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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】インクジェット記録用紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20230220BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20230220BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B41M5/52 100
B41M5/50 120
D21H27/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019015812
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020121526
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】久津輪 幸二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義雄
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-341405(JP,A)
【文献】特開2004-003078(JP,A)
【文献】特開2004-059614(JP,A)
【文献】特開2010-142994(JP,A)
【文献】特開2009-220529(JP,A)
【文献】特開2001-121809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/52
B41M 5/50
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙上の少なくとも一方の面上に、顔料を含有しないクリア塗工層を有するインクジェット記録用紙において、
前記原紙が含有する全パルプのうち化学パルプが85重量%以上であり、
前記クリア塗工層が澱粉を含有し、
前記原紙が軽質炭酸カルシウムを内添填料として含有し、
JIS P8151:2004に準じて測定した前記クリア塗工層の表面粗さが5.6μm以下であり、(純水に浸漬後に乾燥させた前記クリア塗工層の前記表面粗さ)-(純水に浸漬前の前記クリア塗工層の前記表面粗さ)で表される戻り指数が1.5μm以下、であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記クリア塗工層の前記表面粗さが、3.5μm以上5.5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記原紙が含有する全パルプのうち針葉樹の晒しクラフトパルプが5重量%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記原紙中の内添サイズ剤の含有量が、前記原紙が含有する前記全パルプに対し、0.015重量%以上0.10重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項5】
印刷前にインク定着剤を記録用紙に供給する形式のインクジェット印刷機用である、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項6】
書籍用紙である請求項1~5のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項7】
前記インクジェット記録用紙の、JIS P8124:2011に準じて測定した坪量が40g/m以上150g/m以下である請求項1~6のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項8】
前記インクジェット記録用紙の紙中灰分が、10重量%以上43重量%以下である、請求項1~7のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用紙に関する。より詳しくは、オフセット及びインクジェット印刷適性に優れ、書籍等に好適なインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
出版物としては、文庫本やコミックス、雑誌等の書籍が広く普及している。これらの書籍用紙に求められる品質の一つに印刷適性が挙げられる。従来の書籍用紙は、一般的に平版のオフセット印刷で印刷されることが多く、オフセット印刷を想定した書籍用紙に関する検討が多くされてきた。
しかし、近年の多品種小ロットの流れに対応したデジタル印刷機の普及に伴い、インクジェット印刷や乾式・湿式電子写真印刷などのオンデマンド印刷で印刷される例や、オフセット印刷とインクジェット印刷の双方で印刷するハイブリット印刷で印刷される例が増えてきており、書籍用紙には、従来のオフセット印刷適性に加え、インクジェット印刷や乾式・湿式電子写真印刷での印刷適性を兼ね備えることが求められてきている。
【0003】
このような、書籍用紙の印刷適性に関する技術としては、十分な強度を持ちながらしなやかであり、頁のめくりやすさ、手触り感に優れた書籍用紙に関する技術(特許文献1)や、インクジェット、オフセット共用の書籍用紙に関する技術(特許文献2)、電子写真方式での印刷を施される書籍用紙に関する技術(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-133561号公報
【文献】特開2015-190087号公報
【文献】特開2001-316999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、表面強度を低下させずにしなやかさを付与する為に、水溶性金属塩を塗布する技術であり、塗布液が凝集するため、製造時に抄造機や、塗工装置に汚れが発生しやすい。更に、インクジェットでの印刷時に印刷ムラが発生しやすい。特許文献2、3記載の技術は、インクジェットでの印刷適性に改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、オフセット及びインクジェット印刷適性に優れたインクジェット記録用紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った結果、顔料を含有しないクリア塗工層を設け、純水に浸漬後のクリア塗工層の表面粗さの増大を抑制することで、インクジェット印刷時におけるラフニング(ベタ印刷部に白いムラが発生する現象)が抑制され、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。純水に浸漬することは、インクジェット印刷の際のインクの吐出を模擬したものである。
【0008】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の内容を包含する。
本発明のインクジェット記録用紙は、原紙上の少なくとも一方の面上に、顔料を含有しないクリア塗工層を有するインクジェット記録用紙において、前記原紙が含有する全パルプのうち化学パルプが85重量%以上であり、前記クリア塗工層が澱粉を含有し、前記原紙が軽質炭酸カルシウムを内添填料として含有し、JIS P8151:2004に準じて測定した前記クリア塗工層の表面粗さが5.6μm以下であり、(純水に浸漬後に乾燥させた前記クリア塗工層の前記表面粗さ)-(純水に浸漬前の前記クリア塗工層の前記表面粗さ)で表される戻り指数が1.5μm以下、であることを特徴とする。
【0009】
本発明のインクジェット記録用紙において、前記クリア塗工層の前記表面粗さが、3.5μm以上5.5μm以下であることが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙において、前記原紙が含有する全パルプのうち針葉樹の晒しクラフトパルプが5重量%以上であることが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙において、前記原紙中の内添サイズ剤の含有量が、前記原紙が含有する前記全パルプに対し、0.015重量%以上0.10重量%以下であることが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙は、印刷前にインク定着剤を記録用紙に供給する形式のインクジェット印刷機用であってもよい。
本発明のインクジェット記録用紙は、書籍用紙であってもよい。
前記インクジェット記録用紙の、JIS P8124:2011に準じて測定した坪量が40g/m以上150g/m以下であってもよい。
前記インクジェット記録用紙の紙中灰分が、10重量%以上43重量%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オフセット及びインクジェット印刷適性に優れたインクジェット記録用紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(インクジェット記録用紙)
<原紙>
本発明に用いる原紙は、パルプを含むことができる。特に、原紙が含有する全パルプのうち、クラフトパルプ(KP)、サルファイドパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)などの化学パルプ(CP)を85重量%以上含有すると、砕木パルプ(GP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)などの機械パルプ(MP)に比べて、純水に浸漬後のクリア塗工層の表面粗さの増大が抑制されて、インクジェット印刷時におけるラフニングが効果的に抑制され、更には白色度や退色性に優れるため好ましい。本発明ではこれらの化学パルプを単独で又は2種以上を同時に使用することができる。
化学パルプとしては、針葉樹の晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹の晒しクラフトパルプ(LBKP)などの木材由来の化学パルプを使用することが好ましい。また、原紙が含有する全パルプのうち、針葉樹の晒しクラフトパルプ(NBKP)が5重量%以上であると、インクジェット印刷時の印字濃度が向上するため好ましい。
【0012】
本発明で使用可能な化学パルプ以外のパルプとしては、上記機械パルプ(MP)、脱墨パルプ(DIP、古紙パルプとも呼ばれる)、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、ワラなどの非木材由来のパルプ、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維パルプ、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維パルプなど、公知のパルプを例示することが可能である。本発明ではこれらのパルプを単独で又は2種以上を同時に使用することができる。
【0013】
本発明に用いる原紙は、填料を内填させることができる。内填させる填料は特に限定されるものではなく、公知の填料の中から適宜選択して使用できる。
このような填料としては、例えば、タルク、カオリン、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカなどの無機填料、プラスチックピグメントなどの有機填料などを例示することが可能である。
【0014】
ここで、インクジェット記録用紙にオフセット印刷やインクジェット印刷を行う場合、特に書籍用紙として使用する場合には、インクジェット記録用紙の両面に印刷を行うことが多く、印刷後の裏抜けを防止するためにも、不透明性が重要な品質項目となる場合がある。また、本発明のインクジェット記録用紙を参考書用紙や教科書用紙として使用した場合、書き込んだ文字などが裏面に透けて見えると、文章や画像が損なわれるため、同様に不透明性が重要な品質項目となる場合がある。
本発明では、原紙に軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウムを内填させると、不透明性が向上して裏抜けが抑制されると共に、オフセット印刷適性を向上させる効果があるため好ましく、軽質炭酸カルシウムがより好ましい。
【0015】
本発明のインクジェット記録用紙は、オフセット印刷時のブランケット離れが良化する、インクジェット印刷時にインクの浸透を抑制して印字濃度が向上するなどの効果があるため、原紙に内添サイズ剤を含有させることが好ましい。内添サイズ剤は特に限定されるものではなく、公知の内添サイズ剤の中から適宜選択して使用できる。
このような内添サイズ剤としては、例えば、強化ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、合成系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などを例示することが可能である。本発明では、自己定着性を有し、含有量が少なくとも効果の発現が大きいAKDが好ましい。
【0016】
原紙中の内添サイズ剤の含有量は、原紙が含有する全パルプに対し、0.01重量%以上0.15重量%以下が好ましく、0.015重量%以上0.10重量%以下がより好ましい。
原紙中の内添サイズ剤の含有量が原紙が含有する全パルプに対し0.01重量%未満であると、内添サイズ剤の効果が十分に発揮されない可能性がある。また、0.15重量%を超えると、インクジェット印刷時やボールペン、万年筆等での筆記時に、インクの吸収性が低下する傾向が見られる。
【0017】
本発明の原紙には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の内添薬品を含有させてもよい。その他の内添薬品としては、ポリアクリルアミド、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、各種変性澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバー等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニル、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤、硫酸バンド、歩留向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、濾水性向上剤、凝結剤、pH調整剤、スライムコントロール剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料などが挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いられる。
【0018】
<抄造>
本発明において、原紙の抄造方法は特に限定されるものではなく、長網抄造機、円網抄造機、短網抄造機、ギャップフォーマー型、オントップフォーマー型等のツインワイヤー抄造機など、各種公知の抄造機により抄造することができる。また、抄造方法としては、酸性抄造、中性抄造、アルカリ性抄造方式から適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、中性抄造であることが好ましい。本発明においては、具体的には、抄造時の紙料のpHが5.0~9.0であることが好ましく、6.0~8.0であることがより好ましい。
【0019】
<クリア塗工層>
本発明においては、オフセット及びインクジェット印刷適性を向上させると共に、表面強度の向上や耐水性の付与を目的として、上記で得られた原紙に顔料を含有しないクリア塗工液を塗工し、クリア塗工層を設ける。クリア塗工液に使用する接着剤は特に限定されないが、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、熱化学変性澱粉、酵素変性澱粉等の澱粉類を使用することが好ましい。
【0020】
本発明のクリア塗工液で使用可能な澱粉類以外の接着剤としては、ポリアクリルアミド、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールのポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバー等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いられる。
なお、澱粉以外の接着剤、特にスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニルのいずれかを塗工すると、インクジェット印刷時におけるベタ印刷部で部分的に濃くなるムラが発生する場合があるため、クリア塗工層は澱粉以外の接着剤を含まないことが好ましい。
【0021】
本発明では、インクジェット印刷時にインクの浸透を抑制して印字濃度が向上するなどの効果があるため、クリア塗工液にスチレン系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、スチレン-アクリル系サイズ剤、カチオン性サイズ剤等の外添サイズ剤を含有させてもよい。
クリア塗工液に外添サイズ剤を含有させる場合、クリア塗工液中の固形分濃度で0.005重量%以上1重量%以下が好ましく、0.01重量%以上0.5重量%以下がさらに好ましく、より好ましくは0.015重量%以上0.1重量%以下である。
【0022】
さらに、クリア塗工液には、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等の各種助剤を、単独又は2種類以上混合して、適宜含有させることができる。
【0023】
クリア塗工液の乾燥塗工量は、要求される表面強度などにより適宜調整可能であり特に限定されるものではないが、通常は両面で0.1g/m以上5.0g/m以下の範囲である。両面で0.1g/m以上4.0g/m以下であることが好ましく、両面で0.15g/m以上3.0g/m以下であることがより好ましい。
クリア塗工液の乾燥塗工量が多くなると、クリア塗工層由来の重量や紙厚が増加する傾向が見られるが、特に本発明のインクジェット記録用紙を書籍用紙に使用した場合、重量の増加は書籍の重量の増加につながり、読書の際に保持する手が疲れやすくなる、また、紙厚の増加は輸送時に積載できる書籍の数量の減少につながり、輸送効率が低下するなどの問題が発生する可能性がある。
【0024】
クリア塗工液を塗工する装置は特に限定はなく、2ロールサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ロットメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、スプレーコーター、カーテンコーター等の公知の塗工機によって塗工することができる。本発明では、両面同時塗工が可能であり、かつ低塗工量での塗工に適した塗工装置であるため、ゲートロールコーターを使用することが好ましい。
【0025】
本発明のインクジェット記録用紙は、所望する品質に応じて、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダー等の公知の表面処理装置を使用して表面処理を行ってもよく、また、紙厚を高く維持するために、表面処理を行なわなくともよい。本発明のインクジェット記録用紙に表面処理を行う場合は、インクジェット記録用紙の表面粗さ、即ちクリア塗工層の表面粗さを小さくし、かつ紙厚を高く維持することが容易であるため、ソフトニップカレンダーまたは高温ソフトニップカレンダーを使用することが好ましい。
【0026】
(クリア塗工層の表面粗さ)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P8151:2004(紙及び板紙-表面粗さ及び平滑度試験方法(エア・リーク法)-プリント・サーフ試験機法)に準じて測定したクリア塗工層の表面粗さが5.6μm以下である。
クリア塗工層の表面粗さが5.6μmを超えると、インクジェット印刷時におけるラフニングが劣る。クリア塗工層の表面粗さは、好ましくは3.5μm以上5.5μm以下である。
【0027】
(戻り指数)
(純水に浸漬後に乾燥させたクリア塗工層の表面粗さ)-(純水に浸漬前のクリア塗工層の表面粗さ)で表される戻り指数が1.5μm以下である。
純水に浸漬することは、インクジェット印刷の際のインクの吐出を模擬したものであり、純水に浸漬後のクリア塗工層の表面粗さの増大を1.5μm以下に抑制することで、インクジェット印刷の際のインクによるクリア塗工層の表面荒れが低減し、インクジェット印刷時におけるラフニングの発生を抑制することができる。
【0028】
戻り指数を1.5μm以下に制御する方法としては、(1)原紙が含有するパルプの組成と配合割合、(2)クリア塗工層を塗工した後のカレンダー処理の条件が挙げられる。
原紙が含有するパルプの組成は、化学パルプを主体として機械パルプを低減又は配合しないことで、表面粗さを小さくすると共に、カレンダーにより潰れたパルプが浸水で戻る程度を小さくする。
これは、機械パルプは剛直であるため、原紙に含有させると表面粗さが大きくなると共に浸水で戻る程度が大きくなるからである。
また、カレンダー処理は、できるだけパルプを潰さずに仕上げることで、浸水で戻る程度を小さくすることができる。
【0029】
(坪量)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P8124:2011に準じて測定した坪量が40g/m以上150g/m以下であることが好ましく、45g/m以上110g/m以下であることがより好ましい。
【0030】
(密度)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P 8118:2014に準じて測定した密度が、0.65g/cm以上0.77g/m以下であると、書籍用紙として好適に使用することができるため好ましく、0.67g/cm以上0.75g/cm以下であることがより好ましい。
【0031】
(紙中灰分)
本発明のインクジェット記録用紙は、紙中灰分が5重量%以上45重量%以下であることが好ましく、10重量%以上43重量%以下であることがより好ましく、13重量%以上40重量%以下であることがさらに好ましい。本発明における紙中灰分は、JIS P8251:2003(525℃燃焼法)に準じて測定可能である。
紙中灰分が5重量%未満であると、インクジェット記録用紙の不透明性が低下する場合がある。また、紙中灰分が45重量%を超えると、填料により原紙中のパルプ間の結合力が低下し、インクジェット記録用紙の表面強度や腰が低下する場合がある。インクジェット記録用紙の表面強度の低下は、主にオフセット印刷適性の低下につながる。また、腰の低下は、主に書籍に加工した後の頁のめくりやすさの悪化につながる。
【0032】
(ステキヒトサイズ度)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P8122:2004に準じて測定したステキヒトサイズ度が10秒以下であることが好ましい。より好ましくは1秒以上8秒以下である。
ステキヒトサイズ度が10秒以下であると、オフセット印刷時のブランケット離れが良化する、インクジェット印刷時にインクの浸透を抑制して印字濃度が向上すると共に、インクジェット印刷時やボールペン、万年筆等での筆記時に、インクの吸収性が良好であるため好ましい。
ステキヒトサイズ度が10秒を超えると、インクジェット印刷時にインクの吸収性が低下し、インクの乾燥不良により印刷機内で汚れが発生する、インクの液滴が広がりにくくなり、文字や画線に細りが生じるなどの恐れがある。また、ステキヒトサイズ度が1秒未満であると、オフセット印刷やインクジェット印刷後に裏抜けが発生しやすくなると共に、ボールペン、万年筆等での筆記時に、インクが紙に浸透しすぎてしまい、文字のにじみやインクの裏面への透過が発生する恐れがある。
【実施例1】
【0033】
以下に実施例を示しながら本発明について説明するが、この実施例は本発明の範囲を限定する者ではない。なお、本明細書の説明において、断らない限り、濃度や%は(固形分)重量%であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0034】
<評価方法>
1.紙質測定方法
・坪量:JIS P8124:2011に準じて測定した。
・紙厚、密度:JIS P8118:2014に準じて測定した。
・紙中灰分:JIS P8251:2003に準じて測定した。
・ステキヒトサイズ度:JIS P8122:2004に準じて測定した。
【0035】
2.戻り指数
(1)得られたインクジェット記録用紙から、10cm×10cmの測定用サンプルを裁断する。
(2)測定用サンプルのクリア塗工層の表面粗さを、JIS P8151:2004(紙及び板紙-表面粗さ及び平滑度試験方法(エア・リーク法)-プリント・サーフ試験機法)に準じて測定する。
(3)金属バットに常温の純水を入れ、測定用サンプルの(2)で表面粗さを測定したクリア塗工層の全面を1秒間純水に浸漬させる。
(4)薄ろ紙(アドバンテック社製、定性ろ紙 No.2)を5枚重ねた上に、純水に浸漬させた後の測定用サンプルの純水に浸漬させた面を対向させ、その反対面に更に薄ろ紙5枚を重ねる。
(5)薄ろ紙上でローラー(直径10cm、幅13cm、重量2.7kg)を3往復させる。
(6)60℃の乾燥機中で3分間乾燥後、23℃50%RH下で1時間調湿して、(2)で表面粗さを測定したクリア塗工層の表面粗さを測定する。
【0036】
3.インクジェット印刷適性
<ラフニング>
作製したインクジェット記録用紙について、インク定着剤を記録用紙に供給する形式のインクジェット印刷機(ヒューレット・パッカード社製の顔料インクジェットプリンター、製品名:CM8060 ColorMFP、印字条件:つや消し/ブローシャモード)を使用して、ブラックのベタ印字(大きさ:縦10cm×横10cm)を行い、以下の基準で評価した。ラフニングの評価が○、△であれば、実用上問題がない。
○:ムラがなく均一なベタとなっている。
△:部分的に多少白いムラが見られるが、概ね均一なベタとなっている。
×:白いムラが目立つ。
<印字濃度>
作製したインクジェット記録用紙について、上記インクジェット印刷機(CM8060)を使用して、ブラックのベタ印字(大きさ:縦2cm×横3cm)を行った。1日後にマクベス濃度計(Gretag Macbeth RD-19)を用いて印字濃度を測定した。
【0037】
(実施例1)
パルプ100重量%に対し、針葉樹の晒しクラフトパルプ(NBKP)10重量%、広葉樹の晒しクラフトパルプ(LBKP)90重量%となるように混合してパルプスラリーを得た。このパルプスラリー中のパルプに対し、軽質炭酸カルシウム、内添サイズ剤(AKD)がそれぞれ20重量%、0.06重量%となるように添加し、紙料を調整した。
ついで、長網抄造機を使用して、上記紙料を速度700m/minで抄造し、坪量60.0g/mの原紙を得た。
ついで、原紙の両面に、酸化澱粉を12重量%含有するクリア塗工液を、両面での乾燥塗工量が2.4g/mとなるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成し、ソフトニップカレンダーで表面を処理して、坪量62.4g/mのインクジェット記録用紙を得た。
【0038】
(比較例1)
パルプ100重量%に対し、針葉樹の晒しクラフトパルプ(NBKP)5重量%、広葉樹の晒しクラフトパルプ(LBKP)30重量%、晒しサーモメカニカルパルプ(TMP)35重量%、脱墨パルプ(DIP)30重量%となるように混合してパルプスラリーを得た。このパルプスラリー中のパルプに対し、炭酸カルシウム、サイズ剤がそれぞれ20重量%、0.06重量%となるように添加し、紙料を調整した。
ついで、長網抄造機を使用して、上記紙料を速度700m/minで抄造し、坪量60.0g/mの原紙を得た。
ついで、原紙両面に、酸化澱粉を12重量%含有するクリア塗工液を、両面での乾燥塗工量が2.4g/mとなるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成し、ソフトニップカレンダーで表面を処理して、坪量62.4g/mのインクジェット記録用紙を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、クリア塗工層の表面粗さが5.6μm以下であり、戻り指数が1.5μm以下である実施例の場合、インクジェット印刷時におけるベタ印刷部のムラが小さくラフニング性に優れると共に、印字濃度も高くなった。
一方、戻り指数が1.5μmを超えた比較例の場合、インクジェット印刷時におけるベタ印刷部のムラが大きくラフニング性が劣ると共に、実施例より印字濃度が低くなった。
このことより、戻り指数がインクジェット印刷適性(ラフニング及び印字濃度)を反映することがわかる。
【0041】
なお、本実施例及び比較例では、原紙の両面にクリア塗工層を形成したので、表面粗さは、片面(A面)と反対面(B面)の値のうち大きい方の値を採用する。
また、比較例は、原紙が含有する全パルプのうち化学パルプが85重量%未満であると共に、インクジェット記録用紙のカレンダー処理の線圧を実施例より高くした。