(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】内燃機関始動時バルブ位相確定方法及び車両動作制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20230220BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02D13/02 D
(21)【出願番号】P 2019070323
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099818
【氏名又は名称】安孫子 勉
(72)【発明者】
【氏名】李 岩
(72)【発明者】
【氏名】本間 雄太
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-264764(JP,A)
【文献】特開2018-200006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のバルブ位相を調整可能に構成された可変バルブタイミング装置を有する前記内燃機関の始動時における前記バルブ位相を確定する内燃機関始動時バルブ位相確定方法であって、
前記内燃機関の始動時に前記可変バルブタイミング装置によってバルブ位相を最遅角位置へ変位せしめると共に、前後する時刻におけるカム角センサの出力値の差であるバルブ位相偏差が所定の基準偏差を下回ったか否かを逐次判定し、前記バルブ位相偏差が前記基準偏差を下回った際に、前記バルブ位相が前記最遅角位置に達したとして前記バルブ位相を確定し、前記内燃機関の始動制御に供する一方、
前記可変バルブタイミング装置は、電動駆動によって前記バルブ位相の調整を可能に構成されてなり、インテークバルブ位相の調整に用いられるものであって、
気筒判別処理が別途実行されて気筒判別が完了した時点において、前記バルブ位相が確定されていない場合には、バルブ位相の確定のための一連の処理を停止することを特徴とする内燃機関始動時バルブ位相確定方法。
【請求項2】
内燃機関のバルブ位相を調整可能に構成された可変バルブタイミング装置を有する前記内燃機関の動作制御を電子制御ユニットを用いて実行可能に構成された車両動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関の始動時に前記可変バルブタイミング装置によってバルブ位相を最遅角位置へ変位せしめると共に、前後する時刻におけるカム角センサの出力値の差であるバルブ位相偏差が所定の基準偏差を下回ったか否かを逐次判定し、前記バルブ位相偏差が前記基準偏差を下回った際に、前記バルブ位相が前記最遅角位置に達したとして前記バルブ位相を確定し、前記内燃機関の始動制御に供する一方、
前記可変バルブタイミング装置は、電動駆動によって前記バルブ位相の調整を可能に構成されてなり、インテークバルブ位相の調整に用いられるものであって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関の気筒判別処理を別途実行可能とし、当該気筒判別処理により気筒判別が完了した時点において、前記バルブ位相が確定されていない場合には、バルブ位相の確定のための一連の処理を停止するよう構成されてなることを特徴とする車両動作制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関始動時におけるバルブ位相の確定方法及び車両動作制御装置に係り、特に、内燃機関の始動特性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両においては、内燃機関の燃費や走行性能等の向上のために、バルブの開閉時におけるバルブ位置であるバルブ位相を調整可能とした可変バルブタイミング(Variable Valve Timing:VVT)装置が用いられていることは良く知られている通りである。
【0003】
かかる可変バルブタイミング(以下、「VVT」と称する)装置には、油圧によってバルブ位相を調整する構成の油圧駆動VVT装置と、電動モータを用いてバルブ位相を調整する構成の電動駆動VVT装置の2種類がある。
電動駆動VVT装置は、油圧駆動VVT装置に比して、気温等の環境条件での制約範囲が小さく、広い範囲で使用可能という利点を有する。
【0004】
一方、油圧駆動VVT装置にあっては、その構造上、エンジン停止後のバルブ位相は初期位置に戻るため、ロック機構を付加することで、次のエンジンの再起動時まで、その初期位置を維持することが可能であり、円滑なエンジンの再起動を確保することが可能である。
【0005】
これに対して、電動駆動VVT装置の場合、その構造上、上述の油圧駆動VVT装置とは異なり、エンジン停止後にバルブ位相が初期位置へ戻る構造ではないことに加えて、構造上、ロック機構を設けることは困難であり、ロック機構を有しない構造のものが一般的である。
そのため、車両のシステムシャットダウン(イグニッション オフ)後は、車両に外力が加わった場合などにバルブ位相がシステムダウン時から変化する可能性がある。
【0006】
したがって、その後、イグニッションスイッチをオンとした際に、バルブ位相が直近のシステムシャットダウン時と異なることがあるため、その位相ずれを認識する必要があり、さもなくば、始動時の失火や異常燃焼を招来してしまう可能性がある。
【0007】
このため、電動駆動VVT装置を用いた車両においては、エンジン始動時にバルブ位相を認識することが必須となる。
一般に、エンジンの始動においては、始動時における気筒の位置とバルブ位置を把握することが必要なことから、従来から、クランク角センサにより検出されたクランク角度とカム角センサにより検出されたカム角度を用いてエンジンの気筒判別とバルブ位相を算出する方法等が知られているが、次のような問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
クランク角センサにより検出されたクランク角度とカム角センサにより検出されたカム角を用いてエンジンの気筒判別を行う方法にあっては、通常、気筒判別の遅速がスターターの回転速度に依存する。そのため、例えば、低温環境下においては、バッテリ電圧の低下に伴いスタータの回転数が低くなるため、気筒判別に要する時間が通常時よりも長引き、エンジン始動時間が常温付近に比べて長くなるという問題がある。
【0010】
また、この方法の場合には、気筒判別が完了するまで、バルブ位相が判明しないため、それまでの間にバルブ位相を変更することができず、かかる点からもエンジン始動時間の短縮は困難となる。
【0011】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、内燃機関始動時にバルブ位相を早期に確定することのできる内燃機関始動時バルブ位相確定方法及び車両動作制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る内燃機関始動時バルブ位相確定方法は、
内燃機関のバルブ位相を調整可能に構成された可変バルブタイミング装置を有する前記内燃機関の始動時における前記バルブ位相を確定する内燃機関始動時バルブ位相確定方法であって、
前記内燃機関の始動時に前記可変バルブタイミング装置によってバルブ位相を最遅角位置へ変位せしめると共に、前後する時刻におけるカム角センサの出力値の差であるバルブ位相偏差が所定の基準偏差を下回ったか否かを逐次判定し、前記バルブ位相偏差が前記基準偏差を下回った際に、前記バルブ位相が前記最遅角位置に達したとして前記バルブ位相を確定し、前記内燃機関の始動制御に供する一方、
前記可変バルブタイミング装置は、電動駆動によって前記バルブ位相の調整を可能に構成されてなり、インテークバルブ位相の調整に用いられるものであって、
気筒判別処理が別途実行されて気筒判別が完了した時点において、前記バルブ位相が確定されていない場合には、バルブ位相の確定のための一連の処理を停止するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両動作制御装置装置は、
内燃機関のバルブ位相を調整可能に構成された可変バルブタイミング装置を有する前記内燃機関の動作制御を電子制御ユニットを用いて実行可能に構成された車両動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関の始動時に前記可変バルブタイミング装置によってバルブ位相を最遅角位置へ変位せしめると共に、前後する時刻におけるカム角センサの出力値の差であるバルブ位相偏差が所定の基準偏差を下回ったか否かを逐次判定し、前記バルブ位相偏差が前記基準偏差を下回った際に、前記バルブ位相が前記最遅角位置に達したとして前記バルブ位相を確定し、前記内燃機関の始動制御に供する一方、
前記可変バルブタイミング装置は、電動駆動によって前記バルブ位相の調整を可能に構成されてなり、インテークバルブ位相の調整に用いられるものであって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関の気筒判別処理を別途実行可能とし、当該気筒判別処理により気筒判別が完了した時点において、前記バルブ位相が確定されていない場合には、バルブ位相の確定のための一連の処理を停止するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バルブ位相を最遅角位置を目標として強制的に変化させゆきつつ、カム角センサの出力値の変化が所定以下となったことを以て、バルブ位相が端点である最遅角位置に達したと判定することで始動時におけるバルブ位相の早期の確定を可能としたので、従来の気筒判別によってバルブ位相を確定する場合に比して、より高い確率で早期に始動時のバルブ位相を確定することが可能となり、内燃機関の始動時間の短縮、始動の信頼性を向上することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態における車両動作制御装置の構成例を示す構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態における車両動作制御装置により内燃機関始動時バルブ位相確定処理を実行するための電気系統のシステム構成例を示す構成図である。
【
図3】本発明の実施の形態における車両動作制御装置において実行される内燃機関始動時バルブ位相確定処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理を実行した際の主要部の状態変化を模式的に説明する模式図であって、
図4(A)は電源電圧の供給の有無を説明する模式図、
図4(B)は電動駆動VVT装置において設定されるバルブの目標位相角と実際のバルブの位相角との変化を説明する模式図、
図4(C)は端点判定がなされる時期を説明する模式図、
図4(D)はクランキングの開始時点を説明する模式図、
図4(E)はエンジン回転数の変化を説明する模式図、
図4(F)は気筒判別の完了時点を説明する模式図、
図4(G)は点火開始時点を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定方法が適用される車両動作制御装置の構成例について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
【0016】
本発明の実施の形態における車両動作制御装置は、特に、電動駆動VVT装置によるバルブ位相制御に適するものである(詳細は後述)。
すなわち、本発明の実施の形態における車両動作制御装置は、電子制御ユニットを用いてなるエンジンECU(
図1においては「E-ECU」と表記)51と、電動駆動VVT装置1と、クランク角センサ2と、カム角センサ3と、電動駆動VVTモータ回転速度センサ4とを主たる構成要素として構成されてなるものである。
【0017】
エンジンECU51は、従来同様、内燃機関としてのエンジン5の回転制御や燃料噴射制御など、車両の走行制御に必要な種々の制御が実行可能に構成されたものである。
かかるエンジンECU51は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を備えると共に、入出力インターフェイス回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されてなるものである。
【0018】
このエンジンECU51には、クランク角センサ2、カム角センサ3および電動駆動VVTモータ回転速度センサ4の各検出信号と共に、図示されないセンサ等により検出された車両の動作制御に必要な各種の信号、例えば、アクセル開度、車速等が入力される。そして、エンジンECU51に入力された各種の信号は、エンジン回転制御や燃料噴射制御、さらに、後述する本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理等に供されるものとなっている。
【0019】
電動駆動VVT装置1は、弁開閉時間制御(Variable Valve Timing:VVT)装置である。この電動駆動VVT装置1は、特に、モータを用いた電動駆動VVTアクチュエータ1a(
図2参照)によってバルブ位相調整を可能に構成されてなるもので、その基本的構成自体は、従来同様のものである。
【0020】
かかる電動駆動VVT装置1は、内燃機関としてのエンジン5の吸気弁(図示せず)、又は、排気弁(図示せず)の少なくともいずれか一方に設けられていることを前提とする。本発明の実施の形態において、電動駆動VVT装置1は、吸気弁側に設けられた構成となっている。
【0021】
エンジン5において、クランクシャフト6に得られた動力は、タイミングベルト(又はタイミングチェーン)7により各スプロケット8,9を介してインテークカムシャフト11とエキゾーストカムシャフト12に伝達されるように構成されている。
【0022】
クランクシャフト6には、外周に複数の突起13が突出形成されたクランクホイールが取着されると共に、その近傍には、クランク角センサ2が設けられている。
同様に、インテークカムシャフト11には、外周に複数の突起14が突出形成されたカムホイールが取着される共に、その近傍には、カム角センサ3が設けられている。
【0023】
これらクランクホイール及びカムホイール、並びに、クランク角センサ2及びカム角センサ3は、基本的に従来同様のものである。
すなわち、クランク角センサ2は、クランクホイールの突起13の通過に応じてパルス信号を、カム角センサ3はカムホイールの突起14の通過に応じてパルス信号を、それぞれ出力可能となっている。
【0024】
上述のパルス信号は、エンジンECU51に入力されて、パルス信号の入力間隔、入力数等に基づいてクランクシャフト6の回転数、インテークカムシャフト11の回転数が、それぞれ算出されるようになっている。
【0025】
なお、本発明の実施の形態においては、先のエンジンECU51とは別個に、エンジン5以外の電気機器等の動作制御を行う電子制御ユニットであるボディECU(
図2においては「B-ECU」と表記)52が設けられている。このボディECU52は、例えば、スタータモータ23の駆動制御等が実行されるものとなっている(
図2参照)。
ボディECU52及びエンジンECU51は、共に、イグニッションスイッチ(
図2においては「IG-SW」と表記)21を介して車両用バッテリ(
図2においては「BAT」と表記)22からの電源電圧の供給を受けるようになっている(
図2参照)。
【0026】
図3には、エンジンECU51により実行される本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理の手順を示すサブルーチンフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
最初に、本発明の実施の形態におけるエンジンECU51は、従来同様、いわゆる気筒判別処理が、内燃機関始動時バルブ位相確定処理とは別個に、同時並列的に実行されるものであることを前提とする。気筒判別の手法は種々あるが、特定の手法に限定される必要は無い。
【0027】
かかる前提の下、イグニッションスイッチ21のオンによりエンジンECU51への電源供給が開始され、電動駆動VTT装置1が始動されることとなる(
図3のステップS100参照)。
次いで、バルブ位相設定と共に電動駆動VVT装置1によるバルブ駆動が行われる(
図2のステップS200参照)。
【0028】
ここで、本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理について詳述するに先立ち、処理の全体的手順について概括的に説明する。
本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理は、エンジン5の始動時において、特に、インテークバルブ(図示せず)のバルブ位相を早期に確定し、内燃機関始動制御に供することで、従来に比して、始動時間の短縮、始動の信頼性の向上等を可能としたものである。
【0029】
以下、具体的に説明すれば、まず、ステップS200においては、インテークバルブ(図示せず)を変位、換言すれば、インテークカムシャフト11を回動させるために、その変位量(回動角)である目標VVT角度が設定される。次いで、その目標VVT角度に応じて電動駆動VVTアクチュエータ1aによりインテークバルブ(図示せず)が変位せしめられることとなる。
【0030】
この目標VVT角度に基づく電動駆動VVTアクチュエータ1aの駆動は、インテークバルブ(図示せず)を最終的に所定の端点として最遅角位置に位置させるために複数回繰り返されるものとなっている。
ここで、目標VVT角度は、特定の値に限定されるものではないが、後述するように目標VVT角度によるインテークバルブの駆動を行いつつ、カム角センサ3の出力信号の変化に基づいてインテークバルブ(図示せず)が最遅角位置に達したと判定するため、比較的小さい角度を選定するのが好適である。
【0031】
次いで、バルブ位相偏差Δθの算出が行われる(
図3のステップS300参照)。
ここで、バルブ位相偏差Δθは、このステップS300を実行する時点で、前後する時刻におけるカム角センサ3の出力値の差である。
すなわち、例えば、最新のカム角センサ3の出力値をθdet(n)、この出力値θdet(n)の取得時前の直近のカム角センサ3の出力値をθdet(n-1)とすると、バルブ位相偏差Δθは、Δθ=θdet(n)-θdet(n-1)と算出されるものである。
【0032】
次いで、気筒判別処理が完了しているか否かが判定される(
図3のステップS400参照)。
気筒判別処理は、先に、本発明の実施の形態におけるエンジンECU51の前提条件として述べた通り、従来の手法に基づいてバルブ位相確定処理とは別個に実行されるものとなっている。
【0033】
ステップS400において、気筒判別が完了していると判定された場合(YESの場合)には、インテークバルブ(図示せず)の位相(以下、説明の便宜上「インテークバルブ位相」と称する)も確定されたことになるため、内燃機関始動時バルブ位相確定処理を継続実行する必要はなくなる。したがって、この場合、気筒判別の結果に基づいて、エンジン5の始動時におけるバルブ位置制御が行われ、エンジン1における点火が開始されることとなる(
図3のステップS700参照)。
【0034】
一方、ステップS400において、気筒判別が完了していないと判定された場合(NOの場合)には、バルブ位相偏差Δθを用いて端点判定が行われる(
図3のステップS500参照)。
すなわち、先のステップS300で算出されたバルブ位相偏差Δθの絶対値が基準偏差θsよりも下回っているか否かが判定される。
【0035】
この判定処理は、次述する観点からなされるものである。
インテークバルブ位相が目標VVT角度に追従して最終目標位置である最遅角位置へ向かって変化している間は、最新のカム角センサ3の出力値θdet(n)と、直近のカム角センサ3の出力値θdet(n-1)との間には必ず差が生ずる。
換言すれば、最新の出力値θdet(n)は、直近の出力値θdet(n-1)よりも必ず大きくなり、その大きさは、電動駆動VVTアクチュエータ1aによるインテークカムシャフト11の回動角に応じたものとなる。
【0036】
ところが、インテークバルブ位相が最遅角位置に到達すると、それ以後、カム角センサ3の出力変化は、理論的には、その時点の出力値で停止状態となる。したがって、この時点におけるバルブ位相偏差Δθは、理論的には零であるが、実際には、カム角センサ3の出力特性の変動等があるため、必ずしも零とはならないこともある。そのため、本発明の実施の形態においては、バルブ位相偏差Δθの絶対値が基準偏差θsよりも下回った場合に、インテークバルブ位相が最遅角位置に到達したと判定している。
【0037】
しかして、ステップS500において、バルブ位相偏差Δθの絶対値が基準偏差θsよりも下回っていると判定された場合(YESの場合)には、インテークバルブ位相が所定の端点である最遅角位置に到達したとされる。そして、この時のインテークバルブ位相の最遅角位置がエンジンECU51の適宜な記憶領域に、インテーク位相の学習値として記憶、保持される(
図3のステップS600)。
次いで、上述したように確定されたインテークバルブ位相に基づいて、エンジン5の始動時におけるバルブ位置制御が行われ、エンジン1における点火が開始されることとなる(
図3のステップS700参照)。
【0038】
次に、
図4に示された模式図を参照しつつ、本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位相確定処理について総括的に説明する。
イグニッションスイッチ21がオンとされ(
図4(A)の時刻t1時点参照)、エンジンECU51により電動駆動VVT装置1が始動されると、インテークバルブ(図示せず)を最遅角位置へ変位させるべく、複数回に渡って目標VVT角度の設定と、目標VVT角度に応じた電動駆動VVTアクチュエータ1aによるインテークバルブ(図示せず)の駆動が繰り返される(
図4(B)時刻t2以降参照)。
【0039】
なお、
図4(B)においては、目標VVT角度の変化が二点鎖線で、カム角センサ3により検出されたバルブ位相(実角)の変化が実線で、それぞれ表されている。両者は、電動駆動VVTアクチュエータ1aによるインテークバルブ(図示せず)の駆動開始(
図4(B)の時刻t2)から実角が端点位置に達するまで(
図4(B)の時刻t4)の間、及び、実角が端点位置から最適VVT位相位置となるまでの間のそれぞれにおいて、その変化は一致しており、本来は、一つの線で表されるべきところ、
図4(B)においては、理解を容易とするため、僅かな間隔を隔てて平行に示されている。
【0040】
上述のように目標VVT角度に応じた電動駆動VVTアクチュエータ1aによるインテークバルブ(図示せず)の駆動が繰り返される間、クランキングが開始されると(
図4(D)の時刻t3の時点参照)、エンジン回転数が徐々に上昇してゆくこととなる(
図4(E)参照)。
一方、上述のようにVVT目標角度に応じて電動駆動VVTアクチュエータ1aによるインテークバルブ(図示せず)の駆動は、バルブ位相偏差Δθの絶対値が基準偏差Δθsを下回るまで継続される。そして、バルブ位相偏差Δθの絶対値が基準偏差Δθsを下回ったと判定されると、インテークバルブ位相が端点である最遅角位置に到達したと判定される(
図4(C)の時刻t5の時点参照)。
【0041】
この時点で、内燃機関始動時バルブ位相確定処理とは別個に実行される気筒判別処理によって気筒判別が完了していない場合(
図4(F)の時刻t6の時点参照)には、内燃機関始動時バルブ位相確定処理によって確定されたインテークバルブ位相に基づいて電動駆動VTTアクチュエータ1aによるバルブ位置制御が行われ、エンジン1における点火が開始されることとなる(
図4(G)の時刻t7の時点参照)。
【0042】
このように本発明の実施の形態における内燃機関始動時バルブ位置確定処理を適用することによって、従来の気筒判別処理によって始動時のバルブ位置を確定する場合に比して、早期にバルブ位置が確定する機会が増し、始動時間がより短縮されることとなる。
【0043】
また、バルブ位置が確定された後にエンジン始動に最適なバルブ位相までVVTを駆動制御する十分な時間が確保される機会が増し、始動時の良好な燃焼が担保されることで、従来に比して、失火や異常燃焼の発生が低減されることとなる。
またさらに、始動時間が短縮できるため、不燃HC(炭化水素)や有害ガスの排出が低減されることとなる。始動時間の短縮は、触媒暖気を早期に行うことを可能とすることにもなり、早期の触媒暖気による有害ガスの排出低減効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
内燃機関始動時における早期のバルブ位置の確定が所望される車両に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1…電動駆動VVT装置
2…クランク角センサ
3…カム角センサ
6…クランクシャフト
11…インテークカムシャフト
12…エキゾーストカムシャフト