換され
ることに注目することも重要である。
【0186】
さらに、融合部分の結合ドメインがその標的抗原に結合すると、MSFP分子は、腫瘍
細胞表面上で高度に濃縮され、T細胞上のFab標的(例えば、CD3)への高アビディ
ティーに基づく結合を創出することに注目することも重要である。したがって、融合部分
の結合の存在下に限り、Fabの抗原結合断片は、その標的に結合することが可能であり
、したがって、MSFPが腫瘍細胞とT細胞との間の架橋形成剤として機能することが可
能である。
【0187】
本開示のMSFPの特性は、望まれない副作用を伴わずに、循環における比較的高用量
のMSFPを可能とする(例えば、循環中にあるとき、MSFPは、Fab断片の標的抗
原(例えば、CD3)に結合しない)。これはまた、投与頻度の低減も可能とし、濃度勾
配により駆動される拡散を介する組織への浸透も促進する。
【0188】
本開示のMSFPの特性はまた、標的への接触を増強しうる皮下投与の可能性も可能と
する。さらに、特定の実施形態では、MSFPが、プロテアーゼ処理を伴わない架橋形成
も許容するが、特定の具体的な実施形態では、プロテアーゼ処理の後、結合活性および腫
瘍殺滅効力が劇的に増大する。
【0189】
一実施形態では、VHおよびVLにより形成される抗原結合ドメイン(Fv)が、CH
1とCLとのヘテロ二量体化ドメインにより安定化され、CH1とCLとの間のジスルフ
ィド結合または他の安定化相互作用(例えば、KIH(knobs/hole)相互作用
)によりさらに安定化される。
【0190】
一実施形態では、MSFP内のFabが、そのN末端における融合部分により、Fab
標的抗原への結合(とりわけ、細胞表面の標的抗原に関する場合)が、統計学的に有意な
様式で(すなわち、当業者に公知の適切な対照と比べて;例えば、そのN末端(VHおよ
びVLの両方)において融合部分を伴わないフォーマットにおける同じFabと比較して
)低減されるように立体障害を受ける。さらなる実施形態では、MSFP内のFabが、
そのN末端における融合部分により立体障害を受け、そのため、所望の抗原への結合(と
りわけ、細胞表面の標的抗原に関する場合)が、そのN末端(VHおよびVLの両方)に
おいて融合部分を伴わないフォーマットにおける同じFabと比較して少なくとも2分の
1、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、10分
の1、11分の1、12分の1、13分の1、14分の1、15分の1、20分の1、3
0分の1、または100分の1、または1000分の1、または10,000分の1に低
減される。
【0191】
特定の実施形態では、融合タンパク質フォーマット内のFabの抗原結合ドメインの、
Fabの細胞表面の標的抗原に対するアフィニティーが、500nM未満である。さらな
る実施形態では、融合タンパク質フォーマット(すなわち、MSFP)内のFabの抗原
結合ドメインのアフィニティーが、ヒトにおいて用いられる治療剤の濃度範囲においてF
ACSまたは他の結合の測定方法(例えば、細胞結合ELISA)を用いて測定される、
著明な検出可能な結合を顕示しない。一実施形態では、治療用濃度におけるFab融合タ
ンパク質が結合するFabの標的細胞集団(例えば、CD3+細胞)は、1%未満であろ
う(すなわち、融合部分の結合ドメインの標的抗原を発現させる細胞の非存在下で)。一
実施形態では、治療用濃度におけるMSFPが結合するFabの標的細胞集団が、5%未
満であろう。なお別の実施形態では、治療用濃度におけるMSFPが結合するFabの標
的細胞集団が、10%未満であろう。
【0192】
腫瘍組織内に存在するプロテアーゼ、とりわけ、MMPのレベルが上昇すると、リンカ
ーのMMP基質の切断部位において切断産物が発生するであろう。リンカーのプロテアー
ゼの基質配列の切断は、Fabの抗原結合領域における立体障害の減殺を結果としてもた
らすため、Fabの細胞表面標的への結合が完全に回復されるか、または少なくとも部分
的に回復される。回復された結合は、FACS法、細胞ベースのELISA法、または当
業者に公知の他の細胞結合法を用いて裏付けることができる。
【0193】
「アフィニティーの劇的な低減」という用語は、Fabの抗原結合ドメインの結合の、
FabのVHおよびVLのN末端が融合部分を含まない場合の結合と比較した少なくとも
30%の低減を指す。限定せずに述べると、低減百分率は、例えば、30%、約40%、
約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約99%以上でありうる。
当業者には、結合を検出するための方法が公知であり、FACS、細胞結合ELISA、
または放射性同位元素で標識した抗体を用いる細胞結合を用いて実施することができる。
【0194】
本明細書で記載される本開示のMSFPにおける使用のための例示的なFabは、抗C
D3 Fabである。この点において、MSFPは、融合部分の結合ドメインが腫瘍細胞
抗原に結合すると、Fabが、通過するT細胞のCD3に結合することが可能となり、こ
れにより、T細胞の方向付けを変え、それらを活性化して、腫瘍細胞を死滅させるように
機能する。別の実施形態では、MSFP(本明細書ではまた、Fab断片がCD3などの
免疫エフェクター分子に結合する場合に、Fabeとしても言及される)が、融合部分の
(1または複数の)結合ドメインによる腫瘍抗原への結合を介して腫瘍細胞表面において
集塊をなすと、アビディティー効果を呈示しうる。立体障害を受けたFabによる免疫細
胞への見かけ上の結合自体も、アビディティーに起因して増大しうる。Fabe/MSF
Pはそれ自体、免疫細胞と腫瘍細胞とを架橋形成することが可能となり、これにより、抗
腫瘍抗体の活性を媒介することが可能となる。
【0195】
特定の実施形態では、Fabのその標的抗原への結合または融合部分の結合剤のその標
的抗原への結合が別個であれば、標的の活性化がもたらされない。しかし、結合が同時で
あれば、Fabの抗原標的および融合部分の結合ドメインの抗原標的は、シグナル伝達を
発生させうる。例えば、MSFPは、例えば、CD3であるFabの抗原標的、および腫
瘍表面抗原である融合部分の結合ドメインの抗原標的に結合しうる。MSFPが、CD3
または腫瘍表面抗原へと別個に結合してもT細胞は活性化されないが、CD3と腫瘍表面
抗原とがMSFPへと同時に結合する場合、および結合した複合体の複数のコピーが腫瘍
細胞表面においてアンカリングされて集塊をなす場合、T細胞は、腫瘍表面抗原を保有す
るがん細胞の近傍で活性化し、したがって、T細胞の腫瘍殺滅効率を局所的に著明に増強
し、サイトカインストームに起因する副作用を回避する。
【0196】
特定の実施形態では、Fabの抗原標的と融合部分の結合ドメインの抗原標的との組合
せが、CD3および腫瘍表面抗原である可能性があり、この組合せが、T細胞による腫瘍
殺滅効果を増強する。特定の実施形態では、Fabの抗原標的と融合部分の抗原標的との
組合せが、FcγRおよび腫瘍表面抗原である可能性があり、この組合せが、FcγRを
発現させる免疫細胞を誘導して、腫瘍細胞を死滅させる。特定の実施形態では、Fabの
抗原標的と融合部分の抗原標的との組合せが、NKG2Dおよび腫瘍細胞の表面抗原であ
る可能性があり、この組合せが、ナチュラルキラー(NK)細胞を誘導して、腫瘍細胞を
死滅させる。
【0197】
特定の実施形態では、第1の融合部分および第2の融合部分が、第1の標的抗原および
第2の標的抗原に結合する結合ドメインを含む。このようにして、MSFPは、3つの異
なる標的抗原(すなわち、Fab標的に加えた2つの異なる融合部分の標的)に結合する
。したがって、特定の実施形態では、Fabの抗原標的が、CD3、TCR、FcγR、
およびNKG2Dからなる群より選択され、第1の融合部分および第2の融合部分の第1
の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが、がん細胞上で優先的に発現する2つの異な
る抗原である。このような3つの異なる標的抗原を有するMSFPは、腫瘍細胞に対する
ターゲティングの特異性を増強し、融合部分の結合ドメインの標的抗原のうちの一方を発
現させる場合もあり、融合部分の結合ドメインの標的抗原の両方を低レベルで発現させる
場合もある、正常細胞の殺滅を防止しうる。
【0198】
したがって、例示的な実施形態では、本開示のMSFPが、CD3ポリペプチドなど、
TCRまたはこれらの構成要素に結合するFabの抗原結合断片を含む。上記で言及した
通り、本開示のMSFPは、融合部分の結合ドメインが、それらの標的抗原に係合する場
合、またはリンカーの切断イベントの後を除き、Fab標的抗原に結合しない。
【0199】
したがって、特定の実施形態では、融合部分の結合ドメインの標的抗原への係合の非存
在下では、本開示のMSFPが、T細胞を活性化しないか、またはT細胞を活性化するこ
とが最小限である。MSFPは、それが、活性化T細胞の百分率の、少なくとも1つのi
n vitroアッセイまたはin vivoにおいてアッセイにおいて測定される、融
合部分の結合ドメインの標的抗原(例えば、適切な腫瘍細胞/細胞系)を発現させる細胞
の存在下におけるT細胞の活性化と比較して、統計学的に有意な増大を引き起こさない場
合、「T細胞を活性化しないか、またはT細胞を活性化することが最小限もしくは名目的
である」。当技術分野では、このようなアッセイが公知であり、限定せずに述べると、増
殖アッセイ、CTLクロム放出アッセイ(例えば、Lavieら、(2000年)、In
ternational Immunology、12巻(4号):479~486頁を
参照されたい)、ELISPOTアッセイ、細胞内サイトカイン染色アッセイ、および、
例えば、「Current Protocols in Immunology」、Jo
hn Wiley & Sons、New York、N.Y.(2009年)において
記載される他のアッセイが含まれる。特定の実施形態では、T細胞の活性化が、in v
itroにおけるプライミングによるT細胞活性化アッセイを用いて測定される。また、
本明細書の例で記載されるアッセイも参照されたい。
【0200】
したがって、関連する態様では、本開示は、TCR複合体またはこれらの構成要素に特
異的に結合するFabを含むMSFPにより誘導されるT細胞の活性化を検出するための
方法であって、(a)抗原またはマイトジェンでプライミングされたT細胞を供給するス
テップと、(b)ステップ(a)のプライミングされたT細胞を、TCR複合体またはこ
れらの構成要素に特異的に結合するFabを含むMSFPで処置するステップと、(c)
プライミングされたT細胞であって、ステップ(b)で処置されたT細胞の活性化を検出
するステップとを含む方法を提供する。
【0201】
本明細書で用いられる「マイトジェン」という用語は、特異性またはクローンの由来が
異なるリンパ球において有糸分裂を誘導する化学物質を指す。T細胞をプライミングする
のに用いうる例示的なマイトジェンには、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバ
リンA(ConA)、リポ多糖(LPS)、ブタクサマイトジェン(PWM)、およびホ
ルボールミリステート酢酸塩(PMA)が含まれる。また、抗原をロードしたビーズまた
はPBMCも、T細胞をプライミングするのに用いることができる。
【0202】
本明細書で提示される、T細胞の活性化を検出するための方法の特定の実施形態では、
TCR複合体またはこれらの構成要素に特異的に結合するFabを含むMSFPが、腫瘍
抗原に結合する1または複数の結合ドメインを含む1または複数の融合部分を含む。
【0203】
T細胞の活性化は、CD25、CD40リガンド、およびCD69など、当技術分野で
公知の活性化マーカーの発現を測定することにより検出することができる。活性化T細胞
はまた、CFSE標識化アッセイおよびチミジン取込みアッセイなどの細胞増殖アッセイ
(Adams(1969年)、Exp. Cell Res.、56巻:55頁)によっ
ても検出することができる。T細胞のエフェクター機能(例えば、細胞殺滅効果または細
胞殺滅機能)は、例えば、クロム放出アッセイまたは蛍光色素(例えば、TP3)を用い
るFACSベースのアッセイにより測定することができる。関連する態様では、T細胞の
活性化および細胞溶解活性を、T細胞と腫瘍細胞との間の溶解シナプス形成により測定す
ることができる。グランザイムおよびパーフォリン(porforin)などのエフェク
ター分子は、細胞溶解シナプスにおいて検出することができる。
【0204】
別の関連する態様では、T細胞の活性化を、サイトカインの放出により測定することが
できる。TCR複合体またはこれらの構成要素に特異的に結合するFabを含むMSFP
により誘導されるサイトカインの放出を検出するための方法は、(a)プライミングされ
たT細胞を供給するステップと、(b)ステップ(a)のプライミングされたT細胞を、
TCR複合体またはこれらの構成要素に特異的に結合するFabを含むMSFPで処置す
るステップと、(c)プライミングされたT細胞であって、ステップ(b)で処置された
T細胞からのサイトカインの放出を検出するステップとを含みうる。具体的な実施形態で
は、MSFPの第1の融合部分および/または第2の融合部分において存在する結合ドメ
インが結合する標的の腫瘍抗原を発現させる、適切ながん細胞または細胞系の存在下また
は非存在下で実験を実行する。
【0205】
本明細書で提示されるサイトカインの放出を検出するための方法の特定の実施形態では
、TCR複合体またはこれらの構成要素に特異的に結合するFabを含むMSFPが、腫
瘍標的抗原に結合する結合ドメインを含む融合部分をさらに含むMSFPである。
【0206】
さらなる好ましい実施形態では、本開示のMSFPが、サイトカインストームを誘導し
ないか、または毒性の副作用を誘導するのに十分なサイトカインの放出を誘導しない。M
SFPは、それが、第2の標的細胞(例えば、融合部分の結合ドメインが結合する抗原を
発現させる腫瘍細胞)または適切なリンカー切断剤(プロテアーゼなど)の非存在下では
、IFNγを含めた少なくとも1つのサイトカインの量の統計学的に有意な増大を引き起
こさないならば、「サイトカインストームを誘導しない」(また、「検出不可能な、名目
的な、または最小限のサイトカインの放出の誘導」または「検出可能なサイトカインの放
出を誘導しないか、または検出可能なサイトカインの放出の誘導が最小限である」とも称
する)。当技術分野で公知であるか、または本明細書で提示される少なくとも1つのin
vitroアッセイまたはin vivoアッセイにおいて、適切な第2の標的細胞ま
たはリンカー切断剤の存在下で処置される細胞から放出される量と比較して、第2の標的
細胞(例えば、適切ながん細胞系)または適切なリンカー切断剤の非存在下で処置される
細胞から放出される、特定の実施形態では、IFNγおよびTNFαまたはIL-6およ
びTNFαを含めた少なくとも2つのサイトカインの量;一実施形態では、IL-6、I
FNγ、およびTNFαを含めた3つのサイトカインの量;別の実施形態では、IL-2
、IL-6、IFNγ、およびTNFαを含めた4つのサイトカインの量;ならびになお
さらなる実施形態では、IL-2、IL-6、IL-10、IFNγ、およびTNFαを
含めた少なくとも5つのサイトカインの量の統計学的に有意な増大を引き起こさない場合
も、MSFPは「サイトカインストームを誘導しない」。臨床的に、サイトカイン放出症
候群は、発熱、悪寒、発疹、悪心を特徴とし、場合によって、IFNγのほか、IL-2
、IL-6、およびTNFαなど、特定のサイトカインの最大限の放出と並行する呼吸困
難および頻脈を特徴とする。in vitroにおいてアッセイまたはin vivoに
おいて放出について調べうるサイトカインには、G-CSF、GM-CSF、IL-2、
IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-13、IL-17、IP-10、K
C、MCP1、IFNγ、およびTNFαが含まれ、別の実施形態では、IL-2、IL
-6、IL-10、IFNγ、およびTNFαが含まれる。
【0207】
さらなる実施形態では、本開示のMSFPが、T細胞などの細胞内でカルシウムフラッ
クスの増大を引き起こす。MSFPは、適切な第2の標的細胞(例えば、がん細胞)また
はリンカー切断剤の存在下でT細胞を活性化するように用いられるとき、当技術分野で公
知であるか、または本明細書で提示されるin vitroアッセイにおいて測定される
、処置された細胞の、適切な第2の標的細胞またはリンカー切断剤の非存在下で処置され
た細胞と比較した、統計学的に有意に急速な(処置の好ましくは300秒以内、より好ま
しくは200秒以内であり、最も好ましくは100秒以内における)カルシウムフラック
スの増大を引き起こすならば、「カルシウムの増大」を引き起こす。
【0208】
さらなる実施形態では、本開示のMSFPが、TCRによるシグナル伝達経路内の分子
のリン酸化を誘導する。「TCRによるシグナル伝達経路」とは、ペプチド:MHCリガ
ンドのTCRおよびその共受容体(CD4またはCD8)への結合を介して誘発されるシ
グナル伝達経路を指す。「TCRによるシグナル伝達経路内の分子」とは、そのリン酸化
状態(例えば、その分子がリン酸化されているかどうか)、別の分子に対するその結合ア
フィニティー、またはその酵素活性が、ペプチド:MHCリガンドの、TCRおよびその
共受容体への結合に由来するシグナルに応答して変化した分子など、TCRによるシグナ
ル伝達経路に直接的に関与する分子を指す。例示的なTCRによるシグナル伝達経路内の
分子には、TCR複合体またはその構成要素(例えば、CD3ζ鎖)、ZAP-70、F
yn、Lck、ホスホリパーゼc-γ、タンパク質キナーゼC、転写因子NFκB、ホス
ファターゼ(phasphatase)であるカルシニューリン、転写因子NFAT、グ
アニンヌクレオチド交換因子(GEF)、Ras、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(M
APKKK)、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)、MAPキナーゼ(ERK1/2
)、およびFosが含まれる。
【0209】
本開示のMSFPは、それが、当技術分野で公知のin vitroアッセイまたはi
n vivoアッセイまたは受容体シグナル伝達アッセイにおいて、適切な第2の標的抗
原もしくはこのような抗原を発現させる細胞(例えば、融合部分の結合ドメインが結合す
る腫瘍抗原を発現させるがん細胞)またはリンカー切断剤の存在下に限り、統計学的に有
意な、TCRによるシグナル伝達経路内の分子(例えば、CD3ζ鎖、ZAP-70、お
よびERK1/2)のリン酸化の増大を引き起こすならば、「TCRによるシグナル伝達
経路内の分子のリン酸化を誘導する」。当技術分野で公知の受容体シグナル伝達アッセイ
の大半からの結果は、ウェスタンブロットまたは蛍光顕微鏡などの免疫組織化学法を用い
て決定される。
【0210】
同様に、本開示のMSFPは、T細胞による、融合部分の結合ドメインの標的抗原を発
現させる腫瘍細胞など、第2の標的細胞の殺滅も誘導する。このような細胞殺滅は、クロ
ム放出アッセイを含めた当技術分野で公知の多様なアッセイを用いて測定することができ
る。
【0211】
本開示のMSFPの特異性および機能は、MSFPを適切な被験試料と接触させ、特定
の実施形態では、MSFPを、リンカー内の切断認識部位に特異的であると考えられる適
切なプロテアーゼで処理し、これを切断産物についてアッセイすることにより調べること
ができる。プロテアーゼは、例えば、がん細胞から単離することもでき、組換えにより、
例えば、Darketら(J. Biol. Chem.、254巻:2307~231
2頁(1988年))における手順に従い調製することもできる。切断産物は、例えば、
サイズ、抗原性、または活性に基づき同定することができる。MSFPの毒性は、MSF
Pおよびその切断産物を、in vitroにおける細胞傷害作用アッセイ、増殖アッセ
イ、結合アッセイ、または当業者に公知の他の適切なアッセイにかけることにより精査す
ることができる。切断産物の毒性は、リボソーム不活化アッセイを用いて決定することが
できる(Westbyら、Bioconjugate Chem.、3巻:377~38
2頁(1992年))。切断産物のタンパク質の合成に対する効果は、in vitro
における翻訳についての標準化アッセイであって、例えば、リボソームおよびmRNA鋳
型およびアミノ酸など、多様で不可欠な共因子の供給源としての網状赤血球溶解物による
調製物からなる、規定が部分的な無細胞系を使用するアッセイにおいて測定することがで
きる。混合物中で放射性標識されたアミノ酸を用いることにより、遊離アミノ酸前駆体の
トリクロロ酢酸沈殿性タンパク質への組込みの定量化が可能となる。ウサギ網状赤血球の
溶解物を用いると簡便である(O’Hare、FEBS Lett.、273巻:200
~204頁(1990年))。
【0212】
本発明のMSFPががん細胞を破壊する能力、および/またはT細胞を活性化する能力
は、がん細胞系、T細胞系、または単離PBMCもしくは単離T細胞を用いて、in v
itroにおいて容易に調べることができる。本開示のMSFPの効果は、例えば、がん
細胞の選択的溶解を裏付けることにより決定することができる。加えて、プロテアーゼの
特異性は、単独でまたはプロテアーゼ特異的阻害剤の存在下で本開示のMSFPを用いて
細胞増殖の阻害を比較することにより調べることができる。このようなプロテアーゼ阻害
剤には、MMP-2/MMP-9阻害剤であるGM1489、GM6001、およびGI
-I~GI-IVが含まれうる。
【0213】
毒性はまた、細胞生存率に基づいても測定することができ、例えば、MSFPへと曝露
された正常な細胞培養物の生存率とがん性の細胞培養物の生存率とを比較することができ
る。細胞生存率は、トリパンブルー排除アッセイなど、公知の技法により評価することが
できる。毒性はまた、細胞の溶解に基づいても測定することができ、例えば、MSFPへ
と曝露された正常な細胞培養物の溶解とがん性の細胞培養物の溶解とを比較することがで
きる。細胞溶解は、クロム(Cr)放出アッセイまたは死滅細胞指示色素(ヨウ化プロピ
ジウム、TO-PRO-三ヨウ化物)など、公知の技法により評価することができる。
【0214】
ポリペプチド
本開示は、MSFPポリペプチドおよびそれらの断片を提供する。配列番号23~10
2および109~150では、例示的なポリペプチド、およびそれらをコードするポリヌ
クレオチドが提示される。「ポリペプチド」、「タンパク質」、および「ペプチド」、な
らびに「糖タンパク質」という用語は互換的に用いられ、いかなる特定の長さにも限定さ
れないアミノ酸のポリマーを意味する。これらの用語は、ミリスチル化、硫酸化、グリコ
シル化、リン酸化、およびシグナル配列の付加または欠失などの修飾を除外しない。「ポ
リペプチド」または「タンパク質」という用語は、1または複数のアミノ酸鎖であって、
各鎖が、ペプチド結合により共有結合的に連結されたアミノ酸を含み、前記ポリペプチド
またはタンパク質が、ペプチド結合により非共有結合的および/または共有結合的に併せ
て連結された複数の鎖であり、天然タンパク質、すなわち、自然発生細胞、および、とり
わけ、非組換え細胞により産生されたタンパク質、または遺伝子操作された細胞もしくは
組換え細胞により産生されたタンパク質の配列を有する複数の鎖を含むことが可能であり
、天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子、あるいは天然配列からの1もしくは複数
のアミノ酸の欠失、天然配列への1もしくは複数のアミノ酸の付加、および/または天然
配列の1もしくは複数のアミノ酸に対する置換を有する分子を含むアミノ酸鎖を意味する
。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語はとりわけ、本開示のMSFPおよ
びその二量体、あるいは本明細書で開示されるMSFPからの1もしくは複数のアミノ酸
の欠失、本明細書で開示されるMSFPへの1もしくは複数のアミノ酸の付加、および/
または本明細書で開示されるMSFPの1もしくは複数のアミノ酸に対する置換を有する
配列を包摂する。したがって、「ポリペプチド」または「タンパク質」は、1つのアミノ
酸鎖(「単量体」と称する)または複数のアミノ酸鎖(「多量体」と称する)を含みうる
【0215】
本明細書で言及される「単離タンパク質」という用語は、対象タンパク質が、(1)天
然では共に見出されることが典型的な他の少なくとも一部のタンパク質を含まないか、(
2)同じ供給源に由来する、例えば、同じ種に由来する他のタンパク質を本質的に含まな
いか、(3)異なる種に由来する細胞を介して発現するか、(4)天然では会合している
ポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、もしくは他の物質のうちの少なくとも約50パーセ
ントから分離されているか、(5)天然では「単離タンパク質」が会合しているタンパク
質の部分と会合(共有結合的相互作用または非共有結合的相互作用により)していないか
、(6)天然では会合していないポリペプチドと作動可能に会合(共有結合的相互作用ま
たは非共有結合的相互作用により)しているか、または(7)天然では発生しないことを
意味する。このような単離タンパク質は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、もしくは
、おそらくは合成由来の、他のRNA、またはこれらの任意の組合せによりコードされう
る。特定の実施形態では、単離タンパク質が、その天然の環境において見出されるタンパ
ク質もしくはポリペプチドまたは他の夾雑物であって、その使用(治療的、診断的、予防
的、研究的、または他の形の)に干渉するタンパク質もしくはポリペプチドまたは他の夾
雑物を実質的に含まない。
【0216】
「ポリペプチド断片」という用語は、単量体の場合もあり、多量体の場合もあるポリペ
プチドであって、自然発生のポリペプチドまたは組換えにより作製したポリペプチドのア
ミノ末端の欠失、カルボキシル末端の欠失、および/または内部の欠失もしくは置換を有
するポリペプチドを指す。特定の実施形態では、ポリペプチド断片が、少なくとも5~約
500アミノ酸の長さのアミノ酸鎖を含みうる。特定の実施形態では、断片が、少なくと
も5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19
、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、
33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、4
6、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95
、100、110、150、200、250、300、350、400、または450ア
ミノ酸の長さであることが察知されるであろう。特に有用なポリペプチド断片は、抗体の
抗原結合ドメインまたは抗原結合断片を含めた機能的ドメインを包含する。抗CD3抗体
または他の抗体の場合、有用な断片には、CDR領域、とりわけ、重鎖または軽鎖のCD
R3領域、重鎖または軽鎖の可変領域、抗体鎖の部分または2つのCDRを含めたそのち
ょうどの可変領域などが含まれるがこれらに限定されない。
【0217】
ポリペプチドは、タンパク質のN末端側の終端部において、シグナル(またはリーダー
)配列を含み、これは、翻訳と同時のタンパク質の転移、または翻訳後におけるタンパク
質の転移を方向付ける。ポリペプチドはまた、インフレームで融合させることもでき、リ
ンカーまたはポリペプチドの合成、精製、もしくは同定を容易にするための他の配列(例
えば、ポリHis)、またはポリペプチドの固体支持体への結合を増強するための他の配
列へとコンジュゲートすることもできる。
【0218】
本明細書で記載されるMSFPのアミノ酸配列の(1または複数の)修飾が想定される
。例えば、MSFPの結合アフィニティーおよび/または他の生物学的特性を改善するこ
とが所望でありうる。例えば、MSFまたはその結合ドメインもしくはFabのアミノ酸
配列の変異体は、適切なヌクレオチド変化を、MSFPまたはそのドメインをコードする
ポリヌクレオチドへと導入することにより調製することもでき、ペプチド合成により調製
することもできる。このような修飾には、例えば、MSFPのアミノ酸配列内からの残基
の欠失、および/またはMSFPのアミノ酸配列内への残基の挿入および/またはMSF
Pのアミノ酸配列内の残基の置換が含まれる。最終的な構築物が、結合ドメインまたはF
abによる対象の標的抗原への特異的結合など、所望の特徴を保有する条件で、欠失、挿
入、および置換の任意の組合せを施して、最終的なMSFPに到達することができる。ア
ミノ酸変化また、グリコシル化部位の数または位置の変化など、MSFPの翻訳後プロセ
スも改変しうる。本発明のポリペプチドのための上記の変異および修飾のうちのいずれも
、本発明の抗体に組み入れることができる。
【0219】
本開示は、本明細書で開示されるMSFPの変異体を提供する。特定の実施形態では、
このような変異体のMSFPが、変異体の結合ドメイン、またはそのFab断片、または
抗原結合断片、またはそれらのCDRを含み、本明細書でとりわけ示される任意のこのよ
うな配列を含めた所与の基準配列または野生型配列の少なくとも約50%、少なくとも約
70%の強さで対象の標的に結合し、特定の実施形態では、少なくとも約90%の強さで
結合する。さらなる実施形態では、このような変異体が、標的抗原に、本明細書で示され
る基準配列または野生型配列より大きなアフィニティーで結合する、例えば、これらの変
異体は、例えば、とりわけ、本明細書で示される基準配列の、定量的に少なくとも約10
5%、106%、107%、108%、109%、または110%の強さで結合する。
【0220】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるMSFPの変異体であって、V
HとVLとの間のジスルフィド結合に関して修飾されたFabを含む変異体を提供する。
当業者により認識される通り、特定の実施形態では、本発明のMSFPにおいて用いられ
るFab断片が、ジスルフィド結合を含まない場合もある。この点において、重鎖および
軽鎖を、ジスルフィド結合に対する必要を伴わずに安定的に相互作用するような様式で操
作することができる。例えば、特定の実施形態では、重鎖または軽鎖を操作して、システ
イン残基を除去することができ、この場合、重鎖および軽鎖は、Fabとしてやはり安定
的に相互作用および機能する。一実施形態では、重鎖と軽鎖との間の安定的な相互作用を
容易とするように変異を施す。例えば、「KIH」操作戦略を用いて、Fabの重鎖と軽
鎖との間の二量体化を容易とすることができる(例えば、1996年、Protein
Engineering、9巻:617~621頁を参照されたい)。したがってまた、
本明細書における使用のために、例えば、ジスルフィド結合の除去、精製のためのタグの
付加など、特定の目的のためにデザインされた変異体のFab断片も想定される。
【0221】
具体的な実施形態では、対象のMSFPが、本明細書で記載されるMSFPと少なくと
も80%同一な、少なくとも95%同一な、少なくとも90%、少なくとも95%、もし
くは少なくとも98%、または99%同一なアミノ酸配列を有しうる。
【0222】
代表的なポリペプチドの三次元構造の決定は、選択された天然または非天然のアミノ酸
による1または複数のアミノ酸の置換、付加、欠失、または挿入を、このようにして誘導
される構造的変異体が本明細書で開示される分子種の空間充填特性を保持するかどうかを
決定する目的で事実上モデル化しうるように、日常的な方法を介して行うことができる。
例えば、Donateら、1994年、Prot. Sci.、3巻:2378頁;Br
adleyら、Science、309巻:1868~1871頁(2005年);Sc
hueler-Furmanら、Science、310巻:638頁(2005年);
Dietzら、Proc. Nat. Acad. Sci. USA、103巻:12
44頁(2006年);Dodsonら、Nature、450巻:176頁(2007
年);Qianら、Nature、450巻:259頁(2007年);Ramanら、
Science、327巻:1014~1018頁(2010年)を参照されたい。これ
らの実施形態および関連する実施形態のために用いうるコンピュータアルゴリズムの一部
のさらなる非限定的な例には、3D画像およびビルトインスクリプト記述を用いて生体高
分子系を表示、動画表示、および解析するための分子画像化プログラムであるVMD(k
s.uiuc.edu/study/vmd/におけるTheoretical and
Computational Biophysics Group、Universi
ty of Illinois at Urbana-Champagneのウェブサイ
トを参照されたい)が含まれる。当技術分野では、他の多くのコンピュータプログラムが
公知であり、当業者に利用可能であり、エネルギーを最小化した立体配座の空間充填モデ
ル(ファンデルワールス半径)から原子の大きさを決定することを可能とする:異なる化
学基に対するアフィニティーが高い領域であって、これにより、結合を増強された領域を
決定しようとするGRID;アライメントを数学的に計算するモンテカルロ探索;ならび
に力の場の計算および解析を評価するCHARMM(Brooksら(1983年)、J
. Comput. Chem.、4巻:187~217頁)およびAMBER(Wei
nerら(1981年)、J. Comput. Chem.、106巻:765頁)(
また、Eisenfieldら(1991年)、Am. J. Physiol. 26
1巻:C376~386頁;Lybrand(1991年)、J.Pharm. Bel
g.、46巻:49~54頁;Froimowitz(1990年)、Biotechn
iques、8巻:640~644頁;Burbamら(1990年)、Protein
s、7巻:99~111頁;Pedersen(1985年)、Environ. He
alth Perspect.、61巻:185~190頁;およびKiniら(199
1年)、J. Biomol. Struct. Dyn.、9巻:475~488頁も
参照されたい)。また、Schroedinger(Munich、Germany)製
のプログラムなど、多様で適切な計算用コンピュータプログラムも市販されている。
【0223】
多重特異性Fab融合タンパク質/ベクター/宿主細胞をコードするポリヌクレオチド
および多重特異性Fab融合タンパク質を作製する方法
特定の実施形態では、本開示は、本明細書で記載されるポリペプチドによるMSFPを
コードする単離核酸をさらにもたらす。例示的なポリヌクレオチド、ならびにこれにより
コードされるポリペプチドおよびそれらの断片を、配列番号23~102および109~
150に提示する。核酸は、DNAおよびRNAを包含する。これらの実施形態および関
連する実施形態は、本明細書で記載されるMSFPをコードするポリヌクレオチドを包含
しうる。本明細書で用いられる「単離ポリヌクレオチド」という用語は、ゲノム由来、c
DNA由来、もしくは合成由来、またはこれらの一部の組合せであるポリヌクレオチドで
あって、その由来により、(1)その単離ポリヌクレオチドが天然において見出されるポ
リヌクレオチドの全部もしくは一部と会合していないか、(2)天然ではそれが連結され
ないポリヌクレオチドに連結されているか、または(3)天然でより長大な配列の一部と
しては生じないポリヌクレオチドを意味するものとする。
【0224】
「作動可能に連結された」という用語は、この用語が適用される構成要素が、適切な条
件下でそれらがそれらの固有の機能を果たすことを可能とする関係にあることを意味する
。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結された」転写制御配列は、タンパク
質コード配列の発現を、制御配列の転写活性と適合可能な条件下で達成するように、タン
パク質コード配列にライゲーションされる。
【0225】
本明細書で用いられる「制御配列」という用語は、それらがライゲーションされるかま
たは作動可能に連結されるコード配列の発現、プロセシング、または細胞内局在化に影響
を及ぼしうるポリヌクレオチド配列を指す。このような制御配列の性質は、宿主生物に依
存しうる。具体的な実施形態では、原核生物の転写制御配列が、プロモーター、リボソー
ム結合部位、および転写終結配列を包含しうる。他の具体的な実施形態では、真核生物の
転写制御配列が、転写因子、転写エンハンサー配列、転写終結配列、およびポリアデニル
化配列の1または複数の認識部位を含むプロモーターを包含しうる。特定の実施形態では
、「制御配列」が、リーダー配列および/または融合パートナー配列を包含しうる。
【0226】
本明細書で言及される「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖の核酸
ポリマーを意味する。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、リ
ボヌクレオチドの場合もあり、デオキシリボヌクレオチドの場合もあり、ヌクレオチドの
いずれかの種類の修飾形態の場合もある。前記修飾には、ブロモウリジン修飾などの塩基
修飾、アラビノシド修飾および2’,3’-ジデオキシリボース修飾などのリボース修飾
、ならびにホスホロチオエート修飾、ホスホロジチオエート修飾、ホスホロセレノエート
修飾、ホスホロジセレノエート修飾、ホスホロアニロチオエート修飾、ホスホルアニラデ
ート修飾、およびホスホルアミデート(phosphoroamidate)修飾などの
ヌクレオチド間連結修飾が含まれる。「ポリヌクレオチド」という用語は、とりわけ、D
NAの一本鎖形態および二本鎖形態を包含する。
【0227】
「自然発生のヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌク
レオチドを包含する。「修飾ヌクレオチド」という用語は、糖基などが修飾または置換さ
れたヌクレオチドを包含する。「オリゴヌクレオチド連結」という用語は、ホスホロチオ
エート連結、ホスホロジチオエート連結、ホスホロセレノエート連結、ホスホロジセレノ
エート連結、ホスホロアニロチオエート連結、ホスホルアニラデート連結、ホスホルアミ
デート連結などのオリゴヌクレオチド連結を包含する。例えば、それらの開示が任意の目
的で参照により本明細書に組み込まれる、LaPlancheら、1986年、Nucl
. Acids Res.、14巻:9081頁;Stecら、1984年、J. Am
. Chem. Soc.、106巻:6077頁;Steinら、1988年、Nuc
l. Acids Res.、16巻:3209頁;Zonら、1991年、Anti-
Cancer Drug Design、6巻:539頁;Zonら、1991年、「O
LIGONUCLEOTIDES AND ANALOGUES: A PRACTIC
AL APPROACH」、87~108頁(F. Eckstein編)、Oxfor
d University Press、Oxford England;Stecら、
米国特許第5,151,510号;UhlmannおよびPeyman、1990年、C
hemical Reviews、90巻:543頁を参照されたい。オリゴヌクレオチ
ドは、オリゴヌクレオチドまたはそのハイブリダイゼーションの検出を可能とする検出可
能な標識を包含しうる。
【0228】
他の関連する実施形態では、ポリヌクレオチド変異体が、本明細書で記載されるMSF
Pまたはそのドメインをコードするポリヌクレオチド配列との実質的な同一性を有しうる
。例えば、ポリヌクレオチドは、本明細書で記載される方法(例えば、以下で記載される
標準的なパラメータを用いるBLAST解析)を用いて、本明細書で記載されるMSFP
またはそのドメインをコードする配列など、基準のポリヌクレオチド配列と比較して、少
なくとも70%の配列同一性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、
95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を含むポリヌクレオチ
ドでありうる。当業者は、コドンの縮重性、アミノ酸の類似性、リーディングフレームの
位置決めなどを考慮することにより、これらの値を適切に補正して、2つのヌクレオチド
配列によりコードされるタンパク質の対応する同一性を決定しうることを認識するであろ
う。
【0229】
ポリヌクレオチド変異体は、結合ドメインの結合アフィニティー、またはFabの結合
アフィニティー、または変異体のポリヌクレオチドによりコードされるMSFPの機能が
、とりわけ、本明細書で示されるポリヌクレオチド配列によりコードされる非修飾の基準
タンパク質と比べて、好ましくは実質的に減殺されないように、1または複数の置換、付
加、欠失および/または挿入を含有することが典型的である。
【0230】
他の特定の関連する実施形態では、ポリヌクレオチド断片が、本明細書で記載されるM
SFPまたはそのドメインをコードする配列と同一であるかまたは相補的な配列の多様な
長さの連続的な連なりを含むか、またはこれらから本質的になる可能性がある。例えば、
本明細書で開示される結合ドメインまたはそのFabの抗原結合断片など、MSFPまた
はそのドメインをコードする配列のうちの少なくとも約5、6、7、8、9、10、11
、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、
25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、3
8、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95
、100、110、120、130、140、150、200、300、400、500
または1000以上の連続的なヌクレオチドのほか、これらの間の全ての中間の長さの連
続的なヌクレオチドを含むか、またはこれらから本質的になるポリヌクレオチドが提供さ
れる。この文脈における「中間の長さ」とは、200~500を通した全ての整数;50
0~1,000を通した全ての整数を含め、50、51、52、53など;100、10
1、102、103など;150、151、152、153など、引例された値の間の任
意の長さを意味することが容易に理解されるであろう。本明細書で記載されるポリヌクレ
オチド配列は、一方または両方の末端において、天然配列において見出されないさらなる
ヌクレオチドにより伸長させることができる。このさらなる配列は、本明細書で記載され
るMSFPもしくはそのドメインをコードするポリヌクレオチドの片方の末端、または本
明細書で記載されるMSFPもしくはそのドメインをコードするポリヌクレオチドの両方
の末端における1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、
15、16、17、18、19、または20ヌクレオチドからなる可能性がある。
【0231】
別の実施形態では、中程度~高度な厳密性の条件下で、本明細書で開示される結合ドメ
インもしくはそのFabの抗原結合断片、またはその断片、もしくはその相補的な配列な
ど、MSFPまたはそのドメインをコードするポリヌクレオチド配列にハイブリダイズす
ることが可能なポリヌクレオチドが提供される。分子生物学の技術分野では、ハイブリダ
イゼーション法が周知である。例示を目的として述べると、本明細書で提示されるポリヌ
クレオチドの、他のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを調べるのに適する中
程度に厳密な条件には、5倍濃度のSSC、0.5%のSDS、1.0mMのEDTA(
pH8.0)による溶液中での前洗浄;50℃~60℃、5倍濃度のSSC中、一晩にわ
たるハイブリダイジングの後;0.1%のSDSを含有する2倍濃度のSSC、0.5倍
濃度のSSC、および0.2倍濃度のSSCの各々による、65℃で20分間ずつ2回に
わたる洗浄が含まれる。当業者は、ハイブリダイゼーションの厳密性が、ハイブリダイゼ
ーション溶液の塩含量および/またはハイブリダイゼーションを実施する温度を変化させ
ることなどにより容易に操作しうることを理解するであろう。別の実施形態では、例えば
、適切な高度に厳密なハイブリダイゼーション条件に、ハイブリダイゼーション温度を、
例えば、60℃~65℃または65℃~70℃へと上昇させることを例外として、上記の
条件が含まれる。
【0232】
特定の実施形態では、上記のポリヌクレオチド、例えば、ポリヌクレオチド変異体、断
片、およびハイブリダイズする配列が、結合ドメインまたはFab、例えば、CD3に結
合するFabまたは腫瘍抗原標的に結合する結合ドメインなど、MSFPまたはそのドメ
インをコードする。他の実施形態では、このようなポリヌクレオチドが、CD3および/
または腫瘍抗原に、とりわけ本明細書で示されるMSFP配列の少なくとも約50%、少
なくとも約70%の強さで結合し、特定の実施形態では、少なくとも約90%の強さで結
合するMSFPをコードする。さらなる実施形態では、このようなポリヌクレオチドが、
MSFPまたはそのドメインであって、例えば、CD3および/または標的抗原に、本明
細書で示されるMSFPまたはそのドメインより大きなアフィニティーで結合する、例え
ば、とりわけ、本明細書で示されるMSFPまたはそのドメインの配列の、定量的に少な
くとも約105%、106%、107%、108%、109%、または110%の強さで
結合するMSFPまたはそのドメインをコードする。
【0233】
本明細書の別の個所で記載される通り、代表的なポリペプチド(例えば、本明細書で提
示される変異体のMSFP、例えば、本明細書で提示される結合ドメインおよびFabを
有するMSFP)の三次元構造の決定は、選択された天然または非天然のアミノ酸による
1または複数のアミノ酸の置換、付加、欠失、または挿入を、このようにして誘導される
構造的変異体が本明細書で開示される分子種の空間充填特性を保持するかどうかを決定す
る目的で事実上モデル化しうるように、日常的な方法を介して行うことができる。当業者
には、例えば、アフィニティーを維持するか、またはより良好なアフィニティーを達成す
るように、例えば、抗体またはその抗原結合断片内の適切なアミノ酸置換(またはこのア
ミノ酸配列をコードする適切なポリヌクレオチド)を決定するための多様なコンピュータ
プログラムが公知である。
【0234】
本明細書で記載されるポリヌクレオチドまたはそれらの断片は、コード配列それ自体の
長さに関わらず、それらの全体的な長さを大幅に変化させうるように、プロモーター、ポ
リアデニル化シグナル、さらなる制限酵素部位、複数のクローニング部位、他のコードセ
グメントなど、他のDNA配列と組み合わせることができる。したがって、ほぼ任意の長
さの核酸断片であって、全長が調製の容易さおよび意図される組換えDNAプロトコール
における使用により限定されることが好ましい核酸断片を用いうることが想定される。例
えば、全長が約10,000、約5000、約3000、約2,000、約1,000、
約500、約200、約100、約50塩基対の長さなど(全ての中間の長さを含めた)
である例示的なポリヌクレオチドセグメントは、有用であると想定される。
【0235】
ポリヌクレオチド配列を比較する場合、下記の通りに対応が最大となるように整列させ
たときに、2つの配列におけるヌクレオチド配列が同じであれば、2つの配列を「同一で
ある」という。2つの配列の間の比較は、典型的に、配列を比較域にわたり比較して、局
所的な配列類似性の領域を同定および比較することにより実施した。本明細書で用いられ
る「比較域」とは、少なくとも約20、通常は30~約75、40~約50の連続的な位
置のセグメントであって、配列を、同数の連続的な位置を有する基準配列と、これら2つ
の配列を最適に整列させた後で比較しうるセグメントを指す。
【0236】
比較のための最適な配列アライメントは、Lasergeneシリーズのバイオインフ
ォーマティックスソフトウェア(DNASTAR,Inc.、Madison、WI)に
おけるMegalignプログラムでデフォルトのパラメータを用いて実行することがで
きる。このプログラムは、以下の参考文献において記載されている複数のアライメントス
キームを統合する:Dayhoff, M.O.(1978年)、「A model o
f evolutionary change in proteins - Matr
ices for detecting distant relationships
」、Dayhoff, M.O.(編)、「Atlas of Protein Seq
uence and Structure」、National Biomedical
Research Foundation、Washington DC、5巻、増刊
3号、345~358頁;Hein J.、「Unified Approach to
Alignment and Phylogenes」、626~645頁(1990
年);「Methods in Enzymology」、183巻、Academic
Press, Inc.、San Diego、CA;Higgins, D.G.お
よびSharp, P.M.、CABIOS、5巻:151~153頁(1989年);
Myers, E.W.およびMuller W.、CABIOS、4巻:11~17頁
(1988年);Robinson, E.D.、Comb. Theor、11巻:1
05頁(1971年);Santou, N. Nes, M.、Mol. Biol.
Evol.、4巻:406~425頁(1987年);Sneath, P.H.A.
およびSokal, R.R.、「Numerical Taxonomy - The
Principles and Practice of Numerical Ta
xonomy」、Freeman Press、San Francisco、CA(1
973年);Wilbur, W.J.およびLipman, D.J.、Proc.
Natl. Acad.、Sci. USA、80巻:726~730頁(1983年)
【0237】
代替的に、比較のための最適な配列アライメントは、SmithおよびWaterma
n、Add. APL. Math、2巻:482頁(1981年)による局所的な同一
性アルゴリズムを介して実施することもでき、NeedlemanおよびWunsch、
J. Mol. Biol.、48巻:443頁(1970年)による同一性アライメン
トのアルゴリズムを介して実施することもでき、PearsonおよびLipman、P
roc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻:2444頁(1988
年)による類似性の検索法を介して実施することもでき、これらのアルゴリズム(Wis
consin Genetics Software Package、Genetic
s Computer Group(GCG)、575 Science Dr.、Ma
dison、WIによるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、およびTF
ASTA)をコンピュータに実装することにより実施することもでき、目視により実施す
ることもできる。
【0238】
配列同一性および配列類似性のパーセントを決定するのに適するアルゴリズムの好まし
い一例は、BLASTアルゴリズムおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、それ
ぞれ、Altschulら、Nucl. Acids Res.、25巻:3389~3
402頁(1977年)、およびAltschulら、J. Mol. Biol.、2
15巻:403~410頁(1990年)において記載されている。例えば、本明細書で
記載されるパラメータによりBLASTおよびBLAST 2.0を用いて、2つ以上の
ポリヌクレオチド間における配列同一性のパーセントを決定することができる。BLAS
T解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for B
iotechnology Informationを介して公開されている。例示的な
一例では、ヌクレオチド配列には、パラメータM(マッチする残基対に対するリウォード
スコア;常に>0)およびN(ミスマッチする残基に対するペナルティースコア;常に<
0)を用いて累積スコアを計算することができる。各方向へのワードヒットの伸長は、累
積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下する場合;1もしくは複数の負
のスコアをもたらす残基アライメントが累積するために、累積スコアがゼロ以下に低下す
る場合;またはいずれかの配列の末端に達した場合に停止させる。BLASTアルゴリズ
ムのパラメータであるW、T、およびXは、アライメントの感度および速度を決定する。
BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)では、デフォルトとして、ワード長
(W)11、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(H
enikoffおよびHenikoff、Proc. Natl. Acad. Sci
. USA、89巻:10915頁(1989年)を参照されたい)によるアライメント
(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を用いる。
【0239】
特定の実施形態では、「配列同一性の百分率」が、最適に整列させた2つの配列を、少
なくとも20の位置による比較域であって、ポリヌクレオチド配列の一部が、2つの配列
の最適なアライメントのための基準配列(付加または欠失を含まない)と比較して20パ
ーセント以下、通常は5~15パーセント、または10~12パーセントの付加または欠
失(すなわち、ギャップ)を含みうる比較域にわたり比較することにより決定する。百分
率は、両方の配列で同一な核酸塩基が生じてマッチした位置数をもたらす位置数を決定し
、マッチした位置数を基準配列における位置の総数(すなわち、比較域のサイズ)で除し
、結果を100で乗じて配列同一性の百分率をもたらすことにより計算する。
【0240】
当業者は、遺伝子コードの縮重性の結果として、本明細書で記載されるMSFPをコー
ドする多くのヌクレオチド配列が存在することを察知するであろう。これらのポリヌクレ
オチドのうちの一部は、MSFP、例えば、CD3および/または腫瘍標的抗原に結合す
るMSFPをコードする天然のポリヌクレオチドまたは元のポリヌクレオチドのヌクレオ
チド配列と最小限の配列同一性を保有する。にもかかわらず、本開示では、コドン使用の
差違に起因して変化するポリヌクレオチドが明示的に想定される。特定の実施形態では、
哺乳動物における発現のためにコドンを最適化した配列が、とりわけ想定される。
【0241】
したがって、本発明の別の実施形態では、本明細書で記載されるMSFPの変異体およ
び/または誘導体を調製するために、部位特異的変異誘発などの変異誘発法を使用するこ
とができる。この手法では、それらをコードする基底的なポリヌクレオチドの変異誘発を
介して、ポリペプチド配列における特定の修飾を施すことができる。これらの技法は、配
列変異体を調製して調べる簡便な手法、例えば、1または複数のヌクレオチド配列の変化
をポリヌクレオチド内へと導入することにより、前出の検討事項のうちの1または複数を
組み込む手法を提供する。
【0242】
部位特異的変異誘発は、特異的なオリゴヌクレオチド配列であって、所望の変異を有す
るDNA配列をコードするほか、横断される欠失接合部の両側において安定的な二重鎖を
形成するのに十分なサイズおよび配列の複雑性を有するプライマー配列をもたらすのに十
分な数の隣接するヌクレオチドもコードするオリゴヌクレオチド配列の使用を介する変異
体の作製を可能とする。選択したポリヌクレオチド配列における変異を使用して、ポリヌ
クレオチドそれ自体の特性を改善するか、改変するか、低下させるか、修飾するか、もし
くは他の形で変化させることもでき、かつ/またはコードされるポリペプチドの特性、活
性、組成物、安定性、もしくは一次配列を改変することもできる。
【0243】
特定の実施形態では、本発明者らは、本明細書で開示されるMSFPまたはそのドメイ
ンをコードするポリヌクレオチド配列の変異誘発であって、結合ドメインもしくはそのF
abの抗原結合断片の結合アフィニティー、または特定のFc領域の機能、またはFc領
域の特定のFcγRに対するアフィニティーなど、コードされるポリペプチドの1または
複数の特性を改変する変異誘発を想定する。当技術分野では、部位特異的変異誘発法が周
知であり、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの両方の変異体を創出するのに広く用い
られている。例えば、部位特異的変異誘発は、DNA分子の特定の部分を改変するのに用
いられることが多い。このような実施形態では、典型的に約14~約25ヌクレオチドな
どの長さを含むプライマーを使用し、配列接合部の両側において約5~約10残基を改変
する。
【0244】
当業者により察知される通り、部位特異的変異誘発法では、一本鎖形態および二本鎖形
態の両方で存在するファージベクターを使用することが多い。部位指向的変異誘発におい
て有用な典型的ベクターには、M13ファージなどのベクターが含まれる。これらのファ
ージは、市販品の入手が容易であり、当業者にはそれらの使用が一般に周知である。二本
鎖プラスミドはまた、対象の遺伝子をプラスミドからファージへと導入するステップを消
滅させる部位指向的変異誘発でも日常的に使用されている。
【0245】
一般に、本明細書に従う部位指向的変異誘発は、まず所望のペプチドをコードするDN
A配列をその配列内に包含する、一本鎖ベクターを得るか、または二本鎖ベクターの2つ
の鎖を溶離させることにより実施する。所望の変異配列を保有するオリゴヌクレオチドプ
ライマーは、一般に合成により調製する。次いで、変異保有鎖の合成を完結させるために
、このプライマーを、一本鎖ベクターとアニールさせ、E.coliポリメラーゼIのK
lenow断片などのDNA重合化酵素下に置く。こうして、一方の鎖が元の非変異配列
をコードし、第2の鎖が所望の変異を保有するヘテロ二重鎖が形成される。次いで、この
ヘテロ二重鎖ベクターを用いて、E.coli細胞などの適切な細胞を形質転換し、変異
配列の配置を保有する組換えベクターを包含するクローンを選択する。
【0246】
部位指向的変異誘発を用いて選択されるペプチドをコードするDNAセグメントの配列
変異体を調製することにより、潜在的に有用な分子種を作製する手段がもたらされるが、
ペプチドの配列変異体およびそれらをコードするDNA配列を得うる他の方途も存在する
ので、これは、限定的であることを意味するわけではない。例えば、所望のペプチド配列
をコードする組換えベクターを、ヒドロキシルアミンなどの変異誘発剤で処理して、配列
変異体を得ることができる。これらの方法およびプロトコールに関する特定の詳細は、各
々がその目的で参照により本明細書に組み込まれる、Maloyら、1994年;Seg
al、1976年;ProkopおよびBajpai、1991年;Kuby、1994
年;ならびにManiatisら、1982年の教示において見出される。
【0247】
本明細書で用いられる「オリゴヌクレオチド指向的変異誘発手順」という用語は、増幅
など、特定の核酸分子の濃度のその初期濃度と比べた上昇、または検出可能なシグナル濃
度の上昇を結果としてもたらす、鋳型依存的工程およびベクターを介する増殖を指す。本
明細書で用いられる「オリゴヌクレオチド指向的変異誘発手順」という用語は、プライマ
ー分子の鋳型依存的な伸長を伴う工程を指すことを意図する。鋳型依存的工程という用語
は、RNA分子またはDNA分子の核酸合成であって、核酸の新たに合成される鎖の配列
が、相補的な塩基対合についての周知の規則(例えば、Watson、1987年を参照
されたい)により規定される核酸合成を指す。典型的に、ベクターを介する方法は、核酸
断片のDNAベクターまたはRNAベクターへの導入、ベクターのクローン増幅、および
増幅された核酸断片の回収を伴う。このような方法の例は、とりわけ、参照によりその全
体において本明細書に組み込まれる、米国特許第4,237,224号により提示されて
いる。
【0248】
ポリペプチド変異体を作製するための別の手法では、米国特許第5,837,458号
において記載される、再帰的配列組換えを用いることができる。この手法では、組換えお
よびスクリーニングまたは選択の反復的サイクルを実施して、例えば、結合アフィニティ
ーを増大させた個別のポリヌクレオチドの変異体を「進化」させる。また、特定の実施形
態では、本明細書で記載される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むプラスミド、ベ
クター、転写カセットまたは発現カセットの形態にある構築物も提供する。
【0249】
特定の実施形態では、単離ポリヌクレオチドをベクターへと挿入する。本明細書で用い
られる「ベクター」という用語は、その中にタンパク質をコードするポリヌクレオチドを
共有結合的に挿入して、タンパク質の発現および/またはポリヌクレオチドのクローニン
グを引き起こしうる媒体を指す。単離ポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の任意の適
切な方法を用いて、ベクターへと挿入することができる。限定せずに述べると、例えば、
ベクターを適切な制限酵素を用いて消化し、次いで、マッチする制限末端を有する単離ポ
リヌクレオチドとライゲーションすることができる。
【0250】
限定せずに述べると、適切なベクターの例には、プラスミド、ファージミド、コスミド
、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(
PAC)などの人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファ
ージ、および動物ウイルスが含まれる。限定せずに述べると、ベクターとして有用な動物
ウイルスの類型の例には、レトロウイルス(レンチウイルスを含めた)、アデノウイルス
、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックス
ウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、S
V40)が含まれる。
【0251】
ポリペプチドを発現させるためには、ベクターを、宿主細胞へと導入して、宿主細胞に
おけるポリペプチドの発現を可能とすることができる。限定せずに述べると、発現ベクタ
ーは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択マーカー、およびシグ
ナル配列を含め、発現を制御するための多様なエレメントを含有しうる。これらのエレメ
ントは、当業者が必要に応じて、選択することができる。例えば、プロモーター配列は、
ベクターによるポリヌクレオチドの転写を促進するように選択する。限定せずに述べると
、適切なプロモーター配列には、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモー
ター、ベータ-アクチンプロモーター、EF1aプロモーター、CMVプロモーター、お
よびSV40プロモーターが含まれる。エンハンサー配列は、ポリヌクレオチドの転写を
増強するように選択することができる。選択マーカーは、ベクターを挿入された宿主細胞
の、ベクターを挿入されていない宿主細胞からの選択を可能とするように選択することが
でき、例えば、選択マーカーとは、抗生剤耐性を付与する遺伝子でありうる。シグナル配
列は、発現させたポリペプチドが宿主細胞の外部へと輸送されることを可能とするように
選択することができる。
【0252】
ベクターはまた、その細胞への侵入の一助となる物質であって、ウイルス粒子、リポソ
ーム、またはタンパク質コーティングが含まれるがこれらに限定されない物質も包含しう
る。
【0253】
ポリヌクレオチドをクローニングするためには、ベクターを、宿主細胞(単離宿主細胞
)へと導入し、ベクター自体の複製を可能とし、これにより、その中に含有されたポリヌ
クレオチドのコピーを増幅することができる。クローニングベクターは、限定せずに述べ
ると一般に、複製起点、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、および選
択マーカーが含まれる配列構成要素を含有しうる。これらのエレメントは、必要に応じて
、当業者により選択されうる。例えば、複製起点は、宿主細胞におけるベクターの自律的
な複製を促進するように選択することができる。
【0254】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書で提示されるベクターを含有する単離宿主細
胞を提供する。ベクターを含有する宿主細胞は、ベクター内に含有されたポリヌクレオチ
ドの発現またはクローニングにおいて有用でありうる。
【0255】
限定せずに述べると、適切な宿主細胞には、原核細胞、真菌細胞、酵母細胞、または哺
乳動物細胞など、高等真核細胞が含まれうる。
【0256】
限定せずに述べると、この目的に適する原核細胞には、グラム陰性生物またはグラム陽
性生物、例えば、Escherichia属、例えば、E.coli、Enteroba
cter属、Erwinia属、Klebsiella属、Proteus属、Salm
onella属、例えば、Salmonella typhimurium、Serra
tia属、例えば、Serratia marcescans、およびShigella
属などのEnterobacteriaceae(Enterobactehaceae
)科のほか、B.subtilisおよびB.licheniformisなどのBac
illi属、P.aeruginosaなどのPseudomonas属、ならびにSt
reptomyces属などの真正細菌が含まれる。
【0257】
当技術分野では、E.coliなどの原核細胞における抗体および抗原結合断片の発現
が十分に確立されている。総説には、例えば、Pluckthun, A.、Bio/T
echnology、9巻:545~551頁(1991年)を参照されたい。当業者に
はまた、培養物中の真核細胞における発現も、抗体またはそれらの抗原結合断片を作製す
るための選択肢として利用可能であり、近年の総説、例えば、Ref, M. E.(1
993年)、Curr. Opinion Biotech.、4巻:573~576頁
;Trill, J. J.ら(1995年)、Curr. Opinion Biot
ech、6巻:553~560頁を参照されたい。
【0258】
限定せずに述べると、この目的に適する真菌細胞には、繊維状真菌および酵母が含まれ
る。真菌細胞の例示的な例には、Saccharomyces cerevisiae、
パン酵母、Schizosaccharomyces pombe、例えば、K.lac
tis、K.fragilis(ATCC 12,424)、K.bulgaricus
(ATCC 16,045)、K.wickeramii(ATCC 24,178)、
K.waltii(ATCC 56,500)、K.drosophilarum(AT
CC 36,906)、K.thermotolerans、およびK.marxian
usなどのKluyveromyces属の宿主;Yarrowia属(EP402,2
26);Pichia pastoris(EP183,070);Candida属;
Trichoderma reesia(EP244,234);Neurospora
crassa;Schwanniomyces occidentalisなどのSc
hwanniomyces属;ならびに、例えば、Neurospora属、Penic
illium属、Tolypocladium属、ならびにA.nidulansおよび
A.nigerなどのAspergillus属宿主などの繊維状真菌が含まれる。
【0259】
高等真核細胞、特に、多細胞生物に由来する高等真核細胞を、本明細書で提示されるグ
リコシル化されたポリペプチドの発現に用いることができる。限定せずに述べると、適切
な高等真核細胞には、無脊椎動物細胞および昆虫細胞、ならびに脊椎動物細胞が含まれる
。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウイル
ス株および変異体、ならびにSpodoptera frugiperda(毛虫)、A
edes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Dros
ophila melanogaster(ショウジョウバエ)、およびBombyx
moriなどの宿主に由来する対応する許容状態の昆虫宿主細胞が同定されている。トラ
ンスフェクション用の多様なウイルス株、例えば、Autographa califo
rnica NPVのK-1変異体およびBombyx mori NPVのBm-5株
が市販されており、このようなウイルスを、本発明に従う、特に、Spodoptera
frugiperda細胞をトランスフェクトするための本明細書のウイルスとして用
いることができる。また、綿花、トウモロコシ、バレイショ、ダイズ、ペチュニア、トマ
ト、およびタバコによる植物細胞培養物も、宿主として使用することができる。脊椎動物
細胞の例には、SV40(COS-7;ATCC CRL 1651)により形質転換さ
れるサル腎臓CV1系列;ヒト胎児由来腎臓系列(細胞懸濁培養物中で増殖させるために
サブクローニングした293または293細胞;Grahamら、J. Gen Vir
ol.、36巻:59頁(1977年));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK;ATC
C CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO;Urla
ubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77巻:4216頁
(1980年));マウスセルトリ細胞(TM4;Mather、Biol. Repr
od.、23巻:243~251頁(1980年));サル腎臓細胞(CV1;ATCC
CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76;ATCC CRK-
1587);ヒト子宮頸がん細胞(HELA;ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(
MDCK;ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A;A
TCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138;ATCC CCL 75);ヒト
肝臓細胞(Hep G2;HB 8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT 06056
2;ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.
Acad. Sci.、383巻:44~68頁(1982年));MRC 5細胞;F
S4細胞;およびヒト肝臓がん系列(Hep G2)などの哺乳動物宿主細胞系が含まれ
る。
【0260】
ベクターは、限定せずに述べると、DEAE-デキストランを媒介する送達、リン酸カ
ルシウム沈殿法、カチオン脂質を媒介する送達、リポソームを媒介するトランスフェクシ
ョン、電気穿孔、微粒子銃、受容体を媒介する遺伝子送達、ポリリシン、ヒストン、キト
サン、およびペプチドを媒介する送達が含まれる、当技術分野で公知の任意の適切な方法
を用いて宿主細胞へと導入することができる。当技術分野では、対象のベクターを発現さ
せるために細胞をトランスフェクションおよび形質転換するための標準的な方法が周知で
ある。
【0261】
特定の実施形態では、宿主細胞が、第1のポリペプチドをコードする第1のベクターと
、第2のポリペプチドをコードする第2のベクターとを含む。特定の実施形態では、第1
のベクターと第2のベクターとが、同じ場合もあり、同じでない場合もある。特定の実施
形態では、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとが、同じ場合もあり、同じでない
場合もある。
【0262】
特定の実施形態では、第1のベクターと第2のベクターとを、同時に導入する場合もあ
り、同時には導入しない場合もある。特定の実施形態では、第1のベクターと第2のベク
ターとを、宿主細胞へと併せて導入することができる。特定の実施形態では、第1のベク
ターを第1の宿主細胞へと導入することができ、次いで、第2のベクターも導入すること
ができる。特定の実施形態では、第1のベクターを宿主細胞へと導入し、次いで、これを
、第1のポリペプチドを発現させる安定的な細胞系へと確立し、次いで、第2のベクター
をこの安定的な細胞系へと導入することができる。
【0263】
特定の実施形態では、宿主細胞が、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコ
ードするベクターを含む。特定の実施形態では、第1のポリペプチドと第2のポリペプチ
ドとが、同じ場合もあり、同じでない場合もある。
【0264】
特定の実施形態では、本開示が、本明細書で提示されるポリペプチドを発現させる方法
であって、ベクターを含有する宿主細胞を、ベクター内に挿入したポリヌクレオチドを発
現させる条件下で培養するステップを含む方法を提供する。
【0265】
限定せずに述べると、ポリヌクレオチドを発現させるのに適する条件には、適切な培地
、培養培地中に適切な宿主細胞の密度、必要な栄養物質の存在、補因子の存在、適切な温
度および湿度、ならびに微生物夾雑物の非存在が含まれうる。当業者は、必要に応じて、
発現の目的に適する条件を選択することができる。
【0266】
特定の実施形態では、宿主細胞内で発現させたポリペプチドが、二量体を形成する可能
性があり、したがって、本明細書で提示されるMSFP二量体またはポリペプチド複合体
をもたらしうる。特定の実施形態では、宿主細胞内で発現させたポリペプチドが、ホモ二
量体のポリペプチド複合体を形成しうる。宿主細胞が、第1のポリヌクレオチドおよび第
2のポリヌクレオチドを発現させる特定の実施形態では、第1のポリヌクレオチドと第2
のポリヌクレオチドとが、ヘテロ二量体のポリペプチド複合体を形成しうる。
【0267】
特定の実施形態では、ポリペプチド複合体が、宿主細胞内部で形成されうる。例えば、
二量体は、関与性の酵素および/または共因子を一助として、宿主細胞内部で形成されう
る。特定の実施形態では、ポリペプチド複合体が、細胞外へと分泌されうる。特定の実施
形態では、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとが、宿主細胞外へと分泌され、宿
主細胞の外部で二量体を形成しうる。
【0268】
特定の実施形態では、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを、適切な条件下で
別個に発現させ、二量体化させることができる。例えば、第1のポリペプチドと第2のポ
リペプチドとを適切な緩衝液中で組み合わせ、第1のタンパク質単量体と第2のタンパク
質単量体とを、疎水性相互作用などの適切な相互作用を介して二量体化させることができ
る。別の例では、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを、酵素および/または共
因子を含有する適切な緩衝液中で組み合わせ、これにより、第1のポリペプチドと第2の
ポリペプチドとの二量体化を促進することができる。別の例では、第1のポリペプチドと
第2のポリペプチドとを、適切な媒体内で組み合わせ、それらを、適切な試薬および/ま
たは触媒の存在下で互いと反応させることができる。
【0269】
発現させたポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体は、任意の適切な方法を用
いて回収することができる。ポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体は、細胞内
、ペリプラズム空間内で発現させることもでき、細胞の外部の培地へと分泌させることも
できる。ポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体を細胞内で発現させる場合は、
ポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体を含有する宿主細胞を溶解させることが
でき、遠心分離または限外濾過を介して望まれない破砕物を除去することにより、ポリペ
プチドおよび/またはポリペプチド複合体をこの溶解物から単離することができる。ポリ
ペプチドおよび/またはポリペプチド複合体を、E.coliのペリプラズム空間へと分
泌させる場合は、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフェニルメチルスル
ホニルフロリド(PMSF)などの薬剤の存在下で約30分間にわたり細胞ペーストを融
解させ、遠心分離により細胞破砕物を除去することができる(Carterら、BioT
echnology、10巻:163~167頁(1992年))。ポリペプチドおよび
/またはポリペプチド複合体を培地へと分泌させる場合は、細胞培養物の上清を回収し、
市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、Amincon限外濾過ユニットまたはMi
llipore Pellicon限外濾過ユニットを用いて濃縮することができる。プ
ロテアーゼ阻害剤および/または抗生剤を回収ステップおよび濃縮ステップへと組み入れ
て、タンパク質の分解および/または夾雑微生物の成長を阻害することができる。
【0270】
発現させたポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体は、限定せずに述べると、
アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、サイ
ズ除外クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上におけるイオン交
換による画分化、エタノールによる沈殿、逆相HPLC、シリカ上におけるクロマトグラ
フィー、ヘパリンセファロース上におけるクロマトグラフィー、アニオン交換樹脂または
カチオン交換樹脂上におけるクロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラムなど)、等
電点電気泳動、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿(総説については、Bo
nner, P. L.、「Protein purification」、Taylo
r & Francis刊、2007年;Janson, J. C.ら、「Prote
in purification: principles, high resolu
tion methods and applications」、Wiley-VCH
刊、1998年を参照されたい)など、適切な方法によりさらに精製することができる。
【0271】
特定の実施形態では、ポリペプチドおよび/またはポリペプチド二量体の複合体を、ア
フィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。特定の実施形態では、プ
ロテインAクロマトグラフィーまたはプロテインA/G(プロテインAとプロテインGと
の融合タンパク質)クロマトグラフィーが、抗体のCH2ドメインおよび/またはCH3
ドメインに由来する構成要素を含むポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体の精
製に有用でありうる(Lindmarkら、J. Immunol. Meth.、62
巻:1~13頁(1983年));Zettlit, K. A.、「Antibody
Engineering」、V部、531~535頁、2010年)。特定の実施形態
では、プロテインGクロマトグラフィーが、IgGγ3重鎖を含むポリペプチドおよび/
またはポリペプチド複合体の精製に有用でありうる(Gussら、EMBO J.、5巻
:1567~1575頁(1986年))。特定の実施形態では、プロテインLクロマト
グラフィーが、κ軽鎖を含むポリペプチドおよび/またはポリペプチド複合体の精製に有
用でありうる(Sudhir, P.、「Antigen engineering p
rotocols」、26章、Humana Press刊、1995年;Nilson
, B. H. K.ら、J. Biol. Chem.、267巻、2234~223
9頁(1992年))。アフィニティーリガンドを接合させるマトリックスは、アガロー
スのことが極めて多いが、他のマトリックスも利用可能である。小孔が制御されたガラス
またはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなど、力学的に安定的なマトリックスは、アガ
ロースにより達成可能な流速および処理時間より早い流速および短い処理時間を可能とす
る。抗体がCH3ドメインを含む場合は、Bakerbond ABX樹脂(J.T.B
aker、Phillipsburg、N.J.)が精製に有用である。
【0272】
任意の予備的な(1または複数の)精製ステップの後は、対象の抗体および夾雑物を含
む混合物を、pHが約2.5~4.5の間の溶出緩衝液を用いて、好ましくは低塩濃度(
例えば、約0~0.25Mの塩)で実施される、低pHの疎水性相互作用クロマトグラフ
ィーにかけることができる。
【0273】
医薬組成物および使用法
本開示は、本明細書で記載されるMSFPを含む組成物、および多様な治療状況におけ
るこのような組成物の投与を提供する。
【0274】
純粋形態または適切な医薬組成物による、本明細書で記載されるMSFPの投与は、類
似の有用性をもたらすのに許容される薬剤の投与方式のうちのいずれかを介して実行する
ことができる。医薬組成物は、MSFPまたはMSFPを含有する組成物を、生理学的に
許容される適切な担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせることにより調製することが
でき、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐剤、注射、吸入剤、ゲル、マイクロ
スフェア、およびエアゾールなど、固体形態、半固体形態、液体形態、または気体形態の
調製物へと調合することができる。加えて、他の医薬としての有効成分(本明細書の別の
個所で記載される他の抗がん剤を含めた)、ならびに/または塩、緩衝剤、および安定化
剤などの適切な賦形剤を組成物内に存在させることもできるが、必ずしもそうする必要は
ない。投与は、経口経路、非経口経路、鼻腔内経路、静脈内経路、皮内経路、皮下経路、
または局所経路を含め、異なる多様な経路を介して達成することができる。好ましい投与
方式は、処置または防止される状態の性質に依存する。投与後、がんを軽減するか、がん
を阻害するか、がんの進行および/または転移を防止するかまたは遅延させる量を有効で
あると考える。
【0275】
特定の実施形態では、投与される量が、生存可能な腫瘍の量の統計学的に有意な減少、
例えば、腫瘍塊の少なくとも50%の減少または走査寸法の改変(例えば、統計学的に有
意な減少)により示される腫瘍の退縮を結果としてもたらすのに十分である。他の実施形
態では、投与される量が、医療技術の当業者に公知の、臨床的に重要な疾患症状の軽減を
結果としてもたらすのに十分である。
【0276】
処置の正確な用量および持続期間は、処置される疾患の関数であり、公知の試験プロト
コールを用いて経験的に決定することもでき、当技術分野で公知のモデル系において組成
物を調べ、そこから外挿することにより決定することもできる。また、比較臨床試験も実
施することができる。用量はまた、緩和させる状態の重症度と共に変化する可能性もある
。医薬組成物は一般に、望ましくない副作用を最小化しながら、治療的に有用な効果を果
たすように調合および投与する。組成物は、一度に投与することもでき、時間間隔を置い
て投与される多数回の小用量へと分割することもできる。任意の特定の被験体には、特定
の用量レジメンを、個別の必要に従い、経時的に調整することができる。
【0277】
MSFPを含有する組成物は、単独で投与することもでき、放射線療法、化学療法、移
植、免疫療法、ホルモン療法、光力学療法などなど、他の公知のがん処置と組み合わせて
投与することもできる。組成物はまた、抗生剤と組み合わせても投与することができる。
【0278】
したがって、限定せずに述べると、これらの医薬組成物および類縁の医薬組成物を投与
する典型的な経路には、経口経路、局所経路、経皮経路、吸入経路、非経口経路、舌下経
路、口腔内経路、直腸内経路、膣内経路、および鼻腔内経路が含まれる。本明細書で用い
られる非経口経路という用語には、皮下注射、静脈内注射法または静脈内注入法、筋肉内
注射法または筋肉内注入法、胸骨内注射法または胸骨内注入法が含まれる。本発明の特定
の実施形態に従う医薬組成物は、組成物を患者へと投与したときに、その中に含有される
有効成分がバイオアベイラビリティーを示すことを可能とするように調合する。被験体ま
たは患者に投与される組成物は、1または複数の用量単位であって、例えば、錠剤が単一
の用量単位の場合もあり、エアゾール形態における、本明細書で記載されるMSFPの容
器が複数の用量単位を保持する場合もある用量単位の形態をとりうる。このような剤形を
調製する実際の方法は公知であるか、または当業者に明らかであろう。例えば、Remi
ngton、「The Science and Practice of Pharm
acy」、20版(Philadelphia College of Pharmac
y and Science、2000年)を参照されたい。いずれにせよ、投与される
組成物は、本明細書の教示に従う被験体の疾患または状態を処置するための、治療有効量
の本開示のMSFPを含有する。
【0279】
医薬組成物は、固体形態の場合もあり、液体形態の場合もある。一実施形態では、組成
物が、例えば、錠剤形態または粉末形態であるように、(1または複数の)担体が微粒子
である。組成物が、例えば、吸入投与において有用な、例えば、経口油、注射用液、また
はエアゾールである場合、(1または複数の)担体は液体でありうる。経口投与用に意図
される場合、医薬組成物は、固体形態または液体形態であって、半固体形態、半液体形態
、懸濁液形態、およびゲル形態も本明細書で固体または液体と考えられる形態の中に包含
される場合の固体形態または液体形態であることが好ましい。
【0280】
経口投与用の固体組成物として、医薬組成物を、粉末、顆粒、圧縮錠、丸薬、カプセル
、チューインガム、ウェハーなどへと調合することができる。このような固体組成物は典
型的に、1または複数の不活性の希釈剤または可食性の担体を含有する。加えて、以下の
うちの1または複数を存在させることができる:カルボキシメチルセルロース、エチルセ
ルロース、結晶セルロース、トラガカントガム、またはゼラチンなどの結合剤;デンプン
、ラクトース、またはデキストリンなどの賦形剤;アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、
Primogel、トウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまた
はSterotexなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロー
スまたはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香
味剤などの香味剤;および着色剤。医薬組成物が、カプセル形態、例えば、ゼラチンカプ
セルの形態にある場合、それは、上記の種類の物質に加えて、ポリエチレングリコールま
たは油など、液体の担体も含有しうる。
【0281】
医薬組成物は、液体、例えば、エリキシル剤、シロップ、溶液、エマルジョン、または
懸濁液の形態でありうる。2つの例として述べると、液体は、経口投与用の場合もあり、
注射による送達用の場合もある。経口投与用が意図される場合、好ましい組成物は、本化
合物に加えて、甘味剤、防腐剤、色素/着色剤、および芳香増強剤のうちの1または複数
も含有する。注射により投与することが意図される組成物では、界面活性剤、防腐剤、保
湿剤、分散剤、懸濁剤、緩衝液、安定化剤、および等張剤のうちの1または複数を組み入
れることができる。
【0282】
液体の医薬組成物は、それらが溶液であれ、懸濁液であれ、他の同様の形態であれ、以
下の補助剤のうちの1または複数を包含しうる:注射用水、食塩液、好ましくは生理食塩
液、リンゲル溶液、等張性塩化ナトリウムなどの滅菌希釈剤、溶媒もしくは懸濁媒として
用いうる合成モノグリセリドもしくは合成ジグリセリドなどの固定油、ポリエチレングリ
コール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒;ベンジルアルコールまた
はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸
化剤;エチレンジアミンテトラ酢酸などのキレート化剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸
などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調整するための
薬剤。非経口調製物は、アンプル、ディスポーザブルのシリンジ、またはガラス製もしく
はプラスティック製の複数回投与用のバイアル内に封入することができる。生理食塩液は
、好ましい補助剤である。注射用医薬組成物は、滅菌であることが好ましい。
【0283】
非経口投与用または経口投与用を意図される液体の医薬組成物は、適切な用量が得られ
るような量の、本明細書で開示されるMSFPを含有するものとする。この量は、組成物
中に少なくとも0.01%のMSFPであることが典型的である。経口投与用が意図され
る場合、この量は、組成物重量の0.1~約70%で変化させることができる。特定の経
口医薬組成物は、約4%~約75%の間のMSFPを含有する。特定の実施形態では、非
経口投与単位が、希釈前の重量で0.01~10%の間のMSFPを含有するように、本
発明に従う医薬組成物および医薬調製物を調製する。
【0284】
医薬組成物は、局所投与用を意図することができ、この場合、担体は、溶液基剤、エマ
ルジョン基剤、軟膏基剤、またはゲル基剤を含むことが適切でありうる。基剤は、例えば
、以下のうちの1または複数を含みうる:ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール
、蜜蝋、鉱物油、水およびアルコールなどの希釈剤、ならびに乳化剤および安定化剤。局
所投与用の医薬組成物中には、増粘剤を存在させることができる。経皮投与用を意図する
場合、組成物には、経皮パッチまたはイオントフォレーシス用デバイスが含まれうる。医
薬組成物には、例えば、直腸内で溶融して薬物を放出する坐剤の形態における直腸内投与
を意図することができる。直腸内投与用の組成物は、適切な非刺激性賦形剤としての油性
基剤を含有しうる。限定せずに述べると、このような基剤には、ラノリン、ココアバター
、およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0285】
医薬組成物には、固体の投与単位または液体の投与単位の物理的形態を修飾する多様な
物質を組み入れることができる。例えば、組成物には、有効成分の周囲にコーティングシ
ェルを形成する物質を組み入れることができる。コーティングシェルを形成する物質は、
典型的に不活性であり、例えば、糖、セラック、および他の腸溶性のコーティング剤から
選択することができる。代替的に、有効成分をゼラチンカプセル内に包み込むこともでき
る。固体形態または液体形態の医薬組成物には、本発明の抗体に結合し、これにより化合
物の送達の一助となる薬剤を組み入れることができる。この能力において作用しうる適切
な薬剤には、他のモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体、1もしくは複数のタ
ンパク質、またはリポソームが含まれる。医薬組成物は、エアゾールとして投与しうる投
与単位から本質的になる場合がある。エアゾールという用語は、コロイド性の系~加圧型
パッケージからなる系の範囲にわたる多様な系を示すのに用いられる。送達は、液化ガス
または圧縮ガスによる場合もあり、有効成分を分注する適切なポンプシステムによる場合
もある。エアゾールは、(1または複数の)有効成分を送達するために、単相系で送達す
ることもでき、二相系で送達することもでき、三相系で送達することもできる。エアゾー
ルの送達には、併せてキットを形成しうる、必要な容器、アクチベーター、バルブ、部分
容器などを組み入れることができる。当業者は、不要な実験を伴わずに、好ましいエアゾ
ールを決定することができる。
【0286】
医薬組成物は、製薬技術分野で周知の方法により調製することができる。例えば、注射
により投与することを意図される医薬組成物は、本明細書で記載されるMSFPと、場合
によって、塩、緩衝剤、および/または安定化剤のうちの1または複数とを含む組成物を
、溶液を形成するように滅菌蒸留水と組み合わせることにより調製することができる。界
面活性剤を添加して、均一な溶液または懸濁液の形成を容易にすることができる。界面活
性剤とは、水性送達系におけるMSFPの溶解または均一な懸濁を容易にするように、M
SFP組成物と非共有結合的に相互作用する化合物である。
【0287】
組成物は、使用される特定の化合物(例えば、MSFP)の活性;化合物作用の代謝安
定性および長さ;患者の年齢、体重、全般的な健康、性別、および食餌;投与方式および
投与期間;排泄速度;薬物の組合せ;特定の障害または状態の重症度;ならびに被験体が
治療を受けているかどうかを含めた多様な因子に依存して変化する治療有効量で投与する
ことができる。一般に、1日当たりの治療有効用量は、約0.001mg/kg(すなわ
ち、0.07mg)~約100mg/kg(すなわち、7.0g)(70kgの哺乳動物
の場合)であり、治療有効用量は、約0.01mg/kg(すなわち、0.7mg)~約
50mg/kg(すなわち、3.5g)(70kgの哺乳動物の場合)であることが好ま
しく、治療有効用量は、約1mg/kg(すなわち、70mg)~約25mg/kg(す
なわち、1.75g)(70kgの哺乳動物の場合)であることがより好ましい。
【0288】
本開示のMSFPを含む組成物はまた、1または複数の他の治療剤の投与と同時に投与
することもでき、この前に投与することもでき、この後で投与することもできる。このよ
うな組合せ療法は、本発明の化合物および1または複数のさらなる活性薬剤を含有する単
一の医薬処方物の投与のほか、本発明のMSFPおよびその固有の別個の医薬処方物にお
ける各活性薬剤を含む組成物の投与も包含しうる。例えば、本明細書で記載されるMSF
Pおよび他の活性薬剤は、錠剤またはカプセルなど、単一の経口投与組成物中で併せて患
者に投与することもでき、各薬剤を別個の経口投与組成物により投与することもできる。
同様に、本明細書で記載されるMSFPおよび他の活性薬剤は、生理食塩液または他の生
理学的に許容される溶液など、単一の非経口投与組成物中で併せて患者に投与することも
でき、各薬剤を別個の非経口投与処方物により投与することもできる。別個の投与処方物
を用いる場合、MSFPおよび1または複数のさらなる活性薬剤を含む組成物は、本質的
に同時に、すなわち、共時的に投与することもでき、別個に時間をずらして、すなわち、
逐次的、かつ、任意の順序で投与することもでき、組合せ療法は、これら全てのレジメン
を包含することが理解される。
【0289】
したがって、特定の実施形態ではまた、1または複数の他の治療剤と組み合わせた本開
示のMSFP組成物の投与も想定される。当技術分野では、このような治療剤を、がん、
炎症性障害、同種移植片移植、I型糖尿病、および多発性硬化症など、本明細書で記載さ
れる特定の疾患状態のための標準的な処置として許容することができる。想定される例示
的な治療剤には、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎
症剤、化学療法剤、放射性治療剤、または他の活性薬剤および補助薬剤が含まれる。
【0290】
特定の実施形態では、本明細書で開示されるMSFPを、任意の数の化学療法剤と共に
投与することができる。化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロホスファミド(CY
TOXAN(商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、および
ピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、
およびウレドーパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチ
レンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethi
ophosphaoramide)、およびトリメチロールメラミン(trimethy
lolomelamine)を含めたエチレンイミンおよびメチルメラミン(methy
lamelamines);クロランブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド(
cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタ
ミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、
プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどの窒素マスタード;カル
ムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなど
のニトロソウレア(nitrosureas);アクラシノマイシン、アクチノマイシン
、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチ
ノマイシン、カリケマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロ
モマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキ
ソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、
マルセロマイシン、マイトマイシン、マイコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイ
シン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドル
ビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノス
タチン、ゾルビシンなどの抗生剤;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-
FU)などの代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメト
レキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チ
オグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カル
モフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロク
スウリジン、5-FUなどのピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタ
ノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;ア
ミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤;フォリン酸(frolin
ic acid)などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;ア
ミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デ
フォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフロルニチン(elformithi
ne);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチ
ナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペ
ントスタチン;フェンメトラジン(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸
(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;
PSK.RTM.;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;ト
リアジクオン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン
;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;
ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソ
イド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers
Squibb Oncology、Princeton、N.J.)およびドセタキセ
ル(TAXOTERE(登録商標)、Rhne-Poulenc Rorer、Anto
ny、France);クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプト
プリン;メトトレキサート;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金類似体;ビン
ブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミ
トキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシ
ド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11;ト
ポイソメラーゼ阻害剤であるRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO
);Targretin(商標)(ベキサロテン)、Panretin(商標)(アリト
レチノイン)などのレチノイン酸誘導体;ONTAK(商標)(デニロイキンジフチトク
ス);エスペラミシン;カペシタビン;ならびに上記のうちのいずれかの薬学的に許容さ
れる塩、酸、または誘導体が含まれる。この定義にはまた、例えば、タモキシフェン、ラ
ロキシフェン、アロマターゼ阻害剤、4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシ
フェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY 117018、オナプリストン、お
よびトレミフェン(Fareston)を含めた抗エストロゲン剤;ならびにフルタミド
、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリンなどの抗アンドロゲン剤
;ならびに上記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体など、腫瘍
に対するホルモンの作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤も含まれる。
【0291】
他の多様な治療剤を、本明細書で記載されるMSFPと共に用いることができる。一実
施形態では、MSFPを、抗炎症剤と共に投与する。抗炎症剤または抗炎症薬物には、ス
テロイドおよびグルココルチコイド(ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、ヒド
ロコルチゾン酢酸エステル、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロ
ン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンを含めた)、アスピリン、イブプ
ロフェン、ナプロキセンを含めた非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAID)、メトトレ
キサート、スルファサラジン、レフルノミド、抗TNF薬、シクロホスファミド、および
マイコフェノール酸が含まれるがこれらに限定されない。
【0292】
本明細書で記載されるMSFPを含む組成物は、がんおよび自己免疫性疾患および炎症
性疾患が含まれるがこれらに限定されない、本明細書で記載される疾患に罹患する個体に
投与することができる。ヒト疾患を処置するためにin vivoで用いる場合は一般に
、本明細書で記載されるMSFPを、投与前に医薬組成物へと組み込む。医薬組成物は、
本明細書の別の個所で記載される通り、生理学的に許容される担体または賦形剤と組み合
わせた、本明細書で記載されるMSFPのうちの1または複数を含む。医薬組成物を調製
するには、有効量のMSFPのうちの1または複数を、特定の投与方式に適することが当
業者に公知である任意の医薬としての(1または複数の)担体または賦形剤と混合する。
医薬としての担体は、液体の場合もあり、半液体の場合もあり、固体の場合もある。非経
口適用、皮内適用、皮下適用、または局所適用に用いられる溶液または懸濁液には、例え
ば、滅菌希釈剤(水など)、生理食塩液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン
、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;抗微生物剤(ベンジルアルコールおよび
メチルパラベン、フェノールおよびクレゾール、水銀剤、クロロブタノール、メチルp-
ヒドロキシ安息香酸エステルおよびプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサ
ール、塩化ベンザルコニウム、ならびにベンゼトニウム塩化物など);抗酸化剤(アスコ
ルビン酸および亜硫酸水素ナトリウム;メチオニン、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラ
ーゼ、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール
、ブチル化ヒドロキシアニソール(butylated hydroxanisol)、
ブチル化ヒドロキシトルエン、および/または没食子酸プロピルなど);およびキレート
化剤(エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)など);緩衝剤(酢酸、クエン酸、およ
びリン酸など)が含まれうる。静脈内投与する場合、適切な担体には、生理学的生理食塩
液またはリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、ならびにグルコース、ポリエチレングリコー
ル、ポリプロピレングリコール、およびこれらの混合物などの増粘剤および可溶化剤を含
有する溶液が含まれる。
【0293】
本明細書で記載されるMSFPを含む組成物は、徐放型処方物または徐放型コーティン
グなど、MSFPを体内からの急速な消失に対して保護する担体と共に調製することがで
きる。このような担体には、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系、ならびにエ
チレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、お
よび当業者に公知である他の生体分解性ポリマー、生体適合性ポリマーなどの生体分解性
ポリマー、生体適合性ポリマーなどであるがこれらに限定されない制御放出型処方物が含
まれる。
【0294】
本MSFPは、多様ながんを処置するのに有用である。例えば、本発明の一実施形態は
、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、白血病、形質細胞腫、肉腫、神経膠芽腫、
胸腺腫、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、腎臓がん、腎細胞がん、子宮がん、膵臓が
ん、食道がん、脳腫瘍、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、精巣がん、胃がん、食道がん、
多発性骨髄腫、肝臓がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AM
L)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CLL)、または他の
がんが含まれるがこれらに限定されないがんを、治療有効量の、本明細書で開示されるM
SFPをがん患者へと投与することにより処置するための方法を提供する。投与後に、が
んの進行および/または転移を、統計学的に有意な様式で(すなわち、当業者に公知の適
切な対照と比べて)阻害するか、防止するか、またはこれを遅延させる量を有効と考える
【0295】
別の実施形態は、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、白血病、形質細胞腫、肉
腫、神経膠芽腫、胸腺腫、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、腎臓がん、腎細胞がん、
子宮がん、膵臓がん、食道がん、脳腫瘍、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、精巣がん、胃
がん、食道がん、多発性骨髄腫、肝臓がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨
髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CL
L)、または他のがんが含まれるがこれらに限定されないがんの転移を、治療有効量(例
えば、投与後に、がんの転移を、統計学的に有意な様式で、すなわち、当業者に公知の適
切な対照と比べて、阻害するか、防止するか、またはこれを遅延させる量)の、本明細書
で開示されるMSFPをがん患者へと投与することにより防止するための方法をもたらす
【0296】
別の実施形態は、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、白血病、形質細胞腫、肉
腫、神経膠芽腫、胸腺腫、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、腎臓がん、腎細胞がん、
子宮がん、膵臓がん、食道がん、脳腫瘍、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、精巣がん、胃
がん、食道がん、多発性骨髄腫、肝臓がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨
髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CL
L)、または他のがんが含まれるがこれらに限定されないがんを、治療有効量の、本明細
書で開示されるMSFPをがん患者へと投与することにより防止するための方法をもたら
す。
【0297】
別の実施形態は、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、白血病、形質細胞腫、肉
腫、神経膠芽腫、胸腺腫、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、腎臓がん、腎細胞がん、
子宮がん、膵臓がん、食道がん、脳腫瘍、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、精巣がん、胃
がん、食道がん、多発性骨髄腫、肝臓がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨
髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CL
L)、または他のがんを、これらの疾患のうちの1または複数に罹患する患者に、治療有
効量の、本明細書で開示されるMSFPを投与することにより、処置するか、その進行を
阻害するか、またはこれを防止するための方法をもたらす。
【0298】
一態様では、本開示は、T細胞の活性化を方向付けるための方法であって、それを必要
とする患者に、とりわけ、TCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3εまたはこ
れらの組合せに結合するFabと、とりわけ、T細胞の活性化が所望される部位または細
胞において、異なる標的、例えば、腫瘍特異的抗原または他の選り抜きの抗原に結合する
結合ドメインとを含む融合部分を含む有効量のMSFPを投与するステップを含む方法を
提供する。
【実施例
【0299】
(実施例1)
ヒト化抗CD3抗体の生成
1)ハイブリドーマ細胞から全RNAを単離するステップ、2)ハイブリドーマの全R
NAを逆転写(RT)させるステップ、および3)特異的抗体遺伝子プライマーを用いて
、HCおよびLCをPCR増幅するステップにより、確立された抗CD3ハイブリドーマ
から、重鎖および軽鎖の抗体遺伝子をクローニングした。RT PCRは、37℃で2時
間にわたり、M-muLV逆転写酵素(New England Biolabs)をo
ligo-dT16プライマーと共に用いて実施した。抗体の重鎖遺伝子および軽鎖遺伝
子を、HC5’:GAG ACA GAATTC GCCACC ATG GTG TT
G GGG CTG AAG TG(配列番号103)、HC3’:GAG ACA G
CGGCCGC CTA TTT ACC AGG GGA GCG AGA C(配列
番号104)、およびLC5’:GAG ACA GAATTC GCCACC ATG
GCC TGG ATT TCA CTT ATA C(配列番号105)、LC3’
:GAG ACA GCGGCCGC TCA GGA ACA GTC AGC AC
G GGA C(配列番号106)のプライマー対を用いてoligo-dT16でプラ
イミングした最初のcDNA鎖からPCR増幅した。5’プライマーは、抗体分泌シグナ
ルへとアニールするようにデザインし、3’プライマーは、マウス抗体定常領域の3’末
端へとアニールするようにデザインした。PCR産物を洗浄し、EcoRIおよびNot
Iで制限消化し、その後、293F一過性哺乳動物系においてDNA配列を決定し、組換
えIgGを発現させるためのpcDNA3.3ベクターへとクローニングした。クローニ
ングされた抗CD3抗体を、1F3と称する。配列番号23~25では、1F3 VHの
CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列が提供される。配列番号26~28
では、1F3 VLのCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列が提供される
【0300】
1F3マウス抗体のヒト化には、従来のCDR移植法を用いた。特に、マウス1F3の
アミノ酸配列を、ヒト生殖細胞系列配列(VBASE2;www.vbase2.org
)に照らして整列させた。マウス1F3VHは、ヒト生殖細胞系列セグメントのサブクラ
ス3(VH3)と最も良好にマッチした。2つの代表的な生殖細胞系列セグメント、すな
わち、VH3-23およびVH3-73を、マウス1F3 CDRが移植されるアクセプ
ターとして選択した。VH3-23は、ヒト抗体において最も高頻度で見出されるVドメ
インであることが公知であり、比較的高い安定性を有する。VH3-73は、最も類似す
るHCDR2配列を有することから、類似するHCDR2構造およびHCDR2立体配座
が示唆される。VLでは、最も良好にマッチしたヒト生殖細胞系列であるVLλ7aを、
マウス1F3の軽鎖CDRのためのアクセプターとして選択した。初期のヒト化構築物の
遺伝子は、Gblock法(Integrated DNA Technologies
)により合成した。初期のヒト化構築物におけるさらなるアミノ酸変異は、オリゴヌクレ
オチドベースの部位指向変異誘発(Strategene)を用いて発生させた。
【0301】
以下の表1は、発生させた多様な重鎖可変領域および軽鎖可変領域のヌクレオチド配列
およびアミノ酸配列についてまとめる。
【0302】
【表1】

多様なヒト化抗体/Fabは、以下の表2にまとめられる異なるヒト化1F3のVLと
VHとの対を用いて発生させた。
【0303】
【表2】

(実施例2)
腫瘍抗原EpCAMタンパク質の生成
ヒトEpCAM(上皮細胞接着分子)およびカニクイザルEpCAMの細胞外ドメイン
に対応する遺伝子を、ヒトおよびサルのcDNAライブラリーから、制限部位を伴うプラ
イマー(配列番号107:N末端プライマー:GCGTAT CCATGG ATG G
CG CCC CCG CAG GTC、配列番号108:C末端プライマー:GCGT
AT GCGGCCGC TTT TAG ACC CTG CAT TGA G)をP
husionポリメラーゼ(New England Biolabs)と共に用いてP
CR増幅した(98℃、1分間;98℃で15秒間、50℃で20秒間、および72℃で
20秒間を30サイクル;72℃で5分間)。洗浄されたPCR産物(Fermenta
s life sciences)を制限消化(NcoIおよびNotI)し、pcDN
A3.3ベクター内のヒトFc遺伝子のN末端へとクローニングした。配列番号1および
5では、ヒトEpCAMの細胞外ドメイン(ECD)および全長ポリヌクレオチド配列が
提示され、配列番号2および6では、コードされるアミノ酸配列が提示される。配列番号
3および7では、カニクイザルEpCAM ECDおよび全長ポリヌクレオチド配列が提
示され、配列番号4および8では、コードされるアミノ酸配列が提示される。また、ヒト
CD3イプシロンECD.FcおよびカニクイザルCD3イプシロンECD.Fcノブ変
異体配列も生成させ、それぞれ、配列番号9および11(ポリヌクレオチド)、ならびに
それぞれ、配列番号10および12(アミノ酸)に提示する。ヒトCD3イプシロンEC
D.FcおよびカニクイザルCD3イプシロンECD.Fcのホール変異体配列も生成さ
せ、それぞれ、配列番号13および15(ポリヌクレオチド)、ならびにそれぞれ、配列
番号14および16(アミノ酸)に提示する。当技術分野で公知の通り、ノブ変異体およ
びホール変異体は、ヘテロ二量体化を形成するのに用いられる(例えば、Ridgewa
yら(1996年)、Protein Engineering、9巻:617~621
頁を参照されたい)。
【0304】
(実施例3)
ヒトScFvファージディスプレイを用いる抗EpCAM抗体の生成
一般的なプロトコールは、「Phage display technology-
a laboratory manual」(Carlos F. Barbas II
I、Dennis R. Burton、Jamie K. Scott、Gregg
J. Silverman編、2001年、Cold Spring Harbor L
aboratory Press)において言及されている。ナイーブヒトscFvファ
ージディスプレイライブラリー(Viva Biotech、Shanghai、Chi
na)を、EpCAM特異的抗体を単離するために用いた。ラウンド1のファージ選択の
ために以下のステップを使用した:1)50ulのヒトナイーブscFvライブラリーを
、3%の脱脂粉乳/PBS(MPBS)500ulでブロッキングした;2)ミルクでブ
ロッキングしたファージを、5ug/mlのFcであらかじめコーティングしたImmu
notubeと共に、室温で30分間を2回繰り返してインキュベートする;3)Fcタ
ンパク質を、上記の枯渇させたファージへと、500ug/mlの最終濃度で添加し、室
温でインキュベートして、抗Fc scFvを提示するファージをさらに捕捉する;4)
上記のファージ溶液を、室温で1時間にわたり、huEpCAM.Fcでコーティングし
た(5ug/mlの濃度でコーティングし、MPBSでブロッキングした)Immuno
-tubeと共にインキュベートする;5)このImmunoTubeを、PBSTで3
回にわたり洗浄した(0.1%のTween-20を含有するPBS)後、PBSで3回
にわたり洗浄した;6)結合したファージを、調製されたばかりの100mMのトリエチ
ルアミン溶液500ulにより、室温で10分間にわたり溶出させた;7)溶出させたフ
ァージを用いて、37℃で30分間にわたり静置し、30分間にわたり200rpmで振
とうしながら、対数中期のTG1細胞5mlに感染させた;8)溶出させたファージを再
度感染させたTG1細胞を、4%のブドウ糖および100ug/mlのアンピシリンを補
充した2倍濃度のYT寒天による大型のNuncスクェアプレート上、30℃で一晩にわ
たり成長させた;9)一晩にわたり成長させたTG1細胞をプレートから削り落とし、2
5mlの2倍濃度のYT培地(100ug/mlのアンピシリンおよび2%のブドウ糖を
添加)へと接種し、37℃でOD600まで成長させた;10)ヘルパーファージKO7
をTG1培養物へと添加して、ファージをレスキューした(37℃で30分間にわたり静
置し、30分間にわたり振とうした);11)重複感染TG1細胞を静かにペレット化さ
せ、100ug/mlのアンピシリンおよび100ug/mlのカナマイシンを補充した
2倍濃度のYT培地へと再懸濁させて、37℃で一晩にわたり振とうした;12)一晩に
わたる培養物を遠心分離し、20%のPEG8000 1/5容量を、ファージを含有す
る清明化させた上清へと添加し、室温で30分間にわたりインキュベートした;13)5
0mlの円錐管により3000rpmで20分間にわたり遠心分離することにより、沈殿
したファージをペレット化させた;14)ペレット化させたファージを、PBS緩衝液中
へと再懸濁させ、次の選択ラウンドにおいて用いる準備ができる。
【0305】
ラウンド2の選択は、上記と同じステップを用いて、カニクイザルEpCAM.Fcに
ついて行った。ラウンド2の選択から溶出させたファージを、TG1細胞へと再導入し、
単一のコロニーごとに、2倍濃度のYT(100ug/mlのアンピシリンおよび2%の
ブドウ糖)プレート上に播種した。単一のコロニーを96ウェルプレートへと採取し、2
連のプレートを試料用のマスタープレートとして作製した。96ウェルプレート内の個別
のクローンファージを、小容量用に調整した上記と類似するステップを用いて成長させた
。清明化させたファージ上清(96ウェルプレートの3000rpmで5分間にわたる遠
心分離により清明化させた)を、以下のステップを用いるヒトEpCAM.Fc抗原およ
びカニクイザルEpCAM.Fc抗原についてのELISA結合アッセイに用いた:1)
ファージ溶液を5%のMPBS中1:5に希釈し、室温で1時間にわたりインキュベート
した;2)ファージMPBS溶液を、MPBSを用いてブロッキングしながらhuEpC
AM.FcまたはcynoEpCAM.Fcであらかじめコーティングした96ウェルM
axiSorpプレートへと移した;3)プレートを室温で1時間にわたりインキュベー
トした後、PBSTを用いて3回にわたり洗浄した;4)1/1000に希釈した抗M1
3/HRPコンジュゲート100ulを、プレートへと添加し、室温で1時間にわたりイ
ンキュベートした;5)PBSTで3回にわたり洗浄した後、100ulのTMBペルオ
キシダーゼ基質溶液をプレートへと添加し、暗所で20分間にわたりインキュベートした
;6)0.25Mの硫酸50ulを、プレート上の各ウェルへと添加し、基質の発光を停
止させた;7)吸光度をマイクロプレートリーダー上、450nmで読取った。EpCA
M陽性結合剤を、マスタープレートに由来するE.coli原液を用いてDNA配列決定
した。
【0306】
(実施例4)
完全ヒト抗EpCAM抗体の最適化
抗EpCAM抗体のVH遺伝子およびVL遺伝子を、Gblock法(Integra
ted DNA Technologies)を用いて合成した。GblockによるV
遺伝子は、ファージディスプレイ法から単離されたV遺伝子、またはV遺伝子産物の発現
および/もしくは安定性を改善するようにデザインされた変異を含有するV遺伝子と同一
であった。変異のデザインは、主に最も良好にマッチした生殖細胞系列配列もしくは最も
良好にマッチした生殖細胞系列のコンセンサス配列(VBASE2;www.vbase
2.org)との配列比較に基づくか、または相同なVドメイン構造を検証することを介
する。GblockによるVHおよびVLを、PCR法を用いてscFvフォーマットへ
とアセンブルした。例えば、EpCAM1.1は、VL残基1~3(Kabatによる番
号付け;Kabatら(1991年)、「Sequences of proteins
of immunological interest」、5版)の、EpCAM1.
0内の「HVI」から「QSV」へのアミノ酸変化を含有する。後者の配列は、ヒト生殖
細胞系列配列に従い共通である(VBASE2;www.vbase2.org)。Ep
CAM1.2は、EpCAM1.1と比較して、VHの1、5、6位、およびVLの39
位(Kabatによる番号付け)において変異を含有する。EpCAM2.2は、親クロ
ーンと比較して、VHの5、6、13、40、76、77、81、82位およびVLの2
、8、39、58位(Kabatによる番号付け)において複数の変異を含有する。抗E
pCAM抗体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、以下の表3にまとめる。
【0307】
【表3】

以下にまとめる通り、抗EpCAM抗体およびhu-1F3.1による構築物を用いて
、多様なMSFPタンパク質を発生させた。以下の概要中のscFvとは、抗EpCAM
scFvを指す。Hisタグは、各Fab内のFd鎖のC末端に接合するが、図解には
示さない。
【0308】
【化1】

(実施例5)
組換えIgG、Fc融合体タンパク質、Fab、およびFab融合タンパク質の発現お
よび精製
Fab融合タンパク質を、pcDNAおよびHEK293F細胞懸濁液(Invitr
ogen)を使用する一過性哺乳動物発現系において発現させた。発現構築物は、細胞培
養物の1/10の容量のF-17合成培地(Invitrogen)中であらかじめ形成
されたDNAと25kdのポリエチレンイミン(PEI)との複合体(重量で1:3の比
の、DNAの直鎖状の25kd PEIとの複合体)を添加しながら、HEK293F細
胞(Invitrogen)へとトランスフェクトした。振とうしながら5%の加湿した
CO2によるインキュベーター内で成長させたトランスフェクト細胞に、トランスフェク
ションの24時間後、20%のTN1(Organotechnie SA、Franc
e)25mlを供給した。培養物上清を、通常トランスフェクションの5日後に採取し、
タンパク質を、プロテインAカラム(ヒトIgG用およびFcタンパク質用)、プロテイ
ンGカラム(マウスIgG用)、またはHisTrapカラム(hisタグづけしたFa
b用およびhisタグづけしたFab融合体用)(GE Healthcare)を介す
るアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。MWカットオフ10kDのスピ
ン管を用いて緩衝液を交換した後、タンパク質を、4℃のPBS緩衝液中で保管した。タ
ンパク質は通常、非還元条件下および/または還元条件下(5%のメルカプトエタノール
)において、4~20%のSDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動;Nov
ex mini gel)により解析した。
【0309】
(実施例6)
マウス1F3 IgGおよびヒト化1F3 IgGならびにFabの、CD3イプシロ
ン類縁タンパク質への結合
ウェスタンブロット、ELISA、およびフローサイトメトリー解析を用いて、マウス
IF3抗体およびヒトIF3抗体ならびにFabの結合について研究した。特に、以下の
4つのタンパク質試料を、5%のメルカプトエタノールを伴うSDS-PAGE試料緩衝
液中で調製した(試料1)ヒトCD3イプシロン/デルタ.Fc(K-H);2)カニク
イザルCD3イプシロン/デルタ.Fc(K-H);3)ヒトCD3イプシロンアミノ酸
1~27.Fc;および4)対照ペプチド.Fc融合体(CD3イプシロンアミノ酸1~
27.Fcにおける最初の16残基の逆アミノ酸配列))。「Fc(K-H)」とは、「
KIH」法によるFc変異体(Ridgewayら(1996年)、Protein E
ngineering、9巻:617~621頁)を指し示す。各試料につき100ng
ずつのタンパク質を、4~20%のトリス-グリシンゲル(Novex)上の各レーンに
ロードし、1倍濃度のSDSランニングバッファー(25mMのトリス、192mMのグ
リシン、0.1%のSDS、pH8.3)中、125Vで1時間にわたり試料を泳動させ
た。タンパク質バンドを、Novex転写モジュールを用いて、20%のメタノールを伴
う1倍濃度のSDSランニングバッファー中のニトロセルロース(NC)膜へと転写した
。NC膜は、5%の粉乳TBS-Tでブロッキングした後、室温で1時間にわたり、1u
g/mlのビオチニル化マウス1F3 IgGまたはビオチニル化hu-1F3 IgG
とのインキュベーションを行った。5分間ずつ3回にわたる洗浄の後、膜を、1:300
0に希釈したストレプトアビジン-HRPコンジュゲートと共に、1時間にわたりインキ
ュベートした。10分間ずつ3回にわたる洗浄の後、膜をECL試薬で現像し、シグナル
をKodak製フィルムへと曝露した。
【0310】
図9において示される通り、マウス1F3 IgGおよび1F3のヒト化形は、この抗
原パネルを、極めて類似する様式で認識した。とりわけ、1)マウス1F3 IgGおよ
びhu-1F3 IgGのいずれも、変性させたヒトCD3イプシロン/デルタおよびカ
ニクイザルCD3イプシロン/デルタに結合することが可能であり;2)いずれの抗体も
、CD3イプシロンのN末端のアミノ酸1~27(配列番号18)に対応するペプチド配
列を含有する変性Fc融合体タンパク質に結合することが可能であり;3)マウス1F3
IgGまたはhu-1F3 IgGのいずれも、対照ペプチド(配列番号20)とのF
c融合体タンパク質には結合しない。この実験からの結果は、1F3がCD3イプシロン
に対して特異的であり、エピトープが、イプシロンサブユニットのN末端部分内にあるこ
とを強く示唆する。また、フローサイトメトリー解析も、ヒト1F3抗体およびマウス1
F3抗体について、ヒトPBMCに対する類似の結合パターンを示した(図10を参照さ
れたい)。低蛍光の細胞集団のMFIにおいて小さなシフトが観察されたことは注目に値
する。マウスFcのヒトFcガンマ受容体への結合が、ヒトFcの結合と比較してはるか
に低減されることは周知である。したがって、図10に示される結果は、hu-1F3
IgG内のヒトFcが、PBMC調製物中のこの免疫細胞集団(T細胞以外の)上のFc
ガンマ受容体に結合し、小さなMFIシフトを引き起こしたことを示唆する。
【0311】
ELISA結合アッセイには、MaxiSorpプレートを用いた。50mMのNaH
CO3中に1ug/mlの抗原50ulを用いて、プレートを4℃で一晩にわたりコーテ
ィングした後、ウェル1つ当たり200ulの5%の粉乳/TBS-0.05%のTwe
en20(MTBS-T)とのインキュベーションを行った。抗体は通常5%のMTBS
-T中で希釈し、抗原でコーティングしたプレートへと移し、室温で静かに振とうしなが
ら1時間にわたりインキュベートした。ストレプトアビジン-HRP(ビオチニル化抗体
検出用)または抗hisタグ-HRPコンジュゲート(hisタグづけした抗体用)によ
り、結合した抗体を検出した。50mMクエン酸緩衝液中のABTS溶液を、マイクロプ
レートリーダー(Biotek)を用いるOD405の測定による検出に用いた。
【0312】
図11は、ビオチニル化マウス抗CD3抗体である1F3およびビオチニル化hu-1
F3 IgGの結合活性を示す。2つの抗体は、ヒトCD3イプシロン/デルタ「KIH
」Fcヘテロ二量体(Ridgewayら(1996年)、Protein Engin
eering、9巻:617~621頁)、カニクイザルCD3イプシロン/デルタ「K
IH」Fcヘテロ二量体、およびヒトCD3イプシロンN末端ペプチド(アミノ酸1~2
7)Fc融合体タンパク質への正の結合についての極めて類似するパターンを裏付けた。
【0313】
図13は、図11において記載した同じパネルの抗原への、抗hisタグ/HRPコン
ジュゲートおよびABTS基質により検出される10の代表的なヒト化Fabタンパク質
による結合を示す。hu-1F3.1 Fab、hu-1F3.2 Fab、hu-1F
3.3 Fab、およびhu-1F3.5 Fabからhu-1F3.10 Fabにつ
いて、用量依存的な結合が観察された。Hu-1F3.4 Fabの結合は、被験濃度範
囲(5~8,000pM)においてもなお極めて低度である。Fabの、3つの抗原全て
への結合について、IgGと比較して僅かに低度なアフィニティーが判明した(図11
。Fabの一価の結合は、hu-1F3完全IgGの結合アフィニティー(図11におけ
る)と比較して低度な結合アフィニティーを説明しうる。
【0314】
10の代表的なヒト化Fabタンパク質のうちの5つ(hu-IF3.1~huIF3
.5)を、CD3を発現させるJurkatヒトT細胞系への結合について調べた。図1
2において示される通り、ヒト化1F3 Fabは、Jurkat細胞に結合する。
【0315】
(実施例7)
EpCAM×CD3二重特異性Fab融合タンパク質の特徴付け
フローサイトメトリー解析およびELISAを用いて、EpCAM×CD3 Fab融
合タンパク質を特徴付けた。詳細な材料および方法は、この例の末尾に記載する。
【0316】
FACSを用いる図14において示される通り、EpCAM×CD3 Fab融合タン
パク質(MSFP)は、ヒトCD3を発現させるJurkat細胞に結合する。この実験
では、Jurkat細胞へと結合したビオチニル化FabおよびFab融合体は、ストレ
プトアビジン-PEコンジュゲートにより検出した。OKT3 Fabは、Jurkat
細胞上のCD3への結合を示したが、抗EpCAM scFvの、LC単独またはHCお
よびLCの両方への融合は、OKT3 Fab部分のCD3への結合能力を完全に消失さ
せた。ヒト化抗CD3抗体のFabであるhu-1F3は、Jurkat細胞上のCD3
に結合することが可能であった。OKT3 Fab融合タンパク質とは異なり、抗EpC
AM scFvをhu-1F3 LCのN末端へと融合させたところ、hu-1F3 F
abと同様のレベルの結合活性が保持されたのに対し、抗EpCAM scFvを、hu
-1F3 FabのLCおよびHCへと同時的に融合させると、Jurkat細胞上のC
D3への正の結合が示されたが、低レベルでの結合であった。
【0317】
図15は、FACSにより示される、EpCAM×CD3 MSFPのヒトPBMCへ
の結合を示す。Jurkat細胞へと結合したビオチニル化FabおよびFab融合体は
、ストレプトアビジン-PEコンジュゲートにより検出した。パネルAは、OKT3 F
abの、CD3を発現させるPBMC(T細胞)への結合を示す。抗EpCAM scF
vをHCおよびLCの両方へと融合させたところ、OKT3 Fab部分の、CD3に対
する結合能力は完全に消失した。パネルBは、ヒト化抗CD3抗体のFabであるhu-
1F3.1が、PBMC調製物中のT細胞上のCD3に結合することが可能なことを示す
。OKT3 Fab融合タンパク質とは異なり、抗EpCAM×hu-1F3.1 Fa
bを、FabのLCおよびHCへと同時的に融合させたところ、Jurkat細胞上のC
D3への正の結合が示されたが、結合レベルは、低レベルである。
【0318】
図16において示される通り、ELISA結合アッセイは、OKT3 FabおよびE
pCAM1.1×OKT3二重特異性Fab融合タンパク質は、組換えカニクイザルCD
3イプシロン/デルタヘテロ二量体Fcタンパク質に対する結合活性を有さず;OKT3
Fabおよび二重特異性融合体は、組換えヒトCD3イプシロンN末端のペプチド(ア
ミノ酸1~27.Fc融合体)に対する結合活性を有さないことを示した。OKT3は、
サルCD3またはヒトCD3イプシロンのN末端に結合しないことが予測される。Fab
およびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に固定化した抗原
へと結合したビオチン抗体は、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用
のABTS基質を用いて検出した。
【0319】
図17は、hu-1F3 FabおよびEpCAM1.1×hu-1F3.1二重特異
性Fab融合タンパク質(MSFP;Fabe)が、組換えカニクイザルCD3イプシロ
ン/デルタヘテロ二量体Fcタンパク質(パネルA);および組換えヒトCD3イプシロ
ンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)(パネルB)に結合することを裏
付けるELISA結合の結果を示す。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化
し、96ウェルプレート上に固定化した抗原へと結合したビオチン抗体は、ストレプトア
ビジン-HRPコンジュゲートの後、検出用のABTS基質を用いて検出した。
【0320】
図18において示される通り、ELISA結合アッセイは、hu-1F3 Fabおよ
びEpCAM1.2×hu-1F3.1 MSFPが、組換えカニクイザルCD3イプシ
ロン/デルタヘテロ二量体Fcタンパク質(パネルA);および組換えヒトCD3イプシ
ロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)(パネルB)に結合することを
示した。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に
固定化した抗原へと結合させた標識融合タンパク質は、ストレプトアビジン-HRPコン
ジュゲートの後、検出用のABTS基質を用いて検出した。
【0321】
図19において示される通り、ELISA結合アッセイは、hu-1F3.1 Fab
およびEpCAM2.2×hu-1F3 MSFPが、組換えカニクイザルCD3イプシ
ロン/デルタヘテロ二量体Fcタンパク質(パネルA);および組換えヒトCD3イプシ
ロンN末端のペプチド(アミノ酸1~27.Fc融合体)(パネルB)に結合することを
示した。FabおよびFab融合タンパク質をビオチニル化し、96ウェルプレート上に
固定化した抗原へと結合させたビオチン標識融合タンパク質は、ストレプトアビジン-H
RPコンジュゲートの後、検出用のABTS基質を用いて検出した。
【0322】
図20において示される通り、フローサイトメトリー解析は、EpCAM×CD3 M
SFPの、全長ヒトEpCAM標的を細胞表面上で安定的に発現させるCHO細胞への結
合を示した。抗CD3 Fabは、同じCHO細胞への結合を示さなかった。
【0323】
材料および方法:フローサイトメトリー解析(蛍光活性化細胞分取;FACS)を用い
て、細胞へのIF3ベースのFab融合タンパク質(本明細書ではまた、Fabeとして
も言及される;Fab融合タンパク質はまた一般に、MSFPとも称する)の結合を特徴
付けた。一般に、細胞を、1%のBSA/PBS中、4℃で1時間にわたりブロッキング
し、対象の抗体を、1%のBSA/PBSへと希釈し、4℃で1時間にわたるインキュベ
ーションのために、ブロッキングした細胞へと添加した。1%BSA/PBSによる1回
の洗浄の後、染色手順は、抗体または蛍光抗体コンジュゲートの利用可能性に応じて変化
する。ある場合には、直接的な蛍光コンジュゲートを用いた。他の場合には、抗アフィニ
ティータグ抗体(二次抗体)を用いて細胞と共にインキュベートした後、特定のフルオロ
フォアとコンジュゲートした抗種抗体を用いた。他の一部の実験では、蛍光コンジュゲー
トを伴う抗体(またはストレプトアビジンなど、他のアフィニティー試薬)を、二次抗体
(第2の試薬)として直接的に用いた。図10、14、16、17、20A、および20
Bでは、ビオチニル化抗体を用いて、細胞と共にインキュベートし、図12、15、18
、19、および20C、および20Dでは、hisタグづけする抗体を細胞とのインキ
ュベーションに用いた後で、抗hisタグ抗体を用い、最終的な検出は、抗マウス-PE
コンジュゲートを介する。
【0324】
(実施例8)
EpCAM×CD3二重特異性Fab融合タンパク質はT細胞を媒介する細胞殺滅活性
の方向付けを変化させる
細胞殺滅アッセイを用いて、EpCAM×CD3二重特異性Fab融合タンパク質が、
T細胞を媒介する標的細胞の殺滅の方向付けを変化させる能力を調べた。
【0325】
図21において示される通り、FACSベースのアッセイ(詳細はこの例の末尾に記載
される)は、EpCAM×CD3二重特異性Fab融合タンパク質が、T細胞を媒介する
標的細胞殺滅活性の方向付けを腫瘍標的依存的な様式で変化させることを裏付けた。この
アッセイでは、標的細胞(ヒトEpCAM-FLを細胞表面上で安定的に発現させるCH
O細胞(図21、パネルA、B、D)および対照細胞(CHOだけ、図21パネルC)を
、アッセイの前にPKH-26蛍光色素で標識した。TP3(Invitrogen)を
用いて、アッセイの完了時に死滅細胞を同定した。このアッセイでは、標的死滅細胞を右
上四分図中のカウントから同定し、標的生細胞を左上四分図から同定した。EpCAMを
発現させるCHO細胞であって、PBMCを伴わないが、二重特異性抗体を伴ってインキ
ュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞は、PKH-26標識集団(TP3陽性
)中約1.4%の死滅細胞を示し(図21;パネルA);EpCAMを発現させるCHO
細胞であって、PBMCを伴うが、二重特異性抗体を伴わずにインキュベートされた(2
0時間にわたり)CHO細胞は、PKH-26標識集団中約14%の死滅細胞を示し(図
21;パネルB);EpCAMを発現させないCHO細胞であって、PBMCおよび二重
特異性抗体と共にインキュベートされた(20時間にわたり)CHO細胞の死滅細胞は、
約14%であり(図21;パネルC);EpCAMを発現させるCHO細胞であって、P
BMCおよび例示的な二重特異性Fab融合体と共にインキュベートされた(20時間に
わたり)CHO細胞の死滅細胞カウントは、約64%であった(図21;パネルD)。
【0326】
図22は、上記の図21のパネルDにおいて多様な濃度のEpCAM×CD3二重特異
性Fab融合体について記載した殺滅データをプロットする。OKT3 Fabおよび融
合タンパク質は、方向付けを変化させた著明な細胞溶解活性を欠き(図22;パネルA)
;hu-1F3.1 Fabが、標的細胞に対する活性を示さなかったのに対し、EpC
AM1.1×hu-1F3.1 MSFPは、高レベルの活性を示し、融合タンパク質濃
度が60pMであっても高い活性レベルを維持し(図22、パネルB);EpCAM1.
2×hu-1F3.1 MSFPによる用量依存的な活性が検出され(図22、パネルC
);EpCAM2.2 scFvのhu-1F3.1 Fabとの単一融合体について、
用量依存的な細胞溶解活性が検出され(図22、パネルD);EpCAM2.2 scF
vのhu-1F3.1 FabのHCおよびLCの両方との二重融合体については、最大
で50%の細胞集団の殺滅が観察され、その濃度が60pMという低濃度のときも、高い
活性レベル(約40%)を維持した。殺滅活性百分率は、対照アッセイ(EpCAM-C
HO+PBMC)における死滅細胞の百分率を、試料アッセイにおける死滅細胞の百分率
から減じることにより計算した。
【0327】
図23は、EpCAM2.2-(H+L)-hu-1F3.1 MSFPによるT細胞
の活性化が、腫瘍標的依存的であることを示す。パネルA)EpCAMを発現させないC
HOの存在下において、EpCAM2.2-(H+L)-hu-1F3.1(30nM)
と共にインキュベートされたPBMCが、FACSアッセイにより検出される、CD69
の発現を介して測定される基底レベルのT細胞の活性化を結果としてもたらしたことを示
す図であり;パネルB)EpCAMを発現させないCHOの存在下において、EpCAM
2.2-(H+L)-hu-1F3.1と共にインキュベートされた(30nM、16時
間)PBMCが、FACSアッセイにより検出される、CD69の発現を介して測定され
るT細胞の活性化の著明な増大を結果としてもたらしたことを示す図である。
【0328】
材料および方法:アッセイの前に、標的細胞をPKH-26色素(Sigma)(FL
2におけるシグナルの検出)で標識した。アッセイにおいて死滅させた標的細胞は、TO
-PRO-3(TP3)色素(Invitrogen)(FL4におけるシグナルの検出
)を添加することにより同定した。PKH-26による標的細胞の標識化は、製造元の指
示書に従い実施した。特に、2百万個の標的細胞を、無血清完全培地で洗浄し、0.5m
lの希釈剤C(製品キット中に提供されている)中で再懸濁させた。また、1mMのPK
H-26色素2ulも、0.5mlの希釈液C中で希釈した。次いで、希釈した色素を標
的細胞調製物へと添加し、室温で5分間にわたりインキュベートした。2mlのウシ胎仔
血清を混合物へと添加し、2分間にわたりインキュベートして、標識化反応を停止させた
。標識した細胞を完全培地で3回にわたり洗浄し、使用のために完全培地中で再懸濁させ
た。標識した細胞をカウントし、生存率について点検した。細胞殺滅アッセイのために、
完全培地中に100ulの標的細胞とPBMCとの混合物をFACSチューブへと添加し
た後、完全細胞培養培地中に100ulの抗体溶液を添加し、CO2によるインキュベー
ター内で20時間にわたりインキュベートした。アッセイの終了時、FACSCalib
urフローサイトメーター上でのFACSアッセイの直前に、10uMのTO-PRO-
3(TP3)5ulを細胞へと添加した。PKH-26標識細胞は、2~3log領域(
FL2)に配置された。FL2シグナルがlog20を超える細胞を、標的細胞と考えた
。FL4シグナル(TP3)がlog30を超える細胞を、死滅細胞と考えた。標的死滅
細胞は右上四分図からカウントし、標的生細胞は左上四分図からカウントした(図21
参照されたい)。各試料につきのべ5,000回ずつの標的細胞イベントを収集した。細
胞溶解活性は、対照アッセイ(EpCAMを発現させる標的細胞にPBMCを加える)の
死滅細胞カウントを、試料アッセイ(EpCAMを発現させる標的細胞にPBMCおよび
抗体薬物を加える)の死滅細胞カウントから減じ、標的細胞の合計カウント5,000で
除することにより計算した。細胞溶解活性の百分率は、上記の活性に100を乗じること
により計算した。
【0329】
まとめると、上記の例は、1F3抗CD3 Fabを含む本開示のMSFPが、適切な
腫瘍標的細胞(例えば、EpCAMを発現させる細胞)の存在下に限りT細胞による殺滅
の方向付けを変化させるように機能することを裏付ける。驚くべきことに、抗EpCAM
-OKT3 Fab融合タンパク質は、CD3を発現させるJurkat T細胞に結合
することが可能でなかった。これは、1F3 Fabにより認識されるCD3イプシロン
エピトープが、1F3 Fab融合タンパク質の機能に重要であることを示唆する。上記
の例において記載したデータは、本開示のMSFPの、T細胞の動員を介する多数のがん
の処置を含めた多様な治療状況における使用を支持する。
【0330】
上記の多様な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。本
明細書で言及され、かつ/または出願データシートで列挙される米国特許、米国特許出願
公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物の全ては、参照によ
りそれらの全体において本明細書に組み込まれる。多様な特許、出願、および公開の概念
を使用して、なおさらなる実施形態を提供することが必要な場合は、実施形態の態様を改
変することができる。
【0331】
上記で詳述した説明に照らして、これらの変化および他の変化を実施形態へと施すこと
ができる。一般に、以下の特許請求の範囲では、用いられる用語が、これらの特許請求の
範囲を、本明細書および特許請求の範囲において開示された特定の実施形態へと限定する
とみなすべきではなく、このような特許請求の範囲が権利を付与される同等物の完全な範
囲と共に可能な全ての実施形態を包含するとみなすべきである。したがって、特許請求の
範囲は、本開示により限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20-1】
図20-2】
図21-1】
図21-2】
図22-1】
図22-2】
図23
【配列表】
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