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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20230220BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
G03G9/087 331
C08G63/672
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019121070
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021006867
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 浩太
(72)【発明者】
【氏名】加納 邦泰
(72)【発明者】
【氏名】神吉 伸通
(72)【発明者】
【氏名】三辻 昌昂
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-004806(JP,A)
【文献】特開2009-014820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
C08G 63/672
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分と非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物に、該酸変性物Aが重縮合した重縮合物であるポリエステル樹脂Aを含有する、トナー用結着樹脂組成物であって、前記非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが、ポリイソブテン系重合体の片末端が無水マレイン酸により変性された酸変性物である、トナー用結着樹脂組成物
【請求項2】
非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aの重量平均分子量が、500以上5,000以下である、請求項1記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項3】
ポリイソブテン系重合体の、イソブテンの割合が60質量%以上である、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂組成物、該結着樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂の製造方法、及び該結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トナーバインダー(A)、ワックス(B)、着色剤(C)からなるカラートナーにおいて、(A)が炭素数8以上の炭化水素基を1~50重量%含有する樹脂(D)からなり、かつ、(A)のヘイズ値が70以下であることを特徴とするカラートナーが開示されている。
【0003】
特許文献2には、少なくともポリエステルからなるバインダー樹脂とワックスとを含有するトナーにおいて、ポリエステルとワックスとを相溶化させる相溶化剤であって、ポリエステルと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンとを反応させてなることを特徴とする相溶化剤を含有することを特徴とするトナー用ポリエステル系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、ポリエステル樹脂由来の構成部位、及び、カルボン酸基又は無水カルボン酸基を有する変性ポリプロピレン系重合体A由来の構成部位を有し、前記ポリエステル樹脂由来の構成部位と前記変性ポリプロピレン系重合体A由来の構成部位とが、共有結合により連結している、非晶性ポリエステル系樹脂を含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記重合体Aは、不飽和結合を有するカルボン酸化合物又はその無水物により末端変性されたポリプロピレン系重合体であり、前記ポリエステル系樹脂中、前記重合体A由来の構成単位の量が、ポリエステル樹脂由来の構成部位を形成するアルコール成分とカルボン酸成分の合計量100質量部に対して、8質量部以上30質量部以下である、トナー用結着樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-250264号公報
【文献】特開2005-316378号公報
【文献】特開2019-008185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子写真用トナーの分野においては、電子写真システムの発展に伴い高速印刷化、高画質化といったニーズがある。その中でポリエステル樹脂、特に線形ポリエステル樹脂は低温定着性、保存性に優れていると考えられているが、高温高湿環境下での吸湿性が高いことから、帯電立ち上がり性に課題があると考えられる。
そこで、ポリエステル樹脂の耐吸湿性と帯電立ち上がり性を向上させる手段として、例えば、炭素数2又は3のα-オレフィン重合体の酸変性物のような疎水的なアルキル基を有する結晶性のマクロモノマーをポリエステル樹脂に組み込んだ場合、一定の保存性は維持されるものの、アルキル基が90℃以上の融点を有するためトナー表面を完全に覆うほど濡れ広がらず、十分な耐吸湿性が得られない(例えば、特許文献2、3参照)。また、ドデセニル無水コハク酸のような疎水的なアルキル基を有する非晶性のモノマーをポリエステル樹脂に組み込んだ場合は、一定の耐吸湿効果は改善されるものの、まだ十分とは言えない。一方、仮に十分な耐吸湿効果が得られるほど、アルキル基を有するモノマーの添加量を増やした場合は、アルキル基部がポリエステル樹脂を可塑化し、樹脂のガラス転移温度が低下することにより保存性が悪化する(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
本発明は、高温高湿環境下での耐吸湿性、帯電立ち上がり性、及び保存性に優れるトナー用結着樹脂組成物及び該結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分由来の構成単位と、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分由来の構成単位とを有するポリエステル樹脂Aを含有する、トナー用結着樹脂組成物、
〔2〕 ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分と、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂Aを含有する、トナー用結着樹脂組成物、
〔3〕 ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分と非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物に、該酸変性物Aが重縮合した重縮合物であるポリエステル樹脂Aを含有する、トナー用結着樹脂組成物、並びに
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の結着樹脂組成物を含有した静電荷像現像用トナーは、高温高湿環境下での耐吸湿性、帯電立ち上がり性、及び保存性において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが用いられたポリエステル樹脂Aを含む点に1つの特徴を有する。かかる酸変性物Aを用いることで、酸変性物A中の疎水性のポリオレフィン部が、酸変性物Aが導入されたポリエステル樹脂中においてミクロ相分離の状態で均一に分散することができ、ポリエステル樹脂の耐吸湿性を向上させることができる。
【0011】
また、酸変性物Aは非晶質である。非晶質のα-オレフィン重合体の酸変性物は、カルボン酸基又は無水カルボン酸基を有する変性ポリプロピレン系重合体のような結晶性のα-オレフィン重合体の酸変性物に比べ、ポリエステル樹脂の耐吸湿性がより一層向上する。これは非晶質のα-オレフィン重合体の酸変性物は融点を持たないため、疎水性のポリオレフィン部が低温でもトナー表面に濡れ広がることによるものと推察される。
酸変性物の結晶性は、後述の樹脂の結晶性と同様に結晶性指数([軟化点/吸熱の最高ピーク温度])によって表わされる。非晶質の酸変性物は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上のものであるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下のものである。また、吸熱の最高ピーク温度が検出されないものも非晶質であると判断する。
【0012】
ポリエステル樹脂Aは、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分由来の構成単位と、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分由来の構成単位とを有する。ポリエステル樹脂Aにおいて、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分由来の構成単位と、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分由来の構成単位とが、エステル結合により連結した構造を有していることが好ましい。
【0013】
アルコール成分は、保存性及び酸変性物Aとの反応性の観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含む。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、式(I):
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、OR及びROはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン基及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である)
で表される化合物が好ましい。式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0016】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。なお、本明細書において、アルコール成分又はカルボン酸成分に含まれる化合物の含有量は、ポリエステル樹脂におけるその化合物に由来する構成単位の割合と同義とする。
【0017】
他のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0018】
カルボン酸成分に含まれる炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aにおいて、α-オレフィンの炭素数は、4以上であり、そして、18以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、さらに好ましくは4である。
【0019】
炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体としては、ポリイソブテン系重合体、ポリ1-ブテン系重合体、ポリ1-ペンテン系重合体、ポリ1-ヘキセン系重合体、ポリ1-オクテン系重合体、ポリ4-メチルペンテン系重合体、ポリ1-ドデセン系重合体、ポリ1-ヘキサデセン系重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体等が挙げられ、これらの中では、ポリイソブテン系重合体が好ましい。前記α-オレフィン重合体は、前記α-オレフィンの単独重合体であってもよく、前記α-オレフィンから選ばれる2種以上の共重合体であってもよく、前記α-オレフィンとその他のオレフィンとの共重合体であってもよい。また、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0020】
ポリイソブテン系重合体としては、ポリイソブテン、イソブテンとその他オレフィンとの共重合体等が挙げられる。その他のオレフィンは、例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、2-エチルヘキセンが挙げられる。共重合体である場合、イソブテンの割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%未満である。
【0021】
一方、酸変性物Aとしては、ポリエステル樹脂との反応性の観点から、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びこれらの酸の無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種の酸により変性された酸変性物が好ましく、無水マレイン酸で変性された酸変性物がより好ましい。また、酸変性物としては、前記α-オレフィン重合体に酸がランダムにグラフトされ変性されたランダムグラフト型の酸変性物や、前記α-オレフィン重合体の末端が酸により変性された末端変性型の酸変性物等が挙げられるが、本発明では、低温定着性及び保存性の観点から、末端変性型の酸変性物が好ましく、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の片末端が酸により変性された片末端変性型の酸変性物がより好ましい。
【0022】
ランダムグラフト型の酸変性物は、好ましくは重合体1分子中に1個以上の酸がグラフト化され変性されている。酸によって変性されているかは、一般的なスペクトル測定によって規定できる。例えば、無水マレイン酸によるランダムグラフト型酸変性物の場合、無水マレイン酸によって変性されると、無水マレイン酸の二重結合が単結合に変化するのでそのスペクトル変化を測定することで規定できる。
【0023】
ランダムグラフト変性型の酸変性物は、例えば、α-オレフィン重合体の分子内にラジカルを発生させ、不飽和結合を有するカルボン酸化合物又はその無水物と反応させることで得られる。
【0024】
末端変性型の酸変性物は、好ましくは重合体1分子中に1個(片末端)又は2個(両末端)の酸によって変性される。酸によって変性されているかは、一般的なスペクトル測定によって規定できる。例えば、無水マレイン酸による片末端型酸変性物の場合、無水マレイン酸によって変性されると、無水マレイン酸の二重結合が単結合に変化するのでそのスペクトル変化を測定することで規定できる。またα-オレフィンの重合体側の被連結部分も結合前後でスペクトル変化を起こすのでこれを測定することで規定できる。
【0025】
片末端型の酸変性物は、例えば、片末端に不飽和結合を有する前記α-オレフィン重合体に、酸をEne反応させることで得られる。片末端に不飽和結合を有する前記α-オレフィン重合体は、公知の方法により得られるが、例えば、バナジウム系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム系触媒等を用いて製造することができる。
【0026】
以上より、α-オレフィン重合体の酸変性物Aとしては、片末端が無水マレイン酸で変性されたポリイソブテン無水コハク酸が好ましい。
【0027】
酸変性物Aの重量平均分子量は、保存性の観点から、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、さらに好ましくは900以上、さらに好ましくは1,100以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0028】
酸変性物Aの含有量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の合計量100質量部に対して、帯電の立ち上がり性及び吸湿性の観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、そして、保存性の観点から、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは23質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0029】
前記α-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸系化合物、脂肪族ジカルボン酸系化合物、及び3価以上のカルボン酸系化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物を含有していることがより好ましい。
【0030】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、低温定着性の観点から、テレフタル酸又はイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0031】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、α-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分中、保存性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0032】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0033】
3価以上のカルボン酸系化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられ、これらの中では、トリメリット酸系化合物が好ましい。
【0034】
本発明において、ポリエステル樹脂Aは、低温定着性及び保存性の観点から、線形ポリエステル樹脂であることが好ましい。そのため、架橋作用のある3価以上の原料モノマー(3価以上のアルコール及び3価以上のカルボン酸系化合物)は実質的に含まれていないことが好ましい。ここで、「3価以上の原料モノマーが実質的に含まれていない」とは、含まれていても、その含有量が、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下、さらに好ましくは0モル%であることをいう。
【0035】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0036】
ポリエステル樹脂Aは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0037】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、t-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0038】
ポリエステル樹脂Aは、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分と、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物であっても、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むアルコール成分と非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物に、当該酸変性物Aが重縮合した重縮合物であってもよいが、保存性の観点から、後者の重縮合物が好ましい。
【0039】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂Aは、実質的にその特性を損なわない程度に酸以外で変性されたポリエステル樹脂であってもよい。酸以外で変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0040】
ポリエステル樹脂Aの軟化点は、保存安定性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0041】
ポリエステル樹脂Aは非晶質樹脂であることが好ましい。樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0042】
ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、保存安定性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下である。
【0043】
ポリエステル樹脂Aの酸価は、低温定着性の観点から、好ましくは0.5mgKOH/g以上、より好ましくは1.5mgKOH/g以上であり、そして、耐吸湿性の観点から、好ましくは15mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下である。
【0044】
本発明の結着樹脂組成物には、ポリエステル樹脂A以外のポリエステル樹脂や、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、これらの樹脂を2種以上含む複合樹脂等が含有されていてもよいが、ポリエステル樹脂Aの含有量は、結着樹脂組成物中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0045】
本発明の結着樹脂組成物の含有量は、静電荷像現像用トナー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%であり、そして、好ましくは100質量%未満、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは92質量%以下である。
【0046】
本発明の静電荷像現像用トナーには、結着樹脂(本発明の結着樹脂組成物)以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤、離型剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0047】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0048】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0049】
離型剤(ワックス)としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス又はそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0050】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0051】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0052】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0053】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0054】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0055】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0056】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0057】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0058】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0059】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0060】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0061】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0062】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例
【0063】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0064】
〔酸変性物の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。吸熱の最高ピーク温度が検出されないものは非晶質であり、検出される場合は樹脂と同様の方法により軟化点を測定して、結晶性指数(軟化点/吸熱の最高ピーク温度)を算出して判断する。
【0065】
〔α-オレフィン重合体の酸変性物の重量平均分子量(Mw)〕
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量分布測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(Mw 5.0×102)、A-1000(Mw 1.01×103)、A-2500(Mw 2.63×103)、A-5000(Mw 5.97×103)、F-1(Mw 1.02×104)、F-2(Mw 1.81×104)、F-4(Mw 3.97×104)、F-10(Mw 9.64×104)、F-20(Mw 1.90×105)、F-40(Mw 4.27×105)、F-80(Mw 7.06×105)、F-128(Mw 1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー(株)製)
【0066】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0067】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0068】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0069】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0070】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0071】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0072】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター(株)製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマン・コールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマン・コールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0073】
樹脂製造例1
表1に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表1に示すテレフタル酸を添加し、160℃まで昇温し、表1に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、235℃まで昇温し、235℃で10時間反応させた後、235℃、8.0kPaにて1時間反応させた。160℃まで冷却し、表1に示す酸変性物を添加し、再度、235℃まで昇温し、235℃で5時間重縮合反応させ、さらに235℃、8.0kPaにて表1に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質のポリエステル樹脂(樹脂A1~A5)を得た。
【0074】
樹脂製造例2
表1に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表1に示すテレフタル酸を添加し、160℃まで昇温し、表1に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、235℃まで昇温し、235℃で10時間反応させた後、235℃、8.0kPaにて1時間反応させて、非晶質のポリエステル樹脂(樹脂A6)を得た。
【0075】
樹脂製造例3
表1に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表1に示すテレフタル酸を添加し、160℃まで昇温し、表1に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、235℃まで昇温し、235℃で10時間反応させた後、235℃、8.0kPaにて1時間反応させた。160℃まで冷却し、表1に示す炭素数10~14のアルケニル基で置換されたアルケニル無水コハク酸を添加し、再度、235℃まで昇温し、235℃で5時間重縮合反応させ、さらに235℃、8.0kPaにて表1に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質のポリエステル樹脂(樹脂A7)を得た。
【0076】
樹脂製造例4
表1に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表1に示すテレフタル酸を添加し、160℃まで昇温し、表1に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、235℃まで昇温し、235℃で10時間反応させた後、235℃、8.0kPaにて1時間反応させた。160℃まで冷却し、表1に示す酸変性物を添加し、再度、235℃まで昇温し、235℃で5時間重縮合反応させ、さらに235℃、8.0kPaにて表1に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質のポリエステル樹脂(樹脂A8)を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1~5及び比較例1~3
表2に示す結着樹脂100質量部、着色剤「ファストゲンスーパーマゼンタR」(C.I.ピグメント レッド122、大日本インキ化学工業(株)製)6質量部、荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1質量部、及び離型剤「SP-105」(加藤洋行社製、フィッシャートロプシュワックス、融点:105℃)4質量部を、ヘンシェルミキサーでよく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱設定温度は100℃であり、混練物の温度は160℃、混練物の供給速度は10kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。冷却後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)6.5μmのトナー粒子を得た。
【0079】
得られたトナー粒子100質量部に対し、外添剤として「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)2質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0080】
試験例1〔低温定着性〕
カラープリンター「C612dnw」(商品名、沖データ(株)製)にトナーを実装し、未定着で画像出し(印刷面積:6cm×6cm、0.5mg/cm2)を行った。
未定着画像を、前記プリンターの定着機をオフラインで使用し、100mm/secにて100℃から5℃ずつ温度を上げて定着させた。なお、定着紙にはJ紙(富士ゼロックス製、坪量:82g/m2、紙厚:97μm)を使用した。
定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、低温定着性を評価した。結果を表2に示す。
【0081】
試験例2〔耐吸湿性〕
結着樹脂に用いた樹脂の粒径を150~250μmに揃えた後、40℃、60torrの真空乾燥機内で12時間乾燥を行い、乾燥後の質量を測定した(樹脂質量a)。乾燥した樹脂2.00gをガラスシャーレに均一に広げ、40℃、湿度85%の高温高湿環境下で12時間放置後、再度、質量を測定した(樹脂質量b)。
(樹脂質量b-樹脂質量a)/樹脂質量a×100から算出される吸湿率(%)が小さいほど耐吸湿性に優れており、以下の評価基準に従って、耐吸湿性を評価した。結果を表2に示す。
【0082】
<評価基準>
A:吸湿率が0.30%未満であり、トナーの帯電性に影響することがない。
B:吸湿率が0.30%以上、0.50%未満であり、トナーの帯電性をわずかに低下させる可能性があるが、実質的に影響することはない。
C:吸湿率が0.50%以上、0.70%未満であり、トナーの帯電性を低下させる可能性がある。
D:吸湿率が0.70%以上、1.20%未満であり、トナーの帯電性を低下させる可能性が高い。
E:吸湿率が1.2%以上であり、トナーの帯電性を低下させ、現像不良の原因となる。
【0083】
試験例3〔帯電の立ち上がり性〕
トナー4質量部(0.4g)と、平均粒子径90μmのシリコーンコートフェライトキャリア(関東電化工業社製)96質量部(9.6g)を20mLのポリプロピレン製の容器に入れた後、温度25℃、相対湿度50%の環境下で0.5分間ボールミルにて混合し、「q/m Meter MODEL 210HS」(TREK社製)を用いて帯電量を測定した。さらに2.5分間撹拌し帯電量を測定した。2つの帯電量の比(0.5分帯電量/2.5分帯電量)の値を算出した。算出値が大きいほど帯電の立ち上がり性に優れ、以下の評価基準に従って、帯電の立ち上がり性を評価した。結果を表2に示す。
【0084】
<評価基準>
A:算出値が0.80以上であり、高速(50枚以上)印刷時でも現像不良による印刷不良が発生しない。
B:算出値が0.60以上、0.80未満であり、高速印刷時に現像不良による印刷不良が発生する可能性がわずかにあるが、実質的に問題はない。
C:算出値が0.40以上、0.60未満であり、高速印刷時に現像不良による印刷不良が発生する。
D:算出値が0.40未満であり、高速印刷時に現像不良により印刷ができない。
【0085】
試験例4〔保存性〕
トナー5gを円柱型容器に入れ、温度50℃、相対湿度50%の高温環境下で72時間放置後、200メッシュ(目開き:75μm)の篩にかけ、通過したトナーの質量を秤量した。通過したトナーの質量が多いほど保存性に優れ、以下の評価基準に従って保存性を評価した。結果を表2に示す。
【0086】
<評価基準>
A:篩を通過したトナーが90質量%以上であり、トナーの凝集による印刷不良が発生しない。
B:篩を通過したトナーが80質量%以上、90質量%未満であり、トナーの凝集による印刷不良が発生する可能性がわずかにあるが、実質的に問題はない。
C:篩を通過したトナーが20質量%以上、80質量%未満であり、トナーの凝集による印刷不良が発生する可能性が高い。
D:篩を通過したトナーが20質量%未満であり、トナーの凝集による印刷不良が発生する。
【0087】
【表2】
【0088】
以上の結果より、実施例1~5のトナーは、良好な低温定着性を維持しつつ、かつ高温高湿環境下での耐吸湿性、帯電立ち上がり性、及び保存性のいずれにも優れていることが分かる。中でも、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の合計量100質量部に対する酸変性物Aの含有量が15質量部以上であるポリエステル樹脂を含有する実施例4と5のトナーは、耐吸湿性及び帯電の立ち上がり性に特に優れていることが分かる。
これに対し、酸変性物を用いていないポリエステル樹脂を含有する比較例1のトナーは、高温高湿環境下での耐吸湿性が高く、電荷がリークしやすいため、帯電の立ち上がり性に欠けている。また、酸変性物の代わりに、疎水的なアルキル基を有する非晶性のモノマー(アルケニル無水コハク酸)を用いたポリエステル樹脂を含有する比較例2のトナーは、帯電の立ち上がり性は改善されているものの、樹脂のガラス転移温度の低下により保存性が悪化している。また、炭素数2又は3のα-オレフィン重合体の酸変性物のように疎水的なアルキル基を有する結晶性のマクロモノマーを用いたポリエステル樹脂を含有する比較例3のトナーは、一定の保存性は得られるものの、高温高湿環境下での耐吸湿性や帯電の立ち上がり性に欠けている。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、静電荷像現像法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられる静電荷像現像用トナーに好適に用いられるものである。