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特許7229605射出成形用金型並びに樹脂成形品及び樹脂成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】射出成形用金型並びに樹脂成形品及び樹脂成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/34 20060101AFI20230220BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20230220BHJP
   B29C 45/37 20060101ALI20230220BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20230220BHJP
   B29C 45/63 20060101ALI20230220BHJP
   B29C 45/40 20060101ALI20230220BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B29C45/34
B29C45/27
B29C45/37
B29C33/10
B29C45/63
B29C45/40
B29C45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022122317
(22)【出願日】2022-07-29
【審査請求日】2022-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591206500
【氏名又は名称】株式会社 ダイサン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小瀧 大蔵
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-290214(JP,A)
【文献】登録実用新案第3174853(JP,U)
【文献】国際公開第2006/070813(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/199714(WO,A1)
【文献】特開2010-264645(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045074(WO,A1)
【文献】特開平10-193395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア型とキャビティ型とを有し、前記コア型と前記キャビティ型とを重ね合わせ、前記コア型と前記キャビティ型との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を注入することによって凸部と平面部とを有する樹脂成形品を成形する射出成形用金型であって、
前記キャビティは、前記凸部を成形する凸部空間部と、前記凸部の周辺に前記平面部を成形する平面空間部と、前記凸部空間部及び前記平面空間部のうち少なくとも一方に形成され、前記凸部空間部及び前記平面空間部より肉厚が厚い空間部を有する帯状の誘導帯空間部とを備え、
前記誘導帯空間部に溶融樹脂を注入するゲートと、
前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方に形成され、前記凸部空間部の頂部から前記頂部に残留する残留ガスを排出する残留ガス排出部と、
を有する射出成形用金型。
【請求項2】
前記残留ガス排出部は、前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方に設けられ金型外面から前記凸部空間部の頂部に達するガス抜き孔と、前記ガス抜き孔に着脱自在に差し込まれた栓部材とを有し、
前記栓部材は、少なくとも前記凸部空間部の頂部に接する部分の外周面全体が前記ガス抜き孔の内周面全体に密着する棒状部材であり、
密着部分における棒状部材の外周面と前記ガス抜き孔の内周面との間には、溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できるガス流路が形成されている、
請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記ガス抜き孔の出口には、エア噴射装置に接続された流路が連通し、
前記エア噴射装置によって、前記ガス抜き孔から前記樹脂成形品の前記凸部の外面に空気を噴射し、前記空気の圧力で前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方から前記樹脂成形品を押し出して離型する、
請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記ガス抜き孔の出口には、真空装置に接続された流路が連通し、
前記真空装置によって、前記ガス抜き孔から排出される残留ガスを吸引し、前記凸部空間部の頂部からの残留ガス排出を促進する、
請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
請求項1に記載の射出成形用金型を用いて樹脂成形品の成形を行う樹脂成形方法。
【請求項6】
複数の凸部と、複数の前記凸部の周辺に複数の前記凸部の麓部同士を繋いで形成された平面部と、を備えた樹脂成形品であって、
前記凸部の頂部には成形用金型に設けられたガス抜き孔の跡が形成されており、
前記平面部には成形用金型に設けられたゲートの跡が形成されている、
樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型並びに樹脂成形品及び樹脂成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば卵パック等、比較的肉厚の薄い各種の樹脂成形品(以下、単に「成形品」とも称する。)を成形する技術として、真空成形技術が知られている。真空成形技術は、予め樹脂素材を所定の肉厚を有するシート状に加工した樹脂材料を用いるため、肉厚の薄い成形品を成形することが比較的容易である。
【0003】
しかし、真空成形技術では、樹脂素材を予めシート状に加工する必要があり、従って、シート状に加工された状態で入手可能な樹脂素材に限定される問題がある。また、シート状樹脂材料を枠に張り渡して加熱し、真空吸着により型に張り付けて成形するため、成形品の屈曲部などが引き伸ばされて薄くなり脆弱化し易く、肉厚の寸法精度も維持が困難で、凹凸の多い複雑な形状の成形品では肉厚をあまり薄くできない等の問題がある。
【0004】
また、樹脂成形品を成形する技術として、射出成形技術もよく知られている。射出成形技術は、樹脂素材を溶融し、金属ブロックに溶融樹脂流路等を設ける加工を施した射出成形用金型(以下、単に「金型」とも称する。)の内部に形成されている成形空間(以下、「キャビティ」とも称する。)に溶融樹脂を射出して充填し、冷却・固化した後、金型を構成している分離可能な金型部材を分離して成形空間を開き(以下、「型開き」とも称する。)、成形品を取り出すことによって成形品を成形する技術である。例えば、特許文献1には、金型として、ランナーから成形空間への入口であるゲート(ピンポイントゲート)が形成された金型が開示されている。
【0005】
射出成形技術は、真空成形技術と比べ、屈曲部で引き伸ばされるようなことはなく、金型のキャビティ形状通りに成形され、寸法精度が高く、屈曲部において成形品の強度を損なうようなこともないという利点を有する。また、射出成形技術は、真空成形技術と異なり、使用できる樹脂素材の種類も多く、また、ポリプロピレン(PP)等の使用済樹脂材料でも回収して再溶融し、再利用できるので、環境への負荷を抑制できるという利点も有する。
【0006】
ただ、射出成形技術は、溶融樹脂をキャビティの隅々まで流し込んで充填する必要があるため、成形の難易度が成形品の形状・寸法に依存する要素が多く、特に比較的肉厚が薄く寸法が大きい成形品や平面部と凹凸部が複雑に混在する複雑形状の成形品においては、溶融樹脂のスムーズな流動を妨げる要素が多く、成形品に欠陥や内部歪みなどを生じさせない状態で、溶融樹脂をキャビティの末端まで隙間無く充填することが比較的困難であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2にも、射出成形技術における上記問題点の解決に繋がる提案が本発明者によってなされている。特許文献2には、金型を用いて成形される、平面部と凸部が混在する複雑形状の緩衝体が開示されている。
【0008】
特許文献2の緩衝体技術によれば、0.4mm程度の厚みを有する比較的肉厚の薄い成形品として成形可能であることが示されている。特許文献2の緩衝体に用いられる金型においては、ゲートから延びる誘導帯(成形品においてはリブ状となる部分)が緩衝体の凸部に相当するキャビティ部分を囲繞し、その誘導帯が更に分岐して凸部相当部分を這い上がるように形成されている。特許文献2の提案によれば、このような誘導帯がない場合に比べ、緩衝体凸部に相当する部分の溶融樹脂の流れが円滑になり、それに伴ってゲート数が節減でき、凸部に生じる成形不良を抑制する効果があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開平6-5929号公報
【文献】特開2020-097433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、本発明者によるその後の試作実験や研究を通じて、上記したような凸部に生じる成形不良を抑制する効果は、特許文献2の緩衝体構造のような特定の形状に対して得られることは確かめられたものの、更に肉厚が薄く、複雑な凸部を有する一般的な成形品形状に対しては、キャビティ内の凸部相当部分と誘導帯の最適な位置関係を定めることは容易ではないことが明らかになった。
【0011】
特許文献2においては、凸部を有する成形品の平面部と凸部の境界部分におけるキャビティ屈曲部の流路抵抗を低減する方法については何ら開示がなく、このため、特許文献2の提案する技術を用いても、誘導帯の配置も含めた適切な金型形状を確定するためには、試行錯誤を重ねることが求められ、コストが掛かるという問題が依然として残されている。
【0012】
本発明は上記した問題に着目して為されたものであって、比較的肉厚が薄く寸法が大きい成形品や平面部と凹凸部が複雑に混在する複雑形状の成形品であっても、ゲートの個数や配置を簡略化し、金型の作製コストを抑制し、かつ、成形品の品質低下も抑制できる金型及びそのような金型を用いて成形した成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様に係る射出成形用金型は、コア型とキャビティ型とを有し、前記コア型と前記キャビティ型とを重ね合わせ、前記コア型と前記キャビティ型との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を注入することによって凸部と平面部とを有する樹脂成形品を成形する射出成形用金型であって、前記キャビティは、前記凸部を成形する凸部空間部と、前記凸部の周辺に前記平面部を成形する平面空間部と、前記凸部空間部及び前記平面空間部のうち少なくとも一方に形成され、前記凸部空間部及び前記平面空間部より肉厚が厚い空間部を有する帯状の誘導帯空間部とを備え、前記誘導帯空間部に溶融樹脂を注入するゲートと、前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方に形成され、前記凸部空間部の頂部から前記頂部に残留する残留ガスを排出する残留ガス排出部と、を有する。
【0014】
上記構成によれば、ゲートからキャビティに注入された溶融樹脂は、凸部空間部や平面空間部より流路の厚さが厚く、従って凸部空間部や平面空間部より流路抵抗が低い空間部を有する誘導帯空間部を通じて、ゲートから離れた地点の平面空間部及び凸部空間部の近傍にある誘導帯空間部の末端(すなわち、それ以降は流路の流路抵抗が高くなっている所)まで素早く到達する。その結果、誘導帯内部の溶融樹脂圧が蓄圧され、溶融樹脂は、そこから周辺の平面空間部及び凸部空間部へ行き渡るので、誘導帯空間部がない金型と比較して、品質の高い薄肉成形品を成形できる。
【0015】
また、上記構成によれば、残留ガスの排出部が凸部空間部の頂部に位置する。この凸部空間部には、平面空間部に配置された誘導帯の効果により、凸部麓部の周囲から溶融樹脂が流入するため、溶融樹脂の流動圧によってキャビティ内部の残留ガスの一部がこの凸部空間部の頂部付近に一時的に集中し易い。通常、キャビティ内の残留ガスは、溶融樹脂流路の末端部にあるパーティング面の隙間から排出されるのであるが、上記構成によれば、この頂部付近に集中した残留ガスが、残留ガス排出部を抜けて、金型外部へ放出されるため、残留ガス排出部が設けられていない場合に比べ、残留ガスの排出がスムーズに行われる。残留ガス排出部は、気体は通過するが溶融樹脂は通過させない程度の僅かな間隙を有する。その結果、残留ガスに起因する成形品のガス焼け、ショート、反り等による品質低下を抑制できる。
【0016】
また、上記構成によれば、残留ガスが残留ガス排出部により金型外部に適宜放出されることにより、凸部空間部の頂部付近に集中した残留ガスが過度に圧縮され、高圧になることが抑制される。その結果、局部的に過度に圧力が加えられることにより生じる歪みが成形品に残ることが抑制され、また、残留ガスが断熱圧縮により溶融樹脂の発火点を超えて樹脂表面を焦がす現象も抑制され、更に、残留ガスを金型外部に排出しながら溶融樹脂をキャビティ内に充填させるために要する充填圧力も低くすることが可能となる。また、射出成形機への圧力負担も軽くなる結果、小型の射出成形機を用いることが可能となり、コストダウンにも寄与できる。
【0017】
また、上記構成によれば、ゲートは、凸部空間部の頂部の位置にそれぞれ設けて凸部空間部の残留ガス滞留を防ぐ必要はなく、平面空間部に設けられた誘導帯空間部に凸部の個数より少ない個数を適宜配置することができる。例えば、キャビティ内では、1つのゲートから伸びる誘導帯空間部で形成される流路を同じく誘導帯空間部で形成される複数の流路に分岐させ、分岐した流路の下流側に複数の凸部空間部を配置することができる。
【0018】
このため、それぞれの凸部空間部の頂部にゲートを設ける従来方法に比べ、成形品に複数の凸部が設けられる場合であっても、凸部の個数に合わせて複数のゲートを金型に配置する必要がない。従って、ゲートに溶融樹脂をバランスよく供給するためのランナーの構成も比較的単純となり、金型の設計、製作のコストを低減できる。
【0019】
上記の第1の態様では、前記残留ガス排出部は、前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方に設けられ金型外面から前記凸部空間部の頂部に達するガス抜き孔と、前記ガス抜き孔に着脱自在に差し込まれた栓部材とを有し、前記栓部材は、少なくとも前記凸部空間部の頂部に接する部分の外周面全体が前記ガス抜き孔の内周面全体に密着する棒状部材であり、密着部分における棒状部材の外周面と前記ガス抜き孔の内周面との間には、溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できるガス流路が形成されてよい。
【0020】
上記構成によれば、ガス抜き孔の内面と栓部材の外面とが少なくとも前記凸部空間部の頂部に接する先端部分で略密着しているため、溶融樹脂がガス抜き孔から漏出するのを防げる。また、その密着面には、溶融樹脂の通過は困難で且つ残留ガスの通過は可能であるような僅かな隙間が存在するため、凸部空間部の頂部に集中した残留ガスは、この隙間から排出される。
【0021】
また、前記密着面における隙間は、金属加工表面に存在する微細な凹凸に由来する隙間に加え、ガス抜き孔の内面及び/又は栓部材の外面に、溶融樹脂の通過は困難で且つ残留ガスの通過は可能なガス流路を加工により付加することができる。このような付加的ガス流路は、例えば、サンドブラストにより壁面を粗面にする方法又は切削、エッチング等により形成してよい。
【0022】
このようなガス流路の付加により残留ガス排出路の流路抵抗を変えた栓部材を各種用意しておくことにより、樹脂の種類や残留ガスの多寡に応じ、栓部材を適宜交換することで、適切なガス抜きが行え、その結果、適切なガス抜きを行うための試作設計の回数を節減でき、金型コストを軽減できる。また、このような金型部品同士の当接面を利用した残留ガスの排出路は、溶融樹脂の揮発成分がタール状となって付着し、次第に汚れ、詰まるので、随時掃除が必要であるが、上記構成によれば、栓部材が脱着自在とされているため、随時栓部材を抜いてガス流路を掃除することが容易である。
【0023】
なお、本発明において、「溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できるガス流路」とは、基本的には、残留ガスの分子サイズより大きく且つ溶融樹脂の紐状高分子が絡み合って一体化した分子集団のサイズより小さい開口径を有するガス流路を意味するが、但し、前記分子集団のサイズは、樹脂の種類毎に異なり、また、同じ樹脂であっても、高分子の重合度(分子量)にばらつきがあると共に、紐状高分子の絡まり具合も様々に異なる不定形状を呈することから、溶融樹脂が全く通過しないことを意味せず、通過する溶融樹脂の量がバリ等の外形不良を成形品に生じさせない程度に止まる開口径のガス流路も含まれる。
【0024】
上記の第1の態様では、前記ガス抜き孔の出口には、エア噴射装置に接続された流路が連通し、前記エア噴射装置によって、前記ガス抜き孔から前記樹脂成形品の前記凸部の外面に空気を噴射し、前記空気の圧力で前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方から前記樹脂成形品を押し出して離型してよい。
【0025】
上記構成によれば、コア型とキャビティ型とを分離させる型開き工程が終了した後、空気の風圧によって成形品を金型から押し出して離型するエア噴射孔として、ガス抜き孔を兼用できる。このため、全てのエア噴射孔を別途設ける場合に比べ、エア噴射孔の個数を減少させることが可能になり、その結果、金型の構造の複雑性が軽減されるので、金型コストを軽減できる。また、例えば、エジェクタピンを用いて離型する場合には、エジェクタピンの先端が成形品に機械的衝撃を与えて傷つける恐れがあるが、上記の構成によれば、離型の際、成形品に機械的衝撃を与えて傷つけることがない。
【0026】
上記第1の態様では、前記ガス抜き孔の出口には、真空装置に接続された流路が連通し、前記真空装置によって、前記ガス抜き孔から排出される残留ガスを吸引し、前記凸部空間部の頂部からの残留ガス排出を促進してよい。
【0027】
上記構成によれば、溶融樹脂をキャビティに注入する工程において、前記凸部空間部に集中した残留ガスが、前記ガス抜き孔を介して排出される際、真空の吸引力によって残留ガスの排出を促す真空吸引孔として、ガス抜き孔を兼用できる。このため、真空吸引孔としての兼用がない場合に比べ、残留ガスの排出能力が向上し、その結果、更に肉厚が薄い又は形状が複雑な成形品の成形が可能となり、また、残留ガスがガス抜き孔に滞留する時間が短縮され、ガス抜き孔の内部における残留ガスに起因したタール成分の付着が軽減されるので、金型の洗浄頻度を減らせる等、メンテナンスコストを軽減できる。
【0028】
上記の第1の態様に記載の射出成形用金型を用いて樹脂成形品の成形を行う樹脂成形方法が構成されてもよい。
【0029】
本発明の第2の態様に係る樹脂成形品は、凸部と、前記凸部の周辺に形成された平面部と、を備えた樹脂成形品であって、前記凸部の頂部には射出成形用金型に設けられたガス抜き孔の跡が形成されており、前記平面部には射出成形用金型に設けられたゲートの跡が形成されている。
【0030】
上記構成におけるガス抜き孔の跡は、第1の態様に係る金型を用いた成形において、凸部空間部の頂部でガス抜き孔に対向する部分の溶融樹脂は、微量ではあるがガス抜き孔から滲み出ること、その周囲の溶融樹脂に比べ、圧縮された残留ガスに最後まで曝されること、ガス抜き孔と栓部材との界面の存在により、周囲の溶融樹脂とは冷却・固化の進行状態に微妙な差異が生じること等に起因して、成形品の凸部の頂部には、周囲とは僅かに異なった形状、性状の部分が、認識可能なガス抜き孔の跡として形成される。
【0031】
また、上記構成におけるゲートの跡は、成形工程において溶融樹脂が冷却・固化される段階で、ゲート開口部に対向する部分の溶融樹脂が固化すると共に、ゲートの開口部からスプルー側若しくはランナー側も一体化した状態で固化されるため、ゲート位置において成形品とスプルー側若しくはランナー側の樹脂を切断して切り離す必要があり、このため、成形品のゲート開口部に対向する位置には、その切り口が認識可能なゲートの跡として形成される。
【0032】
また、上記構成によれば、金型に設けられたガス抜き孔及びゲートにより、第1の態様の場合と同様に、成形時における溶融樹脂の流れ及び残留ガスの排出がスムーズになり、成形品における歪み、充填不足、変色などによる品質低下を抑制して、高品質の成形品を提供できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、凸部を有する薄肉成形品であっても、キャビティ内における溶融樹脂の流れが凸部に起因して阻害される程度が緩和され、これによって、溶融樹脂の注入圧力を低減しても良好なキャビティ充填性を得ることが可能となり、更には、この低圧成形によって、成形品内部に残留する圧力歪み又はバリの発生等も低減することが可能となる。
【0034】
また、このように成形条件に余裕が得られることにより、十分な充填性を確保するための金型試作回数も節減でき、金型の作製コストを抑制し、かつ、薄肉成形品であっても品質低下を抑制して成形することが可能な金型及び成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態に係る射出成形用金型を、図2中のA-A´線断面を天地を逆にして説明する断面図である。
図2】本実施形態に係る射出成形用金型のキャビティ型をキャビティが形成される側から見て説明する底面図である。
図3】栓部材の他の例を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。よって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0037】
<薄肉成形技術>
本実施形態に係る射出成形用金型の構成について説明する前に、まず、薄肉成形技術について説明する。
【0038】
なお、以下における本発明の説明において、「キャビティ型」とは、金型内部の成形空間であるキャビティに溶融樹脂を充填し、冷却、固化した後に成形品をキャビティから取り出せせるように、金型が主として二つの部品に分割されているが、この金型部品の内、射出成形機の溶融樹脂注入ノズルに接続され、キャビティ内への溶融樹脂の吐出口であるゲートが設けられている方の金型部品を意味する。
【0039】
また、「コア型」とは、前記二つに分割された金型部品の内、「キャビティ型」に対置される方の金型部品を意味する。
【0040】
また、「流路抵抗」とは、キャビティ内に注入される溶融樹脂の流体としての粘度等の物性的要因及びキャビティ内における溶融樹脂の流れに沿った距離、肉厚、屈曲、広狭変化等の形状的要因によって生じる溶融樹脂の流れを阻害する作用力を意味する。
【0041】
また、「肉厚」とは、キャビティ又は成形品において、溶融樹脂の流路方向に垂直な断面の最短軸の寸法を意味する。また「薄肉」とは、キャビティ内における溶融樹脂の流れに沿った「流路抵抗」が大きいために、溶融樹脂が冷えて流動性を失うまでにキャビティ末端まで到達してキャビティ全体を充填することが比較的困難なキャビティ又は成形品における肉厚を意味し、特定の厚さ以下の肉厚であることを意味しない。
【0042】
また、「薄肉成形品」とは、肉厚が「薄肉」である成形品を意味する。また、「薄肉成形技術」とは、溶融樹脂の充填が比較的困難な「薄肉成形品」を安定して成形するために特に工夫を加えた樹脂成形技術を意味する。
【0043】
また、「誘導帯」とは、キャビティ内に注入された溶融樹脂が特定の方向に特に流路抵抗が低くなるようキャビティ内に設けられた帯状の流路であって、この流路部分のキャビティ厚がその周辺部のキャビティ厚に比べて厚くなっており、かつ、この流路部分の末端はキャビティ厚がこの流路部分より薄くなっている部分に接続して終わっているか又は金型壁面まで伸びて行き止まりになって終わっている流路を意味する(以下、この「誘導帯」の流路部分よりもキャビティ厚が薄くなっている部分を「薄肉部分」とも呼ぶ)。
【0044】
また、通常、ゲートは溶融樹脂を誘導帯流路に直接注入する位置に設けられ、誘導帯の流路は、このゲート位置を起点とし、流路に沿ってゲート位置から最も離れて薄肉部分に接続して終わっている位置を流路末端とする。従って、連続する誘導帯流路の中間にゲートが位置する場合には、そのゲート位置から両側に向けて2本の誘導帯流路が設けられていることになり、また、誘導帯流路は、途中で分岐することも、合流することも可能である。
【0045】
また、「凸部」とは、成形品にあっては、成形品の主たる平面部に対して垂直方向に凹陷又は突出している部分を意味し、凹陷部又は突出部はその凹凸表面に沿った比較的薄い肉厚で形作られており、また、キャビティにあっては、キャビティ型とコア型の対応する凹凸部を重ねることで形成されるキャビティの凹凸形状のいずれかの部分を意味する。また、「凸部麓部」とは、成形品にあっては、凸部と平面部の境界部分を意味し、キャビティにあっては、凸部空間部と平面空間部の境界部分を意味する。また、「凸部周回誘導帯空間部」とは、凸部麓部に接して巡る誘導帯を形作っているキャビティ空間を意味する。
【0046】
また、本発明において、「凸部」という言葉は、上述の定義で示されているように、成形品において規準となる平面部がある場合にあっては、その平面部に対して凹陷している部分及び突出している部分の総称として用いる。また、成形品を成形するためのキャビティにおいては、凹凸形状はキャビティ型とコア型の凹凸に応じて形成されるが、どちらを凹陷部とし、どちらを突出部とするかの定めはなく、従って、成形品の凹凸部と同様に、両者を区別せずに「凸部」を総称として用いる。
【0047】
また、「残留ガス」とは、キャビティ内に溶融樹脂を充填する過程において、キャビティ内に存在するガスを意味し、最初からキャビティ内に存在する空気と溶融樹脂の注入が開始された段階で加わるランナーやスプルー内に存在していた空気及び樹脂の揮発成分などより成る。
【0048】
また、「ショート」とは、溶融樹脂をキャビティに注入して充填する際、溶融樹脂がキャビティ末端に届く前に冷えて凝固してしまう、又は、「残留ガス」の排出が遅れ、残留ガスの部分に溶融樹脂が充填されないまま凝固してしまう等の原因で、成形品の一部に充填不足が生じる現象を意味する。
【0049】
一般に、成形品の射出成形においては、キャビティ内には、残留ガスが存在し、ゲートから注入された溶融樹脂がキャビティ内を充填していくに伴い、残留ガスがゲートから遠ざかる方向に追いやられて圧縮され、その残留ガス圧が溶融樹脂の流れを押し止めるように働き、充填速度を低下させる一因となっている。
【0050】
一方、注入された溶融樹脂は、キャビティ内で低温の金型壁面に触れた部分から冷却され、遂には全く流動性を失って固化し、それ以上充填が進行しなくなる性質がある。このため、射出成形においては、キャビティに注入された溶融樹脂が固化するまでの時間と溶融樹脂が残留ガスを全て排出してキャビティを完全に充填する時間(以下、「キャビティ充填時間」とも呼ぶ。)の競争になり、後者の時間の方が長くなると充填不足の欠陥の一つであるショートが生じることになる。
【0051】
キャビティ充填時間は、キャビティ内における溶融樹脂流路の始端となるゲートにおける注入圧力と流下する溶融樹脂先端が接する残留ガスの圧力の差(以下、この圧力差を「流動圧」とも称する。)が小さいほど長くなる。
【0052】
上述したような射出成形の一般的性質に加え、薄肉成形品の成形においては、肉厚の厚い製品に比べ、流路における単位幅当たりの断面積が狭く、残留ガスが高圧になり易く、また、流路抵抗が高くなることが、キャビティ充填時間を長くする要因の一つとなっている。
【0053】
従って、残留ガスの排出速度が遅いと、溶融樹脂の注入によって残留ガスが圧縮され高圧となり、流動圧が低くなり、充填の阻害要因となると共に、残留ガスの断熱圧縮により温度上昇し、溶融樹脂の発火点を超えて樹脂を焦がす恐れも生じる。このような流路抵抗と流動圧の振る舞いが相俟って、薄肉成形においては、肉厚の厚い成形品に比べ、キャビティ充填時間が長くなる傾向にある。このことが、薄肉成形の困難性を高くしている大きな原因となっている。
【0054】
上述したように、薄肉成形においては、流路抵抗が高く、残留ガスが高圧になることは避けられないが、現在まで薄肉成形技術の開発が重ねられ、射出成形によって成形可能な薄肉成形品の範囲が、少しずつ広げられてきている。
【0055】
そのような技術開発の一つとして誘導帯技術の開発がなされている。
【0056】
誘導帯を用いて溶融樹脂をキャビティ内に充填する場合には、誘導帯を用いずに、流路抵抗の高い薄肉部分にゲート部から順次充填していく場合に比べ、ゲートから離れた部分の薄肉部分にも比較的短い遅れで溶融樹脂を到達させて充填でき、薄肉成形品を成形することが容易になる。
【0057】
<射出成形用金型の構成>
図1に示すように、本実施形態に係る射出成形用金型10は、コア型12とキャビティ型14とを有する射出成形用金型10である。コア型12とキャビティ型14とを重ね合わせ、コア型12とキャビティ型14との間に形成されるキャビティ13(成形空間部)に溶融樹脂を注入することによって凸部と平面部とを有する成形品が成形される。また、射出成形用金型10は、ゲート16と、残留ガス排出部18と、を有する。
【0058】
(キャビティ)
本実施形態に係るキャビティ13は、凸部空間部13Aと、平面空間部13Bと、誘導帯空間部13Cとを備える。本実施形態では、キャビティ13の厚さは、0.4mm程度であるが、本発明では、適宜変更できる。凸部空間部13Aは、成形品の凸部を成形する。平面空間部13Bは、樹脂成形品の凸部の周辺に平面部を成形する。誘導帯空間部13Cは、帯状であり、凸部空間部13A及び平面空間部13Bに形成され、凸部空間部13A及び平面空間部13Bより肉厚が厚い空間部を有する。なお、本発明では、誘導帯空間部は、凸部空間部及び平面空間部のいずれか一方に設けてよい。また、本実施形態において、誘導帯空間部13Cは、図1及び図2に示すように、凸部空間部13Aの裾部と頂上部との中間部まで形成されているが、本発明では、凸部空間部に誘導帯空間部を設ける場合、凸部の形状等に応じて、凸部空間部の裾部から頂上部までの任意の位置まで形成してよい。
【0059】
(凸部周回誘導帯空間部)
本実施形態に係る凸部周回誘導帯空間部13Xは、誘導帯空間部13Cから分岐し、凸部空間部13Aと平面空間部13Bの境界部分である凸部麓部に接して、凸部麓部を巡っている。凸部周回誘導帯空間部13Xは、それぞれの凸部空間部13Aの凸部麓部全周を巡るように配置されている。なお、本発明では、凸部周回誘導帯空間部は、肉厚や凸部高さなどを考慮して、適宜、凸部麓部の一部分だけを巡るようにしてもよく、また、凸部麓部を複数箇所に分けて巡るよう配置してもよい。
【0060】
図2に示すように、キャビティ型14のコア型に対向する表面は、凸部空間部13Aに対応する凸部空間対応部14A、平面空間部13Bに対応する平面空間対応部14B、誘導帯空間部13Cに対応する誘導帯空間対応部14C、及び、凸部周回誘導帯空間部13Xに対応する凸部周回誘導帯空間対応部14Xを有する。なお、図2中では凸部空間対応部14Aの個数が4つである場合が例示されているが、本発明では、凸部空間対応部の個数は1個以上、適宜変更できる。
【0061】
また、本発明では、凸部周回誘導帯空間部を備えることにより、この凸部周回誘導帯空間部が溶融樹脂溜まりとして働き、凸部周回誘導帯空間部の全長が凸部空間部へのフィルムゲートの役割を果たし、その結果、平面空間部から凸部空間部への溶融樹脂の流れを阻害して流路抵抗を増大させる要因である凸部麓部における流路屈曲部の流動阻害効果を減殺する。また、凸部麓部の屈曲及び凸部周回誘導帯空間部が凸部麓部に接することによってキャビティに生じる角部は、角部の流動阻害要因を減殺する上で、アール加工を施してあることが望ましい。
【0062】
(ゲート)
本実施形態では、ゲート16は、誘導帯空間部13Cに溶融樹脂を注入する。ゲート16の形式は、ピンゲートである。なお、本発明では、トンネルゲート等、他の種類のゲートが採用されてもよい。
【0063】
(残留ガス排出部)
本実施形態では、残留ガス排出部18は、ガス抜き孔18Aと栓部材18Bである。なお、本発明では、残留ガス排出部は、これに限定されない。例えば、残留ガス排出部としてパーティング面が使用されてもよい。具体的には、成形品の形状によるが、パーティングラインが凸部の頂点を通るように金型を設計し、パーティング面を残留ガスの排出口として使うことができる。
【0064】
また、本実施形態では、残留ガス排出部18は、キャビティ型14とコア型12との両方に形成される。なお、本発明では、残留ガス排出部18は、コア型12のみに形成されてもよいし、キャビティ型14のみに形成されてもよい。また、本発明では、残留ガス排出部は必須ではない。
【0065】
(ガス抜き孔)
本実施形態に係るガス抜き孔18Aは、金型外部から凸部空間部13Aの頂部まで貫通する孔で、その一端が凸部空間部13Aの頂部に開口する。
【0066】
ただし、本発明では、ガス抜き孔の開口位置を、凸部空間部の頂部とゲートとの間の任意の位置に配置することを妨げない。本実施形態に係るガス抜き孔18Aは、凸部空間部13Aの頂部から残留ガスを排出する。
【0067】
本実施形態では、成形品に対向するガス抜き孔18Aの開口部の形状は、2.0mm程度の径を有する円形状である。なお、本発明では、開口部の寸法、形状を適宜変更できる。ガス抜き孔の形状は、例えば、多角形状、楕円形状等、任意の幾何学形状に設定できる。このため、成形品に形成されるガス抜き孔の跡の形状も、ガス抜き孔の形状に応じて変化する。
【0068】
(栓部材)
本実施形態に係る栓部材18Bは、ガス抜き孔18Aに着脱自在に差し込まれた状態で設けられる。栓部材18Bは、ガス抜き孔18Aの内周に密着する円柱材である。栓部材18Bは、軸部と、軸部より拡径された頭部(鍔部)と、を有する。頭部は、図示を省略するが、金型に対してネジ等により脱着自在に固定出来るようになっている。栓部材18Bの円柱材の軸部の外径は、ガス抜き孔18Aの内径に略等しい。なお、本発明では、栓部材の形状は、円柱状に限定されず、ガス抜き孔の形状に応じて、角柱状等、他の形状であってもよい。
【0069】
本実施形態に係る栓部材18Bは、ガス抜き孔18Aから取り外すことが可能なため、非成形時に、栓部材18B及びガス抜き孔18Aを掃除し易い。
【0070】
本実施形態に係る栓部材18Bの円柱材の外周面には、溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できる開口径を有するガス流路20が形成される。本実施形態に係る開口径は、100分の2mm程度である。なお、本発明では、開口径はそれに限らず、成形に用いられる樹脂材料の種類、溶融樹脂の温度、注入圧力等の成形条件、ガス流路の長さ・屈曲性等によって適正な開口径が異なり、金型設計時に、これらの要素を考慮して適切な開口径を任意に定めることができる。
【0071】
(ガス流路)
図1中に例示されたガス流路20は、栓部材18Bの外面とガス抜き孔18Aの内面を密着させ、ガス抜き孔18Aの内面と、栓部材18Bの軸部の外面との間に形成されている。
【0072】
本実施形態において、ガス抜き孔18Aの内面に対向する栓部材18Bの軸部の外面に設けられたガス流路20は、図1に示すように、栓部材18Bの軸方向に平行な平面状の隙間とされている。栓部材18Bの軸部の外面に設けられたガス流路20が軸方向に平行な平面状の隙間である場合、素材としての円柱材を軸方向に平行な平面で所定の厚さ切削することによって、本実施形態に係る栓部材18Bを容易に作製できる。
【0073】
なお、本発明では、図3に示すように、ガス流路20は、例えば、円柱材の軸方向に沿って延びる直線状の複数の縦溝18B1によって構成されてもよい。また、本発明では、ガス流路は、軸方向に沿った平面状若しくは円筒状の隙間又は直線状の縦溝に限定されず、例えば、円柱材の外周面にサンドブラストを施して、ランダムに曲折する複数の流路が組み合わされたガス流路が形成されてもよい。
【0074】
なお、図3に示すように、栓部材の頭部は、本発明では、必須ではなく、軸部のみを有する栓部材であってもよい。
【0075】
また、本発明では、図3中に例示されたガス流路20としての縦溝18B1の溝幅は、残留ガスの入口部分が溶融樹脂は通過できず且つ残留ガスは通過できるサイズとなっておればよく、それ以降のガス流路の形状寸法は任意で、例えば、残留ガスの出口である外部に向かって広がるようにそれぞれ拡径してもよく、或いは、外周に沿った溝によってそれぞれの縦溝が連通していてもよい。
【0076】
(エア噴射機構)
また、図示を省略するが、本実施形態に係る射出成形用金型10では、ガス抜き孔18Aの出口には、他端がエア噴射装置(不図示)に接続された流路が連通されている。射出成形工程で、溶融樹脂の冷却・固化が完了し、型開きを行った後、エア噴射装置を起動し、ガス抜き孔18Aの出口から成形品の凸部の外面に向けて空気を噴射することにより、空気の圧力でコア型12又はキャビティ型14に貼り付いている成形品を押し出して離型することができる。
【0077】
なお、本発明では、ガス抜き孔とは別に、その一端がエア噴射装置に接続された流路が連通されているエア噴射孔を、コア型及びキャビティ型のうち少なくとも一方の任意の位置に任意の個数設け、空気の圧力でコア型又はキャビティ型に貼り付いている成形品を押し出して離型することができる。なお、このようなエア噴射孔は、成形品の形状、金型分割面の選び方等に応じて定まる型開き時に成形品が貼り付く側であるコア型又はキャビティ型に設けられる。
【0078】
(パイパス路機構)
また、本実施形態に係る射出成形用金型10では、ガス抜き孔18Aがコア型及びキャビティ型14に形成されており、コア型12及びキャビティ型14の内部には、図示を省略するが、ガス抜き孔18Aの途中から分岐するパイパス路が形成されている。すなわち、パイパス路の一端がガス抜き孔18Aと密着している栓部材18Bの頭部より少し上流の位置でガス流路20に連通すると共に、パイパス路の他端が金型の外部に連通し、残留ガスを外気に排出する。
【0079】
また、バイパス路は、ガス抜き孔18Aの途中からコア型及びキャビティ型14の側面方向に向かって分岐した状態で設けられている。なお、本発明では、バイパス路を適宜設けることにより、残留ガスの外気への排出口を凸部の頂部の位置に限定せず、任意の位置に設けることができる。
【0080】
(樹脂成形品)
本実施形態に係る射出成形用金型10を用いることによって、凸部と、凸部の下部周辺に形成された平面部と、を備えた成形品を成形できる。成形された成形品の凸部の頂部には金型に設けられたガス抜き孔の跡が形成され、平面部にはゲート16の跡が形成される。また、射出成形用金型10を用いて行われる樹脂成形方法によって成形された成形品には、凸部と平面部の境界部に接し、且つ、境界部に沿って巡る誘導帯(凸部周回誘導帯空間部13X)の跡であるリブが形成される。
【0081】
(作用効果)
本実施形態に係る射出成形用金型10によれば、溶融樹脂は、先ず、凸部空間部13Aや平面空間部13Bより流路の厚さが厚く、従って凸部空間部13Aや平面空間部13Bより流路抵抗が低い空間部を有する誘導帯空間部13Cの位置に設けられたゲート16からキャビティ13に注入される。注入された溶融樹脂は、続いて、ゲート16から離れた地点の誘導帯空間部13Cの末端(すなわち、それ以降は流路の流路抵抗が高くなっている所)まで素早く到達する。
【0082】
一方、溶融樹脂が誘導帯空間部13Cの末端に到達した時点では、誘導帯空間部13Cに隣接する流路抵抗の高い平面空間部13B及び凸部空間部13Aは、溶融樹脂があまり充填されていない状態にある。しかし、溶融樹脂が誘導帯空間部13Cの末端に到達した時点で、溶融樹脂の流れが流路抵抗の高い領域で堰き止められる結果、誘導帯空間部13C内部の溶融樹脂圧が蓄圧され、蓄圧された溶融樹脂が誘導帯空間部13Cに沿って隣接する平面空間部13B及び凸部空間部13Aへ略同時に浸透して行き渡るので、誘導帯空間部13Cがない金型と比較して、品質の高い薄肉成形品を成形できる。
【0083】
また、本実施形態によれば、ゲート16から平面空間部13Bに隣接する誘導帯空間部13Cに注入された溶融樹脂は、平面空間部13Bに隣接する誘導帯空間部13Cを流下し、平面空間部13Bと凸部空間部13Aの境界部分である凸部麓部に至って、誘導帯空間部13Cから分岐した凸部周回誘導帯空間部13Xに流入し、そこから凸部空間部13Aを頂部に向かって充填していく。
【0084】
凸部周回誘導帯空間部13Xが平面空間部13Bと凸部空間部13Aが成している屈曲部に接して設けられているため、平面空間部13Bと凸部空間部13Aが成している屈曲部の流路を拡張する働きがあり、流路の屈曲に伴う流路抵抗を低減する効果がある。
【0085】
更に、凸部周回誘導帯空間部13Xが凸部麓部を巡って設けられており、且つ、凸部周回誘導帯空間部13X内の溶融樹脂が蓄圧されて略ゲート位置での液圧に近い状態になるため、凸部周回誘導帯空間部13Xが恰も凸部空間部13Aに対するフィルムゲートのような働きをし、凸部空間部の充填性が向上するので、凸部麓部に接する凸部周回誘導帯空間部13Xがない場合に比べ、品質の高い薄肉成形品を成形できる。
【0086】
また、本実施形態によれば、残留ガスを排出する残留ガス排出部18が凸部空間部13Aの頂部に位置する。このため、溶融樹脂の流動圧によってキャビティ13内部の残留ガスがこの凸部空間部13Aの頂部に集中し易いが、この頂部に集中したキャビティ内の残留ガスが、残留ガス排出部18を抜けて、金型外部へ放出される。その結果、残留ガスに起因する成形品のガス焼け、ショート、反り等による品質低下を抑制できる。
【0087】
また、本実施形態によれば、残留ガスが残留ガス排出部18により金型外部に適宜放出されることにより、凸部空間部13Aの頂部に集中した残留ガスが過度に加圧されることが抑制される。これに伴って溶融樹脂をキャビティ内に充填させるために要する成形圧力も低くすることが可能となり、成形機への圧力負担も軽くなる結果、小型成形機を用いることが可能となり、コストダウンにも寄与できる。
【0088】
また、本実施形態によれば、ゲート16は、凸部空間部13Aの頂部の位置でなく、平面空間部13Bに隣接して設けられた誘導帯空間部13Cに配置される。このため、例えば、キャビティ13内では、1つのゲート16から伸びる誘導帯空間部13Cで形成される流路を同じく誘導帯空間部で形成される複数の流路に分岐させ、分岐した流路の下流側に複数の凸部空間部13Aを配置することができる。
【0089】
すなわち、それぞれの凸部空間部13Aの頂部にゲート16を設ける従来方法に比べ、成形品に複数の凸部が設けられる場合であっても、凸部の個数に合わせて複数のゲート16を金型に配置する必要がない。従って、ゲート16に溶融樹脂をバランスよく供給するためのランナーの構成も比較的単純となり、金型の設計、製作のコストを低減できる。
【0090】
また、本実施形態によれば、樹脂の種類や残留ガスの多寡に応じ、残留ガス排出性能の異なる栓部材18Bを適宜取り替えて用いることで、適切なガス抜きが行える。また、残留ガスの排出路は、溶融樹脂の揮発成分がタール状となって次第に汚れ、詰まるので随時掃除が必要であるが、上記構成によれば、随時栓部材18Bを抜いてガス流路20を掃除することが容易である。
【0091】
また、本実施形態によれば、ガス抜き孔18Aの出口にエア噴射装置に接続された流路を連通させることによって、型開き工程が終了した後、空気の風圧によって成形品を射出成形用金型10から押し出して離型することができる。
【0092】
また、本実施形態によれば、成形品のガス抜き孔18Aを利用して空気噴射圧による成形品の離型を行う場合、エジェクタピンを用いて離型する場合に比べ、離型の際に成形品に機械的衝撃を与えて傷つけることがない。
【0093】
また、本実施形態によれば、ガス抜き孔18Aの出口に真空装置に接続された流路(図示せず)を連通させることによって、ガス抜き孔18Aからキャビティ13内の残留ガスを吸引することが可能となる。その結果、キャビティ内の残留ガス排出効率が向上し、残留ガスに起因する成形品のガス焼け、ショート、反り等による品質低下を抑制できる。
【0094】
また、本実施形態に係る射出成形用金型10を用いた樹脂成形方法によれば、薄肉の成形品であっても、効率よく且つ高品質に成形することができる。また、本実施形態に係る射出成形用金型10を用いた成形品であることは、成形品の凸部の頂部にはガス抜き孔の跡が形成されており、成形品の平面部にはゲートの跡が形成されていること、また、凸部と平面部の境界部に接して巡る誘導帯の跡であるリブが形成されていることによって示される。
【0095】
<付記>
上記のとおり説明した本実施形態に基づき、本発明について改めて以下に付記として追加説明する。
【0096】
(先行技術の検討)
一般に、キャビティ内には、残留ガスが存在し、キャビティ内の残留ガスの圧力は、溶融樹脂を注入し始めた段階ではほぼ大気圧であるが、溶融樹脂の注入が進行するに伴い、圧力が上昇する。一方、キャビティ内の空間を溶融樹脂が占めていくため、この溶融樹脂に押されて、キャビティ内の残留ガスの一部が金型のパーティング面などに存在する僅かな隙間を通って金型外部に排出される。
【0097】
しかし、金型の隙間は溶融樹脂が漏出できない程度に非常に狭く、従って、残留ガスの排出速度も比較的遅いのが通常である。このため、キャビティ内の残留ガスの圧力は、最終的に残留ガスが完全に排出されるまで或いは溶融樹脂の注入が停止されるまでほぼ上昇し続けることになる。また、このキャビティ内における残留ガスの圧力は、注入された溶融樹脂のキャビティ内における流れを押し止める力として働く。
【0098】
このような残留ガスの内圧上昇は、キャビティ内における溶融樹脂の流れを阻害し、充填が不十分になり、部分的な肉厚不足や肉厚のムラが発生し、或いは、全く溶融樹脂が充填されない部分であるショートが発生する一因となる。また、残留ガスが断熱圧縮されて圧力が上がるとガス温度も上昇し、遂には溶融樹脂の発火点を超えて樹脂表面が焦げる現象も発生する。すなわち、薄肉成形品の品質が低下するという問題も生じる。
【0099】
成形品を射出成形する際のキャビティ内における溶融樹脂の流路の抵抗や残留ガスの影響に関し、特許文献1には何ら開示されていない。このため、特許文献1の技術だけでは、射出成形における流路の抵抗が高いことや残留ガスの排出遅れに起因する成形品の品質低下の問題を解決できない。
【0100】
また、特許文献2の技術に関し、本発明者が検討したところ、キャビティ内に、誘導帯を設けることによって、射出成形時の溶融樹脂の充填性を高めることが可能であることが確認できた。しかし、肉厚の薄さや凸部の個数といった成形品の形状寸法によっては、十分な品質が得られない場合が生じ得ることが分かった。
【0101】
特許文献2に示されるような凸部を有する成形品の射出成形において、凸部に相当するキャビティ部分における残留ガスの高圧化を抑制する方法として、例えば、溶融樹脂の流れの起点となるゲートを、凸部の頂部に対応する金型位置に配置する方法が考えられる。
【0102】
しかし、この方法によれば、ゲートが凸部の頂部に対応する金型位置に全て配置する必要があるため、凸部の個数が増えるに従って、ゲートの個数も増加することになる。例えば、成形品が卵パックである場合には、通常、1つの成形品の中に凸部が10個以上必要とされる場合が多く、蓋部も一体成形する場合には、その2倍近いゲート数が必要となる。これに伴って、ゲートの配置に応じてランナーを張り巡らせる必要が生じ、ゲート間の射出バランスが難しくなり、また、金型が複雑になって金型の加工負担が大きくなる。その結果、金型の作製コストが増大してしまうという問題がある。
【0103】
(凸部周回誘導帯空間部)
本発明では、発明者の試作・研究により、薄肉で凹凸のある複雑形状の成形品の射出成形において、その形状に応じたキャビティ内の末端部まで溶融樹脂を充填しようとすると、流路断面積に比して流路が長く、また、流路の屈曲部が多いことにより流路抵抗が高いことが充填性を低下させていることが分かった。
【0104】
従って、先ず、ゲートを平面空間部の一部に形成された誘導帯空間部に設け、その誘導帯空間部を擬似的なランナーとして、溶融樹脂を最大の屈曲部である凸部麓部の近傍まで導き、更に凸部麓部に接して巡る凸部周回誘導帯空間部を設け、望ましくは凸部麓部全周に設けるが、成形品の形状に応じて誘導帯空間部を設ける余地がない場合などでは、凸部麓部の一部に凸部周回誘導帯空間部を設けることでもよく、この凸部周回誘導帯空間部によって凸部麓部の周囲に溶融樹脂を導き、その凸部周回誘導帯空間部を擬似的なフィルムゲートとして、凸部周回誘導帯空間部内に蓄圧された溶融樹脂を、凸部壁面を構成する薄肉部分に凸部麓部から注入するという構成になるよう、金型のキャビティ構造を設計する。
【0105】
なお、この凸部周回誘導帯空間部の配置においては、凸部が大きくて凸部薄肉部に対する溶融樹脂の充填が不足するような場合には、凸部周回誘導帯空間部から分岐して凸部側壁に這い上がる誘導帯空間部を設けることも自由である。
【0106】
また、凸部周回誘導帯空間部は、凸部麓部に接するように形成され、望ましくは凸部壁面にまで跨がって形成され、更に望ましくは凸部周回誘導帯空間部と凸部壁面の境界部は角部を有さず、滑らかな曲面で接続しているように形成される。また、成形品形状に応じて凸部周回誘導帯空間部を凸部麓部に接して設けることができない場合には、凸部周回誘導帯空間部から凸部麓部までの間隔が、その間隔における流路抵抗が凸部に溶融樹脂を充填するための大きな障害とならない程度に十分近接しておればよい。
【0107】
このような金型構造にすることによって、ゲートから凸部先端までの流路の流路抵抗が、凸部周回誘導帯空間部を用いない場合に比べ、格段に低くなり、薄肉成形において、特に凸部の充填性が低下するという問題の解決手段が与えられる。
【0108】
また、溶融樹脂の充填時における流路抵抗が低くなると、溶融樹脂の注入圧力も下げることができ、従って、溶融樹脂の液圧も低くなり、低圧成形の状態となるので、残留ガスを金型外部に排出する工夫も相俟って、残留ガスの高圧化が抑制される効果もある。
【0109】
また、残留ガスの圧力があまり高くならなければ、残留ガスの温度が断熱圧縮で溶融樹脂の発火点を越えることもなく、ガス焼け不良も抑制でき、高圧による歪みが成形品に残ることも抑制され、また、圧力負担が減少することにより、小型の成形機でも成形できるようになり、コスト低減の効果がある。
【0110】
また、凸部の頂点に残留ガスの排気孔を併せて設けることにより、更に残留ガスの圧力を下げることが可能となり、結果として、残留ガスの反発力が低下することになり、流路抵抗を下げた場合と同様に、充填性が向上すると共に、低圧成形が可能となり、ガス焼け、歪みの抑制、成形機の小型化などの効果が得られる。
【0111】
本発明の要点である凸部麓部に凸部周回誘導帯空間部を接して設ける提案は、凸部屈曲部の流路抵抗を改善する技術であり、また、凸部の頂点にガス抜き孔を設ける提案は、凸部における残留ガスの排出を改善する技術であり、いずれも凸部の充填性を向上すると共に、キャビティ内全体における残留ガスの高圧化を抑制する効果がある。
【0112】
なお、残留ガスの高圧化が抑制されることで得られる効果としては、上記した効果に加え、残留ガス圧に起因するバリ発生が抑制されること、溶融樹脂の注入圧力を低く抑えることが出来ること、樹脂が固化する際に掛かるストレスも軽減され、成形品のソリや変形も抑制されること、ソリや変形を矯正するために設けられた冷却時間も短くすることができ、成形サイクルを短縮できること、注入圧力低下により射出成形機の小型化が可能となり、コストダウンができること、同じく注入圧力低下により型締力を小さくでき、パーティング面からの残留ガスの排出能力が高まり、益々残留ガスの圧力を低く抑えることができること、などの効果が得られる。
【0113】
本明細書からは、以下の態様1から態様3までに述べられる態様が概念化され、本発明に含まれる。
【0114】
本発明の態様1に係る射出成形用金型は、コア型とキャビティ型とを有し、前記コア型と前記キャビティ型とを重ね合わせ、前記コア型と前記キャビティ型との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を注入することによって凸部と平面部とを有する樹脂成形品を成形する射出成形用金型であって、前記キャビティは、前記凸部を成形する凸部空間部と、前記凸部の周辺に前記平面部を成形する平面空間部と、前記凸部空間部及び前記平面空間部のうち少なくとも一方に形成され、前記凸部空間部及び前記平面空間部より肉厚が厚い誘導帯空間部とを備え、前記誘導帯空間部は、前記凸部空間部と前記平面空間部との境界部に接して前記境界部を巡る凸部周回誘導帯空間部を備え、前記キャビティ型は、溶融樹脂を注入するゲートを前記誘導帯空間部に備える。
【0115】
上記構成によれば、ゲートからキャビティの誘導帯空間部に注入された溶融樹脂は、凸部空間部や平面空間部より流路の肉厚が厚く、従って凸部空間部や平面空間部より流路抵抗が低い空間部を有する誘導帯空間部を介して、ゲートから離れた地点の平面空間部及び凸部空間部を周回する誘導帯空間部の末端まで素早く到達する。また、誘導帯空間部に沿った流路抵抗の低い流路の末端は流路抵抗の高い部分に接続されているため、溶融樹脂が誘導帯空間部の末端まで満たされた後、継続して加えられる注入圧力に応じて誘導帯空間内部の溶融樹脂に蓄圧が行われる。
【0116】
その結果、溶融樹脂は、比較的高い圧力の下で、誘導帯空間部に沿って横方向に隣接する平面空間部及び凸部空間部へ流入し、行き渡るので、誘導帯空間部がない金型と比較して、充填性がよく、その結果、ショート等の欠陥が生じ難く、品質の高い薄肉成形品を成形できる。
【0117】
なお、上記構成において、誘導帯空間部は、流路抵抗の観点から、主として直線状の流路が比較的確保できる平面空間部に形成されるが、成形品の寸法形状に応じて、誘導帯空間部を凸部空間部に形成してもよく、又は、平面空間部及び凸部空間部の両方に形成してもよい。また、誘導帯空間部に溶融樹脂を注入するゲートも、ゲートを起点とした誘導帯網を効率よく配置する観点から、平面空間部に形成された誘導帯空間部の位置に設けることが望ましいが、成形品の寸法形状に応じて、誘導帯空間部の任意の位置に任意の個数を設けることができる。
【0118】
また、上記構成によれば、誘導帯空間部は、凸部麓部に接して凸部麓部を巡る凸部周回誘導帯空間部を備えることにより、この凸部周回誘導帯空間部が溶融樹脂溜まりとして働き、凸部周回誘導帯空間部の全長が凸部空間部へのフィルムゲートの役割を果たし、その結果、平面空間部から凸部空間部への溶融樹脂の流れを阻害して流路抵抗を増大させる要因である凸部麓部における流路屈曲部の流動阻害効果を減殺する。このため、このような凸部周回誘導帯空間部がない金型と比較して、凸部におけるショート等の欠陥が生じ難く、品質の高い薄肉成形品を成形できる。なお、前記流路屈曲部の角部は、内周壁面及び外周壁面共にR形状(丸み)を有していることが望ましい。
【0119】
本発明の態様2に係る射出成形用金型は、前記態様1において、前記コア型及び前記キャビティ型のうち少なくとも一方には、前記凸部空間部の頂部から前記頂部に残留する残留ガスを排出する残留ガス排出部を備える。
【0120】
上記構成によれば、誘導帯空間部が凸部麓部に接して巡る凸部周回誘導帯空間部を備えることにより、前記凸部空間部への溶融樹脂の充填性が向上することに加え、また、コア型及びキャビティ型のうち少なくとも一方は、凸部空間部の頂部から残留ガスを排出する残留ガス排出部を備えており、これにより、凸部空間部の頂部付近に滞留する残留ガスが残留ガス排出部により金型外部に適宜放出されるため、凸部空間部の頂部付近に集中した残留ガスが過度に圧縮され、高圧になって溶融樹脂の流動を阻害することが抑制され、凸部空間部への溶融樹脂の充填性が更に向上する。
【0121】
なお、本発明では、残留ガス排出部は、溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できるキャビティから金型外部まで貫通するガス流路が形成されておればどのような構造、形状であってもよいが、例えば、コア型及びキャビティ型のうち少なくとも一方に設けられ金型外面から凸部空間部の頂部に達するガス抜き孔と、ガス抜き孔に着脱自在に差し込まれた栓部材とを有し、栓部材は、少なくとも凸部空間部の頂部に接する部分の外周面全体がガス抜き孔の内周面全体に密着する棒状部材であり、棒状部材の密着部分における外周面とガス抜き孔の内周面との間には、溶融樹脂が通過できず且つ残留ガスが通過できるガス流路が形成されているものであってもよい。
【0122】
また、本発明では、残留ガス排出部としてガス抜き孔を用いた場合、ガス抜き孔の出口に真空装置を接続し、真空装置によって、ガス抜き孔から排出される残留ガスを吸引し、凸部空間部の頂部からの残留ガス排出を促進してもよい。
【0123】
本発明の態様3として、前記態様1に記載の射出成形用金型を用いて樹脂成形品の成形を行う樹脂成形方法が構成されてもよい。前記構成における樹脂成形方法は、前記態様1に述べたように、成形品における歪み、充填不足、変色などによる品質低下が抑制された、高品質の樹脂成形品を提供できる。
【0124】
<その他の実施形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明されたが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明は、上記に記載した実施形態のそれぞれを適宜組み合わせた実施の形態及び上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0125】
10 射出成形用金型
12 コア型
13 キャビティ
13A 凸部空間部
13B 平面空間部
13C 誘導帯空間部
13X 凸部周回誘導帯空間部
14 キャビティ型
14A 凸部空間対応部
14B 平面空間対応部
14C 誘導帯空間対応部
14X 凸部周回誘導帯空間対応部
16 ゲート
18 残留ガス排出部
18A ガス抜き孔
18B1 縦溝
18B 栓部材
20 ガス流路
【要約】
【課題】凸部を有する薄肉成形品であっても、金型の作製コストを抑制し、かつ、薄肉成形品の品質低下も抑制して成形可能な射出成形用金型を提供する。
【解決手段】射出成形用金型10は、コア型12とキャビティ型14との間に形成されるキャビティ13に溶融樹脂を注入することによって凸部と平面部とを有する樹脂成形品を成形する射出成形用金型であって、キャビティ13は、凸部を成形する凸部空間部13Aと、凸部の周辺に平面部を成形する平面空間部13Bと、凸部空間部13A及び平面空間部13Bのうち少なくとも一方に形成され、凸部空間部13A及び平面空間部13Bより肉厚が厚い空間部を有する帯状の誘導帯空間部13Cとを備え、誘導帯空間部13Cに溶融樹脂を注入するゲート16と、コア型12又はキャビティ型14に形成され、凸部空間部13Aの頂部から頂部に残留する残留ガスを排出する残留ガス排出部18と、を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3