(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法
(51)【国際特許分類】
C09K 8/18 20060101AFI20230220BHJP
E21B 21/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C09K8/18
E21B21/00 A
(21)【出願番号】P 2018173857
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】荒木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 俊
(72)【発明者】
【氏名】坂本 式隆
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 信二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 理大
(72)【発明者】
【氏名】アシュトン,ポール ジョン
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-003254(JP,A)
【文献】特開昭62-246901(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083652(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00-8/94
E21B 21/00
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水に添加して塩水泥水を得るために用いる地中掘削用添加材であって、
ベントナイトと、
エーテル化度が1.0以上であるカルボキシメチルセルロースと、
多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成する粘稠剤と、
を含有し、
前記ベントナイトは、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が20~36秒程度になり、比重が1.02~1.15となるベントナイト種であり、前記塩水泥水の1m
3あたりの当該ベントナイト種の配合量が40~228kgである地中掘削用添加材。
【請求項2】
前記粘稠剤は、水ガラスを含有する水ガラス系の粘稠剤である請求項1に記載の地中掘削用添加材。
【請求項3】
前記塩水の塩分濃度が0.75w/v%以上3.5w/v%以下である請求項1又は2に記載の地中掘削用添加材。
【請求項4】
塩水と、請求項1~3の何れか一項に記載の地中掘削用添加材とを含有する塩水泥水であって、
ファンネル粘性が20~36秒である塩水泥水。
【請求項5】
30分間静置した後のブリーディング率が3%未満である請求項4に記載の塩水泥水。
【請求項6】
塩水と、地中掘削用添加材とを含有する塩水泥水であって、ファンネル粘性が20~36秒である塩水泥水の調製方法であって、
前記地中掘削用添加材は、
塩水に添加して塩水泥水を得るために用いる地中掘削用添加材であって、
ベントナイトと、
エーテル化度が1.0以上であるカルボキシメチルセルロースと、
多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成する粘稠剤と、
を含有し、
前記ベントナイトは、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が20~36秒程度になり、比重が1.02~1.15となるベントナイト種であり、
前記塩水に前記カルボキシメチルセルロースを添加してCMC溶液を作製する工程と、
前記塩水に前記ベントナイトを添加してベントナイト溶液を作製する工程と、
前記CMC溶液と前記ベントナイト溶液とを、体積比率として9:91~11:89となるように混合した後に前記粘稠剤を添加する粘稠剤添加工程と、
を包含
し、
前記CMC溶液を作製する工程、及び前記ベントナイト溶液を作製する工程においては、前記粘稠剤添加工程において前記CMC溶液と前記ベントナイト溶液とを混合した後、前記粘稠剤を添加して得られる前記塩水泥水における前記カルボキシメチルセルロースの配合量が、前記塩水泥水の1m
3
あたり1.8~3.3kg/m
3
となり、かつ前記ベントナイトの配合量が、前記塩水泥水の1m
3
あたり40~228kg/m
3
となるように、前記CMC溶液及び前記ベントナイト溶液を夫々作製する塩水泥水の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、泥水シールド工法、地中連続壁工法等の泥水工法に用いられる地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地下鉄、橋梁等の土木基礎工事、石油ボーリングや各種の鉱業用における深鉱用掘削において、騒音防止、安全性、経済性等の面から、掘削土砂を運搬するとともに、掘削壁を安定化させ、壁面の崩壊を防ぐ目的で、泥水シールド工法、連続壁工法等の泥水工法が採用されるケースが多い。泥水の主成分は、ベントナイトに代表される粘土鉱物と水であり、添加された粘土鉱物が掘削壁の土の粒子間に詰まり堆積し、マッドケーキと呼ばれる止水層が形成されるために壁面が安定化すると言われている。
【0003】
このような泥水工法では、ベントナイト等を含有する多量の掘削土砂が発生するが、その廃棄時の簡便さから、泥水中のベントナイト含有量が低減される傾向にある。しかし、あまりにベントナイト等を低減すると、泥水粘度(ファンネル粘性)が低下して泥水が地層へ流出し、掘削壁を安定化させる能力が低下してしまうという欠点がある。これを解消するために、泥水には、カルボキシメチルセルロース等の泥水安定化剤が配合される。
【0004】
上記の泥水工法において、清水を入手することが困難な状況下での施工では、泥水の混練に海水のような塩水を用いることがある。塩水を用いた場合のベントナイト泥水の性状劣化は周知の事実であり、この場合、ベントナイト泥水を使用するにあたって、ベントナイトを増量したり、これに合わせてカルボキシメチルセルロース等の添加材を用いたり、ソーダ灰及び/又は苛性ソーダによって海水を改質したり、といったような手法が講じられている。また、予め高濃度のベントナイト溶液を清水で混練しておき、それを海水で希釈して用いるといった手法がとられることもある。
【0005】
なお、塩水にベントナイトを混練したものにカルボキシメチルセルロースを添加してなる塩水泥水は、例えば特許文献1にて知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-73663号公報(段落[0046][0048])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したベントナイトの増量や添加材の添加、海水の改質といった手法では、ベントナイトや添加材の使用量が莫大になる上に、材料自体が高価であるため、工事費が嵩むという問題点がある。また、予め高濃度のベントナイト溶液を混練しておいて使用の際に海水で希釈するという手法では、元となるベントナイト溶液が清水で混練することが前提であること、高濃度のベントナイト溶液を混練することには限界があるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、泥水材料の使用量を削減しつつ、塩水泥水の性状を改善することができる地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る地中掘削用添加材の特徴構成は、
塩水に添加して塩水泥水を得るために用いる地中掘削用添加材であって、
ベントナイトと、
エーテル化度が1.0以上であるカルボキシメチルセルロースと、
多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成する粘稠剤と、
を含有することにある。
【0010】
本構成の地中掘削用添加材によれば、膨潤性能の高いベントナイトが塩水との懸濁によって高い粘性が速やかに得られるとともに、エーテル化度が1.0以上のカルボキシメチルセルロースによって塩水下でも高い粘性が発現される。また、塩水中では金属塩が各種イオン(例えば、Ca2+、Mg2+、Na+、Cl-、SO4
2-)に遊離した状態で存在しているが、このうち特に多価陽イオン(例えば、Ca2+、Mg2+)が粘稠剤と反応しゲル状の物質を生成することで粘度が上昇されるので、混練水として塩水を使用する条件下において、添加材を多量に使用しなくても、掘削壁を安定化させる能力を確保することができる。したがって、泥水材料の使用量を削減しつつ、塩水泥水の性状を改善することができる。
【0011】
本発明に係る地中掘削用添加材において、
前記ベントナイトは、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が20~36秒程度になるベントナイト種であり、前記塩水泥水の1m3あたりの当該ベントナイト種の配合量が40~228kgであることが好ましい。
【0012】
本構成の地中掘削用添加材によれば、塩水に混練される条件下においても、保水能力を向上させて非分離性を高めることができる。
【0013】
本発明に係る地中掘削用添加材において、
前記塩水の塩分濃度が0.75w/v%以上3.5w/v%以下であることが好ましい。
【0014】
本構成の地中掘削用添加材によれば、塩分濃度が0.75w/v%以上3.5w/v%以下の塩水下において、ベントナイトが塩水との懸濁によって高い粘性が発現されることに加え、上記塩分濃度条件下であれば、カルボキシメチルセルロースと粘稠剤との相乗的な増粘作用によって、良好な性状の塩水泥水を得ることができる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る塩水泥水の特徴構成は、
塩水と、上記記載の地中掘削用添加材とを含有する塩水泥水であって、
ファンネル粘性が20~36秒であることにある。
【0016】
本構成の塩水泥水によれば、掘削時に掘削壁から地層への塩水泥水の流出が抑制されるので、掘削壁を安定化させることができる。
【0017】
本発明に係る塩水泥水において、
30分間静置した後のブリーディング率が3%未満であることが好ましい。
【0018】
本構成の塩水泥水によれば、掘削壁の表層部に、マッドケーキと呼ばれる止水層が確実に形成されるので、掘削壁から地層への塩水泥水の流出を確実に抑えることができ、掘削壁を確実に安定化させることができる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係る塩水泥水の調製方法は、
上記記載の塩水泥水の調製方法であって、
前記塩水に前記カルボキシメチルセルロースを添加してCMC溶液を作製する工程と、
前記塩水に前記ベントナイトを添加してベントナイト溶液を作製する工程と、
前記CMC溶液と前記ベントナイト溶液とを、体積比率として9:91~11:89となるように混合した後に前記粘稠剤を添加する粘稠剤添加工程と、
を包含することにある。
【0020】
本構成の塩水泥水の調製方法によれば、地中掘削用添加材がムラなく混合されて、地中掘削用添加材が均一に配合された塩水泥水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る塩水泥水に配合されるベントナイトに関するファンネル粘性と比重との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、良好な泥水を得るための混練水の塩分濃度と、添加材の種類(ベントナイトA、CMC、粘稠剤)及び配合量との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法の具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態、実施例、及び図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0023】
<塩水泥水>
本発明に係る塩水泥水は、塩水と、地中掘削用添加材とを含有してなるものである。ここで、塩水とは、食塩水(塩化ナトリウム水溶液)を意味するものではなく、海水等の各種塩を含む水を意図する。
【0024】
<地中掘削用添加材>
塩水に添加して塩水泥水を得るために用いる地中掘削用添加材は、ベントナイトと、エーテル化度が1.0以上であるカルボキシメチルセルロースと、多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成する粘稠剤とを含有している。
【0025】
[ベントナイト]
本発明において用いられるベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とした高膨潤度のベントナイトである。本発明において用いられるベントナイトとしては、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が、20~36秒程度になるベントナイト種及び配合が好ましい。具体的には、
図1のグラフに示される3種類のベントナイトA,B,Cのようなファンネル粘性(FV)が20~36秒程度になるベントナイト種が好ましい。また、塩水下で安定させるためには、さらに泥水比重は1.14以下が望ましい。ここで、ベントナイトA,B,Cの製造会社及び製品名は以下の通りである。
ベントナイトA:(株)タック社製、製品名:TAC-αII
ベントナイトB:(株)タック社製、製品名:TAC-α
ベントナイトC:(株)タック社製、製品名:TAC-βII
【0026】
ベントナイトと塩水との配合は、目標の比重を得るためのベントナイト溶液(塩水泥水)1m3当たりのベントナイト及び塩水の配合を示す下記の表1に基づいて設定することができる。
【0027】
【0028】
本発明において用いられる塩水泥水の1m3あたりのベントナイトの配合量は、好ましくは40~228kg/m3であり、より好ましくは40~100kg/m3である。
【0029】
[カルボキシメチルセルロース]
本発明において用いられるカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と称する。)は、エーテル化度が1.0以上、好ましくは1.3以上であり、塩水下でも高い粘性を発現するものである。ここで、エーテル化度とは、CMCの分子中に含まれるヒドロキシ基がカルボキシメチル基に置換されている度合であり、カルボキシメチル基に置換されているヒドロキシ基の数が多い程、エーテル化度は高くなる。通常、CMCは、金属イオン存在下において、分子中のヒドロキシ基同士で架橋され、増粘が阻害される。一方、カルボキシメチル基に置換されている度合が大きいと、分子の架橋反応は発生するが、アニオン部位が残ることで増粘が保たれる。したがって、高エーテル化度のCMCは金属イオンによる影響が少ない。高エーテル化度CMCのエーテル化度は、1.0以上(例えば、1~1.5)である。一般的なCMC(低エーテル化度CMC)のエーテル化度は、0.6~0.8程度であるが、本発明で使用されるCMCのエーテル化度は1.3のものである。ここで、今回使用するCMCは、SINOCMC Co.,LTD社製で、製品名がSK HE-3である。
【0030】
低エーテル化度CMCは、金属イオンが含まれる水中では、分子鎖が架橋され、粘度が著しく低下する。そのため、本発明では、金属イオンが含まれる水中であっても、影響を受けにくい高エーテル化度CMCを用いている。
【0031】
低エーテル化度CMCと高エーテル化度CMCとを、清水及び海水でそれぞれ混練した場合の粘性の比較結果を下記の表2に示す。
【0032】
【0033】
上記の表2に示されるように、高エーテル化度のCMCを添加材として使用した場合には、海水で混練し、且つ使用量が少なくても、低エーテル化度CMCを添加材として使用した場合よりも高い粘性を発現していることが分かる。なお、高エーテル化度CMCは、低エーテル化度CMCと比較して高粘性であるため、混練直後はダマになりやすい。そのため、予め海水に十分に溶解しておくことが望ましい。これにより、塩水泥水内にCMCのダマができることを防ぐことができる。
【0034】
本発明において用いられる高エーテル化度のCMCの配合量は、塩水泥水の1m3あたり1.8~3.3kg/m3が好ましく、2~3kg/m3がより好ましい。
【0035】
[粘稠剤]
本発明において用いられる粘稠剤は、多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成するものである。通常、塩水中に含まれる金属塩における塩分は、陽イオンと陰イオンとの形で存在することが多い。そのため、塩水中には、陽イオンが遊離した形で存在していることになり、陽イオンの中でも多価の陽イオン(例えば、Ca2+、Mg2+)と粘稠剤とが反応して、塩水泥水の粘度が上昇する。粘稠剤としては、水ガラスを含む水ガラス系の粘稠剤が好ましい。水ガラスは、JIS K1408に示されるケイ酸ナトリウムを主成分としたものが挙げられる。下記化学反応式(1)及び(2)は、水ガラス系の粘稠剤を使用した場合の反応例である。なお、本発明において用いられる粘稠剤は、水ガラス系に限らず、多価陽イオンと反応しゲル状物質を生成するものであれば使用可能である。ここで使用する粘稠剤としては、例えば、(株)タック社製の製品名TAC3Gが挙げられる。なお、水ガラス系以外の粘稠剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウムやペクチン等が挙げられる。
【0036】
【0037】
【0038】
本発明において用いられる粘稠剤の配合量は、塩水泥水の1m3あたり13.5~22kgが好ましく、15~20kg/m3がより好ましい。
【0039】
<塩水泥水の調製方法>
本発明に係る塩水泥水の調製方法は、以下の3つの工程を包含する。
(1)塩水にカルボキシメチルセルロースを添加する工程(CMC添加工程)
(2)ベントナイトを添加して混練する工程(ベントナイト混練工程)
(3)粘稠剤を添加する工程(粘稠剤添加工程)
上記の各工程については、以降の実施例において具体的に説明する。
【実施例】
【0040】
本発明の地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法の具体的な実施例について図面を参照しながら説明する。
【0041】
まず、塩水泥水の目標性状を示す複数の管理項目のそれぞれの管理値の条件について、下記の表3のように定めた。下記の表3に示された全ての管理値の条件を満足する塩水泥水は、泥水シールド工法、地中連続壁工法等の泥水工法に用いられる塩水泥水として好ましい性状、すなわち掘削土砂を運搬することができる適度な流動性を有するとともに、地層への流出を抑えて掘削壁を安定化させる粘性等を有するものとなる。
【0042】
【0043】
上記の表3の管理項目に示される水素イオン濃度、ファンネル粘性、ろ過水量、ケーキ厚及びブリーディング率のそれぞれの測定方法について以下に説明する。
【0044】
[水素イオン濃度(pH)]
水素イオン濃度は、作液した塩水泥水にpH試験紙の小片を浸し、標準変色表と比較してpHを読み取り測定する。
【0045】
[ファンネル粘性(FV)]
ファンネル粘性は、ファンネル粘度計(株式会社西日本試験機製、製品名:S-251)を使用して測定する。まず、ファンネル粘度計におけるファンネル本体を付属三脚で鉛直に立つように支持し、上部に金剛付のフタを載せる。泥水採取容器(500cc)で塩水泥水を口元一杯に採取した後、ファンネル本体下部の流出口を人差し指で塞ぎ、泥水採取容器で採取した塩水泥水試料をファンネル本体に流し込む。ファンネル本体下部の流出口の下方に泥水採取容器を置き、流出口を塞いでいる指を離し、塩水泥水が流出する時間(秒)を測定する。例えば、清水(塩水)のみでの流出時間は、18.5±0.5秒となる。
【0046】
[ろ過水量]
ろ過水量は、API規格に準拠したろ過試験器(以下、「APIろ過試験器」と称する。)を使用して測定する。APIろ過試験器のシリンダにろ紙をセットし、シリンダ内に塩水泥水試料を300mL流し込む。その後、シリンダをAPIろ過試験器にセットし、シリンダの流出口下方に100mLのメスシリンダを置き、0.3MPaの圧力で7.5分間加圧する。加圧してから7.5分後の流出したろ過水量を測定する。
【0047】
[ケーキ厚]
ケーキ厚は、上記のろ過水量を測定した後におけるAPIろ過試験器のシリンダ内のろ紙上に形成された泥膜の厚みを測定することによって求められる。測定する際には、APIろ過試験器のシリンダ内のろ紙を取り外し、ろ紙表面に形成された泥膜を、清水を用いて静かに洗浄する。十分に洗浄後、ノギスを用いて泥膜の厚みを測定する。
【0048】
[ブリーディング率]
ブリーディング率は、500mLのメスシリンダに塩水泥水を採取し、30分静置後の塩水泥水上部の分離水からブリーディング率を測定する。例えば、500mLのメスシリンダ内で450mLの目盛部分で泥水と分離水との境目が確認されたときには、分離水の量が50mLであるから、以下のようにしてブリーディング率が求められる。
ブリーディング率 = {50/500mL} × 100 = 10%
【0049】
<塩水泥水の調製方法>
以下に述べる実施例1~5において、塩水泥水は、以下のようにして調製される。まず、海水(塩水)に対してエーテル化度1.3のCMCを添加してCMC溶液を作製する。一方、塩水にベントナイトを添加してベントナイト溶液を作製する。CMC溶液を十分に混練するとともに、ベントナイト溶液を十分に混練し、両溶液を所定の体積比率(例えば、CMC溶液:ベントナイト溶液=9:91~11:89)で混合後に、塩水と反応し粘性を高める水ガラス系の粘稠剤を添加する(粘稠剤添加工程)。これにより、塩水泥水内に添加材がムラなく混合され、均一に配合された塩水泥水を得ることができる。なお、CMC、ベントナイト、粘稠剤の添加・混練順序は、均一に配合されるために、上記の順が望ましいが、添加の順序が前後する調整方法の態様もあり得る。
【0050】
上記の調製方法で得られた塩水泥水は、耐海水ベントナイトを使用せず、また、高エーテル化度CMC及び粘稠剤のいずれか一方のみを使用した場合よりも、良好な粘度、ブリーディング率、ろ過水量を有するものとなる。
【0051】
<実施例1>
図1のグラフに示される、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が20~36秒の範囲内にあるベントナイトA、B及びCを用いて、下記の表4に示されるように、CMC及び粘稠剤の配合量、並びに塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法にて調整した。
【0052】
【0053】
上記の表4に示されるように、ベントナイトA,B及びCを用いた試料番号1,2及び3の塩水泥水では、目標性状を示す複数の管理項目の管理値の全ての条件を満足している。したがって、塩水泥水の調製に用いられるベントナイトとして、清水に添加混練して3時間後のファンネル粘性が、20~36秒程度になるベントナイト種及び配合を選択することが重要であることが分かる。
【0054】
<実施例2>
下記の表5に示されるように、ベントナイトA及び粘稠剤の配合量を固定し、CMCの配合量のみを変化させ、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法にて調製した。
【0055】
【0056】
上記の表5に示されるように、CMCの配合量が1kg/m3の場合(試料番号4を参照)、ブリーディング率(Br)が管理値の条件(≦3%)を逸脱した。また、CMCの配合量が4kg/m3の場合(試料番号7を参照)、ファンネル粘性(FV)が管理値の条件(20~36秒)を逸脱した。したがって、高エーテル化度のCMCの配合量の下限は2kg/m3(許容値:-10%、すなわち1.8kg/m3)で、上限は3kg/m3(許容値:+10%、すなわち3.3kg/m3)であることが分かる。
【0057】
<実施例3>
下記の表6に示されるように、ベントナイトA及びCMCの配合量を固定し、粘稠剤の配合量のみを変化させ、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法にて調製した。
【0058】
【0059】
上記の表6に示されるように、粘稠剤の配合量が10kgの場合(試料番号8を参照)、複数の管理項目のうちのブリーディング率が管理値の条件(3%)を逸脱した。
【0060】
<実施例4>
下記の表7に示されるように、CMCの配合量を固定し、ベントナイトAと粘稠剤の配合量を変化させ、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法にて調製した。
【0061】
【0062】
上記の表7に示されるように、ベントナイトAの配合量が60kg/m3、CMCの配合量が3kg/m3、粘稠剤の配合量が25kg/m3の場合(試料番号16を参照)、ファンネル粘性(FV)が管理値の条件(20~36秒)を逸脱した。したがって、上記の表6及び表7に示される結果から、水ガラス系の粘稠剤の配合の下限は15kg/m3(許容値:-10%、すなわち13.5kg/m3)で、上限は20kg/m3(許容値:+10%、すなわち22kg/m3)であることが分かる。
【0063】
また、上記の表7に示されるように、CMCの配合量を3kg/m3、粘稠剤の配合量を20kg/m3に固定し、ベントナイトAを30~120kg/m3の間で変化させた場合、ベントナイトAが40~100kg/m3の間において全ての管理項目の管理値の条件を満足した。したがって、ベントナイトAの配合の下限は40(許容値:-10%、すなわち36kg/m3)で、上限は100kg/m3(許容値:+10%、すなわち110kg/m3)であることが分かる。
【0064】
実施例1~4の結果から、ベントナイトAの配合量は、36~110kg/m3が好ましく、より好ましくは40~100kg/m3であり、CMCの配合量は、1.8~3.3kg/m3が好ましく、より好ましくは2~3kg/m3であり、粘稠剤の配合量は、13.5~22が好ましく、より好ましくは15~20kg/m3であると言える。
【0065】
<実施例5>
下記の表8に示されるように、ベントナイトAの配合量、CMCの配合量(配合量0の場合もある。)、粘稠剤の配合量(配合量0の場合もある。)、及び混練水で使用される海水の塩分濃度を変化させて、塩水泥水を上記の調製方法にて調製した。
【0066】
【0067】
<比較例1>
下記の表9に示されるように、粘稠剤を配合せずに、CMCの配合量のみを変化させ、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法(粘稠剤添加工程は無し)にて調製した。
【0068】
【0069】
上記の表9に示されるように、CMCのみを増減させた場合、ファンネル粘性(FV)が改善されたが、CMCの配合量を2kg/m3以上としても、ブリーディング率は一向に改善されなかった。
【0070】
<比較例2>
下記の表10に示されるように、CMCを配合せずに、粘稠剤の配合量のみを変化させ、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水泥水を上記の調製方法(CMC添加工程は無し)にて調製した。
【0071】
【0072】
上記の表10に示されるように、粘稠剤の配合量を増加させることで、ブリーディング率を抑えることができるが、pH、ケーキ厚及びろ過水量が増加し、管理値を超えてしまった。
【0073】
<比較例3>
下記の表11に示されるように、CMC及び粘稠剤を配合せずに、ベントナイトAのみを用い、混練水として、清水及び異なる複数の塩分濃度の海水を用いて清水混練ベントナイト泥水及び複数の塩水混練ベントナイト泥水を調製した。
【0074】
【0075】
上記の表11に示されるように、清水混練ベントナイト泥水は、全ての管理項目の管理値の条件を満足するものであったが、混練水として海水を用いた場合、塩水混練ベントナイト泥水の性状が劣化し、試料番号49の塩水混練ベントナイト泥水のように、ベントナイトを大量に用いたとしても、ケーキ厚が管理値の条件(≦2mm)を超えてしまい、泥水の性状改善には限界があった。
【0076】
<比較例4>
下記の表12に示されるように、CMC及び粘稠剤に代えて、海水を改質するソーダ灰及び/又は苛性ソーダを配合し、混練水で使用される海水の塩分濃度を一定にして塩水混練ベントナイト泥水を調製した。
【0077】
【0078】
上記の表12に示されるように、ソーダ灰及び/又は苛性ソーダを多く使用した割には、泥水の性状が思うように改善されない。
【0079】
<比較例5>
下記の表13に示されるように、粘稠剤を配合せずに、エーテル化度が0.75程度の低エーテル化度CMCを配合して塩水混練ベントナイト泥水を調製するとともに、エーテル化度が1.3程度の高エーテル化度CMCを配合して塩水混練ベントナイト泥水を調製した。
【0080】
【0081】
上記の表13に示されるように、低エーテル化度CMCを配合した塩水混練ベントナイト泥水に比べて、高エーテル化度CMCを配合した塩水混練ベントナイト泥水の方がファンネル粘性(FV)等の管理項目に関しては良好な結果であった。しかし、いずれの塩水混練ベントナイト泥水も、ブリーディング率の管理値の条件を満足せず、泥水工法に用いられる泥水として好ましい性状を示さなかった。
【0082】
<塩分濃度に応じた使用添加材の選択>
図2のグラフに示されるように、塩水の塩分濃度が0.25w/v%までならば、ベントナイト40~60kg/m
3のみで良好な塩水泥水を得ることができる。塩分濃度が0.25w/v%以上の場合、塩分濃度が0.75w/v%までならばベントナイトに高エーテル化度CMCを添加することで、良好な塩水泥水を得ることができる。塩分濃度が0.75w/v%以上である場合は、ベントナイトに高エーテル化度CMCと粘稠剤とを添加することで、良好な塩水泥水を得ることができる。こうして、混練水の塩分濃度に応じて、添加材の量を調節することにより、塩水泥水の添加材の使用量を低減することができる。
【0083】
<塩水泥水の調製方法>
塩水泥水の調製方法において、CMCは別途CMC溶液として、ベントナイトは別途ベントナイト溶液として混練し、その後、両溶液を混合する。配合及び混練手順について以下に説明する。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
<混練手順>
(a)海水にCMC紛体を混合しながら2%濃度のCMC溶液を30秒間ミキサーで撹拌しながら作製し、少なくとも1時間膨潤させる。
(b)海水にベントナイト紛体を混合し、ベントナイト溶液を30秒間ミキサーで撹拌しながら作製する。
(c)CMC溶液とベントナイト溶液とを体積比率として9:91~11:89となるように混合し、30秒間ミキサーで撹拌する(海水塩分濃度が0.25~1.0の場合混練終了)。
(d)海水塩分濃度が1.0~3.5%の場合、海水泥水(ベントナイト溶液、CMC溶液)に粘調剤を体積比率で988:12~990:10となるように混合し、30秒間ミキサーで撹拌する。
【0088】
<塩水泥水のCMCによる違い>
使用するCMCを今回使用したSK HE-3(エーテル化度1.3、分子量250万)から、TGエーテル(エーテル化度1.0、分子量1000万)に変更した場合の結果は、以下の表17に示される通りであり、TGエーテルを使用した場合、使用量を半減することができる。
【0089】
【0090】
<塩水泥水の粘稠剤による違い>
使用する粘稠剤を今回使用したTAC-3G(比重:1.37、モル比:3.5)から、1号珪酸A(比重:1.42、モル比:2.0)と、1号珪酸B(比重:1.42、モル比:2.2)に変更した場合の性状は、以下の表18に示される通りであり、1号珪酸A、1号珪酸Bを使用した場合、TAC-3Gを使用した場合よりもFVがやや低下するが、以下の表18に示されるように、いずれも管理値を満たしている。
【0091】
【0092】
<塩水泥水のベントナイトによる違い>
ベントナイトA(TAC-αII)、ベントナイトB(TAC-α)、ベントナイトC(TAC-βII)において、
図1に示されるFV値20~36秒の範囲における比重の最大値と最小値+αの配合で、塩水泥水の性状確認を行った。その結果が表19~21に示されている。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
ベントナイトAを使用した場合、表19に示されるように、比重1.14(228kg/m3)でケーキ厚が2.0mmで管理値内であった。
【0097】
ベントナイトB及びCを使用した場合、表20及び表21に示されるように、比重1.14(228kg/m
3)でケーキ厚が2.0mmで管理値内であった。また、
図1のファンネル粘性グラフより最大値と考えられていた比重1.175(301kg/m
3)ではケーキ厚が大幅に超過した。
【0098】
上記の実施例等の結果から以下のことが言える。
(1)使用するベントナイト、CMC、粘稠剤の種類によっては使用する量が変動するため、入手したものに応じて適宜調整して使用することになる。
(2)ベントナイトは種類に関わらす、ケーキ厚の問題で比重1.14(228kg/m3)が上限である。
(3)CMCは、エーテル化度、分子量の違いによって使用量が増減する。特に分量の影響が大きい。
(4)粘稠剤(水ガラス系に限る)は、比重1.37~1.42、モル比2.0~4.0までであれば、泥水性状にほぼ影響がない。比重が小さくなれば使用量が増えていく。このため、CMCと同様に、使用する量が変動することになり、入手したものに応じて適宜調整して使用することになる。
【0099】
以上に述べたように、比較的良質で低比重のベントナイトをベースとして、粘稠剤(水ガラス等)の添加により、主としてブリーディングを低減し、高エーテル化度のCMCの添加により、主としてろ過水量及びケーキ厚を低減し、少なくとも両添加材を添加することで、所定の泥水管理値を満たす良質な塩水泥水を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の地中掘削用添加材、塩水泥水、及び塩水泥水の調製方法は、例えば、地下鉄、橋梁等の土木基礎工事、石油ボーリングや各種の鉱業用における深鉱用掘削において、掘削土砂を運搬するとともに、掘削壁を安定化させて壁面の崩壊を防ぐ目的で採用される泥水シールド工法、連続壁工法等の泥水工法において利用可能である。