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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20230220BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20230220BHJP
【FI】
G01N25/18 E
G01R31/26 Z
G01R31/26 A
G01R31/26 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021139239
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000114891
【氏名又は名称】ヤマト科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】若杉 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大串 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】長尾 至成
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10041894(US,B1)
【文献】国際公開第2019/163862(WO,A1)
【文献】特開2012-117939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G01R 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縁基板が搭載される搭載部と、
前記搭載部に搭載された前記絶縁基板の表面に配置された発熱部材を発熱させるための発熱部と、
前記搭載部を介して、前記絶縁基板を冷却する冷却部と、
前記発熱部材を前記発熱部により発熱させることによって前記絶縁基板の中央部分を加熱させるとともに、前記絶縁基板の周縁部分を前記冷却部によって冷却させた際に生じる、前記絶縁基板の水平方向の温度差を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部の測定結果に基づいて、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価する試験装置であって、
前記絶縁基板は、セラミック薄板の両面に金属層が設けられたメタライズセラミック基板であり、
前記発熱部材は、前記メタライズセラミック基板の表面側に実装された疑似発熱チップであることを特徴とする試験装置。
【請求項2】
縁基板が搭載される搭載部と、
前記搭載部に搭載された前記絶縁基板の表面に配置された発熱部材を発熱させるための発熱部と、
前記搭載部を介して、前記絶縁基板を冷却する冷却部と、
前記発熱部材を前記発熱部により発熱させることによって前記絶縁基板の中央部分を加熱させるとともに、前記絶縁基板の周縁部分を前記冷却部によって冷却させた際に生じる、前記絶縁基板の水平方向の温度差を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部の測定結果に基づいて、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価する試験装置であって、
前記搭載部は、前記絶縁基板の裏面側の周縁部分を除く部分と接触しないようにするための空気層が形成される凹部を備えた、水冷構造の冷却プレートであることを特徴とする試験装置。
【請求項3】
縁基板が搭載される搭載部と、
前記搭載部に搭載された前記絶縁基板の表面に配置された発熱部材を発熱させるための発熱部と、
前記搭載部を介して、前記絶縁基板を冷却する冷却部と、
前記発熱部材を前記発熱部により発熱させることによって前記絶縁基板の中央部分を加熱させるとともに、前記絶縁基板の周縁部分を前記冷却部によって冷却させた際に生じる、前記絶縁基板の水平方向の温度差を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部の測定結果に基づいて、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価する試験装置であって、
前記測定部は、サーモカメラを用いて、前記絶縁基板の表面温度分布を測定することを特徴とする試験装置。
【請求項4】
縁基板が搭載される搭載部と、
前記搭載部に搭載された前記絶縁基板の表面に配置された発熱部材を発熱させるための発熱部と、
前記搭載部を介して、前記絶縁基板を冷却する冷却部と、
前記発熱部材を前記発熱部により発熱させることによって前記絶縁基板の中央部分を加熱させるとともに、前記絶縁基板の周縁部分を前記冷却部によって冷却させた際に生じる、前記絶縁基板の水平方向の温度差を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部の測定結果に基づいて、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価する試験装置であって、
前記搭載部は、前記冷却部となる外部密閉式恒温水循環装置を備えた冷水プレートであり、
前記冷水プレート上には、前記絶縁基板の裏面側の周縁部分を除く部分と接触しないようにするための空気層が形成されるように、接続部材を介して、前記絶縁基板が搭載されることを特徴とする試験装置。
【請求項5】
前記接続部材は、TIMによって枠形状の冷却層の上下面を挟持した構成とされていることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項6】
前記搭載部の表面温度を検出するための検出部をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項7】
前記絶縁基板の中央から周縁までの間の温度差を前記発熱部材の発熱量で除した熱抵抗によって、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価する評価部をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項8】
前記評価部は、片対数プロットから求められる直線の勾配aに基づいて、下記式(8)より評価対象の前記絶縁基板の熱伝導率を求めることを特徴とする請求項7に記載の試験装置。
【数5】
【請求項9】
前記評価部は、温度プロファイルの2点間の距離と温度差とに基づいて、下記式(10)より評価対象の前記絶縁基板の熱伝導率を求めることを特徴とする請求項7に記載の試験装置。
【数7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体素子を実装可能な絶縁基板(試験片)の面内方向の熱伝達特性を評価する熱特性評価装置などに適用可能な試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の観点から、電気エネルギーはますます主要なエネルギー利用形態となってきた。特に、その発電、送電、蓄電、利用の全てにおいて、電力変換技術は重要な役目を担っており、半導体素子を用いて電力の変換と制御とを高効率で行うパワーモジュールは極めて重要な技術となってきている。
【0003】
パワーモジュールを構成する半導体素子にあっては、長らくシリコン(Si)が主役を務めてきた。さらなる省エネ化、高出力化、高速動作化などの点から、次世代のパワー半導体素子においては、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)などのワイドバンドギャップ(WBG)半導体が大きな期待を集めている。次世代のパワー半導体素子を用いたパワーモジュールでは、高出力・高エネルギー密度化とともに、その特性を活かして高温動作化も想定されており、従来にも増して放熱設計が重要となってきている。
【0004】
特に、高出力パワーモジュールにおいては、電気的絶縁の役割を担う実装基板(絶縁基板)は重要な構成部材の一つである。パワーモジュールの高出力・高エネルギー密度化に伴い、実装されるパワー半導体素子の発熱量や発熱密度はますます高くなり、絶縁基板としてのセラミック基板にはより高い熱伝導率が求められている。
【0005】
なお、構成材料間の界面熱抵抗を小さくするため、セラミック基板には、金属層(電極パターン)が高温で接合される。このようなセラミック基板は高い放熱性を有し、メタライズセラミック基板と呼ばれている。
【0006】
メタライズセラミック基板を構成する個々の材料の熱特性(熱拡散率や熱伝導率など)を測定する手法は、既に、国際標準化機構(ISO)や日本産業規格(JIS)として規格化されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】高輝度LED用電子回路基板試験方法 Test Methods for Electronic Circuit Board for High-Brightness LEDs;JPCA-TMC-LED02T-2010;2010年5月、第1版第1刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、メタライズセラミック基板の熱特性、特に、パワー半導体素子を実装した状態での水平(面内)方向の熱伝達特性を評価する方法は確立されておらず、パワーモジュールを設計する上での課題となっている。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、絶縁基板の熱特性を容易に評価でき、パワーモジュールの設計にも寄与することが可能な試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明の態様は、絶縁基板の熱伝達特性を評価するための試験装置であって、前記絶縁基板が搭載される搭載部と、前記搭載部に搭載された前記絶縁基板上に配置された発熱部材を発熱させるための発熱部と、前記搭載部を介して、前記絶縁基板を冷却する冷却部と、前記発熱部材を前記発熱部により発熱させることによって前記絶縁基板の中央部分を加熱させるとともに、前記絶縁基板の周縁部分を前記冷却部によって冷却させた際に生じる、前記絶縁基板の水平方向の温度差を測定する測定部と、を備え、前記測定部の測定結果に基づいて、前記絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、絶縁基板の熱特性、特に、メタライズセラミック基板の面内方向の熱伝達特性を容易に評価でき、パワーモジュールの設計にも寄与することが可能な試験装置を提供できる。
【0012】
なお、以下に説明する実施形態においては、例えば、ISOによって承認済みのパワーエレクトロニクス(パワエレ)基板の垂直方向の熱抵抗測定法を継承しつつ、メタライズセラミック基板の面内方向の熱伝達特性についての評価法の標準化を目指す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る熱特性評価装置の構成例を示す概略図である。
図2図1に示す熱特性評価装置で用いられる評価用モジュールの斜視図である。
図3図2の評価用モジュールにおけるメタライズセラミック基板の構成例を示すもので、(a)は平面(表面)図であり、(b)は裏面図であり、(c)は側面図である。
図4】(a)は、評価用モジュールの搭載例を示す要部の断面図であり、(b)は、(a)のIVb-IVb線に沿って評価用モジュールを断面にして示す斜視図である。
図5】評価用モジュールの温度分布の一例を示すコンター図(等値線図)であって、(a)は、チップ表面の温度分布を示す図であり、(b)は、チップ断面の温度分布を示す図である。
図6】円板を例に、熱の伝わり方を模式的に示す特性図である。
図7】有限要素法(FEM)解析の結果を例示するグラフであり、(a)は、評価用モジュールの表面温度プロファイルを、(b)は、評価用モジュールの中心からの距離と温度との関係を示す片ログ(対数)プロットである。
図8】FEM解析に用いた装置の概略構成を示す図である。
図9】FEM解析で用いられるTEG部品の温度分布プロファイルを例示するコンター図である。
図10A】第1試料を例に、ラインプロファイルAにおける表面温度プロファイルを対比して示す図である。
図10B】第2試料を例に、ラインプロファイルAにおける表面温度プロファイルを対比して示す図である。
図10C】第3試料を例に、ラインプロファイルAにおける表面温度プロファイルを対比して示す図である。
図10D】第4試料を例に、ラインプロファイルAにおける表面温度プロファイルを対比して示す図である。
図11】熱電対モジュールを用いて、TEG部品の表面温度を測定する装置の概略図である。
図12】熱電対モジュールの構成例を示すもので、(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図13】熱電対モジュールによる温度測定位置を例示するTEG部品の平面図である。
図14】熱電対モジュールの位置ずれの影響を考察するためのシミュレーションの結果を例示する図である。
図15】(a)~(d)は、それぞれシミュレーションの結果を対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態に係る熱特性評価装置(試験装置)について、図面を参照して説明する。
【0015】
ここでは、ISOによって承認済みのパワエレ基板の垂直方向の熱抵抗測定法を継承しつつ、メタライズセラミック基板(絶縁基板)の面内方向の熱伝達特性を評価する手法について説明する。
【0016】
即ち、前回(2017年度~2019年度)の「次世代パワエレ基板の熱特性評価方法に関する国際標準化」事業にて検討してきた、疑似発熱チップを実装したセラミック基板を冷却プレートに搭載した状態において、疑似発熱チップの発熱量並びに疑似発熱チップと冷却プレートとの温度差から、セラミック基板を含むデバイスの垂直方向の実効的な熱抵抗を測定する手法については、既に、ISO/専門委員会(TC)206にて新規の業務項目提案(NP-48251)として承認されている。
【0017】
そこで、本実施形態に係る熱特性評価装置においては、例えば、本出願の発明者らによって特許出願された、疑似発熱チップを実装したセラミック基板の垂直方向の熱抵抗測定法として例示の、基板評価装置(再公表WO2019/163862号公報参照)をできるだけ共有する形で実現するようにした場合について説明する。
【0018】
なお、上記の公報に開示された基板評価装置は、疑似発熱チップの発熱量Qと疑似発熱チップと冷却プレートとの温度差ΔTから、実装を模した状態での界面熱抵抗Rth=Δ/Qを算出する。そして、その熱抵抗Rthを主要な指標として、セラミック基板の垂直方向の熱伝達特性を評価するようにしたものである。つまり、垂直方向の熱伝達特性とは、疑似発熱チップの発熱量Qと熱抵抗Rthとからチップ温度(いわゆる、ジャンクション温度に相当)を推測することに基づいた、実用性に重点をおいた指標である。
【0019】
(熱特性評価装置の構成)
図1は、本実施形態に係る熱特性評価装置の構成例を概略的に示すものである。
【0020】
この熱特性評価装置は、例えば図1に示すように、平板四角形状の試験片であるメタライズセラミック基板30上に発熱部材としてのヒータチップ(疑似発熱チップ)20が実装されてなるパワーモジュールを評価用試料10として用いて、図中に矢印で示す、面内方向の熱伝達特性を評価するための試験を行うものである。
【0021】
即ち、熱特性評価装置は、荷重印加用の荷重制御部(サンプルホルダ)1と、冷却部としての恒温水循環装置12と、発熱部としての直流安定化電源14と、温度測定器(熱電対)16a,16bやサーモカメラ(IRカメラ)18と、を備える。温度測定器16bまたはサーモカメラ18によって測定部が、温度測定器16aによって検出部が、それぞれ構成されている。
【0022】
なお、評価用試料10の詳細については、後述する。
【0023】
荷重制御部1は、搭載される評価用試料10を冷却するための、例えば銅(Cu)製の水冷式のヒートシンク(搭載部)100を備える。ヒートシンク100は、例えば外部密閉式の恒温水循環装置12によって所定の温度に恒温制御された冷媒(冷却水)12wが循環する循環路(図示省略)を有した水冷構造の冷却プレート(冷却プレート)である。
【0024】
ヒートシンク100は、その表面部に、搭載される評価用試料10のメタライズセラミック基板30の裏面側からの放熱を抑えつつ、面内方向に対する熱伝達特性を確保するための、例えば1mm程度の深さの空洞部(凹部)102が設けられている。そして、空洞部102に近接するヒートシンク100の周辺部は、例えば、放熱グリースSGなどを介して、搭載される評価用試料10のメタライズセラミック基板30の裏面側の周縁部分を保持するための、重なり部104として機能する。
【0025】
ここで、熱特性評価装置は、具体的な構成を開示していないものの、上述した基板評価装置(例えば、再公表WO2019/163862号公報参照)に準拠した構成とされている。
【0026】
即ち、ヒートシンク100には、評価用試料10の周囲を取り囲むようにして、例えば8本の支柱(図示省略)がほぼ等間隔で設けられている。この支柱によって、評価用試料10の上方において、絶縁性の支持板(図示省略)が支持されるようになっている。
【0027】
支持板には、荷重制御用のネジ付きシャフト(図示省略)の回転により評価用試料10に所定の荷重[N]を加えるための支持剛体(図示省略)や、例えば4本の電極棒130が共通に支持されている。
【0028】
各電極棒130は、それぞれの先端側の下端部に、評価用試料10との接触部分である当接面が半球状とされた当接部132が設けられている。
【0029】
本実施形態に係る熱特性評価装置においては、4本の電極棒130によって評価用試料10をヒートシンク100に押し付けた状態で、直流安定化電源14による評価用試料10への加熱用の定常電力Q[W]の供給(通電)が行われる。そして、サーモカメラ18または温度測定器16bによって評価用試料10の表面の温度分布が、また、温度測定器16aによってヒートシンク100の重なり部104の温度が、それぞれ測定される。
【0030】
なお、恒温水循環装置12としては、評価用試料10の発熱量に対して十分な冷却能力(例えば、250W、5.4L/min)を備えたものが用いられる。
【0031】
また、本実施形態に係る熱特性評価装置としては、例えば、サーモカメラ18の測定結果に基づいて、メタライズセラミック基板30の面内方向の熱伝達特性を評価する評価部2を備えるものであっても良い。評価部2は、周知のパーソナルコンピュータ(パソコン)などにより構成可能であり、熱特性評価装置を制御する制御装置(図示省略)と兼用させることも可能である。
【0032】
(評価用モジュール)
図2は、図1に示した熱特性評価装置で用いられる評価用試料10を例示するものである。
【0033】
図2に示すように、評価用試料10は、メタライズセラミック基板30の裏面の電極パターン(金属層)34bp側が、例えば放熱グリースSGを介して、ヒートシンク100の上面に搭載される。放熱グリースSGは、ヒートシンク100との界面熱抵抗(Rth)をより小さくするために、TIM(Thermal Interface Material)として用いられる、例えばナノダイヤモンドグリースである。
【0034】
詳細については後述するが、評価用試料10は、メタライズセラミック基板30と、例えば接合用AgペーストHPを介して、このメタライズセラミック基板30上に実装されたヒータチップ20と、ボンディング用のワイヤ(Auワイヤなど)24と、を有して構成されている。
【0035】
そして、評価(試験)時には、評価用試料10のメタライズセラミック基板30が電極棒130の当接部132によって所定の荷重によりヒートシンク100の重なり部104に押し付けられた状態において、評価用試料10がTEG(Test Engineering Group)部品として実際に駆動される。
【0036】
即ち、メタライズセラミック基板30上に実装されたヒータチップ20は、直流安定化電源14から供給される所定の定常電力Q(Q=I×V)によって、例えば、200W/25mm程度の発熱密度Hd(負荷発熱量とも称し、単位面積(mm)当たりの定常電力Q[W])となるように加熱される。
【0037】
なお、ヒートシンク100は、評価時に、恒温水循環装置12によって所定の温度(例えば、25℃)に恒温制御される。これにより、評価用試料10のメタライズセラミック基板30の裏面側の周縁部分が、ヒートシンク100の重なり部104を介して直接的に冷却されるとともに、それ以外の部分からの放熱が、空洞部102内の空気層によって抑えられる。
【0038】
評価用試料10において、メタライズセラミック基板30は、例えば、次世代WBGパワー半導体素子を実装可能なDBC(Direct Bonded Copper)基板であって、セラミックス製の薄板(以下、セラミック薄板ともいう)32と、そのセラミック薄板32の一方面(表面)に形成された回路層としての表面側のCu電極パターン(金属層)34と、セラミック薄板32の他方面(裏面)に形成された回路層としての裏面側のCu電極パターン(金属層)34bpと、を備える。
【0039】
セラミック薄板32には、例えば、Si、AlN、または、Alなどが材料として用いられる。
【0040】
表面側のCu電極パターン34は、Cu薄膜からなり、ヒータチップ20が接合されるチップボンディングパターン(ダイパッドともいう)34dpと、各電極棒130の当接部132が当接されるとともに、Auワイヤ24がボンディング接続されるパッドボンディングパターン34epと、を備える。
【0041】
表面側のCu電極パターン34としては、例えば図3(a),(c)に示すように、セラミック薄板32の中央部分に、セラミック薄板32の水平および垂直方向に対してほぼ十字形状を有する1つのチップボンディングパターン34dpが配置されている。また、セラミック薄板32の中央部分を除く、周辺部分の各角部に、ほぼ四角形状を有する4つのパッドボンディングパターン34epが配置されている。
【0042】
裏面側のCu電極パターン34bpは、例えば図3(b),(c)に示すように、Cu薄膜からなり、セラミック薄板32の裏面側のほぼ全面に配置されている。
【0043】
各Cu電極パターン34dp,34ep,34bpは、部材間の界面熱抵抗を小さくするために、セラミック薄板32に対して高温接合されて形成される。
【0044】
そして、評価用試料10は、例えば図2に示したように、チップボンディングパターン34dp上に接合用AgペーストHPを介してヒータチップ20が接合される。また、各パッドボンディングパターン34epに、ヒータチップ20の各電極部(電極パッドともいう)22がAuワイヤ24を介して接続されるとともに、電極棒130のいずれかの当接部132が当接されるようになっている。
【0045】
ここで、評価用試料10においては、メタライズセラミック基板30のサイズが30mm角程度とされるとともに、パッドボンディングパターン34epおよびヒータチップ20のサイズが5mm角程度とされている。また、ヒータチップ20の厚さは0.35mm程度である。
【0046】
なお、便宜上、各Auワイヤ24を1本のワイヤとして図示しているが、発熱時の大電流にも耐えられるようにするために、複数本(例えば、10本)のワイヤを接続し、電流が分散されるようにしても良い。
【0047】
また、メタライズセラミック基板30としてはDBC基板に限定されず、例えば、DBA(Direct Bonded Aluminum)基板やAMB(Active Metal Bonding)基板なども適用可能である。
【0048】
また、評価用試料10において、表面側のCu電極パターン34のパターン形状(デザイン)は、そのパターン形状によって変化する、メタライズセラミック基板30内の熱流路の影響を考慮して最適化するのが望ましい。
【0049】
一方、評価用試料10において、ヒータチップ20としては、例えば、既知の基板評価装置(再公表 WO2019/163862号公報参照)に開示の疑似発熱チップを転用可能である。即ち、ヒータチップ20は、図示していないが絶縁性の半導体層(基板)上にPt薄膜などの金属膜によって平坦に形成された、ほぼM字形状の加熱用パターン(ヒータパターンとも称する)を備える。また、絶縁性の半導体層上には、加熱用パターンの各電極部(図示省略)が設けられている。
【0050】
ヒータチップ20において、絶縁性の半導体層は、熱伝導率を大よそ250W/m・K前後(少なくとも250W/m・K、好ましくは400W/m・K程度)とすることによって、発熱によるほぼ全ての熱量をメタライズセラミック基板30へと効率的に伝導させることが可能である。
【0051】
また、絶縁性の半導体層としてはSiC系の真性半導体(高品質ウェハ)が望ましいが、nドープ型のSiC系単結晶基板(例えば、n-doped 4H SiCウェハ)であっても良い。SiC系単結晶基板の表面部に絶縁膜(例えば、Al膜など)を形成することによって、絶縁性の半導体層における耐圧の確保が可能である。
【0052】
即ち、本実施形態に係るヒータチップ20は、例えば、nドープ型のSiC系単結晶基板からなる絶縁性の半導体層と、この絶縁性の半導体層上に成膜された5μm厚程度のAl膜と、このAl膜上に30nm厚程度のTi膜を介して成膜された200nm厚程度のPt薄膜からなる加熱用パターンと、加熱用パターンの両端部に形成された電極部と、を備える。なお、加熱用パターンのTi/Pt薄膜抵抗体の抵抗値は40Ω以下(<40Ω)とされている。
【0053】
そして、加熱用パターンの各電極部は、30nm厚程度のCr膜を介して成膜された1μm厚以上のCu膜と、Cu膜上に30nm厚程度のCr膜を介して成膜された200nm厚程度のAu膜と、を備える。これにより、低抵抗化とともに、高温下での酸化を抑制できる。
【0054】
また、ヒータチップ20の裏面側には、絶縁性の半導体層下に30μm厚程度のTi膜を介して成膜された、2μm厚程度のAg膜を備える。
【0055】
ここで、加熱用パターンは、図示していないが、絶縁性の半導体層をできるだけ均一に加熱させることが可能なように、熱抵抗測定の観点から最適化された、所定の形状(ここでは、ほぼM字形状)と寸法とを有して形成されている。
【0056】
即ち、本実施形態に係るヒータチップ20は、加熱用パターンに与えられる定常電力Qが高精度に制御されることによって、可能な限り均一な高精度の発熱を実現できるようにするために、加熱用パターンのサイズや屈曲部の曲率などがデザインされている。
【0057】
特に、評価用試料10の量産化においては、ヒータチップ20の成膜の条件を揃えることが、熱特性の再現性にとって重要である。
【0058】
また、絶縁性の半導体層の温度はメタライズセラミック基板30へと伝導され、メタライズセラミック基板30の温度を上昇させる。したがって、絶縁性の半導体層の上昇温度ΔTを、例えば温度測定器16bやサーモカメラ18によって高精度に測定できるようにすることで、ヒータチップ20からメタライズセラミック基板30へと発熱により定量的に伝導される熱量と上昇温度ΔTとから、疑似的ではあるものの、メタライズセラミック基板30の面内方向の熱伝達特性(定常熱抵抗値Rth=ΔT/Q)を高精度に評価することが可能となる。
【0059】
(有限要素法(FEM)による解析)
ここで、熱伝達特性の評価に先立って、FEMによるメタライズセラミック基板30の温度分布解析を行った際の結果について説明する。
【0060】
図4(a)は、解析に用いた評価用試料10の搭載例を示す要部の断面図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb-IVb線に沿って評価用試料10をさらに断面にして示す斜視図である。
【0061】
評価用試料10において、例えば、メタライズセラミック基板30は、表面側のCu電極パターン34dp,34epとなる0.3mm厚程度のCu薄膜(メタル層)と、セラミック薄板32となる0.64mm厚程度のAlN薄板(セラミックス)と、裏面側のCu電極パターン34bpとなる0.3mm厚程度のCu薄膜(メタル層)と、の積層構造を有する。また、そのメタライズセラミック基板30の表面側のCu電極パターン34dpの中央部分に、例えば、5mm角×0.35mm厚程度のヒータチップ20がダイアタッチ層としての焼結Ag(接合用AgペーストHP)により接合されて、評価用試料10は構成されている。
【0062】
そして、メタライズセラミック基板30の裏面側のCu電極パターン34bpの周縁部分が、数mm程度の幅で、ヒートシンク100の重なり部104と放熱グリース(放熱ペースト)SGを介して接合されるようになっている。
【0063】
なお、冷却プレートであるヒートシンク100は、恒温水循環装置12によって水温が25℃程度に保たれた冷却水12wにより温度制御されるようになっている。ヒートシンク100から冷却水12wへの熱伝達は、熱伝達係数W(m・K)によって規定される。
【0064】
また、解析ソフトは富士通社製のFJKSWAD(x64) V7L2-08、解析方法は定常熱伝導解析、計算次元は3次元モデル、計算モデルはソリッド要素(1/4対称構造)、ヒータチップ20の発熱は一様、荷重制御部1による総荷重とした。
【0065】
表1は、温度分布解析に用いた評価用試料10の各層を構成する材料、厚み(mm)、および、熱伝導率W/(m・K)を一覧にして示すものである。
【0066】
【表1】
【0067】
図5は、評価用試料10の温度分布の一例を示すコンター図であって、ヒータチップ20の発熱量(印加電力)を75Wとした場合の例である。なお、この温度分布コンター図において、図5(a)は、チップ表面での温度分布を示す表面コンター図であり、図5(b)は、チップ断面での温度分布を示す断面コンター図である。
【0068】
表面コンター図からも明らかなように、チップ表面側の温度分布は、ヒータチップ20の近傍より同心円状に拡がっている。
【0069】
これに対し、断面コンター図からも明らかなように、チップ断面側の温度分布は、ヒータチップ20の端部より数mm離れた位置から垂直方向にほぼ一様な温度分布となっている。即ち、メタライズセラミック基板30の面内(水平)方向に対しては、ほぼ同じ距離において、チップ表面側のCu電極パターン34dpとセラミック薄板32との間に温度差は存在しない。
【0070】
このことから、評価用試料10の中心より約5mm~13mmの位置におけるメタライズセラミック基板30の温度分布は、例えば図6に示すように、チップ表面側のCu電極パターン34dpの厚さとセラミック薄板32の厚さとを合わせた厚さtの円板(disk)DSの、中心から外周に向けての一様な熱伝達として近似できると考えられる。
【0071】
図6に示した構造の円板DSにおいて、熱伝達は、フーリエの法則より、下記式(1)により示される。
【0072】
【数1】
【0073】
ここで、Qは中心から外周に移動する熱量(W)、Tは中心からの距離rにおける温度(K)、Arは中心からの距離rにおける面積(m)、kは熱伝導率W/(m・K)、tは円板DSの厚さ(mm)を示す。
【0074】
上記式(1)について、変数分離を行うことによって下記式(2)が得られる。
【0075】
【数2】
【0076】
上記式(2)において、境界条件として、中心からの距離r0における温度をT0とし、任意の距離rにおける温度をTとすると、下記式(3)が得られる。
【0077】
【数3】
【0078】
上記式(3)において、下記式(4)を用いて両辺を積分すると、下記式(5)、式(6)、式(7)が得られる。
【0079】
【数4】
【0080】
したがって、上記式(7)において、ln(r)と温度Tとをプロットした直線の傾き(勾配)aから、下記式(8)における、厚さtに相当するメタライズセラミック基板30の合成熱伝導率kを求めることができる。
【0081】
【数5】
【0082】
上記式(8)において、境界条件として、さらに中心からの距離riにおける温度をTiとすると、下記式(9)が得られる。
【0083】
【数6】
【0084】
上記式(9)による2点(多点)での位置および温度から、下記式(10)により、メタライズセラミック基板30の合成熱伝導率kiを求めることができる。
【0085】
【数7】
【0086】
図7は、上記した構成のメタライズセラミック基板30について、FEMによる解析により求められる温度分布プロファイルを例示するものである。なお、図7(a)は、中心からの距離(r)が5mm~13mmの範囲について、自然対数を横軸とし、縦軸に温度をプロットしたものであり、図7(b)は、中心からの距離と温度との関係を示す片対数プロットである。
【0087】
図7(a)に示す範囲については、例えば図7(b)に示すように、プロットはほぼ直線状となり、その傾きaから求められるメタライズセラミック基板30の合成熱伝導率k(=276.4W/(m・K))は、下記式(11)に示す単純複合則から求められる、メタライズセラミック基板30の面内方向の合成熱伝導率ke(=281.6W/(m・K))とほぼ一致する。
【0088】
【数8】
【0089】
ここで、km,kcは、CuおよびAlNの熱伝導率、Vm,Vcは、CuおよびAlNの体積分率である。
【0090】
表2は、メタライズセラミック基板30を対象にFEM解析を行って温度プロファイルから合成熱伝導率kを求めた際の結果を示すもので、上記式(10)から求められる合成熱伝導率kiと上記式(11)に示す単純複合則から求められる合成熱伝導率keとともに対比して示している。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示すように、比較のために、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.64mm厚程度のAl薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板、および、0.8mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.8mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板についても、同様に、FEM解析を行って温度プロファイルから合成熱伝導率を求めた。
【0093】
なお、Al,Siの熱伝導率は、それぞれ、30W/(m・K)、90W/(m・K)とした。
【0094】
表2からも明らかなように、各メタライズセラミック基板について求めた合成熱伝導率k,ki,keは、いずれの場合も、ほぼ一致することが分かった。
【0095】
以上のことから、ヒータチップ20の発熱量とメタライズセラミック基板30の表面温度とに基づいて、メタライズセラミック基板30の面内方向の合成熱伝導率の算出が可能であると理解される。
【0096】
そこで、メタライズセラミック基板30上にヒータチップ20を実装した評価用試料10の表面温度をより確に測定することによって、上述した解析の結果と比較し、検討を行うこととした。
【0097】
(面内方向の熱伝達特性の評価)
(サーモカメラによる温度分布の測定と合成熱伝導率の算出)
図8に示すように、このFEM解析用の装置においては、赤外線カメラをサーモカメラ18とし、冷却プレートをヒートシンク100とし、TEG部品を評価用試料10として、温度分布の測定が行われる。
【0098】
即ち、図示省略の恒温水循環装置12によって25℃に制御された冷却水が循環するヒートシンク100と、評価用試料10をヒートシンク100に押し付けるための当接部132を有する電極棒130と、評価用試料10への加熱用の定常電力Q[W]の供給を行うための図示省略の直流安定化電源14と、評価用試料10の表面の温度分布を測定するためのサーモカメラ18と、を備える。
【0099】
なお、ここでは表面が平坦とされたヒートシンク100を用い、評価用試料10は、接続部材40を介して、ヒートシンク100の上面に搭載される。
【0100】
接続部材40は、例えば、枠形状の冷却層となる銅製の円形リング(内径φ25、外径φ29、厚さ2mm)42の上下をTIM41によって挟持したものである。TIM41は、例えば表1に示したように、16W/(m・K)の熱伝導率を有する。
【0101】
したがって、評価用試料10のヒータチップ20で生じた熱は、主にメタライズセラミック基板30を通り、円形リング42を介して、外部のヒートシンク100へと伝えられる。
【0102】
このように、接続部材40を介して評価用試料10をヒートシンク100上に搭載させるようにすることで、表面部に空洞部を備えていないヒートシンク100の場合にも、評価用試料10とヒートシンク100との間に空気層を設けることが可能となる。これにより、評価用試料10のヒータチップ20で生じた熱がメタライズセラミック基板30の面内方向にのみ効率良く伝わるようにすることができる。
【0103】
ここで、当該装置は、荷重印加用の荷重制御部として、例えば、ヒートシンク100にアクリル製のジグ(図示省略)が取り付けられるとともに、評価用試料10の四隅に4本の電極棒130が配置されて、その内の2本が電力供給用、残りの2本が温度センサ用とされることにより、評価用試料10が電気的に接続されるように設計されている。
【0104】
また、恒温水循環装置12によって25℃に制御されたヒートシンク100の温度をモニタするために、該ヒートシンク100の表面には、図示していない温度測定器16aが配置されている。
【0105】
そして、評価用試料10を、例えば黒色スプレーによって黒化処理することで、サーモカメラ18による撮影が良好に行われるようにすることができる。なお、黒色スプレーは合成樹脂(シリコーン樹脂)系のものを使用することで、耐熱性と絶縁性とに配慮することができる。
【0106】
また、シミュレーション用のメタライズセラミック基板30としては、DBC基板(試料番号10A(第1試料),10B(第2試料),10C(第3試料))の他に、例えば表3に示すように、DBA基板(試料番号10D(第4試料))を用いて、サーモカメラ18による撮影を行った(回路パターン(電極パターン)については、図3参照)。
【0107】
【表3】
【0108】
ここでは、試料番号10Aとして、例えば、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板が用いられる。また、試料番号10Bとして、例えば、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.64mm厚程度のAl薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板が用いられる。また、試料番号10Cとして、例えば、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.64mm厚程度のAlN薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板が用いられる。また、試料番号10Dとして、例えば、0.3mm厚程度のAl薄膜と0.64mm厚程度のAlN薄板と0.3mm厚程度のAl薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板が用いられる。
【0109】
図9は、サーモカメラ18により撮影されたTEG部品となる評価用試料10の温度分布(プロファイル)を例示するものである。なお、DBC基板10Cに対し、直流安定化電源14による印加電圧(ヒータチップ20の発熱量)を82Wとした場合の例である。
【0110】
図10A図10Dは、ヒータチップ20の発熱量ごとに温度分布上のラインプロファイルAにおける温度を解析した結果を示すものである。なお、図10Aは、評価用試料10が表3の試料番号10Aの場合を、図10Bは、評価用試料10が表3の試料番号10Bの場合を、図10Cは、評価用試料10が表3の試料番号10Cの場合を、図10Dは、評価用試料10が表3の試料番号10Dの場合を、それぞれ示している。
【0111】
また、各図10A図10Dにおいては、直流安定化電源14による印加電圧(ヒータチップ20の発熱量)を、12W、25W、42W、82Wとした場合を対比して示している。
【0112】
なお、図中の黒丸は、後述する熱電対モジュールによる温度測定結果をプロットしたものである。
【0113】
図10A図10Dにおいて、横軸は、評価用試料10A,10B,10C,10Dの左端を基準とする距離(位置mm)であり、縦軸は、温度(℃)であり、図9におけるラインプロファイルAの温度をプロットした際の温度曲線を示している。
【0114】
図10A図10Dからも明らかなように、いずれの場合も、ヒータチップ20を中心に、同心円状に等温線が描かれているのが見て取れる。
【0115】
即ち、中心に熱源がある動径方向の温度分布は上記した式(7)で表され、動径方向の距離rの自然対数を横軸、縦軸を温度とした片対数プロットの直線の傾きaから、上記した式(8)を用いて、メタライズセラミック基板30の合成熱伝導率を見積もることができる。
【0116】
表4は、図10A図11Dの温度曲線を上記した式(7)に基づいて片対数プロットし、直線の傾きaから求めた合成熱伝導率をまとめたものである。
【0117】
【表4】
【0118】
表4(a)~表4(d)に示すように、いずれの場合も、算出された合成熱伝導率は、単純複合則(上記した式(11))により計算された値からのずれが10%程度であり、本実施形態に係る熱特性評価装置による合成熱伝導率の算出が可能であることが確認できた。
【0119】
算出された合成熱伝導率が単純複合則から算出した値よりも高くなったのは、上記した式(8)が、固体内の熱伝達のみを仮定して導出されたものであり、実際の評価では、外気への熱伝達やヒートシンク100側への熱伝達が生じており、熱量を過大に見積もっていることによるものと推察される。
【0120】
また、算出された合成熱伝導率は印加電力が小さいほど大きくなるが、これは印加電力が小さい場合には空気中への損失の影響が相対的に大きくなるためと推察される。
【0121】
上記したように、例えば評価部2において、温度測定結果である温度曲線の片対数プロットから直線の傾きaを求め、上記の式(8)を用いることによって熱伝導率を算出することが可能である。しかも、熱伝導率は、プロット数の増加に応じて、より高い精度での算出が可能となる。
【0122】
(熱電対モジュールによる温度測定と合成熱伝導率の算出)
次に、熱電対モジュールを用いて、メタライズセラミック基板30の表面温度の測定を行う場合について説明する。
【0123】
図11は、熱電対モジュール50を用いて評価用試料10の表面温度を測定する装置の概略を示すもので、本装置では、サーモカメラ18による撮影に代えて、温度測定器としての熱電対モジュール50によって評価用試料10の温度分布の測定が行われる。それ以外の、例えばヒートシンク100による評価用試料10の冷却やヒータチップ20の加熱条件などは、図8に示した装置の場合と同様なので、詳しい説明は省略する。
【0124】
本装置において、熱電対モジュール50は、例えば図12(a),(b)に示すように、逆U字型の絶縁樹脂からなるブロック51を有している。そして、そのブロック51の両端部である、メタライズセラミック基板30に当接される当接部には、例えば、ヒータチップ20の中心から左右対称に、それぞれ、電極部(熱電対)52a,52b,52cが埋め込まれている。各電極部52a,52b,52cは、例えば2.5mmの間隔を有して配置されている。
【0125】
各電極部52a,52b,52cは、ブロック51に巻回された配線パターンに繋がる配線部53を介して、図示していない評価部2に接続されている。
【0126】
これにより、評価用試料10は、例えば図13に示すように、熱電対モジュール50が押し当てられることによって、各電極部52a,52b,52cが対応する、メタライズセラミック基板30のヒータチップ20の中心からそれぞれ等間隔(例えば、7mm、10mm、13mm)の各測定位置10ap,10bp,10cpの表面温度が測定されるようになっている。
【0127】
即ち、熱電対モジュール50は、メタライズセラミック基板30の中心から左右対称に、それぞれ、7mm、10mm、13mmずつ離れた各測定位置10ap,10bp,10cpの表面温度を測定できるように設計されている。
【0128】
なお、ヒータチップ20の発熱量を12W、25W、42W、82Wとした場合の、熱電対モジュール50による温度測定結果が、上述した図10A図10Dの図中にそれぞれ黒丸によって示されている。
【0129】
図10A図10Dからも明らかなように、同じ測定位置のとき、サーモカメラ18の場合も熱電対モジュール50の場合も、ともに近い温度を測定していることが分かる。
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
【表8】
【0134】
表5~表8は、評価用試料10の任意の2点間、例えば、測定位置10ap,10cpでの測定温度に基づいて、上記式(10)から求めた4種類のメタライズセラミック基板(試料番号10A~10D)30の合成熱伝導率をそれぞれ示すものである。
【0135】
なお、表5~表8においては、合成熱伝導率を、熱電対モジュール50の左右の電極部52a,52cのそれぞれの測定値(2点間データ)から算出しており、試料番号10A~10Dの各メタライズセラミック基板30に対する2つの合成熱伝導率(算出1,2)と、その平均値とを示している。
【0136】
2点間データを基に算出した合成熱伝導率は、概ね片対数プロットの傾きから求めた値に近似する。
【0137】
ただし、左右のそれぞれの温度差から求めた値には、最大で20%程度の違いが生じる。その原因としては、熱電対モジュール50およびメタライズセラミック基板30の位置ずれ、メタライズセラミック基板30をヒートシンク100に押し付ける際の荷重の不均一さなどが考えられる。
【0138】
また、印加電力が12W、25Wのときには、温度差が10℃以下であり、わずかな温度差が合成熱伝導率の大きな差となって現れる。したがって、印加電力は、少なくとも温度差が10℃以上になるように設定するのが望ましい。
【0139】
上記したように、例えば評価部2において、温度測定結果である温度プロファイルの2点間の距離と温度差とに基づいて、熱抵抗を求めるための上記の式(10)を用いて熱伝導率を算出することも可能である。
【0140】
(FEM解析による各種パラメータの影響検討)
(熱電対モジュール50の位置ずれの影響)
図14は、熱電対モジュール50の押し当てが所定の位置からずれた場合に、その位置ずれが成熱伝導率に及ぼす影響について考察するためにした、FEM解析によるシミュレーションの結果を例示するものである。
【0141】
即ち、熱電対モジュール50によって測定された2点間データを基に合成熱伝導率を算出する場合、熱電対モジュール50の押し当て時の位置ずれが合成熱伝導率の算出結果に影響を及ぼすことが懸念される。
【0142】
そこで、図14に示すように、各電極部52a,52b,52cの間隔を3mmとした熱電対モジュール50を用意し、メタライズセラミック基板30の内側方向(-側)に標準位置から0.5mm、1.0mm、1.5mmずらした場合と外側方向(+側)に標準位置から0.5mm、1.0mmずらした場合とについて、シミュレーションを行った。
【0143】
なお、標準位置とは、熱電対モジュール50の押し当て時に、各電極部52a,52b,52cがメタライズセラミック基板30の各測定位置10ap,10bp,10cpにずれなく当接される位置((r1,T1)、(r2,T2)、(r3,T3))である。
【0144】
シミュレーションは、以下の4種類のメタライズセラミック基板30を対象とし、ヒータチップ20の発熱量を75Wとした場合について行った。
【0145】
また、メタライズセラミック基板30とヒートシンク100とを接着させる接続部材40の、TIM41の熱伝導率は、2W/(m・K)と16W/(m・K)との2種類とした。
【0146】
図15(a)~図15(d)は、シミュレーションの結果を示すもので、図15(a)は、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.64mm厚程度のAlN薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30の場合を示している。また、図15(b)は、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.64mm厚程度のAl薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30の場合を示している。また、図15(c)は、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30の場合を示している。また、図15(d)は、0.8mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.8mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30の場合を示している。
【0147】
図15(a)~図15(d)に示すように、熱電対モジュール50の位置がメタライズセラミック基板30の外側方向(+側)にずれるにしたがって、メタライズセラミック基板30の熱伝導率は高くなる傾向にあるが、そのばらつきは10%程度に収まっている。
【0148】
さらに、ずれを±0.5mm以下にした場合、そのばらつきは5%以内であることが分かる。
【0149】
なお、接続部材40のTIM41の熱伝導率の違い、つまり、メタライズセラミック基板30の端部からヒートシンク100への熱抵抗も、合成熱伝導率の算出に影響を及ぼす。しかしながら、そのはらつきも5%程度であり、影響は小さいと考えられる。
【0150】
(熱電対モジュール50の各電極間の2点間距離の誤差の影響)
次に、熱電対モジュール50に設けられた各電極部52a,52b,52c間の距離の誤差の影響について検討する。
【0151】
シミュレーションは、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30を対象に行った。また、ヒータチップ20の印加電力を75Wとし、中心から7mmの測定位置10apと13mmの測定位置10cpとに対応する各電極部52a,52cが内外方向に0.5mmずれた場合を想定して行った。
【0152】
【表9】
【0153】
表9は、シミュレーションの結果を示すものである。
【0154】
なお、表9においては、例えば、ヒータチップ20の中心から13mmの測定位置10cpに対して、熱電対モジュール50の電極部52cが位置ずれなく正確に配置されている場合を「13_7」と表記し、電極部52cが外側方向に0.5mmずれている場合(計算上では、13mmの位置)を「13.5_7」と表記している。
【0155】
表9からも明らかなように、位置ずれがある場合には、位置ずれがない「13_7」の場合に比して、熱伝導率が±10%程度変動しており、熱電対モジュール50に埋め込む電極部52a,52b,52c間の距離を正確に計測しておく必要があるものと考える。
【0156】
(熱電対モジュール50の測定温度の誤差の影響)
次に、熱電対モジュール50の測定温度の誤差の影響について検討する。
【0157】
シミュレーションは、0.3mm厚程度のCu薄膜と0.32mm厚程度のSi薄板と0.3mm厚程度のCu薄膜との積層構造を有するメタライズセラミック基板30を対象に行った。
【0158】
表10は、ヒータチップ20の印加電力を75Wとし、低温部(10cp)側および高温部(10ap)側で測定される熱電対温度が、それぞれ、±0.5℃および±1.0℃ほど変動した場合を想定して行った結果である。
【0159】
【表10】
【0160】
表10からも明らかなように、例えば、基準の温度に対して、低温部および高温部の温度をそれぞれ変化させてシミュレーションを行ったところ、基準となる熱伝導率に対する合成熱伝導率の変動は±5%以下であった。
【0161】
このように、低温部と高温部との温度差を十分にとった場合(例えば、二桁以上とした場合)には、熱電対温度を±1.0℃とした場合の変動の影響は小さいことが分かる。
【0162】
(まとめ)
上記したように、既知の基板評価装置(再公表WO2019/163862号公報参照)をできるだけ共有する形で、チップ実装状態でのメタライズセラミック基板の面内方向の熱伝達特性の評価について検討した。
【0163】
具体的には、ヒータチップ20が実装されたメタライズセラミック基板30の下方部に空洞部102を設け、メタライズセラミック基板30の周端部を、放熱グリースSGを介して、ヒートシンク100の重なり部104によって保持・冷却させた状態において、ヒータチップ20を定常電力Qにより加熱させ、メタライズセラミック基板30の温度変化をサーモカメラ18によって測定する。
【0164】
このようにして、評価対象のメタライズセラミック基板30の面内方向の熱伝達特性の評価を行った。
【0165】
また、本実施形態においては、既知のモデル用絶縁基板として各種のメタライズセラミック基板30の表面側の温度分布を、サーモカメラ18により測定した。
【0166】
さらに、FEMによって温度分布の解析を行った。
【0167】
結果は、下記の通りであった。
【0168】
サーモカメラ18による温度測定から、メタライズセラミック基板30の表面側の温度分布は、該メタライズセラミック基板30の中心に実装したヒータチップ20の周辺部からメタライズセラミック基板30の周縁部にかけて、ほぼ同心円状の等温線を描くことが分かった。
【0169】
さらに、FEMによる温度分布の解析により、熱は、ヒータチップ20から数mmほど離れた位置からメタライズセラミック基板30の内部を一様に伝わることが分かった。
【0170】
そこで、メタライズセラミック基板30の水平方向の熱伝達を評価する方法として、例えば、円板DSの中心側から外周側に一様に熱が伝わるものと想定し、二次元極座標系で距離r、温度T、熱量Qの関係を表す式を適用した。
【0171】
FEM解析により得られる温度分布に上記の関係式を適用し、メタライズセラミック基板30の合成熱伝導率を求めた結果、単純複合則から算出される値とほぼ一致した。
【0172】
サーモカメラ18による温度分布の測定結果を用いた場合も、単純複合則からの算出される値に近い合成熱伝導率が得られた。この場合、複合則よりも約10%程度高い値となった。
【0173】
これらの結果から、メタライズセラミック基板30の合成熱伝導率、さらには、この値にメタライズセラミック基板30の厚みを掛けた合成熱コンダクタンスは、メタライズセラミック基板30の面内方向の熱伝達特性を示す指標として有望なものと考えられる。
【0174】
また、より簡便な温度測定法として、熱電対モジュール50を用いた方法についても検討を行った。
【0175】
即ち、絶縁樹脂製のブロック51に電極部52a,52b,52を埋め込んだ熱電対モジュール50を作製し、メタライズセラミック基板30の表面温度の測定を行った結果、サーモカメラ18による測定とほぼ同じ測定値を得ることができた。ただし、電極部52a,52b,52cによる2点間の測定温度から算出した合成熱伝導率は、ばらつきが20%程度と大きく、電極部52a,52b,52cを配置する位置など、さらなる検討が必要である。
【0176】
なお、熱電対モジュール50による温度測定に関しては、FEM解析を用いた誤差要因(熱電対モジュール50の位置ずれや電極部52a,52b,52cの測定精度、電極部52a,52b,52c間の距離の誤差など)についての検討を行った結果、電極部52a,52b,52c間の距離の誤差が合成熱伝導率に及ぼす影響が最も顕著であることが分かった。
【0177】
上記したように、本実施形態に係る熱特性評価装置によれば、メタライズセラミック基板の面内方向の熱伝達特性を容易に評価でき、パワーモジュールの設計にも容易に寄与することが可能となる。
【0178】
特に、既知の基板評価装置(再公表WO2019/163862号公報参照)を利用して、本実施形態に係る熱特性評価装置を実現するようにしているため、メタライズセラミック基板の面内方向の熱伝達特性の評価を簡単に行い得る。
【0179】
なお、上記した熱特性評価装置においては、既知の基板評価装置(再公表WO2019/163862号公報参照)を利用することなく、実現することも可能である。
【0180】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、実施形態は一例であり、特許請求の範囲に記載される発明の範囲は、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更できるものである。
【符号の説明】
【0181】
1 荷重制御部
2 評価部
10 評価用試料
12 恒温水循環装置(冷却部)
14 直流安定化電源(発熱部)
16a 温度測定器(検出部)
16b 温度測定器(測定部)
18 サーモカメラ(測定部)
20 ヒータチップ(発熱部材)
30 メタライズセラミック基板(絶縁基板)
32 セラミック薄板
40 接続部材
50 熱電対モジュール
100 ヒートシンク(搭載部)
102 空洞部
104 重なり部
SG 放熱グリース
【要約】
【課題】パワー半導体素子を実装可能な絶縁基板の面内方向の熱伝達特性を容易に評価できる試験装置を提供する。
【解決手段】熱特性評価装置は、評価用の試料10が搭載されるヒートシンク100と、ヒートシンク100に搭載された試料10のメタライズセラミック基板30上に配置されたヒータチップ20を発熱させるための直流安定化電源14と、ヒートシンク100を介して、メタライズセラミック基板30を冷却する恒温水循環装置12と、ヒータチップ20を発熱させることによってメタライズセラミック基板30を加熱させるとともに、メタライズセラミック基板30の周縁部分を冷却させた際に生じる、メタライズセラミック基板30の水平方向の温度差を測定するサーモカメラ18と、を備える。
【選択図】図1
図1
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図10D
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