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特許7229826ポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及び鋼コンクリート複合構造体
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  • 特許-ポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及び鋼コンクリート複合構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】ポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及び鋼コンクリート複合構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20230220BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230220BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20230220BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20230220BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230220BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20230220BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B24/26 G
C04B14/02 B
C04B20/00 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
E01D1/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019055958
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158314
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023103(JP,A)
【文献】特開2015-000820(JP,A)
【文献】特開2008-201643(JP,A)
【文献】特開2003-321871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/04
C04B 24/26
C04B 14/02
C04B 20/00
C04B 22/08
C04B 22/14
E01D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、細骨材と、軽量骨材と、セメント用ポリマーとを含み、
前記細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対し、130~500質量部であり、
前記軽量骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対し、1~25質量部であり、
前記セメント用ポリマーの含有量が、前記セメント100質量部に対し、固形分換算で5~37質量部であり、
前記細骨材の粒度は、前記細骨材全量に対し、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が50質量%以下であり、粒径が0.3mm未満である粒子の質量割合が10~80質量%である、ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項2】
カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる速硬性混和材を更に含む、請求項1に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項3】
前記速硬性混和材における前記カルシウムアルミネート類と前記石膏類との質量比率([カルシウムアルミネート類の質量]:[石膏類の質量])が3:7~7:3である、請求項2に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項4】
前記細骨材の粒度は、前記細骨材全量に対し、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が0質量%であり、粒径が0.3mm以上1.2mm未満である粒子の質量割合が20~90質量%であり、粒径が0.3mm未満である粒子の質量割合が10~80質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項5】
鋼コンクリート複合構造体の補修・補強材料用である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリマーセメントモルタル組成物と水とを含み、
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対し、25~50質量部である、ポリマーセメントモルタル。
【請求項7】
鋼材と、前記鋼材上に形成されたポリマーセメントモルタル層と、前記ポリマーセメントモルタル層上に形成されたコンクリート層とを備え、
前記ポリマーセメントモルタル層が、請求項に記載のポリマーセメントモルタルの硬化体である、鋼コンクリート複合構造体。
【請求項8】
前記ポリマーセメントモルタル層の厚さが3~10mmである、請求項に記載の鋼コンクリート複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及び鋼コンクリート複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等では、従来のコンクリート床版に代わり、鋼板とコンクリートとが一体となっている合成床版が利用されることがある。合成床版は、耐久性が高く寿命が長い、下面が鋼板であるためコンクリートの剥落の危険がない、鉄筋コンクリート(RC)・プレキャスト(PC)床版よりも版厚を薄くできるといった利点がある。
【0003】
しかしながら、通常、鋼板とコンクリートとは付着性が悪く、鋼板とコンクリートとの間にずれが生じる恐れがある。そのため、鋼板とコンクリートとのずれを抑制するため、ずれ止め等を設置するといった対策がとられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、床鋼板上に多数のT形リブが、それぞれウェブを介して互いに平行に配列されており、これらのT形リブは、ウェブを中心とするフランジの左右両側に、多数のコンクリート貫通孔が、フランジの長さ方向に沿って所定の間隔をおいて開設されるとともに、これらの貫通孔は、平面から見て互いに隣接する各T形リブフランジの長さ方向と直交する向きの同じ基準線上に揃うように開設されており、互いに隣接するT形リブフランジの間には、両端を直角方向に折り曲げて挿入端を設けたジベル鉄筋を、それぞれの挿入端が、一方のT形リブフランジの貫通孔と、隣接する他方のT形リブフランジの貫通孔とに挿通されるようにして、連結配列したことを特徴とする合成床版が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-068844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋼板とコンクリートとのずれを抑制できたとしても、コンクリートの経年劣化や施工不良等によりひび割れが発生した場合、内部に水分や塩分が浸透して鋼板面に滞水が生じ、結果として鋼板が腐食する恐れがある。そこで、鋼板とコンクリートとの一体性を向上させつつ、鋼板を腐食から守ることが求められている。鋼板及びコンクリートの双方に対して高い付着性を示す材料として、セメントにポリマーを添加したポリマーセメントモルタルが検討されている。しかし、鋼板に対する付着性を高めようとするとポリマーセメントモルタルの粘性が高くなり、施工性が低下するといった課題があった。
【0007】
従って、本発明は、良好な施工性及び鋼板に対する高い付着性を備えるポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及びそれを用いた鋼コンクリート複合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、セメント用ポリマー及び特定の粒度を有する細骨材の配合量を調整することで、良好な施工性と鋼板に対する高い付着性とを備えるポリマーセメントモルタル組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]で示される。
[1]セメントと、細骨材と、軽量骨材と、セメント用ポリマーとを含み、細骨材の含有量が、セメント100質量部に対し、100~500質量部であり、セメント用ポリマーの含有量が、セメント100質量部に対し、固形分換算で5~37質量部であり、細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が50質量%以下であり、粒径が0.3mm未満である粒子の質量割合が10~80質量%である、ポリマーセメントモルタル組成物。
[2]カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる速硬性混和材を更に含む、[1]に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
[3]速硬性混和材におけるカルシウムアルミネート類と石膏類との質量比率([カルシウムアルミネート類の質量]:[石膏類の質量])が3:7~7:3である、[2]に記載のポリマーセメントモルタル組成物。
[4]軽量骨材の含有量が、セメント100質量部に対し、1~25質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマーセメントモルタル組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリマーセメントモルタル組成物と水とを含み、水の含有量が、セメント100質量部に対し、25~50質量部である、ポリマーセメントモルタル。
[6]鋼材と、鋼材上に形成されたポリマーセメントモルタル層と、ポリマーセメントモルタル層上に形成されたコンクリート層とを備え、ポリマーセメントモルタル層が、[5]に記載のポリマーセメントモルタルの硬化体である、鋼コンクリート複合構造体。
[7]ポリマーセメントモルタル層の厚さが3~10mmである、[6]に記載の鋼コンクリート複合構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な施工性及び鋼板に対する高い付着性を備えるポリマーセメントモルタル組成物、ポリマーセメントモルタル及びそれを用いた鋼コンクリート複合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る鋼コンクリート複合構造体を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物は、セメントと、細骨材と、軽量骨材と、セメント用ポリマーとを含む。
【0014】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント等が挙げられる。セメントとしては、初期の強度発現性が更に増加するという観点から、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0015】
細骨材は、粒度が後述する要件を満たすものであれば種類は特に限定されず、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。これらの細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0016】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、100~500質量部である。細骨材の含有量が上記範囲外であると、良好な施工性と鋼板に対する高い付着性とを両立することが難しくなる。より良好な施工性及び鋼板に対するより高い付着性が得られやすいという観点から、細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、110~450質量部であることが好ましく、130~440質量部であることがより好ましい。
【0017】
細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が50質量%以下であり、粒径が0.3mm未満である粒子の質量割合が10~80質量%である。粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子及び粒径が0.3mm未満である粒子の質量割合が上記範囲外であると、良好な施工性及び鋼板に対する高い付着性が得られにくい。より良好な施工性及び鋼板に対するより高い付着性が得られやすいという観点から、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が、細骨材全量に対し、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、粒径が0.3mm未満である粒子の割合が、細骨材全量に対し、15~70質量%であることが好ましく、18~65質量%であることがより好ましい。粒径が0.3mm以上1.2mm未満である粒子の質量割合は、特に限定されないが、より良好な施工性及び鋼板に対するより高い付着性が得られやすいという観点から、細骨材全量に対し、20~90質量%であることが好ましく、30~85質量%であることがより好ましく、35~82質量%であることが最も好ましい。
【0018】
本明細書において、細骨材の粒度は、細骨材全量をふるい分けし、5mmふるいを通過し、1.2mmふるい残留分を粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子とし、1.2mmふるいを通過し、0.3mmふるい残留分を粒径が0.3mm以上1.2mm未満である粒子とし、0.3mmふるい通過分を0.3mm未満である粒子とする。
【0019】
軽量骨材は、特に限定されるものではなく、例えば、黒曜石、真珠岩等を焼成発泡させた無機系発泡性骨材であるパーライト、火力発電所で発生するフライアッシュバルーン、発泡ガラス粒(ガラスバルーン)等が挙げられる。軽量骨材は、通常用いられる粒径5mm未満のもの(5mmふるい通過分)を使用することが好ましい。軽量骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。軽量骨材は、例えば、かさ比重(kg/L)が0.1~0.8のものが好ましく、0.15~0.6のものがより好ましい。軽量骨材のかさ比重が上記範囲内であれば、軽量化の効果が得られやすく、モルタルとした際の流動性が低下しにくい。
【0020】
軽量骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、1~25質量部であることが好ましく、1.5~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが最も好ましい。軽量骨材の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした際により良好な施工性が得られやすい。
【0021】
セメント用ポリマーは、JIS A 6203:2015「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」に規定されるポリマーが好ましい。このようなセメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂等が挙げられる。ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴム系;天然ゴム系;ゴムアスファルト系;エチレン酢酸ビニル系;アクリル酸エステル系;樹脂アスファルト系等が挙げられる。ポリマーディスパージョンは、中でも、合成ゴム系、エチレン酢酸ビニル系及びアクリル酸エステル系が好ましく、具体的には、合成ゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニルがより好ましい。再乳化形粉末樹脂としては、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム系;アクリル酸エステル系;エチレン酢酸ビニル系;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル等が挙げられる。セメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョンを用いてもよく、再乳化形粉末樹脂を用いてもよく、ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂を併用してもよい。
【0022】
セメント用ポリマーの中でも、コンクリートとの付着性がより向上するという観点から、スチレンブタジエンゴムのポリマーディスパージョン及び/又は再乳化粉末樹脂が好ましい。スチレンブタジエンゴムは、スチレン及びブタジエンを共重合した合成ゴムの一種であり、スチレン含有量や加硫量により品質を適宜調整することができる。セメント混和用としては、安定性や付着性を向上させるという観点から、結合スチレン量が50~70質量%のものが多く使用されている。セメント用ポリマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0023】
セメント用ポリマーの含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で5~37質量部である。セメント用ポリマーの含有量が上記範囲外であると、良好な施工性及びコンクリートや鋼板に対する高い付着性が得られにくい。より良好な施工性及びコンクリートや鋼板に対するより高い付着性が得られやすいという観点から、セメント用ポリマーの含有量は、8~35質量部であることが好ましく、10~34質量部であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物は、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる速硬性混和材を含んでもよい。初期の強度発現性をより確保しやすいという観点から、速硬性混和材の含有量は、セメント100質量部に対し、10~65質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがより好ましく、20~55質量部であることが最も好ましい。
【0025】
速硬性混和材におけるカルシウムアルミネート類と石膏類との質量比率([カルシウムアルミネート類の質量]:[石膏類の質量])は3:7~7:3であることが好ましく、4:6~6:4であることがより好ましい。速硬性混和材におけるカルシウムアルミネート類と石膏類との質量比率が上記範囲内であれば、吹付け施工に際してダレを抑制しやすく、且つ早期により付着強度を確保しやすい。
【0026】
カルシウムアルミネート類としては、CaOをC、AlをA、NaOをN、及びFeをFとして表したとき、CA、CA、C12、CA、又はCA等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、CAF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC・CaFやC11・CaF等と表示されるカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、CNAやC等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、並びにC・CaSO等と表示されるカルシウムサルホアルミネートを総称するものである。このカルシウムアルミネート類は、結晶質のもの、非結晶質のもの、非晶質及び結晶質が混在したもののいずれも使用可能である。カルシウムアルミネート類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm/g以上であることが好ましく、5000cm/g以上であることがより好ましい。また、カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で8000cm/g以下であることが好ましい。
【0027】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏等が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0028】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物は、減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、ナフタレンスルホン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0029】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.5~7.5質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましく、1.5~3質量部であることが最も好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした際により良好な施工性が得られやすく、圧縮強度も向上しやすい。
【0030】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物は、凝結遅延剤を含んでもよい。凝結遅延剤を含むことで、夏場等ポリマーセメントモルタルの練り上り温度が高くなる場合においても、可使時間を確保しやすい。凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸又はその塩;ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩;糖類が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩、アルカリ金属炭酸塩が好ましい。凝結遅延剤は、粉体であってもよく、液状体(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)であってもよい。凝結遅延剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0031】
凝結遅延剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.1~7.5質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3.5質量部であることが最も好ましい。凝結遅延剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を更に確保しやすく、初期強度発現性が低下しにくい。
【0032】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては,例えば、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、膨張材、促進剤が挙げられる。
【0033】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0034】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物は、水と混合してモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント100質量部に対し、25~50質量部であることが好ましく、25~45質量部であることがより好ましく、30~42質量部であることが最も好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0035】
本実施形態のポリマーセメントモルタルの調製は、通常のポリマーセメントモルタルと同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ホバートミキサ、ハンドミキサ、傾胴ミキサー、強制2軸ミキサーを用いることができる。
【0036】
本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物及びポリマーセメントモルタルは、ダレが少ない良好な吹付性やコテ塗りもしやすい良好なコテ塗り性といった施工性に優れており、且つ、コンクリートや鋼板への付着性も良好なものである。そのため、このようなポリマーセメントモルタル組成物及びこれを用いて調製したポリマーセメントモルタルは、例えば、コンクリート構造体、道路等の補修・補強材料等だけでなく、鋼板等を利用した鋼コンクリート複合構造体の補修・補強材料として用いることもできる。本実施形態のポリマーセメントモルタル組成物及びポリマーセメントモルタルの使用方法は適宜選択することができ、例えば、凹部にコテで充填する方法、充填後バイブレーター等で均した後にコテで仕上げる方法、補修箇所に吹付ける方法等が選択できる。
【0037】
次に、本発明の一実施形態の鋼コンクリート複合構造体について、図面を参照しながら詳細に説明する。図面の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0038】
図1は、本実施形態の鋼コンクリート複合構造体を模式的に示す側面断面図である。本実施形態に係る鋼コンクリート複合構造体10は、鋼材1と、鋼材1上に形成されたポリマーセメントモルタル層2と、ポリマーセメントモルタル層2上に形成されたコンクリート層3とを備える。
【0039】
鋼材1は、特に限定されるものではなく、JIS G 3101:2015に定める一般構造用圧延鋼材等が挙げられる。鋼材1の表面にはブラスト処理等の前処理を施してもよい。
【0040】
ポリマーセメントモルタル層2は、上述した本実施形態のポリマーセメントモルタルを硬化させたものである。ポリマーセメントモルタル層2の厚さは、付着性を十分に確保でき、施工管理がしやすい傾向にあるという観点から、3~10mmであることが好ましい。
【0041】
コンクリート層3は、特に限定されるものではなく、普通コンクリート、早強コンクリート、特殊コンクリート(膨張コンクリート、繊維コンクリート)等が挙げられる。コンクリート層3の厚さは、構造物の耐久性が更に優れるという観点から、50~200mmであることが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
セメント:早強ポルトランドセメント(HC)
速硬性混和材:カルシウムアルミネートと無水石膏との質量比率が6:4である速硬性混和材(AC)
細骨材:珪砂(S)
軽量骨材:パーライト(かさ比重0.23kg/L)
セメント用ポリマー:SBR系エマルジョン(P)
減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤
凝結遅延剤:クエン酸
水:上水道(W)
【0044】
[ポリマーセメントモルタル組成物の配合設計]
セメント100質量部に対し、速硬性混和材、細骨材、セメント用ポリマー(固形分換算)を表1に示す割合とし、軽量骨材を5質量部、減水剤を2質量部、凝結遅延剤を0.5質量部として配合設計した。
【0045】
[ポリマーセメントモルタルの作製]
20℃環境下において、セメント用ポリマー(ポリマーディンスパージョン)を10Lの円筒容器に添加し、表1に示す配合で設計したポリマーセメントモルタル組成物の各材料及び水を添加し、ハンドミキサで60秒混練してポリマーセメントモルタルを約3L作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
[評価方法]
各項目について以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
・吹付性
木製パネル(縦900mm×横1800mm×高さ12mm)を垂直に設置し、モルタルガンを用いてポリマーセメントモルタルを吐出圧0.4MPaで吹付け、吹付性を評価した。モルタルガンの詰まり等なく吹付けができ、且つモルタル厚5mmまでダレを生じずに吹付けができたものを良好(○)、さらに10mmまで吹付けができたものを最も良好(◎)と評価し、それ以外のものは不良(×)と評価した。
・コテ塗り性
木材(縦300mm×横300mm×高さ12mm)にポリマーセメントモルタルを打設し、モルタル厚が5mmになるようコテ均しを行い、コテ塗り性を評価した。平滑にコテ塗りすることが困難なものは不良(×)と評価し、それ以外、問題なくコテ塗りができたものは良好(○)と評価した。
・付着強度
表面をブラスト処理した鋼板(縦300mm×横300mm×高さ6mm)を平地に設置し、ポリマーセメントモルタルを厚さ5mmで吹付け、材齢28日まで気中養生した。硬化後、モルタルを材齢28日まで養生させ、グラインダーで40×40mmに切断し、簡易型引張試験機にて付着強度を測定した。付着強度が1.0N/mmを超えるものを良好と判断した。
【0048】
【表2】
【0049】
No.1~14のサンプルのうち、No.1、7及び9のサンプルについて、吹付けの厚さを3mm及び10mmに変えて付着強度試験を行った。試験結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【符号の説明】
【0051】
1:鋼材、2:ポリマーセメントモルタル層、3:コンクリート層、10:鋼コンクリート複合構造体
図1