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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】電子写真用顔料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/24 20060101AFI20230220BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20230220BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C09C1/24
C01G49/08 B
G03G9/083 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019037421
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139101
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】神田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】日向 曜平
(72)【発明者】
【氏名】灘 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】貞永 英二
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩昭
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100464(JP,A)
【文献】特開2010-100465(JP,A)
【文献】特開2012-14167(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109096499(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/24
C01G 49/08
G03G 9/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四酸化三鉄を主成分とする磁性体の表面にアルキルシラン化合物層を有する顔料であって、アルキルシラン化合物層が、前記顔料の重量に基づいて、8.5g/kg以上40.0g/kg以下の量のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物からなり、前記顔料の疎水化度が575g/kg以上800g/kg以下である、前記顔料。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡を用いた画像解析から求めた一次粒子のメディアン径が0.20μm以上0.35μm以下である請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
外部磁場が79.6kA/mの際の磁化が64.0Am/kg以上72.0Am/kg以下であり、かつ外部磁場が79.6kA/mで着磁した後の残留磁化が2.8Am/kg以上4.2Am/kg以下である請求項1又は請求項2に記載の顔料。
【請求項4】
四酸化三鉄を主成分とする磁性体を水中に分散したスラリーに、i-ブチルトリメトキシシランを添加して、i-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を生じさせ、この加水分解物を前記磁性体の表面に被着させる工程、及びi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物が被着した磁性体を固液分離により得て、乾燥する工程
を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の顔料の製造方法
【請求項5】
(1)四酸化三鉄を主成分とする磁性体を水中に0.18kg/L以上0.60kg/L以下の量で含むスラリーを準備し、前記スラリーのpHを7.0以上11.5以下に、かつ、温度を35℃以上90℃以下に調整する工程、
(2)i-ブチルトリメトキシシランを(1)のスラリーに添加し、スラリーの温度を(1)に記載の温度範囲に保ったまま2時間以上かく拌することで前記磁性体表面にi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を被着させる工程、
(3)(2)のスラリーから前記加水分解物が被着した磁性体を含むケーキを固液分離する工程、及び
(4)(3)のケーキを空気中で60℃以上100℃以下の温度で乾燥させる工程
を含む、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四酸化三鉄を主成分とする磁性体の表面にi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を被覆した顔料に関する。より詳細には、疎水化度が大きく、かつ揮発性有機化合物(以下「VOC」と記す)発生量が小さいことを特徴とし、重合法による磁性一成分トナーをはじめとする電子写真の現像剤の材料として用いるのに適した疎水性磁性顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式による複写機、プリンター、FAX、その他複合機等(以下、代表で「プリンタ-」と略記する)の機器の機能向上に伴い、使用する現像剤(以下、トナーとの表記も現像剤と同義)についても高い品質が要求されるようになっている。正確に、速く、大量に印刷が可能で、またコストとのバランスのとれたトナーが求められている。このため、画像品質の向上と製造コストの低減を目的として、従来の粉砕法トナーに代わり重合法トナーが用いられるようになった。特許文献1は、重合法トナーの製造方法を示す。四酸化三鉄を重合法トナーの材料として用いる場合は、元来親水性である表面を疎水性に改質し、疎水化度を高めることが重要となる。
【0003】
換言すると、表面改質が十分ではなく、親水性の表面が多数残存していると、重合法トナーの製造過程において、四酸化三鉄を含む磁性顔料を樹脂モノマー中に分散させて水中に懸濁した際に顔料が水相に移行し、トナー母体粒子中での顔料の分散性が悪化する。またトナー母体粒子間で顔料の含有量に差が生じ、最悪の場合には顔料を全く含有しないトナー母体粒子が生成するなどの問題を生じる。
【0004】
特許文献2は四酸化三鉄(マグネタイト)などの磁性酸化鉄粒子をn-デシルトリメトキシシランなどで被覆する製法を示す。特許文献2の実施例の中で最も疎水化度が高いn-ヘキサデシルトリメトキシシランを用いて被覆された実施例14の疎水性磁性酸化鉄粒子は、メタノール濡れ性試験による疎水化度が83%(換算すると771g/kg)であったことが記載されている。特許文献3はマグネタイトのコア粒子の表面にアルキルシラン化合物層を設ける製法を示す。特許文献3の実施例の中で最も疎水化度が高いn-オクチルトリメトキシシランを用いて被覆された実施例3の被覆マグネタイト粒子は、メタノール濡れ性試験による疎水化度が70%(換算すると649g/kg)であったことが示されている。これらの疎水化度の大きい磁性顔料は重合法トナーの材料として好適であった。
【0005】
一方で、近年では健康への関心の高まりから、プリンターの使用時に発生する化学物質が問題視されるようになった。その一つとして、印刷時に現像剤を加熱することによって発生するVOCがあり、このVOC発生量の抑制が課題となっている。例えば、ドイツにおける環境ラベルであるブルーエンジェルでは、商品の製造から使用、廃棄に至るまでの環境負荷の低減を求めており、プリンターにおいては印刷時のVOC発生量の低減を求めている。
【0006】
重合法トナーについても、加熱時のVOC発生量の低減が求められている。特許文献2及び特許文献3で得られた疎水化度の大きい磁性顔料を材料とした重合法トナーについて調査した結果、加熱時に顔料から発生するVOCの量が大きいことが明らかになった。一般的に、炭素数の大きいアルキル基が含まれる製品は、加熱時のVOC発生量が大きい。重合法トナーの場合は、顔料のコア粒子の被覆に使用するアルコキシシラン中のアルキル基の炭素数が大きい場合、加熱時のVOC発生量が大きい傾向が見られる。
【0007】
アルコキシシランを含有する磁性顔料に由来するVOC発生量を低減するには、アルキル基の炭素数が少ないアルコキシシランを使用することが極めて有効である。しかしながら、炭素数の少ないアルキル基を有するアルコキシシランを四酸化三鉄粒子に被覆した場合、疎水化度の大きな磁性顔料を得ることは難しい、という課題があった。特許文献4には、実施例4においてマグネタイトのコア粒子の被覆にアルキル基の炭素数が4のアルコキシシランであるi-ブチルトリメトキシシランを使用した例が記載されているが、メタノール濡れ性試験による疎水化度は60%(換算すると543g/kg)であり、n-ヘキシルまたはn-オクチルのような炭素数の大きいアルコキシシランを用いた実施例1から実施例3及び実施例5から実施例8に比べて、疎水化度が小さくなったことが記載されている。特許文献4の実施例4の被覆マグネタイト粒子は、特許文献2及び3で得られた顔料と比較して疎水化度が小さく、重合法トナーの材料としては不適であった。
【0008】
アルコキシシラン以外の表面処理剤を用いた事例として、特許文献5には、直鎖状オルガノポリシロキサン若しくはシラザンを用いて磁性酸化鉄粒子の表面を被覆する製法が示されている。特許文献5の発明はVOC発生量を低減することに成功しており、疎水化度は最も大きい実施例5で66%(換算すると606g/kg)であった。特許文献5で得られた被覆後の磁性酸化鉄粒子は、重合法トナーに使用することは可能であるが、トナーの品質を安定させるために、更に疎水化度を高めることは望ましい。また、多様なトナーの要求に適合するために、VOC発生量の低減と高い疎水化度との両立ができる多様な構成の磁性体を提供できることは望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-131422公報
【文献】特開2005-263619公報
【文献】特開2014-148425公報
【文献】特開2013-193890公報
【文献】特開2016-210629公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、重合法による電子写真現像剤用の材料として、樹脂モノマー中で安定した分散状態を保持するために必要となる大きい疎水化度を有し、現像剤の実使用時に人体に有害なVOCの発生量が小さい磁性顔料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、重合法トナーの材料となる磁性顔料に関して鋭意検討を重ねた結果、四酸化三鉄を主成分とする磁性体の表面にアルコキシシランであるi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を特定の方法で特定の量の範囲となるように被覆することにより、重合法トナーの製造に好適な大きい疎水化度を有し、なおかつ加熱によるVOC発生量が小さい磁性顔料が得られることを見いだした。
【0012】
本発明は以下を含む。
[1]四酸化三鉄を主成分とする磁性体の表面にアルキルシラン化合物層を有する顔料であって、アルキルシラン化合物層が、前記顔料の重量に基づいて、8.5g/kg以上40.0g/kg以下の量のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物からなり、前記顔料の疎水化度が575g/kg以上800g/kg以下である、前記顔料。
[2]透過型電子顕微鏡を用いた画像解析から求めた一次粒子のメディアン径が0.20μm以上0.35μm以下である[1]に記載の顔料。
[3]外部磁場が79.6kA/mの際の磁化が64.0Am/kg以上72.0Am/kg以下であり、かつ外部磁場が79.6kA/mで着磁した後の残留磁化が2.8Am/kg以上4.2Am/kg以下である[1]又は[2]に記載の顔料。
[4]四酸化三鉄を主成分とする磁性体を水中に分散したスラリーに、i-ブチルトリメトキシシランを添加して、i-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を生じさせ、この加水分解物を前記磁性体の表面に被着させる工程、及びi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物が被着した磁性体を固液分離により得て、乾燥する工程
を含む、[1]から[3]までのいずれか1項に記載の顔料の製造方法
[5](1)四酸化三鉄を主成分とする磁性体を水中に0.18kg/L以上0.60kg/L以下の量で含むスラリーを準備し、前記スラリーのpHを7.0以上11.5以下に、かつ、温度を35℃以上90℃以下に調整する工程、
(2)i-ブチルトリメトキシシランを(1)のスラリーに添加し、スラリーの温度を(1)に記載の温度範囲に保ったまま2時間以上かく拌することで前記磁性体表面にi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物を被着させる工程、
(3)(2)のスラリーから前記加水分解物が被着した磁性体を含むケーキを固液分離する工程、及び
(4)(3)のケーキを空気中で60℃以上100℃以下の温度で乾燥させる工程
を含む、[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、四酸化三鉄を主成分とする磁性体を特定の量の範囲のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物で特定の方法を用いて被覆することにより、疎水化度が大きく、かつ電子写真現像剤の実使用時のVOC発生量が小さい磁性顔料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の顔料は、四酸化三鉄を主成分とする磁性体であるコアの表面に、アルキルシラン化合物層を有しており、アルキルシラン化合物層は、顔料の重量に基づいて、8.5g/kg以上40.0g/kg以下の範囲の量のi-ブチルトリメトキシシランの加水分化物からなる。上記の量はより好ましくは10.0g/kg以上30.0g/kg以下であり、さらに好ましくは12.0g/kg以上25.0g/kg以下である。
【0015】
i-ブチルトリメトキシシランの加水分解物の量が8.5g/kgよりも小さい場合、コアとなる四酸化三鉄を主成分とする磁性体の比表面積を考慮するとコアの表面を十分に覆うことができないので、親水性表面が残留し、疎水化度が大きい顔料が得られない。一方でi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物の量が40.0g/kgよりも大きい場合は、顔料中の非磁性成分の割合が大きくなり、顔料の磁化が低下する。また、i-ブチルトリメトキシシランは酸化鉄と比較して高価であることから、得られる顔料の疎水化度が重合法トナーの製造に支障のない範囲である限り、顔料中のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物の量は小さい方が好ましい。
【0016】
なお、本発明において、顔料におけるi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物の量は、以下の方法により測定する:
LECO製CS-230型炭素(C)・硫黄(S)分析装置を用いて顔料における炭素(C)含有量を分析する。i-ブチルトリメトキシシランが完全に加水分解したと仮定して、i-ブチルトリメトキシシランの加水分解物含有量(g/kg)を該炭素(C)測定値を用いて、以下の式により、算出する:
加水分解物含有量(g/kg)=炭素(C)測定値(wt%)×2.773×10
本発明の顔料は、疎水化度が575g/kg以上である。より好ましくは625g/kg以上である。疎水化度が575g/kg未満である場合、重合法トナーの製造時に顔料が水相に移行しやすくなり、トナー母体粒子中での顔料の分散性が悪化する。またトナー母体粒子間で顔料の含有量に差が生じ、最悪の場合には顔料を全く含有しないトナー母体粒子が生成するなどの問題を生じ得る。疎水化度の上限値は特に限定されないが、現実的には800g/kg以下程度、あるいは750g/kg以下程度であると考えられる。
【0017】
本発明において、疎水化度は、以下の方法により測定する:
目開き1mmのふるいを通過した顔料を測定試料として用いることとし、ふるい通過から5分以内に測定を実施することとする。メタノール含有量が25g/kgずつ異なる複数のメタノール水溶液を用意し(例えば、・・・500g/kg、525g/kg、550g/kg、575g/kg、600g/kg、625g/kg、650g/kg、675g/kg、700g/kg、725g/kg・・・)、それぞれ約2mLずつ別々の試験管に入れておく。各試験管に20mg以上40mg以下の試料を静かに投入し、沈降の有無を目視確認する。試料を投入してから5秒経過時点で、投入した試料が全く沈降しない場合は「沈降しない」、一部でも沈降した場合は「沈降する」と判定する。なお、まれにふるいを通したにもかかわらず試料が小さなダマを形成し、ダマが少量沈降(最大でも全体の10%以内、目測で20粒以内程度)する場合もあるが、そのような例外的なダマの沈降は除いて判定することとする。試料が沈降する最もメタノール濃度の小さい水溶液のメタノール含有量を、疎水化度(g/kg)とする。
【0018】
本発明の顔料は、透過型電子顕微鏡を用いた画像解析から求めた一次粒子のメディアン径が0.20μm以上0.35μm以下であることが好ましい。一次粒子のメディアン径が、0.35μmよりも大きいと、顔料による着色力が低下し、顔料を用いたトナーの着色力も低下するおそれがある。一方で、一次粒子のメディアン径が0.20μmより小さい場合、顔料の凝集力が増大し、トナー中での顔料の分散性が悪化する可能性がある。
【0019】
本発明の顔料の一次粒子のメディアン径は、透過型電子顕微鏡像の画像解析から求めることができる。例えば、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明の顔料は、外部磁場が79.6kA/mの際の磁化が64.0Am/kg以上72.0Am/kg以下であり、かつ外部磁場が79.6kA/mで着磁した後の残留磁化が2.8Am/kg以上4.2Am/kg以下であることが好ましい。より好ましくは外部磁場が79.6kA/mの際の磁化は65.0Am/kg以上である。外部磁場が79.6kA/mの際の磁化が64.0Am/kg未満あるいは残留磁化が2.8Am/kg未満になると、帯電後のトナー母体粒子の磁化が低下し、トナーの挙動を制御することが難しくなり、画像のかすれが発生しやすくなるおそれがある。外部磁場が79.6kA/mの際の磁化が72.0Am/kg以上、あるいは残留磁化が4.2Am/kgを超えると、トナー母体粒子が磁気によって凝集しやすくなり、かぶりや画像のにじみが生じるおそれがある。
【0020】
本発明の顔料の磁化及び残留磁化は、23℃前後の室温で振動試料型磁力計を用いて測定することができる。例えば、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明の顔料は、VOC(揮発性有機化合物)発生量が、n-ヘキシルトリメトキシシランを用いてマグネタイト(四酸化三鉄)粒子を被覆した、特許文献2(特開2005-263619号公報)の実施例8で得られる疎水性磁性酸化鉄粒子(以下、「n-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子」と記す)のVOC発生量の、30%以下であることが好ましい。
【0021】
VOCの発生量は、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて、ノルマルヘキサンのピークとn-ヘキサデカンのピークの間に検出されたピーク面積を求め、対照物質であるn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子の上記ピーク面積と比較することにより、計算することができる。より詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本発明の顔料は、代表的には以下の方法で製造される。まず、基体(コア)となる四酸化三鉄を主成分とする磁性体の製造法を、湿式法の四酸化三鉄の製造を例にとって説明する。
【0023】
湿式法の四酸化三鉄は、第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリの中和反応により水酸化第一鉄沈殿を生成させ、必要に応じて生成前、生成中若しくは生成後にケイ素、リン等を添加し、pH及び温度を管理しながら空気を吹き込んで酸化することにより得られる。pHや空気酸化の時間を制御することで、組成や粒子径を制御することができる。
【0024】
第一鉄塩水溶液としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄等が挙げられるが、一般的には硫酸法酸化チタン製造の副生成物である硫酸第一鉄、スクラップの洗浄に伴って生成する硫酸第一鉄を使用する。また水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物並びに水酸化アンモニウム、アンモニアガスを用いることができる。
【0025】
最初に第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリとの中和反応をすることにより水酸化第一鉄沈殿を生成させるが、その際、第一鉄塩水溶液中の鉄イオン(II)1.0molに対し、水酸化物イオン(OH)が1.8mol以上2.0mol以下であることが好ましい。鉄イオン1molに対して水酸化物イオンが1.8mol未満ではオキシ水酸化鉄が生成しやすくなり、好ましくない。また鉄イオン1.0molに対して水酸化物イオンが2.0molを超えると、立方体、八面体等の多面体粒子が生成し、残留磁化が大きくなって粒子が凝集しやすくなるため、やはり好ましくない。
【0026】
本発明における水酸化第一鉄を酸化する際の温度としては、60℃以上100℃以下が適しており、より好ましくは85℃以上90℃以下である。酸化する際の温度が60℃より低いと磁化及び残留磁化が小さくなり、それを含有するトナー母体の磁化及び残留磁化が過度に小さくなると、トナーの挙動を制御することが難しくなり、画像のかすれが発生しやすくなる。一方で100℃より高い温度に加熱しながら酸化するのは、工業的には難しい。
【0027】
基体の酸化率は、68%以上74%以下が適しており、より好ましくは70%以上71%以下である。酸化率が小さい場合、磁化及び残留磁化が目標に達しないことがあり、酸化率が大きい場合、得られる基体が暗赤色となるため、トナーとしての使用に適さないことがある。基体の酸化率とは、四酸化三鉄を主成分とする磁性体の製造において、全ての鉄イオンに対する、鉄イオン(III)のmol量を指す。基体の酸化率は、以下の方法で測定することができる:
基体スラリーに濃硫酸を加えて加熱し、基体を溶解する。過マンガン酸カリウム水溶液を用いて、溶液中の鉄(II)イオンを滴定し、この時の滴定量を「滴定量A」とする。次に水銀アマルガムを用いて、溶液中の全ての鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元した後、再度過マンガン酸カリウム水溶液を用いて、溶液中の鉄(II)イオンを滴定し、この時の滴定量を「滴定量B」とする。以下の式を用いて酸化率を算出する:
酸化率(mol%)=100×(滴定量B-滴定量A)/滴定量B
本発明の基体となる四酸化三鉄を主成分とする磁性体においては、ケイ素やリンの化合物を添加することで四酸化三鉄中にシリカなどの成分を導入することができる。本発明において、四酸化三鉄を主成分とする磁性体には、実質的に四酸化三鉄のみからなる粒子、及び四酸化三鉄を主成分とするがケイ素またはリンのような鉄以外の他の元素を微量に添加した粒子が含まれる。なお、四酸化三鉄を主成分とする磁性体には、マンガンは導入しなくても良い。後述する本発明の表面処理工程では、磁性体表面のマンガンの存在量に関わらずアルキルシラン化合物層を薄くかつ均一に被覆することができる。四酸化三鉄を主成分とする磁性体における鉄以外の元素の含有量は、トナーの含有化学物質量に関する規制に応じて変更してもよい。四酸化三鉄を主成分とする磁性体は、磁性体の重量に基づいて、950g/kgを超える四酸化三鉄を含み、より好ましくは980g/kgを超える四酸化三鉄を含む。磁性体中の四酸化三鉄の割合は、磁性体(四酸化三鉄)の製造時に添加した鉄以外の他の元素を含む化合物の量を測定し、その割合を減じることにより求めることができる。
【0028】
ケイ素化合物としては、水ガラス、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等の水溶性のケイ素化合物が用いられる。その添加量は四酸化三鉄に対してシリカ換算で7g/kg以上20g/kg以下であり、より好ましくは9g/kg以上15g/kg以下である。添加量が少ない場合は粒子形状が多面体状になりやすく、残留磁化が大きくなり凝集しやすくなることがある。一方で20g/kgより添加量が大きいと四酸化三鉄の表面にシリカが析出し、後の工程でアルコキシシランの被着が阻害される。
【0029】
顔料中のケイ素(Si)またはシリカ(SiO)含有量は、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
リン化合物としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の水溶性のリン化合物が用いられる。その添加量は四酸化三鉄に対して五酸化二リン換算で5.0g/kg以下が好ましい。リン化合物を添加することで四酸化三鉄の残留磁化を低くすることができる。5.0g/kgよりも添加量を増やしても残留磁化は大きく変化せず、更に添加量が大きい場合は四酸化三鉄の結晶成長を阻害する可能性がある。リン化合物を添加しなくても四酸化三鉄の残留磁化が目標範囲内の場合は、添加しなくても良い。
【0030】
ケイ素化合物及びリン化合物を添加する場合は、水酸化アルカリ、第一鉄塩水溶液、及びそれらの混合品のいずれに投入しても良い。ただし、四酸化三鉄の結晶化が始まる前に添加する必要がある。
【0031】
四酸化三鉄を主成分とする磁性体の形状は、球状であることが好ましい。コアとなる磁性体の形状が概略球状であると、残留磁化を適度な範囲に調整しやすく、粒子の凝集などの問題が起きにくくなる。また、磁性体の表面に四酸化三鉄以外の特定の元素が偏在している必要はない。
【0032】
次に、i-ブチルトリメトキシシランを用いて磁性体表面にアルキルシラン化合物層を被着させる。被着の方法には、湿式法と乾式法があるが、被着斑が生じにくく、疎水化度を高めやすいという観点から、湿式法を用いることが好ましい。湿式法による被着を行う際には、まず、コアとなる磁性体(基体)を水中に分散してスラリーとする。スラリー中の磁性体の濃度は0.18kg/L以上0.60kg/L以下が適している。磁性体の濃度が0.18kg/Lよりも小さい場合、i-ブチルトリメトキシシランと四酸化三鉄の接触頻度が小さくなるため被着量が減少する。この結果、得られるアルキルシラン化合物層を有する顔料の疎水化度が小さくなる傾向がある。一方で磁性体の濃度が0.60kg/Lより大きい場合、スラリーの粘度が大きいため均一なかく拌が難しく、四酸化三鉄粒子間で被着量斑が生じ得る。
【0033】
被着を行う際のスラリー温度は35℃以上90℃以下が適しており、より好ましくは50℃以上90℃以下である。スラリー温度が35℃より低い場合、四酸化三鉄の表面へのi-ブチルトリメトキシシラン加水分解物の被着速度が小さくなり、得られる顔料の疎水化度が小さくなる傾向がある。一方でスラリー温度が90℃より高くなると被着が急激に進行するため、四酸化三鉄粒子間に被着量斑が生じる可能性がある。
【0034】
被着を行う際のスラリーpHは7.0以上11.5以下が適しており、より好ましくは9.5以上11.0以下である。スラリーpHが7.0よりも小さい場合は、i-ブチルトリメトキシシラン加水分解物の被着速度が小さくなり、得られる顔料の疎水化度が小さくなる傾向がある。スラリーpHが11.5よりも大きい場合はi-ブチルトリメトキシシラン同士の縮合反応が進行しやすくなり、基体に対する被着量が小さくなるため、やはり得られる顔料の疎水化度が小さくなる傾向がある。pHの調整には、これらに限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化アルカリを用いることができる。
【0035】
i-ブチルトリメトキシシランを添加した後の上記温度及びpHにおける保持時間は2時間以上が適しており、更に好ましくは4時間以上である。保持時間が2時間より短い場合、被着が完了しないことがあるため、疎水化度が安定しないおそれがある。保持に際しては、均一な被着を促進するため、スラリーのかく拌を行うことが好ましい。
【0036】
水酸化アルカリがアルキルシラン化合物層を有する顔料中に残留すると重合法トナーを製造する工程で支障をきたす場合は、i-ブチルトリメトキシシラン添加後の保持が終了した後に、アルカリ成分の中和のためにスラリーpHを7.0~9.0に再調整しても良い。pHの調整には、これに限定されないが、硫酸、塩酸等の酸を用いることができる。
【0037】
四酸化三鉄の表面に被着するi-ブチルトリメトキシシラン分子内のメトキシ基は、被着が終了した段階で全て加水分解していることが望ましい。i-ブチルトリメトキシシランの分子内にメトキシ基が残存していると、四酸化三鉄の表面を隙間なく被覆することが難しいため疎水性の四酸化三鉄の表面が残存し、得られる顔料の疎水化度が小さくなる可能性がある。
【0038】
被着が終了したスラリーを固液分離し、アルキルシラン化合物層が被着した磁性体を含むケーキを得る。ケーキを十分に洗浄した後、乾燥して、本発明の顔料を得る。乾燥は60℃以上100℃以下の温度で実施するのが好ましい。水分の存在下で100℃より高温に加熱すると、顔料中のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物の縮合が進行し、凝集体が発生して顔料の分散性が悪化することがある。乾燥温度が60℃より低いと、水分が残存することがあり、得られる顔料の疎水化度が小さくなることがある。乾燥は1時間以上実施するのが適している。乾燥中は顔料を回転させる必要はないが、乾燥を早めるために乾燥途中で顔料をほぐしたり、顔料の位置を動かしても良い。
【0039】
ケーキの乾燥後に、顔料の疎水化度をより大きくするために、熱処理を実施しても良い。空気中で熱処理を実施すると、コアとなる磁性体の酸化が進行し、顔料が暗赤色となる可能性がある。更にアルキルシラン化合物層が部分的に分解し、疎水化度が小さくなる可能性があるため、窒素ガスに代表される不活性ガスを用いて、不活性雰囲気で熱処理を実施するのが好ましい。熱処理は150℃以上250℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくは180℃以上225℃以下である。熱処理温度が150℃以上であると、顔料内部まで熱が行き渡り、疎水化度が大きくなりやすい。熱処理温度が250℃以下であると、アルキルシラン化合物層の分解が抑えられ、疎水化度の低下を防止することができる。
【0040】
本発明の顔料は、加熱時のVOC発生量が小さく、かつ疎水化度が大きいという特徴を有し、特に重合法トナーをはじめとする電子写真現像剤の材料として好適である。
【実施例
【0041】
以下、本発明の態様を示す実施例について説明するが、以下の実施例は単に例示のために示すものであり、発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。なお、以下「L」はリットルを示す。
【0042】
[測定法]
[メディアン径の測定及び算出]
日本電子製透過型電子顕微鏡JEM-1400plusを用いて測定した。観察倍率は、30,000倍(透過型電子顕微鏡の観察倍率10,000倍×印画3倍)とした。観察視野内の約300個の粒子の円径をCarl Zeiss社製Particle Size Analyzer TGZ-3の参照円径(4mm~10mm)に整合させて求めることができる一次粒子像の面積と等価な面積の円の直径を粒子径とし、粒子径の3乗の累積曲線を作成し、その50%に相当する粒子径をメディアン径(μm)とした。
【0043】
[アルコキシシランの加水分解物含有量の測定]
LECO製CS-230型炭素(C)・硫黄(S)分析装置を用いて試料の炭素(C)含有量を分析した。アルコキシシランが完全に加水分解したと仮定して、アルコキシシランの加水分解物量(g/kg)を該炭素(C)測定値から算出した。
【0044】
[シリカ含有量の測定]
試料10gを耐熱性るつぼに計り取り、モトヤマ製電気炉SUPER-C SO-2035Dを用いて空気中、600℃で1時間加熱し、焼成した。試料が完全に冷却した後に内径40mm、高さ5mmのアルミリングに試料8.0gを充填し、島津メクテム製BRIQUETTING MACHINE MP-35を用いて150kg/cmで圧縮成形した。成形した試料のケイ素含有量をリガク製Simultix10を用いて測定した。基体(コア)についても同様にケイ素含有量を測定した。試料のケイ素(Si)含有量から試料のシリカ(SiO)含有量を計算した。顔料(被覆後)のケイ素含有量から基体のケイ素含有量を減じてi-ブチルトリメトキシシラン加水分解物中のケイ素含有量を算出した。LECO製CS-230型炭素(C)・硫黄(S)分析装置を用いて測定した炭素(C)含有量から、i-ブチルトリメトキシシラン加水分解物中の炭素/ケイ素のmol比率を算出した。更にi-ブチルトリメトキシシラン分子中のメトキシ基3個が全て加水分解した状態、即ち炭素/ケイ素のmol比率が4.00となった状態を加水分解が100%進行した状態とし、加水分解率(mmol/mol)を以下の式により算出した:
加水分解率(mmol/mol)=1000×{1-(炭素(C)含有量/ケイ素(Si)含有量-4.00)/3.00}
[VOC発生量の測定]
試料2.0gをゴム栓付きの、容積30mLのスクリュー管瓶に入れ、120℃で1時間加熱した。加熱直後のスクリュー管瓶にシリンジを刺して内部の気体を5mL採取し、ジェイ・サイエンス西日本製パックドカラム(3m)SE-30を取り付けたYanaco製ガスクロマトグラフ G3800に注入した。キャリアガスはヘリウムを用い、流速は30mL/minとした。カラム温度は80℃から、5℃/minで200℃まで昇温した。また対照物質として、特許文献2の実施例8にしたがって製造したn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子を同じ手順で測定した。試料とn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子について、ノルマルヘキサンのピークとn-ヘキサデカンのピークの間に検出されたピーク面積をそれぞれ求めた。n-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子の該当ピーク面積に対する、試料の該当ピーク面積を計算し、従来品に対する試料のVOC発生量(%)とした。
【0045】
[疎水化度の測定]
測定試料は目開き1mmのふるいで通過したものを用い、ふるい通過から5min以内に測定を実施した。メタノール含有量が25g/kgずつ異なる複数のメタノール水溶液を用意し、それぞれ約2mLずつ試験管に入れた。各試験管に20mg以上40mg以下の試料を静かに投入し、沈降の有無を目視確認した。試料を投入してから5秒経過時点で、投入した試料が全く沈降しない場合は「沈降しない」、一部でも沈降した場合は「沈降する」と判定した。試料が沈降する最もメタノール濃度の小さい水溶液のメタノール含有量を、疎水化度(g/kg)とした。
【0046】
[磁気特性の測定]
東英工業製振動試料型磁力計VSM-3を使用し、外部磁場79.6kA/mの際の磁化:σs(Am/kg)、及び残留磁化:σr(Am/kg)を測定した。以下に操作の詳細を示す。なお、本測定において外部磁場値の「-」は、磁場の方向が「+」の場合とは逆であることを示す。また、操作は室温を23.0℃に保った室内で実施した。
【0047】
まず、標準試料を使用し、振動試料型磁力計の+398kA/m印加時の磁化を5EMUに調整した。底面積38.47mm、高さ7mm、内容量が0.05655cmの円柱形のセルに、試料粉末を充填密度として2.20g/cm以上2.40g/cm以下の範囲になるように充填した。円柱状セルの高さ方向が鉛直になるように装置内にセットし、外部磁場を+79.6kA/mに設定し、外部磁場が0A/mから試料への印加を行った。+63.7kA/m付近より印加速度を下げ、+78kA/m以上では印加速度を最低の20min/Full-scaleにし、+79.6kA/mを超えないように印加した。+79.6kA/mの印加時はGAUSS METERの出力値が+1.000Vであることで確認した。+79.6kA/m印加した状態の磁化(+σs)としてMAIN AMPLIFIERの出力値(V)を読み取った。磁化は時間経過とともに緩やかに変化するので、出力値の読み取りは+79.6kA/mの印加を確認した時点で速やかに行った。+σs値を読み取った後、減磁した。外部磁場が0A/mであることを確認し残留磁化の+σr値を求め、磁場を反転して-79.6kA/mまで逆方向に帯電を印加した。印加速度を速くして-79.6kA/mまで印加し、-79.6kA/m印加した状態の磁化(-σs)としてMAIN AMPLIFIERの出力値を読み取った。+σsの読み取り操作と同様に、-63.4kA/m以上の負帯電では印加速度を下げ、-78.0kA/m以上の負帯電での印加速度は最低の20min/Fullscaleにし、-79.6kA/mを超えて負帯電を印加しないようにした。-79.6kA/mの確認をGAUSS METERの出力値で行う点及び-σsとしてMAIN AMPLIFIERの出力値の読み取りを速やかに行う点は+σsと同様である。-σs値を読み取った後、減磁した。外部磁場0A/mを確認し、残留磁化の-σr値を求めた。磁場を反転して+79.6kA/mまで印加した。これらも外部磁場変化に伴う磁化の推移を目視で読み取った。また、印加速度は7min/Fullscaleに設定した。
【0048】
上記の操作により読み取った正負2つの外部磁場79.6kA/mの際の磁化σs及び残留磁化σrにおける絶対値の平均値を、外部磁場79.6kA/mの磁化σs及び残留磁化σrとした。
【0049】
[基体(四酸化三鉄を主成分とする磁性体)の製造]
[基体の製造例A]
反応槽に22kgの水酸化ナトリウムを含む水溶液170Lを入れ、シリカ換算で0.40kg/Lのケイ酸ナトリウム水溶液800mLを加えた後に40℃に昇温した。当該水溶液に毎分80Lの窒素を吹き込みながら、Fe換算で0.10kg/Lの硫酸第一鉄水溶液を、当該水溶液のpHが8.1に達するまで添加して、水酸化第一鉄を生成し、これを含むスラリーを得た。水を添加してスラリー中のFe濃度を0.04kg/Lに調整した上で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して当該スラリーのpHを8.5に調整した。このスラリーに毎分70Lで40分間空気を吹き込み、酸化した。このスラリーを90℃に昇温後、毎分70Lで空気を吹き込み、酸化率が70%以上71%以下になるまで酸化して、四酸化三鉄を主成分とする磁性体を得た。得られた磁性体(基体)は、常法により濾過、水洗、リパルプして基体スラリーとした。得られた基体はシリカ含有量が11.1g/kg、BET比表面積が8.4m/g、一次粒子のメディアン径が0.24μmであった。
【0050】
[基体の製造例B]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を38分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.5g/kg、BET比表面積が7.6m/g、メディアン径が0.28μmであった。
【0051】
[基体の製造例C]
製造例Aの基体スラリーと製造例Bの基体スラリーを等量混合し、よくかく拌した。得られた基体はシリカ含有量が10.8g/kg、BET比表面積が8.0m/g、メディアン径が0.26μmであった。
【0052】
[基体の製造例D]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を49分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.9g/kg、BET比表面積が8.9m/g、メディアン径が0.24μmであった。
【0053】
[基体の製造例E]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を47分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.5g/kg、BET比表面積が8.1m/g、メディアン径が0.25μmであった。
【0054】
[基体の製造例F]
製造例Dの基体スラリーと製造例Eの基体スラリーを等量混合し、よくかく拌した。得られた基体はシリカ含有量が10.7g/kg、BET比表面積が8.5m/g、メディアン径が0.24μmであった。
【0055】
[基体の製造例G]
水酸化第一鉄を含むスラリーに水を添加してFe濃度を0.10kg/Lに調整した後にpHを9.6に調整し、かつその後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を2分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が11.7g/kg、BET比表面積が6.8m/g、メディアン径が0.29μmであった。
【0056】
[基体の製造例H]
反応槽に2700kgの水酸化ナトリウムを含む水溶液22.5mを入れ、シリカ換算で0.40kg/Lのケイ酸ナトリウム水溶液100Lを加えた後に40℃に昇温した。当該水溶液に毎分700Lの窒素を吹き込みながら、Fe換算で0.10kg/Lの硫酸第一鉄水溶液を、当該水溶液のpHが8.0に達するまで添加して、水酸化第一鉄を生成し、これを含むスラリーを得た。水を添加して鉄(Fe)濃度を0.04kg/Lに調整した上で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して当該スラリーのpHを8.5に調整した。このスラリーに毎分8.0mで39分間空気を吹き込み、酸化した。このスラリーを90℃に昇温後、毎分6.6mで空気を吹き込み、酸化率が70%以上71%以下になるまで酸化して、四酸化三鉄を主成分とする磁性体を得た。得られた磁性体(基体)は、常法により濾過、水洗、リパルプして基体スラリーとした。得られた基体はシリカ含有量が12.0g/kg、BET比表面積が8.0m/g、メディアン径が0.23μmであった。
【0057】
[基体の製造例I]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を42分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.8g/kg、BET比表面積が8.3m/g、メディアン径が0.25μmであった。
【0058】
[基体の製造例J]
製造例Iと同じ方法であるが、別のロットで基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.7g/kg、BET比表面積が8.0m/g、メディアン径が0.26μmであった。
【0059】
[基体の製造例K]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分70Lで空気を吹き込む時間を30分間にしたことを除いては、製造例Aと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が9.7g/kg、BET比表面積が7.0m/g、メディアン径が0.34μmであった。
【0060】
[基体の製造例L]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分8.0mで空気を吹き込む時間を30分間にしたことを除いては、製造例Hと同様の方法で基体スラリーを作製した。得られた基体はシリカ含有量が10.8g/kg、BET比表面積が8.4m/g、メディアン径が0.27μmであった。
【0061】
[基体の製造例M]
反応槽に2700kgの水酸化ナトリウムを含む水溶液22.5mを入れ、シリカ換算で0.40kg/Lのケイ酸ナトリウム水溶液100Lとヘキサメタリン酸ナトリウム13.0kgを加えた後に40℃に昇温した。当該水溶液に毎分700Lの窒素を吹き込みながら、Fe換算で0.10kg/Lの硫酸第一鉄水溶液を、当該水溶液のpHが8.2に達するまで添加して、水酸化第一鉄を生成し、これを含むスラリーを得た。水を添加して鉄(Fe)濃度を0.04kg/Lに調整した上で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して当該スラリーのpHを8.5に調整した。このスラリーに毎分8.0mで45分間空気を吹き込み、酸化した。このスラリーを90℃に昇温後、毎分6.6mで空気を吹き込み、酸化率が70%以上71%以下になるまで酸化して、四酸化三鉄を主成分とする磁性体を得た。得られた磁性体(基体)は、常法により濾過、水洗、リパルプして基体スラリーとした。
【0062】
[基体の製造例N]
pHを8.5に調整した後のスラリーに毎分8.0mで空気を吹き込む時間を42分間に変更したことを除いては、製造例Mと同様の方法で基体スラリーを作製した。
【0063】
[基体の製造例O]
製造例Mの基体スラリーと製造例Nの基体スラリーを等量混合し、よくかく拌した。得られた基体はシリカ含有量が11.9g/kg、BET比表面積が8.0m/g、メディアン径が0.25μmであった。
【0064】
[基体の製造例P]
特許文献2(特開2005-263619号公報)の基体粒子の製造例Dに記載の方法に準じて製造した。タンクに18.5kgの水酸化ナトリウムを含む水溶液180Lを入れ40℃に調整した後、ヘキサメタリン酸ナトリウム86.4g(Feに対し、P換算で0.32重量%に該当する)及びSiOとして413.5g/Lのケイ酸ナトリウム溶液681.7mL(Feに対し、SiO換算で1.50重量%に該当する)を添加し、硫酸第一鉄水溶液をpHが8.5に達するまで添加した。その後、1mol/L NaOHでpHを9.0に調整した後、鉄濃度を34g/L、液量を400Lとし、30分間保持した。毎分100Lで空気を吹き込み、酸化率(Fe3+/t-Fe重量比)が8%になるまで酸化した。このスラリーを90℃に調整後、毎分50Lで空気を吹き込みながら酸化率68%まで酸化した。その後、毎分80Lの窒素ガスを吹き込みながら3時間撹拌保持して反応終了とした。生成粒子は、常法により、ろ過、水洗、リパルプして基体スラリーとした。得られた基体粒子はシリカ含有量が12.4g/kg、BET比表面積が7.5m/g、メディアン径が0.23μmであった。
【0065】
表1に実施例及び比較例で用いる基体のシリカ含有量、BET比表面積及びメディアン径を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
[顔料の製造]
[実施例1]
製造例Cで得た基体スラリーを用いた。基体1.92kgを含むスラリーを、スラリー濃度0.48kg/Lに調整し、特殊機器製ROBOMICS fMODEL(以下「TKロボミックス」と略記する)を用いて9000rpmで20分間分散した。スラリーを550rpmでかく拌しながら70℃に昇温し、0.05kg/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーpHを10.0に調整し、1時間保持した後、基体重量に対して32.0g/kg相当量のi-ブチルトリメトキシシランを添加し、同pHで5.0時間保持した。次に98%濃硫酸を脱イオン水で体積10倍に希釈した希硫酸(以下「1/10希硫酸」と記す)でスラリーpHを9.0に調整し、0.5時間保持した。保持が終了したスラリーはフィルタープレスを用いて濾過し、濾液の電気伝導度が200μS/cm以下となるまで水道水で洗浄した。洗浄ケーキは90℃で3時間乾燥した。乾燥物は東京アトマイザー製造製TASM-1型サンプルミル(以下「サンプルミル」と略記する)を用いて粉砕し、疎水性黒色磁性顔料を得た。得られた顔料のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物含有量は22.5g/kg、疎水化度は625g/kg、一次粒子のメディアン径は0.26μm、外部磁場79.6kA/m下の磁化σsは64.9Am/kg、残留磁化σrは2.9Am/kg、VOC発生量はn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子に対して0.1%未満であった。
【0068】
[実施例2]
実施例1で得られた乾燥物を、窒素雰囲気、180℃で1時間熱処理した。熱処理物はサンプルミルを用いて粉砕し、疎水性黒色磁性顔料を得た。得られた顔料のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物含有量は23.1g/kg、疎水化度は675g/kg、メディアン径は0.26μm、外部磁場79.6kA/m下の磁化σsは68.2Am/kg、残留磁化σrは4.0Am/kg、VOC発生量はn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子に対して0.1%未満であった。
【0069】
[実施例3]
製造例Fで得た基体スラリーを用いた。水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整するスラリーpHを11.2に変更した以外は、実施例2と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0070】
[実施例4]
製造例Gで得た基体スラリーを用いた。基体7.74kgを含むスラリーを、スラリー濃度0.48kg/Lに調整し、特殊機器製TK HOMOMIXER MARKII40(以下「TKホモミキサー」と略記する)を用いて電流値4.0Aで20分間分散した。スラリーを550rpmでかく拌しながら70℃に昇温し、0.05kg/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーpHを9.5に調整し、1時間保持した後、基体重量に対して20.6g/kg相当量のi-ブチルトリメトキシシランを添加し、同pHで6.0時間保持した。次に1/10希硫酸でスラリーpHを9.0に調整し、0.5時間保持した。保持が終了したスラリーはフィルタープレスを用いて濾過し、濾液の電気伝導度が200μS/cm以下となるまで水道水で洗浄した。洗浄ケーキを90℃で3時間乾燥し、窒素雰囲気、225℃で1時間熱処理を行った。熱処理物はサンプルミルを用いて粉砕し、疎水性黒色磁性顔料を得た。得られた顔料のi-ブチルトリメトキシシラン加水分解物中の炭素/ケイ素のmol比率は4.07であった。これより加水分解率は977(mmol/mol)であり、i-ブチルトリメトキシシラン中のメトキシ基のほとんどが加水分解したことがわかった。
【0071】
[実施例5]
製造例Fで得た基体スラリーを用いた。水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整するスラリーpHを11.0に変更した以外は、実施例3と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0072】
[実施例6]
製造例Hで得た基体スラリーを用いた。最初に基体1.44kgを含むスラリーを用い、i-ブチルトリメトキシシランの添加量を基体重量に対して14.0g/kgに変更し、その後pH10.0で4.3時間保持し、1/10希硫酸でスラリーpHを7.0に調整し、乾燥した洗浄ケーキを窒素雰囲気で熱処理する温度を150℃に変更した以外は、実施例2と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0073】
[実施例7]
製造例Iで得た基体スラリーを用いた。分散後にスラリーを加温する温度を50℃に、i-ブチルトリメトキシシランの添加量を基体重量に対して24.0g/kgに変更し、乾燥した洗浄ケーキを窒素雰囲気で熱処理する温度を150℃に変更した以外は、実施例2と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0074】
[実施例8]
製造例Jで得た基体スラリーを用いた。分散後にスラリーを加温する温度を90℃に、i-ブチルトリメトキシシランの添加量を基体重量に対して20.6g/kgに変更した以外は、実施例7と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0075】
[実施例9]
製造例Hで得た基体スラリーを用いた。最初のスラリー濃度を0.60kg/Lに調整し、pH10.0で5.0時間保持した後に調整するpHを7.0に変更した以外は、実施例8と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0076】
[実施例10]
製造例Jで得た基体スラリーを用いた。基体2.70kgを含むスラリーを、スラリー濃度0.18kg/Lに調整し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーpHを10.0に調整し、i-ブチルトリメトキシシランを添加した後にpH10.0で5.0時間保持し、乾燥した洗浄ケーキを窒素雰囲気で熱処理する温度を150℃に変更した以外は、実施例4と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0077】
[実施例11]
製造例Kで得た基体スラリーを用いた。最初に基体7.66kgを含むスラリーを用いた以外は、実施例4と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0078】
[実施例12]
製造例Lで得た基体スラリーを用いた。水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整するスラリーpHを9.5に、i-ブチルトリメトキシシランの添加量を基体重量に対して19.0g/kgに、i-ブチルトリメトキシシラン添加後pHを保持する時間を6.0時間に変更し、乾燥した洗浄ケーキを窒素雰囲気で熱処理する温度を225℃に変更した以外は、実施例3と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0079】
[実施例13]
製造例Iで得た基体スラリーを用いた。分散後にスラリーを加温する温度を35℃に、i-ブチルトリメトキシシランの添加量を基体重量に対して27.0g/kgに変更した以外は、実施例7と同様の操作で疎水性黒色磁性顔料を得た。
【0080】
[比較例1]
製造例Oで得た基体スラリーを用いた。基体2.16kgを含むスラリーを、スラリー濃度0.12kg/Lに調整し、TKホモミキサーを用いて電流値4.0Aで20分間分散した。500rpmでかく拌しながらスラリー温度を40℃に昇温し、0.05kg/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーpHを9.0に調整し、1時間保持した後、基体重量に対して20.6g/kg相当量のi-ブチルトリメトキシシランを添加し、同pHで50.0時間保持した。次に1/10希硫酸でスラリーpHを7.0に調整し、1.0時間保持した。保持が終了したスラリーはフィルタープレスを用いて濾過し、水道水を用いて濾液の電気伝導度が200μS/cm以下となるまで洗浄した。洗浄ケーキを90℃で3時間乾燥後、窒素雰囲気、150℃で1時間熱処理を行った。熱処理物はサンプルミルを用いて粉砕し、黒色磁性顔料を得た。得られた顔料のi-ブチルトリメトキシシランの加水分解物含有量は8.2g/kg、疎水化度は425g/kg、一次粒子のメディアン径は0.25μm、外部磁場79.6kA/m下の磁化σsは72.1Am/kg、残留磁化σrは4.2Am/kg、VOC発生量はn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子に対して1.0%であった。
【0081】
[比較例2]
製造例Pを用いた基体スラリーを用い、特許文献2の実施例8に準じて製造した。基体スラリーのpHを5.0に調整し、TKホモミキサー(6,000rpm)で30分間分散した。分散スラリーの平均粒子径は0.72μmであった。分散スラリーの温度を40℃、基体濃度を100g/Lに調整後、塩酸:水=1:9(体積比)の希塩酸でスラリーpHを5.0に調整し、30分間保持した。スラリーpHを5.0に再調整後、基体マグネタイト重量に対して1.64%相当量の、n-ヘキシルトリメトキシシラン原液を添加し、同pH下で20時間撹拌保持した。撹拌機はTKホモミキサーを用いた。次にローラーポンプを用いて100g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を2時間連続添加してpH8.0に調整し1時間保持した。なお、処理の開始から終了までスラリーの温度は40℃を維持した。処理終了スラリーはフィルタープレスを用いてろ過し、純水を使用してろ液の電気伝導度が200μS/cm以下となるまで洗浄した。洗浄ケーキを90℃で2時間乾燥後、続けて130℃で1時間熱処理を行った。熱処理物をTASM-1型サンプルミルを用いて粉砕した。
【0082】
実施例1から実施例13及び比較例1、2のアルコキシシランの被着条件を表2に示す。また、実施例1から実施例13及び比較例1、2で得られた顔料の諸特性を表3に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表3からわかるように、実施例1~13では、疎水化度が575g/kg以上であり、VOC発生量が比較例2のn-ヘキシルトリメトキシシラン被覆粒子の発生量の30%未満である疎水性黒色磁性顔料が得られた。一方、比較例1では、i-ブチルトリメトキシシランを使用したものの、低濃度の基体スラリーを用いて被着を実施したため、被着したi-ブチルトリメトキシシラン加水分解物量が小さくなり、得られた顔料の疎水化度が小さくなった。本発明において、顔料の十分な疎水化度を得るためには、上述した通り、i-ブチルトリメトキシシランと基体との接触頻度を高めるために基体スラリーの濃度を高めに設定し、また、被着速度を高めるために温度及びpHを高めに設定し、上記温度及びpHでの保持時間を十分に取ることが望ましいと言える。これらは、ある程度互いに調整可能であると考えられ、例えば、温度が低めの場合には、基体スラリーの濃度をより高めるまたはpHを高く設定し、保持時間を長めに取るなどにより、i-ブチルトリメトキシシランの被着量を高めて疎水化度を高めることができると考えられる。しかし、これらの調整には限度もあると考えられ、例えば、比較例1では、基体スラリーの濃度が0.12kg/Lと非常に低かったため、保持時間を50.0時間と長めに取ったにもかかわらず、被着量(加水分解物含有量)及び疎水化度が小さいという結果になったと考えられる。こうした点を考慮すると、被着時の基体スラリーの濃度は、上述した通り、0.18kg/L以上とすることが望ましいといえる。比較例2では、アルコキシシランの種類を変更した結果、疎水化度は大きくなったが、VOC発生量も非常に大きくなった。
【0086】
以上説明したように本発明では、四酸化三鉄を主成分とする磁性体(コア)の表面にi-ブチルトリメトキシシランを用いてアルキルシラン化合物層を特定の量の範囲のi-ブチルトリメトキシシラン加水分解物量となるように、好ましくは高濃度の磁性体スラリーを用いて、高温、高pHで被覆することで、VOC発生量の小さい顔料が得られる。得られた顔料は重合法トナーをはじめとする電子写真現像剤の材料として好適である。