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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】弾性波デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20230220BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021127172
(22)【出願日】2021-08-03
(62)【分割の表示】P 2018552530の分割
【原出願日】2017-11-15
(65)【公開番号】P2021177665
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2016228508
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017095057
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】門田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0169724(US,A1)
【文献】特開2004-254291(JP,A)
【文献】特開平10-224172(JP,A)
【文献】特開2003-142984(JP,A)
【文献】特開平10-178331(JP,A)
【文献】特開2010-283807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/06
9/00-9/135
9/15-9/24
9/30-9/40
9/46-9/62
9/66
9/70
9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を利用する弾性波デバイスであって、
二酸化ケイ素(SiO)を70質量%以上含む基板と、
前記基板上に設けられたLiTaO結晶またはLiNbO結晶から成る圧電薄膜と、
前記圧電薄膜に接するよう設けられたすだれ状電極とを、
有し、
伝搬する前記弾性表面波が漏洩弾性表面波を含み、
前記基板のオイラー角および前記圧電薄膜のオイラー角が、前記基板の周波数温度係数が前記圧電薄膜の周波数温度係数を補償するように選択されることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記基板と前記圧電薄膜との間に、短絡電極および/または絶縁性の接合膜を有することを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記基板のオイラー角および前記圧電薄膜のオイラー角が、前記基板を伝搬する前記弾性表面波の音速が、前記圧電薄膜を伝搬する前記弾性表面波の音速よりも速くなるよう選択されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記すだれ状電極は、前記圧電薄膜上に、少なくとも下部が前記圧電薄膜に埋め込まれるよう、および/または、少なくとも上部が前記圧電薄膜から突出するよう設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記基板は水晶基板から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記基板は、バルク波の横波音速が3,400乃至4,800m/sであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記基板は、等方性の基板から成り、
前記圧電薄膜は、厚みが0.001mm以上0.01mm未満であることを
特徴とする請求項1乃至4および6のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記基板は、水晶基板から成り、伝搬する前記弾性表面波の音速が4,500m/s以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記基板は、伝搬する前記弾性表面波の音速が4,500m/s以上であり、オイラー角が(0°±5°、70°~165°、0°±5°)、(0°±5°、95°~155°、90°±5°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~125°、0°±5°)、(0°±5°、0°~36°、90°±5°)、(0°±5°、172°~180°、90°±5°)、(0°±5°、120°~140°、30°~49°)、(0°±5°、25°~105°、0°±5°)、(0°±5°、0°~45°、15°~35°)、(0°±5°、10°~20°、60°~70°)、(0°±5°、90°~180°、30°~45°)、(0°±5°、0°±5°、85°~95°)、(90°±5°、90°±5°、25°~31°)、(0°±5°、90°±5°、-3°~3°)、またはこれらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記基板は、オイラー角が(20°±5°、120°±10°、115°±10°)、(0°±5°、90°±5°、0°±10°)、(0°±5°、90°±5°、75°±10°)、(0°±5°、0°±5°、0°±10°)、(0°±5°、0°±5°、60°±10°)またはこれらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(90°±5°、90°±5°、33°~55°)、(90°±5°、90°±5°、125°~155°)またはこれらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項13】
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(90°±5°、90°±5°、38°~65°)、(90°±5°、90°±5°、118°~140°)またはこれらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項14】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~132°、0°±5°)、(0°±5°、0°~18°、0°±5°)、(0°±5°、42°~65°、0°±5°)、(0°±5°、126°~180°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、82°~148°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項15】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~42°、90°±5°)(0°±5°、170°~190°、90°±5°)、(0°±5°、0°~45°、90°±5°)、(0°±5°、123°~180°、90°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項16】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、126°~180°、90°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項15記載の弾性波デバイス。
【請求項17】
前記圧電薄膜は、オイラー角が(0°±5°、103°~125°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項15または16記載の弾性波デバイス。
【請求項18】
前記基板は、オイラー角が(1°~39°、100°~150°、0°~20°または70°~120°または160°~180°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項19】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~23°、0°±5°)、(0°±5°、32°~69°、0°±5°)、(0°±5°、118°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~62°、90°±5°)、(0°±5°、118°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~72°、30°~60°)、(0°±5°、117°~180°、30°~60°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項20】
前記圧電薄膜は、前記弾性表面波の波長の0.001倍~2倍の厚みを有していることを特徴とする請求項14乃至19のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項21】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~132°、0°±5°)、(0°±5°、0°~18°、0°±5°)、(0°±5°、42°~65°、0°±5°)、(0°±5°、126°~180°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、75°~165°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項22】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~42°、90°±5°)、(0°±5°、90°~155°、90°±5°)、(0°±5°、0°~45°、90°±5°)、(0°±5°、123°~180°、90°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、70°~170°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項23】
前記基板は、オイラー角が(1°~39°、100°~150°、0°~20°または70°~120°または160°~180°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、95°~160°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項24】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、90°~178°、0°±5°)、(0°±5°、80°~160°、90°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、35°~70°、0°±5°)、またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項25】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~16°、0°±5°)、(0°±5°、42°~64°、0°±5°)、(0°±5°、138°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、130°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~28°、30°~60°)、(0°±5°、42°~70°、30°~60°)、(0°±5°、132°~180°、30°~60°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、75°~165°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項26】
前記基板は、オイラー角が(0°±5°、32°~118°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、173°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~142°、30°~60°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であり、
前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、35°~70°、0°±5°)またはこれと結晶学的に等価なオイラー角であることを
特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォンの普及により、50近い多くのバンドが2.4GHz以下に集中し、隣とのバンドの間隔が非常に狭くなっているため、隣のバンドに干渉しないよう、急峻な周波数特性を有し、温度特性の良いフィルタやデュプレクサが強く求められている。また、急峻な周波数特性を有するフィルタやディプレクサを実現するためには、大きなインピーダンス比や高いQを有する共振子が必要となる。ここで、Qはフィルタの急峻性を示すパラメータであるが、急峻性のほかに、フィルタの挿入損失も影響する。Qが高ければ、挿入損失も小さくなり、携帯電話やスマートフォンの電池の消耗が少なくなる。このため、フィルタには、良好な挿入損失、良好な温度特性、より良い急峻性が求められ、その共振子には、高いQおよび大きいインピーダンス比が要求される。なお、Qの値はインピーダンス比に比例し、帯域に反比例するため、ほぼ同じ帯域の場合、Qとインピーダンス比は比例関係にある。
【0003】
弾性表面波(SAW)フィルタは、その帯域が用いる圧電基板の電気機械結合係数(結合係数)に依存しているため、従来、フィルタの帯域に必要な結合係数を有するLT(LiTaO結晶)やLN(LiNbO結晶)から成る圧電基板が多く使用されている。しかし、これらの基板の周波数温度特性(TCF)は、-40ppm/℃から-120ppm/℃であり、あまり良いとはいえない。なお、周波数温度特性(TCF)の理論式は、以下の式で定義されている。
【0004】
【数1】
ここで、V(T)は、温度Tにおける励振音速である。また、実測では、TCF=(f(45℃)-f(25℃))/(20×f(25℃))となる。ここで、f(T)は、測定される周波数であり、共振子では共振周波数および/または反共振周波数が測定され、フィルタでは中心周波数が測定される。なお、実測時、温度に対し周波数がリニアに変化しないときには、測定温度内の周波数の最大変化量を測定温度範囲で割り算することにより、1℃当たりの周波数変化量が求められる。
【0005】
そこで、必要な結合係数および良好なTCFを得るために、マイナスのTCFを有するLT、LN基板と、プラスのTCFをもつSiO薄膜とを組合せて、SiO薄膜/高密度電極/LTまたはLN基板の構造とし、さらに電極に起因したSiO膜上の凸部を除去して表面を平坦化した弾性表面波フィルタが、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1参照)。この構造によれば、比較的良好な-10ppm/℃のTCFが得られ、しかも、LTまたはLN基板単体の特性と同じインピーダンス比やQが得られる。この共振子のインピーダンス比は60dB、Qは800程度である。
【0006】
なお、水晶基板は、周波数温度特性は良好であるが、圧電性を示す結合係数が小さく、スマートフォンや携帯電話で必要とされるフィルタの帯域を満足することができない。また、AlN(窒化アルミニウム)薄膜のバルク波を利用したフィルタは、共振子のQが2000であり、SAWフィルタに比べればフィルタ特性は急峻であるが、周波数温度特性が-30ppm/℃であり、あまり良いとはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】門田道雄、中尾武志、西山健次、谷口典生、冬爪敏之、「良好な温度特性をもつ小型弾性表面波デュプレクサ」、電気情報通信学会論文誌 A、2013年、Vol.J96-A、No.6、pp.301-308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の弾性波フィルタでは、比較的良好なTCFが得られるが、SiO薄膜が柱状構造多結晶膜であるため、その共振子のQやインピーダンス比は、LTやLN基板単体の特性と同じ程度であり、周波数特性の急峻性がまだまだ不十分であるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、TCFが良好で、共振子のQやインピーダンス比を高めることができる弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る弾性波デバイスは、弾性表面波を利用する弾性波デバイスであって、二酸化ケイ素(SiO)を70質量%以上含む基板と、前記基板上に設けられたLiTaO結晶またはLiNbO結晶から成る圧電薄膜と、前記圧電薄膜に接するよう設けられたすだれ状電極とを、有することを特徴とする。ここで、圧電薄膜には、圧電薄板も含まれている。
【0011】
本発明に係る弾性波デバイスで、基板は、バルク波の横波音速がLTやLNの横波音速に近い、3,400m/sから4,800m/sであることが好ましい。これらの基板の多くは、等方性の基板であり、X,Y,Z方向に異方性はないが、圧電単結晶である水晶基板は異方性を有するため、異なる性質を持つ。このため、水晶基板を用いた場合には、その水晶基板は、伝搬する前記弾性表面波の音速が、前記圧電薄膜を伝搬する前記弾性表面波の音速よりも速くなるよう構成されていることがより好ましい。また、その音速差は、300m/s以上であることが好ましく、さらに600m/s以上であることが好ましい。また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記弾性表面波は漏洩弾性表面波(LSAW)であることが好ましい。さらに、SH(shear horizontal)成分を50%以上、より好ましくは65%以上有しているLSAWであることが好ましい。また、前記弾性表面波は、音速が4,500m/s以上のS波であってもよい。なお、用いた弾性表面波が漏洩弾性表面波かどうかは、基板のオイラー角から理論的に求めることができる。
【0012】
二酸化ケイ素(SiO)を70質量%以上含む基板は、弾性表面波(SAW)に対してプラスのTCFが得られる。このため、本発明に係る弾性波デバイスでは、マイナスのTCFを有するLiTaO結晶(LT)またはLiNbO結晶(LN)から成る圧電薄膜を、プラスのTCFを有する基板上に設けることにより、ゼロppm/℃に近い良好なTCFを得ることができる。また、LTまたはLNから成る圧電薄膜を、漏洩弾性表面波(LSAW)を励振するオイラー角とし、基板を、LTまたはLNのLSAWの音速と同程度またはそれ以上に速い音速を有するオイラー角とすることにより、圧電薄膜での漏洩成分がないLSAWのモードを用いることができる。このため、LTまたはLN基板単体での特性より、例えば15から20dBも大きいインピーダンス比を得ることができる。また、このインピーダンス比は、帯域が同じ場合は、Qでは6倍から10倍に相当し、非常に優れた急峻性および挿入損失の特性を得ることができる。また、結合係数も、わずかではあるが、圧電薄膜自身より大きくすることができる。
【0013】
本発明に係る弾性波デバイスは、前記基板と前記圧電薄膜との間に、接地された短絡電極および/または絶縁性の接合膜を有していてもよい。この場合、例えば、すだれ状電極/圧電薄膜/基板、すだれ状電極/圧電薄膜/接合膜/基板、すだれ状電極/圧電薄膜/短絡電極/基板、すだれ状電極/圧電薄膜/短絡電極/接合膜/基板、または、すだれ状電極/圧電薄膜/接合膜/短絡電極/基板の構造を有している。この場合、短絡電極や接合膜を有していても、優れた特性を損なうことなく、良好なTCF、ならびに、高いQおよびインピーダンス比を得ることができる。特に、短絡電極を有する場合には、結合係数を高めることができ、漏洩弾性表面波の伝搬損失を低減することができる。なお、接合膜は、吸音性がなく、硬い材質のものから成ることが好ましく、例えばSi膜やSiO膜から成っていてもよい。
【0014】
本発明に係る弾性波デバイスで、前記すだれ状電極は、前記圧電薄膜上に、少なくとも下部が前記圧電薄膜に埋め込まれるよう、および/または、少なくとも上部が前記圧電薄膜から突出するよう設けられていてもよい。この場合、いずれの構造であっても、優れた特性を有し、高いインピーダンス比を得ることができる。特に、すだれ状電極の全体または下部が圧電薄膜に埋め込まれる構造のとき、音速が速くなり、高周波化に有利である。なお、この場合、圧電薄膜と基板との間が電気的に短絡されていてもよい。
【0015】
本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、二酸化ケイ素(SiO)を80質量%以上含んでいることが好ましく、99質量%以上100質量%未満であることがさらに好ましく、100質量%含む溶融石英がより好ましく、さらに圧電単結晶である水晶基板から成ることがさらに好ましい。また、前記基板は、伝搬する前記弾性表面波の音速が3,400乃至4,800m/sであってもよい。また、前記基板は、水晶を除く等方性の基板から成り、前記圧電薄膜は、厚みが0.001mm以上0.01mm未満であってもよい。また、前記基板は、水晶基板から成り、伝搬する前記弾性表面波の音速が4,500m/s以上、または4,800m/s以上、または5,000m/s以上であってもよい。これらのいずれの構成であっても、優れた特性を有し、良好なTCF、ならびに、高いQおよびインピーダンス比を得ることができる。なお、水晶基板の場合は、等方性の基板より大きなプラスのTCFを有するため、圧電薄膜の厚みにはこだわらない。
【0016】
水晶を除く等方性の基板では、弾性波の伝搬方向に依存性はないが、水晶を用いた場合には、異方性を持つため、用いる水晶基板の方位角や伝搬方向(オイラー角)により特性が異なり、適したオイラー角の選択は重要である。本発明に係る弾性波デバイスは、まず、パワーフローアングル(PFA)がおおむね、ゼロであるオイラー角を選ぶことが望ましい。オイラー角がゼロから大きくずれると、弾性波がすだれ状電極と斜めの方向に伝搬していくためである。PFAがおおむねゼロを示す水晶基板のオイラー角は、(0°±5°、0°~180°、40°±12°)、(10°±5°、0°~180°、42°±8°)、(20°±5°、0°~180°、50°±8°)、(0°±5°、0°~180°、0°±5°)、(10°±5°、0°~180°、0°±5°)、(20°±5°、0°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~180°、90°±5°)、(10°±5°、0°~180°、90°±5°)、(20°±5°、0°~180°、90°±5°)とそれと等価な方位角である。
【0017】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~125°、0°±5°)、(0°±5°、0°~36°、90°±5°)、(0°±5°、172°~180°、90°±5°)、(0°±5°、120°~140°、30°~49°)、(0°±5°、25°~105°、0°±5°)、(0°±5°、0°~45°、15°~35°)、(0°±5°、10°~20°、60°~70°)、(0°±5°、90°~180°、30°~45°)、(0°±5°、0°±5°、85°~95°)、(90°±5°、90°±5°、25°~31°)、(0°±5°、90°±5°、-3°~3°)であってもよい。また、前記基板は、オイラー角が(20°±5°、120°±10°、115°±10°)、(0°±5°、90°±5°、0°±10°)、(0°±5°、90°±5°、75°±10°)、(0°±5°、0°±5°、0°±10°)、(0°±5°、0°±5°、60°±10°)であってもよい。これらの場合、良好なTCFを示す。
【0018】
また、より高いQおよびインピーダンス比の特性を得るために、以下の音速やオイラー角、膜厚であることが好ましい。すなわち、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、伝搬する前記弾性表面波の音速が4,500m/s以上であり、オイラー角が(0°±5°、70°~165°、0°±5°)あるいは(0°±5°、95°~155°、90°±5°)であってもよい。好ましくは、基板は、伝搬する弾性表面波の音速が4,800m/s以上であり、オイラー角が(0°±5°、90°~150°、0°±5°)あるいは(0°±5°、103°~140°、90°±5°)であることがより好ましく、さらに基板は、伝搬する弾性表面波の音速が5,000m/s以上であり、オイラー角が(0°±5°、100°~140°、0°±5°)あるいは(0°±5°、110°~135°、90°±5°)であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、レイリー波やLSAWのTCFがプラスを示すオイラー角が(0°±5°、0°~132°、0°±5°)、(0°±5°、0°~18°、0°±5°)、(0°±5°、42°~65°、0°±5°)、(0°±5°、126°~180°、0°±5°)であり、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、82°~148°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~12°、0°±5°)、(0°±5°、44°~63°、0°±5°)、(0°±5°、135°~180°、0°±5°)であることがより好ましい。また、圧電薄膜は、オイラー角が(0°±5°、90°~140°、0±5°)であることがより好ましい。この組合せでは、特に良好なTCFが得られる。
【0020】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、レイリー波やLSAWのTCFがプラスを示すオイラー角が(0°±5°、0°~42°、90°±5°)、(0°±5°、170°~190°、90°±5°)、(0°±5°、0°~45°、90°±5°)、(0°±5°、123°~180°、90°±5°)であり、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~34°、90°±5°)、(0°±5°、126°~180°、90°±5°)であることがより好ましい。また、圧電薄膜は、オイラー角が(0°±5°、90°~140°、0°±5°)であることがより好ましく、さらに(0°±5°、95°~143°、0°±5°)であることが好ましく、さらに(0°±5°、103°~125°、0°±5°)であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、高音速LSAWを有するオイラー角が(1°~39°、100°~150°、0°~20°または70°~120°または160°~180°)であり、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)であってもよい。さらに、基板は、5,000m/s前後の高音速fast shearを有するオイラー角、(20°±5°、120°±10°、115°±10°)、(0°±5°、90°±5°、0°±10°)、(0°±5°、90°、75°±10°)、(0°±5°、0°、0°±10°)、(0°±5°、0°、60°±10°)でもよい。
【0022】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~23°、0°±5°)、(0°±5°、32°~69°、0°±5°)、(0°±5°、118°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~62°、90°±5°)、(0°±5°、118°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~72°、30°~60°)、(0°±5°、117°~180°、30°~60°)であり、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、80°~148°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板のオイラー角は、(0°±5°、0°~12°、0°±5°)、(0°±5°、37°~66°、0°±5°)、(0°±5°、132°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~50°、90°±5°)、(0°±5°、126°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~17°、30°~60°)、(0°±5°、35°~67°、30°~60°)、(0°±5°、123°~180°、30°~60°)であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、オイラー角が(90°±5°、90°±5°、33°~55°)、(90°±5°、90°±5°、125°~155°)であってもよい。また、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(90°±5°、90°±5°、38°~65°)、(90°±5°、90°±5°、118°~140°)であってもよい。
【0024】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記圧電薄膜は、LiTaO結晶から成り、前記弾性波の波長の0.001倍~2倍の厚みを有していてもよい。この場合、圧電薄膜の厚みが、弾性波の波長の0.01倍~0.6倍であることが好ましく、0.02倍~0.6倍であることがより好ましく、さらに0.03倍~0.4倍であることが好ましく、さらに、0.03倍~0.3倍であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、レイリー波やLSAWのTCFがプラスを示すオイラー角が(0°±5°、0°~132°、0°±5°)、(0°±5°、0°~18°、0°±5°)、(0°±5°、42°~65°、0°±5°)、(0°±5°、126°~180°、0°±5°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、75°~165°、0°±5°)であってもよく、より好ましくは(0°±5°、100°~160°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板のオイラー角が(0°±5°、0°~12°、0°±5°)、(0°±5°、44°~63°、0°±5°)、(0°±5°、135°~180°、0°±5°)であることがより好ましい。また、この場合、前記圧電薄膜は、前記弾性表面波の波長の0.001倍~2倍の厚みを有していることが好ましく、0.01倍~0.6倍であることがより好ましく、0.012倍~0.6倍であることがより好ましく、0.02倍~0.5倍であることがより好ましく、さらに0.03倍~0.33倍であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、レイリー波やLSAWのTCFがプラスを示すオイラー角が(0°±5°、0°~42°、90°±5°)(0°±5°、90°~155°、90°±5°)、(0°±5°、0°~45°、90°±5°)、(0°±5°、123°~180°、90°±5°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、70°~170°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板のオイラー角が(0°±5°、0°~34°、90°±5°)、(0°±°、126°~180°、90°±5°)であることがより好ましい。また、この場合、前記圧電薄膜は、前記弾性表面波の波長の0.001倍~2倍の厚みを有していることが好ましく、0.01倍~0.5倍の厚みを有していることが好ましく、0.02倍~0.33倍であることがより好ましく、さらに0.06倍~0.3倍であることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(1°~39°、100°~150°、0°~20°または70°~120°または160°~180°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、95°~160°、0°±5°)であってもよい。また、基板は、オイラー角が(1°~39°、70°~150°、0°~20°または70°~120°または160°~180°)であり、圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、25°~51°、0°±5°)、であってもよい。
【0028】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(0°±5°、90°~178°、0°±5°)、(0°±5°、80°~160°、90°±5°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、レイリー波を励起するオイラー角が(0°±5°、35°~70°、0°±5°)、より好ましくは(0°±5°、45°~63°、0°±5°)、さらに好ましくは(0°±5°、48°~60°、0°±5°)であってもよい。また、この場合、LSAWおよびレイリー波のTCFがプラスを示す基板のオイラー角が、(0°±5°、90°~178°、0°±5°)、および(0°±5°、125°~160°、90°±5°)であることが好ましい。
【0029】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(0°±5°、0°~16°、0°±5°)、(0°±5°、42°~64°、0°±5°)、(0°±5°、138°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、130°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~28°、30°~60°)、(0°±5°、42°~70°、30°~60°)、(0°±5°、132°~180°、30°~60°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、75°~165°、0°±5°)、より好ましくは(0°±5°、90°~160°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板のオイラー角は、(0°±5°、43°~61°、0°±5°)、(0°±5°、147°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~15°、90°±5°)、(0°±5°、134°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~23°、30°~60°)、(0°±5°、43°~67°、30°~60°)、(0°±5°、137°~180°、30°~60°)であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、前記基板は、オイラー角が(0°±5°、32°~118°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、173°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~142°、30°~60°)であり、前記圧電薄膜は、LiNbO結晶から成り、オイラー角が(0°±5°、35°~70°、0°±5°)、より好ましくは(0°±5°、45°~63°、0°±5°)であってもよい。この場合、基板のオイラー角は、(0°±5°、40°~102°、0°±5°)、(0°±5°、0°~17°、90°±5°)、(0°±5°、175°~180°、90°±5°)、(0°±5°、13°~130°、30°~60°)であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明に係る弾性波デバイスで、利用する弾性表面波は基本モードであっても、高次モードであってもよい。高次モードを利用する場合、圧電薄膜は、弾性表面波の波長の0.35倍~9.3倍の厚みを有していることが好ましい。また、基板と圧電薄膜との間に短絡電極を有する場合には、圧電薄膜は、弾性表面波の波長の0.5倍~9倍の厚みを有していることが好ましい。これらの場合、高いインピーダンス比を得ることができる。
【0032】
ここで、オイラー角(φ、θ、ψ)は、右手系であり、基板や圧電薄膜の切断面と、弾性表面波の伝搬方向とを表現するものである。すなわち、基板を構成する結晶や、LTまたはLNの結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を回転軸としてX軸を反時計廻りにφ回転し、X’軸を得る。次に、そのX’軸を回転軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ’軸を得る。このとき、Z’軸を法線とし、X’軸を含む面を、基板や圧電薄膜の切断面とする。また、Z’軸を回転軸としてX’軸を反時計廻りにψ回転した方向を、弾性表面波の伝搬方向とする。また、これらの回転によりY軸が移動して得られる、X’軸およびZ’軸と垂直な軸を、Y′軸とする。
【0033】
オイラー角をこのように定義することにより、例えば、40°回転Y板X方向伝搬は、オイラー角で(0°、130°、0°)と表され、40°回転Y板90°X方向伝搬は、オイラー角で(0°、130°、90°)と表される。
【0034】
なお、本発明に係る弾性波デバイスで、基板および圧電薄膜は、上記のオイラー角だけでなく、結晶学的に等価なオイラー角を有するものであってもよい。この場合でも、より良好なTCF、ならびに、より高いQおよびインピーダンス比の特性を得ることができる。また、基板や圧電薄膜を所望のオイラー角で切り出す際には、オイラー角の各成分に対して、最大で±0.5°程度の誤差が発生する可能性がある。IDTの形状に関しては、伝搬方向ψに対し、±3°程度の誤差が生じる可能性がある。弾性波の特性に関しては、(φ、θ、ψ)のオイラー角のうち、φ、ψに関しては、±5°程度のずれによる特性差はほとんどない。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、TCFが良好で、共振子のQやインピーダンス比を高めることができる弾性波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下、特に説明がない場合、厚み0.08波長のアルミニウム電極から成るすだれ状電極をAl-IDTと記載する。
図1】(a)Al-IDT/圧電基板から成る従来の弾性波デバイス、(b)本発明の実施の形態の弾性波デバイス、(c)本発明の実施の形態の弾性波デバイスの、接合膜を有する変形例を示す斜視図である。
図2】従来の弾性波共振子の(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT基板、(b)Al-IDT/(0°、132°、0°)LT基板の、インピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである(図中、Zが最小と最大の周波数をそれぞれ、共振周波数(fr)、反共振周波数(fa)、インピーダンスをそれぞれZr、Zaといい、帯域は(fa-fa)/fr、インピーダンス比は20×LOG(Za/Zr)で表される)。
図3】(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、90°)水晶基板、(b)Al-IDT/(0°、120°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、インピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図4】(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、30°)水晶基板、(b)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、60°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、インピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図5】(0°、130°、ψ)水晶基板(quartz)における、レイリー波(Rayleigh)およびLSAWの音速(Phase velocity)の伝搬方向(Propagation direction)ψ依存性を示すグラフである。
図6】(a)Al-IDT/(0°、132°、0°)LT薄膜/(110)Si基板、(b)Al-IDT/(0°、132°、0°)LT薄膜/cサファイア基板の構造を有する弾性波共振子の、インピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図7】(0°、θ、0°)水晶基板(quartz)における、(a)レイリー波(Rayleigh)とLSAWの音速(Phase velocity)、(b)レイリー波とLSAWのTCF、(c)LSAWの縦波の変位成分U1、SH成分U2、SV(shear vertical)成分U3の基板表面での変位比率のθ依存性を示すグラフである。
図8】(0°、θ、90°)水晶基板(quartz)における、(a)レイリー波(Rayleigh)とLSAWの音速(Phase velocity)、(b)レイリー波とLSAWのTCF、(c)LSAWの縦波の変位成分U1、SH成分U2、SV成分U3の基板表面での変位比率のθ依存性を示すグラフである。
図9】(φ、θ、ψ)水晶基板(quartz)における、様々なφおよびθでの音速(Phase velocity)のψ依存性を示すグラフである。
図10】(0°、θ、0°)LT基板における、(a)レイリー波(Rayleigh)とLSAWの音速(Phase velocity)(図中、実線(v)および破線(v)は、それぞれLT基板表面が電気的に開放した場合および短絡した場合の音速)、(b)レイリー波(Rayleigh)とLSAWの電気機械結合係数(coupling factor)、(c)LSAWのTCF、のθ依存性を示すグラフである。
図11】Al-IDT/(0°、θ、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、115°~145°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフである(各グラフ中のθは、水晶基板のθである)。
図12】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、(a)Al厚が0.08波長、(b)Al厚が0.2波長のときのインピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフである(共振・反共振周波数間において、実線はリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示す)。
図13】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図14】Al-IDT/(0°、θ、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、100°~175°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフである(各グラフ中のθは、水晶基板のθである)。
図15】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、θ、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、(a)LT厚が0.15波長でAl厚が0.08波長、(b)LT厚が0.15波長でAl厚が0.1波長、ならびに、LT厚が1.25波長および2波長でAl厚が0.2波長のときの、インピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフ(共振・反共振周波数間において、実線はリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示す)、(c) (b)において、水晶基板のθ=125.25°のときのインピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図16】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、128°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図17】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、45°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)インピーダンス(Z)の周波数特性、(b)Al厚が0.12波長および0.2波長のときのインピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図18】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(20°、120°、115°)水晶基板、および、Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、130°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図19】(a) (0°、θLT、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、0°)水晶基板、(b) (0°、θLT、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、90°)水晶基板、(c) (0°、θLT、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、30°~60°)水晶基板における、θLT=80°、125°、148°のときの、TCFのθquartz依存性を示すグラフである。
図20】(a)(0°、θ、0°)LN基板の表面が電気的に開放(V)および短絡(V)したときのレイリー波(Rayleigh)とLSAWの音速(Phase velocity)、(b)レイリー波(Rayleigh)とLSAWの電気機械結合係数(coupling factor)、(c)レイリー波(Rayleigh)とLSAWのTCF、のθ依存性を示すグラフである。
図21】Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、115°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、インピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図22】(a)Al-IDT/(0°、θ、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、LSAWおよびレイリー波に対するインピーダンス比(Impedance ratio)の、θ依存性を示すグラフ、(b)Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの、LSAWに対するインピーダンス比(Impedance ratio)、ならびに、Al-IDT/(0°、55°、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長のときの、レイリー波に対するインピーダンス比(Impedance ratio)の、θ依存性を示すグラフである(共振・反共振周波数間において、実線はリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示す)。
図23】Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜/(0°、130°、0°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のLNの膜厚依存性を示すグラフである。
図24】(a)Al-IDT/(0°、θ、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、130°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、LSAWおよびレイリー波に対するインピーダンス比(Impedance ratio)の、θ依存性を示すグラフ、(b)Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θ、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの、LSAWに対するインピーダンス比(Impedance ratio)、ならびに、Al-IDT/(0°、38°、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θ、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長のときの、レイリー波に対するインピーダンス比(Impedance ratio)の、θ依存性を示すグラフである(共振・反共振周波数間において、実線はリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示す)。
図25】Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜/(0°、115°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、Al厚が0.08波長および0.2波長のときの(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)のLNの膜厚依存性を示すグラフである。
図26】(a) (0°、θLN、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、0°)水晶基板、(b) (0°、θLN、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、90°)水晶基板、(c) (0°、θLN、0°)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、30°~60°)水晶基板における、θLT=38°、85°、154°のときの、TCFのθquartz依存性を示すグラフである。
図27】Al-IDT/(90°、90°、ψ)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板、および、Al-IDT/(90°、90°、ψ)LN薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する縦波型の漏洩弾性表面波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)のψ依存性を示すグラフである。
図28】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/溶融石英基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図29】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/各種基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図30】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/SiO膜/高音速基板、および、Al-IDT/(0°、131°、0°)LN薄膜/SiO膜/高音速基板の構造を有する弾性波共振子の、LSAWのインピーダンス比のSiO膜の膜厚依存性を示すグラフである。
図31】各種IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)の、様々な材質のすだれ状電極の厚み(Electrode thickness)依存性を示すグラフである。
図32】各種IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)の、様々な材質のすだれ状電極のメタライゼーション比(Metalization ratio)依存性を示すグラフである(メタライゼーション比=2×電極幅/波長)。
図33】(a)IDT/圧電薄膜/基板の構造、(b)IDT/圧電薄膜/短絡電極/基板の構造、(c)圧電薄膜/IDT/基板(上図:IDTが基板側に埋め込まれたもの、下図:IDTが圧電薄膜側に埋め込まれたもの)、(d)短絡電極/圧電薄膜/IDT/基板(上図:IDTが基板側に埋め込まれたもの、下図:IDTが圧電薄膜側に埋め込まれたもの)の構造を有する弾性波デバイスの正面図である。
図34】(0°、110°、0°)LT薄膜、および、(0°、132.75°、90°)水晶基板を有する、図33(a)~(d)に示す各構造の弾性波共振子の(a)帯域(Bandwidth)、(b)インピーダンス比(Impedance ratio)の、LTの膜厚依存性を示すグラフである。
図35】(0°、110°、0°)LT薄膜、および、(0°、132.75°、90°)水晶基板を有し、Al-IDTの一部または全部がLT薄膜に埋め込まれている構造、および、Al-IDTがLT薄膜に埋め込まれていない構造を有する弾性波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図36】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/接合膜/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の(a)音速(Phase velocity)、(b)帯域(Bandwidth)、(c)インピーダンス比(Impedance ratio)の、接合膜(Boundary film)の膜厚依存性を示すグラフである。
図37】(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/SiO/Si/(0°、132.75°、90°)水晶基板、(b)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/Si/SiO/(0°、132.75°、90°)水晶基板、(c)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/ZnO/SiO/(0°、132.75°、90°)水晶基板、(d)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/Ta/SiO/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)の、SiOの膜厚依存性を示すグラフである。
図38】(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/SiO/Si/接合膜の3層目/(0°、132.75°、90°)水晶基板、(b)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/Si/SiO/接合膜の3層目/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、接合膜の3層目が様々な材料から成るときのインピーダンス比(Impedance ratio)の、接合膜の3層目(Third layer film)の膜厚依存性を示すグラフである。
図39】Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス(Z)の周波数特性を示すグラフである。
図40】各種IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、高次モードにおけるインピーダンス比(Impedance ratio)の、様々な材質のすだれ状電極の厚み(Electrode thickness)依存性を示すグラフである。
図41】Au-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、132.75°、90°)水晶基板、および、Au-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/短絡電極/(0°、132.75°、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子のインピーダンス比(Impedance ratio)のLTの膜厚依存性を示すグラフである。
図42】(a)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、θ、0°)水晶基板、(b)Al-IDT/(0°、110°、0°)LT薄膜/(0°、θ、90°)水晶基板の構造を有する弾性波共振子の、LTの各種膜厚での、高次モード(1-th)におけるインピーダンス比(Impedance ratio)のθ依存性を示すグラフである。
図43】本発明の実施の形態の弾性波デバイスの製造方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図43は、本発明の実施の形態の弾性波デバイスを示している。
図1(b)に示すように、本発明の実施の形態の弾性波デバイス10は、基板11と、その基板11の上に設けられた圧電薄膜12と、その圧電薄膜12の上に設けられたすだれ状電極(IDT)13とを有している。
【0038】
基板11は、SiOを70質量%以上含んでいる。基板11は、例えば、水晶、パイレックス(登録商標)ガラス、溶融石英、ほう珪酸ガラス、合成石英、石英ガラスなどから成っている。圧電薄膜12は、LiTaO結晶(LT)またはLiNbO結晶(LN)から成っている。また、弾性波共振子の場合、すだれ状電極13を挟むよう設けられた、多数本電極指から成る反射器14を有している。
【0039】
すだれ状電極(IDT)13は、1組から成り、それぞれバスバーと、バスバーの長さ方向に対して垂直方向に伸びるよう、バスバーに接続した複数の電極指21とを有している。各IDT13は、複数の電極指21が互いに交互するように(噛み合うように)配置されている。各IDT13は、各電極指21のピッチがほぼ一定になっている。電極指21がm本の場合、(m-1)/2=Nを対数と呼ぶ。隣り合う電極指21(中央)間の長さをlとすると、2l=λが1周期になり、弾性波デバイスで励振される弾性波の波長に相当する。
【0040】
各反射器14は、弾性表面波の伝搬方向に沿って、すだれ状電極13との間に間隔を開けて、すだれ状電極13を両側から挟むよう設けられている。各反射器14は、1組のバスバーと、各バスバー間に架け渡されて延びる複数の電極指とを有している。各反射器14は、各電極指のピッチが、すだれ状電極13の各電極指のピッチとほぼ同じピッチで、一定になっている。
【0041】
なお、比較のため、図1(a)に、従来の弾性波デバイス50を示す。図1(a)に示すように、従来の弾性波デバイス50は、LTやLNから成る圧電基板51の上に、すだれ状電極(IDT)52が形成された構造を有している。また、すだれ状電極52を挟むよう1組ずつの反射器53を有している。
【0042】
なお、以下では、オイラー角(φ、θ、ψ)を、単に(φ、θ、ψ)で表す。また、圧電薄膜12やすだれ状電極13、すだれ状電極52の厚みを、使用する弾性波デバイスの波長λに対する倍率で表す。また、基板11としては、特に断りがない限り、水晶基板11を用いている。また、以下に示す基板11や圧電薄膜12のオイラー角は、結晶学的に等価なオイラー角であってもよい。
【0043】
[LT、LN、水晶の各基板等の特性の具体例]
図2(a)および(b)に、図1(a)に示す従来の弾性波デバイス50で、(0°、110°、0°)のLT基板から成る圧電基板51、および(0°、132°、0°)のLT基板から成る圧電基板51の上に、それぞれ厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極52を形成して作製したSAW共振子について、得られたインピーダンス(Z)の周波数特性をそれぞれ示す。
【0044】
図2(a)に示すように、(0°、110°、0°)LT基板の場合、共振周波数frと反共振周波数faとの間に大きなリップルがあり、frとfaとの間の帯域BW[=(fa-fr)/fr]は5.2%、共振インピーダンスと反共振インピーダンスとの比(Z比)は53dBであった。また、図2(b)に示すように、(0°、132°、0°)LT基板の場合、frとfaとの間のリップルは改善され、BWは3.8%、インピーダンスの比は63dBであった。
【0045】
図3(a)および(b)に、図1(b)に示す弾性波デバイス10で、LTの圧電薄膜12と水晶基板11とを組み合わせた、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、90°)水晶基板11、および、(0°、120°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板11の上に、それぞれ厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成したものについて、得られたインピーダンス(Z)の周波数特性をそれぞれ示す。
【0046】
図3(a)に示すように、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、90°)水晶基板11の場合、LTのオイラー角が図2(a)と同じであるにもかかわらず、リップルがなくなり、BWは6.1%で約20%広くなり、インピーダンス比は77.5dBで24.5dB大きくなり、大幅に改良されている。このインピーダンス比の増加は、Qでは10倍以上に相当する。また、図3(b)に示すように、(0°、120°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板11の場合、BWは5.5%、インピーダンス比は77.0dBであり、図2(b)と比べて、BWが広くなり、インピーダンス比も15dBと大幅に改良されている。これらのインピーダンス比の増加は、Qでは10倍以上に相当する。この結果から、水晶基板11を用いることにより、LT基板単体の場合と比べて、非常に優れた急峻性および挿入損失の特性を得ることができるといえる。また、結合係数も、わずかではあるが大きくすることができる。
【0047】
なお、(0°、130°、90°)水晶基板11や(0°、130°、0°)水晶基板11では、LSAWとレイリー波とが励振されるが(図5図7および図8参照)、図3の特性はLSAWを用いたものである。レイリー波を用いたときのSAWは、全くあるいは小さなレスポンスしか確認されなかった。
【0048】
図4(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、30°)水晶基板11、および、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、60°)水晶基板11の上に、それぞれ厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成したものについて、得られたインピーダンス(Z)の周波数特性をそれぞれ示す。図4(a)および(b)とも、帯域内に大きなリップルが生じており、良好な特性が得られなかった。しかし、水晶のψが、85°、95°、-5°、5°のときには、図3(a)および(b)と同じ特性が得られている。このように、Al厚とオイラー角によっては、大きなリップルが生じることがあるため、Al厚とオイラー角の選定は重要である。
【0049】
図5に、(0°、130°、ψ)水晶基板11における、レイリー波およびLSAWの音速の伝搬方向ψ依存性を求めたものを示す。図5に示すように、ψ=0°、90°の水晶基板11のLSAW音速は、約5,000m/sと高音速であるが、ψ=30°、60°でのLSAW音速は、約3,800m/sと低音速である。なお、伝搬方向ψに対する音速Vの接線δV/δψが0のとき、PFA(パワーフローアングル)=0となる。図5のレイリー波ではψ=0°、35°、90°で、漏洩弾性表面波ではψ=0°、42°、90°近傍で、PFA=0となる。
【0050】
図3乃至図5に示すように、用いたLT薄膜12のLSAW音速が4100m/sであるのに対し、LSAW音速が3,800m/sで低音速である(0°、130°、30°)および(0°、130°、60°)の水晶基板11を用いた場合には、Al厚が0.08波長のときは、良好な特性が得られず、LSAW音速が5,000m/s程度で高音速の(0°、130°、0°)および(0°、130°、90°)の水晶基板11を用いた場合には、良好な特性が得られている。また、図2および図3に示すように、(0°、110°、0°)LT基板と(0°、132°、0°)LT基板とでは、前者の方が大きな漏洩成分をもつにもかかわらず、特性改善効果が大きい。これらの結果から、特性向上の大きな原因として、LT薄膜12よりもLSAWが高音速の水晶基板11を接合することにより、LT薄膜12のLSAWの漏洩成分がゼロになることが考えられる。
【0051】
図6(a)および(b)に、高音速を持つ(110)面(001)方向伝搬Si基板およびcサファイア基板に、それぞれ(0°、132°、0°)LT薄膜(厚み0.15波長)を接合し、その上にそれぞれ厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極を形成したSAW共振子について、得られたインピーダンス(Z)の周波数特性をそれぞれ示す。図6(a)に示すように、Si基板を用いた場合、BWは4.4%、インピーダンス比は69dBであった。また、図6(b)に示すように、サファイア基板を用いた場合、BWは5.7%、インピーダンス比は68dBであった。
【0052】
図6(a)および(b)に示す特性は、図2(b)のLT基板単体のSAW共振子の特性に比べ、BWは広く、インピーダンス比は5から6dB良好になっているが、図3に示すLT薄膜12/水晶基板11の方が、より良好な特性を有している。水晶、LT,LNなどの圧電基板は、レイリー波の他に、LSAWが励起されるが、Si基板やサファイア基板は圧電性がないため、SAWモードのうちレイリー波しか励起されない。このことから、Si基板やサファイア基板を使用するより、水晶基板11を使用した方が良好な特性が得られるのは、用いた水晶基板11がLT薄膜12と同じLSAWを使用しているのに対し、Si基板やサファイア基板では、LT薄膜に比べバルク波の横波音速が大きく、かつ、使用したLT薄膜のLSAWとは異なるレイリー波を用いているためだと考えられる。
【0053】
以上の結果から、用いるLT、LNなどの圧電薄膜12に対し、バルク波の横波の音速が近く、その音速よりSH成分を主成分とする高音速の基板を下地基板として接合することにより、良好な特性が得られる。圧電薄膜12と基板とのLSAWの音速差は、大きければ大きいほど好ましく、例えば300m/s以上であることが好ましく、さらに600m/s以上であることが好ましい。
【0054】
図7(a)および(b)に、(0°、θ、0°)水晶基板11のレイリー波とLSAWの、音速およびTCFのθ依存性をそれぞれ示す。また、図7(c)に、LSAWの縦波の変位成分U1、SH成分U2、SV成分U3の基板表面での変位の比率を示す。図7(a)に示すように、θ=70°~165°で4,500m/s以上、θ=90°~150°で4,800m/s以上、θ=100°~140°で5,000m/s以上の高音速が得られている。また、図7(b)に示すように、レイリー波では、θ=0°~132°でTCFがプラスになり、LSAWでは、θ=0°~18°、43°~66°、132°~180°でTCFがプラスになっている。LSAWでマイナスのTCFを有するLTおよびLNとの組み合わせでは、このレイリー波やLSAWでTCFがプラスになるオイラー角を有する水晶基板11が好ましく、ゼロppm/℃に近い良好なTCFを得ることができる。より好ましくは、+5ppm/℃以上のTCFを有する、レイリー波のθ=0°~130°、LSAWのθ=0°~16°、44°~65°、135°~180°の水晶基板11と組み合わせることにより、より良好なTCFを得ることができる。また、図7(c)に示すように、LSAW音速の大きいθ=70°~165°で、SH成分(U2成分)が50%以上と多くなっていることがわかる。
【0055】
図8(a)および(b)に、(0°、θ、90°)水晶基板11のレイリー波とLSAWの、音速およびTCFのθ依存性をそれぞれ示す。また、図8(c)に、LSAWの縦波の変位成分U1、SH成分U2、SV成分U3の基板表面での変位の比率を示す。図8(a)に示すように、θ=90°~150°で4,500m/s以上、θ=103°~143°で4,800m/s以上、θ=110°~135°で5,000m/s以上の高音速が得られている。また、図8(b)に示すように、レイリー波では、θ=0°~42°、170°~180°でTCFがプラスになり、LSAWでは、θ=0°~41°、123°~180°でTCFがプラスになっている。LSAWでマイナスのTCFを有するLTおよびLNとの組み合わせでは、レイリー波やLSAWでTCFがプラスになるオイラー角を有する水晶基板11が好ましく、ゼロppm/℃に近い良好なTCFを得ることができる。より好ましくは、+5ppm/℃以上のTCFを有する、レイリー波ではθ=0°~39°、172°~180°、LSAWではθ=0°~39°、126°~180°の水晶基板11と組み合わせることにより、より良好なTCFを得ることができる。また、図8(c)に示すように、LSAW音速の大きいθ=85°~165°で、SH成分(U2成分)が65%以上と多くなっていることがわかる。
【0056】
図9に、各種オイラー角の水晶基板11の音速を示す。図9に示すオイラー角の水晶基板11では、ψ=0°~20°、70°~120°、160°~180°で、4,500m/s以上の高音速が得られている。また、図示していないが、(1°~39°、100°~150°、0°~20°)、(1°~39°、100°~150°、70°~120°)、(1°~39°、100°~150°、160°~180°)で、高音速のLSAWが得られる。
【0057】
弾性波デバイスでは、LSAWが斜めに伝搬しないよう、パワーフローアングルがゼロに近い方向(LSAWの伝搬方向の接線がゼロの伝搬方向)の基板を使用するのが好ましい。図9に示すオイラー角の水晶基板11では、パワーフローアングルがゼロに近い方向は、(0°±5°、θ、35°±8°)、(10°±5°、θ、42°±8°)、(20°±5°、θ、50°±8°)、(0°±5°、θ、0°±5°)、(10°±5°、θ、0°±5°)、(20°±5°、θ、0°±5°)、(0°±5°、θ、90°±5°)、(10°±5°、θ、90°±5°)、(20°±5°、θ、90°±5°)であり、これらのオイラー角の基板を用いることが好ましい。
【0058】
[LT薄膜/水晶基板の構造を有する弾性波デバイスの具体的な実施例]
図10(a)および(b)に、(0°、θ、0°)LT基板のレイリー波とLSAWの、音速および電気機械結合係数(結合係数:coupling factor)のθ依存性を示す。また、図10(c)に、(0°、θ、0°)LT基板のLSAWの、TCFのθ依存性を示す。図10(a)および(b)に示すように、LT基板では一般的に、漏洩成分が小さく、結合係数が4%以上である、θ=120°~146°のLSAWが使用されている。このときの音速Vm(基板表面を電気的に短絡した時の音速)は、4,000~4,100m/sである。しかし、フィルタの帯域は、使用する基板の結合係数に依存するため、所望の帯域を満足させる結合係数を選ぶ必要がある。本発明の実施の形態の弾性波デバイス10によれば、LTの下に同程度あるいは高音速な基板を使用すると漏洩成分が小さくなるため、結合係数が大きいθ=65°~148°を使用し、そのときの音速3,700~4,100m/sと同程度あるいはそれより高音速である水晶基板11を用いることにより、良好な特性が得られる。
【0059】
また、図10(c)に示すように、LT基板のLSAWのTCFはいずれもマイナスで、-30~-70ppm/℃である。LT基板単体で使用されているθ=120°~146°のLSAWのTCFは、約-33ppm/℃であるが、レイリー波やLSAWのプラスのTCFを有する水晶基板11、すなわち図7に示すレイリー波の(0°、0°~130°、0°)、LSAWの(0°、132°~180°、0°)の水晶基板11、または、図8に示すレイリー波の(0°、0°~39°、90°)、(0°、172°~180°)、LSAWの(0°、0°~41°、90°)、(0°、123°~180°、90°)の水晶基板11と組み合わせることにより、LT基板単体のTCFの1/3以下の良好なTCFが得られる。
【0060】
図11(a)および(b)に、(0°、θ、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、115°~145°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた共振子の帯域およびインピーダンス比の、LTのθ依存性を示す。なお、図11(a)および(b)のグラフ中のθは、水晶基板11のθである。図11(a)に示すように、LTのθ=82°~148°で、3.5%の帯域が得られている。また、図11(b)に示すように、LTのθ=85°~148°で、70dB以上、LTのθ=90°~140°で、73dB以上、LTのθ=95°~135°で、75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0061】
図12(a)にAl厚0.08波長のときの、図12(b)にAl厚0.2波長のときの、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板11の上に、Alのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、水晶のθ依存性を示す。図12(a)では、実線は共振子のfr~fa間の帯域内にリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示している。水晶の(0°、115°~145°、0°)で、良好なインピーダンス比が得られているがそれ以外では、リップルが見られる。しかし、図12(b)ではほとんど、リップルは見られず、どの方位角でも大きなインピーダンスが得られている。このように、Al電極厚により、インピーダンス比のθ依存性が異なる。なお、図示していないが、Al電極厚が0.08波長以上では、Al電極厚が0.2波長に近い特性が得られている。Al電極が0.08波長のとき、図7(b)から、水晶のLSAWがプラスのTCFとなる範囲を考慮すると、水晶基板11が(0°、132°~145°、0°)であることが好ましく、(0°、135°~145°、0°)であることがより好ましい。この場合、マイナスのTCFを有するLT薄膜12と、プラスのTCFを有する水晶基板11とを組み合わせることにより、弾性波デバイス10のTCFを大幅に改善することができる。特に、水晶基板11が(0°、135°~145°、0°)のときには、より良好なTCFが得られる。
【0062】
図13(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、130°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LTの膜厚依存性を示す。図13(a)に示すように、LTの膜厚が0.02波長~2波長で、3%以上の帯域が得られている。また、図13(b)に示すように、Al厚が0.08波長のとき、LTの膜厚が0.01波長~0.6波長で70dB以上、0.02波長~0.4波長で73dB以上、0.03波長~0.3波長で75dBのインピーダンス比が得られている。一方、Al厚が0.2波長のときは、LT厚2波長以下で70dBのインピーダンス比が、0.02波長~0.043波長で73dB以上、0.03波長~0.33波長で75dBのインピーダンス比が得られている。なお、Al厚が0.1波長~0.3波長のときも、Al厚が2波長のときとほぼ同じ値を示す。
【0063】
図14(a)および(b)に、(0°、θ、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、100°~175°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LTのθ依存性を示す。なお、図14(a)および(b)のグラフ中のθは、水晶基板11のθである。図14(a)に示すように、水晶基板11のθ=165°、175°を除けば、LTのθ=75°~155°で3.5%の帯域が得られている。また、図14(b)に示すように、LTのθ=80°~152°で70dB以上、θ=90°~140°で73dB以上、θ=95°~135°で75dB以上、LTのθ=103°~125°でおおむね77dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0064】
図15(a)に、(0°、120°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、水晶基板11のθ依存性を示す。図中、実線は共振子の帯域内にリップルのない特性を、破線はリップルのある特性を示している。一方、図15(b)に、LT厚が0.15波長のとき、Al厚が0.1波長、ならびに、LT厚が1.25波長および2波長のとき、Al厚が0.2波長の、インピーダンス比とオイラー角θとの関係を示す。
【0065】
Al厚の0.08波長の図15(a)では、水晶の(0°、100°~165°、90°)で、良好なインピーダンス比が得られている。図8(b)から、Al厚の0.08波長近傍では、水晶のレイリー波やLSAWがプラスのTCFとなる水晶基板11のオイラー角が(0°、123°~165°、90°±5°)であることが好ましく、+5ppm/℃以上のTCFとなる水晶のオイラー角(0°、126°~165°、90°±5°)がより好ましく、+7ppm/℃以上のTCFとなる(0°、127°~165°、90°±5°)であることがさらに好ましい。この場合、マイナスのTCFを有するLT薄膜12と、プラスのTCFを有する水晶基板11とを組み合わせることにより、弾性波デバイス10のTCFを大幅に改善することができる。特に、水晶基板11が(0°、127°~165°、90°±5°)のときには、より良好なTCFが得られる。
【0066】
図15(c)に、Al厚が0.1波長のときの、(0°、120°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、125.25°、90°)水晶基板11の周波数特性を示す。この水晶の方位角では、特定のAl厚で帯域内にリップルが発生しており、そのために図15(b)のインピーダンス比が他の方位角より小さくなっている。特に、(0°、126°、0°)LT薄膜12との組み合わせのときに大きなリップルが発生しやすいため、(0°、126°、0°)LT薄膜12と(0°、125.25°、90°)水晶基板11との組み合わせは避けるのが望ましい。
【0067】
図16(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、128°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LTの膜厚依存性を示す。図16(a)に示すように、図13(a)とほぼ同じ特性が得られ、LTの膜厚が0.04波長以上2波長以下で、3%以上の帯域が得られている。また、図16(b)に示すように、図13(b)とほぼ同じ特性が得られ、Al厚が0.08波長のとき、LTの膜厚が0.01波長~0.6波長で70dB以上、0.02波長~0.4波長で73dB以上、0.03波長~0.3波長で75dBのインピーダンス比が得られている。一方、Al厚が0.2波長のとき、LT厚が2波長以下で70dBのインピーダンス比が、0.02波長~0.0.43波長で73dB以上、0.03波長~0.33波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。なお、Al厚が0.1波長以下では、0.08波長と同程度の値を示し、Al厚が0.1波長~0.3波長のとき、Al厚が0.2波長のときとほぼ同じ値を示す。
【0068】
図17(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、45°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.12波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ、LT薄膜12の厚みが0.15波長のときのインピーダンス(Z)の周波数特性および、インピーダンス比のLTの膜厚依存性を示す。ここで、使用した(0°、45°、0°)水晶基板11は、レイリー波のTCFがプラスの25ppm/℃、レイリー波の音速が3270m/s、LSAWの音速が3950m/sである。図17(a)に示すように、周波数は3GHzと低いが、75dBの良好なインピーダンス比が得られている。また、図17(b)に示すように、LTの膜厚が0.43波長以下で、70dB以上のインピーダンス比が得られている。このように、Al電極を少し厚くすることにより、LSAW音速の遅い基板でも良好な特性が得られる。
【0069】
図18に、(0°、110°、0°)LT薄膜12/(20°、120°、115°)水晶基板11、および、(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、130°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、インピーダンス比のLTの膜厚依存性を示す。ここで、使用した(20°、120°、115°)水晶基板11は、音速5000m/s前後の高音速のS波(fast shear wave)を励振する方位角を有し、(0°、130°、0°)水晶基板11は、高音速のLSAWを励振する方位角を有するものである。図18に示すように、(0°、130°、0°)水晶基板11のものでは、70dB以上のインピーダンス比が得られるのは、LT厚が0.8波長以下のときだけであるのに対し、高音速のS波の(20°、120°、115°)水晶基板11のものでは、LT厚が10波長でも72dBのインピーダンス比が得られ、図示していないが、LT厚が20波長でも70dBが得られている。このような高音速S波のオイラー角には、(20°±5°、120°±10°、115°±10°)、(0°±5°、90°±5°、0°±10°)、(0°±5°、90°、75°±10°)、(0°±5°、0°、0°±10°)、(0°±5°、0°、60°±10°)がある。
【0070】
図19(a)~(c)にそれぞれ、(0°、θLT、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、0°)水晶基板11、(0°、θLT、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、90°)水晶基板11、(0°、θLT、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、30°~60°)水晶基板11における、TCFのθquartz依存性を示す。図19(c)の水晶基板11の30°~60°は伝搬方向であり、水晶基板11のθに応じてPFA=0の伝搬方向が少しずつ変化するが、PFA=0の伝搬方向はいずれも、30°~60°の範囲内である。LT薄膜12は、最適方位角(0°、80°~148°、0°)のうち、図10(c)に示すTCFの絶対値のほぼ最大値を示す(0°、125°、0°)、最小値を示す(0°、80°、0°)および(0°、148°、0°)について示した。図19(a)~(c)に示すように、LT薄膜12のTCFの半分で、実用的な-20~+20ppm/℃を実現できる水晶基板11の方位角は、(0°±5°、0°~23°、0°±5°)、(0°±5°、32°~69°、0°±5°)、(0°±5°、118°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~62°、90°±5°)、(0°±5°、118°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~72°、30°~60°)、(0°±5°、117°~180°、30°~60°)である。より良好な-10~+10ppm/℃を実現できる水晶基板11の方位角は、(0°±5°、0°~12°、0°±5°)、(0°±5°、37°~66°、0°±5°)、(0°±5°、132°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~50°、90°±5°)、(0°±5°、126°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~17°、30°~60°)、(0°±5°、35°~67°、30°~60°)、(0°±5°、123°~180°、30°~60°)である。
【0071】
[LN薄膜/水晶基板の構造を有する弾性波デバイスの具体的な実施例]
図20(a)および(b)に、(0°、θ、0°)LN基板のレイリー波とLSAWの、音速および電気機械結合係数のθ依存性を示す。また、図20(c)に、(0°、θ、0°)LN基板のレイリー波とLSAWの、TCFのθ依存性を示す。図20(a)および(b)に示すように、LN基板では一般的に、漏洩成分が小さく結合係数が大きい、θ=131°~154°のLSAWや、結合係数が大きい、θ=90°近傍のLSAWや、基板表面に音速の遅い電極を用いて、漏洩成分をゼロにしたラブ波などが使用されている。使用されているLSAWの音速Vmは、4,150~4,450m/sである。
【0072】
また、図20(c)に示すように、LN基板のLSAWのTCFはいずれもマイナスであり、LN基板単体で使用されているθ=131°~154°やθ=90°近傍のLSAWのTCFは、-73~-93ppm/℃と良くない。
【0073】
図21に、LSAW音速が4,250m/sの(0°、131°、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)と、LSAW音速が5,040m/sの(0°、115°、90°)水晶基板11(図8(a)参照)とを組み合わせ、LN薄膜12の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波共振子について、得られたインピーダンス(Z)の周波数特性を示す。図21に示すように、インピーダンス比は、79.3dBであり、LN基板単体の従来のSAW特性に比べ19dB大きくなった。このように、LNを用いても、LTの場合と同様に、良好な特性が得られる。すなわち、結合係数が大きいLN薄膜12を使用し、そのときのLSAW音速と同程度あるいは音速より高音速である水晶基板11を用いることにより、良好な特性が得られる。
【0074】
図22(a)に、(0°、θ、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、LSAWおよびレイリー波に対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、LNのθ依存性を示す。図22(a)に示すように、LSAWの場合、Al厚0.08波長と0.2波長のときの共振子のインピーダンス比を示し、中央に広がるインピーダンス比70dB以上の実線がリップルのない良好な特性を、両側の70dB以下の破線がリップルのある特性を示している。Al厚が0.08波長のとき、LNのθ=100°~160°で、Al厚が0.2波長のとき、LNのθ=70°~165°で、大きなインピーダンス比が得られている。Al厚が0.06波長から0.09波長のときには、Al厚が0.08波長と同じインピーダンス比を示す。Al厚が0.09波長から0.22波長のときには、0.2波長のときと同じインピーダンス比が得られる。一方、レイリー波の場合、Al厚が0.08波長のときの共振子のインピーダンス比を示し、LNのθ=35°~70°で70dB以上、θ=45°~63°で75dB以上の大きなインピーダンス比が得られている。
【0075】
図22(b)に、(0°、131°、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、LSAWに対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比、ならびに、(0°、55°、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、レイリー波に対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、水晶基板11のθ依存性を示す。図中、両側に分かれた75dB以下のインピーダンス比を示しているのは、帯域内にリップルのある特性であり、インピーダンス比75dB以上の値を示しているのはリップルのない良好な特性である。図22(b)に示すように、(0°、131°、0°)LN薄膜12のものは、Al厚が0.08波長でも、水晶のθ=120°~145°で、大きなインピーダンス比が得られているが、Al厚が0.2波長のときには、全方位角で大きなインピーダンス比が得られている。なお、Al厚が0.06波長から0.09波長ときには、Al厚が0.08波長と同じインピーダンス比を示す。Al厚が0.09波長から0.22波長のときには、0.2波長のときと同じインピーダンス比が得られる。Al厚が0.08波長のときには、図7(b)から、水晶基板11のLSAWのTCFがプラスとなるオイラー角は、(0°、132°~180°、0°±5°)であり、+5ppm/℃のTCFとなるオイラー角は、(0°、135°~180°、0°±5°)である。この場合、マイナスのTCFを有するLN薄膜12と、プラスのTCFを有する水晶基板11とを組み合わせることにより、弾性波デバイス10のTCFを大幅に改善することができる。図7(b)および図22(b)の結果から、TCFとインピーダンス比とを考慮すると、水晶基板11のオイラー角は(0°、132°~145°、0°±5°)であることが好ましく、(0°、135°~145°、0°±5°)であることがより好ましい。一方、図22(b)に示すように、(0°、55°、0°)LN薄膜12のものは、実線で示すように、水晶基板11のオイラー角が(0°、90°~178°、0°±5°)で、70dBのインピーダンス比が得られている。また、破線部分はリップがあり、インピーダンス比が70dB以下の特性を示している。この水晶基板11の方位角では、LSAWあるいはレイリー波のいずれかが、TCFプラスを示している。
【0076】
図23(a)および(b)に、(0°、131°、0°)LN薄膜12/(0°、130°、0°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LNの膜厚依存性を示す。図23(a)に示すように、LNの膜厚が0.03波長~2波長で、7%以上の帯域が得られている。また、図23(b)に示すように、Al厚が0.08波長のとき、LNの膜厚が0.012波長~0.6波長で70dB以上、0.02波長~0.5波長で73dB以上、0.03波長~0.33波長で75dBのインピーダンス比が得られている。Al厚が0.2波長のとき、LNの膜厚が0.012波長~2波長で70dB以上、0.02波長~0.7波長で73dB以上、0.03波長~0.4波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0077】
図24(a)に、(0°、θ、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、130°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、LSAWおよびレイリー波に対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、LNのθ依存性を示す。図24(a)に示すように、LSAWの場合、Al厚0.08波長と0.2波長のときの共振子のインピーダンス比を示し、インピーダンス比70dB以上の中央の実線が帯域内にリップルのない特性を、両側の70dB以下の破線がリップルのある特性を示している。Al厚が0.08波長のとき、LNのθ=95°~155°で、Al厚が0.2波長のとき、θ=70°~170°で、大きなインピーダンス比が得られている。なお、Al厚が0.06波長から0.09波長のときには、Al厚が0.08波長と同じインピーダンス比を示す。Al厚が0.09波長から0.22波長のときには、0.2波長のときと同じインピーダンス比が得られる。一方、レイリー波の場合、Al厚が0.08波長のときの共振子のインピーダンス比を示し、LNのθ=25°~51°で70dB以上、θ=29°~47°で75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0078】
図24(b)に、(0°、131°、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、LSAWに対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比、ならびに、(0°、38°、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θ、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、レイリー波に対して得られた弾性波共振子のインピーダンス比の、水晶基板11のθ依存性を示す。図24(b)に示すように、LSAWの場合、インピーダンス比70dB以上の中央の実線が帯域内にリップルのない特性を、両側の70dB以下の破線がリップルのある特性を示している。Al厚が0.08波長のとき、水晶のθ=90°~155°で、Al厚が0.2波長のとき、全方位角で、大きなインピーダンス比が得られている。なお、Al厚が0.06波長から0.09波長のときには、Al厚が0.08波長と同じインピーダンス比を示す。Al厚が0.09波長から0.22波長のときには、0.2波長のときと同じインピーダンス比が得られる。一方、図8(b)から、水晶基板11は、LSAWのTCFがプラスとなるオイラー角は、(0°、123°~180°、90°±5°)であり、+5ppm/℃のTCFとなるオイラー角は、(0°、126°~180°、90°±5°)である。この場合、マイナスのTCFを有するLN薄膜12と、プラスのTCFを有する水晶基板11とを組み合わせることにより、弾性波デバイス10のTCFを大幅に改善することができる。図8(b)および図24(b)の結果から、TCFとインピーダンス比とを考慮すると、水晶基板11のオイラー角は(0°、123°~155°、90°±5°)であることが好ましく、(0°、126°~155°、90°±5°)であることがより好ましい。さらに好ましいのは、水晶のLSAWのTCFが+7ppm/℃以上の(0°、127°~155°、90°±5°)である。一方、レイリー波の場合、水晶基板11のオイラー角が(0°、80°~160°、90°±5°)で70dBの、(0°、115°~145°、90°±5°)で75dBのインピーダンス比が得られている。LSAWやレイリー波がプラスTCFを示す方位角を考慮に入れると、水晶基板11のオイラー角は、(0°、125°~160°、90°±5°)が望ましい。
【0079】
図25(a)および(b)に、(0°、131°、0°)LN薄膜12/(0°、115°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長および0.2波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LNの膜厚依存性を示す。図25(a)に示すように、LNの膜厚が0.012波長~2波長で、5%以上の帯域が得られている。また、図25(b)に示すように、Al厚が0.08波長のとき、LNの膜厚が0.01波長~0.5波長で70dB以上、0.02波長~0.33波長で73dB以上、0.06波長~0.3波長で75dBのインピーダンス比が得られている。一方、Al厚が0.2波長のとき、LNの膜厚が0.01波長~2波長で70dB以上、0.02波長~0.43波長で73dB以上、0.06波長~0.36波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0080】
図26(a)~(c)にそれぞれ、(0°、θLN、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、0°)水晶基板11、(0°、θLN、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、90°)水晶基板11、(0°、θLN、0°)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、θquartz、30°~60°)水晶基板11における、TCFのθquartz依存性を示す。図26(c)の水晶基板11の30°~60°は伝搬方向であり、水晶基板11のθに応じてPFA=0の伝搬方向が少しずつ変化するが、PFA=0の伝搬方向はいずれも、30°~60°の範囲内である。LN薄膜12は、最適方位角(0°±5°、75~165°、0°±5°)のうち、図20(c)に示すLSAWのTCFの絶対値の最小値を示す(0°、154°、0°)、最大値を示す(0°、85°、0°)、およびレイリー波の最適方位の(0°、38°、0°)について示した。図26(a)~(c)に示すように、TCFの実用的な-20~+20ppm/℃を実現できる水晶基板11の方位角は、LSAWでは、(0°±5°、0°~16°、0°±5°)、(0°±5°、42°~64°、0°±5°)、(0°±5°、138°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、130°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~28°、30°~60°)、(0°±5°、42°~70°、30°~60°)、(0°±5°、132°~180°、30°~60°)である。レイリー波では、(0°±5°、32°~118°、0°±5°)、(0°±5°、0°~30°、90°±5°)、(0°±5°、173°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~142°、30~60°)である。より良好な-10~+10ppm/℃を実現できる水晶基板11の方位角は、LSAWでは、(0°±5°、43°~61°、0°±5°)、(0°±5°、147°~180°、0°±5°)、(0°±5°、0°~15°、90°±5°)、(0°±5°、134°~180°、90°±5°)、(0°±5°、0°~23°、30°~60°)、(0°±5°、43°~67°、30°~60°)、(0°±5°、137°~180°、30°~60°)である。レイリー波では、(0°±5°、40°~102°、0°±5°)、(0°±5°、0°~17°、90°±5°)、(0°±5°、175°~180°、90°±5°)、(0°±5°、13°~130°、30~60°)である。
【0081】
図27に、(90°、90°、ψ)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11、および、(90°、90°、ψ)LN薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した、縦波型の漏洩弾性表面波共振子の弾性波デバイス10について、インピーダンス比のLTのψ依存性を示す。図27に示すように、LT薄膜12のものでは、ψ=33°~55°、125°~155°のときに、LN薄膜12のものでは、ψ=38°~65°、118°~140°のときに、70dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0082】
[水晶以外の基板の検討]
基板11として、水晶以外の材料について検討を行った。図28に、基板11として溶融石英基板を用い、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/溶融石英基板の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、インピーダンス(Z)の周波数特性を示す。また、表7に、溶融石英など、基板11等の薄膜に使用される各種材料の定数を示す。表7に示すように、使用した溶融石英は、SiOが100質量%であり、バルク波の横波の音速が約3,757m/sである。図28に示すように、溶融石英基板で、76dBの良好なインピーダンス比が得られている。表7に示すように、SiO膜は溶融石英と同じ定数であり、SiOを成分とする膜は、SiOFやSiONなどの膜であり、SiO以外の成分をZとしたとき、SiOの化学式において、xがx+yに対し30%以上である膜を示している。この膜は、SiO膜と同じ特性が得られる。
【0083】
【表7】
【0084】
図29に、基板11として、パイレクスガラス、ほう珪酸ガラス、合成石英、溶融石英、石英ガラスの基板を用い、それぞれ(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/各種基板の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、インピーダンス比のLTの膜厚依存性を示す。図29に示すように、SiOの含有率が高い溶融石英、合成石英、石英ガラスの基板では、LTの膜厚が0.52波長以下で、SiOの含有率が70~80質量%程度のパイレクスガラス、ほう珪酸ガラスの基板では、LTの膜厚が0.34波長以下で、70dB以上の良好なインピーダンス比が得られている。なお、LT薄膜の代わりにLN薄膜を用いた場合でも、同様な特性が得られることも確認している。
【0085】
図30に、(0°、110°、0°)LT薄膜12/SiO膜/高音速基板、および、(0°、131°、0°)LN薄膜12/SiO膜/高音速基板の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、LSAWのインピーダンス比のSiO膜の膜厚依存性を示す。表7に示すサファイアやアルミナ(Al)、SiCなどの、横波音速が5,900m/s以上の高音速基板上にLT薄膜やLN薄膜を形成しただけでは、図6(b)のcサファイア基板の例のように、70dB以下のインピーダンス比しか得えられない。しかし、図30に示すように、高音速基板と薄膜との境界に、0.15波長のSiO膜を形成することにより、LT薄膜で73dB、LN薄膜で78dBの大きなインピーダンス比が得られる。また、SiO膜の膜厚が0.3波長以上では、LT薄膜で75dB、LN薄膜で79dBの大きなインピーダンス比が得られる。厚いSiO膜が形成された基板は反ってしまうため、SiO膜をあまり厚くすることは好ましくない。このため、SiO膜の膜厚は、1波長以下、できれば0.5波長以下が望ましい。
【0086】
[すだれ状電極についての検討]
すだれ状電極13の最適な厚みやメタライゼーション比について検討を行った。図31(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、様々な材質のすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、すだれ状電極13の厚み依存性を示す。すだれ状電極13として、Al、Cu、MoおよびPtから成るものを用いた。また、すだれ状電極13のメタライゼーション比は、0.5とした。
【0087】
図31(a)に示すように、すだれ状電極13がいずれの材質であっても、電極厚みが0.005~0.2波長で、4%以上の帯域が得られている。また、図31(b)に示すように、すだれ状電極13が密度2,699kg/mのAlから成る場合、電極厚みが0.005~0.32波長で70dB以上、0.005~0.28波長で73dB以上、0.005~0.25波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。また、すだれ状電極13が密度8,930kg/mのCuから成る場合、電極厚みが0.005~0.20波長で70dB以上、0.005~0.19波長で73dB以上、0.005~0.18波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0088】
また、すだれ状電極13が密度10,219kg/mのMoから成る場合、電極厚みが0.005~0.28波長で70dB以上の、0.005~0.27波長で73dB以上、0.005~0.20波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。また、すだれ状電極13が密度21,400kg/mのPtから成る場合、電極厚みが0.005~0.20波長で70dB以上、0.005~0.13波長で73dB以上、0.005~0.11波長で75dB以上のインピーダンス比が得られている。
【0089】
このように、電極の種類により、最適な厚みが異なり、低密度の電極ほど、大きなインピーダンス比のとれる最適厚みの範囲が広い。このことから、最適厚みの範囲は電極の密度に依存するといえる。最適厚みの範囲と電極の密度との関係を、表8に示す。表8中の「A」は70dB以上のインピーダンス比が得られる条件、「B」は73dB以上のインピーダンス比が得られる条件、「A」は75dB以上のインピーダンス比が得られる条件を示している。合金や多層電極膜を用いる場合には、電極厚みと理論的な電極密度から平均密度を求め、その平均密度に基づいて、表8から最適な電極厚みを求めればよい。なお、表8の関係は、圧電薄膜12がLNから成る場合でも適用できることを確認している。
【0090】
【表8】
【0091】
図32(a)および(b)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、各材質のすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、電極のメタライゼーション比依存性を示す。各すだれ状電極13は、それぞれ図31(b)から求めた最適膜厚とした。すなわち、すだれ状電極13がAlのとき、電極厚みは0.08波長、Cuのとき0.045波長、Moのとき0.05波長、Ptのとき0.03波長とした。
【0092】
図32(a)に示すように、すだれ状電極13がいずれの材質であっても、メタライゼーション比が0.5より小さいところで、最も広い帯域が得られている。また、図32(b)に示すように、電極の種類により、インピーダンス比が高くなるメタライゼーション比、すなわち最適なメタライゼーション比が異なっている。表9に、最適メタライゼーション比と電極の密度との関係を示す。表9中の「A」は高いインピーダンス比(概ね75.5dB以上)が得られる条件、「B」はより高いインピーダンス比(概ね76.5dB以上)が得られる条件、「C」は最も高いインピーダンス比(概ね77.5dB以上)が得られる条件を示している。合金や多層電極膜を用いる場合には、電極厚みと理論的な電極密度から平均密度を求め、その平均密度に基づいて、表9から最適なメタライゼーション比を求めればよい。なお、表9の関係は、圧電薄膜12がLNから成る場合でも適用できることを確認している。
【0093】
【表9】
【0094】
[水晶基板、圧電薄膜、すだれ状電極および短絡電極の配置の変形例]
図1(b)には、弾性波デバイス10として、IDT(すだれ状電極)13/圧電薄膜12/水晶基板11の構造を示しているが、短絡電極31を含めて、図33(a)~(d)に示すような構造も考えられる。なお、図33では、圧電薄膜12がLiTaO結晶(LT)から成り、基板11が水晶基板から成る例を示している。図33(a)は、IDT13/圧電薄膜12(LT)/基板11から成る構造であり、図1(b)と同じ構造である。図33(b)は、IDT13/圧電薄膜12(LT)/短絡電極31/基板11である。図33(c)は、圧電薄膜12(LT)/IDT13/基板11であり、IDT13が基板11の側に埋め込まれているもの(上図)と、圧電薄膜12の側に埋め込まれているもの(下図)がある。図33(d)は、短絡電極31/圧電薄膜12(LT)/IDT13/基板11であり、IDT13が基板11の側に埋め込まれているもの(上図)と、圧電薄膜12の側に埋め込まれているもの(下図)がある。
【0095】
図34(a)および(b)に、図33(a)~(d)の4通りの構造の弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の帯域およびインピーダンス比の、LTの膜厚依存性を示す。ここで、圧電薄膜12は、(0°、110°、0°)LT薄膜であり、水晶基板11は、(0°、132.75°、90°)水晶基板であり、IDT13は、厚みが0.08波長のAl電極である。なお、短絡電極31は、薄い電極面が水晶基板11や圧電薄膜12の表面全体を覆うよう設けられたもので、その電極面が全て電気的に短絡されている。また、短絡電極31は、IDT13には接続されていない浮き電極である。
【0096】
図34(a)に示すように、LTの膜厚がいずれの膜厚であっても、図33(a)に示すIDT/LT/水晶の構造で、もっとも広い帯域が得られている。また、図34(b)に示すように、図33(a)に示すIDT/LT/水晶、および図33(b)に示すIDT/LT/短絡電極/水晶の構造で、大きなインピーダンス比が得られている。なお、必要とされる帯域は用途によって異なるが、インピーダンス比は、機械的Qに大きく影響を与えるため、大きいほど良い。このため、図33(b)に示す構造であっても、図33(a)に示す構造と同じ条件で、同様の効果が得られると考えられる。
【0097】
また、図35に示すように、弾性波デバイス10は、IDT13の全体が圧電薄膜12に埋め込まれていてもよく、下部が圧電薄膜12に埋め込まれ、上部が圧電薄膜12から突出するよう設けられていてもよい。図35には、それら2つの構造および図33(a)の構造の弾性波デバイス10について、それぞれ得られたインピーダンス比の圧電薄膜12の膜厚依存性を示す。ここで、圧電薄膜12は、(0°、110°、0°)LT薄膜であり、水晶基板11は、(0°、132.75°、90°)水晶基板であり、IDT13は、厚みが0.08波長のAl電極である。図35に示すように、LTの膜厚が0.5波長以下ではいずれの構造とも、よく似たインピーダンス比が得られている。また、図35に示すように、圧電薄膜12にIDT13を埋め込んだ構造では、埋め込んでいない構造に比べ、音速が速く、高周波化に有利であると考えられる。
【0098】
[接合膜を有する変形例]
図1(c)に示すように、弾性波デバイス10は、水晶基板11と圧電薄膜12との間に、絶縁性の接合膜32を有していてもよい。接合膜32は、吸音性が小さく、硬い材質のものから成ることが好ましく、例えば、五酸化タンタル(Ta)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化シリコン(SiO)、多結晶Si、窒化シリコン(Si:x,yは整数)などから成っている。
【0099】
図36(a)~(c)に、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/接合膜32/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、それぞれ得られた弾性波共振子の音速、帯域およびインピーダンス比の、接合膜32の膜厚依存性を示す。接合膜32としては、五酸化タンタル(Ta)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化シリコン(SiO)、多結晶Si、および窒化シリコン(Si:x,yは整数)を用いた。用いた接合膜32の材料定数を、表7に示す。なお、表7には、検討には用いていないが、接合膜32として使用可能な材料の材料定数も示している。
【0100】
図36(a)~(c)に示すように、接合膜32が、バルク横波音速[(C44 /密度)1/2]が水晶の音速より大幅に遅いTaやZnOから成る場合には、接合膜32の膜厚が増えるに従って、SAWの音速が急激に小さくなり、帯域も急激に狭くなり、インピーダンス比も急激に小さくなる。また、接合膜32が、横波音速が速いSiから成る場合には、接合膜32の膜厚が増えるに従って、SAWの音速が大きくなり、帯域がわずかに狭くなり、インピーダンスがわずかに小さくなる。また、接合膜32が、横波音速が水晶の音速に近い多結晶SiやSiOから成る場合には、接合膜32の膜厚が増えるに従って、SAWの音速がわずかに変化し、帯域もわずかに狭くなるが、インピーダンス比は、接合膜32の厚み3波長まで、大きな変動は認められない。特にSiO膜の場合には、プラスのTCFを有するため、TCF改善に有効であり、SiO膜が0.1波長以上ではTCFがプラス5ppm/℃以上、0.2波長以上ではプラス10ppm/℃以上改善される。また、水晶の方位角θが±10°程度ずれても、同じTCFが得られる。しかも、図36(c)に示すように、SiO膜が1.2波長以下では、インピーダンス比の劣化がない。また、図36(b)に示すように、SiO膜が0.3波長以下では、帯域に減少はなく、0.5波長でも94%の帯域を確保できる。また、前述のSiOを主成分とするSiO膜でも、SiOと同じ特性が得られる。
【0101】
表7および図36から、接合膜32とその最適厚みとの関係は、バルク横波音速に依存していることがわかる。接合膜32を用いたときの弾性波デバイス10の特性は、図36(c)に示すように、接合膜32の厚みが0.34波長以下では、バルク横波音速にはほとんど関係なく、大きなインピーダンス比が得られる。しかし、それ以上の厚みになると、接合膜32の最適厚みは、接合膜32のバルク横波音速に大きく依存している。また、接合膜32の厚みが0.13波長以下で、より大きなインピーダンス比が得られ、接合膜32の厚みが0.04波長以下で、さらに大きなインピーダンス比が得られる。
【0102】
表10に、接合膜32の横波音速と、接合膜32の最適な膜厚との関係を示す。表10中の「A」は高いインピーダンス比(概ね70dB以上)が得られる条件、「B」はより高いインピーダンス比(概ね73dB以上)が得られる条件、「C」は最も高いインピーダンス比(概ね75dB以上)が得られる条件を示している。なお、表10の関係は、圧電薄膜12がLNから成る場合でも適用できることを確認している。
【0103】
【表10】
【0104】
[接合膜が複数の場合の変形例]
接合層32が2層の場合について検討を行った。(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/接合膜32の1層目/接合膜32の2層目/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、共振子のインピーダンス比の、接合膜32の1層目および2層目の膜厚依存性を求めた。このとき、表10に示す横波音速が異なる4種の材料を、それぞれVs1、Vs2、Vs3、Vs4とし、これらのうちの2つを接合膜32の1層目および2層目として様々に組み合わせたものについて求めた。また、Vs1をTa、Vs2をZnO、Vs3をSiO、Vs4をSiとして検討した。
【0105】
検討結果のうち、接合膜32の1層目および2層目をそれぞれ、Vs3膜およびVs4膜、Vs4膜およびVs3膜、Vs2膜およびVs3膜、Vs1膜およびVs3膜としたときの、Vs3(SiO)膜の膜厚依存性の結果を、図37(a)~(d)に示す。各図中の数値は、接合膜32の膜の内、Vs3とは異なる方の膜の厚さ(波長)を示している。また、表11に、これらの検討結果から得られた、接合膜32の1層目および2層目の組合せと最適な合計膜厚との関係を示す。表11中の「A」は高いインピーダンス比(概ね70B以上)が得られる条件、「B」はより高いインピーダンス比(概ね73dB以上)が得られる条件、「C」は最も高いインピーダンス比(概ね75dB以上)が得られる条件を示している。良好なインピーダンス比を示す条件は、接合膜32の1層目は表10の条件を、1層目および2層目の合計膜厚は、表11の条件を満たせばよい。なお、図37(a)~(d)に示すように、2層目がSiO膜の場合、1層目の層の種類や厚みを選ぶことにより、SiO膜が1.5波長以下で、75dB以上のインピーダンス比を得ることができる。
【0106】
【表11】
【0107】
次に、接合層32が3層の場合について検討を行った。(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/接合膜32の1層目/接合膜32の2層目/接合膜32の3層目/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.08波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、共振子のインピーダンス比の、接合膜32の3層目の膜厚依存性を求めた。このとき、表10に示す横波音速が異なる4種の材料を、それぞれVs1、Vs2、Vs3、Vs4とし、これらのうちの3つを接合膜32の1層目、2層目および3層目として様々に組み合わせたものについて求めた。また、Vs1をTa、Vs2をZnO、Vs3をSiO、Vs4をSiとして検討した。
【0108】
検討結果のうち、接合膜32の1層目をVs3(厚み0.1波長)、2層目をVs4(厚み0.1波長)とし、3層目をVs1,Vs2,Vs3、またはVs4としたときの結果を、図38(a)に示す。図38(a)に示すように、3層目がVs1(Ta)膜やVs2(ZnO)膜のとき、膜厚1波長以下で70dB以上のインピーダンス比が得られ、3層目がVs3(SiO)膜やVs4(Si)膜のとき、膜厚5波長以下で75dB程度のインピーダンス比が得られている。
【0109】
また、検討結果のうち、接合膜32の1層目をVs4(厚み0.01波長)、2層目をVs3(厚み0.1波長)とし、3層目をVs1,Vs2,Vs3、またはVs4としたときの結果を、図38(b)に示す。図38(b)に示すように、3層目がVs1(Ta)膜やVs2(ZnO)膜のとき、膜厚1波長以下で70dB以上のインピーダンス比が得られ、3層目がVs3(SiO)膜やVs4(Si)膜のとき、膜厚5波長以下で73dB程度のインピーダンス比が得られている。
【0110】
また、表12に、これらの検討結果から得られた、接合膜32の1層目~3層目の組合せと最適な合計膜厚との関係を示す。表12中の「A」は高いインピーダンス比(概ね70dB以上)が得られる条件、「B」はより高いインピーダンス比(概ね73dB以上)が得られる条件を示している。良好なインピーダンス比を示す条件は、接合膜32の1層目は表10の条件を、1層目~3層目の合計膜厚は、表12の条件を満たせばよい。なお、接合膜32が4層以上の場合でも、1層目は表10を満たす必要がある。
なお、音速などを求める材料の定数は、公に公表されている定数を用いている。また、薄膜が2つ以上の膜の混合膜の場合は、それぞれの膜の相加平均とすればよい。
なお、図38(a)および(b)に示すように、1層目または2層目がSiO膜の場合、SiO膜以外の層の種類や厚みを選ぶことにより、SiO膜が1.5波長以下で、75dB以上のインピーダンス比を得ることができる。
【0111】
【表12】
【0112】
[弾性表面波の高次モードを利用する場合についての検討]
弾性波デバイス10で、弾性表面波の高次モードを利用する場合について検討を行った。図39に、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.6波長のAlのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、インピーダンス(Z)の周波数特性を示す。図39に示すように、1.25GHzに基本モード(0-th)が、3.6GHzにその高次モード(1-th)が確認された。
【0113】
図40に、各種の材料から成るすだれ状電極13について、高次モードにおける弾性波デバイス10のインピーダンス比と電極厚との関係を示す。ここでは、弾性波デバイス10として、(0°、110°、0°)LT薄膜12(厚み0.15波長)/(0°、132.75°、90°)水晶基板11の上に、厚みが0.6波長の各種のすだれ状電極13を形成したものを用いている。図40に示すように、電極の種類により、最適な厚みが異なり、低密度の電極ほど、大きなインピーダンス比のとれる最適厚みの範囲が広く、最適厚みが高くなることがわかる。最適厚みの範囲と電極の密度との関係を、表13に示す。表13は、すだれ状電極13のメタライゼーション比が0.5のときのものである。
【0114】
【表13】
【0115】
すだれ状電極13として合金や多層電極膜を用いる場合には、電極厚みと理論的な電極密度から平均密度を求め、その平均密度に基づいて、表13から最適な電極厚みを求めればよい。また、表13はメタライゼーション比が0.5のものであるため、メタライゼーション比を考慮して、例えばメタライゼーション比が0.25の場合には、電極の厚みは、0.5/0.25=2になるため、表13の2倍の厚みを考慮すればよい。
【0116】
弾性表面波の高次モードを利用する場合の、圧電薄膜12の厚みについて検討を行った。図41に、図33(a)に示すIDT13/圧電薄膜12/水晶基板11の構造、および、図33(b)に示すIDT13/圧電薄膜12/短絡電極31/水晶基板11の構造の弾性波デバイス10について、それぞれ得られたインピーダンス比の圧電薄膜12の膜厚依存性を示す。ここで、圧電薄膜12は、(0°、110°、0°)LT薄膜であり、水晶基板11は、(0°、132.75°、90°)水晶基板であり、IDT13は、厚みが0.2波長のAu電極である。図41に示すように、短絡電極31を有しない図33(a)の構造では、LTの膜厚が0.35~9.3波長のとき、短絡電極31を有する図33(b)の構造では、LTの膜厚が0.5~9波長のとき、70dB以上のインピーダンス比が得られている。なお、LT薄膜の代わりにLN薄膜を用いた場合でも、同様な特性が得られることも確認している。
【0117】
図42(a)および(b)に、それぞれ(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、θ、0°)水晶基板11、および(0°、110°、0°)LT薄膜12/(0°、θ、90°)水晶基板11の上に、Auのすだれ状電極13を形成した弾性波デバイス10について、得られた弾性波共振子の高次モード(1-th)のインピーダンス比の、水晶基板11のθ依存性を示す。ここで、LTの厚みを、0.5波長(λ)、1波長、2波長、4波長の4種類とした。また、すだれ状電極13の厚みを、0.2波長とした。
【0118】
図42(a)および(b)に示すように、LTの膜厚が0.5~4波長のとき、ほぼ全てのθの範囲で、概ね70dB以上のインピーダンス比が得られている。これは、基本モードのときと同様に、LTの膜厚が厚くても、すだれ状電極13のAuの厚みも0.2波長と比較的厚いためであると考えられる。
【0119】
[本発明の実施の形態の弾性波デバイスの製造方法]
図43に示すように、弾性波デバイス10は、以下のようにして製造される。まず、LTまたはLNから成る圧電基板12aを準備し(図43(a)参照)、水晶基板11の上に、その圧電基板12aを接合する(図43(b)の左図参照)。また、圧電基板12aと水晶基板11との間に、短絡電極31や接合膜32を形成する場合には、水晶基板11の上に短絡電極31や接合膜32を接合した後、その上に圧電基板12aを接合する(図43(b)の右図参照)。各基板や膜は、接着剤を用いて接合してもよいが、接合面をプラズマなどで活性化処理して接合する、いわゆる直接接合で接合してもよい。
【0120】
接合後、圧電基板12aを研磨して薄膜状(圧電薄膜12)にする(図43(c)参照)。その圧電薄膜12の表面に、Alなどから成る電極膜を形成し、その上にレジストを塗布した後、パターニング(露光、現像)してエッチングを行い、レジストを除去することにより、すだれ状電極13および反射器14を形成する(図43(d)参照)。その後、不要な部分を分離することにより、弾性波デバイス10を製造することができる(図43(e)参照)。なお、図43(c)~(e)には、図43(b)の左図の場合を示しているが、図43(b)の右図の場合には、水晶基板11と圧電薄膜12との間に、短絡電極31や接合膜32を有する弾性波デバイス10を製造することができる。
【符号の説明】
【0121】
10 弾性波デバイス
11 基板(水晶基板)
12 圧電薄膜(LT薄膜、LN薄膜)
12a 圧電基板
13 すだれ状電極(IDT)
21 電極指
14 反射器

31 短絡電極
32 接合膜

50 従来の弾性波デバイス
51 圧電基板
52 すだれ状電極(IDT)
53 反射器
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