(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】流量推定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/20 20060101AFI20230220BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20230220BHJP
【FI】
G01F1/20 F
G01F1/00 Q
(21)【出願番号】P 2019075511
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591117413
【氏名又は名称】株式会社菊池製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【氏名又は名称】坂本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】石過 壮
(72)【発明者】
【氏名】小野 治夫
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015626(JP,A)
【文献】特開2003-172786(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114264(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103148905(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00- 1/30
G01F 1/34- 1/54
G01F 3/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液滴を含む少なくとも1つの液滴を吐出する吐出口を継続的に撮影することによって、一連の画像を生成する撮影部と、
前記一連の画像のうち、前記第1の液滴が前記吐出口の先端に付着してから落下するまでの第1の期間の一部である第2の期間に関連付けられる複数の画像の各々に写った前記第1の液滴の体積を計算する体積計算部と、
前記第2の期間における前記第1の液滴の体積の時間変化を第1の直線で近似する近似計算部と、
予め定められた体積と補正係数との関係に従って前記第2の期間における前記第1の液滴の体積のいずれかに対応する補正係数を決定し、当該補正係数を前記第1の直線の傾きに適用することによって、前記第1の液滴の前記第2の期間に亘る観測に基づく推定流量を計算する流量計算部と
を具備する、流量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、液滴の流量の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば輸液ポンプを用いた点滴静脈注射において、薬液を正確な注入速度(すなわち、流量)で投与するために、滴下センサを用いて点滴筒内の液滴の落下を検知し、当該液滴の落下数に基づいて輸液ポンプにフィードバック制御が行われる。係る注入速度のフィードバック制御は、典型的には落下する液滴の体積を一定と仮定しているが、係る体積を正確に逐次計算すれば、より高い精度で液滴の流量を推定することができる。
【0003】
薬液の滴下ノズル周辺を継続的に撮影し、液滴が当該滴下ノズルを離れた直後の画像を撮影画像の中から特定し、当該画像に写った液滴の体積を区分求積法により算出する技法が知られている。しかしながら、液滴の落下速度は落下開始からの経過時間に略比例して増加し、落下速度が高いほど液滴はブレた状態で撮影されるので、算出される体積の誤差が大きくなりやすい。他方、液滴が滴下ノズルを離れた直後の画像を確実に捉えるためには、液滴の落下方向(通常は鉛直方向)に撮影範囲が広く(すなわち、高解像度であり)、かつ、高フレームレートな2次元イメージセンサを用いて撮影を行う必要がある。概括すれば、液滴の体積の算出精度と当該液滴を撮影する機材のコストとがトレードオフの関係にある。
【0004】
加えて、この技法によれば、少なくとも1つの液滴が落下するまで当該液滴の流量を推定することができない。故に、液滴の落下周期が長いほど、当該液滴の流量を調節してから最新の推定結果に反映されるまでに長時間を要するので、当該推定結果に基づいて手動でまたは自動的に当該流量を目標値に調節するユースケースにおいて不便である。また、液滴の体積は落下に至るまで線形ではなく非線形に増加するので、落下周期の一部に亘る観測に基づいて正確な流量を推定することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、液滴の落下周期よりも短い期間に亘る観測に基づいて当該液滴の流量を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、流量推定装置は、撮影部と、体積計算部と、近似計算部と、流量計算部とを含む。撮影部は、第1の液滴を含む少なくとも1つの液滴を吐出する吐出口を継続的に撮影することによって、一連の画像を生成する。体積計算部は、一連の画像のうち、第1の液滴が吐出口の先端に付着してから落下するまでの第1の期間の一部である第2の期間に関連付けられる複数の画像の各々に写った第1の液滴の体積を計算する。近似計算部は、第2の期間における第1の液滴の体積の時間変化を第1の直線で近似する。流量計算部は、予め定められた体積と補正係数との関係に従って第2の期間における第1の液滴の体積のいずれかに対応する補正係数を決定し、当該補正係数を第1の直線の傾きに適用することによって、第1の液滴の第2の期間に亘る観測に基づく推定流量を計算する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る流量推定装置を例示するブロック図。
【
図2】
図1の流量推定装置の動作を例示するフローチャート。
【
図3】
図1の撮影部によって撮影される一連の画像を例示する図。
【
図4】
図3の一連の画像に基づいて計算される液滴の体積の時間変化と当該体積の時間変化を近似する直線および3次曲線を例示するグラフ。
【
図5】
図4のグラフに基づいて導出される、時間(フレーム)と当該時間付近の体積の時間変化の近似直線の傾きとの関係を例示するグラフ。
【
図6】
図4および
図5のグラフに基づいて導出される、体積と当該体積付近の体積の時間変化の近似直線の傾きとの関係を例示するグラフ。
【
図7】
図1の流量推定装置によって用いられる補正係数と体積との関係を例示するグラフ。
【
図8】補正係数の導出過程における
図1の流量推定装置の動作を例示するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施形態の説明が述べられる。尚、以降、説明済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号が付され、重複する説明は基本的に省略される。
【0010】
各実施形態に係る流量推定装置は、例えば、点滴静脈注射における薬液の液滴の流量を推定するために用いられるが、他の任意の種別の液滴の流量(または落下周期あたりの吐出量)を推定するために用いられてもよい。例えば、この流量推定装置は、インクジェットプリンタにおけるインクの液滴、半導体製造装置における薬液の液滴などの流量を推定するために用いられてもよい。
【0011】
(第1の実施形態)
図1に例示されるように、第1の実施形態に係る流量推定装置は、撮影部101と、体積計算部102と、体積記憶部103と、近似計算部104と、補正係数導出部105と、補正係数記憶部106と、流量計算部107とを含む。
【0012】
撮影部101は、例えば薬液などの液滴を吐出するノズル(すなわち、吐出口)の先端付近を継続的に撮影することによって、ノズルの先端に付着した液滴が徐々に体積を増してゆく様子を表す一連の画像を生成する。一連の画像は、例えば
図3に示されるように、液滴がノズルの先端に付着してから徐々に体積を増してゆく様子を所定のフレームレートで撮影することによって得られる複数の画像である。
【0013】
図3において各画像に付与された数字は当該画像のフレーム番号を表す。
図3の例では、フレーム番号1からフレーム番号54までの画像が1つの落下周期に亘る液滴の体積の成長を表している。
【0014】
図3に示される一連の画像の撮影時のフレームレートが20fpsであったので、落下周期の長さはおよそ54/20=2.7、すなわち3秒弱となる。故に、
図3の例を前提に、落下周期の全体に亘る観測に基づいて流量を推定するとすれば、流量の推定結果は3秒弱の周期で更新されることになる。他方、仮に5フレームまたは10フレームを単位期間とする観測に基づいて流量を推定すれば、流量の推定結果はおよそ0.25(=5/20)秒または0.5(=10/20)秒の周期で更新されることになる。従って、例えば流量の推定結果に基づいて手動でまたは自動的に液滴の流量を目標値に調節するというユースケースにおいて、後者は前者に比べて短時間で作業を完了することができる可能性がある。
【0015】
撮影部101は、一連の画像を体積計算部102へと出力する。なお、撮影部101は、画像を1枚撮影する毎に体積計算部102へと逐次出力してもよいし、画像を所定枚数(例えば5枚または10枚)撮影し終えてから体積計算部102へと一括出力してもよい。
【0016】
撮影部101は、ノズルの先端に付着した液滴が徐々に体積を増してゆく様子を撮影することが求められており、液滴がノズルの先端を離れる瞬間を捉える必要はないので、要求フレームレートは高くない。さらに、撮影部101の撮影範囲は、ノズルの先端に付着した液滴の全体を包含する程度でよい。例えば、撮影部101は、フレームレートおよび解像度が共に低い、小型で安価な2次元イメージセンサ(カメラ)を用いて実装可能である。さらに、撮影部101のフレームレートおよび解像度が低いほど一連の画像のデータサイズは小さくなるので、後述される種々の計算処理に必要な時間およびメモリ容量を抑制できるという利点もある。
【0017】
体積計算部102は、撮影部101から一連の画像を受け取る。体積計算部102は、一連の画像の各々に写った液滴の体積を計算する。体積計算部102は、例えば区分求積法などの種々の手法で体積計算を行ってもよい。体積計算部102は、体積の計算結果を体積記憶部103に保存する。
【0018】
具体的には、体積計算部102は、上記一連の画像のうち、液滴がノズルの先端に付着してから落下するまでの落下周期の一部である流量推定の単位期間に関連付けられる複数の画像の各々に写った液滴の体積を計算する。この単位期間は例えば5フレーム分、10フレーム分などに相当し、
図1の流量推定装置は当該単位期間毎に液滴の最新の流量を推定することができる。すなわち、
図1の流量推定装置は、液滴の落下周期よりも短い単位期間に亘る観測に基づいて当該液滴の流量を推定することができる。
【0019】
さらに、体積計算部102は、後述される補正係数の導出過程において、落下周期(第3の期間)の全体に関連付けられる複数の画像の各々に写った液滴の体積を計算してもよい。
【0020】
体積記憶部103には、体積計算部102による液滴の体積の計算結果が保存される。なお、各体積は、当該体積に対応する時刻を明示的または暗黙的に示す情報と関連付けて保存されてもよい。係る情報は、例えば、単に画像のフレーム番号の値であってもよいし、画像の撮影時刻、体積の計算時刻または体積の保存時刻の値であってもよい。
【0021】
近似計算部104は、前述の単位期間における体積を体積記憶部103に保存から読み出し、当該体積に基づいて、当該単位期間における体積の時間変化を直線(第1の直線)で近似する。ここで、体積は、
図4に例示されるように、落下周期に亘って非線形(例えば3次曲線状)に時間変化するので、単位期間における体積の時間変化の近似直線の傾きも時間とともに変化する。近似計算部104は、当該直線の傾きを流量計算部107へと出力する。
【0022】
具体的には、近似計算部104は、単位期間における体積(以降、サンプルとも称する)を時系列順に並べる。単位期間において液滴の体積は略単調増加するので、当該単位期間における液滴の体積の時間変化は、下記数式(1)に示す直線l(t)で近似することができる。
【0023】
【0024】
l(t)は、時刻t(tは例えばフレーム番号を表す)における液滴の体積を表す。aは直線l(t)の傾きを表し、正の値をとる。bは、直線l(t)の体積軸との切片を表す。近似計算部104は、単位期間内のサンプルに対して例えば最小二乗法を適用することでaおよびbを計算することができる。
【0025】
さらに、近似計算部104は、補正係数の導出過程において、落下周期(第3の期間)の全体における体積の時間変化を直線(第2の直線:l
e(t)=a
et+b
e)で近似し(
図4の点線を参照)、当該落下周期の一部である補正係数導出の対象期間(第4の期間)における体積の時間変化を直線(第3の直線)で近似する。この第2の直線の傾き(a
e)は、落下周期の全体に亘る観測に基づく液滴の推定流量を表す。近似計算部104は、それぞれの直線の傾きを補正係数導出部105へと出力する。複数の対象期間についての近似直線の傾きをプロットすることで、
図5に例示されるような時間(フレーム)対傾きの関係を得ることができる。
【0026】
或いは、近似計算部104は、落下周期に亘る液滴の体積の時間変化を関数f(t)(
図4の例では3次関数である)で近似し、この関数の一次導関数f’(t)(
図5の例では2次関数である)を計算することで、各フレームにおける傾きを一括で導出することもできる。故に、近似計算部104は、傾きの代わりに、上記一次導関数を補正係数導出部105へと出力してもよい。
【0027】
なお、近似計算部104は、1つの落下周期に対して複数の対象期間を設定し、対象期間毎に体積の時間変化を直線で近似し、その傾きを補正係数導出部105へと出力してもよい。
【0028】
流量計算部107は、近似計算部104から単位期間における液滴の体積の時間変化を近似する直線の傾きを受け取る。さらに、流量計算部107は、予め定められた体積と補正係数との関係に従って、単位期間における液滴の体積のいずれかに対応する補正係数を決定する。係る関係は、例えば補正係数記憶部106に記憶された関数またはテーブル(例えば、ルックアップテーブル(LUT))によって定められていてもよい。この場合には、流量計算部107は、単位期間における液滴の体積のいずれかに対応する補正係数を補正係数記憶部106から読み出したり、当該体積に対応する関数値を計算したりすることで、補正係数を決定してもよい。
【0029】
なお、補正係数を決定するために用いられる体積は、例えば単位期間の中央付近における体積であってもよい。すなわち、単位期間に関連付けられる画像の総数が奇数であるならば、それらの時系列順で中央を占める1つの画像から計算された体積が、補正係数を決定するために用いられてもよい。他方、単位期間に関連付けられる画像の総数が偶数であるならば、それらの時系列順で中央を占める2つの画像から計算された体積の平均値が、補正係数を決定するために用いられてもよい。
【0030】
流量計算部107は、決定した補正係数を上記直線の傾きに適用することによって、流量推定の単位期間に亘る観測に基づく液滴の(推定)流量を計算する。例えば、流量計算部107は、補正係数またはその逆数を上記直線の傾きに乗算してもよい。なお、流量は、典型的には、単位時間あたりに吐出口断面を流れる液滴の体積(例えばml/H)であるが、単位時間あたりに吐出口断面を流れる液滴の質量であってもよい。液滴の密度が既知であるならば、体積を質量に換算することは可能である。
【0031】
図1の流量推定装置は、
図2に例示されるように動作する。
図2の処理は、ステップS201から開始する。ステップS201において、撮影部101は、液滴を吐出するノズルの付近(具体的には、液滴の体積が最大限に成長した場合であってもその全体を包含できる範囲)を撮影する。
【0032】
体積計算部102は、ステップS201において撮影された画像に写った液滴の体積を計算し(ステップS202)、その体積を体積記憶部103に保存する(ステップS203)。
【0033】
撮影部101は、前述の流量推定の単位期間が終了する(例えば、所定枚数の撮影が終了する)まで撮影を継続する(ステップS201からステップS204までのループ)。他方、単位期間に関連付けられる複数の画像の撮影、ならびに、当該画像に写った体積の計算およびその体積の保存が終了すれば、処理はステップS205へと進む。
【0034】
ステップS205では、近似計算部104がステップS203において保存された体積を読み出し、単位期間に亘る液滴の体積の時間変化を直線で近似する。流量計算部107は、予め定められた体積と補正係数との関係に従って、単位期間における液滴の体積のいずれかに対応する補正係数を決定する(ステップS206)。そして、流量計算部107は、ステップS206において決定した補正係数をステップS205において計算された直線の傾きに適用することによって流量を計算し(ステップS207)、
図2の処理は終了する。
【0035】
前述のように、流量計算部107は、予め定められた体積と補正係数との関係に基づいて、液滴の流量を計算する。故に、補正係数の導出過程は、流量計算に先立って行われることになる。
【0036】
補正係数導出部105は、補正係数の導出過程において、近似計算部104から、落下周期の全体における液滴の体積の時間変化を近似する直線の傾きaeと、当該落下周期の一部である補正係数導出の対象期間を近似する直線の傾き(または、落下周期に亘る液滴の体積の時間変化を近似する関数f(t)の一次導関数f’(t))とを受け取る。なお、前述のように1つの落下周期に対して1つに限らず複数の対象期間が設定される可能性がある。この場合には、近似計算部104は複数の対象期間のそれぞれについて傾きを受け取ることになる。
【0037】
補正係数導出部105は、補正係数導出の対象期間についての傾きを、当該対象期間における体積のいずれかに対応付けることで、
図6に例示されるような体積対傾きの関係を得ることができる。
【0038】
補正係数導出部105は、上記一次導関数f’(t)を受け取った場合には、関数f(t)の逆関数f
-1(v)(この逆関数は、体積vに対応する時間を返す)を用いて、以下のように傾きと体積vとを対応付けることができる。数式(2)のg(v)(例えば
図6参照)は、体積vに対応する傾きを返す。
【0039】
【0040】
そして、補正係数導出部105は、落下周期全体についての傾きaeと、上記体積に対応付けられた傾きとの比率を計算する。すなわち、補正係数導出部105は、前者の傾きaeを後者の傾きで除算してもよいし、後者の傾きを前者の傾きaeで除算してもよい。補正係数導出部105は、この比率を、上記体積に対応する補正係数として導出する。以降の説明では、落下周期全体についての傾きaeを上記体積に対応付けられた傾きで除算することで得られる比率を、当該体積に対応する補正係数とする。補正係数導出部105は、複数の対象期間に対して同様の処理を繰り返せば、複数の体積に対応する補正係数を導出することができる。なお、より多くの補正係数を導出するために、補正係数導出部105は、1つに限らず複数の落下周期に対して同様の処理を繰り返してもよい。
【0041】
なお、補正係数導出の対象期間についての傾きと対応付けられる体積は、例えば当該対象期間の中央付近における体積であってもよい。すなわち、対象期間に関連付けられる画像の総数が奇数であるならば、それらの時系列順で中央を占める1つの画像から計算された体積が、当該対象期間についての傾きと対応付けられてもよい。他方、対象期間に関連付けられる画像の総数が偶数であるならば、それらの時系列順で中央を占める2つの画像から計算された体積の平均値が、当該対象期間についての傾きと対応付けられてもよい。
【0042】
或いは、補正係数導出部105は、数式(2)の関数g(v)を落下周期全体についての傾きaeで除算してもよいし、当該傾きaeを数式(2)の関数g(v)で除算してもよい。係る計算によれば、各体積vに対応する補正係数を一括で導出することができる。
【0043】
前述のように、落下周期全体についての傾きaeは、当該落下周期における流量(すなわち、単位時間あたりに落下する液滴の体積)を表している。流量に変化がなければ、異なる落下周期における体積の時間変化を表す曲線の形状は類似することが経験的に判明している。他方、流量に変化が生じた場合に、変化後の曲線の形状は、変化前の落下周期における曲線を流量の変化率に応じて時間方向に圧縮または伸長させた形状に概ね類似することも経験的に判明している。すなわち、流量の変化後の曲線における所与の体積付近の近似直線の傾きは、変化前の曲線における当該体積付近の近似直線の傾きに流量の変化率を乗算した値に概ね類似する。従って、以下の数式(3)が成立する。
【0044】
【0045】
数式(3)において、aは流量推定の単位期間における液滴の体積の時間変化を近似する直線の傾きを表し(数式(1)を参照)、vは例えば当該単位期間の中央付近における液滴の体積を表していて、g(v)は、当該体積vに対応する傾きを返す関数である(数式(2)を参照。flow rateは、この単位期間に亘る観測に基づく流量を表し、aeは、前述の通り第2の直線の傾きであって、(少なくとも1つの)落下周期の全体に亘る観測に基づく液滴の推定流量を表す。従って、flow rate/aeは、補正係数の導出過程における推定流量を基準とした、単位期間に亘る観測に基づく流量の変化率を意味する。さらに、ae/g(v)は、体積vに対応する補正係数(c(v))を意味する。
【0046】
数式(3)から読み取れるように、流量推定の単位期間における液滴の体積の時間変化を近似する直線の傾きaに、当該単位期間の例えば中央付近における液滴の体積に対応する補正係数c(v)を乗算することで、当該単位期間に亘る観測に基づく流量flow rateを推定することが可能である。すなわち、液滴の体積の局所的な時間変化さえ分析すれば、当該液滴の落下を待たずとも液滴の体積の成長カーブの形状の周期性を利用して流量を推定することができる。
【0047】
補正係数導出部105は、導出した補正係数を体積に対応付けて補正係数記憶部106に保存する。補正係数記憶部106に保存された体積と補正係数との組の集積は、体積と補正係数との関係を表す情報に相当する。この情報は、例えばルックアップテーブル形式で補正係数記憶部106に保存されてもよい。或いは、補正係数導出部105は、導出した複数の補正係数を体積の多項式として近似することで、上記関係を表す関数(例えば
図7に示されるような体積の4次関数)を得てもよい。この場合に、補正係数導出部105は、例えば関数の各項の係数を補正係数記憶部106に保存してもよい。
【0048】
図1の流量推定装置は、補正係数の導出過程において、
図8に例示されるように動作する。
図8の処理は、ステップS301から開始する。ステップS301において、撮影部101は、液滴を吐出するノズルの付近を撮影する。
【0049】
体積計算部102は、ステップS301において撮影された画像に写った液滴の体積を計算し(ステップS302)、その体積を体積記憶部103に保存する(ステップS303)。
【0050】
撮影部101は、少なくとも1つの落下周期が終了する(例えば、液滴がノズルの先端に付着してから徐々に体積を増して最終的に落下する)まで撮影を継続する(ステップS301からステップS304までのループ)。他方、落下周期に関連付けられる複数の画像の撮影、ならびに、当該画像に写った体積の計算およびその体積の保存が終了すれば、処理はステップS305へと進む。
【0051】
ステップS305では、近似計算部104がステップS303において保存された体積を読み出し、落下周期の全体に亘る液滴の体積の時間変化を直線で近似し、さらに、当該落下周期の一部である補正係数導出の対象期間に亘る液滴の体積の時間変化を直線で近似する。補正係数導出部105は、落下周期全体についての傾きと、対象期間についての傾きとの比率を、当該対象期間における体積のいずれかに対応する補正係数として導出する(ステップS306)。補正係数導出部105は、ステップS306において導出した補正係数を上記体積に対応付けて補正係数記憶部106に保存し、
図8の処理は終了する。なお、ステップS306からステップS307は、同一の落下周期に属する複数の対象期間について繰り返し行われてもよいし、異なる落下周期に属する複数の対象期間について繰り返し行われてもよい。
【0052】
以上説明したように、第1の実施形態に係る流量推定装置は、液滴の落下周期の一部である単位期間に亘る液滴の体積の時間変化を直線で近似し、当該単位期間におけるいずれかの体積に対応付けられた補正係数を用いて当該直線の傾きを流量に換算する。ここで、補正係数は、過去に計算された落下周期の全体に亘る液滴の体積の時間変化を近似する直線の傾きと、上記体積付近の局所的な直線の傾きとの比率を表す。故に、この流量推定装置によれば、液滴の体積の成長カーブの形状の周期性を利用して、液滴の落下を待たずとも上記単位期間毎に流量を推定することができる。なお、この流量推定装置によれば、液滴が落下する瞬間の画像を捉える必要はなくノズルに付着した液滴の体積の時間変化を捉えることができればよいから、高フレームレートかつ高解像度な撮影機材を必要とすることなく、液滴の流量を推定することができる。
【0053】
上記各実施形態において説明された種々の機能部は、回路を用いることで実現されてもよい。回路は、特定の機能を実現する専用回路であってもよいし、プロセッサのような汎用回路であってもよい。
【0054】
上記各実施形態の処理の少なくとも一部は、汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることでも実現可能である。上記処理を実現するプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納して提供されてもよい。プログラムは、インストール可能な形式のファイルまたは実行可能な形式のファイルとして記録媒体に記憶される。記録媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、半導体メモリなどである。記録媒体は、プログラムを記憶でき、かつ、コンピュータが読み取り可能であれば、何れであってもよい。また、上記処理を実現するプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ(サーバ)上に格納し、ネットワーク経由でコンピュータ(クライアント)にダウンロードさせてもよい。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
101・・・撮影部
102・・・体積計算部
103・・・体積記憶部
104・・・近似計算部
105・・・補正係数導出部
106・・・補正係数記憶部
107・・・流量計算部