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特許7229618エリスロポエチン産生能が亢進された線維芽細胞
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  • 特許-エリスロポエチン産生能が亢進された線維芽細胞 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】エリスロポエチン産生能が亢進された線維芽細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230220BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20230220BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20230220BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/33
A61K35/22
A61P7/06
A61P13/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022504446
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008325
(87)【国際公開番号】W WO2021177387
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020036421
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516200404
【氏名又は名称】株式会社メトセラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩宮 貴紘
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006262(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155651(WO,A1)
【文献】特開2013-174897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0064443(US,A1)
【文献】特表2012-508691(JP,A)
【文献】特表2013-528375(JP,A)
【文献】特表2004-516820(JP,A)
【文献】Invest. Ophthalomol. Vis. Sci., 2005, Vol.46, No.12, pp.4512-4518
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスロポエチン(EPO)産生能が亢進された、CD106陽性の腎臓由来線維芽細胞であって、
対照となるCD106陰性である腎臓由来線維芽細胞と比較して、EPO産生量が1.65倍以上高い、
腎臓由来線維芽細胞
【請求項2】
請求項1に記載の細胞を含む、線維芽細胞集団。
【請求項3】
前記CD106陽性線維芽細胞の割合(細胞数基準)が、前記細胞集団中に含まれる全線維芽細胞に対して4.7%以上である、請求項に記載の細胞集団。
【請求項4】
EPO産生能が亢進された腎臓由来線維芽細胞の製造方法であって、
腎臓由来線維芽細胞に、TNF-α及びIL-4を接触させること、
前記接触させた線維芽細胞を、EPO産生能が亢進され得る条件下で培養すること、を含み、
前記腎臓由来線維芽細胞は、対照となるCD106陰性である腎臓由来線維芽細胞と比較して、EPO産生量が1.65倍以上高い、
前記方法。
【請求項5】
前記EPO産生能が亢進された腎臓由来線維芽細胞が、CD106陽性である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
抗CD106抗体を用いて、CD106陽性の線維芽細胞を選択又は濃縮すること、をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の細胞又は請求項2若しくは3に記載の細胞集団を含む、医薬組成物。
【請求項8】
EPO産生能が低下している状態を改善するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
腎障害を有する患者に投与するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記腎障害が慢性腎臓病である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
腎性貧血を有する患者に投与するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
注射用組成物である、請求項11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記細胞集団が、平面又は立体の形状の細胞組織として構築されたものである、請求項11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポエチン(以下、EPOとも言う)産生能が亢進された線維芽細胞に関する。また、該細胞の製造方法や、該細胞を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
EPOは赤血球の産生促進に寄与するホルモンである。EPOは大部分が腎臓で生成され、その後骨髄中の赤芽球系前駆細胞上に作用し、赤血球の産生(分化及び増殖)を促進する役割がある。
近年、EPOの有する赤血球産生促進能が着目され、腎性貧血などの腎臓疾患に有効であることが明らかとなっており(非特許文献1)、実際に医療の現場においてEPO製剤は腎性貧血の治療剤として広く使用されている。
【0003】
EPOは様々な組織において、抗炎症、抗酸化、抗アポトーシス、血管新生促進作用を有することも知られており、EPOは、腎障害(急性腎障害(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、糖尿病性腎症など)を有する対象に投与することによって、腎障害に起因する腎機能低下から腎臓を保護する、腎臓保護機能をもたらすことも報告されている(非特許文献2及び3)。
【0004】
また、発明者らはこれまでに、Vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1、CD106)発現線維芽細胞が、心臓細胞培養材料として有用であること(特許文献1)、VCAM-1発現心臓線維芽細胞が、心臓疾患を治療するための注射用組成物として有用であること(特許文献2)を明らかにした。しかしながら、VCAM-1発現線維芽細胞の心臓細胞培養材料以外の有用性や、VCAM-1発現線維芽細胞を含む注射用組成物の心臓疾患以外の疾患における有用性については未だ明らかではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2016/006262号公報
【文献】国際公開2018/155651号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nephron, 1997; 77(2): 176-185
【文献】Proc Natl Acad Sci., 2004; 101(41): 14907-14912
【文献】J Renal Inj Prev., 2013; 2(1): 29-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を提供すること、及び該細胞を用いたEPO産生能低下状態を改善する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を進め、TNF-αとIL-4を添加した培地を用いてヒト線維芽細胞を培養することによって、EPO産生能が亢進された線維芽細胞が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の第1の側面(発明A)を含む。
(A1)EPO産生能が亢進された線維芽細胞。
(A2)CD106陽性である、(A1)に記載の線維芽細胞。
(A3)前記線維芽細胞が腎臓線維芽細胞である、(A1)又は(A2)に記載の細胞。
(A4)EPOの産生量が、対照となる線維芽細胞と比較して、1.65倍以上高いものである、(A1)~(A3)のいずれかに記載の細胞。
(A5)(A1)~(A4)のいずれかに記載の細胞を含む、線維芽細胞集団。
(A6)前記CD106陽性線維芽細胞の割合(細胞数基準)が、前記細胞集団中に含まれる全線維芽細胞に対して4.7%以上である、(A5)に記載の細胞集団。
【0010】
また、本発明は以下の第2の側面(発明B)を含む。
(B1)EPO産生能が亢進された線維芽細胞の製造方法であって、
線維芽細胞に、TNF-α及びIL-4を接触させること、前記接触させた線維芽細胞を、EPO産生能が亢進され得る条件下で培養すること、を含む方法。
(B2)前記EPO産生能が亢進された線維芽細胞が、CD106陽性である、(B1)に記載の方法。
(B3)抗CD106抗体を用いて、CD106陽性の線維芽細胞を選択または濃縮することをさらに含む、(B2)に記載の方法。
(B4)前記線維芽細胞が腎臓線維芽細胞である、(B1)~(B3)のいずれかに記載の方法。
(B5)(B1)~(B4)のいずれかに記載する製造方法によって得られる、EPO産生能が亢進された線維芽細胞。
(B6)(B5)に記載する細胞を含む、線維芽細胞集団。
【0011】
また、本発明は以下の第3の側面(発明C)を含む。
(C1)(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞又は(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団を含む、医薬組成物。
(C2)EPO産生能が低下している状態を改善するための、(C1)に記載の医薬組成物。
(C3)腎障害を有する患者に投与するための、(C1)に記載の医薬組成物。
(C4)前記腎障害が、慢性腎臓病(CKD)である、(C3)に記載の医薬組成物。
(C5)腎性貧血を有する患者に投与するための、(C1)に記載の医薬組成物。
(C6)注射用組成物である、(C1)~(C5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(C7)前記細胞集団が、平面状又は立体状の細胞組織として構築されたものである、(C1)~(C5)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0012】
また、本発明は以下の第4の側面(発明D)を含む。
(D1)対象において、エリスロポエチン産生能が低下している状態を改善する方法であって、(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物を、該対象に投与又は移植することを含む、方法。
(D2)対象において、腎障害を治療する方法であって、(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物を、該対象に投与又は移植することを含む、方法。
(D3)対象において、慢性腎臓病(CKD)を治療する方法であって、(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物を、該対象に投与又は移植することを含む、方法。
(D4)対象において、腎性貧血を治療する方法であって、(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物を、該対象に投与又は移植することを含む、方法。
(D5)対象にEPOを投与する方法であって、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を該対象に投与又は移植することを含む、方法。
【0013】
また、本発明は以下の第5の側面(発明E)を含む。
(E1)(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物の、腎臓組織又はその周辺領域に投与するための注射剤としての使用。
(E2)(A1)~(A4)及び(B5)のいずれかに記載の細胞、(A5)、(A6)及び(B6)のいずれかに記載の細胞集団又は(C1)に記載の組成物の、腎臓組織又はその周辺領域に移植するための移植材料としての使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を提供することができ、また該細胞を用いたEPO産生能低下状態を改善する手段や腎障害や腎性貧血を治療する手段を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】腎臓線維芽細胞の特徴を表す図である。Aは、培養した腎臓線維芽細胞の顕微鏡写真図である(スケールバー:500μm)。
図1B】腎臓線維芽細胞の特徴を表す図である。Bは、actin alpha 2、smooth muscle(α-SMA)、CD106及びEPOの発現を示すフローサイトメトリーの解析図である。無処置(Non Treatment(NT))細胞又はTNF-α及びIL-4添加(+TNF-a and IL-4(UP))細胞におけるCD106陽性領域をそれぞれゲーティングし、ゲーティング後の細胞をそれぞれCD106陽性NT(CD106-positive in NT)細胞又はCD106陽性UP(CD106-positive in UP)細胞とした。灰色のヒストグラムはネガティブコントロールとしてのアイソタイプコントロール抗体による蛍光強度を示し、黒色のヒストグラムは、α-SMA、CD106またはEPOに対する標識抗体による蛍光強度を示す。
図2】無処置(Non Treatment(NT))細胞又はTNF-α及びIL-4添加(+TNF-a and IL-4(UP))細胞において、EPOポジティブ領域をゲーティングし、ゲーティング後の細胞におけるCD106陽性率を調べたフローサイトメトリーの解析図である。灰色のヒストグラムはネガティブコントロールとしてのアイソタイプコントロール抗体による蛍光強度を示し、黒色のヒストグラムはCD106またはEPOに対する標識抗体による蛍光強度を示す。
図3】各種の線維芽細胞培養上清液中のEPO含有量の相対比較を示す図である。Aは、無処置(Non Treatment(NT))細胞におけるEPO産生量を1として、TNF-α及びIL-4添加(UP)細胞におけるEPO産生量を相対値で表した。Bは、各種の線維芽細胞培養上清液中のEPO含有量を示す(平均光学濃度Average OD)。Cは、検量線(calibration curve)を示す。Dは、各種の線維芽細胞培養上清液中のEPO含有量を示す(mIU/mL)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的実施形態を用いて詳細に説明するが、本発明は示された具体的実施形態にのみ限定されるものではない。
【0017】
本発明の一実施形態は、EPO産生能が亢進された線維芽細胞である。
【0018】
本実施形態の線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。CD106は、VCAM-1とも称され、血管内皮細胞等に発現する細胞接着分子として既知のタンパク質である。
【0019】
線維芽細胞の由来に制限はなく、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)及びMuse細胞等の多能性幹細胞や、間葉系幹細胞などの成体幹細胞を分化させて用いてもよい。また、動物(ヒトを含む)から採取したプライマリー細胞を用いてもよく、株化した細胞を用いてもよい。線維芽細胞は、腎臓由来であることが好ましい。
【0020】
ヒト由来の線維芽細胞において、CD106陽性線維芽細胞の割合は低く、天然状態において、腎臓由来線維芽細胞の場合多くとも4.7%(細胞数基準)程度である。
従って、後述する製造方法によりヒト由来CD106陽性線維芽細胞の割合を向上させたヒト由来線維芽細胞集団についても、本実施形態に含まれ得る。例えば、本発明の別の形態として、全ヒト由来線維芽細胞に占めるヒト由来CD106陽性線維芽細胞の割合(細胞数基準)が4.7%以上である、ヒト由来線維芽細胞集団であり得る。また、本実施形態のヒト由来線維芽細胞集団中の、全線維芽細胞に占めるCD106陽性線維芽細胞の割合(細胞数基準)は5%以上であってよく、10%以上であってよく、15%以上であってよく、20%以上であってよく、25%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、100%であってよい。なお、CD106陽性であることが知られた細胞を選択することで、細胞選別の処理を省くことができる。
【0021】
またヒト由来の線維芽細胞は天然状態において、EPOポジティブ(以下、EPO+とも言う)細胞の割合は低く、腎臓由来線維芽細胞の場合多くとも40.7%(細胞数基準)程度である。また、EPOは造血ホルモンであり、細胞膜発現型タンパク質ではないため、EPOを指標として細胞を選択又は濃縮することは、困難である。
そのため、例えば後述の線維芽細胞の製造方法に従ってヒト由来CD106陽性線維芽細胞を選択又は濃縮することにより、線維芽細胞集団におけるEPO+線維芽細胞の割合を増加させることができる。また他の方法により線維芽細胞集団におけるEPO+線維芽細胞の割合を増加させてもよい。本実施形態のヒト由来線維芽細胞集団中の、全線維芽細胞に占めるEPO+線維芽細胞の割合(細胞数基準)は40.7%以上であってよく、45%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、100%であってよい。
【0022】
EPO産生能の亢進とは、例えば、対照となる線維芽細胞におけるEPO産生量と比較して、EPO産生量が増加することを言う。対照となる線維芽細胞は特に限定されないが、天然の腎臓線維芽細胞とすることができる。EPO産生量を比較するための測定方法は特に限定されないが、例えば、当業者に既知の方法であるフローサイトメトリーによってEPOポジティブ細胞割合を測定してもよく、ELISA法により産生されたEPOの濃度を測定してもよい。
フローサイトメトリーを用いた場合には、例えば、本実施形態のヒト由来線維芽細胞集団中の、全線維芽細胞に占めるEPO+線維芽細胞の割合(細胞数基準)が、40.7%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%であるときにEPO産生能が亢進したと判断できる。
ELISA法を用いた場合には、例えば、本実施形態のヒト由来線維芽細胞集団の培養上清に含まれるEPOの量が、同条件で培養した対照となる線維芽細胞と比較して、1.65倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、5.0倍以上、又は10.0倍以上増加したときにEPO産生能が亢進したと判断できる。
また、例えば、線維芽細胞9.2×10cellsを5日間培養し培養上清を3mL回収した後、Amicon-Ultra-2などにより100倍濃縮した培養上清濃縮液中におけるEPOの濃度が、5.08mIU/mL超であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよく、5.10mIU/mL以上、6.00mIU/mL以上、7.00mIU/mL以上、8.00mIU/mL以上、8.39mIU/mL以上、10.0mIU/mL以上、20.0mIU/mL以上、50.0mIU/mL以上、100.0mIU/mL以上であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよい。
また、例えば、線維芽細胞9.2×10cellsを5日間培養し培養上清を3mL回収した後の未濃縮の培養上清中におけるEPOの濃度が、5.08E-02mIU/mL超であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよく、5.10E-02mIU/mL以上、6.00E-02mIU/mL以上、7.00E-02mIU/mL以上、8.00E-02mIU/mL以上、8.39E-02mIU/mL以上、10.0E-02mIU/mL以上、20.0E-02mIU/mL以上、50.0E-02mIU/mL以上、100.0E-02mIU/mL以上であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよい。
また、例えば、線維芽細胞9.2×10cellsを5日間培養し培養上清を3mL回収した後の未濃縮の培養上清中におけるEPO量が、1dish(3mL)あたり、1.52E-01mIU超であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよく、1.60E-01mIU以上、2.00E-01mIU以上、2.52E-01mIU以上、3.00E-01mIU以上、4.00E-01mIU以上、5.00E-01mIU以上、10.0E-01mIU以上、20.0E-01mIU以上、50.0E-01mIU以上であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよい。
また、例えば、線維芽細胞9.2×10cellsを5日間培養し培養上清を3mL回収した後の未濃縮の培養上清中における、1細胞当たりのEPO産生量が、1.66E-07mIU超であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよく、1.70E-07mIU以上、1.80E-07mIU以上、1.90E-07mIU以上、2.00E-07mIU以上、2.74E-07mIU以上、3.00E-07mIU以上、5.00E-07mIU以上、10.0E-07mIU以上、20.0E-07mIU以上であるときに、EPO産生能が亢進したと判断してもよい。
【0023】
本実施形態は、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を含む、線維芽細胞集団であってもよい。該線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
【0024】
本実施形態の細胞集団は、CD106陽性線維芽細胞以外に、他の線維芽細胞や他の成分を含んでもよく、他の線維芽細胞を含む場合、細胞集団中の細胞全量に対し、CD106陽性線維芽細胞の割合は細胞数基準で0.03%以上であってよく、0.1%以上であってよく、1%以上であってよく、2%以上であってよく、4%以上であってよく、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよい。
【0025】
線維芽細胞の製造方法を説明する。線維芽細胞の製造に関しては、本発明者らの既報(特許文献1)が参照され、これに従ってもよい。
【0026】
(線維芽細胞の準備)
線維芽細胞の準備において、線維芽細胞の由来は特に限定はされず、既に述べたとおりである。一方で、自己由来の細胞であってよく、例えば腎臓疾患を患っている患者の腎臓組織から単離した腎臓線維芽細胞や、患者の成体(体性)幹細胞を分化させて単離した腎臓線維芽細胞を準備する。また、自己の細胞由来のiPS細胞等の多能性幹細胞を分化させて、回収した線維芽細胞であってもよい。加えて、自己以外の細胞であってよく、例えば腎臓細胞を提供するドナー由来の腎臓組織や、動物等を利用して作製した腎臓組織から単離した腎臓線維芽細胞や、ドナーの成体(体性)幹細胞を分化させて単離した腎臓線維芽細胞を準備する。また、ドナー由来のiPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞を分化させて、回収した線維芽細胞であってもよい。
【0027】
(線維芽細胞の分離)
準備された線維芽細胞は、典型的にはディスパーゼ、コラゲナーゼのような酵素により処理されることで分離され得る。分離はディスパーゼ、コラゲナーゼのような酵素により行われる他、必要とされる分離が可能であれば、その他の処理、例えば機械的処理であってよい。
【0028】
(CD106陽性線維芽細胞の選択又は濃縮)
線維芽細胞がCD106陽性である場合、線維芽細胞はCD106陽性線維芽細胞の選択又は濃縮に供してもよい。選択又は濃縮を経ずともCD106陽性線維芽細胞を入手できる場合には、選択又は濃縮は省略し得る。CD106陽性線維芽細胞の選択又は濃縮には、抗CD106抗体(抗VCAM-1抗体)を用いた、フローサイトメトリー法、磁気ビーズ法、アフィニティーカラム法、又はパニング法等の方法が例示される。具体的には磁気細胞分離法(MACS)や蛍光標識細胞分離法(FACS)などを用いることができる。抗CD106抗体は市販のものを用いてよく、また既知の方法により作製したものを用いてもよい。また、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれを用いてもよいが、特異性の観点からモノクローナル抗体を用いることが好ましい。更には、薬剤耐性遺伝子を導入し、CD106陰性線維芽細胞を除外することで、CD106陽性線維芽細胞を得てもよい。また、蛍光タンパク質コード遺伝子を導入し、蛍光タンパク質ポジティブ細胞を、FACSなどを用いて単離してもよい。また、リアルタイムPCR、次世代シーケンサー及びin situハイブリダイゼーション等の手法を用いて、細胞におけるCD106遺伝子の発現を確認し、CD106遺伝子の発現群を単離してもよい。
【0029】
(線維芽細胞の培養)
線維芽細胞は、所望の細胞数となるまで、及び/又は所望の機能が備わるまで等の目的で、培養に供されてもよい。培養の条件に制限はなく、既知の細胞培養方法により行ってよい。
培養に用いられる培地は、培養する細胞の種類等により適宜設定可能であるが、例えば、DMEM、α-MEM、RPMI-1640、HFDM-1(+)等が使用可能である。該培地にFCSやFBS等の栄養物質や増殖因子、サイトカイン、抗生物質等を添加してもよい。さらに、TNF-α及び/又はIL-4を含む培地で培養してもよい。
培養期間は、培養した細胞が所望の細胞数となるまで、及び/又は培養した細胞が所望の機能が備わるまで等の目的に応じて日数を適宜設定できる。例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、2週間、1か月、2か月、3か月、6か月等の期間があげられる。
培養温度は、培養する細胞の種類に合わせて適宜設定可能であるが、例えば10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上であってよく、また60℃以下、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下であってよい。
培養は複数回行ってもよい。例えば選択又は濃縮により所望の線維芽細胞の純度を向上させ、その都度培養を行うことができる。
【0030】
(線維芽細胞の回収)
培養した線維芽細胞の回収は、トリプシン等のプロテアーゼにより細胞を剥離して回収してよいが、温度応答性培養皿を使用して、温度変化により細胞を剥離させ、回収してもよく、セルスクレーパーなどの器具を使用して細胞を剥離させ、回収してもよい。
【0031】
本発明の別の形態は、EPO産生能が亢進された線維芽細胞の製造方法であって、線維芽細胞に、TNF-α及びIL-4を接触させること、前記接触させた線維芽細胞を、EPO産生能が亢進され得る条件下で培養することを含む、EPO産生能が亢進された線維芽細胞の製造方法である。
該線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性であり、この場合、本実施形態の製造方法は抗CD106抗体を用いて、CD106陽性線維芽細胞を選択又は濃縮することを含んでもよい
【0032】
線維芽細胞と、TNF-α及びIL-4との接触の方法はEPO産生能が亢進された線維芽細胞の誘導、又はEPO産生が亢進されたCD106陽性線維芽細胞の誘導が顕著に害されない限り特段限定されず、典型的には線維芽細胞を含む培地にTNF-α及びIL-4を添加することであるが、これに限られない。TNF-α及びIL-4は、それぞれ別々に線維芽細胞と接触させてもよく、同時に接触させてもよい。TNF-α及びIL-4を同時に接触させる方法としては、TNF-α及びIL-4を混合した後に線維芽細胞に添加してもよい。例えば、TNF-α及びIL-4を水、培地、血清、またはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後で、培地に添加してもよい。
【0033】
本実施形態では、TNF-α及びIL-4を添加した培地で線維芽細胞を培養できることから、線維芽細胞におけるCD106の発現レベルを維持したまま線維芽細胞を培養できる。そのため、高いCD106発現レベルを有する線維芽細胞を製造することができる。
【0034】
TNF-α及びIL-4を培地(mL)に添加する場合、TNF-αの添加量は特段限定されないが、通常0.1ng/mL以上であり、0.5ng/mL以上であってよく、1ng/mL以上であってよく、10ng/mL以上であってよく、50ng/mL以上であってよい。上限は特に限定されず、通常500ng/mL以下であり、100ng/mL以下であってよい。
また、IL-4の添加量は特段限定されないが、通常0.1ng/mL以上であり、0.5ng/mL以上であってよく、1ng/mL以上であってよく、2ng/mL以上であってよい。上限は特に限定されず、通常10ng/mL以下であり、5ng/mL以下であってよく、1ng/mL以下であってよい。
添加するTNF-αとIL-4の比(重量比)は、TNF-α:IL-4で通常10000:1~1:1であり、50000:1~10:1であってもよい。また、1:1~1:10000であり、1:10~1:50000であってもよい。
【0035】
TNF-α及びIL-4を接触させた線維芽細胞を更に培養することで、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を製造することができる。
線維芽細胞の培養は、線維芽細胞が、EPO産生能が亢進され得る条件下であれば特段限定されず、既知の細胞培養方法により行ってよい。さらにCD106陽性になり得る条件下であることが好ましい。上記線維芽細胞の製造方法における(線維芽細胞の培養)の項に記載される方法が例示される。
【0036】
培養した線維芽細胞の回収は、上記線維芽細胞の製造方法における(線維芽細胞の回収)の項に記載される方法が例示される。
【0037】
線維芽細胞がCD106陽性である場合、CD106陽性線維芽細胞の選択又は濃縮は、抗CD106抗体を用いる方法で行うことができる。選択又は濃縮は、どのタイミングで行ってもよい。TNF-α及びIL-4との接触前でもよく、TNF-α及びIL-4との接触後、培養前であってよく、培養後であってよい。
上記線維芽細胞の製造方法における(CD106陽性線維芽細胞の選択及び濃縮)の項に記載される方法が例示される。
抗CD106抗体を用いて選択又は濃縮することで、線維芽細胞におけるCD106陽性線維芽細胞の割合を増加させ、疾患治療効果の高いEPO産生能が亢進されたCD106陽性線維芽細胞を含む細胞集団を得ることができる。
【0038】
本実施形態のEPO産生能が亢進された線維芽細胞の製造方法により、EPO産生能が亢進された線維芽細胞が得られ、該線維芽細胞また該該細胞を含む線維芽細胞集団が本発明の別の実施形態である。線維芽細胞、特に腎臓線維芽細胞は、TNF-α及びIL-4により刺激されることで、CD106発現細胞割合(細胞数基準)が高まり、EPO発現細胞割合(細胞数基準)が高まるため、EPO産生能が亢進された線維芽細胞はEPO産生量が低下する疾患に対する治療用組成物として好適に使用できる。
【0039】
本発明の別の形態は、上記EPO産生能が亢進された線維芽細胞又はその細胞集団を含む、医薬組成物である。該線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
本実施形態の医薬組成物を生体内に投与又は移植することにより、生体内でEPOを高効率に産生させることができる。そのため、特に限定されないが、例えば腎臓組織の障害、欠損、機能不全に起因する、EPO産生能が低下している状態を改善することができる。また、腎障害や腎性貧血を有する患者に投与することができるものであってもよく、これにより腎障害や腎性貧血を治療することができるものであってもよい。腎障害としては、特に限定されないが、例えば急性腎障害(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、糖尿病性腎症、急性糸球体腎炎(急性腎炎)、慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)、急性進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、急性腎不全、慢性腎不全、を挙げることができる。好ましくは、腎障害は慢性腎臓病(CKD)である。さらに好ましくは、腎障害は慢性腎不全である。なお、腎不全とは、腎臓の機能が正常時と比較して低下した状態のことであり、本実施形態においては特に、腎臓の機能が正常時と比較して30%以下に低下した状態のことを言う。
【0040】
本実施形態の医薬組成物を生体に投与又は移植する方法は、特に限定されないが、例えば注射により投与できる。医薬組成物の投与部位は特に限定されないが、例えば、医薬組成物を腎臓組織及び/又はその周辺領域(例えば、腎被膜下など)に直接投与又は移植することで、上記の疾患状態の改善や腎性貧血の治療が可能となる。また、医薬組成物は、静脈、動脈、リンパ節、リンパ管、骨髄、皮下、陰茎海綿体、腹腔内へ投与してもよい。静脈、動脈、リンパ管への投与は、脈管内への注射によるものでもよく、カテーテルにより注入されるものでもよく、その他の既知の手法を用いてもよい。
注射の方法は特段限定されず、有針注射、無針注射等既知の注射手法を適用することができ、注入に用いるカテーテルの方法も既知の方法を適用することができ、特段限定されない。
【0041】
また、本実施形態の医薬組成物は、特に限定されないが、人工臓器材料として生体に適用されるものでもよく、例えば、その人工臓器材料は、細胞集団が平面状または立体状の細胞組織として構築されたものでもよい。この平面状または立体状の細胞組織は、線維芽細胞集団を単独で培養したものでもよく、または線維芽細胞集団と他の細胞、例えば腎細胞を共培養した上で平面状または立体状の細胞組織としたものでもよい。平面状または立体状の細胞組織としては、特に限定されないが、例えば細胞シートや、セルファイバー、3Dプリンタにて形成された組織などが例示される。
本実施形態において、平面状または立体状の細胞組織の大きさや形状は、壊死した腎組織及び/又はその周辺領域に適用できる限り特に限定されない。また平面状とは、単層または複数層のいずれでもよい。
なお、細胞培養における培地組成、温度、湿度といった条件は、EPO産生能が亢進された線維芽細胞を培養することができ、かつ平面状または立体状の細胞組織を構築できる限り特に限定されない。例えば、上記線維芽細胞の製造方法における(線維芽細胞の培養)及び/又は(線維芽細胞の回収)の項に記載した培養条件に準じるものが例示できる。
このような平面状または立体状の細胞組織を壊死した腎組織及び/又はその周辺領域に適用することで、または人工臓器として壊死した腎組織及び/又はその周辺領域と交換することで、腎障害や腎性貧血を治療することができる。
【0042】
医薬組成物に含まれるEPO産生能が亢進された線維芽細胞の割合は、患者への投与又は移植の態様等に基づいて適宜設定され、有効成分として治療上有効量のEPO産生能が亢進された線維芽細胞が含まれていればよい。
医薬組成物中に他の線維芽細胞を含む場合、医薬組成物に含まれる線維芽細胞全量に対し、EPO産生能が亢進された線維芽細胞の割合は細胞数基準で0.03%以上であってよく、0.1%以上であってよく、1%以上であってよく、2%以上であってよく、4%以上であってよく、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよい。
また、医薬組成物に含まれるEPO産生能が亢進された線維芽細胞の数は、例えば1.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以上、5.0×10cells/mL以上、1.0×10cells/mL以上とすることができる。注射用組成物に含まれるEPO産生能が亢進された線維芽細胞の数は、疾患の程度に応じてさらに増減させてもよい。
【0043】
医薬組成物による上記治療及び/又は上記改善の効果の確認方法は、特に限定されず、例えば組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の血中EPO濃度が増加することや、組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の赤血球量が増加することが例示される。
【0044】
医薬組成物による上記治療及び/又は上記改善の効果の確認方法は、特に限定されず、例えば組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の血中クレアチニン(Cr)値が減少することや、組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の尿素窒素(BUN)値が減少することが例示される。
【0045】
医薬組成物による上記治療及び/又は上記改善の効果の確認方法は、特に限定されず、例えば組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の血中クレアチニン・クリアランス(CCr)値が上昇することや、組成物投与又は移植前と比較して糸球体ろ過量(GFR)値が上昇することが例示される。
【0046】
医薬組成物による上記治療及び/又は上記改善の効果の確認方法は、特に限定されず、例えば組成物投与又は移植前と比較して組成物投与又は移植後の尿中の尿蛋白が減少することや、組成物投与又は移植前と比較して尿潜血が減少することが例示される。
【0047】
医薬組成物は、医薬組成物として生理学的に許容される他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、生理食塩水、細胞保存液、細胞培養液、ハイドロゲル、細胞外マトリクス、凍結保存液等があげられる。
【0048】
本発明の別の実施形態としては、上記EPO産生能が亢進された線維芽細胞、その細胞集団又はこれらを含む医薬組成物を、EPO産生能が低下している状態を有する対象に投与又は移植することによりEPO産生能が低下している状態を改善する方法であり得る。本実施形態の線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
また、本発明の別の実施形態としては、上記EPO産生能が亢進された線維芽細胞、その細胞集団又はこれらを含む医薬組成物を、腎障害を有する対象に投与又は移植することにより、腎障害を治療するまたは腎臓を保護する方法であり得る。本実施形態の線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
また、本発明の別の実施形態としては、上記EPO産生能が亢進された線維芽細胞、その細胞集団又はこれらを含む医薬組成物を、腎性貧血を有する対象に投与又は移植することにより腎性貧血を治療する方法であり得る。本実施形態の線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
【0049】
また、本発明の別の実施形態としては、上記EPO産生能が亢進された線維芽細胞、その細胞集団又はこれらを含む組成物の、腎臓組織及び/又はその周辺領域に投与又は移植するための注射剤又は移植材料としての使用であり得る。本実施形態の線維芽細胞は、好ましくはCD106陽性である。
【実施例
【0050】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0051】
<ヒト成人腎臓線維芽細胞の培養>
ヒト成人腎臓線維芽細胞をInnoprotから購入した。この細胞を1%新生仔ウシ血清(newborn calf serum(NBCS、Hyclone)を添加したリコンビナントヒト上皮細胞成長因子(rh-EGF)含有線維芽細胞用無血清培養液(HFDM-1(+)、Cell Science & Technology)にて培養した。3~5回の継代後、線維芽細胞を50ng/mLのTNF-α(Pepro tech)及び2ng/mLのIL-4(Wako)で処置した。
【0052】
<フローサイトメトリー解析>
フローサイトメトリー解析で使用した抗体及び試薬を表1に示す。細胞を4%パラホルムアルデヒド(Wako)で固定し、PBS(Wako)中にて静置した。0.1%サポニンで透過処理を行い、各種抗体と30分間ずつ反応させた。フローサイトメトリー解析は、製造会社の指示書通りにMACSQuant Analyzer10による解析を行った(Miltenyi Biotec)。
【表1】

【0053】
<エリスロポエチン産生能の評価>
未処理のヒト腎臓線維芽細胞(NT)、及びTNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)で3日間処理したヒト腎臓線維芽細胞(UP)を9.2×10cells/dishの濃度で60mmφ培養皿(Corning、Corning、NY)に播種し、5日間無血清DMEM培地で培養した後に、それぞれの線維芽細胞の培養上清液を3mL回収した。上清液はAmicon-Ultra-2(Merck、Darmstadt、Germany)とHuman Erythropoietin ELISA Kit(Proteintech、Rosemont、IL)を用いて、メーカー推奨プロトコルに従ってサンプル調整した。測定はSpectraMax M2(San Jose、CA)で実施した。Amicon-Ultra-2による濃縮前のEPO産生量(mIU)は、製品のデータシートに記載の濃縮最小容量(15μL)を基準に計算した。具体的には、濃縮後のEPO産生量(mIU/mL)を、上記最小容量から算出した濃縮率(100倍、充填容量1.5mLに対して15μLへ濃縮した際の濃縮率と仮定)で徐し、Dish当たりの培地総量(3mL)を乗じることでEPO産生量(mIU)を算出した。1細胞あたりのEPO産生量(mIU/cell)は、EPO産生量(mIU)を播種細胞数(9.2×10cells)で除すことで算出した。
【0054】
<実施例1:TNF-α及びIL-4を組み合わせて用いる事により、CD106(VCAM-1)陽性腎臓線維芽細胞においてEPO発現が増強した>
ヒト成人腎臓線維芽細胞を細胞培養皿にて培養した。ヒト成人腎臓線維芽細胞は平らで紡錘形の形状であり、典型的な線維芽細胞の形状であった(図1A)。
腎臓線維芽細胞を、50ng/mLのTNF-α及び2ng/mLのIL-4で3日間処置した後、FACSを使用してその細胞の特徴を解析した。使用した抗体は、α-SMA、CD106又はEPOに対する抗体である。細胞質に局在するタンパク質の染色は、0.1%のSaponinで細胞膜投下処理を行った後に実施した。
無処置の腎臓線維芽細胞は、線維芽細胞マーカーであるα-SMAが66.54%の細胞で発現していた。一方で、腎臓線維芽細胞は、CD106陽性細胞の割合が少なく(細胞数基準で4.70%)、EPO+細胞の割合も少なかった(細胞数基準で40.68%)(図1B)。CD106陽性細胞をゲーティングして解析すると、α-SMAとEPOの発現細胞の割合(細胞数基準)は、それぞれ97.94%と87.92%であった。つまり、CD106陽性腎臓線維芽細胞はα-SMA及びEPOの発現割合(細胞数基準)が高いことが示された。この結果から、天然状態ではEPO+細胞について、抗CD106抗体を用いた既知の方法によって効率的に選択または濃縮することは困難であることが示された(図1B)。
さらに、腎臓線維芽細胞をTNF-α及びIL-4で3日間処置することによって、CD106陽性細胞の割合が47.50%(細胞数基準)に増加し、α-SMA+細胞の割合が78.71%(細胞数基準)に増加した。処置後の腎臓線維芽細胞におけるEPO+細胞の割合は41.15%(細胞数基準)であったが、CD106陽性細胞においては、EPO+細胞の割合は81.82%であった(図1B)。つまり、CD106陽性腎臓線維芽細胞はTNF-α及びIL-4による処置によってCD106の発現を誘発した後においても、α-SMA及びEPOの発現割合(細胞数基準)が高くなることが示された。
【0055】
<実施例2:TNF-α及びIL-4を組み合わせて用いる事により、EPO発現腎臓線維芽細胞におけるCD106陽性率が増加した>
ヒト成人腎臓線維芽細胞を細胞培養皿にて培養した。腎臓線維芽細胞を、50ng/mLのTNF-α及び2ng/mLのIL-4で3日間処置した後、FACSを使用してその細胞の特徴を解析した。使用した抗体は、CD106又はEPOに対する抗体である。
無処置の腎臓線維芽細胞は、EPO+細胞の割合が細胞数基準で37.24%であり、このうちCD106陽性細胞率は47.78%であった。一方で、TNF-α及びIL-4で3日間処置した腎臓線維芽細胞は、EPO+細胞の割合が細胞数基準で35.13%であり、このうちCD106陽性細胞率は82.86%であり、とても高いCD106陽性細胞率であった。
すなわち、腎臓線維芽細胞を、抗CD106抗体を用いた既知の方法によって精製することによって、高純度のEPO産生能が亢進されたCD106陽性線維芽細胞を効率的に得られることが示された。これらの結果より、TNF-α及びIL-4を使用することで、EPOを産生する腎臓線維芽細胞を選択的にCD106に陽性とすることによって、EPO産生能が亢進されたCD106陽性線維芽細胞の選択または濃縮を効率的に実施可能になることが示唆された。
【0056】
<実施例3:各種の線維芽細胞のエリスロポエチン産生能の評価>
未処理のヒト腎臓線維芽細胞(NT)、及びTNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)で3日間処理したヒト腎臓線維芽細胞(UP)のエリスロポエチン産生能を評価するため、ELISAで各種の線維芽細胞の培養上清液中に含まれるエリスロポエチン含有量を評価した(図3)。その結果、UPの培養上清液にはNTの培養上清液と比較して1.65倍多くのEPOが含まれていることが示された(図3A)。またUPの培養上清液の平均光学濃度(Average.OD)は0.21であり、8.39mIU/mLの濃度のEPOが含まれており、一方で、NTの培養上清液のAverage.ODは0.14であり、5.08mIU/mLのEPO(濃縮後)を含有することが示された(図3B及びD)。また、濃縮前のUPの培養上清液には、8.39E-02mIU/mL、2.52E-01mIU、2.74E-07mIU/cellの濃度のEPOが含まれており、一方で、濃縮前のNTの培養上清液には、5.08E-02mIU/mL、1.52E-01mIU、1.66E-07mIU/cellの濃度のEPOが含まれていた。
本結果から、TNF-αとIL-4を処理して作製した腎臓線維芽細胞はEPOの発現が増強されるだけでなく産生能も向上することが明らかとなり、TNF-αとIL-4を使用することで、EPOを産生する腎臓線維芽細胞を選択的にCD106陽性とすることによって、EPO産生能が亢進されたCD106陽性線維芽細胞の選択または濃縮を効率的に実施可能になることが示唆された。
EPOは赤血球の産生促進に寄与するホルモンであることは既知である。EPOは大部分が腎臓で生成され、その後骨髄中の赤芽球系前駆細胞上に作用し、赤血球の産生(分化及び増殖)を促進する役割があるとともに、近年EPOの有する赤血球産生促進能が着目され、腎性貧血などの腎臓疾患に有効であることが明らかとなっている(非特許文献1)。実際に医療の現場においてEPO製剤は腎性貧血の治療剤として広く使用されている。また、EPOは様々な組織において、抗炎症、抗酸化、抗アポトーシス、血管新生促進作用を有することが知られており、EPOは、腎障害(急性腎障害(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、糖尿病性腎症など)を有する対象に投与することによって、腎障害に起因する腎機能低下から腎臓を保護する腎臓保護機能をもたらすことも報告されている(非特許文献2及び3)。すなわち、これらの先行研究により既知となっているEPOの役割に鑑みると、本発明により人工的に作製したEPO産生能が亢進されたCD106陽性線維芽細胞の投与は、腎障害に有効であることが示唆される。
図1A
図1B
図2
図3