(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】結晶性生体分子を対象にする方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/30 20060101AFI20230220BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C07K1/30
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2019550646
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 US2018022387
(87)【国際公開番号】W WO2018170098
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-09
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】シャーネズ, リズワン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルー, ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】カポリニ, マーク エー.
(72)【発明者】
【氏名】ケリー, ロン シー.
(72)【発明者】
【氏名】バート, ニール
(72)【発明者】
【氏名】ニコルソン, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン, トゥインクル アール.
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-536198(JP,A)
【文献】特表2011-528225(JP,A)
【文献】特表2015-517306(JP,A)
【文献】Biotechnology Progress,2016年10月06日,Vol.32, No.6,p.1520-1530
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性
抗体を含む組成物を調製する方法であって
、前記方法が、
a)注入口及び排出口を含む回転チャンバーにおいて結晶性
抗体の流動床を形成させ、実質的に水平な軸の周囲で前記チャンバーを回転させて、前記チャンバー中で遠心力(F
centrifugal)を生成させることによって前記流動床が生成され、前記F
centrifugalの方向とは逆方向に、及びF
centrifugalを相殺する力(F
FR1)を有する第1の流速(FR1)で、前記注入口を通じて第1の溶液の第1の流れを流動させ、結晶化
抗体の流動床の形成を実質的に維持しながら前記チャンバーから前記第1の溶液を回収することと;
b)結晶化
抗体の流動床の形成を実質的に維持しながら前記第1の溶液の第1の流れを置き換えるために第2の溶液の第2の流れを流動させることと;
c)F
centrifugal未満である力(F
FR2)を有する第2の流速(FR2)にFR1を変化させることによって、又はF
FR1よりも大きいレベルまでF
centrifugalを上昇させるために前記チャンバーの回転速度を上昇させることによって、前記チャンバーの領域内で前記結晶化
抗体を濃縮することと;
d)前記チャンバーから前記結晶性
抗体を除去するためにF
centrifugalの方向に対して平行である方向に、前記排出口を通じて前記チャンバーに第2の流れを流動させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
少なくともb)中でF
centrifugalが500g~3000gである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
b)中、前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が50~500mLであるか、または前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が100~300mLである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
チャンバーあたりの前記第1の溶液の体積の数がb)中で2以上である;
FR1がb)中に50mL/min~150mL/minであるか、またはFR1が70mL/min~120mL/minである;
前記第1の溶液が高浸透圧性結晶化緩衝液である;および
前記第2の溶液が等張性処方緩衝液である
のうちの少なくとも1つである、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記F
centrifugalがc)中に1000gである;
前記第2の溶液の第2の流れの供給体積がb)中に100~500mLであるか、または前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が150~350mLである;
チャンバーあたりの前記第1の溶液の体積の数がc)中に1又は2である;
FR2がc)中に10mL/min~50mL/minまたは20mL/min~40mL/minである;および
前記結晶性
抗体の濃度が少なくとも2倍上昇する
のうちの少なくとも1つである、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、向流勾配遠心分離(CFGC)系で行われる、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記装置は、第1のポンプおよびチャンバー蠕動ポンプを含む、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
FR1が前記第1のポンプにより調節され、前記第1のポンプがb)の後に10mL/min~100mL/minに設定されるか、または前記第1のポンプが15mL/min~65mL/minに設定される、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記回転チャンバーが前記チャンバー蠕動ポンプに連結される、請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記チャンバー蠕動ポンプが、前記第1のポンプ及びF
centrifugalと同じ方向に送り込むように設定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記チャンバー蠕動ポンプがc)の後に50mL/min~100mL/minに設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記チャンバー蠕動ポンプが75mL/minに設定され、前記第1のポンプが50mL/minに設定され、10gを下回るまでF
centrifugalを低下させる、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が複数の回転チャンバーを含む装置中で行われる、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
a)、b)、c)およびd)が複数のチャンバー中で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
結晶性
抗体が前記装置の別のチャンバーから除去されるときとは別個の時間に、結晶性
抗体が前記装置のチャンバーから除去される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記結晶性
抗体が
モノクローナル抗体である、請求項1~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、患者への投与に適切である、請求項1~16の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、各出願の内容が参照により本明細書中に組み込まれる、2017年3月14日に提出された米国特許仮出願第62/471,358号明細書及び2017年3月24日に提出された米国特許仮出願第62/476,359号明細書に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、細胞、細菌、ウイルス又は毒素上の別個の抗原を特異的に標的とする能力ゆえに副作用が限定的であることを特徴とする強力な治療剤の一角をなす。1986年に、最初の治療用モノクローナル抗体、Orthoclone OKT3が市場に導入された。それ以来、このクラスの生物製剤が顕著に増加してきた。2014年後半、47種類のモノクローナル抗体製品が、癌及び炎症、心血管系、呼吸器及び感染性疾患を含む様々な疾患の処置について米国又は欧州で承認を受けた。1年に約4種類の製品という現在の承認速度を考えると、2020年までにおよそ70種類のモノクローナル抗体製品が市販されるであろうと推測される。(非特許文献1)を参照。
【0003】
米国での抗体市場の見積もりは$100億超まで増加すると予想されることが報告されているものの、このような治療薬の生産に制限がないわけではない。治療用抗体の1つの欠点は、要求される高純度レベルを達成するための下流の処理のコストである。プロテインAクロマトグラフィーを介して90%を超える純度レベルを達成し得る一方で、吸着媒体のコストは大きな欠点である。治療用抗体の別の制限要素は、送達及び保管中に遭遇する化学的及び物理的変性に対する抗体構造の感受性である。研究者らは抗体製剤の安定性を改善するためのアプローチを開発してきたものの、これらの方法のうち一部は、タンパク質活性の喪失及び/又はタンパク質安定化担体もしくは処方物のさらなる支出によるコスト上昇につながる。
【0004】
タンパク質結晶化は、原理上、タンパク質精製の効果的で拡張可能な方法として認識されている。結晶性タンパク質は、それらのタンパク質溶液対応物と比較して安定性がより高くなり、したがって有効期間がより長くなる。結晶化を通じたタンパク質精製は、オボアルブミン及びリパーゼを含め、試験タンパク質産物によって実行可能であることが示されている。インスリンは、工業規模で結晶化される唯一の治療用タンパク質である。抗体の結晶化は、それらの相挙動での複雑性ゆえに、まだ日常的なものではない。沈殿、相分離及びゲル様相の形成が起こり得、「平衡には程遠い系を動力学的に捕捉し、その結果、結晶性タンパク質の収率を低下させるか又は結晶形成を完全に阻害する」。(非特許文献2)を参照。接線流及び交液流(alternating flow)ろ過などの従来の精製技術は、膜ファウリング(すなわちフィルター媒体の孔への結晶の目詰まり)ゆえに、タンパク質結晶化精製には適切ではない。また、フィルターを通じて流れを維持するのに必要な高い圧力は、結晶の過剰なせん断、破壊及び圧縮につながり得る。タンパク質が抗体である場合、このようなタンパク質の結晶は粘着性で脆いため、これらの問題は悪化する。
【0005】
したがって、結晶性抗体を含む組成物を調製する有効な方法が当技術分野で必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ecker et al.,MAbs 7(1):9-14(2015)
【文献】Zang et al.,PLOS One 6(9):e25282(2011)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
抗体又は免疫グロブリン、その抗原結合断片などを含むが限定されない、結晶性生体分子、例えば抗原結合生体分子を含む組成物を調製する方法が本明細書中で開示される。代表的な実施形態において、本方法は、結晶性生体分子が存在する溶液(例えば緩衝液)を交換するために、及び/又は結晶性生体分子を含む溶液(例えば緩衝液)を濃縮するために、向流勾配遠心分離(CFGC)を使用することを含む。開示される方法は、この段階が低せん断、密閉系及び無菌的処理条件下で行われるため、有利である。多段階を同じ装置で行い、それによって異なる装置への移動時の生成物の損失が阻止される。本明細書中に記載の方法全体を通して低せん断環境が維持されるので、結晶性生体分子は互いから分離されたままであり、それにより凝集体の形成が最小限に抑えられる。開示される方法は、充填などの下流処理の操作に容易に送り込まれ得る均一な結晶スラリーの獲得につながる。
【0008】
代表的な実施形態において、結晶性生体分子を含む組成物を調製する方法は、注入口及び排出口を含む回転チャンバーにおいて結晶性生体分子の流動床を形成させることを含む。特定の理論に縛られるものではないが、そのチャンバーにおいて遠心力(Fcentrifugal)を生成させるために実質的に水平な軸の周囲でチャンバーを回転させ、Fcentrifugalの方向とは逆の方向に、Fcentrifugalを相殺する力(FFR1)を有する第1の流速(FR1)で、注入口を通じて第1の溶液の第1の流れを流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながらチャンバーから第1の溶液を回収することによって、流動床が生成されると考えられる。
【0009】
代表的な実施形態において、本方法は、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、第1の溶液の第1の流れを第2の溶液の第2の流れで置き換えることも含む。代表的な態様において、本方法は、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、第1の溶液の第1の流れを置き換えるために第2の溶液の第2の流れを流動させることを含む。代表的な態様において、本方法は、第2の流れの力がFcentrifugalを相殺するように、Fcentrifugalの方向とは逆方向に、FFR1と等しい力(F)を有するFR1と同等の流速(FR)で、注入口を通じて第2の溶液の第2の流れを流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、チャンバーから第2の溶液を回収することを含む。
【0010】
代表的な実施形態において、本方法は、あるいは又はさらに、Fcentrifugal未満である力(FFR2)を有する第2の流速(FR2)までFR1を変化させることによって、又はFFR1を超えるレベルまでFcentrifugalを上昇させるためにチャンバーの回転速度を上昇させることによって、チャンバーの領域内で結晶化生体分子を濃縮することを含む。
【0011】
代表的な態様において、本方法は、例えばFcentrifugalの方向と平行である方向に、排出口を通じてチャンバーに第2の流れを流動させることによって、チャンバーから結晶性生体分子を除去することを含む。
【0012】
試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出する方法も本明細書中で開示される。代表的な実施形態において、本方法は、試料の複数の1H NMR Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)スペクトルを得ること及び試料の13C NMR交差分極(CP)スペクトルを得ることを含む。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
結晶性生体分子を含む組成物を調製する方法であって、
a)注入口及び排出口を含む回転チャンバーにおいて結晶性生体分子の流動床を形成させ、実質的に水平な軸の周囲で前記チャンバーを回転させて、前記チャンバー中で遠心力(F
centrifugal
)を生成させることによって前記流動床が生成され、前記F
centrifugal
の方向とは逆方向に、及びF
centrifugal
を相殺する力(F
FR1
)を有する第1の流速(FR1)で、前記注入口を通じて第1の溶液の第1の流れを流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら前記チャンバーから前記第1の溶液を回収することと;
b)段階(i)、(ii)又は(iii):
i.結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら前記第1の溶液の第1の流れを置き換えるために第2の溶液の第2の流れを流動させること;
ii.F
centrifugal
未満である力(F
FR2
)を有する第2の流速(FR2)にFR1を変化させることによって、又はF
FR1
よりも大きいレベルまでF
centrifugal
を上昇させるために前記チャンバーの回転速度を上昇させることによって、前記チャンバーの領域内で前記結晶化生体分子を濃縮すること;
iii.段階(i)及び段階(ii)の組み合わせ
を実施することと;
c)前記チャンバーから前記結晶性生体分子を除去するためにF
centrifugal
の方向に対して平行である方向に、前記排出口を通じて前記チャンバーに第2の流れを流動させることと、
を含む、方法。
(項目2)
少なくとも段階(i)中でF
centrifugal
が1000gである、項目1に記載の方法。
(項目3)
段階(i)中、前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が約50~約500mLである、項目1又は2に記載の方法。
(項目4)
前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が約100~約300mLである、項目3に記載の方法。
(項目5)
チャンバーあたりの前記第1の溶液の体積の数が段階(i)中で2以上である、項目1~4の何れか1項に記載の方法。
(項目6)
FR1が段階(i)中に約50mL/min~約150mL/minである、項目1~5の何れか1項に記載の方法。
(項目7)
FR1が約70mL/min~約120mL/minである、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記第1の溶液が高浸透圧性結晶化緩衝液である、項目1~7の何れか1項に記載の方法。
(項目9)
前記第2の溶液が等張性処方緩衝液である、項目1~8の何れか1項に記載の方法。
(項目10)
前記F
centrifugal
が段階(ii)中に1000gである、項目1~9の何れか1項に記載の方法。
(項目11)
前記第2の溶液の第2の流れの供給体積が段階(ii)中に約100~約500mLである、項目1~10の何れか1項に記載の方法。
(項目12)
前記第2の溶液の前記第2の流れの供給体積が約150~約350mLである、項目11に記載の方法。
(項目13)
チャンバーあたりの前記第1の溶液の体積の数が段階(ii)中に1又は2である、項目1~12の何れか1項に記載の方法。
(項目14)
FR2が段階(ii)中に約10mL/min~約50mL/minである、項目1~13の何れか1項に記載の方法。
(項目15)
FR2が約20mL/min~約40mL/minである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記結晶性生体分子の濃度が少なくとも2倍上昇する、項目1~15の何れか1項に記載の方法。
(項目17)
前記結晶性生体分子の濃度が少なくとも3倍上昇する、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記結晶性生体分子の濃度が少なくとも4倍上昇する、項目17に記載の方法。
(項目19)
約5g及び約20gのレベルまでF
centrifugal
を低下させることを含む、項目1~18の何れか1項に記載の方法。
(項目20)
10gを下回るまでF
centrifugal
を低下させる、項目19に記載の方法。
(項目21)
FR1が第1のポンプにより調節され、前記第1のポンプが段階(b)の後に約10mL/min~約100mL/minに設定される、項目1~20の何れか1項に記載の方法。
(項目22)
前記第1のポンプが約15mL/min~約65mL/minに設定される、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記回転チャンバーがチャンバー蠕動ポンプに連結される、項目1~22の何れか1項に記載の方法。
(項目24)
前記チャンバー蠕動ポンプが、前記第1のポンプ及びF
centrifugal
と同じ方向に送り込むように設定される、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記チャンバー蠕動ポンプが段階(b)の後に約50mL/min~約100mL/minに設定される、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記チャンバー蠕動ポンプが約75mL/minに設定される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記チャンバー蠕動ポンプが約75mL/minに設定され、前記第1のポンプが約50mL/minに設定され、10gを下回るまでF
centrifugal
を低下させる、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記方法が複数の回転チャンバーを含む装置中で行われる、項目1~27の何れか1項に記載の方法。
(項目29)
前記装置が、少なくとも2個、少なくとも4個又は少なくとも6個の回転チャンバーを含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記装置が、4個又は6個のチャンバーを含む、項目29に記載の方法。
(項目31)
段階(a)~(c)が複数のチャンバー中で行われる、項目30に記載の方法。
(項目32)
結晶性生体分子が前記装置の別のチャンバーから除去されるときとは別個の時間に、結晶性生体分子が前記装置のチャンバーから除去される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記結晶性生体分子がタンパク質であるか又は1つ以上のポリペプチド鎖を含む、項目1~32の何れか1項に記載の方法。
(項目34)
前記結晶性タンパク質が免疫グロブリン又はそれらの抗原結合断片である、項目33に記載の方法。
(項目35)
試料中で結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出する方法であって、
a)前記試料の複数の
1
H NMR Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)スペクトルを得ることと、
b)前記試料の
13
C NMR交差分極(CP)スペクトルを得ることと、
を含む、方法。
(項目36)
前記方法の段階(a)中に約250~約1000MHzの
1
H共振周波数を操作することを含む、項目35に記載の方法。
(項目37)
約250~約350Kで温度を維持することを含む、項目35又は36に記載の方法。
(項目38)
マジック角回転(MAS)プローブを操作することを含む、項目35~37の何れか1項に記載の方法。
(項目39)
前記MASプローブが少なくとも2個のRFチャネルを含む、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記MASプローブが
1
H及び
13
Cに対して調整される、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記MASプローブが約2kHz~約8kHzの回転周波数で操作される、項目38~40の何れか1項に記載の方法。
(項目42)
90°パルスを使用することを含む、項目35~41の何れか1項に記載の方法。
(項目43)
約2.5μsの
1
H 90°パルスを使用することを含む、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記
1
H CPMGスペクトルが、約2μs~約20μs長の約5~約100パイパルスで得られた、項目35~43の何れか1項に記載の方法。
(項目45)
前記20パイパルスのそれぞれが約10μs~約1ms離された、項目44に記載の方法。
(項目46)
CPMGパルスの全時間が約500μs~約50msである、項目45に記載の方法。
(項目47)
14kHzまでの周波数で回転させながら複数の
1
H CPMGスペクトルを得ることを含む、項目35~46の何れか1項に記載の方法。
(項目48)
測定中の前記
13
C CPの接触時間が約100μs~約10msである、項目35~47の何れか1項に記載の方法。
(項目49)
前記測定が、約20kHz~約100kHzの
13
CでのRFスピンロックパルスを含む、項目48に記載の方法。
(項目50)
1
Hでのランプパルスが一致する、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記試料中の生体分子の含量を定量することを含む、項目35~50の何れか1項に記載の方法。
(項目52)
前記結晶性生体分子が、非晶質生体分子とは異なる分光学的特徴を示す、項目35~51の何れか1項に記載の方法。
(項目53)
前記結晶性生体分子が、非晶質生体分子よりも高い分子運動性の分光学的特徴を示す、項目35~52の何れか1項に記載の方法。
(項目54)
前記結晶性生体分子がバイ-レフリガント(bi-refringant)である、項目35~53の何れか1項に記載の方法。
(項目55)
前記結晶性生体分子が回折しない、項目35~54の何れか1項に記載の方法。
(項目56)
前記生体分子が、タンパク質を含むか又は1つ以上のポリペプチド鎖を含む、項目35~55の何れか1項に記載の方法。
(項目57)
前記タンパク質が抗体又はその断片である、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記試料中の前記生体分子が1つ以上のグリカンを含む、項目35~57の何れか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、kSep(登録商標)及び従来からの遠心分離に対する排出口pHプロファイルのグラフである。
【
図2】
図2は、kSep(登録商標)装置を用いたタンパク質結晶化工程の流れ図である。
【
図3】
図3は、kSep(登録商標)Concentrate-Wash-Harvest(CWH)グラフィカルユーザーインターフェースの像である。
【
図4】
図4は、回収評価のためのkSep(登録商標)系パイプ及び計装図/図面である。
【
図5】
図5は、結晶性(赤)対非晶質(青)材料の
1H NMR CPMGスペクトルである。
【
図6】
図6は、定量化の可能性を示す、100%~0%の結晶性材料の様々な調製の
1H NMR CPMGスペクトルである。調製物A、B及びCが含有する結晶量は減少している。「5%非晶質」は、5%非晶質材料とともに結晶を含有する調製物であり、「5%結晶」は、5%結晶とともに非晶質材料を含有する調製物である。
【
図7】
図7は、
1H NMR CPMGスペクトル対温度であり、ピークの強度が、運動性上昇を示す温度とともに上昇することが示される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
結晶性生体分子を対象とする方法が本明細書中で開示される。結晶性生体分子を含む組成物を調製するための方法が提供される。代表的な実施形態において、本方法は、注入口及び排出口を含む回転チャンバーにおいて結晶性生体分子の流動床を形成させることを含み、この流動床は、そのチャンバーにおいて遠心力(Fcentrifugal)を生成させるために実質的に水平な軸周辺でチャンバーを回転させ、Fcentrifugalの方向と逆方向に、及びFcentrifugalを相殺する力(FFR1)を有する第1の流速(FR1)で、注入口を通じて第1の溶液の第1の流れを流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながらチャンバーから第1の溶液を回収することによって生成される。
【0015】
代表的な実施形態において、本方法は、緩衝液交換段階、濃縮段階又は緩衝液交換段階及び濃縮段階の両方を含む。各段階のさらなる記載は以下で提供する。
【0016】
緩衝液交換段階
代表的な実施形態において、本方法は緩衝液交換段階を含み、代表的な態様において、このような段階は、結晶性生体分子の流動床を維持しながら行われる。代表的な態様において、本方法は、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、第1の溶液の第1の流れを第2の溶液の第2の流れで置き換えることを含む。代表的な態様において、本方法は、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、第1の溶液の第1の流れを置き換えるために第2の溶液の第2の流れを流動させることを含む。
【0017】
代表的な態様において、本方法は、第2の流れの力がFcentrifugalを相殺するように、Fcentrifugalの方向とは逆方向に、及びFFR1と等しい力(F)を有するFR1と同等の流速(FR)で、注入口を通じて第2の流れ又は第2の溶液を流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながらチャンバーから第2の溶液を回収することを含む。代表的な態様において、Fcentrifugalは、流動床において結晶性生体分子を維持するのに適切である。ある一定の態様において、Fcentrifugalは約500g~約3000gの範囲である。ある一定の態様において、Fcentrifugalは約750g~約1250gの範囲である。ある一定の態様において、Fcentrifugalはこの段階中、約1000g(±100g)である。
【0018】
第2の溶液の第2の流れの供給体積は、流動床において結晶性生体分子を維持するのに十分である。代表的な態様において、第2の溶液の第2の流れの供給体積は約50~500mLである。代表的な態様において、第2の溶液の第2の流れの供給体積は、約100~300mLである。代表的な態様において、チャンバーあたりの第1の溶液の体積の数は2以上である。代表的な態様において、FR1は、流動床において結晶性分子を維持するのに十分である。代表的な態様において、FR1は約50mL/min~約150mL/minである。代表的な態様において、FR1は約70mL/min~約120mL/minである。
【0019】
有利に、本方法は特定のタイプの緩衝液に限定されないが、ただし、緩衝液は結晶性生体分子の完全性に負の影響を与えず、例えば緩衝液は結晶性生体分子のサイズ、形状及び/又は生成物の品質に負の影響を与えないものとする。この点において、第1の溶液及び第2の溶液のそれぞれは、何れかのpHを特徴とする緩衝液又は溶液の何れかのタイプであり得る。代表的な態様において、溶液のpHは、生理的pH、例えば6.5~7.5である。代表的な態様において、溶液のpHは、少なくとも5、少なくとも5.5、少なくとも6、少なくとも6.5、少なくとも7、少なくとも7.5、少なくとも8、少なくとも8.5、少なくとも9、少なくとも9.5、少なくとも10又は少なくとも10.5、pH11以下であり得る。代表的な態様において、第1の溶液及び第2の溶液の一方又は両方が、独立に緩衝剤を含む。代表的な態様において、緩衝剤は、リン酸緩衝液(例えばPBS)、トリエタノールアミン、Tris、ビシン、TAPS、トリシン、HEPES、TES、MOPS、PIPES、カコジル酸、MES、酢酸、クエン酸、コハク酸、ヒスチジン又は他の薬学的に許容可能な緩衝液からなる群から選択される。
【0020】
代表的な態様において、第1の溶液は高浸透圧性タンパク質結晶化緩衝液である。代表的な態様において、第2の溶液は、哺乳動物、例えばヒトへの投与に安全である処方緩衝液である。代表的な態様において、第2の溶液は、生理的pHを有し、無菌である。
【0021】
濃縮段階
さらなる又は代替的な実施形態において、本方法は、チャンバーの領域内で結晶化生体分子を濃縮することを含む。代表的な態様において、本方法は、例えば本明細書中に記載の段階の何れかなど、緩衝液交換段階後に結晶化生体分子を濃縮することを含む。代表的な態様において、濃縮段階は、(i)FR1をFcentrifugalよりも弱い力(FFR2)を有する第2の流速(FR2)に変化させるか、又は(ii)FFR1よりも高いレベルにFcentrifugalを上昇させるためにチャンバーの回転速度を上昇させるか又は(iii)(i)及び(ii)の両方を行うかの何れかによって行い得る。代表的な態様において、Fcentrifugalは少なくともこの段階中、1000gである。代表的な態様において、第2の溶液の第2の流れの供給体積は約100~500mLである。代表的な態様において、第2の溶液の第2の流れの供給体積は約150mL~約350mL、例えば約150mL、約200mL、約250mL、約300mL又は約350mLである。代表的な態様において、チャンバーあたりの第1の溶液の体積の数は1である。代表的な態様において、FR2は約10mL/min~約50mL/minである。代表的な態様において、FR2は約60mL/min未満である。代表的な態様において、FR2は約10mL/min~約50mL/minである。代表的な態様において、FR2は約20mL/min~約40mL/minである。代表的な態様において、FR2は約20mL/min、約25mL/min、約30mL/min、約35mL/min又は約40mL/minである。
【0022】
代表的な態様において、濃縮段階後、結晶性生体分子の濃度は少なくとも2倍、少なくとも3倍又は少なくとも4倍上昇する。
【0023】
回収段階
代表的な態様において、本方法は、結晶性生体分子をチャンバーから除去することを含む。代表的な態様において、本方法は、チャンバーの領域内で結晶性生体分子を濃縮した後に結晶性生体分子をチャンバーから除去することを含む。代表的な態様において、本方法は、充填結晶懸濁液を破壊することなく、及び/又は充填結晶懸濁液内で空洞形成を生じさせることなく、結晶性生体分子の濃縮懸濁液をチャンバーからゆっくりと除去することを含む。充填結晶懸濁液内での空洞形成は、濃度プロファイルを破壊し、濃縮結晶懸濁液を横切る非均一濃度勾配を生じさせるので、望ましくない。
【0024】
代表的な態様において、本方法は、チャンバーから結晶性生体分子を除去するためにFcentrifugalの方向と平行である方向に排出口を通じてチャンバーに第2の流れを流動させることを含む。
【0025】
代表的な態様において、本方法は、約5g~約20gのレベルに、又は約5g~約15gのレベルにFcentrifugalを低下させることを含む。代表的な態様において、Fcentrifugalを約10g未満、例えば約8gに低下させる。
【0026】
代表的な態様において、第1のポンプによってFR1を調節し、緩衝液交換及び/又は濃縮段階後に第1のポンプを約10mL/min~約100mL/minに設定する。代表的な態様において、FR1を第1のポンプによって調節し、第1のポンプを約75mL/min未満に設定する。代表的な態様において、第1のポンプによってFR1を調節し、緩衝液交換及び/又は濃縮段階後に第1のポンプを約15mL/min~約65mL/minに設定する。代表的な態様において、第1のポンプを約45mL/min~約65mL/min、任意選択により約50mL/minに設定する。
【0027】
代表的な態様において、回転チャンバーをチャンバー蠕動ポンプに接続する。代表的な例において、チャンバー蠕動ポンプは、第1のポンプ及びFcentrifugalと同じ方向に送り込む。特定の理論に縛られるものではないが、第1のポンプは、チャンバーから材料を吸引する「引く」機構として作用し、一方でチャンバー蠕動ポンプは、生体分子の空洞形成がないことを確実にするための「押す」機構として作用する。代表的な態様において、緩衝液交換及び/又は濃縮段階後にチャンバー蠕動ポンプを約50mL/min~約150mL/minに設定する。代表的な態様において、チャンバー蠕動ポンプを100mL/min未満に設定する。いくつかの実施形態において、チャンバー蠕動ポンプを約60mL/min~約90mL/minに設定する。代表的な例において、チャンバー蠕動ポンプを約75mL/minに設定し、第1のポンプを約50mL/minに設定し、Fcentrifugalを10g未満、任意選択により8gに低下させる。
【0028】
CFGC装置
代表的な態様において、開示される方法は、向流勾配遠心分離(CFGC)系で行われる。代表的な態様において、装置は複数の回転チャンバーを含む。代表的な態様において、装置は、少なくとも2個、少なくとも4個又は少なくとも6個の回転チャンバーを含む。代表的な態様において、装置は、4個又は6個のチャンバーを含む。代表的な実施形態において、本方法は、複数の回転チャンバーを含む装置において行われ、各チャンバーを装置の他のチャンバーとともに同時に操作してもよいし、又はそれのみで操作してもよい。代表的な態様において、開示される方法の段階は複数のチャンバーにおいて行われる。代表的な態様において、開示される方法の段階は、2個、3個又は4個のチャンバー中で行われる。代表的な態様において、開示される方法の段階は、5個又は6個のチャンバー中で行われる。代表的な態様において、開示される方法の段階は、約6個を超える、約10個を超える、約20個を超えるチャンバー中で行われる。
【0029】
代表的な態様において、装置はkSep(登録商標)システムである。代表的な態様において、装置はkSep(登録商標)400であり、これは4個の個別のチャンバーを有し、チャンバーはそれぞれ限度容量が100mLである。代表的な態様において、装置はkSep(登録商標)6000Sであり、これは6個の個別のチャンバーを有し、チャンバーはそれぞれ限度容量が1000mLである。kSep(登録商標)6000Sの最大流速は720L/hrである。
【0030】
代表的な態様において、開示される方法が本装置の複数のチャンバー中で行われる場合、一度に1個ずつチャンバーから結晶性生体分子が除去される。例えば結晶性生体分子が逐次的に各チャンバーから除去される。このように、この装置の1個のチャンバーからの結晶性生体分子の除去は、結晶性生体分子がこの装置の別のチャンバーから除去されるときとは別の時間に行われる。特定の理論に縛られるものではないが、一度に1個のチャンバーから結晶性生体分子を除去することによって、結晶性生体分子の空洞形成の機会が減少すると考えられる。
【0031】
代表的な実施形態
代表的な態様において、結晶性生体分子を含む組成物を調製する方法は、(a)注入口及び排出口を含む回転チャンバーにおいて結晶性生体分子の流動床を形成させ、このチャンバー中で遠心力(Fcentrifugal)を生じさせるために実質的に水平な軸の周囲でチャンバーを回転させ、Fcentrifugalの方向とは逆の方向に、及びFcentrifugalを相殺する力(FFR1)を有する第1の流速(FR1)で、注入口を通じて第1の溶液の第1の流れを流動させ、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら、チャンバーから第1の溶液を回収することによってこの流動床が生成されること、(b)段階(i)、段階(ii)又は段階(iii)を行い、段階(i)が、結晶化生体分子の流動床の形成を実質的に維持しながら第1の溶液の第1の流れを置き換えるために第2の溶液の第2の流れを流動させることであり、段階(ii)が、Fcentrifugal未満である力(FFR2)を有する第2の流速(FR2)にFR1を変化させることによって、又はFFR1より高いレベルにFcentrifugalを上昇させるためにチャンバーの回転速度を上昇させることによって、チャンバーの領域内で結晶化生体分子を濃縮することであり、段階(iii)は、段階(i)及び段階(ii)の組み合わせであること、及び(c)結晶性生体分子をチャンバーから除去することを含む。代表的な態様において、チャンバーから結晶性生体分子を除去するためにFcentrifugalの方向と平行である方向に排出口を通じてチャンバーに第2の流れを流動させることによって結晶性生体分子をチャンバーから除去する。
【0032】
さらなる段階
本明細書中で開示される方法は、さらなる段階を含み得る。例えば、本方法は、組み換えタンパク質を産生し、精製し、処方することに関与する1つ以上の上流段階又は下流段階を含み得る。代表的な実施形態において、本方法は、組み換えタンパク質(例えば組み換え抗体)を発現する宿主細胞を作製するための段階を含む。宿主細胞は、原核宿主細胞、例えばE.コリ(E.coli)又はバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)であり得るか、又は宿主細胞は、真核、例えば酵母細胞、糸状菌細胞、原生動物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞(例えばCHO細胞)であり得る。このような宿主細胞は当技術分野で記載されている。例えばFrenzel et al.,Front Immunol 4:217(2013)を参照。例えば、本方法は、一部の例において、組み換えタンパク質又はそのポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含むベクターを宿主細胞に導入することを含む。
【0033】
代表的な実施形態において、本方法は、組み換えタンパク質(例えば組み換え抗体)を発現する宿主細胞を培養するための段階を含む。このような段階は当技術分野で公知である。例えばLi et al.,MAbs 2(5):466-477(2010)を参照。
【0034】
代表的な実施形態において、本方法は、培養物から組み換えタンパク質(例えば組み換え抗体)を精製するための段階を含む。代表的な態様において、本方法は、1つ以上のクロマトグラフィー段階、例えばアフィニティークロマトグラフィー(例えばプロテインAアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む。代表的な態様において、本方法は、組み換えタンパク質を含む溶液から結晶性生体分子を生成させるための段階を含む。代表的な態様において、本方法は、その全体において参照により組み込まれる国際公開第2016010927号パンフレット、題名「CRYSTALLINE ANTIBODY FORMULATIONS」に記載のものを含め、結晶性物質を調製するための段階を含む。本方法は、いくつかの態様において、溶液状態又は結晶化に影響を与える要因、例えば溶媒、有機溶媒又は添加物の蒸発速度、適切な共溶質及び緩衝液の存在、pH及び温度を調節することを含み得る。タンパク質の結晶化に影響を与える様々な要因の包括的な概説は、McPherson(1985,Methods Enzymol 114:112-120)により公開されている。指針として、結晶化されているポリペプチドの包括的なリストを含むMcPherson及びGilliland(1988,J Crystal Growth,90:51-59)の教示ならびにそれらが結晶化された条件が利用可能である。さらに、結晶及び結晶化レシピの一覧ならびに溶解タンパク質構造の座標のリポジトリは、Brookhaven National LaboratoryのProtein Data Bank(www.rcsb.org/pdb/;Bernstein et al.,1977,J Mol Biol 112:535-542)により維持されている。一般に、適切な水性溶媒又は塩もしくは有機溶媒もしくは添加物などの適切な結晶化剤を含有する水性溶媒(まとめて「結晶化試薬」と呼ぶ)と結晶化させようとするポリペプチド(すなわち抗体)を組み合わせることにより結晶を生成させる。溶媒をポリペプチドと合わせ、結晶化の誘導に適切であり、ポリペプチド活性及び安定性の維持にとって許容可能であることが実験的に決定された温度で撹拌し得る。結晶化のための実験室規模の方法としては、ハンギングドロップ蒸気拡散、シッティングドロップ蒸気拡散、微小透析、マイクロバッチ、オイル下(under oil)、ゲル中(in gel)及びサンドイッチドロップ法が挙げられる。溶媒は、任意選択により、共結晶化添加物、例えば沈殿剤、脂肪酸、還元剤、グリセロール、スルホベタイン、界面活性物質、ポリオール、二価陽イオン、補助因子又はカオトロープ及びアミノ酸ならびにpHを調節するための緩衝物種が挙げられ得る。「共結晶化添加物」としては、ポリペプチドの結晶化を促進する化合物及び/又はタンパク質を安定化させ、変性から保護する化合物が挙げられる。共溶質の例としては、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化カドミウム、硫酸カドミウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化セシウム、塩化コバルト、CH3(CH2)15N(CH3)3Br.-(CTAB)、クエン酸二アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、リン酸二カリウム、リン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、DL-リンゴ酸、塩化第二鉄、L-プロリン、酢酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ニッケル、酢酸カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、フッ化カリウム、ギ酸カリウム、硝酸カリウム、リン酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、硫酸カリウム、チオシアン酸カリウム、酢酸ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、コハク酸、タクシメート(tacsimate)、クエン酸三アンモニウム、クエン酸三リチウム、トリメチルアミンN-オキシド、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛及び共溶質を供給するように機能する他の化合物が挙げられる。「結晶化」は、ポリペプチドの結晶化を促進するために所望の範囲で溶液のpHを維持する化合物を含む。例としては、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、ビシン(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)、ビス-TRIS(2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)-2,2’,2’’-ニトリロトリエタノール)、ホウ酸、CAPS(3-[シクロヘキシルアミノ]-1-プロパンスルホン酸)、クエン酸、EPPS(HEPPS、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-プロパンスルホン酸)、Gly-Gly(NH.sub.2CH.sub.2CONHCH.sub.2COOH、グリシル-グリシン)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸)、イミダゾール、MES(2-モルホリノエタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸))、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、二塩基性リン酸ナトリウム、TAPS(N-[tris-(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノプロパンスルホン酸)、TAPSO(N-[tris(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、TES(N-[tris(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、トリシン(N-[tris(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン)、Tris-HCl、TRIZMA(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール)及び溶液を指定のpH又はその付近に維持するように機能する他の化合物が挙げられる。
【0035】
沈殿剤の選択は、結晶化に影響を与える1つの要因である。例えばPEG製品、例えば分子量200~20,000kDのものを使用し得る。PEG3350は、体積排除効果により働く長いポリマー沈殿剤又は脱水剤である。リオトロピック塩、例えば硫酸アンモニウムなどは、カプリル酸などの短鎖脂肪酸と同じように、沈殿工程を促進する。多イオン種も有用な沈殿剤である。
【0036】
皮下注射のための処方物中での使用のための抗体は、例えば、好ましくは生理的pH範囲で、及び等張性の浸透圧をもたらす結晶化試薬中で沈殿させる。結晶化を促進するために、添加物、共溶質、緩衝液など及びそれらの濃縮物が必要であることは実験的に決定される。
【0037】
工業規模の工程において、結晶化につながる沈殿の調節は、ポリペプチド、沈殿剤、共溶質及び任意選択によりバッチ工程における緩衝液の単純な組み合わせにより最良に行われ得る。別の選択肢として、出発材料(「シード」)としてポリペプチド沈殿を使用することによって、ポリペプチドを結晶化し得る。この場合、ポリペプチド沈殿物を結晶化溶液に添加し、結晶が形成されるまで温置する。
【0038】
透析又は蒸気拡散などの代替的な実験室での結晶化法も適応させ得る。McPherson、上出及びGilliland、上出は、結晶化文献の概説において適切な条件の包括的リストを含む。時折、結晶化ポリペプチドが架橋されるべき場合、意図する架橋剤と結晶化媒体との間の不適合により、結晶をより適切な溶媒系に交換することが必要になり得る。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、次の工程によってポリペプチド結晶、結晶処方物及び組成物を調製する:最初に、ポリペプチドを結晶化する。次に、本明細書中で記載のような賦形剤又は成分を母液に直接添加する。あるいは、母液を除去した後、最短で1時間~最長24時間にわたり、賦形剤又は他の処方成分の溶液中で結晶を懸濁する。賦形剤濃度は、一般的には約0.01~30%w/wであり、それぞれ99.99~70%w/wのポリペプチド結晶濃度に対応する。一実施形態において、賦形剤濃度は、約0.1~10%であり、それぞれ99.9~90%w/wの結晶濃度に対応する。母液は、ろ過、緩衝液交換によるか、又は遠心分離によるかの何れかにより、結晶スラリーから除去し得る。
【0040】
続いて、室温又は-20℃~25℃の温度の何れかで、ビヒクルが結晶を溶解させない限りあらゆる等張性の注射可能ビヒクルで、任意選択により例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール又は酢酸エチル又はポリエチレングリコール(PEG)などの1つ以上の有機溶媒又は添加物の50~100%の溶液で結晶を洗浄する。さらに、結晶を洗浄するために水を使用し得る。結晶は、窒素、空気又は不活性ガスの気流を結晶上に通過させることの何れかによって乾燥させる。最終的に、必要に応じて結晶の微粒子化を行い得る。ポリペプチド結晶の乾燥は、N2、空気又は不活性ガスでの乾燥;真空オーブン乾燥;凍結乾燥;揮発性有機溶媒もしくは添加物での洗浄とそれに続く溶媒の蒸発;又はドラフト中での蒸発を含む手段による、水、有機溶媒又は添加物又は液体ポリマーの除去である。一般的には、結晶が自由流動性粉末になるときに乾燥が達成される。湿潤結晶上にガス流を通過させることによって乾燥を行い得る。ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、空気又はそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。達成される粒子の直径は、0.1~100マイクロメーターの範囲又は0.2~10マイクロメーターの範囲又は10~50マイクロメーターの範囲又は0.5~2マイクロメーターの範囲であり得る。吸入により投与しようとする処方物に対して、一実施形態において、ポリペプチド結晶から形成される粒子は0.5~1マイクロメーターの範囲である。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、タンパク質結晶を調製する場合、タンパク質結晶処方物又は組成物、エンハンサー、例えば界面活性物質などを結晶化中に添加しない。いくつかの他の実施形態によれば、タンパク質結晶を調製する場合、タンパク質結晶処方物又は組成物、エンハンサー、例えば界面活性物質などを結晶化中に添加する。結晶化後、約1~10%w/wの濃度、あるいは約0.1~25%w/wの濃度、あるいは約0.1~50%w/wの濃度で、賦形剤又は成分を母液に添加する。これらの濃度は、それぞれ99~90%w/w、99.9~75%w/w及び99.9~50%w/wの結晶濃度に対応する。賦形剤又は成分を約0.1~3時間にわたり母液中で結晶とともに温置するか、あるいは0.1~12時間にわたり温置を行うか、あるいは0.1~24時間にわたり温置を行う。
【0042】
いくつか又は何れかの実施形態において、成分又は賦形剤を母液以外の溶液中で溶解させ、タンパク質結晶を母液から取り出し、賦形剤又は成分溶液中で懸濁する。いくつかの実施形態において、賦形剤又は成分溶液(又は懸濁ビヒクル)は、等張性であり、注射可能である賦形剤又は成分又は界面活性物質の混合物である。いくつかの実施形態において、賦形剤又は成分溶液(又は再懸濁ビヒクル)は、等張性であり、注射可能である賦形剤又は成分又は界面活性物質の混合物ではない。成分又は賦形剤濃度及び温置時間は、上記のものと同じである。
【0043】
代表的な実施形態において、本方法は、精製生体分子(例えば抗体)を処方するための段階を含む。代表的な段階は、Formulation and Process Development Strategies for Manufacturing,eds.Jameel and Hershenson,John Wiley&Sons,Inc.(Hoboken,NJ),2010に記載される。
【0044】
代表的な実施形態において、本方法は、生体分子の結晶性形態と非晶質形態とについて試料を分析することを含む。代表的な態様において、本方法は、試料の定量分析を含む。
【0045】
生体分子
本明細書中で使用される場合、「生体分子」又は「生物学的分子」という用語は、生きている生物中に存在するか、又は生きている生物により産生されるかもしくは代謝され得るか、又は生きている生物中に存在するか、それらにより産生されるかもしくは代謝され得る分子に構造的に基づく大きな巨大分子を指す。生体分子としては、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、脂質(例えば糖脂質、リン脂質、ステロール)及びポリヌクレオチド又は核酸(例えばDNA又はRNA)であることが挙げられるが限定されない。
【0046】
本明細書中で開示される方法は、生体分子が結晶形態を想定し得る限り、何らかの特定のタイプの生体分子に限定されない。代表的な態様において、結晶性生体分子は、1つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質である。代表的な態様において、結晶性タンパク質は、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、細胞表面受容体又は何らかの他の天然もしくは非天然リガンドであり、これらは細胞表面受容体(例えば上皮増殖因子受容体(EGFR)、T細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)、CD28、血小板由来増殖因子受容体(PDGF)、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)など)に結合する。
【0047】
代表的な例において、生体分子は、抗体もしくは免疫グロブリン又はそれらの断片、例えば抗原結合抗体断片である。本明細書中で使用される場合、「抗体」という用語は、重及び軽鎖を含む、及び可変及び定常領域を含む、従来の免疫グロブリン形式を有するタンパク質を指す。例えば、抗体は、ポリペプチド鎖の2つの同一のペアの「Y型」構造であるIgGであり得、各ペアは、1本の「軽」(一般的には分子量が約25kDa)及び1本の「重」鎖(一般的には分子量が約50~70kDa)を有する。抗体は可変領域及び定常領域を有する。IgG形式で、可変領域は一般に約100~110以上のアミノ酸であり、3個の相補性決定領域(CDR)を含み、抗原認識に主に関与し、異なる抗原に結合する他の抗体間で実質的に変動する。定常領域は、抗体に免疫系の細胞及び分子を動員させる。可変領域は各軽鎖及び重鎖のN末端領域から構成され、一方で定常領域は重鎖及び軽鎖のそれぞれのC末端部分から構成される。(Janeway et al.,”Structure of the Antibody Molecule and the Immunoglobulin Genes”,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,4th ed.Elsevier Science Ltd./Garland Publishing,(1999))。
【0048】
抗体のCDRの一般的な構造及び特性は当技術分野で記載されている。簡潔に述べると、抗体骨格において、CDRは、重及び軽鎖可変領域におけるフレームワーク内に埋め込まれ、それらは抗原結合及び認識に大きく関与する領域を構成する。可変領域は典型的に、フレームワーク領域内(Kabat et al.,1991によりフレームワーク領域1-4、FR1、FR2、FR3及びFR4と呼ばれる;Chothia and Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917も参照)に、少なくとも3個の重鎖又は軽鎖CDR(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Public Health Service N.I.H.,Bethesda,Md.;Chothia and Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:877-883も参照)を含む。
【0049】
抗体は、当技術分野で公知の何らかの定常領域を含み得る。ヒト軽鎖はカッパ及びラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ又はイプシロンとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEとして抗体のアイソタイプを定める。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むが限定されないいくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1及びIgM2を含むが限定されないサブクラスを有する。本発明の実施形態は、抗体の全てのこのようなクラス又はアイソタイプを含む。軽鎖定常領域は、例えばカッパ又はラムダ型軽鎖定常領域、例えばヒトカッパ又はラムダ型軽鎖定常領域であり得る。重鎖定常領域は、例えばアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ又はミュー型重鎖定常領域、例えばヒトアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ又はミュー型重鎖定常領域であり得る。したがって、代表的な実施形態において、本抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の何れか1つを含む、アイソタイプIgA、IgD、IgE、IgG又はIgMの抗体である。
【0050】
本抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり得る。いくつかの実施形態において、本抗体は、哺乳動物、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、ハムスター、ヒトなどにより産生される天然抗体と実質的に同様である配列を含む。この点において、本抗体は、哺乳動物抗体、例えばマウス抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ウマ抗体、ニワトリ抗体、ハムスター抗体、ヒト抗体などとみなされ得る。ある一定の態様において、本組み換えタンパク質はヒト抗体である。ある一定の態様において、生体分子は、ヒト抗体などの抗体である。ある一定の態様において、生体分子は、キメラ抗体又はヒト化抗体である。「キメラ抗体」という用語は、2つ以上の異なる抗体からのドメインを含有する抗体を指す。キメラ抗体は、例えば1種由来の定常ドメイン及び第2の種由来の可変ドメインを含有し得、又はより一般的には、少なくとも2種由来のアミノ酸配列の一続きを含有し得る。キメラ抗体は、同じ種内の2つ以上の異なる抗体のドメインも含有し得る。「ヒト化」という用語は、抗体に関して使用される場合、元の起源の抗体よりも真のヒト抗体と類似している構造及び免疫学的機能を有するように操作されている非ヒト起源由来の少なくともCDR領域を有する抗体を指す。例えば、ヒト化は、非ヒト抗体、例えばマウス抗体など由来のCDRをヒト抗体に移植することを含み得る。ヒト化は、非ヒト配列をヒト配列に類似するようにするためのアミノ酸置換の選択も含み得る。
【0051】
例えばパパイン及びペプシンなどの酵素によって、抗体が断片に切断され得る。パパインは、抗体を切断して2個のFab断片及び1個のFc断片を生成させる。ペプシンは、抗体を切断してF(ab’)2断片及びpFc’断片を生成させる。代表的な態様において、生体分子は、少なくとも1個のグリコシル化部位を保持する抗体断片、例えばFab、Fc、F(ab’)2又はpFc’であってもよい。
【0052】
少なくとも約12~150kDaの分子量範囲及び単量体(n=1)から二量体(n=2)及び三量体(n=3)から四量体(n=4)及びより高い可能性がある結合価(n)範囲に広がる代替的な抗体形式の範囲拡大を生じさせるために抗体の構造が利用されており;このような代替的な抗体形式は、本明細書中で「抗体タンパク質生成物」と呼ばれる。
【0053】
抗体タンパク質生成物としては、完全な抗原結合能を保持する、抗体断片に基づくもの、例えばscFv、Fab及びVHH/VHが挙げられる(以下に記載)。その完全な抗原結合部位を保持する最小の抗原結合断片はFv断片(断片、抗原結合)であり、これは完全に可変(V)領域からなる。分子の安定性のためにscFv(1本鎖断片可変)断片にV領域を連結するために、可溶性の柔軟性のあるアミノ酸ペプチドリンカーを使用するか、又は定常(C)ドメインをV領域に付加してFab断片を生成させる。scFv及びFabの両方は、宿主細胞、例えば、原核宿主細胞において容易に作製され得る広く使用される断片である。他の抗体タンパク質生成物としては、オリゴマー化ドメインに連結されるscFvからなる異なる形式を含むジア、トリア及びテトラボディ又はミニボディ(ミニAbs)のようなジスルフィド結合で安定化されるscFv(ds-scFv)、1本鎖Fab(scFab)ならびに二量体及び多量体抗体形式が挙げられる。最小断片は、ラクダ科動物重鎖Abならびに単ドメインAb(sdAb)のVHH/VHである。新規抗体形式を作製するために最も頻繁に使用される基本単位は1本鎖可変(V)ドメイン抗体断片(scFv)であり、これは、~15アミノ酸残基のペプチドリンカーにより連結される重及び軽鎖由来のVドメイン(VH及びVLドメイン)を含む。ペプチボディ又はペプチド-Fc融合は、また別の抗体タンパク質生成物である。ペプチボディの構造は、Fcドメイン上に移植された生物学的に活性のあるペプチドからなる。ペプチボディは、当技術分野で詳細に記載されている。例えばShimamoto et al.,mAbs 4(5):586-591(2012)を参照。
【0054】
他の抗体タンパク質生成物としては、1本鎖抗体(SCA);ダイアボディ;トリアボディ;テトラボディ;二重特異性又は三重特異性抗体などが挙げられる。二重特異性抗体は、5つの主要なクラス:BsIgG、付加IgG、BsAb断片、二重特異性融合タンパク質及びBsAbコンジュゲートに分けられ得る。例えばSpiess et al.,Molecular Immunology 67(2)Part A:97-106(2015)を参照。
【0055】
代表的な態様において、生体分子は、これらの抗体タンパク質生成物の何れか1つを含む。代表的な態様において、生体分子は、scFv、Fab VHH/VH、Fv断片、ds-scFv、scFab、二量体抗体、多量体抗体(例えばダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、ミニAb、ラクダ科動物の重鎖抗体のペプチボディVHH/VH、sdAb、ダイアボディ;トリアボディ;テトラボディ;二重特異性又は三重特異性抗体、BsIgG、付加IgG、BsAb断片、二重特異性融合タンパク質及びBsAbコンジュゲートの何れか1つである。
【0056】
生体分子は、単量体形態又は多量体、オリゴマー又は多量体形態の抗体タンパク質生成物であり得る。抗体が2つ以上の個別の抗原結合領域断片を含むある一定の実施形態において、抗体は、抗体により認識され、結合される個別のエピトープの数に依存して、二重特異性、三重特異性もしくは多重特異性又は二価、三価もしくは多価とみなされる。
【0057】
結晶性及び非晶質生体分子を検出する方法
ロバストで安全な処方を確実にするために、様々な処理段階(例えば、バルク材料の規模拡大、処方開発、製造)中に、及び製剤の有効期間を通じて、結晶化度又は乱れの度合いを任意選択で監視する。製剤及び生体系におけるそれらの下流の結果とともに医薬製剤原料の非晶質形態が詳細に記述されている。例えばShah et al.,J Pharm Sci 95(8):1641(2006)を参照。非晶質固体は通常、結晶性固体に関連して定義され、一般的には結晶性構造の特徴である長距離並進方向の対称性を欠く。非晶質相は、粒子全体にわたり、又は粒子の表面などの粒子の一部で生じ得る。乱れが小さすぎて容易に検出し得ない場合、固体の非晶質形態の検出は非常に困難であり得る。乱れが十分に大きいと、製品性能に変化が生じ得、例えば圧縮後の硬度、溶解速度の促進、化学的安定性の低下及び保管中の湿気により誘導される再結晶化に影響し得る。Shah et al.,2006上出を参照。(結晶性固体に対して)固形物の非晶質形態を検出するための様々な定量技術が存在し、例えば粉末X線回折X(PXRD)、示差走査熱量測定(DSC)、等温マイクロカロリメトリー(IMC)、溶液カロリメトリー(SC)、赤外分光法(IRR、フーリエ変換(FT)ラマン分光法及び固体NMR(ssNMR)が挙げられる。しかし、それぞれが1つ以上の短所を有する。
【0058】
結晶性生体分子を含む組成物を調製する方法に加えて、試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出するための効率的で手軽な方法が本明細書中で提供される。
【0059】
代表的な実施形態において、試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出する方法は、試料において高分解能ssNMR(固相核磁気共鳴)分析を行うことを含む。代表的な実施形態において、本方法は、プロトン脱共役及びマジック角回転(MAS)を使用して、高分解能13C ssNMRスペクトルを得ることを含み、交差分極(CP)によって感度の増強が達成される。代表的な態様において、試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出する方法は、試料の複数の1H Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)スペクトルを得ること及び試料の13C交差分極(CP)スペクトルを得ることを含む。代表的な態様において、本方法は、約250~約1000MHz(任意選択により約500MHz、約700MHz、約800MHz、約900MHz)の1H共振周波数を操作することを含む。代表的な態様において、本方法は、約250~350K、例えば約250K、約275K、約300K、約325K又は約350Kで温度を維持することを含む。代表的な態様において、本方法は、マジック角回転(MAS)プローブを操作することを含む。代表的な例において、本方法は、少なくとも2つの高周波(rf)チャネルを含むMASプローブを操作することを含む。代表的な態様において、MASプローブは、1H及び13Cに対して調整される。ある一定の態様において、約2kHz~約8kHz又は約3kHz~約5kHz、例えば約4kHzの回転周波数でMASプローブが操作される。いくつかの態様において、本方法は、90度パルス、例えば1H90度パルス約2.5μsを使用することを含む。いくつかの態様において、約2μs~約20μs(例えば、約5μs、約10μs、約15μs、約20μs)長の約5~約100パイパルス(例えば約10~約90、約20~約80パイパルス)で1H CPMGスペクトルを得る。例えばパイパルスのそれぞれが500μs離され得、任意選択によりCPMGパルスの総時間は10msである。代表的な態様において、本方法は、5kHz以下、8kHz超又は約14kHzの周波数で回転しながら複数の1H CPMGスペクトルを得ることを含む。いくつかの態様において、測定中の13C CPの接触時間は、約100μs~約10ms、例えば約250μs、約500μs、約750μs、約1ms、約2ms、約3ms、約4ms、約5ms、約6ms、約7ms、約8ms、約9ms、約10ms)である。代表的な態様において、測定は、約20kHz~約100kHz、例えば約50kHzの13CでのRFスピンロックパルスを含んだ。代表的な態様において、1Hでのランプパルスを一致させる。
【0060】
いくつかの態様における代表的な実施形態において検出する方法は、試料中の結晶性生体分子の含量を定量することを含む。代表的な例において、結晶性生体分子は、非晶質生体分子とは異なる分光学的特徴を呈する。代表的な例において、結晶性生体分子は、非晶質生体分子よりも高い分子運動性の分光学的特徴を呈する。
【0061】
したがって、試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子の含量を定量する方法が本明細書中で提供される。代表的な態様において、本方法は、(A)試料の複数の1H NMR Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)スペクトルを得ること及び(B)試料の13C NMR交差分極(CP)スペクトルを得ることを含む。試料中の結晶性生体分子及び/又は非晶質生体分子を検出する方法を参照する教示に従い、本明細書中で開示される含量を定量する方法が行われ得る。
【0062】
検出又は定量の方法の代表的な態様において、結晶性生体分子はバイ-レフリンガント(bi-refringant)であり、任意選択により回折しない。代表的な態様において、結晶性生体分子は約1Å~約2Åで、回折しないか又は回折しにくい。本明細書中に記載の検出方法に関しては、生体分子は、例えばポリペプチド、タンパク質、多糖類、脂質(例えば糖脂質、リン脂質、ステロール)、ポリヌクレオチド又は核酸(例えばDNA又はRNA)を含む本明細書中に記載の何れかの生体分子であり得る。代表的な実施形態において、生体分子は、1つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質である。代表的な例において、生体分子は、抗体もしくは免疫グロブリン又はそれらの抗原結合抗体断片であり、「生体分子」の題名のセクション下で本明細書中に記載のものの何れかを含む。代表的な例において、タンパク質は1つ以上のグリカンを含み、すなわちグリカン付加(glycanated)生体分子である。代表的な実施形態において、生体分子はグリカン付加(glycanated)抗体である。
【0063】
次の実施例は本発明を単に例示するために与えるものであり、その範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1:結晶性モノクローナル抗体の緩衝液交換
kSep(登録商標)システム(Sartorius Stedim North America,Inc.,Bohemia,NY)は、製造中に、生成物として細胞を回収するか、又は細胞を廃棄し、生成物として上清を回収するための生物学的処理のために設計される向流勾配遠心分離系である。この系は、Kelly et al.,Biotechnol.Prog.32(6):1520-1530(2016)及び米国特許出願公開第2011/0207222号明細書に記載されている。kSep(登録商標)システムは、流体(例えば培地、緩衝液)の連続流の相反する力と遠心力が釣り合っている従来からの遠心分離系とは異なっており、装置内で細胞又は粒子の流動床系を生じさせる。Dechsiri,C.(2004).Particle transport in fluidized beds:experiments and stochastic models Groningen:s.n.を参照。従来からの遠心分離ユニットにおいて、充填床系が達成される。kSep(登録商標)システムは、クリーニングの必要を最小化する使い切り構成要素も利用しており、無菌的な溶接連結を通じて無菌的処理に寄与する。kSep(登録商標)系は、研究室又は製造規模の系として利用可能である。kSep(登録商標)400システムは、114L/hrの最大流速で400mL/サイクルを処理する能力を有する実験室規模の系である。kSep(登録商標)400システムは、4つの個々の100mLチャンバーを有し、各チャンバーをそれだけで、又は他のチャンバーと同時に稼働させ得る。kSep(登録商標)6000Sシステムは、720L/hrの最大流速で6000mL/サイクルを処理する能力を有する製造規模の系(
図1参照)である。kSep(登録商標)6000Sシステムは、6個の個々の1000mLチャンバーを有し、各チャンバーをそれだけで、又は他のチャンバーと同時に稼働させ得る。
【0065】
kSep(登録商標)システムがタンパク質結晶化でのその使用について評価されている一方で(McPherson,Methods 34(3):254-265(2004)、さらなる下流の処理に対しては使用されていない。ここで、タンパク質結晶化ユニット操作後、高浸透圧性結晶化緩衝液を患者投与に適切な等張性処方緩衝液で置き換えるためにkSep(登録商標)システムを使用する(例えば
図2参照)。タンパク質結晶化懸濁液を患者投与に適している濃度に濃縮する際にもkSep(登録商標)システムを使用する。
【0066】
kSep(登録商標)システムを使用した場合、結晶性完全ヒトモノクローナル抗体を含むタンパク質結晶懸濁液は、1緩衝液交換体積で90%の効率を超えて、及び2緩衝液交換体積で99%の効率を超えて交換された緩衝液であった。kSep(登録商標)システム内で遠心力及び流体流動力(fluid flow force)バランスを変化させることによって、kSep(登録商標)ユニットから分注する前にモノクローナル抗体タンパク質結晶懸濁液を濃縮した。本ユニットに搭載される結晶量及び遠心力に対する流体流動力(fluid flow force)に基づき、63mg/mLから、215~300mg/mLの範囲でタンパク質結晶懸濁液を濃縮し得る。したがって、kSep(登録商標)システムを介した向流勾配遠心分離は、結晶化緩衝液を処方緩衝液に緩衝液交換し、患者投与に適している濃度にタンパク質結晶を濃縮するための有効な手段である。
【0067】
材料及び方法
機器:タンパク質結晶懸濁液緩衝液交換及び濃縮操作のためにkSep(登録商標)400ユニットを使用した。実験室規模のkSep(登録商標)ユニットによって、大量の材料を消費することなくこれらの操作を評価するためのプラットフォームが得られた。評価のための材料使用量を減少させるために、体積使用を100~300mLに減少させるため、2つ又は1つの何れかのkSep(登録商標)システムチャンバーに対して最小400mLで使用する標準的な4個のkSep(登録商標)システムチャンバーから、チャンバーの使用を減少させた。立体配置が緩衝液交換及び濃縮ユニット操作後にタンパク質結晶を回収するための適正な筋道をもたらしたので、濃縮-洗浄-回収、CWH、使い捨てチューブセットをこの評価のために使用した。
【0068】
材料:この評価のために、完全ヒト化モノクローナル抗体を使用した。結晶化開始時に、抗体の処方物は、140mg/mLの濃度で、pH5.0の、20mM酢酸ナトリウム、220mMプロリン及び0.01%ポリソルベート80を含有した。この系に添加した結晶化緩衝液は、pH8.4で、16mMリン酸ナトリウム、20%PEG3350を含有した。結晶化ユニット操作の最後の最終タンパク質結晶懸濁液は、pH6.2で、およそ9mM酢酸ナトリウム、98mMプロリン、0.004%ポリソルベート80、7mMリン酸ナトリウム、8.9%PEG3350から構成された。結晶濃度は62.2mg/mLであった。
【0069】
緩衝液交換緩衝液:緩衝液交換及び濃縮のために使用した緩衝液は、次の構成要素:pH5.2で、27mMコハク酸、15%PEG3350、0.1%PS80からなる等張性緩衝液であった。
【0070】
結果及び観察
緩衝液交換
kSep(登録商標)システムの濃縮-洗浄-回収の予めプログラムしたアプリケーションタイプを使用して、緩衝液交換操作を行った(例えば
図3を参照)。全体的な緩衝液交換に影響を与えた重大なパラメーターは、洗浄流速及びチャンバーあたりの体積数(ダイアボリューム(diavolume)と同等)であった。洗浄流速パラメーターは、処理時間及び緩衝液交換効率の両方に影響を与えた。洗浄流速が速いほど、処理時間が短くなるが、緩衝液交換効率が低くなる。逆に、洗浄流速が遅いほど、処理時間が長くなるが、緩衝液交換効率は高くなる。チャンバーあたりの体積数に対して、体積は、kSep(登録商標)システムの推奨プロトコールで指定されるようなバイオリアクター体積によって定められた。緩衝液交換効率を定量するために、排出口の流れのpHを測定して、緩衝液交換緩衝液pHでの排出口pHの収束を観察した。注入口供給物質pHは6.2で始まり、緩衝液交換緩衝液pHが5.2であったので、排出口pHが緩衝液交換緩衝液のpHに到達したら、緩衝液交換は完了したとみなした。
【0071】
緩衝液交換実験の結果を表1でまとめる。チャンバーあたりの体積数が増加すると、実験1からの排出口pHが5.34であり、実験4からの排出口pHが5.22であったので、緩衝液交換効率が改善した。洗浄流速及び供給体積などの他の可変要素も最終排出口pHに影響したが、チャンバーあたりの体積数と同程度ではなかった。
【0072】
【0073】
図2で示されるように、従来からの卓上遠心分離器と比較した場合、kSep(登録商標)システムは緩衝液交換効率に関してより良好に機能した。卓上遠心分離に対する単スピン及びデカント操作(kSep(登録商標)システムにおけるチャンバーあたりの1体積数と同等)の後、従来からの遠心分離器に対する排出口pHは5.7であったのに対して、kSep(登録商標)システムではおよそ5.3であった。100~300mLの供給体積、70~120mL/minの洗浄1流速及び1~2の緩衝液交換体積を評価し、完全な緩衝液交換が起こった程度を決定した。
【0074】
濃縮
緩衝液交換操作後、遠心分離力と流体流速との間のバランスを変化させることによって、タンパク質結晶懸濁液を濃縮した。遠心分離力を流体流速力より大きくすることによって、タンパク質結晶がkSep(登録商標)システムチャンバーの一方の末端に対して移動し、チャンバー内で効果的に濃縮された。この結果を達成するための方法は、流体の流速定数を維持しながら遠心分離力を上昇させること、遠心分離力定数を維持しながら流体の流速を低下させること又は前の2つの組み合わせを含んだ。排出口濃度変数に影響を及ぼした2つの入力変数:洗浄流速/遠心分離力及び供給体積があった。kSep(登録商標)システムの濃縮洗浄回収プログラム(例えば
図3参照)とともに洗浄2流速関数を使用して、150~300mLの供給体積及び20~35mL/minの洗浄2流速を評価した。これらの入力変数に基づいて、表2で示されるように、kSep(登録商標)を使用して、168~303mg/mLの範囲の濃度が達成された。
【0075】
【0076】
前の実験は、260~500mLの供給体積を変更し、洗浄2流速を30mL/minで維持することによって、122~229mg/mLの範囲の排出口濃縮にタンパク質結晶懸濁液を濃縮した。200mg/mLを超える排出口濃度が観察されたにもかかわらず、異なる緩衝液交換緩衝液(10mM NaPO4 pH6.2、10%PEG3350、120mMリジン、0.1%Ps80緩衝液(リジン))の使用ゆえに、複屈折能がある顕微鏡を介してタンパク質結晶凝集及び結晶性の劣化も観察された。最初の失敗実験からの結果を表3で示す。
【0077】
【0078】
回収
タンパク質結晶懸濁液を所望の濃度に濃縮した後、kSep(登録商標)ユニットから懸濁液を分注(回収)しなければならない。一般的には、kSep(登録商標)システムからの物質を除去するために、本ユニットを逆に作動させ、kSep(登録商標)チャンバーの注入口を通じて物質を押し出す。注入口及び排出口からの大きな圧力差を防ぐために緩衝液中で緩衝液がパルスを送り出しながら、個別のチャンバー蠕動ポンプは、物質を除去するために逆に押し出す。kSep(登録商標)濃縮-洗浄-回収適用での予めプログラムされた回収操作は、本ユニットから非濃縮懸濁液を回収するために設計され、その結果、多くの初期実験が失敗であったが、それは、本ユニットの使い捨てチューブに詰まった物質又は充填された結晶懸濁液の何れかがパルス緩衝液ポンプ又は個々のチャンバー蠕動ポンプにより破壊されたからであった。
【0079】
初期実験は、60gの遠心分離速度での予めプログラムされた回収操作及び50mL/minの回収(すなわちチャンバー蠕動ポンプ)流速を使用した。予めプログラムされた操作を使用した結果、チャンバーから物質が回収できなかったという多くの失敗が起こった。予めプログラムされたレシピを使用した際に多くの試みが失敗に終わった後、リアルタイムベースで流速及びバルブの位置調整を操作するために、回収操作を手動での制御に切り替えた。遠心分離速度を低下させ、評価するための条件の数を減少させるために一定値で維持し、緩衝液をパルス化せずに緩衝液ポンプを維持した。緩衝液の流速からの圧力が一定に上昇するように緩衝液ポンプを維持した。個々のチャンバー蠕動ポンプは結晶から物質をゆっくりと引き出し、充填結晶懸濁液の空洞形成を防ぎながら、圧力を上昇させることによって徐々に充填結晶懸濁液をチャンバーから押し出す。充填結晶懸濁液の劣化は、最終結晶濃度に負の影響を与える。表4は、kSep(登録商標)システムから充填(濃縮)結晶懸濁液を回収することに関係する実験をまとめる。表4は、回収実験及び実験中に気づいた観察の一部を明らかにする。充填結晶懸濁液は、現在設定されたように、予めプログラムされた回収自動化では回収され得なかった。回収操作は、自動制御に依存するのではなく、実験者がリアルタイムベースで設定を調整し得る手動操作に切り替える必要があった。「a」及び「b」と呼ばれる実験は、回収を試みて失敗した後に条件が調整された同じ実験の一部である。
【0080】
【0081】
考慮すべき別の要因は個々のチャンバーポンプであり;個々のチャンバーポンプは、充填結晶懸濁液内で空洞形成を全く引き起こさずにチャンバーから物質を引き出す必要がある。空洞形成は、濃度プロファイルを破壊し、表4実験4及び5で示されるように、濃縮結晶懸濁液にわたり非均一濃度勾配を生じさせる。濃縮結晶懸濁液を回収するために、一度に1個のチャンバーを回収した。一度に複数のチャンバーを回収することによって空洞形成の可能性が上昇した。遠心分離力を8gで維持し、緩衝液ポンプを25~50mL/minに設定し、個別のチャンバーポンプを75mL/minに設定した(
図4)。遠心分離力及び緩衝液ポンプは、チャンバーから物質を押し出すための推進力を生じさせ、一方で、空洞形成が制限されることを確実にするために、個別のチャンバーポンプが引っ張り機序として作用する。
【0082】
実施例2:識別
処方緩衝液中での試料の洗浄:基本的に、その全体において参照により組み込まれる題名「CRYSTALLINE ANTIBODY FORMULATIONS」である国際公開第2016010927号パンフレットに記載のようにバッチ法で結晶性物質の試料を調製した。
【0083】
27mMコハク酸及び15%PEG3350及び0.1%Tw-80、pH=5.5の処方緩衝液中で全ての試料を洗浄した。結晶又は非晶質物質の1mLをエッペンドルフチューブ中で1mLの処方緩衝液と合わせ、穏やかな転倒撹拌により混合した。次に、2000RPM=376rcfで5分間、混合物を遠心分離し、上清を除去した。さらなる1mLの処方緩衝液を添加し、ペレットを再懸濁し、穏やかに混合して、続いて遠心分離した。これを1回反復した。
【0084】
試料充填:全ての試料を4.0mm Brukerローターに充填した。1mLピペットチップを切って、ローターへの漏斗とし、2.0mL Eppendorfチューブの内側にローター及び漏斗がフィットするようにサイズを調整した。100μLの懸濁液を漏斗に添加することによって試料を充填し、次いで10k rcfで2分間遠心分離した。ローターに固体試料が十分に充填されるまで、これを4~8回反復した。
【0085】
SSNMR:500MHzの1H 共振周波数で作動するBruker Ascend Avance IIIワイドボア分光光度計を分析のために使用した。別段の記載がある場合を除き、全ての実験に対して、4kHzの回転周波数で作動する4mm H/F/X MASプローブを使用した。温度実験を行う場合を除き、温度を300Kに調節するために、BCU II-80/60温度ユニットを使用した。90度パルスに対して1H2.5us pi/2=160Wを使用した。固体物質からのシグナルを抑制する全部で10msのCPMGパルスに対して、500μs離れた5μsの20パイパルスで、1H CPMGスペクトルを回収した。CPMGスペクトルを測定した後、ローターにおいて総固体物質を較正し、試料とローターとの間の充填における相違を説明するための手段として、試料を14kHz以下で回転させ、13C交差分極(CP)を測定した。CPスペクトルは13Cおいて、2ms接触時間及び50kHz RFスピンロックパルスを使用し、1Hにおいてランプパルスと適切に一致した。
【0086】
観察
固相にあり、移動相にない試料の部分から生じるプロトンシグナルを抑制するために、CPMGスペクトルを使用した。mAb結晶及び非晶質生成物のCPMGスペクトルにおいて、結晶性物質で出現し、非晶質物質で出現しなかった、いくつかのシグナルがあった(
図5参照)。5%結晶性又は5%非晶質mAbの何れかを添加した試料からのスペクトルで示されるように、結晶性含量の量を定量するために、これらのシグナルを使用し得た(
図6)。結晶性スペクトルにおけるシグナルも温度上昇とともに増加し、このことから、分子のこれらの部分がより移動性になっていたことが示される(
図7)。
【0087】
本明細書中で引用される、刊行物、特許出願及び特許を含む参考文献は全て、各参考文献が、参照により組み込まれ、本明細書中でその全体において示された場合と同程度まで、参照により本明細書によって組み込まれる。
【0088】
「a」及び「an」及び「the」という用語の使用及び本開示を記載する内容における類似の言及(特に、次の特許請求の範囲の内容において)は、本明細書中で別段の断りがない限り、又は内容と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するものと解釈されたい。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、制約のない用語として解釈されたい(すなわち「含むが限定されない」を意味する)。
【0089】
本明細書中の値の範囲の引用は、単に、本明細書中で別段の断りがない限り、範囲及び各エンドポイント内に入る各個別の値を個々に指す省略法となるものであり、各個別の値及びエンドポイントは、それが個々に本明細書中で引用されるかのように、本明細書中に組み込まれる。
【0090】
本明細書中に記載の方法は全て、本明細書中で別段の指示がない限り、又は内容と明らかに矛盾しない限り、何らかの適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供されるあらゆる例又は代表的な語(例えば「など(such as)」)の使用は、本開示を単により詳細に明らかにするものであり、別段の主張がない限り、本開示の範囲における制限を提起しない。本願の言語のうち、本開示の実施に必須なものとして何らかの非主張要素を示すものとして解釈されるべきものはない。
【0091】
本開示の好ましい実施形態は、本開示を実施するための発明者らにとって公知の最良の形態を含め、本明細書中に記載される。前述の記載を読めば、これらの好ましい実施形態の変種が当業者に明らかになり得る。発明者らは、当業者が、必要に応じてこのような変種を使用することを予期し、発明者らは、本開示が、具体的に本明細書中に記載のもの以外にまた使用されるはずであることを意図する。したがって、この開示は、適用可能な法律により許容される場合、本明細書に添付される特許請求の範囲で示される主題の全ての変更物及び同等物を含む。さらに、本明細書中で別段の指示がない限り、又は内容と明らかに矛盾しない限り、その全ての可能な変形物の上記の要素の何らかの組み合わせが本開示により包含される。