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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/186 20210101AFI20230220BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230220BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/109 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/152 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/153 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20230220BHJP
   H01M 50/197 20210101ALI20230220BHJP
【FI】
H01M50/186
H01M10/0569
H01M50/103
H01M50/107
H01M50/109
H01M50/15
H01M50/152
H01M50/153
H01M50/184 A
H01M50/184 D
H01M50/184 E
H01M50/193
H01M50/197
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019540949
(86)(22)【出願日】2018-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2018032646
(87)【国際公開番号】W WO2019049833
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017171007
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖 雪尋
(72)【発明者】
【氏名】村岡 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 修一
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-143776(JP,A)
【文献】特開2004-079355(JP,A)
【文献】特開2010-015784(JP,A)
【文献】特開2009-093799(JP,A)
【文献】特開2008-235081(JP,A)
【文献】特開平10-055789(JP,A)
【文献】特開2007-273480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0226982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10 - 50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を封止する封口体と、前記外装缶と前記封口体との間に配置される樹脂製のガスケットと、前記外装缶と前記ガスケットの間に介在するシール材と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記シール材は、
ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、及びイソプレンゴムから選択される1種を主成分とする第1シール材層と、
エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、及びフッ素ゴムから選択される1種を主成分とする第2シール材層と、
で構成される積層構造を有する、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第1シール材層の主成分は、ブタジエンゴムであり、
前記第2シール材層の主成分は、エチレンプロピレンジエンゴムである、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記シール材は、前記外装缶側から、前記第1シール材層、及び前記第2シール材層の順で配置された積層構造を有する、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記シール材は、前記外装缶側から、前記第2シール材層、及び前記第1シール材層の順で配置された積層構造を有する、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第1シール材層の表面のうち、前記第2シール材層が積層される面の全てが前記第2シール材によって覆われている、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記非水電解質には、少なくともフルオロエチレンカーボネートが含まれる、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池では、水分が電池内に浸入することで電池性能が劣化する。このため、高耐久で長寿命な非水電解質二次電池を提供するためには、電池ケースの密閉性を向上させることが重要である。電池ケースに有底筒状の外装缶と封口体を用いる場合、外装缶の開口部を封口体で封止することで電池ケースの密閉性が確保される。例えば、特許文献1,2には、外装缶と封口体との間に樹脂製のガスケットを配置し、さらにガスケットと外装缶との間にブタジエンゴム(BR)を主成分とするシール材を介在させて、電池ケースの密閉性を確保した非水電解質二次電池が開示されている。このようなシール構造は、従来から継承されている技術として、耐久性に関し、多くの市場実績を残している。
【0003】
一方、電池内部に存在する電解液等との化学反応によりBRが変質し、電池ケースの密閉性が損なわれるおそれがある。特に、高温に曝される電池の場合は、BRが変質し易く、密閉性の低下が問題になり易い。近年、電解液との反応性が低く耐薬品性の高いシール材として、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を主成分とするシール材が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-55789号公報
【文献】特開2011-210412号公報
【文献】国際公開第2013/176024号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シール材にEPDMを用いると、電解液との接触による密閉性の低下は抑制できるが、EPDMはBRよりも反発弾性が劣るため、例えば振動、落下等により電池に加わる衝撃でガスケット及びシール材が変形した場合に、密閉性が損なわれるおそれがある。即ち、シール材にEPDMを用いた電池は、耐衝撃性について改良の余地がある。本開示の目的は、電池ケースの密閉性が損なわれ難く、高耐久で長寿命な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、有底筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を封止する封口体と、前記外装缶と前記封口体との間に配置される樹脂製のガスケットと、前記外装缶と前記ガスケットとの間に介在するシール材と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、前記シール材は、ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、及びイソプレンゴムから選択される1種を主成分とする第1シール材層と、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、及びフッ素ゴムから選択される1種を主成分とする第2シール材層とで構成される積層構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、電池ケースの密閉性が損なわれ難く、高耐久で長寿命な非水電解質二次電池を提供できる。本開示に係る非水電解質二次電池は、振動、落下耐性及び電解液耐性に優れ、例えば長時間高温に曝されても、また落下等により電池に強い衝撃が加わっても、電池ケースの密閉性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2図2は実施形態の一例である電池ケースのシール構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池において、電池ケースの密閉性が損なわれ難く、高耐久で長寿命な製品を提供することは重要な課題である。ところで、蓄電用途のように高温で長期の耐久性が求められる場合は、電池のサイクル寿命を延ばすために、電解質塩であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を増量する、また溶媒成分としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いることが得策である。しかし、LiPF6の量が多くなり過ぎるとHF、PF等が発生し、これらがガスケットと外装缶との間に介在するシール材のブタジエンゴム(BR)の劣化を促進させるという問題がある。FECについても、分解によりHFが発生し、またFEC自体が溶剤としてBRを溶解させるため、酸とFECの両方の作用によりBRの劣化が促進される。
【0010】
電解液との反応性が低く耐薬品性の高いシール材として、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が知られているが、上述の通りEPDMはBRよりも反発弾性に劣る。このため、EPDMを主成分とするシール材を用いた場合は、振動、落下等により電池に加わる衝撃でガスケット及びシール材が変形したときに、電池ケースの密閉性が損なわれる
おそれがある。
【0011】
一般的に、非水電解質二次電池の内圧は電解液成分の揮発により外気圧よりも高く、このため、外部からの酸素、水分等の浸入が阻止される。ゆえに、シール材の劣化により電池ケースの密閉性が低下し、内圧と外気圧が同程度になれば、水分等が電池内部に浸入し易くなり、電池性能が劣化することになる。
【0012】
本発明者らは、電池ケースの密閉性が損なわれ難く、高耐久で長寿命な非水電解質二次電池を開発すべく鋭意検討した結果、上記第1シール材層と上記第2シール材層とで構成される積層構造のシール材を用いることで、かかる課題を解消することに成功した。第1シール材層の主成分にBR等の反発弾性の高い樹脂を用い、第2シール材層の主成分にEPDM等の電解液耐性の高い樹脂を用いることで、振動、落下耐性と電解液耐性を両立させることができ、例えば長期使用の蓄電用途に耐えうるシール構造とすることができる。
本開示に係る非水電解質二次電池は、FECが使用される用途においても、また落下等により電池に強い衝撃が加わっても、シール材が劣化し難く良好な電池ケースの密閉性を維持できる。
【0013】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回構造の電極体14が円筒形の電池ケース15に収容された円筒形電池を例示するが、電極体の構造は、巻回構造に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層構造であってもよい。また、電池ケースは円筒形に限定されず、角形(角形電池)、コイン形(コイン形電池)等であってもよい。
【0014】
なお、本明細書では、説明の便宜上、電池ケース15の封口体17側を「上」、外装缶16の底部側を「下」として説明する。
【0015】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底筒状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。また、非水電解質二次電池10は、外装缶16と封口体17との間に配置される樹脂製のガスケット28を備える。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。上述のように、外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。また、外装缶16とガスケット28との間には、シール材30が介在している(後述の図2参照)。外装缶16は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入れ部22を有する。溝入れ部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。また、外装缶16の上端部は、内側に折り曲げられ封口体17の周縁部に加締められている。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、図2を適宜参照しながら、非水電解質二次電池10の各構成要素、特に電池ケース15のシール構造を構成するガスケット28及びシール材30について詳説する。図2は、当該シール構造を示す断面図であって、外装缶16を加締める前の状態を示す。
【0020】
[正極]
正極は、例えば金属箔等からなる正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、カーボンブラック、アセチレンブラック等の導電材、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着材を含むことが好ましい。正極活物質としては、Co、Mn、Ni、Al等の金属元素を含有するリチウム金属複合酸化物が例示できる。
【0021】
[負極]
負極は、例えば金属箔等からなる負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とで構成される。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質、及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の結着材を含むことが好ましい。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のLiと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む酸化物などを用いることができる。
【0022】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。
【0023】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。上述のように、特に高温環境下で使用される電池の非水電解質には、FECが含まれることが好ましい。FECの含有量は、非水溶媒の体積に対して2~40体積%が好ましく、5~20体積%がより好ましい。FECの含有量が当該範囲内であれば、低温~高温環境下での使用時において良好なサイクル特性を維持し易くなる。
【0024】
FECとしては、4-フルオロエチレンカーボネート(モノフルオロエチレンカーボネート)、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5-トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5-テトラフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、4-フルオロエチレンカーボネートが特に好ましい。
【0025】
非水溶媒には、FEC以外のフッ素系溶媒、又は非フッ素系溶媒のうち少なくとも1種を併用することが好適である。FEC以外の非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等のカルボン酸エステル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの水素をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体が挙げられる。これらは、1種類を使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
上記環状カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ECが特に好ましい。上記鎖状カーボネート類の例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、DMC、EMCが特に好ましい。
【0027】
上記環状エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類の例としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0028】
好適な非水溶媒の一例としては、FECと、EC、EMC、DMCの少なくとも1種を含む非フッ素系溶媒との組み合わせが挙げられる。この場合、ECの含有量は、非水溶媒の体積に対して5~20体積%が好ましい。EMC、DMCの含有量は、非水溶媒の体積に対して、それぞれ20~50体積%が好ましい。また、非水電解質には、ビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及びこれらの変性体などの添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C1F2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8~1.8モルである。
【0030】
図2に例示するように、非水電解質二次電池10は、外装缶16とガスケット28との間に介在するシール材30を備える。シール材30は、互いに主成分が異なる、第1シール材層31と、第2シール材層32とで構成される積層構造を有する。図2に示す例では、外装缶16とガスケット28との間に2層構造のシール材30が設けられているが、シール材30は3層以上の多層構造を有していてもよい。その場合、シール材30は第3のシール材層を含んでいてもよい。
【0031】
また、非水電解質二次電池10は、封口体17とガスケット28との間に介在するシール材33を備える。図2に示す例では、シール材33は単層構造を有するが、2層以上の複層構造を有していてもよい。シール材33は、例えば第1シール材層31と、第2シール材層32とで構成されていてもよい。シール材30と比較して、シール材33には電解液が接触し難いが、シール材33にシール材30と同様の構造を適用することで、さらなる密閉性の向上が期待できる。
【0032】
シール材30,33と共に、外装缶16と封口体17との隙間を塞ぎ、電池ケース15のシール構造を構成するガスケット28は、外装缶16の開口部側端部(上端部)に挿入されるリング状の樹脂部材である。また、ガスケット28は、外装缶16と封口体17との電気的接触を防止し、絶縁性を確保する。ガスケット28は、例えばポリプロピレンを主成分とするオレフィン樹脂で構成される。
【0033】
第1シール材層31は、その構成材料を溶解又は分散した液状物を外装缶16の内面に塗布し、塗膜を乾燥させることで形成できる。同様に、第2シール材層32は、その構成材料を溶解又は分散した液状物をガスケット28の表面に塗布し、塗膜を乾燥させることで形成できる。第1シール材層31及び第2シール材層32の厚みは、特に限定されないが、好適な厚みの一例は5~50μmである。
【0034】
第1シール材層31は、振動、落下耐性を有する材料で構成されることが好ましい。第1シール材層31の構成材料としては、主鎖に炭素-炭素二重結合を有するゴム、反発弾性が高いゴム等が適している。具体的に、第1シール材層31は、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、及びイソプレンゴムから選択される1種を主成分とする。中でも、溶剤耐性、フッ酸耐性、塗布性、反発弾性等を考慮すると、第1シール材層31はBRを主成分として構成されることが好適である。
【0035】
他方、第2シール材層32は、FEC等の電解液成分、及び電解液成分の分解により発生するHF等の酸成分に対する耐性が高い材料で構成されることが好ましい。第2シール材層32の構成材料としては、主鎖中に炭素-炭素二重結合が存在しない又は少量であるゴム、極性の低いゴム等が適している。具体的に、第2シール材層32は、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、及びフッ素ゴムから選択される1種を主成分とする。中でも、溶剤耐性、フッ酸耐性、塗布性、材料コスト等を考慮すると、第2シール材層32はEPDMを主成分として構成されることが好適である。
【0036】
ここで、主成分とは、シール材層を構成する材料のうち最も含有量が多い成分を意味する。第1シール材層31の主成分がBRである場合、第1シール材層31の構成材料に占めるBRの割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。第1シール材層31は、実質的にBRのみで構成されていてもよい。また、第2シール材層32の主成分がEPDMである場合、第2シール材層32の構成材料に占めるEPDMの割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。第2シール材層32は、実質的にEPDMのみで構成されていてもよい。
【0037】
第1シール材層31及び第2シール材層32には、酸化防止剤、分散剤、熱老化防止剤、屈曲亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、カーボンブラック、アセチレンブラック等が含まれていてもよい。
【0038】
シール材30は、外装缶16側から、BR等を主成分とする第1シール材層31、EPDM等を主成分とする第2シール材層32の順で配置された積層構造を有する。つまり、外装缶16の内面に第1シール材層31が形成され、ガスケット28の表面に第2シール材層32が形成されている。第1シール材層31は、有底円筒形状の外装缶16の上端部において、外装缶16の内面(内周面)に沿って環状に形成される。第1シール材層31は、外装缶16の内面のうちガスケット28が当接する領域の広範囲に形成されることが好ましく、例えば溝入れ部22の上面から外装缶16の上端又はその近傍にわたって形成される。
【0039】
第2シール材層32は、ガスケット28の表面のうち外装缶16側に向いた面の全域に形成されることが好ましい。なお、ガスケット28の表面のうち封口体17側に向いた面にはシール材33が形成されるが、生産性等の観点から、シール材33には、例えば第2シール材層32と同じ材料が適用される。
【0040】
図2に示す例では、ガスケット28が、第1シール材層31の範囲を超える寸法を有する。そして、第1シール材層31の外装缶16と反対側に位置する面(内面)の全体に、ガスケット28に形成された第2シール材層32が密接している。このように、第1シール材層31の表面のうち、第2シール材層32が積層される面の全てが第2シール材層32によって覆われることにより、BR等を主成分とする第1シール材層31に電解液が作用し難くなり、第1シール材層31の劣化が抑制される。
【0041】
シール材30は、BR等を主成分とする反発弾性の高い第1シール材層31と、EPDM等を主成分とする電解液耐性の高い第2シール材層32との積層構造とすることで、振動、落下耐性及び電解液耐性の両方の特性に優れる。このため、シール材30を備えた非水電解質二次電池10は、FECが使用される用途においても、また落下等により電池に強い衝撃が加わっても、シール材30が劣化し難く良好な密閉性を維持できる。
【0042】
なお、シール材30は、外装缶16側から、EPDM等を主成分とする第2シール材層32、BR等を主成分とする第1シール材層31の順で配置された積層構造を有していてもよい。この場合も、図2に例示する形態と同様の効果が得られる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.5Co0.2Mn0.3で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を用いた。当該正極活物質と、アセチレンブラックと、PVdFとを、95:2:3の質量比で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる長尺の正極集電体の両面に塗布し、乾燥機で100~150℃の温度で加熱処理して塗膜を乾燥させた後、極板の厚みが150μmとなるようにロールプレス機で塗膜(正極合材層)を圧延した。そして、両面に正極合材層が形成された長尺の集電体を所定の電極サイズに切断することで正極を得た。
【0045】
[負極の作製]
負極活物質には、黒鉛を用いた。当該負極活物質と、SBRと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、96:2:2の重量比で混合し、さらに水を適量加えて負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる長尺の負極集電体の両面に塗布し、乾燥機で100~150℃の温度で加熱処理して塗膜を乾燥させた後、極板の厚みが150μmとなるようにロールプレス機で塗膜(負極合材層)を圧延した。そして、両面に負極合材層が形成された長尺の集電体を所定の電極サイズに切断することで負極を得た。
【0046】
[非水電解液の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、10:10:40:40の体積比で混合した溶媒に、1.4モル/Lの濃度になるようにLiPFを溶解させて、非水電解液を調製した。
【0047】
[電池の作製]
上記正極にアルミニウム製の正極リードを、上記負極にニッケル製の負極リードをそれぞれ取り付け、厚み16μmのポリエチレン製セパレータを介して正極及び負極を渦巻き状に巻回することにより巻回型の電極体を作製した。当該電極体を、ガスケットが当接する範囲にシール材層Aが形成された有底円筒形状の外装缶に収容し、上記非水電解液を注入した後、表面がシール材層Bで覆われたガスケット、及び封口体を用いて外装缶の開口部を封口した。これにより、外径18mm、高さ65mmの円筒形二次電池(18650型、電池容量2300mAh)を作製した。
【0048】
実施例1では、シール材層Aにブタジエンゴム(BR)を含むシール材を、シール材層Bにエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を含むシール材をそれぞれ用いて、上記二次電池を作製した。シール材層Aは、13質量部のBR、及び0.5質量部のカーボンブラックがキシレン中に分散した液状物を、外装缶の内面に塗布した後、塗膜を乾燥させることで形成した。同様に、シール材層Bは、15質量部のEPDM、及び0.7質量部のカーボンブラックがキシレン中に分散した液状物を、ガスケットの表面に塗布した後、塗膜を乾燥させることで形成した。シール材層Aの厚みは約30μm、シール材層Bの厚みは約30μmであり、シール材層Aの全体がシール材層Bによって覆われている。
【0049】
<実施例2>
シール材層AにEPDMを含むシール材を、シール材層BにBRを含むシール材をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0050】
<比較例1>
シール材層BにBRを含むシール材を用いたこと(シール材層A,Bの両方がBRを主成分とするシール材)以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0051】
<比較例2>
シール材層AにEPDMを含むシール材を用いたこと(シール材層A,Bの両方がEPDMを主成分とするシール材)以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製した。
【0052】
実施例及び比較例の各電池について、以下の方法で、高温保存試験及び落下試験を行った。評価結果は、表1に示した。
【0053】
[高温保存試験]
各電池を、2300mA-4.1V、46mAの終止条件で定電流-定電圧充電して満充電状態(電池電圧4.1V)にした後、温度60℃、湿度90%の恒温槽内で120日間放置した。その後、各電池をドライルーム内で解体し、電解液を採取した。採取した電解液にpH試験紙を浸し、色の変化からpHを測定した。外部から侵入した水分と電解液が反応するほど電解液が酸性になるため、この測定でシール構造の封止性能の優劣を判断することができる。
【0054】
[落下試験]
1150mA-3Vの条件で定電流放電した各電池を、1.65mの高さから落下させる試験をおこなった。落下は、封口体が上向きの状態、下向きの状態、及び横向きの状態としてそれぞれ落下させ、これを1セットとし、漏液が発生するまでのセット数を比較した。漏液の有無は目視で判断した。なお、表1に示す回数は、比較例1の電池の漏液発生セット数を100としたときの相対値である。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、比較例1の電池では、落下試験の結果は良好であったが、長期高温保存後において電解液が強酸性を示した。このことから、長期間の高温高湿環境下で、BRがFEC、HF等と反応してシール性能が低下し、電池内部に相当量の水分が浸入したと想定される。また、比較例2の電池では、長期高温保存後の電解液のpHが5で弱酸性を示した。このことから、水分の浸入は比較例1の電池よりもかなり抑えられていると考えられ、EPDMがBRよりもFEC、HF等に耐性があることが分かる。一方、落下耐性を示す指標は62で比較例1の電池よりも悪化した。これは、EPDMの反発弾性がBRよりも低いため、瞬間的な変形に追随できなかったためと考えられる。
【0057】
これに対し、実施例の電池はいずれも、長期高温保存後の電解液のpHは比較例2の電池と同等の5であった。さらに、落下耐性を示す指標は、いずれも100以上であった。つまり、BRとEPDMを積層したシール構造を採用することで、落下耐性と電解液耐性を高い次元で両立できることが分かった。
【0058】
なお、実施例のシール材の構成は、FECを含む電解液を用いた場合に効果が顕著であるが、FECを含まない電解液を用いた場合であっても、シール構造の電池ケースの密閉性が損なわれ難く、電池の長寿命化に寄与する。また、BRの代わりに、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、又はイソプレンゴムを用いた場合、或いはEPDMの代わりに、エチレンプロピレンゴム、又はフッ素ゴムを用いた場合も、上記実施例と同様の効果が期待される。
【符号の説明】
【0059】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入れ部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30,33 シール材、31 第1シール材層、32 第2シール材層
図1
図2